説明

平版印刷版の処理方法

【課題】陽極酸化されたアルミニウム支持体とハロゲン化銀乳剤層の間に物理現像核を有する銀錯塩拡散転写法を利用した平版印刷版において、多数枚の印刷時に発生する細線やハイライト部の飛びの少ない、微小画像の耐刷性が改善された平版印刷版の処理方法を提供しする。
【解決手段】陽極酸化されたアルミニウム支持体とハロゲン化銀乳剤層の間に物理現像核を有する銀錯塩拡散転写法を利用した平版印刷版を露光、現像処理後に前記平版印刷版を、チタン、ジルコニウム、亜鉛及びハフニウムの中から選ばれる金属のフッ化物の中の少なくとも1つの化合物を含む処理液で処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム板を支持体とする、銀錯塩拡散転写法を利用したアルミニウム平版印刷版の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銀錯塩拡散転写法(DTR法)を用いた平版印刷版については、フォーカル・プレス、ロンドン ニューヨーク(1972年)発行、アンドレ ロット及びエディス ワイデ著、「フォトグラフィック・シルバー・ハライド・ディヒュージョン・プロセシズ」、第101頁〜第130頁に幾つかの例が記載されている。
【0003】
その中で述べられているように、DTR法を用いた平版印刷版には、転写材料と受像材料を別々にしたツーシートタイプ、あるいはそれらを一枚の支持体上に設けたモノシートタイプの二方式が知られている。ツーシートタイプの平版印刷版については、特開昭57−158844号公報に詳しく記載されている。又、モノシートタイプについては、特公昭48−30562号、同51−15765号、特開昭51−111103号、同52−150105号などの各公報に詳しく記載されている。
【0004】
本発明が対象とするアルミニウム板を支持体とする、銀錯塩拡散転写法を利用したモノシートタイプの平版印刷版(以降、アルミニウム平版印刷版と称す)は、特開平10−198037号、同平10−244775号、同平10−264549号、同平11−52576号、同平11−95438号、同平11−305448号、特開2000−181052号、同2000−267267号等の公報に詳しく記載されている。
【0005】
前記アルミニウム平版印刷版は、粗面化され陽極酸化されたアルミニウム支持体上に物理現像核を担持し、更にその上にハロゲン化銀乳剤層を設けた構成になっている。この平版印刷版の一般的な製版方法は、露光後、現像処理、水洗処理(ウォッシュオフ:ハロゲン化銀乳剤層の除去)、仕上げ処理及び乾燥の工程からなっている。
【0006】
詳細には、現像処理によって物理現像核上に金属銀画像部が形成され、次の水洗処理によってハロゲン化銀乳剤層が除去されてアルミニウム支持体上に金属銀画像部(以降、銀画像部と称す)が露出する。同時に陽極酸化されたアルミニウム表面自身が非画像部として露出する。ハロゲン化銀乳剤層が除去される水洗処理工程においては、現像処理と水洗処理の間に中和処理が施される場合もある。
【0007】
露出した銀画像部及び非画像部には、その保護のためにアラビアゴム、デキストリン、カルボキシメチルセルロース、ポリスチレンスルホン酸等の保護コロイドを含有する仕上げ液が塗布される。所謂、ガム引きと云われる処理が施される。この仕上げ液は、定着液やフィニッシング液とも称される。
【0008】
また、必要に応じて特開平11−180063号、同平11−160878号、同平11−184096号、同平11−184098号、同平11−184099号等の公報に記載のスターター液も用いられる。スターター液とは通常の製版用処理液とは別に平版印刷版の非画像部の親水性や画像部の親油性を高める方法として印刷開始前もしくはその直前に、版面に塗布する液であり、このスターター液には画像部へ親油性や非画像部への親水性を強力に付与する機能を持たすことが可能である。
【0009】
上記のアルミニウム平版印刷版は、フイルムやRC紙等のフレキシブル支持体上に順に下塗層、ハロゲン化銀乳剤層および物理現像核層を設けた平版印刷版に比べて、耐刷力に優れた印刷版が得られ易いという利点を有している反面、かかるアルミニウム平版印刷版は依然として種々の問題を有している。即ち、アルミニウム平版印刷版は現像処理の段階で強アルカリの現像液に浸されるため、ハロゲン化銀乳剤層を通して浸透した現像液により陽極酸化膜が溶解されるため、ロングラン(多数枚)の印刷の間には給湿液中の親水化剤や界面活性剤等の影響で銀画像表面が徐々に親水化されたりする事によって画像が劣化するという問題があった。
【0010】
銀錯塩拡散転写法を用いる平版印刷版に耐刷力を改良する手段として、特開平7−199473号公報(特許文献1)には、実質的にバインダーを含まない物理現像核か、非ゼラチン性バインダーを含む物理現像核を用いた平版印刷版を物理現像後、アルキレンオキサイドまたはポリアルキレンオキサイドを含む処理液で版面を処理する方法が提案されている。特開平10−133381号公報(特許文献2)には水洗液や現像液、仕上げ液にメルカプト基またはチオン基を有する化合物を含有させる方法が、同平11−180064号公報(特許文献3)等には親油化剤とともに水溶性沃化物を用いる方法が記載されている。これらの方法は転写銀画像表面を親油性の化合物で密に被覆させることによって親水性物質が銀画像表面を親水化することを防ぐことにより耐刷力を向上させることを狙ったものである。しかし、銀画像表面の親水化を抑制したり、親油性を積極的に向上させることにより耐刷力、特にベタ部や比較的大きな文字や罫線などの耐刷力は顕著に改善されるが、細線やハイライト部などの様に微小な銀画像部の場合にはロングラン(多数枚)の印刷の間には、銀画像表面から親油化剤の一部が脱離する結果、銀画像表面の親水化が徐々に進行し、やがて画像が劣化し、十分満足できる耐刷力を有するものではなかった。
【特許文献1】特開平7−199473号公報、第1頁〜第3頁
【特許文献2】特開平10−133381号公報、第1頁〜第3頁
【特許文献3】特開平11−180064号公報、第1頁〜第3頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
発明の目的は、陽極酸化されたアルミニウム支持体とハロゲン化銀乳剤層の間に物理現像核を有する銀錯塩拡散転写法を利用した平版印刷版において、ロングラン(多数枚)の印刷時に発生する細線やハイライト部の飛びの少ない、微小画像の耐刷性が改善された平版印刷版の処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の上記目的は、以下の発明によって達成された。
1)粗面化され陽極酸化されたアルミニウム支持体とハロゲン化銀乳剤層の間に物理現像核を有する銀錯塩拡散転写法を利用した平版印刷版を露光、現像処理後に前記平版印刷版をチタン、ジルコニウム、亜鉛及びハフニウムの中から選ばれる金属のフッ化物の中の少なくとも1つの化合物を含む処理液。
2)前記処理液が、更に、プロピレンオキシ基とエチレンオキシ基を有するアミン化合物もしくはプロピレンオキシ基とエチレンオキシ基を有する脂肪酸アミド化合物の中から選ばれる少なくとも1つを含有する上記1)記載の処理液。
3)前記処理液が、更に、メタリン酸もしくはその塩を含有する上記2)に記載の処理液。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、多数枚の印刷時にも細線やハイライト部の飛びの少ない微小画像の耐刷性が改善された平版印刷版が得られた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明を詳細に説明する。本発明における効果は平版印刷版を現像処理して以降適用することにより、その効果を発現するものであるが、例えば中和液、水洗液、仕上げ液、またはスターター液に適用される。より好ましくは水洗によりハロゲン化銀乳剤層が除去された後に処理すること、即ち、仕上げ液またはスターター液として用いることである。また、水洗液に適用する場合には、同時に仕上げ液にも適用することが好ましい。
【0015】
本発明で用いられるチタン、ジルコニウム、亜鉛またはハフニウムのフッ化物として、フッ化チタンカリウム、フッ化チタンナトリウム、フッ化チタン酸アンモニウム、フッ化ジルコニウムカリウム、フッ化ジルコニウムナトリウム、フッ化亜鉛、フッ化ハフニウム等の化合物が使用できる。
【0016】
上記のフッ素化合物の添加量は処理液1リットル当たり1×10-4〜0.25モルの範囲で含有させることができる。スターター液に適用される場合の好ましい添加量は2.5×10-4〜5.0×10-2モル、仕上げ液に適用される場合は5×10-3〜0.1モルの範囲である。また、水洗液に適用される場合は2.5×10-4〜5×10-3モルであり、その際、仕上げ液にも同時に2.5×10-3〜5×10-2モルの範囲で添加されることが好ましい。
【0017】
本発明がスターター液に適用される場合、印刷開始前に版面に塗布する形式で用いられる。その使用時期は、印刷版が一連の製版工程を終了し、版面が乾燥した後、印刷機に装着され、印刷が開始されるまでの間であればいずれの時期であっても処理可能である。
【0018】
また、前記スターター液の版面への塗布方法はウエスやスポンジ等を使用した手作業による塗布の他、市販の自動塗布装置を用いて塗布することも可能である。
【0019】
スターター液にはアルミニウム平版印刷版の表面を保護する目的でアラビアゴム、デキストリン、カルボキシメチルセルロース、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルアルコール等のポリマーを含有する事が好ましい。
【0020】
また、一般的に用いられている保恒剤、保存剤等を混合することができる。例えばイミノ二酢酸、エチレンジアミン四酢酸等のキレート剤も混合することができる。
【0021】
更に処理液pHを2〜10、好ましくは3〜8の範囲に緩衝させる緩衝剤、例えば燐酸塩緩衝剤、クエン酸塩緩衝剤、硫酸塩緩衝剤またはそれらの混合物を含有することができる。
【0022】
また、アルミニウム表面に対して防錆性を向上させるためにアルカノールアミン化合物を混合する事もできる。
【0023】
水洗液に本発明を適用した場合、該水洗液にはpHを2〜10、好ましくは3〜8の範囲に緩衝させる緩衝剤、例えば燐酸塩緩衝剤、クエン酸塩緩衝剤またはそれらの混合物を含有することができる。また、防腐剤を含有させてもよい。水洗液中には銀画像部及びアルミニウム表面自身で構成する非画像部を完全に露出させる為に、更にタンパク質分解酵素(例えば、ペプシン、レンニン、トリプシン、キモトリプシン、カテプシン、パパイン、フィシン、トロンビン、レニン、コラゲナーゼ、ブロメライン、細菌プロティナーゼ)を含有させることができる。インキを受容する銀画像部の親油性を強める為に、特公昭48―29723号公報及び特開昭58−127928号公報に記載されている親油化剤を含有させることができる。
【0024】
上記水洗液はアルミニウム支持体上のハロゲン化銀乳剤層を完全に除去するために用いるもので、25〜45℃の水洗液をジェット方式で吹き付ける方法、または水洗液を吹き付けながらスクラブローラで乳剤層を剥離する方法が一般的に用いられるが、特開平3−116151号、同平4−318553号公報に記載されている剥離シートの様なものを用いて乳剤層を除去することもできる。
【0025】
更に仕上げ液に本発明を適用した場合、仕上げ液には、非画像部の陽極酸化層の保護及び親水性向上のために、アラビヤガム、デキストリン、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸のプロピレングリコールエステル、ヒドロキシエチル澱粉、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルアルコール等の保護コロイドを含有することが好ましい。また、画像部の親油性を更に向上させるために、上記親油化剤を含有することが好ましい。更に上記酵素を含有することもできる。
【0026】
仕上げ液に本発明を適用した場合、該仕上げ液にはpHを2〜10、好ましくは2.5〜8の範囲に緩衝させる緩衝剤、例えば燐酸塩緩衝剤、クエン酸塩緩衝剤またはそれらの混合物を含有することができる。
【0027】
本発明において、現像処理後に適用する処理液には、前述した金属フッ化物とプロピレンオキシ基とエチレンオキシ基を有するアミン化合物もしくはプロピレンオキシ基とエチレンオキシ基を有する脂肪酸アミド化合物を併用するのが好ましい。金属フッ化物とプロピレンオキシ基とエチレンオキシ基を有するアミン化合物もしくはプロピレンオキシ基とエチレンオキシ基を有する脂肪酸アミド化合物を併用することによって、処理液の保存安定性が改善される。特に仕上げ液に好適である。
【0028】
前記プロピレンオキシ基(PO基)とエチレンオキシ基(EO基)を有するアミン化合物もしくは脂肪酸アミド化合物について、詳しく説明する。
【0029】
これらの化合物は、PO基とEO基がブロックもしくはランダムに重合した基を有するアミン化合物であり、脂肪酸アミド化合物である。PO基とEO基の重合比は、1:9〜5:5が好ましい。PO基及びEO基は1分子中にそれぞれ1〜60個の範囲で含有する。好ましくは、それぞれ2〜40個必要である。以下、具体的に説明する。
【0030】
PO基とEO基を有するアミン化合物の代表的なものは下記の一般式で表される。
【0031】
【化1】

【0032】
式中、R1及びR2は、脂肪族基、またはEO基とPO基が重合した基を表し、m及びnはそれぞれEO基またはPO基の繰り返し単位を表す。
【0033】
更に詳細に説明すると、脂肪族基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基が挙げられる。これらの脂肪族基はアミノ基等で置換されていてもよい。更に、アミノ基は脂肪族基で置換されていてもよいし、またはEO基とPO基が重合した基が付加していてもよい。好ましくは、R1,R2のどちらか一方がEO基とPO基が重合した基であり、他方が炭素数4〜18の脂肪族基である。以下に具体化合物を挙げる。
【0034】
【化2】

【0035】
【化3】

【0036】
【化4】

【0037】
【化5】

【0038】
次に、PO基とEO基を有する脂肪族アミド化合物を説明する。該化合物の代表的なものは下記一般式で表される。
【0039】
【化6】

【0040】
式中、R3は脂肪族基を表し、R4は脂肪族基またはEO基とPO基が重合した基を表す。m及びnはそれぞれEO基またはPO基の繰り返し単位を表す。
【0041】
更に詳細に説明すると、R3の脂肪族基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基が挙げられる。これらの脂肪族基は炭素数4〜18程度が好ましい。R4の脂肪族基としてはアルキル基、アルケニル基、アルキニル基が挙げられる。R4は、好ましくはEO基とPO基が重合した基である。以下に具体化合物を挙げる。
【0042】
【化7】

【0043】
【化8】

【0044】
本発明に用いられるプロピレンオキシ基とエチレンオキシ基を有するアミン化合物もしくはプロピレンオキシ基とエチレンオキシ基を有する脂肪酸アミド化合物の添加量は、1〜20g/リットル程度、好ましくは2〜10g/リットル程度である。
【0045】
更に、本発明の処理液には、メタリン酸もしくはその塩を含有することが好適である。メタリン酸もしくはその塩は、通常、(HPO3n及び(MPO3nで表されるが、広義には環状のポリリン酸及び直鎖状のポリリン酸を含み、本発明もこれらを包含する。上記一般式中、nは3以上の整数、Mはアルカリ金属原子、アンモニウム基等である。
【0046】
本発明に用いられるメタリン酸もしくはその塩の分子量は、240〜100万程度、好ましくは1000〜20000程度のものである。例えば、ヘキサメタリン酸ソーダとして、市販されているものを用いることができる。
【0047】
本発明の処理液へのメタリン酸もしくはその塩の添加量は、5〜200g/リットル程度、好ましくは10〜100g/リットル程度である。
【0048】
本発明が対象とする平版印刷版は、アルミニウム支持体上に物理現像核及びハロゲン化銀乳剤層を有する。ハロゲン化銀乳剤は、一般に用いられる塩化銀、臭化銀、ヨウ化銀、塩臭化銀、塩ヨウ臭化銀、ヨウ臭化銀等から選択されるが、塩化銀主体(塩化銀50モル%以上のものを意味する)が好ましい。また乳剤のタイプとしてはネガ型、ポジ型のいずれでもよい。これらのハロゲン化銀乳剤は必要に応じて化学増感あるいはスペクトル増感することができる。
【0049】
ハロゲン化銀乳剤層の親水性コロイドとしてはゼラチンを用いることがハロゲン化銀粒子を作成する際に好ましい。ゼラチンには酸処理ゼラチン、アルカリ処理ゼラチン等各種ゼラチンを用いることができる。また、それらの修飾ゼラチン(例えばフタル化ゼラチン、アミド化ゼラチンなど)も用いることができる。また、更にポリビニルピロリドン、各種でんぷん、アルブミン、ポリビニルアルコール、アラビアガム、ヒドロキシエチルセルロース、等の親水性高分子化合物を含有させることができる。用いられる親水性コロイドとしては、現像後の剥離性を容易にするために実質的に硬膜剤を含まない親水性コロイド層を用いることが望ましい。
【0050】
本発明の平版印刷版の乳剤層には、必要に応じてアニオン、カチオン、ベタイン、ノニオン系の各種界面活性剤、カルボキシメチルセルロース等の増粘剤、消泡剤等の塗布助剤、エチレンジアミンテトラアセテート等のキレート剤、ハイドロキノン、ポリヒドロキシベンゼン類、3−ピラゾリジノン類等の現像主薬を含有させてもよい。
【0051】
本発明に用いられるアルミニウム支持体は、粗面化され、陽極酸化されたアルミニウム板であり、特開昭63−260491号、米国特許第5,427,889号公報に記載された方法、または一般に知られているPS版用のアルミニウム支持体の製造方法等によって作ることができる。
【0052】
本発明で用いられる物理現像核層の物理現像核としては、公知の銀錯塩拡散転写法に用いられるものでよく、例えば金、銀等のコロイド、パラジウム、亜鉛等の水溶性塩と硫化物を混合した金属硫化物などが使用できる。保護コロイドとして各種親水性コロイドを用いることもできる。これらの詳細及び製法については、例えば、特公昭48−30562号、特開昭48−55402号、同53−21602号公報、フォーカル・プレス、ロンドン ニューヨーク(1972年)発行、アンドレ ロット及びエディス ワイデ著、「フォトグラフィック・シルバー・ハライド・ディヒュージョン・プロセシズ」を参照し得る。
【0053】
本発明において、物理現像核層とハロゲン化銀乳剤層の間に、特開平3−116151号公報記載の水膨潤性中間層、同平4−282295号公報に記載の疎水性重合体ビーズを含有する中間層を設けてもよい。
【0054】
上記アルミニウム平版印刷版の現像処理方法としては多量の現像液を槽中に貯留し、その槽中に平版印刷版を挿入する現像処理方法及び特開平6−51521号、同平6−51520号、同平7−234517号、特開2001−174970号公報に開示されている様な平版印刷版上に現像液を塗布する現像処理方法のいずれの方法であっても得られた平版印刷版は使用することができる。
【0055】
以下に本発明を実施例により説明する。
【実施例1】
【0056】
幅1030mm、厚み0.24mmのA1050タイプアルミニウム板帯を13m/minの処理速度で移動させ、60℃、4%水酸化ナトリウム水溶液に10秒間浸漬した後、水洗し、30℃の1.5%の塩酸と2%の酢酸を満たした間接給電方式の電解槽に浸漬し、電源より40A/dm2、50Hzの単相交流電流を30秒間流して、交流電解粗面化し、水洗し、その後70℃、6%硝酸水溶液に10秒間浸漬してデスマットし、水洗し、乾燥した。さらに25℃、20%硫酸中に通し、陽極酸化を行い、陽極酸化アルミニウム量2.0g/m2のアルミニウム支持体を得た。
【0057】
これらのアルミニウム支持体に硫化パラジウム核液を塗布し、その後乾燥した。物理現像核層に含まれる核量は1mg/m2であった。
【0058】
ハロゲン化銀乳剤の調製は、保護コロイドとしてアルカリ処理ゼラチンを用い、コントロールダブルジェット法で平均粒径0.2μmの、ヘキサクロロイリジウム(III)酸カリウムを銀1モル当たり0.006ミリモルドープさせた臭化銀15モル%、ヨウ化銀0.4モル%の塩ヨウ臭化銀乳剤を調製した。その後、この乳剤をフロキュレーションさせ、洗浄した。さらにこの乳剤に硫黄金増感を施した後、安定剤を添加し、増感色素を銀1g当たり3mg用いて赤色領域に分光増感した。
【0059】
このようにして作成したハロゲン化銀乳剤に界面活性剤を加えて塗布液を作成した。この乳剤層塗布液を前記物理現像核が塗布されたアルミニウム支持体上に銀量が2g/m2、ゼラチン量が2.0g/m2になるように塗布乾燥して平版印刷材料を得た。
【0060】
上記平版印刷材料を赤色半導体レーザーであるイメージセッターSDP−α2400(三菱製紙(株)社製)で2400dpi、175lpiで50mm×50mmの30%網点画像と線幅50μmで縦横の長さ20mmの十字形の細線画像を含む画像の出力を行い、次に製版用プロセッサー(三菱製紙(株)社製P−α880自動現像機)で処理して平版印刷版を作成した。製版用プロセッサーは、現像処理工程(22℃、10秒間浸漬)、水洗処理工程(33℃の水洗液を10秒間シャワー噴射しながらスクラブローラで乳剤層をウオッシュオフする)、仕上げ処理工程(20℃、5秒間ローラー塗布)及び乾燥工程から構成されている。
【0061】
用いた処理液を下記に示す。
〈現像液〉
水酸化ナトリウム 30g
ポリスチレンスルホン酸と無水マレイン酸共重合体
(平均分子量50万) 10g
ハイドロキノン 15g
1−フェニル−3ピラゾリジノン 3g
亜硫酸ナトリウム 100g
モノメチルエタノールアミン 50g
2−メルカプト−5−nヘプチルオキサジアゾール 0.1g
5メルカプト−1フェニルテトラゾール 0.8g
5メチルベンゾトリアゾール 0.2g
チオ硫酸ナトリウム 20g
アミノトリメチレンホスホン酸 7g
硫酸カルシウム 1g
水を加えて全量を1000mlに調整する。pHは13.3に調整した。
【0062】
〈水洗液〉
2−メルカプト−5−nヘプチルオキサジアゾール 0.5g
トリエタノールアミン 20g
重亜硫酸カリウム 6g
アミノトリメチレンホスホン酸 20g
タンパク質分解酵素 1g
水を加えて全量を1000mlに調整する。pHは7.4に調整した。
タンパク質分解酵素として、ビオプラーゼAL−15(細菌プロティナーゼ、長瀬産業(株)製)を用いた。
【0063】
〈仕上げ液〉
燐酸 100g
N−メチルエタノールアミン 30g
2−メルカプト−5−nヘプチルオキサジアゾール 0.5g
ポリプロピレングリコールアルキルエーテル 90g
硝酸ソーダ 20g
アラビアゴム 50g
エチレンジアミン4酢酸 0.5g
タンパク質分解酵素 1g
脱イオン水で1000mlとする。pHは5.4に調整した。
【0064】
上記処理液を用いて処理されたアルミニウム平版印刷版を以下に示すスターター液を富士写真フイルム(株)社製PS版ガムコーター・ドライヤー DU−8002を用いて塗布乾燥させた。
【0065】
〈スターター液〉
トリエタノールアミン 5g
アラビアガム 10g
85% リン酸 2g
フッ素化合物 表1に記載
脱イオン水で1000mlとする。pHは5.5に調整した。
【0066】
【表1】

【0067】
上記版を印刷機ハイデルベルグTOK(Heidelberg社製オフセット印刷機の商標)に装着し印刷を行った。インキは大日本インキ化学工業(株)社製のGEOS−G藍H、給湿液は日研化学研究所製のPS版用酸性給湿液アストロマーク3の2%希釈液を用いて印刷を行い、10万枚印刷時の印刷物の網点部の濃度変化及び細線部の線幅の変化により耐刷性の評価を行った。印刷性の評価は、網点部は印刷物の反射濃度の変化により、細線部は線幅の変化により以下の5段階で評価した。
<網点部評価基準>
5点 網点濃度の変化が全く見られない。
4点 網点濃度変化が5%以内。
3点 網点濃度変化が10%以内
2点 網点濃度変化が25%以内
1点 網点濃度変化が25%以上
<細線部評価基準>
5点 細線の線幅の変化が10%以内
4点 細線の線幅の変化が25%以内
3点 細線の線幅の変化が50%以内
2点 細線の線幅の変化が75%以内
1点 細線の線幅の変化が75%以上
【0068】
表1の結果より本発明の処理方法をスターター液に用いる事により、網点部及び細線部の画像劣化が少なく、微小画像の耐刷性が顕著に改善されることが分かる。
【実施例2】
【0069】
本発明を仕上げ液に適用した。下記仕上げ液を用いて平版印刷版の処理を行った以外は実施例1と同様に実施した。
【0070】
〈仕上げ液〉
アラビアゴム 20g
リン酸 20g
フッ素化合物 表2に記載
N−メチルエタノールアミン 20g
2−メルカプト−5−nヘプチルオキサジアゾール 0.5g
脱イオン水で1000mlとする。pHは4.5に調整した。
【0071】
この様にして作成した平版印刷版を、実施例1と同様の方法で印刷し、評価を行った。表2に結果を示す。
【0072】
【表2】

【0073】
表2の結果より本発明の処理方法を仕上げ液に用いる事により、網点部及び細線部の画像劣化が少なく、微小画像の耐刷性が顕著に改善されることが分かる。
【実施例3】
【0074】
下記仕上げ液を用いて35℃条件下で経時保存し、処理液の保存安定性試験を行った。また、これらの仕上げ液を用いて処理を行った平版印刷版を、実施例1と同様の方法で印刷し、評価を行った。
【0075】
〈仕上げ液9〉
仕上げ液5に化2の化合物を5g加えた。
【0076】
〈仕上げ液10〉
仕上げ液5に化7の化合物を5g加えた。
【0077】
〈仕上げ液11〉
仕上げ液5にメタリン酸ソーダを40g加えた。
【0078】
〈仕上げ液12〉
仕上げ液5に化2の化合物を2.5g、メタリン酸ソーダを20g加えた。
【0079】
〈仕上げ液13〉
仕上げ液5に化7の化合物を2.5g、メタリン酸ソーダを20g加えた。
【0080】
35℃条件下での経時保存後、各仕上げ液の白濁及び沈降の状態を以下の3段階で評価した。また、印刷性の評価は、前記実施例1と同様の方法で評価した。
<白濁及び沈降の状態>
○ 白濁及び沈降なし
△ 若干、白濁及び沈降あり
× 多量に白濁及び沈降あり
【0081】
【表3】

【0082】
表3の結果より仕上げ液の経時保存性が良好で、経時保存後においても良好な耐刷性を付与できることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粗面化され陽極酸化されたアルミニウム支持体とハロゲン化銀乳剤層の間に物理現像核を有する平版印刷版を露光、現像処理後、印刷までの任意の時期に、チタン、ジルコニウム、亜鉛及びハフニウムの中から選ばれる金属のフッ化物の中の少なくとも1つの化合物を含む処理液で処理することを特徴とする平版印刷版の処理方法。
【請求項2】
該処理液が、更に、プロピレンオキシ基とエチレンオキシ基を有するアミン化合物もしくはプロピレンオキシ基とエチレンオキシ基を有する脂肪酸アミド化合物の中から選ばれる少なくとも1つを含有する請求項1に記載の処理液。
【請求項3】
該処理液が、更に、メタリン酸もしくはその塩を少なくとも1つ含有する請求項1及び2に記載の処理液。

【公開番号】特開2006−85117(P2006−85117A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−323310(P2004−323310)
【出願日】平成16年11月8日(2004.11.8)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】