説明

干渉装置

【課題】2段電子線バイプリズム干渉計は1段での電子線バイプリズム干渉計に、飛躍的な自由度の増加を与える光学系であるが、フィラメント電極によって作られる電子線ホログラムの形状の1次元性、さらに干渉領域幅の方向と干渉縞の方位に関しては、1段電子線バイプリズム光学系と同じであった。すなわち、干渉領域幅はフィラメント電極の方向に一致してその長方向が定まり、干渉縞の方位は、干渉領域幅の長方向に一致かつ平行するのみであった。
【解決手段】上、中、下3段電子線バイプリズムを持った構造とするとともに、これら3段電子線バイプリズムのフィラメント電極間のアジムス角Φを操作することにより、干渉領域とその中に形成される干渉縞の方位角θを任意にコントロール可能とすることに加えて、フレネル縞発生の抑制と干渉縞間隔sと干渉縞の方位角θの独立したコントロールを可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子もしくはイオン等の荷電粒子線を光源とし、あるいは光を光源とし、3段のバイプリズムを使用する干渉装置に関する。
【背景技術】
【0002】
本願の発明者らは、2段電子線バイプリズム干渉計を開発し、紹介した(特願2004−004156、特願2004−102530、非特許文献1,2)。この発明は、2つの電子線バイプリズムを光軸上、電子線の進行方向順に、上段を観察試料の像面、下段を上段の陰の部分に配置し、その各々の電子線バイプリズムのフィラメント電極に印加する電圧を変化させることにより、2つの電子波(例えば物体波と参照波)のオーバーラップ領域(干渉領域幅Wに対応)とオーバーラップ角度(干渉縞間隔sに対応)を任意に変化させることが可能となった。さらに、上段電子線バイプリズムを試料の像面に配することにより、電子線バイプリズムを1段で用いた電子線バイプリズム干渉計(例えば、特許文献1)では原理的に除去できなかったホログラムに重畳されるフレネル縞の発生を回避することも可能となった。
【0003】
これに加えて、2段の電子線バイプリズムのフィラメント電極間にアジムス角Φを導入することにより干渉縞の方位角θのコントロールを可能とした発明を提案した(特願2005−027274)。
【0004】
なお、干渉装置には、電子もしくはイオン等の荷電粒子線を光源とする干渉装置あるいは光を光源とする干渉装置があるが、本発明の説明では、電子を光源とする干渉装置に主体を置いて説明する。
【0005】
【特許文献1】特開2002−117800号公報
【非特許文献1】泥ouble-Biprism Electron Interferometory煤CKen Harada, Tetsuya Akashi, Yoshihiko Togawa, Tsuyoshi Matsuda and Akira. Tonomura,Applied Physics Letter: Vol. 84, No. 17, (2004) pp. 3229 3231.
【非特許文献2】滴igh-Resolution Observation by Double-Biprism Electron Holography煤CKen Harada, Tsuyoshi Matsuda, Tetsuya Akashi, Yoshihiko Togawa and Akira. Tonomura,Journal of Applied Physics: Vol. 96, No. 9, (2004) pp. 6097 6102.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本願の発明者らによる、2段電子線バイプリズム干渉計および2段の電子線バイプリズムフィラメント電極間にアジムス角Φを導入した2段電子線バイプリズム干渉計は、1段での電子線バイプリズム干渉計に、飛躍的な自由度の増加を与えるのみならず、電子線ホログラムの干渉縞の方位θに関しても、制御可能となった。そのため、例えば、カーボンナノチューブのような、1方向に伸びた形状の試料の観察においても、試料の長方向を観察することが現実の実験として可能となった。
【0007】
しかし、特願2005−027274の発明では、干渉縞間隔sと干渉縞の方位角θの関係は、特願2005−027274の式(10)に記載のごとく簡単な形にまとめられるものの、独立したコントロールは不可能であった。さらに、2段の電子線バイプリズムのフィラメント電極間にアジムス角Φを導入することに伴い、下段電子線バイプリズムのフィラメント電極が、上段電子線バイプリズムのフィラメント電極の影からはみ出してしまい、フレネル縞の干渉領域への重畳が、わずかではあるが発生するものとなった。
【0008】
このため、簡便な操作で、干渉領域幅Wと干渉縞間隔s、そして干渉縞の方位角θの3つのパラメータの独立したコントロールが可能な干渉計が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、3段の電子線バイプリズムを同時に用いることにより、上記課題を実現する。上側2段の電子線バイプリズムのフィラメント電極を各々試料に対する像面に配置すると共に、電極間にアジムス角Φを与え、両電子線バイプリズムを作用させることに起因して生じる4つの実光源の相対位置をフィラメント電極に電圧を印加することによってxy平面内で操作することにより、干渉縞間隔sと干渉縞の方位角θを任意にコントロール可能とするものである。さらに最下段電子線バイプリズムのフィラメント電極にもアジムス角Φを与えることにより、x方向、y方向に任意の干渉領域幅(W、W)を作成することを可能とする。
【0010】
すなわち3段の電子線バイプリズムを用いることにより、結果的に平行四辺形形状の任意の形状・大きさの干渉領域を作り出し、その中に形成される干渉縞間隔sと干渉縞の方位角θを任意にコントロール可能とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、特願2005−027274の発明においてコントロール可能となった干渉領域幅W、干渉縞間隔s、方位角θに加えて、干渉縞間隔sと方位角θ間の独立コントロール、さらに干渉領域の形状をも任意の干渉領域幅(W、W)のパラメータにてコントロールを可能とするものであり、電子線干渉の取り扱いに新たな自由度を加えるものである。これにより、従来の電子線ホログラフィーでは、像再生時にのみ行なってきた干渉顕微鏡像の干渉縞の間隔s・方位角θの調整が電子顕微鏡内で、電子線により直接可能となり、ホログラム再生等の画像記録後の処理を行なうことなく、任意の干渉条件による干渉顕微鏡像の直接観察・記録が電子光学系にて可能となる。言わば波面分割型干渉計の操作性、性能を振幅分割型干渉計のそれらに匹敵させることができる。
【0012】
さらに特願2005−027274の発明では抑制できなかったフレネル縞の影響を除くことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、3段構成の電子線バイプリズムを使用し、上段と中段の2段の電子線バイプリズムフィラメント電極間のアジムス角Φを操作することにより、干渉領域とその中に形成される干渉縞の方位角θを任意にコントロール可能とする。さらに、これに加えて、下段の電子線バイプリズムフィラメント電極にもアジムス角Φを与えることにより、x方向、y方向に任意の干渉領域幅(W、W)を作成することを可能とする。その結果、平行四辺形形状の任意の干渉領域を作り出すことを可能とするものである。
【0014】
本発明の前提となる上下2段に電子線バイプリズムを持つ干渉計および上下2段の電子線バイプリズムフィラメント電極間のアジムス角Φを操作することについて、まず、説明する。
【0015】
図1は、特願2004−004156の図3で説明された電子線バイプリズムを用いた干渉光学系を示す図である。
【0016】
図1において、1は電子源、2は光軸、3は試料、5は1つもしくは複数のレンズからなる対物レンズ系(図では簡単のため等価な1つのレンズで代表して表している。したがってレンズから電子源までの距離a、レンズから電子源像面までの距離bもこれに対応する距離であり、装置の実際の大きさとは異なる。図1以降の図においても同様である)、7は上段電子線バイプリズム直上の第1電子源像面、11は観察面、12は観察面上の試料の像、13はフイルムあるいはカメラ等の撮像手段である。21および23は物体波および参照波を示す。31は対物レンズ系5による試料の像面、32は対物レンズ系5による試料の像、33は拡大レンズ、35は拡大レンズ33による電子源の像面、9は対物レンズ系による試料の像面31上に設けられた上段電子線バイプリズムのフィラメント電極で、その直径はdである。9は拡大レンズ33による電子源の像面35と観察面11との間に設けられた下段電子線バイプリズムのフィラメント電極で、その直径はdである。また、観察面11上に現れる干渉縞の間隔sと干渉領域幅Wを撮像手段13の下に模式的に表示した。ここで、電子源1は、図では、単一のブロックで示しているが、光源、加速管さらには照射光学系を含むものである。ここで示した電子線バイプリズムは、電界型のものの模式図であり、中央に極細線のフィラメント電極とその電子線が通る遥か外側左右に接地電極を備えた構造をしており、中央のフィラメント電極に電圧を印加して電子線を偏向させる。図1および以後の図では、中央のフィラメント電極の断面または端面は小円で示すものとする。また、電子線バイプリズムの機能に着目した説明では、電子線バイプリズムとのみ表記し、中央のフィラメント電極に着目した説明では電子線バイプリズムのフィラメント電極と表記する。また電子光学系では、電子レンズは通常磁界型の電磁レンズが用いられるため、電子線の経路には光軸に平行な軸を回転中心とした回転が含まれるが、図1では電磁レンズによる電子線の回転を無視し、電子光学系として同一の平面を記載している。以降の光学系を示す図においても同様である。
【0017】
電子源1で発生された電子線は光軸2の一方側に配置された試料3を透過する物体波21と試料3の無い側を透過する参照波23とに分かれる。物体波21と参照波23とを識別しやすいように、物体波21のみにパターン表示を付した。物体波21および参照波23は対物レンズ系5で屈折されて上段電子線バイプリズム直上の電子源像面7で交叉して拡大レンズ33の方に進む。物体波21および参照波23は対物レンズ系5による試料の像面31上で試料像32を形成するとともに、像面31上で上段電子線バイプリズムの位置を通過する。上段電子線バイプリズムのフィラメント電極9に印加される電圧Vuによる偏向で物体波21および参照波23の両電子線は互いに光軸2に向かわせられる。その結果、拡大レンズ33の下流側において、分離(スプリット)した2つの実電子源像26および28を形成する。さらに物体波21および参照波23の両電子線は、下段電子線バイプリズムのフィラメント電極9に印加される電圧Vより偏向され、仮想的な電子源像25および27を構成するに至る。Yは上段電子線バイプリズムのフィラメント電極9による電子源像の光軸からのスプリット距離、Yは下段電子線バイプリズムのフィラメント電極9による仮想的な電子源像の実電子源像26からのスプリット距離であり、式(1)、(2)の様に表される。ここで、aは第1電子源像面7と拡大レンズ33との距離、bは拡大レンズ33と第2の電子源像面35との距離、αは電子線バイプリズム電極9による電子線の偏向角度、bobjは第1像面31と対物レンズ系5との距離、bは対物レンズ系5と第1電子源像面7との距離、Dは第1電子源像面7と第1像面31との距離、αは下段電子線バイプリズム電極9による電子線の偏向角度、bは拡大レンズ33と観察面11との距離、bは拡大レンズ33と第2の電子源像面35との距離、Lは下段電子線バイプリズム電極9と観察面11との距離、Dは第2の電子源像面35と観察面11との距離である。
【0018】
【数1】

【0019】
【数2】

【0020】
観察面11は上段電子線バイプリズムのフィラメント電極9の像面であるため、上段電子線バイプリズムでの偏向作用は像形成に関係なく、波面のオーバーラップは生じない。しかし、電子線への偏向は実として行なわれているため、実電子源像のスプリット26,28が生じている。これは下段電子線バイプリズムのフィラメント電極9による仮想的な電子源像のスプリット25,27と本質的に同じものである。
【0021】
図1に示す構成で、両電子線バイプリズム9、9を同時に作用させた場合の試料面へ逆投影した干渉縞は式(3)、(4)の様に表される。なお、MObjは対物レンズ系5による試料3に対する倍率、Mは拡大レンズ33による試料像32に対する倍率である。図1ならびにその説明においては便宜上拡大を示しているが、レンズ、及びレンズ系の用い方に応じて縮小の場合を含む、任意の倍率変更を意図するものである。以下の説明においてもこれは同様である。また、試料面へ逆投影した干渉縞の干渉縞間隔sと干渉領域幅Wは下付きの添え字Objを付して表すものとする。ここで、aは拡大レンズ33と電子線バイプリズム電極9との距離、aobjは試料3と対物レンズ系5との距離、λは電子源1の電子線の波長である。
【0022】
【数3】

【0023】
【数4】

【0024】
式(3)、(4)は干渉領域幅WObjが上段電子線バイプリズムによる偏向角度αに依存しないことを意味しており、このことが、干渉縞間隔sObjと干渉領域幅WObjの独立したコントロールを可能にする。すなわち、
(1)下段電子線バイプリズム→干渉領域幅WObjを定める。
(2)上段電子線バイプリズム→干渉縞間隔sObjを調整する。
という手順で独立操作が可能となる。
【0025】
さらに、下段電子線バイプリズムのフィラメント電極9が拡大レンズ33による電子源の像面35の位置に置かれている(D−L=0)場合を考えてみると、この場合には式(3)により干渉縞間隔sObjは下段電子線バイプリズムによる偏向角度αに依存しない。すなわちこの光学条件では、干渉縞間隔sObjと干渉領域幅WObjに関して両バイプリズムを用いることにより完全に独立なコントロールが可能となる。
【0026】
特願2004−004156の発明により、干渉縞間隔sObjと干渉領域幅WObjを独立にコントロールできる電子線干渉装置は実現できた。しかしながら、発明が解決しようとする課題で述べたように、フィラメント電極によって作られる電子線ホログラムの形状の1次元性、さらに干渉領域幅Wの方向と干渉縞の方位に関しては、1段電子線バイプリズム光学系と同じであるため、干渉領域幅Wはフィラメント電極の方向に一致してその長方向が定まり、干渉縞の方位は、干渉領域幅Wの長方向に一致かつ平行するのみであった。
【0027】
特願2005−027274の発明では、上下2段電子線バイプリズムを持った構造とするとともに、これら上下2段の電子線バイプリズムフィラメント電極間のアジムス角Φを操作することにより、干渉領域とその中に形成される干渉縞の方位角θを任意にコントロール可能とする。以下、具体的に説明する。
【0028】
図2は特願2005−027274の図2で説明された上下2段の電子線バイプリズムフィラメント電極間のアジムス角Φを操作して得られる干渉縞の形成を説明する概念図で、上下2段の電子線バイプリズムフィラメント電極間のアジムス角Φを分かりやすく示すために立体構造として表示したものである。図3は、図2で説明した特願2005−027274の発明による上下2段の電子線バイプリズムフィラメント電極9、9間のアジムス角Φを操作する構成の光学系を図1に対応する表示形式で示す模式図である。下段電子線バイプリズムのフィラメント電極9を横長に描くことによって、上段電子線バイプリズムのフィラメント電極9との間にアジムス角Φがあることを示している。
【0029】
図2では上段電子線バイプリズムのフィラメント電極9をX軸と一致させている。また、図2および図3で、図1に示す構成要素と対応するものには、同じ参照符号を付した。なお、図2において破線で示す楕円は、それぞれの位置における一つの波面の位置を模視的に示すものである。また、破線で示す四角は第2の電子源像面35を模視的に示すものである。
【0030】
上下2段の電子線バイプリズムフィラメント電極9、9の間のアジムス角Φと、得られる干渉縞の方位角θとの関係は、光学系の配置によって変化すること、上段電子線バイプリズムのフィラメント電極への印加電圧によっても変化することが幾何光学より導かれる。特願2005−027274の発明による光学系の諸関係式を式(5)、式(6)、式(7)に示す。いずれも試料面上へ投影した関係を示している。各式中の文字は、図1−図3および前述までに記載されているとおりである。
【0031】
【数5】

【0032】
【数6】

【0033】
【数7】

【0034】
これらの式より、特願2004−004156で説明した干渉領域幅Wと干渉縞間隔sに関する完全独立光学系の場合、すなわち、下段電子線バイプリズムのフィラメント電極9が光源の像面35に存在する場合(D−L=0の場合)、ホログラムに記録される干渉縞の方位角θは、下段電子線バイプリズムのフィラメント電極のアジムス角Φによらずゼロとなることが導かれる。このことは、逆に言えば、この条件の場合には、2段電子線バイプリズムのフィラメント電極間のアジムス角度調整に精度はあまり重要ではないということを意味している。
【0035】
(実施例1)
図4は、本発明の上、中、下段の3段の電子線バイプリズムを持つ干渉装置の実施例1の光学系を示す摸式図である。各3段の電子線バイプリズムのフィラメント電極間のアジムス角Φ、Φを分かりやすく示すために立体構造として表示したものであり、得られる干渉縞の形成を説明する概念図である。図2と対比して明らかなように、実施例1では、2段電子線バイプリズム干渉計の光学系の中間位置に該当する対物レンズ系の下部で、同時に上段電子線バイプリズムの上部に拡大レンズ系が加わり、その加わった拡大レンズ系の物面位置(対物レンズ系の像面位置)に新たな電子線バイプリズムを配した構造をしている。図4に於いては、図1、図2、図3で説明した電子源1、光軸2、試料3、対物レンズ系5、上段電子線バイプリズム直上の第1電子源像面7、観察面11、物体波21および参照波23を同じ参照符号とした他は煩雑となるため、以降の説明や数式では、図4以降新たに定義し直すものとする。ここで、電子線の流れる方向に上から順に、上段電子線バイプリズムのフィラメント電極9、中段電子線バイプリズムのフィラメント電極9、下段電子線バイプリズムのフィラメント電極9とする。また、それぞれのフィラメント電極の太さをd,d,dとする。
【0036】
図4において、61は対物レンズ系5による第1像面であり、62は第1像面61上の試料像である。上段電子線バイプリズムのフィラメント電極9は第1像面61に設けられる。ここで、フィラメント電極9とX軸のなす角をΦとする。63は第1像面61後段に設けられる単数または複数のレンズからなる第1拡大レンズ系であり、αは上段電子線バイプリズムのフィラメント電極9による電子線の偏向角度である。65は第1拡大レンズ系63による第2電子源像面であり、上段電子線バイプリズムのフィラメント電極9による電子線の偏向により、分離した電子源の実像66,67が形成される。71は第1拡大レンズ系63による第2像面である。72は第2像面71上の試料像である。中段電子線バイプリズムのフィラメント電極9は第2像面71に設けられる。ここで、フィラメント電極9はX軸上に設けられる。したがって、上段電子線バイプリズムのフィラメント電極9と中段電子線バイプリズムのフィラメント電極9とのなすアジムス角はΦとなる。
【0037】
73は第2像面71後段に設けられる単数または複数のレンズからなる第2拡大レンズ系であり、αは中段電子線バイプリズムのフィラメント電極9による電子線の偏向角度である。75は第2拡大レンズ系73による第3電子源像面である。第3電子源像面75上には、上段電子線バイプリズムのフィラメント電極9と、中段電子線バイプリズムのフィラメント電極9とにより、4つの電子源の実像が形成されている。このうち、電子源像76と78は第2電子源像面65の電子源像67が分離して形成されたものであり、電子源像77と79は第2電子源像面65の電子源像66が分離して形成されたものである。この4つの電子源の実像が、さらに下段電子線バイプリズムのフィラメント電極9により偏向を受け、4つの電子源の虚像81,82、83,84が形成されている。
【0038】
図4中、91は下段電子線バイプリズムのフィラメント電極9が配置された空間上の面を示している。幾何光学的には、この面で下段電子線バイプリズムによる偏向が発生する。93は、物体波が面91上に作る偏向直前の波面を表しており、94は同参照波の波面を表している。この2波面が観察面11上で重なって、干渉縞を作ることになる。面91上の下段電子線バイプリズムのフィラメント電極9とX軸のなす角をΦとする。したがって、下段電子線バイプリズムのフィラメント電極9と中段電子線バイプリズムのフィラメント電極9とのなすアジムス角はΦとなる。αは下段電子線バイプリズムのフィラメント電極9による電子線の偏向角度である。3つの電子線バイプリズムのフィラメント電極により偏向された電子線は、観察面11上に試料像101と干渉縞102、上段電子線バイプリズムのフィラメント電極9の影103,104および中段電子線バイプリズムのフィラメント電極9の影105,106を形成する。
【0039】
図5は、図4の各電子線バイプリズムのフィラメント電極の位置と、対物レンズ系、拡大レンズ系の位置関係をよりわかりやすく表示するため、図1、図3と対応する表示形式で、奥行きについては省略して描いた模式図である。上段電子線バイプリズムのフィラメント電極9、下段電子線バイプリズムのフィラメント電極9を横長に描くことによって、中段電子線バイプリズムのフィラメント電極9との間にアジムス角があることを示している。上段電子線バイプリズムのフィラメント電極9は、対物レンズ系5の直下の第1像面61に配置し、中段電子線バイプリズムのフィラメント電極9を単数または複数のレンズからなる第1拡大レンズ系63直下の第2像面71に配置し、下段電子線バイプリズムのフィラメント電極9は単数または複数のレンズからなる第2拡大レンズ系73直下の第3電子源像面75と第3像面92との間に配置している。第3像面92よりも電子線の進行方向下流側に第3拡大レンズ42、第4拡大レンズ系43および投射レンズ44など結像レンズ系が設けられ、そのさらに下流側に観察面11が来るが、第3像面92以降の光学系の構成は、3段電子線バイプリズム干渉計の機能には影響しない。なお、図中各像面における試料像を太い矢印で示した。
【0040】
図4、および5に示す光学系の諸関係式は幾何光学により、比較的簡単に導くことが出来るので、3つの電子線バイプリズムのフィラメント電極9により偏向された電子線が観察面11上に形成する試料像101と干渉縞102、上段電子線バイプリズムのフィラメント電極9の影103,104および中段電子線バイプリズムのフィラメント電極9の影105,106の関係は、各構成要素と各パラメータを以下のように定義すると試料面上への投影後の関係を式(8)〜(12)に示すことができる。(なお、フィラメント電極の影は、式(10)、式(11)に示す干渉領域幅W,Wの式に減算の項として表れている。)簡単のため、第3像面92以降の拡大レンズ系、投射レンズ系については割愛している。ここで、MObjは試料に対する対物レンズ系5の倍率、MM1は試料に対する第1拡大レンズ系63の倍率、MM2は試料に対する第2拡大レンズ系73の倍率、aは対物レンズ系5と電子源1との距離、bは対物レンズ系5と第1電子源像面7との距離、Dは第1電子源像面7と第1像面61(上段電子線バイプリズムのフィラメント電極9)との距離、aは第1電子源像面7と第1拡大レンズ63系の距離、bは第1拡大レンズ系63と第2電子源像面65との距離、aは第2電子源像面65と第2拡大レンズ系73との距離、Dは第2電子源像面65と第2像面71(中段電子線バイプリズムのフィラメント電極9)との距離、bは第2拡大レンズ系73と第3電子源像面75との距離、Dは第3電子源像面75と観察面11との距離、Lは第3像面91(下段電子線バイプリズムのフィラメント電極9)と観察面11との距離である。観察面11において、干渉縞102のX軸、Y軸方向の幅をそれぞれ、W,W、干渉縞102のX軸に対する傾きをθとする。
【0041】
【数8】

【0042】
ただし、rは式(9)で定義される。
【0043】
【数9】

【0044】
【数10】

【0045】
【数11】

【0046】
【数12】

【0047】
図6は、3段の各段の電子線バイプリズムのフィラメント電極の位置関係を第3像面92上へ投影した図である。簡単のため、中段電子線バイプリズムのフィラメント電極9をX軸とし、上段電子線バイプリズムのフィラメント電極9、下段電子線バイプリズムのフィラメント電極9のX軸からのアジムス角を、各々Φ、Φとする。光軸上の高さについては、前述のとおり上部2段の電子線バイプリズムのフィラメント電極は、各レンズ系の試料の像面位置に定めているが、下段電子線バイプリズムのフィラメント電極9は、Φ=0°、またはΦ=Φとしたときに、完全に中段、または上段電子線バイプリズムのフィラメント電極9,9の陰に入る位置であれば、光学系上どこにあってもかまわない。
【0048】
本発明によって得られる干渉領域の形状は、上部2段の電子線バイプリズムフィラメント電極の成す角度Φ、および式(10)、式(11)で定まる幅WObjx,WObjyの比(WObjx/WObjy)を持った平行四辺形となる。
【0049】
図7(A)−(D)は、本発明によって得られる干渉領域の形状をΦ=45°に固定し、Φを変化させた場合に得られた実験結果の図である。図7(A)は、Φ=50°の場合、(B)は、Φ=70°の場合、(C)は、Φ=90°の場合、(D)は、Φ=110°の場合である。一連の実験中の各々のフィラメント電極への印加電圧は、上段電子線バイプリズムをV=30V、中段電子線バイプリズムをV=30V、下段電子線バイプリズムをV=160Vに保持した。ここで、左上がりで太い黒線で写っているのは上段電子線バイプリズムのフィラメント電極9の影103,104、右上がりで太い黒線で写っているのは中段電子線バイプリズムのフィラメント電極9の影105,106である。上部電子線バイプリズムのフィラメント電極9のアジムス回転に伴って干渉領域の平行四辺形の形状が変化していく様子がわかる。すなわち、Φ=45°に固定であるので、平行四辺形形状の下段電子線バイプリズムのフィラメント電極9が作り出す干渉領域外側の白い帯状になった干渉領域(従来の単バイプリズム干渉計での干渉領域に同じ)は動かないが、上段電子線バイプリズムのフィラメント電極9の影103,104はアジムス回転に伴って回転する。式(8)、式(9)、式(12)に基づき、それぞれのフィラメント電極の影で囲まれる干渉領域の干渉縞の間隔s、方位角θも変化しているが、これについては実験結果と共に後述する。
【0050】
オペレーションの便宜さなど実用上は、上部2段の電子線バイプリズムのフィラメント電極は直交させる(Φ=90°)ことが好都合である。図8(A)−(C)は、上段電子線バイプリズムのフィラメント電極9と中段電子線バイプリズムのフィラメント電極9を直交(Φ=90°)させた状態に固定し、中段電子線バイプリズムのフィラメント電極9と下段電子線バイプリズムのフィラメント電極9との成す角度Φを変化させて、干渉領域の形状変化を観察した実験結果を示す図である。図8(A)はΦ=30°、(B)はΦ=45°、(C)はΦ=60°である。また、各々のフィラメント電極への印加電圧は、V=20V、V=20V、V=120Vに保持した。下段電子線バイプリズムのフィラメント電極9の回転にともない干渉領域の成す2辺は直交関係を保ったまま、辺の長さが変化する、すなわち、長方形→正方形→長方形の変化をしている。図8の一連の実験結果においてもそれぞれのフィラメント電極の影で囲まれる干渉領域の干渉縞の間隔s、方位角θも変化しているが、上記同様後述する。
【0051】
図9(A)−(D)は各電子線バイプリズムのフィラメント電極間のアジムス角を一定にした場合における、干渉領域の形状の下段電子線バイプリズムのフィラメント電極への印加電圧V依存性を観察した実験結果である。図9(A)はV=0V、(B)はV=40V、(C)はV=90V、(D)はV=140Vである。また、各々のフィラメント電極間のアジムス角は、Φ=90°、Φ=30°であった。
【0052】
下段電子線バイプリズムのフィラメント電極V=0Vでは、図9(A)に示すように、上部2段の電子線バイプリズムのフィラメント電極の影が直交し、干渉領域は形成されない。このとき、上中段の各々のフィラメント電極の影103,104と105,106は、それぞれ、1本となっている。下段電子線バイプリズムのフィラメント電極への印加電圧Vが大きくなるのに従って下段フィラメント電極へ向き合うように電子波が偏向されてゆき(図9(B))、波面のオーバーラップに伴って干渉領域が生じはじめ(図9(C))、その干渉領域が相似形を保ったまま拡大していく様子がわかる。すなわち、下段電子線バイプリズムのフィラメント電極への印加電圧Vにより、干渉領域の大きさがコントロールできる。
【0053】
また、この図9の一連の実験結果は、本発明に於ける電子波のコントロールの考え方を良く示す図でもある。すなわち、上側2段の電子線バイプリズムにて波面を4分割し、これらの内のどの2波を干渉させるかを選ぶのが、下段フィラメント電極9のアジムス角Φである。図9では、向かって右上と左下の2波を選んでいる)。対角を成す2波を選ぶ場合に、本発明の特徴である全ての干渉パラメータの独立コントロールが可能となる。左右、または上下の2波を選んだ場合、すなわちΦ=0°、またはΦ=90°の場合には、干渉現象のコントロール特性は、特願2004−004156に一致する。選ばれた2波による干渉領域の形状(縦横比など)を下段電子線バイプリズムのフィラメント電極間のアジムス角Φで、干渉領域の大きさを印加電圧Vにてコントロールすることは、すでに述べたとおりである。また、このときに得られた干渉縞の間隔s、方位角θは、上部2段の電子線バイプリズムのフィラメント電極への印加電圧にて独立にコントロールできる(後述)。このような考え方は、本光学系を用いる実験に際して、実験条件を定める上で実用上大変に有効である。
【0054】
また、図7、8、9に示す実験結果は、下段電子線バイプリズムフィラメント電極9によるフレネル縞が干渉領域外では発生しているが、上段バイプリズムフィラメント電極9と中段電子線バイプリズムフィラメント電極9で囲まれた観察領域内への影響は、ほとんど無視できるレベルにまで小さいことを示している。これは実用上大変有効である。なお、下段電子線バイプリズムフィラメント電極9のアジムス角が、Φ=0°、または、Φ=Φの場合には、本発明による3段電子線バイプリズム光学系は、2段電子線バイプリズム光学系に一致するため、問題となるフレネル縞は原理的に発生しない。
【0055】
上述の様に、上側2段の電子線バイプリズムによって形成した干渉領域内の干渉縞のコントロールについて考える。簡単のため、上部2段の電子線バイプリズムのフィラメント電極9,9が直交している場合(Φ=90°)を想定して説明するが、一般の場合も同様に取り扱うことができる。はじめに、図4に示したように、X軸方向、およびY軸方向の縞間隔s、sを検討する。この新たな2つのパラメータは、干渉縞間隔s、および干渉縞の方位角θを用いて、式(13)、式(14)のごとく示すことができる。
【0056】
【数13】

【0057】
【数14】

【0058】
すなわち、下段電子線バイプリズムの動作条件(印加電圧V(偏向角α)とアジムス角Φ)が定まれば、sはX軸方向の干渉をコントロールする上段電子線バイプリズムの印加電圧(偏向角α)のみに依存し、一方sはY軸方向の干渉をコントロールする中段バイプリズムの印加電圧(偏向角α)のみに依存していることがわかる。これは上部2段の電子線バイプリズムのフィラメント電極9,9が直交している場合(Φ=90°)に、それぞれのフィラメント電極への印加電圧により、X軸方向、Y軸方向に独立して波面の偏向が与えられることを根拠としている。すなわち、sとsの比を変更しないで各々の大きさを変化させると、干渉縞間隔sのみがコントロールできる。また、sとsの自乗和の大きさを変更しないで比のみを変化させると、干渉縞の方位角θのみのコントロールが可能である。これら干渉縞間隔sと干渉縞の方位角θは、式(15)、式(16)に基づき、上段、および、中段電子線バイプリズムへの印加電圧によって、それぞれ独立したコントロールが可能となる。
【0059】
【数15】

【0060】
【数16】

【0061】
図10は、X軸方向、およびY軸方向の干渉縞間隔(s、s)を独立して変化させた実験結果である。干渉縞の間隔sと方位角θが図中明瞭に観察できるように、図9(D)に示す干渉領域の中央部を抜き出して拡大したものである。横方向に配列した3枚の写真は中段電子線バイプリズムへの印加電圧Vのみを30V,60V,90Vに制御して干渉縞間隔sのみを独立して変化させた結果を示す。干渉縞間隔sのみを変化させているために、干渉縞の方位角θはすべて異なっているが、3枚の写真の干渉縞と接続部を見れば、3本の折れ線状となっていて縦方向の縞間隔sが一致していることが分かる。縦方向に配列した3枚の写真は上段電子線バイプリズムへの印加電圧Vのみを30V,60V,90Vに制御して干渉縞間隔sのみを独立して変化させた結果を示す。干渉縞間隔sのみを変化させているために、干渉縞の方位角θはすべて異なっているが、3枚の写真の干渉縞と接続部を見れば、3本の折れ線状となっていて横方向の縞間隔sが一致していることが分かる。すなわち、X軸方向、およびY軸方向の干渉縞間隔(s、s)の独立したコントロールができている。これらの図ではs、または干渉縞間隔sのどちらか一方のみを変化させているために、干渉縞の方位角θはすべて異なっている。しかし、干渉縞の方位角θは、式(16)に示したごとく、各々の方向の縞間隔の比で定まっているため、上部2段の電子線バイプリズムのフィラメント電極への印加電圧を適切に選ぶことによって、独立したコントロールが可能となる。
【0062】
図11(A)−(C)は上段電子線バイプリズムへの印加電圧位Vおよび中段電子線バイプリズムへの印加電圧Vを制御して、干渉縞の方位角θを一定(θ=−45°)に保った状態で干渉縞間隔を変化させた実験結果を示す図である。試料には酸化マグネシウムの微結晶を用いた。干渉縞間隔は、(A)sobj=5nm、(B)sobj=4nm、(C)sobj=3nmである。図の周辺に黒く見えるのは、上段電子線バイプリズムおよび中段電子線バイプリズムのフィラメント電極の影である。
【0063】
図12(A)−(C)は上段電子線バイプリズムへの印加電圧Vおよび中段バイプリズムへの印加電圧Vを制御して、干渉縞の間隔を一定(sobj=4nm)に保った状態で干渉縞の方位角のみを変化させた実験結果を示す図である。方位角θは、(A)θ=−30°、(B)θ=−45°、(C)θ=−60°である。
【0064】
これら図11、図12に示す例は、従来の電子線ホログラフィーでは、像再生時にのみ行なってきた干渉縞の間隔、方位角の調整が電子顕微鏡内で、電子線により直接可能となったことを示している。
【0065】
(実施例2)
図4、および図5に示す構成において、第1拡大レンズ系63の倍率を1とした場合には、X軸、Y軸方向の倍率による相対的な補正は不要となるため、干渉現象の取り扱いは、X軸、Y軸方向でほぼ等価となり容易となる。この考え方をさらに推し進めると、上2段の電子線バイプリズムフィラメント9,9を第1像面61に設けることにより、2段の電子線バイプリズム光学系によって、実施例1で説明した3段電子線バイプリズム干渉計とほぼ等価な効果を得られることが分かる。
【0066】
図13は実施例1で説明した3段電子線バイプリズム干渉計の上段バイプリズムフィラメント電極9と中段電子線バイプリズムフィラメント電極9とに対応する2本のフィラメント電極を直交させて、上段電子線バイプリズムの位置にマウントし、下段電子線バイプリズムフィラメント電極9を面91にマウントした光学系を示す図である。図13において、図2に示す構成要素と同じもの、または、同等の機能のものには同じ参照符号を付した。ここで、上段電子線バイプリズムフィラメント電極9と中段電子線バイプリズムフィラメント電極9とに対応する2本のフィラメント電極は、直交していても、電気的には絶縁されて、独立に電圧が制御される。
【0067】
先にも述べたように、上段電子線バイプリズムフィラメント電極9と中段電子線バイプリズムフィラメント電極9とを直交させて使用するのが、実用上好都合であることを考えれば、実施例2の構造により、先の特願2005−027274で提案した2段電子線バイプリズム光学系の簡易な構造によって、実施例1の図4で説明した3段電子線バイプリズム光学系の構造で得られる干渉装置と同等の効果を得られることは、装置の製作上有利である。ただし、電子顕微鏡のような荷電粒子線を用いる場合、電子線バイプリズムのフィラメント電極の交わるその部分では電界の効果がX軸、Y軸方向共に多少の鈍りを生じると推定され、得られる干渉領域の角の部分では、干渉縞にその影響が重畳される可能性がある。しかし、干渉領域の中央部では、この電界の鈍りの影響を受けない、または無視できる程度に小さな状態での使用が可能と考えられる。
【0068】
(光を光源とする干渉装置への適用)
上述までの説明は、電子を光源とする干渉装置に主体を置いて説明したが、特願2004−004156でも説明したように、本発明は光を光源とする干渉装置に於いても実施できる。図14は図4に示す光学系の電子線バイプリズム9,9,9に代えて、3個の光学バイプリズムを配置し、上段、中段の各々の光学バイプリズムの中心位置(稜線位置)に光を遮蔽するための遮蔽板を設けた例を示す図である。図14において、9’,9’,9’が電子線バイプリズム9,9,9に代わる光学バイプリズムである。それぞれ、中心位置(稜線位置)に光を遮蔽するための遮蔽板95,96,97が設けられている。
【0069】
さらに、同じ考え方で、図13に示した2段電子線バイプリズムによる本発明を実現するための光学系を光を光源とする干渉装置に於いても実施できる。図15は、図13に示した2段電子線バイプリズムによる本発明を実現するための光学系を光を光源とする干渉装置とした構成を示す図である。図14と同様に電子線バイプリズムに換えて、光学バイプリズムを各々の位置に配した構造である。このとき、電子を光源とする干渉装置に於いては、図13に示したごとく上段電子線バイプリズムに於いて、二つのフィラメント電極を交差させているが、これに対応する光学素子としては、図15に記載の四角錘型プリズムが考えられる。フィラメント電極が直交し偏向角度がX軸、Y軸方向で同じ場合にはピラミッド型の正四角錘型プリズム、偏向作用が異なる場合にはそれに応じて形の変化した四角錘型プリズムを用いれば、上述した荷電粒子線に対するのと等価な光を光源とする干渉装置が構成できる。図15において912が電子線バイプリズム9,9に代わる光学バイプリズムであり、中心位置(稜線位置)に光を遮蔽するための遮蔽板95,96が設けられている。また、9’が電子線バイプリズム9に代わる光学バイプリズムであり、中心位置(稜線位置)に光を遮蔽するための遮蔽板97が設けられている。
【0070】
なお、特願2004−004156でも説明したように、一般的には光学バイプリズムは、電子線バイプリズムのように、電圧を制御して偏向角αを変えると言うことができない。したがって、目標とする干渉縞間隔sおよび干渉領域幅Wに応じてこれを交換する必要があるので、使用にあたっての煩雑さがある。しかし、これについては、光学バイプリズムの形状を成した容器を作り、内部に、例えば、気体を封入しその圧力を可変とすることによって、すなわち密度を可変とすることによって、光学バイプリズムの屈折率を変化させ任意の角度偏向を行なったり、バイプリズムに変わって2枚の鏡の反射角度をコントロールしたりすることによって電子線バイプリズムと同等の効果を期待することができる(例えば、K. Harada, K. Ogai and R. Shimizu: Technology Reports of The Osaka University 39, 117 (1989))。四角錘型プリズム912の場合には、たとえば遮蔽版の下、プリズム内部に仕切り壁のある容器とし、各々の内圧をコントロールすることによって光学バイプリズムの屈折率を個別にコントロールすることができる。
【0071】
(まとめ)
本発明は、上段電子線バイプリズムフィラメント電極9と中段電子線バイプリズムフィラメント電極9とにより、光源の波面を4つに分け、そのうちの1つを物体波とし、参照波として他の3つのうちの一つを選択し干渉像を得る2波干渉型の干渉装置である。さらに選ばれた物体波と参照波との干渉関係を自在にコントロール可能とするものである。
【0072】
本発明による干渉装置の使用手順を以下にまとめる。
(1)試料の観察対象領域とそれを干渉像として観察するための参照波を透過させる位置を定める。
(2)該当の干渉像を形成できるよう上段、中段電子線バイプリズムの位置および相対アジムス角Φを定める。このとき、干渉領域、干渉縞の操作性から特に必要でない限り、直交関係Φ=90°を選択するのが実用的である。
(3)下段バイプリズムのアジムス角Φを調整し、試料形状にあった干渉領域の形状(縦横比)を定める。
(4)下段電子線バイプリズムのフィラメント電極への印加電圧Vを変化させ、干渉領域の大きさを定める。
(5)上段電子線バイプリズム、および中段電子線バイプリズムのフィラメント電極への印加電圧、各々V、Vを変化させ、観察領域内に形成される干渉縞間隔s、干渉縞の方位角θが、観察対象に対して最適になるよう調整する。
(6)以上の手順で得られた干渉像(電子線ホログラム)を記録し、再生等解析に供する。
【0073】
以上の手順により、干渉領域の形状(領域を形成する2辺W,Wの比W/Wとその2辺の成す角Φ)、干渉領域の大きさ、干渉縞の縞間隔s、縞の方位角θがそれぞれ結果として独立にコントロール可能となり、任意の干渉条件による干渉顕微鏡像がホログラム再生等の画像記録後の処理を行なうことなく、干渉像記録光学系にて直接観察・記録可能となる。なお、これらの手順、干渉条件の策定が、式(8)から式(16)に依存していることは言うまでも無い。
【0074】
本発明の干渉光学系は、従来までの光学系の発展型であり、それぞれの光学系の利点を網羅しつつ新たな機能を発揮させるものである。本発明によれば以下の作用・効果が期待される。
(1)試料形状に応じた干渉領域形状の作成:
電子線の干渉性をいたずらに劣化させること無く、ホログラム作成に必要な干渉領域の形状を定めることが可能となる。
(2)干渉領域内への任意の縞間隔、方位角をもつ干渉縞の形成:
試料形状または観察したい部分の形状、格子像の方位、同空間サイズなど、被観察対象に応じて最も適切な間隔・方位の干渉縞を重畳させることが可能となる。これにより、空間分解能、位相分解能において最適な状態のホログラムの作成、記録を可能とする。
(3)フレネル縞の発生の抑制:
ホログラムにとって最も大きく、顕著なノイズ源であるフレネル縞の発生を抑制し、ホログラムへの影響を排除する。
(4)電子線ホログラフィーの概念の2次元への拡張:
干渉領域形状、干渉縞間隔、干渉縞の方位角を任意にコントロールすることが可能となり、電子線の波面を2次元平面内でほぼ自由に操作・干渉させることが可能となる。これにより電子線での干渉現象を、光のそれと対比しながらの実験が可能な電子波干渉装置となり得る。
【0075】
本発明は、波面分割型干渉計の操作性を向上させ、1次に得られる干渉像への自由度を飛躍的に高める、その手段と方法を確立したものである。言わば波面分割型干渉計の操作性、性能を振幅分割型干渉計のそれらに近づける手法である。この意味において、本発明は電子線等荷電粒子線に限らず、光学装置に於いて波面分割型干渉計を導入する際に有効となるものである。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】特願2004−004156の図3で説明された電子線バイプリズムを用いた干渉光学系を示す図である。
【図2】特願2005−027274の図2で説明された上下2段の電子線バイプリズムフィラメント電極間のアジムス角Φを操作して得られる干渉縞の形成を説明する概念図である。
【図3】図2で説明した特願2005−027274の発明による上下2段の電子線バイプリズムフィラメント電極9、9間のアジムス角Φを操作する構成の光学系を図1に対応する表示形式で示す模式図である。
【図4】本発明の上、中、下段の3段の電子線バイプリズムを持つ干渉装置の実施例1の光学系を示す摸式図である。
【図5】図4の各電子線バイプリズムのフィラメント電極の位置と、対物レンズ系、拡大レンズ系の位置関係をよりわかりやすく表示するため、図1、図3と対応する表示形式で、奥行きについては省略して描いた模式図である。
【図6】3段の各段の電子線バイプリズムのフィラメント電極の位置関係を第3像面92上へ投影した図である。
【図7】(A)−(D)は、本発明によって得られる干渉領域の形状をΦ=45°に固定し、Φを変化させた場合に得られた実験結果の図である。
【図8】(A)−(C)は、上段電子線バイプリズムのフィラメント電極9と中段電子線バイプリズムのフィラメント電極9を直交(Φ=90°)させた状態に固定し、中段電子線バイプリズムのフィラメント電極9と下段電子線バイプリズムのフィラメント電極9との成す角度Φを変化させて、干渉領域の形状変化を観察した実験結果を示す図である。
【図9】(A)−(D)は各電子線バイプリズムのフィラメント電極間のアジムス角を一定にした場合における、干渉領域の形状の下段電子線バイプリズムのフィラメント電極への印加電圧V依存性を観察した実験結果である。
【図10】X軸方向、およびY軸方向の干渉縞間隔(s、s)を独立して変化させた実験結果である。干渉縞の間隔sと方位角θが図中明瞭に観察できるように、図9(D)に示す干渉領域の中央部を抜き出して拡大したものである。
【図11】(A)−(C)は上段バイプリズムへの印加電位Vおよび中段バイプリズムへの印加電位Vを制御して、干渉縞の方位角θを一定(θ=−45°)に保った状態で干渉縞間隔を変化させた実験結果を示す図である。
【図12】(A)−(C)は上段バイプリズムへの印加電位Vおよび中段バイプリズムへの印加電位Vを制御して、干渉縞の間隔を一定(sobj=4nm)に保った状態で干渉縞の方位角のみを変化させた実験結果を示す図である。
【図13】実施例1で説明した3段電子線バイプリズム干渉計の上段バイプリズムフィラメント電極9と中段電子線バイプリズムフィラメント電極9とに対応する2本のフィラメント電極を直交させて、上段電子線バイプリズムの位置にマウントし、下段電子線バイプリズムフィラメント電極9を面91にマウントした光学系を示す図である。
【図14】図4に示す光学系の電子線バイプリズム9,9,9に代えて、3個の光学バイプリズムを配置し、上段、中段、下段の各々の光学バイプリズムの中心位置(稜線位置)に光を遮蔽するための遮蔽板を設けた例を示す図である。
【図15】図13に示した2段電子線バイプリズムによる本発明を実現するための光学系を光を光源とする干渉装置とした構成を示す図である。
【符号の説明】
【0077】
1…電子源、2…光軸、3…試料、5…対物レンズ系、7…第1電子源像面、9…上段電子線バイプリズムフィラメント電極、9…中段の電子線バイプリズムフィラメント電極、9…下段の電子線バイプリズムフィラメント電極、11…観察面、21…物体波、23…参照波、61…第1像面、62…第1像面61上の試料像、63…第1拡大レンズ系、65…第2電子源像面、66,67…第2電子源像面65上の電子源の実像、71…第2像面、72…第2像面71上の試料像、73…第2拡大レンズ系、75…第3電子源像面、76−79…第3電子源像面75上の電子源の実像、81−84…第3電子源像面75上の電子源の虚像、91…下段電子線バイプリズムのフィラメント電極の配置される面、92…第3像面、101…観察面11上の試料像、103−106…観察面11上の上段、中段電子線バイプリズムフィラメント電極の影、9’…上段電子線バイプリズム電極に代わる光学プリズム、9’…中段の電子線バイプリズム電極に代わる光学プリズム、9’…下段の電子線バイプリズム電極に代わる光学プリズム、912…上、中段電子線バイプリズム電極に代わる光学プリズム、95−97…光の遮蔽版。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子もしくはイオン等の荷電粒子線の光源と、前記光源から放出される荷電粒子線を試料に照射するための照射光学系と、前記荷電粒子線が照射する試料を保持するための試料保持装置と、前記試料の像を形成するための結像レンズ系と前記試料像を観察あるいは記録するための装置を有するとともに、荷電粒子線の光軸上で前記試料の配置される位置より荷電粒子線の進行方向の下流側に位置する前記結像レンズ系の内の対物レンズが1つもしくは各々独立して焦点距離が制御できる複数のレンズにより形成される対物レンズ系で構成され、該対物レンズ系の下流側に形成される前記試料の像面位置で光軸と直交する平面内に配置された上段のバイプリズムと前記結像レンズ系の内の1つもしくは複数のレンズを介して前記上段バイプリズムの下流側に形成される前記試料の像面位置で前記上段バイプリズムと平行な平面内に配置された中段のバイプリズムと前記結像レンズ系の内の1つもしくは複数のレンズを介して前記中段バイプリズムの下流側で前記上段バイプリズムと平行な平面内に配置される下段のバイプリズムとを備え、該3つのバイプリズムがそれぞれ独立にその位置の移動、電極の回転を行なうことができるとともに、それら前記上段バイプリズムと前記中段バイプリズムと前記下段バイプリズムにそれぞれ独立に電圧を印加できることにより、任意の方向に荷電粒子線を偏向させることを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項2】
前記光軸に直交し、前記上段バイプリズムが位置する平面に、前記複数のレンズにより構成される対物レンズ系の各々のレンズを調整することによって、任意の倍率で前記試料の像を結像することを特徴とする請求項1に記載の荷電粒子線装置。
【請求項3】
前記下段バイプリズムが、前記荷電粒子線の光軸上の中段バイプリズムの下流側に位置するレンズの下流側で、該レンズの形成する光源の像の下流側に位置する請求項1に記載の荷電粒子線装置。
【請求項4】
前記下段バイプリズムが、前記荷電粒子線の光軸上の中段バイプリズムの下流側に位置するレンズの下流側で、該レンズと該レンズの形成する光源の像の間に位置する請求項1に記載の荷電粒子線装置。
【請求項5】
電子もしくはイオン等の荷電粒子線の光源と、前記光源から放出される荷電粒子線を試料に照射するための照射光学系と、前記荷電粒子線が照射する試料を保持するための試料保持装置と、前記試料の像を形成するための結像レンズ系と前記試料像を観察あるいは記録するための装置を有するとともに、荷電粒子線の光軸上で前記試料の配置される位置より荷電粒子線の進行方向の下流側に位置する前記結像レンズ系を構成する対物レンズが1つもしくは各々独立して焦点距離が制御できる複数のレンズにより形成される対物レンズ系で構成され、該対物レンズ系の下流側に形成される前記試料の像面位置で光軸と直交する平面内に配置された上段の四角錘型プリズムと前記結像レンズ系の1つもしくは複数のレンズを介して前記上段の四角錘型プリズムの下流側で前記上段四角錘型プリズムと平行な平面内に配置される下段のバイプリズムとを備え、該2つのプリズムがそれぞれ独立にその位置の移動、電極の回転を行なうことができるとともに、それら前記上段四角錘型プリズムと前記下段バイプリズムにそれぞれ独立に電圧を印加できることにより、任意の方向に荷電粒子線を偏向させることを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項6】
前記光軸に直交し、前記上段四角錘型プリズムが位置する平面に、前記複数のレンズにより構成される対物レンズ系の各々のレンズを調整することによって、任意の倍率で前記試料の像を結像することを特徴とする請求項5に記載の荷電粒子線装置。
【請求項7】
前記下段バイプリズムが、前記荷電粒子線の光軸上の上段四角錘型プリズムの下流側に位置するレンズの下流側で、該レンズの形成する光源の像の下流側に位置する請求項5に記載の荷電粒子線装置。
【請求項8】
前記下段バイプリズムが、前記荷電粒子線の光軸上の上段四角錘型プリズムの下流側に位置するレンズの下流側で、該レンズと該レンズの形成する光源の像の間に位置する請求項5に記載の荷電粒子線装置。
【請求項9】
前記四角錘型プリズムを構成する該同一像面内の2本の電子線バイプリズムフィラメント電極の成す角度を調整することによって四角錘型プリズムによる荷電粒子線の偏向の方向を制御することが可能であることを特徴とする請求項5から8のいずれかに記載の荷電粒子線装置。
【請求項10】
前記四角錘型プリズムを構成する該同一像面内の2本の電子線バイプリズムフィラメント電極の各々に印加する電圧を調整することによって四角錘型プリズムによる荷電粒子線の偏向の角度を各々のフィラメント電極に垂直な方向に個別に制御することが可能であることを特徴とする請求項5から9のいずれかに記載の荷電粒子線装置。
【請求項11】
光の光源と、前記光源から放出される光線を試料に照射するための照射光学系と、前記光線が照射する試料を保持するための試料保持装置と、前記試料の像を形成するための結像レンズ系と前記試料像を観察あるいは記録するための装置を有するとともに、光線の光軸上で前記試料の配置される位置より光線の進行方向の下流側に位置する対物レンズの下流側に形成される前記試料の像面位置で光軸と直交する平面内に配置され、中央稜線部、あるいは稜線裏側に光線の遮蔽板を配置した上段の光学バイプリズムと、前記結像レンズ系の1つもしくは複数のレンズを介して前記上段の光学バイプリズムの下流側に形成される前記試料の像面位置で前記上段の光学バイプリズムと平行な平面内に配置された中段の光学バイプリズムと、前記結像レンズ系の1つもしくは複数のレンズを介して前記中段の光学バイプリズムの下流側で前記上段の光学バイプリズムと平行な平面内に配置される下段の光学バイプリズムとを備え、該3つの光学バイプリズムがそれぞれ独立にその位置の移動、回転を行なうことにより任意の方向に光線の偏向が可能であることを特徴とする干渉装置。
【請求項12】
前記光学プリズムにおいて、その全部もしくは一部の光学プリズムがそれぞれ独立に光線に対する偏向角度の大きさを制御できる、もしくはそれら光学プリズムを異なるものと交換することによって、光線に対する偏向角度の大きさを制御できることを特徴とする請求項11に記載の干渉装置。
【請求項13】
光の光源と、前記光源から放出される光線を試料に照射するための照射光学系と、前記光線が照射する試料を保持するための試料保持装置と、前記試料の像を形成するための結像レンズ系と前記試料像を観察あるいは記録するための装置を有するとともに、光線の光軸上で前記試料の配置される位置より光線の進行方向の下流側に位置する対物レンズの下流側に形成される前記試料の像面位置で光軸と直交する平面内に配置され、中央稜線部、あるいは稜線裏側に光線の遮蔽板を配置した上段の光学四角錘型プリズムと前記結像レンズ系の1つもしくは複数のレンズを介して前記上段の光学四角錘型プリズムの光線の下流側で前記上段の光学四角錘型プリズムと平行な平面内に配置される下段の光学バイプリズムとを備え、該両光学プリズムがそれぞれ独立にその位置の移動、回転を行なうことにより任意の方向に光線の偏向が可能であることを特徴とする干渉装置。
【請求項14】
前記光学プリズムにおいて、その全部もしくは一部の光学プリズムがそれぞれ独立に光線に対する偏向角度の大きさを制御できる、もしくはそれら光学プリズムを異なるものと交換することによって、光線に対する偏向角度の大きさを制御できることを特徴とする請求項13に記載の干渉装置。
【請求項15】
前記上段の光学四角錘型プリズムは2本の稜線が成す面の傾斜角度が個別に異なるものとされ前記上段の光学四角錘型プリズムによる光線の偏向角度の大きさが方向により個別に制御できる請求項13もしくは14に記載の干渉装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2006−313069(P2006−313069A)
【公開日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−46633(P2005−46633)
【出願日】平成17年2月23日(2005.2.23)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【Fターム(参考)】