説明

延長床版の設計方法

【課題】延長床版の設計に際して、必要な強度を備えつつコストダウンを図る。
【解決手段】延長床版は複数のプレキャスト製コンクリート版を接続してなり、延長床版の構造をコンクリート舗装版としての強度にて構成する。延長床版をコンクリート舗装版としての強度にて構成する際は、舗装下面の路盤の支持力をばねとして考え、輪荷重によって上記コンクリート版が変形したときに該コンクリート版内に発生する応力を算出するとともに、温度変化により該コンクリート版の表面と裏面との温度差によって該コンクリート版内に発生するそり拘束応力を算出し、前記輪荷重により発生する応力と、温度変化により発生するそり拘束応力を合成して合成応力σcを算定し、該合成応力σcから断面力Mに換算した後に、コンクリートと鉄筋との応力度を検討する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は延長床版の設計方法に関するものであり、特に、コンクリート舗装版としての強度にて構成するようにした延長床版の設計方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、橋桁の温度変化による伸縮を吸収するために、橋桁と橋台との間に伸縮装置を設けている。伸縮装置が橋桁と橋台との隙間にあるため、車両が通過する際にショックが発生して乗員に不快感を与えるとともに、騒音及び振動の発生による環境悪化が問題となる。
【0003】
この不具合を解消するために、本願出願人は、土工部側にプレキャストコンクリート製の底版を配置し、該底版の一端部を橋台に受けさせるとともに、該底版の上に橋梁側から土工部側へ延設されるプレキャストコンクリート製の延長床版を配置し、土工部側に伸縮装置を設けた工法を提案している(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−084280号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1記載の発明は、橋梁床版を延長して伸縮装置を土工部側へ移設したことにより、通過車両からの衝撃が緩和されて振動や騒音の発生を低減することができる。該延長床版の構造は橋梁床版を延長するという考えに基づき、橋梁床版の強度にて構成されている。橋梁床版は橋台や橋脚の間に架設されて、局所的な何点かの箇所で支持されるので、コンクリートの厚さや配筋もそれに耐えうるように設計される。延長床版の下面には底版及び地盤が存在して延長床版を支持しているにも拘らず、延長床版が橋梁床版としての強度にて設計されるため、必要以上の強度を備えた構成となり、コストアップの要因となっている。
【0005】
そこで、延長床版の設計に際して、必要な強度を備えつつコストダウンを図るために解決すべき技術的課題が生じてくるのであり、本発明はこの課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上記目的を達成するために提案されたものであり、土工部側に配置された底版の上に橋梁側の端部から土工部側へ延設されて土工部側に伸縮装置を設けた延長床版であって、該延長床版はコンクリート版からなり、該延長床版の構造をコンクリート舗装版としての強度にて構成することを特徴とする延長床版の設計方法を提供する。
【0007】
また、上記延長床版は複数のコンクリート版を接続してなり、該延長床版をコンクリート舗装版としての強度にて構成する際は、延長床版下面の支持力をばねとして考え、輪荷重によって上記コンクリート版が変形したときに該コンクリート版内に発生する応力を算出するとともに、温度変化により該コンクリート版の表面と裏面との温度差によって該コンクリート版内に発生するそり拘束応力を算出し、前記輪荷重により発生する応力と、温度変化により発生するそり拘束応力を合成して合成応力σcを算定し、該合成応力σcから断面力Mに換算した後に、コンクリートと鉄筋との応力度を検討する延長床版の設計方法を提供する。
【0008】
また、上記輪荷重の載荷箇所は、コンクリート版の中央部と、コンクリート版の最外縁
部と、隣接するコンクリート版同士の継手近傍部とし、それぞれの部分で応力度を検討する延長床版の設計方法を提供する。
【0009】
また、上記コンクリート版下面の路盤の支持力係数は、直径75cmの載荷版での平板載荷試験値K75とする延長床版の設計方法を提供する。
【0010】
また、上記合成応力σcは、コンクリート版の温度上昇時は輪荷重により発生する応力と温度変化により発生するそり拘束応力を加算して算定し、温度下降時は輪荷重により発生する応力にて算定する延長床版の設計方法を提供する。
【0011】
また、上記断面力Mは、合成応力σcから断面係数Zを用いて換算し、全断面有効にて算定する延長床版の設計方法を提供する。
【0012】
また、上記コンクリート版に発生する軸力Nを算定する延長床版の設計方法を提供する。
【0013】
上記構成によれば、延長床版の構造をコンクリート舗装版としての強度にて設計し、延長床版を構成している個々のプレキャスト製コンクリート版の幅や厚さなどの寸法、及び、鉄筋の種類や設置本数などの配筋は、コンクリート舗装版と同じ設計にて構成される。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、上記構成にて延長床版をコンクリート舗装版としての強度にて設計するので、従来の橋梁床版としての設計と比較して、部材断面を薄く構成することができ、配筋も簡素化することができるため、延長床版の設計に際して、必要な強度を備えつつコストダウンを図ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明に係る延長床版の設計方法について、好適な実施例をあげて説明する。延長床版の設計に際して、必要な強度を備えつつコストダウンを図るという目的を、延長床版の構造をコンクリート舗装版としての強度にて設計することにより実現した。
【実施例1】
【0016】
図1は橋梁部付近に施工された延長床版の断面図であり、橋梁部10を形成している橋桁11は支承12を介して橋台13に載置され、橋桁11の上に橋梁床版14が配置されている。土工部15は締め固めた盛土16の上に底版17を配置し、該底版17の一端部を橋台13の上面まで延設して緩衝ゴム18を介してアンカーボルト19にて固定する。該底版17には所々にグラウト注入孔20が設けられ、ジャッキなどによって底版17の高さ調整を行った後に、このグラウト注入孔20からグラウト材を注入して盛土16との隙間へ充填する。
【0017】
底版17の上には延長床版21が配置され、該延長床版21の橋梁部10側の一端部は緩衝ゴム22を介して前記橋梁床版14の上面に載置されている。そして、該延長床版21の一端部に埋設されているヒンジ構造(本実施例ではメナーゼヒンジ)23の突出部分に現場打ちコンクリート24を打設して、延長床版21と橋梁床版14とが一体的に接続される。該延長床版21の他端部はコッター式継手26を介して着脱式床版27の一端部に接続されている。該着脱式床版27には伸縮装置28が設けられ、該着脱式床版27の他端部側はアンカーボルト29で前記底版17に固定されている。そして、前記延長床版21の上面には橋梁部10から連続的に舗装面30が施工されている。
【0018】
前記底板17及び延長床版21は、それぞれ複数のプレキャスト鉄筋コンクリート版を
接続してなり、底板17と延長床版21との接触面は極めて平滑に形成されている。橋梁部10側の温度変化で橋桁11が伸び縮みしたときは、橋梁床版14に接合された延長床版21が橋梁床版14に押し引きされて底版17の上面を滑動し、橋桁11の伸び縮みが前記伸縮装置28にて吸収される。
【0019】
次に、前記延長床版21の設計方法について説明する。図2は延長床版の設計方法のフローチャートであり、先ず準備作業として設計条件を整理し、キックアップ量による延長床版の長さを決定する。
【0020】
底版の検討に関しては、先ず踏掛版として或いは滑面形成を目的とした版としての検討により、底版の厚さ、基本配筋を決定する。構造部材としての検討は、壁高欄車両衝突時の検討及びコッター配置間隔を検討する。プレキャスト製コンクリート版吊込時等施工時の検討としては、リフトアップ時の検討を行う。そして、底版固定用アンカーを検討する。
【0021】
延長床版、着脱式床版の検討に関しては、本発明では延長床版の設計を橋梁床版ではなくコンクリート舗装版として検討して基本配筋を決定する。構造部材としての検討としては、遊間部での応力検討及び壁高欄車両衝突時の検討、コッター配置間隔を検討する。そして、底版と同様にプレキャスト製コンクリート版吊込時等施工時の検討を行う。着脱式床版の固定側アンカーボルトの検討としては、アンカーボルト及びインサートの検討を行う。
【0022】
橋梁接合部の検討に関しては、ヒンジ構造の一例としてメナーゼヒンジを使用するものとし、遊間の検討、メナーゼ部の検討、地震時の検討などが必要である。
§1設計条件
(1)設計方法
道路橋示方書に準拠し、RC解析の許容応力度設計法により設計を行う。
(2)使用材料
使用材料の一例を表1に示す。
【0023】
【表1】

【0024】
(3)諸物理定数
鉄筋コンクリートの諸物理定数の一例を表2に示す。
【0025】
【表2】

【0026】
鉄筋のヤング係数は、Es=2.0×105(N/mm2)
コッター式継手(H型金物)のヤング係数は、Eco=1.7×105 (N/mm2)
(4)荷重条件
4.1活荷重
活荷重は、B活荷重(T−25)とする。図3(a)は図中左右方向に橋軸方向を示し、図3(b)は図中左右方向に橋軸直角方向を示す。
【0027】
4.2死荷重
死荷重は、鉄筋コンクリートγcとアスファルト舗装γaの荷重値の一例を表3に示す。
【0028】
【表3】

【0029】
(5)許容応力度
各使用材料の許容応力度の一例を表4に示す。
【0030】
【表4】

【0031】
許容応力度の割増し係数の一例を表5に示す。
【0032】
【表5】

【0033】
(6)前提条件
当該延長床版は、発注者の意向及び橋梁の諸条件により、以下のような前提で設計を行うものとする。
「延長床版長」
橋梁端部に設置される伸縮装置が、土工部側へ移動した距離をさす。
「キックアップ量」
橋梁端部において、活荷重等によるたわみによって発生する橋梁端部の回転による跳ね上がり量(浮き上がり量)をさす。本発明では、最大値で+0.002radをもって検討する。
「橋梁移動量」
橋梁移動量は、橋梁温度伸縮及び地震動レベル1時の移動量によって決定され、その値の中で一番大きな数値から伸縮装置を決定する。
【0034】
橋梁の伸縮量の値の一例を表6に示す。
【0035】
【表6】

【0036】
上記値により、延長床版に設置する伸縮装置は、橋軸方向±100.6mmの伸縮量に対応する伸縮装置とする。
「地震力」
地震時、橋梁と延長床版では異なる動き方をすると考えられ。延長床版が橋梁に無理な負担を強いないために、橋梁と延長床版を接合しているメナーゼヒンジを地震動レベル2時には降伏するように設計する。橋梁の地震時に発生する力の一例を表7に示す。
【0037】
【表7】

【0038】
(7)構造細目
7.1形状及び部材寸法
プレキャスト製コンクリート版の版厚は下記の条件を満たすものとする。
【0039】
(1)最小全厚 160mm以上
(2)コッター式継手仕様に伴う必要版厚 200mm以上
上記の条件から、プレキャスト製コンクリート版の版厚を200mm以上とする。延長床版の版厚はt=200mm、底版の版厚は踏掛版の設計により決定する。
【0040】
7.2最小鉄筋量
部材には、その断面積の0.15%以上の付着力のある鋼材を配置する。
【0041】
鉄筋コンクリート構造に配置する軸方向引張主鉄筋の断面積は次式により決定する。
【0042】
st≧0.005bw・d
ただし、せん断力が作用する方向の厚さが薄く、斜引張鉄筋を配置することができない部材については次式により決定する。
【0043】
st≧0.01bw・d
ここで、Ast:軸方向引張主鉄筋の断面積(mm2)
w :けたのウエブ厚(mm)
d :有効厚(mm)
7.3最小かぶり
プレキャスト部材と場所打ちコンクリートの最小かぶりの一例を表8に示す。
【0044】
【表8】

【0045】
7.4鉄筋のあき
鉄筋のあきは下記の条件をすべて満たすものとする。
【0046】
(1)40mm以上(プレキャスト部材では20mm以上)
(2)粗骨材(20mm)の最大寸法の4/3倍以上
(3)鉄筋の直径の1.5倍以上
7.5鉄筋の継手
引張鉄筋に重ね継手を用いる場合は、次式により算出する重ね継手長La以上かつ鉄筋の直径の20倍以上重ね合わせるものとする。また、重ね継手は継手に対して直角に配置した2本以上の鉄筋で補強するものとする。なお、引張鉄筋に機械式継手を用いる場合は、鉄筋の種類、直径、応力状態、継手位置等を考慮して、継手部の強度を定めるものとする。
【0047】
a=(σsa・φ)/(4τ0a)
ここで、La :付着応力度より算出する重ね継手長(mm)
σsa:鉄筋の許容引張応力度(N/mm2)
φ :鉄筋の直径(mm)
τ0a:コンクリートの許容付着応力度(N/mm2)
なお、継手が同一断面に集中する場合は、「鉄筋継手指針(コンクリートライブラリー第49号)」(土木学会)I.9条(2)を参照するものとする。
【0048】
7.6主鉄筋の配置
主鉄筋は、直径13mm以上の鉄筋とする。
【0049】
主鉄筋は、2段以下に配置する。
【0050】
7.7用心鉄筋の配置
コンクリートの乾燥収縮、温度勾配、応力集中等により生じる可能性のあるひび割れを有害でない程度に抑えるように鉄筋を配置するものとする。
【0051】
用心鉄筋は、直径13mm以上とし、300mm以下の間隔で配置する。
【0052】
打継目付近には、新旧コンクリート間の温度差、乾燥収縮等により生じる引張応力に対して用心鉄筋を配置する。
§2延長床版及び着脱式床版の検討
前述したように、橋梁床版は橋台や橋脚の間に架設されて、局所的な何点かの箇所で支持されるのに対して、延長床版の下面には底版及び盛土(地盤)が存在して延長床版を支持しているので、コンクリートの厚さや配筋等、延長床版の構造をコンクリート舗装版として考えて設計する。これにより、部材断面を薄くすることができるうえ、部材断面寸法が変化しないため安価なものとすることができる。
【0053】
コンクリート舗装版には、輪荷重により発生する応力と、温度変化により発生するそり拘束応力とがあり、双方の応力を合成(合算)して合成応力σcを算定し、断面力Mに換算した後に、コンクリート構造物の応力度(断面力が作用した際にコンクリート及び鉄筋等の要素毎に作用している単位面積あたりの力)を検討する。
【0054】
輪荷重により発生する応力とは、外部荷重(自動車や航空機等の輪荷重)によってコンクリート内部に発生する応力であり、図4に示すように、輪荷重がコンクリート版に載荷されたとき、コンクリート版の内部に発生する応力は、上面には圧縮力が発生し、下面には引張力が発生する。
【0055】
一方、温度変化により発生する応力とは、そり拘束応力が他の応力に対して卓越しているため、主にそり拘束応力ことをいい、外気温が変化することにより、コンクリート版の上面と下面とに温度差ができ、コンクリート版が反り返ろうとするのを自重が阻害するため、コンクリート版の内部に発生する応力のことをいう。
【0056】
図5に示すように、外気温が下降したとき、コンクリート版の上面の温度が下降して上面が収縮しようとする。このとき、コンクリート版の内部に発生する応力は、上面には圧縮力が発生し、下面には引張力が発生する。
【0057】
舗装設計指針には、コンクリート版を設計する場合に必要な路盤の支持力係数は、直径30cmの載荷版での平板載荷試験値K30が2MPa/cmとされている。本発明では、延長床版下面には底版があるため、必要な路盤支持力係数を確保されているものとして計算する。また、コンクリート版の設計には直径75cmの載荷版での平板載荷試験値K75が必要であるため、平板載荷試験値K30をK75に変換すると以下の値となる。
【0058】
【数1】

【0059】
本発明では、舗装下面の路盤の支持力をばねとして考え、輪荷重によって上記コンクリート版が変形したときに該コンクリート版内に発生する応力を算出するとともに、温度変化により該コンクリート版の表面と裏面との温度差によって該コンクリート版内に発生するそり拘束応力を算出し、前記輪荷重により発生する応力と、温度変化により発生するそり拘束応力を合成して合成応力σcを算定し、該合成応力σcを断面力Mに換算した後に、コンクリートと鉄筋との応力度を検討する。
(1)応力度の計算
1.1輪荷重による応力度
コンクリート版上に輪荷重を載荷した場合に発生する応力は、ウェスターガード式を用いて算定し、輪荷重の載荷箇所は、図6に示すように、コンクリート版の中央部(イ)と、コンクリート版の最外縁部(ロ)と、隣接するコンクリート版同士の継手近傍部(ハ)の三箇所とし、それぞれの部分で応力度を検討する。
【0060】
中央部載荷時(イ)と最外縁部載荷時(ロ)は、剛比半径r、タイヤ接地半径a、衝撃輪荷重Pi、コンクリート目地形状によって決まる係数C等にて算出する。継手近傍部載荷時(ハ)は、最外縁部載荷時(ロ)の公式で算出した応力σeに、継手形状によって決まる低減係数αを掛けて算出する。
【0061】
「剛比半径r」は、輪荷重が載荷された際の影響範囲内でコンクリート版と路盤の剛性比によって決まり、通常交通荷重は複数輪付いているが単輪に変換(等価単車輪への変換)し、影響範囲も実際の複数輪に近くなるように修正したものである。
【0062】
「衝撃輪荷重P」は、車両が通過する際の衝撃も考慮した後輪荷重である。
【0063】
「係数C」は、最外縁部載荷時の応力σeを算出する際に使用する係数で、コンクリート舗装の最外縁部に継手が入っていない場合は2.12の値を使用し、継手が入っている場合は1.59の値を使用する。
【0064】
「低減係数α」は、継手近傍部載荷時の応力σcoを算出する際に使用する係数で、継手の強度や信頼性によって決まってくる。延長床版で使用するコッター式継手の場合は0.6の値を使用する。
【0065】
(イ)中央部載荷時の発生応力
中央部載荷時の発生応力は次式で検討する。
【0066】
【数2】

【0067】
ここに、
【0068】
【数3】

【0069】
従って、
【0070】
【数4】

【0071】
(ロ)最外縁部載荷時の発生応力
最外縁部載荷時の発生応力は次式で検討する。
【0072】
【数5】

【0073】
(ハ)継手近傍部の発生応力
継手近傍部における荷重応力は自由縁部に基づいて荷重伝達効果を係数で表し、以下の式で検討する。
【0074】
【数6】

【0075】
1.2そり拘束による発生応力
コンクリート版の上下面の温度差によりコンクリート版にそり拘束による応力が作用する。継手近傍部については、コンクリート版を剛結した場合に版中央部に近い応力状態になると考えられるため、版中央部と同じ値とする。
【0076】
ここで、コンクリート版の上下面の温度差θ′は15℃としている。これは、温度差の小さい地域(気温の日振幅が14℃をほとんど超えない地域)では、版厚200mmのコンクリート版における上下面の温度差が15℃を超えることは起こりえないと、舗装設計施工指針に明記されているためである。
【0077】
そり拘束係数Cwは、目地間隔及び温度差の正負によって決まる係数である。
【0078】
1.2.1温度上昇時
(イ)版中央部のそり拘束応力
版中央部におけるそり拘束応力は次式で検討する。
【0079】
【数7】

【0080】
(ロ)最外縁部のそり拘束応力
最外縁部におけるそり拘束応力は次式で検討する。
【0081】
【数8】

【0082】
(ハ)継手近傍部におけるそり拘束応力
継手近傍部におけるそり拘束応力は次式で検討する。
【0083】
【数9】

【0084】
1.2.2温度下降時
(イ)版中央部のそり拘束応力
版中央部におけるそり拘束応力は次式で検討する。
【0085】
【数10】

【0086】
(ロ)最外縁部のそり拘束応力
最外縁部におけるそり拘束応力は次式で検討する。
【0087】
【数11】

【0088】
(ハ)継手近傍部におけるそり拘束応力
継手近傍部におけるそり拘束応力は次式で検討する。
【0089】
【数12】

【0090】
1.3合成応力度σc
コンクリート版の下面における合成応力度を算定する。コンクリート版の温度上昇時は、輪荷重によって発生する応力と温度変化によって発生するそり拘束応力を加算して合成応力を算定し、コンクリート版の温度下降時は、輪荷重によって発生する応力のみにて算定する。温度上昇時と温度下降時の、版中央部と継手近傍と縁部とにそれぞれ発生する合成応力の一覧の一例を表9に示す。
【0091】
【表9】

【0092】
例えば、温度上昇時の版中央部では輪荷重による応力(活荷重応力)が、数2に示すように、σi=3.291N/mm2であり、そり拘束応力が、数5に示すように、σti=2.080N/mm2であるので、合成応力σcは5.371N/mm2となる。また、温度下降時は輪荷重によって発生する応力のみにて算定し、例えば、縁部では輪荷重による応力(活荷重応力)が、数3に示すように、σe=5.491N/mm2であるので、合成応力σcは5.491N/mm2となる。
(2)断面力の算定
上記のようにして求められた合成応力度σcから、断面係数Zを用いて断面力Mを換算する。ここでは安全側で計算を行うように全断面有効にて算定する。図7は全断面有効としたときの応力分布図である。
【0093】
コンクリート版の検討断面は、厚さ200mm、単位幅1000mmとする。したがって、断面係数Zは次式で表される。
【0094】
【数13】

【0095】
温度上昇時の版中央部における断面力Mi+、継手近傍における断面力Mco+、縁部にお
ける断面力Me+は次式で検討する。
【0096】
【数14】

【0097】
温度下降時の版中央部における断面力Mi-、継手近傍における断面力Mco-、縁部における断面力Me-は次式で検討する。
【0098】
【数15】

【0099】
軸力Nは、橋梁の温度変化による伸縮時に発生する圧縮力及び引張力で、延長床版が押し引きされるときに発生し、次式で算定される値となる。なお、摩擦係数μは、安全を考慮して1.0とする。そして、橋梁の伸び時は軸力が圧縮方向に作用して断面計算上有利となるため、安全を考慮して、圧縮時に関しては軸力Nを考慮しないものとする。
【0100】
【数16】

【0101】
コンクリート版の基本配筋は、図8に示すように、版厚200mmのコンクリート版の上面から60mmの位置と140mmの位置に、鋼種D1、直径19mmの鉄筋を1m当たり10本配置するものとする。
【0102】
温度上昇時及び温度下降時のそれぞれについて、版中央部、継手近傍、縁部における発生応力度の検討結果の一例を表10及び図9乃至図14に示す。
【0103】
「圧縮側コンクリート圧縮応力σc 」:断面力を掛けたときに圧縮側コンクリートに発生する圧縮応力である。
【0104】
「引張側鉄筋引張応力σs 」:断面力を掛けたときに引張側鉄筋に発生する引張応力である。
【0105】
「圧縮側鉄筋圧縮応力σs'」:断面力を掛けたときに圧縮側鉄筋に発生する圧縮応力である。
【0106】
「許容圧縮応力度σca 」:コンクリート強度によって決められている許容応力設計法でのコンクリート圧縮応力の限界値である。
【0107】
「許容引張応力度σsa 」:鉄筋材質によって決められている許容応力設計法での鉄筋
引張応力の限界値である。
【0108】
「中立軸X」:H断面での重心位置である。
【0109】
「ヤング係数比n」:ヤング係数は材料の剛度を表すもので、ヤング係数比nはコンクリートのヤング係数と鉄筋のヤング係数との比率である。
【0110】
なお、鉄筋の説明欄では、前述したように、版厚200mmのコンクリート版の上面から60mmの位置と140mmの位置に、鋼種D1、直径19mmの鉄筋を1m当たり10本配置すると記載してある。
【0111】
【表10】

【0112】
以上の結果、基本配筋で許容応力度を満足することができた。
(3)最小鉄筋量の照査
s(D19)=286.5mm2
3.1全断面について
mピッチにて照査する。
【0113】
s1=As(D19)×20本=286.5×20=5730mm2
部材断面積の0.15%以上必要となるので、
smin1=200mm×1000mm×0.0015=300mm2 < As1 ⇒ OK
3.2軸方向引張主鉄筋について
mピッチにて照査する。
【0114】
s2=As(D19)×10本=286.5×10=2865mm2
smin2=0.01・bw・d=0.01×1000mm×160=1600mm2 < As2 ⇒ OK
【0115】
なお、本実施例で表した各数値は一例であり、本発明の精神を逸脱しない限り、該数値を改変して他の数値を使用することもでき、そして、本発明がこの改変されたものに及ぶことは当然である。
【図面の簡単な説明】
【0116】
【図1】橋梁部付近に施工された延長床版の断面図。
【図2】延長床版の設計方法のフローチャート。
【図3】活荷重を説明する図で、(a)は図中左右方向に橋軸方向を示し(b)図中左右方向に橋軸直角方向を示す図。
【図4】輪荷重により発生する応力を示す解説図。
【図5】温度変化により発生する応力を示す解説図。
【図6】コンクリート版に輪荷重を載荷する箇所を示す解説図。
【図7】全断面有効としたときの応力分布図。
【図8】コンクリート版の基本配筋を示す解説図。
【図9】温度上昇時の版中央部における発生応力度の検討結果を示す解説図。
【図10】温度上昇時の継手近傍における発生応力度の検討結果を示す解説図。
【図11】温度上昇時の縁部における発生応力度の検討結果を示す解説図。
【図12】温度下降時の版中央部における発生応力度の検討結果を示す解説図。
【図13】温度下降時の継手近傍における発生応力度の検討結果を示す解説図。
【図14】温度下降時の縁部における発生応力度の検討結果を示す解説図。
【符号の説明】
【0117】
10 橋梁部
11 橋桁
12 支承
13 橋台
14 橋梁床版
15 土工部
16 盛土
17 底版
18 緩衝ゴム
19 アンカーボルト
20 グラウト注入孔
21 延長床版
22 緩衝ゴム
23 メナーゼヒンジ(ヒンジ構造)
24 現場打ちコンクリート
26 コッター式継手
27 着脱式床版
28 伸縮装置
29 アンカーボルト
30 舗装面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
土工部側に配置された底版の上に橋梁側の端部から土工部側へ延設されて土工部側に伸縮装置を設けた延長床版であって、
該延長床版はコンクリート版からなり、該延長床版の構造をコンクリート舗装版としての強度にて構成することを特徴とする延長床版の設計方法。
【請求項2】
上記延長床版は複数のコンクリート版を接続してなり、該延長床版をコンクリート舗装版としての強度にて構成する際は、延長床版下面の支持力をばねとして考え、輪荷重によって上記コンクリート版が変形したときに該コンクリート版内に発生する応力を算出するとともに、
温度変化により該コンクリート版の表面と裏面との温度差によって該コンクリート版内に発生するそり拘束応力を算出し、
前記輪荷重により発生する応力と、温度変化により発生するそり拘束応力を合成して合成応力σcを算定し、該合成応力σcから断面力Mに換算した後に、コンクリートと鉄筋との応力度を検討する請求項1記載の延長床版の設計方法。
【請求項3】
上記輪荷重の載荷箇所は、コンクリート版の中央部と、コンクリート版の最外縁部と、隣接するコンクリート版同士の継手近傍部とし、それぞれの部分で応力度を検討する請求項1または2記載の延長床版の設計方法。
【請求項4】
上記コンクリート版下面の路盤の支持力係数は、直径75cmの載荷版での平板載荷試験値K75とする請求項1または2記載の延長床版の設計方法。
【請求項5】
上記合成応力σcは、コンクリート版の温度上昇時は輪荷重により発生する応力と温度変化により発生するそり拘束応力を加算して算定し、温度下降時は輪荷重により発生する応力にて算定する請求項1または2記載の延長床版の設計方法。
【請求項6】
上記断面力Mは、合成応力σcから断面係数Zを用いて換算し、全断面有効にて算定する請求項1または2記載の延長床版の設計方法。
【請求項7】
上記コンクリート版に発生する軸力Nを算定する請求項1または2記載の延長床版の設計方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2006−307472(P2006−307472A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−129084(P2005−129084)
【出願日】平成17年4月27日(2005.4.27)
【出願人】(592179067)株式会社ガイアートT・K (25)
【出願人】(000230010)ジオスター株式会社 (77)
【Fターム(参考)】