説明

帯電防止膜形成用の電離放射線硬化性組成物と帯電防止膜および帯電防止膜を備えた構造体

【課題】優れた帯電防止性能と良好な透明性を備え、膜強度の高い帯電防止膜と、このような帯電防止膜の形成を可能とする硬化性組成物と、優れた帯電防止機能を具備した構造体を提供する。
【解決手段】帯電防止膜形成用の硬化性組成物を、帯電防止剤と、官能性のモノマーおよび/またはオリゴマーとを少なくとも含有するものとし、帯電防止剤は、4個の置換アルキル基の炭素総数が8以上であるとともに、最も長鎖の置換アルキル基の炭素数が2〜14である非環式4級アンモニウムカチオンと、ビス(トリフルオロメタンスルホン)イミドおよびビス(ペンタフルオロエタンスルホン)イミドのいずれかであるアニオンと、からなるイオン性塩、あるいは、置換アルキル基の1個以上が炭素数3以上のアルキル基である脂環式4級アンモニウムカチオンと、ビス(トリフルオロメタンスルホン)イミドおよびビス(ペンタフルオロエタンスルホン)イミドのいずれかであるアニオンと、からなるイオン性塩とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、種々のフィルム、樹脂成形体等の静電気発生防止が求められる対象物に帯電防止膜を形成するための電離放射線硬化性組成物と、帯電防止膜、および帯電防止機能を具備することが要求される構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、種々の製品や材料に発生する静電気により様々な問題が生じており、例えば、樹脂フィルムにおける静電気発生により、フィルムどうしの密着が生じて取り扱い性が低下したり、フィルムが具備する性能が低下する場合がある。また、種々のディスプレイ等に静電気が発生してホコリが付着することにより画像表示性が低下したり、電子装置における静電気発生により電子部品が損傷を受けるという問題もある。
このため、静電気発生を防止するめの種々の手段が開発されており、その一つとして、対象製品に帯電防止膜を形成したり、対象製品中に混合するための帯電防止組成物が開発されている(特許文献1)。
【特許文献1】特表2003−511505
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来の帯電防止膜は、膜強度を向上させるために帯電防止剤を含有した樹脂組成物を塗布して形成されるが、帯電防止剤として低分子量の界面活性剤を使用すると、膜表面に界面活性剤が浮いて脱離し易く、帯電防止効果の持続性が低いという問題があった。
また、低分子量、高分子量の界面活性剤の多くは、水が存在することにより帯電防止効果が高まるため、湿度によって帯電防止性能が変化し易く、例えば、湿度の低い冬季には十分な帯電防止効果が得られないという問題があった。
また、アルカリ金属塩、4級アンモニウム塩等の塩も、帯電防止剤として従来から使用されているが、これらは親水性が高いため、帯電防止性能が湿度により影響を受け易く、また、疎水性の樹脂組成物に混ぜると、相溶性が乏しく、得られた帯電防止膜は、透明性が低いものであったり、帯電防止性能が不充分なものであった。
本発明は、上記のような実情に鑑みてなされたものであり、優れた帯電防止性能と良好な透明性を備え、膜強度の高い帯電防止膜と、このような帯電防止膜の形成を可能とする電離放射線硬化性組成物と、優れた帯電防止機能を具備した構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、4級アンモニウム塩と疎水性の樹脂組成物、例えば、多官能アクリレート等との相溶性と帯電防止効果、膜透明性を種々検討することにより達成されたものである。
すなわち、本発明の帯電防止膜形成用の電離放射線硬化性組成物は、少なくとも帯電防止剤と、官能性のモノマーおよび/またはオリゴマーとを含有し、前記帯電防止剤は、4個の置換アルキル基の炭素総数が8以上であるとともに、最も長鎖の置換アルキル基の炭素数が2〜14である非環式4級アンモニウムカチオンと、ビス(トリフルオロメタンスルホン)イミドおよびビス(ペンタフルオロエタンスルホン)イミドのいずれかであるアニオンと、からなるイオン性塩であるような構成とした。
【0005】
本発明の他の態様として、前記非環式4級アンモニウムカチオンは最も長鎖の置換アルキル基の1個以上が炭素数6〜12のアルキル基であるような構成とした。
本発明の他の態様として、官能性の前記モノマー、前記オリゴマーは、3官能以上の多官能性モノマー、多官能性オリゴマーであるような構成とした。
また、本発明の帯電防止膜形成用の電離放射線硬化性組成物は、少なくとも帯電防止剤と、官能性のモノマーおよび/またはオリゴマーとを含有し、前記帯電防止剤は、置換アルキル基の1個以上が炭素数3以上のアルキル基である脂環式4級アンモニウムカチオンと、ビス(トリフルオロメタンスルホン)イミドおよびビス(ペンタフルオロエタンスルホン)イミドのいずれかであるアニオンと、からなるイオン性塩であることを特徴とする。
【0006】
本発明の他の態様として、前記脂環式4級アンモニウムカチオンは、置換アルキル基の1個以上が炭素数4以上のアルキル基であるような構成とした。
本発明の他の態様として、官能性の前記モノマー、前記オリゴマーは、3官能以上の多官能性モノマー、多官能性オリゴマーであるような構成とした。
また、本発明の他の態様として、帯電防止剤の含有量が0.1〜20重量%の範囲であるような構成とした。
【0007】
本発明の帯電防止膜は、上述のいずれかの帯電防止膜形成用の電離放射線硬化性組成物を塗布し硬化させて形成したような構成とした。
本発明の構造体は、基体上に上記の帯電防止膜を具備するような構成とした。
本発明の他の態様として、前記基体は、樹脂フィルム、樹脂成形体、ディスプレイ画面、光学フィルム、電子装置ケース、電子部品のいずれかであるような構成とした。
本発明の他の態様として、前記基体の表面と前記帯電防止膜の間、および/または、前記帯電防止膜上にアンカー層、ハードコート層、ガスバリア層、反射防止層、撥水層の少なくとも1種を備えるような構成とした。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、含有する特定の帯電防止剤が疎水性を示し、これにより、官能性モノマー、ポリマーと帯電防止剤とが相溶状態となり、透明性の高い帯電防止膜の形成が可能となり、成膜された帯電防止膜は、表面抵抗が低く(1012Ω/□以下)、かつ、帯電防止性能が湿度の影響を受け難く、また、帯電防止効果の持続性が高いという効果が奏される。
また、本発明の帯電防止膜は、優れた帯電防止効果を安定して発現するとともに、良好な透明性を有するという効果を奏する。
さらに、本発明の構造体は、基体上に具備した帯電防止膜により、優れた帯電防止機能を有し、静電気発生による種々の障害が生じることを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の最良の実施形態について図面を参照して説明する。
本発明の帯電防止膜形成用の電離放射線硬化性組成物は、少なくとも帯電防止剤と、官能性のモノマーおよび/またはオリゴマーとを含有するものである。
本発明の電離放射線硬化性組成物を構成する帯電防止剤は、カチオンとアニオンのイオン性塩である。
【0010】
帯電防止剤を構成するカチオンは、下記の式(1)で示される非環式4級アンモニウムカチオンであり、4個の置換アルキル基R1,R2,R3,R4の炭素総数が8以上であるとともに、最も長鎖の置換アルキル基の炭素数が2〜14、好ましくは6〜12である非環式4級アンモニウムカチオンである。4個の置換アルキル基R1,R2,R3,R4の炭素総数が6以下であると、親水性が高くなり、耐湿性・疎水性樹脂との相溶性が低下するとともに、帯電防止剤が樹脂から離脱しやすくなり好ましくない。また、最も長鎖の置換アルキル基の炭素数が16以上であると、カチオンの移動度が低くなり、イオン伝導性が低下するとともに、塗膜の透明性も低くなり好ましくない。一方、置換アルキル基がメチル基であると、耐湿性・疎水性樹脂との相溶性が低下するとともに、塗膜表面付近に4級アンモニウム塩が集まり難くなり、イオン伝導性が低下し好ましくない。
【0011】
【化1】

【0012】
また、帯電防止剤を構成するカチオンとして、置換アルキル基の1個以上が炭素数3以上のアルキル基、好ましくは置換アルキル基の1個以上が炭素数4以上のアルキル基である脂環式4級アンモニウムカチオンを用いることができる。置換アルキル基として炭素数3以上のアルキル基が存在しない場合、耐湿性・疎水性樹脂との相溶性が低下するとともに、塗膜表面付近に4級アンモニウム塩が集まり難くなり、イオン伝導性が低下し好ましくない。このような脂環式4級アンモニウムカチオンとしては、例えば、下記の式(2)、式(3)で示されるもの等が挙げられ、特に、環状構造は脂環式であり、環に二重結合を含まないもの、芳香環ではないものが好ましい。
【0013】
【化2】

【化3】

【0014】
一方、帯電防止剤を構成するアニオンは、ビス(トリフルオロメタンスルホン)イミドおよびビス(ペンタフルオロエタンスルホン)イミドのいずれかである。このようなフッ素原子含有アニオンは、負電荷が分子全体に非局在化するため、イオンとして解離して安定に存在することができる。そのため、ハロゲン化物イオンや、過塩素酸、トリフルオロメタンスルホン酸、テトラフルオロホウ酸、ヘキサフルオロリン酸等の低分子量のアニオンに比べて、イオン伝導性が高いものである。また、これらの低分子量のアニオンに比べて、疎水性であるため、疎水性の樹脂との相溶性が高く好適である。一方、ビス(ペンタフルオロエタンスルホン)イミドよりも分子量の大きいビス(パーフルオロアルカンスルホン)イミドは、アニオンの移動度が低くなり、イオン伝導性が低下するので好ましくない。
【0015】
上記のようなイオン性塩である帯電防止剤は、電離放射線硬化性組成物の総固形分において0.1〜20重量%、好ましくは0.5〜10重量%の範囲で含有させることができる。帯電防止剤の含有量が0.1重量%未満であると、低い表面抵抗(例えば、1012Ω/□以下)が得られず、良好な帯電防止性能を有する帯電防止膜の形成が困難となる。また、帯電防止剤の含有量が20重量%を超えると、膜の強度が低下したり、耐熱性が低下するので好ましくない。
本発明の電離放射線硬化性組成物を構成する官能性モノマーは、反応性二重結合を分子中に少なくとも2つ、好ましくは3つ以上有する官能性化合物であり、下記のものを例示することができる。尚、下記の「(メタ)アクリレート」の表記は、「アクリレートまたはメタクリレート」の意味である。
【0016】
(2官能の例)
ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等のポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオール(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、アルキレンオキシド変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、グリセロールジ(メタ)アクリレート等
【0017】
(3官能の例)
トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、グリセロールトリ(メタ)アクリレート、アルキレンオキシド変性グリセロールトリ(メタ)アクリレート等
(4官能の例)
ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、アルキレンオキシド変性ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート等
(5官能の例)
ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート等
(6官能の例)
ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等
【0018】
また、本発明の電離放射線硬化性組成物を構成する官能性オリゴマーは、例えば、ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、ポリエステルアクリレート、ポリエーテルアクリレート等のオリゴマーを挙げることができる。これらのオリゴマーは、反応性二重結合を分子中に少なくとも2つ、好ましくは3つ以上有する官能性化合物であり、下記のものを例示することができる。尚、下記の「(メタ)アクリロイル」の表記は、「アクリロイルまたはメタクリロイル」の意味である。
ウレタンアクリレートとしては、例えば、分子中にウレタン結合と、反応性二重結合を有する(メタ)アクリロイル基をもつ化合物が使用できる。このような化合物は、例えば、2個以上のイソシアネート基をもつイソシアネート化合物と、2個以上の水酸基をもつ化合物と、1個以上の水酸基および1個以上の(メタ)アクリロイル基をもつ化合物とを反応させて得ることができる。また、2個以上のイソシアネート基をもつイソシアネート化合物と、1個以上の水酸基および1個以上の(メタ)アクリロイル基をもつ化合物とを反応させて得ることもできる。
【0019】
エポキシアクリレートとしては、分子中にエポキシ樹脂骨格、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、フェノールノボラック等の構造と、反応性二重結合を有する(メタ)アクリロイル基をもつ化合物が使用できる。このような化合物は、例えば、エポキシ基をもつグリシジル化合物と、1個以上の(メタ)アクリロイル基と1個以上のアルコキシ基をもつ化合物とを反応させて得ることができる。
また、ポリエステルアクリレートとしては、例えば、分子中にエステル結合と、反応性二重結合を有する(メタ)アクリロイル基をもつ化合物が使用できる。このような化合物は、例えば、2個以上の水酸基をもつ化合物または環状エステル化合物と多塩基酸とから合成したポリエステル化合物に、さらに(メタ)アクリロイル基をもつ化合物とを反応させて得ることができる。
【0020】
また、ポリエーテルアクリレートとしては、例えば、分子中にエーテル結合と、反応性二重結合を有する(メタ)アクリロイル基をもつ化合物が使用できる。このような化合物は、例えば、ポリオール化合物と、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等の化合物とを反応させて得られるポリエーテル化合物に対し、エステル交換反応により(メタ)アクリロイル基を導入して得ることができる。
このような官能性モノマー、官能性オリゴマーは単独でも、また、2種以上を混合して使用してもよい。官能性のモノマー、オリゴマーの含有量は、電離放射線硬化性組成物の総固形分において30〜99.5重量%、好ましくは40〜90重量%の範囲とすることができる。官能性のモノマー、オリゴマーの含有量が30重量%未満であると、架橋密度が不十分となり、膜強度が低下し好ましくない。
【0021】
尚、含有する反応性のモノマー、オリゴマーの官能基数を多く、含有量を多くすることにより膜の硬度が高くなるため、本発明の電離放射線硬化性組成物を、帯電防止性能を有するハードコート用として使用することができる。中でも、構造中に水酸基を有するモノマー、オリゴマー、例えば、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート等のモノマーは、上述の帯電防止剤を添加したときの効果が高く好適に使用できる。
【0022】
また、電離放射線硬化性組成物では、塗膜の成膜性を高めたり、脆質性を改善する目的でポリマーを添加することができる。使用するポリマーとしては、例えば、ポリオレフィン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アクリル樹脂、ポリスチレン、アクリル−スチレン共重合体、塩化ビニル樹脂、ポリビニルアルコール、セルロース樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート、ポリビニルアセタール、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、ポリビニルブチラール、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、フェノール樹脂、ウレア樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタン等が挙げられる。特に、相溶性の観点ではアクリル樹脂、帯電防止性能の観点ではポリエステル樹脂が好ましい。
上述のポリマーには、ウレタン変性、エポキシ変性、エステル変性等により、反応性二重結合を導入してもよい。
このようなポリマーの含有量は、硬化性組成物の総固形分において50重量%以下の範囲で設定することが好ましい。
【0023】
本発明の電離放射線硬化性組成物は、上記の官能性のモノマー、オリゴマーに加えて、重合開始剤を含有するものであってよい。重合開始剤としては、ベンゾフェノン、o−ベンゾイル安息香酸メチル、4,4−ビス(ジメチルアミン)ベンゾフェノン、4,4−ビス(ジエチルアミン)ベンゾフェノン、α−アミノ・アセトフェノン、4,4−ジクロロベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4−メチルジフェニルケトン、ジベンジルケトン、フルオレノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオフェノン、p−tert−ブチルジクロロアセトフェノン、チオキサントン、2−メチルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、ジエチルチオキサントン、ベンジルジメチルケタール、ベンジルメトキシエチルアセタール、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインブチルエーテル、アントラキノン、2−tert−ブチルアントラキノン、2−アミルアントラキノン、β−クロルアントラキノン、アントロン、ベンズアントロン、ジベンズスベロン、メチレンアントロン、4−アジドベンジルアセトフェノン、2,6−ビス(p−アジドベンジリデン)シクロヘキサン、2,6−ビス(p−アジドベンジリデン)−4−メチルシクロヘキサノン、2−フェニル−1,2−ブタジオン−2−(o−メトキシカルボニル)オキシム、1−フェニル−プロパンジオン−2−(o−エトキシカルボニル)オキシム、1,3−ジフェニル−プロパントリオン−2−(o−エトキシカルボニル)オキシム、1−フェニル−3−エトキシ−プロパントリオン−2−(o−ベンゾイル)オキシム、ミヒラーケトン、2−メチル−1[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン、ナフタレンスルホニルクロライド、キノリンスルホニルクロライド、n−フェニルチオアクリドン、4,4−アゾビスイソブチロニトリル、ジフェニルジスルフィド、ベンズチアゾールジスルフィド、トリフェニルホスフィン、カンファーキノン、アデカ(株)製N1717、四臭素化炭素、トリブロモフェニルスルホン、過酸化ベンゾイン、エオシン、メチレンブルー等の光還元性の色素とアスコルビン酸、トリエタノールアミン等の還元剤の組み合わせ等が挙げられる。これらの重合開始剤は、単独で、また、2種以上併用してもよい。
このような重合開始剤の添加量は、電離放射線硬化性組成物の総固形分において0.1〜20重量%の範囲で設定することができる。
【0024】
また、本発明の電離放射線硬化性組成物には、下記のような溶剤を使用することができる。例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、N−メチル−2−ピロリドン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル、セロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、カルビトールアセテート、エチルカルビトールアセテート、ブチルカルビトールアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等の酢酸エステル類等が挙げられる。
尚、本発明の電離放射線硬化性組成物には、更に添加剤として増感剤、重合停止剤、連鎖移動剤、レベリング剤、分散剤、可塑剤、界面活性剤、消泡剤等を必要に応じて添加してもよい。
【0025】
本発明の電離放射線硬化性組成物は、疎水性を有する特定の帯電防止剤を含有するので、官能性モノマー、ポリマー等のバインダー成分と帯電防止剤とが良好な状態で相溶し、したがって、透明性の高い帯電防止膜の形成が可能となる。また、成膜された帯電防止膜は、表面抵抗が低く(1012Ω/□以下)、かつ、帯電防止性能が湿度の影響を受け難く、また、帯電防止剤が膜表面に浮くことがなく、帯電防止効果の持続性が高いものである。
上述のような本発明の電離放射線硬化性組成物は、上述の帯電防止剤、官能性モノマー、ポリマーと、必要に応じて重合開始剤、溶剤、他の樹脂成分、添加剤を混合して製造することができる。そして、本発明の電離放射線硬化性組成物は、所望の対象物上に塗布し硬化することにより帯電防止膜を形成することができ、対象物に直接帯電防止膜を形成してもよく、また、帯電防止膜の密着性を付与するためのアンカー層や、ハードコート層、ガスバリア層、反射防止層等の光学性能を有する層、撥水層等の機能性層を形成した後に、帯電防止層を積層して設けることもできる。また、本発明の電離放射線硬化性組成物は、各種樹脂、繊維等の他の材料中に練り込み等により混合し、使用することもできる。
【0026】
本発明の帯電防止膜は、上述の本発明の電離放射線硬化性組成物を塗布し硬化させて形成したものである。対象物上に電離放射線硬化性組成物を塗布するには、例えば、ダイレクトグラビアコーティング法、グラビアリバースコーティング法、リバースロールコーティング法、スライドダイコーティング法、スリットダイコーティング法、コンマコーティング法等の公知の塗布手段を用いることができる。
また、塗布膜の硬化は電離放射線を用いて行われる。電離放射線としては、紫外線、高エネルギー電離放射線を使用することができる。紫外線としては、例えば、紫外線蛍光灯、低圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、キセノンランプ、炭素アーク灯等を使用することができる。また、高エネルギー電離放射線としては、例えば、コッククロフト型加速器、ハンデグラーフ型加速器、リニアアクセレータ、ベータトロン、サイクロトロン等の加速器によって加速された電子線、γ線、X線、α線等の放射線等を使用することができる。
【0027】
このように形成された本発明の帯電防止膜の厚みは、例えば、0.5〜10μm程度とすることができる。また、本発明の帯電防止膜を帯電防止ハードコートとして使用する場合は、厚みが2μm以上であることが好ましい。
上述の本発明の帯電防止膜は、優れた帯電防止効果を安定して発現するとともに、良好な透明性を有する。
【0028】
本発明の構造体は、上述の本発明の帯電防止膜を基体上に具備したものであり、これにより、本発明の構造体は、優れた帯電防止機能を有し、静電気発生による種々の障害が発生することを防止できる。
本発明の構造体をなす基体は、帯電防止機能を具備することが要求されるものであれば特に制限はなく、例えば、種々の樹脂フィルム、樹脂成形体、各種ディスプレイの画面、各種ディスプレイに使用される帯電防止フィルムや反射防止フィルム等の光学フィルム、電子装置のケースや電子部品等を挙げることができる。
基体の材質としては、ガラス、金属、プラスチック等であってよく、プラスチックとしては、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、トリアセチルセルロース、アクリル系樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリエーテル、ポリエーテルケトン等が挙げられる。
【0029】
本発明の構造体は、本発明の帯電防止膜を直接基体表面に具備するものであってよく、また、帯電防止膜の密着性をより向上させるためのアンカー層や、ハードコート層、ガスバリア層、反射防止層等の光学性能を有する層、撥水層等の機能性層を形成した後に、帯電防止層を積層したものであってもよい。さらに、帯電防止膜上に、ハードコート層、ガスバリア層、反射防止層等の光学性能を有する層、撥水層等の機能性層を積層したものであってもよい。
【実施例】
【0030】
次に、実施例を示して本発明を更に詳細に説明する。
[帯電防止剤の調製]
以下の作製例に示すようにして、帯電防止剤である11種の疎水性の4級アンモニウム塩A〜Kを調製した。
(作製例1)
塩化トリメチルヘキシルアンモニウム6.3gを30gの水に溶解し、これに、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホン)イミド10.0gを10gの水に溶解したものを室温で滴下し、6時間攪拌した。水に不溶な液体が下層に分離したところで、この疎水性の層を分離・脱水して、疎水性の4級アンモニウム塩Aを得た。
【0031】
(作製例2)
塩化トリメチルヘキシルアンモニウムの代わりに、塩化トリメチルラウリルアンモニウム9.2gを使用した他は、作製例1と同様にして、疎水性の4級アンモニウム塩Bを得た。
(作製例3)
塩化トリメチルヘキシルアンモニウムを水に溶解する代わりに、塩化トリオクチルメチルアンモニウム18.8gを水・アセトニトリル混合溶媒(重量比4:1)30gに溶解した他は、作製例1と同様にして、疎水性の4級アンモニウム塩Cを得た。
(作製例4)
塩化トリメチルヘキシルアンモニウムの代わりに、臭化ブチルメチルピロリジニウム7.8gを使用した他は、作製例1と同様にして、疎水性の4級アンモニウム塩Dを得た。
【0032】
(作製例5)
塩化トリオクチルメチルアンモニウム18.8gを水・アセトニトリル混合溶媒(重量比4:1)30gに溶解し、これに、リチウムビス(ペンタフルオロエタンスルホン)イミド12.2gを10gの水に溶解したものを室温で滴下した他は、作製例1と同様にして、疎水性の4級アンモニウム塩Eを得た。
(作製例6)
塩化テトラエチルアンモニウム5.8gを30gの水に溶解し、これに、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホン)イミド10.0gを10gの水に溶解したものを室温で滴下し、6時間攪拌した。水に不溶な固体が沈殿したところで、分離精製、脱水することにより、疎水性の4級アンモニウム塩Fを得た。
【0033】
(作製例7)
塩化テトラエチルアンモニウムの代わりに、臭化テトラブチルアンモニウム11.2gを使用した他は、作製例6と同様にして、疎水性の4級アンモニウム塩Gを得た。
(作製例8)
塩化テトラエチルアンモニウムの代わりに、臭化ミリスチルトリメチルアンモニウム18.6gを使用した他は、作製例6と同様にして、疎水性の4級アンモニウム塩Hを得た。
(作製例9)
塩化テトラメチルアンモニウム3.8gを30gの水に溶解し、これに、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホン)イミド10.0gを10gの水に溶解したものを室温で滴下し、6時間攪拌した。水に不溶な固体が沈殿したところで、分離精製、脱水することにより、疎水性の4級アンモニウム塩I(比較例)を得た。
【0034】
(作製例10)
塩化テトラメチルアンモニウムの代わりに、臭化ジメチルピロリジニウム6.8gを使用した他は、作製例9と同様にして、疎水性の4級アンモニウム塩J(比較例)を得た。
(作製例11)
塩化テトラメチルアンモニウムの代わりに、塩化トリメチルセチルアンモニウム11.2gを使用した他は、作製例9と同様にして、疎水性の4級アンモニウム塩K(比較例)を得た。
【0035】
[電離放射線硬化性組成物の調製]
上述のように調製した8種の疎水性の4級アンモニウム塩A〜Hをそれぞれ用いて、下記組成となるように8種の電離放射線硬化性組成物(試料1〜8)を調製した。
(電離放射線硬化性組成物(試料1〜8)の組成)
・ペンタエリスリトールトリアクリレート … 100重量部
・疎水性の4級アンモニウム塩(A〜Hの1種) … 5重量部
・光重合開始剤 … 5重量部
(チバスペシャルティケミカルズ社製 イルガキュア184)
・メチルエチルケトン … 固形分が30重量%となる量
【0036】
また、上述のように調製した疎水性の4級アンモニウム塩Cを用いて、下記組成となるように電離放射線硬化性組成物(試料9)を調製した。
(電離放射線硬化性組成物(試料9)の組成)
・ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート … 100重量部
・疎水性の4級アンモニウム塩C … 5重量部
・光重合開始剤 … 5重量部
(チバスペシャルティケミカルズ社製 イルガキュア184)
・メチルエチルケトン … 固形分が30重量%となる量
【0037】
また、上述のように調製した疎水性の4級アンモニウム塩Cを用いて、下記組成となるように電離放射線硬化性組成物(試料10(官能性オリゴマー使用))を調製した。
(電離放射線硬化性組成物(試料10)の組成)
・多官能性ウレタンアクリレート … 100重量部
(日本合成化学工業(株)製 紫光UV−1700B)
・疎水性の4級アンモニウム塩C … 5重量部
・光重合開始剤 … 5重量部
(チバスペシャルティケミカルズ社製 イルガキュア184)
・メチルエチルケトン … 固形分が30重量%となる量
【0038】
さらに、上述のように調製した3種の疎水性の4級アンモニウム塩I〜Kをそれぞれ用いて、下記組成となるように3種の電離放射線硬化性組成物(比較試料1〜3)を調製した。
(電離放射線硬化性組成物(比較試料1〜3)の組成)
・ペンタエリスリトールトリアクリレート … 100重量部
・疎水性の4級アンモニウム塩(I〜Kの1種) … 5重量部
・光重合開始剤 … 5重量部
(チバスペシャルティケミカルズ社製 Irg184)
・メチルエチルケトン … 固形分が30重量%となる量
【0039】
[帯電防止膜の成膜・構造体の作製]
基体として、厚さ50μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(三菱ポリエステルフィルム(株)製 ダイヤホイルT−600、U−36E(片面易接着フィルム))を準備し、この基体上に、上述のように調製した13種の電離放射線硬化性組成物(試料1〜10、比較試料1〜3)をそれぞれバーコータで塗布し、100℃で乾燥して溶剤を除去した後、高圧水銀灯にて積算露光量600mJ/cm2で紫外線を照射して硬化させた。これにより、13種の帯電防止膜(厚み3μm)を成膜して、13種の構造体を作製した。
【0040】
[評 価]
次に、上記のように成膜した13種の帯電防止膜の表面抵抗を下記条件で測定し、結果を下記の表1に示した。
(表面抵抗の測定条件)
表面抵抗計(三菱油化(株)製 Hiresta Model HT−210)
を使用し、印加電圧500Vでの抵抗値を測定した。
【0041】
また、上記のように作製した13種の構造体のヘイズ、全光線透過率を下記条件で測定し、結果を下記の表1に示した。
(ヘイズ、全光線透過率の測定条件)
ヘイズ、全光線透過率の測定は、濁度計(日本電色工業(株)製 NDH200
0)を使用して測定した。ヘイズは、JIS K7316に準拠する方法で測定
し、全光線透過率は、JIS K7361−1に準拠する方法で測定した。
【0042】
また、上記のように作製した13種の構造体に対して促進環境試験(温度60℃、湿度90%のオーブン中に24時間保持)を施し、その後、上述と同様の条件でヘイズ、全光線透過率を測定し、結果を下記の表1に示した。
尚、帯電防止膜を備えていないポリエチレンテレフタレートフィルムに対して、同様の測定を行なってブランクとした。
【0043】
【表1】

【0044】
表1に示されるように、本発明の電離放射線硬化性組成物(試料1〜10)を用いて成膜した帯電防止膜は、いずれも表面抵抗が低く(1012Ω/□以下)、また、これらの帯電防止膜を備えた構造体はヘイズが低く(2.0以下)、全光線透過率が高いものであり、これらは、促進環境試験後も同様に優れた帯電防止機能を示した。また、帯電防止剤が非環式アンモニウム塩の場合であって、水酸基をもつモノマー(ペンタエリスリトールトリアクリレート)を使用する場合には、最も長鎖の置換アルキル基の炭素数が6〜12の範囲にある電離放射線硬化性組成物(試料1〜3、5)を用いて成膜した帯電防止膜は、いずれも表面抵抗が特に低く(1011Ω/□以下)、好ましいものであった。
【0045】
これに対して、比較の電離放射線硬化性組成物(比較試料1〜3)を用いて成膜した帯電防止膜は、いずれも表面抵抗が高く(1013Ω/□以上)、また、最も長鎖の置換アルキル基の炭素数が16である比較試料3では、構造体のヘイズが2.0を超えるものであった。また、これらは、促進環境試験後において、表面抵抗が更に高くなり、構造体のヘイズも増大し、比較試料3では、全光線透過率が89%を下回るものとなった。
【産業上の利用可能性】
【0046】
静電気発生が好ましくない種々の製品や材料の帯電防止に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも帯電防止剤と、官能性のモノマーおよび/またはオリゴマーとを含有し、前記帯電防止剤は、4個の置換アルキル基の炭素総数が8以上であるとともに、最も長鎖の置換アルキル基の炭素数が2〜14である非環式4級アンモニウムカチオンと、ビス(トリフルオロメタンスルホン)イミドおよびビス(ペンタフルオロエタンスルホン)イミドのいずれかであるアニオンと、からなるイオン性塩であることを特徴とする帯電防止膜形成用の電離放射線硬化性組成物。
【請求項2】
前記非環式4級アンモニウムカチオンは、最も長鎖の置換アルキル基の1個以上が炭素数6〜12のアルキル基であることを特徴とする請求項1に記載の帯電防止膜形成用の電離放射線硬化性組成物。
【請求項3】
官能性の前記モノマー、前記オリゴマーは、3官能以上の多官能性モノマー、多官能性オリゴマーであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の帯電防止膜形成用の電離放射線硬化性組成物。
【請求項4】
少なくとも帯電防止剤と、官能性のモノマーおよび/またはオリゴマーとを含有し、前記帯電防止剤は、置換アルキル基の1個以上が炭素数3以上のアルキル基である脂環式4級アンモニウムカチオンと、ビス(トリフルオロメタンスルホン)イミドおよびビス(ペンタフルオロエタンスルホン)イミドのいずれかであるアニオンと、からなるイオン性塩であることを特徴とする帯電防止膜形成用の電離放射線硬化性組成物。
【請求項5】
前記脂環式4級アンモニウムカチオンは、置換アルキル基の1個以上が炭素数4以上のアルキル基であることを特徴とする請求項4に記載の帯電防止膜形成用の電離放射線硬化性組成物。
【請求項6】
官能性の前記モノマー、前記オリゴマーは、3官能以上の多官能性モノマー、多官能性オリゴマーであることを特徴とする請求項4または請求項5に記載の帯電防止膜形成用の電離放射線硬化性組成物。
【請求項7】
帯電防止剤の含有量は、0.1〜20重量%の範囲であることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の帯電防止膜形成用の電離放射線硬化性組成物。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の帯電防止膜形成用の電離放射線硬化性組成物を塗布し硬化させて形成したことを特徴とする帯電防止膜。
【請求項9】
基体上に請求項8に記載の帯電防止膜を具備することを特徴とする構造体。
【請求項10】
前記基体は、樹脂フィルム、樹脂成形体、ディスプレイ画面、光学フィルム、電子装置ケース、電子部品のいずれかであることを特徴とする請求項9に記載の構造体。
【請求項11】
前記基体の表面と前記帯電防止膜の間、および/または、前記帯電防止膜上にアンカー層、ハードコート層、ガスバリア層、反射防止層、撥水層の少なくとも1種を備えることを特徴とする請求項9または請求項10に記載の構造体。

【公開番号】特開2006−45424(P2006−45424A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−230858(P2004−230858)
【出願日】平成16年8月6日(2004.8.6)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】