説明

平衡型弾性表面波フィルタ

【課題】製造工程を増やす必要がなく、しかも大きく導電パターンを引き回すことがないから、実質的に装置の大型化につながることがなく、減衰量を大きくした平衡型弾性表面波フィルタを提供すること。
【解決手段】圧電基板11の主面に櫛型電極20,30,35,40,50を形成して、その入力側P1を不平衡とし、出力側P2,P3を平衡とした平衡型弾性表面波フィルタ10であって、前記不平衡側の櫛型電極を構成する複数の電極指のうち、前記平衡側の櫛型電極を構成する電極指の一部42,47と近接する電極指26,27を、接地側ではなく信号側に接続する構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気信号と弾性表面波との間の変換を行う櫛型電極を有する平衡型弾性表面波フィルタの改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やテレビ受像機等の電子部品や通信部品において、弾性表面波を利用した帯域フィルタである弾性表面波フィルタがよく使用されている。このような弾性表面波フィルタには、例えば図4および図5に示すような平衡型弾性表面波フィルタがある。
【0003】
これらの図において、平衡型弾性表面波フィルタ1は、圧電基板の表面に、細い導電パターンでなる櫛型電極(IDT(Inter Digital Transducer))を形成することで構成されている。
すなわち、平衡型弾性表面波フィルタ1は、圧電基板2の表面に形成された櫛型電極3を有している。
【0004】
櫛型電極3は、一方が入力端子P1と接続され、他方がアース端子5と接続された櫛型電極3−1と、一方が入力端子P1と接続され、他方がアース端子6と接続された櫛型電極3−2と、出力端子P2に接続された櫛型電極3−3、出力端子P3に接続された櫛型電極3−4とを有している。
この場合、平衡型弾性表面波フィルタ1は、入力端子P1はひとつだけであるが、出力端子は符合P2,P3で示すように2つあり、入力側が不平衡で、出力側が平衡な弾性表面波フィルタである。
【0005】
そして、図5に示すように、入力端子P1側およびその導電パターンと、出力端子P2とは、出力端子3側と比べると位置的に近接しているために、入力端子P1から入る信号が櫛型電極を経ないで出力端子P2側に直達波として伝達される成分が生じ、容量C1に相当するものが生じる。その結果、平衡型弾性表面波フィルタ1の減衰効率が低下する問題がある。
【0006】
そこで、基板の裏面に導体膜を形成して、図5のC2に相当する容量を設けて、減衰量の改善を行う手法も提案されている(特許文献1参照)。
しかしながら、このような構成であると、基板裏面に別個の導体膜を形成することから、その分工程が増えてしまい、製造効率が悪い。
また、基板裏面の導体膜により増加する容量をさらに調整する必要も生じる。
【0007】
そこで、基板の裏面ではなく、圧電基板の主面のうち、弾性表面波フィルタを形成する櫛型電極が形成される面に、入力端子と、それから距離が遠い方の出力端子との間に導電パターンを形成し、橋絡容量を設ける技術も開発されている(特許文献2参照)。
【0008】
【特許文献1】特開2002−76828
【特許文献2】WO 2005/101657 A1
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところが、特許文献2では、実際には、容量付加のために設ける導電パターンは、基板の外周をめぐらせるもので、(図1の符合3参照)、そのような位置にしない場合であっても、基板表面に形成される櫛型電極のパターンを避ける必要から、複雑な引き回しパターンを形成しなければならず、大きなパターン構成となってしまい、基板の大型化などをまねくおそれがある。
【0010】
本発明の目的は、上記課題を解消して、製造工程を増やす必要がなく、しかも大きく導電パターンを引き回すことがないから、実質的に装置の大型化につながることがなく、減衰量を大きくした平衡型弾性表面波フィルタを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述の目的は、第1の発明にあっては、圧電基板の主面に櫛型電極を形成して、その入力側と出力側の一方を不平衡とし、他方を平衡とした平衡型弾性表面波フィルタであって、前記不平衡側の櫛型電極を構成する複数の電極指のうち、前記平衡側の櫛型電極を構成する電極指の一部と近接する電極指を、接地側ではなく信号側に接続する構成とした平衡型弾性表面波フィルタにより、達成される。
【0012】
第1の発明の構成によれば、入力側の電極指が、平衡側と近接していても、該電極指が接地側と接続されると、平衡側と結合が弱くなるが、該電極指について信号側と接続するようにし、これに近接する平衡側との間に容量を加えるようにすることで、容量のアンバランスを解消する。
このような構造とすることにより、基板裏面に別個の導電パターンを形成するわけではないので、そのための工程が製造工程上増えることがなく、また、基板の櫛型電極が形成された側の面の外縁などに、導電パターンを長く引き回す必要もないことから、小型に形成することができる。
かくして、製造工程を増やす必要がなく、しかも大きく導電パターンを引き回すことがないから、実質的に装置の大型化につながることがなく、減衰量を大きくした平衡型弾性表面波フィルタを提供することができる。
【0013】
第2の発明は、第1の発明の構成において、前記平衡側の櫛型電極を構成する電極指の一部と近接する電極指のうち、最も近接する電極指について、接地側ではなく信号側に接続する構成としたことを特徴とする。
第2の発明の構成によれば、前記平衡側の櫛型電極を構成する電極指の一部と近接する電極指のうち、最も近接する電極指を信号側に接続することで、一層効果的に近接する平衡側との間に容量を加えることができる。
【0014】
第3の発明は、第1または2の発明のいずれかの構成において、前記最も近接する電極指が、他の電極指よりも長さ方向に延長されていることを特徴とする。
第3の発明の構成によれば、前記不平衡側の櫛型電極を構成する複数の電極指のうち、前記平衡側の櫛型電極を構成する電極指の一部と近接する電極指を信号側に接続するだけでなく、そのパターンを延長することで、さらに付加すべき容量を増大させることができる。また、その長さを調整することで、付加すべき容量の大きさを増減して調整可能とすることができる。
【0015】
第4の発明は、第3の発明の構成において、前記他の電極指よりも長さ方向に延長された電極指の先端付近の導電パターンについてその面積を拡大したことを特徴とする。
第4の発明の構成によれば、前記不平衡側の櫛型電極を構成する複数の電極指のうち、前記平衡側の櫛型電極を構成する電極指の一部と近接する電極指を信号側に接続するだけでなく、延長して、かつ面積を増大することで、より一層付加すべき容量を増大させることができる。また、パターンの形状を種々に変更することで、増加させる容量を調整することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1は、本発明の平衡型弾性表面波フィルタの第1の実施形態の概略構成を示す概略平面図である。
【0017】
図において、平衡型弾性表面波フィルタ(以下、「弾性表面波フィルタ」という)10は、圧電基板11の主面の一方に櫛型電極(以下、「IDT」という)を設けることにより形成されている。
圧電基板11は、圧電材料として、例えば、水晶,リチウムタンタレート(LiTaO3 ),リチウムナイオベート(LiNbO3 )等の単結晶基板やSi基板へZnO成膜した基板等の多層膜基板等を使用することができる。この実施形態では、例えば、リチウムタンタレートによる基板を用いている。
【0018】
圧電基板11の一面である能動面に、アルミニウムやチタン等の導体金属を蒸着あるいはスパッタリング等により薄膜状に成膜形成した上で、例えば、フォトリソグラフィの手法を用いて、櫛型もしくはすだれ状となるようにIDTが形成されている。
図1において、符合P1は入力端子とされる電極パッドであり、これに対して、P2とP3はともに出力端子とされる電極パッドである。
したがって、弾性表面波フィルタ10は、図5と基本的に同様な構成をもつ入力側不平衡、出力側平衡型の弾性表面波フィルタである。
また、この弾性表面波フィルタにおいては、バスバーにより接続され、互いに平行に延びる細い複数の電極指によりIDTが形成されており、これらIDTの両側方に、IDTの電極指と同じ材料で形成され、互いに、両端を導電パターンで接続された細い平行な導体ストリップでなる反射器60,61を有している。
【0019】
具体的には、IDTは、次のように形成されている。
入力側の信号端子である入力端子P1から両側方に(図1の横方向に)導電パターン21が延びており、互いに同じ方向に90度曲げられて図1の縦方向にさらに延び、その先端部に、それぞれ図1の横方向に延びるバスバー22,23が形成されている。
各バスバー22,23からはそれぞれ図1の縦方向に複数の電極指が平行に延びている。すなわち、バスバー22からは細い電極指24,25,26が所定ピッチで等間隔に並んで、互いに平行に延びている。バスバー23からも細い電極指27,28,29が所定ピッチで等間隔に並んで、互いに平行に延びている。
【0020】
一方、IDT30とIDT31は、アース接続されたアース電極81と82とをそれぞれ有しており、各バスバー31,49からは図1の縦方向に沿って電極指32,33,34と37,38,39がそれぞれ延びている。これらの電極指のうち、電極指32,33,34は、対向する上記IDT20の各電極指24,25,26の間に入り込んでいる。また、電極指36,37,38は、対向する電極指27,28,29の間に入り込んでいる。
【0021】
IDT30と35の間には、出力側のIDTが形成されている。
すなわち、平衡側である2つの出力端子P2,P3は、図1に示されているように、上記したIDT30と35の間に設けられている。これら出力端子P2,P3に接続されたIDT50とIDT40とは、互いに対向配置されている。
具体的には、出力端子P2である電極パッドはバスバー51に接続されており、該バスバー51からはIDT50を構成する複数の細い電極指が図1の縦方向に沿って平行に延びている。
出力端子P3である電極パッドは、バスバー41に接続されており、該バスバー41からはIDT40を構成する複数の細い電極指が図示の縦方向に延びて、上記IDT50の電極指の間に入り込んでいる。
【0022】
そして、図1の実施形態で特徴的なのは、不平衡側である入力端子P1が接続されているIDT20を構成する複数の電極指のうち、平衡側である出力端子P2,P3が接続されているIDT50とIDT40のうちの、出力端子P3側であるIDT40を構成する電極指の一部と近接する電極指を、接地側ではなく信号側に接続していることである。
具体的には、IDT40の最も外側の電極指42と47について、電極指42と最も近接するIDT20の電極指27は、アース電極でなくバスバー23および導電パターン21を介して入力端子P1に接続されている。また、電極指47と最も近接するIDT20の電極指26は、アース電極ではなくバスバー22および導電パターン21を介して入力端子P1に接続されている。
【0023】
すなわち、図1において、入力端子P1が出力端子P2と位置的に近接していることから、後述する信号の流れだけでなく、入力端子P1に入力される信号が、圧電基板11を介して、出力端子P2側に直達することによる付加容量について、このようなIDTの電極指配置とすることで、打ち消すようにしている。
なお、図1のIDTは、電極指の本数などの点で、図示の都合により、実際のものより簡略化して示している。また、各端子などを構成する電極パッド形状やその形成位置は図示のものに限られない。パッド形状などは、図示のような方形や矩形のものに限らず、接続などの便宜のために、実際には、これらよりも異形に形成されることもある。
【0024】
弾性表面波フィルタ10のIDTは以上のように構成されており、電気信号と弾性表面波(SAW)との間の変換を行う機能を有する。
すなわち、電気信号が、入力端子P1を介してIDT20に入力されると、圧電基板11において、圧電効果により弾性表面波に変換される。この弾性表面波は、矢印T方向、すなわち、IDT20の各電極指24,25,26,27,28,29の長手方向に対して直交方向に伝搬され、IDT20の両側から圧電基板11により伝達されて、反射器60,61に向けて放射される。
【0025】
このとき、圧電基板11の材質、電極の厚みや電極の幅等で決定される伝搬速度とIDT20の各電極指の電極周期d0 に等しい波長を持つ弾性表面波が、最も強く励振される。この弾性表面波は、反射器60,61により多段反射されて内方へ戻され、IDT40およびIDT50に入射され、共振周波数付近の周波数(動作周波数)の電気信号に変換されて、各出力端子P2,P3から、大きさ、振幅が等しい逆相の信号として出力される。この出力信号について、図示しない後段の回路(ICなど)で差動をとることにより、ノイズが除去された特定周波数帯の信号を得ることができるものである。
【0026】
ここで、入力側のIDT20の電極指である電極指26,27が、平衡側のIDT40の電極指47,42と近接していて、これら電極指26,27が、アース接続されてしまうと、平衡側と結合が弱くなってしまい、出力信号の減衰量が低下して、減衰率が悪化してしまう。
しかしながら、本実施形態では、これら電極指26,27について信号側である入力端子P1と接続するようにし、これに近接する平衡側との間に容量を加えるようにすることで、容量のアンバランスを解消することができる。
このような構造とすることにより、圧電基板11の裏面に別個の導電パターンを形成するわけではないので、そのための工程が製造工程上増えることがなく、また、圧電基板11の櫛型電極が形成された側の面(能動面)の外縁などに、導電パターンを長く引き回す必要もないことから、全体を小型に形成することができる。
かくして、製造工程を増やす必要がなく、しかも大きく導電パターンを引き回すことがないから、実質的に装置の大型化につながることがなく、減衰量を大きくした平衡型弾性表面波フィルタ10を提供することができる。
【0027】
図2は第2の実施形態を示す概略平面図であり、図1の弾性表面波フィルタと共通する構成には同一の符号を付して重複する説明は省略し、以下、相違点を中心に説明する。
また、IDTの電極指の符号の一部は図1と同じであるから省略する。
図2の実施形態では、IDT20の電極指26,27について信号側である入力端子P1と接続するようにして、これに近接する出力端子P3が接続されたIDT40との間に容量を加えるだけでなく、該電極指26,27を長く延ばして、延長部71,71を一体に付加している。
これにより、これら電極指26,27のパターンを延長することで、さらに付加すべき容量を増大させることができる。また、その長さを調整することで、付加すべき容量の大きさを増減して調整可能とすることができる。
【0028】
図3は第3の実施形態を示す概略平面図であり、図1の弾性表面波フィルタと共通する構成には同一の符号を付して重複する説明は省略し、以下、相違点を中心に説明する。
また、IDTの電極指の符号の一部は図1と同じであるから省略する。
図3の実施形態では、IDT20の電極指26,27について信号側である入力端子P1と接続するようにして、これに近接する出力端子P3が接続されたIDT40との間に容量を加えるだけでなく、該電極指26,27を長く延ばして、かつ面積を増大した付加パターン部72,72を形成している。
【0029】
このように付加パターン部72,72を設けることによって、IDT40との間に加えられる容量をさらに増大させることができる。
また、付加パターン部72,72の形状を種々に変更することで、増加させる容量を調整することができる。
なお、上述の各実施形態は、IDT20の2つの電極指26,27について、同様に延長し(第2の実施形態)、さらに付加パターン部を形成(第3の実施形態)している。しかし、これに限らず、一方の電極指についてだけ、延長し、あるいは付加パターンを形成してもよい。
【0030】
本発明は上述の実施形態に限定されない。実施形態の各構成はこれらを適宜省略したり、図示しない他の構成と組み合わせることができる。
また、上述の実施形態では、反射器を伴う構成としたが、反射器はなくてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の(平衡型)弾性表面波フィルタの第1の実施形態を示す概略平面図。
【図2】本発明の(平衡型)弾性表面波フィルタの第2の実施形態を示す概略平面図。
【図3】本発明の(平衡型)弾性表面波フィルタの第3の実施形態を示す概略平面図。
【図4】従来の(平衡型)弾性表面波フィルタの一例を示す概略平面図。
【図5】図4の弾性表面波フィルタの電気的作用を示すブロック図。
【符号の説明】
【0032】
10・・・(平衡型)弾性表面波フィルタ、11・・・圧電基板、20,30,35,40,50・・・櫛型電極(IDT)、60,61・・・反射器、P1・・・入力端子、P2,P3・・・出力端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板の主面に櫛型電極を形成して、その入力側と出力側の一方を不平衡とし、他方を平衡とした平衡型弾性表面波フィルタであって、
前記不平衡側の櫛型電極を構成する複数の電極指のうち、前記平衡側の櫛型電極を構成する電極指の一部と近接する電極指を、接地側ではなく信号側に接続する構成とした
ことを特徴とする平衡型弾性表面波フィルタ。
【請求項2】
前記平衡側の櫛型電極を構成する電極指の一部と近接する電極指のうち、最も近接する電極指について、接地側ではなく信号側に接続する構成としたことを特徴とする請求項1に記載の平衡型弾性表面波フィルタ。
【請求項3】
前記最も近接する電極指が、他の電極指よりも長さ方向に延長されていることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の平衡型弾性表面波フィルタ。
【請求項4】
前記他の電極指よりも長さ方向に延長された電極指の先端付近の導電パターンについてその面積を拡大したことを特徴とする請求項3に記載の平衡型弾性表面波フィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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