説明

平版印刷版原版の製版方法

【課題】インクジェット方式によるダイレクト製版が可能であり、優れた画像品質と耐刷性を両立させることが可能な平版印刷版原版の製版方法を提供する。
【解決手段】耐水性支持体上に無機微粒子を主体に含有する画像受理層を有する平版印刷版原版に、インクジェット方式により水性顔料インクを印字した後に、油性インキを使用して印刷を行う平版印刷版原版の製版方法において、平版印刷版原版のインク吸収容量が、水性顔料インクの最大インク吐出量以上であり、且つ平版印刷版に残存する水性顔料インク量が該最大インク吐出量の80%以下になるようインクを乾燥させた後に不感脂化処理し印刷を行うことを特徴とする平版印刷版原版の製版方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デジタル情報からダイレクトに製版するための平版印刷版原版の製版方法に関し、詳しくはインクジェット方式によるダイレクト製版が可能な平版印刷版原版の製版方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、印刷分野で使用されている平版印刷版原版としては、(1)耐水性支持体上に画像受理層を設けた直描型のもの、(2)耐水性支持体上に光導電層を設けた電子写真型のもの、(3)耐水性支持体上にハロゲン化銀乳剤層を設けた銀塩写真型のもの、(4)金属等の支持体上に感光性樹脂を設けたPS版等が挙げられる。中でも前記の(1)の平版印刷版原版は、画像受理層上に親油性の画像を形成することにより製版が直接行えるので、他の前記(2)、(3)、(4)の平版印刷版原版に比較して簡単に版を作製することができる。
【0003】
電子編集された情報をデジタル電気信号に変換して、直接画像受理層上に画像情報を書き込む方法としては例えばレーザービームプリンターが挙げられる。この方法を利用した場合、電子編集された情報を簡単に拡大縮小、ネガポジ変換、網掛け等ができるため、多くの機能を持たせることができる。近年求められる印刷画像の高画質化のためにはレーザービームプリンターは解像度を上げる必要があるが、このようなレーザービームプリンターは一般にトナーの粒子が細かくされるため、現像部周辺にトナーが飛散しやすく、非画像部に飛散したトナーはトナーカブリと呼ばれる印刷汚れを招く。
【0004】
一方、インクジェット方式により画像受理層上に画像情報を直接印字した場合、前記したトナーカブリは著しく改善される。しかし最も一般に普及しているインクジェット方式に用いるインクは、溶媒として主に水を用いたものであり、他に染料あるいは顔料、アルコール類、各種添加剤等を含んでいる。このため印字部(画像部)は親油性の成分を含んでいないかごく少量のため、画像部の親油性と非画像部の親水性の差が十分でなく、十分な耐刷性を有する平版印刷版が得られないのが現状である。
【0005】
インクジェット方式により画像受理層上に画像情報を直接印字し、その後印刷する際に用いる平版印刷版原版としては、耐水性支持体上にポリマータイプの画像受理層を設けた平版印刷版原版が知られている。例えば、特開平5−204138号公報には線状有機ポリマーを含有する画像受理層を設けた平版印刷版原版が開示され、特開2000−108537号公報には酸基を有する構成成分とオニウム基を有する構成成分からなるポリマーを含有する画像受理層を設けた平版印刷版原版が開示され、特開2000−233581号公報にはジエン構造を有する基をペンダントしたポリマーを含有する画像受理層を設けた平版印刷版原版が開示される。また特開2006−264093号公報にはカルボジイミド基を有する架橋剤で架橋した親水性ポリマーと界面活性剤を含有する画像受理層を設けた平版印刷版原版が開示される。しかしながらこれらポリマータイプの平版印刷版原版では、良好な画像品質が得られず、耐刷性を十分満足できるものではなかった。
【0006】
一方、前記したポリマータイプの平版印刷版原版に対して、無機微粒子等を主体に含有することで多孔質な画像受理層を有する平版印刷版原版も知られており、このようなタイプの画像受理層としては、例えば、特開平8−324145号公報(特許文献1)には、酸化亜鉛やアルミナ等の不感脂性の金属酸化物粉末で構成される画像受理層が、特開平9−29926号公報(特許文献2)にはインクジェットインクを取り込むための多孔質、あるいは粒子状形態を備えた画像受理層が、特開平9−58144号公報(特許文献3)には、高分子バインダーと、クレー、シリカ、アルミナ等のエッチ液で親水化する顔料、および表面に凹凸を形成させるための顔料を含有する画像受理層が、特開平9−99662号公報(特許文献4)には、平均一次粒子径が100nm以下の無機微粒子と水溶性樹脂から形成される3次元網目構造を有する画像受理層が、また特開2000−44884号公報(特許文献5)には無機ゲル分散液をコーティングして得られる無機キセロゲルを有する画像受理層等がそれぞれ開示される。
【0007】
また上記した多孔質な画像受理層にコロイダルシリカを用いることも従来から知られており、例えば前述の特許文献4の他に、特開平10−296945号公報(特許文献6)、特開平10−315645号公報(特許文献7)には、平均粒子径が1〜6μmの無機微粒子と、平均一次粒子径が10〜50nmのコロイダルシリカを含有する画像受理層が開示される。更に画像受理層として多孔質な層を複数設けることも知られており、例えば特開2003−231374号公報(特許文献8)、特開2004−42531号公報(特許文献9)には、コロイダルシリカを主体に含有する下塗り層と親水性層を設けた平版印刷版原版が開示され、特開2007−190804号公報(特許文献10)には支持体に近い画像受理層の無機顔料/バインダー比が支持体より遠い画像受理層の比よりも小さくした平版印刷版原版が開示される。
【0008】
上記した多孔質な画像受理層を有する平版印刷版原版は、画像受理層内に形成された空隙にインクジェットインクが迅速に吸収・定着されることにより優れた耐刷性が得られるが、一方では印刷開始時に汚れが発生しやすい傾向にある。刷り始めの印刷物の汚れを安定的に防止し印刷損紙を減らすためには、印刷に先立ち不感脂化処理液を画像受理層表面に供給する不感脂化処理を施すことが一般に行われる。このような不感脂化処理液としては、フェロシアン塩、フェリシアン塩を主成分とするシアン化合物含有処理液、アンミンコバルト錯体、フィチン酸およびその誘導体、グアニジン誘導体を主成分としたシアンフリー処理液、金属イオンとキレートを形成する無機酸あるいは有機酸を主成分とした処理液、あるいは水溶性ポリマーを含有した処理液等が知られており、例えば特開平10−24550号公報(特許文献11)、特開平11−256085号公報(特許文献12)等にはシアン化合物含有処理液が、前記特許文献1〜3等では金属イオンとキレートを形成する無機酸あるいは有機酸を主成分とした処理液が用いられている。また特開平10−80995号公報(特許文献13)には、油性インクで印字した後に用いる不感脂化処理として、上記した各種不感脂化処理液が記載される。
【0009】
しかしながら上記した多孔質な画像受理層を有する平版印刷版原版に不感脂化処理を行った場合、十分な耐刷性が得られない場合があり、改善が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平8−324145号公報
【特許文献2】特開平9−29926号公報
【特許文献3】特開平9−58144号公報
【特許文献4】特開平9−99662号公報
【特許文献5】特開2000−44884号公報
【特許文献6】特開平10−296945号公報
【特許文献7】特開平10−315645号公報
【特許文献8】特開2003−231374号公報
【特許文献9】特開2004−42531号公報
【特許文献10】特開2007−190804号公報
【特許文献11】特開平10−24550号公報
【特許文献12】特開平11−256085号公報
【特許文献13】特開平10−80995号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、インクジェット方式によるダイレクト製版が可能であり、優れた画像品質を有し、良好な耐刷性を有する平版印刷版を得ることが可能な、平版印刷版原版の製版方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題は以下の発明により達成される。
(1)耐水性支持体上に無機微粒子を主体に含有する画像受理層を有する平版印刷版原版に、インクジェット方式により水性顔料インクを印字した後に平版印刷を行う平版印刷版原版の製版方法において、インクジェット方式により印字される画像の最高濃度部における水性顔料インクのインク吐出量が画像受理層のインク吸収容量以下であり、且つ印字後に残存する最高濃度部分の水性顔料インク量が印字時のインク吐出量の80質量%以下になるようにインクを乾燥させた後、不感脂化処理を行うことを特徴とする平版印刷版原版の製版方法。
(2)前記平版印刷版原版が、耐水性支持体上に無機微粒子を主体に含有する画像受理層Aと、該画像受理層Aよりも耐水性支持体から離れた側に、カチオン性コロイダルシリカを主体に含有する、あるいはコロイダルシリカを主体に含有しカチオン性化合物を含有する画像受理層Bを有することを特徴とする前記(1)に記載の平版印刷版原版の製版方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によりインクジェット方式によるダイレクト製版が可能であり、優れた画像品質を有し、良好な耐刷性を有する平版印刷版を得ることが可能な、平版印刷版原版の製版方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0015】
本発明の平版印刷版原版の製版方法は、耐水性支持体上に無機微粒子を主体に含有する画像受理層を有する平版印刷版原版に、インクジェット方式により水性顔料インクを印字した後に平版印刷を行う平版印刷版原版の製版方法であり、インクジェット方式により印字される画像の最高濃度部における水性顔料インクのインク吐出量が画像受理層のインク吸収容量以下であり、且つ印字後に残存する最高濃度部分の水性顔料インク量が印字時のインク吐出量の80質量%以下になるようにインクを乾燥させた後、不感脂化処理を行うことが必須である。これにより不感脂化処理を施しても耐刷性が低下することなく良好な耐刷性が得られる。最高濃度部分の水性顔料インク量のインク吐出量が、画像受理層のインク吸収容量を超えた場合、あるいは平版印刷版に残存する水性顔料インク量がインク吐出量の80%を超える程度にしか乾燥できていない場合、水性顔料インクの溶媒成分と平版印刷版原版の表面に堆積した顔料インク粒子との分離が完全になされず、平版印刷版原版の表面と顔料インク粒子との接着性が低いまま不感脂化処理および続く印刷を行うことになり、結果として印刷時に該顔料インク粒子が印刷インキと共に剥がれてしまい十分な耐刷性が得られない。
【0016】
本発明における平版印刷版原版のインク吸収容量は、作製した平版印刷版原版の質量と、該平版印刷版原版を25℃のイオン交換水に1分間浸漬し引き揚げ、表裏面の余分な水分を吸水布でぬぐった後の質量をそれぞれ測定し、平版印刷版原版の面積とイオン交換水に浸漬する前後の質量差から、平版印刷版原版のインク吸収容量(g/m)を算出して求めることができる。
【0017】
本発明における最高濃度部における水性顔料インクのインク吐出量は、最高濃度部における水性顔料インク用インクジェットプリンターの記録直前のインクカートリッジ質量と、画像記録後のインクカートリッジ質量をそれぞれ測定し、そして画像の記録面積とインクカートリッジの質量の差分から、最高濃度部における水性顔料インクのインク吐出量を算出して求めることができる。
【0018】
本発明における平版印刷版に残存する水性顔料インク量は、作製した平版印刷版原版の質量と、水性顔料インク用インクジェットプリンターにて画像を印字・乾燥し、不感脂化処理を施す前の平版印刷版の質量を測定し、そして印字画像の記録面積と上記のようにして測定した平版印刷版原版と平版印刷版の質量差より、平版印刷版の残存インク量(g/m)を算出して求めることができる。
【0019】
本発明において平版印刷版原版のインク吸収容量を水性顔料インクの最大インク吐出量以上とする方法としては、後述する平版印刷版原版の画像受理層の無機微粒子とバインダーの配合比や塗布量で平版印刷版原版のインク吸収容量を制御する方法、もしくはプリンターのドライバー設定や記録画像の濃度を制御(例えばソフトウエア上にて画像%にて指定する)して水性顔料インクの最大インク吐出量を制御する方法があり、平版印刷版原版のインク吸収容量を決めた後に水性顔料インクの最大インク吐出量を決めてもよいし、その逆でもよい。
【0020】
本発明において印字後に残存する最高濃度部分の水性顔料インク量を印字時のインク吐出量の80質量%以下になるようにインクを乾燥させる方法としては、任意の環境下に放置し自然乾燥する方法やドライヤー等の乾燥装置を使用して強制的に乾燥する方法等が使用可能であるが、自然乾燥する場合には記録後の平版印刷版同士を重ねないようにして乾燥することが好ましく、強制乾燥する場合は熱源が記録面に接触しないようにして乾燥することが好ましい。また本発明における印字後に残存する最高濃度部分の水性顔料インク量は印字時のインク吐出量の58質量%以下とすることがより好ましい。
【0021】
本発明における耐水性支持体としては、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ジアセテート樹脂、トリアセテート樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリイミド樹脂、セロハン、セルロイド等のプラスチック樹脂フィルム、および紙と樹脂フィルムを貼り合わせたもの、基紙の両面にポリオレフィン樹脂層を被覆したポリオレフィン樹脂被覆紙等である。これらの耐水性支持体の厚みは50〜350μm、好ましくは80〜300μmのものが用いられる。
【0022】
以下にポリオレフィン樹脂被覆紙支持体(以降、ポリオレフィン樹脂被覆紙と称す)について詳細に説明する。本発明に用いられるポリオレフィン樹脂被覆紙は、その含水率は特に限定しないが、カール性より好ましくは5〜9質量%の範囲であり、より好ましくは6〜9質量%の範囲である。ポリオレフィン樹脂被覆紙の含水率は、任意の水分測定法を用いて測定することができる。例えば、赤外線水分計、絶乾重量法、誘電率法、カールフィッシャー法等を用いることができる。
【0023】
ポリオレフィン樹脂被覆紙を構成する基紙は特に制限はなく、一般に用いられている紙が使用できるが、より好ましくは、例えば、写真用支持体に用いられているような平滑な原紙が好ましい。基紙を構成するパルプとしては天然パルプ、再生パルプ、合成パルプ等を1種もしくは2種以上混合して用いられる。この基紙には一般に製紙で用いられているサイズ剤、紙力増強剤、填料、帯電防止剤、蛍光増白剤、染料等の添加剤が配合される。更に、表面サイズ剤、表面紙力剤、蛍光増白剤、帯電防止剤、染料、アンカー剤等が表面塗布されていてもよい。
【0024】
基紙の厚みに関しては特に制限はないが、紙を抄造中または抄造後カレンダー等にて圧力を印加して圧縮するなどした表面平滑性のよいものが好ましく、その坪量は30〜250g/mが好ましい。
【0025】
基紙を被覆するポリオレフィン樹脂としては、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリペンテン等のオレフィンのホモポリマーまたはエチレン−プロピレン共重合体等のオレフィンの2つ以上からなる共重合体およびこれらの混合物であり、各種の密度、溶融粘度指数(メルトインデックス)のものを単独にあるいはそれらを混合して使用できる。
【0026】
ポリオレフィン樹脂被覆紙の樹脂中には、酸化チタン、酸化亜鉛、タルク、炭酸カルシウム等の白色顔料、ステアリン酸アミド、アラキジン酸アミド等の脂肪酸アミド、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸マグネシウム等の脂肪酸金属塩、コバルトブルー、群青、セシリアンブルー、フタロシアニンブルー等のブルーの顔料や染料、コバルトバイオレット、ファストバイオレット、マンガン紫等のマゼンタの顔料や染料、蛍光増白剤、紫外線吸収剤等の各種の添加剤を適宜組み合わせて加えるのが好ましい。
【0027】
ポリオレフィン樹脂被覆紙の主な製造方法としては、走行する基紙上にポリオレフィン樹脂を加熱溶融した状態で流延する、いわゆる押出コーティング法により製造され、基紙の両面が樹脂により被覆される。また、樹脂を基紙に被覆する前に、基紙にコロナ放電処理、火炎処理等の活性化処理を施すことが好ましい。樹脂被覆層の厚みとしては、5〜50μmが適当である。
【0028】
耐水性支持体の画像受理層が塗設される側には、下塗り層を設けるのが好ましい。この下塗り層は、画像受理層が塗設される前に、予め耐水性支持体の表面に塗布乾燥されたものである。この下塗り層は、皮膜形成可能な水溶性ポリマーやポリマーラテックス等を主体に含有する。好ましくは、ゼラチン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、水溶性セルロース等の水溶性ポリマーであり、特に好ましくはゼラチンである。これらの水溶性ポリマーの付着量は、10〜500mg/mが好ましく、20〜300mg/mがより好ましい。更に、下塗り層には、他に界面活性剤や硬膜剤を含有するのが好ましい。支持体に下塗り層を設けることによって、画像受理層塗布時のひび割れ防止に有効に働き、均一な塗布面が得られる。
【0029】
本発明において画像受理層は無機微粒子を主体に含有する。ここで主体に含有するとは、画像受理層の固形分塗布量に対して、無機微粒子を50質量%以上含有することであり、より好ましくは60質量%以上含有することである。
【0030】
本発明における無機微粒子としては、非晶質合成シリカ、アルミナ、アルミナ水和物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、二酸化チタン、酸化亜鉛等公知の各種微粒子が挙げられるが、生産性の点で非晶質合成シリカ、アルミナまたはアルミナ水和物が好ましい。更に、インク吸収性の観点から、非晶質合成シリカ、中でも耐刷性の観点から、後述する気相法シリカが特に好ましく用いられる。また本発明の画像受理層が含有する無機微粒子の平均二次粒子径は1.0μm未満であることが好ましい。
【0031】
非晶質合成シリカは、製造法によって湿式法シリカ、気相法シリカ、およびその他に大別することができる。湿式法シリカは、更に製造方法によって沈降法シリカ、ゲル法シリカ、ゾル法シリカに分類される。沈降法シリカは珪酸ソーダと硫酸をアルカリ条件で反応させて製造され、粒子成長したシリカ粒子が凝集・沈降し、その後濾過、水洗、乾燥、粉砕・分級の行程を経て製品化される。沈降法シリカとしては、例えば東ソー・シリカ株式会社からニップシールとして、株式会社トクヤマからトクシールとして市販されている。ゲル法シリカは珪酸ソーダと硫酸を酸性条件下で反応させて製造する。熟成中に微小粒子は溶解し、他の一次粒子同士を結合するように再析出するため、明確な一次粒子は消失し、内部空隙構造を有する比較的硬い凝集粒子を形成する。例えば、東ソーシリカ株式会社からニップゲルとして、グレースジャパン株式会社からサイロイド、サイロジェットとして市販されている。ゾル法シリカは、コロイダルシリカとも呼ばれ、珪酸ソーダの酸等による複分解やイオン交換樹脂層を通して得られるシリカゾルを加熱熟成して得られ、例えば日産化学工業株式会社からスノーテックスとして市販されている。
【0032】
気相法シリカは湿式法に対して乾式法とも呼ばれ、一般的には火炎加水分解法によって作られる。具体的には四塩化ケイ素を水素および酸素と共に燃焼して作る方法が一般的に知られているが、四塩化ケイ素の代わりにメチルトリクロロシランやトリクロロシラン等のシラン類も、単独または四塩化ケイ素と混合した状態で使用することができる。気相法シリカは日本アエロジル株式会社からアエロジル、株式会社トクヤマからQSタイプとして市販されている。
【0033】
本発明における前記無機微粒子は、BET法による比表面積が150m/gを超える無機微粒子を使用することが好ましく、更に無機微粒子の中でも、BET法による比表面積が250m/gを超える気相法シリカが好ましく使用できる。なお、本発明でいうBET法とは、気相吸着法による粉体の表面積測定法の一つであり、吸着等温線から1gの試料の持つ総表面積、即ち比表面積を求める方法である。通常吸着気体としては、窒素ガスが多く用いられ吸着量を被吸着気体の圧、または容積の変化から測定する方法が最も多く用いられている。多分子吸着の等温線を表すのに最も著名なものは、Brunauer、Emmett、Tellerの式であってBET式と呼ばれ表面積決定に広く用いられている。BET式に基づいて吸着量を求め、吸着分子1個が表面で占める面積を掛けて表面積が得られる。
【0034】
本発明における気相法シリカは、カチオン性化合物の存在下で分散するのが好ましい。分散された気相法シリカの平均二次粒子径は1.0μm以下であることが好ましい。分散方法としては、通常のプロペラ撹拌、タービン型撹拌、ホモミキサー型撹拌等で気相法シリカと分散媒を予備混合し、次にボールミル、ビーズミル、サンドグラインダー等のメディアミル、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー等の圧力式分散機、超音波分散機、および薄膜旋回型分散機等を使用して分散を行うことが好ましい。なお、本発明でいう無機微粒子の平均二次粒子径は、レーザー散乱式の粒度分布計(例えば、堀場製作所製、LA910)を用いて、個数メジアン径として測定することができる。
【0035】
本発明では、平均二次粒子径1.0μm以下に粉砕した湿式法シリカも好ましく使用できる。ここで用いられる湿式法シリカとしては沈降法シリカあるいはゲル法シリカが好ましく、特に沈降法シリカが好ましい。本発明における湿式法シリカとしては平均凝集粒子径が5〜50μmである湿式法シリカ粒子が好ましく、これをカチオン性化合物の存在下微粉砕した湿式法シリカ微粒子を使用することができる。
【0036】
通常の方法で製造された湿式法シリカは、1.0μm以上の平均凝集粒子径を有するため、これを微粉砕して使用する。粉砕方法としては、水性媒体中に分散したシリカを機械的に粉砕する湿式分散法が好ましく使用できる。この際、分散液の初期粘度上昇が抑制され、高濃度分散が可能となり、粉砕・分散効率が上昇してより微粒子に粉砕することができることから、平均凝集粒子径5μm以上の沈降法シリカを使用することが好ましい。高濃度分散液を使用することによって、平版印刷版原版の生産性も向上する。
【0037】
本発明における平均二次粒子径が1.0μm以下の湿式法シリカ微粒子を得る具体的な方法について説明する。まず、水を主体とする分散媒中にシリカ粒子とカチオン性化合物を混合し、のこぎり歯状ブレード型分散機、プロペラ羽根型分散機、またはローターステーター型分散機等の分散装置の少なくとも1つを用いて予備分散液を得る。必要であれば水分散媒中に適度の低沸点溶剤等を添加してもよい。シリカ予備分散液の固形分濃度は高い方が好ましいが、あまり高濃度になると分散不可能となるため、好ましい範囲としては15〜40質量%、より好ましくは20〜35質量%である。次に、シリカ予備分散液をより強い剪断力を持つ機械的手段にかけてシリカ粒子を粉砕し、平均二次粒子径が1.0μm以下の湿式法シリカ微粒子分散液が得られる。機械的手段としては公知の方法が採用でき、例えば、ボールミル、ビーズミル、サンドグラインダー等のメディアミル、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー等の圧力式分散機、超音波分散機および薄膜旋回型分散機等を使用することができる。
【0038】
前記気相法シリカおよび湿式法シリカの分散あるいは粉砕に使用するカチオン性化合物としては、カチオン性ポリマーを好ましく使用できる。かかるカチオン性化合物およびカチオン性ポリマーとしては、後述する画像受理層Bにコロイダルシリカと共に用いるカチオン性化合物と同義であるが、特に、カチオン性ポリマーとしてジアリルアミン誘導体が好ましく用いられる。分散性および分散液粘度の面で、これらのカチオンポリマーの分子量は、2000〜10万程度が好ましく、特に2000〜3万程度が好ましい。
【0039】
また本発明における無機微粒子としてアルミナまたはアルミナ水和物も好適に用いられる。アルミナまたはアルミナ水和物は、酸化アルミニウムやその含水物であり、結晶質でも非晶質でもよく、不定形や、球状、版状等の形態を有しているものが使用される。両者のいずれかを使用してもよいし、併用してもよい。
【0040】
本発明に用いることのできる酸化アルミナとしては酸化アルミニウムのγ型結晶であるγ−アルミナが好ましく、中でもδグループ結晶が好ましい。γ−アルミナは一次粒子を10nm程度まで小さくすることが可能であるが、通常は、数千から数万nmの二次粒子結晶を超音波や高圧ホモジナイザー、対向衝突型ジェット粉砕機等で平均二次粒子径が1.0μm以下まで分散したものが使用できる。
【0041】
本発明に用いることのできるアルミナ水和物はAl・nHO(n=1〜3)の構成式で表される。酸化アルミニウム含水物は、アルミニウムイソプロポキシド等のアルミニウムアルコキシドの加水分解、アルミニウム塩のアルカリによる中和、アルミン酸塩の加水分解等の公知の製造方法により得られる。本発明に使用されるアルミナ水和物の平均二次粒子径は1.0μm以下であることが好ましい。
【0042】
本発明に用いられるアルミナおよびアルミナ水和物は、酢酸、乳酸、蟻酸、メタンスルホン酸、塩酸、硝酸等の公知の分散剤によって平均二次粒子径が1.0μm以下まで分散されたものが好ましく用いられる。
【0043】
前記した無機微粒子の中から2種以上の無機微粒子を併用することもできる。例えば、微粉砕した湿式法シリカと気相法シリカとの併用、微粉砕した湿式法シリカとアルミナあるいはアルミナ水和物との併用、気相法シリカとアルミナあるいはアルミナ水和物との併用が挙げられる。この併用の場合の比率は、いずれの様態も7:3〜3:7の範囲が好ましい。
【0044】
本発明の画像受理層における無機微粒子の含有量は、画像受理層の全固形分に対して50質量%以上であり、60質量%以上がより好ましく、特に65〜90質量%の範囲が好ましい。このように無機微粒子の含有比率が高い画像受理層は、空隙率の高い多孔質な画像受理層となる。
【0045】
本発明において、画像受理層を構成する無機微粒子と共にバインダーを用いることが好ましい。かかるバインダーとしては、透明性が高くインクのより高い浸透性が得られる親水性バインダーが好ましく用いられる。例えば、ポリビニルアルコール、ゼラチン、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリウレタン、デキストラン、デキストリン、カラギーナン、寒天、プルラン、水溶性ポリビニルブチラール、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシルメチルセルロース等が挙げられる。これら親水性バインダーは2種類以上併用することも可能である。親水性バインダーの使用に当たっては、親水性バインダーがインクの初期の浸透時に膨潤して空隙を塞いでしまわないことが重要であり、この観点から比較的室温付近で膨潤性の低い親水性バインダーが好ましく用いられる。好ましい親水性バインダーは完全または部分ケン化のポリビニルアルコールや、カチオン変成ポリビニルアルコールである。
【0046】
ポリビニルアルコールの中でも特に好ましいのは、ケン化度が80%以上の部分または完全ケン化したものである。平均重合度200〜5000のものが好ましい。
【0047】
カチオン変性ポリビニルアルコールとしては、例えば特開昭61−10483号公報に記載されているような、第1〜3級アミノ基や第4級アンモニウム基をポリビニルアルコールの主鎖あるいは側鎖中に有するポリビニルアルコールである。
【0048】
本発明は、画像受理層を構成する前記親水性バインダーと共に必要に応じ硬膜剤を用いることもできる。硬膜剤の具体的な例としては、ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒドの如きアルデヒド系化合物、ジアセチル、クロルペンタンジオンの如きケトン化合物、ビス(2−クロロエチル)尿素、2−ヒドロキシ−4,6−ジクロロ−1,3,5−トリアジン、米国特許第3,288,775号記載の如き反応性のハロゲンを有する化合物、ジビニルスルホン、米国特許第3,635,718号記載の如き反応性のオレフィンを持つ化合物、米国特許第2,732,316号記載の如きN−メチロール化合物、米国特許第3,103,437号記載の如きイソシアナート類、米国特許第3,017,280号、米国特許第2,983,611号記載の如きアジリジン化合物類、米国特許第3,100,704号記載の如きカルボジイミド系化合物類、米国特許第3,091,537号記載の如きエポキシ化合物、ムコクロル酸の如きハロゲンカルボキシアルデヒド類、ジヒドロキシジオキサンの如きジオキサン誘導体、クロム明ばん、硫酸ジルコニウム、ホウ砂、ホウ酸、ホウ酸塩類の如き無機架橋剤等があり、これらを1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0049】
親水性バインダーとしてケン化度が80%以上の部分または完全ケン化したポリビニルアルコールを用いる場合には、ホウ砂、ホウ酸、ホウ酸塩類が好ましく、ホウ酸が特に好ましい。
【0050】
また、画像受理層を構成する親水性のバインダーとしてケト基を有する親水性バインダーを用いることもできる。ケト基を有する親水性バインダーは、ケト基を有するモノマーと他のモノマーを共重合する方法等によって合成することができる。ケト基を有するモノマーの具体例としては、アクロレイン、ジアセトンアクリルアミド、ジアセトンメタクリレート、アセトアセトキシエチルメタクレート、4−ビニルアセトアセトアニリド、アセトアセチルアリルアミド等が挙げられる。また、ポリマー反応でケト基を導入してもよく、例えばヒドロキシ基やアミノ基とジケテンとの反応等によってアセトアセチル基を導入することができる。ケト基を有する親水性バインダーの具体例としては、アセトアセチル変性ポリビニルアルコール、アセトアセチル変性セルロース誘導体、アセトアセチル変性澱粉、ジアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコール、特開平10−157283号公報に記載の親水性バインダー等が挙げられる。本発明では、特にケト基を有する変性ポリビニルアルコールが好ましい。ケト基を有する変性ポリビニルアルコールとしては、アセトアセチル変性ポリビニルアルコール、ジアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコール等が挙げられる。
【0051】
アセトアセチル変性ポリビニルアルコールは、ポリビニルアルコールとジケテンの反応等の公知の方法によって製造することができる。アセトアセチル化度は0.1〜20モル%が好ましく、更に1〜15モル%が好ましい。ケン化度は80モル%以上が好ましく、更に85モル%以上が好ましい。重合度としては500〜5000のものが好ましく、特に2000〜4500のものが更に好ましい。
【0052】
ジアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコールは、ジアセトンアクリルアミド−酢酸ビニル共重合体をケン化する等公知の方法によって製造することができる。ジアセトンアクリルアミド単位の含有量としては、0.1〜15モル%の範囲が好ましく、更に0.5〜10モル%の範囲が好ましい。ケン化度としては85モル%以上、重合度としては500〜5000のものが好ましい。
【0053】
本発明において、画像受理層に含有するケト基を有する親水性バインダーは、その架橋剤で架橋されることが好ましい。かかる架橋剤としては以下の化合物が挙げられる。
【0054】
(1)ポリアミン類
脂肪族ポリアミン類;
・アルキレンジアミン(例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等)
・ポリアルキレンポリアミン(例えば、ジエチレントリアミン、イミノビス(プロピルアミン)、ビス(ヘキサメチレン)トリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン等)
・これらのアルキルまたはヒドロキシアルキル置換体(例えば、アミノエチルエタノールアミン、メチルイミノビス(プロピルアミン)等)
・脂環または複素環含有脂肪族ポリアミン(例えば、3,9−ビス(3−アミノプロピル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン等)
・芳香環含有脂肪族アミン類(例えば、キシリレンジアミン、テトラクロル−p−キシリレンジアミン等)
【0055】
C4〜C15の脂環式ポリアミン;
例えば、1,3−ジアミノシクロヘキサン、イソホロンジアミン、メンタンジアミン、4,4′−メチレンジシクロヘキサンジアミン(水添メチレンジアニリン)等。
【0056】
C4〜C15の複素環式ポリアミン;
例えば、ピペラジン、N−アミノエチルピペラジン、1,4−ジアミノピペラジン等。
【0057】
C6〜C20の芳香族ポリアミン類;
・非置換芳香族ポリアミン(例えば1,2−、1,3−および1,4−フェニレンジアミン、2,4′−および4,4′−ジフェニルメタンジアミン、ポリフェニルポリメチレンポリアミン、ジアミノジフェニルスルホン、ベンジジン、チオジアニリン、ビス(3,4−ジアミノフェニル)スルホン、2,6−ジアミノピリジン、m−アミノベンジルアミン、トリフェニルメタン−4,4′,4″−トリアミン、ナフチレンジアミン等)
・核置換アルキル基(例えばC1〜C4のアルキル基)を有する芳香族ポリアミン(例えば、2,4−および2,6−トリレンジアミン、クルードトリレンジアミン、ジエチルトリレンジアミン、4,4′−ジアミノ−3,3′−ジメチルジフェニルメタン、4,4′−ビス(o−トルイジン)、ジアニシジン、ジアミノジトリルスルホン、1,3−ジメチル−2,4−ジアミノベンゼン、1,3−ジエチル−2,4−ジアミノベンゼン、1,3−ジメチル−2,6−ジアミノベンゼン、1,4−ジエチル−2,5−ジアミノベンゼン、1,4−ジイソプロピル−2,5−ジアミノベンゼン、1,4−ジブチル−2,5−ジアミノベンゼン、2,4−ジアミノメシチレン、1,3,5−トリエチル−2,4−ジアミノベンゼン、1,3,5−トリイソプロピル−2,4−ジアミノベンゼン、1−メチル−3,5−ジエチル−2,4−ジアミノベンゼン、1−メチル−3,5−ジエチル−2,6−ジアミノベンゼン、2,3−ジメチル−1,4−ジアミノナフタレン、2,6−ジメチル−1,5−ジアミノナフタレン、2,6−ジイソプロピル−1,5−ジアミノナフタレン、2,6−ジブチル−1,5−ジアミノナフタレン、3,3′,5,5′−テトラメチルベンジジン、3,3′,5,5′−テトライソプロピルベンジジン、3,3′,5,5′−テトラメチル−4,4′−ジアミノジフェニルメタン、3,3′,5,5′−テトラエチル−4,4′−ジアミノジフェニルメタン、3,3′,5,5′−テトライソプロピル−4,4′−ジアミノジフェニルメタン、3,3′,5,5′−テトラブチル−4,4′−ジアミノジフェニルメタン、3,5−ジエチル−3′−メチル−2′,4−ジアミノジフェニルメタン、3,5−ジイソプロピル−3′−メチル−2′,4−ジアミノジフェニルメタン、3,3′−ジエチル−2,2′−ジアミノジフェニルメタン、3,3′,5,5′−テトラエチル−4,4′−ジアミノベンゾフェノン、3,3′,5,5′−テトライソプロピル−4,4′−ジアミノベンゾフェノン、3,3′,5,5′−テトラエチル−4,4′−ジアミノジフェニルエーテル、3,3′,5,5′−テトライソプロピル−4,4′−ジアミノジフェニルスルホン等)
【0058】
ポリアミドポリアミン;
例えば、ジカルボン酸(ダイマー酸等)と過剰の(酸1モル当たり2モル以上の)ポリアミン類(前記アルキレンジアミン、ポリアルキレンポリアミン等)との縮合により得られる低分子量(例えば分子量200〜5000)ポリアミドポリアミン等。
【0059】
ポリエーテルポリアミン;
例えば、分子量100〜5000のポリエーテルポリオール(ポリアルキレングリコール等)のシアノエチル化物の水素化物等。
【0060】
(2)ジシアンジアミド誘導体;
ジシアンジアミド、ジシアンジアミド・ホルマリン重縮合物、ジシアンジアミド・ジエチレントリアミン重縮合物等。
【0061】
(3)ヒドラジン化合物;
ヒドラジン、モノアルキルヒドラジン、ヒドラジンの無機塩類(例えば、塩酸、硫酸、硝酸、亜硝酸、リン酸、チオシアン酸、炭酸等の無機塩類)、ヒドラジンの有機塩類(例えば、蟻酸、シュウ酸等の有機塩類)。
【0062】
(4)ポリヒドラジド化合物(ジヒドラジド、トリヒドラジド);
カルボヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、クエン酸トリヒドラジド、セバチン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、テレフタル酸ジヒドラジド等。
【0063】
(5)アルデヒド類;
ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、クロトンアルデヒド、ベンズアルデヒド等のモノアルデヒド、グリオキザール、マロンジアルデヒド、スクシンジアルデヒド、グルタルジアルデヒド、マレインジアルデヒド、1,8−オクタンジアール、フタルアルデヒド、イソフタルアルデヒド、テレフタルアルデヒド、両末端アルデヒド化PVA等のジアルデヒド類、アリリデン酢酸ビニルジアセテート共重合体をケン化して得られる側鎖アルデヒド含有共重合体、ジアルデヒド澱粉、ポリアクロレイン等。
【0064】
(6)メチロール化合物;
メチロールホスフィン、ジメチロール尿素、ジメチロールメラミン、トリメチロールメラミン、尿素樹脂初期重合物、メラミン樹脂初期重合物等。
【0065】
(7)活性化ビニル化合物;
ジビニルスルホン系化合物、β−ヒドロキシエチルスルホン系化合物等。
【0066】
(8)エポキシ化合物;
エピクロルヒドリン、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリンジまたはトリグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ジグリシジルアニリン、ジグリシジルアミン、ポリエポキシ化合物等。
【0067】
(9)イソシアネート系化合物;
トリレンジイソシアネート、水素化トリレンジイソシアネート、トリメチロールプロパン−トリレンジイソシアネートアダクト、トリフェニルメタントリイソシアネート、メチレンビス−4−フェニルメタントリイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、およびこれらのケトオキシムブロック物またはフェノールブロック物、ポリイソシアネート等。
【0068】
(10)フェノール系化合物;
フェノール系樹脂初期縮合物、レゾルシノール系樹脂等。
【0069】
(11)多価金属塩;
・ジルコニウム塩(硝酸ジルコニウム、塩基性炭酸ジルコニウム、酢酸ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウム、塩化ジルコニウム、ヒドロキシ塩化ジルコニウム、炭酸ジルコニウム、炭酸ジルコニウム・アンモニウム、炭酸ジルコニウム・カリウム、フッ化ジルコニウム化合物等)
・チタン塩(4塩化チタン、乳酸チタン、テトライソプロピルチタネート等)
・アルミニウム塩(塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、乳酸アルミニウム等)
・カルシウム塩(塩化カルシウム、硫酸カルシウム、酢酸カルシウム、プロピオン酸カルシウム等)
・マグネシウム塩(塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム等)
・亜鉛塩(塩化亜鉛、硫酸亜鉛、酢酸亜鉛等)
【0070】
前記した架橋剤の中でも、ポリヒドラジド化合物、および多価金属塩が好ましい。ポリヒドラジド化合物の中でも特にジヒドラジド化合物が好ましく、更にアジピン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジドが好ましい。多価金属塩としては、特にジルコニウム塩が好ましく、更に、オキシ塩化ジルコニウム、硝酸ジルコニウムが好ましい。架橋剤の添加量は、ケト基を有する親水性バインダーに対して1〜40質量%の範囲が適当であり、2〜30質量%の範囲が好ましく、特に3〜20質量%の範囲が好ましい。また、アセトアセチル変性、ジアセトンアクリルアミド変性された部位以外は、通常のポリビニルアルコールと同様の構造を持つため、硬膜剤を併用することができる。特にホウ砂あるいはホウ酸、ホウ酸塩を併用することが好ましい。
【0071】
本発明では完全または部分ケン化のポリビニルアルコールや、カチオン変成ポリビニルアルコールと、ケト基を有する親水性バインダーを併用することも可能であり、その場合には、硬膜剤あるいは架橋剤を併用することもできる。
【0072】
本発明では、更に他の公知の親水性バインダーを併用してもよい。例えば、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース誘導体、澱粉や各種変性澱粉、ゼラチンや各種変性ゼラチン、キトサン誘導体、カラギーナン、カゼイン、大豆蛋白、ポリビニルアルコールや各種変性ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド等を必要に応じて併用することができる。更に、バインダーとして各種ラテックスを併用してもよい。
【0073】
画像受理層におけるバインダーの含有量は、前述した無機微粒子に対して5〜40質量%の範囲が好ましく、特に10〜30質量%が画像受理層内に微細な空隙を形成し、多孔質な層を形成するために好ましい。
【0074】
画像受理層の乾燥塗布量は、印刷後の画像の先鋭性や平版印刷版原版のカール性を考慮すると、無機微粒子に換算して5〜50g/mの範囲が好ましく、5〜40g/mの範囲がより好ましく、特に5〜30g/mの範囲が好ましい。
【0075】
画像受理層には更に、カチオン性ポリマー、防腐剤、界面活性剤、着色染料、着色顔料、紫外線吸収剤、酸化防止剤、顔料の分散剤、消泡剤、レベリング剤、蛍光増白剤、粘度安定剤、pH調節剤等を添加することもできる。
【0076】
本発明において無機微粒子を主体に含有する画像受理層は、無機微粒子を主体に含有する画像受理層Aと、該画像受理層Aよりも支持体から離れた側に、カチオン性コロイダルシリカを主体に含有する、あるいはコロイダルシリカを主体に含有しカチオン性化合物を含有する画像受理層Bとを有する2層構成とすることがより好ましい。このような画像受理層Bを設けることにより、水性顔料インクの溶媒成分と平版印刷版原版の表面(この場合は画像受理層Bの表面)に堆積した顔料インク粒子との分離がスムーズになり、且つ平版印刷版原版の表面(この場合は画像受理層Bの表面)と顔料インク粒子の接着性が良化するため耐刷性の向上効果が高くなる。画像受理層Bの全固形分質量に対するカチオン性のコロイダルシリカ、あるいはコロイダルシリカの質量比は50質量%以上であり、かかる質量比は好ましくは70質量%以上、より好ましくは85質量%以上である。
【0077】
前記画像受理層Aは、前述した無機微粒子を主体に含有する画像受理層と同様に無機微粒子を主体に含有する。また構成する無機微粒子、バインダー、架橋剤、カチオン性ポリマー、防腐剤、界面活性剤、着色染料、着色顔料、紫外線吸収剤、酸化防止剤、顔料の分散剤、消泡剤、レベリング剤、蛍光増白剤、粘度安定剤、pH調節剤等は前述した画像受理層と同様のものが同様の添加比率、含有量で適宜使用することができる。また画像受理層Aの乾燥塗布量は、前述した無機微粒子を主体に含有する画像受理層と同様である。
【0078】
画像受理層Bが含有するカチオン性コロイダルシリカとしては、好ましくは平均一次粒子径が30nm以上のカチオン性コロイダルシリカ、あるいは非球状のカチオン性コロイダルシリカが挙げられる。非球状のカチオン性コロイダルシリカは、平均一次粒子径が25〜60nmであり、且つ平均一次粒子径に対する平均二次粒子径の比が1.4〜3.1であることが好ましい。これにより、より優れた耐刷性を有する平版印刷版原版が得られる。
【0079】
平均一次粒子径に対する平均二次粒子径の比が1.4〜3.1であるとは、コロイダルシリカの一次粒子が2〜3個連なった状態のものであり、5個以上連なったものは含まない状態を意味する。なおコロイダルシリカの平均一次粒子径が25〜60nmであり、且つ平均一次粒子径に対する平均二次粒子径の比が1.4〜3.1であれば、異なる2種以上のコロイダルシリカを用いることもできる。コロイダルシリカの平均一次粒子径は一次粒子径が判別できるまで分散された粒子の電子顕微鏡写真より一定面積内に存在する100個の粒子の平均粒子径のことであり、コロイダルシリカの平均一次粒子径に対する平均二次粒子径の比は、連なったコロイダルシリカの直径をレーザー散乱式の粒度分布計(例えば、堀場製作所製、LA910)を用いて個数メジアン径として求め、上記で求めた平均一次粒子径に対する比を算出した値である。
【0080】
このようなコロイダルシリカを得る方法としては、後述するカチオン性ポリマーおよび水溶性多価金属化合物や、下記カチオン性シランカップリング剤等により、コロイダルシリカの表面を修飾する方法、あるいはコロイダルシリカの製造過程で粒子表面にカチオン性基を導入する方法等を挙げることができる。コロイダルシリカの表面を修飾する場合に用いるコロイダルシリカとしては、例えば扶桑化学工業株式会社製の商品名クォートロンPLシリーズ、日揮触媒化成株式会社製のカタロイドSI−50等を挙げることができる。中でも水溶性多価金属化合物を用いることがより好ましい。
【0081】
上記カチオン性シランカップリング剤としては、アミノ基含有シランカップリング剤を利用することが好ましい。このシランカップリング剤としては、例えばN−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0082】
カチオン性コロイダルシリカを修飾するカチオン性ポリマーまたは水溶性多価金属化合物の固形分混合比(コロイダルシリカ質量部/カチオン性ポリマーまたは水溶性多価金属化合物質量部)は、100/2〜100/20が好ましく、100/5〜100/15がより好ましい。またコロイダルシリカをカップリング剤で処理する場合のカップリング剤の固形分混合比(コロイダルシリカ質量部/カップリング剤質量部)は、100/0.01〜100/20が好ましく、100/0.05〜100/10がより好ましい。
【0083】
本発明において、画像受理層Bが、平均一次粒子径が30nm以上のカチオン性コロイダルシリカ(平均一次粒子径が30nm以上の、球状の一次粒子をコロイド粒子とするカチオン性コロイダルシリカ)を主体に含有することが耐刷性の観点から最も好ましく、とりわけ平均一次粒子径が50nm以上のカチオン性コロイダルシリカを用いることが好ましい。
【0084】
本発明に用いるカチオン性コロイダルシリカとしては、例えば、ライオン株式会社からはシリカLGTとして、あるいは日揮触媒化成株式会社からはファインカタロイドとして、また日産化学工業株式会社のST−AK−L、ST−UP−AK、ST−PS−M−AK、ST−AK−YL等として市販されており、これらを入手し利用することができる。なお、該カチオン性コロイダルシリカの平均一次粒子径は耐刷性の観点から、300nm以下であることが望ましい。
【0085】
本発明の画像受理層Bが含有する、カチオン性化合物と共に用いるコロイダルシリカとは、詳細にはアニオン性のコロイダルシリカであり、好ましい平均一次粒子径は上述したカチオン性のコロイダルシリカと同様である。かかるアニオン性のコロイダルシリカとしては、例えば日産化学工業株式会社から市販されているスノーテックスST−20、ST−30、ST−C、ST−OL40、ST−OZL、扶桑化学工業株式会社から市販されているPL−3L、PL−5、PL−7等を入手し利用することができる。
【0086】
画像受理層Bが含有するコロイダルシリカと共に用いられるカチオン性化合物としては、カチオン性ポリマー、水溶性多価金属化合物が挙げられる。なおこれらカチオン性ポリマーおよび水溶性多価金属化合物は、非球状のカチオン性コロイダルシリカを作製する際の、シリカ表面の修飾にも用いることができる。
【0087】
上記カチオン性ポリマーとしては、ポリエチレンイミン、ポリジアリルアミン、ポリアリルアミン、アルキルアミン重合物、特開昭59−20696号公報、特開昭59−33176号公報、特開昭59−33177号公報、特開昭59−155088号公報、特開昭60−11389号公報、特開昭60−49990号公報、特開昭60−83882号公報、特開昭60−109894号公報、特開昭62−198493号公報、特開昭63−49478号公報、特開昭63−115780号公報、特開昭63−280681号公報、特開平1−40371号公報、特開平6−234268号公報、特開平7−125411号公報、特開平10−193776号公報等に記載された1〜3級アミノ基、4級アンモニウム塩基を有するポリマーが好ましく用いられる。これらのカチオンポリマーの分子量は、1000〜10万程度が好ましい。
【0088】
上記水溶性多価金属化合物としては、水溶性多価金属塩として、カルシウム、バリウム、マンガン、銅、コバルト、ニッケル、アルミニウム、鉄、亜鉛、ジルコニウム、クロム、マグネシウム、タングステン、モリブデンから選ばれる金属の水溶性塩が挙げられる。具体的には例えば、酢酸カルシウム、塩化カルシウム、蟻酸カルシウム、硫酸カルシウム、酢酸バリウム、リン酸バリウム、塩化マンガン、酢酸マンガン、蟻酸マンガン二水和物、硫酸マンガンアンモニウム六水和物、塩化第二銅、塩化アンモニウム銅(II)二水和物、硫酸銅、塩化コバルト、チオシアン酸コバルト、硫酸コバルト、硫酸ニッケル六水和物、塩化ニッケル六水和物、酢酸ニッケル四水和物、硫酸ニッケルアンモニウム六水和物、アミド硫酸ニッケル四水和物、フェノールスルフォン酸ニッケル、硫酸アルミニウム、亜硫酸アルミニウム、チオ硫酸アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム、塩基性ポリ水酸化アルミニウム、硫酸アルミニウム九水和物、塩化アルミニウム六水和物、臭化第一鉄、塩化第一鉄、塩化第二鉄、硫酸第一鉄、硫酸第二鉄、臭化亜鉛、塩化亜鉛、硝酸亜鉛六水和物、硫酸亜鉛、フェノールスルフォン酸亜鉛、酢酸ジルコニウム、塩化ジルコニウム、塩化酸化ジルコニウム八水和物、ヒドロキシ塩化ジルコニウム、酢酸クロム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム六水和物、クエン酸マグネシウム九水和物、リンタングステン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウムタングステン、12タングストリン酸n水和物等が挙げられる。これらの中にはpHが不適当に低いものもあり、その場合は適宜pHを調節して用いることも可能である。本発明において水溶性とは、常温常圧下で水に1質量%以上溶解することを目安とする。本発明では、ジルコニウムおよびアルミニウムからなる水溶性金属塩が好ましい。ジルコニウムからなる水溶性金属塩としては、例えば、第一希元素化学工業株式会社からZA−30が市販されている。アルミニウムからなる水溶性金属としては、例えば、多木化学株式会社よりポリ塩化アルミニウム(PAC)の名で水処理剤として、浅田化学株式会社よりポリ水酸化アルミニウム(Paho)の名で、また、株式会社理研グリーンよりピュラケムWTの名で、また他のメーカーからも同様の目的を持って販売されており、各種グレードのものが容易に入手できる。
【0089】
画像受理層Bはバインダーを含有することができる。画像受理層Bにおけるバインダー含有量は、画像受理層Bの固形分塗布量の10質量%以下であることが好ましく、更に6質量%以下であることが好ましい。これにより優れた耐刷性と耐汚れ性を両立することができる。用いるバインダーとしては、画像受理層Aが含有する親水性バインダーと同様のものが挙げられる。
【0090】
画像受理層Bの固形分塗布量は、0.01〜8.0g/mであることが好ましく、より好ましくは0.05〜2.0g/mであり、更に好ましくは0.05〜1.5g/mである。これによりとりわけ良好な画像品質が得られる。
【0091】
本発明の画像受理層Aおよび画像受理層Bはそれぞれ単層であっても複数層でもよく、画像受理層Aと画像受理層Bの間には中間層を設けてもよい。
【0092】
本発明において、画像受理層Aおよび画像受理層Bを設ける際の塗布方法は特に限定されないが、スライドビードコーター、カーテンコーター、エクストルージョンコーター、エアーナイフコーター、ロッドコーター、ブレードコーター、グラビアコーター等の塗布装置を単独および組み合わせて使用できる。画像受理層Aと画像受理層Bを同時塗布する場合は、スライドビードコーター、カーテンコーターの塗布装置が使用できる。画像受理層Aを塗布後、画像受理層Bを逐次塗布する場合は、前記塗布装置を適宜組み合わせて使用することができる。本発明で同時塗布とは各層をほぼ同時に塗布することである。逐次塗布するとは、減率乾燥工程以降において画像受理層の空隙が形成された後、最上層の塗布液を塗布することである。
【0093】
本発明の平版印刷版原版の画像受理層に対し、インクジェット方式により画像情報を印字する際に用いるインクは水性顔料インクである。本発明における水性顔料インクは、色材として顔料を用い、水性媒体、その他の添加剤からなる記録液体であり、添加剤に関しては、インクの目的である記録性に悪影響を及ぼさない範囲で適宜選択が可能である。
【0094】
上記した水性顔料インクの顔料のうち、ブラックインクとして用いられる顔料としては、C.I.PigmentBlack7等、シアンインクとして用いられる顔料としては、C.I.PigmentBlue1、C.I.PigmentBlue2、C.I.PigmentBlue15:3、C.I.PigmentBlue16等、マゼンタインクとして用いられる顔料としては、C.I.PigmentRed5、C.I.PigmentRed48:2、C.I.PigmentRed57:1、C.I.PigmentRed112、C.I.PigmentRed122等、イエローインクとして用いられる顔料としては、C.I.PigmentYellow1、C.I.PigmentYellow3、C.I.PigmentYellow13、C.I.PigmentYellow83等が代表例であるが、水性インクを形成し得る顔料であれば特に制限されない。
【0095】
水性顔料インクの水性媒体としては、水および水溶性有機溶剤、分散剤、必要に応じてその他の添加剤を混在させたものが用いられるが、この場合の水としては種々のイオンを含有する水道水等ではなく脱イオン処理を行ったイオン交換水を用いるのが好ましい。
【0096】
上記した水溶性有機溶剤としては、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール等の炭素数1〜4のアルキルアルコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール等、2〜6個の炭素原子を含むアルキレン基を持つアルキレングリコール類、グリセリン等の多価アルコール類、ポリアルキレングリコール類、アミド類、エーテル類等が挙げられる。
【0097】
上記した分散剤としては、水溶性樹脂であるならば特に限定されないが、具体例としてスチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、アルキルスチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン−(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体、(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体等のアクリル系樹脂、およびこれらの塩等のアルカリ中和型水溶性合成樹脂、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース等の水溶性樹脂、ロジン、セラック、カゼイン等のアルカリ中和型水溶性天然樹脂、各種界面活性剤等が挙げられ、これらは単独または2種以上を混合して用いることができる。
【0098】
上記した添加剤としては、必要に応じて、pH調整剤、粘度調整剤、表面張力調整剤、湿潤剤、界面活性剤、防腐剤等を用いることが可能である。
【0099】
本発明の平版印刷版原版はインクジェット方式により画像情報を印字した後であって印刷開始前に、非画像部を不感脂化処理する。このような不感脂化処理に用いる好ましい処理液としては、例えば特開平5−289341号公報、特開平7−56349号公報、特公昭45−29001号公報、特公昭61−28987号公報等に記載される無機微粒子を含有する処理液や、特公昭56−41992号公報に記載されるコロイド状微粒子と吸湿性ポリオールを含有する処理液等が挙げられる。これら処理液の版面への付与は、脱脂綿等に該処理液を含浸させて版面にくまなく与えるハンドエッチングを行う方法、一定量の該処理液をバーコーターにて塗布する方法、該処理液を貯留させた液浴に浸漬させてロール対により余剰の処理液を絞液するようなエッチングコンバーターを用いる方法等が適用できる。
【0100】
以下、実施例により本発明を詳しく説明するが、本発明の内容は実施例に限られるものではない。なお、部とは固形分あるいは実質成分の質量部を表す。
【実施例】
【0101】
(実施例1)
<耐水性支持体の作製>
広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)と広葉樹晒サルファイトパルプ(LBSP)の1:1混合物をカナディアンスタンダードフリーネスで300mlになるまで叩解し、パルプスラリーを調製した。これにサイズ剤とアルキルケテンダイマーを対パルプ0.5質量%、強度剤としてポリアクリルアミドを対パルプ1質量%、カチオン化澱粉を対パルプ2質量%、ポリアミドエピクロロヒドリン樹脂を対パルプ0.5質量%添加し、水で希釈して0.2%スラリーとした。このスラリーを長網抄紙機で坪量170g/mになるように抄造し、乾燥調湿して支持体の基紙とした。抄造した基紙の印字面側に密度0.918g/cmの低密度ポリエチレン樹脂に対して、10質量%のアナターゼ型二酸化チタンを均一に分散したポリエチレン樹脂組成物を320℃で溶融し、200m/分で厚さ30μmになるように押出し、微粗面加工されたクーリングロールで冷却しながら、画像受理層塗布面側の樹脂被覆層を設けた。反対面側には密度0.962g/cmの高密度ポリエチレン樹脂70部と密度0.918g/cmの低密度ポリエチレン樹脂30部のブレンド樹脂組成物を同様に320℃で溶融し、厚さ25μmになるようにクーリングロールで冷却しながら樹脂被覆層を設けた。
【0102】
前記耐水性支持体の画像受理層塗布面側に高周波コロナ放電処理を施した後、下記組成の下塗り層をゼラチンが50mg/mとなるように塗布乾燥した。
【0103】
<下塗り層>
石灰処理ゼラチン 100部
スルフォコハク酸2−エチルヘキシルエステル塩 2部
クロム明ばん 10部
【0104】
前記耐水性支持体の下塗り層上に下記組成の画像受理層A塗布液1を固形分量が23g/mになるようにスライドビード塗布装置で塗布し50℃で乾燥した。
【0105】
<気相法シリカ分散液>
水にジメチルジアリルアルミニウムクロライドホモポリマー(分子量:9000)3部と気相法シリカ(平均一次粒子径7nm、比表面積300m/g)100部を添加し予備分散液を作製した後、高圧ホモジナイザーで処理して、固形分濃度20質量%の気相法シリカ分散液を作製した。なお、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置での測定による気相法シリカの平均二次粒子径は80nmであった。
【0106】
<画像受理層A塗布液1>
気相法シリカ分散液 103部
ホウ酸 5部
ポリビニルアルコール 23部
(ケン化度88%、平均重合度3500)
固形分濃度が12質量%になるように水で調整した。
【0107】
上記のようにして作製した平版印刷版原版について、水性顔料インク用インクジェットプリンター(セイコーエプソン株式会社製PX−1001)を用いて、CMYコンポジットブラック(写真用紙モードを指定)で、最大インク吐出量条件として100%ベタ画像および10ポイントの文字を記録した。プリンターでの印字にはおおよそ30秒の時間を要した。その後、画像の記録開始から20分後にSLM−OD30(三菱製紙株式会社製給湿液)の25質量%水溶液を不感脂化液(エッチング液)として使用し、画像が印字された平版印刷版の画像受理層(版面)にくまなく拭き与えて製版し、平版印刷版1を得た。
【0108】
(実施例2)
実施例1で作製した画像受理層A上に、下記組成の画像受理層B塗布液1をコロイダルシリカ固形分量が0.1g/mになるようにグラビア塗布装置で塗布し、50℃で乾燥して平版印刷版原版を作製した。その後、実施例1と同様にして製版し平版印刷版2を得た。
【0109】
<画像受理層B塗布液1>
水にクォートロンPL−3L(扶桑化学工業株式会社製コロイダルシリカ)を100部加え、固形分濃度5質量%液を調製後、撹拌しながら、約10分間かけて10部のタキバイン#1500(多木化学株式会社製ポリ塩化アルミニウム水溶液;固形分濃度23.5質量%)を添加し、カチオン性コロイダルシリカを得た。添加終了後、温度80℃で1時間撹拌した後、室温にまで冷却し、固形分濃度が0.6質量%になるよう水で調整した。作製した画像受理層B塗布液1をゼータ電位測定装置(ベックマン・コールター社製DELSA 440SX)でゼータ電位を測定した結果、+45mVであった。また、電子顕微鏡観察によるカチオン性コロイダルシリカの平均一次粒子径は35nm、平均一次粒子径に対する平均二次粒子径の比は1.5であった。
【0110】
(実施例3)
実施例2で作製した画像受理層B塗布液1を下記組成の画像受理層B塗布液2に変更した以外は実施例2と同様にして平版印刷版原版を作製した。その後、実施例1と同様にして製版し、平版印刷版3を得た。
【0111】
<画像受理層B塗布液2>
カチオン性コロイダルシリカ 100部
平均一次粒子径が100〜140nmのスノーテックスST−AK−YL(日産化学工業株式会社製)
ポリビニルアルコール 4部
(ケン化度88%、平均重合度3500)
界面活性剤(日本サーファクタント社製、スワノールAM) 0.3部
固形分濃度が8質量%になるように水で調整した。
【0112】
(実施例4)
実施例3で作製した画像受理層A塗布液1を下記組成の画像受理層A塗布液2に変更し、塗布量を33g/mになるよう塗布乾燥した以外は実施例3と同様にして、平版印刷版原版を作製した。なお、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置での測定によるアルミナ水和物の平均二次粒子径は160nmであった。その後、実施例1と同様にして製版し、平版印刷版4を得た。
【0113】
<画像受理層A塗布液2>
アルミナ水和物 100部
(SASOL社製のDisperal.HP−14、比表面積170m/g、平均二次粒子径160nm)
硝酸 1.4部
ホウ酸 0.2部
ポリビニルアルコール 9.5部
(ケン化度88%、平均重合度3500)
固形分濃度が15質量%になるように水で調整した。
【0114】
(実施例5)
実施例3で作製した画像受理層A塗布液1を下記組成の画像受理層A塗布液3に変更し、塗布量を25g/mになるよう塗布乾燥した以外は、実施例3と同様にして平版印刷版原版を作製した。なお、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置での測定による湿式シリカの平均二次粒子径は200nmであった。その後、実施例1と同様にして製版し、平版印刷版5を得た。
【0115】
<湿式法シリカ分散液1>
水にジメチルジアリルアンモニウムクロライドホモポリマー(分子量9000、4部)と沈降法シリカ(ニップシールVN3、比表面積210m/g、平均二次粒子径23μm、100部)を添加し、のこぎり歯状ブレード型分散機(ブレード周速30m/秒)を使用して予備分散液を作製した。次に得られた予備分散物をビーズミルに、直径0.3mmのジルコニアビーズ、充填率80容量%、円盤周速10m/秒の条件で1回通過させて、固形分濃度30質量%の湿式法シリカ分散液1を得た。
【0116】
<画像受理層A塗布液3>
湿式法シリカ分散液1 104部
ホウ酸 4部
ポリビニルアルコール 17部
(ケン化度88%、平均重合度3500)
固形分濃度が12質量%になるように水で調整した。
【0117】
(実施例6)
実施例3で作製した平版印刷版原版に、インクジェット画像記録開始から不感脂化液処理までの時間を4分とした以外は、実施例3と同様にして製版し、平版印刷版6を得た。
【0118】
(実施例7)
実施例3で作製した平版印刷版原版に、インクジェット画像記録開始から不感脂化液処理までの時間を1時間とした以外は、実施例3と同様にして製版し、平版印刷版7を得た。
【0119】
(実施例8)
実施例3で作製した平版印刷版原版に、インクジェット画像記録後から不感脂化液処理までの間、記録面に50℃の温風を30秒間あてて乾燥した以外は、実施例3と同様にして製版し、平版印刷版8を得た。
【0120】
(実施例9)
実施例3で作製した平版印刷版原版に、100%ベタ画像および10ポイントの文字の記録に代えて、最大インク吐出量条件として80%ベタ画像および10ポイントの文字を記録した以外は、実施例3と同様にして製版し、平版印刷版9を得た。
【0121】
(実施例10)
実施例3で作製した画像受理層A塗布液1の塗布量を13g/mに変更した以外は、実施例3と同様にして平版印刷版原版を作製した。その後、100%ベタ画像および10ポイントの文字の記録に代えて、最大インク吐出量条件として80%ベタ画像および10ポイントの文字を記録した以外は、実施例3と同様にして製版し、平版印刷版10を得た。
【0122】
(比較例1)
実施例1の製版方法において、インクジェットによる画像記録が終了した直後に不感脂化液処理を行った以外は実施例1と同様にして製版し、平版印刷版11を得た。
【0123】
(比較例2)
実施例2の製版方法において、インクジェットによる画像記録が終了した直後に不感脂化液処理を行った以外は実施例2と同様にして製版し、平版印刷版12を得た。
【0124】
(比較例3)
実施例3の製版方法において、インクジェットによる画像記録が終了した直後に不感脂化液処理を行った以外は実施例3と同様にして製版し、平版印刷版13を得た。
【0125】
(比較例4)
実施例4の製版方法において、インクジェットによる画像記録が終了した直後に不感脂化液処理を行った以外は実施例4と同様にして製版し、平版印刷版14を得た。
【0126】
(比較例5)
実施例5の製版方法において、インクジェットによる画像記録が終了した直後に不感脂化液処理を行った以外は実施例5と同様にして製版し、平版印刷版15を得た。
【0127】
(比較例6)
実施例9の製版方法において、インクジェットによる画像記録が終了した直後に不感脂化液処理を行った以外は実施例9と同様にして製版し、平版印刷版16を得た。
【0128】
(比較例7)
実施例10の製版方法において、インクジェットによる画像記録が終了した直後に不感脂化液処理を行った以外は実施例10と同様にして製版し、平版印刷版17を得た。
【0129】
(比較例8)
実施例3の製版方法において、インクジェットによる画像記録開始から不感脂化液処理までの時間を2.5分とした以外は、実施例3と同様にして製版し、平版印刷版18を得た。
【0130】
(比較例9)
実施例10の製版方法において、80%ベタ画像および10ポイントの文字の記録に代えて、最大インク吐出量条件として100%ベタ画像および10ポイントの文字を記録した以外は、実施例10と同様にして製版し、平版印刷版19を得た。
【0131】
(比較例10)
実施例3で作製した画像受理層A塗布液1を下記の画像受理層A塗布液4に変更した以外は、実施例3と同様にして平版印刷版原版を作製した。その後、実施例1と同様にして製版し、平版印刷版20を得た。
【0132】
<画像受理層A塗布液4>
気相法シリカ分散液 50部
ホウ酸 5部
ポリビニルアルコール 53部
(ケン化度88%、平均重合度3500)
固形分濃度が9質量%になるように水で調整した。
【0133】
上記製版方法に用いた平版印刷版原版が有する画像受理層のインク吸収容量、水性顔料インクの最大インク吐出量、および得られた平版印刷版の残存インク量は、以下の手順で求めた。これらの結果を表1に示す。
【0134】
<平版印刷版原版のインク吸収容量>
作製した平版印刷版原版の質量と、該平版印刷版原版を25℃のイオン交換水に1分間浸漬し引き揚げ、表裏面の余分な水分を吸水布でぬぐった後の質量をそれぞれ測定した。そして平版印刷版原版の面積とイオン交換水に浸漬する前後の質量差から、平版印刷版原版のインク吸収容量(g/m)を算出した。
【0135】
<最大インク吐出量>
水性顔料インク用インクジェットプリンター(セイコーエプソン株式会社製PX−1001)の記録直前のCYM3種のインクカートリッジ質量をそれぞれ測定した。また最大インク吐出量条件にてCMYコンポジットブラックベタ画像記録後、CMY3種のインクカートリッジ質量をそれぞれ測定した。そしてCMYコンポジットブラックベタ画像の記録面積とこれらCMYインクカートリッジの質量の差分から最大インク吐出量(g/m)を算出した。
【0136】
<平版印刷版の残存インク量>
作製した平版印刷版原版の、記録するCMYコンポジットブラックベタ画像部分のみを切り出し、その質量と、水性顔料インク用インクジェットプリンターで記録し、前記した個々の乾燥条件にて乾燥し、不感脂化処理を施す前の平版印刷版の、同様に切り出した部分の質量を測定した。そして切り出し部分の面積と上記のようにして測定した切り出し部分の質量差より、平版印刷版の残存インク量(g/m)を算出した。
【0137】
<画像品質>
平版印刷版原版の画像受理層に記録した文字画像の鮮鋭性を目視で観察し、下記の基準で評価した。この結果を表1に示す。
○ :非常に鮮鋭で、境界にじみが見られない。
△ :わずかににじみが見られるが問題とならないレベル。
× :境界にじみが顕著であり、インク吸収性が劣る。
【0138】
<印刷>
上記した製版方法にて得られた平版印刷版1〜20それぞれについて平版印刷を実施した。印刷はHAMADA DU34II(ハマダ印刷機械株式会社製オフセット印刷機)に平版印刷版をセットし、インキとしてニューチャンピオンFグロス墨85N(DIC株式会社製)、給湿液としてSLM−OD(三菱製紙株式会社製給湿液)の3質量%水溶液を使用し上質紙に印刷をした。
【0139】
<耐刷性>
1000枚目までは100枚ごと、1000枚目以降は500枚ごとに印刷物をサンプリングし、印刷物上で10ポイントの文字に欠落が生じるまでの枚数にて耐刷性を評価した。この結果を表1に示す。
【0140】
【表1】

【0141】
表1の結果から、本発明の平版印刷版原版の製版方法により、優れた画像品質を有し、良好な耐刷性を得られることが判る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐水性支持体上に無機微粒子を主体に含有する画像受理層を有する平版印刷版原版に、インクジェット方式により水性顔料インクを印字した後に平版印刷を行う平版印刷版原版の製版方法において、インクジェット方式により印字される画像の最高濃度部における水性顔料インクのインク吐出量が画像受理層のインク吸収容量以下であり、且つ印字後に残存する最高濃度部分の水性顔料インク量が印字時のインク吐出量の80質量%以下になるようにインクを乾燥させた後、不感脂化処理を行うことを特徴とする平版印刷版原版の製版方法。
【請求項2】
前記平版印刷版原版が、耐水性支持体上に無機微粒子を主体に含有する画像受理層Aと、該画像受理層Aよりも耐水性支持体から離れた側に、カチオン性コロイダルシリカを主体に含有する、あるいはコロイダルシリカを主体に含有しカチオン性化合物を含有する画像受理層Bを有することを特徴とする請求項1に記載の平版印刷版原版の製版方法。

【公開番号】特開2012−152942(P2012−152942A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−11982(P2011−11982)
【出願日】平成23年1月24日(2011.1.24)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】