説明

平版印刷版原版及びその製版方法

【課題】レーザーによる画像記録により直接製版可能、かつ機上現像が可能であり、特に経時後の汚れ難さに優れ、さらに耐刷性が良好な平版印刷版原版を提供する。
【解決手段】支持体上に、(A)重合開始剤、(B)赤外線吸収染料、及び(C)重合性化合物を含有し、印刷インキ及び湿し水の少なくともいずれかにより除去可能な画像記録層を有する平版印刷版原版であって、前記支持体と前記画像記録層の間に設けられる下塗り層に、リン酸モノエステルを有するモノマー由来の繰り返し単位(i)、リン酸ジエステルを有するモノマー由来の繰り返し単位(ii)、及び親水性基を側鎖に有する繰り返し単位を含み、上記繰り返し単位(i)及び繰り返し単位(ii)の質量の和に対する繰り返し単位(ii)の質量比が0.03〜0.25である共重合体を含有することを特徴とする平版印刷版原版。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平版印刷版原版及びそれを用いる製版方法に関する。詳しくは、レーザーによる画像露光により直接製版可能な平版印刷版原版、及び、前記平版印刷版原版の製版方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、平版印刷版は、印刷過程でインキを受容する親油性の画像部と、湿し水を受容する親水性の非画像部とからなる。平版印刷は、水と油性インキが互いに反発する性質を利用して、平版印刷版の親油性の画像部をインキ受容部、親水性の非画像部を湿し水受容部(インキ非受容部)として、平版印刷版の表面にインキの付着性の差異を生じさせ、画像部のみにインキを着肉させた後、紙等の被印刷体にインキを転写して印刷する方法である。
この平版印刷版を作製するため、従来は、親水性の支持体上に親油性の感光性樹脂層(画像記録層)を設けてなる平版印刷版原版(PS版)を用い、PS版にリスフィルムなどのマスクを通した露光を行った後、アルカリ性現像液などによる現像処理を行い、画像部に対応する画像記録層を残存させ、非画像部に対応する不要な画像記録層を溶解除去して、平版印刷版を得ていた。
【0003】
この分野の最近の進歩によって、現在、平版印刷版は、CTP(コンピュータ・トゥ・プレート)技術によって得られるようになっている。すなわち、レーザーやレーザーダイオードを用いて、リスフィルムを介することなく、直接平版印刷版原版を走査露光し、現像して平版印刷版が得られる。
【0004】
上記進歩に伴って、平版印刷版原版に関わる課題は、CTP技術に対応した画像形成特性、印刷特性、物理特性などの改良へと変化してきている。また、地球環境への関心の高まりから、平版印刷版原版に関わるもう一つの課題として、現像処理などの湿式処理に伴う廃液に関する環境課題がクローズアップされている。
【0005】
上記の環境課題に対して、現像あるいは製版の簡易化や無処理化が指向されている。簡易な製版方法の一つとしては、「機上現像」と呼ばれる方法が行われている。すなわち、平版印刷版原版を露光後、従来の現像は行わず、そのまま印刷機に装着して、画像記録層の不要部分の除去を通常の印刷工程の初期段階で行う方法である。
【0006】
上述のような製版作業においては、作業のしやすさの点から明室又は黄色灯下で取り扱い可能な平版印刷版原版及び光源を用いるシステムが好ましいので、光源としては、波長760〜1200nmの赤外線を放射する半導体レーザー及びYAGレーザー等の固体レーザーが用いられる。
【0007】
機上現像可能な平版印刷版原版としては、例えば特許文献1には、支持体上に、赤外線吸収剤とラジカル重合開始剤と重合性化合物とを含有する画像記録層(感光層)を設けた平版印刷版原版が記載されている。
このような機上現像型の平版印刷版原版においては、従来、印刷機上の湿し水(通常はほぼ中性)による現像を可能にするため、親水性の高い表面を有する支持体を使用しており、その結果、印刷中の湿し水により画像部が支持体から剥離しやすく十分な耐刷性が得られなかった。逆に、支持体表面を疎水性にすると、印刷中に非画像部にもインキが付着するようになり、印刷汚れが発生してしまう。このように、耐刷性と耐汚れ性の両立は極めて難しく、さらなる改良が望まれている。
【0008】
上記問題に鑑み、特許文献2、3では、親水性支持体上にレーザー感受性の光重合層を有する、アルカリ現像せずに画像形成可能な平版印刷版原版であって、該光重合層又はその他の層に、(a1)エチレン性不飽和結合を少なくとも1つ有する繰り返し単位と(a2)支持体表面と相互作用する官能基を少なくとも1つ有する繰り返し単位とを有する共重合体を含有することを特徴とする平版印刷版原版が提案されており、耐刷性に優れるとともに、耐汚れ性にも優れる平版印刷版が得られるとされている。
【0009】
また、特許文献4では、支持体上に、該支持体表面と直接化学結合しうる反応性基、及び、該支持体表面と架橋構造を介して化学結合しうる反応性基のうちの少なくとも1種と、正電荷及び負電荷を有する部分構造と、を有する親水性ポリマーが前記支持体表面に化学結合してなる親水性層と、画像形成層と、をこの順で有することを特徴とする平版印刷版原版が提案されており、非画像部の親水性とその持続性に優れ、更に画像部と支持体との密着性に優れる平版印刷版が得られるとされている。
【0010】
更に特許文献5では、支持体上に、(1)ホスホン酸基及び/又はホスフェート基、並びに(2)酸基及び/又はエチレングリコール又はポリエチレングリコール側鎖を含む基を含むコポリマーである下塗り層を含んでなる平版印刷版原版が提案されている。
【0011】
しかしながら、上記特許文献2,3の平版印刷版原版では、印刷版とした場合における耐汚れ性が不十分であるとともに、製造後時間が経過した平版印刷版原版を用いると、汚れが発生する(すなわち、経時後の耐汚れ性が不十分)という不具合もあった。
また、上記特許文献3の平版印刷版原版も、経時前の耐汚れ性、及び、経時後の耐汚れ性の両方に関し、十分な結果を得ることはできなかった。更には特許文献4に記載の親水性ポリマーは、支持体表面と架橋構造を介して化学結合しうる反応性基をポリマー内に導入するために、重合反応時に非水系の溶媒を用いる必要があるなど、製造条件の制約があり、また環境負荷も大きいものであった。
また、特許文献5では、耐汚れ性が不十分である問題を有していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2002−287334号公報
【特許文献2】特開2005−125749号公報
【特許文献3】特開2006−239860号公報
【特許文献4】特開2008−213177号公報
【特許文献5】特表2008−510634号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従って、本発明の目的は、レーザーによる画像記録により直接製版可能、かつ機上現像が可能であり、印刷時の汚れ難さ、特に経時後(平版印刷版原版を作製した後から、平版印刷版原版を画像露光するまで)の汚れ難さに優れ、更には、耐刷性が良好な平版印刷版を提供できる平版印刷版原版を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
発明者等は鋭意検討の結果、一般式(a1−1)で表される繰り返し単位に対する一般式(a1−2)で表される繰り返し単位の質量比を制御することで、下塗り層と画像記録層との密着性を維持しながら、印刷時の汚れ難さ、特に経時後の汚れ難さを一段と向上させることが可能であることを見出し、本発明に至った。
本発明は以下のとおりである。
【0015】
1.支持体上に、(A)重合開始剤、(B)赤外線吸収染料、及び(C)重合性化合物を含有し、印刷インキ及び湿し水の少なくともいずれかにより除去可能な画像記録層を有する平版印刷版原版であって、前記支持体と前記画像記録層の間に設けられる下塗り層に、(D)下記一般式(a1−1)で表されるモノマーに由来の繰り返し単位、下記一般式(a1−2)で表されるモノマーに由来の繰り返し単位、及び親水性基を側鎖に有する繰り返し単位を含み、一般式(a1−1)で表されるモノマーに由来の繰り返し単位と一般式(a1−2)で表されるモノマーに由来の繰り返し単位の質量の和に対する、一般式(a1−2)で表されるモノマーに由来の繰り返し単位の質量比が0.03〜0.25である共重合体を含有することを特徴とする平版印刷版原版。
【0016】
一般式(a1−1) CH=C(R)COO(RO)P=O(OH)
一般式(a1−2) [CH=C(R)COO(RO)P=O(OH)
【0017】
ここで、Rはそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を表し、Rはそれぞれ独立に分岐してもよい炭素数2〜3のアルキレン基を表し、nはそれぞれ独立に1〜10の整数を表す。
【0018】
2.前記共重合体に含まれる親水性基を側鎖に有する繰り返し単位が、(a2)オキシアルキレン構造を側鎖に含有する繰り返し単位、及び(a3)双性イオン構造を側鎖に含有する繰り返し単位から選ばれる少なくとも一つの繰り返し単位であることを特徴とする前記1に記載の平版印刷版原版。
3.前記共重合体が、更に、(a4)エチレン性不飽和結合を側鎖に含有する繰り返し単位を含有することを特徴とする前記1又は前記2に記載の平版印刷版原版。
4.前記共重合体において、一般式(a1−1)で表されるモノマーに由来する繰り返し単位と一般式(a1−2)で表されるモノマーに由来する繰り返し単位の質量の和に対する、一般式(a1−2)で表されるモノマーに由来する繰り返し単位の質量比が、0.03以上0.10以下であることを特徴とする前記1〜3のいずれか1項に記載の平版印刷版原版。
5.前記共重合体において、一般式(a1−1)で表されるモノマーに由来する繰り返し単位、及び一般式(a1−2)で表されるモノマーに由来する繰り返し単位の質量の和が、共重合体を構成する全繰り返し単位の総質量に対する質量比で、0.01以上0.8以下であることを特徴とする前記1〜4のいずれか1項に記載の平版印刷版原版。
6.前記1〜5のいずれか1項に記載の平版印刷版原版を、画像様露光した後、印刷機上で印刷インキ及び湿し水の少なくともいずれかを供給して画像記録層未露光部を除去することを特徴とする平版印刷版の製版方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、レーザーを用いて記録することによりコンピューター等のデジタルデータから直接製版可能、特に、機上現像が可能であり、印刷時の汚れ難さ、特に経時後の汚れ難さに優れ、耐刷性が良好な平版印刷版原版及びその製版方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の平版印刷版原版は、支持体と画像記録層の間に設けられる下塗り層に、下記の特定共重合体を含有することを特徴とする。
特定共重合体は、一般式(a1−1)で表されるモノマーに由来の繰り返し単位、一般式(a1−2)で表されるモノマーに由来の繰り返し単位、及び親水性基を側鎖に有する繰り返し単位を含み、一般式(a1−1)で表されるモノマーに由来の繰り返し単位と一般式(a1−2)で表されるモノマーに由来の繰り返し単位の質量の和に対する、一般式(a1−2)で表されるモノマーに由来の繰り返し単位の質量比が0.03〜0.25である共重合体を含有することを特徴とする。
以下に、その特定共重合体並びに本発明で用いられる平版印刷版原版の要素及び成分、更に製版方法について詳細に説明する。
【0021】
〔特定共重合体〕
【0022】
一般式(a1−1)及び一般式(a1−2)のモノマー、並びにそれらに由来する繰り返し単位
【0023】
〔一般式(a1−1)及び一般式(a1−2)のモノマー〕
(a1−1) CH=C(R)COO(RO)P=O(OH)
(a1−2) [CH=C(R)COO(RO)P=O(OH)
【0024】
ここで、Rはそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を表す。より好ましくは水素原子又はメチル基である。Rはそれぞれ独立に分岐してもよい炭素数2〜3のアルキレン基を表す。より好ましくは−CHCH−である。nはそれぞれ独立に1〜10の整数を表す。より好ましくは1〜5の整数である。
【0025】
一般式(a1−1)及び一般式(a1−2)のモノマーの具体例としては下記の構造を挙げることができる。
【0026】
【化1】

【0027】
一般式(a1−1)で表されるモノマーに由来の繰り返し単位と一般式(a1−2)で表されるモノマーに由来の繰り返し単位の質量の和に対する、一般式(a1−2)で表されるモノマーに由来の繰り返し単位の質量比は、0.03〜0.25であり、0.03〜0.1の範囲がより好ましい。
すなわち、特定共重合体の合成に用いる一般式(a1−1)で表されるモノマーと一般式(a1−2)で表されるモノマーの質量の和に対する、一般式(a1−2)で表されるモノマーの質量比は、0.03〜0.25であり、0.03〜0.1の範囲がより好ましい。
当質量比が0.25より大きい場合、下塗り層中の特定共重合体の暗重合を招きやすく、経時後の汚れ難さに劣る。一方、当質量比が0.03未満では画像記録層との密着性が低下し耐刷性が低下する。
一般式(a1−1)で表されるモノマー及び一般式(a1−2)で表されるモノマーは、重合することにより、下記の(a1−1’)、(a1−2’)、及び(a1−2’’)の繰り返し単位を生成する。当質量比が0.25より大きい場合、(a1−2’’)の繰り返し単位が多く生成するために暗重合を招きやすくなると推定される。
【0028】
【化2】

【0029】
ここで、上式中のR11、R12及びnは、それぞれ一般式(a1−1)及び(a1−2)におけるR、R及びnと同義である。
すなわち、R11は水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を表す。より好ましくは水素原子又はメチル基である。R12は分岐してもよい炭素数2〜3のアルキレン基を表す。より好ましくは−CHCH−である。nは1〜10の整数を表す。より好ましくは1〜5の整数である。
【0030】
また、一般式(a1−1)で表されるモノマーに由来の繰り返し単位、及び一般式(a1−2)で表されるモノマーに由来の繰り返し単位の質量の和が、特定共重合体を構成する全繰り返し単位の総質量に対する質量比で0.01以上0.8以下であることが好ましい。質量比がこの範囲内で、支持体と画像記録層の密着性が得られ、十分な耐刷性が可能になる。また、親水性成分を十分含有させることができ、印刷途中での汚れ発生を防止しやすくなる。
【0031】
(上記質量比をコントロールする方法)
特定共重合体中の一般式(a1−1)で表されるモノマーに由来の繰り返し単位と一般式(a1−2)で表されるモノマーに由来の繰り返し単位の質量の和に対する、一般式(a1−2)で表されるモノマーに由来の繰り返し単位の質量比のコントロールは、特定共重合体の合成時(重合時)に、一般式(a1−1)で表されるモノマーと一般式(a1−2)で表されるモノマーの比率をコントロールすることにより行うことができる。
【0032】
リン酸モノエステル及び/又はリン酸ジエステルを主成分とするリン酸エステルは、重合触媒、界面活性剤、金属結合溶剤、繊維の帯電防止剤等様々な分野で用いられている。
リン酸エステルは、一般に、リン酸とアルコールとのエステル化反応、例えば、五酸化二リンとアルコールとの反応により合成されるが、リン酸モノエステル及びリン酸ジエステルを選択的に合成することは困難である。このため、高純度のリン酸モノエステル又はリン酸ジエステルを得るためには、これらの分離を行う必要がある。
【0033】
特開平10−182673号公報には、リン酸モノエステルとリン酸ジエステルを主成分とする酸性リン酸エステル混合物と、水、非水溶性有機溶媒及び塩基性化合物を混合処理して、酸性リン酸エステル混合物を水層に抽出した後水層を分液し、次いで該水層に酸及び非水溶性有機溶媒を、又は酸、非水溶性有機溶媒及び無機塩をその量を制御しながら混合して、リン酸エステルとリン酸ジエステルの組成比が制御された酸性リン酸エステル混合物を非水溶性有機溶媒層に抽出することを特徴とする酸性リン酸エステルの製造方法が記載されている。
特開2003−146992号公報には、不飽和基含有リン酸エステルモノマーの製造方法が記載されている。
特開2008−13670号公報には、特定のリン酸モノエステルと特定のリン酸ジエステルとを含有する重合性リン酸エステル組成物が記載されている。
【0034】
本発明では、リン酸モノエステルとリン酸ジエステルとを主成分とするリン酸エステル混合物を中性の水及び非ハロゲン系有機溶剤と混合し、リン酸モノエステルを水層に抽出する抽出工程、並びに前記水層と有機層とを分離する分離工程、からなる精製方法によりリン酸エステルとリン酸ジエステルの比率を調整することができる。
【0035】
(リン酸エステルの精製方法)
本発明のリン酸エステルの精製方法は、リン酸モノエステルとリン酸ジエステルとを主成分とするリン酸エステル混合物を、中性の水及び非ハロゲン系有機溶剤と混合し、リン酸モノエステルを水相(「水層」ともいう。)に抽出する抽出工程、並びに、前記水相と有機相(「有機層」ともいう。)とを分離する分離工程、を含むことを特徴とする。
本発明のリン酸エステルの精製方法は、リン酸モノエステルとリン酸ジエステルとを主成分とするリン酸エステル混合物を、中性の水及び非ハロゲン系有機溶剤を使用して、液液分離を行うことにより、水相側にリン酸モノエステル抽出し、分離して精製する方法である。
【0036】
<抽出工程>
本発明のリン酸エステルの精製方法は、リン酸モノエステルとリン酸ジエステルとを主成分とするリン酸エステル混合物を、中性の水及び非ハロゲン系有機溶剤と混合し、リン酸モノエステルを水相に抽出する抽出工程を含む。
前記リン酸エステル混合物におけるリン酸モノエステルとリン酸ジエステルとの含有比は、特に制限はなく、任意の割合であればよい。前記リン酸エステル混合物中には、リン酸モノエステルを1種又は2種以上含有していてもよく、また、リン酸ジエステルを1種又は2種以上含有していてもよい。更に、前記リン酸エステル混合物中には、リン酸モノエステル及びリン酸ジエステル以外の化合物(不純物)を含有していてもよい。
前記リン酸エステル混合物は、リン酸モノエステルとリン酸ジエステルとが主成分である、すなわち、前記リン酸エステル混合物の全質量に対し、リン酸モノエステル及びリン酸ジエステルの合計量が50質量%以上である。
【0037】
前記抽出工程に用いることができる中性の水としては、pHが中性(pH6〜8)であれば、特に制限はないが、pHが6.5〜7.5の水であることが好ましく、塩を含まない水であることがより好ましい。本発明のリン酸エステルの精製方法は、酸性及び/又はアルカリ性に水相を変化させずとも、分離が可能であり、また、中性の水を使用することによって、使用するリン酸エステルがあまり安定な(特に酸性又はアルカリ性に安定な)化合物でなくとも、収率及び精製効率よく分離することができる。
前記抽出工程に用いることができる中性の水として、具体的には、水道水、井戸水、イオン交換水、蒸留水、及び、純水が挙げられるが、塩を含まない水であることが好ましく、イオン交換水、蒸留水、及び、純水がより好ましい。
上記「塩」とは、陽イオン及び陰イオンとがイオン結合した化合物のことであり、無機塩及び有機塩が含まれる。
なお、前記抽出工程において、リン酸エステル混合物と混合した後は、リン酸モノエステルやリン酸ジエステルなどによりpHが変動することは、言うまでもない。
【0038】
前記抽出工程に用いることができる非ハロゲン系有機溶剤としては、ハロゲン原子を有さず、かつ、水に対して非相溶である有機溶剤、すなわち、水と適当な割合で混合した場合に水相と有機相とを形成することができる溶剤であれば、特に制限はない。
前記非ハロゲン系有機溶剤としては、カルボン酸エステル類、エーテル類、ケトン類、及び、グリコールエーテル類が好ましく挙げられ、グリコールエーテル類がより好ましく挙げられる。
カルボン酸エステル類としては、酢酸エチル、酢酸n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸n−アミル、酢酸イソアミル、酢酸n−ヘキシル、酢酸2−エチルヘキシル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸n−プロピル、プロピオン酸イソプロピル、プロピオン酸n−ブチル、プロピオン酸イソブチル、メトキシ酢酸エチル、エトキシ酢酸エチル、3−メトキシプロピオン酸メチル、3−メトキシプロピオン酸エチル、3−エトキシプロピオン酸メチル、3−エトキシプロピオン酸エチル、酢酸3−メトキシブチル、酢酸3−メチル−3−メトキシブチル、プロピオン酸3−メチル−3−メトキシブチル、ブタン酸3−メチル−3−メトキシブチル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、ピルビン酸メチル、及び、ピルビン酸エチル等が例示できる。
エーテル類としては、メチルt−ブチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、エチルイソアミルエーテル、ジイソアミルエーテル、及び、ジブチルエーテルが例示できる。
ケトン類としては、メチルn−プロピルケトン、メチルn−ブチルケトン、メチルイソブチルケトン、2−ヘプタノン、3−ヘプタノン、及び、4−ヘプタノン等が例示できる。
【0039】
グリコールエーテル類としては、エチレングリコールジアルキルエーテル類、プロピレングリコールジアルキルエーテル類、ジエチレングリコールジアルキルエーテル類、ジプロピレングリコールジアルキルエーテル類、エチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類、プロピレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類、ジエチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類、及び、ジプロピレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類が好ましく例示でき、エチレングリコールジアルキルエーテル類がより好ましく例示できる。
また、グリコールエーテル類としては、ブチル基やブチレン基等の炭素数4以上の炭化水素鎖を有する化合物であることが好ましく、炭素数4〜8の炭化水素鎖を有する化合物であることがより好ましく、ブチル基及び/又はブチレン基を有する化合物であることが更に好ましい。上記化合物であると、溶剤としての極性が適度であり、精製度により優れる。
【0040】
グリコールエーテル類としては、具体的には、エチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジプロピレングリコールジブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノブチルエーテルアセテートが好ましく例示でき、エチレングリコールジブチルエーテルを特に好ましく例示できる。上記溶剤であると、水溶解能が適度であり、分離性及び収率に優れる。
【0041】
また、本発明に用いることができる非ハロゲン系有機溶剤としては、水溶解能が1〜10である溶剤が好ましく挙げられる。
本発明における「水溶解能」とは、25℃において、非ハロゲン系有機溶剤100gに溶解可能な水の量(単位:g)を表す。
例えば、酢酸エチルの水溶解能は2.94であり、ジエチレングリコールジブチルエーテルの水溶解能は1.4であり、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテートの水溶解能は1.6であり、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートの水溶解能は3.7であり、酢酸プロピルの水溶解能は2.9であり、酢酸イソプロピルの水溶解能は1.9である。
【0042】
これらの有機溶剤の中でも、前記非ハロゲン系有機溶剤は、酢酸エチル、メチルt−ブチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、酢酸3−メトキシブチル、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジイソプロピルエーテル、及び、メチルイソブチルケトンよりなる群から選ばれた少なくとも1種の有機溶剤であることが好ましく、ジエチレングリコールジブチルエーテルであることが特に好ましい。
前記非ハロゲン系有機溶剤は、1種単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
また、本発明に用いることができる非ハロゲン系有機溶剤は、新版 溶剤ポケットブック(有機合成化学協会編、1994年発行)等も参照することができる。
【0043】
前記抽出工程における中性の水と非ハロゲン系有機溶剤との使用比は、水相及び有機相を形成可能であれば、特に制限はないが、質量比で、水:溶剤=5:1〜1:5であることが好ましく、2:1〜1:2であることがより好ましく、1.2:1〜1:1.2であることが更に好ましい。中性の水と非ハロゲン系有機溶剤との使用比が、質量比で1:1に近い方がより分離性及び収率のバランスに優れる。
前記抽出工程において、中性の水及び非ハロゲン系有機溶剤と、リン酸エステル混合物との使用比は、特に制限はないが、質量比で、水及び溶剤:混合物=10:1〜1:1であることが好ましく、7:1〜1:1であることがより好ましい。使用するリン酸モノエステル及びリン酸ジエステルの水や溶剤への溶解度にも依存するが、本発明のリン酸エステルの精製方法であると、少ない水及び溶剤により多くのリン酸エステル混合物を分離することができる。
【0044】
前記抽出工程に用いることができる混合方法や抽出方法は、特に制限はなく、公知の方法を用いることができる。
抽出方法としては、液液抽出を行うことができる方法であればよく、分液漏斗を使用する方法等が好適に例示できる。
また、前記抽出工程において、リン酸エステル混合物と、中性の水及び非ハロゲン系有機溶剤と混合は、任意の方法で行えばよく、例えば、上記分液漏斗中で混合しても、別途、撹拌器等の混合手段を使用して混合してもよい。
前記抽出工程における抽出時の液温は、特に制限はなく、室温(例えば、10℃〜30℃)で抽出を好適に行うことができる。また、必要に応じて、リン酸エステル混合物や、中性の水、非ハロゲン系有機溶剤、これらの混合液に対し、加熱や冷却を行ってもよい。
また、前記抽出工程における混合時間や撹拌速度は、リン酸エステル混合物と、中性の水及び非ハロゲン系有機溶剤と十分に混合できる時間及び撹拌速度であれば、特に制限はない。
【0045】
<分離工程>
本発明のリン酸エステルの精製方法は、前記水相と有機相とを分離する分離工程を含む。
前記分離工程では、前記抽出工程において得られたリン酸モノエステルを含有する水相と、主成分として非ハロゲン系有機溶剤からなる有機相との分離を行うが、分離手段としては、特に制限はなく、公知の手段を用いることができるが、分離方法としては、特に制限はなく、公知の分離方法を用いることができる。
分離方法としては、分液漏斗により水相と有機相と分離する方法や、有機相を吸引又はデカンテーション等により除去する方法が例示できる。
前記分離工程において、前記水相と有機相とを分離する際、水相と有機相との界面が明確であることが好ましい。また、水相と有機相との界面を安定させ、明確な界面を形成させるため、リン酸エステル混合物と、中性の水及び非ハロゲン系有機溶剤とを混合した液を静置することが好ましい。静置時間としては、特に制限はないが、30秒〜1時間が例示できる。
前記分離工程における分離時の液温は、特に制限はないが、好ましい液温は、前記抽出工程の抽出時における好ましい液温と同様である。
【0046】
本発明のリン酸エステルの精製方法は、前記抽出工程及び前記分離工程を1回のみ行っても、2回以上繰り返して行ってもよいが、前記抽出工程及び前記分離工程を2回以上行うことが好ましく、2〜5回行うことがより好ましい。複数回、前記抽出工程及び前記分離工程を行うことにより、容易に分離能を向上させることができる。
【0047】
本発明のリン酸エステルの精製方法において、分離して得られた水相には、リン酸モノエステルが多く抽出され、また、分離して得られた有機相には、リン酸ジエステルが多く抽出される。
前記分離工程において得られた水相中のリン酸ジエステルの含有量は、リン酸モノエステルの含有量に対して、25モル%以下であることが好ましく、10モル%以下であることがより好ましく、6モル%以下であることが更に好ましい。
特に、本発明のリン酸エステルの精製方法により得られたエチレン性不飽和基を有するリン酸モノエステルを含有する水相は、エチレン性不飽和基を有するリン酸モノエステル含有水溶液として、ポリマー合成の原料にそのまま好適に使用できる。
また、本発明のリン酸エステルの精製方法において得られたリン酸モノエステル、又は、リン酸ジエステルは、所望に応じ、公知の方法により、単離を行ってもよく、また、別の精製方法により精製を行ってもよい。
【0048】
(ポリマーの製造方法)
本発明のポリマーの製造方法は、本発明のリン酸エステルの精製方法により得られた一般式(a1-1)で表される繰り返し単位と一般式(a1-2)で表される繰り返し単位を共重合により導入する重合工程を含むことを特徴とする。
【0049】
前記重合工程では、重合開始剤を使用して重合又は共重合を行うことが好ましい。
本発明に用いることができる重合開始剤としては、公知のものを制限なく使用できる。具体的には、例えば、アゾ化合物、無機過酸化物、有機過酸化物、アジド化合物、メタロセン化合物、ヘキサアリールビイミダゾール化合物、有機ホウ素化合物、ジスルホン化合物、オキシムエステル化合物、オニウム塩化合物、鉄アレーン錯体、トリハロメチル化合物、カルボニル化合物が挙げられる。また、重合開始剤としては、ラジカル重合開始剤が好ましい。
中でも、水相での重合反応に使用することが可能な水溶性の重合開始剤が好ましく、水溶性アゾ化合物、水溶性無機過酸化物、水溶性有機過酸化物がより好ましく、水溶性アゾ化合物が特に好ましい。
重合開始剤は、1種単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0050】
前記重合工程における重合開始剤の使用量は、重合可能であれば特に制限はないが、重合性化合物の全量を100モル%とした場合、0.001〜20モル%であることが好ましく、0.01〜10モル%であることがより好ましく、0.05〜5モル%であることが更に好ましい。
【0051】
前記重合工程における重合は、水系媒体中で行っても、有機溶剤中で行っても、無溶媒で行ってもよいが、水系媒体中で行うことが好ましい。水系媒体中で行うことにより、本発明のリン酸エステルの精製方法により得られたエチレン性不飽和基を有するリン酸モノエステルを含有する水相を容易に利用することができる。
前記重合工程に用いることができる水系媒体としては、水やアルコール類などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
また、水系媒体には、水混和性の有機溶剤を含んでいてもよい。水混和性の有機溶剤としては、例えば、アセトンや酢酸等が挙げられ、また、前述した非ハロゲン系有機溶剤を含んでいてもよい。
【0052】
前記重合工程における反応温度や反応時間は、特に制限はなく、使用するエチレン性不飽和化合物や、媒体、重合方法、反応の進行状況、所望のポリマーの物性値等を考慮し、適宜選択すればよい。
前記重合工程における重合方法としては、特に制限はないが、水系媒体中にエチレン性不飽和基を有するリン酸モノエステル含有溶液と重合開始剤溶液とを徐々に滴下する方法が好ましく例示できる。
また、本発明のポリマーの製造方法により得られたポリマーは、必要に応じ、単離や精製を行ってもよいし、例えば、平版印刷版用版面処理剤の材料としてそのまま使用してもよい。
前記ポリマーにおけるエチレン性不飽和基を有するリン酸モノエステル由来の繰り返し単位におけるリン酸基は、塩を形成したリン酸塩基であってもよい。塩を形成する対カチオンとしては、一価のカチオンであっても、二価以上のカチオンであってもよく、公知の金属カチオン及び有機カチオンが挙げられる。
【0053】
親水性基を側鎖に有する繰り返し単位
本発明において親水性基とは、スルホン酸基(−SO3H)及びその塩(−SO3M(ただし、Mはプロトン(H+)以外の対カチオンを表す。))、カルボン酸基(−COOH)及びその塩(−COOM(ただし、Mはプロトン(H+)以外の対カチオンを表す。))、アミド基(−CONR−(ただし、Rは水素原子又は有機基を表す。))、オキシアルキレン構造、並びに双性イオン構造よりなる群から選ばれた少なくとも1つの基又は構造を意味する。スルホン酸基及びその塩、オキシアルキレン構造、並びに双性イオン構造を有する基又は構造が好ましく、オキシアルキレン構造、及び双性イオン構造を有する繰り返し単位がより好ましい。
スルホン酸基及びその塩の好ましい例としては、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸又はスルホン酸のナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩を挙げることができる。
【0054】
以下に、より好ましいオキシアルキレン構造、及び双性イオン構造を有する繰り返し単位について記載する。
【0055】
(a2)オキシアルキレン構造を有する繰り返し単位について
本発明の特定共重合体が有することが好ましい(a2) オキシアルキレン構造を側鎖に有する繰り返し単位におけるオキシアルキレン構造は、下記一般式(a2−1)で表される構造であることが好ましい。
【0056】
【化3】

【0057】
〔一般式(a2−1)中、R21は、水素原子又はアルキル基を表す。R22は、水素原子、アルキル基、又はアリール基を表す。aは、1〜5の整数を表す。lは、2〜150の整数を表す。Yは、単結合、又は、−CO−、−O−、−NH−、二価の脂肪族基、二価の芳香族基及びそれらの組み合わせからなる群より選ばれる二価の連結基を表す。*は共重合体の主鎖と連結する部位を表す。〕
【0058】
一般式(a2−1)中、R21及びR22で表されるアルキル基の例としては、それぞれ独立に、メチル基、エチル基、プロピル基、オクチル基、イソプロピル基、t−ブチル基、イソペンチル基、2−エチルヘキシル基、2−メチルヘキシル基、シクロペンチル基等が挙げられる。
22で表されるアリール基の例としては、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基などが挙げられる。
21としては水素原子が最も好ましく、R22としては水素原子及びメチル基が好ましく、メチル基がより好ましい。aは、汚れ性の観点から、好ましくは1又は2を表し、最も好ましくは1を表す。
lは、2〜150の整数を表し、汚れ性の観点から、好ましくは9〜150、より好ましくは、9〜100、更に好ましくは20〜100である。
【0059】
は、単結合、又は、−CO−、−O−、−NH−、二価の脂肪族基、二価の芳香族基及びそれらの組み合わせからなる群より選ばれる二価の連結基を表す。
【0060】
上記の組み合わせからなるYの具体例を以下に挙げる。なお、下記例において左側が主鎖に結合する。
L1:−CO−O−二価の脂肪族基−
L2:−CO−O−二価の芳香族基−
L3:−CO−NH−二価の脂肪族基−
L4:−CO−NH−二価の芳香族基−
L5:−CO−二価の脂肪族基−
L6:−CO−二価の芳香族基−
L7:−CO−二価の脂肪族基−CO−O−二価の脂肪族基−
L8:−CO−二価の脂肪族基−O−CO−二価の脂肪族基−
L9:−CO−二価の芳香族基−CO−O−二価の脂肪族基−
L10:−CO−二価の芳香族基−O−CO−二価の脂肪族基−
L11:−CO−二価の脂肪族基−CO−O−二価の芳香族基−
L12:−CO−二価の脂肪族基−O−CO−二価の芳香族基−
L13:−CO−二価の芳香族基−CO−O−二価の芳香族基−
L14:−CO−二価の芳香族基−O−CO−二価の芳香族基−
L15:−CO−O−二価の芳香族基−O−CO−NH−二価の脂肪族基−
L16:−CO−O−二価の脂肪族基−O−CO−NH−二価の脂肪族基−
L17:−CO−O−
【0061】
ここで二価の脂肪族基とは、アルキレン基、置換アルキレン基、アルケニレン基、置換アルケニレン基、アルキニレン基、置換アルキニレン基又はポリアルキレンオキシ基を意味する。なかでもアルキレン基、置換アルキレン基、アルケニレン基、及び置換アルケニレン基が好ましく、アルキレン基及び置換アルキレン基が更に好ましい。
二価の脂肪族基は、環状構造よりも鎖状構造の方が好ましく、更に分岐を有する鎖状構造よりも直鎖状構造の方が好ましい。二価の脂肪族基の炭素原子数は、1乃至20であることが好ましく、1乃至15であることがより好ましく、1乃至12であることが更に好ましく、1乃至10であることが更にまた好ましく、1乃至8であることが最も好ましい。
二価の脂肪族基の置換基の例としては、ハロゲン原子(F、Cl、Br、I)、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基、シアノ基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アリールアミノ基及びジアリールアミノ基等が挙げられる。
【0062】
上記の二価の芳香族基とは、置換基を有してもよいアリーレン基を意味する。具体的には、置換又は無置換の、フェニレン基、ナフタレン基、アンスリレン基などが挙げられる。なかでもフェニレン基が好ましい。
二価の芳香族基の置換基の例としては、上記二価の脂肪族基の置換基の例に加えて、アルキル基が挙げられる。
【0063】
として好ましくは、L17で表される連結基であることが最も好ましい。Y、R21、R22の最も好ましい組み合わせは、YがL17であり、R21が水素原子であり、R22がメチル基である。
オキシアルキレン構造としては、下記の具体例を挙げることができる。具体例中、小数を含むn値は、オキシアルキレン繰り返し数の異なる混合物における繰り返し数の平均値を示す。
【0064】
【化4】

【0065】
本発明において、ポリオキシアルキレン構造を有する繰り返し単位は、具体的には下記(A2)で表されることが好ましい。
【0066】
【化5】

【0067】
上式中、R201〜R203はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、又はハロゲン原子を表す。Jは上述した一般式(a2−1)で表される構造であり、好ましい態様も一般式(a2−1)の態様と同じである。具体的には下記の構造を挙げることができる。
【0068】
【化6】


【0069】
本発明における特定共重合体中の(a2)オキシアルキレン構造を側鎖に有する繰り返し単位の割合は、機上現像性及び汚れ性の観点から、特定共重合体を構成する全繰り返し単位に対して、5〜95質量%の範囲であることが好ましく、20〜80質量%の範囲であることがより好ましく、20〜60質量%の範囲であることが最も好ましい。
【0070】
(a3)双性イオン構造を側鎖に有する繰り返し単位について
本発明の特定共重合体が、非画像部の支持体表面を高親水性にするために有することが好ましい(a3)双性イオン構造を側鎖に有する繰り返し単位における双性イオン構造を有する側鎖は、下記一般式(a3−1)又は(a3−2)で表されることが好ましい。
【0071】
【化7】

【0072】
〔上記一般式(a3−1)中、R31及びR32は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、又はヘテロ環基を表し、R31とR32は互いに連結し、環構造を形成してもよく、L31は、連結基を表し、Aは、アニオンを有する構造を表す。Yは、共重合体の主鎖と連結する2価の連結基を表す。*は共重合体の主鎖と連結する部位を表す。〕
【0073】
上記R31及びR32が互いに連結して形成する環構造は、酸素原子などのヘテロ原子を有していてもよく、好ましくは5〜10員環、より好ましくは5又は6員環である。
31及びR32の炭素数は、後述の有していてもよい置換基の炭素数を含めて、炭素数1〜30が好ましく、炭素数1〜20がより好ましく、炭素数1〜15が特に好ましく、炭素数1〜8が最も好ましい。
【0074】
31及びR32で表されるアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、オクチル基、イソプロピル基、t−ブチル基、イソペンチル基、2−エチルヘキシル基、2−メチルヘキシル基、シクロペンチル基等が挙げられる。
31及びR32で表されるアルケニル基の例としては、ビニル基、アリル基、プレニル基(例えば、ジメチルアリル基、ゲラニル基など)、オレイル基等が挙げられる。
31及びR32で表されるアルキニル基の例としては、エチニル基、プロパルギル基、トリメチルシリルエチニル基等が挙げられる。
また、R31及びR32で表されるアリール基の例としては、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基などが挙げられる。更に、ヘテロ環基としては、フラニル基、チオフェニル基、ピリジニル基などが挙げられる。
【0075】
これらの基は更に置換基を有していてもよい。置換基の例としては、ハロゲン原子(F、Cl、Br、I)、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基、シアノ基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、モノアリールアミノ基及びジアリールアミノ基等が挙げられる。
【0076】
31、R32として、効果及び入手容易性の観点から、特に好ましい例としては、水素原子、メチル基、又はエチル基を挙げることができる。
【0077】
で表される二価の連結基としては、単結合、又は、−CO−、−O−、−NH−、二価の脂肪族基、二価の芳香族基及びそれらの組み合わせからなる群より選ばれる二価の連結基を表す。
【0078】
上記の組み合わせからなるYの具体例としてはYのL1〜L17と同じものが挙げられる。
【0079】
なかでもYとしては、単結合、−CO−、二価の脂肪族基、二価の芳香族基、前記L1〜L4が好ましい。更に耐汚れ性の観点から、Yは、前記L1又はL3であることがより好ましく、L3であることが更に好ましい。更にL3の二価の脂肪族基が、炭素数2〜4の直鎖アルキレン基であることが好ましく、合成上、炭素数3の直鎖アルキレン基であることが最も好ましい。
【0080】
31は連結基を表し、好ましくは、−CO−、−O−、−NH−、二価の脂肪族基、二価の芳香族基及びそれらの組み合わせからなる連結基であり、好ましくは、後述の有してもよい置換基の炭素数を含めて、炭素数30以下である。例えば、アルキレン基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜10)、及び、フェニレン基、キシリレン基などのアリーレン基(好ましくは炭素数5〜15、より好ましくは炭素数6〜10)が挙げられる。具体例としては、以下の連結基が挙げられる。
【0081】
【化8】

【0082】
上記の中でも耐汚れ性の観点から、L31は、炭素数3〜5の直鎖アルキレン基が好ましく、更に炭素数4若しくは5の直鎖アルキレン基が好ましく、炭素数4の直鎖アルキレン基が最も好ましい。
【0083】
なお、これらの連結基は、置換基を更に有していてもよい。
置換基の例としては、ハロゲン原子(F、Cl、Br、I)、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基、シアノ基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、モノアリールアミノ基及びジアリールアミノ基等が挙げられる。
【0084】
前記一般式(a3−1)において、Aは、好ましくは、カルボキシラート、スルホナート、ホスホナート、又はホスフィナートを表す。
具体的には、以下の陰イオンが挙げられる。
【0085】
【化9】

【0086】
耐汚れ性の観点から、Aはスルホナートであることが最も好ましい。更に、式(a3−1)において、L31が炭素数4若しくは5の直鎖アルキレン基であり、かつAがスルホナートの組み合わせが好ましく、L31が炭素数4の直鎖アルキレン基であり、かつAがスルホナートの組み合わせが最も好ましい。
【0087】
は前記L1又はL3であり、R31及びR32がエチル基又はメチル基であり、L31が炭素数4若しくは5の直鎖アルキレン基であり、Aがスルホナート基である組み合わせが好ましい。
更にYは前記L3であり、R31、R32がメチル基であり、L31が炭素数4の直鎖アルキレン基であり、かつAがスルホナートの組み合わせがより好ましい。
具体的には下記構造式が好ましい。
【0088】
【化10】

【0089】
また、前記一般式(a3−2)において、L32は連結基を表し、好ましくは、−CO−、−O−、−NH−、二価の脂肪族基、二価の芳香族基及びそれらの組み合わせからなる群より選ばれる。その具体的な例及び好ましい例については、前述のL31で表される連結基と同様である。
は、前記一般式(a3−1)のYと同義であり、好ましい例も同じである。
は、カチオンを有する構造を表し、好ましくはアンモニウム、ホスホニウム、ヨードニウム、又はスルホニウムを有する構造を表す。より好ましくは、アンモニウム又はホスホニウムを有する構造であり、特に好ましくはアンモニウムを有する構造である。カチオンを有する構造の例としては、トリメチルアンモニオ基、トリエチルアンモニオ基、トリブチルアンモニオ基、ベンジルジメチルアンモニオ基、ジエチルヘキシルアンモニオ基、(2−ヒドロキシエチル)ジメチルアンモニオ基、ピリジニオ基、N−メチルイミダゾリオ基、N−アクリジニオ基、トリメチルホスホニオ基、トリエチルホスホニオ基、トリフェニルホスホニオ基などが挙げられる。
32,Y、Eの最も好ましい組み合わせは、L32が炭素数2〜4のアルキレン基であり、Yは、前記L1、L3であり、Eは、トリメチルアンモニオ基又はトリエチルアンモニオ基、である。
具体的には、下記の構造を挙げることができる。
【0090】
【化11】

【0091】
本発明において、双性イオン構造を有する繰り返し単位は、具体的には下記(A3)で表されることが好ましい。
【0092】
【化12】

【0093】
式中、R301〜R303はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、又はハロゲン原子を表す。Gは、双性イオン構造を有する側鎖を表し、好ましくは、前記一般式(a3−1)又は(a3−2)で表される構造である。一般式(a3−1)及び(a3−2)の好ましい例、及び組み合わせは、上述したものと同じである。
【0094】
(A3)において特に好ましい側鎖Gは、一般式(a3−1)で表される構造である。具体的には下記の構造を挙げることができる。
【0095】
【化13】

【0096】
本発明における特定共重合体中の(A3)双性イオン構造を有する繰り返し単位の割合は、耐汚れ性の観点から、特定共重合体を構成する全繰り返し単位に対して、5.0〜95質量%の範囲であることが好ましく、5〜80質量%の範囲であることがより好ましく、10.0〜60質量%の範囲であることが更に好ましく、更に耐刷性を考慮すると、10.0〜45質量%が特に好ましい。
【0097】
(a4) ラジカル重合性反応性基を側鎖に有する繰り返し単位
本発明における特定共重合体は、耐刷性の向上の観点から、(a4)ラジカル重合性反応性基を側鎖に有する繰り返し単位を有することが好ましい。ここで、ラジカル重合性反応性基として好ましい例としては、付加重合可能な不飽和結合基(例えば、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリルアミド基、アリル基、ビニル基、ビニルオキシ基、アルキニル基等)、連鎖移動が可能な官能基(メルカプト基等)が挙げられる。中でも、耐刷性の点から、付加重合可能な不飽和結合基であることが好ましく、メタクリル基を有することが最も好ましい。なお、ここで(メタ)アクリル基とは、アクリル基又はメタクリル基を表す。
【0098】
ラジカル重合性反応性基は、(a)ポリマー側鎖のヒドロキシ基と、ラジカル重合反応性基を有するイソシアネート類を用いたウレタン化反応、(b)ポリマー側鎖のヒドロキシ基と、ラジカル重合反応性基を有するカルボン酸、カルボン酸ハライド、スルホン酸ハライド、又はカルボン酸無水物を用いたエステル化反応、(c)ポリマー側鎖のカルボキシ基又はその塩と、ラジカル重合反応性基を有するイソシアネート類を用いた反応、(d)ポリマー側鎖のハロゲン化カルボニル基、カルボキシ基又はその塩と、ラジカル重合反応性基を有するアルコール類を用いたエステル化反応、(e)ポリマー側鎖のハロゲン化カルボニル基、カルボキシ基又はその塩と、ラジカル重合反応性基を有するアミン類を用いたアミド化反応、(f)ポリマー側鎖のアミノ基と、ラジカル重合反応性基を有するカルボン酸、カルボン酸ハロゲン化物、スルホン酸ハロゲン化物、又はカルボン酸無水物を用いたアミド化反応、(g)ポリマー側鎖のエポキシ基と、ラジカル重合反応性基を有する各種求核性化合物との開環反応、(h)ポリマー側鎖のハロアルキル基と、ラジカル重合反応性基を有するアルコール類とのエーテル化反応、により導入することができる。
【0099】
ラジカル重合性反応性基を有する側鎖としては、下記一般式(a4−1)で表される構造が好ましい。
【0100】
【化14】

【0101】
一般式(a4−1)中、R41〜R43は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アリール基を表す。一般式(a4−1)中、Yは、単結合、又は、−CO−、−O−、−NH−、二価の脂肪族基、二価の芳香族基及びそれらの組み合わせからなる群より選ばれる二価の連結基を表す。組み合わせからなるYの具体例を以下に挙げる。なお、下記例において左側が主鎖に結合し、右側がエチレン性不飽和結合に結合する。
【0102】
L19:−CO−NH−二価の脂肪族基−O−CO−
L20:−CO−二価の脂肪族基−O−CO−
L23:−CO−O−二価の脂肪族基−O−CO−
L24:−二価の脂肪族基−O−CO−
L25:−CO−NH−二価の芳香族基−O−CO−
L26:−CO−二価の芳香族基−O−CO−
L27:−二価の芳香族基−O−CO−
L28:−CO−O−二価の脂肪族基−CO−O−二価の脂肪族基−O−CO−
L29:−CO−O−二価の脂肪族基−O−CO−二価の脂肪族基−O−CO−
L30:−CO−O−二価の芳香族基−CO−O−二価の脂肪族基−O−CO−
L31:−CO−O−二価の芳香族基−O−CO−二価の脂肪族基−O−CO−
L32:−CO−O−二価の脂肪族基−CO−O−二価の芳香族基−O−CO−
L33:−CO−O−二価の脂肪族基−O−CO−二価の芳香族基−O−CO−
L34:−CO−O−二価の芳香族基−CO−O−二価の芳香族基−O−CO−
L35:−CO−O−二価の芳香族基−O−CO−二価の芳香族基−O−CO−
L36:−CO−O−二価の芳香族基−O−CO−NH−二価の脂肪族基−O−CO−
L37:−CO−O−二価の脂肪族基−O−CO−NH−二価の脂肪族基−O−CO−
L38:−CO−NH−二価の脂肪族基−O−CO−NH−二価の脂肪族基−O−CO−
上記の二価の脂肪族基、及び二価の芳香族基は前述したものと同じである。
【0103】
なかでもY4として好ましいのは、L19、L23、L37、L38である。より好ましくは、L19とL37である。
一般式(a4-1)で表される構造としては、具体的には、下記の構造を挙げることができる。
【0104】
【化15】

【0105】
ラジカル重合性反応性基を少なくとも一つ有する繰り返し単位(a4)は、下記一般式(A4)で表される繰り返し単位が好ましい。
【0106】
【化16】

【0107】
一般式(A4)において、R401〜R403はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、又はハロゲン原子を表す。Tはラジカル重合性反応基を有する側鎖の構造を表し、好ましくは、前記一般式(a4−1)で表される構造であり、好ましい態様も一般式(a4−1)の態様と同じである。具体的には下記の構造を挙げることができる。
【0108】
【化17】

【0109】
特定共重合体において、このような(a4)ラジカル重合性反応性基を側鎖に有する繰り返し単位は、特定共重合体の単位質量あたり1〜50質量%含まれることが好ましく、1〜30質量%含まれることがより好ましく、1〜20質量%含まれることが最も好ましい。
【0110】
本発明における特定共重合体は、既知の方法によっても合成可能であるが、その合成には、ラジカル重合法が好ましく用いられる。一般的なラジカル重合法は、例えば、新高分子実験学3(高分子学会編、共立出版、1996年3月28日発行)、高分子の合成と反応1(高分子学会編、共立出版、1992年5月発行)、新実験化学講座19、高分子化学(I)(日本化学会編、丸善、昭和55年11月20日発行)、物質工学講座高分子合成化学(東京電気大学出版局、1995年9月発行)等に記載されており、これらを適用することができる。
【0111】
また、特定共重合体は、上述の繰り返し単位以外の他の繰り返し単位を有する共重合体であってもよい。特定共重合体に共重合させることができるモノマーとしては、例えば、アクリル酸エステル類、メタクリル酸エステル類、N,N−2置換アクリルアミド類、N,N−2置換メタクリルアミド類、スチレン類、アクリロニトリル類、メタクリロニトリル類などから選ばれるモノマーが挙げられる。
【0112】
具体的には、アクリル酸エステル類としては、アルキルアクリレート(該アルキル基の炭素原子数は1〜20のものが好ましく、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸アミル、アクリル酸エチルヘキシル、アクリル酸オクチル、アクリル酸−t−オクチル、クロルエチルアクリレート、2,2−ジメチルヒドロキシプロピルアクリレート、5−ヒドロキシペンチルアクリレート、トリメチロールプロパンモノアクリレート、ペンタエリスリトールモノアクリレート、グリシジルアクリレート、ベンジルアクリレート、メトキシベンジルアクリレート、フルフリルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレートなど)、アリールアクリレート(例えば、フェニルアクリレートなど)が挙げられる。
メタクリル酸エステル類としては、アルキルメタクリレート(該アルキル基の炭素原子は1〜20のものが好ましく、例えば、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、アミルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、クロルベンジルメタクリレート、オクチルメタクリレート、4−ヒドロキシブチルメタクリレート、5−ヒドロキシペンチルメタクリレート、2,2−ジメチル−3−ヒドロキシプロピルメタクリレート、トリメチロールプロパンモノメタクリレート、ペンタエリスリトールモノメタクリレート、グリシジルメタクリレート、フルフリルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレートなど)、アリールメタクリレート(例えば、フェニルメタクリレート、クレジルメタクリレート、ナフチルメタクリレートなど)が挙げられる。
スチレン類としては、スチレン、アルキルスチレン(例えば、メチルスチレン、ジメチルスチレン、トリメチルスチレン、エチルスチレン、ジエチルスチレン、イソプロピルスチレン、ブチルスチレン、ヘキシルスチレン、シクロヘキシルスチレン、デシルスチレン、ベンジルスチレン、クロルメチルスチレン、トリフルオルメチルスチレン、エトキシメチルスチレン、アセトキシメチルスチレンなど)、アルコキシスチレン(例えばメトキシスチレン、4−メトキシ−3−メチルスチレン、ジメトキシスチレンなど)、ハロゲン含有スチレン(例えばクロルスチレン、ジクロルスチレン、トリクロルスチレン、テトラクロルスチレン、ペンタクロルスチレン、ブロムスチレン、ジブロムスチレン、ヨードスチレン、フルオルスチレン、トリフルオルスチレン、2−ブロム−4−トリフルオルメチルスチレン、4−フルオル−3−トリフルオルメチルスチレンなど)が挙げられる。
その他の具体例として、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等も挙げられる。
【0113】
本発明における特定共重合体の質量平均モル質量(Mw)は、平版印刷版原版の性能設計により任意に設定できる。耐刷性及び耐汚れ性の観点からは、質量平均モル質量として、2,000〜1,000,000が好ましく、2,000〜500,000であることがより好ましく、10,000〜500,000であることが最も好ましい。
【0114】
以下に、特定共重合体の具体例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、表中、各成分欄は、成分の種類(例示化合物の番号で示す)/特定共重合体中の含有率(質量百分率で示す)を表し、(a1−2)/〔(a1−1)+(a1−2)〕は質量比を表す。なお、(a1−1)成分の種類と(a1−2)成分の種類は、モノマー構造の例示番号で示した。
【0115】
【表1】

【0116】
【表2】

【0117】
本発明の特定共重合体は支持体と画像記録層の間に設けられる下塗り層に含有させて用いる。含有量は、下塗り層全質量の5〜100質量%が好ましく、10〜100質量%がより好ましく、20〜100質量%が最も好ましい。
この含有量範囲内で、現像性、耐刷性、耐汚れ性、経時性に対する特定共重合体の効果が得られる。
【0118】
(画像記録層)
本発明に用いられる画像記録層は(A)重合開始剤、(B)赤外線吸収染料及び(C)重合性化合物を含有する。
【0119】
<(A)重合開始剤>
本発明における重合開始剤としてはラジカル重合開始剤が好ましく用いられる。ラジカル重合開始剤としては、当業者間で公知のものを制限なく使用でき、具体的には、例えば、トリハロメチル化合物、カルボニル化合物、有機過酸化物、アゾ化合物、アジド化合物、メタロセン化合物、ヘキサアリールビイミダゾール化合物、有機ホウ素化合物、ジスルホン化合物、オキシムエステル化合物、オニウム塩化合物、鉄アレーン錯体が挙げられる。なかでも、ヘキサアリールビイミダゾール化合物、オニウム塩、トリハロメチル化合物及びメタロセン化合物からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、特にオニウム塩が好ましい。上記のラジカル重合開始剤は、2種以上を適宜併用することもできる。
【0120】
本発明において好適に用いられるオニウム塩は、スルホニウム塩、ヨードニウム塩、ジアゾニウム塩が好ましく用いられる。特にジアリールヨードニウム塩、トリアリールスルホニウム塩が好ましく用いられる。オニウム塩は、750〜1400nmの波長域に極大吸収を有する赤外線吸収剤と併用して用いられることが特に好ましい。
【0121】
その他のラジカル重合開始剤としては、特開2007−206217号公報の段落番号[0071]〜[0129]に記載の重合開始剤を好ましく用いることができる。
【0122】
本発明における重合開始剤は単独若しくは2種以上の併用によって好適に用いられる。
本発明における画像記録層中の重合開始剤の使用量は画像記録層全固形分の質量に対し、好ましくは0.01〜20質量%、より好ましくは0.1〜15質量%である。更に好ましくは1.0質量%〜10質量%である。
【0123】
<(B)赤外線吸収染料>
赤外線吸収染料は、吸収した赤外線を熱に変換する機能と赤外線により励起して前述の重合開始剤に電子移動及び/又はエネルギー移動する機能を有する。本発明において使用される赤外線吸収染料は、波長760〜1200nmに吸収極大を有する染料である。
【0124】
染料としては、市販の染料及び例えば、「染料便覧」(有機合成化学協会編集、昭和45年刊)等の文献に記載されている公知のものが利用できる。具体的には、アゾ染料、金属錯塩アゾ染料、ピラゾロンアゾ染料、ナフトキノン染料、アントラキノン染料、フタロシアニン染料、カルボニウム染料、キノンイミン染料、メチン染料、シアニン染料、スクアリリウム色素、ピリリウム塩、金属チオレート錯体等の染料が挙げられる。
これらの染料のうち特に好ましいものとしては、シアニン色素、スクアリリウム色素、ピリリウム塩、ニッケルチオレート錯体、インドレニンシアニン色素が挙げられる。更に、シアニン色素やインドレニンシアニン色素が好ましく、特に好ましい例として下記一般式(a)で示されるシアニン色素が挙げられる。
【0125】
【化18】

【0126】
一般式(a)中、Xは、水素原子、ハロゲン原子、−N(R)(R10)、−X−L又は以下に示す基を表す。ここで、R及びR10は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、置換基を有していてもよい炭素原子数6〜10のアリール基、炭素原子数1〜8のアルキル基又は水素原子を表し、またRとR10とが互いに結合して環を形成してもよい。なかでもフェニル基が好ましい(-NPh2)。Xは酸素原子又は硫黄原子を示し、Lは、炭素原子数1〜12の炭化水素基、ヘテロアリール基、ヘテロ原子を含む炭素原子数1〜12の炭化水素基を示す。なお、ここでヘテロ原子とは、N、S、O、ハロゲン原子、Seを示す。Xは後述するZと同様に定義され、Rは、水素原子、アルキル基、アリール基、置換又は無置換のアミノ基、ハロゲン原子より選択される置換基を表す。
【0127】
【化19】

【0128】
及びRは、それぞれ独立に、炭素原子数1〜12の炭化水素基を示す。画像記録層塗布液の保存安定性から、R及びRは、炭素原子数2個以上の炭化水素基であることが好ましい。また、RとRとは互いに結合し環を形成してもよく、環を形成する際は5員環又は6員環を形成していることが特に好ましい。
【0129】
Ar、Arは、それぞれ同じでも異なっていてもよく、置換基を有していてもよいアリール基を示す。好ましいアリール基としては、ベンゼン環及びナフタレン環が挙げられる。また、好ましい置換基としては、炭素原子数12個以下の炭化水素基、ハロゲン原子、炭素原子数12個以下のアルコキシ基が挙げられる。Y、Yは、それぞれ同じでも異なっていてもよく、硫黄原子または炭素原子数12個以下のジアルキルメチレン基を示す。R、Rは、それぞれ同じでも異なっていてもよく、置換基を有していてもよい炭素原子数20個以下の炭化水素基を示す。好ましい置換基としては、炭素原子数12個以下のアルコキシ基、カルボキシ基、スルホ基が挙げられる。R、R、R及びRは、それぞれ同じでも異なっていてもよく、水素原子又は炭素原子数12個以下の炭化水素基を示す。原料の入手性から、好ましくは水素原子である。また、Zaは、対アニオンを示す。ただし、一般式(a)で示されるシアニン色素が、その構造内にアニオン性の置換基を有し、電荷の中和が必要ない場合にはZaは必要ない。好ましいZaは、画像記録層塗布液の保存安定性から、ハロゲン化物イオン、過塩素酸イオン、テトラフルオロボレートイオン、ヘキサフルオロホスフェートイオン、及びスルホン酸イオンであり、特に好ましくは、過塩素酸イオン、ヘキサフルオロフォスフェートイオン、及びアリールスルホン酸イオンである。
【0130】
好適に用いることのできる一般式(a)で示されるシアニン色素の具体例としては、特開2001−133969号公報の段落番号[0017]〜[0019]に記載の化合物、特開2002−023360号公報の段落番号[0016]〜[0021]、特開2002−040638号公報の段落番号[0012]〜[0037]に記載の化合物、好ましくは特開2002−278057号公報の段落番号[0034]〜[0041]、特開2008−195018号公報の段落番号[0080]〜[0086]に記載の化合物、最も好ましくは特開2007−90850号公報の段落番号[0035]〜[0043]に記載の化合物が挙げられる。
また特開平5−5005号公報の段落番号[0008]〜[0009]、特開2001−222101号公報の段落番号[0022]〜[0025]に記載の化合物も好ましく使用することができる。
【0131】
また、これらの(B)赤外線吸収染料は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよく、顔料等の赤外線吸収染料以外の赤外線吸収剤を併用してもよい。顔料としては、特開2008−195018号公報[0072]〜[0076]に記載の化合物が好ましい。
【0132】
本発明における画像記録層中の赤外線吸収染料の含有量は、画像記録層の全固形分の0.1〜10.0質量%が好ましく、より好ましくは0.5〜5.0質量%である
【0133】
<(C)重合性化合物>
本発明における画像記録層に用いるラジカル重合性化合物は、少なくとも一個のエチレン性不飽和二重結合を有する付加重合性化合物であり、末端エチレン性不飽和結合を少なくとも1個、好ましくは2個以上有する化合物から選ばれる。これらは、例えばモノマー、プレポリマー、すなわち2量体、3量体及びオリゴマー、又はそれらの混合物などの化学的形態をもつ。モノマーの例としては、不飽和カルボン酸(例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸など)や、そのエステル類、アミド類が挙げられ、好ましくは、不飽和カルボン酸と多価アルコール化合物とのエステル、不飽和カルボン酸と多価アミン化合物とのアミド類が用いられる。また、ヒドロキシ基やアミノ基、メルカプト基等の求核性置換基を有する不飽和カルボン酸エステルあるいはアミド類と単官能若しくは多官能イソシアネート類あるいはエポキシ類との付加反応物、及び単官能若しくは、多官能のカルボン酸との脱水縮合反応物等も好適に使用される。また、イソシアネート基や、エポキシ基等の親電子性置換基を有する不飽和カルボン酸エステルあるいはアミド類と単官能若しくは多官能のアルコール類、アミン類、チオール類との付加反応物、更にハロゲン基や、トシルオキシ基等の脱離性置換基を有する不飽和カルボン酸エステルあるいはアミド類と単官能若しくは多官能のアルコール類、アミン類、チオール類との置換反応物も好適である。また、別の例として、上記の不飽和カルボン酸の代わりに、不飽和ホスホン酸、スチレン、ビニルエーテル等に置き換えた化合物群を使用することも可能である。これらは、特表2006−508380号公報、特開2002−287344号公報、特開2008−256850号公報、特開2001−342222号公報、特開平9−179296号公報、特開平9−179297号公報、特開平9−179298号公報、特開2004−294935号公報、特開2006−243493号公報、特開2002−275129号公報、特開2003−64130号公報、特開2003−280187号公報、特開平10−333321号公報、を含む参照文献に記載されている。
【0134】
多価アルコール化合物と不飽和カルボン酸とのエステルのモノマーの具体例としては、アクリル酸エステルとして、エチレングリコールジアクリレート、1,3−ブタンジオールジアクリレート、テトラメチレングリコールジアクリレート、プロピレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ヘキサンジオールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ソルビトールトリアクリレート、イソシアヌル酸エチレンオキシド(EO)変性トリアクリレート、ポリエステルアクリレートオリゴマー等がある。メタクリル酸エステルとしては、テトラメチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、ビス〔p−(3−メタクリルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル〕ジメチルメタン、ビス−〔p−(メタクリルオキシエトキシ)フェニル〕ジメチルメタン等がある。また、多価アミン化合物と不飽和カルボン酸とのアミドのモノマーの具体例としては、メチレンビス−アクリルアミド、メチレンビス−メタクリルアミド、1,6−ヘキサメチレンビス−アクリルアミド、1,6−ヘキサメチレンビス−メタクリルアミド、ジエチレントリアミントリスアクリルアミド、キシリレンビスアクリルアミド、キシリレンビスメタクリルアミド等がある。
【0135】
また、イソシアネートとヒドロキシ基の付加反応を用いて製造されるウレタン系付加重合性化合物も好適であり、そのような具体例としては、例えば、特公昭48−41708号公報に記載されている1分子に2個以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネート化合物に、下記一般式(b)で示されるヒドロキシ基を含有するビニルモノマーを付加させた1分子中に2個以上の重合性ビニル基を含有するビニルウレタン化合物等が挙げられる。
CH2=C(R4)COOCH2CH(R5)OH (b)
(ただし、R4及びR5は、H又はCH3を示す。)
【0136】
また、特開昭51−37193号公報、特公平2−32293号公報、特公平2−16765号公報、特開2003−344997号公報、特開2006−65210号公報に記載されているようなウレタンアクリレート類や、特公昭58−49860号公報、特公昭56−17654号公報、特公昭62−39417号公報、特公昭62−39418号公報、特開2000−250211号公報、特開2007−94138号公報記載のエチレンオキサイド系骨格を有するウレタン化合物類や、米国特許第7153632号明細書、特表平8−505958号公報、特開2007−293221号公報、特開2007−293223号公報記載の親水性基を有するウレタン化合物類も好適である。
【0137】
上記の中でも、機上現像性に関与する親水性と耐刷性に関与する重合能のバランスに優れる点から、トリス(アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート、ビス(アクリロイルオキシエチル)ヒドロキシエチルイソシアヌレートなどのイソシアヌル酸エチレンオキシド変性アクリレート類が特に好ましい。
【0138】
これらの重合性化合物の構造、単独使用か併用か、添加量等の使用方法の詳細は、最終的な平版印刷版原版の性能設計にあわせて任意に設定できる。上記の重合性化合物は、画像記録層の全固形分に対して、好ましくは5〜75質量%、更に好ましくは10〜70質量%、特に好ましくは15〜60質量%の範囲で使用される。
【0139】
<(E)その他の成分>
本発明における画像記録層には、必要に応じて、更に他の成分を含有することができる。
【0140】
<(1)ポリマーバインダー>
本発明の画像記録層には、画像記録層の膜強度を向上させるため、ポリマーバインダーを用いることができる。本発明に用いることができるポリマーバインダーは、従来公知のものを制限なく使用でき、皮膜性を有するポリマーが好ましい。なかでも、アクリル樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリウレタン樹脂が好ましい。
【0141】
なかでも本発明に好適なポリマーバインダーとしては、特開2008−195018号公報に記載のような、画像部の皮膜強度を向上するための架橋性官能基を主鎖又は側鎖、好ましくは側鎖に有しているものが挙げられる。架橋性基によってポリマー分子間に架橋が形成され、硬化が促進する。
【0142】
架橋性官能基としては、(メタ)アクリル基、ビニル基、アリル基、スチリル基などのエチレン性不飽和基やエポキシ基等が好ましく、これらの基は高分子反応や共重合によってポリマーに導入することができる。例えば、カルボキシ基を側鎖に有するアクリルポリマーやポリウレタンとグリシジルメタクリレートとの反応、あるいはエポキシ基を有するポリマーとメタクリル酸などのエチレン性不飽和基含有カルボン酸との反応を利用できる。
【0143】
ポリマーバインダー中の架橋性基の含有量は、ポリマーバインダー1g当たり、好ましくは0.1〜10.0mmol、より好ましくは0.25〜7.0mmol、最も好ましくは0.5〜5.5mmolである。
【0144】
また、本発明のポリマーバインダーは、更に親水性基を有することが好ましい。親水性基は画像記録層に機上現像性を付与するのに寄与する。特に、架橋性基と親水性基を共存させることにより、耐刷性と現像性の両立が可能になる。
【0145】
親水性基としては、たとえば、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アルキレンオキシド構造、アミノ基、アンモニウム基、アミド基、スルホ基、リン酸基等などがあり、なかでも、炭素数2又は3のアルキレンオキシド単位を1〜120個有するアルキレンオキシド構造が好ましく、2〜120個有するものが好ましい。ポリマーバインダーに親水性基を付与するには親水性基を有するモノマーを共重合すればよい。
これらのポリマーは、例えば、国際公開第2003/087939号パンフレットに記載されているような微粒子であってもよく、平均粒径は30nm〜1000nmが好ましく、より好ましくは60nm〜300nmである。
【0146】
また、本発明のポリマーバインダーには、着肉性を制御するため、アルキル基、アリール基、アラルキル基、アルケニル基などの親油性の基を導入できる。具体的には、メタクリル酸アルキルエステルなどの親油性基含有モノマーを共重合すればよい。
【0147】
以下に本発明に用いられるポリマーバインダーの具体例(1)〜(11)を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお下記ポリマーバインダーの繰り返し単位の比はモル比である。
【0148】
【化20】

【0149】
【化21】

【0150】
なお、本発明におけるポリマーバインダーは、質量平均モル質量(Mw)が2000以上であることが好ましく、5000以上であるのがより好ましく、1万〜30万であるのが更に好ましい。
【0151】
本発明では必要に応じて、特開2008−195018号公報に記載のポリアクリル酸、ポリビニルアルコールなどの親水性ポリマーを用いることができる。また、親油的なポリマーバインダーと親水的なポリマーバインダーを併用することもできる。
【0152】
ポリマーバインダーの含有量は、画像記録層の全固形分に対して、5〜90質量%であるのが好ましく、5〜80質量%であるのがより好ましく、10〜70質量%であるのが更に好ましい。
【0153】
(2)疎水化前駆体
本発明では、機上現像性を向上させるため、疎水化前駆体を用いることができる。本発明における疎水化前駆体とは、熱が加えられたときに画像記録層を疎水性に変換できる微粒子を意味する。微粒子としては、疎水性熱可塑性ポリマー微粒子、熱反応性ポリマー微粒子、重合性基を有するポリマー微粒子、疎水性化合物を内包しているマイクロカプセル、及びミクロゲル(架橋ポリマー微粒子)から選ばれる少なくともひとつであることが好ましい。なかでも、重合性基を有するポリマー微粒子及びミクロゲルが好ましい。
【0154】
疎水性熱可塑性ポリマー微粒子としては、1992年1月のResearch Disclosure No.333003、特開平9−123387号公報、同9−131850号公報、同9−171249号公報、同9−171250号公報及び欧州特許第931647号明細書などに記載の疎水性熱可塑性ポリマー微粒子を好適なものとして挙げることができる。
このようなポリマー微粒子を構成するポリマーの具体例としては、エチレン、スチレン、塩化ビニル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、塩化ビニリデン、アクリロニトリル、ビニルカルバゾール、ポリアルキレン構造を有するアクリレート又はメタクリレートなどのモノマーのホモポリマー若しくはコポリマー又はそれらの混合物を挙げることができる。その中で、より好適なものとして、ポリスチレン、スチレン及びアクリロニトリルを含む共重合体、ポリメタクリル酸メチルを挙げることができる。
【0155】
本発明に用いられる疎水性熱可塑性ポリマー微粒子の平均粒径は0.01〜2.0μmが好ましい。
【0156】
本発明に用いられる熱反応性ポリマー微粒子としては、熱反応性基を有するポリマー微粒子が挙げられ、これらは、熱反応による架橋、及びその際の官能基変化により疎水化領域を形成する。
【0157】
本発明に用いる熱反応性基を有するポリマー微粒子における熱反応性基としては、化学結合が形成されるならば、どのような反応を行う官能基でもよいが、重合性基であることが好ましく、その例として、ラジカル重合反応を行うエチレン性不飽和基(例えば、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基、アリル基など)、カチオン重合性基(例えば、ビニル基、ビニルオキシ基、エポキシ基、オキセタニル基など)、付加反応を行うイソシアナート基又はそのブロック体、エポキシ基、ビニルオキシ基及びこれらの反応相手である活性水素原子を有する官能基(例えば、アミノ基、ヒドロキシ基、カルボキシ基など)、縮合反応を行うカルボキシ基及び反応相手であるヒドロキシ基又はアミノ基、開環付加反応を行う酸無水物及び反応相手であるアミノ基又はヒドロキシ基などを好適なものとして挙げることができる。
【0158】
本発明で用いられるマイクロカプセルとしては、例えば、特開2001−277740号公報、特開2001−277742号公報に記載のごとく、画像記録層の構成成分の全て又は一部をマイクロカプセルに内包させたものである。なお、画像記録層の構成成分は、マイクロカプセル外にも含有させることもできる。更に、マイクロカプセルを含有する画像記録層は、疎水性の構成成分をマイクロカプセルに内包し、親水性の構成成分をマイクロカプセル外に含有することが好ましい態様である。
【0159】
本発明においては、架橋樹脂粒子、すなわちミクロゲルを含有する態様であってもよい。このミクロゲルは、その中又は表面の少なくとも一方に、画像記録層の構成成分の一部を含有することができ、特に、ラジカル重合性基をその表面に有することによって反応性ミクロゲルとした態様が、画像形成感度や耐刷性の観点から特に好ましい。
【0160】
画像記録層の構成成分をマイクロカプセル化、若しくはミクロゲル化する方法としては、公知の方法が適用できる。
【0161】
上記のマイクロカプセルやミクロゲルの平均粒径は、0.01〜3.0μmが好ましい。0.05〜2.0μmが更に好ましく、0.10〜1.0μmが特に好ましい。この範囲内で良好な解像度と経時安定性が得られる。
【0162】
疎水化前駆体の含有量としては、画像記録層全固形分の5〜90質量%の範囲であることが好ましい。
【0163】
(3)低分子親水性化合物
本発明における画像記録層は、耐刷性を低下させることなく機上現像性を向上させるために、低分子親水性化合物を含有してもよい。
低分子親水性化合物としては、例えば、水溶性有機化合物としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール等のグリコール類及びそのエーテル又はエステル誘導体類、グリセリン、ペンタエリスリトール、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート等のポリオール類、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン等の有機アミン類及びその塩、アルキルスルホン酸、トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸等の有機スルホン酸類及びその塩、アルキルスルファミン酸等の有機スルファミン酸類及びその塩、アルキル硫酸、アルキルエーテル硫酸等の有機硫酸類及びその塩、フェニルホスホン酸等の有機ホスホン酸類及びその塩、酒石酸、シュウ酸、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、グルコン酸、アミノ酸類等の有機カルボン酸類及びその塩、ベタイン類、等が挙げられる。
【0164】
本発明においてはこれらの中でも、ポリオール類、有機硫酸塩類、有機スルホン酸塩類、ベタイン類の群から選ばれる少なくとも一つを含有させることが好ましい。
【0165】
有機スルホン酸塩の具体的な化合物としては、n−ブチルスルホン酸ナトリウム、n−ヘキシルスルホン酸ナトリウム、2−エチルヘキシルスルホン酸ナトリウム、シクロヘキシルスルホン酸ナトリウム、n−オクチルスルホン酸ナトリウムなどのアルキルスルホン酸塩;5,8,11−トリオキサペンタデカン−1−スルホン酸ナトリウム、5,8,11−トリオキサヘプタデカン−1−スルホン酸ナトリウム、13−エチル−5,8,11−トリオキサヘプタデカン−1−スルホン酸ナトリウム、5,8,11,14−テトラオキサテトラデコサン−1−スルホン酸ナトリウムなどのエチレンオキシド鎖を含むアルキルスルホン酸塩;ベンゼンスルホン酸ナトリウム、p−トルエンスルホン酸ナトリウム、p−ヒドロキシベンゼンスルホン酸ナトリウム、p−スチレンスルホン酸ナトリウム、イソフタル酸ジメチル−5−スルホン酸ナトリウム、1−ナフチルスルホン酸ナトリウム、4−ヒドロキシナフチルスルホン酸ナトリウム、1,5−ナフタレンジスルホン酸ジナトリウム、1,3,6−ナフタレントリスルホン酸トリナトリウムなどのアリールスルホン酸塩、特開2007−276454〔0026〕〜〔0031〕、特開2009−154525〔0020〕〜〔0047〕に記載の化合物などが挙げられる。塩は、カリウム塩、リチウム塩でもよい。
【0166】
有機硫酸塩としては、ポリエチレンオキシドのアルキル、アルケニル、アルキニル、アリール又は複素環モノエーテルの硫酸塩が挙げられる。エチレンオキシド単位は1〜4であるのが好ましく、塩は、ナトリウム塩、カリウム塩又はリチウム塩が好ましい。これらの具体例としては、特開2007−276454〔0034〕〜〔0038〕に記載の化合物が挙げられる。
【0167】
ベタイン類としては、窒素原子への炭化水素置換基の炭素原子数が1〜5である化合物が好ましく、具体例としては、トリメチルアンモニウムアセタート、ジメチルプロピルアンモニウムアセタート、3−ヒドロキシ−4−トリメチルアンモニオブチラート、4−(1−ピリジニオ)ブチラート、1−ヒドロキシエチル−1−イミダゾリオアセタート、トリメチルアンモニウムメタンスルホナート、ジメチルプロピルアンモニウムメタンスルホナート、3−トリメチルアンモニオ−1−プロパンスルホナート、3−(1−ピリジニオ)−1−プロパンスルホナートなどが挙げられる。
【0168】
上記の低分子親水性化合物は、疎水性部分の構造が小さくて界面活性作用がほとんどないため、湿し水が画像記録層露光部(画像部)へ浸透して画像部の疎水性や皮膜強度を低下させることがなく、画像記録層のインキ受容性や耐刷性を良好に維持できる。
【0169】
これら低分子親水性化合物の画像記録層への添加量は、画像記録層全固形分量の0.5質量%以上20質量%以下であることが好ましい。より好ましくは1質量%以上15質量%以下であり、更に好ましくは2質量%以上10質量%以下である。この範囲で良好な機上現像性と耐刷性が得られる。
これらの化合物は単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0170】
(4)感脂化剤
本発明の画像記録層には、着肉性を向上させるために、画像記録層にホスホニウム化合物、含窒素低分子化合物、アンモニウム基含有ポリマーなどの感脂化剤を用いることができる。特に、保護層に無機質の層状化合物を含有させる場合、これらの化合物は、無機質の層状化合物の表面被覆剤として機能し、無機質の層状化合物による印刷途中の着肉性低下を防止する。
【0171】
好適なホスホニウム化合物としては、特開2006−297907号公報及び特開2007−50660号公報に記載のホスホニウム化合物を挙げることができる。具体例としては、テトラブチルホスホニウムヨージド、ブチルトリフェニルホスホニウムブロミド、テトラフェニルホスホニウムブロミド、1,4−ビス(トリフェニルホスホニオ)ブタン=ジ(ヘキサフルオロホスファート)、1,7−ビス(トリフェニルホスホニオ)ヘプタン=スルファート、1,9−ビス(トリフェニルホスホニオ)ノナン=ナフタレン−2,7−ジスルホナートなどが挙げられる。
【0172】
上記含窒素低分子化合物としては、アミン塩類、第4級アンモニウム塩類が挙げられる。またイミダゾリニウム塩類、ベンゾイミダゾリニウム塩類、ピリジニウム塩類、キノリニウム塩類も挙げられる。なかでも、第4級アンモニウム塩類、及びピリジニウム塩類が好ましい。具体例としては、テトラメチルアンモニウム=ヘキサフルオロホスファート、テトラブチルアンモニウム=ヘキサフルオロホスファート、ドデシルトリメチルアンモニウム=p−トルエンスルホナート、ベンジルトリエチルアンモニウム=ヘキサフルオロホスファート、ベンジルジメチルオクチルアンモニウム=ヘキサフルオロホスファート、ベンジルジメチルドデシルアンモニウム=ヘキサフルオロホスファート、特開2008−284858号公報の段落番号[0021]〜[0037]、特開2009−90645号公報の段落番号[0030]〜[0057]に記載の化合物などが挙げられる。
【0173】
上記アンモニウム基含有ポリマーとしては、その構造中にアンモニウム基を有すれば如何なるものでもよいが、側鎖にアンモニウム基を有する(メタ)アクリレートを共重合成分として5〜80モル%含有するポリマーが好ましい。具体例としては、特開2009−208458号公報の段落番号[0089]〜[0105]に記載のポリマーが挙げられる。
【0174】
上記アンモニウム塩含有ポリマーは、下記の測定方法で求められる還元比粘度(単位:ml/g)の値で、5〜120の範囲のものが好ましく、10〜110の範囲のものがより好ましく、15〜100の範囲のものが特に好ましい。上記還元比粘度を質量平均モル質量に換算すると、10000〜150000が好ましく、17000〜140000がより好ましく、20000〜130000が特に好ましい。
【0175】
<還元比粘度の測定方法>
30%ポリマー溶液3.33g(固形分として1g)を、20mlのメスフラスコに秤量し、N−メチルピロリドンでメスアップする。この溶液を30℃の恒温槽で30分間静置し、ウベローデ還元比粘度管(粘度計定数=0.010cSt/s)に入れて30℃にて流れ落ちる時間を測定する。なお測定は同一サンプルで2回測定し、その平均値を算出する。同様にブランク(N−メチルピロリドンのみ)の場合も測定し、下記式から還元比粘度(ml/g)を算出した。
【0176】
【数1】

【0177】
以下に、アンモニウム基含有ポリマーの具体例を示す。
(1)2−(トリメチルアンモニオ)エチルメタクリレート=p−トルエンスルホナート/3,6−ジオキサヘプチルメタクリレート共重合体(モル比10/90 Mw4.5万)
(2)2−(トリメチルアンモニオ)エチルメタクリレート=ヘキサフルオロホスファート/3,6−ジオキサヘプチルメタクリレート共重合体(モル比20/80 Mw6.0万)
(3)2−(エチルジメチルアンモニオ)エチルメタクリレート=p−トルエンスルホナート/ヘキシルメタクリレート共重合体(モル比30/70 Mw4.5万)
(4)2−(トリメチルアンモニオ)エチルメタクリレート=ヘキサフルオロホスファート/2−エチルヘキシルメタクリレート共重合体(モル比20/80 Mw6.0万)
(5)2−(トリメチルアンモニオ)エチルメタクリレート=メチルスルファート/ヘキシルメタクリレート共重合体(モル比40/60 Mw7.0万)
(6)2−(ブチルジメチルアンモニオ)エチルメタクリレート=ヘキサフルオロホスファート/3,6−ジオキサヘプチルメタクリレート共重合体(モル比 25/75 Mw6.5万)
(7)2−(ブチルジメチルアンモニオ)エチルアクリレート=ヘキサフルオロホスファート/3,6−ジオキサヘプチルメタクリレート共重合体(モル比20/80 Mw6.5万)
(8)2−(ブチルジメチルアンモニオ)エチルメタクリレート=13−エチル−5,8,11−トリオキサ−1−ヘプタデカンスルホナート/3,6−ジオキサヘプチルメタクリレート共重合体(モル比20/80 Mw7.5万)
(9)2−(ブチルジメチルアンモニオ)エチルメタクリレート=ヘキサフルオロホスファート/3,6−ジオキサヘプチルメタクリレート/2−ヒドロキシ−3−メタクロイルオキシプロピルメタクリレート共重合体(モル比15/80/5 Mw6.5万)
【0178】
上記感脂化剤の含有量は、画像記録層の全固形分に対して0.01〜30.0質量%が好ましく、より好ましくは0.1〜15.0質量%、1〜10質量%が更に好ましい。
【0179】
(5)連鎖移動剤
画像記録層は、更に連鎖移動剤を含有することが好ましい。連鎖移動剤としては、例えば、分子内にSH、PH、SiH、GeHを有する化合物群が用いられる。これらは、低活性のラジカル種に水素供与して、ラジカルを生成するか、若しくは、酸化された後、脱プロトンすることによりラジカルを生成しうる。
画像記録層には、特に、チオール化合物(例えば、2−メルカプトベンズイミダゾール類、2−メルカプトベンズチアゾール類、2−メルカプトベンズオキサゾール類、3−メルカプトトリアゾール類、5−メルカプトテトラゾール類、等)を連鎖移動剤として好ましく用いることができる。
連鎖移動剤の含有量は、画像記録層の全固形分に対して1〜10質量%が好ましい。
【0180】
(6)その他
更にその他の成分として、界面活性剤、着色剤、焼き出し剤、重合禁止剤、高級脂肪酸誘導体、可塑剤、無機微粒子、無機質層状化合物などを添加することができる。具体的には、特開2008−284817号公報の段落番号[0114]〜[0159]、特開2006−091479号公報の段落番号[0023]〜[0027]、米国特許公開2008/0311520号明細書の段落番号[0060]に記載の化合物及び添加量が好ましい。
【0181】
(F)画像記録層の形成
本発明における画像記録層は、例えば、特開2008−195018号公報の段落番号[0142]〜[0143]に記載のように、必要な上記各成分を公知の溶剤に分散又は溶解して塗布液を調製し、これを支持体上にバーコーター塗布など公知の方法で塗布し、乾燥することで形成される。塗布、乾燥後に得られる支持体上の画像記録層塗布量(固形分)は、用途によって異なるが、一般的に0.3〜3.0g/mが好ましい。この範囲で、良好な感度と画像記録層の良好な皮膜特性が得られる。
【0182】
画像記録層は、露光後に印刷機上で印刷インキ及び湿し水の少なくとも一方が供給されることによって未露光部が除去されることが好ましく、画像記録層中の各成分の種類及び量の少なくとも一方を、適宜、調整することにより、このような画像記録層を構成することができる。
【0183】
塗布液に使用する溶剤としては、メチルエチルケトン、エチレングリコールモノメチルエーテル、1−メトキシ−2−プロパノール、2−メトキシエチルアセテート、1−メトキシ−2−プロピルアセテート、γ−ブチルラクトン等を挙げることができるが、これに限定されるものではない。これらの溶剤は、単独又は混合して使用される。塗布液の固形分濃度は、好ましくは1〜50質量%である。
【0184】
また塗布、乾燥後に得られる支持体上の画像記録層塗布量(固形分)は、0.3〜3.0g/mが好ましい。塗布する方法としては、種々の方法を用いることができる。例えば、バーコーター塗布、回転塗布、スプレー塗布、カーテン塗布、ディップ塗布、エアーナイフ塗布、ブレード塗布、ロール塗布等を挙げられる。
【0185】
(下塗り層)
本発明の平版印刷版原版は、画像記録層と支持体との間に下塗り層(中間層と呼ばれることもある)を有する。下塗り層は、露光部においては支持体と画像記録層との密着を強化し、未露光部においては画像記録層の支持体からのはく離を生じやすくさせるため、耐刷性を損なわず現像性を向上させるのに寄与する。
【0186】
下塗り層には、前記(D)特定共重合体の他に、公知の、キレート剤、第2級又は第3級アミン、重合禁止剤、アミノ基又は重合禁止能を有する官能基とアルミニウム支持体表面と相互作用する基とを有する化合物等(例えば、1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン(DABCO)、2,3,5,6−テトラヒドロキシ−p−キノン、クロラニル、スルホフタル酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸、ジヒドロキシエチルエチレンジアミン二酢酸、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸など)を含有することができる。
【0187】
下塗り層は、公知の方法で塗布される。下塗り層の塗布量(固形分)は、0.1〜100mg/m2であるのが好ましく、1〜30mg/m2であるのがより好ましい。
【0188】
(保護層)
本発明の平版印刷版原版は、画像記録層の上に保護層(オーバーコート層)を設けることが好ましい。保護層は酸素遮断によって画像形成阻害反応を抑制する機能の他、画像記録層における傷の発生防止、及び高照度レーザー露光時のアブレーション防止の機能を有する。
【0189】
このような特性の保護層については、例えば、米国特許第3,458,311号明細書及び特公昭55−49729号公報に記載されている。保護層に用いられる酸素低透過性のポリマーとしては、水溶性ポリマー、水不溶性ポリマーのいずれをも適宜選択して使用することができ、必要に応じて2種類以上を混合して使用することもできる。具体的には、例えば、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、水溶性セルロース誘導体、ポリ(メタ)アクリロニトリル等が挙げられる。
変性ポリビニルアルコールとしては、カルボキシ基又はスルホ基を有する酸変性ポリビニルアルコールが好ましく用いられる。具体的には、特開2005−250216号公報、特開2006−259137号公報記載の変性ポリビニルアルコールが好適に挙げられる。
【0190】
また、保護層には酸素遮断性を高めるため、特開2005−119273号公報に記載のように天然雲母、合成雲母等の無機質の層状化合物を含有することが好ましい。
また、保護層には、可撓性付与のための可塑剤、塗布性を向上させための界面活性剤、表面の滑り性を制御する無機微粒子など公知の添加物を含むことができる。また、画像記録層の説明に記載した感脂化剤を保護層に含有させることもできる。
【0191】
保護層は、公知の方法で塗布される。保護層の塗布量としては、乾燥後の塗布量で、0.01〜10g/mの範囲であることが好ましく、0.02〜3g/mの範囲がより好ましく、最も好ましくは0.02〜1g/mの範囲である。
【0192】
(支持体)
本発明の平版印刷版原版に用いられる支持体としては、公知の支持体が用いられる。なかでも、公知の方法で粗面化処理され、陽極酸化処理されたアルミニウム板が好ましい。
また、上記アルミニウム板は必要に応じて、特開2001−253181号公報や特開2001−322365号公報に記載されている陽極酸化皮膜のマイクロポアの拡大処理や封孔処理、及び米国特許第2,714,066号、同第3,181,461号、同第3,280,734号及び同第3,902,734号の各明細書に記載されているようなアルカリ金属シリケートあるいは米国特許第3,276,868号、同第4,153,461号及び同第4,689,272号の各明細書に記載されているようなポリビニルホスホン酸などによる表面親水化処理を適宜選択して行うことができる。
支持体は、中心線平均粗さが0.10〜1.2μmであるのが好ましい。
【0193】
本発明の支持体には必要に応じて、裏面に、特開平5−45885号公報に記載されている有機ポリマーバインダー、特開平6−35174号公報に記載されているケイ素のアルコキシ化合物を含むバックコート層を設けることができる。
【0194】
〔製版方法〕
本発明における平版印刷版原版を画像露光して現像処理を行うことで平版印刷版を作製する。現像処理としては、(1)アルカリ現像液(pHが11より大きい)にて現像する方法、(2)pHが2〜11の現像液にて現像する方法、(3)印刷機上で、湿し水及び/又はインキを加えながら現像する方法(機上現像)が挙げられるが、本発明においては、(3)印刷機上で、湿し水及び/又はインキを加えながら現像する方法(機上現像)が最も好ましい。
【0195】
<機上現像方法>
機上現像は、画像露光後の平版印刷版原版を、なんらの現像処理を施すことなく、印刷機に装着したのち、油性インキと水性成分とを供給して印刷を開始することによって行う。すなわち、この印刷途上の初期段階で、油性インキ及び/又は水性成分により未露光領域の画像記録層が溶解又は分散して除去され、親水性支持体表面が露出して非画像部が形成される。一方、露光により硬化した画像記録層が、親油性表面を有する印刷インキ受容部(画像部)を形成する。その結果、湿し水は露出した親水性の表面に付着し、印刷インキは露光領域の画像記録層に着肉して通常の印刷が可能になる。
【0196】
画像様の露光は平版印刷版原版を印刷機に装着した後、印刷機上で行ってもよいし、プレートセッターなどで別途行ってもよい。油性インキ及び水性成分としては、通常の平版印刷用の印刷インキと湿し水が用いられる。
ここで、最初に版面に供給されるのは、湿し水でもよく、印刷インキでもよいが、湿し水が除去された画像記録層成分によって汚染されることを防止する点で、最初に印刷インキを供給するのが好ましい。
【0197】
<画像露光>
上記の現像処理に先立って、平版印刷版原版は、線画像、網点画像等を有する透明原画を通してレーザー露光するかデジタルデータによるレーザー光走査等で画像様に露光される。
望ましい光源の波長は750nmから1400nmの波長が好ましく用いられる。750nmから1400nmの光源としては、赤外線を放射する固体レーザー及び半導体レーザーが好適である。露光機構は、内面ドラム方式、外面ドラム方式、フラットベッド方式等の何れでもよい。
赤外線レーザーに関しては、出力は100mW以上であることが好ましく、1画素当たりの露光時間は20マイクロ秒以内であるのが好ましく、また照射エネルギー量は10〜300mJ/cmであるのが好ましい。レーザーにおいては、露光時間を短縮するためマルチビームレーザーデバイスを用いるのが好ましい。
【0198】
画像露光後、そのまま印刷機の版胴に装着して印刷を開始する。レーザー露光装置付きの印刷機の場合は、平版印刷版原版を印刷機の版胴に装着したのち画像露光される。
【実施例】
【0199】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、高分子化合物において、分子量は質量平均モル質量(Mw)であり、繰り返し単位の比率は、特別に規定したもの以外は、モル百分率である。
【0200】
[特定共重合体1の合成例]
【0201】
〔モノマー単離例〕
攪拌羽根(回転数250rpm)を備えた3つ口フラスコに、ジエチレングリコールジブチルエーテル(以下、「DBDG」と略す。)250部、イオン交換水250部、リン酸エステル混合物100.0部〔共栄社化学製ライトエステルP−1M(下記構造のリン酸モノエステルとジエステル含有。リン酸モノエステルの純度36.1質量%)〕を入れ、常温にて20分攪拌した。攪拌した液を分液漏斗に移し、10分間静置した後に水層を取り出し、3つ口フラスコに移した。DBDG 250部を新たに加え、再度20分間攪拌を行った後に分液漏斗に移し10分間静置した後、水層を取り出し、リン酸モノマー水溶液286.66部を得た。
得られたリン酸モノマー水溶液は、リン酸ジエステル/(リン酸モノエステル+ジエステル)の質量比=0.1、濃度10.5質量%、水溶液中のDBDG含有量は0.3質量%であった。
【0202】
【化22】

【0203】
〔特定共重合体1の合成〕
コンデンサー、攪拌器を取り付けた200mlフラスコに、蒸留水142gを入れ、窒素気流下、65℃まで加熱した。上記で得られたリン酸モノマー水溶液 47.6g、メトキシポリオキシエチレンメタクリレート(平均EO鎖長=23)20.0g、重合開始剤VA046B(和光純薬工業(株)製)1.137g、蒸留水56.43gからなる溶液を、200mlのフラスコに、2時間かけて滴下した。滴下終了後、65℃で2時間撹拌し、重合開始剤VA046B(和光純薬工業(株)製)0.057gを加え、65℃のまま2時間更に撹拌し、特定共重合体(1)を得た。
得られた特定共重合体(1)の、ポリエチレングリコールを標準物質としたゲルバミエーションクロマトグラフィー法(GPC)による質量平均モル質量(Mw)は5万であった。
【0204】
本実施例に用いた他の特定共重合体は、上記合成例の繰り返し単位のモノマー成分を変更すること、更に必要により既存の合成手法により合成を行った。
また実施例では、特定共重合体はMw5万程度の化合物を使用した。
【0205】
[実施例1〜47及び比較例1〜7]
1.平版印刷版原版1〜46及び比較用平版印刷版原版(R−1〜R−7)の作製
【0206】
(1)支持体の作製
厚み0.3mmのアルミニウム板(材質JIS A 1050)の表面の圧延油を除去するため、10質量%アルミン酸ソーダ水溶液を用いて50℃で30秒間、脱脂処理を施した後、毛径0.3mmの束植ナイロンブラシ3本とメジアン径25μmのパミス−水懸濁液(比重1.1g/cm)を用いアルミニウム表面を砂目立てして、水でよく洗浄した。この板を45℃の25質量%水酸化ナトリウム水溶液に9秒間浸漬してエッチングを行い、水洗後、更に60℃で20質量%硝酸に20秒間浸漬し、水洗した。この時の砂目立て表面のエッチング量は約3g/mであった。
【0207】
次に、60Hzの交流電圧を用いて連続的に電気化学的な粗面化処理を行った。このときの電解液は、硝酸1質量%水溶液(アルミニウムイオンを0.5質量%含む)、液温50℃であった。交流電源波形は、電流値がゼロからピークに達するまでの時間TPが0.8msec、duty比1:1、台形の矩形波交流を用いて、カーボン電極を対極として電気化学的な粗面化処理を行った。補助アノードにはフェライトを用いた。電流密度は電流のピーク値で30A/dm、補助陽極には電源から流れる電流の5%を分流させた。硝酸電解における電気量はアルミニウム板が陽極時の電気量175C/dmであった。その後、スプレーによる水洗を行った。
【0208】
続いて、塩酸0.5質量%水溶液(アルミニウムイオンを0.5質量%含む)、液温50℃の電解液にて、アルミニウム板が陽極時の電気量50C/dmの条件で、硝酸電解と同様の方法で、電気化学的な粗面化処理を行い、その後、スプレーによる水洗を行った。
次に、この板に15質量%硫酸水溶液(アルミニウムイオンを0.5質量%含む)を電解液として電流密度15A/dmで2.5g/mの直流陽極酸化皮膜を設けた後、水洗、乾燥して支持体(1)を作製した。
【0209】
その後、非画像部の親水性を確保するため、支持体(1)に2.5質量%3号ケイ酸ソーダ水溶液を用いて60℃で10秒間、シリケート処理を施し、その後、水洗して支持体(2)を得た。Siの付着量は10mg/mであった。この基板の中心線平均粗さ(Ra)を直径2μmの針を用いて測定したところ、0.51μmであった。
【0210】
(2)下塗り層の形成
次に、上記支持体(2)上に、下記下塗り層塗布液(1)を乾燥塗布量が20mg/mになるよう塗布して、以下の実験に用いる下塗り層を有する支持体を作製した。
【0211】
<下塗り層塗布液(1)>
・表4又は5に記載の特定共重合体又は下記比較用高分子化合物 0.50g
・水 500.00g
【0212】
【表3】

【0213】
(3)画像記録層の形成
上記のようにして形成された下塗り層上に、下記組成の画像記録層塗布液(1)をバー塗布した後、100℃60秒でオーブン乾燥し、乾燥塗布量1.0g/mの画像記録層を形成した。
画像記録層塗布液(1)は下記感光液(1)及びミクロゲル液(1)を塗布直前に混合し攪拌することにより得た。
【0214】
<感光液(1)>
・バインダーポリマー(1)〔下記構造〕 0.240g
・赤外線吸収染料(1)〔下記構造〕 0.030g
・重合開始剤(1)〔下記構造〕 0.162g
・ラジカル重合性化合物
トリス(アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート
(NKエステルA−9300、新中村化学(株)製) 0.192g
・低分子親水性化合物
トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート 0.062g
・低分子親水性化合物(1)〔下記構造〕 0.050g
・感脂化剤 ホスホニウム化合物(1)〔下記構造〕 0.055g
・感脂化剤
ベンジル−ジメチル−オクチルアンモニウム・PF6塩 0.018g
・感脂化剤 アンモニウム基含有ポリマー
[下記構造、還元比粘度44cSt/g/ml] 0.035g
・フッ素系界面活性剤(1)〔下記構造〕 0.008g
・2−ブタノン 1.091g
・1−メトキシ−2−プロパノール 8.609g
【0215】
<ミクロゲル液(1)>
・ミクロゲル(1) 2.640g
・蒸留水 2.425g
【0216】
上記の、バインダーポリマー(1)、赤外線吸収染料(1)、重合開始剤(1)、ホスホニウム化合物(1)、低分子親水性化合物(1)、アンモニウム基含有ポリマー、及びフッ素系界面活性剤(1)の構造は、以下に示す通りである。
【0217】
【化23】

【0218】
【化24】

【0219】
−ミクロゲル(1)の合成−
油相成分として、下記構造の多官能イソシアナート(三井化学ポリウレタン製;75質量%酢酸エチル溶液)4.46g、トリメチロールプロパン(6モル)とキシレンジイソシアナート(18モル)を付加させ、これにメチル片末端ポリオキシエチレン(1モル、なおオキシエチレン単位の繰り返し数は90)を付加させた付加体(三井化学ポリウレタン製;50質量%酢酸エチル溶液)10g、ペンタエリスリトールトリアクリレート(日本化薬(株)製、SR444)3.15g、及びパイオニンA−41C(竹本油脂(株)製)0.1gを酢酸エチル17gに溶解した。水相成分としてポリビニルアルコール((株)クラレ製PVA−205)の4質量%水溶液40gを調製した。油相成分及び水相成分を混合し、ホモジナイザーを用いて12,000rpmで10分間乳化した。得られた乳化物を、蒸留水25gに添加し、室温で30分攪拌後、50℃で3時間攪拌した。このようにして得られたミクロゲル液の固形分濃度を、15質量%になるように蒸留水を用いて希釈し、これを前記ミクロゲル(1)とした。ミクロゲルの平均粒径を光散乱法により測定したところ、平均粒径は0.2μmであった。
【0220】
【化25】

【0221】
(4)保護層の形成
上記画像記録層上に、更に下記組成の保護層塗布液(1)をバー塗布した後、120℃、60秒でオーブン乾燥し、乾燥塗布量0.15g/mの保護層を形成して平版印刷版原版(1)〜(46)〔実施例1〜46用〕、及び平版印刷版原版(R−1)〜(R−7)〔比較例1〜7用〕を得た。
【0222】
<保護層塗布液(1)>
・無機質層状化合物分散液(1) 1.5g
・ポリビニルアルコール(日本合成化学工業(株)製CKS50、スルホン酸変性、
けん化度99モル%以上、重合度300)6質量%水溶液 0.55g
・ポリビニルアルコール((株)クラレ製PVA−405、
けん化度81.5モル%、重合度500)6質量%水溶液 0.03g
・日本エマルジョン(株)製界面活性剤
(エマレックス710)1質量%水溶液 0.86g
・イオン交換水 6.0g
【0223】
(無機質層状化合物分散液(1)の調製)
イオン交換水193.6gに合成雲母ソマシフME−100(コープケミカル(株)製)6.4gを添加し、ホモジナイザーを用いて平均粒径(レーザー散乱法)が3μmになるまで分散した。得られた分散粒子のアスペクト比は100以上であった。
【0224】
2.平版印刷版原版47の作製
特定共重合体1の合成において、メトキシポリオキシエチレンメタクリレート(平均EO鎖長=23)の代わりに2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(MRCユニテック(株)製)を用いて特定共重合体47得た。
この特定共重合体47を使用した以外は、平版印刷版原版1の作製と同様にして、平版印刷版原版47(実施例47用)を作製した。
【0225】
3.評価
得られた平版印刷版原版を赤外線半導体レーザー搭載の富士フイルム(株)製Luxel PLATESETTER T−6000IIIにて、外面ドラム回転数1000rpm、レーザー出力70%、解像度2400dpiの条件で露光した。露光画像にはベタ画像及び20μmドットFMスクリーンの50%網点チャートを含むようにした。
得られた露光済み原版を現像処理することなく、(株)小森コーポレーション製印刷機LITHRONE26の版胴に取り付けた。Ecolity−2(富士フイルム(株)製)/水道水=2/98(容量比)の湿し水とValues−G(N)墨インキ(大日本インキ化学工業(株)製)とを用い、LITHRONE26の標準自動印刷スタート方法で湿し水とインキとを供給して機上現像した後、毎時10000枚の印刷速度で、特菱アート(76.5kg)紙に印刷を100枚行った。
【0226】
<耐刷性>
上述した機上現像性を行った後、更に印刷を続けた。印刷枚数を増やしていくと徐々に画像記録層が磨耗するため印刷物上のインキ濃度が低下した。印刷物におけるFMスクリーン50%網点の網点面積率をグレタグ濃度計で計測した値が印刷100枚目の計測値よりも5%低下したときの印刷部数を刷了枚数として耐刷性を評価した。刷了枚数が多いほど、耐刷性が高いことを示す。
【0227】
<経時後の耐汚れ性>
60℃相対湿度70%に設定した恒温恒湿室中に4日間放置した平版印刷版原版を上記方法で印刷を行い、機上現像完了後20枚目の印刷物を抜き取り、非画像部に付着しているインキ濃度により耐汚れ性を評価した。目視評価で10点満点で点数をつけた。点数の高い方が、耐汚れ性が良好であることを表す。非画像部のインキ付着は、必ずしも均一に発生するわけではないため、耐汚れ性の評価を目視評価の点数とした。
【0228】
【表4】

【0229】
【表5】

【0230】
[実施例51〜58及び比較例11〜14]
実施例1と同様に表6記載の特定共重合体を有する下塗り層を設けた後に、下記の画像記録層塗布液(2)をバー塗布した後、70℃、60秒でオーブン乾燥し、乾燥塗布量0.6g/mの画像記録層を作製し、平版印刷版原版(51)〜(58)、及び平版印刷版原版(R−11)〜(R−14)を得た。を得た。
【0231】
<画像記録層塗布液(2)>
・ポリマー微粒子水分散液(1) 20.0g
・赤外線吸収染料(2)[下記構造] 0.2g
・ラジカル発生剤 Irgacure250(チバスペシャリティケミカルズ製) 0.5g
・ラジカル重合性化合物 SR-399(サートマー社製) 1.50g
・メルカプト−3−トリアゾール 0.2g
・Byk336(Byk Chimie社製) 0.4g
・KlucelM(Hercules社製) 4.8g
・ELVACITE4026(Ineos Acrylica社製) 2.5g
・n−プロパノール 55.0g
・2−ブタノン 17.0g
【0232】
なお、上記組成中の商品名で記載の化合物は下記の通りである。
・IRGACURE 250:(4−メトキシフェニル)[4−(2−メチルプロピル)フェニル]ヨードニウム=ヘキサフルオロホスファート(75質量%プロピレンカーボナート溶液)
・SR-399:ジペンタエリスリトールペンタアクリレート
・BYK 336:変性ジメチルポリシロキサン共重合体(25質量%キシレン/メトキシプロ
ピルアセテート溶液)
・KLUCEL M:ヒドロキシプロピルセルロース(2質量%水溶液)
・ELVACITE 4026:高分岐ポリメチルメタクリレート(10質量%2−ブタノン溶液)
【0233】
【化26】

【0234】
(ポリマー微粒子水分散液(1)の製造)
1000mlの4つ口フラスコに撹拌機、温度計、滴下ロート、窒素導入管、還流冷却器を施し、窒素ガスを導入して脱酸素を行いつつ、ポリエチレングリコールメチルエーテルメタクリレート(PEGMA エチレングリコールの平均の繰返し単位は50)10g、蒸留水200g及びn−プロパノール200gを加えて内温が70℃となるまで加熱した。次に予め混合されたスチレン(St)10g、アクリロニトリル(AN)80g及び2,2’−アゾビスイソブチロニトリル0.8gの混合物を1時間かけて滴下した。滴下終了後5時間そのまま反応を続けた後、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル0.4gを添加し、内温を80℃まで上昇させた。続いて、0.5gの2,2’−アゾビスイソブチロニトリルを6時間かけて添加した。合計で20時間反応させた段階でポリマー化は98%以上進行しており、質量比でPEGMA/St/AN=10/10/80のポリマー微粒子水分散液(1)が得られた。このポリマー微粒子の粒径分布は、粒子径150nmに極大値を有していた。
【0235】
ここで、粒径分布は、ポリマー微粒子の電子顕微鏡写真を撮影し、写真上で微粒子の粒径を総計で5000個測定し、得られた粒径測定値の最大値から0の間を対数目盛で50分割して各粒径の出現頻度をプロットして求めた。なお非球形粒子については写真上の粒子面積と同一の粒子面積を持つ球形粒子の粒径値を粒径とした。
【0236】
得られた平版印刷版原版(51)〜(58)及び(R−11)〜(R−14)を実施例1〜47と同様に評価した。結果を下記表6に示す。
【0237】
【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体上に、(A)重合開始剤、(B)赤外線吸収染料、及び(C)重合性化合物を含有し、印刷インキ及び湿し水の少なくともいずれかにより除去可能な画像記録層を有する平版印刷版原版であって、前記支持体と前記画像記録層の間に設けられる下塗り層に、(D)下記一般式(a1−1)で表されるモノマーに由来の繰り返し単位、下記一般式(a1−2)で表されるモノマーに由来の繰り返し単位、及び親水性基を側鎖に有する繰り返し単位を含み、一般式(a1−1)で表されるモノマーに由来の繰り返し単位と一般式(a1−2)で表されるモノマーに由来の繰り返し単位の質量の和に対する、一般式(a1−2)で表されるモノマーに由来の繰り返し単位の質量比が0.03〜0.25である共重合体を含有することを特徴とする平版印刷版原版。
一般式(a1−1) CH=C(R)COO(RO)P=O(OH)
一般式(a1−2) [CH=C(R)COO(RO)P=O(OH)
ここで、Rはそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を表し、Rはそれぞれ独立に分岐してもよい炭素数2〜3のアルキレン基を表し、nはそれぞれ独立に1〜10の整数を表す。
【請求項2】
前記共重合体に含まれる親水性基を側鎖に有する繰り返し単位が、(a2)オキシアルキレン構造を側鎖に含有する繰り返し単位、及び(a3)双性イオン構造を側鎖に含有する繰り返し単位から選ばれる少なくとも一つの繰り返し単位であることを特徴とする請求項1に記載の平版印刷版原版。
【請求項3】
前記共重合体が、更に、(a4)エチレン性不飽和結合を側鎖に含有する繰り返し単位を含有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の平版印刷版原版。
【請求項4】
前記共重合体において、一般式(a1−1)で表されるモノマーに由来する繰り返し単位と一般式(a1−2)で表されるモノマーに由来する繰り返し単位の質量の和に対する、一般式(a1−2)で表されるモノマーに由来する繰り返し単位の質量比が、0.03以上0.10以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の平版印刷版原版。
【請求項5】
前記共重合体において、一般式(a1−1)で表されるモノマーに由来する繰り返し単位、及び一般式(a1−2)で表されるモノマーに由来する繰り返し単位の質量の和が、共重合体を構成する全繰り返し単位の総質量に対する質量比で0.01以上0.8以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の平版印刷版原版。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の平版印刷版原版を、画像様露光した後、印刷機上で印刷インキ及び湿し水の少なくともいずれかを供給して画像記録層未露光部を除去することを特徴とする平版印刷版の製版方法。

【公開番号】特開2011−251431(P2011−251431A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−125335(P2010−125335)
【出願日】平成22年5月31日(2010.5.31)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】