説明

廃プラスチックの分解油の回収方法および回収装置

【課題】ハロゲン系元素を含む廃プラスチックやハロゲン系難燃剤を含む廃プラスチックを熱分解する前の段階において分解液化する際に、その酸性度を抑えて中和し、これによって熱分解釜を含む分解油の回収装置の損傷を防止し、特殊な材料を用いることなくしかも回収装置を組立てることができるようにする。
【解決手段】予め溶解機13によって半溶融状態にした廃プラスチックを溶解槽15内に導き、ここで加温しながら攪拌することによって、ほぼ液状にする際に、添加装置27によってカセイソーダ等のアルカリあるいは尿素と水とを添加し、これによって溶解槽15内における溶解プラスチックの中和を図る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は廃プラスチックの分解油の回収方法および回収装置に係り、とくに破砕された廃プラスチックを溶解または融解した後に熱分解して分解油を回収する回収方法および回収装置に関する。
【背景技術】
【0002】
各種の用途にプラスチック製品が広範に使用されている。とくにポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)はその生産量が非常に多い。またこの他にポリ塩化ビニル(PVC)やポリエチレンテレフタレート(PET)等も広く用いられている。
【0003】
このようなプラスチック製品の用済み後における処理には、再製品化を行なう処理がある。これは、廃プラスチックを再溶融して成形するものであって、マテリアルリサイクルと呼ばれる。次に廃プラスチックを燃料として有効利用を図るものである。この処理はサーマルリサイクルと呼ばれる。
【0004】
これに対して、廃プラスチックを油化して重油あるいは軽油の代替燃料として用いる再利用がある。この他に、ぺットボトルに代表されるポリエチレンテレフタレートの成形品を分解し、テレフタル酸とエチレングリコールとに分解する方法がある。上述の油にして再利用する方法と化学原料として再利用する方法は、ケミカルリサイクルと呼ばれる。
【0005】
本願発明は、廃プラスチックを熱分解して分解油を回収する方法に関する。本願発明は、とくに塩素を含むPVC等のハロゲン系廃プラスチックや、ハロゲン系難燃剤を含み、分解したときに強度の酸性を示す廃プラスチックの処理に利用して好適な方法および装置に関する。
【0006】
廃プラスチックを処理するに際して、とくに熱分解によって分解油を回収する場合に、溶解して液化された廃プラスチックは、酸性を示す。従って、このような酸性の分解油をさらに熱分解して油分を回収する場合には、溶解油の酸性の性質によって装置が腐食したり損傷されたりする。従ってこのことから、装置寿命が短くなり、あるいはまた装置に用いる材料が限定される問題がある。
【0007】
とくに塩素を含むポリ塩化ビニル(PVC)等のハロゲン系廃プラスチックやテトラブロモビスフェノールA(TBBA)や、ヘキサブロモシクロドデカン(HBCD)等の臭素系難燃剤が添加された廃プラスチックを再利用、とくにケミカルリサイクルまたはマテリアルリサイクルする場合には、加熱工程が必須になる。ところがこの加熱工程における加熱によってプラスチックそのものに含まれている塩素や添加される難燃剤に含まれる臭素等のハロゲン元素によって、塩化水素(HCl)、臭化水素(HBr)等の腐蝕性と化学反応性の強いガスが発生するために、マテリアルリサイクルが困難になっている。そのために、このようなハロゲン系のガスを発生する廃プラスチックについては、一部、油化によって液体燃料を回収するか、固体燃料等に利用するもの以外は、大部分が焼却や埋立て処分に付されている。
【0008】
廃プラスチックの油化に関わるハロゲンの処理方法としては、溶剤を用いてハロゲンを除去する方法(特開2006−225409号)、プラスチックと難燃剤の分解温度の差を利用してハロゲンを除去する方法(特開2002−226625号)、油化後にハロゲン化した有機物から触媒を用いてハロゲンを除去する方法(特開2000−117737号)等が提案されている。しかるに、熱分解過程でハロゲンを無害化し、とくにオイルとして回収する回収装置の腐蝕防止のための、酸性ハロゲン化合物の抑制に有効な処理方法が提案されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−225409
【特許文献2】特開2002−226625
【特許文献3】特開2000−117737
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本願発明の課題は、廃プラスチックを溶解または融解した後に熱分解して分解油を回収する際における酸性の分解油による装置の腐蝕等の悪影響を回避するようにした分解油の回収方法および回収装置を提供することである。
【0011】
本願発明の別の課題は、ハロゲン系プラスチックあるいはハロゲン系難燃剤を含む廃プラスチックを油化するときに発生する塩化水素、臭化水素等の腐蝕性および化学反応性の強いガスを効果的に無害化し、装置に対する悪影響をなくすようにした分解油の回収装置および回収方法を提供することである。
【0012】
本願発明のさらに別の課題は、廃プラスチックの分解油化装置の分解槽中の気相部および液化部の何れにおいても、ハロゲンを無害化する方法を提供することを目的とするものである。
【0013】
本願発明の上記の課題および別の課題は、以下に述べる本願発明の技術的思想、およびその実施の形態によって明らかにされる。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本願の主要な発明は、破砕された廃プラスチックを溶解または融解した後に熱分解して分解油を回収する方法において、
分解液化の際に廃プラスチックにアルカリまたは/および尿素と水とを添加することを特徴とする廃プラスチックの分解油の回収方法に関するものである。
【0015】
ここで、廃プラスチックがハロゲン系であるかまたはハロゲン系の難燃剤を含んでよい。また前記アルカリが水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)、炭酸ナトリウム(NaCO)、炭酸カリウム(KCO)、炭酸水素ナトリウム(NaHCO)、炭酸水素カリウム(KHCO)の何れかであってよい。また前記尿素が炭酸アンモニウム((NHCO)、炭酸水素アンモニウム(NHHCO)であってよい。また添加されるアルカリまたは/および尿素を水溶液として添加するとともに、アルカリまたは尿素水溶液の濃度は、廃プラスチックを中和する化学量の1.0〜10倍の濃度量であってよい。また添加される水の量は、投入される廃プラスチックに対して1〜50重量%の範囲内であってよい。
【0016】
分解油の回収装置に関する主要な発明は、破砕された廃プラスチックを分解して分解油を回収する回収装置において、
破砕した廃プラスチックを供給する供給手段と、
前記供給手段によって供給された廃プラスチックを溶解または融解する液化装置と、
前記液化装置で液化された廃プラスチックをさらに熱分解する熱分解装置と、
前記熱分解装置で熱分解されたガスを冷却して油分を生成する油分生成装置と、
を有し、前記廃プラスチックにアルカリまたは/および尿素と水とを添加する添加装置を具備することを特徴とする廃プラスチックの分解油の回収装置に関するものである。
【0017】
ここで、前記添加装置が前記分解装置を構成する破砕機、ホッパ、溶解槽、または分解釜に取付けられてよい。
【発明の効果】
【0018】
本願の主要な発明は、破砕された廃プラスチックを溶解または融解した後に熱分解して分解油を回収する方法において、分解液化の際に廃プラスチックにアルカリまたは/および尿素と水とを添加するようにしたものである。
【0019】
従ってこのような廃プラスチックの分解油の回収方法によると、分解液化の際に廃プラスチックに添加されるアルカリまたは/および尿素と水とによって、分解油の酸性度が低減され、ほぼ中和された状態になる。従って、塩化水素や臭化水素の発生を防止して無害化を図ることが可能になる。また余剰の水分は、油水分離によって油分から分離されるために、回収される油の品質を劣化させることがない。
【0020】
油分の回収装置に関する主要な発明は、破砕された廃プラスチックを分解して分解油を回収する回収装置において、破砕した廃プラスチックを供給する供給手段と、供給手段によって供給された廃プラスチックを溶解または融解する液化装置と、分解装置で液化された廃プラスチックをさらに熱分解する熱分解装置と、熱分解装置で熱分解されたガスを冷却して油分を生成する油分生成装置と、を有し、廃プラスチックにアルカリまたは/および尿素と水とを添加する添加装置を具備するものである。
【0021】
従ってこのような分解油の回収装置によると、添加装置で添加されるアルカリまたは尿素と水とによって、廃プラスチックを油化する際における塩化水素や臭化水素の発生を防止することが可能になり、熱分解過程でハロゲン化を無害化し、装置の腐蝕防止と、ハロゲン化有機物の抑制が効果的に行なわれるようになる。またこのことから、とくに装置の腐蝕が防止されるために、装置として特殊な材料のものを用いることなく、これによって装置の低コスト化が図られることになる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】分解油の回収装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下本願発明を図示の実施の形態によって説明する。廃プラスチックの油化は、その原料となる廃プラスチックを供給する供給工程と、供給された廃プラスチックの液化工程と、液化した廃プラスチックを熱分解する工程と、熱分解生成物であるガスを凝縮(液化)する工程とによって構成される。ここでとくに熱分解は、300℃以上の温度で行なわれる。
【0024】
通常の廃プラスチックは、その液化によって弱酸性を示すことが多い。また廃プラスチックがPVCのようなハロゲン元素を含む場合や、ハロゲン系の難燃剤を含む場合には、廃プラスチックそれ自体あるいは難燃剤によって塩化水素や臭化水素が発生する。本発明は、それ自体の酸性あるいは塩化水素や臭化水素の発生による悪影響を防止するようにした廃プラスチックの分解油の回収方法および回収装置に関する。
【0025】
図1は本実施の形態の廃プラスチックの回収装置の一例を示しており、この回収装置は、破砕された廃プラスチックを供給するホッパ10を備えている。そしてこのホッパ10の下側には横移載機11が取付けられ、モータ12で駆動されることによって横移載機11がホッパ10からの廃プラスチックを前方に供給する。そして上記横移載機11の先端側下部には、斜行式のスクリューコンベアを備える溶解機13が設けられる。溶解機13はその内部のスクリューコンベアがモータ14によって駆動される。そして溶解機13によって送られた廃プラスチックが溶解槽15に供給される。
【0026】
上記溶解機13の下端側は溶解機レベルタンク18に接続されている。この溶解機レベルタンク18はヒータ19を備え、熱分解によって回収された油分を加温して溶解機13に給油管20を介して供給するようにしている。
【0027】
一方溶解槽15は、その側面と底部とにヒータ21、22、23が取付けられるとともに、溶解槽15内にはスクリーン24が配されている。またモータ25によって駆動されるファン26を備えており、これによって溶解槽15内の分解液を撹拌するようにしている。
【0028】
溶解槽15の上部には添加装置27が設けられている。添加装置27は、この溶解槽15内にアルカリまたは/および尿素と水を添加するためのものであって、これによって熱分解釜31の分解液のpHを高め、中和を行なうためのものであり、本願発明の主要な特徴を成している。
【0029】
上記溶解槽15の底部は送油管30を介して熱分解釜31に連通され、溶解液を溶解槽15から熱分解釜31に供給するようにしている。そして送油管30には溶液ポンプ32が接続され、モータ33によって駆動されるようになっている。また送油管30にはさらに分岐するとともに弁35を接続した循環回路34が設けられ、一旦液化されて送り出された溶解液を必要に応じて再び溶解槽15に戻すようにしている。なおこのような循環は、弁35を開いたときのみ行なわれる。
【0030】
熱分解釜31は液化された廃プラスチックを熱分解するためのものであって、攪拌機36によって内部を攪拌するようにしている。攪拌機36はモータ37で駆動される。
【0031】
上記熱分解釜31に対して供給する高温ガスを生成するためにバーナー42が設けられている。バーナー42はその後部に接続されたバーナ用ブロア43によって空気が供給されるようになっている。バーナ用ブロア43はモータ44によって駆動され、互いに並列の一対の送風管45、46によってバーナ41に対して空気を供給するようにしている。ここで空気予熱器47によって、送風管46を通過する空気の予熱が行われるようになっている。
【0032】
上記バーナ42の出口側に接続された熱風送風管48はU字状に屈曲して上記熱分解釜31に接続されている。また上記バーナ42の入口側の部分には送油管49が接続されるとともに、この送油管49の先端側の部分が噴射孔50になっており、この噴射孔50から回収したオイルを噴射し、燃焼させるようにしている。
【0033】
上記熱分解釜31の上部出口にはガス供給管54が接続されている。このガス供給管54はコンデンサ55に接続されている。コンデンサ55は熱分解されたガスを冷却して液化し、これによって油分を回収するためのものである。すなわちコンデンサ55にはラジエータ56が上下一対の冷却水配管57、58を介して接続されている。またラジエータ56の前方にはファン59が配され、モータ60によって駆動されるようになっている。
【0034】
次にコンデンサ55の下部には生成油タンク63が設けられ、この生成油タンク63は区画壁64によって区画され、その前方側の部分が油水分離槽65になっている。また生成油タンク63には送油管66が接続されるとともに、この送油管66にポンプ67が接続されている。ポンプ67を駆動すると送油管66によって、回収された油が上記の溶解機レベルタンク18に供給されるようになっている。
【0035】
生成油タンク63の底部にはさらに上述の送油管49の基端部が接続されており、これによってこの生成油タンク63内の回収油の一部がバーナー42の噴射孔50の部分に供給されて燃焼されるようになっている。また送油管49にはフィルタ70が接続されるとともに、このフィルタ70よりも上側において送油管72が切換えバルブ73を介して分岐して接続されている。送油管72には灯油タンク71が接続されている。生成油タンク63が空の場合には、上記灯油タンク71内の灯油が切換えバルブ73を経由して送油管49からバーナー42の噴射孔50に供給されるようになっている。なお送油管49のバーナー42の入口側の部分にはシャットオフバルブ74が接続されており、緊急時に上記バーナー42に対する油あるいは灯油の供給を停止できるようになっている。
【0036】
上記熱分解釜31の底部には排出管77が接続されるとともに、この排出管77に残渣バルブ75が取付けられており、この残渣バルブ75の下側に残渣タンク76が配置されている。熱分解釜31で発生した残渣は、上記残渣バルブ75を開くことによって、排出管77を通して残渣タンク76に供給される。
【0037】
次に以上のような構成に係る廃プラスチックの分解回収装置の動作を説明する。廃プラスチックは破砕されるとともに、ホッパ10によって順次供給される。ホッパ10からの破砕された廃プラスチックは、横移載機11および溶解機13によって溶解槽15に供給される。なお溶解機13の底部には、溶解機レベルタンク18によって供給されるオイルが存在しており、このために廃プラスチックは半溶融状態で溶解槽15に供給される。そして溶解槽15内において、ヒータ21、22、23で加温されるとともに、ファン26によって攪拌されてほぼ液状になる。
【0038】
溶解槽15内の溶解した廃プラスチックは、送油管30に接続された溶液ポンプ32で押上げられ、熱分解釜31に至る。熱分解釜31は、バーナー42からの燃焼ガスで加熱されている。生成油タンク63によって蓄えられたオイルの一部が送油管49によってバーナー42の噴射孔50の部分に供給されており、ここで油が燃えてバーナー42が火炎を発生し、高温のガスが作られる。なおこのときにバーナー用ブロア43によって空気が供給される。空気は送風管45によって直接、あるいは空気予熱器47によって加熱された状態で送風管46によってバーナー42に供給される。一方バーナー42内で発生した高温のガスが熱風送風管48を通して熱分解釜31に供給され、廃プラスチックの溶液がここで熱分解されてガスになる。
【0039】
熱分解された油分のガスはガス供給管54によってコンデンサ55に送られ、このコンデンサ55内で、ラジエータ56内を通過する冷却水によって冷却されて液化された油分になる。この油分が生成油タンク63内に落下し、区画壁64の前方側の油水分離槽65内で水分と重さによって分離され、油分のみが区画壁64の右側の部分に導かれる。ここで生成された回収油の一部は、送油管49を通してバーナー42に供給され、バーナー42の燃料として用いられる。またここで生成したオイルの他の一部は、送油管66を通して溶解機レベルタンク18に供給され、溶解機13の溶解油として用いられる。
【0040】
このような分解油の回収装置において、本願発明は溶解槽15の上部に設けられた添加装置27によって、酸性の廃プラスチックあるいはこの廃プラスチックに用いられるハロゲン元素、あるいは添加された難燃剤による塩化水素等のハロゲンの中和と無毒化とを達成することを大きな特徴としている。なおアルカリまたは/および尿素と水分とを添加する添加装置27は、必ずしも溶解槽15に取付けられる必要はなく、廃プラスチックの破砕機、ホッパ10、あるいは熱分解釜31に取付けられてよく、また複数個所に添加装置27を取付けてもよい。ここで廃プラスチックの分解は、図1に示すように、バッチ式ではなく連続式で行なわれる。すなわち、廃プラスチックのホッパ10による供給と、溶解槽15による分解と、熱分解釜31による熱分解とが連続的に行なわれる。なおバッチ式で行なうことも可能である。
【0041】
とくに溶解槽15の添加装置27による中和の特徴は、溶解槽15に対して水を注入することである。なお水の注入量は、投入原料の1〜50%の範囲内である。水の注入量が1%未満だと、中和反応が円滑に進まない。一方水の注入量が50%を超えると、過剰になりすぎて中和がうまくいかなくなるとともに、油水分離槽65での水の回収量が増加しすぎる。図1の実施の形態の回収装置においては、原料である発泡スチロールの廃プラスチックに対して、5〜10重量%の水を原料とともに溶解槽15に注入している。この水が最終的に、生成油タンク63に付設された油水分離槽65内において油水分離され、50〜100kgの廃プラスチックの処理を行なってオイルを回収した場合に、5〜10lの水が分離される。
【0042】
また溶解槽15内における添加装置27によって、アルカリ、尿素および水、またはアルカリ水溶液、尿素水溶液またはアルカリ尿素混合水溶液を廃プラスチックとともに熱分解釜31に注入するようにしている。アルカリ水溶液および尿素水溶液の濃度は、原料に含まれるハロゲンの量に依存する。すなわち塩化ビニール樹脂から成る廃プラスチックの場合には、発生する塩化水素HClを中和するに必要とする量を添加する。また廃プラスチックに含まれている難燃剤の場合には、難燃剤によって発生する臭化水素HBrを中和するのに要する化学量の1〜10倍程度の量とする。塩化水素HClや臭化水素HBrの中和反応の効率が100%でないので、少なくとも化学量の1倍以上添加しなければならない。一方あまり多く添加すると、中和剤が無駄になり、残渣が増加するので、10倍を超えないようにしなければならない。
【0043】
添加装置によって添加されるアルカリとしては、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)、炭酸ナトリウム(NaCO)、炭酸カリウム(KCO)、炭酸水素ナトリウム(NaHCO)、炭酸水素カリウム(KHCO)の何れかであることが好ましく、水溶性であることが好ましい。アルカリ水溶液は廃プラスチックの熱分解によって生成する塩化水素や臭化水素と反応して、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム等の無害化物質に変化する。また添加物が尿素である場合は、熱分解釜31中で水の存在下で尿素がアンモニアに分解され、このアンモニアと塩化水素あるいは臭化水素と反応して無害化物質である塩化アンモニウムあるいは臭化アンモニウムになる。上記の反応は、アルカリと尿素混合溶液を添加した場合でも同様に起こる。尿素は、それ自体であってもよいが、さらに炭酸アンモニウム((NHCO)、炭酸水素アンモニウム(NHHCO)であってもよい。これらの物質は、水に溶解し、熱分解によってアンモニアを発生するので、廃プラスチックの中和に利用できる。
【0044】
上記の熱分解釜31中でもアンモニアと塩化水素または臭化水素の中和反応は生ずる。また熱分解釜31の気相部および凝固(液化)工程でも起こる。とくに気相部での中和反応は、熱分解釜31の塩化水素または臭化水素による腐蝕防止に有効に作用する。
【0045】
上述の中和を含む油分の回収処理が連続式の処理であること、水の添加を行なうこと、アルカリまたは/および尿素を添加すること、および中和反応が気相部と凝縮工程で起こることは相互に関連している。ハロゲン系プラスチックであるポリ塩化ビニル(PVC)は200℃で分解を開始する。また添加されているハロゲン系難燃剤であって、ヘキサブロモシクロドデカン(HBCD)は250℃から分解を開始し、それぞれ塩化水素や臭化水素が生成する。これら酸性ガスは消石灰等のアルカリによって中和されるが、アルカリは油に溶解せず、微粒子化が容易でないために、効率のよい中和反応は期待できない。これに対してアルカリの内の水酸化ナトリウム(NaOH)や水酸化カリウム(KOH)、炭酸ナトリウム(NaCO)、炭酸カリウム(KCO)、炭酸水素ナトリウム(NaHCO)、炭酸水素カリウム(KHCO)は、水によく溶解するために、水溶液にして熱分解釜31に注入すると、熱分解釜31の温度が300℃以上のために、水が急速に沸騰し、アルカリが微粒子となって溶解槽15中の油中に分散し、塩素ガス等との反応効率が向上する。
【0046】
一方尿素の水溶液については、熱分解釜31に注入すると、尿素は水との分解反応によってアンモニアを生成する。常圧における水の蒸発温度は100℃、尿素の分解温度は160℃であるために、分解装置がバッチ式の場合には、尿素分解時に水は蒸発消失することにより、尿素によるアンモニア収率はやや低下する。また尿素分解温度と難燃剤の分解温度とは100℃近い差があるために、アンモニアと臭化水素の反応はあまり期待できない。従ってアンモニアと臭化水素等の酸性ガスとの中和反応を向上するためには、熱分解釜31に常時水と尿素とを注入しなければならない。
【0047】
次に具体例について説明する。100kgの廃プラスチック原料中に塩化ビニル樹脂が重量比で10%(10kg、10,000g)混入した場合には、熱分解釜31では次の(化1)のように塩酸が発生する。
【0048】
【化1】

【0049】
塩酸159モルを中和するのに要するカセイソーダ(NaOH、41g/モル)のモル数は(化2)の式のように159モル(6.519kg)で、これが化学量論数であるが、中和反応効率は100%でないので、化学量論数以上のアルカリが必要となる。
【0050】
【化2】

【0051】
10lの水に溶かした場合に、アルカリ(NaOH)濃度は65%になる。また塩酸は中和され、塩化ナトリウムになる。尿素で中和する場合には、尿素(NHCONH)は160℃以上で分解し、水と反応してアンモニアが生成する。中和は、このアンモニアによってなされ、塩化アンモニウムとなる。
【0052】
上述の反応は、アルカリ(カセイソーダ)および尿素で中和した場合であるが、臭素系難燃剤についても同様に考えることができる。
【実施例1】
【0053】
ハロゲンを含んでいない廃発泡スチロール(PS)を処理能力10kg/時間の図1の連続油化装置で油化すると、油の酸性度は、油中の安息香酸のためにpHが3.8〜4.2の弱酸性を示す。安息香酸の生成を抑制するために廃発泡スチロール50kgに対して、1%炭酸ナトリウム水溶液を2l注入して油化を行なった。このときの、油の酸性度は、pHで5.5となり、酸性度が著しく低下した。
【実施例2】
【0054】
難燃剤が添加された発泡スチロールが混入した漂着フロート40kgを上述の油化装置で油化したところ、油の酸性度はpHが2.0で比較的強い酸性を示した。この酸性度は上述の油化装置の腐蝕の危険性があるために、溶解槽15の添加装置27によって炭酸ナトリウム5%水溶液を10l注入して油化したところ、油の酸性度がpHが4.3となり、酸性度が低下した。
【実施例3】
【0055】
ハロゲン系難燃剤が添加された発泡スチロール(PS)とポリ塩化ビニル(PVC)が混入した漂着フロート35kgを前記油化装置で油化したところ、油の酸性度はpHで1.3の強酸性を示した。上記の漂着フロート80kgを上記油化装置によって油化する際に、溶解槽15の添加装置27によって尿素0.6%、炭酸ナトリウム1.0%の水溶液5lを注入しながら油化を行なった。その結果、油の酸性度は4.5を示し、ほぼ中和されて酸性度が大幅に低下したことが示された。
【0056】
以上本願発明を図示の実施の形態および実施例によって説明したが、本願発明は上記実施の形態および実施例によって限定されることなく、本願発明の技術的思想の範囲内において各種の変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本願発明は、一般の廃プラスチックや、ハロゲン系プラスチック、あるいはハロゲン系難燃剤を含む廃プラスチックから油を回収する分解油の回収方法に適用することができ、あるいはまたこのような方法を実施する分解油の回収装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0058】
10 ホッパ
11 横移載機
12 モータ
13 溶解機
14 モータ
15 溶解槽
18 溶解機レベルタンク
19 ヒータ
20 給油管
21〜23 ヒータ
24 スクリーン
25 モータ
26 ファン
27 添加装置
30 送油管
31 熱分解釜
32 溶液ポンプ
33 モータ
34 循環回路
35 弁
36 攪拌機
37 モータ
42 バーナー
43 バーナー用ブロア
44 モータ
45、46 送風管
47 空気予熱器
48 熱風送風管
49 送油管
50 噴射孔
54 ガス供給管
55 コンデンサ
56 ラジエータ
57、58 冷却水配管
59 ファン
60 モータ
63 生成油タンク
64 区画壁
65 油水分離槽
66 送油管
67 ポンプ
70 フィルタ
71 灯油タンク
72 送油管
73 切換えバルブ
74 シャットオフバルブ
75 残渣バルブ
76 残渣タンク
77 排出管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃プラスチックを溶解または融解した後に熱分解して分解油を回収する方法において、
分解液化の際に廃プラスチックにアルカリまたは/および尿素と水とを添加することを特徴とする廃プラスチックの分解油の回収方法。
【請求項2】
廃プラスチックがハロゲン系であるかまたはハロゲン系の難燃剤を含むことを特徴とする請求項1に記載の廃プラスチックの分解油の回収方法。
【請求項3】
前記アルカリが水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)、炭酸ナトリウム(NaCO)、炭酸カリウム(KCO)、炭酸水素ナトリウム(NaHCO)、炭酸水素カリウム(KHCO)の何れかであることを特徴とする請求項1に記載の廃プラスチックの分解油の回収方法。
【請求項4】
前記尿素が炭酸アンモニウム((NHCO)、炭酸水素アンモニウム(NHHCO)であることを特徴とする請求項1に記載の廃プラスチックの分解油の回収方法。
【請求項5】
添加されるアルカリまたは/および尿素を水溶液として添加するとともに、アルカリまたは尿素水溶液の濃度は、廃プラスチックを中和する化学量の1.0〜10倍の濃度量であることを特徴とする請求項1に記載の廃プラスチックの分解油の回収方法。
【請求項6】
添加される水の量は、投入される廃プラスチックに対して1〜50重量%の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の廃プラスチックの分解油の回収方法。
【請求項7】
破砕された廃プラスチックを分解して分解油を回収する回収装置において、
破砕した廃プラスチックを供給する供給手段と、
前記供給手段によって供給された廃プラスチックを溶解または融解する液化装置と、
前記分解装置で液化された廃プラスチックをさらに熱分解する熱分解装置と、
前記熱分解装置で熱分解されたガスを冷却して油分を生成する油分生成装置と、
を有し、前記廃プラスチックにアルカリまたは/および尿素と水とを添加する添加装置を具備することを特徴とする廃プラスチックの分解油の回収装置。
【請求項8】
前記添加装置が前記分解装置を構成する破砕機、ホッパ、溶解槽、または分解釜に取付けられていることを特徴とする請求項7に記載の廃プラスチックの分解油の回収装置。

【図1】
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【公開番号】特開2011−213962(P2011−213962A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−85904(P2010−85904)
【出願日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【出願人】(507330556)サンライフ株式会社 (2)
【Fターム(参考)】