説明

座席装置

【課題】リクライニング状態であっても背凭れによる後席の居住空間への侵害が少なく、着座が長時間に亘っても安楽感を維持でき、シェルを固定配置してもコストを抑えながらも既存の安全基準を満たすことができる座席装置を提供する。
【解決手段】背凭れ20と当該背凭れ20の傾動に連動して移動する座部30とを保持するベースフレーム60と、背凭れ20が傾動する際に、後方に移動する背凭れ20の傾動量を所定範囲内に制限すると共に、背凭れ20と座部30との相対姿勢を維持するガイドフレーム100および連結板310を設けた。また、緊急時衝撃が前記シェル400に対して後方から加わった際に、シェル400を前方へ傾動させることで衝撃荷重を吸収すると共に、該シェル400の傾動量を所定範囲内に制限する緩衝手段を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、座席の後面側にシェルが固定配置され、該シェルの前面側にて座部が移動可能に支持されると共に背凭れが傾動可能に支持され、前記シェルに干渉しない範囲で前記背凭れの傾動と前記座部の移動とが連動する座席装置、とりわけ航空機や車両等の乗物用の座席装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、航空機や車両等に装備される乗物用の座席装置には、快適な座り心地を提供するためのリクライニング機構を備えたものがある。
このような座席装置では、着座者が背中で背凭れを後方に押すことにより、支点に保持されていた背凭れを後方にリクライニング可能としたものが一般的である。さらに、座部を前後にスライドさせるスライド機構が付加されたものもある。
【0003】
一般に、このような座席装置は、背凭れと座部とがリンク等で連結されており、リクライニングする時の背凭れの動きに連動して座部が前後および上下に動くようになっている。このようなリクライニング機構により、座席装置は、着座者の着座姿勢を変えることを可能にしており、これによって着座者に身体の休息感やリラックス感を提供している。
【0004】
ところが、乗物用の座席装置では座席を複数列に配置するので、リクライニングの際には、後方に移動した背凭れが後ろの座席装置に着座している乗客の居住空間を侵害してしまう。このため、後方への背凭れの移動量によっては、後席の乗客の居住空間への侵害が著しくなって乗客に不快感を与えることもある。
【0005】
また、図15に示すように、シートを後方にリクライニングする際には、背凭れの背当て面と座部の座面との成す角度が広がるように変化するために、着座者の着衣が引き上げられるように捲くれ上がった状態となったり、変化自体が不自然な動きであったりするので、着座者は不快感を感じ易いという問題があった。さらに、人間工学的に見ると、骨盤が傾倒(回転)することになるので、着座時間が長くなると腰椎部の負担が大きくなって疲労が蓄積し、疲労感を感じるようになることもある。
【0006】
さらに、前述したように、スライド機構が背凭れに連動して座部を前後上下にスライドさせる座席装置の場合には、背凭れの傾倒が大きくなるに従って背中で背凭れを押す力が入りにくくなり、力の弱い着座者や小柄で体重の軽い着座者にとっては、使い勝手が良くないという問題があった。
【0007】
以上のような従来の座席装置の問題に鑑みて、本件発明者らは、リクライニング状態であっても背凭れによる後席の居住空間への侵害が少なく、着座時間が長くなっても安楽感を維持でき、リクライニングの際に起こる着座者の着衣の捲くれ上がりがなく、さらに、力の弱い着座者や小柄で体重の軽い着座者であっても容易にリクライニングが可能な座席装置を既に提案している(特許文献1参照。)。
【0008】
ところで、背凭れによる後席の居住空間への侵害が少なくなることによって、例えば、座席の後面側に乗客の居住空間を区画するためのシェル(背支持体)を固定配置することが可能となる(特許文献2参照。)。ここでのシェルには、TVモニターやコップホルダー、スモールトレイ等の取り付け部品を装着することができる。
【0009】
これにより、従来一般の座席装置において、背凭れの後面に装着されているTVは、前席の乗客がリクライニングする度に動いて見づらい状況であったが、前述したシェルの固定配置により、TV等は動くことなく後席に着座している乗客がゆとりを持ってリラックスできると同時に、前席の乗客の動きに左右されず安楽感やより広いスペースを確保した安らぎの居住性を持つことが可能であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2005−211091号公報
【0011】
【特許文献2】特表2007−513699号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献1に記載されたような座席装置に関して、特許文献2に記載されたようなシェルを装備するとなると、例えば、航空機におけるエコノミー座席のように前後ピッチの狭い座席では、FAA基準・HIC(Head Injury Criteria)の頭部衝撃値の基準を満たすための厳しい条件が必須となる。
【0013】
ここで従来座席の後面にシェルを固定配置するような場合には、エアーバッグ式シートベルト等を使用して、その衝撃値を吸収する必要があった。かかるエアーバッグ式シートベルト等の特殊な装備が安全上必要となるため、コストアップの要因になるという問題があった。
【0014】
本発明は、前述したような従来の技術の問題点に着目してなされたものであり、背凭れによる後席の居住空間への侵害が少なく、着座時間が長くなっても安楽感を維持でき、リクライニングの際に着座者の着衣の捲くれ上がりがなく、容易にリクライニング操作が可能であるばかりでなく、簡易な構成により衝撃荷重を吸収する緩衝手段を備えることにより、シェルを固定配置してもエアーバッグ式シートベルト等の特殊な装備を必要とせず、コストを抑えながらも既存の安全基準を満たすことができる座席装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前述した目的を達成するための本発明の要旨とするところは、以下の各項に存する。
[1]座席の後面側にシェル(400)が固定配置され、該シェル(400)の前面側にて座部(30)が移動可能に支持されると共に背凭れ(20)が傾動可能に支持され、前記シェル(400)に干渉しない範囲で前記背凭れ(20)の傾動と前記座部(30)の移動とが連動する座席装置(10)において、
前記背凭れ(20)を後方へ傾動させる際に、該背凭れ(20)の傾動量を前記シェル(400)に干渉しない所定範囲内に制限すると共に、前記背凭れ(20)と前記座部(30)との相対姿勢を維持するための制限手段と、
緊急時衝撃が前記シェル(400)に対して後方から加わった際に、該シェル(400)を前方へ傾動させることで衝撃荷重を吸収すると共に、該シェル(400)の傾動量を所定範囲内に制限するための緩衝手段と、を備え、
前記制限手段は、前記背凭れ(20)を構成するシートバックフレーム(200)と前記座部(30)を構成するボトムフレーム(300)とを連結してメインフレームを形成する連結手段(310)、および前記シートバックフレーム(200)と前記ボトムフレーム(300)とのなす角度の変化を制限して前記相対姿勢を維持すると共に、前記背凭れ(20)の傾動行程を限定して前記傾動量を所定範囲内に制限する複数のガイド孔(101,102,103)が形成されたガイドフレーム(100)を有して成り、
前記メインフレームないし前記連結手段(310)には、前記ガイドフレーム(100)の複数のガイド孔(101,102,103)にそれぞれ嵌入して前記複数のガイド孔(101,102,103)内をスライド可能な複数の嵌入部(210,220,320)が設けられ、
前記複数のガイド孔(101,102,103)は、前記メインフレーム全体の変位態様を揺りかごの揺動のように弧状にガイドする形状に形成されたことを特徴とする座席装置(10)。
【0016】
[2]前記緩衝手段は、前記ガイドフレーム(100)を2分割したものとして、前記ボトムフレーム(300)を移動可能に支持すると共に、前記シートバックフレーム(200)を傾動可能に枢支する前方フレーム部(100a)、および前記シートバックフレーム(200)を移動可能に支持する後方フレーム部(100b)を有して成り、
前記後方フレーム部(100b)に対して前記シェル(400)は固定配置され、
前記前方フレーム部(100a)に前記後方フレーム部(100b)を回動可能に枢支し、該後方フレーム部(100b)の回動を、通常時と定めた初期設定位置から前記シェル(400)を介して前記衝撃荷重を受けた時を想定して定めた前方傾動位置までの範囲内に制限することを特徴とする[1]に記載の座席装置(10)。
【0017】
[3]前記後方フレーム部(100b)が、前記衝撃荷重を受けて前記初期設定位置から前記前方傾動位置まで回動する際に、該後方フレーム部(100b)にある前記ガイド孔(101,102)に嵌入した前記嵌入部(210,220)がある前記シートバックフレーム(200)も、前記ガイド孔(101,102)と前記嵌入部(210,220)との嵌合により、前記衝撃荷重が伝達されて前記後方フレーム部(100b)の回動に追従して前方へ傾動させることを特徴とする[1]または[2]に記載の座席装置(10)。
【0018】
[4]前記ガイドフレーム(100)は左右2つで1組をなし、前記メインフレームを両側から挟む状態で平行に配設されることを特徴とする[1]、[2]または[3]に記載の座席装置(10)。
【0019】
[5]前記複数のガイド孔(101,102,103)は、前記背凭れ(20)が制限された後方および下方へ傾動する際に、前記メインフレーム全体を前方に移動させることによって、前記背凭れ(20)の後方への傾動量を小さくする形状に形成されたことを特徴とする[1]、[2]、[3]または[4]に記載の座席装置(10)。
【0020】
[6]前記ガイドフレーム(100)は、前記メインフレームの補強部材を兼ねることを特徴とする[1]、[2]、[3]、[4]または[5]に記載の座席装置(10)。
【0021】
前記本発明は次のように作用する。
前記[1]に記載の座席装置(10)によれば、座席の後面側にシェル(400)が固定配置され、シェル(400)によって乗客の快適な居住空間が区画される。シェル(400)の前面側にて、座部(30)が移動可能に支持されると共に背凭れ(20)が傾動可能に支持され、シェル(400)に干渉しない範囲で背凭れ(20)の傾動と座部(30)の移動とが連動する。ここでシェル(400)の後面には、後席に着座している乗客のためのTVモニターやコップホルダー、スモールトレイ等の取り付け部品を装着して活用することができる。
【0022】
座席はベースフレーム(60)等を介して乗物のフロア上に据え付けられる。背凭れ(20)はその骨格となるシートバックフレーム(200)を有しており、このシートバックフレーム(200)を覆うようにクッション部材が装着されている。座部(30)はその骨格となるボトムフレーム(300)を有しており、このボトムフレーム(300)を覆うようにクッション部材が装着されている。シートバックフレーム(200)とボトムフレーム(300)とは、連結手段(310)によって連結されて一体のメインフレームを形成している。
【0023】
前記メインフレームは、背凭れ(20)が最も起立した通常時の基準位置から、背凭れ(20)が最も後方へ傾倒した時の最傾倒位置まで傾動できる状態で、前記ベースフレーム(60)等を介してフロア上に保持されることになる。リクライニングのために背凭れ(20)を後方へ傾動させる際に、該背凭れ(20)の傾動量は制限手段によって、前記シェル(400)に干渉しない所定範囲内に制限される。さらに、制限手段は、背凭れ(20)が傾動する際に、背凭れ(20)と座部(30)との相対姿勢を維持すべく、シートバックフレーム(200)とボトムフレーム(300)とのなす角度の変化を所定の角度範囲内に制限する。
【0024】
前記連結手段(310)は、後述するガイドフレーム(100)と共に制限手段を構成しており、連結手段(310)に連結されたシートバックフレーム(200)とボトムフレーム(300)とは連結部を中心にした回動が可能であり、それらの相対姿勢を変えることができる。ガイドフレーム(100)には、複数のガイド孔(101,102,103)が形成されている。
【0025】
前記ガイドフレーム(100)は、例えば板状のフレームから成り、前記[4]に記載したように、左右2つで1組をなし、前記メインフレームを両側から挟む状態で平行に配設される。また、前記[6]に記載したように、ガイドフレーム(100)は、メインフレームの補強部材を兼ねる。
【0026】
前記ガイド孔(101,102,103)は、連結されたシートバックフレーム(200)とボトムフレーム(300)とのなす角度の変化、すなわち、背凭れ(20)の背当て面(21)と座部(30)の座面(31)とのなす角度の変化を制限する。これにより、シートバックフレーム(200)とボトムフレーム(300)との相対姿勢が維持される。また、ガイド孔(101,102,103)は、背凭れ(20)の傾動行程を限定して背凭れ(20)が後方へ傾動する際の傾動量を所定範囲内に制限する。この傾動量は、シートバックフレーム(200)とボトムフレーム(300)とのなす角度の変化および傾動行程によって定められる。
【0027】
メインフレームないし連結手段(310)には、前記ガイドフレーム(100)にある複数のガイド孔(101,102,103)にそれぞれ嵌入する嵌入部(210,220,320)が設けられている。背凭れ(20)が傾動する時は、これら嵌入部(210,220,320)がガイド孔(101,102,103)内を案内されながらスライドする。これにより、後方への背凭れ(20)の傾動量を小さく抑えることができる。
【0028】
また、背凭れ(20)と座部(30)との相対姿勢が維持されるので、背凭れ(20)に着座者の着衣が引っ張られることがなく、着衣の捲くれ上がりが生じない。また、背凭れ(20)と座部(30)との相対姿勢が維持されることは、背凭れ(20)をどのように傾倒しても、着座者の腰椎部に回転が生じないことになる。このため、背凭れ(20)および座部(30)に対する着座者の着座姿勢に変化が生じないので、腰椎部の回転に起因する腰椎部への負担が生じない。従って、着座者は安楽な姿勢のままで着座でき、着座時間が長時間になっても疲労の蓄積を防ぐことができる。
【0029】
前記複数のガイド孔(101,102,103)の形状は、メインフレーム全体の変位態様を揺りかごの揺動のように弧状にガイドする形状に形成されている。さらに前記[5]に記載したように、複数のガイド孔(101,102,103)は、背凭れ(20)が制限された後方および下方へ傾動する際に、メインフレーム全体を前方に移動させることによって、背凭れ(20)の後方への傾動量を小さくする形状に形成すると良い。
【0030】
これにより、リクライニングの際には、着座者が始めに背中を背凭れ(20)に押し付けて背凭れ(20)を傾動させる際にやや力を要するが、背凭れ(20)の傾倒が大きくなるに従って体重が自然に背凭れ(20)にかかるので、力の弱い着座者や小柄で体重の軽い着座者であっても比較的容易に背凭れ(20)を傾動させることができる。
【0031】
さらに、前記座席装置(10)によれば、緊急時衝撃が前記シェル(400)に対して後方から加わった際には、前記制御手段に加えて備えられた緩衝手段によって、前記シェル(400)を前方へ傾動させることで衝撃荷重を吸収すると共に、該シェル(400)の傾動量を所定範囲内に制限することができる。これにより、後席に着座している乗客の安全性がいっそう高められて、例えば、高価なエアーバッグ式シートベルト等を使用しなくても、FAA基準・HIC(Head Injury Criteria)の頭部衝撃値の基準を満たすことが可能となる。
【0032】
前記緩衝手段としては、例えば前記[2]に記載したように構成すれば、コストを極力抑えることができる。すなわち、緩衝手段は、ガイドフレーム(100)を2分割したものとして、ボトムフレーム(300)を移動可能に支持すると共に、シートバックフレーム(200)を傾動可能に枢支する前方フレーム部(100a)、およびシートバックフレーム(200)を移動可能に支持する後方フレーム部(100b)を有して成る。ここで後方フレーム部(100b)に対して前記シェル(400)を固定配置する。
【0033】
そして、前方フレーム部(100a)に後方フレーム部(100b)を回動可能に枢支し、該後方フレーム部(100b)の回動を、通常時と定めた初期設定位置からシェル(400)を介して衝撃荷重を受けた時を想定して定めた前方傾動位置までの範囲に制限する。このようにシェル(400)のブレーク時における回動は、初期設定位置から前方傾動位置までの範囲に制限されるから、当該座席の乗員の安全性も確保することができる。なお、具体的な回動制限の手段として、何れか一方に設けた係合ピンと、何れか他方に設けた被係合溝との係合関係により簡単に構成することができる。
【0034】
さらに、前記[3]に記載したように構成すると良い。すなわち、前記後方フレーム部(100b)が、衝撃荷重を受けて初期設定位置から前方傾動位置まで回動する際に、該後方フレーム部(100b)にあるガイド孔(101,102)に嵌入した嵌入部(210,220)があるシートバックフレーム(200)も、ガイド孔(101,102)と嵌入部(210,220)との嵌合により、衝撃荷重が伝達されて前記後方フレーム部(100b)の回動に追従して前方へ傾動させる。このようにシートバックフレーム(200)も回動させれば、該シートバックフレーム(200)が、シェル(400)のブレーク時における前方への回動を損なう虞がなく、確実に衝撃荷重を吸収することが可能となる。
【発明の効果】
【0035】
本発明に係る座席装置によれば、リクライニングのために背凭れを後方へ傾動させる際に、該背凭れの傾動量を制限しているので、後席の居住空間への背凭れの侵害が少ない。これにより、後席の着座者に圧迫感等の不快感を与えることがない。
【0036】
また、背凭れと座部とのなす角度の変化が制限されているので、背凭れと座部との相対姿勢を維持したままで背凭れの傾動ができる。これにより、背凭れを傾動しても常に着座者の安楽な姿勢を維持することができ、もって、リクライニング状態で長時間に亘って着座しても着座者は疲労することなく安楽な状態でいられる。
【0037】
また、背凭れと座部との変位態様が揺りかごの揺動のように弧状であるので、力の弱い着座者や小柄で体重の軽い着座者であっても体重が有効に利用されて容易にリクライニングすることが可能なる。
【0038】
また、相対姿勢がほぼ維持されるので、使用者が着座したままで背凭れを傾動した際に背凭れと座部との相対姿勢の変化に起因する衣服のずれ等が生じることなく、もって、着座者に不快感を与えることを防止することができる。
【0039】
しかも、簡易な構成により衝撃荷重を吸収することができる緩衝手段を備えることにより、シェルを固定配置してもエアーバッグ式シートベルト等の特殊な装備を必要とせず、コストを抑えながらも既存の安全基準を満たすことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の実施の形態に係る座席装置を示す斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る座席装置の内部機構を一部透過させて示す側面図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る座席装置のうちガイドフレームを取り付けたベースフレームを示す斜視図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る座席装置のうち連結板と共に示すボトムフレームの分解斜視図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る座席装置のうちガイドフレームの一部とベースフレームの一部とを示す斜視図である。
【図6】本発明の実施の形態に係る座席装置のうち緩衝手段の要部を拡大して示す説明図である。
【図7】本発明の実施の形態に係る座席装置において衝撃荷重が加わった状態を示す斜視図である。
【図8】本発明の実施の形態に係る座席装置において衝撃荷重が加わった状態を示す側面図である。
【図9】本発明の実施の形態に係る座席装置のうち油圧シリンダーの取り付け部分を拡大して示す分解斜視図である。
【図10】本発明の実施の形態に係る座席装置において着座者が自然に生理的に前湾した姿勢で安楽に着座している状態を説明する説明図である。
【図11】本発明の実施の形態に係る座席装置においてリクライニングの前後の着座者の着座姿勢を示す模式図である。
【図12】本発明の実施の形態に係る座席装置においてリクライニングの前後の着座者の腰椎部付近の変化を説明する説明図である。
【図13】本発明の実施の形態に係る座席装置において背凭れおよび座部それぞれの角度変化を説明する説明図である。
【図14】従来の座席装置におけるリクライニングの前後の着座者の着座姿勢を示す模式図である。
【図15】従来の座席装置におけるリクライニングの前後の着座者の腰椎部付近の回転を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、図面に基づき本発明を代表する一実施の形態を説明する。
図1から図13までは本発明の一実施の形態を示している。
本実施の形態に係る座席装置10は、航空機や鉄道の旅客車両等の乗物用に構成され、座席の後面側にシェル400が固定配置され、該シェル400の前面側にて座部30が移動可能に支持されると共に背凭れ20が傾動可能に支持され、シェル400に干渉しない範囲で背凭れ20の傾動と座部30の移動とが連動するものである。
【0042】
図1は、本発明の実施の形態に係る座席装置10の全体を示す斜視図である。図2は、同座席装置10の内部機構を一部透過させて示す側面図である。図3から図5は、同座席装置10の内部のフレーム構造を示す斜視図である。図6は、同座席装置10が備えた緩衝手段の要部を示す説明図である。以下、各図において、座席装置10を航空機用の2人掛け座席装置に適用した例を説明する。
【0043】
図1および図2に示すように、座席装置10は、その土台をなすベースフレーム60上に、2人用の背凭れ20および座部30、それにシェル400が保持されている。一対に並ぶ座部30の両側端には、それぞれサイドアームレスト40が固設されている。各サイドアームレスト40の内部には、引き出して使用可能なイン・アームテーブル(図示せず)が収納されている。
【0044】
各サイドアームレスト40には、腕を載せた時に指が触れる先端側の位置に操作レバー80が設けられている。この操作レバー80は、背凭れ20を後方に傾倒してリクライニングしたり、傾倒している背凭れ20を最も起立した元の位置(基準位置)に向かって戻したりする等、背凭れ20の位置を調整する際に引くようにして操作するものである。この操作レバー80の操作によって、後述する油圧シリンダー110の動作が調整される。
【0045】
また、各座部30の間には、センターアームレスト50が固設されている。センターアームレスト50の上面部における先端側の位置には、左右一対に並ぶ小テーブル51が設けられている。センターアームレスト50の上面部ないし後方へ立ち上がる部位には、左右の空間を仕切るための間仕切り52が設けられている。ここでセンターアームレスト50の後方へ立ち上がる部位は、シェル400の中央部分である支柱部401に一体に固設されている。シェル400の後面には、図示省略したが後席に着座している乗客ためのTVモニターやコップホルダー、スモールトレイ等の取り付け部品が装着されている。
【0046】
図3に示すように、ベースフレーム60は、航空機の客室内のフロア上に固定される脚部62と、該脚部62の下部で左右に掛け渡されて固定された補強部材61と、脚部62の上部で前後平行に配置され左右に掛け渡されて固定されたシャフト63およびシャフト64とから枠組型に構成されている。シャフト63は金属製の中空パイプであり、座部30の前端側下方に配置される。一方、シャフト64も同様に金属製の中空パイプであるが、シャフト63よりも小径であり、座部30の後端側下方にて、シャフト63よりも高さが僅かに低くなるように配置される(図2参照)。
【0047】
ベースフレーム60には、背凭れ20を後方へ傾動させる際に、該背凭れ20の傾動量を前記シェル400に干渉しない所定範囲内に制限すると共に、背凭れ20と座部30との相対姿勢を維持するための制限手段が設けられている。かかる制御手段は、背凭れ20を構成するシートバックフレーム200と座部30を構成するボトムフレーム300とを連結してメインフレームを形成する後述の連結板(連結手段)310、および前記ベースフレーム60に固設されるガイドフレーム100を有して成る。
【0048】
さらに、ベースフレーム60には、緊急時衝撃が前記シェル400に対して後方から加わった際に、該シェル400を前方へ傾動させることで衝撃荷重を吸収すると共に、該シェル400の傾動量を所定範囲内に制限するための緩衝手段が設けられている。かかる緩衝手段は、主として前記制御手段と同様にガイドフレーム100、および前記シェル400を有して成る。
【0049】
ガイドフレーム100は、1座席につき2つ使用されるので、2人掛けの座席装置である本実施の形態においては、図3に示すように、2座席分である4本のガイドフレーム100が、前記シャフト63,64に固定されている。4本のガイドフレーム100は全て同一形状であり、それぞれが平行に配置されている。左右両端のガイドフレーム100はそれぞれサイドアームレスト40内に配設されており、中央の2本のガイドフレーム100はセンターアームレスト50に隠れる位置に配設されている。
【0050】
各ガイドフレーム100は、全体の大まかな形状が三日月状である金属製の板状のフレームであるが、それぞれが2分割されており、前方フレーム部100aと後方フレーム部100bとに分かれている。前方フレーム部100aは、シャフト63およびシャフト64の上に立てるように掛け渡して固定されている。前方フレーム部100aの先端部がシャフト63の上に固定されており、この先端部と後端部との間の中間部がシャフト64に固定されている。中間部から後端部までは上方に向かって延びる形状を成している。
【0051】
後方フレーム部100bに対して前記シェル400は固定配置されている。後方フレーム部100bは、その下端部が前方フレーム部100aの後端部に回動可能に枢支されている。ここで後方フレーム部100bの回動は、通常時と定めた初期設定位置(背凭れ20の基準位置に相当)から前記シェル400を介して衝撃荷重を受けた時を想定して定めた前方傾動位置までの範囲に制限されるように設定されている。
【0052】
すなわち、図6において、後方フレーム部100bの下端部には、その回動中心となる枢軸104を中心とした円弧形の被係合溝105が穿設されており、前方フレーム部100aの後端部には、被係合溝105に相対的にスライド可能に嵌入する係合ピン106が突設されている。
【0053】
ここで被係合溝105の一端側(図6中で上端)に係合ピン106が当接している状態にて、後方フレーム部100bは初期設定位置に保持されており、一方、衝撃荷重が加わった際には、後方フレーム部100bは前方へ回動し、これに伴い被係合溝105の他端側(図6中で下端)に係合ピン106が当接する前方傾動位置まで回動するように設定されている。このような機構が前記緩衝手段の根幹を構成している。なお、被係合溝105を前方フレーム部100aに穿設する一方、係合ピン106を後方フレーム部100bに突設してもかまわない。
【0054】
図3に示すように、各ガイドフレーム100には、それぞれ3つの貫通した長孔であるガイド孔101,102,103が形成されている。詳しく言えば、前方フレーム部100aには、その先端部から中間部に向かって延びるガイド孔103が形成されている。また、後方フレーム部100bには、その下端部と上端部にそれぞれ中間部に向かって互いに平行に延びる上下一対のガイド孔101,102が形成されている。
【0055】
ガイド孔103は、座部30の次述するボトムフレーム300の移動をガイドするものである。ガイド孔101,102は、背凭れ20の次述するシートバックフレーム200の移動をガイドするものである。これらガイド孔101,102,103の位置や形状によって、背凭れ20の傾動行程が限定される。
【0056】
これにより、後述するようにガイドフレーム100および連結板310によって連結されたシートバックフレーム200とボトムフレーム300とのなす角度の変化、すなわち、背凭れ20の背当て面21と座部30の座面31との成す角度の変化を所定の角度範囲内に制限して、シートバックフレーム200とボトムフレーム300との相対姿勢を維持することができる。
【0057】
ここでの所定の角度範囲とは、具体的には例えば6.6°であり、基準位置におけるシートバックフレーム200とボトムフレーム300とのなす角度を96.9°とすると、最傾倒位置での角度は103.5°である。シートバックフレーム200とボトムフレーム300とのなす角度の変化は、後方へ傾動する背凭れ20の傾動量に係っている。なお、背凭れ20と座部30との相対姿勢の維持は、角度が完全に変化しないことを意図するものではなく、相対姿勢の変化を着座者が感じられない程度であれば足りる。
【0058】
また、限定された傾動行程によって、連結されたシートバックフレーム200とボトムフレーム300とからなるメインフレームが傾動する際のメインフレーム全体の変位態様が揺りかごの揺動のように弧状になる。さらに、リクライニングの際に、後方へ傾動する背凭れ20の上部の傾動量を所定範囲内に制限することができる。この所定範囲は、例えば後述するように13cmである。なお、背凭れ20のうち上部が最も大きく後方へ移動するので、制限は上部の傾動量に対して定める。
【0059】
図5に示すように、前記背凭れ20は、骨格となる金属製のシートバックフレーム200を内蔵しており、このシートバックフレーム200を覆い被せるように背凭れ20の背面部および背当て部が装着されている。背当て部にはクッション部材が使用されており、その表面である背当て面21は、人間工学に基づいて着座者に安楽感をもたらす形状に形成されている。また、クッション部材の硬さ等も、安楽感をもたらすように選択されている。
【0060】
シートバックフレーム200の下端部201は、後述する連結板(連結手段)310の後端部に枢軸202を介して揺動可能に枢支されている。また、シートバックフレーム200の両側端の下半部分は、その左右に配置される前記後方フレーム部100bに連結されている。詳しく言えば、シートバックフレーム200の両側端には後方へ突出する上下一対の支持片が設けられており、これらの支持片に、前記後方フレーム部100bにあるガイド孔101,102に対してスライド可能にそれぞれ嵌入する嵌入部としてのベアリング210,220が側方に向けて突設されている。
【0061】
図4に示すように、前記座部30は、骨格となる金属製のボトムフレーム300を内蔵している。ボトムフレーム300は、クッション部材を装着する装着フレーム301と、この装着フレーム301を金具によって取り付けて、保持するためのシャフト330,340,350,360を有している。クッション部材の表面である座面31は、人間工学に基づいて着座者に快適な座り心地をもたらす形状に形成されている。また、クッション部材の硬さ等も、快適な座り心地をもたらすように選択されている。
【0062】
各シャフト330,340,350,360は、それぞれ平行に配設されており、それぞれの両端部は、その両側に配された連結板310に固定されている。すなわち、一番後方のシャフト330は、各連結板310の後端部寄りの位置に架設されており、後から2番目のシャフト340と3番目のシャフト350は、各連結板310の中間部分に架設され、一番前方のシャフト360は、各連結板310の前端部に架設されており、それぞれの上に前記装着フレーム301を被せるように装着することになる。なお、シャフト360は、リンク部材370を介して前記シャフト63に連結支持されている。
【0063】
また、一対の連結板310の中央部は、その左右に配置される前記前方フレーム部100a(図3参照)に連結されている。詳しく言えば、連結板310の中央部には、前記前方フレーム部100aにあるガイド孔103に対してスライド可能に嵌入する嵌入部としてのベアリング320が側方に向けて突設されている。また、一対の連結板310の後端部には、その左右に配置される前記シートバックフレーム200の下端部201が枢軸202を介して揺動可能に枢支されている。
【0064】
ボトムフレーム300は、連結板310を介してシートバックフレーム200に連結され、全体として1つに組み合わされたメインフレームを形成している。さらに、図1,図7では図示省略したが、図2,図8に示すように、本実施の形態では座部30の前端部下方にレッグレスト70が配設されている。一対の連結板310の前端部には、図2に示すレッグレスト70を揺動可能に支持するための一対のアーム部材71がそれぞれ回動可能に枢支されている。なお、レッグレスト70も、背凭れ20および座部30と共に次述する油圧シリンダー110によって駆動されるように構成されている。
【0065】
また、前記シャフト330には、油圧シリンダー110の一端が連結されている。図9は、図3における油圧シリンダー110の取り付け部分を拡大して示す拡大斜視図である。ベースフレーム60のシャフト63には、油圧シリンダー110のロッド117を支持するための軸受け140が取り付けられている。この軸受け140は、シャフト63に固定された軸受け枠144に支持されている。軸受け140は、軸受け枠144に支持された状態で自身の軸心を中心にして回転できる。軸受け140には軸心に直交する方向に軸受け孔141が貫通している。
【0066】
ロッド117の先端部118は、ネジが切られたネジ部となっており、このネジ部の中間にストッパー119が設けられている。ロッド117は、ストッパー119よりも先の部分が軸受け孔141に挿入され、ナット142と座金143を介して軸受け140に固定されている。ロッド117は、この軸受け140を介して操作ケーブル120に連結されている。
【0067】
操作ケーブル120は、油圧シリンダー110の動作を調整するためのものであり、シャフト63の内部を通ってサイドアームレスト40の内部に至り、前記操作レバー80に接続されている。この操作レバー80の操作をすることにより、油圧シリンダー110の動作をロックしたり、また、動作のロック状態を解除したりすることができる。
【0068】
油圧シリンダー110のもう一方の端部111は、ボトムフレーム300のシャフト330に連結されている。シャフト330には連結金具150が固定されている。この連結金具150は、先端に貫通孔が形成された板状の連結部151を有している。油圧シリンダー110の端部111には、連結部151を挟むための間隙112が形成されており、この間隙112に連結部151を挟んだ状態で、ボルト115とナット116とによって固定されている。
【0069】
メインフレームは、背凭れ20が最も起立した基準位置から最も傾倒した最傾倒位置まで傾動できる。メインフレームが基準位置にない時は、油圧シリンダー110はメインフレームを基準位置に復元するように動作する。メインフレームが基準位置にある場合には、操作レバー80の操作によって油圧シリンダー110のロックを解除してから、油圧シリンダー110からの復元方向の力に逆らって背凭れ20を押すことにより、すなわち背凭れ20を傾倒させる方向に力を加えることにより、背凭れ20を最傾倒位置までの任意の位置まで傾動させることができる。
【0070】
また、油圧シリンダー110はメインフレームの位置にかかわらず、基準位置から最傾倒位置までの任意の位置でロックすることができる。油圧シリンダー110をロックした時は、油圧シリンダー110による復元のみならず外力によるシートバックフレーム200の傾動もロックされるので、背凭れ20および座部30の状態が固定される。
【0071】
前記油圧シリンダー110の復元およびロックは、例えば、Government Consumer Safety Research によるADULTDATA(The Handbook of Adult Anthropometric and Strength Measurements)に掲載された日本人の体型パーセンタイルで示した場合、アジア女性の体型パーセンタイル値5から欧米男性の体型パーセンタイル値95までの幅広い範囲の着座者に対して特に有効に機能する性能を有するものである。これにより、体重の軽重にかかわらずほとんど全ての着座者に対応することができる。
【0072】
次に、本実施の形態に係る座席装置10の作用を説明する。
本座席装置10は、航空機の客室内にその目的に沿った座席間隔で配置される。座席装置10は、一般のエコノミークラスより1ランク上のプレミアムエコノミーと称される座席に適用され、通常は34インチ(864mm)から39インチ(990mm)ほどのピッチで装着配置される。配置ゾーンによっては、本座席装置10の如く後述するが傾斜寸法が少なくてすむ座席は、増席・増列もしくは従来座席よりも広い空間を味わうことが可能となる。特に座席の後面側にはシェル400が固定配置されるため、シェル400によって乗客の快適な居住空間が区画される。
【0073】
シェル400の前面側にて、座部30が移動可能に支持されると共に背凭れ20が傾動可能に支持され、シェル400に干渉しない範囲で背凭れ20の傾動と座部30の移動とが連動する。ここでシェル400の後面には、後席に着座している乗客ためのTVモニターやコップホルダー、スモールトレイ等の取り付け部品を装着して活用することができる。ここで背凭れ20や座部30の動きは、シェル400自体のみならず、装着された取り付け部品にも干渉しないような範囲に制限される。なお、シェル400には様々なデザインを採用することが可能となる。
【0074】
図10は、着座者が自然に生理的に前湾した姿勢で安楽に着座している状態を説明する説明図である。図11は、本実施の形態におけるリクライニングの前後の着座者の着座姿勢を示す模式図である。図12は、本実施の形態におけるリクライニングの前後の着座者の腰椎部付近の変化を説明する説明図である。図14は、従来の座席装置におけるリクライニングの前後の着座者の着座姿勢を示す模式図である。図15は、従来の座席装置におけるリクライニングの前後の着座者の腰椎部付近の回転を説明する説明図である。
【0075】
図10に示した座席装置10は、背凭れ20が基準位置にある場合を示している。この状態の座席装置10は、着座者の骨盤500付近を2方向からサポートして着座者に安楽感を与えている。ここで一方向からのサポートは、背凭れ20の下部による矢印A方向へのサポートである。これによって着座者の腸骨501、および第3腰椎と第4腰椎の付近がサポートされている。もう一つの方向からのサポートは、座部30の後端部による矢印B方向へのサポートである。これによって着座者の仙骨502がサポートされている。
【0076】
このようなサポートは、人間工学的な解析に基づいて形成された背凭れ20の背当て面21の形状および座部30の座面31の形状、並びに背凭れ20と座部30との相対姿勢から得られている。これにより、着座者は自然に生理的に前湾した安楽な姿勢で着座することができ、長時間着座しても疲れが生じにくくなる。
【0077】
図14には、前後に配設された2つの従来の座席装置10Aが示されており、前方の座席装置10Aには背凭れ20Aを基準位置まで起こした状態で乗客が着座している。この状態は、図10を参照して説明した状態と同一であり、着座者が安楽感を得られる姿勢で着座している状態である。後方の座席装置10Aには背凭れ20Aを傾倒したリクライニング状態で乗客が着座している。この状態では、大腿部が延びている方向と上半身が起きている方向との成す角度が前方の座席装置10Aに着座している着座者の角度と明らかに異なっている。
【0078】
また、ベースフレームの脚部62Aがフロア上に固定されている位置を基準にして後方への背凭れ20Aの傾動量を見ると、リクライニング状態では背凭れ20Aの上部が大きく後方に移動していることがわかる。この傾動量は15cm(約6インチ)から28cm(約11インチ)が一般的である。これにより、リクライニング状態にある座席装置10Aの直後の座席装置に着座している着座者の居住空間が大きく侵害されることになる。
【0079】
この着座者の着座姿勢の違いが図15に示されている。着座者の着座姿勢が変化しても、着座者の骨盤500の位置は変わっていないが、骨盤500に繋がっている腰椎510が骨盤500との接続部分を中心にして回転するように移動していることがわかる。これにより、リクライニング状態の着座者の姿勢はリクライニング以前の自然に生理的に前湾した安楽な姿勢ではなくなり、腰椎510付近に負荷が掛かる姿勢になるので、この姿勢が長時間続くと返って疲労が蓄積することになる。
【0080】
このような、着座姿勢の変化は、背凭れ20Aと座部30Aとの相対姿勢が安楽感をもたらす基準位置での相対姿勢から大きく変化してしまうことに起因している。具体的には、背凭れ20Aの背当て面と座部30Aの座面とのなす角度が、基準位置での角度から大きく開いてしまうからである。
【0081】
一方、図11は、本実施の形態にかかる座席装置10が前後に2つ配設された様子を示しており、前方の座席装置10には背凭れ20を基準位置まで起こした状態で乗客が着座している。この状態は、図10について説明した状態と同一であり、着座者が安楽感を得られる姿勢で着座している状態である。後方の座席装置10には背凭れ20を傾倒したリクライニング状態で乗客が着座している。
【0082】
この状態を見ると、図14の座席装置10Aの場合とは異なり、大腿部が延びている方向と上半身が起きている方向との成す角度には、それほどの変化がないことがわかる。これは、メインフレームを基準位置から最傾倒位置まで傾倒してもシートバックフレーム200とボトムフレーム300との相対姿勢の変化が大きくないので、背凭れ20と座部30との相対姿勢が安楽感をもたらす基準位置での相対姿勢からほとんど変わっていないことによる。
【0083】
また、ベースフレーム60の脚部62がフロア上に固定されている位置を基準にして後方への背凭れ20の傾動量を見ると、図14の座席装置10Aに比して、リクライニング状態での傾動量が小さいことがわかる。本実施の形態では、この傾動量を前記一般的な15cmよりも小さい値、例えば、13cm(約5インチ)に制限して、1座席分の座席装置10と居住空間とが占める占有スペースを減少させても、安楽感に影響を与えることなく良好な居住性を提供することができる。
【0084】
さらに、リクライニング状態にある座席装置10の背凭れ20が後方の居住空間へ侵入する度合いを明らかに減少させることができる。これにより、前方の席がリクライニング状態にある時に後席の着座者が感じる圧迫感等の不快感を減少させることができる。この効果により、従来座席より座席の取り付けピッチを狭くすることが可能となり、限られた機内、車内空間での増席が可能となり採算性の向上も期待できることになる。
【0085】
座席装置10における着座者の着座姿勢の違いは図12に示されている。シートバックフレーム200の傾動行程が、ガイドフレーム100の後方フレーム部100bにあるガイド孔101とガイド孔102とによって制限されているので、基準位置から背凭れ20を傾倒する時に後方に向かう背凭れ20の上部の傾動量が少ない量に制限されていることがわかる。
【0086】
また、図11を併せて参照すると、ガイド孔101とガイド孔102とによる制限は、メインフレームの動きを揺りかごの揺動のように弧状に制限していることがわかる。すなわち、背凭れ20を後方へ傾動させると、背凭れ20が起立している通常時と同姿勢をほぼ維持した状態で、全体的に揺りかごが揺動するように、背凭れ20は下方へ移動すると共に座部30は前方へ移動する。
【0087】
このような座席装置10における変位は、ガイドフレーム100に形成された3つのガイド孔101,102,103とその位置関係、各ガイド孔101,102,103の角度、曲率、その中を摺動するベアリング210,220,320、これらの微妙なクリアランスの関係と、十分に検討計算されたその駆動手段として採用されている油圧シリンダー110の力によって実現される。
【0088】
従って、背凭れ20を傾倒してリクライニングしても、骨盤500の位置が僅かに高くなると共に着座者がやや上向きになるだけであり、従来技術に見られるような腰椎部での回転が生じない。これにより、着座者自身の姿勢は基準位置での安楽な着座姿勢とほぼ同じ姿勢が常に維持されるので、安楽感がそのまま持続される。従って、リクライニング状態での着座が長時間に亘っても、着座者にかかる負担が少ないので、着座者に蓄積する疲労が少ない。
【0089】
さらに、リクライニングの際には、着座者がサイドアームレスト40にある操作レバー80を操作して油圧シリンダー110のロックを解除した状態で、先ず背中を背凭れ20に押し付けて背凭れ20を傾動させる。この時、背凭れ20の傾倒が大きくなるに従って着座者の体重が自然に背凭れ20にかかるので、無理な力を加えず自然な動きで身体を後方へ傾けるだけの動きで、背凭れ20が自然と傾倒、下方へスライド、座部30は前上方へ摺動し最終安定姿勢に至るまでにおいて、操作レバー80の操作により自在に好みの位置で適宜停止できる。
【0090】
これにより、力の弱い着座者や小柄で体重の軽い着座者であっても比較的容易にリクライニングを行うことができる。なお、シートバックフレーム200とボトムフレーム300との相対姿勢が維持される動きに加えて、乗客の好みに合うようにレッグレスト70も、サイドアームレスト40にある別の操作レバー80を操作することにより、上下に自在に好みの位置に調整することができる。
【0091】
さらにまた、シートバックフレーム200とボトムフレーム300との相対姿勢が維持されていることによって着座者の着座姿勢が維持されることは、背凭れ20と着座者の背中とのずれがほとんどないことになり、もって、背凭れ20を傾倒する際に着座者の着衣が捲くれ上がることがない。
【0092】
図13は、本実施の形態に係る座席装置10の背凭れ20および座部30それぞれの角度変化を説明する説明図である。人間が座席装置10に着座した時に、どのような着座姿勢になるかによって安楽感や長時間座った時の疲労の蓄積度が異なってくる。人間が座席装置10に着座した際に安楽感を得られる姿勢は、上半身が自然に生理的に前湾した姿勢である。着座姿勢は座席装置10の背凭れ20や座部30の形状、硬さ等にも影響されるが、最も影響するのは背凭れ20の背当て面21と座部30の座面31との成す角度である。
【0093】
これらの角度には、安楽姿勢の推奨値が確認されている(Diffrient, n., A. R. Tilley and J. C. Bardagjy, 1978: Humanscalee 1/2/3. The MIT Press, Cambridge)。これによると、垂直からの背当て面角度および水平からの座面角度はそれぞれ、
背当て面角度>28°
座面角度>15°
である。
【0094】
本実施の形態においては、背当て面角度および座面角度をそれぞれ、
背当て面角度<31°
座面角度<19°
の範囲で変位可能であり。背凭れ20と座部30との相対姿勢の変化を、すなわち、シートバックフレーム200とボトムフレーム300とのなす角度の変化を、前記所定の角度範囲に制限し、かつ、背当て面角度および座面角度を前記推奨値を満たすようにガイド孔101,102,103の位置および形状等を定めることによって、着座者は如何なるリクライニング状態であっても長時間に亘って安楽に着座していることができる。
【0095】
さらに、本座席装置10によれば、緊急時衝撃が前記シェル400に対して後方から加わった際には、前記制御手段に加えて備えられた緩衝手段によって、前記シェル400を前方へ傾動させることで衝撃荷重を吸収すると共に、該シェル400の傾動量を所定範囲内に制限することができる。これにより、後席に着座している乗客の安全性がいっそう高められて、例えば、高価なエアーバッグ式シートベルト等を使用しなくても、FAA基準・HIC(Head Injury Criteria)の頭部衝撃値の基準を満たすことが可能となる。
【0096】
前記緩衝手段は、前述した図6に示すように、ガイドフレーム100をなす後方フレーム部100bの下端部に穿設された円弧形の被係合溝105と、前方フレーム部100aの後端部に突設され、被係合溝105に相対的にスライド可能に嵌入する係合ピン106を要部として成り、比較的簡易に構成されるのでコストを極力抑えることができる。従って、高価なエアーバッグ式シートベルト等を使用しなくても、FAA基準・HIC(Head Injury Criteria)の頭部衝撃値の基準を満たすことができる。
【0097】
詳しく言えば、後方フレーム部100bは、その下端部が前方フレーム部100aの後端部に枢軸104を介して回動可能に枢支され、ここでの後方フレーム部100bの回動は、前記係合ピン106が前記被係合溝105内を相対的にスライド可能な範囲、すなわち、通常時と定めた初期設定位置からシェル400を介して衝撃荷重を受けた時を想定して定めた前方傾動位置までの範囲に制限される。
【0098】
緊急時衝撃が前記シェル400に後方から加わると、該衝撃荷重が前記シェル400を介して後方フレーム部100bにそのまま伝達される。すると、図8および図7に示すように、シェル400と共に後方フレーム部100bは前方へ傾動し、該傾動に伴って衝撃荷重は吸収される。このようにシェル400のブレーク時における回動は、前述した初期設定位置から前方傾動位置までの範囲に制限されるから、当該座席の乗員の安全性も確保することができる。なお、シェル400の中央部分である支柱部401は傾動しない。
【0099】
しかも、前記後方フレーム部100bが衝撃荷重を受けて初期設定位置から前方傾動位置まで回動する際に、該後方フレーム部100bにあるガイド孔101,102に嵌入したベアリング210,220があるシートバックフレーム200も、ガイド孔101,102とベアリング210,220との嵌合により、衝撃荷重が伝達されて前記後方フレーム部100bの回動に追従して前方へ傾動する。このようにシートバックフレーム200も回動することにより、該シートバックフレーム200が、シェル400のブレーク時における前方への回動を損なう虞がなく、確実に衝撃荷重を吸収することが可能となる。
【0100】
以上、本発明の実施の形態を図面によって説明してきたが、具体的な構成はこれらの実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。例えば、本実施の形態では2人掛け用として構成したが、1人掛け用あるいは3人掛け用であってもかまわない。また、航空機用の座席に限られるものでもない。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明は、背凭れの傾動と座部の移動とが連動し、かつ後部に固定シェルを有する座席においても衝撃を吸収する座席装置、とりわけ航空機および車両等の乗物用座席装置に適用することができる。特に、航空機や車両等の限られた空間での座席数を増やすことができ、もって採算性の向上にもつながる。
【符号の説明】
【0102】
10…座席装置
10A…座席装置
20…背凭れ
20A…背凭れ
21…背当て面
30…座部
31…座面
40…サイドアームレスト
50…センターアームレスト
60…ベースフレーム
70…レッグレスト
71…アーム部材
80…操作レバー
100…ガイドフレーム
100a…前方フレーム部
100b…後方フレーム部
101…ガイド孔
102…ガイド孔
103…ガイド孔
104…枢軸
105…被係合溝
106…係合ピン
110…油圧シリンダー
120…操作ケーブル
200…シートバックフレーム
201…下端部
202…枢軸
210…ベアリング
220…ベアリング
300…ボトムフレーム
301…装着フレーム
310…連結板
320…ベアリング
330…シャフト
340…シャフト
350…シャフト
360…シャフト
370…リンク部材
400…シェル
500…骨盤
501…腸骨
502…仙骨
510…腰椎

【特許請求の範囲】
【請求項1】
座席の後面側にシェルが固定配置され、該シェルの前面側にて座部が移動可能に支持されると共に背凭れが傾動可能に支持され、前記シェルに干渉しない範囲で前記背凭れの傾動と前記座部の移動とが連動する座席装置において、
前記背凭れを後方へ傾動させる際に、該背凭れの傾動量を前記シェルに干渉しない所定範囲内に制限すると共に、前記背凭れと前記座部との相対姿勢を維持するための制限手段と、
緊急時衝撃が前記シェルに対して後方から加わった際に、該シェルを前方へ傾動させることで衝撃荷重を吸収すると共に、該シェルの傾動量を所定範囲内に制限するための緩衝手段と、を備え、
前記制限手段は、前記背凭れを構成するシートバックフレームと前記座部を構成するボトムフレームとを連結してメインフレームを形成する連結手段、および前記シートバックフレームと前記ボトムフレームとのなす角度の変化を制限して前記相対姿勢を維持すると共に、前記背凭れの傾動行程を限定して前記傾動量を所定範囲内に制限する複数のガイド孔が形成されたガイドフレームを有して成り、
前記メインフレームないし前記連結手段には、前記ガイドフレームの複数のガイド孔にそれぞれ嵌入して前記複数のガイド孔内をスライド可能な複数の嵌入部が設けられ、
前記複数のガイド孔は、前記メインフレーム全体の変位態様を揺りかごの揺動のように弧状にガイドする形状に形成されたことを特徴とする座席装置。
【請求項2】
前記緩衝手段は、前記ガイドフレームを2分割したものとして、前記ボトムフレームを移動可能に支持すると共に、前記シートバックフレームを傾動可能に枢支する前方フレーム部、および前記シートバックフレームを移動可能に支持する後方フレーム部を有して成り、
前記後方フレーム部に対して前記シェルは固定配置され、
前記前方フレーム部に前記後方フレーム部を回動可能に枢支し、該後方フレーム部の回動を、通常時と定めた初期設定位置から前記シェルを介して前記衝撃荷重を受けた時を想定して定めた前方傾動位置までの範囲に制限することを特徴とする請求項1に記載の座席装置。
【請求項3】
前記後方フレーム部が、前記衝撃荷重を受けて前記初期設定位置から前記前方傾動位置まで回動する際に、該後方フレーム部にある前記ガイド孔に嵌入した前記嵌入部がある前記シートバックフレームも、前記ガイド孔と前記嵌入部との嵌合により、前記衝撃荷重が伝達されて前記後方フレーム部の回動に追従して前方へ傾動させることを特徴とする請求項1または2に記載の座席装置。
【請求項4】
前記ガイドフレームは左右2つで1組をなし、前記メインフレームを両側から挟む状態で平行に配設されることを特徴とする請求項1、2または3に記載の座席装置。
【請求項5】
前記複数のガイド孔は、前記背凭れが制限された後方および下方へ傾動する際に、前記メインフレーム全体を前方に移動させることによって、前記背凭れの後方への傾動量を小さくする形状に形成されたことを特徴とする請求項1、2、3または4に記載の座席装置。
【請求項6】
前記ガイドフレームは、前記メインフレームの補強部材を兼ねることを特徴とする請求項1、2、3、4または5に記載の座席装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2010−221861(P2010−221861A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−71565(P2009−71565)
【出願日】平成21年3月24日(2009.3.24)
【出願人】(390010054)小糸工業株式会社 (136)
【Fターム(参考)】