説明

常温乾燥型溶剤系ソフトフィール塗料用材料、これを用いた塗料及び塗膜

【課題】通常の塗装方法や膜厚であってもソフトな触感が得られる常温乾燥型溶剤系ソフトフィール塗料用材料、これを用いた塗料及び塗膜を提供すること。
【解決手段】環状分子と直鎖状分子と封鎖基とを有し、直鎖状分子や環状分子が疎水性を有する親油性ポリロタキサンから成る常温乾燥型溶剤系ソフトフィール塗料用材料である。環状分子の包接量は0.06〜0.61である。直鎖状分子の分子量は1,000〜100,000である。
常温乾燥型溶剤系下塗り塗料用材料を用いた常温乾燥型溶剤系ソフトフィール塗料である。
常温乾燥型溶剤系下塗り塗料を固化して成る溶剤系ソフトフィール塗膜である。
被塗物に、常温乾燥型溶剤系ソフトフィール塗膜を順次形成した積層塗膜である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、常温乾燥型溶剤系ソフトフィール塗料用材料、これを用いた塗料及び塗膜に係り、更に詳細には、主として、自動車の内装;屋内・屋外における樹脂成型品;階段、床、家具等の木工製品等に適用できる常温乾燥型溶剤系ソフトフィール塗料用材料、これを用いた塗料及び塗膜に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、手に触れる頻度の高い製品、例えば、パワーウインドウフィニッシャー、オーディオスイッチ等の自動車の内装部品、眼鏡ケース等には表面処理が施され、ソフト感が付与されている(例えば、特許文献1参照。)。
また、欧州車にはソフトフィールペイントが多く使われており、最近では日本でも適用が増大しつつある。
【特許文献1】特開平2−174976号公報
【0003】
これらの表面処理に用いられる塗装には、2液ウレタン塗料が主に用いられており、溶剤系と水系が知られている(例えば、特許文献2,3参照。)。
かかる塗装では、爪、指輪等が擦れたときに付く傷や汗による剥がれや化粧品による剥がれ等が発生しないように、下塗りを施し密着性を向上させたり、ソフトフィールペイントを厚膜化したり、焼付け温度を高くしたり、焼付け時間を長くしたりすること等により薬品等の浸透を抑制する対応が行われている。
【特許文献2】特公平6−63816号公報
【特許文献3】特公平6−43572号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような対応のためにコストアップだけでなく生産性も低下していた。
【0005】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、通常の塗装方法や膜厚であってもソフトな触感が得られる常温乾燥型溶剤系ソフトフィール塗料用材料、これを用いた塗料及び塗膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、直鎖状分子や環状分子が疎水性である親油性ポリロタキサンを用いることにより、上記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明の常温乾燥型溶剤系ソフトフィール塗料用材料は、環状分子と、この環状分子を串刺し状に包接する直鎖状分子と、この直鎖状分子の両末端に配置され上記環状分子の脱離を防止する封鎖基を有し、上記直鎖状分子及び環状分子の少なくとも一方が疎水性を有する親油性ポリロタキサンから成ることを特徴とする。
【0008】
また、本発明の常温乾燥型溶剤系ソフトフィール塗料は、本発明の塗料用材料、即ち上記親油性ポリロタキサンを、望ましくは質量比で、塗膜形成成分に対して30〜80%含有することを特徴とする。
【0009】
更に、本発明のソフトフィール塗膜は、本発明の上記常温乾燥型溶剤系ソフトフィール塗料を固化して成ることを特徴とする。
【0010】
更にまた、本発明の積層塗膜は、被塗物に、常温乾燥型溶剤系ソフトフィール塗料を用いた塗膜を形成して成ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、直鎖状分子や環状分子が疎水性である親油性ポリロタキサンを用いることとしたため、通常の塗装方法や膜厚であってもソフトな触感が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の常温乾燥型溶剤系ソフトフィール塗料用材料、これを用いた塗料及び塗膜について詳細に説明する。なお、本明細書において、「%」は特記しない限り質量百分率を表すものとする。
【0013】
上記したように、本発明の常温乾燥型溶剤系ソフトフィール塗料用材料は、溶剤に溶解する常温乾燥型に変性された親油性ポリロタキサンから成るものである。
また、本発明の常温乾燥型溶剤系ソフトフィール塗料は、上記材料、即ち親油性ポリロタキサンを含有するものである。
【0014】
図1は、疎水性修飾ポリロタキサンを概念的に示す模式図である。
同図において、この疎水性修飾ポリロタキサン1は、直鎖状分子2と、環状分子であるシクロデキストリン3と、直鎖状分子2の両末端に配置された封鎖基4を有し、直鎖状分子2は環状分子3の開口部を貫通して環状分子3を包接している。
そして、シクロデキストリン3は、疎水性修飾基3aを有している。
【0015】
このような親油性ポリロタキサンを用いることにより、疎水性溶剤に混和しうるソフトフィール塗料用材料が得られる。また、塗料に適用するときはソフト感を有する塗膜が得られる。
なお、「ソフトフィール塗料」とは、ゴムタッチ、スエード調などの柔らかな触感が得られる塗料を示す。
【0016】
本発明においては、上記環状分子2及び直鎖状分子3の一方又は両方が疎水性を有し、全体として親油性を示す親油性ポリロタキサン、代表的には環状分子2が水酸基を有し、これら環状分子の水酸基の全部又は一部が疎水性の修飾基で修飾された親油性ポリロタキサンを使用するようにしており、当該ポリロタキサンは、後述する溶剤に可溶なものとなり、溶剤系塗料の成分として配合することができるようになる。
なお、このような親油性ポリロタキサンから成る本発明のソフトフィール塗料用材料と他のポリマーを混合すると、ファンデルワールス力などによる擬似架橋を生じ、両者が組成物ないしは化合物として挙動しているものと考えられる。この場合、少なくとも上記ポリロタキサンは、上述の滑車効果を発揮しているものと思われる。
【0017】
本発明において、疎水性を示す修飾基は、疎水基又は疎水基と親水基を有し、全体として疎水性であればよい。
かかる疎水基としては、例えば、アルキル基、ベンジル基(ベンゼン環)及びベンゼン誘導体含有基、アシル基、シリル基、トリチル基、硝酸エステル基、トシル基などがある。
かかる親水基としては、例えば、カルボキシル基、スルホン酸基、硫酸エステル基、リン酸エステル基、アミノ基(一級〜三級)、四級アンモニウム塩基、ヒドロキシアルキル基などがある。
【0018】
上記親油性ポリロタキサンにおける環状分子としては、上述の如き直鎖状分子に包接されて滑環効果を奏するものである限り、特に限定されるものではなく、種々の環状物質を挙げることができる。なお、環状分子としては、水酸基を有するものが多い。
また、環状分子は実質的に環状であれば十分であって、「C」字状のように、必ずしも完全な閉環である必要はない。
【0019】
更に、環状分子としては、反応基を有するものが好ましく、これによって上記した疎水性修飾基などとの結合が行い易くなる。
このような反応基としては、例えば水酸基、カルボキシル基、アミノ基、エポキシ基、イソシアネート基、チオール基、アルデヒド基などを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。なお、反応基としては、後述する封鎖基を形成する(ブロック化反応)際に、この封鎖基と反応しない基が好ましい。
【0020】
また、本発明に用いる上記親油性ポリロタキサンにおける上記環状分子の疎水性修飾基による修飾度については、環状分子の有する水酸基が修飾され得る最大数を1とするとき、0.02以上であることが好ましく、0.04以上であることがより好ましく、0.06以上であることが更に好ましい。
即ち、上記修飾度が0.02未満であると、溶剤への溶解性が十分なものとならず、不溶性ブツ(異物付着などに由来する突出部)が生成することがある。
【0021】
なお、環状分子の水酸基が修飾され得る最大数とは、修飾する前に環状分子が有していた全水酸基数を意味する。また、修飾度とは、換言すれば、修飾された水酸基数の全水酸基数に対する比のことである。
【0022】
更に、上記ポリロタキサンが多数の環状分子を有する場合、これら環状分子それぞれの水酸基の全部又は一部が疎水性修飾基によって修飾されている必要はない。言い換えると、ポリロタキサン全体として親油性を示す限り、疎水性修飾基によって修飾されていない水酸基を有する環状分子が部分的に存在したとしても何ら差し支えない。
【0023】
上記疎水性修飾基の導入方法としては、以下の方法を採用できる。
例えば、ポリロタキサンの環状分子としてシクロデキストリンを用い、当該シクロデキストリンの水酸基に、ヘキサメチレンジイソシアネート、PEG‐monostearateよりなるイソシアネート化PEG‐monostearateを反応させる。このときのイソシアネート化PEG‐monostearateの添加量を変更することで修飾率を任意に制御できる。
【0024】
上記親油性ポリロタキサンにおいて、直鎖状分子に包接される環状分子の個数(包接量)については、直鎖状分子が環状分子を包接し得る最大包接量を1とするとき、0.06〜0.61が好ましく、0.11〜0.48が更に好ましく、0.24〜0.41がいっそう好ましい。
即ち、この比が0.06未満では滑車効果が不十分となって塗膜の伸び率が低下し、ソフト感が不十分となることがある。0.61を超えると、環状分子が密に配置され過ぎて環状分子の可動性が低下し、同様に塗膜の伸び率が低下し、ソフト感が不十分となる傾向がある。
【0025】
また、環状分子の包接量は、以下のようにして制御することができる。
例えば、DMF(ジメチルホルムアミド)に、BOP試薬(ベンゾトリアゾール−1−イル−オキシ−トリス(ジメチルアミノ)ホスホニウム・ヘキサフルオロフォスフェート)、HOBt、アダマンタンアミン、ジイソプロピルエチルアミンを、この順番で添加し溶液とする。一方、DMF/DMSO(ジメチルスルホキシド)混合溶媒に、直鎖状分子に環状分子が串刺された包接錯体を分散させた溶液を得る。これら両者を混合し、このときのDMF/DMSOの混合比率を変更することで、環状分子の包接量を任意に制御できる。なお、DMF/DMSO比が高いほど環状分子の包接量は大きくなる。
【0026】
上記環状分子の具体例としては、種々のシクロデキストリン類、例えばα−シクロデキストリン(グルコース数:6個)、β−シクロデキストリン(グルコース数:7個)、γ−シクロデキストリン(グルコース数:8個)、ジメチルシクロデキストリン、グルコシルシクロデキストリン及びこれらの誘導体又は変性体、並びにクラウンエーテル類、ベンゾクラウン類、ジベンゾクラウン類、ジシクロヘキサノクラウン類及びこれらの誘導体又は変性体を挙げることができる。
【0027】
上述のシクロデキストリン等の環状分子は、その1種を単独、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
なお、上記した種々の環状分子の中では、特にα−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリンが良好であり、とりわけ、被包接性の観点からはα−シクロデキストリンを使用することが好ましい。
【0028】
一方、直鎖状分子は、実質的に直鎖であればよく、回転子である環状分子が回動可能で滑車効果を発揮できるように包接できる限り、分岐鎖を有していてもよい。
また、環状分子の大きさにも影響を受けるが、その長さについても、環状分子が滑車効果を発揮できる限り特に限定されない。
【0029】
なお、直鎖状分子としては、その両末端に反応基を有するものが好ましく、これにより、上記封鎖基と容易に反応させることができるようになる。
かかる反応基としては、採用する封鎖基の種類などに応じて適宜変更することができるが、水酸基、アミノ基、カルボキシル基及びチオール基などを例示することができる。
【0030】
このような直鎖状分子としては、特に限定されるものではなく、ポリアルキレン類、ポリカプロラクトンなどのポリエステル類、ポリエチレングリコールなどのポリエーテル類、ポリアミド類、ポリアクリル類及びベンゼン環を有する直鎖状分子を挙げることができる。
これら直鎖状分子のうち、特にポリエチレングリコール、ポリカプロラクトンが良好であり、水や溶剤への溶解性の観点からはポリエチレングリコールを用いることが好ましい。
【0031】
また、上記直鎖状分子の分子量としては、1,000〜100,000とすることが望ましく、10,000〜60,000が好ましく、更には30,000〜50,000の範囲であることが好ましい。
即ち、直鎖状分子の分子量が1,000未満では、滑車効果が低下することで塗膜の伸び率が低下し、ソフト感が不十分となることがある。100,000を超えると、塗装性が低下し、塗装後に平滑性などの外観が低下することがある。
【0032】
他方、上記封鎖基は、上記のような直鎖状分子の両末端に配置されて、環状分子が直鎖状分子によって串刺し状に貫通された状態を保持できる基でさえあれば、どのような基であっても差し支えない。
このような基としては、「嵩高さ」を有する基又は「イオン性」を有する基などを挙げることができる。なお、ここで「基」とは、分子基及び高分子基を含む種々の基を意味する。
【0033】
「嵩高さ」を有する基としては、球形をなすものや、側壁状の基を例示することができる。
また、「イオン性」を有する基のイオン性と、環状分子の有するイオン性とが相互に影響を及ぼし合い、例えば反発し合うことにより、環状分子が直鎖状分子に串刺しにされた状態を保持することができる。
【0034】
このような封鎖基の具体例としては、2,4−ジニトロフェニル基、3,5−ジニトロフェニル基などのジニトロフェニル基類、シクロデキストリン類、アダマンタン基類、トリチル基類、フルオレセイン類及びピレン類、並びにこれらの誘導体又は変性体を挙げることができる。
【0035】
ここで、本発明に用いる親油性ポリロタキサンの製造方法について説明する。
上述の如き、親油性ポリロタキサンは、
(1)環状分子と直鎖状分子とを混合し、環状分子の開口部を直鎖状分子で串刺し状に貫通して直鎖状分子に環状分子を包接させる工程と、
(2)得られた擬ポリロタキサンの両末端(直鎖状分子の両末端)を封鎖基で封鎖して、環状分子が串刺し状態から脱離しないように調製する工程と、
(3)得られたポリロタキサンの環状分子の水酸基を疎水性修飾基で修飾する工程、
によって処理することにより得られる。
【0036】
なお、上記(1)工程において、環状分子が有する水酸基をあらかじめ疎水性修飾基で修飾したものを用いることによっても、親油性ポリロタキサンを得ることができ、その場合には、上記(3)工程を省略することができる。
【0037】
以上のような製造方法によって、各種溶剤への溶解性に優れた親油性ポリロタキサンが得られる。
かかる溶剤としては、特に限定されるものではないが、イソプロピルアルコールやブチルアルコールなどのアルコール類、酢酸エチルや酢酸ブチルなどのエステル類、メチルエチルケトンやメチルイソブチルケトンなどのケトン類、ジエチルエーテルやジオキサンなどのエーテル類、トルエンやキシレンなどの炭化水素溶剤などを挙げることができ、該親油性ポリロタキサンは、これらの2種以上を混合した溶媒についても良好な溶解性を示す。
【0038】
なお、本発明においては、有機系溶剤に可溶である限りにおいて親油性ポリロタキサンが擬似架橋又は架橋しているものであってもよく、かかる親油性架橋ポリロタキサンを、非架橋の親油性ポリロタキサンの代わりに又はこれに混合して用いることができる。
このような親油性架橋ポリロタキサンとしては、比較的低分子量のポリマー、代表的には分子量が数千程度のポリマーと架橋した親油性ポリロタキサンを挙げることができる。
【0039】
本発明の常温乾燥型溶剤系ソフトフィール塗料は、上記常温乾燥型溶剤系ソフトフィール塗料用材料、即ち上述した親油性ポリロタキサンを含有するものであって、このときの含有量としては、塗膜形成成分(樹脂固形分など)に対して質量換算で30〜80%含まれることが好ましい。より好ましくは40〜80%であり、特に好ましくは50〜70%であることがよい。
即ち、親油性ポリロタキサンの塗膜形成成分に対する含有量が30%に満たない場合には、ポリロタキサンの滑車効果が十分に得られず、塗膜の伸び率が低下して塗膜の伸び率が低下し、ソフト感が不十分となることがある。80%を超えると、粘着感が生じ、塗装性が低下することがある。
【0040】
本発明の常温乾燥型溶剤系ソフトフィール塗料は、上述の親油性ポリロタキサンを既存の常温乾燥型溶剤系ソフトフィール塗料、例えば、アクリル系ラッカーやセルロース系ラッカー、ウレタン樹脂塗料などに、望ましくは上記含有量となるように配合することによって得られる。
言い換えれば、本発明の常温乾燥型溶剤系ソフトフィール塗料用材料、即ち親油性ポリロタキサンに、樹脂成分、添加剤、顔料、光輝剤又は溶媒、及びこれらを任意に組合わせたものを、常法に基づいて配合し、混合することができる。
【0041】
上記樹脂成分としては、特に限定されるものではないが、主鎖又は側鎖に水酸基、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、ビニル基、チオール基又は光架橋基、及びこれらの任意の組合せに係る基を有するものが好ましい。
なお、光架橋基としては、ケイ皮酸、クマリン、カルコン、アントラセン、スチリルピリジン、スチリルピリジニウム塩及びスチリルキノリン塩などを例示できる。
【0042】
また、2種以上の樹脂成分を混合使用してもよいが、この場合、少なくとも1種の樹脂成分が環状分子を介してポリロタキサンと結合していることがよい。
更に、かかる樹脂成分は、ホモポリマーでもコポリマーでもよい。コポリマーの場合、2種以上のモノマーから構成されるものでもよく、ブロックコポリマー、交互コポリマー、ランダムコポリマー又はグラフトコポリマーのいずれであってもよい。
【0043】
具体例としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ(メタ)アクリル酸、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース系樹脂、ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリビニルメチルエーテル、ポリアミン、ポリエチレンイミン、カゼイン、ゼラチン、澱粉及びこれらの共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン及び他のオレフィン系単量体との共重合樹脂などのポリオレフィン系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスチレンやアクリロニトリル−スチレン共重合樹脂などのポリスチレン系樹脂、ポリメチルメタクリレートや(メタ)アクリル酸エステル共重合体、アクリロニトリル−メチルアクリレート共重合体などのアクリル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂、ポリビニルブチラール樹脂及びこれらの誘導体又は変性体、ポリイソブチレン、ポリテトラヒドロフラン、ポリアニリン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、ナイロン(登録商標)などのポリアミド類、ポリイミド類、ポリイソプレン、ポリブタジエンなどのポリジエン類、ポリジメチルシロキサンなどのポリシロキサン類、ポリスルホン類、ポリイミン類、ポリ無水酢酸類、ポリ尿素類、ポリスルフィド類、ポリフォスファゼン類、ポリケトン類、ポリフェニレン類、ポリハロオレフィン類、及びこれらの誘導体を挙げることができる。
誘導体としては、上述した水酸基、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、ビニル基、チオール基又は光架橋基及びこれらの組合せに係る基を有するものが好ましい。
【0044】
上記添加剤の具体例としては、分散剤、紫外線吸収剤、光安定化剤、表面調整剤、ワキ防止剤などを用いることができる。
【0045】
上記顔料の具体例としては、アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、ペリレン系顔料等の有機系着色顔料や、カーボンブラック、二酸化チタン、ベンガラ等の無機系着色顔料を用いることができる。
【0046】
上記光輝剤の具体例としては、アルミ顔料、マイカ顔料などを用いることができる。
【0047】
上記溶媒の具体例としては、酢酸エチルや酢酸ブチル、酢酸イソブチルなどのようなエステル類、メチルエチルケトンやメチルイソブチルケトンなどのようなケトン類、ジエチルエーテルやジオキサンなどのようなエーテル類、トルエンやキシレン、ソルベッソなどのような炭化水素溶剤、または疎水性の高い長鎖アルコール類などを用いることができる。 これらは2種以上を適宜混合しても良い。また、水やブチルセロソルブアセテートなどの水系溶剤が若干含まれていても、全体として有機溶剤とみなすことができればよい。
【0048】
更に、上記ソフトフィール塗料は、透明色、着色透明色、エナメル色又は艶消し色とすることができる。
着色透明色とするには、有機系着色顔料、無機系着色顔料及び染料を加えればよい。
エナメル色とするには、有機系着色顔料、無機系着色顔料を加えればよい。
艶消し色とするには、シリカ樹脂や樹脂ビーズ等の艶消し剤を加えればよい。
【0049】
更にまた、上記ソフトフィール塗料は、一般的なソフトフィール塗料原料から形成することができる。
具体的には、アクリル系塗料、メラミン系塗料、ウレタン系塗料、ポリエステル系塗料などに調製すればよい。
また、これらは、一液型であってもよいし、二液型(例えばウレタン樹脂塗料)などでもよい。
【0050】
上記ソフトフィール塗膜の膜厚としては、特に限定されるものではないが、30〜50μm程度が好ましい。
【0051】
次に、本発明の積層塗膜について詳細に説明する。
本発明の積層塗膜は、被塗物に、上述の溶剤系ソフトフィール塗料を用いた塗膜を形成して成る。
【0052】
これにより、良好なソフト感が簡易に得られる。また、上塗り塗膜などの平滑性が良好となるので、積層塗膜が均等に形成できる。
【0053】
上記被塗物としては、代表的には鉄、アルミ、銅などの各種金属材、ポリプロピレン、ポリカーボネートなどの各種有機材、石英、セラミックス(炭化カルシウム他)などの各種無機材が挙げられる。
また、これらに溶剤系ソフトフィール塗料をを被覆する方法としては、公知慣用の方法が採用できる。例えば、はけ塗り法、吹付け法、静電塗装法、電着塗装法、粉体塗装、更にはスパッタ法などが挙げられる。
更に、上記溶剤系ソフトフィール塗料は、代表的には、常温乾燥処理により塗膜とすることができるが、加熱乾燥を行ってもよい。
なお、上記溶剤系ソフトフィール塗料は、被塗物の全体又は一部に被覆できる。
【0054】
上述した本発明の積層塗膜の一例(概略断面)を図2に示す。
この積層塗膜は、下塗り塗膜10とソフトフィール塗膜11が順次設けられている。
なお、「積層塗膜」には、説明の都合上、被塗物に溶剤系ソフトフィール塗料のみを被覆して成る塗膜を含むが、この塗膜は単独層に限定されず、複数層から形成されていてもよい。
【実施例】
【0055】
以下、本発明を実施例に基づいて更に具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されることはない。
【0056】
(実施例1)
1.修飾ポリロタキサンの合成
トルエン中で20gのPEG−monostearate(TCI社製)に、6gのヘキサメチレンジイソシアネートを結合させた後、エーテルによる再結晶で精製した。
得られたイソシアネート化PEG−monostearate15gを、DMSO中に溶かしたポリロタキサン(約500mg)と室温下で一晩反応させた後、エーテルによる再析出で精製し乾燥させた。
【0057】
2.ソフトフィール塗料(エナメル塗料)の調製
得られたポリロタキサンをトルエンで10%になるように溶解した。
一方、300gのブチセロスルブ(エチレングリコールモノブチルエーテル)に200gのCMCAB(EASTMAN CHEMICAL製 CMCAB−641−0.5)を撹拌しながら添加し、水/アミン混合液(水498.09g/ジメチルアミノエタノール1.91g)をCMCAB溶液に注ぎ込み、50%になるように樹脂溶液を調製した。また、この樹脂溶液に顔料を分散させ、エナメル塗料を得た。
【0058】
3.積層塗膜の形成
リン酸亜鉛処理した厚み0.8mm、70mm×150mmのダル鋼板に、カチオン電着塗料(商品名「パワートップU600M」、日本ペイント社製カチオン型電着塗料)を、乾燥膜厚が20μmとなるように電着塗装した後、160℃で30分間焼き付けた。
その後、日本油脂社製のグレーの下塗り(商品名:ハイエピコNo.500)を30μm塗装し、140℃で30分間焼き付けた。
次に、修飾ポリロタキサンを添加したソフトフィール塗料を50μm塗装した。
【0059】
(実施例2〜12、比較例1)
表1に示す仕様とした以外は、実施例1と同様の操作を繰返して、積層塗膜を形成した。
【0060】
得られた積層塗膜について、以下の(1)〜(3)の評価を行った。
【0061】
(1)ソフト感
指触で以下のように判定した。
〇:非常にソフト感がある
△:若干ソフト感がある
×:全くソフト感がない
【0062】
(2)粘着性
2枚の塗板を重ね合わせて、一方の塗板だけを持ち、他方の塗板が落ちるか否かで判断した。
〇:すぐに落下する
△:しばらくすると落下する
×:全く落下しない
【0063】
(3)平滑性
ソフトフィール塗膜の平滑度合いを目視評価した。
〇:かなり平滑
△:若干、凹凸
×:凹凸
【0064】
【表1】

【0065】
表1の結果から明らかなように、本発明に従う実施例1〜8のソフトフィール塗膜は、ポリロタキサンの滑車効果により、ソフト感に優れることが認められた。また、外観も良好であった。
また、実施例9のソフトフィール塗膜のように、直鎖状分子の分子量が1000未満になると、ソフト感が低下することがわかった。実施例10のソフトフィール塗膜のように、100000超になると、粘着性、平滑性が低下することがわかった。
更に、実施例11のソフトフィール塗膜のように、塗料への添加量が30%未満、80%超になると、ソフト感が低下することがわかった。
【0066】
一方、比較例1のように、修飾ポリロタキサンを用いないときは、ソフト感が得られないことがわかった。
【0067】
以上のように、本発明に従えば、特に規定された狭い塗装条件に限定されることなく通常の塗装と同様の作業性で目的の外観が得られ、ソフト感の向上が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】疎水性修飾ポリロタキサンを概念的に示す模式図である。
【図2】本発明の積層塗膜の一例を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0069】
1 疎水性修飾ポリロタキサン
2 直鎖状分子
3 環状分子(シクロデキストリン)
3a 疎水性修飾基
4 封鎖基
10 下塗り塗膜
11 ソフトフィール塗膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状分子と、この環状分子を串刺し状に包接する直鎖状分子と、この直鎖状分子の両末端に配置され上記環状分子の脱離を防止する封鎖基とを有し、該直鎖状分子及び該環状分子の少なくとも一方が疎水性を有する親油性ポリロタキサンから成ることを特徴とする常温乾燥型溶剤系ソフトフィール塗料用材料。
【請求項2】
上記環状分子が水酸基を有し、該水酸基の全部又は一部を親油性の修飾基で修飾したことを特徴とする請求項1に記載の常温乾燥型溶剤系ソフトフィール塗料用材料。
【請求項3】
上記当該環状分子の水酸基が修飾され得る最大数を1とするとき、環状分子の親油性修飾基による修飾度が0.02以上であること特徴とする請求項2に記載の常温乾燥型溶剤系ソフトフィール塗料用材料。
【請求項4】
上記直鎖状分子が環状分子を包接し得る最大包接量を1とするとき、上記環状分子の包接量が0.06〜0.61であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つの項に記載の常温乾燥型溶剤系ソフトフィール塗料用材料。
【請求項5】
上記直鎖状分子の分子量が1,000〜100,000であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つの項に記載の常温乾燥型溶剤系ソフトフィール塗料用材料。
【請求項6】
上記環状分子がα−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン及びγ−シクロデキストリンから成る群より選ばれた少なくとも1種のシクロデキストリンであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つの項に記載の常温乾燥型溶剤系ソフトフィール塗料用材料。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1つの項に記載の常温乾燥型溶剤系ソフトフィール塗料用材料を含有することを特徴とする常温乾燥型溶剤系ソフトフィール塗料。
【請求項8】
塗膜形成成分に対する上記常温乾燥型溶剤系ソフトフィール塗料用材料の含有量が質量比で30〜80%であることを特徴とする請求項7に記載の常温乾燥型溶剤系ソフトフィール塗料。
【請求項9】
上記常温乾燥型溶剤系ソフトフィール塗料用材料に、樹脂成分、添加剤、顔料、光輝剤及び溶媒から成る群から選ばれた少なくとも1種を混合して成ることを特徴とする請求項7又は8に記載の常温乾燥型溶剤系ソフトフィール塗料。
【請求項10】
艶ありソフトフィール塗料又は艶消しソフトフィール塗料であることを特徴とする請求項7〜9のいずれか1つの項に記載の常温乾燥型溶剤系ソフトフィール塗料。
【請求項11】
請求項7〜10のいずれか1つの項に記載の常温乾燥型溶剤系ソフトフィール塗料を固化して成ることを特徴とするソフトフィール塗膜。
【請求項12】
透明色、着色透明色、エナメル色及び艶消し色から成る群より選ばれた少なくとも1種の色彩を有することを特徴とする請求項11に記載の溶剤系ソフトフィール塗膜。
【請求項13】
請求項7〜10のいずれか1つの項に記載の溶剤系ソフトフィール塗料を用いた積層塗膜であって、
被塗物に、該塗料を用いたソフトフィール塗膜を形成して成ることを特徴とする積層塗膜。
【請求項14】
被塗物とソフトフィール塗膜との間に、下塗り塗膜を更に形成したことを特徴とする請求項13に記載の積層塗膜。
【請求項15】
ソフトフィール塗膜上に、上塗り塗膜を更に形成したことを特徴とする請求項13又は14に記載の積層塗膜。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−99995(P2007−99995A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−293837(P2005−293837)
【出願日】平成17年10月6日(2005.10.6)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】