説明

希土類磁石前駆体の焼結体を形成する磁性粉体の製造方法

【課題】希土類磁石前駆体の焼結体を形成する磁性粉体の製造方法に関し、組織内に粗大粒を含まない磁性粉体を精緻かつ効率的に選別し、最適なナノサイズの結晶粒からなる組織を有する磁性粉体を製造することのできる希土類磁石前駆体の焼結体を形成する磁性粉体の製造方法を提供する。
【解決手段】ナノ結晶組織のNd-Fe-B系の主相である結晶粒と粒界相からなる焼結体Sであって、焼結体Sに異方性を与える熱間塑性加工が施され、保磁力を向上させる合金が拡散されて形成される希土類磁石の前駆体である焼結体Sを形成する磁性粉体pの製造方法であり、金属溶湯を冷却ロールR上に吐出して急冷リボンBを製作し、50μm〜1000μmの粒度範囲内に粉砕して0.0003mg〜0.3mgの質量範囲の磁性粉体を製作し、該質量範囲の磁性粉体が2mT以下の表面磁束密度を有する磁石に吸着するか否かを検査し、吸着しない磁性粉体pを選別して焼結体Sを形成する磁性粉体とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類磁石前駆体の焼結体を形成する磁性粉体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ランタノイド等の希土類元素を用いた希土類磁石は永久磁石とも称され、その用途は、ハードディスクやMRIを構成するモータのほか、ハイブリッド車や電気自動車等の駆動用モータなどに用いられている。
【0003】
この希土類磁石の磁石性能の指標として残留磁化(残留磁束密度)と保磁力を挙げることができるが、モータの小型化や高電流密度化による発熱量の増大に対し、使用される希土類磁石にも耐熱性に対する要求は一層高まっており、高温使用下で磁石の保磁力を如何に保持できるかが当該技術分野での重要な研究課題の一つとなっている。車両駆動用モータに多用される希土類磁石の一つであるNd-Fe-B系磁石を取り挙げると、結晶粒の微細化を図ることやNd量の多い組成合金を用いること、保磁力性能の高いDy、Tbといった重希土類元素を添加することなどによってその保磁力を増大させる試みがおこなわれている。
【0004】
希土類磁石としては、組織を構成する結晶粒(主相)のスケールが3〜5μm程度の一般的な焼結磁石のほか、結晶粒を50nm〜300nm程度のナノスケールに微細化したナノ結晶磁石があるが、中でも、上記する結晶粒の微細化を図りながら高価な重希土類元素の添加量を低減すること(フリー化)のできるナノ結晶磁石が現在注目されている。
【0005】
重希土類元素の中でもその使用量の多いDyを取り上げると、Dyの埋蔵地域は中国に偏在していることに加えて、中国によるDyをはじめとするレアメタルの生産量や輸出量が規制されていることから、Dyの資源価格は2011年度に入って急激に上昇している。そのため、Dy量を減らしながら保磁力性能を保証するDyレス磁石や、Dyを一切使用せずに保磁力性能を保証するDyフリー磁石の開発が我が国において国家を挙げた重要な開発課題の一つとなっており、このことがナノ結晶磁石の注目度を高くしている大きな要因の一つである。
【0006】
ナノ結晶磁石の製造方法を概説すると、たとえばNd-Fe-B系の金属溶湯を冷却ロール上に吐出してこれを急冷凝固し、得られた急冷リボン(急冷薄帯)を粉砕して磁性粉末を製造し、この磁性粉末を加圧成形しながら焼結して焼結体を製造する。この焼結体に対し、磁気的異方性を付与するために、熱間塑性加工(熱間塑性加工による加工度(圧縮率)が大きい場合、たとえば圧縮率が10%程度以上の場合を、熱間強加工もしくは単に強加工と称することができ、焼結体を強加工前駆体と称することもできる)を施して成形体を製造する。このように、希土類磁石の製造に際しては、その前駆体としてまず焼結体が製造され、次いで成形体が製造されることになる。なお、この焼結体から熱間塑性加工を施して成形体を製造する方法が特許文献1に開示されている。
【0007】
熱間塑性加工で得られた成形体に対し、保磁力性能の高い重希土類元素やその合金等を種々の方法で付与することでナノ結晶磁石からなる希土類磁石が製造される。
【0008】
焼結体が粗大粒子を具備しない結晶粒からなる場合に、これに熱間塑性加工を施すことにより、結晶粒(典型的にはNd2Fe14B相)は熱間塑性加工によるすべり変形にともなって結晶粒が回動(もしくは回転)し、加工方向(プレス方向)に磁化容易軸(c軸)が配向して高い配向度の成形体が得られ、残留磁化を高めることができるという知見が得られている。ここで、ナノ結晶粒の中でも最大粒径が300nm以上の結晶粒を本明細書では「粗大粒」と定義付けることにするが、この粗大粒が存在すること、もしくはその割合が高くなると結晶粒の回動が抑制され、上記する配向度が低下し易くなることも分かっている。
【0009】
本発明者等は、焼結体の原料である磁性粉末の製造において、組織内に粗大粒を含まない磁性粉末を精緻かつ効率的に選別し、最適なナノサイズの結晶粒からなる組織を有する焼結体を形成する磁性粉体の製造方法の発案に至っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2011−100881号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記する問題に鑑みてなされたものであり、希土類磁石前駆体の焼結体を形成する磁性粉体の製造方法に関し、組織内に粗大粒を含まない磁性粉末を精緻かつ効率的に選別し、最適なナノサイズの結晶粒からなる組織を有する磁性粉体を製造することのできる希土類磁石前駆体の焼結体を形成する磁性粉体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成すべく、本発明による希土類磁石前駆体の焼結体を形成する磁性粉体の製造方法は、ナノ結晶組織のNd-Fe-B系の主相である結晶粒と、該主相の周りにある粒界相からなる焼結体であって、該焼結体に異方性を与える熱間塑性加工が施され、さらに保磁力を向上させる合金が拡散されて形成される希土類磁石の前駆体である焼結体を形成する磁性粉体の製造方法であって、前記組成を有する金属溶湯を冷却ロール上に吐出して急冷リボンを製作し、これを50μm〜1000μmの粒度範囲内に粉砕して0.0003mg〜0.3mgの質量範囲の磁性粉体を製作し、前記質量範囲の磁性粉体が2mT以下の表面磁束密度を有する磁石に吸着するか否かを検査し、吸着しない磁性粉体を選別して焼結体を形成する磁性粉体とする希土類磁石前駆体の焼結体を形成するものである。
【0013】
本発明の磁性粉末の製造方法は、得られた急冷リボンを粉砕して磁性粉末を製造する際の粒度範囲を調整し、この粒度範囲にあってかつ所定範囲の質量の磁性粉末に対し、磁気分離法を適用して粗大粒を含まない、もしくはその含有量が極めて少ない磁性粉末のみを選別してこれを焼結体形成用の磁性粉末に供するようにした磁性粉末の製造方法である。
【0014】
本発明者等によれば、50μm〜1000μmの粒度範囲内に粉砕され、0.0003mg〜0.3mgの質量範囲の磁性粉体に対し、2mT以下の表面磁束密度を有する低磁性磁石を使用してこれに吸着するか否かを検査することにより、粗大粒を含まない磁性粉末を精緻に選別できることが特定されている。
【0015】
ここで、「2mT以下」とは、検査対象となる磁性粉末の質量範囲が0.0003mg〜0.3mgと幅を有していることから、この質量範囲内の質量に応じて2mT、1.5mT、1mTといった表面磁束密度を有する磁石が使用されることを意味している。粗大粒を含まない磁性粉末を選別するに当たり、検査対象の磁性粉末の質量によって磁石の表面磁束密度を変化させる必要があることは言うまでもないことであるが、磁性粉末の質量が多すぎても少なすぎても精緻に粗大粒を含まない磁性粉末を選別できないことが本発明者等によって特定されている。2mT以下の低磁性磁石に対して0.0003mg〜0.3mgの質量範囲の磁性粉末が吸着するか否かを検査することが磁性粉末の選別にとって最適であることは、本発明者等によるこれまでの多くの実験(磁性粉末の質量範囲と低磁性磁石の磁束密度を種々変化させ、どの質量範囲でかつどの磁束密度の磁石の場合に粗大粒を含まない磁性粉末を精緻に選別できるか)によって見出された数値範囲である。
【0016】
2mT以下の低磁性磁石に0.0003mg〜0.3mgの質量範囲の磁性粉末を吸着させ、低磁性磁石に吸着される磁性粉末は粗大粒を有しているために保磁力が低いもの、低磁性磁石に吸着されない磁性粉末は粗大粒を有していない、もしくはその含有率が極めて低いために保磁力が高いものとし、磁気吸着されなかった磁性粉末を集めて焼結体の製造に使用する。この際、磁性粉末の粒度が1000μmを超えるとこの磁気分離法の適用が困難であり、また、50μmよりも小さいと粉砕時に導入される歪による磁気特性低下が顕著になるといった理由から、磁性粉末の粒度範囲を50μm〜1000μmと規定している。
【0017】
磁気吸引法を適用する際に使用する磁石は、軟磁性部材にコイルを巻装し、コイルに通電して磁界を生じさせる電磁石や低磁性の永久磁石のいずれであってもよい。また、均一な磁界を可及的に広範囲に発生させることのできる形状形態の磁石を適用することにより、磁性粉末の選別効率を高めることができる。このような形状形態は、円筒状のもの、複数の棒状のものを間隔を置いて併設したもの、板状のものなどを挙げることができる。
【0018】
また、磁性粉末のうち、その前駆体である急冷リボンの冷却ロール側の領域に対応する領域を磁性粉末のロール面側領域、急冷リボンの冷却ロールと反対側の領域に対応する領域を磁性粉末のフリー面側領域とし、磁性粉末のフリー面側領域における結晶粒の平均粒径Dfree、磁性粉末のロール面側領域における結晶粒の平均粒径Drollとした際に、Dfreeが20nm〜200nmの範囲、Dfree/Drollが1.1以上で10以下の範囲となっているのが好ましい。
【0019】
本発明者等の検証によれば、2mT以下の表面磁束密度を有する磁石に吸着しない磁性粉末から形成された焼結体をさらに熱間塑性加工して得られた成形体と、磁石に吸着する磁性粉末から形成された焼結体から得られた成形体の磁気特性を比較した際に、前者の配向度が93〜94%、残留磁化が1.42〜1.44Tであったのに対して、後者の配向度が87〜90%、残留磁化が1.27〜1.35Tと、配向度の相違に起因して残留磁化に大きな乖離があることが確認されており、保磁力もまた同様に乖離がある。
【0020】
上記検証により、熱間塑性加工前の焼結体における粒度分布が上記する50μm〜1000μmの範囲内にあること、さらに、Dfreeが20nm〜200nmの範囲、Dfree/Drollが1.1以上で10以下の範囲にあることで、熱間塑性加工後の成形体の配向度(これに起因する残留磁化)や保磁力を向上させることができる。ここで、磁性粉末の前駆体である急冷リボンは片側冷却による急冷装置(冷却ロール)を用いることにより、冷却ロールと接しないフリー面側は凝固速度が低下し、冷却ロールと接するロール面側に比して粒成長が促進され、かつ残留液相部の凝固によってNdリッチ相が析出される。
【0021】
このNdリッチな粒界相は低温焼結を可能にするために必要であり、磁性粉末のフリー面側領域における結晶粒の平均粒径Dfree、磁性粉末のロール面側領域における結晶粒の平均粒径Drollとした際に、Dfree/Drollが1.1以上で10以下の範囲に調整することと、さらにDfreeが20nm〜200nmに調整することにより、その粒度が微細化され、均質化された磁性粉末からなる焼結体を得ることができ、これが熱間塑性加工によって成形体となった際の配向度を上記する93〜94%、残留磁化を1.42〜1.44Tに高める理由であると考えられる。
【0022】
特に、Dfree/Dfreeが1.1以上で10以下の範囲に調整されていることによって、既述するように磁性粉末のフリー面側の領域に低融点で液相状態に近いNdリッチ相が析出することから、低温での焼結が可能となり、このことが結晶粒の粗大化の抑制に繋がる。
【0023】
上記する磁性粉末を使用して本発明の焼結体が製造され、この焼結体に熱間塑性加工(もしくは強加工)を施すことによって異方性を有する成形体が製造される。
【0024】
製造された成形体に対し、保磁力性能の高い重希土類元素(Dy、Tb、Hoなど)やその合金等(Dy-Cu、Dy-Alなど)を種々の方法で粒界拡散させることにより、磁化と保磁力の双方に優れたナノ結晶磁石からなる希土類磁石が得られる。
【発明の効果】
【0025】
以上の説明から理解できるように、本発明の希土類磁石前駆体の焼結体を形成する磁性粉体の製造方法によれば、得られた急冷リボンを粉砕して磁性粉末を製造する際の粒度範囲を調整し、この粒度範囲にあってかつ所定範囲の質量の磁性粉末に対し、低磁性磁石を使用した磁気分離法を適用して粗大粒を含まない、もしくはその含有量が極めて少ない磁性粉末のみを選別し、選別された磁性粉末からなる焼結体を熱間塑性加工することにより、配向度が極めて高く、残留磁化と保磁力が共に高い成形体、ひいてはこの成形体から形成される希土類磁石を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】(a)は磁性粉末の製造方法を説明した図であり、(b)は焼結体の製造方法を説明した図であり、(c)は成形体の製造方法を説明した図である。
【図2】(a)は図1aに続いて磁性粉末の製造方法を説明した図であって磁気分離法を適用して磁性粉末の餞別をおこなっていることを説明した図であり、(b)は磁気吸着されない磁性粉末の組織図であり、(c)は磁気吸着された磁性粉末の組織図である。
【図3】(a)、(b)、(c)、(d)はいずれも、磁気分離法で適用される低磁性磁石の実施の形態を説明した模式図である。
【図4】(a)は磁気特性評価試験における実施例1の成形体の前駆体である焼結体の低倍率のSEM画像図であり、(b)は(a)中の焼結体を形成する磁性粉末のロール面側領域に関する高倍率のTEM画像図であり、(c)は(a)中の焼結体を形成する磁性粉末のフリー面側領域に関する高倍率のSEM画像図である。
【図5】(a)は磁気特性評価試験における実施例2の成形体の前駆体である焼結体の低倍率のSEM画像図であり、(b)、(c)はそれぞれ、磁気特性評価試験における比較例1、2の成形体の前駆体である焼結体の低倍率のSEM画像図である。
【図6】(a)は実施例1の成形体のTEM画像図であり、(b)は比較例1の成形体のTEM画像図である。
【図7】磁気分離法によって分別した磁性粉末の磁気特性評価試験結果を示す図である。
【図8】希土類磁石前駆体の成形体の磁気特性評価試験結果のうち、配向度の結果を示す図である。
【図9】希土類磁石前駆体の成形体の磁気特性評価試験結果のうち、残留磁化の結果を示す図である。
【図10】希土類磁石前駆体の成形体の磁気特性評価試験結果のうち、保磁力の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照して本発明の希土類磁石前駆体の焼結体を形成する磁性粉体の製造方法の実施の形態を説明する。
【0028】
(磁性粉末の製造方法)
図1a、1b、1cはこの順に、急冷リボンの製造、次いでこの急冷リボンを粉砕してなる磁性粉末を用いた焼結体の製造、次いでこの焼結体に熱間塑性加工を施してなる成形体の製造というフロー図になっている。図1aは急冷リボンの製造方法を説明する図であり、図2aは図1aに続いて磁性粉末の製造方法を説明した図であって磁気分離法を適用して磁性粉末の餞別をおこなっていることを説明した図であり、図2bは磁気吸着されない磁性粉末の組織図、図2cは磁気吸着された磁性粉末の組織図である。
【0029】
図1aで示すように、たとえば50kPa以下に減圧したArガス雰囲気の不図示の炉中で、単ロールによるメルトスピニング法により、合金インゴットを高周波溶解し、希土類磁石を与える組成の溶湯を銅製の冷却ロールRに噴射して急冷リボンB(急冷薄帯)を製作し、これを粗粉砕する。なお、急冷リボンBのうち、冷却ロールR側の領域(たとえば急冷リボンBの厚みのうちで冷却ロールR側となる半分の厚みの領域)をロール面、その反対側の領域をフリー面と称することができ、双方の領域は冷却ロールRからの距離が異なるために結晶粒の粒成長の速度が相違する。
【0030】
合金溶湯の組成(NdFeB磁石組成)は(Rl)x(Rh)yTzBsMtの組成式で表され、RlはYを含む1種類以上の軽希土類元素、RhはDy、Tbよりなる1種類以上の重希土類元素、TはFe、Ni、Coを少なくとも1種類以上を含む遷移金属、MはGa、Zn、Si、Al、Nb、Zr、Ni、Cu、Cr、Hf、Mo、P、C、Mg、Hg、Ag、Auよりなる1種類以上の金属、13≦x≦20、0≦y≦4、z=100-a-b-d-e-f、4≦s≦20、0≦t≦3であり、主相(RlRh)2T14B)と粒界相(RlRh)T4B4相、 RlRh相の組織構成、もしくは、主相(RlRh)2T14B)と粒界相(RlRh)2T17相、RlRh相の組織構成のものを適用できる。
【0031】
急冷リボンBを粗粉砕する方法は、乳鉢、カッターミル、ポットミル、ジョークラッシャー、ジェットミルなどの低エネルギーで粉砕できる装置を使用して粉砕する。粗粉砕してできた磁性粉末の粒度は、50μm〜1000μm程度の範囲に調整されるようにし、粗大粒を有する磁性粉末を排除するための方策として磁気吸着分離法を適用する。
【0032】
これは、低磁性磁石に磁性粉末を吸着させ、低磁性磁石に吸着される磁性粉末は粗大粒を有しているために保磁力が低いもの、低磁性磁石に吸着されない磁性粉末は粗大粒を有していないために保磁力が高いものとし、たとえば磁気吸着されなかった磁性粉末を集めて焼結体の製造に使用することができる。この際、粒度が1000μmを超えるとこの磁気分離法の適用が困難であり、また、50μmよりも小さいと粉砕時に導入される歪による磁気特性低下が顕著になるといった理由から、磁性粉末の粒度範囲を50μm〜1000μmとしている。
【0033】
上記粒度範囲で粉砕された磁性粉末を粗大粒を含まない磁性粉末と粗大粒を含む磁性粉末に分離し、焼結体形成用の磁性粉末として粗大粒を含まないものを選別するべく、図2aで示すような磁気分離装置10を使用する。なお、「粗大粒を含まない磁性粉末」とは、粗大粒を完全に含まない磁性粉末のほか、その含有率が極めて少ない磁性粉末(たとえば1〜10mass%程度かそれ以下)を含む意味である。
【0034】
図示する磁気分離装置10は、軟磁性金属部材1の周りにコイル2を配し、このコイル2と直流電源3からなる回路から構成されるものである。
【0035】
コイル2に通電されると軟磁性金属部材1の表面磁束密度が2mT以下となる電磁石が形成されるように、軟磁性金属部材1の構成素材や電流値などが調整されており、この磁束密度をガウスメータ4で確認できるようになっている。
【0036】
粒度範囲が50μm〜1000μmの範囲で粉砕されてできた磁性粉末を0.0003mg〜0.3mgの質量範囲で集め、これに表面磁束密度が2mT以下となっている電磁石に吸着するか否かを検査する。
【0037】
同図において、一部の磁性粉末p’は電磁石に吸着し、他の磁性粉末pは吸着せずに下方に落下したままである。
【0038】
0.0003mg〜0.3mgの質量範囲の磁性粉末に対して表面磁束密度が2mT以下の電磁石に吸着するか否かを検査することにより、粗大粒を含まない磁性粉末pを精緻に選別することができる。
【0039】
図2bは磁気吸着されない磁性粉末の組織図、図2cは磁気吸着された磁性粉末の組織図である。
【0040】
2mT以下の低磁性磁石に0.0003mg〜0.3mgの質量範囲の磁性粉末を吸着させ、低磁性磁石1に吸着される磁性粉末p’は粗大粒を有しているために保磁力が低いもの、低磁性磁石1に吸着されない磁性粉末pは粗大粒を有していない、もしくはその含有率が極めて低いために保磁力が高いものであり、磁気吸着されなかった磁性粉末pを選別して集め、これを焼結体の製造に使用する。この選別までが本発明の磁性粉末の製造方法である。
【0041】
図2bで示す磁性粉末pは、組織内に300nm以上の粒径の粗大粒が存在せず、平面形状が扁平(平面視が長方形やこれに近似した形状などを含む)で等方性の結晶粒gから構成されている。
【0042】
これに対し、図2cで示す磁性粉末p’は、組織内に300nm以上の粒径の粗大粒g’を多数有した結晶組織となっている。
【0043】
ここで、磁気分離法で適用される低磁性磁石の実施の形態を図3を参照して説明する。
【0044】
均一な磁界を可及的に広範囲に発生させることによって磁性粉末の選別効率を高めることができる。このような形状形態として、図3aで示すような円筒状の軟磁性金属部材1A(磁性粉末が吸着される面が図中のKarea)、図3bで示すように複数の針状の軟磁性金属部材1Bを立体的に配したもの、図3cで示すように複数の棒状の軟磁性金属部材1Cを立体的に配したもの、さらには、図3dで示すように板状の軟磁性金属部材1Dなどを適用するのが好ましい。
【0045】
選別された磁性粉末pに関し、その前駆体である急冷リボンBの冷却ロール側の領域に対応する領域を磁性粉末のロール面側領域、急冷リボンBの冷却ロールと反対側の領域に対応する領域を磁性粉末のフリー面側領域とし、磁性粉末のフリー面側領域における結晶粒の平均粒径Dfree、磁性粉末のロール面側領域における結晶粒の平均粒径Drollとした際に、Dfreeが20nm〜200nmの範囲、Dfree/Drollが1.1以上で10以下の範囲となっているのが望ましい。このような数値範囲の結晶粒を有する磁性粉末を使用して焼結体を製造し、この焼結体に熱間塑性加工を施して異方性を有する成形体を製造することにより、結晶粒の配向度とこれに関連する残留磁化がともに高く、さらに保磁力も高い成形体が得られることが特定されている。
【0046】
(焼結体とその製造方法)
図1bは焼結体の製造方法を説明した図である。製造された磁性粉末pを図1bで示すように超硬ダイスDとこの中空内を摺動する超硬パンチPで画成されたキャビティ内に充填し、超硬パンチPで加圧しながら(X方向)加圧方向に電流を流して通電加熱することにより、ナノ結晶組織のNd-Fe-B系の主相(20nm〜200nm程度の粒径範囲の結晶粒)と、主相の周りにあるNd-X合金(X:金属元素)等の粒界相からなる焼結体Sが製造される。
【0047】
ここで、通電加熱による加熱温度は結晶粒の粗大化が生じない程度の低温域である550〜700℃の範囲で、かつ、粗大化を抑制できる圧力範囲である40〜500MPaの圧力で加圧し、保持時間を60分以内とし、不活性ガス雰囲気下で焼結体の製造をおこなうのがよい。
【0048】
(成形体とその製造方法)
図1cは成形体の製造方法を説明した図である。製造された焼結体Sをその長手方向(図1bでは水平方向が長手方向)の端面に超硬パンチPを当接させ、超硬パンチPで加圧しながら(X方向)熱間塑性加工(強加工)を施すことにより、磁気的異方性を有するナノ結晶粒からなる結晶組織の成形体Cが製造される。
【0049】
この熱間塑性加工においては、塑性変形が可能でかつ結晶粒の粗大化が生じ難い低温域である600〜800℃程度で、さらに、粗大化を抑制できる短時間の歪速度0.01〜30/s程度で塑性加工をおこなうのがよく、成形体の酸化防止のために不活性ガス雰囲気下でおこなわれるのが望ましい。
【0050】
図示する成形体Cは、その前駆体である焼結体Sの組織が粗大粒を含まず、もしくはその含有量が極めて少なく、さらに20nm〜200nm程度の粒径範囲でその平面形状が扁平状の結晶粒から構成されていることにより、熱間塑性加工(強加工)時に結晶粒が容易に回動し易く、もって結晶粒が高い配向度で並んだ、異方性を有する成形体となる。
【0051】
「磁気分離法によって分別した磁性粉末の磁気特性評価試験とその結果、および、希土類磁石前駆体の成形体の磁気特性評価試験とその結果」
本発明者等は、以下の方法で実施例1,2の成形体と比較例1,2の成形体を製作し、各成形体の磁気特性である配向度、残留磁化および保磁力を測定する実験をおこなった。以下、実施例1、2と比較例1、2の製造方法を示す。なお、実施例1と比較例1の成形体を成形する過程で使用される磁性粉末に関し、それらの配向度(残留磁化(Mr)/飽和磁化(Ms))と保磁力の関係グラフを求め、図7に示している。また、実施例1,2の成形体と比較例1,2の成形体の磁気特性評価試験結果に関し、配向度に関する結果を図8に、残留磁化に関する結果を図9に、保磁力に関する結果を図10にそれぞれ示し、表1にそれらの結果をまとめている。さらに、図4aに実施例1の成形体の前駆体である焼結体の低倍率のSEM画像図を、図4bに図4a中の焼結体を形成する磁性粉末のロール面側領域に関する高倍率のTEM画像図を、図4cに図4a中の焼結体を形成する磁性粉末のフリー面側領域に関する高倍率のSEM画像図をそれぞれ示しており、図5aに磁気特性評価試験における実施例2の成形体の前駆体である焼結体の低倍率のSEM画像図を、図5b、図5cにそれぞれ、磁気特性評価試験における比較例1、2の成形体の前駆体である焼結体の低倍率のSEM画像図を示しており、図6aに実施例1の成形体のTEM画像図を、図6bに比較例1の成形体のTEM画像図をそれぞれ示している。
【0052】
(実施例1)
片側冷却により、粗大粒を含有しないNd29.9Pr0.4Fe64.2Co4.0B0.9Ga0.6(mass%)組成の急冷リボンを製作し、粉砕して磁性粉末を製作し、これを400MPa印加し、600℃、10分間保持して焼結体を製作した。SEM、TEMにて焼結体の組織観察を実施した後に、温度750℃、歪速度:7/sで熱間塑性加工を実施して実施例1の成形体を製作し、TEMにて成形体の組織観察を実施した。
【0053】
(実施例2)
片側冷却により、粗大粒を含有しないNd29.9Pr0.4Fe64.2Co4.0B0.9Ga0.6(mass%)組成の急冷リボンを製作し、粉砕して磁性粉末を製作し、これを100MPa印加し、650℃、10分間保持して焼結体を製作した。SEMにて焼結体の組織観察を実施した後に、温度750℃、歪速度:7/sで熱間塑性加工を実施して実施例2の成形体を製作した。
【0054】
(比較例1)
片側冷却により、粗大粒を含有するNd29.9Pr0.4Fe64.2Co4.0B0.9Ga0.6(mass%)組成の急冷リボンを製作し、粉砕して磁性粉末を製作し、これを400MPa印加し、600℃、10分間保持して焼結体を製作した。SEMにて焼結体の組織観察を実施した後に、温度750℃、歪速度:7/sで熱間塑性加工を実施して比較例1の成形体を製作し、TEMにて成形体の組織観察を実施した。
【0055】
(比較例2)
片側冷却により、粗大粒を含有するNd29.9Pr0.4Fe64.2Co4.0B0.9Ga0.6(mass%)組成の急冷リボンを製作し、粉砕して磁性粉末を製作し、これを100MPa印加し、650℃、1010分間保持して焼結体を製作した。SEMにて焼結体の組織観察を実施した後に、温度750℃、歪速度:7/sで熱間塑性加工を実施して比較例2の成形体を製作した。
【0056】
図4b、cより、実施例1にかかる磁性粉末はロール面側領域に比してフリー面側領域の粒成長が促進され、確認されたDfree/Drollは1.5(1.1以上)となっている。
【0057】
また、図6a,bより、実施例1の成形体を構成する結晶粒は平面形状が扁平状(四角形、菱形など)でその長辺はいずれも200nm以下となっている(短辺は当然に200nm以下)ことが確認できる。それに対し、比較例1の成形体はその組織内に300nm以上の粗大粒が多数含まれていることが確認できる。
【0058】
図7より、低磁性磁石に吸着しない磁性粉末と吸着する磁性粉末双方の磁気特性を比較すると、保磁力が0(kOe)の縦軸をグラフが横切る勾配に関し、吸着しない磁性粉末に比して吸着する磁性粉末の勾配は急激に落ち込んでおり(勾配が立っており)、このことは残留磁化が低くなっていることを示している。なお、補足的に記載するが、横軸の単位kOeに79.6を乗じることでSI単位のkA/mに換算される。
【0059】
【表1】

【0060】
表1および図8〜10より、比較例1、2の配向度に比して実施例1、2の配向度は90%を大きく超えて93、94%となっており、その結果として、残留磁化も0.15T程度と格段に高くなっていることが確認できる。さらに、保磁力も1kOe程度高くなっており、したがって、最大エネルギー積BHmaxも大きく向上することが確認できる。
【0061】
このような結果の理由として、比較例1、2の前駆体である焼結体はともに300nm以上の粗大粒を多分に含む組織を有していることから、この粗大粒が全く配向せず、組織全体の配向度を低下させる結果、残留磁化が大きく低下する一方で、実施例1、2の前駆体である焼結体はともに粗大粒を含んでおらず、200nm以下の大きさで平面形状が扁平状の結晶粒から構成されていることで、強加工時に各結晶粒が容易に回動し、高い配向度を有する成形体が得られ易いためであると考えられる。
【0062】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0063】
1,1A,1B,1C,1D…軟磁性金属部材(低磁性磁石)、2…コイル、3…直流電源、4…ガウスメータ、10…磁気分離装置、R…冷却ロール、B…急冷リボン(急冷薄帯)、D…超硬ダイス、P…超硬パンチ、S…焼結体、C…成形体、p…粗大粒を含まない磁性粉末、p’…粗大粒を含む磁性粉末、g…結晶粒、g’…粗大粒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノ結晶組織のNd-Fe-B系の主相である結晶粒と、該主相の周りにある粒界相からなる焼結体であって、該焼結体に異方性を与える熱間塑性加工が施され、さらに保磁力を向上させる合金が拡散されて形成される希土類磁石の前駆体である焼結体を形成する磁性粉体の製造方法であって、
前記組成を有する金属溶湯を冷却ロール上に吐出して急冷リボンを製作し、これを50μm〜1000μmの粒度範囲内に粉砕して0.0003mg〜0.3mgの質量範囲の磁性粉体を製作し、
前記質量範囲の磁性粉体が2mT以下の表面磁束密度を有する磁石に吸着するか否かを検査し、吸着しない磁性粉体を選別して焼結体を形成する磁性粉体とする希土類磁石前駆体の焼結体を形成する磁性粉体の製造方法。
【請求項2】
磁性粉末のうち、その前駆体である急冷リボンの冷却ロール側の領域に対応する領域を磁性粉末のロール面側領域、急冷リボンの冷却ロールと反対側の領域に対応する領域を磁性粉末のフリー面側領域とし、磁性粉末のフリー面側領域における結晶粒の平均粒径Dfree、磁性粉末のロール面側領域における結晶粒の平均粒径Drollとした際に、Dfreeが20nm〜200nmの範囲、Dfree/Dfollが1.1以上で10以下の範囲となっている請求項1に記載の希土類磁石前駆体の焼結体を形成する磁性粉体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−84804(P2013−84804A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−224115(P2011−224115)
【出願日】平成23年10月11日(2011.10.11)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】