説明

廃水処理装置及び廃水処理方法

【課題】 余剰汚泥の発生量を一層減容することができる廃水処理装置及び廃水処理方法を提供する。
【解決手段】廃水処理装置1は、被処理水を活性汚泥処理する活性汚泥処理槽10と、活性汚泥処理槽の汚泥を含む処理物を固液分離する固液分離槽20と、固液分離槽により固液分離された汚泥の一部を濃縮する汚泥濃縮手段30と、汚泥濃縮手段によって濃縮された汚泥である濃縮汚泥を一定時間滞留させる汚泥改質槽40と、汚泥改質槽内の濃縮汚泥を活性汚泥処理槽に返送する返送ラインと、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃水処理装置及び廃水処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば下水等の有機性被処理水を活性汚泥処理槽で生物処理すると余剰汚泥が生じ、この余剰汚泥の処分に多大なコストが必要とされるため、当該余剰汚泥の減容化を図る技術が種々提案されている。
【0003】
この汚泥減容化技術としては、発生した余剰汚泥を好気性消化、嫌気性消化等により生物学的に減容させる方法や、余剰汚泥を機械的破砕、熱処理、オゾン酸化等により物理化学的に減容させる方法や、このような生物学的方法と物理化学的方法とを組み合わせた方法がある。例えば、非特許文献1には、ミル破砕や超音波処理により可溶化・改質された処理物を活性汚泥処理槽に返送することで汚泥発生量を調整する技術が記載されている。
【非特許文献1】「汚泥量調整機構技術資料(案)」、社団法人地域資源循環技術センター(旧日本農業集落排水協会)、平成17年5月、p.4,p.52−54,p79−81。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のような汚泥減容化技術にあっては、汚泥の減容が十分では無い。
【0005】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、余剰汚泥の発生量を一層減容することができる廃水処理装置及び廃水処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題の解決のために、本発明者らは、鋭意研究を実施し、活性汚泥中の微生物を飢餓状態にして一定時間滞留させることによって、汚泥を改質できることを見出して本発明に至った。
【0007】
すなわち、本発明に係る廃水処理装置は、被処理水を活性汚泥処理する活性汚泥処理槽と、活性汚泥処理槽の汚泥を含む処理物を固液分離する固液分離槽と、固液分離槽により固液分離された汚泥の一部を濃縮する汚泥濃縮手段と、汚泥濃縮手段によって濃縮された汚泥である濃縮汚泥を一定時間滞留させる汚泥改質槽と、汚泥改質槽内の濃縮汚泥を活性汚泥処理槽に返送する返送ラインと、を備えている。
【0008】
上記構成では、固液分離槽により固液分離され汚泥濃縮手段で濃縮された濃縮汚泥を汚泥改質槽で一定時間滞留させる。これによって、汚泥改質槽内で濃縮汚泥中の微生物を飢餓状態にすることができるため、その濃縮汚泥を改質できる。上記廃水処理装置では、汚泥改質槽において改質された濃縮汚泥が返送ラインにより活性汚泥処理槽内に返送されるので、改質汚泥によって被処理水が活性汚泥処理されることになる。また、固液分離槽によって固液分離された汚泥を更に汚泥濃縮手段で濃縮して汚泥改質槽に投入しているので、廃水処理装置における系内の汚泥保持量が増え、結果として、系内の単位汚泥量当たりのBOD(Biochemical oxygen demand:生物化学的酸素要求量)負荷が低減する。
【0009】
以上のように、上記廃水処理装置では、BOD負荷が小さい状態で、被処理水を処理できるため、余剰汚泥の発生が一層抑制される。
【0010】
更に、本発明に係る廃水処理装置が有する汚泥改質槽は、濃縮汚泥の溶存酸素量が一定の目標値になるように制御することが好適である。この構成によれば、汚泥改質槽内の溶存酸素量(Dissolved oxygen:DO値)をほぼ一定値に保つことができる。
【0011】
更にまた、本発明に係る廃水処理装置が有する汚泥改質槽は、濃縮汚泥の溶存酸素量が1.0mg/L以下になるように制御することが好ましい。
【0012】
この構成によれば、汚泥改質槽内の溶存酸素量が1.0mg/L以下と低い値に制御されるので、汚泥中の微生物の飢餓状態が一層促進される。また、汚泥改質槽内の溶存酸素量を低い値に保ったまま一定時間滞留させるので、汚泥の沈降性に影響を及ぼす糸状性菌が含まれていたとしてもその糸状性菌を淘汰可能である。その結果、活性汚泥処理槽に返送される汚泥の沈降性が改善されるので、活性汚泥処理槽内のMLSS(Mixed Liquor Suspended Solids:混合液懸濁物質)濃度を高くすることができる。これにより、活性汚泥処理槽内の単位汚泥量当たりのBOD負荷が低くなるので、余剰汚泥の発生をより一層抑制できる。
【0013】
また、本発明に係る廃水処理装置が有する汚泥改質槽は、濃縮汚泥を曝気する曝気手段を有することが好適である。この構成によれば、汚泥改質槽内を曝気手段によって曝気することによって汚泥改質槽内の溶存酸素量を容易に制御できる。
【0014】
更に、汚泥改質槽が曝気手段を有する本発明に係る廃水処理装置では、汚泥改質槽は、曝気手段によって、濃縮汚泥に一定時間曝気を行った後、一定時間だけ曝気を中止することを繰り返すことが好ましい。
【0015】
この構成によれば、汚泥改質槽は、曝気手段によって、濃縮汚泥に一定時間曝気を行った後、一定時間だけ曝気を中止する間欠曝気を行うため、汚泥改質槽内の溶存酸素量を低い値に保つことが容易になる。これにより、前述したように、活性汚泥処理槽に返送される汚泥の沈降性が改善され、結果として、活性汚泥処理槽内のMLSS濃度が高くなると共に、単位汚泥量当たりのBOD負荷が低くなるので、余剰汚泥の発生をより一層抑制できる。
【0016】
更にまた、汚泥改質槽が曝気手段を有する本発明に係る廃水処理装置では、汚泥改質槽は、濃縮汚泥の溶存酸素量が第1の溶存酸素量以下のときに曝気手段によって曝気を開始し、濃縮汚泥の溶存酸素量が第1の溶存酸素量より高い第2の溶存酸素量以上のときに曝気手段による曝気を中止することが好適である。
【0017】
この構成では、汚泥改質槽は、濃縮汚泥の溶存酸素量が第1の溶存酸素量以下のときに曝気手段によって曝気を開始し、濃縮汚泥の溶存酸素量が第1の溶存酸素量より高い第2の溶存酸素量以上のときに曝気手段による曝気を中止するため、濃縮汚泥の溶存酸素量を第1の溶存酸素量と第2の溶存酸素量との間の値に制御することができる。従って、例えば、第2の溶存酸素量を低い値に設定しておくことで、容易に溶存酸素量を低い値に保つことができる。
【0018】
また、本発明に係る廃水処理装置が有する汚泥改質槽は、濃縮汚泥の酸化還元電位が一定の目標値になるように制御することが好ましい。この構成によれば、汚泥改質槽内の酸化還元電位をほぼ一定値に保つことができるため、汚泥改質槽内の溶存酸素量をほぼ一定の低い値に保つことができる。よって、前述したように、活性汚泥処理槽に返送される汚泥の沈降性が改善され、結果として、活性汚泥処理槽内のMLSS濃度が高くなると共に、単位汚泥量当たりのBOD負荷が低くなるので、余剰汚泥の発生をより一層抑制できる。
【0019】
また、本発明に係る廃水処理装置が有する汚泥改質槽は、濃縮汚泥の酸化還元電位が―200mV〜―50mVに制御することが好ましい。
【0020】
このように酸化還元電位を―200mV〜―50mVと低い値に制御することによって、結果として濃縮汚泥の溶存酸素量を低い値にすることができる。よって、前述したように、活性汚泥処理槽に返送される汚泥の沈降性が改善される。そのため、活性汚泥処理槽内のMLSS濃度が高くなると共に、単位汚泥量当たりのBOD負荷が低くなり、余剰汚泥の発生をより一層抑制できる。
【0021】
更に、汚泥改質槽が曝気手段を有する本発明に係る廃水処理装置では、汚泥改質槽は、濃縮汚泥の酸化還元電位が第1の酸化還元電位以下のときに曝気手段によって曝気を開始し、濃縮汚泥の酸化還元電位が第1の酸化還元電位より高い第2の酸化還元電位以上のときに曝気手段による曝気を中止することを繰り返すことが好ましい。
【0022】
この構成では、汚泥改質槽は、濃縮汚泥の酸化還元電位を第1の酸化還元電位と第2の酸化還元電位との間の値に制御することができる。そのため、第2の酸化還元電位を、例えば、濃縮汚泥の溶存酸素量が低くなる値に設定しておくことで、濃縮汚泥の溶存酸素量を低い値に保つことができる。
【0023】
更にまた、本発明に係る廃水処理装置の汚泥改質槽における濃縮汚泥の滞留時間(HRT:Hydraulic retention time)は1〜4日とすることが好ましい。この場合、廃水処理方法を実施するための廃水処理装置の系全体で保持するMLSS(Mixed Liquor Suspended Solids:混合液懸濁物質)を一層多くすることができ、かつHRTが長すぎて処理量が低下することがない。
【0024】
また、本発明に係る廃水処理方法は、被処理水を活性汚泥処理槽において活性汚泥処理する活性汚泥処理工程と、活性汚泥処理工程での活性汚泥処理によって発生する処理物であって活性汚泥処理槽の汚泥を含む処理物を固液分離する固液分離工程と、固液分離工程により処理物から固液分離された汚泥を濃縮する汚泥濃縮工程と、汚泥濃縮工程において濃縮された汚泥である濃縮汚泥を一定時間滞留する滞留工程と、滞留工程を経た濃縮汚泥を活性汚泥処理槽に返送する返送工程と、を含んでいる。
【0025】
この場合、固液分離工程により固液分離され汚泥濃縮工程で濃縮された濃縮汚泥を滞留工程で一定時間滞留させることで、汚泥内の微生物を飢餓状態にすることができる。そして、その改質された濃縮汚泥が返送工程により活性汚泥処理槽内に返送されるので、改質汚泥によって被処理水を活性汚泥処理できる。また、固液分離工程によって固液分離された汚泥を更に汚泥濃縮工程で濃縮して滞留工程で滞留させているので、上記廃水処理方法を実施するための廃水処理装置における系内の汚泥保持量が増え、結果として、系内の単位汚泥量当たりのBOD負荷が低減する。
【0026】
このように、上記廃水処理方法では、BOD負荷が小さい状態で、被処理水を処理可能であるので、余剰汚泥の発生が一層抑制されることになる。
【発明の効果】
【0027】
本発明の廃水処理装置及び廃水処理方法によれば、余剰汚泥の発生量を一層減容することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態に係る廃水処理装置および廃水処理方法について添付図面を参照して説明する。なお、同一の構成要素は同一の符号で示し、重複する説明は省略する。
【0029】
図1は、本発明の実施形態に係る廃水処理装置の構成を示す図である。廃水処理装置1により処理される廃水は、例えば、下水、農業集落排水、漁業集落排水、民間企業排水、団地排水等の有機性排水である。
【0030】
図1に示すように、廃水処理装置1は、前処理施設50から廃水供給ラインL1を介して供給された被処理水としての廃水を活性汚泥を利用して活性汚泥処理する活性汚泥処理槽10と、活性汚泥処理槽10から処理物移送ラインL2を介して供給された汚泥を含む処理物を固液分離する固液分離槽20とを備えている。また、廃水処理装置1は、固液分離槽20により固液分離された汚泥を排出するための分離固形分移送ラインL3を備えており、更に、分離固形分移送ラインL3に接続されており、分離固形分移送ラインL3で移送される汚泥の一部を引き抜いて活性汚泥処理槽10に返送する第1汚泥返送ポンプP1及び第1汚泥返送ラインL4を備えている。
【0031】
更に、廃水処理装置1は、固液分離槽20により固液分離された汚泥のうち分離固形分移送ラインL3から汚泥導入ラインL5及び汚泥導入ポンプP2によって引き抜かられた汚泥を濃縮する汚泥濃縮装置(汚泥濃縮手段)30と、汚泥濃縮装置30で生成された濃縮汚泥を改質する汚泥改質槽40とを備える。廃水処理装置1において、分離固形分移送ラインL3で移送される汚泥のうち、第1汚泥返送ラインL4及び汚泥導入ラインL5によって引き抜かれていない汚泥は、余剰汚泥排出ポンプP3及び余剰汚泥排出ラインL6を介して余剰汚泥として排出される。
【0032】
活性汚泥処理槽10は、送風機(曝気手段)11、流量計12及び攪拌機13を有し、これらにより活性汚泥処理槽10内の汚泥を曝気し攪拌することができる。また活性汚泥処理槽10は、DO計14とORP計(酸化還元電位検出計)15とを有し、これらにより活性汚泥処理槽10内の溶存酸素量と酸化還元電位を測定して、活性汚泥処理槽10内の溶存酸素量を所定値に制御する。
【0033】
固液分離槽20は、活性汚泥処理槽10から流出した汚泥を含む処理物を汚泥と処理水とに固液分離するもので、回転駆動されるスクレーパ21を有している。このスクレーパ21は、固液分離槽20の底部にたまった汚泥を中央に集めて排出し、この汚泥は分離固形分移送ラインL3により移送される。また、分離された処理水は、処理水排出ラインL7を介して排出される。
【0034】
汚泥濃縮装置30は、分離固形分移送ラインL3から汚泥導入ラインL5及び汚泥導入ポンプP2によって引き抜かれた汚泥を濃縮する。汚泥濃縮装置30で濃縮する方法は、図1に示したような重量濃縮槽を利用した重力濃縮法が例示されるが、汚泥を濃縮できれば特に限定されない。例えば、重力ろ過濃縮法、常圧浮上濃縮法、加圧浮上濃縮法、遠心濃縮法、ベルト濃縮法、ドラム濃縮法及び膜分離などによって濃縮してもよい。
【0035】
汚泥濃縮装置30に導入された汚泥から分離された液体成分である分離液は、分離液返送ラインL8及び分離液返送ポンプP4によって活性汚泥処理槽10若しくはその前段に返送される。なお、分離液は、固液分離槽20に返送されていればよく、例えば、処理物移送ラインL2に返送することもできる。
【0036】
また、汚泥濃縮装置30で生じた濃縮汚泥は、濃縮汚泥移送ラインL9及び濃縮汚泥移送ポンプP5によって汚泥改質槽40に投入される。
【0037】
汚泥改質槽40は、汚泥濃縮装置30から投入される濃縮汚泥を、低い溶存酸素状態(以下、「低溶存酸素状態」とも称す)で一定時間(例えば、1〜4日)滞留させるものである。汚泥改質槽40の容量は、活性汚泥処理槽10の容量の1〜1/4が好ましい。
【0038】
汚泥改質槽40は、活性汚泥処理槽10と同様に、送風機(曝気手段)41、流量計42、攪拌機43、DO計44、及びORP計45を有しており、これらを利用することによって、汚泥改質槽40内を、溶存酸素量が0より大きく1.0mg/L以下、好ましくは0.1〜0.5mg/L、酸化還元電位が―200〜―50mVの低い溶存酸素状態に制御する。
【0039】
汚泥改質槽40内を上記の低溶存酸素状態に制御することは、例えば溶存酸素量の目標値を0.2mg/Lに設定し、送風機41、流量計42、攪拌機43及びDO計44から構成されるPID制御系により溶存酸素量を一定の目標値である0.2mg/Lに制御することによって実現することができる。
【0040】
あるいは溶存酸素量の制御は、例えば、DO計44で検出される溶存酸素量が0.1mg/L(第1の溶存酸素量)のときは、送風機41によって曝気を開始し、DO計44で検出される溶存酸素量が0.5mg/L(第2の溶存酸素量)以上のときは、送風機41を停止して溶存酸素量が0.1mg/Lになるまで攪拌のみを継続することを繰り返すいわゆる間欠曝気を行うことによっても実現することができる。あるいは、DO計44で検出される溶存酸素量を間欠曝気運転の基準とせず、例えば5分間に一定時間(例えば10〜60秒)だけ曝気し、残りの時間は攪拌だけ実施するようにしても良い。このようにすれば、設備構成等の単純化を図ることができる。
【0041】
また、ORP計45で測定される酸化還元電位に基づいて汚泥改質槽40内の溶存酸素量を制御することもできる。この場合も、例えば酸化還元電位の目標値を―100mVに設定し、PID制御系によって酸化還元電位を一定の目標値である―100mVに制御することにより、結果として汚泥改質槽40内の溶存酸素量を制御することができる。あるいは、例えばORP計45で検出される酸化還元電位が―200mV(第1の酸化還元電位)のときに曝気を開始し、―50mV(第2の酸化還元電位)のときに曝気を中止して攪拌のみを実施することを繰り返す間欠曝気を行うことによって、汚泥改質槽40内の酸化還元電位を制御し、結果として溶存酸素量を制御することができる。
【0042】
上記溶存酸素量及び酸化還元電位の目標値は任意に設定できる。また、曝気の開始および中止の設定値(第1及び第2の溶存酸素量、第1及び第2の酸化還元電位)は、第1の溶存酸素量及び第1の酸化還元電位に対して第2の溶存酸素量及び第2の酸化還元電位が高いという条件の下で任意に設定することができる。更に、一定時間曝気し、一定時間曝気を停止する間欠曝気運転での曝気を実施している時間及び曝気を中止している時間も任意に設定可能である。
【0043】
なお、低溶存酸素状態を保つために上記のように間欠曝気をすると、部分的に嫌気状態になる場合があり、この嫌気条件下では汚泥の嫌気分解が生じる。この分解により生じた有機物は無酸素条件下では脱窒反応に供され、この場合にはpH変動が小さく、好気的条件下で好気的分解に供されることになる。
【0044】
汚泥改質槽40では、上記のように、汚泥改質槽40内を低溶存酸素状態に制御しながら濃縮汚泥を例えば1〜4日間滞留させることによって、濃縮汚泥を改質する。この汚泥改質槽40によって汚泥を改質できることを実験結果に基づいて説明する。
【0045】
本発明者らは、固液分離槽20で分離された汚泥を、微生物の養分となる有機物を投与せずに長時間曝気して飢餓状態にした後、その汚泥に廃水を混合した。この場合、廃水中の有機物(基質)が廃水中から取り除かれる速度は、汚泥を飢餓状態にしない場合に比べて約30%増加していた。一方、飢餓状態を経ており廃水が混合された汚泥の単位有機物量当たりの汚泥転換率は、飢餓状態を経ていない汚泥の場合に比べてほぼ同等以下となっていた。
【0046】
また、本発明者らは、汚泥改質槽40において、汚泥を低溶存酸素状態で一定時間滞留させることで、絶対好気性菌と絶対嫌気性菌の生育を防ぐことが可能であり、偏性好気性菌である糸状性菌が減少することを確認した。糸状性菌は、汚泥の沈降性を低減する傾向にあるので、上記のように糸状性菌が減少することで、汚泥の沈降濃縮性が改善されることになる。
【0047】
従って、上記のように汚泥改質槽40で、外部から新たな有機物(基質)を投入することなく、低溶存酸素状態で一定時間滞留させて飢餓状態にすることによって、導入された汚泥を沈降性の優れた汚泥に改質できることになる。汚泥の改質するための汚泥の滞留時間としては、廃水処理装置1の系全体で保持するMLSSを一層多くすることができ、かつHRTが長すぎることによる処理量の低下を低減する観点から1〜4日が好ましいがこれに限定されない。例えば、滞留時間は、0.5〜10日の範囲内であればよい。
【0048】
廃水処理装置1では、汚泥改質槽40で一定時間滞留され改質された汚泥(以下、「改質汚泥」とも称す)は、第2汚泥返送ラインL10及び第2汚泥返送ポンプP6によって活性汚泥処理槽10に返送される。
【0049】
なお、第1汚泥返送ラインL4によって活性汚泥処理槽10に返送される汚泥の量と、第2汚泥返送ラインL10によって活性汚泥処理槽10に返送される改質汚泥の量との合計返送量は、活性汚泥処理槽10のMLSS濃度が一定となるようにされる。これらの返送量は、第1汚泥返送ポンプP1、汚泥導入ポンプP2及び第2汚泥返送ポンプP6を連続的または間欠的に作動させることにより、適宜変更することができる。
【0050】
次に、廃水処理装置1を利用した廃水処理方法について説明する。
【0051】
廃水供給ラインL1を通して活性汚泥処理槽10に流入した廃水は、活性汚泥処理槽10において活性汚泥処理される(活性汚泥処理工程)。活性汚泥処理槽10によって廃水が活性汚泥処理されて生じる処理水及び活性汚泥処理槽10から流出した汚泥を含む処理物は、処理物移送ラインL2を通して固液分離槽20に投入される。
【0052】
固液分離槽20に投入された処理物は固液分離される(固液分離工程)。そして、固液分離によって得られる液体成分である処理水は、処理水排水ラインL7を通して排出され、固液分離されて得られる汚泥は、分離固形分移送ラインL3を介して排出される。分離固形分移送ラインL3を通して排出された汚泥の一部は、第1汚泥返送ラインL4を通して活性汚泥処理槽10に返送され、第1汚泥返送ラインL4に引き抜かれなかった汚泥の一部は、汚泥導入ラインL5を通して汚泥濃縮装置30に投入される。固液分離槽20で分離された汚泥のうち、第1汚泥返送ラインL4及び汚泥導入ラインL5に引き抜かれなかった汚泥は、余剰汚泥として余剰汚泥排出ラインL6を通して排出される。
【0053】
汚泥導入ラインL5を通して汚泥濃縮装置30に投入された汚泥は、汚泥濃縮装置30で濃縮され(汚泥濃縮工程)、汚泥の濃縮によって生じる液体成分である分離液は分離液返送ラインL8を通して活性汚泥処理槽10に返送される。また、汚泥濃縮装置30における汚泥の濃縮で生じた濃縮汚泥は、濃縮汚泥移送ラインL9を通して汚泥改質槽40に投入される。
【0054】
この汚泥改質槽40に投入された濃縮汚泥は、間欠曝気運転等により低溶存酸素状態で一定期間滞留させられる(滞留工程)。これにより、汚泥改質槽40内の濃縮汚泥中の微生物は飢餓状態となり、濃縮汚泥中の糸状性菌も淘汰される。その結果として、汚泥改質槽40中の濃縮汚泥が、沈降性の向上した汚泥に改質されて改質汚泥になる。そして、この改質汚泥が第2汚泥返送ラインL10を通して活性汚泥処理槽10に返送される(汚泥返送工程)。よって、活性汚泥処理槽10内に改質汚泥を保持することができるので、改質汚泥によって廃水を処理することができる。
【0055】
上記のように、廃水処理装置1及びそれを利用した廃水処理方法では、改質汚泥によって被処理水としての廃水を処理することができる。その結果、汚泥発生量が減少するので、余剰汚泥量が一層低減する。例えば、廃水が下水の場合、余剰汚泥の発生量を0.2〜0.3(kg―SS/kg―BOD)程度まで低減可能であり、従来比50〜80%程度削減可能である。また、改質汚泥では、沈降性も改善されているので、汚泥の沈降分離に関する維持管理が容易になる。なお、廃水に砂などの無機性物質が少ない場合、0.1〜0.3程度まで低減可能である。
【0056】
また、汚泥改質槽40を設けているので、廃水処理装置1の系内に保持されるMLSS量が増大する。更に、汚泥改質槽40には、汚泥濃縮装置30によって濃縮された汚泥が投入されていることから、系内の汚泥保持量を従来の1.5倍〜5倍に増やすことができている。これにより、系内の単位汚泥量当たりのBOD負荷を汚泥濃縮装置30を用いない場合の2/3〜1/5に下げることができる。その結果、系全体でみた場合のF/M比(kg―BOD/kg―MLSS)を小さくできるため、余剰汚泥の発生量が一層減少する。ここで、F/M比とは、処理される廃水中の有機物量と活性汚泥量との比である。
【0057】
また、汚泥改質槽40において溶存酸素濃度は低いが濃縮汚泥を酸素のある状態にしているので、内生呼吸による汚泥の自己分解(自己消化)が進む。そのため、減容化され沈降性が改善された汚泥が活性汚泥処理槽10に返送される。よって、活性汚泥処理槽10内のMLSS濃度が更に向上し、活性汚泥処理槽10内における単位汚泥量当りのBOD負荷がより一層低減する。
【0058】
また、汚泥濃縮装置30を設けていることによって、活性汚泥処理槽10に返送される汚泥の濃度をより高くすることができる。例えば、固液分離槽20で分離された汚泥の濃度は通常例えば3000mg/L〜6000mg/Lであり、従来は、この濃度の汚泥が活性汚泥処理槽10に返送されていた。これに対して、上記廃水処理装置1では、汚泥濃縮装置30を経ることによって、第2汚泥返送ラインL10を通して返送される汚泥の濃度を10000mg/L〜40000mg/Lとすることができる。よって、活性汚泥処理槽10内のMLSS濃度及びMLSS量を更に増大させることが可能であり、活性汚泥処理槽10内における単位汚泥量当りのBOD負荷が低くなり、余剰汚泥をより一層低減することが可能となっている。
【0059】
また、汚泥改質槽40には、前述したように汚泥濃縮装置30で濃縮された汚泥が投入されているので、汚泥改質槽40内のMLSS濃度及びMLSS量をより一層大きくできている。よって、固液分離槽20によって固液分離された汚泥を効率的に改質できる。また、濃縮汚泥を汚泥改質槽40に投入するため、汚泥改質槽40の小型化を図ることができる。その結果、廃水処理装置1の小型化を図ることも可能である。
【0060】
また、本実施形態の廃水処理装置1及びそれを利用した廃水処理方法では余剰汚泥の減容に伴う水質悪化を避けることもできる。更に、余剰汚泥の発生量が低減されることにより、余剰汚泥の処理・処分コストを低減することも可能である。
【0061】
尚、本発明の廃水処理装置および廃水処理方法は、上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【0062】
例えば、図1における汚泥改質槽40は複数室に分割されていても良い。また、汚泥改質槽40の水深を変更できるように水深計等を設け、汚泥改質槽40内の滞留時間を変更できる機能を持たせた構造としても良い。
【0063】
また、廃水処理装置1では、第1汚泥返送ラインL4を設けずに、活性汚泥処理槽10に返送する汚泥全てを汚泥濃縮装置30に導入して、汚泥改質槽40で改質した後に活性汚泥処理槽10に返送することもできる。ただし、第1汚泥返送ラインL4を設けることによって、汚泥改質槽40の容量を小さくすることが可能であり、廃水処理装置1の小型化という観点からは第1汚泥返送ラインL4を設けることが好ましい。
【0064】
また、汚泥改質槽40は、曝気手段としての送風機41や、流量計を有するとしたが、汚泥改質槽40は、濃縮汚泥中を一定時間滞留できればよい。例えば、送風機41による曝気を行わなくても汚泥改質槽40内の濃縮汚泥中の好気性微生物が死滅しないように滞留すればよい。なお、汚泥改質槽40は、攪拌機を有しなくてもよいが、攪拌機によって濃縮汚泥を攪拌することで、効果的に濃縮汚泥に酸素を供給できたり、汚泥の堆積及び固着化を防止する観点から攪拌機を有することは好ましい。
【実施例】
【0065】
以下、上記実施形態の効果を確認すべく、本発明者が実施した実施例及び比較例について述べる。本発明は、以下の実施例に限定されない。
【0066】
実施例として、図1に示した廃水処理装置1において、汚泥改質槽40の運転条件を、汚泥改質槽40内の溶存酸素量が0.2mg/Lになるように制御しながら濃縮汚泥の滞留時間を1〜4日として、廃水処理を実施した。
【0067】
また、比較例として図2に示すように、汚泥濃縮装置及び汚泥改質槽を設けない廃水処理装置100を利用して廃水処理を実施した。廃水処理装置100の運転条件は、廃水処理装置1の場合のように固液分離槽20で固液分離された汚泥を濃縮し改質しない点以外は、廃水処理装置1の運転条件と同様とした。
【0068】
廃水処理装置1,100での廃水処理結果を比較すると、廃水処理装置1を利用した方が、比較例としての廃水処理装置100を利用した場合よりも系全体での汚泥減溶率が60〜80%となっていた。なお、汚泥減容率=(1―実施例発生固形物量/比較例発生固形物量)×100である。実施例の廃水処理装置1においては、比較例の廃水処理装置100に比べて発生固形物量(余剰汚泥量)が大幅に減少していることが判る。
【0069】
また、廃水処理装置1では、廃水処理装置100に比べて活性汚泥処理槽10内の汚泥容積指標SVIが230から120に改善されており、廃水処理装置1の方が、廃水処理装置100の場合よりも沈降性の高い汚泥を生成できていることが分かる。その結果、廃水処理装置1では、MLSS濃度のより高い状態で運転できる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明に係る廃水処理装置の一実施形態の構成の概略を示す概略構成図である。
【図2】比較のための廃水処理装置の一実施形態の構成の概略を示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0071】
1…廃水処理装置、10…活性汚泥処理槽、20…固液分離槽、30…汚泥濃縮装置(汚泥濃縮手段)、40…汚泥改質槽、41…送風機(曝気手段)、L10…第2汚泥返送ライン(返送ライン)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理水を活性汚泥処理する活性汚泥処理槽と、
前記活性汚泥処理槽の汚泥を含む処理物を固液分離する固液分離槽と、
前記固液分離槽により固液分離された汚泥の一部を濃縮する汚泥濃縮手段と、
前記汚泥濃縮手段によって濃縮された汚泥である濃縮汚泥を一定時間滞留させる汚泥改質槽と、
前記汚泥改質槽内の前記濃縮汚泥を前記活性汚泥処理槽に返送する返送ラインと、
を備えた廃水処理装置。
【請求項2】
前記汚泥改質槽は、前記濃縮汚泥の溶存酸素量が一定の目標値になるように制御する、請求項1に記載の廃水処理装置。
【請求項3】
前記汚泥改質槽は、前記濃縮汚泥の溶存酸素量が1.0mg/L以下になるように制御する、請求項1又は2に記載の廃水処理装置。
【請求項4】
前記汚泥改質槽は、前記濃縮汚泥を曝気する曝気手段を有する、請求項1〜3の何れか一項に記載の廃水処理装置。
【請求項5】
前記汚泥改質槽は、前記曝気手段によって、前記濃縮汚泥に一定時間曝気を行った後、一定時間だけ曝気を中止することを繰り返す、請求項4に記載の廃水処理装置。
【請求項6】
前記汚泥改質槽は、前記濃縮汚泥の溶存酸素量が第1の溶存酸素量以下のときに前記曝気手段によって曝気を開始し、前記濃縮汚泥の溶存酸素量が前記第1の溶存酸素量より高い第2の溶存酸素量以上のときに前記曝気手段による曝気を中止する、請求項4に記載の廃水処理装置。
【請求項7】
前記汚泥改質槽は、前記濃縮汚泥の酸化還元電位が一定の目標値になるように制御する、請求項1〜3の何れか一項に記載の廃水処理装置。
【請求項8】
前記汚泥改質槽は、前記濃縮汚泥の酸化還元電位が―200mV〜―50mVに制御する、請求項1〜3の何れか一項に記載の廃水処理装置。
【請求項9】
前記汚泥改質槽は、前記濃縮汚泥の酸化還元電位が第1の酸化還元電位以下のときに前記曝気手段によって曝気を開始し、前記濃縮汚泥の酸化還元電位が前記第1の酸化還元電位より高い第2の酸化還元電位以上のときに前記曝気手段による曝気を中止する、請求項4に記載の廃水処理装置。
【請求項10】
前記汚泥改質槽での前記濃縮汚泥の滞留時間が1〜4日である、請求項1〜9の何れか一項に記載の廃水処理装置。
【請求項11】
被処理水を活性汚泥処理槽において活性汚泥処理する活性汚泥処理工程と、
前記活性汚泥処理工程での前記活性汚泥処理によって発生する処理物であって前記活性汚泥処理槽の汚泥を含む処理物を固液分離する固液分離工程と、
前記固液分離工程により前記処理物から固液分離された汚泥を濃縮する汚泥濃縮工程と、
前記汚泥濃縮工程において濃縮された汚泥である濃縮汚泥を一定時間滞留する滞留工程と、
前記滞留工程を経た前記濃縮汚泥を前記活性汚泥処理槽に返送する返送工程と、
を含む廃水処理方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−275846(P2007−275846A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−109059(P2006−109059)
【出願日】平成18年4月11日(2006.4.11)
【出願人】(507036050)住友重機械エンバイロメント株式会社 (88)
【Fターム(参考)】