説明

廃棄電解液のリサイクル方法

【課題】アルカリ二次電池の製造過程で排出される廃棄電解液のリサイクル方法を提供する。
【解決手段】本発明のアルカリ二次電池の製造過程から排出される廃棄電解液のリサイクル方法は、陽極15と陰極14との間にバイポーラ膜12,13及び陽イオン交換膜11を配置して、陽極15側がバイポーラ膜13で仕切られ陰極14側が陽イオン交換膜11で仕切られた陽極側室17、及び陽極15側が陽イオン交換膜11で仕切られ陰極14側がバイポーラ膜11で仕切られた陰極側室16を形成した電気透析装置1を使用し、陽極側室17に廃棄電解液を供給し(矢印R)、陰極側室16に回収媒体液を供給して(矢印S)電気透析を行うこと、及び、陰極側室16からアルカリ水溶液を回収する(矢印T)ことを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃棄電解液のリサイクル方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境対策及びコスト低減の観点から、化学薬品を含む廃液等を低減することが求められている。このため、例えば、アルミニウム電解加工において排出される電解液からアルミニウムを分離して電解液として再利用すること(特許文献1)、鉛蓄電池の製造過程で排出されるダンプ液を煮沸又は水蒸気吹き込み処理してダンプ液として再利用すること(特許文献2)等が試みられている。その他には、半導体製造工程で排出されるフッ素含有排水を電気透析法により処理してフッ化カルシウムを回収することが提案されている(特許文献3)。
【0003】
一方、電池工場の排水には、例えば、電解液の注液工程等において排出される電解液成分を含む排水(以下、「廃棄電解液」ともいう)等がある。廃棄電解液は、一般的には、産業廃棄物として廃棄処理されている。
【特許文献1】特開2001−347299号公報
【特許文献2】特開2006−73445号公報
【特許文献3】特開2007−296444号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、廃棄電解液の処理費用、特に、アルカリ二次電池の製造過程で排出される廃棄電解液の処理費用がここ数年高騰しており、環境対策のみならずコスト低減の観点からも、廃棄電解液の処理方法の見直しが求められている。
【0005】
そこで、本発明は、アルカリ二次電池の製造過程で排出される廃棄電解液のリサイクル方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、アルカリ二次電池の製造過程から排出される廃棄電解液のリサイクル方法であって、陽極と陰極との間に少なくとも2つのバイポーラ膜と少なくとも1つの陽イオン交換膜とを配置して、陽極側がバイポーラ膜で仕切られ陰極側が陽イオン交換膜で仕切られた陽極側室、及び陽極側が陽イオン交換膜で仕切られ陰極側がバイポーラ膜で仕切られた陰極側室を形成した電気透析装置において、前記陽極側室に前記廃棄電解液を供給し、前記陰極側室に回収媒体液を供給して電気透析を行うこと、及び、前記陰極側室からアルカリ水溶液を回収することを含む。
【発明の効果】
【0007】
本発明の廃棄電解液のリサイクル方法によれば、アルカリ二次電池の製造過程で排出される廃棄電解液を電気透析法により処理することによってアルカリ水溶液を回収できる。本発明の廃棄電解液のリサイクル方法により回収されるアルカリ水溶液は、例えば、アルカリ二次電池の電解液として再利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
[廃棄電解液]
本発明において廃棄電解液とは、アルカリ二次電池の製造過程で排出される電解液成分を含む排水のことをいう。電解液成分を含む排水としては、例えば、二次電池の各電槽に電解液を注液する工程において排出される電解液、電解液注液後の二次電池を純水によって洗浄する工程において排出される電解液成分を含む排水等が挙げられる。アルカリ二次電池の電解液としては、一般的には水酸化カリウムを主成分としたアルカリ電解液が挙げられる。アルカリ二次電池の製造過程で排出される廃棄電解液は、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム及び水酸化リチウム等を含むアルカリ性の水溶液である。廃棄電解液は、その他に、例えば、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、アルカリ二次電池の電極に使用される金属等を含んでいても良い。
【0009】
[廃棄電解液のリサイクル]
本発明において廃棄電解液のリサイクルとは、アルカリ二次電池の製造過程で排出される電解液を含む排水を上記電気透析装置により処理し、アルカリ水溶液として再利用可能なように回収することをいい、好適にはアルカリ二次電池の電解液として再利用可能なアルカリ水溶液を回収することをいう。本発明の廃棄電解液のリサイクル方法によれば、従来廃棄処分されている廃棄電解液からアルカリ水溶液を回収できるため、例えば、アルカリ二次電池の製造工程で排出される排水量を削減でき、さらには廃棄電解液の処分費用を削減できる。また、本発明の廃棄電解液のリサイクル方法により回収されるアルカリ水溶液は、例えば、新たな電解液の製造に利用できることから、アルカリ二次電池の電解液の製造におけるアルカリ水溶液の使用量を大幅に低減できる。このため、アルカリ二次電池の電解液及びアルカリ二次電池の製造コストを低減できる。
【0010】
[回収されるアルカリ水溶液]
本発明の廃棄電解液のリサイクル方法において回収されるアルカリ水溶液は、例えば、陽極側室に供給された廃棄電解液よりも不純物の濃度が低減されたアルカリ水溶液である。好適には不純物濃度が100分の1に低減されたアルカリ水溶液であり、より好適にはさらなる処理を行うことなくアルカリ二次電池の電解液として利用可能なアルカリ水溶液である。回収されるアルカリ水溶液の不純物濃度は、例えば、0.5mol/L以下であり、好ましくは0.1mol/L以下である。不純物としては、例えば、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム等が挙げられる。
【0011】
[廃棄電解液のリサイクル方法]
本発明の廃棄電解液のリサイクル方法は、第1の態様において、アルカリ二次電池の製造過程から排出される廃棄電解液を、陽極と陰極との間にバイポーラ膜及び陽イオン交換膜を配置して、陽極側がバイポーラ膜で仕切られ陰極側が陽イオン交換膜で仕切られた陽極側室、及び陽極側が陽イオン交換膜で仕切られ陰極側がバイポーラ膜で仕切られた陰極側室を形成した電気透析装置の陽極側室に供給し、電気透析装置の陰極側室に回収媒体液を供給して電気透析を行い、前記陰極側室からアルカリ水溶液を回収することにより行うことができる。本発明の廃棄電解液のリサイクル方法によれば、上記構成の電気透析装置を用いて電気透析処理を行うため、例えば、高い回収率でアルカリ水溶液を回収できる。本発明の廃棄電解液のリサイクル方法において、廃棄電解液が水酸化カリウムを含み、前記回収するアルカリ水溶液が水酸化カリウムを含むことが好ましい。
【0012】
回収媒体液としては、例えば、水及びアルカリ水溶液等が挙げられる。水としては、例えば、蒸留水、イオン交換水、純水及び超純水等が挙げられ、高純度のアルカリ水溶液を回収する観点から、純水及び超純水が好ましい。回収媒体液として使用するアルカリ水溶液としては、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、アルカリ二次電池の電解液等が挙げられる。
【0013】
本発明の廃棄電解液のリサイクル方法の第1の態様において使用する電気透析装置は、陽極と陰極との間にバイポーラ膜及び陽イオン交換膜を配置して、陽極側がバイポーラ膜で仕切られ陰極側が陽イオン交換膜で仕切られた陽極側室、及び陽極側が陽イオン交換膜で仕切られ陰極側がバイポーラ膜で仕切られた陰極側室を形成した電気透析装置である。
【0014】
第1の態様における陰極側室とは、陽極側が陽イオン交換膜で仕切られ陰極側がバイポーラ膜で仕切られた室のことをいう。陽極と陰極との間に所定の電圧を印加することにより、陰極側室には、例えば、陽極側室内の廃棄電解液中の陽イオン(例えば、K+、Na+、Li+)が陽イオン交換膜を通過して流入し、また、バイポーラ膜の陰イオン交換膜と陽イオン交換膜との界面付近で生成した水酸化物イオンが拡散すること等により、結果として水酸化物イオンの濃度が増大する。このため、陰極側室には、例えば、高純度に精製されたアルカリ水溶液が生成されることから、陰極側室はアルカリ生成室ともいうことができる。
【0015】
第1の態様における陽極側室とは、陽極側がバイポーラ膜で仕切られ陰極側が陽イオン交換膜で仕切られた室のこという。陽極と陰極との間に所定の電圧を印加することにより、陽極側室では、例えば、バイポーラ膜の陰イオン交換膜と陽イオン交換膜との界面付近で生成した水素イオンが拡散すること等により、結果として水酸化物イオンの濃度が低下する。このため、陽極側室の液体は、例えば、脱アルカリされることになるといえるから、陽極側室は脱アルカリ室ともいうことができる。
【0016】
本発明において陽イオン交換膜としては、公知の陽イオン交換膜が使用できる。公知の陽イオン交換膜としては、例えば、公知の陽イオン交換基が導入された樹脂を含む陽イオン選択性を有する膜が挙げられる。陽イオン交換基としては、例えば、水溶液中で負の電荷となりうる官能基を使用できる。陽イオン交換基としては、例えば、スルホン酸基、カルボン酸基、ホスホン酸基、硫酸エステル基及びリン酸エステル基等が挙げられる。陽イオン交換基は、単独で使用しても良く、2種類以上組み合わせて使用しても良い。中でも、高純度のアルカリ水溶液を回収する観点から、1価の陽イオンを選択に透過可能な陽イオン交換膜が好ましい。1価の陽イオン選択透過性陽イオン交換膜としては、公知の1価イオン選択透過性陽イオン交換膜を使用でき、例えば、第4級アンモニウム塩基と3個以上のビニルベンジル基を有するビニル化合物との重合体を、陽イオン交換膜の少なくとも一方の表面に存在させた膜(特開昭62−205135号公報)等が挙げられる。3個以上のビニルベンジル基を有するビニル化合物としては、例えば、メチルアミンやエチルアミン等の一級アミンと3個以上のビニルベンジルハライドとを反応させた化合物等が挙げられる。
【0017】
陽イオン交換基を導入する樹脂としては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、これらの共重合体又は混合物等のポリオレフィン等が挙げられる。陽イオン交換膜の形態としては、例えば、フィルム、ネット、編物、織布及び不織布等が挙げられる。
【0018】
本発明においてバイポーラ膜とは、陽イオン交換膜と陰イオン交換膜とを張り合わせた構造をする複合イオン交換膜のことをいう。バイポーラ膜は、公知のバイポーラ膜を使用できる。バイポーラ膜を構成する陽イオン交換膜の陽イオン交換基としては、上述の陽イオン交換基が使用できる。バイポーラ膜は、一般的には、陰イオン交換膜を陽極側に配置し、陽イオン交換膜を陰極側に配置して使用する。
【0019】
バイポーラ膜を構成する陰イオン交換膜の陰イオン交換基としては、例えば、水溶液中で正の電荷となり得る官能基が使用できる。バイポーラ膜を構成する陰イオン交換基としては、例えば、1〜3級アミノ基、ピリジル基、4級アンモニウム塩基、4級ピジジニウム塩基等が挙げられる。陰イオン交換基は、単独で使用しても良く、2種類以上組み合わせて使用しても良い。
【0020】
バイポーラ膜の基材は、例えば、接合する陽イオン交換膜及びアニオン交換膜の種類に応じて適宜決定できる。基材の材質としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル及びスチレン−ジビニルベンゼン共重合体等の熱可塑性樹脂等が挙げられ、耐アルカリ性の観点から、高密度ポリエチレン及び低密度ポリエチレン等のポリエチレン、ポリプロピレン等が好ましい。基材の形態としては、例えば、フィルム、ネット、編物、織布及び不織布等が挙げられる。
【0021】
陽極及び陰極としては、例えば、水電解及び食塩電解等の電気化学工業で使用される電極が使用できる。陽極材料としては、例えば、ニッケル、チタン、ルテニウム/チタン、イリジウム/チタン、白金、チタン/白金、鉄及び黒鉛等が挙げられる。陰極材料としては、例えば、ニッケル、スレンレススチール、白金、チタン/白金、鉄及びチタン等が挙げられる。電極の構造としては、例えば、メッシュ状、格子状等の任意の構造を有していれば良い。
【0022】
本発明の廃棄電解液のリサイクル方法は、第2の態様として、陽極と陰極との間に少なくとも2つのバイポーラ膜、少なくとも1つの陽イオン交換膜及び少なくとも1つの陰イオン交換膜を配置して、陽極側がバイポーラ膜で仕切られ陰極側が陰イオン交換膜で仕切られた陽極側室、陽極側が陰イオン交換膜で仕切られ陰極側が陽イオン交換膜で仕切られた中間室、及び、陽極側が陽イオン交換膜で仕切られ陰極側がバイポーラ膜で仕切られた陰極側室を形成した電気透析装置において、前記中間室に前記廃棄電解液を供給し、前記陰極側室に回収媒体液を供給して電気透析を行うこと、及び、前記陰極側室からアルカリ水溶液を回収することを含む廃棄電解液のリサイクル方法を含む。
【0023】
第2の態様に使用する陽イオン交換膜、バイポーラ膜、陽極、陰極等は、上記第1の態様に使用可能な陽イオン交換膜、バイポーラ膜、陽極、陰極等をそれぞれ使用できる。また、陰イオン交換膜としては、バイポーラ膜に使用する陰イオン交換膜と同様の陰イオン交換膜が使用できる。
【0024】
第2の態様において陰極側室に供給する回収媒体液としては、第1の態様と同様の回収媒体液が使用できる。陽極側室に供給する液体としては、例えば、蒸留水、イオン交換水、純水及び超純水等の水が挙げられる。
【0025】
[廃棄電解液のリサイクル装置]
本発明は、その他の態様として、本発明のアルカリ二次電池の廃棄電解液のリサイクル方法を行うための廃棄電解液リサイクル装置であって、陽極と陰極との間にバイポーラ膜及び陽イオン交換膜が配置され、陽極側がバイポーラ膜で仕切られ陰極側が陽イオン交換膜で仕切られた陽極側室、及び陽極側が陽イオン交換膜で仕切られ陰極側がバイポーラ膜で仕切られた陰極側室が形成された電気透析装置と、前記電気透析装置の陽極側室に供給する廃棄電解液を貯蔵するための廃棄電解液貯槽と、前記電気透析装置の陰極側室に供給する回収媒体液を貯蔵するための回収媒体液貯槽とを備える、アルカリ二次電池の廃棄電解液のリサイクル装置を含む。本発明の廃棄電解液のリサイクル装置によれば、本発明の廃棄電解液のリサイクル方法を簡便に行うことができる。
【0026】
電気透析装置における陽イオン交換膜、バイポーラ膜、陽極、陰極等は、本発明の廃棄電解液のリサイクル方法の第1の態様に使用可能な陽イオン交換膜、バイポーラ膜、陽極、陰極等をそれぞれ使用できる。
【0027】
回収媒体液槽は、電気透析装置の陰極側室から回収されるアルカリ水溶液を導入可能なように電気透析装置と接続されていても良い。これにより、例えば、電気透析装置の陰極側室内の液体を循環させながら電気透析を行うことができる。
【0028】
廃棄電解液貯槽は、電気透析装置の陽極側室から脱アルカリ液を回収可能なように電気透析装置と接続されていても良い。これにより、脱アルカリ液を循環供給することによって、例えば、アルカリの回収率を向上できる。
【0029】
本発明は、廃棄電解液のリサイクル装置のその他の態様として、陽極と陰極との間に少なくとも2つのバイポーラ膜、少なくとも1つの陽イオン交換膜及び少なくとも1つの陰イオン交換膜とが配置され、陽極側がバイポーラ膜で仕切られ陰極側が陰イオン交換膜で仕切られた陽極側室、陽極側が陰イオン交換膜で仕切られ陰極側が陽イオン交換膜で仕切られた中間室、及び、陽極側が陽イオン交換膜で仕切られ陰極側がバイポーラ膜で仕切られた陰極側室が形成された電気透析装置と、前記電気透析装置の中間室に供給する廃棄電解液を貯蔵するための廃棄電解液貯槽と、前記電気透析装置の陰極側室に供給する回収媒体液を貯蔵するための回収媒体液貯槽とを備える、アルカリ二次電池の廃棄電解液のリサイクル装置を含む。
【0030】
[アルカリ二次電池の電解液の製造方法]
本発明は、その他の態様として、本発明のアルカリ二次電池の廃棄電解液のリサイクル方法を用いてアルカリ水溶液を回収する工程を含むアルカリ二次電池の電解液の製造方法、及び、本発明のアルカリ二次電池の廃棄電解液のリサイクル方法を用いて回収されたアルカリ水溶液を使用して電解液を製造する工程を含む、アルカリ二次電池の電解液の製造方法を含む。
【0031】
本発明のアルカリ二次電池の電解液の製造方法は、本発明のアルカリ二次電池の廃棄電解液のリサイクル方法を用いてアルカリ水溶液を回収する工程又は本発明のアルカリ二次電池の廃棄電解液のリサイクル方法を用いて回収されたアルカリ水溶液を使用して電解液を製造する工程を含む以外は、公知のアルカリ二次電池の電解液の製造と同様にして行うことができる。
【0032】
[アルカリ二次電池の製造方法]
本発明は、さらにその他の態様として、本発明のアルカリ二次電池の廃棄電解液のリサイクル方法を用いてアルカリ水溶液を回収する工程を含む、アルカリ二次電池の製造方法を含む。
【0033】
本発明は、さらにその他の態様として、本発明のアルカリ二次電池の廃棄電解液のリサイクル方法を用いて回収されたアルカリ水溶液を使用して電解液を製造する工程を含む、アルカリ二次電池の製造方法を含む。
【0034】
本発明のアルカリ二次電池の製造方法は、本発明のアルカリ二次電池の廃棄電解液のリサイクル方法を用いてアルカリ水溶液を回収する工程又は本発明のアルカリ二次電池の廃棄電解液のリサイクル方法を用いて回収されたアルカリ水溶液を使用して電解液を製造する工程を含む以外は、公知のアルカリ二次電池の製造と同様にして行うことができる。
【0035】
つぎに、本発明の廃棄電解液のリサイクル方法及びリサイクル装置の例について、図面を用いて説明する。但し、本発明は以下の例に制限されない。
【0036】
(実施形態1)
図1は、本発明に使用する電気透析装置(第1の態様)の一例の概略構成を示す図面である。図1に示す電気透析装置1は、陽イオン交換膜11、バイポーラ膜12,13、陰極14及び陽極15を有し、陰極14を備える陰極室18と陽極15を備える陽極室19との間に、バイポーラ膜12、陽イオン交換膜11及びバイポーラ膜13がこの順で配置されている。バイポーラ膜12は、陽イオン交換膜21及び陰イオン交換膜22により構成され、バイポーラ膜13は、陽イオン交換膜23及び陰イオン交換膜24により構成される。バイポーラ膜12の陰イオン交換膜22と陽イオン交換膜11とで仕切られた室が陰極側室16であり、陽イオン交換膜11とバイポーラ膜13の陽イオン交換膜23とで仕切られた室が陽極側室17である。
【0037】
陰極室18及び陽極室19のそれぞれに充填する極液としては、例えば、純水、電解質水溶液等が使用できる。電解質水溶液としては、例えば、水酸化ナトリウム、硫酸ナトリウム、硝酸ナトリウム等の電解質の塩が溶解した水溶液が挙げられる。極液は、循環供給しても良い。極液に使用する電解質の水溶液の濃度は、一般的には0.1〜2mol/Lである。
【0038】
図1に示す電気透析装置を用いた本発明の廃棄電解液のリサイクル方法は、例えば、以下のようにして行うことができる。まず、アルカリ二次電池の廃棄電解液を陽極側室17に供給し(矢印S)、水等の回収媒体液を陰極側室16に供給する(矢印R)。陽極側室17に供給される廃棄電解液の濃度は、例えば、0.1〜10mol/Lであり、陰極側室16に供給する純水の量、イオン化物質のバランス、陰イオン交換膜の耐久性等の点から好ましくは0.1〜5.0mol/Lである。
【0039】
つぎに、陰極14と陽極15との間に所定の電圧を印加することにより電気透析を行い、陰極側室16からアルカリ水溶液を回収する(矢印T)。回収したアルカリ水溶液は、例えば、不純物が除去され高純度であり、例えば、アルカリ二次電池の電解液等に使用できる。
【0040】
上記電気透析の原理について、廃棄電解液が水酸化カリウムを主成分とするアルカリ水溶液であり、回収媒体液として純水を使用した場合の例にとり、簡単に説明すると以下のとおりである。
【0041】
陰極14と陽極15との間に電圧を印加すると、廃棄電解液中のカリウムイオン(K+)が陽イオン交換膜11を通って陽極側室17から陰極側室16に移動する。このとき、廃棄電解液中に含まれる陰イオン(例えば、CO32-等)はそのまま陽極側室17にとどまる。一方、バイポーラ膜12,13は水又はアルカリ水溶液中の水を取り込み、陰イオン交換膜22,24側に水酸化物イオン(OH-)を放出し、陽イオン交換膜21,23側にプロトン(H+)を放出する。このような電気透析を継続して行うことにより、陽極側室17の廃棄電解液中の水酸化カリウム濃度は低下し、陰極側室16の回収媒体液中の水酸化カリウム濃度は上昇することになる。このようにして、陰極側室16から、例えば、高純度の水酸化カリウム水溶液を回収することができる。
【0042】
上記説明は、廃棄電解液が水酸化カリウムを主成分とするアルカリ水溶液を例にとり説明したが、例えば、廃棄電解液が水酸化カリウム及び水酸化ナトリウムを含むアルカリ水溶液であっても、同様に回収することができる。また、複数種類の電解液成分を含む廃棄電解液を処理する場合、一定時間継続して電気透析を行うことにより、例えば、アルカリ二次電池の電解液と略同じ組成のアルカリ水溶液を回収することができる。
【0043】
陽極側室17への廃棄電解液の供給、陰極側室16への回収媒体液の供給、アルカリ水溶液の回収は、いずれも、連続的又は断続的に行っても良いし、バッチ式で行っても良い。また、各イオン交換膜の電気抵抗の上昇を防止する観点から、各室内の溶液を攪拌しながら電気透析を行うことが好ましく、より好適には各室において循環させながら液を供給して電気透析を行うことである。
【0044】
循環は、例えば、図2に示す構成で行うことができる。図2は、本発明のリサイクル装置の一例を示す概略構成図である。図2のリサイクル装置50は、電気透析装置2、廃棄電解液貯槽25及び回収媒体液貯槽26を主要構成要素とし、これらはパイプP1〜P6によって連結されている。廃棄電解液貯槽25は、パイプP1によって電気透析装置2の陽極側室17と連結され、パイプP1を通じて陽極側室17に廃棄電解液を供給できる。回収媒体液貯槽26は、パイプP2によって電気透析装置2の陰極側室16と連結され、パイプP2を通じて陰極側室16に回収媒体液を供給できる。処理後のアルカリ水溶液は、電気透析装置2の陰極側室16に連結されたパイプP4を通じて回収でき、脱アルカリ液は、電気透析装置2の陽極側室17に連結されたパイプP3を通じて回収できる。図2に示すように、パイプP4を分枝管としてパイプP4から分岐したパイプP6を回収媒体液貯槽26と連結させることにより、パイプP4及びP6を通じて回収される処理後のアルカリ水溶液を回収媒体液貯槽26に供給することができる。また、パイプP3を分枝管としてパイプP3から分岐したパイプP5を廃棄電解液貯槽25に連結することにより、パイプP3及びP5を通じて回収される脱アルカリ液を廃棄電解液貯槽25に供給できる。上記構成により、陽極側室17及び陰極側室16の液を循環させることができる。
【0045】
電気透析における各液の温度は、一般には5〜80℃であり、好ましくは20〜50℃、より好ましくは20〜35℃である。電流密度は一般的には0A/dm3を越えて50A/dm3以下であり、1〜20A/dm3が好適である。
【0046】
図1では、2枚のバイポーラ膜12,13と1枚の陽イオン交換膜11とを備え、陰極側室16及び陽極側室17がそれぞれ1つずつ形成された電気透析装置を例にとり説明したが、陰極側室16及び陽極側室17の数はこれに限定されるものではなく、陰極側室及び陽極側室は複数個形成されていても良い。例えば、図2に示すように、3つのバイポーラ膜20と2つの陽イオン交換膜10とを備え、陰極側室16及び陽極側室17がそれぞれ2つずつ交互に形成された形態であっても良く、図3に示すように、4つのバイポーラ膜20と3つの陽イオン交換膜10とを備え、陰極側室16及び陽極側室17がそれぞれ3つずつ交互に形成された形態であっても良い。陽極側室及び陰極側室の数は、それぞれ、例えば、1〜100個である。
【0047】
陰極側室16及び陽極側室17には、例えば、バイポーラ膜12,13と陽イオン交換膜11との接触を防止する観点から、スペーサがそれぞれ設けられていても良い。スペーサは、例えば、適度な液透過性を確保する観点から、粒状物、不織布、ネット等の形態を有するスペーサが使用できる。
【0048】
(実施形態2)
図4は、本発明に使用する電気透析装置(第2の態様)のその他の例の概略構成を示す図面である。図4の電気透析装置3の形態は、図1における陰極側室16に陰イオン交換膜を配置することによって、陰イオン交換膜と陽イオン交換膜とによって仕切られた中間室が形成されている形態であると考えることもできる。
【0049】
図4に示す電気透析装置3は、陽イオン交換膜31、陰イオン交換膜32、バイポーラ膜12,13、陰極14及び陽極15を備えている。陰極14を備える陰極室18と陽極15を備える陽極室19との間に、バイポーラ膜12、陽イオン交換膜31、陰イオン交換膜32及びバイポーラ膜13がこの順で配置されている。バイポーラ膜12の陰イオン交換膜22と陽イオン交換膜31とで仕切られた室が陰極側室36であり、陽イオン交換膜31と陰イオン交換膜32とで仕切られた室が中間室38であり、陰イオン交換膜32とバイポーラ膜13の陽イオン交換膜23とで仕切られた室が陽極側室37である。
【0050】
図4に示す電気透析装置を用いた本発明の廃棄電解液のリサイクル方法は、例えば、以下のようにして行うことができる。アルカリ二次電池の廃棄電解液を中間室38に供給し(矢印S)、陰極側室36に回収媒体液を供給する(矢印R)。陰極側室36に供給する回収媒体液は、上述の通りである。陽極側室37には、例えば、水等を供給する。この状態で陰極14と陽極15との間に所定の電圧を印加することにより電気透析を行い、陰極側室36からアルカリ水溶液を回収する(矢印T)。この場合、陽極側室37には、例えば、廃棄電解液中に含まれる炭酸カリウム等の塩を構成する共役塩基が陰イオン交換膜32を通って移動することから、例えば、酸等を回収できる(矢印Y)。
【0051】
図4では、陰極側室36、中間室38及び陽極側室37がそれぞれ1つずつ形成された電気透析装置を例にとり説明したが、陰極側室36、中間室38及び陽極側室17の数はこれに限定されるものではなく、陰極側室、中間室及び陽極側室は複数個形成されていても良い。陽極側室、中間室及び陰極側室の数は、それぞれ、例えば、1〜100個である。
【0052】
以下、実施例を用いて本発明をさらに説明する。
【実施例】
【0053】
電気透析装置は、バイポーラ膜及び陽イオン交換膜を備える図4に示す電気透析装置を使用した。陽極側室17に廃棄電解液(130g/L KOH、10g/L K2CO3、1ppm以下 浮遊物質(SS))を供給し、陰極側室16に純水を供給した。陽極室18及び陰極室19には純水をそれぞれ供給した。廃棄電解液の供給量(流量)は22.2m3/日とし、純水の供給量(流量)は14.4m3/日とした。液温を25〜30℃とし、24時間通電して電気透析を行った。電力量は50KW/hであった。電気透析後、陰極側室16から回収したアルカリ水溶液及び陽極側室17から回収した脱アルカリ液における水酸化カリウム濃度及び炭酸カリウム濃度をそれぞれ測定した。その結果を、陰極側室16から回収したアルカリ水溶液の回収量(流量)及び陽極側室17から回収した脱アルカリ液の回収量(流量)とあわせて下記表1に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
上記表1に示すように、陰極側室16から回収したアルカリ水溶液は炭酸カリウム濃度が0.1g/L以下であり、陽極側室17に供給した廃棄電解液における濃度(10g/L)の100分の1以下に低減されていた。したがって、陰極側室16から高純度の水酸化カリウム水溶液が回収できた。また、処理前の廃棄電解液に含まれていたカリウムの85%以上を処理後のアルカリ水溶液中に回収できた。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の廃棄電解液のリサイクル方法は、例えば、アルカリ二次電池の製造過程で排出される廃棄電解液の処理及びアルカリ二次電池の電解液の製造に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】図1は、本発明に使用する電気透析装置の一例を示す概略構成図である。
【図2】図2は、本発明のリサイクル装置の一例を示す概略構成図である。
【図3】図3は、本発明に使用する電気透析装置のその他の例を示す概略構成図である。
【図4】図4は、本発明に使用する電気透析装置のさらにその他の例を示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0058】
1・・・電気透析装置
10,11・・・陽イオン交換膜
12,13,20・・・バイポーラ膜
14・・・陰極
15・・・陽極
16・・・陰極側室
17・・・陽極側室
18・・・陰極室
19・・・陽極室
21,22・・・陽イオン交換膜
23,24・・・陰イオン交換膜
50・・・リサイクル装置
2・・・電気透析装置
25・・・廃棄電解液貯槽
26・・・回収媒体液貯槽
P1〜P6・・・パイプ
3・・・電気透析装置
31・・・陽イオン交換膜
32・・・陰イオン交換膜
36・・・陰極側室
37・・・陽極側室
38・・・中間室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ二次電池の製造過程から排出される廃棄電解液のリサイクル方法であって、
陽極と陰極との間に少なくとも2つのバイポーラ膜と少なくとも1つの陽イオン交換膜とを配置して、陽極側がバイポーラ膜で仕切られ陰極側が陽イオン交換膜で仕切られた陽極側室、及び陽極側が陽イオン交換膜で仕切られ陰極側がバイポーラ膜で仕切られた陰極側室を形成した電気透析装置において、前記陽極側室に前記廃棄電解液を供給し、前記陰極側室に回収媒体液を供給して電気透析を行うこと、及び、前記陰極側室からアルカリ水溶液を回収することを含む廃棄電解液のリサイクル方法。
【請求項2】
前記回収するアルカリ水溶液が、アルカリ二次電池の電解液として利用可能なアルカリ水溶液である、請求項1記載の廃棄電解液のリサイクル方法。
【請求項3】
前記アルカリ二次電池が、ニッケル・水素電池である、請求項1又は2に記載の廃棄電解液のリサイクル方法。
【請求項4】
前記廃棄電解液が水酸化カリウムを含み、回収される前記アルカリ水溶液が水酸化カリウムを含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の廃棄電解液のリサイクル方法。
【請求項5】
アルカリ二次電池の製造過程から排出される廃棄電解液のリサイクル方法であって、
陽極と陰極との間に少なくとも2つのバイポーラ膜、少なくとも1つの陽イオン交換膜及び少なくとも1つの陰イオン交換膜を配置して、陽極側がバイポーラ膜で仕切られ陰極側が陰イオン交換膜で仕切られた陽極側室、陽極側が陰イオン交換膜で仕切られ陰極側が陽イオン交換膜で仕切られた中間室、及び、陽極側が陽イオン交換膜で仕切られ陰極側がバイポーラ膜で仕切られた陰極側室を形成した電気透析装置において、前記中間室に前記廃棄電解液を供給し、前記陰極側室に回収媒体液を供給して電気透析を行うこと、及び、前記陰極側室からアルカリ水溶液を回収することを含む廃棄電解液のリサイクル方法。
【請求項6】
請求項1から4のいずれか一項に記載のアルカリ二次電池の廃棄電解液のリサイクル方法を行うための廃棄電解液リサイクル装置であって、
陽極と陰極との間にバイポーラ膜及び陽イオン交換膜が配置され、陽極側がバイポーラ膜で仕切られ陰極側が陽イオン交換膜で仕切られた陽極側室、及び陽極側が陽イオン交換膜で仕切られ陰極側がバイポーラ膜で仕切られた陰極側室が形成された電気透析装置と、
前記電気透析装置の陽極側室に供給する廃棄電解液を貯蔵するための廃棄電解液貯槽と、
前記電気透析装置の陰極側室に供給する回収媒体液を貯蔵するための回収媒体液貯槽とを備える、アルカリ二次電池の廃棄電解液のリサイクル装置。
【請求項7】
アルカリ二次電池の製造方法であって、
請求項1から5のいずれか一項に記載のアルカリ二次電池の廃棄電解液のリサイクル方法を用いてアルカリ水溶液を回収する工程を含むアルカリ二次電池の製造方法。
【請求項8】
アルカリ二次電池の製造方法であって、
請求項1から5のいずれか一項に記載のアルカリ二次電池の廃電解液のリサイクル方法を用いて回収されたアルカリ水溶液を使用して電解液を製造する工程を含むアルカリ二次電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−231238(P2009−231238A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−78609(P2008−78609)
【出願日】平成20年3月25日(2008.3.25)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】