説明

常時噛合式の車両用変速機

【課題】変速中に駆動力が遮断されることを抑制できる車両用変速機を提供する。
【解決手段】自動変速機18の複数の変速ギヤ対36毎に設けられた動力断続装置38はそれぞれ、カウンタギヤ48からカウンタ軸34への方向にのみ動力伝達可能な第1ワンウェイクラッチ50と第1ドグクラッチ52とが直列に連結された第1伝達経路54と、カウンタ軸34からカウンタギヤ48への方向にのみ動力伝達可能な第2ワンウェイクラッチ56と第2ドグクラッチ58とが直列に連結された第2伝達経路60とを、カウンタギヤ48とカウンタ軸34との間に並列に備えている。これにより、自動変速機18の変速前のギヤ段を成立させる第1ドグクラッチ52又は第2ドグクラッチ58の解放作動の後に変速後のギヤ段を成立させる第1ドグクラッチ52又は第2ドグクラッチ58の噛合作動が行われることが無いので、変速中に駆動力が遮断されることを抑制できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、常時噛合式の車両用変速機の変速段を切り換える技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
動力伝達経路の一部に並列に設けられた2つのクラッチの一方を解放させるとともに他方を係合させることにより自動変速を行う常時噛合式の車両用変速機が、よく知られている。これは、一般にDCT(Dual Clutch Transmission)と称されるものであり、例えば、特許文献1の自動変速機がそれである。
【0003】
その特許文献1の自動変速機は、ギヤ比が異なる複数の変速ギヤ対の何れか一のギヤ対が動力伝達可能にされることにより変速段が成立する変速機である。そして、その自動変速機は、エンジントルクを、エンジンに連結された第1入力軸、上記複数の変速ギヤ対から選択された一のギヤ対、出力軸という順に伝達する第1動力伝達経路と、エンジントルクを、上記第1入力軸、第2入力軸、上記第1動力伝達経路を構成するギヤ対とは異なる上記複数の変速ギヤ対から選択された一のギヤ対、出力軸という順に伝達する第2動力伝達経路とを相互に独立に備えている。また、前記複数の変速ギヤ対毎に設けられた同期噛合装置の1つが係合されることにより、その複数の変速ギヤ対から選択された一のギヤ対が動力伝達可能になる。また、前記第1動力伝達経路には、係合されることにより前記第1入力軸と前記選択された一のギヤ対との間を動力伝達可能にする第1入力クラッチが設けられており、前記第2動力伝達経路には、係合されることにより前記第1入力軸と前記第2入力軸との間を動力伝達可能にする第2入力クラッチが設けられている。
【0004】
この自動変速機の変速について説明すると、例えば、その変速前の変速段で前記第1入力クラッチが係合され前記第2入力クラッチが解放されている場合には、その変速後の変速段を成立させる前記第2動力伝達経路の前記ギヤ対に設けられた前記同期噛合装置を変速前に予め係合させておき、上記第1入力クラッチを解放させるとともに上記第2入力クラッチを係合させるクラッチツウクラッチ変速が行われる。逆に、前記変速前の変速段で前記第1入力クラッチが解放され前記第2入力クラッチが係合されている場合には、その変速後の変速段を成立させる前記第1動力伝達経路の前記ギヤ対に設けられた前記同期噛合装置を変速前に予め係合させておき、上記第2入力クラッチを解放させるとともに上記第1入力クラッチを係合させるクラッチツウクラッチ変速が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−336735号公報
【特許文献2】特開2007−177925号公報
【特許文献3】特開2006−525479号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以下のような、未公知の課題が考えられる。特許文献1の自動変速機では、クラッチツウクラッチ変速が行われるので、変速時の駆動力の落込みを抑えることが可能ではあるが、変速ショックを抑え十分な走行品質を確保するためには、上記クラッチツウクラッチ変速の高精度な適合が必要になる。また、同一の動力伝達経路上の別のギヤ対への変速は、上記クラッチツウクラッチ変速が行えない。
【0007】
また、上記特許文献1の自動変速機とは異なる構造の自動変速機も種々知られている。例えば、通常の常時噛合式の手動変速機の変速動作を油圧シリンダで行う自動変速機が知られている。この自動変速機の変速では、クラッチの解放、変速ギヤの噛合い変更、クラッチの係合という工程を順に経るので、変速中にある程度時間にわたって駆動力伝達の遮断が発生する。
【0008】
また、特許文献3に開示されているように、ドグクラッチの噛合い部位の形状を特殊なものとし、無負荷のドグクラッチは機械的に係合できない機構を備えた変速機が知られている。これについて概略を説明する図を図9として示している。
【0009】
図9は、駆動輪に連結された出力軸と、ドグクラッチを有する変速前後の低速側ギヤ(Loギヤ)及び高速側ギヤ(Hiギヤ)との係合状態を模式的に表した図である。この図9は、出力軸を径方向から見てそれを平面に展開した展開図であり、図9の縦方向が上記出力軸、Loギヤ、及びHiギヤの周方向に相当し、図9の横方向がその出力軸、Loギヤ、及びHiギヤの軸方向に相当する。また、図9の上向きの矢印NL、NOUT、NHはそれぞれ、Loギヤ、出力軸、Hiギヤの回転速度の大きさ及び方向を表している。
【0010】
図9(a)は、特許文献3の変速機のパワーオンアップシフトが行われる場合のドグクラッチの係合状態を表している。パワーオンアップシフトとは、Loギヤから出力軸への動力伝達が、Hiギヤから出力軸への動力伝達に切り換わる変速である。図9(a)によれば、矢印(1)で示すように、Hiギヤのドグクラッチの噛合歯は相互に噛み合い係合する。その結果、Loギヤの回転速度NLが出力軸の回転速度NOUTに対して低くなり、矢印(2)で示すように、Loギヤのドグクラッチの噛合歯は相互に弾き合うため噛み合うことができず非係合となる。このように、Hiギヤが出力軸を駆動するように切り換えられてパワーオンアップシフトは成立する。
【0011】
図9(b)は、前記変速機のパワーオフダウンシフトが行われる場合のドグクラッチの係合状態を表している。パワーオフダウンシフトとは、出力軸からHiギヤへの動力伝達が、出力軸からLoギヤへの動力伝達に切り換わる変速である。図9(b)によれば、矢印(1)で示すように、Loギヤのドグクラッチの噛合歯は相互に噛み合い係合する。その結果、Hiギヤの回転速度NHが出力軸の回転速度NOUTに対して高くなり、矢印(2)で示すように、Hiギヤのドグクラッチの噛合歯は相互に弾き合うため噛み合うことができず非係合となる。このように、出力軸がLoギヤを駆動するように切り換えられてパワーオフダウンシフトは成立する。
【0012】
図9(c)は、前記変速機のパワーオフアップシフトが行われる場合のドグクラッチの係合状態を表している。パワーオフアップシフトとは、出力軸からLoギヤへの動力伝達が、出力軸からHiギヤへの動力伝達に切り換わる変速である。図9(c)によれば、矢印(2)で示すように、Loギヤのドグクラッチの噛合歯は相互に噛み合って係合したままとなる一方で、矢印(1)で示すように、Hiギヤの回転速度NHが出力軸の回転速度NOUTに対して高いのでHiギヤのドグクラッチの噛合歯は相互に弾き合うため噛み合うことができず非係合のままとなる。従って、前記変速機のパワーオフアップシフトでは出力軸がHiギヤを駆動するように切り換えられるべきところそのようにはならず、そのパワーオフアップシフトは成立しない。
【0013】
図9(d)は、前記変速機のパワーオンダウンシフトが行われる場合のドグクラッチの係合状態を表している。パワーオンダウンシフトとは、Hiギヤから出力軸への動力伝達が、Loギヤから出力軸への動力伝達に切り換わる変速である。図9(d)によれば、矢印(2)で示すように、Hiギヤのドグクラッチの噛合歯は相互に噛み合って係合したままとなる一方で、矢印(1)で示すように、Loギヤの回転速度NHが出力軸の回転速度NOUTに対して低いのでLoギヤのドグクラッチの噛合歯は相互に弾き合うため噛み合うことができず非係合のままとなる。従って、前記変速機のパワーオンダウンシフトではLoギヤが出力軸を駆動するように切り換えられるべきところそのようにはならず、そのパワーオンダウンシフトは成立しない。
【0014】
図9(a)〜(d)を用いて説明したように、未公知のこととして、前記特許文献3の変速機では、パワーオンアップシフトとパワーオフダウンシフトは成立するが、パワーオフアップシフトとパワーオンダウンシフトとは成立しないものと考えられる。
【0015】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、変速中に駆動力が遮断されることを抑制できる車両用変速機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記目的を達成するための本発明の要旨とするところは、(a)第1動力伝達軸と、第2動力伝達軸と、相互に噛み合うギヤの一方がその第1動力伝達軸に相対回転不能に設けられて他方が動力断続装置を介してその第2動力伝達軸に設けられたギヤ比が異なる複数のギヤ対とを備え、その複数のギヤ対毎に設けられた前記動力断続装置が択一的に動力伝達可能になることにより変速段が切り換わる常時噛合式の車両用変速機であって、(b)各々の前記動力断続装置は、前記ギヤ対の他方のギヤから前記第2動力伝達軸への方向にのみ動力伝達可能な第1ワンウェイクラッチと噛合いにより動力伝達可能になる第1ドグクラッチとが直列に連結された第1伝達経路と、上記第2動力伝達軸から前記他方のギヤへの方向にのみ動力伝達可能な第2ワンウェイクラッチと噛合いにより動力伝達可能になる第2ドグクラッチとが直列に連結された第2伝達経路とを、前記他方のギヤと前記第2動力伝達軸との間に並列に備えていることにある。
【発明の効果】
【0017】
このようにすれば、クラッチツウクラッチ変速が行われることが無く、更に、前記車両用変速機の変速前の変速段を成立させる前記第1ドグクラッチ又は第2ドグクラッチの解放作動の後に変速後の変速段を成立させる上記第1ドグクラッチ又は第2ドグクラッチの噛合作動が行われることも無いので、上記車両用変速機の変速中に駆動力が遮断されることや落ち込むことを抑制できる。また、本発明に係る車両用変速機が、例えば、前記第1ドグクラッチ及び第2ドグクラッチの解放作動と係合作動とを油圧アクチュエータなどにより自動で行う自動変速機であった場合には、その変速制御において、前記クラッチツウクラッチ変速が実行されるわけではないので、変速ショックを抑えるための高精度な適合が必要とはされない。
【0018】
ここで、前記車両用変速機は手動変速機として使用することが可能であるが、好適には、変速段を自動的に切り換える自動変速機として使用される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明が適用された車両用駆動装置の概略構成を説明する骨子図である。
【図2】図1の車両用駆動装置に備えられた自動変速機の構成及び作動を説明するためそれを断面図示した該略図である。
【図3】図2の自動変速機に備えられた第1ワンウェイクラッチの作動を説明するために第1外側リング及び第1内側リングの一部を軸方向に見た図である。
【図4】図2の自動変速機に上記第1ワンウェイクラッチと並列に備えられた第2ワンウェイクラッチの作動を説明するために第2外側リング及び第2内側リングの一部を軸方向に見た図である。
【図5】図2の自動変速機において、上記第1ワンウェイクラッチ及び第2ワンウェイクラッチの特性から、第1ドグクラッチもしくは第2ドグクラッチが噛合状態であっても動力伝達が遮断される場合を各ギヤ段について説明するための図である。
【図6】図2の自動変速機において、各ギヤ段ごとの第1ワンウェイクラッチ(駆動方向OWC)に直列に連結された第1ドグクラッチの噛合い又は解放を示した係合表である。
【図7】図2の自動変速機において、各ギヤ段ごとの第2ワンウェイクラッチ(被駆動方向OWC)に直列に連結された第2ドグクラッチの噛合い又は解放を示した係合表である。
【図8】図2の自動変速機において、第1速から第2速へのパワーオンアップシフトが行われる例を説明するための図である。
【図9】従来技術の一例を説明する図であって、駆動輪に連結された出力軸と、ドグクラッチを有する変速前後の低速側ギヤ(Loギヤ)及び高速側ギヤ(Hiギヤ)との係合状態を模式的に表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。
【実施例】
【0021】
図1は、本発明が適用された車両用駆動装置10(以下、「駆動装置10」という)の概略構成を説明する骨子図である。その駆動装置10は、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)車両用のものであり、走行用駆動力源としてのエンジン14と、自動クラッチ16と、前進3段変速の常時噛合式の車両用変速機である自動変速機18と、差動歯車装置20とを備えている。
【0022】
図1において、エンジン14からの駆動力(トルク)は、図示しないトーショナルダンパを備えた自動クラッチ16、自動変速機18、差動歯車装置20、および左右一対の車軸22を介して左右一対の駆動輪(前輪)24へ伝達される。
【0023】
自動クラッチ16は、例えば、油圧制御により解放作動及び係合作動が行われる乾式単板式の摩擦クラッチである。自動クラッチ16は、それが係合されることにより自動変速機18の入力軸32とエンジン14の出力軸とを相互に連結する一方で、それが解放されることにより自動変速機18の入力軸32とエンジン14の出力軸とを相互に切り離し動力伝達を遮断する。例えば、自動クラッチ16は、エンジン14の駆動中に停車した場合に解放される。また、自動クラッチ16は、自動変速機18の変速中にエンジン14の出力トルクTE(以下、「エンジントルクTE」という)を上記入力軸32に伝達しても差し支えないので、その変速中には係合されたまま解放されない。
【0024】
図2は、自動変速機18の構成及び作動を説明するためそれを断面図示した該略図である。自動変速機18は、車体に固定された非回転部材であるギヤケース30(図1参照)内に、自動クラッチ16を介してエンジン14の駆動力が直接伝達される入力軸32と、その入力軸32に平行に配設された自動変速機18の出力軸に相当するカウンタ軸34と、ギヤ比ρが相互に異なる複数の変速ギヤ対36、すなわち、第1速ギヤ対36a、第2速ギヤ対36b、及び第3速ギヤ対36c(特に区別しない場合には「変速ギヤ対36」という)と、その複数の変速ギヤ対36毎に設けられた動力断続装置38a,38b,38c(特に区別しない場合には「動力断続装置38」という)とを備えている。そして、自動変速機18の変速段(ギヤ段)は、上記動力断続装置38a,38b,38cが択一的に動力伝達可能になることにより切り換わる。なお、入力軸32は本発明の第1動力伝達軸に対応し、カウンタ軸34は本発明の第2動力伝達軸に対応する。
【0025】
カウンタ軸34は、差動歯車装置20のデフリングギヤ40(図1参照)と相互に噛み合うデフドライブギヤ42(図1参照)と一体に連結されており、カウンタ軸34からの駆動力はそのデフドライブギヤ42を介して差動歯車装置20に伝達される。
【0026】
第1速ギヤ対36aは、自動変速機18の最も低車速側の前進ギヤ段である第1速ギヤ段を成立させるギヤ対であり、相互に噛み合う一方のギヤである第1速入力ギヤ46aと他方のギヤである第1速カウンタギヤ48aとから構成されている。第1速入力ギヤ46aは、入力軸32にそれと同軸に設けられており、具体的には、入力軸32にスプライン嵌合などにより相対回転不能且つ軸方向の相対移動不能に支持されている。第1速カウンタギヤ48aは、カウンタ軸34にそれと同軸に第1速用動力断続装置38aを介して設けられており、具体的には、カウンタ軸34に軸方向の相対移動不能に支持されている。
【0027】
第2速ギヤ対36bは自動変速機18の前記第1速ギヤ段より高車速側の前進ギヤ段である第2速ギヤ段を成立させるギヤ対であり、第3速ギヤ対36cは自動変速機18の上記第2速ギヤ段より高車速側の前進ギヤ段すなわち最も高車速側の前進ギヤ段である第3速ギヤ段を成立させるギヤ対である。その第2速ギヤ対36bおよび第3速ギヤ対36cの構成は上述した第1速ギヤ対36aと同様である。つまり、第2速ギヤ対36bは第2速入力ギヤ46bと第2速カウンタギヤ48bとから構成され、第3速ギヤ対36cは第3速入力ギヤ46cと第3速カウンタギヤ48cとから構成されている。そして、カウンタ軸34と第2速カウンタギヤ48bとの間に第2速用動力断続装置38bが介装され、カウンタ軸34と第3速カウンタギヤ48cとの間に第3速用動力断続装置38cが介装されている。なお、以下の説明では、第1速、第2速、第3速入力ギヤ46a,46b,46cを特に区別しない場合には単に「入力ギヤ46」と表し、第1速、第2速、第3速カウンタギヤ48a,48b,48cを特に区別しない場合には単に「カウンタギヤ48」と表す。
【0028】
前記複数の変速ギヤ対36は相互にギヤ比ρ(=カウンタギヤ48の歯数/入力ギヤ46の歯数)が異なるが、具体的には、第1速ギヤ対36aのギヤ比ρ1は第2速ギヤ対36bのギヤ比ρ2よりも大きく、第2速ギヤ対36bのギヤ比ρ2は第3速ギヤ対36cのギヤ比ρ3よりも大きい。
【0029】
動力断続装置38a,38b,38cは、連結されるカウンタギヤ48が異なる以外は何れも同じ構造である。動力断続装置38は、カウンタ軸34にそれと同軸に支持された第1ワンウェイクラッチ50と第1ドグクラッチ52とが直列に連結された第1伝達経路54と、カウンタ軸34にそれと同軸に支持された第2ワンウェイクラッチ56と第2ドグクラッチ58とが直列に連結された第2伝達経路60とを、カウンタギヤ48とカウンタ軸34との間に動力伝達経路として並列に備えている。換言すれば、動力断続装置38は、第1伝達経路54を有する第1伝達機構と第2伝達経路60を有する第2伝達機構とを並列に備えている。本実施例の自動変速機18では、その自動変速制御において、各動力断続装置38a,38b,38cの第1ドグクラッチ52及び第2ドグクラッチ58はそれぞれに対応して設けられた油圧アクチュエータにより、車両に設けられた電子制御装置からの制御信号に基づいて個々に独立して噛合作動させられ或いは解放作動させられる。
【0030】
第1ワンウェイクラッチ50は、カウンタ軸34からカウンタギヤ48への方向の動力伝達を遮断する一方でカウンタギヤ48からカウンタ軸34への方向にのみ動力伝達可能な一般的に知られたワンウェイクラッチ(OWC)である。その第1ワンウェイクラッチ50は、カウンタ軸34と同一軸心を有する第1外側リング64及びそれの内周側に配設された第1内側リング66と、その第1外側リング64と第1内側リング66との間に周方向に複数設けられた第1ローラ68とを備えている。そして、第1外側リング64はカウンタギヤ48の内周穴に嵌め入れられカウンタギヤ48に固定されており、第1内側リング66はカウンタ軸34に相対回転可能且つ軸方向の相対移動不能に支持されている。
【0031】
図3は、第1ワンウェイクラッチ50の作動を説明するために第1外側リング64及び第1内側リング66の一部を軸方向に見た図である。この図3では、その第1外側リング64及び第1内側リング66の一部は本来的には円弧状に図示されるところ、簡略化して、直線状に図示している。
【0032】
例えば、図3に示すように、入力軸32の回転速度Nin(以下、「入力軸回転速度Nin」という)とギヤ比ρとから下記式(1)により算出されるカウンタギヤ48の回転速度Ngout(以下、「カウンタギヤ回転速度Ngout」という)がカウンタ軸34の回転速度Nout(以下、「カウンタ軸回転速度Nout」という)よりも大きい場合すなわち下記式(2)の関係にある場合に、第1ドグクラッチ52が解放状態から噛合状態へと切り換われば、第1ワンウェイクラッチ50は、第1外側リング64と第1内側リング66とが第1ローラ68を介して互いに係合されることにより、入力軸32からの駆動力(トルク)をカウンタ軸34へ伝達する。その一方で、第1ワンウェイクラッチ50は、カウンタギヤ回転速度Ngoutがカウンタ軸回転速度Noutよりも小さくなれば、第1ドグクラッチ52が噛合状態であっても駆動力(トルク)の伝達を遮断する。このように、第1ワンウェイクラッチ50は、車両の駆動方向にのみトルク伝達をする駆動方向ワンウェイクラッチ(駆動方向OWC)として機能する。なお、以下の説明において、カウンタギヤ回転速度Ngoutを各カウンタギヤ48a,48b,48cで区別して表す場合には、第1速カウンタギヤ48aの回転速度(第1速カウンタギヤ回転速度)を「N1gout」と表し、第2速カウンタギヤ48bの回転速度(第2速カウンタギヤ回転速度)を「N2gout」と表し、第3速カウンタギヤ48cの回転速度(第3速カウンタギヤ回転速度)を「N3gout」と表すものとする。また、カウンタ軸34は自動変速機18の出力軸に相当するので、カウンタ軸回転速度Noutを出力軸回転速度Noutと称してもよい。
Ngout=Nin/ρ ・・・(1)
Ngout>Nout ・・・(2)
【0033】
図2に戻り、第1ドグクラッチ52は、噛合いにより動力伝達可能になる一般的に知られたドグクラッチであり、カウンタ軸34と同一軸心を有して配設されている。その第1ドグクラッチ52は、各々が相互に噛み合うドグ歯を有する可動側ドグリング70及び固定側ドグリング72を備えている。その可動側ドグリング70はスプライン嵌合などによりカウンタ軸34に相対回転不能且つ軸方向の相対移動可能に支持されており、固定側ドグリング72は前記第1内側リング66に一体として固定されて、その第1内側リング66と共に、カウンタ軸34に相対回転可能且つ軸方向の相対移動不能に支持されている。従って、第1内側リング66は、第1ドグクラッチ52の噛合いにより、すなわち、可動側ドグリング70と固定側ドグリング72とが相互に噛合うことにより、カウンタ軸34に対し相対回転不能になって一体として回転する一方で、第1ドグクラッチ52の解放により、カウンタ軸34に対し相対回転可能になる。
【0034】
第2ワンウェイクラッチ56は、カウンタギヤ48からカウンタ軸34への方向の動力伝達を遮断する一方でカウンタ軸34からカウンタギヤ48への方向にのみ動力伝達可能な一般的に知られたワンウェイクラッチ(OWC)である。その第2ワンウェイクラッチ56は、カウンタ軸34と同一軸心を有する第2外側リング74及びそれの内周側に配設された第2内側リング76と、その第2外側リング74と第2内側リング76との間に周方向に複数設けられた第2ローラ78とを備えている。そして、第2外側リング74はカウンタギヤ48の内周穴に嵌め入れられカウンタギヤ48に固定されており、第2内側リング76はカウンタ軸34に相対回転可能且つ軸方向の相対移動不能に支持されている。なお、本実施例では、カウンタギヤ48に固定されている第1外側リング64及び第2外側リング74は一体の部品となっている。
【0035】
図4は、第2ワンウェイクラッチ56の作動を説明するために第2外側リング74及び第2内側リング76の一部を軸方向に見た図である。この図4でも、図3と同様に簡略化して、上記第2外側リング74及び第2内側リング76の一部を直線状に図示している。
【0036】
例えば、図4に示すように、カウンタギヤ回転速度Ngoutがカウンタ軸回転速度Noutよりも小さい場合すなわち下記式(3)の関係にある場合に、第2ドグクラッチ58が解放状態から噛合状態へと切り換われば、第2ワンウェイクラッチ56は、第2外側リング74と第2内側リング76とが第2ローラ78を介して互いに係合されることにより、カウンタ軸34からの駆動力(トルク)を入力軸32へ伝達する。その一方で、第2ワンウェイクラッチ56は、カウンタ軸回転速度Noutがカウンタギヤ回転速度Ngoutよりも小さくなれば、第2ドグクラッチ58が噛合状態であっても駆動力(トルク)の伝達を遮断する。このように、第2ワンウェイクラッチ56は、エンジンブレーキ時など車両の被駆動方向にのみトルク伝達をする被駆動方向ワンウェイクラッチ(被駆動方向OWC)として機能する。
Ngout<Nout ・・・(3)
【0037】
図2に戻り、第2ドグクラッチ58は、第1ドグクラッチ52と同じ構造で、噛合いにより動力伝達可能になる一般的に知られたドグクラッチであり、カウンタ軸34と同一軸心を有して配設されている。その第2ドグクラッチ58は、各々が相互に噛み合うドグ歯を有する可動側ドグリング80及び固定側ドグリング82を備えている。その可動側ドグリング80はスプライン嵌合などによりカウンタ軸34に相対回転不能且つ軸方向の相対移動可能に支持されており、固定側ドグリング82は前記第2内側リング76に一体として固定されて、その第2内側リング76と共に、カウンタ軸34に相対回転可能且つ軸方向の相対移動不能に支持されている。従って、第2内側リング76は、第2ドグクラッチ58の噛合いにより、すなわち、可動側ドグリング80と固定側ドグリング82とが相互に噛合うことにより、カウンタ軸34に対し相対回転不能になって一体として回転する一方で、第2ドグクラッチ58の解放により、カウンタ軸34に対し相対回転可能になる。
【0038】
なお、図2では、見やすく図示するため、前述したものの符号52、54、58〜82を第1速用動力断続装置38aについてのみ表示し、第2速用動力断続装置38b及び第3速用動力断続装置38cについては、その表示を敢えて省略している。
【0039】
図5は、図3及び図4を用いて説明した第1ワンウェイクラッチ50及び第2ワンウェイクラッチ56の特性から、第1ドグクラッチ52もしくは第2ドグクラッチ58が噛合状態であっても動力伝達が遮断される場合を各ギヤ段について説明するための図である。
【0040】
図5の実線は、自動変速機18の各ギヤ段が成立しているときの第1速カウンタギヤ回転速度N1gout(=Nin/ρ1)、第2速カウンタギヤ回転速度N2gout(=Nin/ρ2)、及び、第3速カウンタギヤ回転速度N3gout(=Nin/ρ3)を表している。従って、図5に示すように、自動変速機18の第1速ギヤ段では、第1速カウンタギヤ回転速度N1goutはカウンタ軸回転速度(出力軸回転速度)Noutと同一にあり、第2速カウンタギヤ回転速度N2gout及び第3速カウンタギヤ回転速度N3goutは何れもカウンタ軸回転速度Noutよりも大きい。また、第2速ギヤ段では、第2速カウンタギヤ回転速度N2goutはカウンタ軸回転速度Noutと同一にあり、第1速カウンタギヤ回転速度N1goutはカウンタ軸回転速度Noutよりも小さく、第3速カウンタギヤ回転速度N3goutはカウンタ軸回転速度Noutよりも大きい。また、第3速ギヤ段では、第3速カウンタギヤ回転速度N3goutはカウンタ軸回転速度Noutと同一にあり、第1速カウンタギヤ回転速度N1gout及び第2速カウンタギヤ回転速度N2goutは何れもカウンタ軸回転速度Noutよりも小さい。
【0041】
このように、各ギヤ段において、図5の二点鎖線A1で囲んで示したカウンタギヤ回転速度Ngoutはカウンタ軸回転速度Noutよりも大きいので、その二点鎖線A1で囲まれた範囲に対応するカウンタギヤ48とカウンタ軸34との間に設けられた第2ワンウェイクラッチ56、すなわち、現在成立しているギヤ段よりも高車速側ギヤ段用のカウンタギヤ48とカウンタ軸34との間に設けられた第2ワンウェイクラッチ56は、それと直列に連結された第2ドグクラッチ58が噛合状態(係合状態)になったとしてもスリップして駆動力(トルク)を伝達しない、すなわち、その第2ドグクラッチ58の噛合い(係合)を無効にする。
【0042】
その一方で、各ギヤ段において、図5の二点鎖線A2で囲んで示したカウンタギヤ回転速度Ngoutはカウンタ軸回転速度Noutよりも小さいので、その二点鎖線A2で囲まれた範囲に対応するカウンタギヤ48とカウンタ軸34との間に設けられた第1ワンウェイクラッチ50、すなわち、現在成立しているギヤ段よりも低車速側ギヤ段用のカウンタギヤ48とカウンタ軸34との間に設けられた第1ワンウェイクラッチ50は、それと直列に連結された第1ドグクラッチ52が噛合状態(係合状態)になったとしてもスリップして駆動力(トルク)を伝達しない、すなわち、その第1ドグクラッチ52の噛合い(係合)を無効にする。
【0043】
このような第1ワンウェイクラッチ50及び第2ワンウェイクラッチ56の特性から、図6及び図7に示す係合表が成立する。その図6は、自動変速機18の各ギヤ段ごとの第1ワンウェイクラッチ(駆動方向OWC)50に直列に連結された第1ドグクラッチ52の噛合い又は解放を示した係合表である。また、図7は、自動変速機18の各ギヤ段ごとの第2ワンウェイクラッチ(被駆動方向OWC)56に直列に連結された第2ドグクラッチ58の噛合い又は解放を示した係合表である。なお、図6の○、(○)、×は、第1ドグクラッチ52の係合、解放でも係合でもよいこと、解放をそれぞれ示しており、また、図7の○、(○)、×は、第2ドグクラッチ58の係合、解放でも係合でもよいこと、解放をそれぞれ示している。
【0044】
先ず、図6に関して説明する。入力軸32からカウンタ軸34への駆動力伝達(駆動方向伝達)では、第1ドグクラッチ52が噛合状態にある動力断続装置38に対応するギヤ段の中で最も高車速側のギヤ段用の第1ワンウェイクラッチ50が有効になり駆動力を伝達する。従って、自動変速機18の第1速ギヤ段を成立させる場合には、図6の第1段目に示すように、第1速用動力断続装置38aの第1ドグクラッチ52は噛合状態(係合状態)にされる一方で、第2速用動力断続装置38b及び第3速用動力断続装置38cの第1ドグクラッチ52は解放状態にされる。また、自動変速機18の第2速ギヤ段を成立させる場合には、図6の第2段目に示すように、第2速用動力断続装置38bの第1ドグクラッチ52は噛合状態(係合状態)にされる一方で第3速用動力断続装置38cの第1ドグクラッチ52は解放状態にされ、第1速用動力断続装置38aの第1ドグクラッチ52は噛合状態と解放状態との何れでもよい。また、自動変速機18の第3速ギヤ段を成立させる場合には、図6の第3段目に示すように、第3速用動力断続装置38cの第1ドグクラッチ52は噛合状態(係合状態)にされ、第1速用動力断続装置38a及び第2速用動力断続装置38bの第1ドグクラッチ52は噛合状態と解放状態との何れでもよい。
【0045】
図6の係合表から、例えば、前記駆動方向伝達の場合の自動変速機18の変速制御では、自動変速機18の成立させるギヤ段用の動力断続装置38の第1ドグクラッチ52を噛み合わせ、その成立させるギヤ段よりも低車速側のギヤ段用の動力断続装置38の第1ドグクラッチ52を噛み合わせてもよい。
【0046】
次に、図7に関して説明する。カウンタ軸34から入力軸32への駆動力伝達(被駆動方向伝達)では、第2ドグクラッチ58が噛合状態にある動力断続装置38に対応するギヤ段の中で最も低車速側のギヤ段用の第2ワンウェイクラッチ56が有効になり駆動力を伝達する。従って、自動変速機18の第1速ギヤ段を成立させる場合には、図7の第1段目に示すように、第1速用動力断続装置38aの第2ドグクラッチ58は噛合状態(係合状態)にされ、第2速用動力断続装置38b及び第3速用動力断続装置38cの第2ドグクラッチ58は噛合状態と解放状態との何れでもよい。また、自動変速機18の第2速ギヤ段を成立させる場合には、図7の第2段目に示すように、第2速用動力断続装置38bの第2ドグクラッチ58は噛合状態(係合状態)にされる一方で第1速用動力断続装置38aの第2ドグクラッチ58は解放状態にされ、第3速用動力断続装置38cの第2ドグクラッチ58は噛合状態と解放状態との何れでもよい。また、自動変速機18の第3速ギヤ段を成立させる場合には、図7の第3段目に示すように、第3速用動力断続装置38cの第2ドグクラッチ58は噛合状態(係合状態)にされる一方で、第1速用動力断続装置38a及び第2速用動力断続装置38bの第2ドグクラッチ58は解放状態にされる。
【0047】
図7の係合表から、例えば、前記被駆動方向伝達の場合の自動変速機18の変速制御では、自動変速機18の成立させるギヤ段用の動力断続装置38の第2ドグクラッチ58を噛み合わせ、その成立させるギヤ段よりも高車速側のギヤ段用の動力断続装置38の第2ドグクラッチ58を噛み合わせてもよい。
【0048】
前記図6及び図7の係合表から判るように、自動変速機18の各第1ドグクラッチ52及び第2ドグクラッチ58が噛み合わされ或いは解放されることにより、自動変速機18は、入力軸32とカウンタ軸34との間での駆動力伝達を遮断するニュートラル状態(中立状態)、前記駆動方向伝達のみ行う状態、前記被駆動方向伝達のみ行う状態、及び、その駆動方向伝達と被駆動方向伝達との両方を行う両方向伝達状態の4つの状態を選択的に形成できる。例えば、自動変速機18は、全ての第1ドグクラッチ52及び第2ドグクラッチ58が解放されれば上記ニュートラル状態になり、現在のギヤ段用の第1ドグクラッチ52だけが噛み合わされれば上記駆動方向伝達のみ行う状態になり、現在のギヤ段用の第2ドグクラッチ58だけが噛み合わされれば上記被駆動方向伝達のみ行う状態になり、現在のギヤ段用の第1ドグクラッチ52及び第2ドグクラッチ58が各々噛み合わされれば上記両方向伝達状態になる。なお、確認的に述べるが、図6及び図7の係合表は、前記駆動方向伝達および前記被駆動方向伝達の何れの場合にも適用される。
【0049】
自動変速機18の変速作動である、パワーオンアップシフト、パワーオンダウンシフト、パワーオフアップシフト、及び、パワーオフダウンシフトの変速作動について説明する。
【0050】
自動変速機18のパワーオンアップシフトとは、入力軸32からカウンタ軸34へ駆動力(トルク)が伝達されている状態でギヤ段が高車速側へ切り換えられる変速である。このパワーオンアップシフトでは、常時またはアップシフト前に、変速前ギヤ段よりも高車速側のギヤ段用の動力断続装置38の第2ドグクラッチ58を噛合状態にしておく。要するに、少なくとも変速後ギヤ段用の動力断続装置38の第2ドグクラッチ58を噛合状態にしておくということである。また、変速後ギヤ段よりも低車速側のギヤ段用の動力断続装置38の第2ドグクラッチ58を解放しておく。そして、上記駆動力が伝達されている状態で、変速後ギヤ段用の動力断続装置38の第1ドグクラッチ52を噛み合わせる。このように、その変速後ギヤ段用の第1ドグクラッチ52を噛み合わることによりパワーオンアップシフトが行われるので、そのアップシフト中に変速前ギヤ段用の第1ドグクラッチ52を解放させる必要が無く、駆動力伝達の遮断が生じない。
【0051】
自動変速機18のパワーオンダウンシフトについて説明する。自動変速機18のパワーオンダウンシフトとは、入力軸32からカウンタ軸34へ駆動力が伝達されている状態でギヤ段が低車速側へ切り換えられる変速である。このパワーオンダウンシフトでは、常時またはダウンシフト前に、変速前ギヤ段よりも低車速側のギヤ段用の動力断続装置38の第1ドグクラッチ52を噛合状態にしておく。要するに、少なくとも変速後ギヤ段用の動力断続装置38の第1ドグクラッチ52を噛合状態にしておくということである。そして、上記駆動力が伝達されている状態で、変速前ギヤ段用の動力断続装置38の第1ドグクラッチ52を解放させる。この第1ドグクラッチ52の解放により上記パワーオンダウンシフトが行われる。なお、好適には、上記パワーオンダウンシフトでは、変速前ギヤ段用の第1ドグクラッチ52の解放後に、変速後ギヤ段用の第2ドグクラッチ58を噛合状態にする。これにより、例えば、上記パワーオンダウンシフトの後に駆動力の伝達方向がカウンタ軸34から入力軸32への被駆動方向に切り替わった場合に、自動変速機18がアップシフトすることを防止できるからである。
【0052】
自動変速機18のパワーオフアップシフトについて説明する。自動変速機18のパワーオフアップシフトとは、カウンタ軸34から入力軸32へ駆動力が伝達されている状態(被駆動状態)でギヤ段が高車速側へ切り換えられる変速である。このパワーオフアップシフトでは、常時またはアップシフト前に、変速前ギヤ段よりも高車速側のギヤ段用の動力断続装置38の第2ドグクラッチ58を噛合状態にしておく。要するに、少なくとも変速後ギヤ段用の動力断続装置38の第2ドグクラッチ58を噛合状態にしておくということである。そして、上記被駆動状態で、変速前ギヤ段用の動力断続装置38の第2ドグクラッチ58を解放させる。この第2ドグクラッチ58の解放により上記パワーオフアップシフトが行われる。なお、好適には、上記パワーオフアップシフトでは、変速前ギヤ段用の第2ドグクラッチ58の解放後に、変速後ギヤ段用の第1ドグクラッチ52を噛合状態にする。これにより、例えば、上記パワーオフアップシフトの後に駆動力の伝達方向が入力軸32からカウンタ軸34への駆動方向に切り替わった場合に、自動変速機18がダウンシフトすることを防止できるからである。
【0053】
自動変速機18のパワーオフダウンシフトについて説明する。自動変速機18のパワーオフダウンシフトとは、カウンタ軸34から入力軸32へ駆動力が伝達されている状態(被駆動状態)でギヤ段が低車速側へ切り換えられる変速である。このパワーオフダウンシフトでは、常時またはダウンシフト前に、変速前ギヤ段よりも低車速側のギヤ段用の動力断続装置38の第1ドグクラッチ52を噛合状態にしておく。要するに、少なくとも変速後ギヤ段用の動力断続装置38の第1ドグクラッチ52を噛合状態にしておくということである。また、変速後ギヤ段よりも高車速側のギヤ段用の動力断続装置38の第1ドグクラッチ52を解放しておく。そして、上記被駆動状態で、変速後ギヤ段用の動力断続装置38の第2ドグクラッチ58を噛み合わせる。このように、その変速後ギヤ段用の第2ドグクラッチ58を噛み合わることによりパワーオフダウンシフトが行われるので、そのダウンシフト中に変速前ギヤ段用の第2ドグクラッチ58を解放させる必要が無く、上記被駆動状態での駆動力伝達の遮断が生じない。
【0054】
このように、自動変速機18の各変速作動は行われるところ、一例として第1速から第2速へのパワーオンアップシフトを図8を用いて説明する。図8は、自動変速機18の第1速から第2速へのパワーオンアップシフトが行われる例を説明するための図である。この図8は、カウンタ軸34を径方向から見て各部品を平面に展開した模式図であり、図8の縦方向がカウンタ軸34の周方向に相当し、図8の横方向がカウンタ軸34の軸方向に相当する。また、図8の上向きの太い矢印はそれぞれ、カウンタ軸回転速度Nout、第1速カウンタギヤ回転速度N1gout、第2速カウンタギヤ回転速度N2goutの大きさ及び方向を表している。
【0055】
自動変速機18の変速前の第1速ギヤ段では、第1速用動力断続装置38aの第1ドグクラッチ52及び第2ドグクラッチ58は何れも噛合状態にされており、第2速用動力断続装置38bの第1ドグクラッチ52は解放状態にされている一方でそれの第2ドグクラッチ58は噛合状態にされている。このとき、入力軸32からの駆動力は、図8の矢印AR1のように、専ら第1速用動力断続装置38aの第1ワンウェイクラッチ50によりカウンタ軸34へ伝達され、第2速用動力断続装置38bの第2ワンウェイクラッチ56はスリップ状態にある。そして、カウンタ軸回転速度Noutと第1速カウンタギヤ回転速度N1goutとは互いに同一の回転速度であり、第2速カウンタギヤ回転速度N2goutはカウンタ軸回転速度Noutよりも大きい。
【0056】
第1速から第2速へのパワーオンアップシフトでは、第1速用動力断続装置38aの第1ドグクラッチ52は噛合状態のままそれの第2ドグクラッチ58だけが噛合状態から解放状態へと切り換えられる。そして、第2速用動力断続装置38bの第2ドグクラッチ58は噛合状態のままそれの第1ドグクラッチ52が解放状態から噛合状態へと切り換えられる。これにより、入力軸32からカウンタ軸34への動力伝達経路は、図8の矢印AR1から矢印AR2に示すように切り換えられ、第1速から第2速へのパワーオンアップシフトが完了する。すなわち、自動変速機18の変速後の第2速ギヤ段では、入力軸32からの駆動力は、図8の矢印AR2のように、専ら第2速用動力断続装置38bの第1ワンウェイクラッチ50によりカウンタ軸34へ伝達されるようになり、第1速用動力断続装置38aの第1ワンウェイクラッチ50はスリップ状態になる。そして、第2速ギヤ段では、カウンタ軸回転速度Noutと第2速カウンタギヤ回転速度N2goutとは互いに同一の回転速度になり、第1速カウンタギヤ回転速度N1goutはカウンタ軸回転速度Noutよりも小さくなる。
【0057】
本実施例によれば、自動変速機18の各ギヤ段に対応する複数の変速ギヤ対36a,36b,36c毎に設けられた動力断続装置38a,38b,38cはそれぞれ、カウンタギヤ48からカウンタ軸34への方向にのみ動力伝達可能な第1ワンウェイクラッチ50と第1ドグクラッチ52とが直列に連結された第1伝達経路54と、カウンタ軸34からカウンタギヤ48への方向にのみ動力伝達可能な第2ワンウェイクラッチ56と第2ドグクラッチ58とが直列に連結された第2伝達経路60とを、カウンタギヤ48とカウンタ軸34との間に動力伝達経路として並列に備えている。このような構成により、クラッチツウクラッチ変速が行われることが無く、更に、自動変速機18の変速前のギヤ段を成立させる第1ドグクラッチ52又は第2ドグクラッチ58の解放作動の後に変速後のギヤ段を成立させる第1ドグクラッチ52又は第2ドグクラッチ58の噛合作動が行われることも無いので、自動変速機18の変速中に駆動力が遮断されることや落ち込むことを抑制できる。
【0058】
また、本実施例によれば、自動変速機18の自動変速制御において、解放側の摩擦係合装置及び係合側の摩擦係合装置のトルク容量を管理しながらその両者の摩擦係合装置を繋ぎ換えるクラッチツウクラッチ変速に関する制御をする必要がないので、上記自動変速機18の自動変速制御における制御ロジックを簡素化でき、変速ショックを抑えるための高精度な適合が必要とはされない。
【0059】
また、本実施例によれば、図6及び図7に示すように、第1ドグクラッチ52及び第2ドグクラッチ58のうち動力伝達方向が相互に同一の変速前ギヤ段用のドグクラッチと変速後ギヤ段用のドグクラッチとが同時に噛み合わされても、その一方のドグクラッチと直列に連結された第1ワンウェイクラッチ50又は第2ワンウェイクラッチ56がスリップ状態になるので、自動変速機18の変速時にタイアップ状態及び前記ニュートラル状態を発生させないドグクラッチ(係合要素)の切替パターンを実現できる。
【0060】
また、本実施例によれば、第1速から第3速への変速、または、第3速から第1速への変速等の任意のギヤ段への飛び変速を実現できる。
【0061】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これはあくまでも一実施形態であり、本発明は他の態様で実施することも可能である。
【0062】
例えば、前述の実施例おいては、自動変速機18は、第1、第2ワンウェイクラッチ50、56及び第1、第2ドグクラッチ52、58の組合せを有することで、前記ニュートラル状態、前記駆動方向伝達のみ行う状態、前記被駆動方向伝達のみ行う状態、及び、前記両方向伝達状態の4つの状態を選択的に形成できるが、自動変速機18は、ワンウェイクラッチ及びドグクラッチの組合せ以外の機構を有することにより上記4つの状態を選択的に形成できるものであっても差し支えない。
【0063】
また、前述の実施例おいて、自動変速機18は、自動的にギヤ段の切り換わる自動変速機であるが、変速レバーの操作などにより手動でギヤ段の切り換わる手動変速機であってもよい。
【0064】
また、前述の実施例おいて、第1ドグクラッチ52及び第2ドグクラッチ58は、ドグクラッチ以外の形式のクラッチ(係合装置)に置き換えられても差し支えない。例えば、摩擦クラッチ、電磁クラッチなどである。
【0065】
また、前述の実施例おいて、動力断続装置38は、カウンタ軸34に設けられているが、カウンタ軸34ではなく入力軸32に設けられていても差し支えない。
【0066】
また、前述の実施例おいて、自動変速機18は前進3段変速の変速機であるが、3段変速でなく、2段でも4段以上であってもよい。また、自動変速機18は後進変速段を備えていてもいなくてもよい。
【0067】
また、前述の実施例において、前記走行用駆動力源であるエンジン12としては、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関であるエンジンが広く用いられる。更に、補助的な走行用動力源として、電動機等がエンジン12に加えて用いられてもよい。或いは、走行用動力源として電動機のみが用いられてもよい。
【0068】
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0069】
18:自動変速機(車両用変速機)
32:入力軸(第1動力伝達軸)
34:カウンタ軸(第2動力伝達軸)
36a:第1速ギヤ対(ギヤ対)
36b:第2速ギヤ対(ギヤ対)
36c:第3速ギヤ対(ギヤ対)
38a:第1速用動力断続装置(動力断続装置)
38b:第2速用動力断続装置(動力断続装置)
38c:第3速用動力断続装置(動力断続装置)
50:第1ワンウェイクラッチ
52:第1ドグクラッチ
54:第1伝達経路
56:第2ワンウェイクラッチ
58:第2ドグクラッチ
60:第2伝達経路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1動力伝達軸と、第2動力伝達軸と、相互に噛み合うギヤの一方が該第1動力伝達軸に相対回転不能に設けられて他方が動力断続装置を介して該第2動力伝達軸に設けられたギヤ比が異なる複数のギヤ対とを備え、該複数のギヤ対毎に設けられた前記動力断続装置が択一的に動力伝達可能になることにより変速段が切り換わる常時噛合式の車両用変速機であって、
各々の前記動力断続装置は、前記ギヤ対の他方のギヤから前記第2動力伝達軸への方向にのみ動力伝達可能な第1ワンウェイクラッチと噛合いにより動力伝達可能になる第1ドグクラッチとが直列に連結された第1伝達経路と、前記第2動力伝達軸から前記他方のギヤへの方向にのみ動力伝達可能な第2ワンウェイクラッチと噛合いにより動力伝達可能になる第2ドグクラッチとが直列に連結された第2伝達経路とを、前記他方のギヤと前記第2動力伝達軸との間に並列に備えている
ことを特徴とする常時噛合式の車両用変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−249303(P2010−249303A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−102467(P2009−102467)
【出願日】平成21年4月20日(2009.4.20)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】