説明

座標入力装置

【課題】高荷重入力に伴う透明有機導電膜の平坦化を防止し、連続筆記時の接触抵抗値の変化を小さくして、入力感度を向上させ、入力時間の遅延等を抑止する。
【解決手段】抵抗膜10の透明導電膜12が、透明有機導電膜であり、当該透明有機導電膜中に、モンモリロナイト、カオリナイト、パイロフィライト、スメクタイト、雲母、緑泥石、ハロイサイト、アロフェン、イモゴライト、バーキュライト、ヘクトライト、ギブサイト、及びベーマイトから選ばれた1種又は複数種の粘土系鉱物を含有して構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯型情報機器等に利用されている、タッチパネル等を用いた座標入力装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯型情報機器の普及・進展に伴い、電子手帳やPDA(Personal Digital Assistants)、を中心に、携帯電話、PHS、電卓、時計、GPS(Global Positioning System, 全地球位置情報システム)、銀行ATMシステム、自動販売機、POS(Point Of Sales)システム等の、データ入力において画面上をペン又は指で触ることにより情報を入力する、優れたマン‐マシンインターフェース性能を有する座標入力装置が採用され、多方面への応用が広がっている。これらの高機能デバイスは半導体素子の進歩により、製品の小型化、多機能化に大きく貢献している。特に、携帯電話やPDA、ノートパソコン等の携帯情報端末における小型化は著しく、その入力素子または表示素子の本体中にしめる体積的割合が大きくなってきている。
【0003】
この座標入力装置は、透明導電膜を有する一対の抵抗膜を、透明導電膜同士が対向するように所定の間隔を空けた状態に配置し、一方の抵抗膜を加圧することにより、対向する透明導電膜同士の加圧箇所に相当する部分を接触させ、電気的に導通させるものである。抵抗膜としては、InとSnを蒸着して得られるITOを透明電極として用いているが、ITOは製造コストが高く、また、連続的な筆記により抵抗膜の抵抗が変化し、座標位置の読み取り精度が低下し易いという問題がある、これら問題を解決し、より製造し易く安価な、透明有機導電材料を用いた抵抗膜の開発が進められている。
【0004】
【特許文献1】特開平8−153646号公報
【特許文献2】特開平8−279354号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した座標入力装置においては、抵抗膜の一方又は双方に透明有機導電膜を用いた場合に、接触抵抗値に大きな変化が生じ、これにより入力感度の低下や座標入力時間の遅延等が発生するという深刻な問題がある。
【0006】
抵抗膜の一方に透明有機導電膜を用い、その対向電極となる抵抗膜に透明有機導電膜と異なる金属酸化膜系の透明導電膜を用いた場合には、硬さの相異なる材料からなる抵抗膜同士の接触により、高荷重での連続入力により透明有機導電膜の表面が平坦化され、接触抵抗値に大きな変化が生じて、入力感度の低下や座標入力時間の遅延等の問題が発生する。
一方、抵抗膜の両方に透明有機導電膜を用いた場合には、透明有機導電膜の抵抗値が高いため、抵抗膜同士の接触抵抗値が高くなり、上記と同様に入力感度の低下や座標入力時間の遅延等の問題が発生する。
【0007】
本発明は、上記の課題を解決すべくなされたものであり、高荷重入力に伴う導電膜の平坦化を防止し、連続筆記時の接触抵抗値の変化を小さくして、入力感度を向上させ、入力時間の遅延等を抑止する、信頼性の高い抵抗膜方式の座標入力装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の座標入力装置は、対向する一対の導電膜同士の接触により座標を識別する座標入力装置であって、前記導電膜の少なくとも一方は、粘土系鉱物を含有してなる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高荷重入力に伴う導電膜の表面平坦化を防止し、連続筆記時の接触抵抗値の変化を小さくして、入力感度を向上させ、入力時間の遅延等を抑止する、信頼性の高い抵抗膜方式の座標入力装置が実現する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
−本発明の基本骨子−
本発明では、上記した課題を解決すべく、一対の抵抗膜の一方又は双方を、透明導電膜として透明有機導電膜を用い、少なくとも一方の抵抗膜、ここでは透明有機導電膜中に粘土系鉱物を添加する。この粘土系鉱物の添加により、透明有機導電膜には弾性が付与されるとともに、その表面に微細な凹凸が形成される。
【0011】
粘土系鉱物の添加された透明有機導電膜は、高荷重、例えば連続筆記による入力を受けて塑性変形しても、その弾性により速やかに表面形状が復元する。この構成を採ることにより、特に、抵抗膜の一方に透明有機導電膜を用い、その対向電極となる抵抗膜に透明有機導電膜と異なる金属酸化膜系の透明導電膜を用いた場合のように、硬さの相異なる材料からなる抵抗膜同士が接触する際に、透明有機導電膜の表面形状の速やかな復元により、接触抵抗値の変化が抑止される。これにより、入力感度が向上し、座標入力時間を短縮化させることができる。
【0012】
また、粘土系鉱物の添加された透明有機導電膜は、粘土系鉱物によりその表面に微細な凹凸が形成される。この構成を採ることにより、特に、抵抗膜の双方に透明有機導電膜を用いた場合のように、抵抗値の高い抵抗膜同士が対向配置される際に、抵抗膜の表面突起の部位に電界集中が生じて見かけの接触抵抗値が低下することによる。これにより、入力感度が向上し、座標入力時間を短縮化させることができる。
【0013】
なお、特許文献1には、層状粘土鉱物の粉末と導電性ポリマーと溶媒とを混合することにより、導電ポリマーが粘土鉱物の層間に導入された内部電極を有するセラミックコンデンサが開示されている。また、特許文献2には、電性高分子と膨潤性層状粘土化合物を含むリチウム二次電池の電極が開示されている。しかしながら、特許文献1,2はどちらも本発明とは目的が異なり、その構成も全く異質のものである。
【0014】
−本発明を適用した具体的な実施形態−
以下、本発明を適用した具体的な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本実施形態による座標入力装置におけるタッチパネルの抵抗膜の構成を示す概略断面図である。図2は、本実施形態による座標入力装置におけるタッチパネルの構成を示す概略斜視図である。図3は、本実施形態による座標入力装置の構成を示す模式図である。
【0015】
本実施形態による座標入力装置は、ペン40等により座標入力がなされるタッチパネル1と、タッチパネル1からの電気信号を処理するマイクロコンピュータ(MCU)51とを備えて構成されている。
【0016】
タッチパネル1は、透明導電膜12を有する透明で可撓性の抵抗膜10と、透明導電膜22を有する透明で可撓性の抵抗膜20とが、透明導電膜12,22同士が対向するように所定の間隔を空けた状態に配置されて構成されている。
抵抗膜10は、指示基材である透明絶縁基材11上に透明導電膜12が積層され構成されている。抵抗膜20は、指示基材である透明絶縁基材21上に透明導電膜22が積層され構成されている。ここで、透明とは、可視光(400〜700nm)をほとんど吸収せず透過性の高いことをいう。
【0017】
透明絶縁基材11,21としては、ポリエステル系樹脂やアセテート系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂やポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂やポリイミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂やアクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂やポリスチレン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂やポリビニルアルコール系樹脂、ポリアリレート系樹脂やポリフェニレンサルファイド系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂や(メタ)アクリル系樹脂の如きポリマーなどからなるものがあげられる。また、ガラスでも好適である。
【0018】
透明絶縁基材11,21としては、特に、PET等のポリエステル系樹脂が好ましく、これは波長300nm以下の紫外線を吸収して可視光に対する透過率に優れている。透明絶縁基材11の厚みは、3μm〜500μm程度、好ましくは5μm〜300μm程度、特に10μm〜200μm程度にするが、これに限定されず使用目的等に応じて適宜な厚みとすることができる。
【0019】
透明絶縁基材11,21を、紫外線吸収能を有する樹脂から形成しても好適である。この紫外線吸収能は、紫外線吸収剤を透明絶縁基材11,21に内添する。紫外線吸収剤の内添は、透明絶縁基材11表面を紫外線吸収のためにコーティング処理する場合に比べて全可視光の透過性を高くすることができる。紫外線吸収剤としては、酸化チタン(TiO2)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化錫(SnO2)、酸化セリウム(CeO2)等の無機系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系、フェノール系、ベンゼン系、ベンゾフェノン系、トリアジン系、シアノアクリレート系化合物等の有機系紫外線吸収剤が挙げられる。これら紫外線吸収剤は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0020】
上記の紫外線吸収能を有する樹脂は、透明絶縁基材11,21の樹脂を、イソプロ、MEK等の有機溶媒に溶解又は懸濁させて製造することができる。有機溶剤としては、特に限定されず、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、酢酸ブチル、酢酸エチル等のエステル類、キシレン、トルエン等の芳香族系溶剤、脂肪族系溶剤、エーテル系溶剤、エチルセロゾルブ等の高級アルコール系溶剤、セロソルブアセテート等の高級アルコールエステル系溶剤、石油系溶剤、ミネラルスピリット等が挙げられる。耐久性に優れる観点からは無機系紫外線吸収剤が好ましく、透明性に優れる観点からは有機系紫外線吸収剤が好ましい。耐久性に優れ、透明性に優れ、退色性が少ないことから、ベンゾトリアゾール系化合物が紫外線吸収剤として好ましい。また、塗料組成物における紫外線吸収剤の含有量は、2wt%〜30wt%程度が好ましく、5wt%〜15wt%程度がより好ましい。この範囲を満たせば、塗膜が耐候性に優れ、透明絶縁基材11,21の劣化が抑制される。
【0021】
本実施形態では、抵抗膜10の透明導電膜12が、透明有機導電膜であり、当該透明有機導電膜中に粘土系鉱物を含有して構成されている。
この透明有機導電膜の材料としては、チオフェン系誘導体、ポリアニリン系誘導体、及びポリピロール系誘導体から選ばれた1種又は複数種を用いることが好ましい。具体的には、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリイソチアナフテン、ポリエチレンジオキシチオフェンが挙げられる。特に、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)は、透過率が高く、かつ、導電性が高く好ましい。さらに、PEDOTにポリスチレンスルフォネート(PSS)をドープしたPEDOT−PSSが、導電率が一層高く好ましい。
【0022】
透明有機導電膜中に含有させる粘土系鉱物としては、モンモリロナイト、カオリナイト、パイロフィライト、スメクタイト、雲母、緑泥石、ハロイサイト、アロフェン、イモゴライト、バーキュライト、ヘクトライト、ギブサイト、及びベーマイトから選ばれた1種又は複数種を用いることが好ましい。
【0023】
当該粘土系鉱物の添加量は、1wt%以上70wt%以下の範囲内の値とすることが好ましい。添加量が1wt%よりも小値の場合には、透明有機導電膜12に十分な弾性及び表面凹凸を与えることができず、70wtよりも大値の場合には、透明有機導電膜12の表面抵抗値の増大化を来たす。従って、添加量を1wt%以上70wt%以下の範囲に規定することにより、適度な表面抵抗値で十分な弾性及び表面凹凸を有する透明有機導電膜12が実現する。更に、粘土系鉱物の添加により奏する当該効果をより確実に得るには、添加量を5wt%以上50wt%以下の範囲に規定することが望ましい。
【0024】
透明導電膜12を形成するには、透明絶縁基材1の表面に、例えばウェットコーティング法を用いて連続して、上記の透明有機導電材料中に粘土系鉱物を分散させてなる透明有機導電膜を、例えば厚み100nm〜500nm程度に成膜した後、これを加熱乾燥させる。なお、ダイコータ、ブレードコータ、グラビアコータ、ディップコータ等の成膜法を用いても良い。
【0025】
ここで、透明有機導電膜の材料に、低分子量エポキシ樹脂又は低分子アクリル樹脂を添加しても良い。このように低分子量エポキシ樹脂又は低分子アクリル樹脂を添加する場合、更に透明有機導電膜の材料に、上記の粘土系鉱物に加えてシランカップリング剤を添加するようにしても好適である。シランカップリング剤を添加することにより、座標入力装置における抵抗膜11の構成要素である透明導電膜12の耐久性をより向上させることができる。
【0026】
抵抗膜20の透明導電膜22は、透明無機導電膜であり、SnO2、In23、CdO、ZnO2、SnO2:Sb、SnO2:F、ZnO:Al、In23:Sn等の金属酸化物膜及びドーパントによる複合酸化物膜がある。ドーパントによる複合酸化物膜としては、例えば、酸化インジウムにスズをドーピングして得られるITO膜、酸化錫にフッ素をドーピングして得られるFTO膜、In23−ZnO系アモルファスからなるIZO膜等が挙げられる。透明導電膜22は、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法等の真空を用いた乾式成膜法で形成されても良いが、簡便な大気圧プラズマ放電処理であってもよい。また、透明導電膜22の厚みは、100nm〜140nm程度とすることが好ましい。
【0027】
上記のように構成された抵抗膜10,20において、透明導電膜12,22の接触抵抗値は10kΩ以下とされている。この接触抵抗値を10kΩ以下に抑制することにより、十分な入力感度の向上及び座標入力時間の短縮化が実現する。
【0028】
タッチパネル1においては、抵抗膜10と抵抗膜20とが、当該抵抗膜10,20の縁部に設けられた透明絶縁体の枠状スペーサ30を介して平行に対向して配置されている。これにより、抵抗膜10,20は枠状スペーサ30の厚みで規定された適当な間隙で対向配置させる。
【0029】
更に、透明導電膜12又は透明導電膜22上には、微細な粒状のドット状スペーサ31が多数配置されている。図2では、透明導電膜22上に配置された場合を例示している。このドット状スペーサ31により、座標入力の未使用時において、対向する透明導電膜12,22間が非接触状態に保たれる。
【0030】
更に、透明導電膜12上には、その両端部に線状導電膜で形成された電極101と電極102とが互いに平行に接合され、同様に、透明導電膜22上には、その両端部に電極201と電極202とが互いに平行に接合されている。座標入力の使用時には、電極101,102,201及び202から、例えば座標位置XH、XL、YH、YLを示す電気信号が送信される。
【0031】
タッチパネル1を構成する抵抗膜10,20は、図3に示すように、演算機器である例えばマイクロコンピュータ(MCU)51に電気的に接続されている。
MCU51は、電源52と接続されたポートPO1及び電源53と接続されたポートPO2と、コンバータA/D1,A/D2とを備えて構成されている。抵抗膜10の電極102が電源52を介したポートPO1及びコンバータA/D1と、抵抗膜20の電極202が電源53を介したポートPO2及びコンバータA/D2とそれぞれ接続され、抵抗膜10の電極101及び抵抗膜20の電極201がそれぞれ接地されている。電極101,102,201及び202からの電気信号は、MCU51に入力する。
【0032】
座標入力装置を使用する際には、操作者の手指やペン等、図1〜図3の例ではペン40により抵抗膜10の表面の所定部位を押下することにより、当該押下によって透明導電膜12,22が接触して当該接触位置で電気的に導通する。当該接触位置の座標を示す電気信号が電極101,102,201及び202からMCU51に入力し、MCU51がこれらを適宜処理することにより、当該押下位置の座標が入力される。
【0033】
座標入力装置の動作をより詳細に説明する。
ペン40による入力操作がない状態では、抵抗膜10の透明導電膜12と抵抗膜20の透明導電膜22とは、ドット状スペーサ31により離間が保たれている。座標入力時には、ペン40により抵抗膜10上の所望位置が加圧され、その結果、抵抗膜10が当該加圧位置で変形して透明導電膜12と透明導電膜22とが接触する。
【0034】
抵抗膜10の相対向する2辺には電極101、102が形成されており、この電極101と電極102との間には、一定周期で基準電圧Vccが印加されている。これにより、透明導電膜12,22の接触点には電極101、102との間に透明導電膜12の抵抗分圧による電圧が生じる。この分圧電圧が、例えばX軸方向の検出電圧として位置座標を示す電気信号として検出される。この電気信号をMPU51で処理することで、当該接触点(加圧位置)のX座標を入力することができる。
【0035】
同様に、抵抗膜20の相対向する2辺には電極201、202が形成されており、この電極201と電極202との間には、一定周期で基準電圧Vccが印加されている。これにより、透明導電膜12,22の接触点には電極201、202との間に透明導電膜12の抵抗分圧による電圧が生じる。この分圧電圧が、X軸に直交するY軸方向の検出電圧として位置座標を示す電気信号として検出される。この電気信号をMPU51で処理することで、当該接触点(加圧位置)のY座標を入力することができる。
以上のようにして、当該接触点(加圧位置)のX,Y座標が入力され、抵抗膜20の表面における加圧位置を特定することができる。
【0036】
以上説明したように、本実施形態によれば、高荷重入力に伴う透明有機導電膜12の表面平坦化を防止し、連続筆記時の接触抵抗値の変化を小さくして、入力感度を向上させ、入力時間の遅延等を抑止する、信頼性の高い抵抗膜方式の座標入力装置が実現する。
【0037】
(変形例)
以下、本実施形態による座標入力装置の変形例について説明する。本例では、本実施形態と同様に抵抗膜方式の座標入力装置を開示するが、一対の抵抗膜の双方が透明有機導電膜を有する点で本実施形態と相違する。
図4は、本例の座標入力装置における抵抗膜の構成を示す概略断面図であり、本実施形態の図1に対応している。なお、本実施形態と同一の構成部材等については同符号を付して詳しい説明を省略する。
【0038】
本例による座標入力装置では、タッチパネル61が、透明導電膜12を有する抗膜10と、透明導電膜62を有する抵抗膜60とが、透明導電膜12,62同士が対向するように所定の間隔を空けた状態に配置されて構成されている。
【0039】
本例では、抵抗膜10の透明導電膜12と同様に、抵抗膜60の透明導電膜62も透明有機導電膜であり、当該透明有機導電膜中に粘土系鉱物を含有して構成されている。
透明有機導電膜中に含有させる粘土系鉱物としては、透明導電膜12と同様に、モンモリロナイト、カオリナイト、パイロフィライト、スメクタイト、雲母、緑泥石、ハロイサイト、アロフェン、イモゴライト、バーキュライト、ヘクトライト、ギブサイト、及びベーマイトから選ばれた1種又は複数種を用いることが好ましい。また、当該粘土系鉱物の添加量は、1wt%以上70wt%以下とすることが好適であり、より好ましくは5wt%以上50wt%以下の範囲内の値とすることが望ましい。
【0040】
以上説明したように、本例によれば、高荷重入力に伴う透明有機導電膜12,62の表面平坦化を防止し、連続筆記時の接触抵抗値の変化を小さくして、入力感度を向上させ、入力時間の遅延等を抑止する、信頼性の高い抵抗膜方式の座標入力装置が実現する。
【実施例】
【0041】
以下、本実施形態による座標入力装置の諸実施例について説明する。なお、本実施形態と同一の構成部材等については同符号を用いる。
【0042】
(実施例1)
一方の抵抗膜10については、透明導電膜12の透明有機導電膜として、チオフェン系有機導電膜を用い、粘土系鉱物としてモンモリロナイトを、チオフェン系有機導電膜の固形分に対して1wt%添加した透明有機導電膜を用いた。他方の抵抗膜20については、透明絶縁基材21としてガラス板を用い、透明導電膜22として、このガラス板上に表面抵抗率が400Ω/□のITO膜を成膜した。このようにして、例えば図2に示すようなタッチパネル1を作製した。
【0043】
このタッチパネル1を、先端0.8Rのスタイラスにより4.9Nの荷重をかけ、20万文字を連続筆記する実験を行なった。この実験において、20万文字の連続筆記前と筆記後とにおいて、筆記部分でスタイラスの押圧により座標入力が得られる最低荷重を測定した(以下、「最低入力荷重測定」とする。)。測定結果を図5に示す。20万文字の連続筆記試験の前後における最低入力荷重の増加は、0.4Nであることが確認できた。
【0044】
(実施例2)
抵抗膜10の透明導電膜12における粘土系鉱物であるモンモリロナイトの添加量を70wt%とした以外は、実施例1と同一条件でタッチパネル1を作製した。
最低入力荷重測定の結果を図5に示す。実施例1と比べて初期入力荷重が若干上昇するものの、20万文字の連続筆記試験の前後における最低入力荷重の増加は、0.4Nであることが確認できた。
【0045】
(実施例3)
抵抗膜10の透明導電膜12における粘土系鉱物であるモンモリロナイトの添加量を50wt%とした以外は、実施例1と同一条件でタッチパネル1を作製した。
最低入力荷重測定の結果を図5に示す。20万文字の連続筆記試験の前後における最低入力荷重の増加は、0.4Nであることが確認できた。
【0046】
(実施例4)
抵抗膜10の透明導電膜12の透明有機導電膜に添加する粘土系鉱物をカオリナイトとし、その添加量を30wt%にした以外は、実施例1と同一条件でタッチパネル1を作製した。
最低入力荷重測定の結果を図5に示す。20万文字の連続筆記試験の前後における最低入力荷重の増加は、0.4Nであることが確認できた。
【0047】
(実施例5)
抵抗膜10の透明導電膜12における粘土系鉱物であるモンモリロナイトの添加量を5wt%とし、更に透明有機導電膜にシランカップリング剤を5wt%添加した以外は、実施例1と同一条件でタッチパネル1を作製した。
最低入力荷重測定の結果を図5に示す。20万文字の連続筆記試験の前後における最低入力荷重の増加は、0.1Nであることが確認できた。
【0048】
(実施例6)
抵抗膜10の透明導電膜12における粘土系鉱物であるモンモリロナイトの添加量を1wt%とし、更に透明有機導電膜にシランカップリング剤を5wt%、低分子エポキシ樹脂を5wt%添加した以外は、実施例1と同一条件でタッチパネル1を作製した。
最低入力荷重測定の結果を図5に示す。20万文字の連続筆記試験の前後における最低入力荷重の増加は、0.2Nであることが確認できた。
【0049】
(実施例7)
抵抗膜20の透明導電膜22を、表面抵抗率が1kΩ/□のITO膜とした以外は、実施例1と同一条件でタッチパネル1を作製した。
最低入力荷重測定の結果を図5に示す。20万文字の連続筆記試験の前後における最低入力荷重の増加は、0.4Nであることが確認できた。
【0050】
(比較例1)
抵抗膜10の透明導電膜である透明有機導電膜に粘土系鉱物を添加していない以外は、実施例1と同一条件でタッチパネルを作製した。
最低入力荷重測定の結果を図5に示す。20万文字の連続筆記試験の前後における最低入力荷重の増加は1.5Nであり、実施例1〜7に比べて著しく劣る結果が確認された。この座標入力装置では、入力時間の遅延が認められた。
【0051】
(比較例2)
抵抗膜10の透明導電膜12における粘土系鉱物であるモンモリロナイトの添加量を0.5wt%とした以外は、実施例1と同一条件でタッチパネル1を作製した。
最低入力荷重測定の結果を図5に示す。20万文字の連続筆記試験の前後における最低入力荷重の増加は1.3Nであり、実施例1〜7に比べて劣る結果が確認された。この座標入力装置では、入力時間の遅延が認められた。
【0052】
(比較例3)
抵抗膜10の透明導電膜12における粘土系鉱物であるモンモリロナイトの添加量を75wt%とした以外は、実施例1と同一条件でタッチパネル1を作製した。
最低入力荷重測定の結果を図5に示す。20万文字の連続筆記試験の前後における最低入力荷重の増加は1.3Nであり、実施例1〜7に比べて劣る結果が確認された。この座標入力装置では、入力時間の遅延が認められた。
【0053】
以上のように、タッチパネルにおいて、抵抗膜10の透明有機導電膜に粘土系鉱物を添加しない場合(比較例1)には、入力荷重の著しい増加がみられ、入力時間の遅延が確認された。また、透明有機導電膜に粘土系鉱物を添加しても、その添加量が1wt%より小値、または70wt%より大値である場合(比較例2,3)には、粘土系鉱物を添加しない場合よりは改善されているものの、十分な結果は得られなかった。これに対して、実施例1〜7のように、透明有機導電膜に粘土系鉱物を1wt%以上70wt%以下の範囲内の添加量で添加してなるタッチパネルでは、比較例1〜3に比べて入力荷重の増加が格段に小さく、入力時間の遅延が認められないという優れた結果が得られた。更に、実施例5,6のように粘土系鉱物に加えてシランカップリング剤や低分子エポキシ樹脂を透明有機導電膜に添加した場合には、より優れた結果が得られた。
【0054】
以下、本発明の諸態様を付記としてまとめて記載する。
【0055】
(付記1)対向する一対の導電膜同士の接触により座標を識別する座標入力装置であって、
前記導電膜の少なくとも一方は、粘土系鉱物を含有してなることを特徴とする座標入力装置。
【0056】
(付記2)前記導電膜の少なくとも一方は、透明であることを特徴とする付記1に記載の座標入力装置。
【0057】
(付記3)前記導電膜の少なくとも一方は、有機導電膜であることを特徴とする付記1又は2に記載の座標入力装置。
【0058】
(付記4)前記導電膜は、当該導電膜中の固形分濃度に対する前記粘土系鉱物の添加量が1wt%以上70wt%以下の範囲内の値とされてなることを特徴とする付記1〜3のいずれか1項に記載の座標入力装置。
【0059】
(付記5)前記導電膜は、チオフェン系誘導体、ポリアニリン系誘導体、及びポリピロール系誘導体から選ばれた1種又は複数種を材料として形成されてなることを特徴とする付記1〜4のいずれか1項に記載の座標入力装置。
【0060】
(付記6)前記粘土系鉱物は、モンモリロナイト、カオリナイト、パイロフィライト、スメクタイト、雲母、緑泥石、ハロイサイト、アロフェン、イモゴライト、バーキュライト、ヘクトライト、ギブサイト、及びベーマイトから選ばれた1種又は複数種を材料として形成されてなることを特徴とする付記1〜5のいずれか1項に記載の座標入力装置。
【0061】
(付記7)前記導電膜は、前記粘土系鉱物に加えてシランカップリング剤を含有してなることを特徴とする付記1〜6のいずれか1項に記載の座標入力装置。
【0062】
(付記8)前記導電膜は、低分子量エポキシ樹脂を含有してなることを特徴とする付記7に記載の座標入力装置。
【0063】
(付記9)前記導電膜は、低分子アクリル樹脂を含有してなることを特徴とする付記7に記載の座標入力装置。
【0064】
(付記10)前記一対の導電膜は、接触抵抗値が10kΩ以下であることを特徴とする付記1〜9のいずれか1項に記載の座標入力装置。
【0065】
(付記11)前記各導電膜は、PETフィルム又はガラスからなる支持基材上に形成されてなることを特徴とする付記1〜10のいずれか1項に記載の座標入力装置。
【0066】
(付記12)前記各導電膜は、紫外線遮断機能を有する樹脂上に形成されてなることを特徴とする付記1〜11のいずれか1項に記載の座標入力装置。
【0067】
(付記13)前記一対の導電膜の一方は、無機導電膜であることを特徴とする付記1〜12のいずれか1項に記載の座標入力装置。
【0068】
(付記14)前記無機導電膜は、ITO又はZnOを含む材料から形成されてなることを特徴とする付記13に記載の座標入力装置。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本実施形態による座標入力装置におけるタッチパネルの抵抗膜の構成を示す概略断面図である。
【図2】本実施形態による座標入力装置におけるタッチパネルの構成を示す概略斜視図である。
【図3】本実施形態による座標入力装置の構成を示す模式図である。
【図4】本実施形態による座標入力装置の変形例におけるタッチパネルの抵抗膜の構成を示す概略断面図である。
【図5】実施例1〜7、及び比較例1〜3における最低入力荷重測定の結果を示す図である。
【符号の説明】
【0070】
1,61 タッチパネル
10,20,60 抵抗膜
11,21 透明絶縁基材
12,22,62 透明導電膜
30 枠状スペーサ
31 ドット状スペーサ
40 ペン
101,102,201,202 電極
51 マイクロコンピュータ(MCU)
52,53 電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向する一対の導電膜同士の接触により座標を識別する座標入力装置であって、
前記導電膜の少なくとも一方は、粘土系鉱物を含有してなることを特徴とする座標入力装置。
【請求項2】
前記導電膜の少なくとも一方は、透明であることを特徴とする請求項1に記載の座標入力装置。
【請求項3】
前記導電膜の少なくとも一方は、有機導電膜であることを特徴とする請求項1又は2に記載の座標入力装置。
【請求項4】
前記導電膜は、当該導電膜中の固形分濃度に対する前記粘土系鉱物の添加量が1wt%以上70wt%以下の範囲内の値とされてなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の座標入力装置。
【請求項5】
前記導電膜は、チオフェン系誘導体、ポリアニリン系誘導体、及びポリピロール系誘導体から選ばれた1種又は複数種を材料として形成されてなることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の座標入力装置。
【請求項6】
前記粘土系鉱物は、モンモリロナイト、カオリナイト、パイロフィライト、スメクタイト、雲母、緑泥石、ハロイサイト、アロフェン、イモゴライト、バーキュライト、ヘクトライト、ギブサイト、及びベーマイトから選ばれた1種又は複数種を材料として形成されてなることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の座標入力装置。
【請求項7】
前記導電膜は、前記粘土系鉱物に加えてシランカップリング剤を含有してなることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の座標入力装置。
【請求項8】
前記導電膜は、低分子量エポキシ樹脂を含有してなることを特徴とする請求項7に記載の座標入力装置。
【請求項9】
前記導電膜は、低分子アクリル樹脂を含有してなることを特徴とする請求項7に記載の座標入力装置。
【請求項10】
前記一対の導電膜の一方は、無機導電膜であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の座標入力装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−233993(P2008−233993A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−68749(P2007−68749)
【出願日】平成19年3月16日(2007.3.16)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】