説明

座標測定器による表面のスキャニング

本発明は、座標測定器(23)を用いて、加工物の表面を走査する方法であって、座標測定器(23)の走査部品(64)が、当該の表面と接触するとともに、走査部品(64)が、当該の表面に沿って接触を維持しながら移動(スキャニング)する方法に関する。座標測定器(23)には、加工物に関する走査部品の実行可能な動きの互いに独立した複数の自由度、例えば、直線軸の自由度が存在する。それらの自由度に関して、各自由度に関する走査部品(64)の移動速度成分の最大値を表す最大速度値を定義する。加工物の計画しているスキャニングに関して、そのスキャニングの際に走査部品(64)を動かすべき予測経路(スキャニング経路)を予め規定し、その場合実際のスキャニング経路が、加工物の実際のサイズに依存して、この予測したスキャニング経路からずれる可能性が有る。異なる自由度に関する最大速度値を考慮して、走査部品(64)の速度値を一定として、予測したスキャニング経路を通過させて行くことが可能なスキャニング速度の最大値を計算する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、座標測定器を用いた加工物の表面を走査する方法及び特に、その方法を実施するように構成された座標測定器に関する。更に、本発明は、座標測定器の移動速度値を計算するための計算機を含む。
【背景技術】
【0002】
座標測定器は、加工物の表面上の点の座標を測定するために用いられる。例えば、従来の座標測定器は、計測する加工物を測定位置に保持するための加工物保持部及び加工物の表面を走査するための走査部品を備えている。詳細には、座標測定器は、互いに相対的に移動可能な複数の構成部材を備えることが可能であり、その中の少なくとも一つの構成部材は、加工物保持部と固く接続されており、その中の少なくとも一つの別の構成部材は、走査部品を搭載しており、これらの構成部材には、走査部品を加工物保持部に対して相対的に移動させる(即ち、動かす)ための複数の駆動部が配備されている。走査部品は、例えば、測定ヘッドによって保持されている。走査部品は、更に、プローブを備えることができる。加工物の表面を走査する際に、走査部品は、その表面と接触する。走査部品と表面間の接触を形成することによって、(例えば、球形の)走査部品が接触している一つ又は複数の点の座標を計測することができる。
【0003】
スキャニングとは、例えば、表面上の線を計測するために、測定点を連続的に記録する特殊な走査モードを意味するものとする。スキャニングの間、走査部品は、スキャニング経路上を動かされ、その間走査部品は、加工物の表面との接触を維持する。
【0004】
特に、本発明によるスキャニングは、従来技術により周知の通り、例えば、スキャニングする対象物の表面に沿って動かされる球体を備えた走査部品を用いて実施することができる。この場合、ゼロ位置又は静止位置からの(測定ヘッドに対する)球体の変位が生じる。更に、この変位のために、球体と対象物間の機械的な接触を保証するための復元力が発生する。走査部品の瞬間的な位置と、特に、球体の静止位置に関して、全ての可能な方向に対して計測することが可能な変位とから、座標系の如何なる所で球体が対象物と接触しているのかを計算する。変位は、走査部品上の相応の変位計によって検出される。
【0005】
走査部品は、スキャニング経路上をスキャニング速度で動かされる。スキャニング速度は、基本的には、変更することが可能である、即ち、スキャニング運動の間加速及び/又は減速が起こる。しかし、速度の変化は、加工物と座標測定器から成るシステム全体を揺り動かして、それによって測定誤差を発生させる可能性が有る。
【0006】
座標測定器では、多くの場合駆動部が異なるために、走査部品の運動の個々の自由度に関して最大限可能な及び/又は最大限許容される速度も異なることとなる。運動の自由度とは、大抵は直線軸内での、或いは直線軸に対して平行な運動の可能性であると解釈する。例えば、走査部品が、少なくとも所定の測定範囲内において、任意の方向に動くことができる場合、座標測定器は、互いに独立した三つの直線的な運動の自由度を有することとなる。これらの互いに独立した三つの直線軸は、通常デカルト座標系の座標軸X,Y及びZとして定義される。走査部品又は走査部品が加工物の表面と接触している点は、点形状であると仮定することができるとともに、加工物が静止している座標系に関する走査部品の向きは、通常走査の間変化しないので、運動の更に別の自由度、特に、回転の自由度を考察する必要はない。しかし、本発明は、そのような座標測定器又は測定構成に限定されない。特に、座標測定器は、互いに独立した三つより少ない運動の自由度を持つことができるとともに、少なくとも一つ自由度を回転の自由度とすることもできる、即ち、例えば、駆動部の回転軸の周りの回転運動によって、走査部品は、円軌道上を動くことができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、スキャニングの際の測定時間を出来る限り短くすることが可能な冒頭に挙げた種類の方法及び座標測定器を提示することである。その場合測定誤差を防止するとともに、座標測定器又は走査部品が異なる運動の自由度に関して異なる最大速度値を有する測定構成を考慮すべきである。一つの自由度の最大速度値とは、専らその自由度によって定義される方向に移動する際に上回ることが許されない、或いは上回ることができない速度の大きさであると解釈する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の基本的な技術思想は、個々の運動の自由度に関する最大速度値が異なる可能性が有る場合に、走査部品が通過して行く各スキャニング経路を考慮して、走査部品に如何なる一定な最大限許容されるスキャニング速度値を持たせるべきであるのかを計算することである。それは、同じ形状のスキャニング経路に対して、測定構成におけるスキャニング経路の位置と向きに応じて、スキャニング速度の異なる最大値を与えることができるという知見にもとづく。言い換えると、所定の自由度に関する最大速度値が一つ又は複数の別の自由度に関する最大速度値よりも低い場合、スキャニング経路が主に又は専ら所定の自由度によって定義される運動方向に延びる点、或いはその方向に沿って延びる区間がスキャニング経路上に存在するか否かが問題となる。そのような点又は区間が存在する場合、スキャニング速度の最大値は、そのような点又は区間が存在しない場合よりも大幅に低い値に制限されることとなる。その場合、運動の全ての自由度に関して、異なる最大速度値が定義されていると、状況は一層複雑となる。
【0009】
更に、所定の測定範囲、即ち、走査部品が置かれている測定構成の範囲において、同じ自由度に関しても、異なる最大速度値を定義することができる。それに関して考えられる理由は、例えば、走査部品の運動がそれ以外の範囲よりも大きく制限される安全な範囲が存在することである。
【0010】
特に、座標測定器を用いて加工物の表面を走査する方法であって、
・座標測定器の走査部品が、当該の表面と接触するとともに、走査部品が当該の表面に沿って接触を維持しながら移動(スキャニング)し、
・座標測定器には、加工物に関する走査部品の実行可能な動きの互いに独立した複数の自由度、例えば、直線軸の自由度が存在し、それらの自由度に関して、各自由度に関する走査部品の移動速度成分の最大値を表す最大速度値を定義し、
・加工物の計画しているスキャニングに関して、そのスキャニングの際に走査部品を動かすべき予測した経路(スキャニング経路)を予め規定し、その場合実際のスキャニング経路が、加工物の実際のサイズに依存して、この予測したスキャニング経路からずれる可能性が有り、
・異なる自由度に関する最大速度値を考慮して、走査部品の速度値を一定として、予測したスキャニング経路を通過させて行くことが可能なスキャニング速度の最大値を計算する、
方法を提案する。
【0011】
本発明による方法は、最大速度値が最も低い自由度がスキャニング速度の最大値を自動的には決定しないという利点を有する。むしろ、予め規定した具体的な予測スキャニング経路に関して、より速いスキャニング速度が可能であり、それでもスキャニング経路全体に渡ってスキャニング速度値を一定に維持することが可能であるのか否かを計算することができる。更に、別のスキャニング経路を選定するか、或いは(例えば、座標測定器に対して相対的な加工物の向き及び/又は配置を変更することによって)所与の形状のスキャニング経路を異なる手法で測定範囲内に配置することが可能である。この異なる配置によって、スキャニング速度の最大値を高めることができる。特に、本発明による方法の結果にもとづき、スキャニング経路の所与の形状に対して、全ての可能な配置に関して出来る限り最も速いスキャニング速度の最大値が実現されるように、スキャニング経路を配置することが可能である。これは、特に、加工物の大量生産の枠組みにおいて、座標測定器によって、同じ構造の加工物を繰り返し計測する場合、特に有利である。
【0012】
それにも関わらず、本発明による方法の結果として、スキャニング速度の最大値を算出した場合でも、スキャニングの際に、より遅い一定な速度値で走査部品を動かすことができる。それに関して考えられる理由は、例えば、10%の速度マージンを確保すべきである、即ち、スキャニング速度の最大値を上回ること無く、速度を10%高めることを可能とすべき場合である。
【0013】
特に、少なくとも一つの自由度を座標測定器の直線軸の自由度とすることができる。この場合、本発明による方法の有利な実施構成では、予測したスキャニング経路上において、その経路に沿った座標値の(偏)微分の極大点を有する全ての点(これらの点は、以下において極値点と称する)を考慮することができ、その場合座標は、直線軸である座標軸又は直線軸に対して平行に延びる座標軸に関して定義された位置座標であり、スキャニング速度の最大値は、算出された極値点のいずれにおいても座標軸に関する速度成分の値が自由度の最大速度値を上回らないように決定される。極値点の位置座標の計算は、必ずしも必要ではない。むしろ、極値点又はそれから導き出される情報は、間接的に決定することもできる。
【0014】
極大点とは、スキャニング経路上の極値点の前後に有るその他の点において、その経路に沿った座標値の微分が、より小さい値となる点であると解釈する。この場合、一般的に、経路上の同じ点が複数の自由度に関する極値点となることが可能である。例えば、スキャニング経路の一部に渡って、その部分が、例えば、直線であった場合、全ての点が一つの自由度に関する極値点となることができる。一つの例外は、スキャニング経路の始点又は終点を考察する場合である。そのような場合微分の極大点に関して、経路に沿った座標値の微分が、経路の別の推移又は終点前の推移において小さくなることで十分である。
【0015】
座標とは、直線軸である座標軸又は直線軸に対して平行に延びる座標軸に関して定義された位置座標である。本発明による方法のこの有利な実施構成では、スキャニング速度の最大値は、算出した極値点のいずれにおいても座標軸に関する測定成分の値が自由度の最大速度値を上回らないように決定される。
【0016】
有利には、極値点は、それぞれ座標測定器の全ての自由度に関して別々に決定されるとともに、スキャニング速度の最大値は、算出した極値点のいずれにおいても各座標軸に関する速度成分の各値が各自由度の最大速度値を上回らないように決定される。
【0017】
有利な実施構成は、スキャニング速度の最大値の確定又は決定に関する極値点だけを考察しなければならないという技術思想にもとづく。しかも、この場合、例えば、スキャニング経路が円軌道であれば、極値点の一部を評価すれば十分である。即ち、スキャニング経路上の各点に関する速度成分(「成分」とは、当該の座標軸に関する)について、その速度成分が当該の自由度又は当該の座標軸の最大測定値よりも大きいか否かを評価することは、特に不要である。この理由から、大幅な計算負荷を節約することができるとともに、許容可能な時間内で加工物の計測の事前計画を策定することが可能となる。
【0018】
本発明による方法のスキャニング速度の最大値の計算を内容として含む部分は、例えば、座標測定器の動作を制御する制御機器の一部とするか、或いは制御機器と接続することが可能な計算ユニットによって、特に自動的に実行することができる。例えば、マイクロコンピュータとして実現された、相応の計算アルゴリズムをハードウェア及び/又はソフトウェアで実装することが可能な計算ユニットは、例えば、計算ユニットが予測したスキャニング経路を表すデータを読み取ることを可能とするインタフェースを備えている。
【0019】
本発明の範囲には、同じく、特に、本明細書に記載された実施形態の中の一つとして本発明による方法を実施することが可能な座標測定器が含まれる。特に、座標測定器は、前述した制御機器及び/又は計算ユニットを備えることができる。
【0020】
前述した極値点を計算する場合、予測したスキャニング経路が丸い推移を有する、特に、円弧形、螺旋形、渦巻き形、楕円弧形又は卵形であるのが有利である。丸い推移の具体的な形状を列挙する際に、丸い推移に沿った座標が全く変化しない場合と、従って、スキャニング速度の最大値を計算するために考慮することができない場合以外、スキャニング経路の一部全体が極値点から構成されるとは考えられない。後者は、例えば、円形のスキャニング経路において、円の平面に対して垂直な座標軸に関して、関係の無い座標を定義する場合である。更に、円弧形又は螺旋形の推移の場合、互いに独立した異なる自由度に関する極値点が同じ点になるとは考えられない。従って、極値点は、経路に沿った座標値の微分の極大点を求める自由度に関する最大限可能な速度成分を決定するために、それぞれ別個に考察することができる。
【0021】
実際には、例えば、円板、リング、円錐又は円筒の形状を有する加工物を計測する際には、多くの場合円弧形(又は円形)と螺旋形のスキャニング経路が考えられる。図の説明では、それに関する具体的な実施例も取り上げる。
【0022】
スキャニング速度の最大値を計算する場合、特に、極値点を考慮するために、直線軸に対して平行に延びる、予測したスキャニング経路の接線を計算することができる。言い換えると、(少なくとも局所的な領域だけを考察する場合)直線(接線)が、一つの点、即ち、考慮すべき極値点だけでスキャニング経路と接触する。その場合、接線は、前述した通り、経路に沿った座標値の微分の最大値を発見すべき直線軸又は座標系の座標軸に対して平行である。例えば、円軌道などの所定の場合には、各座標軸に対して間隔が最も大きな点と間隔が最も小さな点を計算することによって、極値点を特に簡単に計算することができる。
【0023】
しかし、有利には、(スキャニング経路の丸い推移に関して、その推移の回転対称軸又はその推移の対称軸に対して垂直な面上への投影の回転対称軸である直線的な軸が定義される場合には)回転対称軸の方向のベクトルと直線軸の方向のベクトルの外積を計算することによって、極値点を考慮する。以下において、回転対称軸の方向のベクトルは、対称軸ベクトルと称する。以下において、直線軸の方向のベクトルは、直線軸ベクトルと称する。対称軸ベクトルと直線軸ベクトルの外積によって得られる結果ベクトルを用いて、回転対称の任意の点上において、その結果ベクトルを軸に適用した場合に、その結果ベクトルが指し示す、スキャニング経路上の点が考慮されることとなる。「適用する」とは、結果ベクトルの始点を回転対称軸の上に置くことであると解釈する。従って、この場合、結果ベクトルは、座標系の原点上に適用された位置ベクトルではなく、差分ベクトルとなる。結果ベクトルが極値点を「指し示す」とは、結果ベクトルが回転対称軸上に適用された場合に、結果ベクトルが上を延びる直線が極値点と交差することであると解釈する。
【0024】
結果ベクトルが適用されるとともに、そもそも極値点が存在する回転対称軸上の各適用点に関して、スキャニング経路の形状に応じて、第二の極値点が存在する可能性が有る。それは、特に、スキャニング経路が卵形と円形の場合である。更に、(例えば、スキャニング経路が螺旋形の場合)同じ結果ベクトルを用いて、異なる極値点を計算することができるが、回転対称軸上の適用点は異なる。螺旋の場合、異なる適用点は、回転対称軸上を螺旋のリードの高さの半分だけずらした位置に有る。
【0025】
有利には、全ての自由度に関する極値点を考慮し、(スキャニング経路の少なくとも一部、例えば、螺旋の少なくとも一つの蔓巻の)各極値点に対して、それぞれ極値点上を接線方向に延びる接線ベクトルを計算し、その接線ベクトルの成分だけが、それぞれ極値点を計算する自由度に関して定義されるスキャニング速度の最大値を計算するために使用される。以下において、この成分を「評価成分」と称する。この場合、そのような評価のためには、接線ベクトルの方向、即ち、その成分の比率が決定的に重要である。接線ベクトルは、スキャニングの際の走査部品の速度(スキャニング速度)の方向に延びる。経路の同じ点上に異なる接線が存在する可能性が有るので、接線ベクトルは、速度接線ベクトルと呼ぶこともできる。それを求めることは、スキャニング経路の幾何学的な形状に依存する。具体的な幾何学形状における速度接線ベクトルの計算例も取り上げる。
【0026】
極値点の評価及びスキャニング速度の最大値の決定は、速度接線ベクトルの計算方法を用いると非常に簡単となる。成分が、例えば、デカルト座標系のX成分である場合、スキャニング経路に沿ったX座標値の微分が最大となる極値点に関して、接線ベクトルのX成分だけを評価成分として使用する。
【0027】
以下における有利な実施形態は、算出した接線ベクトルにもとづきスキャニング速度の最大値を決定することに関する。
【0028】
有利には、全ての接線ベクトルを同じ値に対して正規化するとともに、評価成分からスキャニング速度の最大値を計算する。この接線ベクトルの正規化によって、スキャニング速度がスキャニング経路全体に渡って一定となるべき計算の境界条件を考慮している。言い換えると、正規化は、接線ベクトル又は速度ベクトルのスケーリング(即ち、大きさ)を確定してしまうこと無く、評価成分間の正しい関係を作り出すものである。
【0029】
有利には、正規化した接線ベクトルの評価成分と当該の各自由度に関する最大速度値とから、自由度の最大速度値の中のどれがスキャニング速度の最大値を制限するものであるのかを計算する。それには、異なる自由度の最大速度値の組合せがスキャニング速度の最大値を制限する場合も含まれる。簡単な場合、例えば、全ての接線ベクトルが、それぞれ0と異なる成分だけを有する、即ち、各評価成分を有する。それは、例えば、スキャニング経路が円軌道であるとともに、二つのデカルト座標軸によって決まる平面内に有る場合である。この場合、より遅い最大速度値の座標軸に関して定義される評価成分が、スキャニング速度の最大値を制限するものとなる。しかし、(正規化した)接線ベクトルが、0と異なる二つ以上の成分を有する場合、評価成分ではない各接線ベクトルの成分も、最大スキャニング速度を制限することに寄与する。しかし、正規化のために、別の成分によって加えられる制限が評価成分の値の中に吸収され、各接線ベクトルに関してのみ、評価成分を考察すれば良いこととなる。
【0030】
しかし、更に、スキャニング速度の最大値を決定するために、評価成分の当該の各自由度に関する各最大速度値を考慮する。例えば、確かに所定の接線ベクトルに関する評価成分が比較的大きい(これは、利用率が高いと呼ぶことができる)が、他方において当該の自由度の最大速度値が比較的遅い場合、この評価成分が、専らスキャニング速度の最大値を制限している可能性が有る。言い換えると、評価成分と当該の自由度に関する最大速度値から成る制限対を有する接線ベクトルの通過点において、スキャニング経路全体に関するスキャニング速度が制限されることとなる。評価成分と当該の自由度に関する最大速度値から成る制限対は、例えば、その対を各接線ベクトルに関して計算することによって、例えば、その自由度に関する最大速度値を評価成分によって除算する計算(除算)を行い、それに続いて全ての接線ベクトルに関する除算結果を比較することによって算出することができる。最も小さい除算結果が、制限対に相当することとなる。有利には、接線ベクトルを値1で正規化した場合、制限対に関する除算結果が、直ちにスキャニング速度の最大値と等しくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
ここで、添付図面と関連して、本発明の実施例を説明する。
【0032】
図1は、本発明による座標測定器、例えば、ガントリー構造の座標測定器23の実施構成を図示している。
【0033】
この座標測定器は、脚部27を備えた基礎部25を有する。この基礎部25は、その中央に、計測する加工物を載せるための加工物保持部又は加工物用台座29を有する。加工物保持部29の両側には、支柱33,34が基礎部25の上を上方に延びており、これらの支柱は、加工物保持部29の両側に配置された、水平方向(Y方向)に互いに平行に延びる縦方向ガイド35,36を支えている。縦方向ガイド35,36上をY方向に直線的にスライド可能な形で支持された横方向ガイド37が、縦方向ガイド35,36と直角にX方向に延びている。そのために、横方向ガイド37の一方の端部には、縦方向ガイド36を上方からU字形状に包み込んで、例えば、エアクッションを用いて、その上を案内されるガイドプロフィール部39が設けられている。その他方の端部では、横方向ガイド37が、縦方向ガイド35の上側で支持されるとともに、それに対してもY方向にスライド可能な形で支えられている。制御部31により制御されるモーター式駆動部によって、横方向ガイド37を縦方向ガイド36に沿ってスライドさせることができ、Y方向への当該のスライド位置は、基礎部上に固定された基準尺41と、それに付属する、基準尺41を読み取るための、U字状プロフィール部39上に固定されたセンサー43とを備えた測定システムによって検出される。
【0034】
横方向ガイド37上には、ガイドプロフィール部45が、X方向に直線的にスライド可能な形で支持されており、X方向へのスライド位置は、同様に、そのために横方向ガイド37上に取り付けられた基準尺49と、それに付属する、ガイドプロフィール部45上に固定されたセンサー51とを備えた測定システムによって検出される。ガイドプロフィール部45の横方向ガイド37に沿ったスライド位置を変化させる、図1に図示されていない駆動部は、制御部31によって制御される。
【0035】
ガイドプロフィール部45上には、互いに間隔を開けて配置された二つの別のガイドプロフィール部53が配備されており、それらは、Z方向に延びる棒状体55を同様に制御部31によって制御されるモーター57を用いてスライド可能な形で支持している。棒状体55のZ方向へのスライド位置は、棒状体55上に固定された基準尺61の位置を読み取る、垂直方向ガイド53上に配備されたセンサー49によって検出される。棒状体55の下端に配備されたクイル上には、測定ヘッドシステム63が保持されている。この測定ヘッドシステムは、クイル上に自身の測定ヘッドを連結するために、測定ヘッド延長部及び/又は測定ヘッド交換機構を備えることができる。更に、測定ヘッドには、プローブシステムが連結されており、このプローブシステムは、測定ヘッドと固く連結することができる。測定ヘッド上に様々な交換可能なプローブシステムを連結するために、プローブ交換機構を配備することもできる。プローブシステムは、プローブシャフト内に延びるプローブ延長部を備えることができ、その端部には、加工物の表面を計測するために、その表面と接触させる走査部品64が取り付けられている。走査部品64は、例えば、ルビーの球体とすることができる。プローブシステムは、例えば、加工物の異なる方向を向いた表面を走査するために、プローブ延長部上を互いに交差して延びる複数のプローブを備えることもできる。クイルと、測定ヘッド、測定ヘッド交換機構又は挿入された測定ヘッド延長部とには、クイルに対する測定ヘッドの向きを変更するために、ねじり回転システムを配備することもでき、その結果加工物の様々な方向を向いた表面を走査するために、空間内におけるプローブの向きを変更することも可能となる。
【0036】
制御部31は、駆動部を介して、加工物保持部29に対して相対的な走査部品64の位置を制御しており、走査部品と加工物の表面間の接触を記録するとともに、加工物保持部29に対して相対的な走査部品64の位置座標を出来る限り精確に測定するために、座標測定器23の測定システムを読み取っている。図1では、制御部31は模式的にしか図示されていない。制御部は、駆動部の制御、測定システムの読み取りなどを行うユーザーコマンドを受け取るためのインタフェースを備えたコンピュータとして実現することができる。このコンピュータは、様々な手法でコンピュータにロードすることが可能なプログラムにもとづき所定の操作を実行する。コンピュータ読取可能な形式でプログラム情報を搭載した、コンピュータにプログラムをロードするために制御部31のスロット30に挿入することが可能なCD−ROM32が、図1に模式的に図示されている。しかし、プログラム情報は、その他の手法で、例えば、コンピュータ網を介して制御部31にロードすることも可能である。
【0037】
ここで、図2と関連して、スキャニング経路が円軌道である簡単な用途に関して、最大限許容されるスキャニング速度(以下において、短く最大スキャニング速度と呼ぶ)の値の計算法を展開する。しかし、この実施例を説明する際に、本発明による方法の一般的な特徴も取り上げる。
【0038】
既に言及した通り、この計算は、特に、円軌道の場合において、加工物のスキャニングを実施する際のスキャニング速度の値を一定とするとの条件に対して行われるものである。最大限可能な及び/又は許容されるスキャニング速度を計算するという事実は、走査部品の運動の各自由度に関して、それに対応する移動速度成分の最大値を出来る限り活用するという要求となる。
【0039】
以下における実施例では、座標測定器は、互いに独立した三つの直線的な運動の自由度を有し、これらの自由度は、測定構成のデカルト座標系の三つの座標軸X,Y,Zに対応する。特に、最大スキャニング速度を計算する場合、表1に書き込まれたシンボルを使用する。
【0040】
【表1】

【0041】
スキャニング経路上において、それぞれ動作軸の速度の最大限可能な値が生じる点(以下において、極値点と呼び、「極値」とは速度に関する)が存在し得る。即ち、極値点とは、三つの座標軸の中の一つにおける走査部品の移動速度が最も速くなるスキャニング点である。
【0042】
円軌道の場合(円軌道が二つの座標軸によって決まる平面内に有る場合)、そのような極値点が少なくとも四つ存在する(図3参照)。しかし、一般的には、円軌道に対して、そのような極値点は六つ存在する(図2参照)。
【0043】
図3の例では、円軌道はXY平面内に有る。その図では、X軸に関する円軌道の極値点は、上と下に(小さい円として)図示されており、Y軸に関する円軌道の極値点は、右と左に(小さい四角として)図示されている。更に、スキャニング時の極値点における軌道上の速度方向が、それぞれ矢印で図示されている。この図3による例では、円軌道がXY平面内に有るので、Z方向に関する極値点は存在しない。
【0044】
しかし、円軌道が二つの座標軸によってのみ決まる平面内に無い場合、第三の方向、ここではZ方向に関する極値点も存在する。そのような場合が、図2に図示されている。その図では、X軸に関する円軌道の極値点は、上と下に(小さい円として)図示されており、Y軸に関する円軌道の極値点は、右上と左下に(小さい四角として)図示されており、Z軸に関する円軌道の極値点は、右下と左上に(小さい三角として)図示されている。更に、座標測定器の動作軸と同じであるデカルト座標系の座標軸X,Y,Zが図示されている。
【0045】
円の場合、同じ座標軸に関する二つの極値点は同じように挙動する。即ち、その場合両方の極値点におけるスキャニング速度の方向は互いに逆である。速度ベクトルは逆平行である。そのため、例えば、速度成分の大きさだけを考察することによって、軸毎に一つの極値点だけを考察すれば良いこととなる。
【0046】
以下において、円軌道による実施例と関連して、本発明による方法の特に有利な実施構成を説明する。この実施構成の基本的な技術思想は、極値点を簡単に計算することと、決定的に重要なベクトル成分のベクトル演算及び評価によって最大スキャニング速度を簡単に求めることである。
【0047】
これらの単位ベクトル(即ち、ベクトルの大きさが1に等しい)
【0048】
【数1】

【0049】
は、座標軸X,Y,Zの方向に延びる単位ベクトルとして定義されるか、或いは言い換えると、デカルト座標系を定義する。円軌道及び回転対称軸を備えたその他のスキャニング経路に関して、対称軸の方向に延びる、以下において、短く軸ベクトル
【0050】
【数2】

【0051】
と称するベクトルを定義することができる。
【0052】
これら三つの単位ベクトルを用いて、以下において説明する手法により、極値点を簡単に計算することができる。
【0053】
単位ベクトルは、次の通り記述される。
【0054】
【数3】

【0055】
軸ベクトル
【0056】
【数4】

【0057】
は、有利には、正規化される、即ち、
【0058】
【数5】

【0059】
である。
【0060】
単位ベクトルと軸ベクトル
【0061】
【数6】

【0062】
間の外積(文献では、ベクトル積とも呼ばれる)によって、差分ベクトルとして対称軸に適用した場合、極値点
【0063】
【数7】

【0064】
の方向を指し示すベクトル
【0065】
【数8】

【0066】
を計算する。次の式1は、外積を表す。
【0067】
【数9】

【0068】
そのため、各座標軸に関して、次の通りとなる(式1において、Iに対して、それぞれ係数X,Y,Zを代入する)。
【0069】
【数10】

【0070】
従って、対称軸の観点から、極値点が存在する方向が分かる。円軌道の具体的な実施例から離れて、一般的に、一つ以上のベクトル
【0071】
【数11】

【0072】
の方向には、特に、逆方向も考慮すると、スキャニング軌道との複数の交点が存在すると考えられる。
【0073】
単位ベクトルと軸ベクトル
【0074】
【数12】

【0075】
間の外積がゼロに等しい場合、測定する円軌道上の全ての点が極値点となるが、それらは、更なる評価に対して考慮する必要は無い。即ち、そのような場合、スキャニング経路全体が、単位ベクトルに対して垂直な平面内に有る。それは、例えば、図3に図示された場合における単位ベクトル
【0076】
【数13】

【0077】
である。一般的に、次の公式が得られる。
【0078】
【数14】

【0079】
即ち、軸ベクトル
【0080】
【数15】

【0081】
は、単位ベクトル
【0082】
【数16】

【0083】
に対して平行に延びる。
【0084】
一つの単位ベクトルに関する外積がゼロに等しいか否かを調べる代わりに、単位ベクトル
【0085】
【数17】

【0086】
と軸ベクトル
【0087】
【数18】

【0088】
間のスカラー積を計算することができる。そのスカラー積の値が1に等しい場合、それは、スキャニング経路、例えば、ここでは円軌道が座標系の一つの平面(XY平面、XZ平面又はYZ平面)内に有るとの徴候ともなる。
【0089】
【数19】

【0090】
そして、円軌道の場合、対称軸の観点から、極値点を指し示す、それ以外の座標軸に関する二つの方向ベクトル
【0091】
【数20】

【0092】
を計算するために、軸ベクトル
【0093】
【数21】

【0094】
に対して垂直な二つの単位ベクトル
【0095】
【数22】

【0096】
を使用する。例えば、次の通りとなる。
【0097】
【数23】

【0098】
円軌道の場合、極値点
【0099】
【数24】

【0100】
は、ベクトル
【0101】
【数25】

【0102】
を円の半径D/2と乗算することによって計算することができる。しかし、円軌道の最大スキャニング速度を計算するためには、次の通り、そのような乗算は不要である。
【0103】
【数26】

【0104】
軸ベクトル
【0105】
【数27】

【0106】
と式1で計算したベクトル
【0107】
【数28】

【0108】
間の外積は、次の通り、特に、各極値点におけるスキャニング速度の方向を与える。
【0109】
【数29】

【0110】
従って、各軸に関して、次の通りとなる。
【0111】
【数30】

【0112】
円軌道の場合、これらのベクトル
【0113】
【数31】

【0114】
は、スキャニング経路上の接線ベクトルとそのため速度ベクトルとなるが、速度のスケーリングは、未だ実行されていない。その他の場合、例えば、以下で述べるスキャニング経路が螺旋形状の場合には、極値点での接線ベクトルを求めるための別の手法が有り得る。しかし、いずれの場合も、以下の通り、接線ベクトルの評価を行うことができる。
【0115】
図4は、円軌道の場合に関する図面を示しており、円軌道の平面上に垂直に立っている軸ベクトル
【0116】
【数32】

【0117】
、極値点を計算するための単位ベクトル
【0118】
【数33】

【0119】
、軸ベクトル
【0120】
【数34】

【0121】
と単位ベクトル
【0122】
【数35】

【0123】
間の外積の計算によって得られる方向ベクトル
【0124】
【数36】

【0125】
、この方向ベクトル
【0126】
【数37】

【0127】
と共線の、実際に対称軸から計算した極値点までを指し示すベクトル
【0128】
【数38】

【0129】
、並びに接線ベクトル
【0130】
【数39】

【0131】
が見える。ベクトル
【0132】
【数40】

【0133】
と接線ベクトル
【0134】
【数41】

【0135】
間の直角が、同様に図示されている。
【0136】
ここで、以下において、算出した接線ベクトル
【0137】
【数42】

【0138】
から、最大スキャニング速度を計算する。
【0139】
そのために、ベクトル
【0140】
【数43】

【0141】
の成分
【0142】
【数44】

【0143】
を個々に考察する。
【0144】
【数45】

【0145】
接線ベクトル
【0146】
【数46】

【0147】
の成分
【0148】
【数47】

【0149】
は、全ての接線ベクトルを同じ値に対して正規化すると、各軸Iに対して、最大スキャニング速度に関する基本的な情報を提供することとなる。前記の実施例では、軸ベクトル
【0150】
【数48】

【0151】
とベクトル
【0152】
【数49】

【0153】
の両方の大きさが1であり、従って、その外積の大きさも1となるため、そのような場合に該当する。
【0154】
接線ベクトル
【0155】
【数50】

【0156】
の成分
【0157】
【数51】

【0158】
は、軸速度νMaxk 、即ち、当該の各自由度の最大速度値の所謂利用率ηIk を提供する。この利用率ηIk とは、成分
【0159】
【数52】

【0160】
をベクトルの大きさ(ここでは1)に変換するための係数であると理解することができる。(図3による実施例の通り)極値点でのそれ以外の二つの速度成分がゼロである場合、この利用率は1に等しい。それに対して、(図2による実施例の通り)極値点でのそれ以外の二つの速度成分がゼロとならない場合、この利用率はより小さくなる。従って、(そのような一つの極値点を考察した場合)速度成分
【0161】
【数53】

【0162】
の他に、それ以外の二つの速度成分もスキャニング速度に寄与することとなるので、極値点におけるスキャニング速度が全体として高くなる可能性が有る。
【0163】
軸における速度が負の値を取る可能性も有る(座標軸に沿った移動方向が反転する場合が有る)ので、速度成分
【0164】
【数54】

【0165】
の大きさだけを計算に入れる。
【0166】
【数55】

【0167】
が軸Iに関する極値点の速度ベクトルを表すので、利用率ηIk を求めるためには、次の条件が成り立つ成分だけが必要となる。
【0168】
【数56】

【0169】
更に、最大スキャニング速度を計算するためには、同じ軸に関する極値点上の接線ベクトルとして得られる全ての接線ベクトル
【0170】
【数57】

【0171】
の(絶対値において)最も大きな成分
【0172】
【数58】

【0173】
だけが必要である。言い換えると、より小さい利用率の全ての点における速度は、成分
【0174】
【数59】

【0175】
によって、より弱く制限することとなるので、同じ軸の接線ベクトルの中で、最も大きな利用率だけが決定的に重要である。
【0176】
そのため、各軸に関して、最大利用率だけが有効となる。
【0177】
【数60】

【0178】
ベクトル
【0179】
【数61】

【0180】
は、Y軸の極値点上のV字形の走査軌道の方向を指しているので、成分tYy は、円形のスキャニング軌道全体におけるY軸に関する最大値を表す。
【0181】
有利な実施例において、軸における最大スキャニング速度νScanMaxk は、各軸に関して、最大利用率ηIk の逆数を座標測定器又は走査部品の最大限許容される軸速度νMaxk と乗算することによって計算される。軸速度の乗算によって、軸における場合によっては異なる速度を考慮している。
【0182】
【数62】

【0183】
ここで、計算した三つの値νScanMaxk から、最小値を求める。速度の大きさが最も小さい極値点における速度がスキャニング経路のスキャニング速度νScanBahnを制限することとなるので、それが必要である。
【0184】
【数63】

【0185】
上記において、円軌道の用途を様々な形で取り上げた。以下においては、実際に頻繁に起こる更に別のケースであるスキャニング経路が螺旋形状の場合を取り上げる。そのような場合として、特に、円筒形の表面を走査する場合が考えられる。以下において、前述した実施構成との相違点及び特徴だけを取り上げる。
【0186】
図5は、螺旋形のスキャニング軌道101を図示している。その図には、軸ベクトル
【0187】
【数64】

【0188】
が通る円筒の軸(対称軸)、デカルト座標系X,Y,Z及びこれら三つの軸に関する極値点が見える。X軸に関する極値点は、小さい円で図示されており、Y軸に関する極値点は、小さい四角で図示されており、Z軸に関する極値点は、小さい三角で図示されている。三つの各軸に関して、四つの極値点が図示されており、螺旋の巻き(蔓巻)毎に一つの極値点が図示されている。即ち、巻き毎に全部で三つの極値点が有り、図示されている。
【0189】
これらの極値点は、有利には、軸ベクトル
【0190】
【数65】

【0191】
と座標軸の各単位ベクトルとの外積を演算することによって同じ手法で得られるか、或いはこの外積によって得られた結果ベクトル
【0192】
【数66】

【0193】
が、最大スキャニング速度を求めるために使用される。この場合、前述した実施例と同様に、極値点の場所は明確に求める必要はない。しかし、図5に図示された螺旋の巻き当り三つの極値点に追加して、螺旋の巻き当り更に別の三つの極値点も考慮する、即ち、各座標軸に対して更に別の一つの極値点を考慮する。他方において、巻き毎に状況が繰り返されるので、螺旋の一つの巻きの極値点を考慮するだけで十分である。図6は、一つの座標軸に関する当該の結果ベクトル
【0194】
【数67】

【0195】
を図示しており、両方の結果ベクトルは、その方向、即ち、その正負の符号によって区別される。従って、両方の結果ベクトルの一方は、正の符号で表され、他方は、負の符号で表される。(必要ではない)位置の決定は、一つの極値点に関して、図6からも(図の左の接線ベクトル
【0196】
【数68】

【0197】
が適用されている所で)見ることができる。実際に(軸ベクトルが上を延びる)対称軸から計算した極値点までを指し示す、結果ベクトル又は方向ベクトル
【0198】
【数69】

【0199】
と共線のベクトル
【0200】
【数70】

【0201】
が、同様に図6に図示されている。正負の符号が異なる両方の結果ベクトルは、リードの高さの半分だけ互いに離れている軸ベクトル
【0202】
【数71】

【0203】
の異なる位置に適用される。両方の結果ベクトルは、角を示す弧とその中の点によって図示されている通り、それぞれ軸ベクトル
【0204】
【数72】

【0205】
と直角を成す。全ての軸の結果ベクトルに関して、次の通りとなる。
【0206】
【数73】

【0207】
単位ベクトル
【0208】
【数74】

【0209】
と軸ベクトル
【0210】
【数75】

【0211】
間の外積がゼロに等しい場合、測定する円筒軌道上の全ての点が極値点となる。そのような場合、円筒の軸は、各動作軸に対して平行である。
【0212】
【数76】

【0213】
それに代わって、そのことは、スカラー積の演算によっても求めることができる(前記参照)。
【0214】
円筒軌道の場合、スキャニング速度
【0215】
【数77】

【0216】
は、(円筒の軸に対して垂直な平面内に有る)接線成分
【0217】
【数78】

【0218】
と、軸と平行な成分
【0219】
【数79】

【0220】
(螺旋の送り成分)とに分解される。そのことは、図7に図解されている。その図は、ベクトルの分解の他に、軸ベクトル
【0221】
【数80】

【0222】
と、円筒の面に沿った螺旋形のスキャニング経路101も図示している。
【0223】
軸と平行な成分
【0224】
【数81】

【0225】
は、全ての六つの極値点に関して同じである。従って、Iに係数を付ける必要はない。最大スキャニング速度を求めるために、又もやベクトルの大きさを正規化する。以下において、スキャニング速度の両成分の計算について説明する。
【0226】
軸ベクトル
【0227】
【数82】

【0228】
と式1にもとづき計算したベクトル
【0229】
【数83】

【0230】
間の外積は、スキャニング速度
【0231】
【数84】

【0232】
の接線成分
【0233】
【数85】

【0234】
を与える。
【0235】
【数86】

【0236】
従って、本発明による方法のこの工程は、円軌道の場合と同じである。そのため、次の通りとなる。
【0237】
【数87】

【0238】
図6には、既に言及したベクトルの他に、一つの極値点に関して、軸と平行な成分の無いスキャニング速度の接線成分
【0239】
【数88】

【0240】
も図示されている。更なる計算のために、ベクトル
【0241】
【数89】

【0242】
を正規化すると、次の通りとなる。
【0243】
【数90】

【0244】
スキャニング速度
【0245】
【数91】

【0246】
の全ての軸と平行な成分
【0247】
【数92】

【0248】
は、同じ大きさと同じ方向を有するとともに、軸ベクトル
【0249】
【数93】

【0250】
と同一である。この理由から、次の通りとなる。
【0251】
【数94】

【0252】
更なる計算のために、スキャニング速度の(係数が付けられていない)軸と平行な成分のベクトル
【0253】
【数95】

【0254】
を正規化すると、次の通りとなる。
【0255】
【数96】

【0256】
スキャニング速度
【0257】
【数97】

【0258】
の方向は、両方のベクトル
【0259】
【数98】

【0260】

【0261】
【数99】

【0262】
、円筒の回転回数n、直径D及び高さhによって求められる。
【0263】
螺旋の傾斜を考慮するためには、接線成分
【0264】
【数100】

【0265】
に円周U=D・πと回転回数nを乗算しなければならない。更に、軸と平行な成分
【0266】
【数101】

【0267】
に円筒の高さhを乗算しなければならない。
【0268】
スキャニング速度のベクトル
【0269】
【数102】

【0270】
は、ベクトル加算によって計算される。次の通りとなる。
【0271】
【数103】

【0272】
更なる計算のために、スキャニング速度のベクトル
【0273】
【数104】

【0274】
を正規化すると、次の通りとなる。
【0275】
【数105】

【0276】
このケースでは、円軌道の場合の計算との類似性に留意すべきである。リードの高さh=0の場合、直ちに次の通りとなる。
【0277】
【数106】

【0278】
逆に、本発明による方法の既に上記で説明した最大スキャニング速度を計算するための別の手法を螺旋に対しても同様に用いることができると言えるが、円軌道の場合の接線ベクトル
【0279】
【数107】

【0280】
の代わりに、ここではスキャニング速度ベクトル
【0281】
【数108】

【0282】
を使用する。従って、ここでは、その説明を再度繰り返さない。更に、三つの各座標軸に関して、二つの極値点が存在することだけを考慮すべきである。
【0283】
以下において、又もや螺旋形状のスキャニング経路に関して、最大スキャニング速度を計算するための数値例を述べる。ここで用いるシンボルは、前述したものと同じである。この数値例は、次の幾何学的な形状とデカルト座標系での螺旋の位置を出発点とする。軸ベクトルは、次の座標を有する。
【0284】
【数109】

【0285】
表面を螺旋が取り巻いている円筒の直径Dは20mmであり、円筒の高さhは100mmであり、その高さに渡る螺旋の蔓巻の数は2である。
【0286】
X,Y,Z方向の三つの直線軸の速度の最大値は、それぞれ300mm/sである。
【0287】
極値点を指し示す、式1による外積の結果ベクトル
【0288】
【数110】

【0289】
に関して、次の通りとなる。
【0290】
【数111】


【0291】
それに対して、スキャニング速度
【0292】
【数112】

【0293】
の既に1に対して正規化した接線成分
【0294】
【数113】

【0295】
の結果は、次の通りなる。
【0296】
【数114】

【0297】
外積のいずれも
【0298】
【数115】

【0299】
(即ち、ゼロベクトル)ではないので、対称軸が座標軸の一つの単位ベクトルに対して平行である特別な場合を考察する必要はない。
【0300】
スキャニング速度の軸と平行な成分は、次の通り計算される。
【0301】
【数116】

【0302】
そのことから、次の通り極値点での速度ベクトルが得られ、これらの速度ベクトルも既に1に対して正規化されている。
【0303】
【数117】

【0304】
それから、関連する利用率が得られる。
【0305】
【数118】

【0306】
ここで、各座標軸X,Y,Zに関して、漸く評価成分の最大値が得られるとともに、その大きさが算出された。
【0307】
ここで、個々の座標軸に関する最大スキャニング速度は、次の通り計算され、
【0308】
【数119】

【0309】
その最小値は、次の通り得られる。
【0310】
【数120】

【0311】
従って、スキャニング速度の最大値の全体的な結果は、329.6mm/sとなる。それは、X軸に関して求めた二つの極値点の中の一つにおける速度によって制限されたものである。
【図面の簡単な説明】
【0312】
【図1】本発明による座標測定器の特に有利な実施構成の図
【図2】スキャニング速度の最大値を計算するために使用される極値点が図示された、円軌道として構成されたスキャニング経路の模式図
【図3】二つの座標軸だけで決まる平面内に有る、図2と同様の円軌道として構成されたスキャニング経路の模式図
【図4】最大スキャニング速度を更に計算するために使用されるベクトルが図示された、図2の円軌道の模式図
【図5】スキャニング速度の最大値を計算するために使用される極値点が図示された、螺旋軌道として構成されたスキャニング経路の模式図
【図6】最大スキャニング速度を更に計算するために使用されるベクトルが図示された、図5の螺旋軌道の模式図
【図7】スキャニング速度ベクトルを二つの成分に分解することを図示した図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
座標測定器(23)を用いて、加工物の表面を走査する方法であって、
・座標測定器(23)の走査部品(64)が、当該の表面と接触するとともに、走査部品(64)が当該の表面に沿って接触を維持しながら移動(スキャニング)し、
・座標測定器(23)には、加工物に関する走査部品の実行可能な動きの互いに独立した複数の自由度、例えば、直線軸の自由度が存在し、それらの自由度に関して、各自由度に関する走査部品(64)の移動速度成分の最大値を表す最大速度値を定義し、
・加工物の計画しているスキャニングに関して、そのスキャニングの際に走査部品(64)を動かすべき予測した経路(スキャニング経路)を予め規定し、その場合実際のスキャニング経路が、加工物の実際のサイズに依存して、この予測したスキャニング経路からずれる可能性が有り、
・異なる自由度に関する最大速度値を考慮して、走査部品(64)の速度値を一定として、予測したスキャニング経路を通過させて行くことが可能なスキャニング速度の最大値を計算する、
方法。
【請求項2】
当該の自由度の中の少なくとも一つが座標測定器(23)の直線軸の自由度であり、
当該のスキャニング速度の最大値を計算する際に、予測したスキャニング経路上の、その経路に沿った座標値の微分が極大値となる点(極値点)を考慮し、
当該の座標が、当該の直線軸である座標軸又は当該の直線軸に対して平行に延びる座標軸に関して定義された位置座標であり、
算出した極値点のいずれにおいても、座標軸に関する速度成分の大きさが自由度の最大速度値を上回らないように、当該のスキャニング速度の最大値を決定する、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
当該の予測したスキャニング経路の少なくとも一部が、丸い推移を有する、特に、円弧形、螺旋形、渦巻き形、楕円弧形又は卵形である請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
当該の丸い推移に対して、その推移の回転対称軸又はこの回転対称軸に対して垂直な平面上へのその推移の投影である直線的な軸を定義し、
当該の回転対称軸の方向のベクトル(対称軸ベクトル)と当該の直線軸の方向のベクトル(直線軸ベクトル)との外積を計算することによって、当該の極値点を考慮する、
請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
全ての自由度に対して、当該の極値点を考慮し、
各極値点に対して、その極値点での接線方向に延びる接線ベクトルを計算し、
極値点を計算すべき自由度に関して定義されたスキャニング速度の最大値を計算するために、それぞれ接線ベクトルの成分(評価成分)だけを使用する、
請求項2〜4までのいずれか一つに記載の方法。
【請求項6】
全ての接線ベクトルを同じ値に対して正規化し、
当該の評価成分から、当該のスキャニング速度の最大値を計算する、
請求項5に記載の方法。
【請求項7】
当該の正規化した接線ベクトルの評価成分と、当該の各自由度に関する最大速度値とから、それらの自由度の最大速度値のいずれが、当該のスキャニング速度の最大値を制限するものであるのかを計算する請求項6に記載の方法。
【請求項8】
同じ自由度の全ての評価成分の絶対値を計算し、これらの絶対値の逆数をそれぞれ当該の自由度の最大速度値と乗算して、その乗算結果の最小値を当該のスキャニング速度の最大値を計算するために使用する請求項7に記載の方法。
【請求項9】
加工物の表面を走査するための走査部品(64)を備えた座標測定器(23)であって、
座標測定器(23)は、当該の表面と接触するとともに、当該の表面に沿って接触を維持しながら移動(スキャニング)するように構成されており、
座標測定器(23)には、加工物に関する走査部品(64)の実行可能な動きの互いに独立した複数の自由度、例えば、直線軸の自由度が存在し、
それらの自由度に関して、各自由度に関する走査部品(64)の移動速度成分の最大値を表す最大速度値を定義し、
座標測定器(23)は、加工物の計画しているスキャニングに関して、予測した経路(スキャニング経路)を評価するように構成された速度計算機(31)を備えており、
走査部品(64)は、スキャニングの際にスキャニング経路上を動き、
実際のスキャニング経路は、加工物の実際のサイズに依存して、この予測したスキャニング経路からずれる可能性が有り、
速度計算機(31)は、異なる自由度に関する最大速度値を考慮して、走査部品(64)の速度値を一定として、予測したスキャニング経路を通過させて行くことが可能なスキャニング速度の最大値を計算するように構成されている、
座標測定器。
【請求項10】
速度計算機(31)は、請求項2〜8までのいずれか一つに記載の方法を実施するように構成されている請求項9に記載の座標測定器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2009−534636(P2009−534636A)
【公表日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−505801(P2009−505801)
【出願日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際出願番号】PCT/EP2007/003724
【国際公開番号】WO2007/122012
【国際公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【出願人】(504258804)カール ツァイス インドゥストリエレ メステヒニク ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (11)
【氏名又は名称原語表記】Carl Zeiss Industrielle Messtechnik GmbH
【住所又は居所原語表記】Carl Zeiss Strasse 22, D−73447 Oberkochen,Germany
【Fターム(参考)】