説明

幹細胞、その精製方法、同定方法及び使用

循環するCD14細胞の新規の集団について開示し、この細胞は、CD34を低密度で表面に発現しており、幹細胞能を与えている。また、この細胞の精製方法、同定方法及び治療上の使用についても開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規の幹細胞の集団、その精製、及び血管系の病態及びその他のヒトの病態の処置への使用に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、成人の末梢血が骨髄に由来する循環する細胞であって成熟内皮細胞(ECs)に分化し得る、いわゆる内皮前駆細胞(EPCs)を含有することは、公知である;この細胞は、新規の血管壁の形成に貢献する虚血部位に局在化し得る。この特性ゆえ、これらの細胞は、in vivoの動物モデルにおいても、急性の心筋梗塞及び慢性の虚血性心臓病の影響を受けた患者においても、組織修復に首尾よく使用されている。
【0003】
他方、最終的に分化して成熟した内皮細胞の虚血後の再還流が脈管化を増加させないことも知られており、従って、これらの細胞が分化能を欠失することは明らかである。
【非特許文献1】Lasagni L.ら著、”An alternative spliced variant of CXCR3 mediates IP−10, Mig e I−TAC induced−inhibition of endothelial cell growth and acts as functional receptor for PF−4”、J.Exp.Med.、2003年、197巻、p.1537−1549
【非特許文献2】Scheffold A.ら著、”High sensitivity immunofluorescence for detection of the pro− and anti−inflammatory cytokines gamma interferon and interleukin−10 on the surface of cytokine−secreting cells”、Nat.Med.、2000年、6巻、p.107−110
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
EPCsがCD133細胞、CD34CD14細胞、及びCD14CD34細胞から得られることは、後者が幹細胞能を真に与えるかどうかが未だ明確でないとしても、周知である。さらに、末梢血及び骨髄における内皮前駆体細胞の実際の数は、未だ議論の対象である。
【0005】
虚血や病態、又は外傷性の障害で障害を受けた組織の再構築へのこれらの細胞への可能性のある重要性の点で、本技術分野において、深く検討することが明確に関心を集めている。
【0006】
また、NANOGと称される遺伝子について、未成熟の幹細胞の多分化能の再生及び持続にキーとなる役割を演じることが言及されていることも周知である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、組織の再構築療法に適用し得る幹細胞の新規の集団を使用することを可能にし、この細胞の同定及び回収を可能とする。さらに、本発明は、幹細胞能を付与された循環する細胞の百分率(及び絶対数)を評価する診断キット、及び治療目的でのこの細胞の精製用キットを実現可能とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
事実、NANOGがヒトの幹細胞を同定するための有用なマーカーであることを驚くべきことに発見した。この理由は、臍帯若しくは末梢血、又はCD34細胞から得たCD133細胞により発現されているためである。これらは、不便なことに、幹細胞能を付与されたヒトの細胞である。逆に、NANOGは、内皮細胞、上皮細胞及び平滑筋細胞、の初代培養、白血球、及びその他の終局的に分化した細胞種において、発現されていない(図1)。
【0009】
さらに、NANOGがEPCsを得るために培養された単核の循環細胞(mononucleated circulating cells;MNC)において高いレベルで発現されていることも発見した一方、この遺伝子の発現は、細胞が終局的に分化した細胞及び成熟した内皮細胞の発現型を獲得した場合、消失することも見出し、そのマーカーは、フォン・ヴィレブランド因子、KDR、及びTie−2である(図2)。EPCsは、リアルタイムRT−PCRによる定量分析で示すように、高いレベルで、NANOG、CD14、CD34及びCD105を発現する(図3)。
【0010】
細胞蛍光を用いた表面分析により、これらの細胞は、CD14、CD105、CD11c、CD31、CD86、HLA−DRであり、本発明の細胞の表面上でのCD34は、通常の細胞蛍光技術では、検出されなかった(表1)。
【0011】
【表1】

【0012】
CD34が細胞表面に発現しているかどうかを発見するのに、対応するmRNAのレベルが高いことを示唆することにより、より感受性の高い方法が適用されている。特に、抗体(Ab)を結合した磁性を有する蛍光リポソーム(magnetofluorescent liposomes;Ab−CMFL)を使用した細胞蛍光技術がこの目的で使用されている。蛍光信号を約100〜1000倍に増加させ得るこの技術により示されるのは、ほとんど全ての培養細胞がCD14CD34であることである(図4)。
【0013】
上述したように、本発明の細胞集団は、その表面上にCD14及びCD34を同時に発現する細胞からなり、末梢血において、残存する単核細胞からこの集団を単離することが可能である。上述したように、循環血に加えて、本発明による細胞の単離は、臍帯血、骨髄、胎盤又はヒトの種々の組織から同時に行い得る。
【0014】
培養したCD14CD34EPCsの集団が末梢血に前もって存在する集団の選択に由来するかどうかを検証するため、密度勾配(密度=1.077g/L)中での分離により、血液に存在する他の細胞要素から単核の細胞を単離した。CD14細胞は、磁性を有するカラムを含む正の分離法(positive separation method)により、末梢血の単核細胞の集団から精製された。一度細胞の数を同定すると、これらを、超常磁性のマイクロスフェアに結合された抗CD14抗体を含有する緩衝液中でインキュベートし、磁場中のカラムに適用した。カラムを磁場から除いて溶出することにより、このCD14細胞分画を回収した。
【0015】
その後、精製されたCD14細胞分画(95%以上同質)を、以下の抗体でインキュベートした:つまり、蛍光色素を結合した抗CD34抗体、ジゴキシゲニンを結合した抗蛍光色素抗体、ビオチンを結合した抗ジゴキシゲニン抗体、及び最終的に、前持って抗ビオチン抗体を結合した蛍光を有するリポソーム(Ab−CMFL)でインキュベートした。
【0016】
この処置の後、分配機能付き細胞蛍光計を用いて、これらの細胞を分析し、CD14CD34の細胞集団を単離した(純度は、98%以上)。Ab−CMFL技術を用い、CD34をも発現するCD14細胞の百分率を、24〜40歳の10人の健常人について、測定した。CD14CD34細胞の百分率は、全ての白血球の1.2〜7.5%であった。
【0017】
循環するCD14CD34細胞がEPCsの初期の源であることを確認するため、単核の集団からCD14細胞を精製し、Ab−CMFL技術を用いて、CD34細胞とCD34細胞とに分割した。残存するCD14CD34細胞の集団を、さらなるコントロールとして、評価した。その後、上記の手段により単離した上記の3つの集団を、定量RT−PCRにより、NANOGの発現について、検討した。NANOGの発現は、分割していないCD14細胞と比較して、CD14CD34細胞において、有意に高いものとなり、CD14CD34細胞において、有意に低いものとなった(図5(B))。
【0018】
CD14CD34、CD14CD34及びCD14CD34の集団を、上記の条件下で、VEGF存在下で培養し、12日目に、KDRやvWFなどの典型的な内皮細胞マーカーの発現について、検討した。その結果、両方の集団において、0日目においては、KDR及びvWFのmRNAの発現は、全くないか極めて低いものであった。しかしながら、これらのマーカーの発現は、CD14CD34の集団において、漸次増加し、12日目に最大となった一方、CD14CD34の集団及びCD14CD34の集団での全ての培養期間において、実質的に変化しないままであった。
【0019】
KDR及びTie−2の表面発現に関するフローサイトメーターでの検討により確認したのは、CD14CD34の集団の全ての細胞において、基本的にKDR及びTie−2の両方を発現していた一方で、CD14CD34の集団及びCD14CD34の集団に由来する細胞では、これらのマーカーは、実質的に発現していないことであった(図6)。
【0020】
NANOGを発現するEPCs細胞は、CD14CD34が発現した。これらの細胞は、末梢血に前もって存在するNANOGを発現する循環するCD14CD34細胞の培養から選択したものに由来する。
【0021】
従って、NANOGの発現を特徴とするCD14CD34の集団は、EPCsの主要な源であることは、明らかである。
【0022】
従って、血液からの回収、及びNANOGを発現するCD14CD34細胞の使用は、血管の障害の処置に重要であり得る。さらに、NANOGの発現を検討することは、幹細胞能を有する成人の細胞を同定する有用な方法に相当するかもしれない。多能性の幹細胞の特徴であるNANOGの発現で示唆されるのは、この幹細胞の集団が、臓器又は組織の障害を特徴とするその他の種類の病態にも治療上有用であるかもしれないことである。
【0023】
従って、本発明は、虚血、神経変性疾患、及び脳血管性疾患を処置するための細胞療法、及び臓器(心臓、腎臓、肺、腎臓、若しくは膵臓の障害、泌尿器、視覚、聴覚、嗅覚、皮膚及び/又は粘膜、骨、及び/又は軟骨性臓器及び組織)の障害の治療、並びに血液病及び免疫不全疾患の処置に有用であり得る医薬組成物にも関する。
【0024】
さらに、血液に存在する細胞の数を同定する能力は、患者において十分な細胞数が存在するか否かを基礎として、上述の病態の処置用の細胞治療が適合しているかどうかの妥当性を評価する興味ある診断方法に相当する。
【実施例】
【0025】
(実験部)
CD14細胞、又はHMVEC細胞(8×10細胞/mL、細胞密度2.5×10細胞/cm)を、ヒトフィブロネクチンをコートした培養ディッシュ上に播種し、EGM Single Quotes、VEGF(100nm/mL)及び20%FCSを添加した基礎内皮用培地で保持した。
【0026】
この細胞から全RNAを抽出し、染色体DNAの混入物を除去するため、DNaseIで処理した。非特許文献1に記載の通り、Taq−Man RT−PCRを行った。
【0027】
Tie−2、KDRの同定、及びCD1aの定量は、その後、市販のキット(Applied Biosystems、Warrington、英国)を用いたTaq−Manアッセイにより、行った。
【0028】
HMVECから調製したmRNAの希釈系を用いて、標準曲線を描いた。異なるヒトの組織及び培養中でのNANOGのmRNAの発現の特異的且つ定量的同定に関し、12p 13.31にマップされた、マウスのNANOGの遺伝子のヒトの相同分子種を検出し得る異なるオリゴヌクレオチド対を調製した。
【0029】
特異性を確保するため、NCBIにおいて、全ヒトゲノムからtBLASTn検索した上記のオリゴヌクレオチドで増幅される全配列を用いた。
【0030】
特異性を基礎に選択したオリゴヌクレオチド対を、VICで標識した蛍光プローブとともに、定量Taq−man RT−PCRアッセイに使用した。このオリゴヌクレオチドの特異性及び最適な増幅効率は、NANOGのcDNA配列を有するプラスミドで検討した。
【0031】
プライマー及びプローブは、以下の通りである。
【0032】
NANOG:VICプローブ、5’−TCCATCCTTGCAAATGTCTTCTGCTGAGAT−3’
フォーワード:5’−GATTTGTGGGCCTGAAGAAAACT−3’
リバース:5’−AGGAGAGACAGTCTCCGTGTGAG−3’
【0033】
同量のプラスミドDNAを用いた希釈系から得た標準曲線と、実験データとを比較して、mRNAのレベルを定量した。
【0034】
細胞表面の分子のフローサイトメトリー分析は、上述の文献に述べた通り行い、その後、Ab−CMFLを行った(非特許文献2参照)。
【0035】
この方法により、従来の方法と比較して、蛍光シグナルの強度を100〜1000倍増加させることが可能となる。
【0036】
L−リジンでコートした基質上で、acLDLで二重標識したプローブを1時間存在下で、37℃、30分、接着細胞を培養させた;固定した後、FITCで標識したUlex EuropeusのアグルチニンIの存在下でサンプルをインキュベートした。サンプルを退色防止媒体中に載置し、従来の共焦点顕微鏡で検討した。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】幹細胞能を付与されたヒトの細胞、及びその他の組織に由来する細胞における、異なるNANOGの発現を示す。
【図2】培養EPCsにおけるNANOGの発現を示す。
【図3】培養EPCsにおける、mRNAレベルでの種々のマーカーの発現を示す。
【図4】培養EPCsがCD14CD34細胞であることを示す。
【図5】(A)は、循環するCD14細胞からの、CD14CD34細胞、及びCD14CD34細胞の分離を示し、(B)は、CD14CD34、CD14CD34、及びCD14の3つの異なる集団におけるNANOGの発現を示す。
【図6】CD14CD34、CD14CD34及びCD14CD34細胞の、内皮細胞への異なる分化能、及び内皮に特異的なマーカーの異なる発現能を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
幹細胞能を付与された成人細胞の同定方法であって、転写因子であるNANOGのRNA及び/又はタンパク質の発現を測定することを特徴とする方法。
【請求項2】
細胞表面上にCD14とCD34とが同時に存在することを特徴とする幹細胞集団。
【請求項3】
請求項2に記載のCD14CD34幹細胞集団を末梢血から回収する方法であって、末梢血中に残存する単核細胞から前記の集団を単離するのに、細胞表面上にCD14及びCD34のマーカーが同時に存在することを検出することを用いることを特徴とする方法。
【請求項4】
循環血、臍帯血、骨髄、胎盤、又はヒトの各組織から前記の回収を行うことを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
請求項2に記載のCD14CD34細胞の精製方法であって:
血液の他の細胞成分からの単核細胞の単離が、密度勾配分離法(密度=1.077g/L)により達成され、
末梢血の単核細胞の集団に存在するCD14細胞の精製が、免疫磁気分離法により、達成され、
CD14CD34細胞の回収が、CD14の集団と、蛍光色素を結合した抗CD34抗体と、ジゴキシゲニンを結合した抗蛍光色素抗体と、ビオチンをコンジュゲートした抗ジゴキシゲニン抗体と、前もって抗ビオチン抗体をコンジュゲートした蛍光色素リポソーム(Ab−CMFL)とを最終的にインキュベートすることにより、得られる、
ことを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項2に記載の細胞の使用であって、
虚血、神経変性疾患若しくは脳血管疾患の処置、及び臓器障害(心臓、腎臓、肺、肝臓、若しくは膵臓障害、及び泌尿器、視覚、聴覚、嗅覚、皮膚及び/又は粘膜、骨、及び/又は軟骨性臓器及び組織)の治療、並びに血液病及び免疫不全疾患の処置に有用な医薬組成物(細胞治療)の調製への使用。
【請求項7】
請求項2又は5に記載の集団のマーカー用の、特異的試薬のシリーズを有するキットであって、請求項2に記載の幹細胞集団の同定及び/又は回収を可能とすることを特徴とするキット。
【請求項8】
前記試薬は、抗体をコンジュゲートした磁性を有する蛍光リポソーム、又は請求項2に記載の細胞集団の表面上に発現する低いレベルの分子であっても検出可能なその他の二次反応物質と関連づけられたCD14及びCD34のマーカーに特異的な抗体又はプローブであることを特徴とする請求項7に記載のキット。
【請求項9】
前記反応物質、抗体又はプローブは、以下のマーカー:NANOG、CD11c、CD16、CD105、CD31、CD86及びHLA−DRに特異的であり、可能であれば、請求項2の細胞集団の検出及び/又は回収を可能とするその他の二次反応物質と組み合わされていることを特徴とする請求項7に記載のキット。
【請求項10】
虚血、神経変性疾患若しくは脳血管疾患の処置、及び臓器障害(心臓、腎臓、肺、肝臓、若しくは膵臓障害、及び泌尿器、視覚、聴覚、嗅覚、皮膚及び/又は粘膜、骨、及び/又は軟骨性臓器及び組織)の治療、並びに血液病及び免疫不全疾患の処置の方法であって、請求項2に記載の幹細胞集団を用いて、1×10〜100×10細胞の量で、患者を還流することを含むことを特徴とする方法。
【請求項11】
還流の前に、幹細胞の増殖因子、及び/又は組織特異的な分化を惹起する目的の因子を用いた増幅及び/又は活性化のために、請求項2に記載の幹細胞を処置することを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項12】
請求項9に記載の病態の処置用の細胞治療が適合しているかどうかの妥当性を評価する診断方法であって、患者中の細胞の量を、請求項2に従って同定することを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2008−524985(P2008−524985A)
【公表日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−540656(P2007−540656)
【出願日】平成17年11月14日(2005.11.14)
【国際出願番号】PCT/EP2005/055950
【国際公開番号】WO2006/051112
【国際公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【出願人】(507147367)アヅィエンダ オスペダリエロ−ユニヴァーシタリア カレッジ (1)
【Fターム(参考)】