説明

廃棄物溶融炉の耐火物構造

【課題】廃棄物溶融炉において特に損耗の激しい炉下部の耐火物の耐久性を向上させることができる耐火物構造を提供すること。
【解決手段】廃棄物溶融炉の溶融スラグと接する部位の炉壁において、炉壁耐火物として少なくとも30質量%以上の炭化珪素を含む炭化珪素質キャスタブル耐火物1を用い、内部に冷却水管2を埋設した。また、廃棄物溶融炉の炉床において、溶融物と接する第1層の耐火物として少なくとも30質量%以上の炭化珪素を含む炭化珪素質耐火物3を用い、第1層背面の第2層の耐火物として少なくとも50質量%以上のアルミナを含む高アルミナ質耐火物4を用い、さらに第2層の背面に断熱質耐火物5を配設した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般廃棄物、産業廃棄物等の廃棄物をシャフト炉で溶融処理する廃棄物溶融炉の耐火物構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
廃棄物の処理方法の一つとして、シャフト炉型の廃棄物溶融炉で廃棄物を乾燥、熱分解、燃焼、溶融して、スラグとメタルにする廃棄物溶融処理方法がある。
【0003】
図2は一般的な廃棄物溶融炉の断面図である。廃棄物を溶融処理するために、炉の下部の送風羽口30より酸素富化された空気を炉内に吹き込み、炉の上部からは廃棄物50をコークス及び石灰石とともに炉内に装入する。そうすると、廃棄物50が炉内を降下する過程で乾燥及び乾留ガス化(熱分解)が進行し、残った灰分は送風羽口30近くでコークスベッドを形成する炉底コークス60の燃焼熱により溶融し、炉床面に溶融スラグ及び溶融金属として降下する。炉床部の溶融物は炉床面より炉外に通じる出湯口40より排出される。こうした廃棄物溶融炉の炉内プロセスについては特許文献1に示されている。
【0004】
しかしながら、このような炉内プロセスが起こる廃棄物溶融炉において、特に炉下部では、耐火物(図2に示す炉壁耐火物10及び炉床耐火物20)は非常に過酷な環境に置かれ、例えば1年毎に耐火物の補修や張替を必要としていた。
【0005】
すなわち、従来、炉下部には高温に耐えるよう高アルミナ質耐火物を使用してきたが、送風羽口の直上部ではコークスの活発な燃焼により灰分が溶解され生成したスラグにより、送風羽口上の炉壁耐火物が侵食される。また、炉床部も同じく高温のスラグにより侵食される。
【0006】
スラグによる侵食を防止するため、スラグとの反応性の低い炭化珪素質耐火物を用いることが考えられるが、送風羽口直上の炉壁では送風羽口からの酸素及びコークスの燃焼により発生したCOガスにより、炭化珪素質耐火物は容易に酸化され損耗する。
【0007】
また、炉床部では、炉床面は常時スラグで覆われているため炉内ガスによる酸化はないが、炭化珪素質耐火物は伝熱性が高いため背面まで高温化し、耐火物の目地やクラック等から、溶融状態のまま鉄や銅等の金属が背面の断熱層まで浸透し、多孔質の断熱材の孔内に入り、断熱性を著しく悪くする。この場合、炉底部の鉄皮が高温化し、かつ炉底の放熱も大きくなり、炉床部が冷却されて溶融物が炉床面で凝固し、溶融物の排出が困難になるおそれがある。
【0008】
一方、耐スラグ性を向上させるため、クロム質耐火物を使用する例もあるが、耐用性は十分でなく、かつ使用中において、この耐火物から有害な6価クロムが生成するおそれがあり、取り扱いに十分注意を要するという難点がある。
【0009】
また、これらの耐火物の長寿命化を目的として、ジャケットや冷却管で冷却する方法が提案されているが(特許文献2参照)、高アルミナ質耐火物やクロム質耐火物では熱伝導率が低く、炉内稼働面まで十分に冷却されずに実用化レベルの耐火物寿命を得ることは困難である。
【特許文献1】特公昭55−21923号公報
【特許文献2】特開2004−156875号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、廃棄物溶融炉において特に損耗の激しい炉下部の耐火物の耐久性を向上させることができる耐火物構造を提供することにあり、より具体的には、スラグとの反応性が低く熱伝導率が高い炭化珪素質耐火物を用い、かつ炭化珪素質耐火物の弱点である高温酸化等の上述の問題を解決できる廃棄物溶融炉の耐火物構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
廃棄物溶融炉下部の耐火物の耐用性を延ばすため、本発明の炉壁耐火物構造は、溶融スラグと接する部位の炉壁において、炉壁耐火物として少なくとも30質量%以上の炭化珪素を含む炭化珪素質キャスタブル耐火物を用い、内部に冷却水管を埋設したものである。このように、耐スラグ性が高く、かつ熱伝導率が高い炭化珪素質キャスタブル耐火物の内部に冷却水管を埋設して冷却することにより、炭化珪素質耐火物の大きな弱点である炉内ガス(O、CO)による高温酸化による損耗の問題をなくすことができる。また、溶融スラグは冷却された炭化珪素質キャスタブル耐火物の表面で固化するため、表面被覆された状態となり、炉内ガスから保護される。ここで、炭化珪素質耐火物のO、COガスによる酸化は1000℃以上から始まるので、炉壁の炭化珪素質キャスタブル耐火物はその炉内稼働面が1000℃未満となるように冷却することが好ましい。
【0012】
さらに、本発明の炉床耐火物構造は、廃棄物溶融炉の炉床において、溶融物と接する第1層の耐火物として少なくとも30質量%以上の炭化珪素を含む炭化珪素質耐火物を用い、第1層背面の第2層の耐火物として少なくとも50質量%以上のアルミナを含む高アルミナ質耐火物を用い、さらに第2層の背面に断熱質耐火物を配設したものである。すなわち、炉床部は表面が常に溶融物で覆われており、炉内ガスによる酸化は防止できるため、溶融物と接する第1層の耐火物としては耐スラグ性に優れた高SiC含有の炭化珪素質耐火物を用いる。炭化珪素質耐火物は熱伝導率が高いため背面まで高温化するが、第1層背面の第2層の耐火物として、耐火性が高く炭化珪素質耐火物に比べて熱伝導率が低い高アルミナ質耐火物を用いることにより、第2層背面の温度を溶融物の凝固点以下にすることができ、溶融物が第2層背面の断熱質耐火物に侵入することを防止できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の炉壁耐火物構造によれば、炉壁耐火物として用いる炭化珪素質キャスタブル耐火物を冷却することにより、炭化珪素質キャスタブル耐火物の炉内ガスによる高温酸化が防止されるので、炭化珪素質キャスタブル耐火物による耐スラグ性の効果を十分に発揮させることができる。
【0014】
本発明の炉床耐火物構造によれば、溶融物と接する第1層の耐火物として用いる炭化珪素質耐火物の背面に高アルミナ質耐火物からなる第2層を配設することにより、炉床部の耐スラグ性を向上させることができると共に、溶融物が第2層背面の断熱質耐火物に侵入することを防止でき、断熱機能が消失することを防止できる。
【0015】
以上のとおり、本発明によれば、廃棄物溶融炉において特に損耗の激しい炉下部の耐火物の耐久性を著しく向上させることができ、その耐用期間を従来の約1年から少なくとも5年以上とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、添付図を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0017】
図1は、本発明の耐火物構造を適用した廃棄物用溶融炉下部の断面図である。同図に示す廃棄物用溶融炉の構成は図2に示した従来のものと同様であり、廃棄物を溶融処理するために、炉の下部の送風羽口6より酸素富化された空気を炉内に吹き込み、炉の上部からは廃棄物をコークス及び石灰石とともに炉内に装入する。そうすると、廃棄物が炉内を降下する過程で乾燥及び乾留ガス化(熱分解)が進行し、残った灰分は送風羽口6近くで図示しないコークスベッドを形成する炉底コークスの燃焼熱により溶融し、炉床面に溶融スラグ及び溶融金属として降下する。炉床部の溶融物は炉床面より炉外に通じる出湯口7より排出される。
【0018】
本発明の炉壁耐火物構造では、溶融スラグと接する部位の炉壁において、炉壁耐火物として炭化珪素質キャスタブル耐火物1を用い、この炭化珪素質キャスタブル耐火物1の内部に冷却水管2を埋設する。ここで、溶融スラグと接する部位の炉壁とは、一般的には廃棄物の乾留ガス化(熱分解)後に残った灰分を溶融する燃焼溶融帯の炉壁であり、炉構造上においては朝顔部8の下方の炉壁である。
【0019】
炭化珪素質キャスタブル耐火物1は、冷却水管2による冷却効果を十分に発揮させるため熱伝導率を高くする必要があり、このために少なくとも炭化珪素を30質量%以上含有する材料とする。本実施例では、炭化珪素70質量%、その他の成分としてアルミナ+シリカ=29質量%、残り酸化カルシウム1質量%を含有する炭化珪素質キャスタブル耐火物を用いた。
【0020】
この炭化珪素質キャスタブル耐火物1を用いる部位(燃焼溶融帯)は、送風羽口6付近及びその直上部でコークス燃焼が活発に行われ、1700℃〜1800℃に達する。この高温雰囲気にさらされると炭化珪素質耐火物は通常は容易に酸化され、SiCはSiOとなり組織変化を起こして損耗が進行する。これに対して、本発明では、冷却水管2により炭化珪素質キャスタブル耐火物1を冷却しており、しかも炭化珪素質キャスタブル耐火物1は熱伝導率が高いため、炉内稼働面まで酸化が始まる温度(1000℃)以下の400℃〜500℃程度に保たれ、炉内ガスによる高温酸化が防止される。
【0021】
この炉壁耐火物構造により、溶融スラグと接する部位の炉壁には使用が不可能であった炭化珪素質キャスタブル耐火物の使用が可能となり、炭化珪素質キャスタブル耐火物が持つ耐スラグ性が活用され、耐火物寿命が大幅に改善される。この部位では、溶融スラグとの接触による溶損と、急激な温度変化によるスポーリングが主体となって侵食が進行するが、炭化珪素質キャスタブル耐火物は、いずれの点においても良好な耐久性を有しており、従来の高アルミナ質キャスタブル耐火物では通常1年程度であった耐用期間を5年以上とすることができる。
【0022】
一方、本発明の炉床耐火物構造では、耐スラグ性の高い炭化珪素質耐火物3を溶融物と接する第1層として配設し、その背面の第2層として、高アルミナ質耐火物4からなる耐火層を配設する。さらに、その背面には断熱質耐火物5を配設して炉床部の温度低下を防止する。
【0023】
炉床面は常にスラグにより被覆されているため炉内ガスによる酸化のおそれはないため、第1層の炭化珪素質耐火物3としては耐スラグ性を十分に発揮させるため、30質量%以上の炭化珪素を含む材料を使用する。本実施例では、炭化珪素70質量%、その他の成分としてアルミナ+シリカ=29質量%、残り酸化カルシウム1質量%を含有する炭化珪素質キャスタブル耐火物を用いた。
【0024】
ただし、この第1層の炭化珪素質耐火物3は、上述のように熱伝導率が高いため、第1層全体が高温に維持され、溶融金属(Fe,Cu)は第1層の目地やクラックを通じて容易に浸透する。この溶融金属が断熱質耐火物5に到達すると断熱性が失われて炉床部が冷却され、炉床面で溶融物(スラグ、金属)が凝固し出湯口7からの溶融物の排出が不可能となる。
【0025】
そこで、溶融金属が断熱質耐火物5に到達するのを防止するため、本発明では上述のとおり、第1層の炭化珪素質耐火物3の背面に第2層として高アルミナ質耐火物4を配設し、第2層の背面温度が溶融金属の凝固温度以下の1000℃以下となるようにすることにより、溶融金属が断熱質耐火物5に浸透することを防止する。この場合、高アルミナ質耐火物4のアルミナ含有量は、耐火性能上、50質量%以上とする。本実施例では、アルミナ93質量%、その他の成分としてシリカ6質量%、酸化カルシウム1質量%を含有する高アルミナ質キャスタブル耐火物を用いた。また、断熱質耐火物5としては、断熱キャスタブル耐火物を用いた。また、本実施例では炉床部にキャスタブル耐火物を用いたが、予め所定の形状に成形加工したプレキャスタブル耐火物や定形耐火物を使用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の耐火物構造を適用した廃棄物用溶融炉下部の断面図である。
【図2】一般的な廃棄物溶融炉の断面図である。
【符号の説明】
【0027】
1 炭化珪素質キャスタブル耐火物
2 冷却水管
3 炭化珪素質耐火物
4 高アルミナ質耐火物
5 断熱質耐火物
6 送風羽口
7 出湯口
8 朝顔部
10 炉壁耐火物
20 炉床耐火物
30 送風羽口
40 出湯口
50 廃棄物
60 炉底コークス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃棄物溶融炉の溶融スラグと接する部位の炉壁において、炉壁耐火物として少なくとも30質量%以上の炭化珪素を含む炭化珪素質キャスタブル耐火物を用い、内部に冷却水管を埋設したことを特徴とする廃棄物溶融炉の炉壁耐火物構造。
【請求項2】
廃棄物溶融炉の炉床において、溶融物と接する第1層の耐火物として少なくとも30質量%以上の炭化珪素を含む炭化珪素質耐火物を用い、第1層背面の第2層の耐火物として少なくとも50質量%以上のアルミナを含む高アルミナ質耐火物を用い、さらに第2層の背面に断熱質耐火物を配設したことを特徴とする廃棄物溶融炉の炉床耐火物構造。
【請求項3】
廃棄物溶融炉において、溶融スラグと接触する部位の炉壁に少なくとも30質量%の炭化珪素を含む炭化珪素質キャスタブル耐火物を用い、その内部に冷却管を埋設させ、炉床部は、溶融物と接する第1層を少なくとも30質量%以上の炭化珪素を含む炭化珪素質耐火物とし、その背面の第2層は少なくとも50質量%以上のアルミナを含む高アルミナ質耐火物とし、さらに第2層の背面に断熱質耐火物を配設したことを特徴とする廃棄物溶融炉の耐火物構造。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−300357(P2006−300357A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−118650(P2005−118650)
【出願日】平成17年4月15日(2005.4.15)
【出願人】(306022513)新日鉄エンジニアリング株式会社 (897)
【出願人】(390022873)日鐵プラント設計株式会社 (275)
【出願人】(000170716)黒崎播磨株式会社 (314)
【Fターム(参考)】