説明

座標測定装置

【課題】座標測定装置を用いて一連のワークピースを測定して検査するに際し、迅速かつ高速度に測定を実施しつつも、正確な測定結果を得ることを可能にする。
【解決手段】座標測定装置上で較正済み加工品を高速測定する工程(28)と、較正済み加工品と測定された加工品との間の差に対応する誤差マップを生成する工程(30)と、続くワークピースを同じ高速度で測定する工程(34)と、当該続くワークピースの測定値を誤差マップを用いて補正する工程(36)と、を実行するよう座標測定装置を構成する。加工品とは、ワークピースの一つであってもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークピースの寸法を検査するための座標測定装置に関するものである。座標測定装置には、例えば、座標測定機械(CMM)、工作機械、手動座標測定アームおよび検査ロボットが含まれる。
【背景技術】
【0002】
ワークピースが製造された後に、これを座標測定機械(CMM)上で検査することは通常行われることである。座標測定機械は、機械の作動空間(working volume)内の直交するX,Y,Zの3方向に駆動可能なプローブが取り付けられる軸(quill)を有している。
【0003】
プローブの動的なたわみに起因する不正確さは、ワークピースに接触させる際にプローブを非常に低速に移動させることで低減できる。
【0004】
どのような測定を行う前にも、較正すなわち「データミングサイクル」を含めることが普通であり、基準物の表面に同じ低速で接触させることでプローブの較正が行われる。これによって、オフセットを計算することが可能となり、これをストアしておくことで、続く測定時の読みをプローブのスタイラスボールの直径のようなファクタについて補正することができる。
【0005】
本出願人による特許文献1には、座標測定機械(CMM)を用いて連続したワークピースの検査を行う方法が開示されている。ここでは、プローブを移動させようとする各方向について、データムボールなどの基準物に対しプローブを低速で接触させることにより、まずプローブの較正すなわちデータミングが行われ、一組の補正オフセットを得てこれをコンピュータにストアし、続く測定時に用いるようにしている。
【0006】
測定すべき第1のワークピースをCMMのテーブルに置き、ワークピース表面上の一組のポイントを低速で測定することで、正確な読みを得ることができるようになる。次に、第1のワークピースの測定を高速で繰り返す。低速時の読みと高速時の読みとの差が計算され、ストアされる。
【0007】
ストアされた各測定ポイントについての誤差は、高速時の機械構造の動的なたわみについて考慮される。
【0008】
測定すべき次のワークピースをCMMのテーブルに置き、高速で読み取りを行う。この速度では、読みは不正確ではあるが反復性のものである。高速時の読みのそれぞれはストアされている対応誤差を加算することにより調整され、高速で読み取りを行うことによって生じた誤差が補正される。
【0009】
この方法は、一ワークピースのみから動的誤差マップを作成することで、全体的に公称上等しい一連のワークピースを高速に測定できるという利点がある。
【0010】
しかしながら、CMMを静的誤差マッピングしておくことで、低速で部品を正確に測定できるようにしておかなければならないという点では不利である。
【0011】
特許文献2には、円形状、円筒形状および球形状の幾何学的エレメントの形状測定を行う場合における座標測定装置の測定精度を向上する方法が開示されている。それぞれ異なる直径を有し、円形状または円形切片形状の測定ラインを形成する一組の既知の形状(例えばリングゲージ)は、直径と測定ラインとに対応する形状偏差の所定の第1セットを有している。これら既知の形状が座標測定装置の異なる位置またはプレーン(XY,XZ,YZ)に位置づけられる。これらの測定ラインが座標測定装置によって異なる速度でスキャンされることで、形状偏差の第2セットが得られる。形状偏差の第1および第2セットを比較することで、補正値が生成される。座標測定装置上で実際のワークピースを測定するに際し、円形状、円筒または球形状の幾何学的エレメントが不確かな範囲の直径およびスキャン速度で測定されることを選択タスクが示す場合には直ちに、ソフトウェアが補正値を持つ対応データセットをユーザに提示する。そしてユーザはこの補正方法の使用を決定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許第4,991,304号明細書
【特許文献2】米国特許第5,895,442号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、同等の一連のワークピースを検査するための座標測定装置であって、各ワークピースと位置検出関係をもつ読み取り位置に移動可能なワークピース検出プローブを具え、
(a)前記ワークピースに近似した特徴、寸法および部位を有し、前記座標測定装置を用いずに較正された加工品を準備する工程と、
(b)前記座標測定装置を用い、前記ワークピース検出プローブを、動的誤差を生じさせる速度で前記加工品に対して移動させることで前記加工品を測定する工程であって、当該移動の速度が、当該加工品の測定に続いて次のワークピースを測定するときにも適用され、かつ前記加工品および前記次のワークピースの測定に同様の動的誤差を生じさせる速度である当該工程と、
(c)前記加工品の較正値および前記加工品の測定値の差に対応する誤差マップまたは誤差関数を生成する工程と、
(d)前記座標測定装置により前記速度で前記次のワークピースを測定する工程と、
(e)当該次のワークピースの測定値を前記誤差マップまたは誤差関数を用いて補正することで、動的誤差を除去もしくは低減する工程と、
を適宜の順序で実行するように構成されている座標測定装置を提供する。
【0014】
前記加工品は、前記同等の一連のワークピースの内の一つのワークピースとすることができる。あるいは、前記加工品はワークピースに近似した特徴、寸法および部位を持つものであってもよい。前記加工品はワークピースと同じ表面処理が施されたものであってもよいし、あるいはワークピースの表面処理を模倣したものであってもよい。
【0015】
座標測定装置は幾何学的誤差について補正されるもの、または幾何学的誤差については補正されないものとすることができる。
【0016】
ワークピース検出プローブは、アナログ(スキャン型)プローブまたはタッチトリガプローブなどの接触プローブとすることができる。あるいは、ワークピース検出プローブを容量型プローブ、誘導型(inductance)プローブまたは光学プローブなどの非接触プローブとすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】座標測定機械(CMM)の模式図である。
【図2】本方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
添付図面を参照し、本発明の好適実施形態を例に挙げて説明を行う。
【0019】
図1に示す座標測定機械(CMM)はテーブル10を具え、その上にワークピースが置かれる。好ましくは、これは自動手段(不図示)によって行われる。自動手段は、生産工程からの連続する実質的に等しいワークピースをそれぞれ、テーブル上の少なくとも公称上同一の位置および向きに位置づける。アナログプローブ14が機械の軸(不図示)に取り付けられる。しかし他のタイプのプローブ(タッチトリガプローブを含む)が用いられるものでもよい。軸およびプローブは、コンピュータ18によって制御されるX、YおよびZ駆動部16の作動により、X、YおよびZ方向に移動可能である。X、YおよびZスケール20(スケールの出力についてのカウンタを含む)は、プローブ14が取り付けられた軸の3次元における瞬間位置座標を指示する。プローブスタイラスのたわみを含むプローブ14からの信号22はCMMのX、YおよびZスケール20からの読みと組み合わされることで、スタイラス先端、従ってワークピース表面の位置が計算される。あるいは、タッチトリガプローブを用いることで、プローブがワークピース12の表面に接触したことを示す信号がスケール20を止め、コンピュータ18がワークピース表面のX、YおよびZ座標の読み取りを行うようにされる。
【0020】
ここまで述べたように、上記機械は従来のものである。コンピュータ18は、プローブ14にワークピースの表面をスキャンさせることで、あるいは、タッチトリガプローブ用にはこれを複数の異なるポイントでワークピース12の表面に接触させることで、所要の検査オペレーションのためにワークピースの所要の形状および寸法を得るに十分となるようにするプログラムを収納している。
【0021】
図2に示されるように、本検査方法においては次の手順が用いられる。測定される一連のワークピースの内の一つのワークピースがまず較正される(24)。そのワークピースの寸法および形状は、非常に高精度の機械上で例えば形状測定を行うこと、もしくは標準的な機械上でワークピースを多数回または多くの向きで測定することのいずれかによって、可能な限り最良の標準に対して較正される。そして当該一つのワークピースを較正済みの加工品(以下、マスタとも言う)として使用可能となる。
【0022】
あるいは、ワークピースに近似した、特にワークピースの特徴にマッチした寸法および/または部位の特徴がある較正済みの加工品を用いることも可能である。加工品は、例えば真円度測定機(roundness measuring machine)上で較正可能である。加工品は、測定またはスキャンされる一連のワークピースと同じ表面処理が施されたものであること、あるいは一連のワークピースの表面処理を模倣したものであることが望ましい。
【0023】
較正済みのマスタまたは加工品は例えばCMMである座標位置決め機械上にセットアップされ、(26)所望の速度でスキャンまたは測定される(28)。所望の速度とは、その速度で一連の他のワークピースもまた測定されることになるものであり、好ましくはスループットを最大にするための高速度である。この所望速度によって、座標位置決め機械が所望の制限内でスキャンまたは測定を繰り返し行うことができるようになるべきである。
【0024】
較正済みのマスタまたは加工品を所望速度で測定またはスキャンすることによって得られた結果と、較正済みのマスタまたは加工品の既知の寸法および形状(較正によって得られたもの)との間の、誤差マップが生成される(30)。あるいは、多項式の誤差関数(polynomial error function)などの誤差関数を用いることも可能である。
【0025】
一連のワークピース内の続くワークピースがCMM上にセットアップされ(32)、CMMによって測定またはスキャンされる(34)。続くこれらのワークピースに関連するデータは誤差マップまたは誤差関数によって補正される(36)。続く部分がその前と実質的に同じ速度で測定またはスキャンされることが望ましい。加えて、測定系のダイナミクスは機械の作動空間内の位置によって異なるので、続くワークピースも較正済みマスタまたは加工品と実質的に同じ位置に置かれることが望ましい。
【0026】
この方法によって、座標位置決め機械が高精度・高速度の測定を行うことができるようになる。
【0027】
本方法は、較正済みマスタまたは加工品の動的誤差と、較正済み加工品と同等または同様のワークピースの動的誤差との比較を含んでいるので、静的誤差の補正を行う必要がない。較正済みマスタまたは加工品を使用する結果、幾何学的誤差についてCMMの補正を行う必要もなくなる。これは、プロセスを高速化し、較正のコストを低減する上で有利である。CMMを定期的に較正する必要がなくなるからである。
【0028】
従って、本方法は、CMMの幾何学的誤差の補正を要することなく、動的誤差および静的誤差の双方を補償するものである。
【0029】
上記方法の好ましい変形例として、例えば較正済みマスタまたは加工品の基準特徴(datum features)を用いることで、較正済みマスタまたは加工品の部分座標系をセットアップするようにしてもよい。これは、高精度CMM上でマスタワークピースまたは加工品の較正を行う前または後に実施することができる。較正を通じて得られた較正対象マスタまたは加工品の正確な測定値は、続いてこの部分座標系にストアされる。
【0030】
次に、一連のワークピースの内の最初のワークピースが高速測定されるCMMに同じ部分座標系がセットアップされる。上述のように、これはワークピースの基準特徴を用いることでセットアップ可能である。従って、測定値および誤差補正値はCMM座標系ではなく部分座標系内で生じる。これによって、マスタまたは加工品の較正による正確なデータを、一連のワークピースから収集されたデータに容易に関連付けることができるようになる。
【0031】
本方法はまた、光学プローブ、容量型プローブまたは誘導型プローブなどの接触プローブとともに用いる場合にも好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同等の一連のワークピースを検査するための座標測定装置であって、各ワークピースと位置検出関係をもつ読み取り位置に移動可能なワークピース検出プローブを具え、
(a)前記ワークピースに近似した特徴、寸法および部位を有し、前記座標測定装置を用いずに較正された加工品を準備する工程と、
(b)前記座標測定装置を用い、前記ワークピース検出プローブを、動的誤差を生じさせる速度で前記加工品に対して移動させることで前記加工品を測定する工程であって、当該移動の速度が、当該加工品の測定に続いて次のワークピースを測定するときにも適用され、かつ前記加工品および前記次のワークピースの測定に同様の動的誤差を生じさせる速度である当該工程と、
(c)前記加工品の較正値および前記加工品の測定値の差に対応する誤差マップまたは誤差関数を生成する工程と、
(d)前記座標測定装置により前記速度で前記次のワークピースを測定する工程と、
(e)当該次のワークピースの測定値を前記誤差マップまたは誤差関数を用いて補正することで、動的誤差を除去もしくは低減する工程と、
を適宜の順序で実行するように構成されている座標測定装置。
【請求項2】
前記加工品は、前記同等の一連のワークピースの内の一つのワークピースである請求項1に係る一連のワークピースを検査するための座標測定装置。
【請求項3】
前記加工品は前記ワークピースと同じ表面処理が施されたものである請求項1または請求項2に係る一連のワークピースを検査するための座標測定装置。
【請求項4】
前記加工品の表面処理は前記ワークピースの表面処理を模倣したものである請求項1または請求項2に係る一連のワークピースを検査するための座標測定装置。
【請求項5】
前記座標測定装置は幾何学的誤差について補正されるものである請求項1ないし請求項4のいずれかに係る一連のワークピースを検査するための座標測定装置。
【請求項6】
前記座標測定装置は幾何学的誤差について補正されないものである請求項1ないし請求項4のいずれかに係る一連のワークピースを検査するための座標測定装置。
【請求項7】
前記加工品に対して部分座標系がセットアップされ、該部分座標系内に前記ワークピースの誤差データおよび測定値がストアされる請求項1ないし請求項6のいずれかに係る一連のワークピースを検査するための座標測定装置。
【請求項8】
前記ワークピース検出プローブが接触プローブである請求項1ないし請求項7のいずれかに係る一連のワークピースを検査するための座標測定装置。
【請求項9】
前記ワークピース検出プローブが非接触プローブである請求項1ないし請求項7のいずれかに係る一連のワークピースを検査するための座標測定装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−198241(P2012−198241A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−138707(P2012−138707)
【出願日】平成24年6月20日(2012.6.20)
【分割の表示】特願2003−573382(P2003−573382)の分割
【原出願日】平成15年3月6日(2003.3.6)
【出願人】(391002306)レニショウ パブリック リミテッド カンパニー (166)
【氏名又は名称原語表記】RENISHAW PUBLIC LIMITED COMPANY
【Fターム(参考)】