説明

広帯域パルスレーダの距離計測方法

【課題】精度の高い距離計測が可能な広帯域パルスレーダの距離計測方法を提供する。
【解決手段】広帯域パルスレーダ信号の目標物からの反射波受信信号に対して各々異なる基底関数を使用する複数のウェーブレット変換を行なって各々ピーク値を算出する(ステップ23A,23B)。算出されたピーク値に補正を行ない(ステップ24)、この補正されたピーク値に基づいて距離算出を行なう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広帯域パルスレーダの距離計測方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、レーダにおける距離計測方法としては特許文献1に記載のものがあった。
これは、自動車等に搭載されるレーダ装置であって、対象物(目標物)からの反射波のレベルを予め定めた閾値と比較し、閾値以上となる反射波のみに基づいて対象物との相対距離を測定するというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−192427号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載のレーダ装置における距離計測方法では、高分解能化や低出力化等により送信されるパルス波形が伝搬経路内で変化して誤差の要因となり、距離計測の精度が低くなった。
【0005】
本発明は、上記のような実情に鑑みなされたもので、精度の高い距離計測が可能な広帯域パルスレーダの距離計測方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を達成するために、請求項1に記載の発明は、広帯域パルスレーダ信号の目標物からの反射波受信信号に対して各々異なる基底関数を使用する複数のウェーブレット変換を行なって各々ピーク値を算出し、算出されたピーク値に補正を行ない、この補正されたピーク値に基づいて距離算出を行なうことを特徴とする。
請求項2に記載の発明は、広帯域パルスレーダ信号の目標物からの反射波受信信号に対して各々異なる基底関数を使用する複数のウェーブレット変換を行なって各々ピーク値を算出し、各基底関数の確率密度から最大確率となるように前記ピーク値を補正し、この補正されたピーク値に基づいて距離算出を行なうことを特徴とする。
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の発明において、複数のウェーブレット変換は2つのウェーブレット変換であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
請求項1の発明によれば、上記のように構成したので、受信信号上の誤差要因を取り除くことができ、精度の高い距離計測が可能な広帯域パルスレーダの距離計測方法を提供できる。
請求項2の発明によれば、更に精度の高い距離計測が可能な広帯域パルスレーダの距離計測方法を提供できる。
請求項3の発明によれば、請求項1又は2の広帯域パルスレーダの距離計測方法を最も簡易な構成で実現できる。
更に、レーダの検出率向上の効果もある。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明による広帯域パルスレーダの距離計測方法の一実施形態を示すフローチャートである。
【図2】図1中の要部の詳細を例示するフローチャートである。
【図3】図2に示す処理の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。なお、各図間において、同一符号は同一又は相当部分を示す。
図1は、本発明による広帯域パルスレーダの距離計測方法の一実施形態を示すフローチャートである。
図示するように本実施形態は、広帯域パルスレーダ信号の目標物からの反射波受信信号(受信パルス)に対し、ステップ1で受信処理を施し、ステップ2で信号パワー算出補正を行ない、その後、ステップ3で、ステップ2において補正された信号パワーのピーク値に基づいて距離算出するという手順で広帯域パルスレーダの距離計測をする方法である。
【0010】
具体的には、まずステップ1において、伝搬路を伝送してきた広帯域パルスレーダ信号の反射波信号を受信し、この受信信号を復調した後、AD変換する。以後の処理をデジタル処理で行なうためである。
ステップ2では、ステップ1で受信処理された信号に対して、その時間軸に対するエネルギー分布を算出し、信号パワーのピーク値を求める。本実施形態では、ステップ1で受信処理された信号に対して、基底関数の異なる2つのウェーブレット変換を行なって、確率密度から上記信号パワーのピーク値の補正(信号パワー算出補正)を行なう。詳細は後述する。
ステップ3では、ステップ2において補正された信号パワーのピーク値を示す時間(ピーク時間)の、送信パルス送信時間に対する時間差を計測し、目標物の距離を算出する。算出結果(距離情報)は、例えば記憶装置4に出力され、距離の表示等に供される。
【0011】
次に、図2及び図3を参照して上記ステップ2における信号パワー算出補正の詳細を説明する。
図2から分かるように、図1中のステップ1で受信処理された反射波受信信号(受信パルス)に対して、まず、ステップ21A,21Bにおいて各々異なる基底関数を使用する複数のウェーブレット変換を行ない、各周波数毎の時間軸−エネルギー分布(パワー軸)のデータ31A,31B(図3参照)を作成する。ここでは2種類の基底関数1,2を使用して各別に連続ウェーブレット変換を行ない、データ31A,31B(図3参照)を作成する。
【0012】
次に、ステップ21A,21Bにおいて作成したデータ31A,31Bに対して時系列エネルギースペクトル算出を行ない、各周波数毎の時間軸−エネルギー分布のスペクトルを作成する(ステップ22A,22B)。
【0013】
ステップ23A,23Bでは、エネルギー総和ピーク値算出を行なう。すなわち、上記ステップ22A,22Bにおいて作成した各エネルギースペクトルから総和ピーク値32A,32B(図3参照)を算出する。
【0014】
ステップ24では、ステップ23A,23Bで算出された総和ピーク値32A,32Bと予め用意しておいた基底関数1,2毎の確率密度データ25A,25Bとによってピーク値の補正を行ない、距離算出に用いるピーク値、詳しくは同ピーク値を示す時間を求める。
図1中のステップ3では、このステップ24で得られた補正されたピーク値(信号パワーのピーク値)に基づき、詳しくは同ピーク値を示す時間に基づき、目標物の距離を算出する。
【0015】
なお、上記基底関数1,2毎の確率密度データ25A,25Bとしては、例えば基底関数1,2毎に上記のステップ21A,21B〜ステップ23A,23Bまでの処理を複数回行なって得られた信号パワーのピーク値の分布から算出し記憶しておいたものが用いられる。
【0016】
ステップ24におけるピーク値(ピーク値を示す時間)の補正は、上述実施形態では総和ピーク値32Aに対して確率密度データ25Aによって、総和ピーク値32Bに対して確率密度データ25Bによって行なっているが、これのみに限られない。
例えば、総和ピーク値32A,32Bの平均値(単純平均値又は加重平均値)に対して確率密度データ25A,25Bの平均値(単純平均値又は加重平均値)によってステップ24におけるピーク値の補正を行なってもよい。図3中の確率密度データ34中の誤差補正値taは、確率密度データ25A,25Bのピーク平均値(ピーク平均値を示す時間)を指すが、上記の総和ピーク値32A,32Bの平均値に対してこのような誤差補正値taによってステップ24におけるピーク値の補正を行なってもよい。各総和ピーク値32A,32Bに対して上記のような誤差補正値taによりピーク値の補正を行なってもよい。
【符号の説明】
【0017】
1:受信処理ステップ、2:信号パワー算出補正ステップ、3:距離算出ステップ、21A,21B:基底関数1,2によるウェーブレット変換ステップ、22A,22B:時系列エネルギースペクトル算出ステップ、23A,23B:エネルギー総和ピーク値算出ステップ、24:ピーク値の補正ステップ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
広帯域パルスレーダ信号の目標物からの反射波受信信号に対して各々異なる基底関数を使用する複数のウェーブレット変換を行なって各々ピーク値を算出し、算出されたピーク値に補正を行ない、この補正されたピーク値に基づいて距離算出を行なうことを特徴とする広帯域パルスレーダの距離計測方法。
【請求項2】
広帯域パルスレーダ信号の目標物からの反射波受信信号に対して各々異なる基底関数を使用する複数のウェーブレット変換を行なって各々ピーク値を算出し、各基底関数の確率密度から最大確率となるように前記ピーク値を補正し、この補正されたピーク値に基づいて距離算出を行なうことを特徴とする広帯域パルスレーダの距離計測方法。
【請求項3】
複数のウェーブレット変換は2つのウェーブレット変換であることを特徴とする請求項1又は2に記載の広帯域パルスレーダの距離計測方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−232148(P2011−232148A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−102099(P2010−102099)
【出願日】平成22年4月27日(2010.4.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】