説明

平角導体及びそれを用いたリード線

【課題】熱膨張が小さく、製造コストが安価な平角導体及び平角導体を用いたリード線を提供するものである。
【解決手段】本発明に係る平角導体10は、コア用薄板材の両面を導体用薄板材で挟み込んでなるクラッド材で構成される平角導体において、上記導体用薄板材の少なくとも一方のダレ部が上記コア用薄板材の側端部に覆設されているものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱膨張が小さい平角導体及びその製造方法並びにリード線に係り、特に、リード線に用いる平角導体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
太陽電池として、基板上にシリコン結晶を成長させた半導体チップが使用されている。この半導体チップを切断、分割してなるシリコン結晶ウェハの所定の領域(接点領域)に、はんだ付けなどにより接続用リード線が接合され、この接続用リード線を通じて電力が伝送(出力)される。
【0003】
通常、接続用リード線として、導体の表面に、ウェハとの接続のためのはんだメッキ膜が形成される。例えば、導体としては、タフピッチ銅や無酸素銅などの純銅の平角導体を用い、はんだメッキ膜としては、Sn−Pb共晶はんだを用いたものがある(例えば、特許文献1参照)。また、近年、環境への配慮から、はんだメッキ膜の構成材として、Pbを含まないはんだ(Pbフリーはんだ)への切り替えが検討されている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
ところで、太陽電池を構成する部材の内、シリコン結晶ウェハが材料コストの大半を占めていることから、製造コストの低減を図るべく、シリコン結晶ウェハの薄板化が検討されている。しかし、シリコン結晶ウェハを薄板化すると、接続用リード線のはんだ接合時における加熱プロセスや、太陽電池使用時における温度変化により、シリコン結晶ウェハに破損が生じるおそれがある。これに対処するため、接続用リード線として、熱膨張が小さいもの、また、接続用のはんだメッキ膜としては溶融温度の低いもののニーズが高まっている。
【0005】
熱膨張が小さいリード線の一例として、インバー(登録商標)などの熱膨張が小さい材料を銅材でクラッドしてなる条(銅−インバー(登録商標)−銅)で、リードフレームを形成したものがある(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−21660号公報
【特許文献2】特開2002−263880号公報
【特許文献3】特開2002−164560号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献3記載のリードフレームは、回路形成時に打抜き加工を行うものであるため、無駄になる材料が大量に生じてしまい、製造コストの上昇を招くという問題があった。
【0008】
また、特許文献3記載のリードフレームなどのように、銅−インバー(登録商標)−銅をクラッドしてなるクラッド材で構成した平角導体を用いたリード線を、シリコン結晶ウェハの接点領域に対してはんだ付けし易いように、引っ張り応力を負荷して直線状に矯正しようとすると、リード線に反りが生じる場合があった。反りが生じたリード線は、シリコン結晶ウェハに対して、良好にはんだ付けを行うことができないという問題があった。
【0009】
以上の事情を考慮して創案された本発明の一の目的は、熱膨張が小さく、製造コストが安価な平角導体及びその製造方法を提供することにある。
【0010】
また、本発明の他の目的は、熱膨張が小さく、製造コストが安価な平角導体を用いたリード線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成すべく本発明に係る平角導体は、コア用薄板材の両面を導体用薄板材で挟み込んでなるクラッド材で構成される平角導体において、上記導体用薄板材の少なくとも一方のダレ部が上記コア用薄板材の側端部に覆設されているものである。
【0012】
また、本発明に係る平角導体は、コア用薄板材の両面を導体用薄板材で挟み込んでなるクラッド材で構成される平角導体において、体積抵抗率が5.0(μΩ・cm)以下の上記導体用薄板材の少なくとも一方のダレ部が、熱膨張係数が10(×10-6/℃)以下の上記コア用薄板材の側端部に覆設されているものである。
【0013】
なお、本発明に係る平角導体は、コア用薄板材の両面を導体用薄板材で挟み込んでなるクラッド材を、一対の切断部材の内、少なくとも一方の切断部材の刃のエッジ部を曲面状に面取りした切断装置を用いて切断するものであってもよい。
【0014】
一方、本発明に係るリード線は、前述した平角導体の外周全体又は外周の一部を、Sn−Pbはんだ膜や、Pbフリーはんだ膜で被覆したものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、以下に示す効果を発揮する。
(1) 最外表面へのコア用薄板材の露出が全くない平角導体を得ることができる。
(2) 平角導体に引張応力を負荷した際に、反りが生じることがない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の好適一実施の形態に係る平角導体の横断面図である。
【図2】図1の平角導体を用いたリード線の横断面図である。
【図3】図1の平角導体の製造方法に用いる切断装置の斜視概略図である。
【図4】図1の平角導体の製造方法に用いる切断装置の部分拡大横断面図である。
【図5】本発明の別の好適一実施の形態に係る平角導体の横断面図である。
【図6】図5の平角導体を用いたリード線の横断面図である。
【図7】スリット法による切断方法に用いる切断装置の部分拡大横断面図である。
【図8】クラッド材で構成される平角導体の横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好適一実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0018】
(第1の実施の形態)
本発明者らは、以前、図8に示す銅材81a−インバー(登録商標)材82−銅材81bのクラッド材である平角導体80に関する特許出願を行った。この平角導体80は、クラッド材を、金属材料の裁断(切断)法として従来一般的に使われているスリット法を用いて裁断することで得られる。具体的には、図7に示すように、クラッド材70を、上下一対の回転刃71a,71bを2組(図7中では1組のみ図示)用いて図面と垂直な方向に連続的に切断することで、図8に示した平角導体80が得られる。
【0019】
ここで、回転刃71a,71bの各エッジ部72は、研削等によって鋭利な状態、略直角に仕上げられている。よって、切断により得られる平角導体80の各切断端面(側端面)83は、上下面に対して略直角に形成され、各側端面83において銅材81a,81bとインバー(登録商標)材82とが完全に露出する。銅材81a,81bとインバー(登録商標)材82との各接合部は、異種材料接触部であることから、各接合部に水分が接触することによって局部電池化が起こる。その結果、各接合部において腐食が生じるおそれがあった。
【0020】
そこで、本発明の好適一実施の形態に係る平角導体は、図1に示すように、コア用薄板材11の両面を導体用薄板材12a,12bで挟み込んでなるクラッド材で構成され、コア用薄板材11の両側端面(図1中の左右両端面)を各導体用薄板材12a,12bで覆設し(包み込み)、その最外表面におけるコア用薄板材11の露出を無くしたものである。導体用薄板材12a,12bの各両端は閉じ合わさり、迎合部(閉じ合わせ部)13が形成される。
【0021】
平角導体10は、クラッド材をA,Bの位置で矢印D1の方向に切断してなるものである。平角導体10におけるコア用薄板材11及び導体用薄板材12a,12bは、幅方向(図1中では左右方向)の両端部が矢印D1の向きに緩やかに湾曲形成されているが、導体用薄板材12aの下面は幅方向全体に亘って平坦に形成されている。
【0022】
コア用薄板材11は、熱膨張係数が10(×10-6/℃)以下の部材、例えば、Fe−Ni合金材で構成され、好ましくはインバー(登録商標)が挙げられる。また、導体用薄板材12a,12bは、体積抵抗率が5.0(μΩ・cm)以下の部材、例えば、Cu、Ag、Au、Al、又はそれらの金属を含む合金材で構成され、コストパフォーマンスを重視する場合はCu又はCu合金が好ましく、低体積抵抗率(高導電性)を重視する場合はAg又はAg合金が好ましい。さらに、コア用薄板材11は、ビッカース硬度が150Hv以下、導体用薄板材12a,12bは、ビッカース硬度が100Hv以下であることが好ましい。
【0023】
最良の形態の平角導体10は、インバー(登録商標)で構成されるコア用薄板材11と、Ag又はAg合金で構成される導体用薄板材12a,12bとを組み合わせて形成したものである。
【0024】
この図1に示した平角導体10の外周全体を、図2に示すようにはんだ膜21でメッキ被覆することで、リード線20が得られる。ここで、はんだ膜21による平角導体10のメッキ被覆は、平角導体10の外周の一部(例えば、平角導体10の上面及び下面)だけであってもよい。このリード線20を、シリコン結晶ウェハ(太陽電池モジュール(図示せず))におけるセル面の所定の接点領域(例えば、Agメッキ領域)及びフレーム部材(例えば、リードフレーム)の所定の接点領域に接続することで、太陽電池アセンブリが得られる。セル面及びリードフレームの所定の接点領域にも、接合用のはんだ膜を設けていてもよい。
【0025】
はんだ膜21は、Sn-Pb共晶はんだや、Pbフリーはんだで構成され、好ましくはSn-Ag-Cu系のPbフリーはんだが挙げられる。また、Sn-Ag-Cu系のPbフリーはんだは、更にIn及び/又はPを含んでいてもよい。Inの含有量は1〜10重量%、Pの含有量は0.005〜0.015重量%が好ましい。例えば、Sn-Ag-Cu系のPbフリーはんだとしては、Sn-3(又は4)Ag-0.5Cu-0.01P、Sn-3(又は4)Ag-0.5Cu-3In、Sn-3(又は4)Ag-0.5Cu-3In-0.01P、Sn-3(又は4)Ag-0.5Cu-5In、Sn-3(又は4)Ag-0.5Cu-5In-0.01P、Sn-3(又は4)Ag-0.5Cu-8In、Sn-3(又は4)Ag-0.5Cu-8In-0.01P、等が挙げられる(単位はいずれも重量%)。
【0026】
一般に、Pbフリーはんだは、Sn-Pb共晶はんだに比べて溶融温度が高いため、はんだ接合により、接続部材(セル面及びリードフレームの接点領域)へのダメージが懸念される。しかし、Pbフリーはんだの中で、Sn-3Ag-0.5Cu系はんだ及びSn-4Ag-0.5Cu系はんだ(単位はいずれも重量%)は、溶融温度が低いという特長を有している。また、これらのはんだに更にIn及び/又はPを含ませることによって、はんだの溶融温度を更に低くすることができる。
【0027】
このため、これらのSn-Ag-Cu系のPbフリーはんだを用いることで、はんだ接合時におけるシリコンセルの変形や破損のおそれを低減させることができる。ここで、Inの含有量を1〜10重量%としたのは、10重量%を超えて含有させると、溶融はんだの粘性が高くなり、はんだ付け作業性が低下するためである。また、Pの含有量を0.005〜0.015重量%とすることで、はんだ付け作業時におけるはんだの酸化変色を防止することができるため、接続(はんだ付け)の信頼性を向上させることができる。
【0028】
はんだ膜21の膜厚は、平角導体10の厚さの1/30〜1/3、好ましくは1/10〜1/3である。
【0029】
最良の形態のリード線20は、インバー(登録商標)で構成されるコア用薄板材11と、Ag又はAg合金で構成される導体用薄板材12a,12bとを組み合わせて形成した平角導体10の外周に、平角導体10の厚さの1/5の膜厚でSn-Ag-Cu系のはんだ膜21をメッキ被覆したものである。
【0030】
次に、本実施の形態の作用を説明する。
【0031】
本実施の形態に係る平角導体10においては、コア用薄板材11の外周全体を導体用薄板材12a,12bで覆っていることから、クラッド材であるにも関わらず、その最外表面に異種材料接触部は全く露出していない。その結果、平角導体10が水分と接触したとしても、平角導体10の最外表面において局部電池化が起こることはなく、延いては腐食が生じることもない。よって、耐食性が良好な平角導体10となる。
【0032】
また、本実施の形態に係る平角導体10においては、その最外表面において局部電池化が起こることはないことから、平角導体10の外周全体をはんだ膜21でメッキ被覆しなくてもリード線として使用可能である。よって、はんだ膜21による平角導体10のメッキ被覆は、平角導体10の一部(各接点領域との接触部近傍)だけで十分である。その結果、リード線20のコストダウンを図ることができる。更に、セル面及びリードフレームの所定の接点領域に、接合用のはんだ膜が設けてある場合、平角導体10をそのまま、耐食性が良好なリード線として適用することもできる。
【0033】
さらに、本実施の形態に係る平角導体10を用いたリード線20は、耐食性が良好であるため、このリード線20を用いて太陽電池アセンブリを構成することで、太陽電池アセンブリを長期間使用した際に、発電効率の低下が生じるおそれもなく、長期信頼性の向上を図ることができる。
【0034】
次に、本実施の形態に係る平角導体の製造方法を、添付図面に基づいて説明する。
【0035】
本実施の形態に係る平角導体10の製造方法は、コア用薄板材の両面を導体用薄板材で挟み込んでなるクラッド材を、スリット法を用いて切断するものである。
【0036】
具体的には、先ず、コア用薄板材の両面を導体用薄板材で挟み込んだ後、冷間での圧延加工及び熱処理を適宜繰り返し、図3に示すように、所望の厚さのクラッド材30を得る。この時、コア用薄板材としてはビッカース硬度が150Hv以下のものを、導体用薄板材としてはビッカース硬度が100Hv以下のものを用いる。また、コア用薄板材としては熱膨張係数が10(×10-6/℃)以下のものを、導体用薄板材としては体積抵抗率が5.0(μΩ・cm)以下のものを用いる。
【0037】
次に、図3,図4に示すように、得られたクラッド材30を、上下一対の回転刃31a,31bを2組有する切断装置31を用い、一方の回転刃31a,31aを、他方の回転刃31b,31bの方向(図3中では矢印D2の方向)に向かって移動させると共に、矢印D3の方向に走行させる。この時、少なくとも一方の回転刃31a,31b(図4中では回転刃31aのみ)の各エッジ部32には、半径rの曲面加工(R加工)が施されており、各エッジ部32は曲面状に面取りされる。半径rは、クラッド材30における板厚tの1/50以上(r≧t/50)とされる。移動させる回転刃は、曲面加工を施した方の回転刃とし、回転刃31a,31bの両方にR加工が施されている場合、両方の回転刃31a,31bを互いに近付く方向に移動させてもよい。
【0038】
この切断装置31を用いて、硬度を調整したクラッド材30を切断することによって、切断部35において切断ダレ41が生じる。この切断ダレ41によって、クラッド材30における導体用薄板材(図1中では導体用薄板材12b)及びコア用薄板材(図1中ではコア用薄板材11)は、回転刃31bの方に向かって移動する回転刃31aのエッジ部32に引きずられるように(巻き込まれるように)変形する。各板材の変形の際、変形量は、コア用薄板材よりも軟質な導体用薄板材の方が大きい。その結果、コア用薄板材の側面を覆うように導体用薄板材が変形し、図1に示した平角導体10が得られる。
【0039】
ここで、コア用薄板材11のビッカース硬度を150Hv以下、導体用薄板材12a,12bのビッカース硬度を100Hv以下とそれぞれ規定した理由を、以下に述べる。各々のビッカース硬度を規定値以下とすることで、クラッド材30に柔軟性が付与され、靭性が向上することから、切断時、切断部35において粘りが生じ、切断ダレ41が生じ易くなる。各々のビッカース硬度が規定値を超えると、クラッド材30の剛性が高くなりすぎて、切断部35において切断ダレ41が生じにくくなってしまい、図1に示した閉じ合わせ部13が得られなくなる。
【0040】
また、少なくとも一方の回転刃31a,31b(図4中では回転刃31aのみ)の各エッジ部32に、クラッド材30の板厚tの1/50以上、好ましくは1/30〜1/10の大きさを有する半径rの曲面加工を施すことによって、クラッド材30の切断部35における切り口の角度が鈍角となる。よって、切断部35に十分な切断ダレ41を生じさせることができる。その結果、切断ダレ41した導体用薄板材が、図1に示したように、コア用薄板材11の全体、特に側端面を覆うことが可能となる。半径rの大きさが、板厚tの1/50未満だと、切断部35において切断ダレ41が生じにくくなってしまい、図1に示した閉じ合わせ部13が得られなくなる。
【0041】
また、少なくとも一方の回転刃31a,31b(図4中では回転刃31aのみ)の各エッジ部32に、クラッド材30の板厚tの1/50以上、好ましくは1/30〜1/10の大きさを有する半径rの曲面加工を施すことによって、クラッド材30の切断部35における切り口の角度が鈍角となる。よって、切断部35に十分な切断ダレ41を生じさせることができる。その結果、切断ダレ41した導体用薄板材が、図1に示したように、コア用薄板材11の全体、特に側端面を覆うことが可能となる。半径rの大きさが、板厚tの1/50未満だと、切断部35において切断ダレ41が生じにくくなってしまい、図1に示した閉じ合わせ部13が得られなくなる。
【0042】
切断装置(又は裁断装置)としては、スリット法を用いた回転刃31a,31bに特に限定するものではなく、上下の金型を用いた打抜き加工機など、一対の切断刃(又は裁断刃)を用いて切断、裁断を行う方法であれば、同様の効果が得られる。打抜き加工機の場合、上下の各金型の内、少なくとも一方の金型の縁に、クラッド材30の板厚tの1/50以上の大きさを有する半径rの曲面加工を施す。
【0043】
最良の形態の平角導体10の製造方法は、少なくとも一方の回転刃31a,31bの各エッジ部32に、クラッド材30の板厚tの1/30〜1/10の大きさを有する半径rの曲面加工を施してなる図3に示す切断装置31を用い、ビッカース硬度が110〜130Hvのコア用薄板材11と、ビッカース硬度が60〜80Hvの導体用薄板材12a,12bとを組み合わせて形成したクラッド材30を切断するものである。
【0044】
次に、本実施の形態の作用を説明する。
【0045】
本実施の形態に係る平角導体10の製造方法においては、クラッド材30に対して切断加工を施すだけで、同時に、コア用薄板材の切断端面を導体用薄板材で覆うことができる。つまり、切断加工以外に特別な加工を施すことなく、図1に示したコア用薄板材11の両側端面が各導体用薄板材12a,12bで包み込まれた閉じ合わせ部13を有する平角導体10を得ることができる。よって、熱膨張が小さく、耐食性が良好な平角導体10を、安価に製造することが可能となる。
【0046】
次に、本発明の他の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0047】
(第2の実施の形態)
本発明の別の好適一実施の形態に係る平角導体の横断面図を図5に示す。
【0048】
図5に示すように、本実施の形態に係る平角導体50は、熱膨張係数が10(×10-6/℃)以下のコア用薄板材51の両面を、体積抵抗率が5.0(μΩ・cm)以下の導体用薄板材52a,52bで挟み込んでなるクラッド材で構成されるものである。また、導体用薄板材52a,52bがランダムで等方的な結晶配向性を有しており、以下の(1)式に示すIRの値が0.15以上、好ましくは0.20〜0.70、特に好ましくは0.35〜0.70のものである。
【0049】
R=I(111)/{I(200)+I(111)}≧0.15…(1)
ここで、I(111):面(111)のX線回折強度
I(200):面(200)のX線回折強度
コア用薄板材51及び導体用薄板材52a,52bとしては、前実施の形態に係る平角導体10のコア用薄板材11及び導体用薄板材12a,12bと同様のものを適用することができる。
【0050】
本実施の形態に係る平角導体50は、図8に示した平角導体80と同様の製造方法(スリット法)、打ち抜き加工法などにより製造されるものであって、特に限定するものではない。
【0051】
最良の形態の平角導体50は、インバー(登録商標)で構成されるコア用薄板材51と、Ag又はAg合金で構成され、かつ、IR値が0.35〜0.70の導体用薄板材52a,52bとを組み合わせて形成したものである。
【0052】
この図5に示した平角導体50の外周全体を、図2に示したはんだ膜21でメッキ被覆することで、図6に示すようにリード線60が得られる。ここで、はんだ膜21による平角導体50のメッキ被覆は、平角導体50の外周の一部(例えば、平角導体50の上面及び下面)だけであってもよい。このリード線60を、シリコン結晶ウェハ(太陽電池モジュール(図示せず))におけるセル面の所定の接点領域(例えば、Agメッキ領域)及びフレーム部材の所定の接点領域に接続することで、太陽電池アセンブリが得られる。
【0053】
最良の形態のリード線60は、インバー(登録商標)で構成されるコア用薄板材51と、Ag又はAg合金で構成され、かつ、IR値が0.35〜0.70の導体用薄板材52a,52bとを組み合わせて形成した平角導体50の外周に、平角導体50の厚さの1/5の膜厚でSn-Ag-Cu系のはんだ膜21をメッキ被覆したものである。
【0054】
次に、本実施の形態の作用を説明する。
【0055】
導体用薄板材52a,52bのIR値を0.15以上に規定している理由を以下に述べる。導体用薄板材52a,52bの結晶粒の面内配向(クラッド材表面の法線方向配向)は、主として面(111)及び面(200)が支配的となっている。前実施の形態において述べたように、クラッド材は、コア用薄板材51を導体用薄板材52a,52bで挟み込んでなるものに、冷間での圧延加工及び熱処理を適宜繰り返すことで得られるものである。
【0056】
このクラッド材の製造時、導体用薄板材52a,52bにおける再結晶粒の集合組織の面内配向で、面(200)が支配的になると、言い換えるとIRが0.15未満になると、再結晶粒が粗大化してしまう。その結果、図5に示した平角導体50を用いたリード線60を、シリコン結晶ウェハの接点領域に対してはんだ付けし易いように、引っ張り応力を負荷して直線状に矯正しようとすると、リード線60に反りが生じ易くなってしまう。
【0057】
本実施の形態に係る平角導体50においては、導体用薄板材52a,52bのIR値を0.15以上に規定していることで、引っ張り応力を負荷して直線状に矯正する際に反りが生じることはない。よって、この平角導体50を用いたリード線60は、はんだ付け性が良好となる。
【0058】
また、本実施の形態に係る平角導体50は、中心部が熱膨張が小さいコア用薄板材51で、外周部が体積抵抗率の低い(導電率が良好な)導体用薄板材52a,52bで構成されている。このため、太陽電池アセンブリを構成するシリコン結晶ウェハを薄板化したとしても、シリコン結晶ウェハと平角導体50を用いたリード線60とのはんだ接合時に、シリコン結晶ウェハに破損が生じるおそれはなく、かつ、太陽電池アセンブリで得られた電力を殆ど損失させることなく出力することができる。
【0059】
さらに、本実施の形態に係る平角導体50においては、その最外表面に、コア用薄板材51と導体用薄板材52a,52bとの異種材料接触部が存在することから、平角導体50が水分に接触すると、局部電池化による腐食が生じるおそれがある。このため、本実施の形態に係る平角導体50を用いたリード線60においては、局部電池化による腐食が特に問題とならない場合を除き、平角導体50の外周全体を、はんだ膜21によりメッキ被覆することが好ましい。これによって、リード線60においては、局部電池化による腐食が生じるおそれはなくなる。
【0060】
また、本実施の形態に係る平角導体50を用いたリード線60は、シリコン結晶ウェハとのはんだ付け性が良好であることから、太陽電池アセンブリの生産性向上を図ることができる。
【0061】
(第3の実施の形態)
本発明の更に別の好適一実施の形態に係る平角導体を、図1を参照して説明する。
【0062】
本実施の形態に係る平角導体(図示せず)の基本的な構成は、図1に示した平角導体10と同様であり、導体用薄板材12a,12bが、更に、ランダムで等方的な結晶配向性を有しており、以下の(1)式に示すIRの値が0.15以上、好ましくは0.20〜0.70、特に好ましくは0.35〜0.70のものである。
【0063】
R=I(111)/{I(200)+I(111)}≧0.15…(1)
ここで、I(111):面(111)のX線回折強度
I(200):面(200)のX線回折強度
本実施の形態に係る平角導体は、前述した第1の実施の形態に係る平角導体10と同様の製造方法により製造される。
【0064】
最良の形態の平角導体は、インバー(登録商標)で構成され、ビッカース硬度が110〜130Hvのコア用薄板材11と、Ag又はAg合金で構成され、ビッカース硬度が60〜80Hvで、かつ、IR値が0.35〜0.70の導体用薄板材12a,12bとを組み合わせて形成したものである。また、最良の形態のリード線(図示せず)は、前述した最良の形態の平角導体の外周に、平角導体の厚さの1/5の膜厚でSn-Ag-Cu系のはんだ膜21(図1参照)をメッキ被覆したものである。
【0065】
本実施の形態に係る平角導体においても、前述した第1及び第2の実施の形態に係る平角導体10,50と同様の作用効果が得られる。具体的には、耐食性が良好で、かつ、引張応力を負荷して直線状に矯正しようとした際に反りが生じにくい平角導体となる。
【0066】
また、本実施の形態に係る平角導体を用いたリード線においても、前述した第1及び第2の実施の形態に係る平角導体10,50を用いたリード線20,60と同様の作用効果が得られる。具体的には、はんだ膜21は、平角導体の一部(各所定の接点領域との接触部近傍)だけに被覆すれば十分であるため低コストであり、かつ、反りが生じにくいためはんだ付け性が良好なリード線となる。
【0067】
以上、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、他にも種々のものが想定されることは言うまでもない。
【0068】
また、本発明の平角導体は、太陽電池アセンブリのリード線として適用することができる他に、1GHz以上の高周波信号を伝送するための導体として使用することも可能である。特に、本発明の平角導体は、熱膨張により伝送特性が著しく劣化するような無線LAN等への適用が期待できる。
【0069】
次に、本発明について、実施例に基づいて説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0070】
(実施例1)
インバー(登録商標)製で、幅が2.0mm、板厚が0.030mmのコア用薄板材と、Cu製で、幅が2.0mm、板厚が0.060mm、IRが0.60の導体用薄板材とを用い、幅が2.0mm、板厚が0.150mmで、図1に示した構造の平角導体を作製した。
【0071】
この平角導体の周りに膜厚0.035mmのはんだ膜を形成し、図2に示した構造のリード線を作製した。
【0072】
(実施例2)
導体用薄板材のIRが0.40である以外は、実施例1と同様にして平角導体を作製し、その後、リード線を作製した。
【0073】
(比較例1)
導体用薄板材のIRが0.12である以外は、実施例1と同様にして平角導体を作製し、その後、リード線を作製した。
【0074】
(比較例2)
導体用薄板材のIRが0.03である以外は、実施例1と同様にして平角導体を作製し、その後、リード線を作製した。
【0075】
実施例1,2及び比較例1,2の各リード線を、シリコン結晶ウェハにおけるセル面の接点領域にはんだ付けするために、各リード線に210MPaの引張応力を負荷した。応力負荷時の結果を表1に示す。
【0076】
【表1】

【0077】
表1に示すように、実施例1,2のリード線は、導体用薄板材のIRが0.15以上(0.60,0.40)であるため、応力負荷によってリード線は直線状に矯正され、反りは生じなかった(平坦となった)。その結果、実施例1,2のリード線は、シリコン結晶ウェハに対して、良好にはんだ付けを行うことができた。
【0078】
これに対して、比較例1,2のリード線は、導体用薄板材のIRが0.15未満(0.12,0.03)であるため、応力負荷によってリード線を直線状に矯正しようとしても、大きな反りが生じてしまった。その結果、比較例1,2のリード線は、シリコン結晶ウェハに対して、良好にはんだ付けを行うことができなかった。
【符号の説明】
【0079】
10 平角導体
11 コア用薄板材
12a,12b 導体用薄板材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア用薄板材の両面を導体用薄板材で挟み込んでなるクラッド材で構成される平角導体において、上記導体用薄板材の少なくとも一方のダレ部が上記コア用薄板材の側端部に覆設されていることを特徴とする平角導体。
【請求項2】
コア用薄板材の両面を導体用薄板材で挟み込んでなるクラッド材で構成される平角導体において、体積抵抗率が5.0(μΩ・cm)以下の上記導体用薄板材の少なくとも一方のダレ部が、熱膨張係数が10(×10-6/℃)以下の上記コア用薄板材の側端部に覆設されていることを特徴とする平角導体。
【請求項3】
上記コア用薄板材のビッカース硬度が150Hv以下、上記導体用薄板材のビッカース硬度が100Hv以下である請求項1,2いずれかに記載の平角導体。
【請求項4】
上記コア用薄板材をFe−Ni合金材、上記導体用薄板材をCu、Ag、Au、Al、又はそれらの金属を含む合金材で構成した請求項1から3いずれかに記載の平角導体。
【請求項5】
請求項1から4いずれかに記載の平角導体の外周全体又は外周の一部を、Sn−Pbはんだ膜で被覆したことを特徴とするリード線。
【請求項6】
請求項1から4いずれかに記載の平角導体の外周全体又は外周の一部を、Pbフリーはんだ膜で被覆したことを特徴とするリード線。
【請求項7】
上記Pbフリーはんだ膜がSn-Ag-Cu系合金で構成される請求項6記載のリード線。
【請求項8】
上記Sn-Ag-Cu系合金が、更にIn及び/又はPを含む請求項7記載のリード線。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−193966(P2009−193966A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−105832(P2009−105832)
【出願日】平成21年4月24日(2009.4.24)
【分割の表示】特願2003−427591(P2003−427591)の分割
【原出願日】平成15年12月24日(2003.12.24)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】