説明

廃棄物ガス化溶融炉における塩化水素ガス発生抑制方法および装置

【課題】 廃棄物の燃焼によって発生する塩化水素ガスおよび硫黄酸化物ガスの発生を抑制する方法およびその装置を提供する。
【解決手段】 廃棄物ガス化溶融炉において、発生した熱分解ガスを燃焼室に設けられた燃焼バーナで燃焼する過程において、該燃焼バーナの火炎中に1〜30μmの石灰石微粉を連続的に吹き込んで燃焼することを特徴とする廃棄物ガス化溶融炉における塩化水素ガス発生抑制方法および発生抑制装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃棄物の燃焼によって発生する塩化水素ガスおよび硫黄酸化物ガスの発生を抑制する方法およびその装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、廃棄物ガス化溶融炉においては、廃棄物中に含まれる塩素分や硫黄分はガス化溶融炉から発生する熱分解ガス中と同ガスに随伴する可燃性ダスト中に移行するが、大半はダスト中に含まれる。このダストが燃焼室に設けられた燃焼バーナで燃焼する過程で、人体に有害な硫黄酸化物ガス(SOx)や塩化水素ガス(HCl)が生成され、燃焼排ガス中に含まれる。
【0003】
上記、有害ガスを除去するために、従来は、例えば特開2008−23484号公報(特許文献1)に開示されているように、燃焼排ガスをボイラー等で冷却後、バックフィルタ入口煙道に消石灰粉を吹込み、バックフィルタ濾布に付着した消石灰が濾布を通過する排ガス中のSOX やHClと反応することで排ガス中から除去することが一般に行われている。
【0004】
また、特開2006−297261号公報(特許文献2)に開示されているように、排ガスに含まれるダイオキシン類、NOx、SOxを同時に除去するために、電子ビーム照射手段の下流側に配置された第2集塵手段を設け、排ガスに含まれる煤塵を集塵する集塵手段から第2集塵手段に至るまでのガス流路途中に消石灰供給手段を設けて、第2集塵手段によって、硝酸、硫酸、塩化水素と消石灰との反応である、硝酸カルシウム、硫酸カルシウムを集塵する方法が提案されている。
【0005】
さらに、特開昭64−4222号公報(特許文献3)に開示されているように、被焼却物の燃焼により焼却炉から発生する排ガスを焼却炉から冷却用のガス冷却室及び有害ガス除去装置を経て集塵装置に至る排ガスの排出経路を介して排出する際に排ガス中に含まれる塩化水素を除去する方法において、塩化水素と接触反応させるための吸収剤を排出経路内の異なる場所で2段階に供給し、前段で使用する吸収剤より後段で使用する吸収剤の塩化水素吸収性能を向上させる排ガス中の塩化水素の除去方法が提案されている。
【特許文献1】特開2008−23484号公報
【特許文献2】特開2006−297261号公報
【特許文献3】特開昭64−4222号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した特許文献1は、燃焼排ガスをボイラー等で冷却後、バックフィルタ入口煙道に消石灰粉を吹込み、バックフィルタ濾布に付着した消石灰が濾布を通過する排ガス中のSOX やHClと反応することで排ガス中から除去するものであるが、しかし、燃焼室で発生するHClガスやSOxガスは酸性ガスであり、特にHClガスは高温で金属を強く腐食させるため、後段のボイラ伝熱管を腐食させる要因となっている。このためボイラの伝熱管の温度が制御され、蒸気温度が制御されている。このため、蒸気タービンで発電するシステムではボイラ伝熱管の腐食問題が発電効率に大きく影響している。
【0007】
また、シャフト炉式溶融炉においては、溶融スラグの塩基度調整のため、溶融炉に石灰石をごみと共に投入しているため、溶融炉発生ガスには石灰微粉が一部随伴しているため、燃焼室出口のHClは通常100〜150ppm、SOxは10ppm以下と大きく抑えられているが、ボイラ蒸気温度を高くするためには、さらに腐食環境を改善する必要があり、また、HClはごみ中の塩素分により発生するため、ごみ質により大きく変動するという特性があり、ボイラの腐食効果を得るには、さらなるこのHCl低減化や変動防止を図る必要がある。
【0008】
さらに、引用文献2または3に示すように、排ガスに含まれる煤塵を集塵する集塵装置に至る排ガスの排出経路に消石灰を供給して排出する際に排ガス中に含まれる塩化水素を除去する方法が提案されているが、しかし、発生したHClやSOxガスはバックフィルタ入口で除去され、しかも低温でHCl、SOxと反応性が高い高価な消石灰粉が使用されるため、排ガス中のHClやSOxの2〜3倍の消石灰が必要となっているのが実状である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述のような問題や要請を解消するために、発明者らは鋭意開発を進めた結果、溶融炉で発生したガスを燃焼バーナで燃焼する過程で燃焼バーナの火炎中に石灰石微粉を吹込んで、燃焼で発生するHClやSOxを高温火炎中で反応させ、CaCl2 やCaSO4 等の塩類として捕捉すること。さらには、燃焼室出口の残存HClをレーザ式HCl計で連続計測し、ごみ質により変動するHClに対して石灰石吹込量を制御可能とした廃棄物ガス化溶融炉における塩化水素ガス発生抑制方法およびその装置を提供する。
【0010】
その発明の要旨とするところは、
(1)廃棄物ガス化溶融炉において、発生した熱分解ガスを燃焼室に設けられた燃焼バーナで燃焼する過程において、該燃焼バーナの火炎中に1〜30μmの石灰石微粉を連続的に吹き込んで燃焼することを特徴とする廃棄物ガス化溶融炉における塩化水素ガス発生抑制方法。
【0011】
(2)前記(1)に記載の燃焼方法において、石灰石微粉の吹込位置を熱分解ガスが燃焼バーナに入る管路としたことを特徴とする廃棄物ガス化溶融炉における塩化水素ガス発生抑制方法。
(3)前記(1)に記載の燃焼方法において、燃焼室出口煙道に、レーザ光透過式塩化水素ガス分析計を用い、該塩化水素ガス分析計の分析値に基づいて石灰石の吹込量を制御することを特徴とする廃棄物ガス化溶融炉における塩化水素ガス発生抑制方法。
【0012】
(4)廃棄物ガス化溶融炉において、燃焼室出口の一端にレーザ光透過式塩化水素ガス計発光器、他端にレーザ光透過式塩化水素ガス計受光器を配設し、該発光器から塩化水素ガスの吸光域の波長を持つレーザ光を発光し、他端の受光器で受光し、塩化水素ガス濃度に応じた吸光量を計測し、該塩化水素ガス濃度に応じた石灰石の切出し量を制御することを特徴とする廃棄物ガス化溶融炉における塩化水素ガス発生抑制装置にある。
【発明の効果】
【0013】
以下述べたように、本発明による安価な石灰石微粉を直接燃焼バーナの火炎中に連続的に吹き込んで燃焼させると同時に、燃焼室出口煙道に、レーザ光透過式塩化水素ガス分析計を用い、塩化水素ガス分析計の分析値に基づいて石灰石の吹込量を制御することにより、変動するHClに対して石灰石吹込量を制御可能することで、安価でかつHClの低減化による設備等の腐食を防止し、HClの変動防止を図り安定した操業方法および装置を提供することにある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明について図面に従って詳細に説明する。
図1は、本発明に係る廃棄物ガス化溶融炉のシステム全体概略図である。この図1に示すように、ごみビットに貯留されたごみ11はごみクレーン10により溶融炉1に投入されごみの熱分解ガスは発生ガス管2を経由して燃焼室3に設置された燃焼バーナ8に送られる。一方、燃焼空気は燃焼空気ファン9より燃焼バーナ8に送られ、燃焼室3内で混合され燃焼する。燃焼ガスはボイラ4にて熱回収され、冷却されて、さらに水噴霧式ガス冷却塔5にて冷却されバックフィルタ6にて煤塵等の有害物質を除去して誘引送風機7により大気に排出される。
【0015】
この場合、HClやSOxの有害ガスは燃焼室3で発生すものであるが、この除去手段として、燃焼バーナの火炎中、特に燃焼バーナに入る管路に1〜30μmの石灰石微粉を連続的に吹き込んで燃焼させることにより、直接石灰石吹込装置から石灰石粉を吹込み、石灰石粉がHClまたはSOxとが反応し、下記式によりガス中から除去される。
【0016】
CaCO3 → CaO+CO2 (熱分解)
CaO+H2 O → Ca(OH)2 (消石灰)
Ca(OH)2 +2HCl→ CaCl2 +2H2 O (脱塩化水素)
【0017】
図2は、本発明に係る実施例である溶融炉の断面図である。溶融炉発生ガスは発生ガス管2を経由して、燃焼バーナ8に送られ、複数のポート8aに分岐し、一方、燃焼空気は燃焼空気ファン9より燃焼バーナ8に送られ、発生ガスポートを挟むように配置された空気ポート8bを形成し、燃焼室内で液合燃焼する。石灰石微粉は石灰粉タンク14より石灰粉切出フィダー13から切出され、バーナ部の発生ガスの流路に投入され、発生ガスの気流により拡散分布してバーナガスポート8aより燃焼バーナの火炎中に入る。この火炎中で石灰石は下記式の熱分解し、反応性の高い生石灰に変化し、HClやSOxと燃焼室内で反応し、燃焼室出口のHClやSOxが抑えられる。
【0018】
また、石灰石微粉とした理由は、従来の消石灰の場合はHClとSOxとの反応性は高いが、しかし、消石灰は石灰石等を外部で熱分解する工程が必要なために石灰石に比べてかなりコスト高となるので実用的でない。また、石灰石微粉を1〜30μmとしたのは、1μm未満では作業性が悪く、30μmを超えるとHClとSOxとの反応性が悪くなることから、その範囲を1〜30μmとした。好ましくは10〜25μmとする。
【0019】
さらに、燃焼室出口には、レーザー式HCl計が設けられ、出口管の一端に設けた発光器15aから発光したHClガスの吸光域の波長を持つレーザ光12を発光し、受光器15bで受光し、HCl濃度に応じた吸光量を計測してHCl濃度を出力する。このHCl濃度に応じ、石灰石微粉の切出量を制御し、石灰粉切出フィダー13から切出され、燃焼室出口HCl濃度を適正な石灰石量で常に低い値に保つように制御される。さらに、吹込まれた石灰石微粉は、高温の火炎中では全量生石灰に変化するための未反応の生石灰はバックフィルタでは消石灰の代わりとして機能する。
【0020】
以上のように、安価な石灰石微粉を直接燃焼バーナの火炎中に連続的に吹き込んで燃焼させると同時に、燃焼室出口煙道に、レーザ光透過式塩化水素ガス分析計を用い、塩化水素ガス分析計の分析値に基づいて石灰石の吹込量を制御することにより、変動するHClに対して石灰石吹込量を制御可能することで、安価でかつHClの低減化による設備等の腐食を防止し、かつHClの変動防止を図り安定した操業を可能とした。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る廃棄物ガス化溶融炉のシステム全体概略図である。
【図2】本発明に係る実施例である溶融炉の断面図である。
【符号の説明】
【0022】
1 溶融炉
2 発生ガス管
3 燃焼室
4 ボイラ
5 水噴霧式ガス冷却塔
6 バックフィルタ
7 誘引送風機
8 燃焼バーナ
8a ポート
8b 空気ポート
9 燃焼空気ファン
10 ごみクレーン
11 ごみ
12 レーザ光
13 石灰粉切出フィダー
14 石灰粉タンク
15a 発光器
15b 受光器

特許出願人 新日鉄エンジニアリング株式会社 他1
代理人 弁理士 椎 名 彊 他1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃棄物ガス化溶融炉において、発生した熱分解ガスを燃焼室に設けられた燃焼バーナで燃焼する過程において、該燃焼バーナの火炎中に1〜30μmの石灰石微粉を連続的に吹き込んで燃焼することを特徴とする廃棄物ガス化溶融炉における塩化水素ガス発生抑制方法。
【請求項2】
請求項1に記載の燃焼方法において、石灰石微粉の吹込位置を熱分解ガスが燃焼バーナに入る管路としたことを特徴とする廃棄物ガス化溶融炉における塩化水素ガス発生抑制方法。
【請求項3】
請求項1に記載の燃焼方法において、燃焼室出口に、レーザ光透過式塩化水素ガス分析計を配設し、該塩化水素ガス分析計の分析値に基づいて石灰石の吹込量を制御することを特徴とする廃棄物ガス化溶融炉における塩化水素ガス発生抑制方法。
【請求項4】
廃棄物ガス化溶融炉において、燃焼室出口の一端にレーザ光透過式塩化水素ガス計発光器、他端にレーザ光透過式塩化水素ガス計受光器を配設し、該発光器から塩化水素ガスの吸光域の波長を持つレーザ光を発光し、他端の受光器で受光し、塩化水素ガス濃度に応じた吸光量を計測し、該塩化水素ガス濃度に応じた石灰石の切出し量を制御することを特徴とする廃棄物ガス化溶融炉における塩化水素ガス発生抑制装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−12875(P2011−12875A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−156808(P2009−156808)
【出願日】平成21年7月1日(2009.7.1)
【出願人】(306022513)新日鉄エンジニアリング株式会社 (897)
【出願人】(390022873)日鐵プラント設計株式会社 (275)
【Fターム(参考)】