説明

干渉除去装置、信号処理装置、レーダ装置、干渉除去方法およびプログラム

【課題】干渉信号を正確に除去することを可能とする。
【課題手段】複数の複素受信信号を記憶するメモリ331と、複数の複素受信信号から干渉信号を検出する検出器333と、複数の複素受信信号に基づいて干渉信号を含む複素受信信号の物標信号成分を算出する算出器3341、および、当該複素受信信号を物標信号成分に置き換える置換器3342を有する推定器334とを備え、算出器3341は、複数の複素受信信号の振幅に基づいて物標信号成分の振幅を決定する振幅決定器33411と、複数の複素受信信号の位相に基づいて物標信号成分の位相を決定する位相決定器33412とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、干渉波を除去するための装置、方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
レーダ装置は一般に、電波を発射しその反射波をとらえることによって物標(海上の他船、ブイなど)を検出し、検出した物標をディスプレイ上に表示している。しかしながら、レーダ装置の周囲に存在する他のレーダ装置から電波が発射された場合には、物標はレーダ装置側で正確に表示できない場合がある。これは、物標からの反射波と他のレーダ装置からの電波が重畳し、反射波に干渉波が現れるからである。そのため、従来のレーダ装置(干渉除去装置)では、注目データ(受信データ列のなかのひとつのデータ)に妨害波(干渉波)が存在するか否かを判定し、妨害波が存在する場合には、その注目データをゼロに置き換えるようにしている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−96337号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された干渉波除去装置では、干渉波があると判定された受信データを全てゼロに置き換える処理を行っている。しかしながら、複数のレーダ装置から発射される電波のパルス幅が同程度に長い場合、比較的長い時間幅にわたって反射波が同一の値(ゼロ)に置き換えられる場合がある。このことは、反射波のほとんどがゼロに置き換えられることを意味し、物標を正確にとらえることが難しくなる。
【0005】
そこで本発明は、上記の状況下においてなされたものであり、干渉波を正確に除去することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するための干渉除去装置は、複数の複素受信信号を取得する取得部と、前記複数の複素受信信号から干渉信号を検出する検出部と、前記複数の複素受信信号に基づいて、前記干渉信号を含む複素受信信号の物標信号成分を推定する推定部と、を備える。
【0007】
この干渉除去装置によれば、干渉信号を含む複素受信信号の物標信号成分が他の複素受信信号に基づいて推定される。
【0008】
上記の課題を解決するための干渉除去方法は、複数の複素受信信号を取得するステップと、前記複数の複素受信信号から干渉信号を検出するステップと、前記複数の複素受信信号に基づいて、前記干渉信号を含む複素受信信号の物標信号成分を推定するステップと、を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、干渉波を正確に除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態に係るレーダ装置の概略構成を示すブロック図。
【図2】実施形態の表示装置において、レーダ映像の表示例を示す図。
【図3】干渉除去器の構成を示すブロック図。
【図4】メモリに記憶される複素受信信号の内容の一例を示す図。
【図5】干渉信号を検出する処理を説明するための図。
【図6】物標信号成分の振幅を推定する処理を説明するための図。
【図7】レーダ送信信号の送信周期が一定の場合において、物標信号成分の位相を推定する処理を説明するための図。
【図8】レーダ送信信号の送信周期が変化する場合において、物標信号成分の位相を推定する処理を説明するための図。
【図9】レーダ装置において、複素受信信号から干渉信号を除去するために逐次実行される処理のフローチャート。
【図10】物標信号成分の推定処理における干渉除去器の推定器の動作を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のレーダ装置の一実施形態を図面を参照して説明する。実施形態に係るレーダ装置は、例えば船舶などに設けられ、海上の他船やブイ、鳥などの物標を検出するための船舶用レーダ装置である。
【0012】
本実施形態に係るレーダ装置100の構成について、図1を参照して説明する。図1は、レーダ装置の概略構成を示すブロック図である。
【0013】
図1に示すように、このレーダ装置100は、アンテナ1、送受信部2、信号処理部3および表示装置4を備える。以下、レーダ装置100を構成する各要素について詳細に説明する。
【0014】
[アンテナ1の構成]
このレーダ装置100において、アンテナ1は、鋭い指向性を持ったパルス状電波(レーダ送信信号)のビームを送信するとともに、その周囲にある物標からの反射波を受信する。ビーム幅は、例えば2度である。アンテナ1は、水平面内で回転しながら、上記の送信と受信を繰り返す。回転の周期は、例えば2.5secである。以下では、レーダ送信信号を送信してから次のレーダ送信信号を送信する直前までの期間における送信と受信の動作をスイープとよぶ。1スイープの時間、すなわち送信周期は、例えば1msである。
【0015】
アンテナ1では、レーダ送信信号を、ある方向へ集中して発射することで、物標からの反射波(物標信号)を含むレーダ受信信号を受信する。レーダ受信信号は、物標信号成分のほか、他のレーダ装置からの電波干渉波(干渉信号)や受信機雑音などの成分を含む場合もあり得る。
【0016】
レーダ装置100から物標までの距離は、その物標信号を含むレーダ受信信号の受信時間と、当該レーダ受信信号に対応するレーダ送信信号の送信時間との時間差から求められる。また、物標の方位は、対応するレーダ送信信号を送信するときのアンテナ1の方位から求められる。
【0017】
[送受信部2の構成]
送受信部2は、レーダ送信信号を生成してアンテナ1へ送出する。また、送受信部2は、アンテナ1からレーダ受信信号を取り込み、レーダ受信信号を周波数変換する。そのために、この実施形態では、送受信部2は、信号生成器21、周波数変換器22(第1周波数変換器)、局部発振器23、送受切換器24および周波数変換器25(第2周波数変換器)を備える。
【0018】
信号生成器21は、同一の時間間隔で、または、異なる時間間隔で、中間周波数のレーダ送信信号を生成して周波数変換器22へ出力する。
【0019】
この実施形態の説明において、上述した中間周波数のレーダ送信信号を同一の時間間隔で生成することは、レーダ送信信号の送信周期が一定となることを意味する。また、上述した中間周波数のレーダ送信信号を異なる時間間隔で生成することは、レーダ送信信号の送信周期が変化することを意味する。
【0020】
この実施形態において、信号生成器21が生成するレーダ送信信号は、例えば、チャープ信号として知られている周波数変調信号とするが、信号生成器21が位相変調信号や無変調のパルスを生成する場合にも、レーダ装置100は同様の構成をとることが可能である。
【0021】
なお、信号生成器21によって生成されるパルスの帯域幅またはパルス幅は、表示装置4において設定されるレーダ映像の表示距離などに応じて変更することが可能である。
【0022】
周波数変換器22は、信号生成器21の出力信号を局部発振器23から出力されるローカル信号と混合し、信号生成器21の出力信号を周波数変換して送受切替器24へ出力する。周波数変換器22の出力信号の周波数帯は、例えば、3GHz帯または9GHz帯などである。
【0023】
送受切換器24は、アンテナ1と接続可能に構成されている。送受切換器24は、アンテナ1と送受信器2との間の信号の切り換えを行う。すなわち、この送受切換器24では、送信時には、レーダ送信信号が受信回路(すなわち周波数変換器25)に回り込まないようにし、受信時には、レーダ受信信号が送信回路(すなわち周波数変換器22)に回り込まないようにする。送受切換器24としては、例えば、サーキュレータ(Circulator)等の電子部品が用いられる。
【0024】
周波数変換器25は、アンテナ1から出力されるレーダ受信信号を送受切換器24を介して取り込む。そして、周波数変換器25は、レーダ受信信号を局部発振器23から出力されるローカル信号と混合し、周波数変換器25の出力信号を中間周波数に変換して後段の信号処理部3へ出力する。
【0025】
なお図1の送受信部2では、増幅器やフィルタの図示を省略している。
【0026】
[信号処理部3の構成]
信号処理部3は、レーダ受信信号をデジタル信号に変換して信号処理を行う。そのために、この実施形態では、信号処理部3は、A/D(Analog to Digital)変換器31、直交検波器32、干渉除去器33(干渉除去装置)、マッチドフィルタ(Matched Filter)34(パルス圧縮部)および検波器35を備える。信号処理部3は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等のデジタル回路で実現することが可能である。
【0027】
A/D変換器31は、周波数変換器25(送受信部2)から出力されるアナログ値の中間周波数信号をデジタル信号に変換する。
【0028】
直交検波器32は、A/D変換器31から出力されるデジタル値の中間周波数信号(以下、レーダ受信信号Sと表記する。)を直交検波する。
【0029】
具体的には、この実施形態では、直交検波器32は、A/D変換器31の出力のレーダ受信信号Sから、これと同位相のI(In-Phase)信号およびこれとπ/2だけ位相の異なるQ(Quadrature)信号を生成する。ここで、I信号,Q信号(以下、適宜「I」,「Q」と略記する。)はそれぞれレーダ受信信号Sの複素エンベロープ信号Zの実数部,虚数部である。以下では、複素エンベロープ信号Zをたんに複素受信信号Zとよぶ。また、複素エンベロープ信号のように複素数で表される信号を複素信号とよぶ。複素受信信号Zの振幅は、(I+Q1/2で表され、複素受信信号Zの位相は、tan−1(Q/I)で表される。
【0030】
干渉除去器33は、直交検波器32の出力信号(I,Q)から干渉信号を除去して、マッチドフィルタ34へ出力する。この干渉信号の除去処理については、後に詳細に説明する。
【0031】
マッチドフィルタ34は、レーダ受信信号の復調時においてパルス圧縮処理を行う。具体的には、マッチドフィルタ34では、干渉除去器32の出力信号(I,Q)を取り込み、取り込まれた複素受信信号Zのパルス幅を圧縮する。このパルス幅の圧縮によって、表示装置4において表示されるレーダ映像の解像度が高くなる。
【0032】
マッチドフィルタ34の出力信号は、マッチドフィルタ34の入力信号(複素受信信号)とレーダ送信信号の複素エンベロープ信号との相互相関関数で表される。例えば、レーダ送信信号がパルス幅Tのチャープ信号であるときに、マッチドフィルタ34に、そのチャープ信号と相似な波形をもつ信号(例えば、物標信号)が入力した場合には、その信号のパルス幅は、マッチドフィルタ34によって圧縮される。すなわち、マッチドフィルタ34の出力信号のパルス幅は、入力信号のパルス幅Tよりも小さくなる。一方、レーダ送信信号がパルス幅Tのチャープ信号であるときに、マッチドフィルタ34に、このチャープ信号とは異なる波形をもつ信号(例えば、他のレーダ装置から発射された正弦波パルスの干渉信号)が入力した場合には、その信号のパルス幅は、マッチドフィルタ34によって伸張される。すなわち、この場合にマッチドフィルタ34が入力する信号(例えば、干渉信号)のパルス幅をT’とすると、マッチドフィルタ34の出力信号のパルス幅は、T+T’の程度にまで伸張される。
【0033】
検波器35は、マッチドフィルタ34の出力を検波する。ここで、マッチドフィルタ34への入力信号と同様に、マッチドフィルタ34の出力信号もI信号とQ信号からなる複素信号である。検波器35は、検波によりこの複素信号の振幅を得る。
【0034】
そして、検波器35は、検波により得られた振幅のデータS’を表示装置4へ出力する。
【0035】
[表示装置4の構成]
表示装置4は、図示しないCPU、メモリおよび入力装置などのデバイスを備える。この表示装置4では、各スイープで得られた振幅のデータS’を画像表示用のメモリに記憶するとともに、記憶したデータを所定の順序でこのメモリから読み出し、映像としてLCD(Liquid Crystal Display)などに表示する。
【0036】
この表示装置4に表示されるレーダ映像について、図2を参照して説明する。図2は、表示装置4に表示されるレーダ映像の表示例を示す図である。
【0037】
図2に示すように、レーダ映像は、レーダ装置(アンテナ)の位置を中心に鳥瞰的に表示される。表示の原点は、レーダ装置の位置に対応する。表示装置4の操作者は、物標からの反射波の振幅(物標信号)がレーダ映像上で表示される位置から、その物標の方位と距離を認識することが可能になる。
【0038】
例えば図2では、2つの信号L1,L2は、他のレーダ装置からの干渉信号に起因するものであって、これらの干渉信号がレーダ送信信号と異なる波形を有するものであることを示している。すなわち、信号L1,L2は、マッチドフィルタ34によって伸張された干渉信号である。
【0039】
2つの信号P1,P2は、物標からの反射波から得られたレーダ受信信号であって、マッチドフィルタ34においてパルス圧縮処理が行われることによって、全体として、物標を指す形状となっていることを示している。
【0040】
[干渉除去器33の構成]
次に、信号処理部3の干渉除去器33の構成について図3を参照して説明する。図3は、干渉除去器33の構成を示すブロック図である。
【0041】
図3に示すように、干渉除去器33は、メモリ331(記憶部)と、振幅算出器332と、検出器333と、推定器334とを備える。
【0042】
メモリ331は、複数の複素受信信号を取得して記憶する。具体的には、この実施形態では、メモリ331は、直交検波器32から出力された複数の複素受信信号のI信号およびQ信号を記憶する。
【0043】
なお、図3ではメモリ331が、直交検波器32(干渉除去器33の外部装置)から複数の複素受信信号を取得する取得部の機能を実現する場合について示しているが、別の構成をとることも可能である。例えば、振幅算出器332および推定器333が、上記取得器の機能を兼ね備える構成としてもよい。
【0044】
さらに、メモリ331は干渉除去器33とは別に構成し、干渉除去器33に外付けする構成とすることも可能である。
【0045】
また、本実施形態のメモリ331は、振幅算出器332および推定器334に対して、複数のスイープ(この実施形態では、5スイープ)で得られたI信号とQ信号を送出する。具体的には、メモリ331は、各スイープにおいて送信開始から一定の時間が経過した時点で受信された5つの複素受信信号(Zi−2,Zi−1,Z,Zi+1,Zi+2)に対応するI信号(Ii−2,Ii−1,I,Ii+1,Ii+2)およびQ信号(Qi−2,Qi−1,Q,Qi+1,Qi+2)を、振幅算出器332および推定器334に対して送出することになる。送信開始からの経過時間は、アンテナからの距離に対応する。すなわち、電波の伝搬速度をcとおくと、アンテナから距離Dだけ離れた地点に存在する物標からの反射波は、送信開始から2D/cだけの時間が経過した時点で受信されることになる。このように、「送信開始からの経過時間」と「アンテナからの距離」は一対一に対応する。そこで、以下では、複数のスイープにおいて送信開始から一定の時間が経過した時点で受信される受信信号を「等距離の受信信号」と表現する。
【0046】
ここで、上述した添字i−2i−1i+1i+2は、連続する5スイープの順序を示している。添字i−2は最初のスイープに対応し、添字i+2は最後のスイープに対応する。除去処理の対象となるスイープは添字のスイープである。
【0047】
なお、以下の説明において、複数の複素受信信号の各々に共通の説明では各複素受信信号が単に複素受信信号Zとして参照される。また、複数のI信号の各々に共通の説明では各I信号が単にI信号として参照され、複数のQ信号の各々に共通の説明では各Q信号が単にQ信号として参照される。
【0048】
図4は、メモリ331に記憶される複素受信信号の内容の一部を示す図である。図4に示すように、メモリ331には、レーダ装置100から等距離の複数の複素受信信号(Zi−2,Zi−1,Z,Zi+1,Zi+2)に対応する各I信号(Ii−2,Ii−1,・・・,Ii+2)が記憶されている。各I信号(Ii−2,Ii−1,・・・,Ii+2)は、レーダ装置100からの距離Dを表す整数dおよびアンテナ1の方位を表す整数n(図4では、n=i−2,i−1,i,i+1,i+2)に対応付けられて記憶される。
【0049】
例えばアンテナ1の回転周期が2.5sec、送信間隔が1msならば、アンテナ1は1スイープあたりに0.144°だけ回転する。このとき、例えばビーム幅が2°であれば、約14スイープにわたって同一物標からの反射波が受信されることになる。従って、図4に示すZiの座標(n、d)が、ある物標の方位と距離に対応するものである場合には、Zi−2,Zi−1,・・・,Zi+2はすべてその物標からの反射波の成分(物標信号成分)を含むことになる。
【0050】
以下では、複素受信信号Ziの座標(n、d)に対応する方位と距離を、Ziのサンプリング位置とよぶ。図4の例では、各複素受信信号(Zi−2,Zi−1,Z,Zi+1,Zi+2)のサンプリング位置は方位方向に隣接している。
【0051】
なお、図4の上記説明では、各I信号(Ii−2,Ii−1,・・・,Ii+2)について示したが、このメモリ331は、各I信号(Ii−2,Ii−1,・・・,Ii+2)と対となるQ信号(Qi−2,Qi−1,・・・,Qi+2)も記憶している。
【0052】
再び図3を参照して、振幅算出器332について説明する。
【0053】
振幅算出器332は、メモリ331から、複数の複素受信信号(この実施形態では、Zi−2,Zi−1,・・・,Zi+2)に対応する各I信号および各Q信号(この実施形態では、Ii−2,Ii−1,・・・,Ii+2およびQi−2,Qi−1,・・・,Qi+2)を取り込む。そして、振幅算出器332は、各I信号および各Q信号から、各複素受信信号の振幅(この実施形態では、Ai−2,Ai−1,A,Ai+1,Ai+2)を算出して、検出器333へ送出する。
【0054】
振幅算出器332は、複素受信信号Zの振幅を算出する場合、{(対応するI信号)+(対応するQ信号)}1/2を計算してその振幅を得る。例えばZの振幅Aが算出される場合、Aは、(I+Q1/2から求められる。
【0055】
検出器333は、複数の複素受信信号の振幅に基づいて干渉信号を検出する。等距離における複数の複素受信信号は、干渉信号が存在しなければ、同程度の振幅を有すると考えられるため、複数の複素受信信号の振幅から干渉信号の有無が判定される。
【0056】
本実施形態の検出器333は、振幅算出器332から出力される複数の複素受信信号の各振幅を用いて、干渉信号を検出する。具体的には、検出器333は、複数の複素受信信号の振幅(Ai−2,Ai−1,・・・,Ai+2)の平均値(平均値に基づいて設定される値)をしきい値とする。そして、検出器333は、そのしきい値と、検出対象の複素受信信号の振幅Aとの比較に基づいて、検出対象の複素受信信号Zにが干渉信号を含むか否かを判定する。
【0057】
検出器333は、例えばAがしきい値以上のときには、複素受信信号Zが干渉信号を含むと判定する。逆に、検出器333は、Aがしきい値よりも小さいときには、複素受信信号Zが干渉信号を含まないと判定する。この判定処理について、図5を参照して説明する。図5は、干渉信号の判定処理を説明するための図である。
【0058】
図5の例では、参照される4つの複素受信信号(Zi−2,Zi−1,Zi+1,Zi+2)の各振幅Ai−2,Ai−1,Ai+1,Ai+2の値がほぼ同程度となっており、検出対象の複素受信信号Zの振幅Aのみがしきい値Thよりも大きい場合を想定する。この場合には、複素受信信号Zが干渉信号を含むと判定される。
【0059】
しきい値Thは、上述した例に限られず、様々な観点から設定可能である。例えば、複数の複素受信信号の振幅のいずれか1つ(例えば、3番目に大きい振幅、または、2番目に小さい振幅、など)を予め「しきい値」に設定することを条件としておき、干渉信号の有無を判定する場合には、その条件に応じて選択した1つの振幅を「しきい値」とするようにしてもよい。
【0060】
また、検出器333が複数の複素受信信号の振幅の平均値を「しきい値」とする場合、複数の複素受信信号の振幅(図5では、Ai−2,Ai−1,A,Ai+1,Ai+2)の中から、最も大きい振幅(図5では、A)を算定対象から外し、その外された振幅を除く複素受信信号の振幅の平均値(=(Ai−2+Ai−1+Ai+1+Ai+2)/4:図5参照)を「しきい値」とするようにしてもよい。さらに、所定の順位に属する振幅(例えば、2番目に大きい振幅と3番目に大きい振幅)の平均値を「しきい値」とするようにしてもよい。
【0061】
さらに、上述した平均値に対して所定の数値を乗じた値(平均値に基づいて設定される値)を「しきい値」とする、または、上述した平均値に対して所定の数値を加算した値(平均値に基づいて設定される値)を「しきい値」とするようにしてもよい。
【0062】
次に、再び図3を参照して、推定器334について説明する。
【0063】
推定器334は、メモリ331から取り込んだ各複素受信信号(Zi−2,Zi−1,・・・,Zi+2)に基づいて、干渉信号を含む複素受信信号の物標信号成分を推定する。そのために、この実施形態では、推定器334は、算出器3341および置換器3342を備える。
【0064】
算出器3341は、複数の複素受信信号に基づいて物標信号成分を算出する。置換器3342は、干渉信号成分を含む複素受信信号を、推定された物標信号成分に置き換える。
【0065】
また、この推定器334において、算出器3341は、振幅決定器33411および位相決定器33412を有する。振幅決定器33411は、複数の複素受信信号(Zi−2,Zi−1,・・・,Zi+2)の振幅に基づいて物標信号成分の振幅を決定する。物標信号成分の振幅の決定の処理については、後に詳細に説明する。
【0066】
位相決定器33412は、複数の複素受信信号(Zi−2,Zi−1,・・・,Zi+2)の位相に基づいて物標信号成分の位相を決定する。物標信号成分の位相の決定の処理については、後に詳細に説明する。
【0067】
推定器334では、検出器333から、干渉信号を検出したことを示す信号(干渉検出信号)を受信することによって、物標信号成分を推定するが、干渉検出信号を受信しなければメモリ331から取り込んだ複素受信信号(I,Q)をそのままマッチドフィルタ34へ出力する。
【0068】
複素受信信号Zの振幅値は、{(対応するI信号)+(対応するQ信号)}1/2から得られる。
【0069】
[物標信号成分の振幅の決定処理]
次に、物標信号成分の振幅の決定処理における振幅決定器33411の処理について図6を参照して説明する。図6で説明される振幅の決定処理は、振幅決定器33411が、複数の複素受信信号の振幅値の平均値を物標信号成分の振幅として決定する場合の例である。図6は、物標信号成分の振幅の決定処理を説明するための図である。
【0070】
図6の例では、参照される各振幅Ai−2,Ai−1,Ai+1,Ai+2を有する複素受信信号が物標で反射して得られており、Ai−2,Ai−1,Ai+1,Ai+2の値がほぼ同程度となっている場合に、Zの振幅値Aeが決定される場合を想定する。この場合には、図6に例示するように、Aeの値は、2つの振幅(Ai−1,Ai+1)の平均値となるように設定される。図6では、Ai−1とAi+1の平均値からAeを得る様子を破線で示してある。
【0071】
なお、この図6では、2つの振幅(Ai−1,Ai+1)の平均値が振幅Aeとされる場合について説明するが、単一の振幅(この実施形態では、Ai−1またはAi+1、など)、または、3つ以上の振幅(この実施形態では、(Ai−2,Ai−1,Ai+1)、(Ai−1,Ai+1,Ai+2)、(Ai−2,Ai−1,Ai+1,Ai+2)、など)の平均値が振幅Aeとされる場合もあり得る。その場合には、振幅決定器33411は、その単一または複数に対応する振幅の平均値を、複素受信信号Zに含まれる物標信号成分の振幅として決定するようにすればよい。
【0072】
また、図6の例では、振幅決定器33411は、複素受信信号Zを算定対象から外して物標信号成分の振幅を決定する場合について示しているが、複素受信信号Zを算定対象に含めて決定するようにしてもよい。例えば算定対象が各複素受信信号(Zi−1,Z,Zi+1)の振幅(Ai−1,A,Ai+1)の場合には、(Ai−1,A,Ai+1)の平均値が、振幅Aeとして決定されることになる。
【0073】
[物標信号成分の位相の決定処理]
次に、物標信号成分の位相の決定処理における位相決定器33412の処理について図7を参照して説明する。図7で説明される位相の決定処理は、レーダ送信信号の送信周期が一定であるか否かによって異なる。
【0074】
例えば物標がアンテナ1に対して運動をしているときには、アンテナ1に対する物標の相対速度の値に応じて、複素受信信号の位相はスイープとともに変化する。例えばレーダ送信信号の周波数を3GHzとすれば、その波長は10cmである。送信周期を1msとし、物標(例えば船)がアンテナ1に向かって5m/sの速さで接近している場合を想定する。この場合には、アンテナ1と物標との距離はスイープごとに5mmだけ変化する。すなわち、レーダ送信信号がアンテナ1と物標との間を往復する距離は、スイープごとに1cmだけ変化する。この長さ(1cm)は上記波長の1/10に等しいから、物標信号成分の位相は、スイープごとに36°(=360°/10)ずつ変化することになる。
【0075】
図7は、レーダ送信信号の送信周期が一定のときに、干渉信号を含む複素受信信号の位相が決定される処理を説明するための図である。図7の説明では、一例として、レーダ送信信号の送信周期を1msecとする。
【0076】
図7の例では、参照される複素受信信号(Zi−2,Zi−1,Zi+1,Zi+2)の各位相θi−2,θi−1,θi+1,θi+2が、それぞれ、250°,350°,190°,290°となるときに、Zの位相θeが決定される場合を想定する。この場合には、図7に例示するように、θeの値(すなわち、θの値が置き換えられる値)は、θi−1からθeへの位相変化量が、θi−2(=250°)からθi−1(=350°)への位相変化量(この実施形態では、100°の増加)、または、θi+1(=190°)からθi+2(=290°)への位相変化量(この実施形態では、100°の増加)と等しくなるように設定される。すなわち、θeの値は、mod(2×θi−1−θi−2)、または、mod(2×θi+1−θi+2)から、90°に決定される。
【0077】
ここで、mod(x)は、xを360で割った余りを表す。例えばmod(730)はmod(360×2+10)=10、mod(−730)はmod(360×(−3)+350)=350である。
【0078】
なお、図7では、各位相の変化量からθeを得る様子を破線で示してある。
【0079】
図8は、レーダ送信信号の送信周期が変化するときに、干渉信号を含む複素受信信号の位相が決定される処理を説明するための図である。図8の説明では、一例として、レーダ送信信号の送信周期が、1msec、または、0.5msecとする場合を想定する。さらに図8では、参照される複素受信信号の各位相(θi−2,θi−1,θi+1,θi+2)が、それぞれ、10°,20°,50°,70°となっており、各複素受信信号に対応するレーダ送信信号の送信周期がTi−1(=0.5msec),T(=1msec),Ti+1(=0.5msec),Ti+2(=0.5msec)の場合を想定する。
【0080】
この例では、θe’の値(すなわち、θの値が置き換えられる値)は、θi−2(=10°)からθi−1(=20°)への単位時間当たりの位相変化量(この実施形態では、1msec当たりに20°の増加)、または、θi+1(=50°)からθi+2(=70°)への単位時間当たりの位相変化量(この実施形態では、1msec当たりに20°の増加)と等しくなるように設定される。すなわち、θe’の値は、mod(θi−1+(T/Ti−1)×(θi−1−θi−2))、または、mod(θi+1−(Ti+2/Ti+1)×(θi+2−θi+1))から、90°に決定される。図8では、各位相の変化量からθe’を得る様子を破線で示してある。
【0081】
なお、干渉信号を含む複素受信信号の位相は、図7の例で決定されるθeと図8の例で決定されるθe’との平均値とするようにしてもよい。
【0082】
さらに、図7および図8ともに、2つの位相((θi−2,θi−1)、または、(θi+1,θi+2))の変化量から、θe、または、θe’を得る場合について説明したが、3つ以上の位相(この実施形態では、(θi−2,θi−1,θi+1)、(θi−1,θi+1,θi+2)、など)の変化量から、θeまたはθe’を得る場合もあり得る。その場合には、位相決定器33412は、複数の組の位相の単位時間当たりの変化量に基づいて、θeまたはθe’の値を決定するようにすればよい。
【0083】
[干渉除去器の動作]
次に、本実施形態のレーダ装置100における干渉除去器33の動作について図3および図9に関連付けて説明する。
【0084】
図9は、干渉除去器33の動作を示すフローチャートである。
【0085】
図9において、振幅値算出器332は、メモリ331から複数の複素受信信号の各I信号および各Q信号を取得する(ステップS10)。この動作の例では、等距離における連続する5スイープから得られる複素受信信号が取得されるために、ステップS10において、5つの複素受信信号(Zi−2,Zi−1,Z,Zi+1,Zi+2)の各I信号(Ii−2,Ii−1,I,Ii+1,Ii+2)および各Q信号(Qi−2,Qi−1,Q,Qi+1,Qi+2)が取得される。
干渉除去器33における一連の処理(ステップS10〜S12)は、すべての複素受信信号Zに対して行われる。
【0086】
そして、検出器333は、複数の複素受信信号に基づいて干渉信号を検出する(ステップS11)。そのために、本実施形態では、先ず振幅算出器332は、取得された各I信号および各Q信号から、対応する複素受信信号の振幅(Ai−2,Ai−1,A,Ai+1,Ai+2)を算出する。複素受信信号の振幅は、振幅算出器332が、{(対応するI信号)+(対応するQ信号)}1/2を計算することで得られる。
【0087】
次に検出器333は、複数の複素受信信号の振幅を用いて干渉信号を検出する。この検出処理は、この実施形態では、具体的には以下のように行われる。すなわち先ず、検出器333は、振幅算出器332の出力(すなわち、Ii−2,Ii−1,・・・,Ii+2、および、Qi−2,Qi−1,・・・,Qi+2)から複数の複素受信信号の振幅の平均値を算出する。次に検出器333は、この平均値をしきい値Th(図5参照)とし、しきい値Thと検出対象の複素受信信号の振幅Aとを比較する。そして、検出器333は、Aがしきい値Th以上の場合には、その検出処理の対象となる複素受信信号Zが干渉信号を含むと判定する(ステップS11のYes)。
【0088】
ステップS11の判定がYesの場合には、検出器333が、干渉検出信号を推定器334に対して出力するので、物標信号成分を推定するときの一連の処理(ステップS12)が行われる。逆に、ステップS11の判定がNoの場合には、上述した一連の処理(ステップS12)は行われない。すなわち、推定器334は、物標信号成分の推定処理を行わずに当該複素受信信号Zをマッチドフィルタ34へ出力する。
【0089】
ステップS11の判定がYesの場合には、推定器334は、検出器333からの干渉検出信号を受信した後、複数の複素受信信号(Zi−2,Zi−1,・・・,Zi+2)の各I信号(Ii−2,Ii−1,・・・,Ii+2)および各Q信号(Qi−2,Qi−1,・・・,Qi+2)に基づいて、ステップS11で判定された干渉信号を含む複素受信信号Zの物標信号成分を推定する。各I信号(Ii−2,Ii−1,・・・,Ii+2)および各Q信号(Qi−2,Qi−1,・・・,Qi+2)は、ステップS10の取得処理の時にメモリ331から取得される、または、検出器333からの干渉検出信号を受信した時にメモリ331から取得される。
【0090】
ステップS12の推定処理時の推定器334の動作について、図10を参照して説明する。
【0091】
図10は推定処理時の推定器334の動作を示すフローチャートである。
【0092】
図10において、算出器3341は先ず、干渉信号を含む複素受信信号Zの物標信号成分の振幅を決定する(ステップS121)。
【0093】
この決定処理は、この実施形態では、具体的には以下のように行われる。すなわち、先ず振幅決定器33411は、メモリ331から取得した各I信号(Ii−2,Ii−1,・・・,Ii+2)および各Q信号(Qi−2,Qi−1,・・・,Qi+2)から、対応する複素受信信号(Zi−2,Zi−1,・・・,Zi+2)の振幅を算出する。複素受信信号の振幅は、振幅決定器33411が、{(対応するI信号)+(対応するQ信号)}1/2を計算することで得られる。
【0094】
そして、振幅決定器33411は、複数の複素受信信号の振幅から、干渉信号を含む複素受信信号Zの物標信号成分の振幅を決定する。例えば同一物標からの反射波の振幅は、ビーム幅程度の方位範囲ではほぼ一定になると考えられるため、複素受信信号の振幅の平均値が複素受信信号Zの振幅として決定される。図6の例では、2つの振幅(Ai−1,Ai+1)の平均値が、複素受信信号Zの物標信号成分の振幅Aeとして決定されることになる。
【0095】
次に、算出器3341は、干渉信号を含む複素受信信号Zの物標信号成分の位相を決定する(ステップS122)。
【0096】
この決定処理は、この実施形態では、具体的には以下のように行われる。すなわち、先ず位相決定器33412は、メモリ331から取得した各I信号(Ii−2,Ii−1,・・・,Ii+2)および各Q信号(Qi−2,Qi−1,・・・,Qi+2)から、対応する複素受信信号(Zi−2,Zi−1,・・・,Zi+2)の位相を算出する。複素受信信号の位相、すなわちI信号を実部、Q信号を虚部とする複素数の偏角は、位相決定器33412が、tan−1{(対応するQ信号)/(対応するI信号)}を計算することで得られる。
【0097】
そして、位相決定器33412は、複数の複素受信信号の位相から、干渉信号を含む複素受信信号Zの物標信号成分の位相を決定する。例えば同一物標からの複素受信信号の位相は、方位方向に沿って規則的に変化すると考えられるため、複素受信信号Zの物標信号成分の位相は、外挿または内挿によって決定される。図7の例では、θi−2からθi−1への位相変化量、または、θi+1からθi+2への位相変化量から物標信号成分の振幅θe(=90°)が決定されることになる。また、図8の例では、θi−2からθi−1への単位時間当たりの位相変化量、または、θi+1からθi+2への単位時間当たりの位相変化量から物標信号成分の振幅θe’(=40°)が決定されることになる。これにより、物標信号成分の位相は、他の複素受信信号の位相から推定することが可能になる。
【0098】
なお、図10では、推定器334がS121→S122の順序で処理を行う場合について説明したが、逆の順序で処理を行うことも可能である。
【0099】
次に、置換器3342は、ステップS11で判定された干渉信号を含む複素受信信号Z(I,Q)を、ステップS12で推定された物標信号成分の振幅と位相とに対応した値に置き換える(ステップS123)。具体的には、置換器3342は、振幅決定器33411および位相決定器33412の出力(Ae,θeまたはθe’)を用いて複素受信信号Z(I,Q)を置き換える。
【0100】
図6および図7で示した推定処理の例では、複素受信信号Zの振幅と位相(A,θ)が(Ae,θe)に置き換えられるため、(Ae,θe)に対応する複素受信信号が得られることになる。この複素受信信号のI信号をIe、Q信号Qeとおくと、I信号Ieは、Ae×COS(θe)で得られ、Q信号Qeは、Ae×SIN(θe)で得られる。置換器3342は、マッチドフィルタ34に対し、IeおよびQeを出力する。これにより、複素受信信号から干渉信号成分が取り除かれて、物標信号成分が復元される。
【0101】
マッチドフィルタ34では、置換器3342の出力信号(I,Q)を取り込んでパルス幅を圧縮する。さらに検波器35では、マッチドフィルタ34の出力の振幅を算出する。そして、検波器35は、検波後のデジタル信号、すなわち、振幅のデータS’を表示装置4へ出力する。
【0102】
表示装置4は、検波器35から出力された振幅のデータS’を受信し、そのデータS’に基づくレーダ映像(図2参照)を表示画面に表示する。これにより、物標の位置が認識される。
【0103】
以上説明したように、本実施形態のレーダ装置100(干渉除去器33)では、干渉信号を含む複素受信信号の物標信号成分を推定するときに、複数のスイープで得られた各複素受信信号の変化により最適な物標信号成分を推定するものである。具体的には、推定される物標信号成分の振幅は、他の複素受信信号の振幅の平均値とされ、推定される物標信号成分の位相は、他の複素受信信号の位相から補間または外挿される。これにより、複素受信信号が干渉信号を含む場合において、物標信号成分が復元される。そのため、他のレーダ装置から発射される電波のパルス幅が、レーダ装置100から放射されるレーダ送信信号のパルス幅と同程度に長い場合であっても、比較的長い時間幅にわたって複素受信信号が同一の値(ゼロ)に置き換えられることがない。従って、干渉信号を正確に除去して、物標信号が検出しやすくなる。
【0104】
また、レーダ装置100(干渉除去器33)では、干渉信号の検出時において、複数の複素受信信号に基づいて干渉信号を検出する。もし複素受信信号が干渉信号を含む場合、その複素受信信号は、干渉信号を含まない複素受信信号と比べて、振幅値が異なると考えられる。そのため、複数の複素受信信号を比較することで干渉信号を正確に検出することが可能となる。
【0105】
<実施形態の変更例>
上述した実施形態に係るレーダ装置は例示に過ぎず、これに基づいて以下に示すような変更を行うことが可能である。
【0106】
上記実施形態では、本発明のレーダ装置の一例として船舶用レーダ装置を適用した場合について説明したが、レーダ装置の他の例として、パルス電波を利用可能なレーダ装置であればよく、例えば、気象レーダ、港湾監視レーダ等の用途に適用されるレーダ装置でもよい。
【0107】
上記実施形態の干渉除去器33では、振幅算出器332を構成した例について示したが、複数の複素受信信号から干渉信号を検出することができれば、振幅算出器332を構成する必要はない。
【0108】
さらに、信号処理部3、または、干渉除去器33の形態として、例えば、半導体モジュール、半導体チップとすることも可能である。
【0109】
上記実施形態のレーダ装置では、干渉信号の検出処理時において、5スイープで得られた5つの複素受信信号を参照する場合について説明したが、このような例に限られない。5つの複素受信信号を参照することは、干渉信号を検出するための一方策に過ぎない。干渉信号を検出するために、2スイープで得られる2つの複素受信信号(例えば、(Zi−1,Z)、(Z,Zi+1),(Zi−2,Z)、または、(Zi+2,Z)など)、または、3スイープ以上で得られる複数の複素受信信号を参照して検出され得る。
【0110】
また、上記実施形態では、検出器333は、複素受信信号Zの振幅がしきい値Th以上のときに干渉信号を検出する場合を例に説明したが、複素受信信号Zの振幅Aがしきい値Th以上となり、かつ、振幅Aが他の複素受信信号の振幅に比べて孤立して大きい場合(例えば、Aの値と、所定の他の複素受信信号の振幅(最小値、最大値、または、平均値、など)との差が、所定値以上である場合)に、干渉信号を検出するようにしてもよい。この場合にも、干渉信号を正確に検出することができる。
【0111】
上記実施形態のレーダ装置では、物標信号成分(振幅または/および位相)の推定処理時において、5スイープで得られた5つの複素受信信号(すなわち、I信号およびQ信号)を参照する場合について説明したが、このような例に限られない。5つの複素受信信号を参照することは、物標信号成分を推定するための一方策に過ぎない。複素受信信号の物標信号成分を推定するために、2スイープで得られる2つの複素受信信号(例えば、(Zi−1,Z)、(Z,Zi+1)、(Zi−2,Z)、または、(Zi+2,Z)など)、または、3スイープ以上の複数の複素受信信号(すなわち、I信号およびQ信号)を参照して推定され得る。
【0112】
上記実施形態のレーダ装置では、干渉信号の検出および物標信号成分の推定のための各複素受信信号(Zi−2,Zi−1,Z,Zi+1,Zi+2)は、レーダ装置から等距離の信号とした場合を例に説明したが、これに限られない。干渉信号の検出および物標信号成分の推定を行うことができれば、例えば同一方位の信号である各複素受信信号を用いるようにしてもよい。あるいは、所定の範囲の距離(d)と所定の範囲の方位(n)とで定義される領域(例えば、2×2の領域,2×3の領域,3×2の領域)内の各複素受信信号を用いるようにしてもよい。
【0113】
上記実施形態のレーダ装置では、信号処理部3(干渉除去器33)をハードウエア構成とした場合を例について示したが、信号処理部3(干渉除去器33)の機能をソフトウエアによって実現するようにしてもよい。この場合には、ROM等の記録媒体からプログラムを読み込んだCPU等の制御部が、実施形態の信号処理部3(干渉除去器33)の機能(例えば、図9および図10に示した一連の処理等)を実現することが可能となる。
【符号の説明】
【0114】
1 アンテナ
2 送受信部
3 信号処理部
4 表示装置
33 干渉除去器
331 メモリ
332 振幅算出器
333 検出器
334 推定器
3341 算出器
3342 置換器
33411 振幅決定器
33412 位相決定器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の複素受信信号を取得する取得部と、
前記複数の複素受信信号から干渉信号を検出する検出部と、
前記複数の複素受信信号に基づいて、前記干渉信号を含む複素受信信号の物標信号成分を推定する推定部と、
を備える干渉除去装置。
【請求項2】
前記推定部は、前記複数の複素受信信号に基づいて前記物標信号成分を算出する算出部と、前記干渉信号を含む複素受信信号を前記物標信号成分に置き換える置換部と、を有する、
請求項1に記載の干渉除去装置。
【請求項3】
前記検出部は、前記複数の複素受信信号の振幅に基づいて干渉信号を検出する、
請求項1または2に記載の干渉除去装置。
【請求項4】
前記推定部の算出部は、前記複数の複素受信信号の振幅に基づいて前記物標信号成分の振幅を決定する振幅決定部と、前記複数の複素受信信号の位相に基づいて前記物標信号成分の位相を決定する位相決定部と、を有し、
前記推定部の置換部は、前記振幅決定部および前記位相決定部の出力を用いて前記複素受信信号を置き換える、
請求項2に記載の干渉除去装置。
【請求項5】
前記算出部の振幅決定部は、前記複数の複素受信信号の振幅の平均値を前記複素受信信号の振幅として決定する、
請求項4に記載の干渉除去装置。
【請求項6】
前記検出部は、前記複数の複素受信信号のうち、検出対象の複素受信信号の振幅としきい値とを比較して干渉信号を検出する、
請求項2ないし5のいずれか1項に記載の干渉除去装置。
【請求項7】
前記検出部は、前記複素受信信号の振幅が前記しきい値以上のときに、干渉信号を検出する、
請求項6に記載の干渉除去装置。
【請求項8】
前記検出部は、前記複素受信信号の振幅が前記しきい値以上となり、かつ、その複素受信信号の振幅値が他の複素受信信号の振幅に比べて孤立して大きい場合に、干渉信号を検出する、
請求項6に記載の干渉除去装置。
【請求項9】
前記検出部は、前記複数の複素受信信号の振幅の平均値に基づいて設定される値を前記しきい値として定める、
請求項6ないし8のいずれか1項に記載の干渉除去装置。
【請求項10】
前記検出部は、前記複数の複素受信信号のいずれか1つを予め設定された条件に応じて選択的に取得し、取得された複素受信信号の振幅を前記しきい値として定める、
請求項6ないし8のいずれか1項に記載の干渉除去装置。
【請求項11】
前記検出部は、前記平均値を前記しきい値とする、
請求項9に記載の干渉除去装置。
【請求項12】
前記検出部は、前記平均値に対して所定の数値を乗じた値を前記しきい値とする、
請求項9に記載の干渉除去装置。
【請求項13】
前記検出部は、前記平均値に対して所定の数値を加算した値を前記しきい値とする、
請求項9に記載の干渉除去装置。
【請求項14】
前記推定部の算出部は、前記物標信号成分を算出するときに、前記干渉信号を含む複素受信信号が除かれた複数の複素受信信号に基づいて前記物標信号成分を算出する、
請求項2に記載の干渉除去装置。
【請求項15】
前記推定部の算出部は、前記物標信号成分を算出するときに、前記干渉信号を含む複素受信信号が加えられた複数の複素受信信号に基づいて前記物標信号成分を算出する、
請求項2に記載の干渉除去装置。
【請求項16】
前記複数の複素受信信号は、サンプリング位置が隣接している、
請求項1ないし15のいずれか1項に記載の干渉除去装置。
【請求項17】
前記複数の複素受信信号は、同一方位の信号である、
請求項1ないし15のいずれか1項に記載の干渉除去装置。
【請求項18】
前記複数の複素受信信号は、レーダ装置から等距離の信号である、
請求項1ないし15のいずれか1項に記載の干渉除去装置。
【請求項19】
前記取得部は、前記複数の複素受信信号を記憶するための記憶部である、
請求項1ないし18のいずれか1項に記載の干渉除去装置。
【請求項20】
請求項1ないし19のいずれか1項に記載のレーダ干渉除去装置と、
レーダ受信信号の復調時においてパルス圧縮処理を行うパルス圧縮部と、
を備える信号処理装置。
【請求項21】
請求項20に記載の信号処理装置と、
レーダ送信信号を放射して得られるレーダ受信信号を前記信号処理装置へ出力する送受信部と、
を備えるレーダ装置。
【請求項22】
複数の複素受信信号を取得するステップと、
前記複数の複素受信信号から干渉信号を含む複素受信信号を検出するステップと、
前記複数の複素受信信号に基づいて、前記干渉信号を含む複素受信信号の物標信号成分を推定するステップと、
を備える干渉除去方法。
【請求項23】
請求項22に記載の干渉除去方法をコンピュータに実行させるためのプログラム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2012−37306(P2012−37306A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−176011(P2010−176011)
【出願日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(000166247)古野電気株式会社 (441)
【Fターム(参考)】