説明

帯電防止性樹脂組成物および熱可塑性樹脂製多層シート

【課題】少量の高分子型帯電防止剤で高い帯電防止性を発現しうる帯電防止性樹脂組成物および帯電防止性に優れる熱可塑性樹脂製多層シートを提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂(A)、高分子型帯電防止剤(B)および充填剤(C)を含む樹脂組成物であって、該樹脂組成物における熱可塑性樹脂(A)、高分子型帯電防止剤(B)および充填剤(C)の合計を100重量%とするとき、前記熱可塑性樹脂(A)が5〜30重量%、高分子型帯電防止剤(B)が50〜80重量%、充填剤(C)が20〜50重量%である帯電防止性樹脂組成物。熱可塑性樹脂層の少なくとも片面に前記帯電防止性樹脂組成物から形成される帯電防止層が積層されてなる熱可塑性樹脂製多層シートであって、前記帯電防止層が表層である熱可塑性樹脂製多層シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯電防止性樹脂組成物、および少なくとも一方の表層が前記帯電防止性樹脂組成物から形成される層である熱可塑性樹脂製多層シートに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレンやポリエチレンなどの熱可塑性樹脂は電気絶縁性であり、静電気によって非常に帯電しやすい材料である。このため、静電気対策が求められる用途に使用する場合には、各種の帯電防止剤を添加して使用されている。帯電防止剤は低分子型と高分子型のものに分類され、低分子型帯電防止剤としてはモノグリセリドやアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどが挙げられるが、低分子のためブリードによって性能が低下しやすい。このため、帯電防止性を持続することが求められる用途では高分子型帯電防止剤が使用されている。
【0003】
さらに、高分子型帯電防止剤と充填剤の両方を樹脂に添加し、例えば帯電防止性と硬さの両方の特性を付与することも知られている(特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2001−200217号公報
【0005】
前記文献には、ベースポリマー100重量部に対して、粘着付与樹脂を2〜50重量部、高分子型帯電防止剤を1〜150重量部、充填剤を5〜100重量部添加することが記載されている。しかしながらこのような組成では帯電防止性能が不十分であった。高分子型帯電防止剤の添加量を増やせば、それに伴ってある程度の帯電防止性能の向上が期待できるが、費用が高くなるため、少量の高分子型帯電防止剤を樹脂に添加することで、いかに優れた帯電防止性能を有する樹脂組成物が得られるかが問題となっていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、少量の高分子型帯電防止剤で高い帯電防止性能を発現しうる帯電防止性樹脂組成物を提供することにある。さらに本発明の目的は、前記帯電防止性樹脂組成物から形成される層を表層に有し、帯電防止性に優れる熱可塑性樹脂製多層シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明は、熱可塑性樹脂(A)、高分子型帯電防止剤(B)および充填剤(C)を含む樹脂組成物であって、該樹脂組成物における熱可塑性樹脂(A)、高分子型帯電防止剤(B)および充填剤(C)の合計を100重量%とするとき、前記熱可塑性樹脂(A)が5〜30重量%、高分子型帯電防止剤(B)が50〜80重量%、充填剤(C)が20〜50重量%である帯電防止性樹脂組成物である。
さらに本発明は、熱可塑性樹脂層の少なくとも片面に、前記帯電防止性樹脂組成物から形成される帯電防止層が積層されてなる熱可塑性樹脂製多層シートであって、前記帯電防止層が表層である熱可塑性樹脂製多層シートである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の帯電防止性樹脂組成物は、従来の組成物と比較すると、少量の高分子型帯電防止剤で高い帯電防止性能を有するものである。またこのような帯電防止性樹脂組成物から形成される層を表層に有する本発明の熱可塑性樹脂製多層シートは、少量の高分子型帯電防止剤で高い帯電防止性能を有するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
まず、本発明における熱可塑性樹脂(A)に関して説明する。
熱可塑性樹脂(A)としては公知のものを使用することができ、例えば、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体やエチレン−塩化ビニル共重合体などのエチレン共重合体系樹脂、ポリスチレンやABS樹脂およびAS樹脂などのポリスチレン系樹脂、6−ナイロンや6,6−ナイロンなどのポリアミド系樹脂、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル系樹脂、ポリカーボネートやポリエステルカーボネートなどのポリカーボネート系樹脂、ポリエーテルスルフォンやポリアミンスルフォンなどのポリスルフォン系樹脂、ポリ塩化ビニルやポリ塩化ビニリデンなどの塩素系樹脂、ポリメチルメタクリレートやポリエチルメタクリレートなどのアクリル系樹脂などが挙げられる。これらは単独で使用してもよいし、二種以上を混合して使用してもよい。特に、熱可塑性樹脂(A)としてはポリプロピレン系樹脂またはポリエチレン系樹脂が好ましい。
【0010】
ポリプロピレン系樹脂としては、公知の樹脂を用いることができ、例えばプロピレン単独重合体、プロピレンと、エチレンおよび/または炭素原子数4〜20のα−オレフィン等のコモノマーとの共重合体、またはこれらに非晶性のエチレン・α−オレフィン共重合体が分散している重合体などが挙げられる。なお、プロピレンと他のコモノマーとの共重合体を使用する場合、該共重合体中のプロピレン由来の構成単位含有量は50モル%以上である。
【0011】
熱可塑性樹脂(A)がポリプロピレン系樹脂である場合、そのMFR(230℃)は0.1〜10(g/10min)であることが好ましく、0.1〜5(g/10min)であることがより好ましい。ここでMFR(230℃)とは、230℃におけるメルトフローレートであり、JIS K7210に従って、温度230℃、荷重2.16kgfで測定される値である(単位 g/10min)。なお、ポリプロピレン系樹脂が2種類以上の混合物である場合には、該混合物のMFRが前記範囲であることが好ましい。
高分子型帯電防止剤は流動性の高いものが多いため、押出成形や射出成形などの成形性や機械物性の観点からポリプロピレン系樹脂のMFR(230℃)は10(g/10min)以下が好ましい。また、高分子型帯電防止剤とポリプロピレン系樹脂の分散性の観点から、ポリプロピレン系樹脂のMFR(230℃)は0.1(g/10min)以上が好ましい。
【0012】
ポリエチレン系樹脂としては、エチレン単独重合体、エチレンと炭素原子数3〜12のα−オレフィンとの共重合体等の公知の樹脂を用いることができる。ただしエチレンと炭素原子数3〜12のα−オレフィンとの共重合体を用いる場合、該共重合体中のエチレン由来の構成単位の含有量は50モル%以上である。使用するポリエチレン系樹脂は1種類であってもよいし、2種類以上の混合物であってもよい。
特に、JIS K6760に従って測定される密度が0.920g/cm3以上のポリエチレン系樹脂を用いることが好ましく、密度0.940g/cm3以上のポリエチレン系樹脂を用いることがより好ましい。これは溶融状態から固化する際に、高分子型帯電防止剤がポリエチレン系樹脂の結晶部からはじき出され、少ない非結晶部に高分子型帯電防止剤が高濃度に偏在することによって、帯電防止性が向上しやすくなるためである。なおポリエチレン系樹脂が2種類以上の混合物である場合には、該混合物の密度が前記範囲であることが好ましい。
【0013】
また、ポリエチレン系樹脂のMFR(190℃)は、0.1〜10(g/10min)であることが好ましく、0.1〜5(g/10min)であることがより好ましい。ここでMFR(190℃)とは、190℃におけるメルトフローレートであり、JIS K7210に従って、温度190℃、荷重2.16kgfで測定される値である(単位 g/10min)。なおポリエチレン系樹脂が2種類以上の混合物である場合には、該混合物のMFRが前記範囲であることが好ましい。前記範囲のMFRのポリエチレン系樹脂を用いる理由は、ポリプロピレン系樹脂の場合と同様である。
本発明の帯電防止性樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂(A)の割合は、該樹脂組成物における熱可塑性樹脂(A)、高分子型帯電防止剤(B)および充填剤(C)の合計を100重量%とするとき、5〜30重量%の範囲であり、好ましくは10〜20重量%である。熱可塑性樹脂(A)の割合が30重量%より多いと高い帯電防止性が得られにくい。また、熱可塑性樹脂(A)の割合が5重量%より少ないと押出成形や射出成形などの成形性や機械物性の低下が懸念される。
【0014】
次に、本発明における高分子型帯電防止剤(B)に関して説明する。
高分子型帯電防止剤(B)としては公知のものを使用することができ、例えば、ポリエーテルエステルアミド、ポリエーテル−ポリオレフィンブロック共重合体、ポリエチレングリコールメタクリレート共重合体、ポリエーテルアミド、ポリエーテルアミドイミド、ポリアルキレンオキシド共重合体等を挙げることができる。具体的には、ポリエーテルエステルアミドとしては富士化成工業株式会社製のTPAE、ポリエーテル−ポリオレフィンブロック共重合体としては三洋化成工業株式会社製のペレスタット300、ペレスタット230等が挙げられる。これら高分子型帯電防止剤(B)の少なくとも1種を用いることにより、持続性の高い帯電防止効果が得られる。特に、熱可塑性樹脂(A)がポリプロピレン系樹脂やポリエチレン系樹脂の場合、これら樹脂と相溶しやすいポリエーテル−ポリオレフィンブロック共重合体を使用することが好ましい。
【0015】
本発明の帯電防止性樹脂組成物に含まれる高分子型帯電防止剤(B)の割合は、該樹脂組成物における熱可塑性樹脂(A)、高分子型帯電防止剤(B)および充填剤(C)の合計を100重量%とするとき、50〜80重量%の範囲であり、好ましくは50〜70重量%である。高分子型帯電防止剤(B)の割合が50重量%より少ないと高い帯電防止性が得られにくい。また、高分子型帯電防止剤(B)を80重量%より多く添加しても帯電防止性はそれほど向上せず、押出成形や射出成形などの成形性や機械物性の低下が懸念される。
【0016】
次に、本発明における充填剤(C)に関して説明する。
充填剤(C)としては公知のものを使用することができ、例えば、金属酸化物、金属水酸化物、金属炭酸塩、金属硫酸塩、金属ケイ酸塩、金属窒化物、炭素類などが用いられる。金属酸化物としては、例えば、シリカ、珪藻土、アルミナ、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化鉄、酸化スズ及び酸化アンチモン等が挙げられる。金属水酸化物としては、例えば、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム及び塩基性炭酸マグネシウム等が挙げられる。金属炭酸塩としては、例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、炭酸バリウム、ドーソナイト及びハイドロタルサイト等が挙げられる。
金属硫酸塩としては、例えば、硫酸カルシウム、硫酸バリウム及び石膏繊維等が挙げられる。金属ケイ酸塩としては、例えば、ケイ酸カルシウム、タルク、カオリン、クレー、マイカ、モンモリロナイト、ベントナイト、活性白土、セピオライト、イモゴライト、セリサリト、ガラス繊維、ガラスビーズ及びシリカ系バルーン等が挙げられる。金属窒化物としては、例えば、窒化アルミニウム、窒化ホウ素及び窒化ケイ素等が挙げられる。炭素類としては、例えば、カーボンブラック、グラファイト、炭素繊維、木炭粉末及びフラーレン等が挙げられる。これら充填剤は単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。
【0017】
本発明における充填剤(C)は、密度が1.0〜10.0g/cm3であることが好ましく、2.0〜6.0g/cm3がより好ましい。充填剤(C)の密度が1.0g/cm3より高い方が、高分子型帯電防止剤(B)の添加量が同じでも表面抵抗率が低下しやすく、高い帯電防止性を得やすい。また、熱可塑性樹脂(A)との分散性の観点から10.0g/cm3以下が好ましい。
例えば、密度が2.0〜6.0g/cm3である充填剤(C)としては、珪藻土(密度2.0g/cm3)、シリカ(密度2.3g/cm3)、タルク(密度2.8g/cm3)、酸化亜鉛(密度5.8g/cm3)などが挙げられる。
【0018】
本発明の帯電防止性樹脂組成物に含まれる充填剤(C)の割合は、該樹脂組成物における熱可塑性樹脂(A)、高分子型帯電防止剤(B)および充填剤(C)の合計を100重量%とするとき、20〜50重量%の範囲であり、好ましくは25〜40重量%である。充填剤(C)の割合が20重量%より少ないと、高い帯電防止性が得られにくい。一方、充填剤(C)の割合が50重量%より多いと、押出成形や射出成形などの成形性や機械物性の低下が懸念される。
【0019】
本発明の帯電防止性樹脂組成物の製造方法としては特に限定されるものではなく、例えば熱可塑性樹脂(A)、高分子型帯電防止剤(B)および充填剤(C)の混合物を押出機やバンバリーミキサーなどの混練機を用いて溶融混練することによって製造することができる。押出機としては、単軸や多軸の公知の押出機を使用することができ、複数の押出機を組み合わせたタンデム押出機も使用可能である。スクリューデザインや押出条件などは特に限定されないが、高分子型帯電防止剤(B)および充填剤(C)の分散を充分に行うため高せん断が加えられるようにすることが好ましい。この観点から、同方向回転2軸押出機を用いることが好ましい。
【0020】
本発明の帯電防止性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(A)、高分子型帯電防止剤(B)、充填剤(C)以外の各種の添加剤を含んでいてもよい。例えば、難燃剤、酸化防止剤、銅害防止剤、耐候剤、紫外線吸収剤、滑剤、発泡剤、接着性改良剤等が挙げられる。本発明の帯電防止性樹脂組成物中の熱可塑性樹脂(A)、高分子型帯電防止剤(B)および充填剤(C)の合計重量は、通常90重量%以上であり、95重量%以上であることが好ましく、98重量%以上であることがより好ましく、100重量%であることが最も好ましい。
【0021】
本発明の帯電防止性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(A)と高分子型帯電防止剤(B)からなる樹脂マトリックス中に充填剤(C)が分散した形態である。高分子型帯電防止剤(B)は充填剤(C)の中には入り得ないことから、充填剤(C)を添加することで樹脂マトリックス中に高分子型帯電防止剤を高濃度に偏在させることができる。このため、樹脂組成物全体における高分子型帯電防止剤の添加量が同じであっても充填剤を併用させた方が高い帯電防止性を得ることができる。
【0022】
本発明の帯電防止性樹脂組成物を用い、公知の成形加工技術、例えば押出成形、射出成形、発泡成形などによって、シート等各種の成形品を製造することができる。具体的には、壁材や床材、IC用の静電気対策を施した各種製品(通函、仕切り、トレーなど)、複写機やファクシミリの静電気対策部材等が挙げられる。帯電防止性樹脂組成物を成形して得られる成形品の帯電防止性は、通常表面抵抗率で107〜1010(Ω/□)であり、高分子型帯電防止剤単独に近い高い帯電防止性が得られる。さらに本発明の帯電防止性樹脂組成物は非黒色系であるので、一般的な顔料を添加することによって所望の色調の成形品を製造することができる。
【0023】
また前記した本発明の帯電防止性樹脂組成物から形成される層を表層に有する多層成形品は、成形品に含まれる帯電防止剤の量は少ないにも関わらず、帯電防止性に優れるものとなる。このような多層成形品の例としては、熱可塑性樹脂層の少なくとも片面に前記帯電防止性樹脂組成物から形成される帯電防止層が積層されてなる熱可塑性樹脂製多層シートであって、前記帯電防止層が表層である熱可塑性樹脂製多層シート、熱可塑性樹脂製発泡層の少なくとも片面に前記帯電防止性樹脂組成物から形成される帯電防止層が積層されてなる熱可塑性樹脂製多層発泡シートであって、前記帯電防止層が表層である熱可塑性樹脂製多層発泡シート、熱可塑性樹脂製段ボール構造板の少なくとも片面に前記帯電防止性樹脂組成物から形成される帯電防止層が積層されてなる熱可塑性樹脂製多層段ボール構造板であって、前記帯電防止層が表層である熱可塑性樹脂製多層段ボール構造板が挙げられる。以下、前記熱可塑性樹脂製多層シート、熱可塑性樹脂製多層発泡シート、熱可塑性樹脂製多層段ボール構造板をあわせて、熱可塑性樹脂製多層成形品と称することもある。
【0024】
前記熱可塑性樹脂製多層成形品における熱可塑性樹脂層には、所望の用途に応じて公知の熱可塑性樹脂を使用することができる。例えば、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体やエチレン−塩化ビニル共重合体などのエチレン共重合体系樹脂、ポリスチレンやABS樹脂およびAS樹脂などのポリスチレン系樹脂、6−ナイロンや6,6−ナイロンなどのポリアミド系樹脂、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル系樹脂、ポリカーボネートやポリエステルカーボネートなどのポリカーボネート系樹脂、ポリエーテルスルフォンやポリアミンスルフォンなどのポリスルフォン系樹脂、ポリ塩化ビニルやポリ塩化ビニリデンなどの塩素系樹脂、ポリメチルメタクリレートやポリエチルメタクリレートなどのアクリル系樹脂などが挙げられる。これらは単独で使用してもよいし、二種以上を混合して使用してもよい。特に、熱可塑性樹脂としてはポリプロピレン系樹脂またはポリエチレン系樹脂が好ましい。
また、該熱可塑性樹脂には各種の添加剤を含んでいてもよい。例えば、難燃剤、酸化防止剤、銅害防止剤、耐候剤、紫外線吸収剤、滑剤、発泡剤、接着性改良剤等が挙げられる。特に、該熱可塑性樹脂層として、少なくとも1層が発泡層または段ボール構造板であることが断熱性、軽量性や剛性などの観点から好ましい。
【0025】
前記熱可塑性樹脂製多層成形品が発泡層を有する熱可塑性樹脂製多層発泡シートである場合、該発泡層の発泡倍率や厚みは特に限定されないが、例えば発泡倍率は1.1〜10倍、厚みは0.5〜10mmであり、用途に応じて選択すればよい。発泡層を構成する熱可塑性樹脂としては、ポリプロピレン系樹脂またはポリエチレン系樹脂が好ましく、特に剛性や耐熱性等の観点からポリプロピレン系樹脂であることが好ましい。
発泡性の観点から、発泡層を形成する樹脂の10重量%以上が、190℃におけるメルトテンション(MT(190℃))と230℃におけるメルトフローレート(MFR(230℃))とが下式1を満足するプロピレン系樹脂であることが好ましい。
MT(190℃)≧7.52×MFR(230℃)(-0.576) [式1]
【0026】
式1を満たすプロピレン系樹脂としては、分岐状プロピレン系樹脂や高分子量成分を含有する直鎖状プロピレン系樹脂が挙げられる。
直鎖状プロピレン系樹脂としては、例えば特開平11−228629号公報に開示されたような超高分子量成分を導入したプロピレン系重合体(T)、すなわち極限粘度が5dl/g以上の結晶性プロピレン系重合体部分(A)を製造する工程および極限粘度が3dl/g未満の結晶性プロピレン系重合体部分(B)を製造する工程を含む重合方法により得られ、極限粘度が3dl/g未満であり、結晶性プロピレン系重合体部分(A)の割合が0.05重量%以上35重量%未満であるプロピレン系重合体(T)が挙げられる。
分岐状プロピレン系樹脂としては、特開昭62−121704号公報に開示されたような直鎖状プロピレン系樹脂に放射線を照射して得られる樹脂を挙げることができる。このような分岐状プロピレン系樹脂は、株式会社サンアロマよりPF814、SD632として上市されている。
【0027】
190℃におけるメルトテンション(MT(190℃))とは、市販のメルトテンションテスターを用いて、サンプル量5g、加熱温度190℃、加熱時間5分間、ピストン降下速度5.7mm/分で、長さ8mm、直径2mmのオリフィスからストランドを押し出し、該ストランドを直径50mmのローラーを用いて巻取速度100rpmで巻き取ったときの張力である(単位 g)。
【0028】
発泡層を形成する際に用いる発泡剤は特に限定されるものではなく、公知の物理発泡剤や化学発泡剤を単独、または複数を組み合わせて用いることができる。
物理発泡剤としては、炭酸ガス、窒素ガス、空気、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ジクロルエタン、ジクロロジフルオロメタン、ジクロロモノフルオロメタン、トリクロロモノフルオロメタンなどを用いることができ、窒素ガス、炭酸ガス、空気等の安全性の高い無機ガスを用いることが好ましい。
安全性およびポリプロピレン系樹脂への溶解性の観点から、炭酸ガスを用いることが好ましい。炭酸ガスを用いる場合は、7.4MPa以上かつ31℃以上の超臨界状態で樹脂へ注入することが、樹脂への拡散、溶解性の観点から好ましい。
【0029】
化学発泡剤としては、クエン酸、クエン酸ナトリウム、ステアリン酸などの有機酸、重曹、アゾジカルボンアミド、トリレンジイソシアネート、4,4’ジフェニルメタンジイソシアネートなどのイソシアネート化合物、アゾビスブチロニトリル、バリウム・アゾジカルボキシレート、ジアゾアミノベンゼン、トリヒドラジノトリアジンなどのアゾ、ジアゾ化合物、ベンゼン・スルホニル・ヒドラジド、P,P’−オキシビス(ベンゼンスルホニル・ヒドラジド)、トルエン・スルホニル・ヒドラジドなどのヒドラジン誘導体、N,N’−ジニトロソ・ペンタメチレン・テトラミン、N,N’−ジメチル−N,N’−ジニトロソ・テレフタルアミドなどのニトロソ化合物、P−トルエン・スルホニル・セミカルバジド、4,4’オキシビスベンゼンスルホニルセミカルバジドなどのセミカルバジド化合物、アジ化合物、トリアゾール化合物などを使用することができる。特に、重曹、クエン酸、アゾジカルボンアミドのいずれかを用いることが好ましい。
【0030】
化学発泡剤を使用する場合には、分解温度や分解速度を調整するために発泡助剤を併用してもよい。例えば、アゾジカルボンアミド単体では分解温度が約200℃と高いため、低温で加工する場合には発泡助剤として酸化亜鉛、ステアリン酸亜鉛、尿素などを少量添加して使用することができる。
【0031】
物理発泡剤を用いる場合には、気泡核剤を併用してもよい。気泡核剤としては、タルク、シリカ、珪藻土、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、ケイ酸カルシウム、ゼオライト、マイカ、クレー、ワラストナイト、ハイドロタルサイト、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、PMMA等のポリマービーズ、合成アルミノシリケートや上記の化学発泡剤等を使用することができる。
【0032】
前記熱可塑性樹脂製多層成形品が熱可塑性樹脂製段ボール構造板を有する熱可塑性樹脂製多層段ボール構造板である場合、該熱可塑性樹脂製段ボール構造板とは、互いに平行または略平行に対面して配置された2枚のライナー部と、両ライナー部を連結するように該ライナー部間に設けられたリブとを有するもので、一般にプラスチック段ボールと呼ばれている。プラスチック段ボールは、軽量性と強度のバランスに優れるため、通い箱や建材等として従来から用いられている。
該熱可塑性樹脂製段ボール構造板の厚み、単位面積当りの重量である目付、ライナーやリブの厚みなどは特に限定されるものではないが、例えば、該熱可塑性樹脂製段ボール構造板の厚みは1〜20mm、目付は200〜10000g/m2であり、用途に応じて選択すればよい。例えば、通い箱に用いる場合には、厚みは3〜7mm、目付は500〜2000g/m2が好ましい。
また、該熱可塑性樹脂製段ボール構造板を構成する熱可塑性樹脂としては、ポリプロピレン系樹脂またはポリエチレン系樹脂が好ましく、特に剛性や耐熱性等の観点からポリプロピレン系樹脂であることが好ましい。
【0033】
前記した各種の本発明の熱可塑性樹脂製多層成形品の層構成は、少なくとも一方の表層が帯電防止層であればよく、例えば2種2層(帯電防止層/熱可塑性樹脂層)、2種3層(帯電防止層/熱可塑性樹脂層/帯電防止層)や3種5層(帯電防止層/熱可塑性樹脂層1/熱可塑性樹脂層2/熱可塑性樹脂層1/帯電防止層)等を例示できる。
本発明の熱可塑性樹脂製多層成形品の製造方法は特に限定されるものではなく、帯電防止層と熱可塑性樹脂層を公知の貼合技術で貼合して多層構成としてもよいが、生産性の観点から公知の多層ダイを用いた多層共押出法を採用することが好ましい。
帯電防止層の厚みは特に限定されるものではないが、厚みが厚いほど帯電防止性能は向上するものの、費用は高くなってしまう傾向である。通常帯電防止層の厚みは、5〜100μmの範囲である。
【0034】
本発明の熱可塑性樹脂製多層成形品を用い、公知の成形加工技術、例えば真空成形、罫線加工、熱融着加工などによって、各種の製品を製造することができる。具体的には、壁材や床材、IC用の静電気対策を施した各種製品(通函、仕切り、トレーなど)、複写機やファクシミリの静電気対策部材等が挙げられる。本発明の熱可塑性樹脂製多層成形品の帯電防止性は、通常表面抵抗率で107〜1010(Ω/□)であり、高分子型帯電防止剤単独に近い高い帯電防止性が得られる。
【実施例】
【0035】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例に何ら限定されるものではない。
【0036】
(1)MFR
JIS K7210に従い、MFR(230℃)は温度230℃、荷重2.16kgfで、MFR(190℃)は温度190℃、荷重2.16kgfで測定される値である(単位 g/10min)。
【0037】
(2)MT(190℃)
190℃におけるメルトテンション(MT(190℃))とは、市販のメルトテンションテスターを用いて、サンプル量5g、加熱温度190℃、加熱時間5分間、ピストン降下速度5.7mm/分で、長さ8mm、直径2mmのオリフィスからストランドを押し出し、該ストランドを直径50mmのローラーを用いて巻取速度100rpmで巻き取ったときの張力である(単位 g)。
【0038】
(3)表面抵抗率
試験片は90mm×90mm、装置はケスレー社製絶縁計を使用し、23℃で50%相対湿度下、印加電圧100Vにおいて測定した。
【0039】
[実施例1]
熱可塑性樹脂(A)として、ポリプロピレン系樹脂(住友化学株式会社製、ノーブレンAD571)を使用した。ポリプロピレン系樹脂のMFR(230℃)は0.7(g/10min)であった。高分子型帯電防止剤(B)として、ポリエーテル−ポリプロピレンブロック共重合体(三洋化成工業株式会社製、ペレスタット230)を使用した。また、充填剤(C)としてはタルク(密度2.8g/cm3)を使用した。
ポリプロピレン系樹脂を15重量%、ポリエーテル−ポリプロピレンブロック共重合体を50重量%、タルクを35重量%の割合で混合し、この混合物を、株式会社東洋精機製作所製のラボプラストミル(温度230℃、回転数100rpm、混練時間10分)を用いて溶融混練して帯電防止性樹脂組成物(D)を得た。
本帯電防止性樹脂組成物(D)を熱プレスを用いて70μmのフィルムを作成し、表面抵抗率を測定したところ、4.5×108(Ω/□)であった。
【0040】
[実施例2、比較例1〜3]
ポリプロピレン系樹脂、ポリエーテル−ポリプロピレンブロック共重合体およびタルクの割合を表1に示す通り変更した以外は実施例1と同様に行った。結果を表1、図1にまとめた。
【0041】
【表1】

【0042】
[参考例1](プロピレン系樹脂PP1の製造)
特開平11−228629号公報に開示された方法により、プロピレン系重合体粉末を製造した。該プロピレン系重合体粉末は、極限粘度7.7dl/gの結晶性プロピレン重合体部分Aと、極限粘度1.2dl/gの結晶性プロピレン重合体部分Bを有するものであった。なお、AとBの重量比は11:89であり、プロピレン系重合体全体の極限粘度は1.9dl/gであった。
上記プロピレン系重合体粉末100重量部に対して、ステアリン酸カルシウム0.1重量部、商品名イルガノックス1010(チバガイギー株式会社製)0.05重量部、商品名スミライザーBHT(住友化学株式会社製)0.2重量部を加えて混合し、230℃で溶融混練し、MFR(230℃)が12g/10分であるペレット(プロピレン系樹脂PP1)を得た。このペレットのMT(190℃)を測定したところ、4.7gであり、[式1]の右辺7.52×MFR(230℃)(-0.576)は1.80となり、[式1]を満足するものであった。
【0043】
[実施例3](多層シートの製造)
下記に示す方法にて、2種3層(帯電防止層/発泡層/帯電防止層)のポリプロピレン系樹脂製多層発泡シートを作製した。
発泡層用押出機として先端にギアポンプを設けた同方向回転2軸押出機を、帯電防止層用押出機として単軸押出機を用い、これらにマルチマニホールド方式の多層Tダイを接続して使用した。
発泡層を構成するポリプロピレン系樹脂組成物として、参考例1で得られたプロピレン系樹脂PP1(MFR(230℃)=12g/10分)を25重量部、プロピレン系樹脂PP2(住友化学株式会社製、ノーブレンAW161C(MFR(230℃)=9g/10min))を60重量部、直鎖状低密度ポリエチレンPE1(住友化学株式会社製、エクセレンFX、CX3502(MFR(190℃)=4g/10分))を15重量部の配合物(プロピレン系樹脂組成物)を用い、これに気泡核剤としてアゾジカルボンアミドを0.15PHR混合した。
前記ポリプロピレン系樹脂組成物および気泡核剤の混合物を、発泡層用押出機に投入して溶融混練を行い、溶融が進んだ位置で液化炭酸ガス0.30PHRを10MPaで注入してさらに溶融混練し溶融発泡性樹脂組成物とした後、該溶融発泡性樹脂組成物をギアポンプを経て多層Tダイ内へ導入した。
一方、実施例1と同じ組成で、同方向回転2軸押出機を用いて溶融混練して製造した帯電防止性樹脂組成物(D)を、帯電防止層用押出機に投入して溶融混練を行い、多層Tダイ内へ導入した。
多層Tダイより吐出された多層発泡シート状物を、ダイ直後に設置され温調された複数のロールに密着させて冷却し、ニップロールを備えた引取機で引取り、所定寸法に裁断してポリプロピレン系樹脂製多層発泡シートを得た。
該多層発泡シートにおける、発泡層の発泡倍率と厚みは各々3倍、5mmであり、帯電防止層の厚みと表面抵抗率は各々20μm、1.9×109(Ω/□)であった。
【0044】
[実施例4、比較例4〜5]
帯電防止性樹脂組成物(D)の組成および帯電防止層の厚みを表2に示す通り変更した以外は実施例3と同様に行った。結果を表2、図2にまとめた。本発明のポリプロピレン系樹脂製多層発泡シートは、実施例3と比較例4、実施例4と比較例5とをそれぞれ比較すると明らかなように、帯電防止層に含まれる高分子型帯電防止剤の割合や帯電防止層の厚みが同じ発泡シートに比べて、表面抵抗率が低く帯電防止性能に優れている。すなわち同じ表面抵抗率の発泡シートを得たい場合には帯電防止層の厚みを薄くすることができるので、安価な発泡シートとすることができる。
【0045】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】実施例1−2および比較例1−3における高分子型帯電防止剤添加量と表面抵抗率の関係を示す図
【図2】実施例3−4および比較例4−5における帯電防止層の厚みと表面抵抗率の関係を示す図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂(A)、高分子型帯電防止剤(B)および充填剤(C)を含む帯電防止性樹脂組成物であって、該帯電防止性樹脂組成物における熱可塑性樹脂(A)、高分子型帯電防止剤(B)および充填剤(C)の合計を100重量%とするとき、前記熱可塑性樹脂(A)が5〜30重量%、高分子型帯電防止剤(B)が50〜80重量%、充填剤(C)が20〜50重量%である帯電防止性樹脂組成物。
【請求項2】
前記充填剤(C)の密度が1.0〜10.0g/cm3である請求項1に記載の帯電防止性樹脂組成物。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂(A)が、MFR(230℃)が0.1〜10(g/10min)のポリプロピレン系樹脂である請求項1または2に記載の帯電防止性樹脂組成物。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂(A)が、密度が0.920(g/cm3)以上、かつMFR(190℃)が0.1〜10(g/10min)のポリエチレン系樹脂である請求項1または2に記載の帯電防止性樹脂組成物。
【請求項5】
前記高分子型帯電防止剤(B)がポリエーテル−ポリオレフィンブロック共重合体である請求項1〜4いずれかに記載の帯電防止性樹脂組成物。
【請求項6】
熱可塑性樹脂層の少なくとも片面に、請求項1〜5のいずれかに記載の帯電防止性樹脂組成物から形成される帯電防止層が積層されてなる熱可塑性樹脂製多層シートであって、前記帯電防止層が表層である熱可塑性樹脂製多層シート。
【請求項7】
熱可塑性樹脂製発泡層の少なくとも片面に、請求項1〜5のいずれかに記載の帯電防止性樹脂組成物から形成される帯電防止層が積層されてなる熱可塑性樹脂製多層発泡シートであって、前記帯電防止層が表層である熱可塑性樹脂製多層発泡シート。
【請求項8】
熱可塑性樹脂製段ボール構造板の少なくとも片面に、請求項1〜5のいずれかに記載の帯電防止性樹脂組成物から形成される帯電防止層が積層されてなる熱可塑性樹脂製多層段ボール構造板であって、前記帯電防止層が表層である熱可塑性樹脂製多層段ボール構造板。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−239635(P2008−239635A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−56892(P2007−56892)
【出願日】平成19年3月7日(2007.3.7)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【出願人】(597075823)住化プラステック株式会社 (37)
【Fターム(参考)】