説明

平版印刷版原版

【課題】耐刷性、耐汚れ性および耐微小腐食汚れ性に優れた平版印刷版原版の提供。
【解決手段】支持体上に、(A)赤外線吸収色素、および、(B)疎水性熱可塑性粒子を含む画像記録層を有する平版印刷版原版において、前記支持体が、表面における円相当直径が0.2μm以上の金属間化合物の密度が35000個/mm2以上のアルミニウム合金板を用いて作成されることを特徴とする平版印刷版原版。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平版印刷版原版に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、平版印刷版は、印刷過程でインクを受容する親油性の画像部と湿し水を受容する親水性の非画像部とからなる。このような平版印刷版としては、従来から、親水性支持体上に親油性の感光性樹脂層を設けたPS版が広く用いられている。従来のPS版に於ける製版工程は、露光の後、非画像部を高アルカリの現像処理液で溶解除去する操作が必要であり、このような付加的な湿式の処理を簡易化又は不要化することが、従来技術に対して改善が望まれてきた一つの課題である。特に近年は、地球環境への配慮から湿式処理に伴って排出される廃液の処分が産業界全体の大きな関心事となっているので、この面での改善の要請は一層強くなっている。
【0003】
一方、近年のこの分野のもう一つの動向としては、画像情報をコンピュータを用いて電子的に処理、蓄積、出力する、ディジタル化技術が広く普及してきており、このような、ディジタル化技術に対応した、新しい画像出力方式が種々実用されるようになってきている。これに伴い、レーザー光のような高収斂性の輻射線にディジタル化された画像情報を担持してこの光で原板を走査露光し、リスフィルムを介することなく、直接印刷版を製造するコンピュータ・トゥ・プレート技術が注目されている。
【0004】
なかでも、最近、半導体レーザー、YAGレーザー等の固体レーザーで高出力のものが安価に入手できるようになってきたことから、高出力レーザーを用いた高パワー密度の露光を用いる製版方法が有望視されるようになっている。
【0005】
このような平版印刷版用原版のなかで、簡易な現像処理に適した有望な方法の一つは、親水性バインダーポリマー中に疎水性熱可塑性ポリマー粒子を分散した親水層を画像記録層とする平版印刷版用原版である。画像記録層に露光を行うと疎水性熱可塑性ポリマー粒子が融着し、親水層表面が親油性画像部に変換することを利用した方法である。
【0006】
特許文献1、2には、疎水性熱可塑性ポリマー粒子を有する画像記録層を簡易な現像方法で現像する平版印刷版の作成方法が記載されている。
【0007】
しかしながら、このような疎水性熱可塑性ポリマー粒子を含有する非画像部分の画像記録層を、簡易な現像手段により充分に除去することは困難であり、非画像部に画像記録層成分が残存し、印刷において汚れを生じるという問題があった。また、長期間保存した場合に、非画像部表面の一部にインキが付着しやすい箇所が発生し、印刷された紙等に表れる点状または円環状の汚れ(以下、「微小腐食汚れ」ともいう。)が生じることがあった。
【0008】
また、特許文献3〜5では、支持体の金属間化合物に着目した平版印刷版原版の支持体が記載されており、いずれも金属間化合物が35000個/mm2以下の支持体に関する発明である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−255527号公報
【特許文献2】特開2003−316021号公報
【特許文献3】特開2002−160466号公報
【特許文献4】特許第3788943号公報
【特許文献5】特開2002−88434号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者は、この微小腐食汚れが発生する原因について検討したところ、まず、疎水性熱可塑性ポリマー粒子を有する画像記録層は、疎水性熱可塑性ポリマー粒子が配列した画像記録層とするので、外気等の影響により画像記録層中に水分を包含しやすいものとなっていることに着目した。そして、外気等の影響により画像記録層中に包含する水分や、その水分によりアニオン化した親水性成分(以下、単に「アニオン」という。)の存在により、アルミニウム合金板の腐食が生じ、それにより微小腐食汚れが生じていることを明らかとした。
【0011】
一方、アルミニウム合金板の金属間化合物について、例えば、特開2005−330588号公報、特開2005−232596号公報、特開平11−151870号公報等には、平版印刷版用アルミニウム合金板に含まれる金属間化合物に関する内容が記載されている。
具体的には、Al−Fe系金属間化合物は、Al−Fe−Si系金属間化合物よりも電解粗面化の際のピットの起点となりやすいことや、Al−Fe系金属間化合物の中でも、準安定相のAl−Fe系金属間化合物がピットの起点となりやすいことが記載されている。また、特開2005−330588号公報には、Fe/Alの割合が0.6以下の準安定相粒子の数が、全金属間化合物粒子数に対して0.35以上であると均一な砂目が形成すると記載されている。更に、特開2005−232596号公報には、AlFe系晶析出物が平均で0.5〜2.0%含まれるアルミニウム合金板が記載されている。また、特開平11−151870号公報には、Al−Fe系金属間化合物粒子数/Al−Fe−Si系金属間化合物粒子数の比が0.7以上であることを特徴としている。
しかしながら、これらの特許文献には、画像記録層によるアルミニウム基板の腐食を抑制するための金属間化合物に関する記述はなされていない。
【0012】
そこで、本発明は、耐刷性、耐汚れ性および耐微小腐食汚れ性に優れた平版印刷版原版を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究した結果、表面における金属間化合物密度が35000個/mm2以上のアルミニウム合金板を用いて作成した支持体を使用することにより、耐刷性、耐汚れ性および耐微小腐食汚れ性に優れた平版印刷版原版を得ることができることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下の(1)〜(8)を提供する。
【0014】
(1)支持体上に、(A)赤外線吸収色素、および、(B)疎水性熱可塑性粒子を含む画像記録層を有する平版印刷版原版において、
上記支持体が、表面における円相当直径が0.2μm以上の金属間化合物の密度が35000個/mm2以上のアルミニウム合金板を用いて作成されることを特徴とする平版印刷版原版。
【0015】
(2)上記疎水性熱可塑性粒子がスチレン−アクリロニトリル粒子であることを特徴とする上記(1)に記載の平版印刷版原版。
【0016】
(3)上記アルミニウム合金板が、表面における円相当直径が1.0μm以上の金属間化合物の個数が2500個/mm2以下であることを特徴とする、上記(1)または(2)に記載の平版印刷版原版。
【0017】
(4)X線回折装置(XRD)を用いて測定される、上記アルミニウム合金板のAl−Fe系金属間化合物のピークカウント値が400cps以下であり、AlFeSi系金属間化合物のピークカウント値が30cps以下であることを特徴とする、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の平版印刷版原版。
【0018】
(5)上記支持体の前記画像記録層が形成される側の表面には、マイクロポアを有する陽極酸化皮膜が形成されており、該陽極酸化皮膜の表層における平均ポア径が10〜75nmであり、ポア内部における最大径の平均値が前記平均ポア径の1.1〜3.0倍であることを特徴とする、上記(1)〜(4)のいずれかに記載の平版印刷版原版。
【0019】
(6)上記陽極酸化皮膜が、硫酸またはリン酸を含有する電解液を用いた陽極酸化処理により形成されたものであることを特徴とする、上記(1)〜(5)のいずれかに記載の平版印刷版原版。
【0020】
(7)上記アルミニウム合金板が、連続鋳造法により製造されたアルミニウム合金板であることを特徴とする、上記(1)〜(6)のいずれかに記載の平版印刷版原版。
【0021】
(8)上記(1)〜(7)のいずれかに記載の平版印刷版原版に画像記録を行った後、擦り部材を備えた自動処理機により、処理液の存在下、擦り部材で版面を擦り、非画像部の画像記録層を除去する工程を含むことを特徴とする平版印刷版の作製方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、耐刷性、耐汚れ性および耐微小腐食汚れ性に優れた平版印刷版原版を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】電気化学的粗面化処理に用いられる交番波形電流波形図の一例を示すグラフである。
【図2】交流を用いた電気化学的粗面化処理におけるラジアル型セルの一例を示す側面図である。
【図3】陽極酸化処理に用いられる陽極酸化処理装置の概略図である。
【図4】電気化学的粗面化処理に用いられる正弦波形図の一例を示すグラフである。
【図5】本発明の平版印刷版の作製方法の現像処理に適した自動処理機の構成を示す配置図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の平版印刷版原版は、支持体上に、(A)赤外線吸収色素、および、(B)疎水性熱可塑性粒子を含む画像記録層を有する平版印刷版原版において、上記支持体が、表面における円相当直径が0.2μm以上の金属間化合物の密度が35000個/mm2以上のアルミニウム合金板を用いて作成されることを特徴とする。
【0025】
上述したように、疎水性熱可塑性ポリマー粒子を有する画像記録層は、疎水性熱可塑性ポリマー粒子が配列した画像記録層とするので、外気等の影響により画像記録層中に水分を包含しやすいものとなっている。そして、外気等の影響により画像記録層中に包含する水分や、その水分によりアニオン化した親水性成分(以下、単に「アニオン」という。)の存在により、アルミニウム合金板の腐食が生じ、それにより微小腐食汚れが生じる。
本発明者は、アルミニウム合金板の表面に円相当直径が大きな金属間化合物が存在すると、画像記録層に多くの親水性成分が含有する場合にアルミニウム合金板の腐食の起点になり易く、円相当直径が1μm超の金属間化合物が存在するとこの傾向が顕著となるという知見を得た。
表面における円相当直径が0.2μm以上の金属間化合物の密度が35000個/mm2以上のアルミニウム合金板であれば、アルミニウム合金板の表面に存在する円相当直径が1μm超の金属間化合物の個数がきわめて少なくなるため、画像記録層に多くの親水性成分が含有する場合において、アルミニウム合金板の腐食、およびそれによる微小腐食汚れが抑制することができる。
微小腐食汚れの抑制という観点からは、アルミニウム合金板の表面における円相当直径が0.2μm以上の金属間化合物の密度が50000個/mm2以上であることが好ましい。
【0026】
また、アルミニウム合金板の表面に存在する金属間化合物は、該アルミニウム合金板に電気化学的粗面化処理を施す際に、有効な反応起点になるという新たな知見も得ており、表面における円相当直径が0.2μm以上の金属間化合物の密度が35000個/mm2以上のアルミニウム合金板を用いることにより、電解粗面化面の均一性がより良好となる。
【0027】
上述したように、微小腐食汚れの抑制という観点からは、アルミニウム合金板の表面に存在する円相当直径が1μm超の金属間化合物の個数が少ないことが好ましい。具体的には、アルミニウム合金板の表面における円相当直径が1.0μm以上の金属間化合物の個数が2500個/mm2以下であることが好ましく、1500個/mm2以下であることがより好ましい。
【0028】
ここで、アルミニウム合金板の表面における金属間化合物の個数および密度は、以下に示す方法で測定することができる。
まず、アルミニウム合金板について、その表面の油分をアセトンでふき取ったものを測定試料として用いる。
次に、走査型電子顕微鏡(PC−SEM7401F、日本電子社製)を用い、加速電圧を12.0kV、倍率2000倍の条件で、アルミニウム合金板表面の反射電子像を撮影する。
次いで、得られた反射電子像から任意に選んだ5箇所の画像をJPEG形式で保存し、MS−Paint(マイクロソフト社製)を用いてbmf(ビットマップファイル)形式に変換する。
このbmf形式ファイルを画像解析ソフトImageFactory Ver.3.2日本語版(旭ハイテック社製)に読み込んで画像解析を行った後、画像の静的二値化処理を行い、白く抜けた金属間化合物に対応する部分をカウントし、特徴量として円相当直径(等価円直径)を指定して粒度分布を得る。
この粒度分布の結果から、円相当直径が0.2μm以上の金属間化合物の密度を算出する。なお、この算出は、5箇所の画像データ(粒度分布)の各々から算出した個数の平均値を百の位で四捨五入して行う。
また、同様の手順で円相当直径が1μm以上の金属間化合物の個数を算出する。
なお、上記したアルミニウム合金板表面における金属間化合物の密度、若しくは、金属間化合物の個数は、平版印刷版原版を製造した後においては、画像記録層が形成されていないアルミニウム合金板の裏面において同様に測定することができる。
【0029】
アルミニウム合金板に存在する金属間化合物は、アルミニウム合金板に含まれる金属元素の種類によって異なるが、Al、SiおよびFeを必須成分として含む、後述するアルミニウム合金板の好適態様の場合、アルミニウム合金板に存在する金属間化合物としては、具体的には、例えば、Al3Fe、Al6FeといったAl−Fe系金属間化合物、および、α−AlFeSi、β−AlFeSiといったAlFeSi系金属間化合物が挙げられる。
なお、本発明に用いるアルミニウム合金板は、Al含有量が99質量%以上であり、微量元素として、Si、Fe、Ni、Mn、Cu、Mg、Cr、Zn、Bi、Ti、および、Vからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含有するものである。
本発明に用いるアルミニウム合金板は、Al、SiおよびFeを必須成分として含む、後述するアルミニウム合金板の好適態様であることが好ましい。
【0030】
上述したように、Al、SiおよびFeを必須成分として含むアルミニウム合金板の好適態様の場合、アルミニウム合金板には、Al3Fe、Al6FeといったAl−Fe系金属間化合物、若しくは、α−AlFeSi、β−AlFeSiといったAlFeSi系金属間化合物、または、それらの両方が存在する。
これらのうち、Al−Fe系金属間化合物は、画像記録層に多くの親水性成分が含有する場合において、アルミニウム合金板の腐食の起点になるという知見を得ており、微小腐食汚れの抑制という観点からは、アルミニウム合金板に含まれるAl−Fe系金属間化合物の量は少ないことが好ましい。具体的には、X線回折装置(XRD)を用いて測定される、アルミニウム合金板のAl−Fe系金属間化合物のピークカウント値が400cps以下であることが好ましく、特に、Al3FeとAl6Feの両方のピークカウント値が400cps以下であることが好ましい。
ここで、Al−Fe系金属間化合物のピークカウント値とは、X線回折装置(例えば、RAD−rR(12kW回転対陰極型、リガク社製))にアルミニウム合金板をセットし、以下の条件により測定した。
・設定管電圧 50kV
・設定管電流 200mA
・サンプリング間隔 0.01°
・スキャン速度 1°/分
・2θ走査範囲 10°〜70°
・グラファイトモノクロメータ使用
微小腐食汚れの抑制という観点からは、アルミニウム合金板のAl−Fe系金属間化合物のピークカウント値が200cps以下であることが好ましく、特に、Al3FeとAl6Feの両方のピークカウント値が200cps以下であることが好ましい。
【0031】
一方、α−AlFeSi、β−AlFeSiといったAl−Fe−Si系金属間化合物は、Al−Fe系金属間化合物と比較して、アルミニウム合金板の腐食の起点となり難いことを見出している。
これらのうち、Al−Fe系金属間化合物は、画像記録層に多くの親水性成分が含有する場合において、アルミニウム合金板の腐食の起点になるという知見を得ており、微小腐食汚れの抑制という観点からは、アルミニウム合金板に含まれるAl−Fe−Si系金属間化合物(特に、α−AlFeSi)の量は多いことが好ましい。具体的には、X線回折装置(XRD)を用いて測定される、アルミニウム合金板のAl−Fe−Si系金属間化合物(特に、α−AlFeSi)のピークカウント値が30cps以上であることが好ましく、50cps以上であることがより好ましい。
【0032】
<アルミニウム合金板(圧延アルミ)>
以下、本発明に用いるアルミニウム合金板の好適態様について記載する。
本発明に用いるアルミニウム合金板の好適態様は、Al含有量が99質量%以上であることに加えて、0.03〜0.20質量%のSiと0.11〜0.45質量%のFeとを含有し、Siの固溶量が120〜600ppmであり、Feの固溶量が100ppm以下である。
上述したアルミニウム合金板の好適態様を用いることで、電解粗面化処理の安定性が向上し、電解粗面化面の均一性を高めることができる。これにより、種々の電解粗面化処理条件によっても均一な電解粗面化面を有する支持体を得ることができ、該支持体を用いることで、耐刷性および耐汚れ性に優れた平版印刷版原版を得ることができる。
上述したアルミニウム合金板の好適態様における必須の合金成分は、Al、FeおよびSiであるが、任意成分として銅(Cu)を含有してもよい。
【0033】
Siは、原材料であるAl地金に不可避不純物として0.03〜0.1質量%前後含有される元素であり、原材料差によるばらつきを防ぐため、意図的に微量添加されることが多い。Siは、アルミニウム中に固溶した状態で、または、金属間化合物もしくは単独の析出物として存在する。
【0034】
本発明においては、Siの含有量は0.03〜0.20質量%であるのが好ましく、0.04〜0.18質量%であるのがより好ましく、0.05〜0.15質量%であるのがさらに好ましい。
Siの含有量がこの範囲であると、必要なSiの固溶量を確保し、また、電解粗面化処理後に陽極酸化処理を施したときであっても、陽極酸化皮膜に欠陥が生じ難くなり、平版印刷版としての耐汚れ性も良好となる。
【0035】
また、本発明においては、Siの固溶量は120〜600ppmであるのが好ましく、150〜600ppmであるのがより好ましく、150〜500ppmであるのがさらに好ましい。
Siの固溶量がこの範囲であると、電解粗面化面が均一となり、また、0.01〜0.05μmおよび0.05〜1.5μmの平均開口径を有するピットが表面全体に均一に形成される。
【0036】
Feは、アルミニウム中に固溶する量は少なく、ほとんどが金属間化合物として残存する元素である。
【0037】
本発明においては、Feの含有量は0.11〜0.45質量%であるのが好ましく、0.15〜0.45質量%であるのがより好ましく、0.20〜0.43質量%であるのがさらに好ましい。
Feの含有量がこの範囲であると、Feが細かい金属間化合物として分散し、それらが電解粗面化処理の起点として働く結果、電解粗面化面が均一となる。
【0038】
また、本発明においては、必要なFeの金属間化合物を確保する観点から、Feの固溶量は100ppm以下であるのが好ましく、50ppm以下であるのがより好ましく、40ppm以下であるのがさらに好ましい。
また、アルミニウム合金板の耐熱性を確保する観点から、Feの固溶量は10ppm以上であるのが好ましい。
【0039】
Cuは、電解粗面化処理を制御するうえで重要な元素であるが、本発明においては任意元素である。
本発明においては、電解粗面化の均一性を保持する観点から、Cuを含有する場合の含有量は0.030質量%以下であるのが好ましい。
【0040】
結晶粒微細化元素は、電解粗面化の均一性に影響を与えないため、鋳造時の割れ発生防止のために適宜添加してよい。そのために、例えばTiは0.05質量%以下の範囲で、Bは0.02質量%以下の範囲で添加できる。
【0041】
アルミニウム合金板の残部は、Alと不可避不純物からなる。
この不可避不純物としては、例えば、Mg、Mn、Zn、Cr、Zr、V、Zn、Be等が挙げられ、これらはそれぞれ0.05質量%以下含まれていてもよい。
また、不可避不純物の大部分は、Al地金中に含有される。不可避不純物は、例えば、Al純度99.5%の地金に含有されるものであれば、本発明の効果を損なわない。
不可避不純物については、例えば、L.F.Mondolfo著「Aluminum Alloys:Structure and properties」(1976年)等に記載されている量の不純物が含有されていてもよい。
【0042】
上述したアルミニウム合金板の好適態様は、連続鋳造法により好ましく製造される。
連続鋳造による圧延は、鋳造材表面の凝固速度が大きいので晶出物が微細均一であり、DC鋳造法で必要とする鋳塊の均質化熱処理が不要であり、長時間の処理を施されないことから品質が安定しているため、平版印刷版用支持体用の素板として適切である。
【0043】
具体的には、以下の方法が好適に例示される。
まず、所定の合金成分含有量に調整したアルミニウム合金溶湯に、常法に従い、必要に応じて清浄化処理を施すことができる。
清浄化処理としては、例えば、溶湯中の水素等の不要ガスを除去するための脱ガス処理(例えば、アルゴンガス、塩素ガス等を用いたフラックス処理等);セラミックチューブフィルタ、セラミックフォームフィルタなどのいわゆるリジッドメディアフィルタや、アルミナフレーク、アルミナボールなどをろ材とするフィルタや、グラスクロスフィルタなどを用いるフィルタリング処理;このような脱ガス処理とフィルタリング処理とを組み合わせた処理;等が挙げられる。
【0044】
これらの清浄化処理は、溶湯中の非金属介在物、酸化物等の異物による欠陥や、溶湯に溶け込んだガスによる欠陥を防ぐために実施されることが好ましい。溶湯のフィルタリングに関しては、特開平6−57432号、特開平3−162530号、特開平5−140659号、特開平4−231425号、特開平4−276031号、特開平5−311261号、特開平6−136466号の各公報等に記載されている。また、溶湯の脱ガスに関しては、特開平5−51659号公報、実開平5−49148号公報等に記載されている。本出願人も、特開平7−40017号公報において、溶湯の脱ガスに関する技術を提案している。
【0045】
次いで、必要に応じて清浄化処理を施した溶湯を用いて、連続鋳造を施す。
連続鋳造は、アルミニウム合金溶湯を溶湯供給ノズルを介して一対の冷却ローラの間に供給し、該一対の冷却ローラによって該アルミニウム合金溶湯を凝固させつつ圧延を行う工程であり、双ロール法(ハンター法)、3C法に代表される冷却ロールを用いる方法、双ベルト法(ハズレー法)、アルスイスキャスターII型に代表される冷却ベルトや冷却ブロックを用いる方法等により施すことができる。
連続鋳造法は、一般的には、DC鋳造法に比べて冷却速度が速いため、アルミマトリックスに対する合金成分固溶度を高くすることができるという特徴を有する。また、冷却速度が100〜1000℃/秒の範囲で凝固する。
連続鋳造法に関しては、本出願人によって提案された技術が、特開平3−79798号、特開平5−201166号、特開平5−156414号、特開平6−262203号、特開平6−122949号、特開平6−210406号、特開平6−26308号の各公報等に記載されている。
【0046】
連続鋳造においては、例えば、ハンター法等の冷却ロールを用いる方法を用いると、板厚1〜10mmの鋳造板を直接、連続鋳造することができ、熱間圧延の工程を省略することができるというメリットが得られる。
また、ハズレー法等の冷却ベルトを用いる方法を用いると、板厚10〜50mmの鋳造板を鋳造することができ、一般的に、鋳造直後に熱間圧延ロールを配置し連続的に圧延することで、板厚1〜10mmの連続鋳造圧延板が得られる。
本発明においては、多くの金属間化合物を生成する観点から、冷却ロールを用いる方法が好ましく、また、板厚を7mm以下にするのが好ましい。
【0047】
連続鋳造後、得られたアルミニウム合金板は、必要に応じて施す冷間圧延工程等を経て、所定の厚さ、例えば、0.1〜0.5mmの板厚に仕上げられる。
【0048】
本発明においては、冷間圧延の前もしくは後、またはその途中において、Siの固溶量を増やしたり、Feの固溶量を抑制したりする観点から中間焼鈍処理を施してもよい。また、適切な中間焼鈍処理は、結晶粒を微細にする効果もあり、面質を良好なものにできる。
上記中間焼鈍処理は、金属間化合物の大きさおよび個数を適正化する観点から、過剰な高温で施したり、過度に長時間施したりすることは避けるのが望ましい。特に550℃を越える温度や36時間を超える熱処理は避けるのが望ましい。これは、上記金属間化合物がアルミニウムに再固溶したり、α−AlFeSi、β−AlFeSiのような準安定相の金属間化合物が安定相のAl3Feに変化する場合があるためである。
上記中間焼鈍処理の好適条件としては、バッチ式焼鈍炉を用いて280〜550℃で2〜20時間、好ましくは350〜550℃で2〜10時間、より好ましくは350〜550℃で2〜5時間加熱する条件;連続焼鈍炉を用いて400〜550℃で6分以下、好ましくは450〜550℃で2分以下加熱する条件;等が挙げられる。
【0049】
以上の工程によって、所定の厚さ、例えば、0.1〜0.5mmに仕上げられたアルミニウム合金板は、更にローラレベラ、テンションレベラ等の矯正装置によって平面性を改善してもよい。平面性の改善は、アルミニウム合金板をシート状にカットした後に行ってもよいが、生産性を向上させるためには、連続したコイルの状態で行うことが好ましい。
また、所定の板幅に加工するため、スリッタラインを通してもよい。
更に、アルミニウム合金板同士の摩擦による傷の発生を防止するために、アルミニウム合金板の表面に薄い油膜を設けてもよい。油膜には、必要に応じて、揮発性のものや、不揮発性のものが適宜用いられる。
【0050】
<粗面化処理>
上述した連続鋳造工程ならびに所望により行われる各種工程(例えば、中間焼鈍工程、冷間圧延工程等)を経て得られるアルミニウム合金板の表面に、粗面化処理を施すことによって、本発明の平版印刷版原版に用いる支持体を作成することができる。
粗面化処理としては、一般に、機械的粗面化処理、化学的粗面化処理および電気化学的粗面化処理のうちの1種または2種以上の組み合わせが用いられる。
本発明においては、粗面化処理として、少なくとも電解粗面化処理を施し、電解粗面化処理の前にアルカリエッチング処理(第1アルカリエッチング処理)を施すのが好ましく、電解粗面化処理の後にアルカリエッチング処理(第2アルカリエッチング処理)を施すのが好ましい。
【0051】
粗面化処理としては、電気化学的粗面化処理を2回行い、それらの間にアルカリ水溶液中でのエッチング処理を行うのが好ましく、具体的には、アルカリ水溶液中でのエッチング処理(第1アルカリエッチング処理)、酸性水溶液中でのデスマット処理(第1デスマット処理)、硝酸または塩酸を含有する水溶液中での電気化学的粗面化処理(第1電解粗面化処理)、アルカリ水溶液中でのエッチング処理(第2アルカリエッチング処理)、酸性水溶液中でのデスマット処理(第2デスマット処理)、塩酸を含有する水溶液中での電気化学的粗面化処理(第2電解粗面化処理)、アルカリ水溶液中でのエッチング処理(第3アルカリエッチング処理)および酸性水溶液中でのデスマット処理(第3デスマット処理)、陽極酸化処理をこの順に施す処理が好適に例示される。
また、上記アルカリエッチング処理(第1アルカリエッチング処理)の前に、機械的粗面化処理を施すのが好ましい。
更に、上記陽極酸化処理の後に、更に封孔処理および親水化処理を施すのも好ましい。
【0052】
本発明の平版印刷版原版に用いる支持体を製造する際には、上記以外の各種の工程を含んでいてもよい。
以下、表面処理の各工程について、詳細に説明する。
【0053】
<機械的粗面化処理>
本発明においては、アルミニウム合金板の表面の中心平均表面粗さを0.35〜1.0μmとする目的で行われる機械的粗面化処理を施すのが好ましい。
以下、機械的粗面化処理として好適に用いられるブラシグレイン法について説明する。
【0054】
ブラシグレイン法は、一般に、円柱状の胴の表面に、ナイロン(商標名)、プロピレン、塩化ビニル樹脂等の合成樹脂からなる合成樹脂毛等のブラシ毛を多数植設したローラ状ブラシを用い、回転するローラ状ブラシに研磨剤を含有するスラリー液を噴きかけながら、上記アルミニウム合金板の表面の一方または両方を擦ることにより行う。
上記ローラ状ブラシおよびスラリー液の代わりに、表面に研磨層を設けたローラである研磨ローラを用いることもできる。
【0055】
ローラ状ブラシを用いる場合、曲げ弾性率が好ましくは10,000〜40,000kg/cm2、より好ましくは15,000〜35,000kg/cm2であり、かつ、毛腰の強さが好ましくは500g以下、より好ましくは400g以下であるブラシ毛を用いる。ブラシ毛の直径は、一般的には、0.2〜0.9mmである。ブラシ毛の長さは、ローラ状ブラシの外径および胴の直径に応じて適宜決定することができるが、一般的には、10〜100mmである。
本発明では、ナイロンブラシは複数本用いるのが好ましく、具体的には、3本以上がより好ましく、4本以上が特に好ましい。ブラシの本数を調整することにより、アルミニウム合金板表面に形成される凹部の波長成分を調整できる。
【0056】
また、ブラシを回転させる駆動モータの負荷は、ブラシローラをアルミニウム合金板に押さえつける前の負荷に対して1kWプラス以上が好ましく、2kWプラス以上がより好ましく、8kWプラス以上が特に好ましい。該負荷を調整することにより、アルミニウム合金板表面に形成される凹部の深さを調整することができる。ブラシの回転数は、100回転以上が好ましく、200回転以上が特に好ましい。
【0057】
研磨剤は公知の物を用いることができる。例えば、パミストン(パミスストーン)、ケイ砂、水酸化アルミニウム、アルミナ粉、炭化ケイ素、窒化ケイ素、火山灰、カーボランダム、金剛砂等の研磨剤;これらの混合物を用いることができる。中でも、パミストン、ケイ砂が好ましい。ケイ砂は、パミストンに比べて硬く、壊れにくいので粗面化効率に優れる。また、水酸化アルミニウムは過度の荷重がかかると粒子が破損するため、局所的に深い凹部を生成させたくない場合に好適である。
研磨剤のメジアン径は、粗面化効率に優れ、かつ、砂目立てピッチを狭くすることができる点で、2〜100μmであるのが好ましく、20〜60μmであるのがより好ましい。研磨剤のメジアン径を調整することにより、アルミニウム合金板表面に形成される凹部の深さを調整することができる。
【0058】
研磨剤は、例えば、水中に懸濁させて、スラリー液として用いる。スラリー液には、研磨剤のほかに、増粘剤、分散剤(例えば、界面活性剤)、防腐剤等を含有させることができる。スラリー液の比重は0.5〜2であるのが好ましい。
機械的粗面化処理に適した装置としては、例えば、特公昭50−40047号公報に記載された装置を挙げることができる。
【0059】
ブラシと研磨剤とを用いて機械的粗面化処理を行う装置の詳細については、本出願人によって、特開2002−211159号公報に記載されているものを用いることができる。
【0060】
ブラシグレイン法以外の機械的粗面化処理としては、上述した冷間圧延の最後に転写によって表面に凹凸を形成する処理等が挙げられ、本発明においては、ブラシグレイン法に代えて、またはブラシグレイン法とともに施すことができる。
【0061】
<第1アルカリエッチング処理>
第1アルカリエッチング処理は、アルミニウム合金板をアルカリ溶液に接触させることにより、表層を溶解する処理である。
【0062】
電解粗面化処理(第1電解粗面化処理)の前に行われる第1アルカリエッチング処理は、機械的粗面化を行った場合は、その凹凸形状をなめらかにすること、電解粗面化処理(第1電解粗面化処理)で均一な凹部を形成させること、および、機械的粗面化を行わない場合には、アルミニウム合金板の表面の圧延油、汚れ、自然酸化皮膜等を除去することを目的として行われる。
第1アルカリエッチング処理においては、エッチング量は、0.1g/m2以上であるのが好ましく、0.5g/m2以上であるのがより好ましく、1g/m2以上であるのが更に好ましく、また、12g/m2以下であるのが好ましく、10g/m2以下であるのがより好ましく、8g/m2以下であるのが更に好ましい。エッチング量の下限が上記範囲にあると、電解粗面化処理(第1電解粗面化処理)において均一なピットを生成でき、更に処理ムラの発生を防止できる。エッチング量の上限が上記範囲にあると、アルカリ水溶液の使用量が少なくなり、経済的に有利となる。
【0063】
アルカリ溶液に用いられるアルカリとしては、例えば、カセイアルカリ、アルカリ金属塩が挙げられる。具体的には、カセイアルカリとしては、例えば、カセイソーダ、カセイカリが挙げられる。また、アルカリ金属塩としては、例えば、メタケイ酸ソーダ、ケイ酸ソーダ、メタケイ酸カリ、ケイ酸カリ等のアルカリ金属ケイ酸塩;炭酸ソーダ、炭酸カリ等のアルカリ金属炭酸塩;アルミン酸ソーダ、アルミン酸カリ等のアルカリ金属アルミン酸塩;グルコン酸ソーダ、グルコン酸カリ等のアルカリ金属アルドン酸塩;第二リン酸ソーダ、第二リン酸カリ、第一リン酸ソーダ、第一リン酸カリ等のアルカリ金属リン酸水素塩が挙げられる。中でも、エッチング速度が速い点および安価である点から、カセイアルカリの溶液、および、カセイアルカリとアルカリ金属アルミン酸塩との両者を含有する溶液が好ましい。特に、カセイソーダの水溶液が好ましい。
【0064】
第1アルカリエッチング処理においては、アルカリ溶液の濃度は、30g/L以上であるのが好ましく、300g/L以上であるのがより好ましく、また、500g/L以下であるのが好ましく、450g/L以下であるのがより好ましい。
また、アルカリ溶液は、アルミニウムイオンを含有しているのが好ましい。アルミニウムイオン濃度は、1g/L以上であるのが好ましく、50g/L以上であるのがより好ましく、また、200g/L以下であるのが好ましく、150g/L以下であるのがより好ましい。このようなアルカリ溶液は、例えば、水と48質量%カセイソーダ水溶液とアルミン酸ソーダとを用いて調製することができる。
【0065】
第1アルカリエッチング処理においては、アルカリ溶液の温度は、30℃以上であるのが好ましく、50℃以上であるのがより好ましく、また、80℃以下であるのが好ましく、75℃以下であるのがより好ましい。
第1アルカリエッチング処理においては、処理時間は、1秒以上であるのが好ましく、2秒以上であるのがより好ましく、また、30秒以下であるのが好ましく、15秒以下であるのがより好ましい。
【0066】
アルミニウム合金板を連続的にエッチング処理していくと、アルカリ溶液中のアルミニウムイオン濃度が上昇していき、アルミニウム合金板のエッチング量が変動する。そこで、エッチング液の組成管理を、以下のようにして行うのが好ましい。
即ち、カセイソーダ濃度とアルミニウムイオン濃度とのマトリクスに対応する、電導度と比重と温度とのマトリクス、または、電導度と超音波伝搬速度と温度とのマトリクスをあらかじめ作成しておき、電導度と比重と温度、または、電導度と超音波伝搬速度と温度によって液組成を測定し、液組成の制御目標値になるようにカセイソーダと水とを添加する。そして、カセイソーダと水とを添加することによって増加したエッチング液を、循環タンクからオーバーフローさせることにより、その液量を一定に保つ。添加するカセイソーダとしては、工業用の40〜60質量%のものを用いることができる。
電導度計および比重計としては、それぞれ温度補償されているものを用いるのが好ましい。比重計としては、差圧式のものを用いるのが好ましい。
【0067】
アルミニウム合金板をアルカリ溶液に接触させる方法としては、例えば、アルミニウム合金板をアルカリ溶液を入れた槽の中を通過させる方法、アルミニウム合金板をアルカリ溶液を入れた槽の中に浸せきさせる方法、アルカリ溶液をアルミニウム合金板の表面に噴きかける方法が挙げられる。
【0068】
中でも、アルカリ溶液をアルミニウム合金板の表面に噴きかける方法が好ましい。具体的には、φ2〜5mmの孔を10〜50mmピッチで有するスプレー管から、スプレー管1本あたり、10〜100L/minの量でエッチング液を吹き付ける方法が好ましい。スプレー管は複数本設けるのが好ましい。
【0069】
アルカリエッチング処理が終了した後は、ニップローラで液切りし、更に、1〜10秒間水洗処理を行った後、ニップローラで液切りするのが好ましい。
水洗処理は、自由落下カーテン状の液膜により水洗処理する装置を用いて水洗し、更に、スプレー管を用いて水洗するのが好ましい。
【0070】
自由落下カーテン状の液膜により水洗処理する装置は、水を貯留する貯水タンクと、貯水タンクに水を供給する給水筒と、貯水タンクから自由落下カーテン状の液膜をアルミニウム合金板に供給する整流部とを有する。
この装置においては、給水タンクに給水筒から水が供給され、水が給水タンクからオーバーフローする際に、整流部により整流され、自由落下カーテン状の液膜がアルミニウム合金板に供給される。この装置を用いる場合、液量は10〜100L/minであるのが好ましい。また、整流部とアルミニウムとの間で水が自由落下カーテン状の液膜として存在する距離Lは、20〜50mmであるのが好ましい。また、アルミニウム合金板の角度αは、水平方向に対して30〜80°であるのが好ましい。
【0071】
自由落下カーテン状の液膜により水洗処理する装置を用いると、アルミニウム合金板に均一に水洗処理を施すことができるので、水洗処理の前に行われた処理の均一性を向上させることができる。自由落下カーテン状の液膜により水洗処理する具体的な装置としては、例えば、特開2003−96584号公報に記載されている装置が好適に挙げられる。
【0072】
また、水洗処理に用いられるスプレー管としては、例えば、扇状に噴射水が広がるスプレーチップをアルミニウム合金板の幅方向に複数個有するスプレー管を用いることができる。スプレーチップの間隔は20〜100mmであるのが好ましく、また、スプレーチップ1本あたりの液量は0.5〜20L/minであるのが好ましい。スプレー管は複数本用いるのが好ましい。
【0073】
<第1デスマット処理>
第1アルカリエッチング処理を行った後、表面に残留する汚れ(スマット)を除去するために酸洗い(第1デスマット処理)を行うのが好ましい。デスマット処理は、アルミニウム合金板を酸性溶液に接触させることにより行う。
【0074】
用いられる酸としては、例えば、硝酸、硫酸、リン酸、クロム酸、フッ化水素酸、ホウフッ化水素酸が挙げられる。
なお、第1アルカリエッチング処理の後に行われる第1デスマット処理においては、電解粗面化処理(第1電解粗面化処理)として引き続き硝酸電解が行われる場合には、硝酸電解に用いられる電解液のオーバーフロー廃液を用いるのが好ましい。
【0075】
デスマット処理液の組成管理においては、酸性溶液濃度とアルミニウムイオン濃度とのマトリクスに対応する、電導度と温度で管理する方法、電導度と比重と温度とで管理する方法、および、電導度と超音波の伝搬速度と温度とで管理する方法のいずれかを選択して用いることができる。
第1デスマット処理においては、1〜400g/Lの酸および0.1〜5g/Lのアルミニウムイオンを含有する酸性溶液を用いるのが好ましい。
【0076】
酸性溶液の温度は、20℃以上であるのが好ましく、30℃以上であるのがより好ましく、また、70℃以下であるのが好ましく、60℃以下であるのがより好ましい。
【0077】
第1デスマット処理においては、処理時間は、1秒以上であるのが好ましく、4秒以上であるのがより好ましく、また、60秒以下であるのが好ましく、40秒以下であるのがより好ましい。
【0078】
アルミニウム合金板を酸性溶液に接触させる方法としては、例えば、アルミニウム合金板を酸性溶液を入れた槽の中を通過させる方法、アルミニウム合金板を酸性溶液を入れた槽の中に浸せきさせる方法、酸性溶液をアルミニウム合金板の表面に噴きかける方法が挙げられる。
中でも、酸性溶液をアルミニウム合金板の表面に噴きかける方法が好ましい。具体的には、φ2〜5mmの孔を10〜50mmピッチで有するスプレー管から、スプレー管1本あたり、10〜100L/minの量でエッチング液を吹き付ける方法が好ましい。スプレー管は複数本設けるのが好ましい。
【0079】
デスマット処理が終了した後は、ニップローラで液切りし、更に、1〜10秒間水洗処理を行った後、ニップローラで液切りするのが好ましい。
水洗処理は、アルカリエッチング処理の後の水洗処理と同様である。ただし、スプレーチップ1本あたりの液量は1〜20L/minであるのが好ましい。
なお、第1デスマット処理において、デスマット処理液として、引き続き行われる硝酸電解に用いられる電解液のオーバーフロー廃液を用いる場合には、デスマット処理後にニップローラによる液切りおよび水洗処理を行わず、アルミニウム合金板の表面が乾かないように、必要に応じて適宜デスマット処理液をスプレーしながら、硝酸電解工程までアルミニウム合金板をハンドリングするのが好ましい。
【0080】
<第1電解粗面化処理>
第1電解粗面化処理は、硝酸または塩酸を含有する水溶液中での電解粗面化処理である。
本発明においては、第1電解粗面化処理は、硝酸を含有する電解液中で、台形波形の交流電流を用いる処理であるのが電解粗面化面のラチチュードが拡大する理由から好ましく、塩酸を含有する電解液中で、正弦波形の交流電流を用いる処理であるのが電解粗面化面の表面形状の制御しやすい理由から好ましい。
なお、第1電解粗面化処理のアルミニウム合金板表面の平均粗さRaは、0.2〜1.0μmであるのが好ましい。
【0081】
(硝酸を含有する水溶液中での電解粗面化処理(硝酸電解))
硝酸電解により、好適な凹凸構造をアルミニウム合金板の表面に形成させることができる。本発明において、アルミニウム合金板がCuを比較的多量に含有している場合には、硝酸電解において、比較的大きく、かつ、均一な凹部が形成される。その結果、本発明の平版印刷版用支持体を用いた平版印刷版は、耐刷性が優れたものになる。
【0082】
硝酸を含有する水溶液は、通常の直流または交流を用いた電気化学的な粗面化処理に用いるものを使用でき、濃度1〜100g/Lの硝酸の水溶液に、硝酸アルミニウム、硝酸ナトリウム、硝酸アンモニウム等の硝酸イオンを有する硝酸化合物の少なくとも一つを1g/Lから飽和するまでの範囲で添加して使用することができる。
また、硝酸を含有する水溶液には、鉄、銅、マンガン、ニッケル、チタン、マグネシウム、シリカ等のアルミニウム合金中に含まれる金属が溶解していてもよい。次亜塩素酸や過酸化水素を1〜100g/L添加してもよい。
具体的には、硝酸濃度5〜15g/Lの硝酸水溶液に、硝酸アルミニウムを溶解させてアルミニウムイオン濃度を3〜7g/Lとなるように調整した液が好ましい。
【0083】
硝酸を含有する水溶液の温度は、20℃以上であるのが好ましく、また、55℃以下であるのが好ましい。
【0084】
硝酸電解により、平均開口径1〜10μmのピットを形成することができる。ただし、電気量を比較的多くしたときは、電解反応が集中し、10μmを超えるハニカムピットも生成する。
【0085】
このような砂目を得るためには、電解反応が終了した時点でのアルミニウム合金板のアノード反応にあずかる電気量の総和が、150C/dm2以上であるのが好ましく、170C/dm2以上であるのがより好ましく、また、600C/dm2以下であるのが好ましく、500C/dm2以下であるのがより好ましい。
この際の電流密度は、電流のピーク値で5A/dm2以上であるのが好ましく、20〜100A/dm2であるのがより好ましい。
【0086】
(塩酸を含有する水溶液中での電解粗面化処理(塩酸電解))
塩酸を含有する水溶液は、通常の直流または交流を用いた電気化学的な粗面化処理に用いるものを使用でき、1〜30g/L、好ましくは2〜10g/Lの塩酸水溶液に、硝酸アルミニウム、硝酸ナトリウム、硝酸アンモニウム等の硝酸イオン、塩化アルミニウム、塩化ナトリウム、塩化アンモニウム等の塩酸イオンを有する塩酸または硝酸化合物の1つ以上を1g/L〜飽和まで添加して使用することができる。
また、塩酸を含有する水溶液には、鉄、銅、マンガン、ニッケル、チタン、マグネシウム、シリカ等のアルミニウム合金中に含まれる金属が溶解していてもよい。次亜塩素酸や過酸化水素を1〜100g/L添加してもよい。さらに、上記した銅と錯体を形成する化合物を1〜200g/Lの割合で添加することもできる。また、1〜100g/Lの割合で硫酸を添加することもできる。
【0087】
更に、塩酸を含有する水溶液は、塩酸を2〜10g/L含有する水溶液に、アルミニウム塩(塩化アルミニウム、AlCl3・6H2O)を添加してアルミニウムイオン濃度を3〜7g/L、好ましくは4〜6g/Lにした水溶液であることが特に好ましい。
このような塩酸水溶液を用いて電解粗面化処理を行うと、電解粗面化面がより均一になり、また、低純度のアルミニウム合金板を使用しても、高純度のアルミニウム合金板を使用しても、処理ムラが発生せず、平版印刷版としたときにより優れた耐刷性および耐汚れ性を両立できる。
【0088】
塩酸を含有する水溶液の温度は、20℃以上であるのが好ましく、30℃以上であるのがより好ましく、また、55℃以下であるのが好ましく、50℃以下であるのがより好ましい。
【0089】
塩酸を含有する水溶液への添加物、装置、電源、電流密度、流速、温度としては公知の電気化学的な粗面化に使用するものが用いることができる。電気化学的な粗面化に用いる電源は交流または直流が用いられるが、交流が特に好ましい。
【0090】
塩酸はそれ自身のアルミニウム溶解力が強いため、わずかな電流を加えるだけで表面に微細な凹凸を形成させることが可能である。この微細な凹凸は、平均開口径(ピットの径)が0.01〜1.5μmであり、アルミニウム合金板の表面の全面に均一に生成する。
また、電気量を増やしていく(電気量の総和(アノード反応)が150〜2000C/dm2)と、平均開口径0.01〜0.4μmのピットを表面に有する平均開口径1〜30μmのピットが生成する。このような砂目を得るためには電解反応が終了した時点でのアルミニウム合金板のアノード反応にあずかる電気量の総和が、10C/dm2以上であるのが好ましく、50C/dm2以上であるのがより好ましく、さらには100C/dm2以上であるのが好ましい。また、2000C/dm2以下であるのが好ましく、600C/dm2以下であるのがより好ましい。
【0091】
塩酸電解においては、電流密度は、電流のピーク値で5A/dm2以上であるのが好ましく、20〜100A/dm2であるのがより好ましい。
【0092】
上記大電気量でアルミニウム合金板を塩酸電解すると、大きなうねりと微細な凹凸を同時に形成させることができ、後述する第二アルカリエッチング処理により該大きなうねりをより均一にすることで、耐汚れ性を向上させることができる。
【0093】
第1電解粗面化処理は、例えば、特公昭48−28123号公報および英国特許第896,563号明細書に記載されている電気化学的グレイン法(電解グレイン法)に従うことができる。この電解グレイン法は、正弦波形の交流電流を用いるものであるが、特開昭52−58602号公報に記載されているような特殊な波形を用いて行ってもよい。また、特開平3−79799号公報に記載されている波形を用いることもできる。また、特開昭55−158298号、特開昭56−28898号、特開昭52−58602号、特開昭52−152302号、特開昭54−85802号、特開昭60−190392号、特開昭58−120531号、特開昭63−176187号、特開平1−5889号、特開平1−280590号、特開平1−118489号、特開平1−148592号、特開平1−178496号、特開平1−188315号、特開平1−154797号、特開平2−235794号、特開平3−260100号、特開平3−253600号、特開平4−72079号、特開平4−72098号、特開平3−267400号、特開平1−141094号の各公報に記載されている方法も適用できる。また、前述のほかに、電解コンデンサーの製造方法として提案されている特殊な周波数の交番電流を用いて電解することも可能である。例えば、米国特許第4,276,129号明細書および同第4,676,879号明細書に記載されている。
【0094】
電解槽および電源については、種々提案されているが、米国特許第4,203,637号明細書、特開昭56−123400号、特開昭57−59770号、特開昭53−12738号、特開昭53−32821号、特開昭53−32822号、特開昭53−32823号、特開昭55−122896号、特開昭55−132884号、特開昭62−127500号、特開平1−52100号、特開平1−52098号、特開昭60−67700号、特開平1−230800号、特開平3−257199号の各公報等に記載されているものを用いることができる。
また、特開昭52−58602号、特開昭52−152302号、特開昭53−12738号、特開昭53−12739号、特開昭53−32821号、特開昭53−32822号、特開昭53−32833号、特開昭53−32824号、特開昭53−32825号、特開昭54−85802号、特開昭55−122896号、特開昭55−132884号、特公昭48−28123号、特公昭51−7081号、特開昭52−133838号、特開昭52−133840号、特開昭52−133844号、特開昭52−133845号、特開昭53−149135号、特開昭54−146234号の各公報等に記載されているもの等も用いることができる。
【0095】
アルミニウム合金板を連続的に電解粗面化処理していくと、アルカリ溶液中のアルミニウムイオン濃度が上昇していき、第1電解粗面化処理により形成されるアルミニウム合金板の凹凸の形状が変動する。そこで、硝酸電解液または塩酸電解液の組成管理を、以下のようにして行うのが好ましい。
即ち、硝酸濃度または塩酸濃度とアルミニウムイオン濃度とのマトリクスに対応する、電導度と比重と温度とのマトリクス、または、電導度と超音波伝搬速度と温度とのマトリクスをあらかじめ作成しておき、電導度と比重と温度、または、電導度と超音波伝搬速度と温度によって液組成を測定し、液組成の制御目標値になるように硝酸または塩酸と水とを添加する。そして、硝酸または塩酸と水とを添加することによって増加した電解液を、循環タンクからオーバーフローさせることにより、その液量を一定に保つ。添加する硝酸としては、工業用の30〜70質量%のものを用いることができる。添加する塩酸としては、工業用の30〜40質量%のものを用いることができる。
【0096】
電導度計および比重計としては、それぞれ温度補償されているものを用いるのが好ましい。比重計としては、差圧式のものを用いるのが好ましい。
液組成の測定に用いるために電解液から採取されたサンプルは、電解液とは別の熱交換機を用いて、一定温度(例えば、40±0.5℃)に制御した後に、測定に用いるのが、測定の精度が高くなる点で好ましい。
【0097】
電気化学的粗面化処理に用いられる交流電源波は、特に限定されず、正弦波、矩形波、台形波、三角波等が用いられるが、正弦波、矩形波または台形波が好ましく、台形波が特に好ましい。第一塩酸電解の場合には、平均直径1μm以上のピットが均一に生成しやすくなる点で正弦波が特に好ましい。正弦波とは、図4に示したものをいう。
台形波とは、図1に示したものをいう。この台形波において電流がゼロからピークに達するまでの時間(TP)は0.5〜3msecであるのが好ましい。TPが3msecを超えると、特に硝酸を含有する水溶液を用いると、電解処理で自然発生的に増加するアンモニウムイオン等に代表される電解液中の微量成分の影響を受けやすくなり、均一な砂目立てが行われにくくなる。その結果、平版印刷版としたときの耐汚れ性が低下する傾向にある。
【0098】
交流のduty比は1:2〜2:1のものが使用可能であるが、特開平5−195300号公報に記載されているように、アルミニウムにコンダクタロールを用いない間接給電方式においてはduty比が1:1のものが好ましい。
交流の周波数は0.1〜120Hzのものを用いることが可能であるが、50〜70Hzが設備上好ましい。50Hzよりも低いと、主極のカーボン電極が溶解しやすくなり、また、70Hzよりも高いと、電源回路上のインダクタンス成分の影響を受けやすくなり、電源コストが高くなる。
【0099】
図2は、交流を用いた電気化学的粗面化処理に用いるラジアル型セルの一例を示す側面図である。
電解槽には1個以上の交流電源を接続することができる。主極に対向するアルミニウム合金板に加わる交流の陽極と陰極との電流比をコントロールし、均一な砂目立てを行うことと、主極のカーボンを溶解することとを目的として、図2に示したように、補助陽極を設置し、交流電流の一部を分流させることが好ましい。図2において、11はアルミニウム合金板であり、12はラジアルドラムローラであり、13aおよび13bは主極であり、14は電解処理液であり、15は電解液供給口であり、16はスリットであり、17は電解液通路であり、18は補助陽極であり、19aおよび19bはサイリスタであり、20は交流電源であり、40は主電解槽であり、50は補助陽極槽である。整流素子またはスイッチング素子を介して電流値の一部を二つの主電極とは別の槽に設けた補助陽極に直流電流として分流させることにより、主極に対向するアルミニウム合金板上で作用するアノード反応にあずかる電流値と、カソード反応にあずかる電流値との比を制御することができる。主極に対向するアルミニウム合金板上で、陽極反応と陰極反応とにあずかる電気量の比(陰極時電気量/陽極時電気量)は、0.3〜0.95であるのが好ましい。
【0100】
電解槽は、縦型、フラット型、ラジアル型等の公知の表面処理に用いる電解槽が使用可能であるが、特開平5−195300号公報に記載されているようなラジアル型電解槽が特に好ましい。電解槽内を通過する電解液は、アルミニウムウェブの進行方向に対してパラレルであってもカウンターであってもよい。
【0101】
また、直流を用いた電気化学的粗面化処理には、通常の直流を用いた電気化学的粗面化処理に用いられる電解液を用いることができる。具体的には、上記交流を用いた電気化学的粗面化処理に用いられる電解液と同様のものを用いることができる。
【0102】
電気化学的粗面化処理に用いられる直流電源波は、極性の変化しない電流であれば特に限定されず、くし形波、連続直流、商用交流をサイリスタで全波整流したもの等が用いられるが、平滑化された連続直流が好ましい。
直流を用いた電気化学的粗面化処理は、回分法、半連続法および連続法のいずれでも行うことができるが、連続法で行うのが好ましい。
【0103】
直流を用いた電気化学的粗面化処理に用いられる装置は、交互に配置された陽極と陰極との間に直流電圧を印加し、アルミニウム合金板を該陽極および該陰極と、間隔を保って通過させることができるものであれば、特に限定されない。
【0104】
電極は、特に限定されず、電気化学的粗面化処理に用いられる従来公知の電極を用いることができる。
陽極としては、例えば、チタン、タンタル、ニオブ等のバルブ金属に白金族系の金属をめっきし、またはクラッドしたもの;バルブ金属に白金族系の金属の酸化物を塗布し、または焼結させたもの;アルミニウム;ステンレスが挙げられる。中でも、バルブ金属に白金をクラッドしたものが好ましい。電極の内部に水を通して水冷化するなどの方法により、陽極の寿命を更に長くすることができる。
陰極としては、例えば、ブールベイダイヤグラムから、電極電位を負としたときに溶解しない金属等を選択して用いることができる。中でも、カーボンが好ましい。
【0105】
電極の配列は、波状構造に応じて、適宜選択することができる。また、陽極と陰極とのアルミニウム合金板の進行方向の長さを変えたり、アルミニウム合金板の通過速度を変えたり、電解液の流速、液温、液組成、電流密度等を変えることにより、波状構造を調整することができる。また、陽極の槽と陰極の槽とを別個の電解槽とした装置を用いる場合には、各処理槽の電解条件を変えることもできる。
【0106】
第1電解粗面化処理が終了した後は、ニップローラで液切りし、更に、1〜10秒間水洗処理を行った後、ニップローラで液切りするのが好ましい。
水洗処理は、スプレー管を用いて水洗するのが好ましい。水洗処理に用いられるスプレー管としては、例えば、扇状に噴射水が広がるスプレーチップをアルミニウム合金板の幅方向に複数個有するスプレー管を用いることができる。スプレーチップの間隔は20〜100mmであるのが好ましく、また、スプレーチップ1本あたりの液量は1〜20L/minであるのが好ましい。スプレー管は複数本用いるのが好ましい。
【0107】
<第2アルカリエッチング処理>
第1電解粗面化処理と第2電解粗面化処理との間に行われる第2アルカリエッチング処理は、第1電解粗面化処理で生成したスマットを溶解させること、および、第1電解粗面化処理により形成されたピットのエッジ部分を溶解させることを目的として行われる。
これにより、第1電解粗面化処理によって形成された大きなピットのエッジ部分が溶解して表面が滑らかになり、インキを該エッジ部分にひっかかりにくくするため、耐汚れ性に優れる平版印刷版原版を得ることができる。
第2アルカリエッチング処理は、基本的に第1アルカリエッチング処理と同様であるので、異なる点のみ以下に説明する。
【0108】
第2アルカリエッチング処理においては、エッチング量は、0.05g/m2以上であるのが好ましく、0.1g/m2以上であるのがより好ましく、また、4g/m2以下であるのが好ましく、3.5g/m2以下であるのがより好ましい。エッチング量が0.05g/m2以上であると、平版印刷版の非画像部において、第1電解粗面化処理で生成したピットのエッジ部分が滑らかとなり、インキがひっかかりにくくなるため、耐汚れ性が優れる。一方、エッチング量が4g/m2以下であると、第1電解粗面化処理で生成した凹凸が大きくなるため、耐刷性が優れる。
【0109】
第2アルカリエッチング処理においては、アルカリ溶液の濃度は、30g/L以上であるのが好ましく、300g/L以上であるのがより好ましく、また、500g/L以下であるのが好ましく、450g/L以下であるのがより好ましい。
また、アルカリ溶液は、アルミニウムイオンを含有しているのが好ましい。アルミニウムイオン濃度は、1g/L以上であるのが好ましく、50g/L以上であるのがより好ましく、また、200g/L以下であるのが好ましく、150g/L以下であるのがより好ましい。このようなアルカリ溶液は、例えば、水と48質量%カセイソーダ水溶液とアルミン酸ソーダとを用いて調製することができる。
【0110】
<第2デスマット処理>
第2アルカリエッチング処理を行った後、表面に残留する汚れ(スマット)を除去するために酸洗い(第2デスマット処理)を行うのが好ましい。第2デスマット処理は、第一デスマット処理と同様の方法で行うことができる。
【0111】
第2デスマット処理においては、硝酸または硫酸を用いるのが好ましい。
第2デスマット処理においては、1〜400g/Lの酸および0.1〜8g/Lのアルミニウムイオンを含有する酸性溶液を用いるのが好ましい。
硫酸を用いる場合は、具体的には、硫酸濃度100〜350g/Lの硫酸水溶液に、硫酸アルミニウムを溶解させてアルミニウムイオン濃度を0.1〜5g/Lとなるように調整した液を用いることができる。また、後述する陽極酸化処理に用いられる電解液のオーバーフロー廃液を用いこともできる。
【0112】
第2デスマット処理においては、処理時間は、1秒以上であるのが好ましく、4秒以上であるのがより好ましく、また、60秒以下であるのが好ましく、20秒以下であるのがより好ましい。
第2デスマット処理においては、酸水溶液の温度は、20℃以上であるのが好ましく、30℃以上であるのがより好ましく、また、70℃以下であるのが好ましく、60℃以下であるのがより好ましい。
【0113】
<第2電解粗面化処理(第2塩酸電解)>
第2電解粗面化処理は、塩酸を含有する水溶液中での交流または直流を用いた電気化学的粗面化処理である。
本発明においては、上述した第1電解粗面化処理だけでもよいが、この第2電解粗面化処理を組み合わせることにより、さらに複雑な凹凸構造をアルミニウム合金板の表面に形成させることができ、ひいては、耐刷性を優れたものにすることができる。
【0114】
第2電解粗面化処理は、上記第1電解粗面化処理において説明した塩酸電解と基本的に同様である。
第2電解粗面化処理における塩酸を含有する水溶液中での電気化学的な粗面化でアルミニウム合金板が陽極反応にあずかる電気量の総和は、電気化学的な粗面化処理が終了した時点で、10〜200C/dm2の範囲から選択でき、第1電解粗面化処理で形成した粗面を大きくくずさないためには、10〜100C/dm2が好ましく、50〜80C/dm2が特に好ましい。
【0115】
<第1アルカリエッチング処理−第1電解粗面化処理(硝酸電解)−第2アルカリエッチング処理−第2電解粗面化処理(第2塩酸電解)>
上記処理を組み合わせて行う場合は、硝酸を含有する電解液中でアノード反応における電気量の総和が65〜500C/dm2となる硝酸電解、溶解量が0.1g/m2以上となるアルカリエッチング処理、塩酸を含有する電解液中でアノード反応における電気量の総和が25〜100C/dm2となる第2塩酸電解、および、溶解量が0.03g/m2以上となるアルカリエッチング処理をこの順で施すのが好ましい。
この組み合わせで粗面化処理すれば、耐汚れ性および耐刷性がより優れた平版印刷版原版を得ることができる。
【0116】
<第3アルカリエッチング処理>
第2電解粗面化処理の後に行われる第3アルカリエッチング処理は、第2電解粗面化処理で生成したスマットを溶解させること、および、第2電解粗面化処理により形成されたピットのエッジ部分を溶解させることを目的として行われる。第3アルカリエッチング処理は、基本的に第1アルカリエッチング処理と同様であるので、異なる点のみ以下に説明する。
【0117】
第3アルカリエッチング処理においては、エッチング量は、0.05g/m2以上であるのが好ましく、0.1g/m2以上であるのがより好ましく、また、0.3g/m2以下であるのが好ましく、0.25g/m2以下であるのがより好ましい。エッチング量が0.05g/m2以上であると、平版印刷版の非画像部において、第二塩酸電解で生成したピットのエッジ部分が滑らかとなり、インキがひっかかりにくくなるため、耐汚れ性が優れる。一方、エッチング量が0.3g/m2以下であると、第1電解粗面化処理および第2電解粗面化処理で生成した凹凸が大きくなるため、耐刷性が優れる。
【0118】
第3アルカリエッチング処理においては、アルカリ溶液の濃度は、30g/L以上であるのが好ましく、また、前段の塩酸交流電解によって生じた凹凸を小さくしすぎないようにするため、100g/L以下であるのが好ましく、70g/L以下であるのがより好ましい。
また、アルカリ溶液は、アルミニウムイオンを含有しているのが好ましい。アルミニウムイオン濃度は、1g/L以上であるのが好ましく、3g/L以上であるのがより好ましく、また、50g/L以下であるのが好ましく、8g/L以下であるのがより好ましい。このようなアルカリ溶液は、例えば、水と48質量%カセイソーダ水溶液とアルミン酸ソーダとを用いて調製することができる。
【0119】
第3アルカリエッチング処理においては、アルカリ溶液の温度は、25℃以上であるのが好ましく、30℃以上であるのがより好ましく、また、60℃以下であるのが好ましく、50℃以下であるのがより好ましい。
第3アルカリエッチング処理においては、処理時間は、1秒以上であるのが好ましく、2秒以上であるのがより好ましく、また、30秒以下であるのが好ましく、10秒以下であるのがより好ましい。
【0120】
<第3デスマット処理>
第3アルカリエッチング処理を行った後、表面に残留する汚れ(スマット)を除去するために酸洗い(第3デスマット処理)を行うのが好ましい。第3デスマット処理は、基本的に第1デスマット処理と同様であるので、異なる点のみ以下に説明する。
第3デスマット処理においては、5〜400g/Lの酸および0.5〜8g/Lのアルミニウムイオンを含有する酸性溶液を用いるのが好ましい。硫酸を用いる場合は、具体的には、硫酸濃度100〜350g/Lの硫酸水溶液に、硫酸アルミニウムを溶解させてアルミニウムイオン濃度を1〜5g/Lとなるように調整した液が好ましい。
【0121】
第3デスマット処理においては、処理時間は、1秒以上であるのが好ましく、4秒以上であるのがより好ましく、また、60秒以下であるのが好ましく、15秒以下であるのがより好ましい。
第3デスマット処理において、デスマット処理液として、引き続き行われる陽極酸化処理に用いられる電解液と同じ種類の液を用いる場合には、デスマット処理後にニップローラによる液切りおよび水洗処理を省略することができる。
【0122】
<陽極酸化処理>
以上のように処理されたアルミニウム合金板には、陽極酸化処理を施すのが好ましい。
陽極酸化処理はこの分野で従来行われている方法で行うことができる。この場合、例えば、硫酸濃度50〜300g/Lで、アルミニウム濃度5質量%以下の溶液中で、アルミニウム合金板を陽極として通電して陽極酸化皮膜を形成させることができる。陽極酸化処理に用いられる溶液としては、硫酸、リン酸、クロム酸、シュウ酸、スルファミン酸、ベンゼンスルホン酸、アミドスルホン酸等を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0123】
この際、少なくともアルミニウム合金板、電極、水道水、地下水等に通常含まれる成分が電解液中に含まれていても構わない。更には、第二、第三の成分が添加されていても構わない。ここでいう第二、第三の成分としては、例えば、Na、K、Mg、Li、Ca、Ti、Al、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn等の金属のイオン;アンモニウムイオン等の陽イオン;硝酸イオン、炭酸イオン、塩化物イオン、リン酸イオン、フッ化物イオン、亜硫酸イオン、チタン酸イオン、ケイ酸イオン、ホウ酸イオン等の陰イオンが挙げられ、0〜10000ppm程度の濃度で含まれていてもよい。
【0124】
陽極酸化処理の条件は、使用される電解液によって種々変化するので一概に決定され得ないが、一般的には電解液濃度1〜80質量%、液温5〜70℃、電流密度0.5〜60A/dm2、電圧1〜100V、電解時間15秒〜50分であるのが適当であり、所望の陽極酸化皮膜量となるように調整される。
【0125】
また、特開昭54−81133号、特開昭57−47894号、特開昭57−51289号、特開昭57−51290号、特開昭57−54300号、特開昭57−136596号、特開昭58−107498号、特開昭60−200256号、特開昭62−136596号、特開昭63−176494号、特開平4−176897号、特開平4−280997号、特開平6−207299号、特開平5−24377号、特開平5−32083号、特開平5−125597号、特開平5−195291号の各公報等に記載されている方法を使用することもできる。
【0126】
中でも、特開昭54−12853号公報および特開昭48−45303号公報に記載されているように、電解液として硫酸溶液を用いるのが好ましい。電解液中の硫酸濃度は、10〜300g/L(1〜30質量%)であるのが好ましく、50〜200g/L(5〜20質量%)であるのがより好ましく、また、アルミニウムイオン濃度は、1〜25g/L(0.1〜2.5質量%)であるのが好ましく、2〜10g/L(0.2〜1質量%)であるのがより好ましい。このような電解液は、例えば、硫酸濃度が50〜200g/Lである希硫酸に硫酸アルミニウム等を添加することにより調製することができる。
【0127】
電解液の組成管理は、上述した硝酸電解等の場合と同様の方法を用いて、硫酸濃度とアルミニウムイオン濃度とのマトリクスに対応する、電導度と比重と温度、または、電導度と超音波伝搬速度と温度により管理するのが好ましい。
【0128】
電解液の液温は、25〜55℃であるのが好ましく、30〜50℃であるのがより好ましい。
【0129】
硫酸を含有する電解液中で陽極酸化処理を行う場合には、アルミニウム合金板と対極との間に直流を印加してもよく、交流を印加してもよい。
アルミニウム合金板に直流を印加する場合においては、電流密度は、1〜60A/dm2であるのが好ましく、5〜40A/dm2であるのがより好ましい。
連続的に陽極酸化処理を行う場合には、アルミニウム合金板の一部に電流が集中していわゆる「焼け」(皮膜が周囲より厚くなる部分)が生じないように、陽極酸化処理の開始当初は、5〜10A/m2の低電流密度で電流を流し、陽極酸化処理が進行するにつれ、30〜50A/dm2またはそれ以上に電流密度を増加させるのが好ましい。
具体的には、直流電源の電流配分を、下流側の直流電源の電流が上流側の直流電源の電流以上にするのが好ましい。このような電流配分とすることにより、いわゆる焼けが生じにくくなり、その結果、高速での陽極酸化処理が可能となる。
連続的に陽極酸化処理を行う場合には、アルミニウム合金板に、電解液を介して給電する液給電方式により行うのが好ましい。
このような条件で陽極酸化処理を行うことによりポア(マイクロポア)と呼ばれる孔を多数有する多孔質皮膜が得られるが、通常、その平均ポア径は5〜50nm程度であり、平均ポア密度は300〜800個/μm2程度である。
【0130】
また、特開平2−57391号公報に記載されているように、電解液としてリン酸溶液を用いるのが好ましい。特開平2−57391号公報に記載の方法では、電解液としてリン酸溶液を使用し、リン酸濃度15〜45質量%、電解液温度20〜70℃、電流密度2.0アンペア・分/dm2以上、電圧50V以上、電解時間15秒〜3分の条件で陽極酸化処理を実施している。
なお、上記の手順を実施することにより、陽極酸化皮膜の表層における平均ポア径(表面平均ポア径)が10〜75nm、好ましくは20〜50nmであり、ポア内部における最大径の平均値(ポア内最大径の平均値)が該平均ポア径の1.1〜3.0倍である陽極酸化皮膜を形成することができる。
【0131】
陽極酸化皮膜の量は1〜5g/m2であるのが好ましい。1g/m2未満であると版に傷が入りやすくなり、一方、5g/m2を超えると製造に多大な電力が必要となり、経済的に不利となる。陽極酸化皮膜の量は、1.5〜4g/m2であるのがより好ましい。また、アルミニウム合金板の中央部と縁部近傍との間の陽極酸化皮膜量の差が1g/m2以下になるように行うのが好ましい。
【0132】
陽極酸化処理に用いられる電解装置としては、特開昭48−26638号、特開昭47−18739号、特公昭58−24517号、特開2001−11698号の各公報等に記載されているものを用いることができる。
中でも、図3に示す装置が好適に用いられる。図3は、アルミニウム合金板の表面を陽極酸化処理する装置の一例を示す概略図である。
【0133】
図3に示される陽極酸化処理装置410では、アルミニウム合金板416に電解液を経由して通電するために、アルミニウム合金板416の進行方向の上流側に給電槽412、下流側に陽極酸化処理槽414を設置してある。アルミニウム合金板416は、パスローラ422および428により、図3中矢印で示すように搬送される。アルミニウム合金板416が最初に導入される給電槽412においては、直流電源434の正極に接続された陽極420が設置されており、アルミニウム合金板416は陰極となる。したがって、アルミニウム合金板416においてはカソード反応が起こる。
【0134】
アルミニウム合金板416が引き続き導入される陽極酸化処理槽414においては、直流電源434の負極に接続された陰極430が設置されており、アルミニウム合金板416は陽極となる。したがって、アルミニウム合金板416においてはアノード反応が起こり、アルミニウム合金板416の表面に陽極酸化皮膜が形成される。
アルミニウム合金板416と陰極430の間隔は50〜200mmであるのが好ましい。陰極430としてはアルミニウムが用いられる。陰極430としては、アノード反応により発生する水素ガスが系から抜けやすくなるようにするために、広い面積を有する電極でなく、アルミニウム合金板416の進行方向に複数個に分割した電極であるのが好ましい。
【0135】
給電槽412と陽極酸化処理槽414との間には、図3に示されるように、中間槽413と呼ばれる電解液が溜まらない槽を設けるのが好ましい。中間槽413を設けることにより、電流がアルミニウム合金板416を経由せず陽極420から陰極430にバイパスすることを抑止することができる。中間槽413にはニップローラ424を設置して液切りを行うことにより、バイパス電流を極力少なくするようにするのが好ましい。液切りにより出た電解液は、排液口442から陽極酸化処理装置410の外に排出される。
【0136】
給電槽412に貯留される電解液418は、電圧ロスを少なくするために、陽極酸化処理槽414に貯留される電解液426よりも高温および/または高濃度とする。また、電解液418および426は、陽極酸化皮膜の形成効率、陽極酸化皮膜のマイクロポアの形状、陽極酸化皮膜の硬さ、電圧、電解液のコスト等から、組成、温度等が決定される。
【0137】
給電槽412および陽極酸化処理槽414には、給液ノズル436および438から電解液を噴出させて給液する。電解液の分布を一定にし、陽極酸化処理槽414でのアルミニウム合金板416の局所的な電流集中を防ぐ目的で、給液ノズル436および438にはスリットが設けられ、噴出する液流を幅方向で一定にする構造となっている。
【0138】
陽極酸化処理槽414においては、陽極430からみてアルミニウム合金板416を挟んだ反対側にはしゃへい板440が設けられ、電流がアルミニウム合金板416の陽極酸化皮膜を形成させたい面の反対側に流れるのを抑止する。アルミニウム合金板416としゃへい板440の間隔は5〜30mmであるのが好ましい。直流電源434は複数個用いて、正極側を共通に接続して用いるのが好ましい。これによって、陽極酸化処理槽414中の電流分布を制御することができる。
【0139】
<封孔処理>
本発明においては、必要に応じて陽極酸化皮膜に存在するマイクロポアを封じる封孔処理を行ってもよい。封孔処理は、沸騰水処理、熱水処理、蒸気処理、ケイ酸ソーダ処理、亜硝酸塩処理、酢酸アンモニウム処理等の公知の方法に従って行うことができる。例えば、特公昭56−12518号公報、特開平4−4194号公報、特開平5−202496号公報、特開平5−179482号公報等に記載されている装置および方法で封孔処理を行ってもよい。
【0140】
<親水化処理>
陽極酸化処理後または封孔処理後、親水化処理を行ってもよい。親水化処理としては、例えば、米国特許第2,946,638号明細書に記載されているフッ化ジルコニウム酸カリウム処理、米国特許第3,201,247号明細書に記載されているホスホモリブデート処理、英国特許第1,108,559号に記載されているアルキルチタネート処理、独国特許第1,091,433号明細書に記載されているポリアクリル酸処理、独国特許第1,134,093号明細書および英国特許第1,230,447号明細書に記載されているポリビニルホスホン酸処理、特公昭44−6409号公報に記載されているホスホン酸処理、米国特許第3,307,951号明細書に記載されているフィチン酸処理、特開昭58−16893号公報および特開昭58−18291号公報に記載されている親油性有機高分子化合物と2価の金属との塩による処理、米国特許第3,860,426号明細書に記載されているように、水溶性金属塩(例えば、酢酸亜鉛)を含む親水性セルロース(例えば、カルボキシメチルセルロース)の下塗層を設ける処理、特開昭59−101651号公報に記載されているスルホ基を有する水溶性重合体を下塗りする処理が挙げられる。
【0141】
また、特開昭62−019494号公報に記載されているリン酸塩、特開昭62−033692号公報に記載されている水溶性エポキシ化合物、特開昭62−097892号公報に記載されているリン酸変性デンプン、特開昭63−056498号公報に記載されているジアミン化合物、特開昭63−130391号公報に記載されているアミノ酸の無機または有機酸、特開昭63−145092号公報に記載されているカルボキシ基またはヒドロキシ基を含む有機ホスホン酸、特開昭63−165183号公報に記載されているアミノ基とホスホン酸基を有する化合物、特開平2−316290号公報に記載されている特定のカルボン酸誘導体、特開平3−215095号公報に記載されているリン酸エステル、特開平3−261592号公報に記載されている1個のアミノ基とリンの酸素酸基1個を持つ化合物、特開平3−215095号公報に記載されているリン酸エステル、特開平5−246171号公報に記載されているフェニルホスホン酸等の脂肪族または芳香族ホスホン酸、特開平1−307745号公報に記載されているチオサリチル酸のようなS原子を含む化合物、特開平4−282637号公報に記載されているリンの酸素酸のグループを持つ化合物等を用いた下塗りによる処理も挙げられる。
更に、特開昭60−64352号公報に記載されている酸性染料による着色を行うこともできる。
【0142】
また、ケイ酸ソーダ、ケイ酸カリ等のアルカリ金属ケイ酸塩の水溶液に浸せきさせる方法、親水性ビニルポリマーまたは親水性化合物を塗布して親水性の下塗層を形成させる方法等により、親水化処理を行うのが好ましい。
【0143】
ケイ酸ソーダ、ケイ酸カリ等のアルカリ金属ケイ酸塩の水溶液による親水化処理は、米国特許第2,714,066号明細書および米国特許第3,181,461号明細書に記載されている方法および手順に従って行うことができる。
アルカリ金属ケイ酸塩としては、例えば、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、ケイ酸リチウムが挙げられる。アルカリ金属ケイ酸塩の水溶液は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等を適当量含有してもよい。
また、アルカリ金属ケイ酸塩の水溶液は、アルカリ土類金属塩または4族(第IVA族)金属塩を含有してもよい。アルカリ土類金属塩としては、例えば、硝酸カルシウム、硝酸ストロンチウム、硝酸マグネシウム、硝酸バリウム等の硝酸塩;硫酸塩;塩酸塩;リン酸塩;酢酸塩;シュウ酸塩;ホウ酸塩が挙げられる。4族(第IVA族)金属塩としては、例えば、四塩化チタン、三塩化チタン、フッ化チタンカリウム、シュウ酸チタンカリウム、硫酸チタン、四ヨウ化チタン、塩化酸化ジルコニウム、二酸化ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウム、四塩化ジルコニウムが挙げられる。これらのアルカリ土類金属塩および4族(第IVA族)金属塩は、単独でまたは2種以上組み合わせて用いられる。
【0144】
アルカリ金属ケイ酸塩処理によって吸着するSi量は蛍光X線分析装置により測定することができ、その吸着量は約1.0〜15.0mg/m2 であるのが好ましい。
このアルカリ金属ケイ酸塩処理により、平版印刷版用支持体の表面のアルカリ現像液に対する耐溶解性向上の効果が得られ、アルミニウム成分の現像液中への溶出が抑制されて、現像液の疲労に起因する現像カスの発生を低減することができる。
【0145】
また、親水性の下塗層の形成による親水化処理は、特開昭59−101651号公報および特開昭60−149491号公報に記載されている条件および手順に従って行うこともできる。
この方法に用いられる親水性ビニルポリマーとしては、例えば、ポリビニルスルホン酸、スルホ基を有するp−スチレンスルホン酸等のスルホ基含有ビニル重合性化合物と(メタ)アクリル酸アルキルエステル等の通常のビニル重合性化合物との共重合体が挙げられる。また、この方法に用いられる親水性化合物としては、例えば、−NH2基、−COOH基およびスルホ基からなる群から選ばれる少なくとも一つを有する化合物が挙げられる。
【0146】
<乾燥>
上述した手順により本発明の平版印刷版原版に用いる支持体を得た後、該支持体上に画像記録層を設ける前に、該支持体の表面を乾燥させるのが好ましい。乾燥は、表面処理の最後の処理の後、水洗処理およびニップローラで液切りしてから行うのが好ましい。
乾燥温度は、70℃以上であるのが好ましく、80℃以上であるのがより好ましく、また、110℃以下であるのが好ましく、100℃以下であるのがより好ましい。
乾燥時間は、1秒以上であるのが好ましく、2秒以上であるのがより好ましく、また20秒以下であるのが好ましく、15秒であるのがより好ましい。
【0147】
<液組成の管理>
本発明においては、上述した表面処理に用いられる各種の処理液の組成を、特開2001−121837号公報に記載されている方法で管理するのが好ましい。あらかじめ、種々の濃度の多数の処理液サンプルを調製し、それぞれ二つの液温における超音波の伝搬速度を測定し、マトリクス状のデータテーブルを作成しておき、処理中に、液温および超音波の伝搬速度をリアルタイム測定し、それに基づいて濃度の制御を行うのが好ましい。特に、デスマット処理において、硫酸濃度250g/L以上の電解液を用いる場合においては、上述する方法により、濃度の制御を行うのが好ましい。
なお、電解粗面化処理および陽極酸化処理に用いられる各電解液は、Cu濃度が100ppm以下であるのが好ましい。Cu濃度が高すぎると、ラインを停止するとアルミニウム合金板上にCuが析出し、ラインを再度稼動した際に析出したCuがパスロールに転写されて、処理ムラの原因となる場合がある。
【0148】
[画像記録層]
上述した手順で作成した支持体上に画像記録層を形成する。上述したように、本発明の平版印刷版原版の画像記録層は、(A)赤外線吸収色素、および、(B)疎水性熱可塑性粒子を含む。
【0149】
(A)赤外線吸収色素
本発明の画像記録層は赤外線吸収色素を含有する。特に760〜1200nmに極大吸収を有する赤外線吸収色素が好ましく用いられる。特に、波長760〜1200nmに吸収極大を有する染料である赤外線吸収染料が好ましく用いられる。
【0150】
赤外線吸収染料としては、特開2008−195018号公報の段落番号[0058]〜[0087]に記載されている化合物を用いることができる。
これらの染料のうち特に好ましいものとしては、シアニン色素、スクワリリウム色素、ピリリウム塩、ニッケルチオレート錯体が挙げられる。特に好ましい例として下記一般式(a)で示されるシアニン色素が挙げられる。
【0151】
【化1】

【0152】
一般式(a)中、X1は、水素原子、ハロゲン原子、−N(R9)(R10)、−X2−L1または以下に示す基を表す。ここで、R9及びR10は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、置換基を有していてもよい炭素原子数6〜10の芳香族炭化水素基、炭素原子数1〜8のアルキル基、水素原子を表し、またR9とR10とが互いに結合して環を形成してもよい。なかでもフェニル基が好ましい。X2は酸素原子または硫黄原子を示し、L1は、炭素原子数1〜12の炭化水素基、ヘテロ原子を有する芳香族環、ヘテロ原子を含む炭素原子数1〜12の炭化水素基を示す。なお、ここでヘテロ原子とは、N、S、O、ハロゲン原子、Seを示す。以下に示す基において、Xa-は後述するZa-と同様に定義され、Raは、水素原子、アルキル基、アリール基、置換または無置換のアミノ基、ハロゲン原子より選択される置換基を表す。
【0153】
【化2】

【0154】
1及びR2は、それぞれ独立に、炭素原子数1〜12の炭化水素基を示す。画像記録層塗布液の保存安定性から、R1及びR2は、炭素原子数2個以上の炭化水素基であることが好ましく、更に、R1とR2とは互いに結合し、5員環または6員環を形成していることが特に好ましい。
【0155】
Ar1、Ar2は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を示す。好ましい芳香族炭化水素基としては、ベンゼン環及びナフタレン環が挙げられる。また、好ましい置換基としては、炭素原子数12個以下の炭化水素基、ハロゲン原子、炭素原子数12個以下のアルコキシ基が挙げられる。Y1、Y2は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、硫黄原子または炭素原子数12個以下のジアルキルメチレン基を示す。R3、R4は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、置換基を有していてもよい炭素原子数20個以下の炭化水素基を示す。好ましい置換基としては、炭素原子数12個以下のアルコキシ基、カルボキシ基、スルホ基が挙げられる。R5、R6、R7およびR8は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、水素原子または炭素原子数12個以下の炭化水素基を示す。原料の入手性から、好ましくは水素原子である。また、Za-は、対アニオンを示す。ただし、一般式(a)で示されるシアニン色素が、その構造内にアニオン性の置換基を有し、電荷の中和が必要ない場合にはZa-は必要ない。好ましいZa-は、画像記録層塗布液の保存安定性から、ハロゲン化物イオン、過塩素酸イオン、テトラフルオロボレートイオン、ヘキサフルオロホスフェートイオン、及びスルホン酸イオンであり、特に好ましくは、過塩素酸イオン、ヘキサフルオロホスフェートイオン、及びアリールスルホン酸イオンである。
【0156】
本発明において、好適に用いることのできる一般式(a)で示されるシアニン色素の具体例としては、特開2001−133969号公報の段落番号[0017]〜[0019]、特開2002−023360号公報の段落番号[0012]〜[0021]、特開2002−040638号公報の段落番号[0012]〜[0037]に記載されたものを挙げることができる。
【0157】
また、これらの赤外線吸収染料は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよく、顔料等の赤外線吸収染料以外の赤外線吸収剤を併用してもよい。顔料としては、特開2008−195018号公報[0072]〜[0076]に記載の化合物が好ましい。
【0158】
本発明における画像記録層中の増感色素の含有量は、画像記録層の全固形分の0.1〜10.0質量%が好ましく、より好ましくは0.5〜5.0質量%である。
【0159】
(B)疎水性熱可塑性粒子
本発明の画像記録層は疎水性熱可塑性粒子(「疎水性熱可塑性ポリマー粒子」ともいう)を含有する。適した疎水性ポリマーの特定の例は、例えばポリエチレン、ポリ(塩化ビニル)、ポリ(メチル(メタ)アクリレート)、ポリ(エチル(メタ)アクリレート)、ポリ(塩化ビニリデン)、ポリ(メタ)アクリロニトリル、ポリ(ビニルカルバゾール)、ポリスチレン又はそれらのコポリマーである。ポリスチレン及びポリ(メタ)アクリロニトリル又はそれらの誘導体が非常に好ましい態様である。
特に好ましくは、熱可塑性ポリマーは少なくとも50質量%のポリスチレン、より好ましくは少なくとも60重量%のポリスチレンを含む。
クリーナー中で用いられる炭化水素のような有機化学品に対する十分な抵抗性を得るために、熱可塑性ポリマーは好ましくは少なくとも5質量%、より好ましくは少なくとも30質量%の窒素含有モノマー単位又は20より高い溶解パラメーターを特徴とするモノマー単位、例えば(メタ)アクリロニトリルを含むことが好ましい。そのような窒素含有モノマー単位は、特開2002−251005号公報に開示されている。
【0160】
疎水性熱可塑性ポリマーは1:1〜5:1(スチレン:アクリロニトリル)の質量比、例えば2:1の比率におけるスチレン及びアクリロニトリル単位から成るコポリマーであることが最も好ましい。
【0161】
疎水性熱可塑性ポリマー粒子の質量平均分子量は5,000〜1,000,000g/モルの範囲であることが好ましい。疎水性熱可塑性ポリマー粒子は好ましくは200nm未満、より好ましくは10〜100nmの数平均粒径を有する。画像記録層中に含有される固形分のうち、疎水性熱可塑性ポリマー粒子の量は、好ましくは20質量%〜65質量%、より好ましくは25質量%〜55質量%、最も好ましくは30質量%〜45質量%である。
【0162】
疎水性熱可塑性ポリマー粒子は画像記録層塗布液中に分散液として存在し、US 3,476,937に開示されている方法により調製されることが好ましい。熱可塑性ポリマー粒子水性分散液の他の好ましい調製方法は、疎水性熱可塑性ポリマーを有機性の水非混和性溶媒中に溶解し、得られる溶液を水又は水性媒体中に分散させ、蒸発により有機溶媒を除去する方法である。
【0163】
(親水性樹脂)
本発明の画像記録層には親水性樹脂を添加しても良い。親水性樹脂を添加することにより現像性が良好となるばかりか、画像記録層自体の皮膜強度も向上する。親水性樹脂としては、例えばヒドロキシル、カルボキシル、ヒドロキシエチル、ヒドロキシプロピル、アミノ、アミノエチル、アミノプロピル、カルボキシメチルなどの親水基を有するものが好ましい。
【0164】
親水性樹脂の具体例として、アラビアゴム、カゼイン、ゼラチン、澱粉誘導体、カルボキシメチルセルロースおよびそのナトリウム塩、セルロースアセテート、アルギン酸ナトリウム、酢酸ビニル−マレイン酸コポリマー類、スチレン−マレイン酸コポリマー類、ポリアクリル酸類およびそれらの塩、ポリメタクリル酸類およびそれらの塩、ヒドロキシエチルメタクリレートのホモポリマーおよびコポリマー、ヒドロキシエチルアクリレートのホモポリマーおよびコポリマー、ヒドロキシプロピルメタクリレートのホモポリマーおよびコポリマー、ヒドロキシプロピルアクリレートのホモポリマーおよびコポリマー、ヒドロキシブチルメタクリレートのホモポリマーおよびコポリマー、ヒドロキシブチルアクリレートのホモポリマーおよびコポリマー、ポリエチレングリコール類、ヒドロキシプロピレンポリマー類、ポリビニルアルコール類、ならびに加水分解度が少なくとも60質量%、好ましくは少なくとも80質量%の加水分解ポリビニルアセテート、ポリビニルホルマール、ポリビニルブチラール、ポリビニルピロリドン、アクリルアミドのホモポリマーおよびコポリマー、メタクリルアミドのホモポリマーおよびポリマー、N−メチロールアクリルアミドのホモポリマーおよびコポリマー等を挙げることができる。
【0165】
親水性樹脂の画像記録層への添加量は、画像記録層固形分の5〜40質量%が好ましく、10〜30質量%がさらに好ましい。この範囲内で、良好な現像性と皮膜強度が得られる。
【0166】
発明の画像記録層には、上記のような熱反応性官能基を有する微粒子ポリマーを使用する場合、さらに、上記微粒子ポリマー中の熱反応性官能基と反応することができる官能基およびその保護基を有する低分子化合物を含有することができる。これらの化合物の添加量は、画像記録層中5質量%〜40質量%が好ましく、特に5質量%〜20質量%が好ましい。これより少ないと架橋効果が少なく耐刷性が不十分となり、これより多いと経時後の現像性が悪くなってしまう。以下これらに使用可能な化合物について述べる。
【0167】
このような低分子化合物としては、重合性不飽和基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、カルボキシレート基、酸無水物基、アミノ基、エポキシ基、イソシアナート基、及びブロック化したイソシアナート基を分子内に有する化合物を挙げることができる。これらの化合物としては特開2003−316021号公報に記載の化合物を好ましく用いることができる。
【0168】
(その他の成分)
本発明の画像記録層には、さらに必要に応じて上記以外に種々の化合物を添加してもよい。例えば、画像形成後、画像部と非画像部の区別をつきやすくするため、可視光域に大きな吸収を持つ染料を画像の着色剤として使用することができる。具体的には、オイルイエロー#101、オイルイエロー#103、オイルピンク#312、オイルグリーンBG、オイルブルーBOS、オイルブルー#603、オイルブラックBY、オイルブラックBS、オイルブラックT−505(以上オリエント化学工業(株)製)、ビクトリアピュアブルー、クリスタルバイオレット(CI42555)、メチルバイオレット(CI42535)、エチルバイオレット、ローダミンB(CI145170B)、マラカイトグリーン(CI42000)、メチレンブルー(CI52015)等、及び特開昭62−293247号に記載されている染料を挙げることができる。また、フタロシアニン系顔料、アゾ系顔料、酸化チタン等の顔料も好適に用いることができる。添加量は、画像記録層塗布液全固形分に対し0.01〜10重量%が好ましい。更に、本発明の画像記録層中には、露光したとき画像部と非画像部を鮮明にするため発色系または消色系の化合物が添加されることが好ましい。例えば、ジアゾ化合物やジフェニルヨードニウム塩のような熱酸発生剤と共にロイコ染料(ロイコマラカイトグリーン、ロイコクリスタルバイオレット、クリスタルバイオレットのラクトン体等)やpH変色染料(例えば、エチルバイオレット、ビクトリアプア−ブルーBOH等の染料)が用いられる。
【0169】
また、本発明においては、画像記録層塗布液の調製中又は保存中においてエチレン性不飽和化合物の不要な熱重合を阻止するために、少量の熱重合防止剤を添加することが望ましい。適当な熱重合防止剤としてはハイドロキノン、p−メトキシフェノール、ジ−t−ブチル−p−クレゾール、ピロガロール、t−ブチルカテコール、ベンゾキノン、4,4′−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2′−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、N−ニトロソ−N−フェニルヒドロキシルアミンアルミニウム塩等が挙げられる。熱重合防止剤の添加量は、全組成物の質量に対して約0.01〜5質量%が好ましい。
【0170】
また必要に応じて、酸素による重合阻害を防止するためにベヘン酸やベヘン酸アミドのような高級脂肪酸やその誘導体等を添加して、塗布後の乾燥の過程で画像記録層の表面に偏在させてもよい。高級脂肪酸やその誘導体の添加量は、画像記録層固形分の約0.1〜約10質量%が好ましい。
【0171】
さらに、本発明の画像記録層には、必要に応じ、塗膜の柔軟性等を付与するために可塑剤を加えることができる。例えば、ポリエチレングリコール、クエン酸トリブチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジヘキシル、フタル酸ジオクチル、リン酸トリクレジル、リン酸トリブチル、リン酸トリオクチル、オレイン酸テトラヒドロフルフリル等が用いられる。
【0172】
(画像記録層の形成)
本発明の画像記録層は、必要な上記各成分を溶剤に分散あるいは溶解して塗布液を調製し、塗布される。ここで使用する溶剤としては、エチレンジクロライド、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、1−メトキシ−2−プロパノール、2−メトキシエチルアセテート、1−メトキシ−2−プロピルアセテート、ジメトキシエタン、乳酸メチル、乳酸エチル、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、テトラメチルウレア、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、γ−ブチルラクトン、トルエン、水等を挙げることができるが、これに限定されるものではない。これらの溶剤は、単独または混合して使用される。塗布液の固形分濃度は、好ましくは1〜50質量%である。
【0173】
また塗布、乾燥後に得られる支持体上の画像記録層塗布量(固形分)は、用途によって異なるが、一般的に0.4〜5.0g/m2が好ましい。この範囲より塗布量が少なくなると、見かけの感度は大になるが、画像記録の機能を果たす画像記録層の皮膜特性は低下する。塗布する方法としては、種々の方法を用いることができる。例えば、バーコーター塗布、回転塗布、スプレー塗布、カーテン塗布、ディップ塗布、エアーナイフ塗布、ブレード塗布、ロール塗布等を挙げられる。
【0174】
画像記録層塗布液には、塗布性を良化するための界面活性剤、例えば、特開昭62−170950号公報に記載されているようなフッ素系界面活性剤を添加することができる。好ましい添加量は、画像記録層全固形分の0.01〜1質量%、さらに好ましくは0.05〜0.5質量%である。
【0175】
(オーバーコート層)
本発明の平版印刷版用原板は、画像記録層表面の親油性物質による汚染防止や傷防止のため、画像記録層上に、オーバーコート層を設けることができる。本発明に使用されるオーバーコート層は印刷時、湿し水等の親水性印刷液体により容易に除去できるものであり、親水性の有機高分子化合物から選ばれた樹脂を含有する。ここで用いる親水性の有機高分子化合物としては、乾燥によってできた被膜がフィルム形成能を有するもので、具体的には、ポリ酢酸ビニル(但し加水分解率65%以上のもの)、ポリアクリアミン塩、ポリアクリル酸共重合体、そのアルカリ金属塩もしくはアミン塩、ポリメタクリル酸、そのアルカリ金属塩もしくはアミン塩、ポリメタクリル酸共重合体、そのアルカリ金属塩もしくはアミン塩、ポリアクリルアミド、その共重合体、ポリヒドロキシエチルアクリレート、ポリビニルピロリドン、その共重合体、ポリビニルメチルエーテル、ビニルメチルエーテル/無水マレイン酸共重合体、ポリ−2−アクリルアミド−2−メチル−1−プロパンスルホン酸、そのアルカリ金属塩もしくはアミン塩、ポリ−2−アクリルアミド−2−メチル−1−プロパンスルホン酸共重合体、そのアルカリ金属塩もしくはアミン塩、アラビアガム、繊維素誘導体(例えば、カルボキシメチルセルローズ、カルボキシエチルセルローズ、メチルセルローズ等)、その変性体 、ホワイトデキストリン、プルラン、酵素分解エーテル化デキストリン等を挙げることができる。また、目的に応じて、これらの樹脂を二種以上混合して用いることもできる。
【0176】
また、オーバーコート層には、上述した親水性光熱変換剤を添加しても良い。さらに、オーバーコート層には塗布の均一性を確保する目的で、水溶液塗布の場合には、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルエーテルなどの非イオン系界面活性剤を添加することができる。オーバーコート層の乾燥塗布量は、0.1〜2.0g/m2が好ましい。この範囲内で、現像性を損なわず、指紋付着汚れなどの親油性物質による画像記録層表面の良好な汚染防止や傷の防止ができる。
【0177】
(画像形成及び製版)
本発明の平版印刷版用原板は熱により画像形成される。具体的には、熱記録ヘッド等による直接画像様記録、赤外線レーザーによる走査露光、キセノン放電灯などの高照度フラッシュ露光や赤外線ランプ露光などが用いられるが、波長700〜1200nmの赤外線を放射する半導体レーザー、YAGレーザー等の固体高出力赤外線レーザーによる露光が好適である。
【0178】
画像記録された本発明の平版印刷版用原板は、次いで、処理液の存在下、擦り部材により版面を擦ることにより、非画像部の画像記録層を除去し(オーバーコート層がある場合には、オーバーコート層も、同時に除去される。)、非画像部において、親水性の支持体表面を露出させ、平版印刷版が作製される。
【0179】
本発明において使用可能な擦り部材としては、例えば、不織布、綿布、綿パッド、モルトン、ゴムブレードやブラシ等が挙げられる。
【0180】
本発明において使用される処理液としては、親水性の処理液が適しており、例えば、水単独または水を主成分とする水溶液が好ましく、特に、一般的に公知な湿し水と同様組成の水溶液や界面活性剤(アニオン系、ノニオン系、カチオン系等)を含有する水溶液が好ましい。また、本発明の処理液には、有機溶剤を含有しても良い。含有可能な溶剤としては、例えば、脂肪族炭化水素類(ヘキサン、ヘプタン、”アイソパーE、H、G”(エッソ化学(株)製)あるいはガソリン、灯油等)、芳香族炭化水素類(トルエン、キシレン等)、あるいはハロゲン化炭化水素(トリクレン等)や、下記の極性溶剤が挙げられる。
【0181】
極性溶剤としては、例えば、アルコール類(メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ベンジルアルコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、2−エトキシエタノール、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリプロピレングリコール、テトラエチレングリコール等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン等)、エステル類(酢酸エチル、乳酸メチル、乳酸ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールアセテート、ジエチルフタレート等)、その他(トリエチルフォスフェート、トリクレジルフォスフェート等)が挙げられる。
【0182】
また、上記有機溶剤が水に不溶な場合は、界面活性剤等を用いて水に可溶化して使用することも可能であり、処理液に、溶剤を含有する場合は、安全性、引火性の観点から、溶剤の濃度は40重量%未満が望ましい。本発明の処理液に使用する界面活性剤としては、抑泡性の観点から、アニオン性界面活性剤及びノニオン性界面活性剤のいずれかが好適に使用できる。
【0183】
本発明の処理液に使用できるアニオン性界面活性剤の例には、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、アリフェート(aliphates)、アビエテート、ヒドロキシアルカンスルホネート、アルカンスルホネート、ジアルキルスルホスクシネート、直鎖状アルキルベンゼンスルホネート、分枝鎖状アルキルベンゼンスルホネート、アルキルナフタレンスルホネート、アルキルフェノキシポリオキシエチレンプロピルスルホネート、ポリオキシエレチンアルキルスルホフェニルエーテルの塩、ナトリウム N−メチル−N−オレイルタウレート、モノアミド ジナトリウム N−アルキルスルホスクシネート、石油スルホネート、硫酸化ひまし油(sulfated castor oil)、硫酸化牛脂(sulfated tallow oil)、脂肪族アルキルエステルの硫酸エステルの塩、アルキル硫酸エステルの塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルの硫酸エステル、脂肪族モノグリセリドの硫酸エステルの塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルの硫酸エステルの塩、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテルの硫酸エステルの塩、アルキルリン酸エステルの塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルのリン酸エステルの塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルのリン酸エステルの塩、スチレン無水マレイン酸コポリマーの部分的けん化化合物、オレフィン−無水マレイン酸コポリマーの部分的けん化化合物ならびにナフタレンスルホネートホルマリン縮合物が含まれる。これらのアニオン性界面活性剤の中で特に好ましいのはアルキルジフェニルエーテルスルホン酸塩、ジアルキルスルホスクシネート、アルキル硫酸エステルの塩及びアルキルナフタレンスルホネートである。
【0184】
適したアニオン性界面活性剤の特定の例にはドデシルフェノキシベンゼンジスルホン酸ナトリウム、アルキル化ナフタレンスルホネートのナトリウム塩、メチレン−ジナフタレン−ジスルホン酸ジナトリウム、ドデシル−ベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルジフェニルエーテルジススルホン酸ナトリウム、ペルフルオロアルキルスルホン酸アンモニウムもしくはカリウム及びジオクチル−スルホコハク酸ナトリウムが挙げられる。
【0185】
本発明の処理液に使用できるノニオン性界面活性剤としては、ポリエチレングリコール型の高級アルコールエチレンオキサイド付加物、アルキルフェノールエチレンオキサイド付加物、脂肪酸エチレンオキサイド付加物、多価アルコール脂肪酸エステルエチレンオキサイド付加物、高級アルキルアミンエチレンオキサイド付加物、脂肪酸アミドエチレンオキサイド付加物、油脂のエチレンオキサイド付加物、ポリプロピレングリコールエチレンオキサイド付加物、ジメチルシロキサン−エチレンオキサイドブロックコポリマー、ジメチルシロキサン−(プロピレンオキサイド−エチレンオキサイド)ブロックコポリマー等や、多価アルコール型のグリセロールの脂肪酸エステル、ペンタエリスリトールの脂肪酸エステル、ソルビトールおよびソルビタンの脂肪酸エステル、ショ糖の脂肪酸エステル、多価アルコールのアルキルエーテル、アルカノールアミン類の脂肪酸アミド等が挙げられる。これらノニオン性界面活性剤は、単独でも、2種以上を混合して用いても良い。本発明においては、ソルビトール及び/又はソルビタン脂肪酸エステルのエチレンオキサイド付加物、ポリプロピレングリコールエチレンオキサイド付加物、ジメチルシロキサン−エチレンオキサイドブロックコポリマー、ジメチルシロキサン−(プロピレンオキサイド−エチレンオキサイド)ブロックコポリマー、多価アルコールの脂肪酸エステルがより好ましい。
【0186】
また、水に対する安定な溶解性あるいは混濁性の観点から、本発明の処理液に使用するノニオン性界面活性剤としては、HLB(Hydorophile−Lipophile Balance)値が、6以上であることが好ましく、8以上であることがより好ましい。さらに、処理液中に含有するノニオン性界面活性剤の比率は、0.01〜10質量%が好ましく、0.01〜5質量%がより好ましい。
【0187】
また、処理液に、アルカリ性剤(例えば、炭酸ナトリウム、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、水酸化ナトリウム、ケイ酸塩類等)又は酸性剤(例えば、クエン酸、リン酸、亜リン酸、メタリン酸、ピロリン酸、シュウ酸、リンゴ酸、酒石酸、ホウ酸、アミノ酸類)、防腐剤(例えば、安息香酸及びその誘導体、デヒドロ酢酸ナトリウム、3−イソチアゾロン化合物、2−ブロモ−2−ニトロ−1,3−プロパンジオール、2−ピリジンチオール−1−オキサイドナトリウム塩等)、その他添加剤(例えば、クエン酸塩など)を添加したものも使用可能である。処理液の温度は、任意の温度で使用できるが、好ましくは10℃〜50℃である。
【0188】
本発明における非画像部の画像記録層の除去は、処理液の供給手段及び擦り部材を備えた自動処理機により好適に実施することができる。自動処理機としては、例えば、画像記録後の平版印刷版用原板を搬送しながら擦り処理を行う、特開平2−220061号公報、特開昭60−59351号公報に記載の自動処理機や、シリンダー上にセットされた画像記録後の平版印刷版用原板をシリンダーを回転させながら擦り処理を行う、US5148746、US5568768、GB2297719の各号に記載の自動処理機等が挙げられる。なかでも、擦り部材として、回転ブラシロールを用いる自動処理機が特に好ましい。図5に本発明の現像処理に適した自動処理機の1例として、処理液209を循環ポンプ210によりスプレーパイプ204に送り、シャワーリングして、回転ブラシロール200及び版面211(平版印刷版用原版)に供給し、回転ブラシロール200で版面12を擦る自動現像処理機を例示した。図中、201は受けロール、202 搬送ロール、203は 搬送ガイド板、205は管路、206はフィルター、207は給版台、208は排版台、209は処理液(タンク)である。
なお、本発明において、擦り処理後の平版印刷版を、引き続いて、水洗、乾燥処理することも任意に可能である。
【0189】
使用できる回転ブラシロールは、画像部の傷付き難さ、さらには、平版印刷版用原版の支持体の腰の強さ等を考慮し、適宜選択することができる。上記回転ブラシロールとしては、ブラシ素材をプラスチック又は金属のロールに植え付けて形成された公知のものが使用できる。例えば、特開昭58−159533号公報や、特開平3−100554号公報記載のものや、実公昭62−167253号公報に記載されているような、ブラシ素材を列状に植え込んだ金属又はプラスチックの溝型材を芯となるプラスチック又は金属のロールに隙間なく放射状に巻き付けたブラシロールが使用できる。また、ブラシ素材としては、プラスチック繊維(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系、ナイロン6.6、ナイロン6.10等のポリアミド系、ポリアクリロニトリル、ポリ(メタ)アクリル酸アルキル等のポリアクリル系、及び、ポリプロピレン、ポリスチレン等のポリオレフィン系の合成繊維)を使用することができ、例えば、繊維の毛の直径は、20〜400μm、毛の長さは、5〜30mmのものが好適に使用できる。さらに、回転ブラシロールの外径は、30〜200mmが好ましく、版面を擦るブラシの先端の周速は、0.1〜5m/secが好ましい。
【0190】
本発明に用いる回転ブラシロールの回転方向は、本発明の平版印刷版用原板の搬送方向に対し、同一方向であっても、逆方向であっても良いが、図5に例示した自動処理機のように、2本以上の回転ブラシロールを使用する場合は、少なくとも1本の回転ブラシロールが、同一方向に回転し、少なくとも1本の回転ブラシロールが、逆方向に回転することが好ましい。これにより、非画像部の画像記録層の除去が、さらに確実となる。さらに、回転ブラシロールを、ブラシロールの回転軸方向に揺動させることも効果的である。
【実施例】
【0191】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0192】
[アルミニウム合金板の製造]
(実施例1〜15)
下記表1に示した組成のアルミニウム合金溶湯を用いて、下記表2に示す条件の熱処理条件(中間焼鈍)を施す連続鋳造により、アルミニウム合金板を製造した。
具体的には、まず、各組成のアルミニウム合金溶湯を用い、双ロール式連続鋳造で鋳造板厚が5.5mmになるように連続鋳造を行った。
次いで、得られた連続鋳造板に冷間圧延を施して板厚を0.9mmとした後に下記表2に示す条件で中間焼鈍の熱処理を施し、更に再度冷間圧延を施して0.3mmの厚みに仕上げた。
次いで、テンションレベラを用いて平面性矯正を行い、アルミニウム合金板を製造した。なお、製造したアルミニウム合金板の組成は、各々に用いたアルミニウム合金溶湯の組成と同一である。
【0193】
(比較例1〜4)
下記第1表に示した組成のアルミニウム合金溶湯を用いて、熱処理を伴わないDC鋳造により、アルミニウム合金板を製造した。
具体的には、Al−5のアルミニウム合金溶湯を使って、DC鋳造(Direct Chill)で厚さ500mmのスラブを鋳造した。
次いで、得られたスラブの両面を20mm面削し、スラブの状態での熱処理は均熱処理で500〜600℃で実施した。
次いで、熱間圧延を施して厚さ3mmまで圧延し、410〜550℃で中間焼鈍処理を施し、その後、冷間圧延を施して厚さ0.3mmに仕上げた。
次いで、テンションレベラを用いて平面性矯正を行い、アルミニウム合金板を製造した。なお、製造したアルミニウム合金板の組成は、アルミニウム合金溶湯の組成と同一である。
【0194】
製造した各アルミニウム合金板の金属間化合物の単位面積あたりの個数を以下に示す方法で測定した。結果を下記第2表に示す。
(金属間化合物の単位面積あたりの個数)
まず、製造したアルミニウム合金板について、その表面の油分をアセトンでふき取ったものを測定試料として用いた。
次に、走査型電子顕微鏡(PC−SEM7401F、日本電子社製)を用い、加速電圧を12.0kV、倍率2000倍の条件で、アルミニウム合金板表面の反射電子像を撮影した。
次いで、得られた反射電子像から任意に選んだ5箇所の画像をJPEG形式で保存し、MS−Paint(マイクロソフト社製)を用いてbmf(ビットマップファイル)形式に変換した。
このbmf形式ファイルを画像解析ソフトImageFactory Ver.3.2日本語版(旭ハイテック社製)に読み込んで画像解析を行った後、画像の静的二値化処理を行い、白く抜けた金属間化合物に対応する部分をカウントし、特徴量として円相当直径(等価円直径)を指定して粒度分布を得た。
この粒度分布の結果から、円相当直径が0.2μm以上の金属間化合物の個数を算出した。なお、この算出は、5箇所の画像データ(粒度分布)の各々から算出した個数の平均値を百の位で四捨五入して行った。
同様の手順で、円相当径1μm以上の金属間化合物の個数を算出した。
【0195】
また、X線回折装置を用いて、製造した各アルミニウム合金板のAl−Fe系金属間化合物およびα−AlFeSiのピークカウント値を以下の条件で測定した。Al−Fe系金属間化合物としては、Al3FeとAl6Feのピークカウント値を測定し、最大値であるものを「Al−Fe系金属間化合物の種類(Al−Fe系の種類)」として第2表に記載した。Al3Feのピ−ク角度は24.1°、Al6Feのピーク角度は18.0°、α−AlFeSiのピ−ク角度は42.0°であり、ピ−クカウント値はそれぞれの角度の回折強度(cps)を計測した値である。結果を下記第2表に示す。
・X線回折装置 RAD−rR(12kW回転対陰極型、リガク社製)
・設定管電圧 50kV
・設定管電流 200mA
・サンプリング間隔 0.01°
・スキャン速度 1°/分
・2θ走査範囲 10°〜70°
・グラファイトモノクロメータ使用
【0196】
【表1】

【0197】
【表2】

【0198】
[支持体の製造]
製造した各アルミニウム合金板に、以下の粗面化処理を施し、平版印刷版原版に用いる支持体を得た。
【0199】
粗面化処理として、下記(a)〜(f)の処理を施した。なお、全ての処理工程の間には水洗処理を施した。
【0200】
(a)アルカリエッチング処理
製造した各アルミニウム合金板に、カセイソーダ濃度25質量%、アルミニウムイオン濃度100g/L、温度60℃の水溶液をスプレー管から吹き付けて、エッチング処理を行った。アルミニウム合金板の後に電気化学的粗面化処理を施す面のエッチング量は、3g/m2であった。
【0201】
(b)デスマット処理
次いで、温度35℃の硫酸水溶液(濃度300g/L)をスプレー管から5秒間吹き付けて、デスマット処理を行った。
【0202】
(c)電解粗面化処理
その後、1質量%塩酸水溶液に塩化アルミニウムを溶解させてアルミニウムイオン濃度を4.5g/Lとした電解液(液温35℃)を用い、60Hzの交流電源を用いて、フラットセル型の電解槽を用いて連続的に電気化学的粗面化処理を行った。交流電源の波形は、正弦波を用いた。電気化学的粗面化処理において、交流のピーク時におけるアルミニウム合金板のアノード反応時の電流密度は、30A/dm2であった。アルミニウム合金板のアノード反応時の電気量総和とカソード反応時の電気量総和との比は0.95であった。電気量はアルミニウム合金板のアノード時の電気量総和で480C/dm2とした。電解液はポンプを用いて液を循環させることで、電解槽内の攪拌を行った。
【0203】
(d)アルカリエッチング処理
アルミニウム合金板に、カセイソーダ濃度5質量%、アルミニウムイオン濃度5g/L、温度35℃の水溶液をスプレー管から吹き付けて、エッチング処理を行った。アルミニウム合金板の電解粗面化処理を施した面のエッチング量は、0.05g/m2であった。
【0204】
(e)デスマット処理
硫酸濃度300g/L、アルミニウムイオン濃度5g/L、液温35℃の水溶液をスプレー管から5秒間吹き付けて、デスマット処理を行った。
【0205】
(f)陽極酸化処理
電解液としてリン酸を用いて陽極酸化処理を実施した。電解液は、リン酸濃度22質量%、温度38℃であった。その後、スプレーによる水洗を行った。最終的な酸化皮膜量は1.5g/m2であった。
上記の手順で形成された陽極酸化皮膜について、陽極酸化皮膜の表層における平均ポア径(表面平均ポア径)、および、マイクロポア内部における最大径の平均値(ポア内最大径の平均値)を以下の手順で測定した。結果を第3表に示す。
表面平均ポア径:陽極酸化皮膜の表層におけるポア径の測定には超高分解能型SEM(日立S-900)を使用した。12Vという比較的低加速電圧で、導電性を付与する蒸着処理等を施すこと無しに、表面を15万倍の倍率で観察し、50個のポアを無作為抽出して平均値を得た。標準偏差誤差は±10%以下であった。
ポア内最大径の平均値の測定方法:マイクロポア内部における最大径は、陽極酸化処理後のアルミニウム合金板を折り曲げて、折り曲げた際に発生したひび割れ部分の側面(通称破断面)を超高分解能型SEM(日立S-900)を使用し、観察した。12Vという比較的低加速電圧で、導電性を付与する蒸着処理等を施すこと無しに、陽極酸化皮膜の破断面におけるマイクロポア内部の最大径部分を15万倍の倍率で観察し、50個のポアを無作為抽出して平均値を得た。標準偏差誤差は±10%以下であった。
【0206】
【表3】

【0207】
[平版印刷版原版の製造]
上記手順で得られた支持体上に以下の手順で画像記録層を形成して平版印刷版原版を得た。
【0208】
下記組成から成る画像形成層塗布液を30g/m2の厚さで塗布し、乾燥した。
・疎水性熱可塑性ポリマー粒子 2.0g
(60:40のモル比におけるスチレンとアクリロニトリルの共重合ポリマー粒子
乾燥後の粒子の平均直径:65nm)
・赤外線吸収染料(I) 0.3g
・ポリアクリル酸 0.4g
(Allied Colloids社製のGlascol D15)
・着色剤(I) 0.3g
・水 97.0g
【0209】
赤外線吸収染料(I)
【化3】

【0210】
着色剤(I)
【化4】

【0211】
このようにして得た平版印刷版用原板を、水冷式40W赤外線半導体レーザーを搭載したCreo社製Trendsetter 3244VFSにて、版面エネルギー200mJ/cm2、解像度2400dpiの条件で露光した後、図5と同様の機構の回転ブラシロールを2本有する自動処理機を用いて、現像処理を行った。露光画像にはベタ画像及び25μmドットFMスクリーンの50%網点チャートを含むようにした。回転ブラシロールとしては、1本目のブラシロールに、ポリブチレンテレフタレート製の繊維(毛の直径200μm、毛の長さ17mm)を植え込んだ外径90mmのブラシロールを用い、搬送方向と同一方向に毎分200回転(ブラシの先端の周速0.94m/sec)させ、2本目のブラシロールには、ポリブチレンテレフタレート製の繊維(毛の直径200μm、毛の長さ17mm)を植え込んだ外径60mmのブラシロールを用い、搬送方向と反対方向に毎分200回転(ブラシの先端の周速0.63m/sec)させた。平版印刷版用原板の搬送は、搬送速度100cm/minで行った。処理液は、下記の処理液1を用い、循環ポンプによりスプレーパイプからシャワーリングして、版面に供給した。
【0212】
<処理液1>
700gの脱イオン水に、77.3mlのDowfax 3B2(ダウケミカル社製、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩)、32.6gのトリナトリウムクエン酸二水和物、9.8gのクエン酸を撹拌下で添加し、脱イオン水をさらに添加して1000gにした。pHは約5.0である。
【0213】
[平版印刷版原版の評価]
上記の手順で得られた平版印刷版原版について、以下の評価を実施した。結果を第4表に示す。
【0214】
(1)耐刷性評価
得られた平版印刷版をハイデルベルグ社製印刷機SOR−Mのシリンダーに取り付け印刷を実施した。使用した湿し水は、IF−102(富士写真フイルム(株)製)を4体積%添加した水溶液、使用したインキは、TKハイエコーSOYMZ墨(東洋インキ(株)製)であった。毎時10000枚の印刷速度で、特菱アート(76.5kg)紙に印刷を行った。
印刷枚数を増やしていくと徐々に画像記録層が磨耗するため印刷物上のインキ濃度が低下した。印刷物におけるFMスクリーン50%網点の網点面積率をグレタグ濃度計で計測した値が印刷100枚目の計測値よりも5%低下したときの印刷部数を刷了枚数として、耐刷性を評価した。結果を第4表に示す(○、○△、△、△×の指標は下記参照)。
○ … 5万枚以上
○△ … 4万枚以上5万枚未満
△ … 3万枚以上4万枚未満
△× … 3万枚未満
(2)耐汚れ性評価
1万枚印刷した後におけるブランケットの汚れを目視で確認し、以下に示す基準で評価した。
○ … ブランケットが汚れていないもの
○△ … ブランケットが若干汚れているが良好
△ … ブランケットが汚れているものの許容できる範囲にあるもの
△× … ブランケットが汚れており印刷物が明らかに汚れているもの
(3)微小腐食汚れ評価
得られた平版印刷版原版を、25℃、70%RHの環境下で1時間、合紙と共に調湿し、アルミクラフト紙で包装した後、60℃に設定したオーブンで5日間加熱を行った。
その後、室温まで温度を下げてから、露光せずに、耐刷性評価と同様に現像処理を行った。
次に、ハイデルベルグ社製印刷機SOR−Mのシリンダーに取り付け印刷を実施した。使用した湿し水は、IF−102(富士写真フイルム(株)製)を4体積%添加した水溶液、使用したインキは、TKハイエコーSOYMZ墨(東洋インキ(株)製)であった。毎時10000枚の印刷速度で、特菱アート(76.5kg)紙に印刷を500枚行った。
500枚目の印刷物を目視により確認し、100cm2当たりの、20μm以上の印刷汚れの個数を算出した。その結果を表に示す。
◎ … 微小腐食汚れが20個以下(80cm2当たり)
○ … 微小腐食汚れが21〜50個(80cm2当たり)
○△ … 微小腐食汚れが51〜80個(80cm2当たり)
△ … 微小腐食汚れが81〜100個(80cm2当たり)
△× … 微小腐食汚れが101〜150個(80cm2当たり)
× … 微小腐食汚れが151個以上(80cm2当たり)
汚れ個数が100cm2当たり200個以下であれば、耐苛酷汚れに優れるものとして評価できる。
【0215】
【表4】

【符号の説明】
【0216】
11 アルミニウム合金板
12 ラジアルドラムローラ
13a、13b 主極
14 電解処理液
15 電解液供給口
16 スリット
17 電解液通路
18 補助陽極
19a、19b サイリスタ
20 交流電源
40 主電解槽
50 補助陽極槽
200 回転ブラシロール
201 受けロール
202 搬送ロール
203 搬送ガイド板
204 スプレーパイプ
205 管路
206 フィルター
207 給版台
208 排版台
209 処理液(タンク)
210 循環ポンプ
211 平版印刷版用原板
410 陽極酸化処理装置
412 給電槽
413 中間槽
414 陽極酸化処理槽
416 アルミニウム合金板
418、426 電解液
420 陽極
422、428 パスローラ
424 ニップローラ
430 陰極
434 直流電源
436、438 給液ノズル
440 しゃへい板
442 排液口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体上に、(A)赤外線吸収色素、および、(B)疎水性熱可塑性粒子を含む画像記録層を有する平版印刷版原版において、
前記支持体が、表面における円相当直径が0.2μm以上の金属間化合物の密度が35000個/mm2以上のアルミニウム合金板を用いて作成されることを特徴とする平版印刷版原版。
【請求項2】
前記疎水性熱可塑性粒子がスチレン−アクリロニトリル粒子であることを特徴とする請求項1に記載の平版印刷版原版。
【請求項3】
前記アルミニウム合金板が、表面における円相当直径が1.0μm以上の金属間化合物の個数が2500個/mm2以下であることを特徴とする、請求項1または2に記載の平版印刷版原版。
【請求項4】
X線回折装置(XRD)を用いて測定される、前記アルミニウム合金板のAl−Fe系金属間化合物のピークカウント値が400cps以下であり、AlFeSi系金属間化合物のピークカウント値が30cps以下であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の平版印刷版原版。
【請求項5】
前記支持体の前記画像記録層が形成される側の表面には、マイクロポアを有する陽極酸化皮膜が形成されており、該陽極酸化皮膜の表層における平均ポア径が10〜75nmであり、ポア内部における最大径の平均値が前記平均ポア径の1.1〜3.0倍であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の平版印刷版原版。
【請求項6】
前記陽極酸化皮膜が、硫酸またはリン酸を含有する電解液を用いた陽極酸化処理により形成されたものであることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の平版印刷版原版。
【請求項7】
前記アルミニウム合金板が、連続鋳造法により製造されたアルミニウム合金板であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の平版印刷版原版。
【請求項8】
前記請求項1〜7のいずれかに記載の平版印刷版原版に画像記録を行った後、擦り部材を備えた自動処理機により、処理液の存在下、擦り部材で版面を擦り、非画像部の画像記録層を除去する工程を含むことを特徴とする平版印刷版の作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−67971(P2011−67971A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−218909(P2009−218909)
【出願日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】