説明

平版印刷版原版処理用の現像液、該現像液を用いた平版印刷版の作製方法、及び、印刷方法

【課題】本発明の目的は、経時でpHが安定かつ膜形成性に優れた現像液、水洗工程を必要としない1液1工程の簡易処理によっても、現像性及び現像カス分散性に優れ、非画像部の汚れが抑制された平版印刷版を作製できる平版印刷版の作製方法、及び、この平版印刷版の作製方法を用いて印刷を行う印刷方法を提供する。
【解決手段】2つ以上の単糖が結合した非還元性糖類を有し、pHが6以上14以下であることを特徴とする平版印刷版原版処理用の現像液、並びに、これを用いた平版印刷版の作製方法及び印刷方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平版印刷版原版処理用の現像液、該現像液を用いた平版印刷版の作製方法、及び、印刷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、平版印刷版は、印刷過程でインキを受容する親油性の画像部と、湿し水を受容する親水性の非画像部とからなる。平版印刷は、水と印刷インキが互いに反発する性質を利用して、平版印刷版の親油性の画像部をインキ受容部、親水性の非画像部を湿し水受容部(インキ非受容部)として、平版印刷版の表面にインキの付着性の差異を生じさせ、画像部のみにインキを着肉させた後、紙などの被印刷体にインキを転写して印刷する方法である。
この平版印刷版を作製するため、従来、親水性の支持体上に親油性の感光性樹脂層(感光層、画像記録層)を設けてなる平版印刷版原版(PS版)が広く用いられている。通常は、平版印刷版原版を、リスフィルムなどの原画を通した露光を行った後、画像記録層の画像部となる部分を残存させ、それ以外の不要な画像記録層をアルカリ性現像液又は有機溶剤によって溶解除去し、親水性の支持体表面を露出させて非画像部を形成する方法により製版を行って、平版印刷版を得ている。
【0003】
一方、近年、画像情報をコンピュータで電子的に処理し、蓄積し、出力する、デジタル化技術が広く普及してきており、このようなデジタル化技術に対応した新しい画像出力方式が種々実用されるようになってきている。これに伴い、レーザー光のような高収斂性の輻射線にデジタル化された画像情報を担持させて、その光で平版印刷版原版を走査露光し、リスフィルムを介することなく、直接平版印刷版を製造するコンピュータ・トゥ・プレート(CTP)技術が注目されてきている。従って、このような技術に適応した平版印刷版原版を得ることが重要な技術課題の一つとなっている。
【0004】
従来の平版印刷版原版の製版工程においては、露光の後、不要な画像記録層を現像液などによって溶解除去する工程が必要であるが、環境及び安全上、より中性域に近い現像液での処理や少ない廃液が課題として挙げられている。特に、近年、地球環境への配慮から湿式処理に伴って排出される廃液の処分が産業界全体の大きな関心事となっており、上記課題の解決の要請は一層強くなってきている。
【0005】
上述のように、現像液の低アルカリ化、処理工程の簡素化は、地球環境への配慮と省スペース、低ランニングコストへの適合化との両面から、従来にも増して強く望まれるようになってきている。しかし前述のように、従来の現像処理工程はpH11以上のアルカリ水溶液で現像した後、水洗浴にてアルカリ剤を流し、その後、親水性樹脂を主とするガム液で処理するという3つの工程からなっており、そのため自動現像機自体も大きくスペースを取ってしまい、更に現像廃液、水洗廃液、ガム廃液処理の問題等、環境及びランニングコスト面での課題を残している。
【0006】
これに対して、例えば、特許文献1には、アルカリ金属の炭酸塩及び炭酸水素塩を有するpH8.5〜11.5、導電率3〜30mS/cmの低アルカリの現像液で処理する現像方法が提案されているが、該現像液は水溶性高分子化合物を含有するものではなく、水洗及びガム液処理工程を必要としており、環境及びランニングコスト面の課題解決には至っていない。
【0007】
また、特許文献2〜4では、以下のように、糖類など水溶性高分子化合物を含有する現像液による処理が開示されている。
特許文献2は、好ましくはpH3〜9であるとするゴム溶液による現像処理を開示している。しかし、このゴム溶液は塩基成分を含まないため、感光層のポリマーを親水性にして現像可能とする必要があり、耐刷性が著しく低下するという問題がある。また、ゴム成分による非画像部の親水性保護が不充分であり、印刷部数の増加に伴い、非画像部の汚れ防止性が劣化する傾向にあった。
【0008】
特許文献3は、シクロデキストリン又はその誘導体を含有する現像液を用いた製版方法を開示しており、実施例において、pH3〜9の範囲の、ヒドロキシプロピルエーテル化デンプン及びアラビアガムとともに、シクロデキストリンを含有する現像液を使用している。
【0009】
特許文献4の実施例にはpH11.9〜12.1の膜形成性ポリマーを含有する処理液による現像処理を行い、ガム処理工程を含まない製版方法が記載されている。膜形成性ポリマーとしてポリヒドロキシ化合物が特に好ましいとし、ポリヒドロキシ化合物としてソルビトールのような糖アルコールを挙げている。
【0010】
しかしながら、ソルビトールは分子量182、炭素数6の比較的小さな化合物であり、高分子化合物に比べて膜形成性や支持体への吸着性が弱く、これらの処理により得られた印刷版は、印刷中にガム成分が脱離して耐汚れ性に劣る。また、アルカリが版面に付着したままの状態であり、作業者に対して安全面で問題がある上に、印刷版作成後に印刷までの経時が長くなると画像部が次第に溶解して耐刷性や着肉性の低下を招くという問題がある。
上記のような技術によっても、アルカリ性から中性の広いpH領域で、経時でpHが安定かつ膜形成性に優れる現像処理液、そして、水洗工程を必要としない1液1工程の簡易処理によっても、現像性に優れ、現像カス分散性が良好であり、非画像部の汚れを抑制できる現像方法の提供は困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平11−65126号公報
【特許文献2】特表2007−538279号公報
【特許文献3】国際公開第10/004778号
【特許文献4】欧州特許出願公開第1868036号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、経時でpHが安定であり、かつ膜形成性に優れた現像液、水洗工程を必要としない1液1工程の簡易処理によっても、現像性及び現像カス分散性に優れ、非画像部の汚れが抑制された平版印刷版を作製できる平版印刷版の作製方法、及び、この平版印刷版の作製方法を用いて印刷を行う印刷方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
従来の製版工程においては、ガム液に添加される水溶性高分子化合物として、親水性を有し膜形成性に優れること、比較的安価で市販されていることから、デンプンやデキストリンに代表される糖類が用いられている。
本発明者らは、処理工程の簡素化として、ガム液処理工程をなくす場合には、親水性高分子化合物を現像液に添加することが必要となるが、上記のような糖類を添加すると、現像液のpHが経時で低下することを見出すとともに、糖類の多くは、末端に還元性の部位を有するアルドースであり、現像液中で開環してアルデヒド基を生じ、ここにOHイオンが求核付加してカルボン酸基となるため、現像液中でOHイオンが消費されてpH低下が起こることを見出した。
現像液のpHの経時変動は、現像液による画像記録層の溶解性、すなわち、平版印刷版原版の現像性、現像カス分散性に深刻な悪影響を与え、そして、特に耐汚れ性を大きく悪化させ、平版印刷版の性能低下をもたらすものである。
【0014】
また、本発明者らは、鋭意検討の結果、現像液に単糖が2つ以上結合した非還元性糖類を含ませることにより、経時によるpHの低下がなく、また現像処理後に、ガム処理工程を必要としない処理が可能となることを見出した。
更に、単糖が2つ以上結合した非還元性糖類は優れた膜形成性を有するため、例えば、ネガ型平版印刷版原版の場合は、現像処理により未露光部の感光層が除去され、現像液に晒された非画像部の支持体表面に、糖類が親水性の高い膜を形成し、非画像部の親水性が向上するとともに、更に、支持体と相互作用する官能基を有する非還元性糖類とした場合には、支持体表面とより強固に密着するため、印刷中も非画像部の支持体表面から糖類がより脱離しにくく、親水性を維持することが可能であることが分かった。また、ポジ型平版印刷版原版の場合も、同様の効果が得られることが分かった。
【0015】
本発明者らは、以上の知見から、本発明を完成するに至った。
すなわち、上記課題は、下記の手段により解決することができる。
【0016】
(1) 2つ以上の単糖が結合した非還元性糖類を含有し、pHが6以上14以下であることを特徴とする平版印刷版原版処理用の現像液。
(2) 還元性糖類を実質的に含有しない、上記(1)に記載の現像液。
(3) 前記非還元性糖類が、二糖類、オリゴ糖及び還元デンプン糖化物の少なくとも1つであることを特徴とする、上記(1)又は(2)に記載の現像液。
(4) 前記非還元性糖類が、オリゴ糖及び還元デンプン糖化物の少なくとも1つであり、該非還元性糖類の分子量が500以上であることを特徴とする、上記(1)〜(3)のいずれか一項に記載の現像液。
(5) 前記非還元性糖類が、分子量1000以上の還元デンプン糖化物であることを特徴とする、上記(1)〜(4)のいずれか一項に記載の現像液。
(6) 前記非還元性糖類が、現像処理後の平版印刷版原版の支持体表面と相互作用する官能基を有することを特徴とする、上記(1)〜(5)のいずれか一項に記載の現像液。
【0017】
(7) 前記現像液のpHが、6.5以上11.0以下であることを特徴とする、上記(1)〜(6)のいずれか一項に記載の現像液。
(8) 前記現像液のpHが、6.9以上10.0以下であることを特徴とする、上記(1)〜(7)のいずれか一項に記載の現像液。
(9) 前記現像液が、更に、アニオン性界面活性剤、両性界面活性剤及びノニオン性界面活性剤の少なくとも1つの界面活性剤を含有することを特徴とする、上記(1)〜(8)のいずれか一項に記載の現像液。
【0018】
(10) 前記現像液が、更に、pH緩衝剤を含有することを特徴とする上記(1)〜(9)のいずれか一項に記載の現像液。
(11)前記pH緩衝剤が、炭酸イオン及び炭酸水素イオンであることを特徴とする上記(10)に記載の現像液。
(12)前記pH緩衝剤が、水溶性のアミン化合物及びそのアミン化合物のイオンであることを特徴とする上記(10)に記載の現像液。
(13)親水性支持体上に、(i)重合開始剤、(ii)重合性化合物、及び(iii)バインダーポリマーを含有する感光層、並びに、保護層をこの順に有するネガ型平版印刷版原版を画像様に露光し、上記(1)〜(12)のいずれか一項に記載の現像液の存在下、保護層及び非露光部の感光層を除去することを特徴とする平版印刷版の作製方法。
【0019】
(14)親水性支持体上に、バインダーポリマーと赤外線吸収剤とを含む画像記録層を有するポジ型平版印刷版原版を画像様に露光し、上記(1)〜(12)のいずれか一項に記載の現像液の存在下、露光部の画像記録層を除去することを特徴とする平版印刷版の作製方法。
(15)前記ポジ型平版印刷版原版が、親水性支持体上に、水不溶性かつアルカリ可溶性樹脂、及び赤外線吸収剤を含む下層と、水不溶性かつアルカリ可溶性のポリウレタン、及びポリオルガノシロキサンを含む上層と、を有する画像記録層を備えることを特徴とする、上記(14)に記載の平版印刷版の作製方法。
(16)前記平版印刷版の作製方法であって、水洗工程を含まないことを特徴とする、上記(13)〜(15)のいずれか一項に記載の平版印刷版の作製方法。
(17) 前記平版印刷版原版の親水性支持体が、アルカリ金属シリケート及び有機ホスホン酸の少なくともいずれかで表面処理されているアルミニウム支持体であることを特徴とする、上記(13)〜(16)のいずれか一項に記載の平版印刷版の作製方法。
(18) 上記(13)〜(17)のいずれか一項に記載の平版印刷版の作製方法によって平版印刷版を作製し、該平版印刷版を用いて印刷を行う印刷方法。
(19) 前記平版印刷版の作製後から印刷を開始するまでに水洗工程を含まないことを特徴とする上記(18)に記載の印刷方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、経時でpHが安定であり、かつ、膜形成性に優れた現像液を提供できる。また、この現像液により、水洗工程を必要としない1液1工程の簡易処理によっても、現像性及び現像カス分散性に優れ、非画像部の汚れが抑制された平版印刷版の作製方法、及び、この平版印刷版の作製方法を用いて印刷を行う印刷方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の平版印刷版の作製方法の実施形態における自動現像処理機の概略断面図である。
【図2】本発明の平版印刷版の作製方法の別の実施形態における自動現像処理機の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明において用いられる現像液は、単糖が2つ以上結合した非還元性糖類を含有するpHが6以上14以下の水溶液である。現像液は、水を主成分(水を60質量%以上含有)とする水溶液が好ましく、更に、界面活性剤(アニオン系、ノニオン系、カチオン系、両性イオン系等)を含有する水溶液が好ましい。
該現像液のpHは、より好ましくは6.5以上11.0以下、更に好ましくは6.8以上10.5以下、より好ましくは6.8以上10.3以下、最も好ましくは6.9以上10.0以下である。
【0023】
本発明において、現像液に添加される2つ以上の単糖が結合した非還元性糖類(以降、特定の非還元性糖類ともいう)として、例えば、分子内に2つ以上のヒドロキシ基を有する単糖及びその誘導体(以下構成単位と表記する)がヒドロキシ基同士の脱水縮合によるグリコシド結合を介して形成される、二糖類、三糖類、オリゴ糖、多糖類及びそれらの誘導体を挙げることができる。
【0024】
非還元性糖類とは、還元性末端を実質的に有さない糖類のことを言う。ここで、還元性末端は、現像液(特にpHが上記好ましい範囲内である現像液)中で、還元性基(例えば、アルデヒド基、ケトン基など)を生成可能な末端を意味する。
すなわち、本発明の現像液に使用される非還元性糖類は、現像液中で、還元性基を実質的には生成しない。よって、本発明によれば、還元性基が更に現像液中のOHから求核反応を受けてカルボン酸基を発生し、その結果、現像液中のOH濃度低下とH濃度の上昇が起こることにより現像液のpHを変化させるようなことが起こらないため、経時でpHが安定な現像液が得られるものと考えられる。
また、本発明の現像液を使用することにより、現像性及び現像カス分散性に優れ、非画像部の汚れが抑制された平版印刷版を作製できるが、これは、上記したように、本発明の現像液のpHが経時で安定であるため、所望のpHで現像処理を行うことができることに起因しているものと考えられる。
更に、本発明の現像液は、膜形成性に優れた(印刷版に膜を形成する能力に優れた)現像液であるが、これは、本発明において使用される特定の非還元性糖類が2つ以上の単糖が結合して成るため、得られる膜に十分な強度が付与されるためと考えられる。
【0025】
本発明において使用される特定の非還元性糖類において、還元性末端の存在量は、糖類1モル当たり、200ミリモル以下であることが好ましく、150ミリモル以下であることがより好ましく、70ミリモル以下であることが更に好ましく、全く含有していないことが最も好ましい。
特定の非還元性糖類における還元性末端の存在量は、例えば、アルデヒドや糖類の還元性に由来する化学反応の一つとして一般的に知られている、フェーリング反応により測定することができる。純水を用いて適宜希釈した現像液をフェーリング液に加えて温めると、酸化銅(I)の赤色沈殿が生成するので、この沈殿の質量から還元性末端の存在量を求めることができる。
特定の非還元性糖類を構成する複数の構成単位の結合は、直鎖状であっても、枝分れ状であっても、環状であってもよい。
特定の非還元性糖類として、具体的に下記のような糖類を例示できる。これらの非還元性糖類は、還元性を示さない。
【0026】
【化1】

【0027】
また、水溶液中でアルデヒド基やケトン基等を生じる還元性末端を有する糖類に対して、化学的・物理的処理を加えることでアルデヒド基やケトン基等を消失させて、非還元性にした糖類を、上記特定の非還元性糖類として用いることもできる。
【0028】
そのような化学的処理の一例として、還元性末端に水素付加を行うことで、アルデヒド基又はケトン基等を生成可能な部位を非還元性のアルコールとする方法を例示できる。
【0029】
還元方法としては一般的な還元ならいずれの方法であってもよく、第5版実験化学講座14巻有機化合物の合成II(日本化学会編、丸善、p.1−48)に記載されている方法を例示することができる。
【0030】
このような方法で得られた糖類の具体例としては、還元性を有する多糖類に対して水素付加を行って得られる非還元性の糖類である、還元オリゴ糖、還元水飴、還元澱粉糖化物及びそれらの誘導体が例示できる。具体的な例として、食品添加物として市販されている(株)林原商事より入手可能なシリーズHS、サンエイ糖化株式会社より入手可能なダイヤトール、ダイヤトールL、ダイヤトールK、ダイヤトールN、ダイヤトールPが例示できる。特に好ましい例として、(株)林原商事から入手可能なHS−20,HS−30,HS−40,HS−60,マイルドシロップが例示できる。
【0031】
また、化学的処理の別の例としては、還元性の末端を酸化して、非還元性のカルボン酸基とする方法を例示できる。
【0032】
酸化の方法としては、一般的な酸化ならいずれの方法であってもよく、クロム酸カリウムや過マンガン酸カリウムなどのような酸化剤を用いた方法を例示することができる。
【0033】
ここで、化学的処理を加える前の還元性糖類について特に限定する必要はないが、傷から版面を保護することを目的に、膜形成性に優れた糖類であることがより好ましい。例えば、アラビアガム、繊維素誘導体(例えば、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルプロピルセルロース等)及びその変性体、澱粉誘導体(例えば、デキストリン、マルトデキストリン、酵素分解デキストリン、ヒドロキシプロピル化澱粉、ヒドロキシプロピル化澱粉酵素分解デキストリン、カルボキジメチル化澱粉、リン酸化澱粉、サイクロデキストリン)、プルラン及びプルラン誘導体、ブリティッシュガム等の焙焼澱粉、酵素デキストリン及びシャーディンガーデキストリン等の酵素変成デキストリン、可溶化澱粉に示される酸化澱粉、変成アルファー化澱粉及び無変成アルファー化澱粉等のアルファー化澱粉、燐酸澱粉、脂肪澱粉、硫酸澱粉、硝酸澱粉、キサントゲン酸澱粉及びカルバミン酸澱粉等のエステル化澱粉、カルボキシアルキル澱粉、ヒドロキシアルキル澱粉、スルフォアルキル澱粉、シアノエチル澱粉、アリル澱粉、ベンジル澱粉、カルバミルエチル澱粉、ジアルキルアミノ澱粉等のエーテル化澱粉、メチロール架橋澱粉、ヒドロキシアルキル架橋澱粉、燐酸架橋澱粉、ジカルボン酸架橋澱粉等の架橋澱粉、澱粉ポリアクリロアミド共重合体、澱粉ポリアクリル酸共重合体、澱粉ポリ酢酸ビニル共重合体、澱粉ポリアクリロニトリル共重合体、カオチン性澱粉ポリアクリル酸エステル共重合体、カオチン性澱粉ビニルポリマー共重合体、澱粉ポリスチレンマレイン酸共重合体、澱粉ポリエチレンオキサイド共重合体、澱粉ポリプロピレン共重合体等の澱粉グラフト重合体等が挙げられる。
【0034】
化学的処理を加える前の還元性糖類として使用することができる天然高分子化合物としては、水溶性大豆多糖類、澱粉、ゼラチン、大豆から抽出されるヘミセルロース、かんしょ澱粉、ばれいしょ澱粉、タピオカ澱粉、小麦澱粉及びコーンスターチ等の澱粉類、カラジーナン、ラミナラン、海ソウマンナン、ふのり、アイリッシュモス、寒天及びアルギン酸ナトリウム等の藻類から得られるもの、トロロアオイ、マンナン、クインスシード、ペクチン、トラガカントガム、カラヤガム、キサンチンガム、グアービンガム、ローカストビンガム、キャロブガム、ベンゾインガム等の植物性粘質物、デキストラン、グルカン、レバン等のホモ多糖、並びに、サクシノグルカン及びサンタンガム等のヘトロ多糖等の微生物粘質物、にかわ、ゼラチン、カゼイン及びコラーゲン等の蛋白質が好ましい。中でも、アラビアガム、デキストリンやヒドロキシプロピル澱粉といった澱粉誘導体、カルボキシメチルセルロース、大豆多糖類などが好ましく使用することができる。
【0035】
本発明に用いられる特定の非還元性糖類は、支持体表面と相互作用する官能基を有することがより好ましい。支持体表面に相互作用する官能基は、支持体表面と相互作用し、現像時に、非画像部の支持体表面に吸着することに寄与する。支持体表面と相互作用する官能基としては、支持体上に存在する金属、金属酸化物、水酸基などと共有結合、イオン結合、水素結合、極性相互作用などの相互作用が可能な基が挙げられる。中でも、支持体表面に吸着する官能基(吸着性基)が好ましい。
【0036】
支持体表面への吸着性の有無に関しては、例えば以下のような方法で判断できる。
試験化合物を易溶性の溶媒に溶解させた塗布液を作成し、その塗布液を乾燥後の塗布量が30mg/mとなるように支持体上に塗布・乾燥させる。試験化合物を塗布した支持体を、易溶性溶媒を用いて十分に洗浄した後、洗浄除去されなかった試験化合物の残存量を測定して支持体吸着量を算出する。ここで残存量の測定は、残存化合物量を直接定量してもよいし、洗浄液中に溶解した試験化合物量を定量して算出してもよい。化合物の定量法としては、例えば蛍光X線測定、反射分光吸光度測定、液体クロマトグラフィー測定、赤外吸収測定で実施できる。支持体吸着性がある化合物は、上記のような洗浄処理を行っても0.1mg/m以上残存する化合物である。
支持体表面への吸着性基は、支持体表面に存在する物質(例、金属、金属酸化物)あるいは官能基(例、水酸基)と、化学結合(例、イオン結合、水素結合、配位結合、分子間力による結合)を引き起こすことができる官能基である。吸着性基は、酸基又はカチオン性基が好ましい。
酸基は、酸解離定数(pKa)が7以下であることが好ましい。酸基の例としては、フェノール性水酸基、カルボキシル基、−SOH、−OSOH、−PO、−OPO、−CONHSO−、−SONHSO−及び−COCHCOCHが挙げられる。なかでもリン酸基(−OPO、−PO)が特に好ましい。またこれら酸基は、金属塩であっても構わない。
カチオン性基は、オニウム基であることが好ましい。オニウム基の例としては、アンモニウム基、ホスホニウム基、アルソニウム基、スチボニウム基、オキソニウム基、スルホニウム基、セレノニウム基、スタンノニウム基、ヨードニウム基等が挙げられる。なかでもアンモニウム基、ホスホニウム基及びスルホニウム基が好ましく、アンモニウム基及びホスホニウム基が更に好ましく、アンモニウム基が最も好ましい。
【0037】
以下に、支持体表面に吸着する官能基の好ましい例を示す。
【0038】
【化2】

【0039】
上記式中、R11〜R13は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アリール基、アルキニル基又はアルケニル基である。M及びMはそれぞれ独立に、水素原子、金属原子又はアンモニウム基である。Xはカウンターアニオンである。nは1〜5の整数である。
吸着性基としては、オニウム基(例、アンモニウム基、ピリジニウム基)、リン酸エステル基及びその塩、ホスホン酸基及びその塩、ホウ酸基及びその塩、β−ジケトン基(例、アセチルアセトン基)が特に好ましい。最も好ましくは、リン酸エステル基、ホスホン酸基である。
【0040】
支持体表面と相互作用する官能基を有する特定の非還元性糖類の具体的な例として、ヒドロキシ基をリン酸エステル化したリン酸変性デンプンを更に水素付加して還元性をなくしたもの、ヒドロキシ基をオクテニルコハク酸エステル化したデンプンを更に水素付加して還元性をなくしたものなどが挙げられる。
【0041】
特定の非還元性糖類は、1種のみの支持体表面と相互作用する官能基を有する構成単位を有していても、2種以上の支持体表面に相互作用する官能基を有する構成単位を有していてもよい。
特定の非還元性糖類における支持体表面に相互作用する官能基を有する構成単位の含有比率は、特定の非還元性糖類が有する全構成単位に対し、2〜80モル%であることが好ましく、2〜70モル%であることがより好ましく、5〜50モル%であることが更に好ましく、10〜40モル%であることが特に好ましい。
【0042】
特定の非還元性糖類は、ヒドロキシ基以外にも、親水性基を有することも好ましい。親水性基としては、例えば、カルボキシル基、カルボキシレート基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、ポリオキシエチル基やポリオキシプロピル基等のポリオキシアルキレン基、アミノ基、アミノエチル基、アミノプロピル基、アンモニウム基、アミド基、カルボキシメチル基、スルホン酸基及びその塩、ベタイン構造を有する基等が好適に挙げられる。
本発明において、当該親水性基は、非還元性糖類に高い親水性を付与し、非画像部の汚れ性防止に寄与する。
特に好ましい親水性基は、スルホン酸基(−SOH)及びその塩(−SOM(ただし、Mはプロトン(H)以外の対カチオンを表す。))、アミド基(−CONR−(ただし、Rは水素原子又は有機基を表す。))、ポリアルキレンオキシ基、ベタイン構造を有する基である。前記ベタイン構造とは、1つの基にカチオン構造とアニオン構造の両方を有し、電荷が中和されている構造である。前記ベタイン構造におけるカチオン構造としては、特に制限はないが、第四級窒素カチオンであることが好ましい。
前記ベタイン構造におけるアニオン構造としては、特に制限はないが、−COO、−SO、−PO2−、又は、−POであることが好ましく、−COO、又は、−SOであることがより好ましい。
より好ましい親水基は、スルホン酸基及びその塩、又は、ベタイン構造を有する基である。
親水基として好ましい化学構造を以下に挙げるが、これに限定されるものではない。
【0043】
【化3】

【0044】
ただし、Mは前記のMと同義である。
7、8、11、12、14及びR15はそれぞれ独立に、水素原子、又は、炭素数1〜6の直鎖若しくは分岐のアルキル基を表す。Rは炭素数1〜6の直鎖又は分岐のアルキレン基を表し、エチレン基が好ましい。R10は水素原子又は炭素数1〜12のアルキル基を表す。nは1〜100の整数を表し、1〜30が好ましい。R13及びR16はそれぞれ独立に、二価の有機基を表し、例えば、二価の脂肪族基、二価の芳香族基及びそれらの組み合わせからなる群より選ばれる二価の連結基を表す。
【0045】
特定の非還元性糖類は、1種のみの親水性基を有する構成単位を有していても、2種以上の親水性基を有する構成単位を有していてもよい。特定の非還元性糖類中の親水性基を有する構成単位の含有比率は、該糖類が有する全構成単位に対し、30〜98モル%であることが好ましく、40〜90モル%であることがより好ましく、50〜90モル%であることが更に好ましい。
【0046】
本発明の現像液は、特定の非還元性糖類を1種単独で含有していてもよく、2種以上を含有していてもよい。
【0047】
本発明の現像液における特定の非還元性糖類の含有量は、0.1〜20質量%であることが好ましく、0.5〜10質量%であることがより好ましく、1〜7質量%であることが更に好ましい。上記範囲であると、より確実に、良好な非画像部の汚れ防止効果が得られる。
【0048】
特定の非還元性糖類の質量平均分子量は、300以上であることが好ましく、500以上であることがより好ましく、1,000以上であることが更に好ましい。また、1,000,000以下であることが好ましく、500,000以下であることがより好ましい。
特定の非還元性糖類は、膜形成性により優れ、傷から版面をより保護できるという観点から、二糖類、オリゴ糖及び還元デンプン糖化物の少なくとも1つであることが好ましく、分子量500以上のオリゴ糖及び分子量500以上の還元デンプン糖化物の少なくとも1つであることがより好ましく、分子量1000以上の還元デンプン糖化物であることが特に好ましい。
【0049】
一方、本発明の現像液は、還元性糖類(現像液中でアルデヒド基やケトン基等を生成可能な還元性末端を有する糖類)を実質的に含有しないことが好ましく、より具体的には、還元性糖類の現像液に対する含有量は、現像液の質量に対して、1.5質量%以下であることが好ましく、1.0質量%以下であることがより好ましく、0.5%未満であることが更に好ましく、含有しないことが特に好ましい。現像液が還元性糖類を含有する場合、その含有量は、通常、現像液の質量に対して、0.0001質量%以上である。
【0050】
本発明の現像液には、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、両性イオン系界面活性剤などの界面活性剤を添加することが好ましい。界面活性剤としては、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤又は両性イオン系界面活性剤であることがより好ましい。
アニオン系界面活性剤としては、特に限定されないが、脂肪酸塩類、アビエチン酸塩類、ヒドロキシアルカンスルホン酸塩類、アルカンスルホン酸塩類、ジアルキルスルホコハク酸塩類、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩類、分岐鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩類、アルキルナフタレンスルホン酸塩類、アルキルジフェニルエーテル(ジ)スルホン酸塩類、アルキルフェノキシポリオキシエチレンアルキルスルホン酸塩類、ポリオキシエチレンアルキルスルホフェニルエーテル塩類、N−アルキル−N−オレイルタウリンナトリウム類、N−アルキルスルホコハク酸モノアミド二ナトリウム塩類、石油スルホン酸塩類、硫酸化ヒマシ油、硫酸化牛脂油、脂肪酸アルキルエステルの硫酸エステル塩類、アルキル硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩類、脂肪酸モノグリセリド硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル硫酸エステル塩類、アルキル燐酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル燐酸エステル塩類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル燐酸エステル塩類、スチレン−無水マレイン酸共重合物の部分けん化物類、オレフィン−無水マレイン酸共重合物の部分けん化物類、ナフタレンスルホン酸塩ホルマリン縮合物類等が挙げられる。これらの中でも、アルキルベンゼンスルホン酸塩類、アルキルナフタレンスルホン酸塩類、アルキルジフェニルエーテル(ジ)スルホン酸塩類が特に好ましく用いられる。
【0051】
カチオン系界面活性剤としては、特に限定されないが、従来公知のものを用いることができる。例えば、アルキルアミン塩類、第四級アンモニウム塩類、アルキルイミダゾリニウム塩、ポリオキシエチレンアルキルアミン塩類、ポリエチレンポリアミン誘導体が挙げられる。
【0052】
ノニオン系界面活性剤としては、特に限定されないが、ポリエチレングリコール型の高級アルコールエチレンオキサイド付加物、アルキルフェノールエチレンオキサイド付加物、アルキルナフトールエチレンオキサイド付加物、フェノールエチレンオキサイド付加物、ナフトールエチレンオキサイド付加物、脂肪酸エチレンオキサイド付加物、多価アルコール脂肪酸エステルエチレンオキサイド付加物、高級アルキルアミンエチレンオキサイド付加物、脂肪酸アミドエチレンオキサイド付加物、油脂のエチレンオキサイド付加物、ポリプロピレングリコールエチレンオキサイド付加物、ジメチルシロキサン−エチレンオキサイドブロックコポリマー、ジメチルシロキサン−(プロピレンオキサイド−エチレンオキサイド)ブロックコポリマー等や、多価アルコール型のグリセロールの脂肪酸エステル、ペンタエリスリトールの脂肪酸エステル、ソルビトール及びソルビタンの脂肪酸エステル、ショ糖の脂肪酸エステル、多価アルコールのアルキルエーテル、アルカノールアミン類の脂肪酸アミド等が挙げられる。この中でも、芳香環とエチレンオキサイド鎖を有するものが好ましく、アルキル置換又は無置換のフェノールエチレンオキサイド付加物又は、アルキル置換又は無置換のナフトールエチレンオキサイド付加物がより好ましい。
【0053】
両性イオン系界面活性剤としては、特に限定されないが、アルキルジメチルアミンオキシドなどのアミンオキシド系、アルキルベタインなどのベタイン系、アルキルアミノ脂肪酸ナトリウムなどのアミノ酸系が挙げられる。
特に、置換基を有してもよいアルキルジメチルアミンオキシド、置換基を有してもよいアルキルカルボキシベタイン、置換基を有してもよいアルキルスルホベタインが好ましく用いられる。これらの具体例は、特開2008−203359号公報の段落番号〔0256〕の式(2)で示される化合物、特開2008−276166号公報の段落番号〔0028〕の式(I)、式(II)、式(VI)で示される化合物、特開2009−47927号公報の段落番号〔0022〕〜〔0029〕で示される化合物を用いることができる。
【0054】
界面活性剤は2種以上用いてもよく、現像液中に含有する界面活性剤の比率は、0.01〜20質量%が好ましく、0.1〜10質量%がより好ましい。
【0055】
本発明で使用する現像液には、更にpH緩衝剤を含有することが好ましい。
本発明のpH緩衝剤としては、pH6〜14に緩衝作用を発揮する緩衝剤であれば特に限定なく用いることができる。弱アルカリ性(pH6〜11)の緩衝剤としては、例えば(a)炭酸イオン及び炭酸水素イオン、(b)ホウ酸イオン、(c)水溶性のアミン化合物及びそのアミン化合物のイオン、及びそれらの併用などが挙げられる。すなわち、例えば(a)炭酸イオン及び炭酸水素イオンの組み合わせ、(b)ホウ酸イオン、又は(c)水溶性のアミン化合物及びそのアミン化合物のイオンの組み合わせなどが、現像液においてpH緩衝作用を発揮し、現像液を長期間使用してもpHの変動を抑制でき、pHの変動による現像性低下、現像カス発生等を抑制できる。特に好ましくは、炭酸イオン及び炭酸水素イオンの組み合わせ、又は、水溶性のアミン化合物及びそのアミン化合物のイオンの組み合わせである。
pH11を超える高pHに緩衝作用を発揮する緩衝剤としては、(d)ケイ酸ソーダなどのアルカリ金属ケイ酸塩及び/又はアルカリ土類金属ケイ酸塩を用いることができる。これらはいずれか一方を用いてもよく、併用して用いても良い。
【0056】
(a)炭酸イオン、炭酸水素イオンを現像液中に存在させるには、炭酸塩と炭酸水素塩を現像液に加えてもよいし、炭酸塩又は炭酸水素塩を加えた後にpHを調整することで、炭酸イオンと炭酸水素イオンを発生させてもよい。炭酸塩及び炭酸水素塩は、特に限定されないが、アルカリ金属塩であることが好ましい。アルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウムが挙げられ、ナトリウムが特に好ましい。これらは単独でも、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0057】
(b)ホウ酸イオンを現像液中に存在させるには、ホウ酸あるいはホウ酸塩を現像液に加えた後、アルカリを用いて、あるいはアルカリと酸とを用いて、pHを調整することで、適量のホウ酸イオンを発生させる。
ここで用いるホウ酸あるいはホウ酸塩は、特に限定されないが、ホウ酸としてオルトホウ酸、メタホウ酸、四ホウ酸などが挙げられ、中でもオルトホウ酸及び四ホウ酸が好ましい。また、ホウ酸塩としてアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩が挙げられ、オルトホウ酸塩、二ホウ酸塩、メタホウ酸塩、四ホウ酸塩、五ホウ酸塩、八ホウ酸塩などが挙げられ、中でもオルトホウ酸塩、四ホウ酸塩、特にアルカリ金属の四ホウ酸塩が好ましい。好ましい四ホウ酸塩として、四ホウ酸ナトリウム、四ホウ酸カリウム及び四ホウ酸リチウムなどが挙げられ、中でも四ホウ酸ナトリウムが好ましい。ホウ酸塩を2種以上併用してもよい。
本発明で使用するホウ酸あるいはホウ酸塩として、特に好ましいのは、オルトホウ酸、四ホウ酸あるいは四ホウ酸ナトリウムである。現像液にホウ酸及びホウ酸塩を併用してもよい。
【0058】
(c)水溶性のアミン化合物のイオンは、水溶性アミン化合物の水溶液において発生させることができ、水溶性アミン化合物の水溶液に更にアルカリ又は酸を加えてもよく、また、もともとアミン化合物の塩になっている化合物を添加することにより水溶液中に含有させることができる。
水溶性のアミン化合物は、特に限定されないが、水溶性を促進する基を有している水溶性アミン化合物が好ましい。水溶性を促進する基としてカルボン酸基、スルホン酸基、スルフィン酸基、ホスホン酸基、水酸基などが挙げられる。水溶性のアミン化合物は、これらの基を複数有していても良い。
アミン化合物の水溶性をカルボン酸基、スルホン酸基、スルフィン酸基、ホスホン酸基により促進する場合、水溶性のアミン化合物は、アミノ酸に該当する。アミノ酸は水溶液中で平衡状態にあり、酸基が例えばカルボン酸基であるとき、平衡状態は下記のように表される。本発明におけるアミノ酸とは、下記のBの状態をいい、アミノ酸のイオンとは、Cの状態を意味する。Cの状態におけるカウンターイオンとしては、ナトリウムイオン、カリウムイオンが好ましい。
【0059】
【化4】

【0060】
カルボン酸基、スルホン酸基、スルフィン酸基を持つ水溶性のアミン化合物の具体例として、グリシン、イミノ二酢酸、リシン、スレオニン、セリン、アスパラギン酸、パラヒドロキシフェニルグリシン、ジヒドロキシエチルグリシン、アラニン、アントラニル酸、トリプトフアン等のアミノ酸、スルファミン酸、シクロヘキシルスルファミン酸、タウリン等の脂肪酸アミンスルホン酸、アミノエタンスルフィン酸等の脂肪酸アミンスルフィン酸などがある。これらの中で、グリシン及びイミノ二酢酸が好ましい。
【0061】
ホスホン酸基(ホスフィン酸基も含む)を持つ水溶性のアミン化合物の具体例として、2−アミノエチルホスホン酸、1−アミノエタン−1,1−ジホスホン酸、1−アミノ−1−フエニルメタン−1,1−ジホスホン酸、1−ジメチルアミノエタン−1,1−ジホスホン酸、エチレンジアミノペンタメチレンホスホン酸などがある。特に2−アミノエチルホスホン酸が好ましい。
【0062】
水溶性を促進する基として水酸基を持つ水溶性のアミン化合物は、アルキル基に水酸基を有するアルキルアミンを意味し(下記状態B)、これらのイオンとは、アミノ基のアンモニウムイオンを意味する(下記状態A)。
【0063】
【化5】

【0064】
水酸基を持つ水溶性のアミン化合物の具体例として、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリメタノールアミン、トリエタノールアミン、トリプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミンなどがある。これらの中で、トリエタノールアミン及びジエタノールアミンが好ましい。アンモニウムイオンのカウンターイオンとしてはクロルイオンが好ましい。
【0065】
水溶性アミン化合物及びそのアミン化合物のイオンは、特に限定されないが、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−ヒドロキシエチルモルホリン、及び4−ジメチルアミノピリジンから選択される水溶性アミン化合物及びそのアミン化合物のイオンが好ましい。これらは単独でも、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0066】
上述のpHの調整に用いることができるアルカリとしては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素アンモニウム、有機アルカリ剤、及びそれらの組み合わせなどを用いることができる。また、酸として、無機酸、例えば塩酸、硫酸、硝酸などを用いることができる。このようなアルカリ又は酸を添加することにより、pHを微調整することができる。
【0067】
pH緩衝剤として(a)炭酸イオンと炭酸水素イオンの組み合わせを採用するとき、炭酸イオン及び炭酸水素イオンの総量は、現像液の全質量に対して0.05〜5mol/Lが好ましく、0.07〜2mol/Lがより好ましく、0.1〜1mol/Lが特に好ましい。総量が0.05mol/L以上であると現像性、処理能力が低下しにくく、5mol/L以下であると沈殿や結晶を生成し難くなり、更に現像液の廃液処理時、中和の際にゲル化し難くなり、廃液処理に支障をきたしにくい。
【0068】
pH緩衝剤として(b)ホウ酸イオンを採用するとき、ホウ酸イオンの総量は、現像液の全質量に対して0.05〜5mol/Lが好ましく、0.1〜2mol/Lがより好ましく、0.2〜1mol/Lが特に好ましい。ホウ酸塩の総量が0.05mol/L以上であると現像性、処理能力が低下しにくく、一方5mol/L以下であると沈殿や結晶を生成し難くなり、更に現像液の廃液処理時の中和の際にゲル化し難くなり、廃液処理に支障をきたしにくい。
【0069】
pH緩衝剤として(c)水溶性のアミン化合物及びそのアミン化合物のイオンを採用するとき、水溶性アミン化合物及びそのアミン化合物のイオンの総量は、現像液の全質量に対して0.005〜5mol/Lが好ましく、0.01〜2mol/Lがより好ましく、0.01〜1mol/Lが特に好ましい。水溶性のアミン化合物及びそのアミン化合物のイオンの総量がこの範囲にあると現像性、処理能力が低下せず、一方廃液処理が容易である。
【0070】
pH緩衝剤として(d)アルカリ金属ケイ酸塩及びアルカリ土類金属ケイ酸塩の少なくとも一方を採用するとき、アルカリ金属ケイ酸塩及びアルカリ土類金属ケイ酸塩の少なくとも一方の総量は、現像液の全質量に対して0.005〜5mol/Lが好ましく、0.01〜2mol/Lがより好ましく、0.01〜1mol/Lが特に好ましい。
【0071】
また、本発明の現像液には、有機溶剤を含有しても良い。含有可能な有機溶剤としては、例えば、脂肪族炭化水素類(ヘキサン、ヘプタン、”アイソパーE、H、G”(エッソ化学(株)製)あるいはガソリン、灯油等)、芳香族炭化水素類(トルエン、キシレン等)、あるいはハロゲン化炭化水素(メチレンジクロライド、エチレンジクロライド、トリクレン、モノクロルベンゼン等)や、極性溶剤が挙げられる。極性溶剤としては、アルコール類(メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、1−ブタノール、1−ペンタノール、1−ヘキサノール、1−ヘプタノール、1−オクタノール、2−オクタノール、2−エチル−1−ヘキサノール、1−ノナノール、1−デカノール、ベンジルアルコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、2−エトキシエタノール、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリプロピレングリコール、テトラエチレングリコール、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル、メチルフェニルカルビノール、n−アミルアルコール、メチルアミルアルコール等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、エチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等)、エステル類(酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸アミル、酢酸ベンジル、乳酸メチル、乳酸ブチル、エチレングリコールモノブチルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールアセテート、ジエチルフタレート、レブリン酸ブチル等)、その他(トリエチルフォスフェート、トリクレジルフォスフェート、N−フェニルエタノールアミン、N−フェニルジエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、4−(2−ヒドロキシエチル)モルホリン、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、等)等が挙げられる。
【0072】
現像液に含有する有機溶剤は、2種以上を併用することもできる。
また、上記有機溶剤が水に不溶な場合は、界面活性剤等を用いて水に可溶化して使用することも可能であり、現像液に、有機溶剤を含有する場合は、安全性、引火性の観点から、溶剤の濃度は40質量%未満が望ましい。好ましくは、10質量%未満、更に好ましくは、5質量%未満である。
【0073】
本発明の現像液には上記の他に、防腐剤、キレート化合物、消泡剤、有機酸、無機酸、無機塩などを含有することができる。具体的には、特開2007−206217号公報の段落番号〔0266〕〜〔0270〕に記載の化合物を好ましく用いることができる。
【0074】
上記の現像液は、必要に応じて現像補充液として用いることができ、後述の自動処理機に適用することが好ましい。自動処理機を用いて現像する場合、処理量に応じて現像液が疲労してくるので、補充液又は新鮮な現像液を用いて処理能力を回復させてもよい。
【0075】
<平版印刷版の作製方法>
平版印刷版原版は、線画像、網点画像等を有する透明原画を通してレーザー露光するかデジタルデータによるレーザー光走査等で画像様に露光される。
望ましい光源の波長は300nmから450nm又は750nmから1400nmの波長が好ましく用いられる。300nmから450nmの場合は、この領域に吸収極大を有する増感色素を感光層に有する平版印刷版原版が用いられ、750nmから1400nmの場合は、この領域に吸収を有する増感色素である赤外線吸収剤を含有する平版印刷版原版が用いられる。300nmから450nmの光源としては、半導体レーザーが好適である。750nmから1400nmの光源としては、赤外線を放射する固体レーザー及び半導体レーザーが好適である。露光機構は、内面ドラム方式、外面ドラム方式、フラットベッド方式等の何れでもよい。
【0076】
本発明においては、上記のように平版印刷版原版を画像露光して、本発明の現像液を用いて現像処理を行うことで平版印刷版を作製する。
本発明の現像液が含有する特定の非還元性糖類は、優れた膜形成能を有しているので、現像−ガム液処理を同時に行うことができる。
また、pH6〜11の現像液であれば、後水洗工程は特に必要とせず、一液で現像とガム液処理を行ったのち、乾燥工程を行うことができる、或いは、直ちに印刷機にセットして印刷することができる。更に、前水洗工程も特に必要とせず、保護層の除去も現像、ガム液処理と同時に行うこともできる。なお、現像及びガム処理の後に、スクイズローラーを用いて余剰の現像液を除去した後、乾燥を行うことが好ましい。
pH11を超え14のアルカリ現像液であれば、必要に応じて前水洗工程により保護層を除去してもよく、次いで本発明の現像液で現像を行い、必要に応じて後水洗工程でアルカリを水洗除去してもよく、必要に応じてガム液処理を行ってもよく、必要に応じて乾燥工程で乾燥することができる。
【0077】
本発明に係る平版印刷版の作製方法の好ましい態様の1つは、水洗工程を含まないことを特徴としている。ここで、「水洗工程を含まないこと」とは、平版印刷版原版の画像露光工程以降、現像処理工程を経て平版印刷版が作製されるまでの間に、一切の水洗工程を含まないことを意味する。即ち、この態様によれば、画像露光工程と現像処理工程の間のみならず、現像処理工程後も水洗工程を行うことなく平版印刷版が作製される。作製された印刷版は、そのまま、印刷に供することができる。
【0078】
本発明における平版印刷版原版の現像は、常法に従って、一般的には0〜60℃、好ましくは15〜40℃程度の温度で、例えば、露光処理した平版印刷版原版を現像液に浸漬してブラシで擦る方法、スプレーにより現像液を吹き付けてブラシで擦る方法等により行う。このような自動現像機での処理は、機上現像の場合に生ずる保護層/画像記録層に由来の現像カスへの対応から開放されるという優位性がある。
【0079】
その他、製版プロセスとしては、必要に応じ、露光前、露光中、露光から現像までの間に、全面を加熱してもよい。この様な加熱により、該画像記録層中の画像形成反応が促進され、感度や耐刷性の向上や感度の安定化といった利点が生じ得る。更に、画像強度・耐刷性の向上を目的として、現像後の画像に対し、全面後加熱若しくは全面露光を行うことも有効である。通常現像前の加熱は150℃以下の穏和な条件で行う事が好ましい。温度が高すぎると、未露光部が硬化してしまう等の問題を生じる。現像後の加熱には非常に強い条件を利用する。通常は100〜500℃の範囲である。温度が低いと十分な画像強化作用が得られず、高すぎる場合には支持体の劣化、画像部の熱分解といった問題を生じる。
【0080】
本発明における現像液による現像処理は、現像液の供給手段及び擦り部材を備えた自動処理機により好適に実施することができる。擦り部材として、回転ブラシロールを用いる自動処理機が特に好ましい。
更に自動処理機は現像処理手段の後に、スクイズローラー等の余剰の現像液を除去する手段や、温風装置等の乾燥手段を備えていることが好ましい。
【0081】
図1を参照して本発明の平版印刷版の作製方法に用いられる自動現像処理機の一例について簡単に説明する。
図1に示す自動現像処理機100は、機枠202により外形が形成されたチャンバーからなり、平版印刷版原版の搬送路11の搬送方向(矢印A)に沿って連続して形成された前加熱(プレヒート)部200、現像部300及び乾燥部400を有している。
前加熱部200は、搬入口212及び搬出口218を有する加熱室208を有し、その内部には串型ローラー210とヒーター214と循環ファン216とが配置されている。
【0082】
現像部300は、外板パネル310により前加熱部200と仕切られており、外板パネル310にはスリット状挿入口312が設けられている。
現像部300の内部には、現像液で満たされている現像槽308を有する処理タンク306と、平版印刷版原版を処理タンク306内部へ案内する挿入ローラー対304が設けられている。現像槽308の上部は遮蔽蓋324で覆われている。
現像槽308の内部には、搬送方向上流側から順に、ガイドローラー344及びガイド部材342、液中ローラー対316、ブラシローラー対322、ブラシローラー対326、搬出ローラー対318が並設されている。現像槽308内部に搬送された平版印刷版原版は、現像液中に浸漬され、回転するブラシローラー対322,326の間を通過することにより非画像部が除去される。
ブラシローラー対322,326の下部には、スプレーパイプ330が設けられている。スプレーパイプ330はポンプ(不図示)が接続されており、ポンプによって吸引された現像槽308内の現像液がスプレーパイプ330から現像槽308内へ噴出するようになっている。
【0083】
現像槽308側壁には、第1の循環用配管C1の上端部に形成されたオーバーフロー口51が設けられており、超過分の現像液がオーバーフロー口51に流入し、第1の循環用配管C1を通って現像部300の外部に設けられた外部タンク50に排出される。
外部タンク50は第2の循環用配管C2が接続され、第2の循環用配管C2中には、フィルター部54及び現像液供給ポンプ55が設けられている。現像液供給ポンプ55によって、現像液が外部タンク50から現像槽308へ供給される。また、外部タンク50内にはレベル計52,53が設けられている。
現像槽308は、第3の循環用配管C3を介して補充用水タンク71に接続されている。第3の循環用配管C3中には水補充ポンプ72が設けられており、この水補充ポンプ72によって補充用水タンク71中に貯留される水が現像槽308へ供給される。
液中ローラー対316の上流側には液温センサ336が設置されており、搬出ローラー対318の上流側には液面レベル計338が設置されている。
【0084】
現像300と乾燥部400との間に配置された仕切り板332にはスリット状挿通口334が設けられている。また、現像部300と乾燥部400との間の通路にはシャッター(不図示)が設けられ、平版印刷版原版11が通路を通過していないとき、通路はシャッターにより閉じられている。
乾燥部400は、支持ローラー402、ダクト410,412、搬送ローラー対406、ダクト410,412、搬送ローラー対408がこの順に設けられている。ダクト410,412の先端にはスリット孔414が設けられている。また、乾燥部400には図示しない温風供給手段、発熱手段等の乾燥手段が設けられている。乾燥部400には排出口404が設けられ、乾燥手段により乾燥された平版印刷版は排出口404から排出される。
【0085】
図2を参照して本発明の作製方法に用いられる自動現像処理機の別の一例について簡単に説明する。図2に示す自動現像装置は、図1と同様に、機枠により外形が形成されたチャンバーからなり、平版印刷版原版の搬送方向に沿って連続して形成された、プレヒート(前加熱)部、プレ水洗部、現像浴(現像部)、水洗部、フィニッシャー部、乾燥部を有する。
プレヒート部は、搬入口及び搬出口を有する加熱室を有し、その内部には搬送ローラー対101とヒーターと循環ファンとが配置されている。
プレ水洗部は、その内部に搬送ローラー対102と水洗用のスプレーパイプ2本と、回転ブラシローラー103、水洗水をニップする搬送ローラー対104とが配置されている。
【0086】
現像浴の内部には、現像液で満たされている現像槽を有する処理タンクと、平版印刷版原版を処理タンク内部へ案内する挿入ローラー対105が設けられている。現像槽の上部は遮蔽蓋で覆われている。
現像槽の内部には、搬送方向上流側から順に、液中ローラー対、ブラシローラー対106、ブラシローラー対107、搬出ローラー対108が並設されている。現像槽内部に搬送された平版印刷版原版は、現像液中に浸漬され、回転するブラシローラー対106,107の間を通過することにより非画像部が除去される。
液中ローラー対の上流側には液温センサが設置されており、搬出ローラー対の上流側には液面レベル計が設置されている。
【0087】
現像浴と水洗部との間に配置された仕切り板にはスリット状挿通口が設けられている。
水洗部には、搬送ローラー対109と、水洗用スプレーパイプ2本と、受けローラー110、搬送ローラー対111が配置されている。
水洗部とフィニッシャー部との間に配置された仕切り版にはスリット上に挿通口が設けられている。
フィニッシャー部には、フィニッシャー液を噴出するパイプと、フィニッシャー液を搬送ローラー上に塗設するためのガイド及び搬送ローラー対112が配置されている。
乾燥部は、図示しない温風供給手段、発熱手段等の乾燥手段、熱風ファン、支持ローラー、搬送ローラー対113がこの順に設けられている。乾燥部には排出口が設けられ、乾燥手段により乾燥された平版印刷版は排出口から排出される。
【0088】
本発明の現像液で処理される平版印刷版原版の画像形成方式はネガ型であってもポジ型であってもよい。
以下、ネガ型平版印刷版原版及びポジ型平版印刷版原版について説明する。
〔ネガ型平版印刷版原版〕
ネガ型平版印刷版原版は、親水性支持体上に、感光層を有し、好ましくは更に保護層を有する。また、支持体上に下塗り層を塗設することも好ましい。
感光層(画像記録層とも言う)は、重合開始剤、重合性化合物及びバインダーポリマーを含有することが好ましく、更に、増感色素、連鎖移動剤を含有することも好ましい。
【0089】
(a)増感色素
本発明の感光層は、増感色素を含有することが好ましい。増感色素は、画像露光時の光を吸収して励起状態となり、後述する重合開始剤に電子移動、エネルギー移動又は発熱などでエネルギーを供与し、重合開始機能を向上させるものであれば特に限定せず用いることができる。特に、300〜450nm又は750〜1400nmに極大吸収を有する増感色素が好ましく用いられる。
【0090】
300〜450nmの波長域に極大吸収を有する増感色素としては、メロシアニン色素類、ベンゾピラン類、クマリン類、芳香族ケトン類、アントラセン類、スチリル類、オキサゾール類、等を挙げることができる。
300nmから450nmの波長域に吸収極大を持つ増感色素のうち、高感度の観点からより好ましい色素は下記一般式(IX)で表される色素である。
【0091】
【化6】

【0092】
(一般式(IX)中、Aは置換基を有してもよいアリール基又はヘテロアリール基を表し、Xは酸素原子、硫黄原子又はN−(R)をあらわす。R、R及びRは、それぞれ独立に、一価の非金属原子団を表し、AとR又はRとRはそれぞれ互いに結合して、脂肪族性又は芳香族性の環を形成してもよい。)
【0093】
一般式(IX)について更に詳しく説明する。R、R及びRは、それぞれ独立に、一価の非金属原子団であり、好ましくは、水素原子、置換若しくは非置換のアルキル基、置換若しくは非置換のアルケニル基、置換若しくは非置換のアリール基、置換若しくは非置換のヘテロアリール残基、置換若しくは非置換のアルコキシ基、置換若しくは非置換のアルキルチオ基、ヒドロキシル基、ハロゲン原子を表す。
【0094】
次に、一般式(IX)におけるAについて説明する。Aは置換基を有してもよいアリール基又はヘテロアリール基を表し、置換基を有してもよいアリール基又はヘテロアリール基としては、一般式(IX)中のR、R及びRで記載した置換若しくは非置換のアリール基、置換若しくは非置換の芳香族複素環残基と同様のものが挙げられる。
【0095】
このような増感色素の具体例としては特開2007−58170号公報の段落番号〔0047〕〜〔0053〕、特開2007−93866号公報の段落番号〔0036〕〜〔0037〕、特開2007−72816号公報の段落番号〔0042〕〜〔0047〕に記載の化合物が好ましく用いられる。
【0096】
また、特開2006−189604号公報、特開2007−171406号公報、特開2007−206216号公報、特開2007−206217号公報、特開2007−225701号公報、特開2007−225702号公報、特開2007−316582号公報、特開2007−328243号公報に記載の増感色素も好ましく用いることができる。
【0097】
続いて、本発明にて好適に用いられる750〜1400nmに極大吸収を有する増感色素(以降、「赤外線吸収剤」と称する場合がある)について詳述する。赤外線吸収剤は染料又は顔料が好ましく用いられる。
【0098】
染料としては、市販の染料及び例えば、「染料便覧」(有機合成化学協会編集、昭和45年刊)等の文献に記載されている公知のものが利用できる。具体的には、アゾ染料、金属錯塩アゾ染料、ピラゾロンアゾ染料、ナフトキノン染料、アントラキノン染料、フタロシアニン染料、カルボニウム染料、キノンイミン染料、メチン染料、シアニン染料、スクアリリウム色素、ピリリウム塩、金属チオレート錯体等の染料が挙げられる。
これらの染料のうち特に好ましいものとしては、シアニン色素、スクアリリウム色素、ピリリウム塩、ニッケルチオレート錯体、インドレニンシアニン色素が挙げられる。更に、シアニン色素やインドレニンシアニン色素が好ましく、特に好ましい例として下記一般式(a)で示されるシアニン色素が挙げられる。
【0099】
【化7】

【0100】
一般式(a)中、Xは、水素原子、ハロゲン原子、−NPh、−X−L又は以下に示す基を表す。ここで、Xは酸素原子、窒素原子、又は硫黄原子を示し、Lは、炭素原子数1〜12の炭化水素基、ヘテロ原子(N、S、O、ハロゲン原子、Se)を有するアリール基、ヘテロ原子を含む炭素原子数1〜12の炭化水素基を示す。Xは後述するZと同様に定義され、Rは、水素原子、アルキル基、アリール基、置換又は無置換のアミノ基、ハロゲン原子より選択される置換基を表す。
【0101】
【化8】

【0102】
及びRは、それぞれ独立に、炭素原子数1〜12の炭化水素基を示す。感光層塗布液の保存安定性から、R及びRは、炭素原子数2個以上の炭化水素基であることが好ましい。またRとRは互いに連結し環を形成してもよく、環を形成する際は5員環又は6員環を形成していることが特に好ましい。
【0103】
Ar、Arは、それぞれ同じでも異なっていてもよく、置換基を有していてもよいアリール基を示す。好ましいアリール基としては、ベンゼン環及びナフタレン環が挙げられる。また、好ましい置換基としては、炭素原子数12個以下の炭化水素基、ハロゲン原子、炭素原子数12個以下のアルコキシ基が挙げられる。Y、Yは、それぞれ同じでも異なっていてもよく、硫黄原子又は炭素原子数12個以下のジアルキルメチレン基を示す。R、Rは、それぞれ同じでも異なっていてもよく、置換基を有していてもよい炭素原子数20個以下の炭化水素基を示す。好ましい置換基としては、炭素原子数12個以下のアルコキシ基、カルボキシル基、スルホ基が挙げられる。R、R、R及びRは、それぞれ同じでも異なっていてもよく、水素原子又は炭素原子数12個以下の炭化水素基を示す。原料の入手性から、好ましくは水素原子である。また、Zaは、対アニオンを示す。ただし、一般式(a)で示されるシアニン色素が、その構造内にアニオン性の置換基を有し、電荷の中和が必要ない場合にはZaは必要ない。好ましいZaは、感光層塗布液の保存安定性から、ハロゲンイオン、過塩素酸イオン、テトラフルオロボレートイオン、ヘキサフルオロホスフェートイオン、及びスルホン酸イオンであり、特に好ましくは、過塩素酸イオン、ヘキサフルオロフォスフェートイオン、及びアリールスルホン酸イオンである。
【0104】
好適に用いることのできる一般式(a)で示されるシアニン色素の具体例としては、特開2001−133969号公報の段落番号〔0017〕〜〔0019〕に記載の化合物、特開2002−023360号公報の段落番号〔0016〕〜〔0021〕、特開2002−040638号公報の段落番号[0012]〜[0037]に記載の化合物、好ましくは特開2002−278057号公報の段落番号〔0034〕〜〔0041〕、特開2008−195018号公報の段落番号〔0080〕〜〔0086〕に記載の化合物、最も好ましくは特開2007−90850号公報の段落番号〔0035〕〜〔0043〕に記載の化合物が挙げられる。
【0105】
また特開平5−5005号公報の段落番号〔0008〕〜〔0009〕、特開2001−222101号公報の段落番号〔0022〕〜〔0025〕に記載の化合物も好ましく使用することが出来る。
【0106】
また、これらの赤外線吸収染料は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよく、顔料等の赤外線吸収染料以外の赤外線吸収剤を併用してもよい。顔料としては、特開2008−195018号公報の段落番号[0072]〜[0076]に記載の化合物が好ましい。
【0107】
これら増感色素の好ましい添加量は、感光層の全固形分100質量部に対し、好ましくは0.05〜30質量部、更に好ましくは0.1〜20質量部、最も好ましくは0.2〜10質量部の範囲である。
【0108】
(b)重合開始剤
本発明の感光層には重合開始剤(以下、開始剤化合物とも称する)を含有する。本発明においては、ラジカル重合開始剤が好ましく用いられる。
【0109】
本発明における開始剤化合物としては、当業者間で公知のものを制限なく使用でき、具体的には、例えば、トリハロメチル化合物、カルボニル化合物、有機過酸化物、アゾ系化合物、アジド化合物、メタロセン化合物、ヘキサアリールビイミダゾール化合物、有機ホウ素化合物、ジスルホン化合物、オキシムエステル化合物、オニウム塩、鉄アレーン錯体が挙げられる。なかでも、ヘキサアリールビイミダゾール化合物、オニウム塩、トリハロメチル化合物及びメタロセン化合物からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、特にヘキサアリールビイミダゾール化合物が好ましい。上記の重合開始剤は、2種以上を適宜併用することもできる。
【0110】
ヘキサアリールビイミダゾール系化合物としては、EP24629、EP107792、US4410621の各公報記載のロフィンダイマー類、例えば2,2′−ビス(o−クロロフェニル)−4,4′,5,5′−テトラフェニルビイミダゾール、2,2′−ビス(o−ブロモフェニル)−4,4′,5,5′−テトラフェニルビイミダゾール、2,2′−ビス(o,p−ジクロロフェニル)−4,4′,5,5′−テトラフェニルビイミダゾール、2,2′−ビス(o−クロロフェニル)−4,4′,5,5′−テトラ(m−メトキシフェニル)ビイミダゾール、2,2′−ビス(o,o′−ジクロロフェニル)−4,4′,5,5′−テトラフェニルビイミダゾール、2,2′−ビス(o−ニトロフェニル)−4,4′,5,5′−テトラフェニルビイミダゾール、2,2′−ビス(o−メチルフェニル)−4,4′,5,5′−テトラフェニルビイミダゾール、2,2′−ビス(o−トリフルオロメチルフェニル)−4,4′,5,5′−テトラフェニルビイミダゾール等が挙げられる。
ヘキサアリールビイミダゾール系化合物は、300〜450nmに極大吸収を有する増感色素と併用して用いられることが特に好ましい。
【0111】
本発明において好適に用いられるオニウム塩は、スルホニウム塩、ヨードニウム塩、ジアゾニウム塩が好ましく用いられる。特にジアリールヨードニウム塩、トリアリールスルホニウム塩が好ましく用いられる。オニウム塩は、750〜1400nmに極大吸収を有する赤外線吸収剤と併用して用いられることが特に好ましい。
【0112】
その他の重合開始剤としては、特開2007−206217号公報の段落番号〔0071〕〜〔0129〕に記載の重合開始剤を好ましく用いることができる。
【0113】
本発明における重合開始剤は単独若しくは2種以上の併用によって好適に用いられる。
本発明における感光層中の重合開始剤の使用量は感光層全固形分の質量に対し、好ましくは0.01〜20質量%、より好ましくは0.1〜15質量%である。更に好ましくは1.0質量%〜10質量%である。
【0114】
(c)重合性化合物
本発明における感光層に用いる重合性化合物は、少なくとも一個のエチレン性不飽和二重結合を有する付加重合性化合物であり、末端エチレン性不飽和結合を少なくとも1個、好ましくは2個以上有する化合物から選ばれる。これらは、例えばモノマー、プレポリマー、すなわち2量体、3量体及びオリゴマー、又はそれらの混合物などの化学的形態をもつ。モノマーの例としては、不飽和カルボン酸(例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸など)や、そのエステル類、アミド類が挙げられ、好ましくは、不飽和カルボン酸と多価アルコール化合物とのエステル、不飽和カルボン酸と多価アミン化合物とのアミド類が用いられる。また、ヒドロキシル基やアミノ基、メルカプト基等の求核性置換基を有する不飽和カルボン酸エステル或いはアミド類と単官能若しくは多官能イソシアネート類或いはエポキシ類との付加反応物、及び単官能若しくは、多官能のカルボン酸との脱水縮合反応物等も好適に使用される。また、イソシアネート基や、エポキシ基等の親電子性置換基を有する不飽和カルボン酸エステル或いはアミド類と単官能若しくは多官能のアルコール類、アミン類、チオール類との付加反応物、更にハロゲン基や、トシルオキシ基等の脱離性置換基を有する不飽和カルボン酸エステル或いはアミド類と単官能若しくは多官能のアルコール類、アミン類、チオール類との置換反応物も好適である。また、別の例として、上記の不飽和カルボン酸の代わりに、不飽和ホスホン酸、スチレン、ビニルエーテル等に置き換えた化合物群を使用することも可能である。これらは、特表2006−508380号公報、特開2002−287344号公報、特開2008−256850号公報、特開2001−342222号公報、特開平9−179296号公報、特開平9−179297号公報、特開平9−179298号公報、特開2004−294935号公報、特開2006−243493号公報、特開2002−275129号公報、特開2003−64130号公報、特開2003−280187号公報、特開平10−333321号公報を含む参照文献に記載されている。
【0115】
多価アルコール化合物と不飽和カルボン酸とのエステルのモノマーの具体例としては、アクリル酸エステルとして、エチレングリコールジアクリレート、1,3−ブタンジオールジアクリレート、テトラメチレングリコールジアクリレート、プロピレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ヘキサンジオールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ソルビトールトリアクリレート、イソシアヌル酸エチレンオキシド(EO)変性トリアクリレート、ポリエステルアクリレートオリゴマー等がある。メタクリル酸エステルとしては、テトラメチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、ビス〔p−(3−メタクリルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル〕ジメチルメタン、ビス−〔p−(メタクリルオキシエトキシ)フェニル〕ジメチルメタン等がある。また、多価アミン化合物と不飽和カルボン酸とのアミドのモノマーの具体例としては、メチレンビス−アクリルアミド、メチレンビス−メタクリルアミド、1,6−ヘキサメチレンビス−アクリルアミド、1,6−ヘキサメチレンビス−メタクリルアミド、ジエチレントリアミントリスアクリルアミド、キシリレンビスアクリルアミド、キシリレンビスメタクリルアミド等がある。
【0116】
また、イソシアネートと水酸基の付加反応を用いて製造されるウレタン系付加重合性化合物も好適であり、そのような具体例としては、例えば、特公昭48−41708号公報に記載されている1分子に2個以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネート化合物に、下記一般式(A)で示される水酸基を含有するビニルモノマーを付加させた1分子中に2個以上の重合性ビニル基を含有するビニルウレタン化合物等が挙げられる。
【0117】
CH=C(R)COOCHCH(R)OH (A)
(ただし、R及びRは、H又はCHを示す。)
【0118】
また、特開昭51−37193号公報、特公平2−32293号公報、特公平2−16765号公報、特開2003−344997号公報、特開2006−65210号公報に記載されているようなウレタンアクリレート類や、特公昭58−49860号公報、特公昭56−17654号公報、特公昭62−39417号公報、特公昭62−39418号公報、特開2000−250211号公報、特開2007−94138号公報記載のエチレンオキサイド系骨格を有するウレタン化合物類や、US7153632号明細書、特表平8−505958号公報、特開2007−293221号公報、特開2007−293223号公報記載の親水基を有するウレタン化合物類も好適である。
【0119】
また、特表2007−506125号公報に記載の光−酸化可能な重合性化合物も好適であり、少なくとも1個のウレア基及び/又は第三級アミノ基を含有する重合可能な化合物が特に好ましい。具体的には、下記の化合物が挙げられる。
【0120】
【化9】

【0121】
これらの重合性化合物の構造、単独使用か併用か、添加量等の使用方法の詳細は、最終的な平版印刷版原版の性能設計にあわせて任意に設定できる。上記の重合性化合物は、感光層の全固形分に対して、好ましくは5〜75質量%、更に好ましくは25〜70質量%、特に好ましくは30〜60質量%の範囲で使用される。
【0122】
(d)バインダーポリマー
本発明の感光層にはバインダーポリマーを有する。バインダーポリマーとしては、感光層成分を支持体上に担持可能であり、本発明の現像液により除去可能であるものが用いられる。バインダーポリマーとしては、(メタ)アクリル系重合体、ポリウレタン、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリビニルホルマール、ポリアミド、ポリエステル、エポキシ樹脂などが用いられる。特に、(メタ)アクリル系重合体、ポリウレタン、ポリビニルブチラールが好ましく用いられる。
【0123】
本発明において、「(メタ)アクリル系重合体」とは、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル(アルキルエステル、アリールエステル、アリルエステル、など)、(メタ)アクリルアミド、及び(メタ)アクリルアミド誘導体などの(メタ)アクリル酸誘導体を重合成分として有する共重合体のことを言う。「ポリウレタン」とは、イソシアネート基を2つ以上有する化合物とヒドロキシル基を2つ以上有する化合物の縮合反応により生成されるポリマーのことをいう。「ポリビニルブチラール」は、ポリ酢酸ビニルを一部又は全てを鹸化して得られるポリビニルアルコールとブチルアルデヒドを酸性条件下で反応(アセタール化反応)させて合成されるポリマーのことを言い、更に、残存したヒドロキシ基と酸基等有する化合物を反応させ方法等により、酸基等を導入したポリマーも含まれる。
【0124】
本発明における(メタ)アクリル系重合体の好適な一例としては、酸基を含有する繰り返し単位を有する共重合体が挙げられる。酸基としては、カルボン酸基、スルホン酸基、ホスホン酸基、リン酸基、スルホンアミド基等が挙げられるが、特にカルボン酸基が好ましい。酸基を含有する繰り返し単位としては、(メタ)アクリル酸由来の繰り返し単位や下記一般式(I)で表されるものが好ましく用いられる。
【0125】
【化10】

【0126】
(一般式(I)中、Rは水素原子又はメチル基を表し、Rは単結合又はn+1価の連結基を表す。Aは酸素原子又は−NR−を表し、Rは水素原子又は炭素数1〜10の1価の炭化水素基を表す。nは1〜5の整数を表す。)
【0127】
一般式(I)におけるRで表される連結基は、水素原子、炭素原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子及びハロゲン原子からなる群から選択される1種以上の原子から構成されることが好ましく、Rで表される連結基を構成する原子の原子数は好ましくは1〜80である。具体的には、アルキレン基、置換アルキレン基、アリーレン基、置換アリーレン基などが挙げられ、これらの2価の基がアミド結合や、エーテル結合、ウレタン結合、ウレア結合、エステル結合の何れかで複数連結された構造を有していてもよい。Rとしては、単結合、アルキレン基、置換アルキレン基、又は、アルキレン基及び置換アルキレンの少なくとも一方がアミド結合、エーテル結合、ウレタン結合、ウレア結合及びエステル結合のすくなくともいずれかによって複数連結された構造であることが好ましく、単結合、炭素数1〜5のアルキレン基、炭素数1〜5の置換アルキレン基、又は、炭素数1〜5のアルキレン及び炭素数1〜5の置換アルキレンの少なくとも一方がアミド結合、エーテル結合、ウレタン結合、ウレア結合及びエステル結合の少なくともいずれかによって複数連結された構造であることが特に好ましく、単結合、炭素数1〜3のアルキレン基、炭素数1〜3の置換アルキレン基、又は、炭素数1〜3のアルキレン基及び炭素数1〜3の置換アルキレンの少なくとも一方がアミド結合、エーテル結合、ウレタン結合、ウレア結合及びエステル結合の少なくともいずれかによって複数連結された構造であることが最も好ましい。
上記置換アルキレン基及び置換アリーレン基における置換基としては、水素原子を除く1価の非金属原子団を挙げることができ、ハロゲン原子(−F、−Br、−Cl、−I)、ヒドロキシル基、シアノ基、アルコキシ基、アリーロキシ基、メルカプト基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、カルボキシル基及びその共役塩基基、アルコキシカルボニル基、アリーロキシカルボニル基、カルバモイル基、アリール基、アルケニル基、アルキニル基等が挙げられる。
【0128】
は水素原子又は炭素数1〜5の炭化水素基が好ましく、水素原子又は炭素数1〜3の炭化水素基が特に好ましく、水素原子又はメチル基が最も好ましい。nは1〜3であることが好ましく、1又は2であることが特に好ましく、1であることが最も好ましい。
【0129】
(メタ)アクリル系重合体の全共重合成分に占めるカルボン酸基を有する共重合成分の割合(モル%)は、現像性の観点から、1〜70%が好ましい。現像性と耐刷性の両立を考慮すると、1〜50%がより好ましく、1〜30%が特に好ましい。
本発明に用いられる(メタ)アクリル系重合体は更に架橋性基を有することが好ましい。ここで架橋性基とは、平版印刷版原版を露光又は加熱した際に感光層中で起こるラジカル重合反応の過程でバインダーポリマーを架橋させる基のことである。このような機能の基であれば特に限定されないが、例えば、付加重合反応し得る官能基としてエチレン性不飽和結合基、アミノ基、エポキシ基等が挙げられる。また光照射によりラジカルになり得る官能基であってもよく、そのような架橋性基としては、例えば、チオール基、ハロゲン基等が挙げられる。なかでも、エチレン性不飽和結合基が好ましい。エチレン性不飽和結合基としては、スチリル基、(メタ)アクリロイル基、アリル基が好ましい。
【0130】
(メタ)アクリル系重合体は、例えば、その架橋性官能基にフリーラジカル(重合開始ラジカル又は重合性化合物の重合過程の生長ラジカル)が付加し、ポリマー間で直接に又は重合性化合物の重合連鎖を介して付加重合して、ポリマー分子間に架橋が形成されて硬化する。又は、ポリマー中の原子(例えば、官能性架橋基に隣接する炭素原子上の水素原子)がフリーラジカルにより引き抜かれてポリマーラジカルが生成し、それが互いに結合することによって、ポリマー分子間に架橋が形成されて硬化する。
【0131】
(メタ)アクリル系重合体中の架橋性基の含有量(ヨウ素滴定によるラジカル重合可能な不飽和二重結合の含有量)は、バインダーポリマー1g当たり、好ましくは0.01〜10.0mmol、より好ましくは0.05〜9.0mmol、最も好ましくは0.1〜8.0mmolである。
【0132】
本発明に用いられる(メタ)アクリル系重合体は、上記酸基を有する重合単位、架橋性基を有する重合単位の他に、(メタ)アクリル酸アルキル又はアラルキルエステルの重合単位、(メタ)アクリルアミド又はその誘導体の重合単位、α−ヒドロキシメチルアクリレートの重合単位、スチレン誘導体の重合単位を有していてもよい。(メタ)アクリル酸アルキルエステルのアルキル基は、好ましくは炭素数1〜5のアルキル基、炭素数2〜8の前述の置換基を有するアルキル基であり、メチル基がより好ましい。(メタ)アクリル酸アラルキルエステルとしては、(メタ)アクリル酸ベンジル等が挙げられる。(メタ)アクリルアミド誘導体としては、N−イソプロピルアクリルアミド、N−フェニルメタクリルアミド、N−(4−メトキシカルボニルフェニル)メタアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、モルホリノアクリルアミド等が挙げられる。α−ヒドロキシメチルアクリレートとしては、α−ヒドロキシメチルアクリル酸エチル、α−ヒドロキシメチルアクリル酸シクロヘキシル等が挙げられる。スチレン誘導体としては、スチレン、4−tertブチルスチレン等が挙げられる。
【0133】
本発明におけるポリウレタンの好適な一例としては、特開2007−187836号公報の段落番号[0099]〜[0210]、特開2008−276155号公報の段落番号[0019]〜[0100]、特開2005−250438号公報の段落番号[0018]〜[0107]、特開2005−250158号公報の段落番号[0021]〜[0083に記載のポリウレタン樹脂を挙げることが出来る。
本発明におけるポリビニルブチラールの好適な一例としては、特開2001−75279号公報の段落番号[0006]〜[0013]に記載のポリビニルブチラールを挙げることができる。
【0134】
また、例えば、下記のような酸基を導入したポリビニルブチラールも好ましく用いられる。
【0135】
【化11】

【0136】
一般式(I−B)において、各繰り返し単位の好ましい比率は、p/q/r/s=50〜78モル%/1〜5モル%/5〜28モル%/5〜20モル%の範囲である。
Ra,Rbは一価の置換基であり、Rc,Rd,Re,Rfはそれぞれ独立に置換基を有してもよい一価の置換基又は単結合であり、mは0又は1の整数である。Ra,Rb,Rc,Rd,Re,Rfの好ましい置換基としては、水素原子、置換基を有してもよいアルキル基、ハロゲン原子、置換基を有してもよいアリール基が挙げられる。更に好ましくは、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基などの直鎖アルキル基、カルボン酸が置換したアルキル基、ハロゲン原子、フェニル基、カルボン酸が置換したフェニル基が挙げられる。Rc及びRd、Re及びRfはそれぞれ環構造を形成することができる。Rc,とReの結合する炭素原子及びRdとRfの結合する炭素原子間の結合は、単結合又は二重結合又は芳香族性二重結合であり、二重結合又は芳香族性二重結合の場合、Rc及びRd、Re及びRf、Rc及びRf、又は、Re及びRdは、それぞれ結合して単結合を形成する。
【0137】
一般式(I−B)で表されるポリビニルブチラールは、例えば、ポリ酢酸ビニルを一部又は全てを鹸化して得られるポリビニルアルコールとブチルアルデヒドとを酸性条件下で反応(アセタール化反応)させて合成されるポリマーのヒドロキシ基に対して、下記一般式(I−B’)で表される化合物を公知の手法に従って反応させることによって得ることができる。なお、一般式(I−B’)の各基及びmの定義は、一般式(I−B)と同様である。
【0138】
【化12】

【0139】
更に、バインダーポリマー中の酸基の一部が、塩基性化合物で中和されていても良い。塩基性化合物としては、塩基性窒素を含有する化合物やアルカリ金属水酸化物、4級アンモニウム水酸化物などが挙げられる。
バインダーポリマーは、質量平均分子量が5000以上であるのが好ましく、1万〜30万であるのがより好ましく、また、数平均分子量が1000以上であるのが好ましく、2000〜25万であるのがより好ましい。多分散度(質量平均分子量/数平均分子量)は、1.1〜10であるのが好ましい。
バインダーポリマーは単独で用いても2種以上を混合して用いてもよい。バインダーポリマーの含有量は、良好な画像部の強度と画像形成性の観点から、感光層の全固形分に対して、5〜75質量%が好ましく、10〜70質量%がより好ましく、10〜60質量%であるのが更に好ましい。
また、重合性化合物及びバインダーポリマーの合計含有量は、感光層の全固形分に対して、90質量%以下であることが好ましい。90質量%を超えると、感度の低下、現像性の低下を引き起こす場合がある。より好ましくは35〜80質量%である。
【0140】
本発明においては、平版印刷版原版の感光層中の重合性化合物とバインダーポリマーの割合を調節することにより、現像液の感光層への浸透性がより向上し、現像性が更に向上する。即ち、感光層中の重合性化合物/バインダーポリマーの質量比は、1.2以上が好ましく、より好ましくは1.25〜4.5、最も好ましくは、2〜4である。
【0141】
感光層は、連鎖移動剤を含有することが好ましい。連鎖移動剤とは、例えば高分子辞典第三版(高分子学会編、2005年)683−684頁に定義される。連鎖移動剤としては、例えば、分子内にSH、PH、SiH、GeHを有する化合物群が用いられる。これらは、低活性のラジカル種に水素供与して、ラジカルを生成するか、若しくは、酸化された後、脱プロトンすることによりラジカルを生成しうる。
本発明の感光層には、特に、チオール化合物(例えば、2−メルカプトベンズイミダゾール類、2−メルカプトベンズチアゾール類、2−メルカプトベンズオキサゾール類、3−メルカプトトリアゾール類、5−メルカプトテトラゾール類、等)を好ましく用いることができる。
連鎖移動剤の好ましい添加量は、感光層の全固形分100質量部に対し、好ましくは0.01〜20質量部、更に好ましくは1〜10質量部、最も好ましくは1〜5質量部の範囲である。
【0142】
<その他の感光層成分>
感光層には、更に、必要に応じて種々の添加剤を含有させることができる。添加剤としては、現像性の促進及び塗布面状を向上させるための界面活性剤、現像性と耐刷性両立の為のマイクロカプセル、現像性の向上やマイクロカプセルの分散安定性向上などのための親水性ポリマー、画像部と非画像部を視認するための着色剤や焼き出し剤、感光層の製造中又は保存中のラジカル重合性化合物の不要な熱重合を防止するための重合禁止剤、酸素による重合阻害を防止するための高級脂肪誘導体などの疎水性低分子化合物、画像部の硬化皮膜強度向上のための無機微粒子、有機微粒子、現像性向上のための親水性低分子化合物、感度向上の為の共増感剤、可塑性向上のための可塑剤等を添加することができる。これの化合物はいずれも公知のものを使用でき、例えば、特開2007−206217号公報の段落〔0161〕〜〔0215〕に記載の化合物、特表2005−509192号公報の段落〔0067〕、特開2004−310000号公報の段落〔0023〕〜〔0026〕及び〔0059〕〜〔0066〕に記載の化合物を使用することができる。界面活性剤については、後述の現像液に添加してもよい界面活性剤を使用することもできる。
【0143】
〔ポジ型平版印刷版原版〕
ポジ型平版印刷版原版は、親水性支持体上に、バインダーポリマーと赤外線吸収剤とを含有する画像記録層(感光層ともいう)を有し、画像記録層は、単層であってもよく、あるいは、下層と上層とを有するものであってもよい。
画像記録層が単層のポジ型平版印刷版原版としては、特開平7−285275号公報、特開平10−268512号公報、特開平10−282672号公報、特開2005−258451号公報に記載のものを好適に挙げることができる。
画像記録層が下層と上層とを有するポジ型平版印刷版原版としては、下層が、バインダーポリマーとしての(A)水不溶性かつアルカリ可溶性樹脂、及び、(B)赤外線吸収剤を含有し、上層が、バインダーポリマーとしての(C)水不溶性かつアルカリ可溶性樹脂、及び、(D)ポリオルガノシロキサンを含有するものを好適に挙げることができる。
【0144】
以下、画像記録層が下層と上層とを有する上記ポジ型平版印刷版原版の各成分について詳細に説明する。
【0145】
(A)水不溶性かつアルカリ可溶性樹脂
本発明における下層に使用可能な(A)水不溶性かつアルカリ可溶性樹脂としては、水に不溶性で、アルカリ性現像液に接触すると溶解する特性を有するものであれば、特に制限はないが、高分子中の主鎖及び側鎖の少なくともいずれかに酸性基を含有する単独重合体、これらの共重合体、又はこれらの混合物であることが好ましい。
このような酸性基としては、−COOH、−SOH、−OSOH、−PO、−OPO、−CONHSO、−SONHSO−、フェノール性水酸基、活性イミド基であり、−COOH、−SOH、−OPO、−SONHSO−等を有することが好ましく、特に好ましくは−COOHである。
【0146】
従って、このような樹脂は、上記酸性基を有するエチレン性不飽和モノマーを1つ以上含むモノマー(以下、「アルカリ可溶性を付与するモノマー」とも称する。)を含む混合物を重合することによって好適に得ることができる。前記アルカリ可溶性を付与するモノマーは、アクリル酸、メタクリル酸の他に、下式で表される化合物及びその混合物が含まれる。下式における各Rは、水素原子又はCHである。
なお、本明細書において、アクリレート及びメタクリレートのいずれか或いは双方を指す場合、(メタ)アクリレートと、アクリル及びメタクリルのいずれか或いは双方を指す場合、(メタ)アクリルと、それぞれ記載することがある。
【0147】
【化13】

【0148】
【化14】

【0149】
【化15】

【0150】
本発明の下層における(A)水不溶性かつアルカリ可溶性樹脂としては、アルカリ可溶性を付与するモノマーの他に、他の重合性モノマーを共重合させて得られる高分子化合物であることが好ましい。この場合の共重合比としては、アルカリ可溶性を付与するモノマーを10モル%以上70モル%以下含むことが好ましく、20モル%以上含むものがより好ましい。アルカリ可溶性を付与するモノマーの共重合成分がこの範囲にあると水に不溶性でかつアルカリ現像液に可溶性となり、現像性が良好となる。
【0151】
ここで(A)水不溶性かつアルカリ可溶性樹脂の調製に使用可能な他の重合性モノマーとしては、下記に挙げる化合物を例示することができる。
アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ベンジル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジル、等のアルキルアクリレートやアルキルメタクリレート。2−ヒドロキシエチルアクリレート又は2−ヒドロキシエチルメタクリレート等の脂肪族水酸基を有するアクリル酸エステル類、及びメタクリル酸エステル類。アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N−フェニルアクリルアミド、等のアクリルアミド若しくはメタクリルアミド。ビニルアセテート、ビニルクロロアセテート、ビニルブチレート、安息香酸ビニル等のビニルエステル類。スチレン、α−メチルスチレン、メチルスチレン、クロロメチルスチレン等のスチレン類。N−ビニルピロリドン、N−ビニルピリジン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のその他の窒素原子含有モノマー。N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−プロピルマレイミド、N−ブチルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−2−メチルフェニルマレイミド、N−2,6−ジエチルフェニルマレイミド、N−2−クロロフェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−ラウリルマレイミド、N−ヒドロキシフェニルマレイミド、等のマレイミド類。
これらの他のエチレン性不飽和コモノマー単量体のうち、好適に使用されるのは、(メタ)アクリル酸エステル類、(メタ)アクリルアミド類、マレイミド類、(メタ)アクリロニトリルである。
【0152】
下記に(A)水不溶性かつアルカリ可溶性樹脂の共重合体の具体例を示す。下記の具体例の質量平均分子量はいずれも20000〜50000の範囲である。但し、本発明は下記の具体例によって制限されるものではない。なお、下記において繰り返し単位の比は、モル比である。
【0153】
【化16】

【0154】
【化17】

【0155】
また、(A)水不溶性かつアルカリ可溶性樹脂の他の形態としては、フェノール性水酸基を有する樹脂も好ましいものである。フェノール性水酸基を有する樹脂としては、例えば、フェノールホルムアルデヒド樹脂、m−クレゾールホルムアルデヒド樹脂、p−クレゾールホルムアルデヒド樹脂、m−/p−混合クレゾールホルムアルデヒド樹脂、フェノール/クレゾール(m−、p−、又はm−/p−混合のいずれでもよい)混合ホルムアルデヒド樹脂などのノボラック樹脂等が挙げられる。
【0156】
また、米国特許第4123279号明細書に記載されているt−ブチルフェノールホルムアルデヒド樹脂や、オクチルフェノールホルムアルデヒド樹脂等の炭素数3〜8のアルキル基を置換基として有するフェノールとホルムアルデヒドとの縮合物を併用してもよい。
これらのフェノール性水酸基を有する樹脂は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0157】
本発明における画像記録層の下層に用いる(A)水不溶性かつアルカリ可溶性樹脂は、質量平均分子量が2,000以上、数平均分子量が500以上のものが好ましく、質量平均分子量が5,000〜300,000で、数平均分子量が800〜250,000であり、分散度(質量平均分子量/数平均分子量)が1.1〜10のものがより好ましい。これら分子量の値は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトフラフィー)測定によりポリスチレン標品の分子量換算で算出した値を用いている。
【0158】
本発明における画像記録層の下層に用いる(A)水不溶性かつアルカリ可溶性樹脂は、1種でもよいが、2種以上を用いてもよい。
画像記録層の下層の全固形分中に対する(A)水不溶性かつアルカリ可溶性樹脂の含有量は、50〜98質量%が好ましく、65〜95質量%がより好ましい。(A)水不溶性かつアルカリ可溶性樹脂の含有量がこの範囲にあると画像記録層の感度が高く、また耐久性が良好である。
【0159】
(B)赤外線吸収剤
本発明における画像記録層の下層には、(B)赤外線吸収剤を含む。(B)赤外線吸収剤としては、赤外光を吸収し熱を発生する染料、又は顔料であれば特に制限はなく、赤外線吸収剤として知られる種々の染料又は顔料を用いることができる。
【0160】
そのような赤外線吸収剤としての染料は、例えば特開昭58−125246号、特開昭59−84356号、特開昭59−202829号、特開昭60−78787号等に記載されているシアニン染料、特開昭58−173696号、特開昭58−181690号、特開昭58−194595号等に記載されているメチン染料、特開昭58−112793号、特開昭58−224793号、特開昭59−48187号、特開昭59−73996号、特開昭60−52940号、特開昭60−63744号等に記載されているナフトキノン染料、特開昭58−112792号等に記載されているスクワリリウム色素、英国特許434,875号記載のシアニン染料等を挙げることができる。
【0161】
また、赤外線吸収剤としての染料は、米国特許第5,156,938号記載の近赤外吸収増感剤も好適に用いられ、また、米国特許第3,881,924号記載の置換されたアリールベンゾ(チオ)ピリリウム塩、特開昭57−142645号(米国特許第4,327,169号)記載のトリメチンチアピリリウム塩、特開昭58−181051号、同58−220143号、同59−41363号、同59−84248号、同59−84249号、同59−146063号、同59−146061号に記載されているピリリウム系化合物、特開昭59−216146号記載のシアニン色素、米国特許第4,283,475号に記載のペンタメチンチオピリリウム塩等や特公平5−13514号、同5−19702号公報に開示されているピリリウム化合物等が、市販品としては、エポリン社製のEpolight III−178、Epolight III−130、Epolight III−125等が、特に好ましく用いられる。
また、染料として特に好ましい別の例として米国特許第4,756,993号明細書中に式(I)、(II)として記載されている近赤外吸収染料を挙げることができる。
【0162】
本発明における画像記録層の下層に好ましい赤外線吸収剤としては、下記のような化合物が好ましい。
これらのうちで、特に好ましい赤外線吸収剤染料は、シアニン染料A、及びFである。
【0163】
【化18】

【0164】
また、顔料としては、市販の顔料及びカラーインデックス(C.I.)便覧、「最新顔料便覧」(日本顔料技術協会編、1977年刊)、「最新顔料応用技術」(CMC出版、1986年刊)に記載されている顔料が挙げられ、例えば、不溶性アゾ顔料、アゾレーキ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料、フタロシアニン系顔料、アントラキノン系顔料、ペリレン及びペリノン系顔料、チオインジゴ系顔料、キナクリドン系顔料、ジオキサジン系顔料、イソインドリノン系顔料、キノフタロン系顔料、染付けレーキ顔料、アジン顔料、ニトロソ顔料、ニトロ顔料、天然顔料、蛍光顔料、無機顔料、カーボンブラック等が挙げられ、特に、カーボンブラックが好適に用いられる。
【0165】
赤外線吸収剤は、画像記録層の下層に含むことによって、感度と画像記録時の耐アブレーション性のバランスが向上する。
赤外線吸収剤の添加量としては、下層における全固形分に対し、一般的には0.01〜50質量%、好ましくは0.1〜30質量%、特に好ましくは1.0〜30質量%の割合で添加することができる。この範囲の含有量とすることで画像記録時の上層の到達温度を低くしアブレーションを抑えながら充分な感度が得られる。
画像記録層の下層には、更に後述するその他の添加剤を含有することができる。
【0166】
(C)水不溶性かつアルカリ可溶性樹脂
上層に使用可能なアルカリ可溶性樹脂としては、アルカリ性現像液に接触すると溶解する特性を有するものであれば特に制限はないが、高分子中の主鎖及び側鎖の少なくともいずれかに酸性基を含有するモノマーから得られる単独重合体、これらの共重合体、又は、これらの混合物であることが好ましい。
【0167】
このような酸性基を有するアルカリ可溶性樹脂としては、特に、(1)フェノール性水酸基、(2)スルホンアミド基、(3)活性イミド基のいずれかの官能基を分子内に有する高分子化合物が挙げられる。例えば、特開2009−069384号公報の段落〔0072〕〜〔0076〕に記載のものが好ましく用いられるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
本発明における画像記録層の上層には、(C’)水不溶性かつアルカリ可溶性のポリウレタンを含むことが好ましい。
上層に含むポリウレタンとしては、水に不溶性であり、かつ、アルカリ水溶液に可溶であれば特に制限はないが、中でも、ポリマー主鎖にカルボキシ基を有するものが好ましく、具体的には、下記一般式(I)で表わされるジイソシアネート化合物と、下記一般式(II)又は一般式(III)で表されるカルボキシ基を有するジオール化合物の少なくとも1種と、の反応生成物を基本骨格とするポリウレタンが挙げられる。
【0168】
【化19】

【0169】
一般式(I)中、Rは二価の連結基を表す。
がとりうる二価の連結基としては、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、又は芳香族炭化水素基が挙げられ、好ましくは、炭素数2〜10のアルキレン基、炭素数6〜30のアリーレン基である。
また、Rはイソシアネート基と反応しない他の官能基を有していてもよい。
【0170】
一般式(II)中、Rは水素原子、アルキル基、アラルキル基、アリール基、アルコキシ基、又はアリーロキシ基を表す。ここで、Rは置換基を有していてもよい。
好ましいRとしては水素原子、炭素数1〜8個の無置換のアルキル基、炭素数6〜15個の無置換のアリール基が挙げられる。
一般式(II)又は(III)中、R、R、及びRはそれぞれ同一でも相異していてもよく、単結合、又は二価の連結基を表す。
、R、及びRがとりうる二価の連結基としては、脂肪族炭化水素基、又は芳香族炭化水素基が挙げられる。ここで、R、R、及びRは置換基を有していてもよい。好ましいR、R、及びRとしては、炭素数1〜20個の無置換のアルキレン基、炭素数6〜15個の無置換のアリーレン基が挙げられ、更に好ましいものとしては炭素数1〜8個の無置換のアルキレン基が挙げられる。
また、R、R、及びRはイソシアネート基と反応しない他の官能基を有していてもよい。
一般式(III)中、Arは置換基を有していてもよい三価の芳香族炭化水素を表し、好ましくは炭素数6〜15個のアリーレン基を示す。
【0171】
上記一般式(I)で示されるジイソシアネート化合物の具体例としては以下に示すものが挙げられるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
2,4−トリレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネートの二量体、2,6−トリレンジイソシアネート、p−キシリレンジイソシアネート、メタキシリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネート、3,3’−ジメチルビフェニル−4,4’−ジイソシアネート等の如き芳香族ジイソシアネート化合物;ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート等の如き脂肪族ジイソシアネート化合物;イソホロンジイソシアネート、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、メチルシクロヘキサン−2,4(又は2,6)ジイソシアネート、1,3−(イソシアネートメチル)シクロヘキサン等の如き脂環族ジイソシアネート化合物;1,3−ブチレングリコール1モルとトリレンジイソシアネート2モルとの付加体等の如きジオールとジイソシアネートとの反応物であるジイソシアネート化合物等が挙げられる。
これらの中でも、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネートのような芳香族環を有するものが、耐刷性の観点より好ましい。
【0172】
また、上記一般式(II)又は(III)で示されるカルボキシ基を有するジオール化合物の具体例としては以下に示すものが挙げられるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
3,5−ジヒドロキシ安息香酸、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸、2,2−ビス(ヒドロキシエチル)プロピオン酸、2,2−ビス(3−ヒドロキシプロピルプロピオン酸、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)酢酸、ビス−(4−ヒドロキシフェニル)酢酸、4,4−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン酸、酒石酸等が挙げられる。
これらの中でも、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸、2,2−ビス(ヒドロキシエチル)プロピオン酸がイソシアネートとの反応性の観点より好ましい。
【0173】
本発明に係る(C’)水不溶性かつアルカリ可溶性のポリウレタンは、上記ジイソシアネート化合物及びジオール化合物を非プロトン性溶媒中、それぞれの反応性に応じた活性を有する公知の触媒を添加し、加熱することにより合成することができる。
使用するジイソシアネートとジオール化合物とのモル比は、好ましくは0.8:1〜1.2:1であり、ポリマー末端にイソシアネート基が残存した場合、アルコール類又はアミン類等で処理することにより、最終的にイソシアネート基が残存しない形で合成される。
また、本発明に係る(C’)水不溶性かつアルカリ可溶性のポリウレタンは芳香族骨格を有するものが、耐薬品性の観点より好ましい。
【0174】
本発明における(C’)水不溶性かつアルカリ可溶性のポリウレタンの具体例としては、以下のイソシアナート化合物及びジオール化合物の反応物が挙げられる。組成比は合成可能でアルカリ可溶性を維持できる範囲内で自由に設定可能である。以下、nは、任意の繰り返し数を示す。
【0175】
【化20】

【0176】
【化21】

【0177】
これらのうちで特に好ましいものは(1)、(3)、(4)、(7)、(8)、(9)、(11)、(13)、(15)、(19)、(21)、(22)である。
【0178】
本発明に係る(C)水不溶性かつアルカリ可溶性樹脂の分子量は、好ましくは質量平均分子量で1,000以上であり、更に好ましくは5,000〜10万の範囲である。これらの(C)水不溶性かつアルカリ可溶性樹脂は単独で用いても2種以上を混合して用いてもよい。
【0179】
本発明に係る上層成分中に含まれるこれらのポリウレタンなどの水不溶性かつアルカリ可溶性樹脂の含有量は、上層の全固形分中、好ましくは2〜99.5質量%、更に好ましくは5〜99質量%、特に好ましくは10〜98質量%である。この範囲とすることで経時的な現像カスの抑制効果と画像形成性及び耐刷性のバランスが良好となる。
【0180】
(D)ポリオルガノシロキサン
本発明に用いる画像記録層の上層は、(D)ポリオルガノシロキサンを含むことが好ましい。
(D)ポリオルガノシロキサンとしては、シロキサンからなる非極性部と、酸素原子などを有する極性部とを含有するものであれば特に制限されず、例えば、ポリエーテル変性ポリオルガノシロキサン、アルコール変性ポリオルガノシロキサン、カルボキシル変性ポリオルガノシロキサンなどを用いることができる。
【0181】
このようなポリオルガノシロキサンの具体例としては、下記一般式で表される化合物におけるアルコキシシランを加水分解縮合させることによって作られたものが好ましい。
RSi(OR’)
[上記式中、Rはアルキル基又はアリール基を表し、R’はアルキル基を表す。]
上記一般式のRのうち好ましいものはフェニル基である。R’の好ましいものはメチル基、エチル基、及びプロピル基であり、R‘が同じものでも異なるものであってもよい。
また、以下の式(I)示されるグラフトブロックポリシロキサンや式(II)で示されるブロックポリシロキサンも好ましく用いられる。
下記式(I)及び式(II)中、n、p、及びqは1以上の整数である。
【0182】
【化22】

【0183】
オルガノポリシロキサンの具体的な製造方法は、WO2000/035994号明細書に記載されている。
またポリオルガノシロキサンの市販品としては、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンであるBYK−333(BYKケミー社製)や、ポリシロキサンポリエーテルコポリマーであるTEGO GLIDE 410(TegoChemie Service GmbHから入手可能)などが挙げられる。
【0184】
本発明に係る画像記録層の上層に含まれる(D)ポリオルガノシロキサンの含有量は、上層の全固形分中、好ましくは0.01〜10質量%、更に好ましくは0.03〜5質量%、特に好ましくは0.1〜3質量%である。
この範囲とすることによって、低摩擦係数による耐傷性向上、分散剤としてポリウレタン樹脂の現像液中での分散を促進し経時的な現像カスの抑制効果が得られる。
【0185】
更に、本発明に係る上層成分中には、本発明の効果を損なわない範囲で他の樹脂を併用することができる。上層自体は、特に非画像部領域において、アルカリ可溶性を発現することを要するため、この特性を損なわない樹脂を選択する必要がある。
上層が水不溶性かつアルカリ可溶性のポリウレタンを含有している場合、該ポリウレタン以外に他の水不溶性かつアルカリ可溶性樹脂を併用してもよい。併用する場合の他の水不溶性かつアルカリ可溶性樹脂としては、下層で必須成分として記載した(A)水不溶性かつアルカリ可溶性樹脂を挙げることができる。下層と同一の構造でもよいし、異なっていてもよい。
また、水不溶性かつアルカリ可溶性のポリウレタンと併用する他の水不溶性かつアルカリ可溶性樹脂の含有量としては、前記(C’)水不溶性かつアルカリ可溶性のポリウレタン樹脂に対して、質量換算で50%以下であることが好ましい。
【0186】
更に、本発明に係る上層成分中には、本発明の効果を損なわない範囲で赤外線吸収剤を添加することができる。上層に添加することで、露光時に熱伝導性の高い金属基板への熱拡散を抑制することができ、高感度となる。(B)赤外線吸収剤で述べたものが同様に使用できる。
【0187】
〔その他の成分〕
ポジ型平版印刷版における画像記録層の上層及び下層には、所望により、目的に応じてその他の添加剤を含有させることができる。
その他の添加剤としては、種々の添加剤が挙げられるが、通常、熱分解前は水不溶性かつアルカリ可溶性樹脂のアルカリ現像液ヘの溶解性を低下させ、熱分解により、その機能を消失する溶解抑止剤を画像記録層の上層又は下層の少なくともいずれかに添加する。
溶解抑止剤としては、例えば、オニウム塩、o−キノンジアジド化合物、芳香族スルホン化合物、芳香族スルホン酸エステル化合物等が挙げられ、熱分解性であり、分解しない状態では水不溶性かつアルカリ可溶性樹脂のアルカリ現像液への溶解性を実質的に低下させる物質であり、画像部の現像液への溶解阻止性の向上を図ることができる。
【0188】
溶解抑止剤としてのオニウム塩の例としては、ジアゾニウム塩、アンモニウム塩、ホスホニウム塩、ヨードニウム塩、スルホニウム塩、セレノニウム塩、アルソニウム塩等が挙げられる。
オニウム塩としては、例えば、S.I.Schlesinger,Photogr.Sci.Eng.,18,387(1974)、T.S.Bal et al, Polymer,21,423(1980)、特開平5−158230号公報に記載のジアゾニウム塩、米国特許第4,069,055号、同4,069,056号、特開平3−140140号の明細書に記載のアンモニウム塩、D.C.Necker et al,Macromolecules,17,2468(1984)、C.S.Wen et al,Teh,Proc.Conf.Rad.Curing ASIA,p478 Tokyo,Oct(1988)、米国特許第4,069,055号、同4,069,056号に記載のホスホニウム塩、J.V.Crivello et al,Macromorecules,10(6),1307(1977)、Chem.&Eng.News,Nov.28,p31(1988)、欧州特許第104,143号、米国特許第339,049号、同第410,201号、特開平2−150848号、特開平2−296514号に記載のヨードニウム塩、
【0189】
J.V.Crivello et al,Polymer J.17,73(1985)、J.V.Crivello et al.J.Org.Chem.,43,3055(1978)、W.R.Watt etal,J.Polymer Sci.,Polymer Chem.Ed.,22,1789(1984)、J.V. Crivelloet al,Polymer Bull.,14,279(1985)、J.V.Crivello et al,Macromorecules,14(5),1141(1981)、J.V.Crivello et al,J.Polymer Sci.,PolymerChem.Ed.,17,2877(1979)、欧州特許第370,693号、同233,567号、同297,443号、同297,442号、米国特許第4,933,377号、同3,902,114号、同410,201号、同339,049号、同4,760,013号、同4,734,444号、同2,833,827号、独国特許第2,904,626号、同3,604,580号、同3,604,581号に記載のスルホニウム塩、J.V.Crivello et al,Macromorecules,10(6),1307(1977)、J.V.Crivelloet al,J.Polymer Sci.,Polymer Chem. Ed.,17,1047(1979)に記載のセレノニウム塩、C.S.Wen et al,Teh,Proc.Conf.Rad.Curing ASIA,p478 Tokyo,Oct(1988)に記載のアルソニウム塩等が好適に挙げられる。
これらのなかでも、ジアゾニウム塩が特に好ましく、該ジアゾニウム塩としては、特開平5−158230号公報に記載のものが好ましい。
【0190】
オニウム塩の対イオンとしては、四フッ化ホウ酸、六フッ化リン酸、トリイソプロピルナフタレンスルホン酸、5−スルホサリチル酸、2,5−ジメチルベンゼンスルホン酸、2,4,6−トリメチルベンゼンスルホン酸、2−ニトロベンゼンスルホン酸、3−ブロモベンゼンスルホン酸、2−フルオロカプリルナフタレンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、1−ナフトール−5−スルホン酸、2−メトキシ−4−ヒドロキシ−5−ベンゾイル−ベンゼンスルホン酸、及びパラトルエンスルホン酸等を挙げることができる。これらの中でも特に六フッ化リン酸、トリイソプロピルナフタレンスルホン酸や2,5−ジメチルベンゼンスルホン酸のごときアルキル芳香族スルホン酸が好適に挙げられる。
【0191】
前記o−キノンジアジド化合物としては、1以上のo−キノンジアジド基を有する化合物で、熱分解によりアルカリ可溶性を増すものであれば、種々の構造の化合物が好適に挙げられる。前記o−キノンジアジドは、熱分解により結着剤の溶解抑制能を失わせる効果と、o−キノンジアジド自体が、アルカリ可溶性の物質に変化する効果との双方の効果を有するため、結着剤の溶解促進剤として作用することができる。
【0192】
溶解抑止剤の画像記録層の上層又は下層に対する添加量としては、下層に添加する場合、添加層の全固形分に対して、0.1〜20質量%が好ましく、0.5〜10質量%がより好ましい。上層に添加する場合、0.1〜30質量%が好ましく、0.5〜20質量%より好ましい。
【0193】
また、画像記録層の上層、下層又は両層には、更に感度を向上させる目的で、環状酸無水物、フェノール類、有機酸類を添加することもできる。
前記環状酸無水物としては、無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水ピロメリット酸などが挙げられる。
前記フェノール類としては、ビスフェノールA、p−エトキシフェノール、2,4,4′−トリヒドロキシベンゾフェノン、2,3,4−トリヒドロキシベンゾフェノン、4−ヒドロキシベンゾフェノン、4,4′,4″−トリヒドロキシトリフェニルメタン、4,4′,3″,4″−テトラヒドロキシ−3,5,3′,5′−テトラメチルトリフェニルメタンなどが挙げられる。
【0194】
前記酸類としては、スルホン酸類、スルフィン酸類、アルキル硫酸類、ホスホン酸類、リン酸エステル類及びカルボン酸類などがあり、具体的には、p−トルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルフィン酸、エチル硫酸、フェニルホスホン酸、フェニルホスフィン酸、リン酸フェニル、リン酸ジフェニル、安息香酸、イソフタル酸、アジピン酸、p−トルイル酸、3,4−ジメトキシ安息香酸、フタル酸、テレフタル酸、4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸、エルカ酸、ラウリン酸、n−ウンデカン酸、アスコルビン酸などが挙げられる。
前記環状酸無水物、フェノール類又は有機酸類の画像記録層の上層又は下層に占める割合としては、0.05〜20質量%が好ましく、0.1〜15質量%がより好ましく、0.1〜10質量%が特に好ましい。
【0195】
画像記録層の上層、下層又は両層には、塗布性を向上させるために、界面活性剤、例えば特開昭62−170950号公報に記載のフッ素系界面活性剤等を含有させることができる。該界面活性剤の含有量としては、画像記録層の上層又は下層の塗布液組成の0.01〜1質量%が好ましく、0.05〜0.5質量%がより好ましい。また、現像条件に対する処理の安定性を広げるため、特開昭62−251740号公報や特開平3−208514号公報に記載されているような非イオン界面活性剤、特開昭59−121044号公報、特開平4−13149号公報に記載されているような両性界面活性剤を含有させることができる。
【0196】
非イオン界面活性剤としては、ソルビタントリステアレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタントリオレート、ステアリン酸モノグリセリド、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等が挙げられる。前記両面活性剤としては、アルキルジ(アミノエチル)グリシン、アルキルポリアミノエチルグリシン塩酸塩、2−アルキル−N−カルボキシエチル−N−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタインやN−テトラデシル−N,N−ベタイン型等が挙げられる。
非イオン界面活性剤及び両性界面活性剤の画像記録層の上層又は下層の塗布液組成における含有量としては、0.05〜15質量%が好ましく、0.1〜5質量%がより好ましい。
【0197】
また、画像記録層の上層、下層又は両層には、露光による加熱後直ちに可視像を得るための焼き出し剤や、画像着色剤としての染料や顔料を含有させることができる。焼き出し剤としては、露光による加熱によって酸を放出する化合物(光酸放出剤)と塩を形成し得る有機染料の組合せを代表として挙げることができる。具体的には、特開昭50−36209号、同53−8128号の各公報に記載されているo−ナフトキノンジアジド−4−スルホン酸ハロゲニドと塩形成性有機染料の組合せや、特開昭53−36223号、同54−74728号、同60−3626号、同61−143748号、同61−151644号及び同63−58440号の各公報に記載されているトリハロメチル化合物と塩形成性有機染料の組合せを挙げることができる。かかるトリハロメチル化合物としては、オキサゾール系化合物とトリアジン系化合物とがあり、どちらも経時安定性に優れ、明瞭な焼き出し画像を与える。
【0198】
また、画像部の視認性を向上させるため用いられる着色剤としては、種々の染料を用いることができる。好適な染料として油溶性染料と塩基性染料をあげることができる。具体的には、ブリリアントグリーン、オイルグリーンBG、オイルブルーBOS、オイルブルー#603、オイルブラックBY、オイルブラックBS、オイルブラックT−505(以上オリエント化学工業(株)製)、ビクトリアピュアブルー、クリスタルバイオレット(CI42555)、メチルバイオレット(CI42535)、エチルバイオレット、ローダミンB(CI145170B)、マラカイトグリーン(CI42000)、メチレンブルー(CI52015)などを挙げることができる。また、特開昭62−293247号公報に記載されている染料は特に好ましい。
これらの染料の含有量としては、画像記録層の上層又は下層の全固形分に対し、0.01〜10質量%が好ましく、0.1〜3質量%がより好ましい。
【0199】
更に、画像記録層の上層、下層又は両層には、必要に応じ、画像記録層の柔軟性等を付与するために可塑剤を加えてもよい。可塑剤としては、例えば、ブチルフタリル、ポリエチレングリコール、クエン酸トリブチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジヘキシル、フタル酸ジオクチル、リン酸トリクレジル、リン酸トリブチル、リン酸トリオクチル、オレイン酸テトラヒドロフルフリル、アクリル酸又はメタクリル酸のオリゴマー及びポリマー等が用いられる。
【0200】
<ネガ型平版印刷版原版の画像記録層(感光層)の形成>
ネガ型平版印刷版原版の感光層は、必要な上記各成分を溶剤に分散又は溶解して塗布液を調製し、塗布して形成される。ここで使用する溶剤としては、メチルエチルケトン、エチレングリコールモノメチルエーテル、1−メトキシ−2−プロパノール、2−メトキシエチルアセテート、1−メトキシ−2−プロピルアセテート、γ−ブチルラクトン等を挙げることができるが、これに限定されるものではない。これらの溶剤は、単独又は混合して使用される。塗布液の固形分濃度は、好ましくは1〜50質量%である。
【0201】
また塗布、乾燥後に得られる支持体上の感光層の塗設量(固形分)は、0.3〜3.0g/mが好ましい。塗布する方法としては、種々の方法を用いることができる。例えば、バーコーター塗布、回転塗布、スプレー塗布、カーテン塗布、ディップ塗布、エアーナイフ塗布、ブレード塗布、ロール塗布等を挙げられる。
<ポジ型平版印刷版原版の画像記録層の形成>
ポジ型平版印刷版原版の画像記録層は上記ネガ型平版印刷版原版の感光層と同様にして塗設することができ、画像記録層が単層である場合の塗設量(固形分)の好ましい範囲も上記ネガ型平版印刷版原版の感光層に関して記載したものと同様である。
ポジ型平版印刷版原版の画像記録層が下層と上層とを有する場合は、下層の塗設量(乾燥後の全固形分)は、0.5〜2.0g/mが好ましく、上層の塗設量(乾燥後の全固形分)は、0.1〜0.8g/mが好ましい。
【0202】
<保護層>
ネガ型平版印刷版原版には、露光時の重合反応を妨害する酸素の拡散侵入を遮断するため、感光層上に保護層(酸素遮断層)が設けられることが好ましい。保護層に使用できる材料としては、水溶性ポリマー、水不溶性ポリマーのいずれをも適宜選択して使用することができ、必要に応じて2種類以上を混合して使用することもできる。具体的には、例えば、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、水溶性セルロース誘導体、ポリ(メタ)アクリロニトリル等が挙げられる。これらの中で、比較的結晶性に優れた水溶性高分子化合物を用いることが好ましく、具体的には、ポリビニルアルコールを主成分として用いる事が、酸素遮断性、現像除去性といった基本特性的に最も良好な結果を与える。
【0203】
保護層に使用するポリビニルアルコールは、必要な酸素遮断性と水溶性を有するための、未置換ビニルアルコール単位を含有する限り、一部がエステル、エーテル、及びアセタールで置換されていても良い。また、同様に一部が他の共重合成分を有していても良い。ポリビニルアルコールはポリ酢酸ビニルを加水分解することにより得られるが、ポリビニルアルコールの具体例としては69.0〜100モル%加水分解され、重合繰り返し単位が300から2400の範囲のものをあげる事ができる。具体的には、株式会社クラレ製のPVA−102、PVA−103、PVA−105、PVA−110、PVA−117、PVA−117H、PVA−120、PVA−124、PVA−124H、PVA−CS、PVA−CST、PVA−HC、PVA−203、PVA−204、PVA−205、PVA−210、PVA−217、PVA−220、PVA−224、PVA−235、PVA−217EE、PVA−217E、PVA−220E、PVA−224E、PVA−403、PVA−405、PVA−420、PVA−424H、PVA−505、PVA−617、PVA−613、PVA−706、L−8等が挙げられ、これらは単独又は混合して使用できる。好ましい態様としてはポリビニルアルコールの保護層中の含有率が20〜95質量%、より好ましくは、30〜90質量%である。
【0204】
また、公知の変性ポリビニルアルコールも好ましく用いることができる。特に、カルボン酸基又はスルホン酸基を有する酸変性ポリビニルアルコールが好ましく用いられる。具体的には、特開2005−250216、特開2006−259137記載のポリビニルアルコールが好適に挙げられる。
【0205】
ポリビニルアルコールと別の材料を混合して使用する場合、混合する成分としては、変性ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン又はその変性物が酸素遮断性、現像除去性といった観点から、保護層中の含有率が好ましくは3.5〜80質量%、より好ましくは10〜60質量%、特に好ましくは15〜30質量%である。
【0206】
保護層の他の組成物として、グリセリン、ジプロピレングリコール等を(共)重合体に対して数質量%相当量添加して可撓性を付与することができ、また、アルキル硫酸ナトリウム、アルキルスルホン酸ナトリウム等のアニオン界面活性剤;アルキルアミノカルボン酸塩、アルキルアミノジカルボン酸塩等の両性界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等の非イオン界面活性剤を(共)重合体に対して数質量%添加することができる。
【0207】
更に、平版印刷版原版における保護層には、酸素遮断性や感光層表面保護性を向上させる目的で、無機質の層状化合物を含有させることも好ましい。無機質の層状化合物の中でも、合成の無機質の層状化合物であるフッ素系の膨潤性合成雲母が特に有用である。具体的には、特開2005−119273記載の無機質の層状化合物が好適に挙げられる。
【0208】
保護層の塗布量としては、乾燥後の塗布量で、0.05〜10g/mの範囲であることが好ましく、無機質の層状化合物を含有する場合には、0.1〜5g/mの範囲であることが更に好ましく、無機質の層状化合物を含有しない場合には、0.5〜5g/mの範囲であることが更に好ましい。
【0209】
〔親水性支持体〕
平版印刷版原版に用いられる親水性支持体は、特に限定されず、寸度的に安定な板状な、親水性表面を有する支持体であればよい。特に、アルミニウム板が好ましい。アルミニウム板を使用するに先立ち、粗面化処理、陽極酸化処理等の表面処理を施すのが好ましい。アルミニウム板表面の粗面化処理は、種々の方法により行われるが、例えば、機械的粗面化処理、電気化学的粗面化処理(電気化学的に表面を溶解させる粗面化処理)、化学的粗面化処理(化学的に表面を選択溶解させる粗面化処理)が挙げられる。これらの処理については、特開2007−206217の段落番号〔0241〕〜〔0245〕に記載された方法を好ましく用いることができる。
支持体は、中心線平均粗さが0.10〜1.2μmであるのが好ましい。この範囲内で、画像記録層との良好な密着性、良好な耐刷性と良好な汚れ難さが得られる。
また、支持体の色濃度としては、反射濃度値として0.15〜0.65であるのが好ましい。この範囲内で、画像露光時のハレーション防止による良好な画像形成性と現像後の良好な検版性が得られる。
支持体の厚さは0.1〜0.6mmであるのが好ましく、0.15〜0.4mmであるのがより好ましく、0.2〜0.3mmであるのが更に好ましい。
【0210】
〔支持体親水化処理、下塗り層〕
平版印刷版原版においては、非画像部領域の親水性を向上させ印刷汚れを防止するために、支持体表面の親水化処理を行う、又は支持体と画像記録層との間に下塗り層を設けることも好適である。
【0211】
支持体表面の親水化処理としては、支持体をケイ酸ナトリウム等の水溶液に浸漬処理又は電解処理するアルカリ金属シリケート処理、フッ化ジルコン酸カリウムで処理する方法、ポリビニルホスホン酸などの有機ホスホン酸で処理する方法等が挙げられるが、支持体表面を、アルカリ金属シリケート及び有機ホスホン酸の少なくともいずれかで表面処理する方法が好ましく用いられる。
【0212】
下塗り層としては、ホスホン酸、リン酸、スルホン酸などの酸基を有する化合物を有する下塗り層が好ましく用いられる。これらの化合物は、画像記録層との密着性を向上させる為に、更に重合性基を含有することが好ましい。重合性基としてはエチレン性不飽和結合基が好ましい。更にエチレンオキシ基などの親水性付与基を有する化合物も好適な化合物として挙げることができる。これらの化合物は低分子でも高分子ポリマーであってもよい。又、これらの化合物は必要に応じて2種以上を混合して使用してもよい。
特開平10−282679号公報に記載されている付加重合可能なエチレン性不飽和結合基を有しているシランカップリング剤、特開平2−304441号公報記載のエチレン性不飽和結合基を有しているリン化合物などが好適に挙げられる。特開2005−238816、特開2005−125749、特開2006−239867、特開2006−215263公報記載の架橋性基(好ましくは、エチレン性不飽和結合基)、支持体表面に相互作用する官能基、及び親水性基を有する低分子又は高分子化合物を含有するものも好ましく用いられる。
【0213】
下塗り層は、公知の方法で塗布される。下塗り層の塗布量(固形分)は、0.1〜100mg/mであるのが好ましく、1〜30mg/mであるのがより好ましい。
【0214】
〔バックコート層〕
本発明の平版印刷版原版には、必要に応じて、支持体の裏面にバックコートを設けることができ、例えば、支持体に表面処理を施した後又は下塗り層を形成させた後、支持体の裏面にバックコートを塗設することができる。
バックコートとしては、例えば、特開平5−45885号公報に記載されている有機高分子化合物、特開平6−35174号公報に記載されている有機金属化合物又は無機金属化合物を加水分解及び重縮合させて得られる金属酸化物からなる被覆層が好適に挙げられる。中でも、Si(OCH、Si(OC、Si(OC、Si(OC等のケイ素のアルコキシ化合物を用いるのが、原料が安価で入手しやすい点で好ましい。
【0215】
本発明の印刷方法は、以上に説明した平版印刷版の作製方法によって平版印刷版を作製し、該平版印刷版を用いて印刷を行うことを特徴としている。本発明の平版印刷版の作製方法によって得られた平版印刷版を使用して印刷を行う以外は、印刷の方法は特に限定されず、周知の印刷方法を採用することができる。
本明細書において、印刷とは、平版印刷版を印刷機に取り付けるところからを指す。
本発明の印刷方法は、平版印刷版の作製後から印刷を開始するまでに水洗工程を含まないことが好ましい。これにより、例えば印刷の前処理としての水洗工程が別途設けられないので、より簡易に印刷を行うことができる。
また、本発明の印刷方法は、本発明の平版印刷版の作製方法によって作製された平版印刷版を水洗工程を含むことなく作製し、該平版印刷版の作製後から印刷を開始するまでに水洗工程を含むことなく、該平版印刷版を用いて印刷を行うことがより好ましい(すなわち、この形態は、平版印刷版原版の露光工程以降、現像工程を経て平版印刷版を作製し、この平版印刷版を印刷機に取り付けるまで、一切の水洗い工程を含まないことを意味する)。これにより、1液1工程の簡易処理によっても、現像性及び現像カス分散性に優れ、非画像部の汚れが抑制された平版印刷版を用いた印刷を、より簡易に行うことができる。
【実施例】
【0216】
以下に実施例により、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。高分子化合物について、繰り返し単位の比はモル比であり、分子量は質量平均分子量である。
【0217】
<支持体1の作製>
厚さ0.3mmのアルミニウム板を10質量%水酸化ナトリウム水溶液に60℃で25秒間浸漬してエッチングし、流水で水洗後、20質量%硝酸水溶液で中和洗浄し、次いで水洗した。これを正弦波の交番波形電流を用いて1質量%硝酸水溶液中で300クーロン/dmの陽極時電気量で電解粗面化処理を行った。引き続いて1質量%水酸化ナトリウム水溶液中に40℃で5秒間浸漬後30質量%の硫酸水溶液中に浸漬し、60℃で40秒間デスマット処理した後、20質量%硫酸水溶液中、電流密度2A/dmの条件で陽極酸化皮膜の厚さが2.7g/mになるように、2分間陽極酸化処理した。その表面粗さを測定したところ、0.28μm(JIS B0601によるRa表示)であった。このようにして得られた支持体を、支持体1とする。
【0218】
<支持体2の作製>
支持体1を、更に、純水にポリビニルホスホン酸(PCAS社製)を0.4w%溶解させた53℃の処理液に10秒浸漬し、ニップロールにて余剰の処理液を除去した。この後に、カルシウムイオン濃度を20〜400ppm含む60℃の井水にて4秒間水洗し、更に25℃の純水で4秒間洗浄し、ニップロールにて余剰の純水を除去した。その後の乾燥工程にてアルミ板上の水分を完全に除去した。このようにして得られた支持体を、支持体2とする。
【0219】
<支持体3の作製>
厚さ0.24mmのアルミニウム板(材質1050,調質H16)を65℃に保たれた5質量%水酸化ナトリウム水溶液に浸漬し、1分間の脱脂処理を行った後、水洗した。この脱脂アルミニウム板を、25℃に保たれた10質量%塩酸水溶液中に1分間浸漬して中和した後、水洗した。次いで、このアルミニウム板を、0.3質量%の塩酸水溶液中で、25℃、電流密度100A/dmの条件下に交流電流により60秒間、電解粗面化を行った後、60℃に保たれた5質量%水酸化ナトリウム水溶液中で10秒間のデスマット処理を行った。デスマット処理を行った粗面化アルミニウム板を、15質量%硫酸水溶液溶液中で、25℃、電流密度10A/dm、電圧15Vの条件下に1分間陽極酸化処理を行い、更に1質量%ポリビニルホスホン酸水溶液を用いて75℃で親水化処理を行って支持体を作製した。その表面粗さを測定したところ、0.44μm(JIS B0601によるRa表示)であった。このようにして得られた支持体を、支持体3とする。
【0220】
<支持体4の作製>
前記支持体1を、更に、温度30℃の3号ケイ酸ソーダの1質量%水溶液の処理槽中へ、10秒間、浸せきすることでアルカリ金属ケイ酸塩処理(シリケート処理)を行った。その後、スプレーによる水洗を行った。このようにして得られた支持体を支持体4とする。
【0221】
〔ネガ型平版印刷版原版の作製〕
<平版印刷版原版1の作製>
<感光層1の形成>
支持体2上に、下記組成の感光層塗布液(1)をバー塗布した後、90℃、60秒でオーブン乾燥し、乾燥塗布量1.3g/mの感光層1を形成した。
【0222】
<感光層塗布液(1)>
・下記バインダーポリマー(1) (質量平均分子量:80,000)0.34g
・下記重合性化合物(1) 0.68g
(PLEX6661−O、デグサジャパン製)
・下記増感色素(1) 0.06g
・下記重合開始剤(1) 0.18g
・下記連鎖移動剤(1) 0.02g
・ε―フタロシアニン顔料の分散物 0.40g
(顔料:15質量部、分散剤(アリルメタクリレート/メタクリル酸
共重合体(質量平均分子量:6万、共重合モル比:83/17)):
10質量部、シクロヘキサノン:15質量部)
・熱重合禁止剤
N−ニトロソフェニルヒドロキシルアミンアルミニウム塩 0.01g
・下記フッ素系界面活性剤(1) (質量平均分子量:10、000)0.001g
・ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン縮合物 0.02g
((株)ADEKA製、プルロニックL44)
・1−メトキシ−2−プロパノール 3.5g
・メチルエチルケトン 8.0g
【0223】
【化23】

【0224】
【化24】

【0225】
<保護層1の形成>
感光層1上に、下記組成よりなる保護層塗布液(1)を、乾燥塗布量が1.5g/mとなるようにバーを用いて塗布した後、125℃、70秒で間乾燥して保護層を形成し、平版印刷版原版1を得た。
<保護層塗布液(1)>
・下記雲母分散液(1) 0.6g
・スルホン酸変性ポリビニルアルコール 0.8g
(ゴーセランCKS−50、日本合成化学(株)製
[ケン化度:99モル%、平均重合度:300、変性度:約0.4モル%])
・ポリ(ビニルピロリドン/酢酸ビニル(1/1))(分子量7万)
0.001g
・界面活性剤(エマレックス710、日本エマルジョン(株)製)0.002g
・水 13g
【0226】
(雲母分散液(1)の調製)
水368gに合成雲母(ソマシフME−100、コープケミカル社製、アスペクト比:1000以上)の32gを添加し、ホモジナイザーを用いて平均粒径(レーザー散乱法)0.5μmになる迄分散し、雲母分散液(1)を得た。
【0227】
<平版印刷版原版2の作製>
<感光層2の形成>
支持体3上に、下記組成の感光層塗布液(2)をバー塗布した後、90℃、60秒でオーブン乾燥し、乾燥塗布量1.3g/mの感光層2を形成した。
<感光層塗布液(2)>
・上記バインダーポリマー(1)(質量平均分子量:5万) 0.04g
・下記バインダーポリマー(2)(質量平均分子量:8万) 0.30g
・上記重合性化合物(1) 0.17g
(PLEX6661−O、デグサジャパン製)
・下記重合性化合物(2) 0.51g
・下記増感色素(2) 0.03g
・下記増感色素(3) 0.015g
・下記増感色素(4) 0.015g
・上記重合開始剤(1) 0.13g
・連鎖移動剤:メルカプトベンゾチアゾール 0.01g
・ε―フタロシアニン顔料の分散物 0.40g
(顔料:15質量部、分散剤(アリルメタクリレート/メタクリル酸共重合体(質量平均分子量:6万、共重合モル比:83/17)):10質量部、シクロヘキサノン:15質量部)
・熱重合禁止剤 0.01g
N−ニトロソフェニルヒドロキシルアミンアルミニウム塩
・上記フッ素系界面活性剤(1)(質量平均分子量:1万) 0.001g
・1−メトキシ−2−プロパノール 3.5g
・メチルエチルケトン 8.0g
【0228】
【化25】

【0229】
【化26】

【0230】
<保護層2の形成>
感光層2上に、下記組成よりなる保護層塗布液(2)を、乾燥塗布量が1.2g/mとなるようにバーを用いて塗布した後、125℃、70秒間で乾燥して保護層を形成し、平版印刷版原版2を得た。
【0231】
<保護層塗布液(2)>
・PVA−205 0.658g
(部分加水分解ポリビニルアルコール、クラレ(株)製、鹸化度=86.5−89.5モル%、粘度=4.6−5.4mPa・s(20℃、4質量%水溶液中))
・PVA−105 0.142g
(完全加水分解ポリビニルアルコール、クラレ(株)製、鹸化度=98.0−99.0モル%、粘度=5.2−6.0mPa・s(20℃、4質量%水溶液中))
・ポリ(ビニルピロリドン/酢酸ビニル(モル比:1/1))(分子量7万)
0.001g
・界面活性剤(エマレックス710、日本エマルジョン(株)製)
0.002g
・水 13g
【0232】
<平版印刷版原版3の作製>
<下塗り層1の作製>
【0233】
支持体4上に、バーコーターを用いて次の下塗り液(1)を塗布したあと80℃で15秒間乾燥し、下塗り層1を作製した。乾燥後の下塗り層の塗布量は15mg/mであった。
【0234】
−下塗り液(1)−
・β−アラニン 0.5g
・メタノール 95g
・水 5g
【0235】
<感光層3の形成>
支持体4上に下塗り層(1)を塗布・乾燥した後、下記組成の下層用塗布液を塗布量が1.5g/mになるようバーコーターで塗布したのち、160℃で44秒間乾燥し、直ちに17〜20℃の冷風で支持体の温度が35℃になるまで冷却した。
−下層用塗布液−
・N―フェニルマレイミド/メタクリル酸/メタクリルアミドコポリマー共重合体
1.0g
(組成比:40/20/40、質量平均分子量=50,000)
・下記構造式で表されるシアニン染料A 0.017g
・クリスタルヴァイオレット(保土ヶ谷化学(株)製) 0.015g
・メガファックF−177(DIC(株)製、フッ素系界面活性剤)0.05g
・γ−ブチルラクトン 10g
・メチルエチルケトン 10g
・1−メトキシ−2−プロパノール 8g
【0236】
【化27】

【0237】
その後、下記組成の上層用塗布液を塗布量が0.5g/mになるようバーコーター塗布したのち、130℃で40秒間乾燥し、更に20〜26℃の風で徐冷し、平版印刷版原版3を作製した。
−上層用塗布液−
・下記のポリウレタン樹脂(1) 30.0g
・BYK−333(BYKケミー社製ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン)
0.3g
・エチルヴァイオレット 0.03g
・メガファックF−177(フッ素系界面活性剤) 0.05g
・3−ペンタノン 60g
・プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート 8g
【0238】
<ポリウレタン樹脂(1)>
[ポリウレタン樹脂(1)の合成]
500mlの3つ口フラスコに、下記4種類の化合物を下記の割合でジオキサンに溶解した。N,N−ジエチルアニリン1gを加えた後、ジオキサン還流下6時間攪拌した。反応後、水4L、酢酸40mlの溶液に少しずつ加えポリマーを析出させた。この固体を真空乾燥させることにより185gのポリウレタン樹脂(1)を得た。酸含有量は2.47meq/gであつた。GPCにて分子量を測定したところ質量平均分子量(ポリスチレン標準)は28,000であった。
【0239】
【化28】

【0240】
<平版印刷版原版4の作製>
<下塗り層2の形成>
支持体1上に、下記組成の下塗り塗布液(2)をバー塗布した後、80℃、20秒でオーブン乾燥し、乾燥塗布量が10mg/mになるよう塗布し、下塗り層2を作製した。
【0241】
下塗り液(2)
・下記ゾル液 100g
・メタノール 900g
【0242】
ゾル液
・ホスマーPE(ユニケミカル(株)製) 5g
・メタノール 45g
・水 10g
・85質量%リン酸水溶液 5g
・テトラエトキシシラン 20g
・3−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン 15g
【0243】
下塗り層2を塗布乾燥後、下記組成の感光層塗布液(4)をバー塗布した後、90℃、60秒でオーブン乾燥し、乾燥塗布量1.3g/mの感光層4を形成した。
【0244】
<感光層4の形成>
<感光層塗布液(4)>
・上記バインダーポリマー(1)(質量平均分子量:8万) 0.34g
・上記重合性化合物(1) 0.68g
(PLEX6661−O、デグサジャパン製)
・上記増感色素(1) 0.06g
・上記重合開始剤(1) 0.18g
・下記連鎖移動剤(2) 0.02g
・ε―フタロシアニン顔料の分散物 0.40g
(顔料:15質量部、分散剤(アリルメタクリレート/メタクリル酸共重合体(質量平均分子量:6万、共重合モル比:83/17)):10質量部、シクロヘキサノン:15質量部)
・熱重合禁止剤 0.01g
N−ニトロソフェニルヒドロキシルアミンアルミニウム塩
・上記フッ素系界面活性剤(1)(質量平均分子量:1万) 0.001g
・ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン縮合物 0.02g
((株)ADEKA製、プルロニックL44)
・1−メトキシ−2−プロパノール 3.5g
・メチルエチルケトン 8.0g
【0245】
【化29】

【0246】
感光層4上に、下記組成よりなる保護層塗布液(3)を、乾燥塗布量が1.5g/mとなるようにバーを用いて塗布した後、125℃、70秒間で乾燥して保護層を形成し、平版印刷版原版4を得た。
【0247】
<保護層塗布液(3)>
ポリビニルアルコール(ケン化度98モル%、重合度500) 44g
ポリビニルピロリドン(質量平均分子量5万) 1g
ポリ(ビニルピロリドン/酢酸ビニル(モル比:1/1))(質量平均分子量7万)
0.5g
界面活性剤(エマレックス710、日本エマルジョン(株)製) 0.5g
界面活性剤(パイオニンD230、竹本油脂(株)製) 0.5g
水 950g
【0248】
<平版印刷版原版5の作製>
<下塗り層3の形成>
支持体1上に、バーコーターを用いて下記組成の下塗り液(3)を塗布した後、80℃で15秒間乾燥し、下塗り層3を作製した。乾燥後の下塗り層の塗布量は15mg/mであった。
【0249】
下塗り液(3)
・下記ポリマー(SP1) 0.87g
・下記ポリマー(SP2) 0.73g
・純水 1000.0g
【0250】
【化30】

【0251】
<感光層5の形成>
前記下塗り層3上に、下記組成の感光層塗布液(5)をバー塗布し、温風式乾燥装置にて125℃で34秒間乾燥させ、乾燥塗布量が1.4g/mの感光層5を形成した。
【0252】
<感光層塗布液(5)>
・下記赤外線吸収剤(IR−1) 0.038g
・下記重合開始剤A(S−1) 0.061g
・下記重合開始剤B(I−2) 0.094g
・下記メルカプト化合物(E−1) 0.015g
・下記重合性化合物(M−2) 0.629g
(商品名:A−BPE−4 新中村化学工業(株))
・下記バインダーポリマー(B−1) 0.419g
・下記添加剤(T−1) 0.079g
・下記重合禁止剤(Q−1) 0.0012g
・エチルバイオレット(EV−1) 0.021g
・上記フッ素系界面活性剤(1)(質量平均分子量:1万)0.0081g
・メチルエチルケトン 5.886g
・メタノール 2.733g
・1−メトキシ−2−プロパノール 5.886g
【0253】
上記感光層用塗布液(5)に用いた、赤外線吸収剤(IR−1)、重合開始剤A(S−1)、重合開始剤B(I−2)、メルカプト化合物(E−1)、重合性化合物(M−2)、バインダー(B−1)、添加剤(T−1)、重合禁止剤(Q−1)及びエチルバイオレット(EV−1)の構造を以下に示す。
【0254】
【化31】

【0255】
【化32】

【0256】
【化33】

【0257】
感光層5上に、前記保護層塗布液(1)を乾燥塗布量が1.2g/mとなるようにバーを用いて塗布した後、125℃、70秒で乾燥して保護層(1)を形成し、平版印刷版原版5を得た。
【0258】
<平版印刷版原版6の作製>
平版印刷版原版1の支持体を、支持体2から支持体3にした以外は平版印刷版原版1と同様にして、平版印刷版原版6を得た。
【0259】
<平版印刷版原版7の作製>
平版印刷版原版3の支持体を、支持体4から支持体1にした以外は平版印刷版原版3と同様にして、平版印刷版原版7を得た。
【0260】
<現像液の作製>
下記組成の現像液を作製し、現像液CD−1を得た。
酵素分解デキストリン(日澱化學株式会社製:アミコール1B、質量平均分子量3,000)
650g
界面活性剤−1(川研ファインケミカル(株)製:ソフタゾリンLPB−R)
400g
界面活性剤−2(川研ファインケミカル(株)製:ソフタゾリンLAO)
100g
炭酸ナトリウム 88g
炭酸水素ナトリウム 37g
グルコン酸ナトリウム 50g
リン酸第1アンモニウム 20g
2−ブロモ−2−ニトロプロパン−1,3ジオール 0.025g
2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン 0.025g
キレート剤 エチレンジアミンコハク酸 三ナトリウム
(InnoSpec specialty chemicals社製:オクタクエストE30)
20g
シリコーン系消泡剤(GE東芝シリコーン(株)社製:TSA739)2g
水 8632.8g
*上記組成の現像液に、適宜リン酸を添加し、pH9.8に調整した。
【0261】
下記表1に示す糖類又は水溶性高分子化合物を含有する現像液を作製し、現像液CD−2〜6、CD−22、D−1〜D−11を得た。
下記表2に示すような組成及びpHの現像液を作製し、現像液CD−7〜9、D−12〜14を得た。
下記表3に示すような組成及びpHの現像液を作製し、現像液CD−10〜18、D−15〜21を得た。
下記表4に示すような組成及びpHの現像液を作製し、現像液CD−19〜CD−20、D−26〜D−31、D−40〜D−44を得た。
下記表5に示すような組成及びpHの現像液を作製し、現像液CD−21、D−32〜39を得た。
【0262】
【表1】

【0263】
【表2】

【0264】
【表3】

【0265】
【表4】

【0266】
【表5】

【0267】
〔実施例1〜47、比較例1〜27〕
(1)露光、現像及び印刷
〔ネガ型平版印刷版原版の露光〕
平版印刷版原版1、2、4及び6を、FUJIFILM Electronic Imaging Ltd 製Violet半導体レーザープレートセッターVx9600(InGaN系半導体レーザー405nm±10nm発光/出力30mWを搭載)により画像露光を実施した。画像描画は、解像度2438dpiで、富士フイルム(株)製FMスクリーン(TAFFETA 20)を用い、50%の平網を、版面露光量0.03mJ/cmで実施した。(露光条件1)
平版印刷版原版5を、水冷式40W赤外線半導体レーザー搭載のCreo社製Trendsetter3244VXにて、出力9W、外面ドラム回転数210rpm、解像度2400dpiの条件で画像露光を行った。露光パターンは50%のスクエアドットを使用し、版面露光量60mJ/cmで実施した。(露光条件2)
【0268】
〔ネガ型平版印刷版原版の現像〕
平版印刷版原版1、2、5及び6の現像は、以下のようにして行なった。
表6中に示した現像液を用い、図1に示す構造の自動現像処理機にて、プレヒート100℃で10秒、現像液中への浸漬時間(現像時間)が20秒となる搬送速度にて現像処理を実施した。乾燥部を通過後の版面温度は、放射温度計により非接触で測定して80℃となるように調整した。乾燥部を通過後の版面中央の到達温度は、放射温度計により非接触で測定して40℃となるように調整した。加熱時間(乾燥部の通過にかかる時間)は7.4秒であった。(現像条件1)
平版印刷版原版4の現像は、以下のようにして行なった。図2に示す構造の自動現像処理機にて、表6中に示した現像液を現像浴に仕込むだけでなく、フィニッシャー部へも供給し、現像浴における現像液中への浸漬時間とフィニッシャー部で現像液の供給を受ける時間の合計(現像時間)が20秒となる搬送速度に設定し、水洗をオフにして搬送ローラー対と乾燥装置を稼動させて現像処理を実施した。その他の設定は現像条件1と同様にして実施した。(現像条件2)
【0269】
〔ポジ型平版印刷版原版の露光〕
平版印刷版原版3及び7の露光は、露光機(トレンドセッターF、Kodak社製)を用いて、露光(レーザーパワー:8.5W、回転数:185rpm)した。(露光条件3)
露光パターンは50%のスクエアドットを使用し、版面露光量100mJ/cmで実施した。
〔ポジ型平版印刷版原版の現像〕
平版印刷版原版3及び7の現像は、表6中に示した現像液を用いて、前記現像条件1で実施した。
【0270】
〔印刷〕
次いで、現像後の平版印刷版を、ハイデルベルグ社製印刷機SOR−Mに取り付け、湿し水(EU−3(富士フイルム(株)製エッチ液)/水/イソプロピルアルコール=1/89/10(容量比))とTRANS−G(N)墨インキ(大日本インキ化学工業(株)製)とを用い、毎時6000枚の印刷速度で印刷を行った。
【0271】
(2)評価
<現像液pH>
経時による現像液pHの変動を評価するため、調液直後及び調液後、室温暗所に2ヶ月経時後の現像液pHを、pHメーターを用いて測定した。
【0272】
〔膜形成性〕
<非画像部傷汚れ性>
現像液に含有される糖類又は水溶性高分子化合物による支持体表面への膜形成能の指標として、現像処理後の平版印刷版表面の傷汚れ性評価を行った。耐傷性評価は、新東科学(株)の引掻き試験器に0.3Rダイヤ針を取り付け、表1〜5に示す現像液で処理した後の版面に、荷重20g、50g、75g、100g、150g、200gで版面に傷をつけた。次いで、傷をつけた平版印刷版を、ハイデルベルグ社製印刷機SOR−Mに取り付け、湿し水(EU−3(富士フイルム(株)製エッチ液)/水/イソプロピルアルコール=1/89/10(容量比))とTRANS−G(N)墨インキ(大日本インキ化学工業(株)製)とを用い、毎時6000枚の印刷速度で印刷を行い、各傷による汚れ発生の有無を調べ、何gの荷重から傷汚れが発生するかを評価した。
【0273】
<ベトツキ>
現像液に含有される糖類又は水溶性高分子化合物による支持体表面への膜形成能の指標として、現像処理後の平版印刷版表面のべとつきの官能評価を下記基準に基づき行った。
版のベトツキは、それぞれの現像液を自動現像処理機に仕込み、500m処理後の最終の平版印刷版原版の表面を手で触れてベトツキを官能評価した。版表面のベトツキについて、10人のオペレーターによる評価を行った。10人中ベトツキが気になると評価した人数が、10人中2人以下の場合:○、10人中3〜4人の場合:△、10人中5人以上の場合:×とした。
【0274】
〔刷版性能〕
<現像性>
表6に示す組合せで、平版印刷版原版1〜7を上記の通り露光し、前記の現像液CD−1〜22、D−1〜21、26〜44を用いて現像を行った。現像処理後に、平版印刷版の非画像部を目視確認し、画像記録層(感光層)の残存を評価した。この評価を(1)現像液の調液直後、(2)現像液の調液から室温暗所に2ヶ月静置後、及び、(3)現像液の調液から室温暗所に2ヶ月静置後の現像液を用いて、現像液1リットル当り平版印刷版原版を20m現像処理(ランニング処理)した後、のそれぞれについて行った。
評価は、以下の基準で実施した。
感光層の残存なく良好な現像性:○、わずかな感光層の残存あるが現像性に問題なし:△、感光層が残存し、現像不良:×
【0275】
<現像カス分散性>
上記の現像性の評価において、ランニング処理後の現像液を用いて現像処理を行った平版印刷版の非画像部を目視確認し、現像カスの付着物の有無を評価した。
評価は、以下の基準で実施した。
1m当りに目視可能なカスの付着が見られない:○、1m当りに目視可能なカスの付着が1個以上3個以下:△、1m当りに目視可能なカスの付着が4個以上:×
【0276】
〔印刷性能〕
<耐汚れ性>
上記の現像性評価に用いた平版印刷版を上記の通り印刷を行い、500枚目までの印刷物において、非画像部の汚れ性を評価した。
非画像部の汚れ性は、
500枚目の非画像部にインキ汚れがある場合:×、
100枚目の非画像部にはインキ汚れがあり、500枚目の非画像部にインキ汚れがない場合:△、
30枚目の非画像部にインキ汚れがあり、100枚目の非画像部にインキ汚れがない場合:○、
30枚目の非画像部にインキ汚れがない場合:◎
として評価した。
上記評価結果を表6に示す。
【0277】
【表6】

【0278】
【表7】

【0279】
pH安定性の結果から、還元性末端を持つ成分を含有する糖類を含む現像液は経時でpHが低下するのに対して、非還元性(還元性末端を持たない)糖類を含む現像液はpHが低下しないことが分かる。
また、非還元性糖類でも、単糖に対応する分子量が200以下の糖アルコールでは、特定の非還元性糖類を含む現像液に比べて、非画像部の耐傷性や現像後の版面のベトツキに劣り、膜形成能が低いことが分かる。
分子量が大きいもの、更に支持体表面に吸着可能なリン酸変性デンプンを還元処理して非還元性とした化合物ものは耐汚れ性に優れることが分かる。
【0280】
非還元性の還元澱粉糖化物を含有する現像液は、調液直後のpHに依らず、液経時2ヵ月後のpH低下はほとんどない。これに対して、還元性末端を有するアラビアガムを含有する現像液は、2ヶ月の経時でpH低下するが、pHが低くなるほどpHの減少量が小さくなり、pH5.5では差がなくなる。これについて詳細な原因は解析できていないが、塩基性ほど還元反応が進むためと考えられる。
したがって、非還元性の糖類によりpH低下が抑止される効果はpH6以上14以下の範囲であることが分かる。また、pH低下した現像液は現像性だけでなく、耐汚れ性にも劣る。
【0281】
両性(ベタイン系)界面活性剤だけでなく、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤でも、両性(ベタイン系)界面活性剤と同様の効果が得られることが分かる。
水溶性のアミン化合物及びそのイオンを含む処理中でも、特定の非還元性糖類を含有する現像液が、上記の結果と同様の液経時によるpH低下抑止と現像性・耐汚れ性劣化防止の効果を示すことが分かる。
【0282】
ポジ型の平版印刷版原版に対しても、特定の非還元性糖類を含有する現像液が、上記の結果と同様の液経時による現像性・耐汚れ性劣化防止の効果を示すことが分かる。
【0283】
サーマルネガ型の平版印刷版原版に対しても、特定の非還元性糖類を含有する現像液が、上記の結果と同様の液経時による現像性・耐汚れ性劣化防止の効果を示すことが分かる。
【0284】
Si処理した支持体を用いた平版印刷版原版に対しても、同様の効果を得ることができることが分かる。
【0285】
ポリビニルアルコールに代表される親水性樹脂に対して、糖類は耐汚れ性で有利であることが分かる。
【0286】
以上のことから、本発明の現像液は、経時でpHが安定かつ膜形成性に優れており、水洗工程を必要としない1液1工程の簡易処理を可能とし、現像性、現像カス分散性に優れ、非画像部の汚れを抑制することができ、優れた平版印刷版を作製できる方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0287】
11:平版印刷版原版の搬送路
50:外部タンク
51:オーバーフロー口
52:上限液レベル計
53:下限液レベル計
54:フィルター部
55:現像液供給ポンプ
71:補充用水タンク
72:水補充ポンプ
100:自動現像処理機
101:搬送ローラ対
102:搬送ローラ対
103:回転ブラシローラ
104:搬送ローラ対
105:搬送ローラ対
106:回転ブラシローラ
107:回転ブラシローラ
108:搬送ローラ対
109:搬送ローラ対
110:受けローラ
111:搬送ローラ対
112:搬送ローラ対
113:搬送ローラ対
200:前加熱(プレヒート)部
202:機枠
208: 加熱室
210:串型ローラー
212:搬入口
214:ヒーター
216:循環ファン
218:搬出口
300:現像部
304:挿入ローラー対
306:処理タンク
308:現像槽
310:外板パネル
312:スリット状挿入口
316:液中ローラー対
318:搬出ローラー対
322:ブラシローラー対
324:遮蔽蓋
326:ブラシローラー対
330:スプレーパイプ
332:仕切り板
334:スリット状挿通口
336:液温センサー
338:液面レベル計
342:ガイド部材
344:ガイドローラー
400:乾燥部
402:支持ローラー
404:排出口
406:搬送ローラー対
408:搬送ローラー対
410:ダクト
412:ダクト
414:スリット孔
C1:第1の循環用配管
C2:第2の循環用配管
C3:第3の循環用配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つ以上の単糖が結合した非還元性糖類を含有し、pHが6以上14以下であることを特徴とする平版印刷版原版処理用の現像液。
【請求項2】
還元性糖類を実質的に含有しない、請求項1に記載の現像液。
【請求項3】
前記非還元性糖類が、二糖類、オリゴ糖及び還元デンプン糖化物の少なくとも1つであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の現像液。
【請求項4】
前記非還元性糖類が、オリゴ糖及び還元デンプン糖化物の少なくとも1つであり、該非還元性糖類の分子量が500以上であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の現像液。
【請求項5】
前記非還元性糖類が、分子量1000以上の還元デンプン糖化物であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の現像液。
【請求項6】
前記非還元性糖類が、現像処理後の平版印刷版原版の支持体表面と相互作用する官能基を有することを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の現像液。
【請求項7】
前記現像液のpHが、6.5以上11.0以下であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の現像液。
【請求項8】
前記現像液のpHが、6.9以上10.0以下であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の現像液。
【請求項9】
前記現像液が、更に、アニオン性界面活性剤、両性界面活性剤及びノニオン性界面活性剤の少なくとも1つの界面活性剤を含有することを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載の現像液。
【請求項10】
前記現像液が、更に、pH緩衝剤を含有することを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の現像液。
【請求項11】
前記pH緩衝剤が、炭酸イオン及び炭酸水素イオンであることを特徴とする請求項10に記載の現像液。
【請求項12】
前記pH緩衝剤が、水溶性のアミン化合物及びそのアミン化合物のイオンであることを特徴とする請求項10に記載の現像液。
【請求項13】
親水性支持体上に、(i)重合開始剤、(ii)重合性化合物、及び(iii)バインダーポリマーを含有する感光層、並びに、保護層をこの順に有するネガ型平版印刷版原版を画像様に露光し、請求項1〜12のいずれか一項に記載の現像液の存在下、保護層及び非露光部の感光層を除去することを特徴とする平版印刷版の作製方法。
【請求項14】
親水性支持体上に、バインダーポリマーと赤外線吸収剤とを含む画像記録層を有するポジ型平版印刷版原版を画像様に露光し、請求項1〜12のいずれか一項に記載の現像液の存在下、露光部の画像記録層を除去することを特徴とする平版印刷版の作製方法。
【請求項15】
前記ポジ型平版印刷版原版が、親水性支持体上に、水不溶性かつアルカリ可溶性樹脂、及び赤外線吸収剤を含む下層と、水不溶性かつアルカリ可溶性のポリウレタン、及びポリオルガノシロキサンを含む上層と、を有する画像記録層を備えることを特徴とする、請求項14に記載の平版印刷版の作製方法。
【請求項16】
前記平版印刷版の作製方法であって、水洗工程を含まないことを特徴とする、請求項13〜15のいずれか一項に記載の平版印刷版の作製方法。
【請求項17】
前記平版印刷版原版の親水性支持体が、アルカリ金属シリケート及び有機ホスホン酸の少なくともいずれかで表面処理されているアルミニウム支持体であることを特徴とする、請求項13〜16のいずれか一項に記載の平版印刷版の作製方法。
【請求項18】
請求項13〜17のいずれか一項に記載の平版印刷版の作製方法によって平版印刷版を作製し、該平版印刷版を用いて印刷を行う印刷方法。
【請求項19】
前記平版印刷版の作製後から印刷を開始するまでに水洗工程を含まないことを特徴とする請求項18に記載の印刷方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−227499(P2011−227499A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−79675(P2011−79675)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】