説明

帯電防止フィルムおよびその製造方法

【課題】可溶化処理したカーボンナノチューブを少量固定化しても、表面抵抗値の低く、カーボンナノチューブの脱落も無い帯電防止性、経済性に優れた帯電防止フィルムを提供する。
【解決手段】本発明の帯電防止フィルムは、高分子材料からなる基材4と、その少なくとも片面に導電層11が設けられたもので、基材と導電層との間に形成されたグラフト重合層7と、その表面に吸着されグラフト層とは反対の荷電の官能基を有するバインダー層9とを有し、かつ導電層はカーボンナノチューブを固定化したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品分野、精密機器分野、半導体分野、食品分野、産業機械分野で使用される帯電防止フィルムに関し、とくにカーボンナノチューブを用いた帯電防止フィルムとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子材料は絶縁抵抗性が高いため、物質同士の摩擦、衝突、剥離やイオンの付着等により高電圧に帯電する。そのため、化学分野、半導体分野、精密機器分野、食品分野等において、高分子材料の普及、電子部品の小型化、高密度化に伴い、塵埃の付着や静電気放電により、製品の不良、ICの破壊、ロボットおよびコンピュータの誤作動が発生し、静電気対策が重要な課題になっている。そこで、高分子材料に帯電防止機能を付与することが行われている。その帯電防止付与方法には、金属粉末、カーボンブラック、炭素繊維、導電性高分子などの導電性材料を高分子材料に混入する方法と、化学メッキ、真空蒸着、塗布、ディッピングにより金属膜、金属酸化物および界面活性剤をコーティングする方法に分けられる。近年、導電性フィラーとして、アスペクト比が5から10000のカーボンナノチューブ(CNTと略す場合がある)を用い、熱可塑性ポリイミド樹脂に対するCNTの含有量が1〜9重量%となるように溶融・混練して作製した導電性プラスチックフィルムが提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
また、水溶性ポリエーテル系化合物とCNTからなる導電性繊維状フィラーが含有された水性塗布液を熱可塑性樹脂の片面に塗布して導電性フィルムを作製している(例えば、特許文献2を参照)。
さらに、カーボンナノチューブからなる導電性繊維状フィラー、ポリアセチレンやポリアニリンなどの導電性高分子および非導電性マトリックスなどの特定組成の導電性樹脂組成物を基材フィルムに積層した導電性フィルムが提案されている(例えば、特許文献3、特許文献4を参照)。
その他に、基板上の触媒粒子を核として成長させたカーボンナノチューブを、導電性フィルム上に転写することでCNTを有する導電性材料を作製している(例えば、特許文献5を参照)。
【特許文献1】特開2004−346143号公報
【特許文献2】特開2007−223182号公報
【特許文献3】特開2004−195678号公報
【特許文献4】特開2004−253326号公報
【特許文献5】特許第3962862号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来の方法は、基材の高分子フィルムやシートにカーボンナノチューブからなる導電性フィラーを任意の配合量になるように溶融・混練したり、混酸で処理していないカーボンナノチューブを用いているため、物理吸着により高分子フィルムにコーティングしている。そのため、10Ω/sq以下の表面抵抗値を有するフィルムを作製するには、多量の導電性フィラーを配合する必要があり、折り曲げたりした時に導電性フィラー自身が脱落し、導電性フィルムの特性を長期に維持することが困難であり、且つフィルムの透明性が低下するなど、製造コストという点でも課題があった。
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、可溶化処理したカーボンナノチューブを少量固定化しても、表面抵抗値が低く、カーボンナノチューブの脱落も無い帯電防止性、経済性に優れた帯電防止フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記問題を解決するため、本発明は、次のように構成したものである。
請求項1に記載の発明は、高分子材料からなる基材と、その少なくとも片面に導電層が設けられた帯電防止フィルムであって、前記基材と前記導電層との間に形成されたグラフト重合層と、その表面に吸着され前記グラフト層とは反対の荷電の官能基を有するバインダー層とを有し、かつ前記導電層はカーボンナノチューブを固定化したものである。
請求項2に記載の発明は、前記高分子材料を、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリメタクリル酸メチル、ポリブチルテレフタレート、ポリイミド、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、ポリアクリロニトリル、ポリテトラフルオロエチレンなどの群から選ばれる少なくとも1種類としたものである。
請求項3に記載の発明は、前記バインダー層を、下記の化学式で示されるアニオン性デキストランとしてカルボキシデキストランナトリウム、または、カチオン性デキストランとして塩化O−[2−ヒドロキシ−3−(トリメチルアンモニオ)プロピル]デキストランのいずれか一方としたものである。
【化1】


(化学式(1)において、アニオン性デキストランでは、Rはカルボキシナトリウムであり、カチオン性デキストランでは、Rはヒドロキシプロピルアンモニウムクロリドである。nは整数である。)
請求項4に記載の発明は、前記導電性層が直径200nm以下で、酸処理により末端部や側面の欠陥部にカルボキシル基または水酸基が生成されたカーボンナノチューブである。
請求項5に記載の発明は、前記カーボンナノチューブの固定化量が1重量%以下のものである。
請求項6に記載の発明は、前記導電層の表面抵抗値が、10〜10Ω/squareの範囲で、かつ可視光領域におけるフィルムの透過率が50%以上のものである。
請求項7に記載の発明は、高分子材料からなる基材を重合開始剤が添加されたモノマー水溶液に浸漬し、UV光を照射して表面ラジカル生成させグラフト重合膜を形成し、エタノールと水のニ成分混合液にアニオン性またはカチオン性のデキストランを溶解させた液に基材を浸漬してバインダー層を形成し、カーボンナノチューブの分散溶液に浸漬して導電層を形成するものである。
請求項8に記載の発明は、前記重合開始剤として、ベンゾフェノン、硫酸第1鉄アンモニウム、アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)2−メチルプロピオンアミド(以下、ACMPと略す)、2,2’−アゾビス[4−シアノ吉草酸]の群から選ばれる少なくとも1種類を用いたものである。
請求項9に記載の発明は、前記グラフト重合層の形成に、メタクリル酸、グリシジルメタクリレート、アクリル酸、アリルアミン、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド、[2−(アクロイルオキシ)エチル]−トリメチルアンモニウムクロリドから少なくとも1種類用いたものである。
請求項10に記載の発明は、前記バインダー層の形成に、アニオン性デキストランとしてカルボキシデキストランナトリウム、または、カチオン性デキストランとして塩化O−[2−ヒドロキシ−3−(トリメチルアンモニオ)プロピル]デキストランのいずれか一方を用いたものである。
【化1】


(化学式(1)において、アニオン性デキストランでは、Rはカルボキシナトリウムであり、カチオン性デキストランでは、Rはヒドロキシプロピルアンモニウムクロリドである。nは整数である。)
請求項11に記載の発明は、前記UV光として低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、エキシマUVランプの少なくとも1種類を用いたものである。
【発明の効果】
【0005】
請求項1記載の発明によると、高分子材料からなる基材とカーボンナノチューブからなる導電層との間に、バインダー層を設けたので、カーボンナノチューブを強固に、且つ広範囲に固定化できる効果がある。
請求項2記載の発明によると、ポリテトラフルオロエチレンのフッ素系高分子材料だけでなく、ポリエチレンテレフタレートやポリプロピレンなどの炭化水素系の高分子フィルム、シートにも用いることができるので、製造コストを安く抑えることができるという効果がある。
請求項3記載の発明によると、バインダー層にカチオン性またはアニオン性のデキストラン誘導体を用いているため、グラフト重合層の表面官能基の種類に関係なく、カーボンナノチューブを固定化することができる効果がある。
請求項4記載の発明によると、硫酸や硝酸などの酸処理によって末端部や側面の欠陥部にカルボキシル基が生成したカーボンナノチューブを用いているため、共有結合、イオン対、水素結合などの化学的作用によりカーボンナノチューブをバインダー層の表面に固定化でき、且つカーボンナノチューブ自体の脱落も抑制できる効果がある。
請求項5記載の発明によると、カーボンナノチューブの固定化量を1重量%以下にすることができるので、フィルムの透明性の低下を抑えることができる効果がある。
請求項6記載の発明によると、導電層の表面抵抗値が10〜10Ω/squareの範囲になるので、可視光領域における透過率が50%以上を維持していることから、IC包装材料やクリーンルームの内装材などの帯電防止材料に適用できる効果がある。
請求項7記載の発明によると、モノマー水溶液やカーボンナノチューブの分散溶液中に高分子材料からなる基材を浸漬するだけで、グラフト重合膜またはバインダー層の形成、乃至はカーボンナノチューブの固定化を行うことができるので、付帯設備の必要性もなく、低コストで帯電防止フィルムを作製できる効果がある。
請求項8記載の発明によると、水溶性および有機溶媒に可溶化する重合開始剤を用いることができるので、グラフト重合膜の形成を水や有機溶媒中で行うことができる効果がある。
請求項9記載の発明によると、UV光によるグラフト重合法を用いているため、アニオン性またはカチオン性官能基とビニル基を有する有機化合物であれば、グラフト重合層の形成に使用することができる効果がある。
請求項10記載の発明によると、バインダー層に、アニオン性またはカチオン性のデキストラン誘導体を用いているため、共有結合、イオン対、水素結合のような化学的作用により、カーボンナノチューブを強固に固定化することができる効果がある。
請求項11記載の発明によると、UV光の光源として、低圧水銀ランプだけでなく、高圧水銀ランプやUV+オゾンなども用いることができるので、グラフト重合層の形成を短時間に行うことが可能となり、製造コストを低く抑えることが期待できるため、経済性の優れた帯電防止フィルムを作製できる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明の帯電防止フィルムの実施例について説明する。
本発明は、高分子材料の片面または両面に、カチオン性またはアニオン性グラフト重合層が形成され、このグラフト重合層の上部にバインダー層が形成され、さらにバインダー層の上部に化学的作用により導電層が固定化されていることを特徴としている。
好ましくは、アニオン性モノマーのアクリル酸をグラフト化した高分子材料の表面には、反対の荷電を有するカチオン性デキストラン誘導体の塩化O−[2−ヒドロキシ−3−(トリメチルアンモニオ)プロピル]デキストラン(以下、DHTと略す)を吸着させる。
一方、カチオン性モノマーのジアリルジメチルアンモニウムクロリド(以下DADMAcと略す)または[2−(アクロイルオキシ)エチル]−トリメチルアンモニウムクロリドをグラフト化した高分子材料1の表面には、反対の荷電を有するカルボキシデキストランナトリウム(以下、SCDと略す)を吸着させる。
また、DHTおよびSCDの吸着については、好ましくは、エタノールと水とを混合、調整した二成分混合液を35℃〜75℃の温度範囲内で、任意の温度に加熱・保温した上で、任意の濃度に調整したDHT水溶液またはSCD水溶液を適量添加し、4時間以上浸漬することでグラフト重合膜の表面に広範囲に吸着させている。
さらに、好ましくは、酸処理により可溶化処理した単層または多層のカーボンナノチューブの分散水溶液(濃度範囲:0.01〜0.1mg/mL)を固定化することで、カーボンナノチューブの固定化量が1重量%以下となり、10Ω/sq以下の表面抵抗値を有するとともに、550nm付近の可視光領域の透過率が50%以上である帯電防止フィルムとなる。
【実施例1】
【0007】
図1は本発明の帯電防止フィルムの作製工程を説明するフロー図、図2は各工程での作製状況を示す模式図、図3は完成した帯電防止フィルムの拡大断面図である。図において、1は石英セル、2はモノマー水溶液、4は高分子材料からなる基材、5は低圧の水銀ランプである。基材4は、厚みが0.188mmのポリエチレンテレフタレート(PET)の高分子フィルム(帝人・デュポン製)を用いた。
【0008】
本実施例は、モノマーとして、化学式(2)に示すカチオン性のDADMAcを用い、重合開始剤として2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)2−メチルプロピオンアミド(ACMP)を用いたものである。
【0009】
【化2】

【0010】
つぎに、帯電防止フィルムの作製工程を説明する。
(工程1)
DADMAcの水溶液にACMP水溶液を添加し2〜20重量%の範囲の所定濃度に調整しモノマー水溶液2とした。このモノマー水溶液2を二面が透明な石英セル1に注入し、この中に基材4を浸漬し、高純度窒素ガスを5分間一定流量でバブリングして溶存酸素を除去した後、石英セル1を30℃〜75℃の間の一定温度に加熱した。
(工程2)
その後、図2(a)に示すように、20Wの水銀ランプ5(セン特殊光源(株)社製、UVL20D)を2時間点灯する。そうすると、水銀ランプ5の代表的な光の波長である185nmと254nmの光が基材4に照射される。185nmと254nmの光エネルギーは、それぞれ647kJ/molと472kJ/molであり、フッ素系または炭化水素系高分子材料の基本骨格を形成しているC−F、C−Hの結合解離エネルギーは、約489kJ/molと415kJ/molであることから、C−FまたはC−H間の結合を切断して、基材4に表面ラジカル6が生成する。そこに、カチオン性モノマーが近づき、重合開始剤のACMPの働きとの相乗効果により、カチオン性モノマーであるDADMAcがグラフト重合される。
【0011】
(工程3)
つぎに、水銀ランプ5の点灯を終了した後、グラフト重合膜7が形成された高分子材料4を石英セル1から取り出し、70℃に加熱・保温した純水の中に24時間浸漬する。そうすることで、基材4の表面に付着した未反応のカチオン性モノマーおよび重合開始剤のACMPを除去し、約15時間真空乾燥することで、基材4の表面にグラフト重合層7を形成した(図2(b))。
(工程4)
DADMAcから形成されたグラフト重合膜7の表面へのバインダー層の形成には、カチオン性モノマーとは反対の荷電を有するアニオン性デキストラン誘導体の化学式(3)に示すSCDを用いた。
【0012】
【化3】

【0013】
式(3)において、Rはカルボキシナトリウムであり、nは整数である。
【0014】
エタノールと水の混合比(v/v)が1:0.01〜1の範囲内に調整された二成分混合液8を一定量入れ、そこに、任意の濃度に調整したDHT水溶液を適量入れ、35℃〜75℃の温度範囲の中で任意の温度に加熱・保温したあと、グラフト重合膜7が形成された高分子材料4を浸漬した。4時間以上浸漬すると、熱拡散とも呼ばれるLudwig−Soret効果(Rei Sugaya,Bernhard A.Wolf,Biomacromolecues,7,435(2006),Berend−Jan et al.,Jouranal of Chemical Physics,118,8073(2003).)により、デキストラン誘導体のSCDが、ニ成分混合液8の中において高温の流体側、つまり混合溶液側から低温側のグラフト重合膜7の表面側に向かって移動し、グラフト重合膜7のカチオン性官能基である四級アンモニウム基と、SCDのアニオン性官能基であるカルボキシル基とがイオン対を形成することで、グラフト重合膜7の表面にバインダー層9が形成される(図2(c))。
【0015】
(工程5)
濃硫酸と濃硝酸の混酸(3:1 v/v)の中に、未処理で多層のカーボンナノチューブ(CNT)を適量入れ、超音波洗浄器を用いて2時間、超音波処理することで、長さが数十nm〜数十μmのCNTを作製した。
つぎに、濃度が0.01〜0.1mg/mLの範囲内になるように、一定量の可溶化処理したCNTを純水または有機溶媒の中に入れてCNT分散溶液10を作製した。そこに、バインダー層9が形成された高分子材料4を入れ、数時間、50〜60℃の温度で攪拌すると、SCDのカルボキシル基の周辺に存在する多数の水分子と、可溶化処理したCNTのカルボキシル基や水酸基とが水素結合を形成し、CNTが固定化され、導電層11がバインダー層9の上面に形成される(図2(d))。
【0016】
つぎに、作製した帯電防止フィルムを表面観察および表面抵抗の測定により評価した。
図4は走査型電子顕微鏡の写真である。図4(a)は未改質のポリエチレンテレフタレートのSEM写真である。平坦な表面をしていることが観察できる。図4(b)はジアリルジメチルアンモニウムクロリドをグラフト重合した基材4(高分子材料)の表面写真である。小さな薄片が基材4の表面に付着していることが観察できる。図4(c)は、SCDが吸着した基材4の表面の写真である。大きな薄片がグラフト化した表面を覆っていることが観察できる。図4(d)は、可溶化処理した多層のカーボンナノチューブを固定化した高分子材料の表面写真である。可溶化処理した多層のカーボンナノチューブがバンドル形成して絡み合う状態でネットワークを形成していることが観察できる。
【0017】
フィルムの表面抵抗値は、三菱化学製 Loresta−GP低抵抗率計を用い、「JIS K7194」に準拠して四端子法にて測定した。また、測定値は1枚のフィルムあたり異なる3ヵ所の測定値の平均値とした。高分子材料からなる基材の体積から10Ω/sq以下であれば、帯電防止効果があるとした。
【0018】
フィルムの可視光透過率は、積分球の付いた日本分光製V−670 分光光度計を用いて、550nm領域における透過率を測定した。
【0019】
デキストラン誘導体が吸着した高分子材料へのカーボンナノチューブの固定化量は、固定化処理前後の高分子材料の重量増加率から算出した。
【0020】
作製したフィルムの測定結果を表1に示す。
表1は、混合比を1:0.4(v/v)とし、溶液温度を30℃から75℃に変化させた場合の効果を示すものである。分散溶液には、0.1mg/mLのCNT分散水溶液を用いた。固定化量は、約0.2重量%であった。
この結果より、グラフト重合膜が形成された基材を55℃と75℃に加熱・保温されたエタノールと水の二成分混合液に浸漬すると、Soret効果により、アニオン性デキストランのSCDが高温の流体側から低温側のグラフト重合膜の表面側に移動し、イオン対を形成することでグラフト重合膜の表面にバインダー層が形成された。さらに、55℃以上に加熱することで、数多くのSCDがグラフト重合膜の表面に、且つ広範囲に移動したことで、10Ω/sq以下の表面抵抗値を有する導電層を形成できることがわかった。また、少量の可溶化処理したCNTを用いても、数多くのSCDが広範囲に、且つ高密度に吸着しているため、それにともない、CNTも高密度に固定化されたことで、可視光透過率が50%台まで低下したことがわかった。
【0021】
【表1】

【0022】
表2は、溶液温度を55℃の一定にし、混合比を1:1(v/v)から1:0.01(v/v)に変化させた場合の効果を示すものである。
この結果より、グラフト重合膜が形成された基材をエタノールと水の混合比(v/v)が1:0.6および1:0.4の二成分混合液に浸漬し、CNTを固定化したときに、10Ω/sq以下の表面抵抗値を有する帯電防止フィルムを作製できることがわかった。
【0023】
【表2】


【0024】
このように、デキストラン誘導体のSCDは、分子量が数百〜数千万もある多糖類の一種であるため、SCDには多数の親水性官能基があり、且つ保湿・保水効果を示すことから、官能基周辺には多数の水分子も存在する。したがって、可溶化処理したCNTの固定化量も増えることになり、たとえ、少量のCNTを用いても、CNTがSCDの表面に、広範囲に吸着・固定化できることになる。つまり、CNTが少量でも、SCDの中で官能基間の距離が短いことから、CNT同士が容易に連結しやすくなっており、結果的にCNTによる導電パスが広範囲にわたって形成できるので、表面抵抗値の低い帯電防止フィルムを作製できる。
【実施例2】
【0025】
本実施例は、モノマーとして、化学式(4)に示すアニオン性のアクリル酸を用い、重合開始剤としてACMPを用いたものである。
【0026】
【化4】

【0027】
つぎに、帯電防止フィルムの作製工程を説明する。
作製工程は実施例1(図1)と同じである。
(工程1)
アクリル酸水溶液に重合開始剤のACMP水溶液を添加し0.1〜0.8mol/Lの範囲の所定濃度に調整しモノマー水溶液2とした。このモノマー水溶液2を二面が透明な石英セル1に注入し、この中に基材4を浸漬し、高純度窒素ガスを5分間一定流量でバブリングして溶存酸素を除去した後、石英セル1を30℃〜75℃の間の一定温度に加熱した。
(工程2)
その後、図2(a)に示すように、20Wの水銀ランプ5(セン特殊光源(株)社製、UVL20D)を2時間点灯する(図2(a))。そうすると、水銀ランプ5の代表的な光の波長である185nmと254nmの光が高分子材料に照射される。185nmと254nmの光エネルギーは、それぞれ647kJ/molと472kJ/molであり、フッ素系または炭化水素系高分子材料の基本骨格を形成しているC−F、C−Hの結合解離エネルギーは、約489kJ/molと415kJ/molであることから、C−FまたはC−H間の結合を切断して、高分子材料に表面ラジカル6が生成する(図2(b))。そこに、アニオン性モノマーが近づき、重合開始剤のACMPの働きとの相乗効果により、アニオン性モノマーであるアクリル酸がグラフト重合される。
(工程3)
つぎに、水銀ランプ5の点灯を終了した後、グラフト重合膜7が形成された高分子材料4を石英セル1から取り出し、70℃に加熱・保温した純水の中に24時間浸漬する。そうすることで、基材4の表面に付着した未反応のアニオン性モノマーおよび重合開始剤のACMPを除去し、約15時間真空乾燥することで、基材4の表面にグラフト重合層7を形成した(図2(b))。
【0028】
(工程4)
アクリル酸がグラフト重合された表面へのバインダー層の形成には、化学式(5)に示すようなアニオン性モノマーとは反対の荷電を有するカチオン性デキストラン誘導体のDHTを用いた。
【0029】
【化5】

【0030】
式(5)において、Rはヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリドであり、nは整数である。
【0031】
サンプル瓶に、エタノールと水が、混合比(v/v)1:0.01〜1の範囲内に調整されたニ成分混合液8を一定量入れ、そこに、任意の濃度に調整したDHT水溶液を適量入れ、35℃〜75℃の温度範囲の中で任意の温度に加熱・保温したあと、グラフト重合膜7が形成された基材4を浸漬した。4時間以上浸漬すると、SCDと同様にLudwig−Soret効果によって、デキストラン誘導体のDHTが、ニ成分混合液8の中において高温の流体側、つまり、混合溶液側から低温側のグラフト重合膜7の表面側に向かって移動し、グラフト重合膜7のアニオン性官能基であるカルボキシル基と、DHTのカチオン性官能基である四級アンモニウム基とがイオン対を形成することで、グラフト重合膜7の表面にバインダー層9が形成される(図2(c))。
【0032】
(工程5)
濃硫酸と濃硝酸の混酸(3:1 v/v)の中に、未処理で多層のカーボンナノチューブを適量入れ、超音波洗浄器を用いて2時間、超音波処理することで、長さが数十nm〜数十μmの可溶化処理したCNTを作製した。
つぎに、濃度が0.01〜0.1mg/mLの範囲内になるように、一定量の可溶化処理したCNTを純水または有機溶媒の中に入れてCNT分散溶液10を作製した。そこに、バインダー層9が形成された高分子材料4を入れ、数時間、50〜60℃で攪拌すると、DHTに存在する多数の四級アンモニウム基や水酸基、およびその官能基の周辺に存在する多数の水分子と、可溶化処理したCNTのカルボキシル基や水酸基とがイオン対や水素結合を形成することでCNTが固定化され、導電層11がバインダー層9の上面に形成される。
【0033】
つぎに、本実施例のアニオン性モノマーを用いた作製条件と測定結果を示す。
表3は、混合比を1:0.4(v/v)とし、溶液温度を30℃から75℃に変化させた場合の効果を示すものである。固定化量は、約0.4重量%であった。
なお、測定結果の評価方法は、実施例1と同じである。
この結果より、グラフト重合膜が形成された基材を45℃以上に加熱・保温されたエタノールと水の混合液に浸漬し、CNTを固定化することで、10Ω/sq以下の表面抵抗値を有する帯電防止フィルムを作製できることがわかった。また、混合液の温度が上昇するとともに、可視光透過率および表面抵抗値が低下していくことがわかった。これは、エタノールと水の二液混合液の温度が上昇すると、低温側のグラフト重合層の表面に移動するDHTの数が増加し、それにともないCNTの固定化量も増加することがわかった。
【0034】
【表3】

【0035】
表4は、溶液温度を55℃の一定にし、混合比(v/v)を1:1から1:0.01に変化させた場合の効果を示すものである。
この結果より、グラフト重合膜が形成された基材をエタノールと水の混合比(v/v)が1:0.6または1:0.4の二成分混合液に浸漬し、CNTを固定化したときに、10Ω/sq以下の表面抵抗値を有する帯電防止フィルムを作製できることがわかった。
【0036】
【表4】


【0037】
このように、デキストラン誘導体のDHTも、分子量が数百〜数千万もある多糖類の一種であり、DHTにも多数の親水性官能基がある上に、保湿・保水効果を示すことから、官能基周辺にも多数の水分子が存在している。したがって、可溶化処理したCNTの固定化量が増えるとともに、低濃度のCNT分散溶液を用いても、CNTがDHTの表面に、広範囲に吸着・固定化できることになる。つまり、DHTの中で官能基間の距離が短いことから、CNT同士が容易に連結しやすくなっているので、結果的にCNTによる導電パスが広範囲にわたって形成でき、表面抵抗値の低い帯電防止フィルムを作製できる。
【0038】
なお、本発明の実施例では高分子材料として、ポリエチレンテレフタレートを用いたがこれに限られるものではなく、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、ポリブチルテレフタレート、ポリイミド、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、ポリアクリロニトリル、ポリテトラフルオロエチレンなどを用いてもよい。また、重合開始剤として、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)2−メチルプロピオンアミドを用いたがこれに限られるものではなく、ベンゾフェノン、硫酸第1鉄アンモニウムアゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス[4−シアノ吉草酸]のいずれを用いてもよい。また、グラフト重合層の形成には、モノマーとしてDADMAcおよびアクリル酸を用いたがこれに限られるものではなく、メタクリル酸、グリシジルメタクリレート、アリルアミン、 [2−(アクロイルオキシ)エチル]−トリメチルアンモニウムクロリドのいずれを用いてもよい。さらにUV光は、低圧の水銀ランプを用いたが、高圧水銀ランプ、エキシマUVランプ、オゾン、UV+オゾンなどを用いてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明のフィルムは、たとえば、クリーンルーム内装材、写真用フィルム、電子部品用包装フィルム、粘着テープなど、帯電防止性が必要とされる用途に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の帯電防止フィルムの作製工程を示すフロー図である。
【図2】図1の帯電防止フィルムの各作製工程における断面を模式的に示す模式図である。
【図3】作製した帯電防止フィルムの拡大模式図である。
【図4】高分子材料の基材表面を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【符号の説明】
【0041】
1 石英セル
2 モノマー水溶液
4 基材(高分子材料)
5 水銀ランプ
6 表面ラジカル
7 グラフト重合層
8 二成分混合液
9 バインダー層
10 CNT分散水溶液
11導電層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子材料からなる基材と、その少なくとも片面に導電層が設けられた帯電防止フィルムであって、前記基材と前記導電層との間に形成されたグラフト重合層と、その表面に吸着され前記グラフト層とは反対の荷電の官能基を有するバインダー層とを有し、かつ前記導電層はカーボンナノチューブを固定化したものであることを特徴とする帯電防止フィルム。
【請求項2】
前記高分子材料は、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリメタクリル酸メチル、ポリブチルテレフタレート、ポリイミド、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、ポリアクリロニトリル、ポリテトラフルオロエチレンなどの群から選ばれる少なくとも1種類を用いたことを特徴とする請求項1記載の帯電防止フィルム。
【請求項3】
前記バインダー層は、下記の化学式で示されるアニオン性デキストランとしてカルボキシデキストランナトリウム、または、カチオン性デキストランとして塩化O−[2−ヒドロキシ−3−(トリメチルアンモニオ)プロピル]デキストランのいずれか一方であることを特徴とする請求1記載の帯電防止フィルム。
【化1】


(化学式(1)において、アニオン性デキストランでは、Rはカルボキシナトリウムであり、カチオン性デキストランでは、Rはヒドロキシプロピルアンモニウムクロリドである。nは整数である。)
【請求項4】
前記導電性層は、直径が200nm以下で、酸処理により末端部や側面の欠陥部にカルボキシル基または水酸基が生成されたカーボンナノチューブであることを特徴とする請求項1記載の帯電防止フィルム。
【請求項5】
前記カーボンナノチューブの固定化量は1重量%以下であることを特徴とする請求項1記載の帯電防止フィルム。
【請求項6】
前記導電層の表面抵抗値は、10〜10Ω/squareの範囲で、可視光領域におけるフィルムの透過率が50%以上であることを特徴とする請求項1記載の帯電防止フィルム。
【請求項7】
高分子材料からなる基材を重合開始剤が添加されたモノマー水溶液に浸漬し、
UV光を照射して表面ラジカル生成させグラフト重合膜を形成し、
エタノールと水のニ成分混合液にアニオン性またはカチオン性のデキストランを溶解させた液に基材を浸漬してバインダー層を形成し、
カーボンナノチューブの分散溶液に浸漬して導電層を形成することを特徴とする帯電防止フィルムの製造方法。
【請求項8】
前記重合開始剤には、ベンゾフェノン、硫酸第1鉄アンモニウムアゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)2−メチルプロピオンアミド、2,2’−アゾビス[4−シアノ吉草酸]の群から選ばれる少なくとも1種類を用いたことを特徴とする請求項7記載の帯電防止フィルムの製造方法。
【請求項9】
前記グラフト重合層の形成には、メタクリル酸、グリシジルメタクリレート、アクリル酸、アリルアミン、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド、[2−(アクロイルオキシ)エチル]−トリメチルアンモニウムクロリドから少なくとも1種類用いたことを特徴とする請求項7記載の帯電防止フィルムの製造方法。
【請求項10】
前記バインダー層の形成には、下記の化学式で示されるアニオン性デキストランとしてカルボキシデキストランナトリウム、または、カチオン性デキストランとして塩化O−[2−ヒドロキシ−3−(トリメチルアンモニオ)プロピル]デキストランのいずれか一方を用いたことを特徴とする請求7記載の帯電防止フィルムの製造方法。
【化1】


(化学式(1)において、アニオン性デキストランでは、Rはカルボキシナトリウムであり、カチオン性デキストランでは、Rはヒドロキシプロピルアンモニウムクロリドである。nは整数である。)
【請求項11】
前記UV光は、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、エキシマUVランプの少なくとも1種類を用いたことを特徴とする請求項7記載の帯電防止フィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−208366(P2009−208366A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−54000(P2008−54000)
【出願日】平成20年3月4日(2008.3.4)
【出願人】(000006622)株式会社安川電機 (2,482)
【Fターム(参考)】