説明

建材の塗装方法

【課題】優れた親水性により汚染防止機能を備えるとともに、防カビ、消臭、抗菌、大気浄化等の環境に関連する諸機能を備えた建材の塗装方法を提供する。
【解決手段】メチルシリケート、水ガラス、コロイダルシリカ、ポリ(メタ)アクリル酸、スルフォン酸をグラフト重合したポリテトラフルオロエチレンのいずれかから選択される1〜5種の混合物である親水性ポリマーに、チタニアゾル、ゼオライトで表面被覆された酸化チタン、シリカで表面被覆された酸化チタン、およびアパタイトで表面被覆された酸化チタンから選ばれる1種以上の混合物である光触媒を含有させた塗料を塗布し、乾燥させて、建材の表面に光触媒を含有する塗膜を形成する塗装方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、住宅やビルなどの建物の外壁材、内壁材、屋根材、床材などに使用される建材の表面に、光触媒を含有する塗膜を形成する、建材の塗装方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、住宅やビルなどの建物の外壁材、内壁材、屋根材、床材などには、セメントを主成分とするALC板、木片セメント板、繊維補強セメント板などの窯業系建材や、ゴム、樹脂、金属、セラミックなどをガラス繊維などで補強した複合板材、パーティクルボード、インシュレーションボードなどの繊維板、木板などの建材が使用されている。ところで、外装材として使用される建材については、降雨時などに雨水等が付着した際に、該外装材の被膜表面に付着している汚れなどを流れ落とすよう該外装材表面を親水性にして、環境汚染に対する汚染防止効果を付与することが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
一方、汚染防止効果を建材に付与するために、近年、各種の親水性ポリマーを含有する塗料を塗布する試みがなされているが、建材は一般に保管時や運搬時など積み重ねられる機会が多いので、塗料の塗布後に、塗料が比較的容易に乾燥し、ベタツキが残らないという条件に加えて、長期にわたる耐候性が求められる。現在のところ、これらの条件を満足し得る親水性ポリマーとしては、メチルシリケート、水ガラス、コロイダルシリカ、ポリ(メタ)アクリル酸、スルホン酸をグラフト重合したポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などが使用可能である。
【0004】
しかしながら、そのような親水性ポリマーを建材の表面に塗布しても、得られる機能は汚染防止効果のみであり、防カビ、消臭、抗菌、大気浄化効果等を得ることはできない。
【特許文献1】特許3847048号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
昨今の環境改善意識の高まりから、建材に対しては、汚染防止効果以外に、防カビ、消臭、抗菌、大気浄化等の環境に関連する諸機能が求められている。
そこで、それらの機能を発揮させうる物質を親水性ポリマーに含有させて塗布することが考えられるが、その物質としては、現在のところ光触媒がもっとも好適である。しかしながら、公知の光触媒を使用する方法には、次のような致命的な問題点がある。すなわち、光触媒塗膜は光触媒反応を塗膜表面で効率的に進行させるために、光触媒を極めて高濃度で含ませるようにしている。これは、表面に露出した光触媒のみが反応に関与するので、その露出分を増やすために考えられたことであるが、表面に光触媒が露出するほどの高濃度使用の場合、裏面(下地の基材又は別の塗膜の表面との接触面)にも光触媒が高濃度で存在しているので、表面で生じるべき激烈な酸化反応である光触媒反応が裏面でも生じることになり、その裏面と接する下地の基材(又は別の塗膜)の表面がその酸化反応で劣化し、光触媒塗膜の剥離、基材表面のチョーキング等の劣化現象(このような現象を光触媒塗膜の裏反応と称している)が生じてしまう。そのため、光触媒を含む塗料の塗布に先立って、かかる裏反応から下地の基材を保護するためのバリアーコートを更に塗布しなければならず、作業、コストが増加すると共に、その付加工程のための設備、スペースも必要となる。また、光照射によりはじめて親水性が発現するため、製造および出荷時に親水性の出荷検査が行いにくい。更に、建材は保管時や運搬時などに積み重ねられる機会が多く、その取り扱い時に傷がつくなどの不具合が発生する可能性がある上、建材の表面で光触媒反応が生じるため、補修塗りが困難である。
【0006】
本発明は上述した問題点に鑑みてなされたものであり、建材の表面が、優れた親水性を備えることにより汚染防止機能を発揮すると共に、防カビ、消臭、抗菌、大気浄化等の環境に関連する諸機能を備えた、光触媒を含有する塗膜を形成する建材の塗装方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本請求項1に記載の発明は、建材の表面に、親水性ポリマーと光触媒とを含有する塗料を塗布し、乾燥させて、光触媒を含有する塗膜を形成する建材の塗装方法であって、上記親水性ポリマーを、メチルシリケート、水ガラス、コロイダルシリカ、ポリ(メタ)アクリル酸、スルフォン酸をグラフト重合したポリテトラフルオロエチレンのいずれかから選択される1〜5種の混合物とし、上記光触媒をチタニアゾルとし、上記塗膜中の上記光触媒の含有量を、上記親水性ポリマー100質量部に対して酸化チタン分換算で10〜50質量部とし、非光励起状態での上記塗膜の静的接触角あるいは動的後退接触角のいずれかを30°以下にすると共に、メチレンブルー分解活性指数を3.0以上にすることを特徴とする建材の塗装方法である。上記塗料としては、透過性の優れた塗料を使用することが望ましい。
なお、静的接触角とは、水平に静置した塗膜表面に水滴を2μm滴下した際の該塗膜と該水滴との界面の接触角であり、動的後退接触角とは、水平に静置した塗膜表面に水滴をまず2μm滴下し、1分経過後に更に4μm滴下して追加し、1分経過後にその追加分の4μmを吸引して、更に1分経過後に測定した該塗膜と該水滴との界面の接触角であり、塗膜の親水性を再現性のある数値として表記しうる代表的な尺度として用いている。本願発明者等の知見によれば、塗膜の静的接触角あるいは動的後退接触角のいずれかを30°以下にすることで十分な効果が発現し得ていたことから、本願発明ではこの数値を限界値としている。
また、メチレンブルー分解活性指数とはJIS R 1703−2に定義されている分解活性指数であり、本発明では、消臭、抗菌、大気浄化等の光触媒効果を再現性のある数値として表記しうる代表的な尺度として用いている。メチレンブルーは光照射による劣化が極めて少なく、逆にラジカル(遊離基)と選択的に反応するため、光触媒反応でラジカルが生じると急速に脱色するという特性を有している。光触媒反応の効果と目される防カビ、消臭、抗菌、大気浄化作用は、すべて発生するラジカルにより惹起されるものであるから、メチレンブルーの分解とこれらの効果の間には密接な相関関係が存在する。したがって、再現性の良好な光触媒効果を評価する指標として、ここではメチレンブルー分解活性指数を採用して光触媒効果の有無を表すようにしている。現状では光触媒としての効果の有無を評価する限界値(数値)は規定されていないが、本願発明者等の知見によれば、塗膜のメチレンブルー分解活性指数を3.0以上にすることで十分な効果が発現し得ていたことから、本願発明ではこの数値を限界値としている。
本発明では、メチルシリケート、水ガラス、コロイダルシリカ、ポリ(メタ)アクリル酸、スルフォン酸をグラフト重合したポリテトラフルオロエチレンのいずれかから選択される1〜5種の混合物である親水性ポリマーとチタニアゾルとを含有する塗料を塗布し、乾燥させて、光触媒を含有する塗膜を形成するので、該塗膜の表面の親水性は光触媒に因らず、親水性ポリマーにより得ることとしており、非光励起状態でも親水性であり、従来の一般的な方法、すなわち、光触媒とポリマーとの混合物で構成された光触媒塗料を塗布し、乾燥させて、光触媒が光励起することにより表面が親水性となる塗膜を形成する方法とは異なる。また、本発明では、非光励起状態での塗膜の静的接触角あるいは動的後退接触角のいずれかを30°以下にしているので、非光励起状態でも優れた汚染防止機能を備える。更に、光触媒に反応性の非常に高いチタニアゾルを使用し、防カビ、消臭、抗菌、大気浄化効果を該光触媒から得るが、塗膜中の該光触媒の含有量を親水性ポリマー100質量部に対して酸化チタン分換算で10〜50質量部と少なくすることにより、裏反応を惹起させないようにしている。なお、塗膜のメチレンブルー分解活性指数を3.0以上にしているので、十分な防カビ、消臭、抗菌、大気浄化効果が得られる。
【0008】
本請求項2に記載の発明は、建材の表面に、親水性ポリマーと光触媒とを含有する塗料を塗布し、乾燥させて、光触媒を含有する塗膜を形成する建材の塗装方法であって、上記親水性ポリマーを、メチルシリケート、水ガラス、コロイダルシリカ、ポリ(メタ)アクリル酸、スルフォン酸をグラフト重合したポリテトラフルオロエチレンのいずれかから選択される1〜5種の混合物とし、上記光触媒を、ゼオライトで表面被覆された酸化チタン、シリカで表面被覆された酸化チタン、およびアパタイトで表面被覆された酸化チタンから選ばれる1〜3種の混合物とし、非光励起状態での上記塗膜の静的接触角あるいは動的後退接触角のいずれかを30°以下にすると共に、メチレンブルー分解活性指数を3.0以上にすることを特徴とする建材の塗装方法である。上記塗料についても、透過性の優れた塗料を使用することが望ましい。
本発明でも、メチルシリケート、水ガラス、コロイダルシリカ、ポリ(メタ)アクリル酸、スルフォン酸をグラフト重合したポリテトラフルオロエチレンのいずれかから選択される1〜5種の混合物である親水性ポリマーと光触媒とを含有する塗料を塗布し、乾燥させて、光触媒を含有する塗膜を形成するので、該塗膜の表面の親水性は光触媒に因らず、親水性ポリマーにより得られので、従来の一般的な方法とは異なること、及び、非光励起状態での塗膜の静的接触角あるいは動的後退接触角のいずれかを30°以下にしているので、優れた汚染防止機能を備えることは請求項1に係る発明と同様である。しかし、本発明では、光触媒にゼオライトで表面被覆された酸化チタン、シリカで表面被覆された酸化チタン、およびアパタイトで表面被覆された酸化チタンから選ばれる1〜3種の混合物を使用することで、防カビ、消臭、抗菌、大気浄化効果を該光触媒から得ると共に、該光触媒により裏反応を惹起させないようにしている。すなわち、一般的な光触媒はアナターゼ型酸化チタンの微粒子であり、いわば光触媒が表面に露出した状態である。ここでは光触媒反応は当然ながら露出した表面で生じるため、反応性に富んだ酸化物が発生すると、近傍の有機物を分解、劣化させてゆく。したがって、例えば汎用塗料に顔料を分散させるように光触媒を分散させた状態では、バインダーの有機ポリマーが光触媒によって分解されてしまう。そこで、光触媒の表面を、微細シリカ、ゼオライト、アパタイト等の不活性物質でコーティングすることによって、表面の不活性物質が緩衝材となり、有機ポリマーは光触媒と隔てられるので、有機ポリマーは分解されなくなる。そして、この緩衝材が膜状ではなく、針状(ウィスカー)や格子状を呈していると、表面積が大きくなって単なる緩衝材という役目に止まらず、消臭や大気浄化効果で特に必要な吸着機能を併せ持つようになり、一層この効果へ寄与することとなる。すなわち、光触媒の表面を吸着作用を持つ不活性物質が覆い、そこに吸着された有害物質はその近傍にある光触媒で徐々に分解されてゆくというプロセスが可能となり、有機ポリマーを分解することなく、消臭、抗菌、大気浄化等の光触媒効果を奏するようになる。また同時に、近傍の有機物を分解しなくなることから、汚染防止効果についてはほとんどあるいは全く生じないと考えられる。これに関した特許は数多く存在しているが、例えば特許3975270号や特許3488496号などを挙げることができる。なお、塗膜のメチレンブルー分解活性指数を3.0以上にしているので、十分な防カビ、消臭、抗菌、大気浄化効果が得られる。
【0009】
本請求項3に記載の発明は、前記塗料には、界面活性剤を有効成分として0.01〜5質量%含ませることを特徴とする請求項1又は2に記載の建材の塗装方法である。界面活性剤としては、通常のアニオン性、ノニオン性、カチオン性の界面活性剤のいずれも用いられ、界面活性剤は二種以上を混合して使用してもよい。
水性の塗料の場合、撥水性表面では弾かれて均一に塗布できない傾向があり、該撥水性表面での表面張力を低下させなければ均一な塗膜が形成されにくく、形成される塗膜表面の親水性の発現や光触媒効果が損なわれる。本発明では、請求項1又は2に記載の塗料に界面活性剤を有効成分として0.01〜5質量%含ませることにより、該塗料の表面張力を低下させ、接する下地の基材(又は別の塗膜)の表面との親和性を高めるので、形成される塗膜と該下地の基材との密着が改善される。なお、添加される界面活性剤の有効成分が0.01質量%より少ないと、該界面活性剤による効果は十分ではない。一方、添加される界面活性剤の有効成分が5質量%より多くしても、該界面活性剤による効果はそれ以上は大きく改善されず、該界面活性剤は高価なので、コスト増となるだけである。
【0010】
本請求項4に記載の発明は、前記塗料には、アルコールを1〜80質量%含ませることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の建材の塗装方法である。特に好ましくは、アルコールを5〜80質量%含ませることである。
水性の塗料の場合、撥水性表面では弾かれて均一に塗布できない傾向があり、該撥水性表面での表面張力を低下させなければ均一な塗膜が形成されにくく、形成される塗膜表面の親水性の発現や光触媒効果が損なわれる。本発明では、請求項1〜3のいずれかに記載の塗料にアルコールを1〜80質量%含ませることにより、前記界面活性剤と同様に、該塗料の表面張力を低下させ、接する下地の基材(又は別の塗膜)の表面との親和性を高めるので、形成される塗膜と該下地の基材との密着が改善される。なお、添加されるアルコールが1質量%より少ないと、該アルコールによる効果は十分ではない。一方、添加されるアルコールを80質量%より多くしても、該アルコールによる効果はそれ以上は大きく改善されず、コスト増となるだけである。
【0011】
なお、塗膜の膜厚は0.1〜3μmにすることが好ましい。特に好ましくは、膜厚を1〜2μmとすることである。塗膜の膜厚を0.1〜3μmと厚くすることにより、該塗膜の表面抵抗値が小さくなり、該塗膜表面にほこりや汚れを寄せ付けにくくなると共に、該塗膜に接する下地の基材(又は別の塗膜)の表面が長期に渡り保護されるので、下地の基材の表面が経時と共に減少する塗膜痩せが起きにくくなり、建材は高耐候性になる。なお、塗膜の膜厚を0.1μmより薄くすると、塗膜の表面抵抗値はほこりや汚れを寄せ付けにくくなるほど小さくはないと共に、下地の基材の表面の保護は十分ではなく、塗膜痩せが起きやすい。一方、塗膜の膜厚を3μmより厚くすると、該塗膜の均一塗布が困難になると共に、効果はそれ以上は大きく改善されず、コスト増となるだけである。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る建材の塗装方法によれば、親水性に富み、汚れが付着しても雨水等で流れ落ちるセルフクリーニング効果や汚染防止効果に優れるうえに、防カビ、消臭、抗菌、大気浄化効果にも優れた建材を提供することができる。また、本発明に係る建材の塗装方法は、塗膜の光触媒による裏反応が生じないため、保護層であるバリアコートを下地として塗布する必要がなく、製造が容易なので大量生産が可能であり、製造コストの低減が図れる。しかも、基材表面の塗膜は光を照射しなくても親水性を発揮するので、製造時や出荷時などに親水性の有無についての検査が容易に行えるとともに、仮に表面塗膜の一部が損傷するなどの不具合が生じたとしても、簡単に塗料を塗布して補修が行える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、本発明の建材の塗装方法について説明する。
【0014】
本発明に係る建材の塗装方法の塗料として適用するのに好適な親水性ポリマーとしては、請求項1又は2に記載のように、メチルシリケート、水ガラス、コロイダルシリカ、ポリ(メタ)アクリル酸、スルフォン酸をグラフト重合したポリテトラフルオロエチレンを挙げることができる。また、これらの親水性ポリマーについては、相溶性の許す範囲で接着適性や柔軟性等の他の特性をも付与するために、相互に混合して使用することが可能である。さらに、これらの親水性ポリマーは、親水性を阻害しない範囲において、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、シリコン変成アクリル樹脂、シリコン樹脂、フッ素樹脂などの公知で、建材用に採用されている、撥水性の皮膜を形成する樹脂とも混合して使用することができる。
【0015】
また、光触媒によるセルフクリーニング(汚染防止および汚濁防止)効果ではなく、防カビ、消臭、抗菌、大気浄化効果を得るためには、光触媒反応を効率よく惹起させるにとどまらず、光触媒の表面に有害物質を吸着する機能も併せ持たねばならないことが明らかになった。それらの効果は、光触媒は分散性が悪いことから、比表面積の小さな汎用光触媒を分散する方法では得られない。そこで、請求項1に記載のように、極端に分散性が良好なチタニアゾルを裏反応を起こさない濃度範囲、すなわち、形成される塗膜中の光触媒の含有量が親水性ポリマー100質量部に対して酸化チタン分換算で10〜50質量部になるように含ませるか、あるいは請求項2に記載のように、ゼオライトで表面被覆(修飾)した酸化チタン、シリカで表面被覆(修飾)した酸化チタン、アパタイトで表面被覆(修飾)した酸化チタン等の、吸着層を表面に備えた酸化チタンを採用することで解決することができる。
【0016】
更に、本発明では、請求項3に記載のように、親水性ポリマーと光触媒とを含有する塗料に界面活性剤を添加することが望ましい。この添加すべき界面活性剤としては、通常のアニオン性、ノニオン性、カチオン性の界面活性剤のいずれも用いられ、例えばアニオン性界面活性剤としては、高級アルコールサルフェート(Na塩またはアミン塩)、アルキルアリルスルフォン酸塩(Na塩またはアミン塩)、アルキルナフタレンスルフォン酸塩(Na塩またはアミン塩)、アルキルナフタレンスルフォン酸塩縮合物、アルキルフォスフェート、ジアルキルスルフォサクシネート、ロジン石鹸、脂肪酸塩(Na塩またはアミン塩)等がある。ノニオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキロールアミン、ポリオキシエチレンアルキルアマイド、ソルビタンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル等がある。カチオン性界面活性剤としては、オクタデシルアミンアセテート、イミダゾリン誘導体アセテート、ポリアルキレンポリアミン誘導体またはその塩、オクタデシルトリメチルアンモニウムクロライド、トリメチルアミノエチルアルキルアミドハロゲニド、アルキルピリジニウム硫酸塩、アルキルトリメチルアンモニウムハロゲニド等がある。また、界面活性剤は二種以上を混合して使用してもよい。上記の界面活性剤は例示であって、本発明に使用される界面活性剤を限定するものではない。上記のような界面活性剤は、請求項3に記載のように、有効成分として0.01〜5質量%含ませることにより、塗料の表面張力を低下させ、接する下地の基材(又は別の塗膜)の表面との親和性を高める。
【0017】
更に、本発明では、請求項4に記載のように、親水性ポリマーと光触媒とを含有する塗料にアルコールを添加することが望ましい。この添加すべきアルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、ノルマルプロピルアルコールなどの低級アルコールや、ヘキシルアルコール、ペンチルアルコール、オクタノールなどの高級アルコールがある。また、アルコールは二種以上を混合して使用してもよい。上記のアルコールは例示であって、本発明に使用されるアルコールを限定するものではない。更に、上記アルコールには、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコールなどのグルコール系溶剤や、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノヘキシルエーテルなどのグリコールエーテル系溶剤や、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルアセテートなどのエステル系溶剤などを加えて使用しても良い。上記のようなアルコールは、請求項4に記載のように、有効成分として1〜80質量%含ませることにより、塗料の表面張力を低下させ、接する下地の基材(又は別の塗膜)の表面との親和性を高める。また、低級アルコールと高級アルコールを混合して使用するなど、二種以上を混合して使用することにより、塗膜の乾燥性を調整することができる。
【0018】
本発明では、上述した親水性ポリマーと光触媒とを含有する塗料を、スプレーの先端のノズルから塗料を吹き出させて塗装するスプレー方法、塗料溜の側壁から塗料を膜状に溢れさせて、該膜状の塗料の中を通過させて塗装するフローコーター方法、回転しているロールコーターの表面の一部を塗料溜の中に漬けてロール表面に塗料を付着させ、ロールを介して塗料を移動させるロールコーター方法、塗料を付着させた刷毛で撫でて塗装する刷毛塗り方法、アースした塗装物を陽極、塗装霧化装置を陰極とし、これに負の高電圧を与えて、両極間に静電界を作り、霧化した塗装粒子を負に帯電させて、反対極である被塗物に効率よく塗料を吸着させる静電塗装法、先端に設けた高速回転可能な釣り鐘形状のベルに塗料を供給し、該塗料を遠心力によりベルエッジに移動させて微粒化及び帯電し、被塗物に飛行させるベル塗装法、搬路の上方に配置した略水平方向の周回軌道を周回する噴射ノズルから塗料を噴射するロータリースプレー塗装法などにより、建材の表面に塗布し、乾燥させて、該建材の表面に光触媒を含有する塗膜を形成する。なお、塗装前に、建材を40〜100℃でプレヒートしてから塗料を塗布することが好ましい。更に好ましくは、50〜80℃のプレヒートである。また、乾燥は室温、ドライヤーによる加温、又は建材の表面に送風することにより行う。更に、塗膜の膜厚が0.1〜3μmになるように塗料を塗布することが望ましい。
【0019】
上述のように建材の表面に形成された塗膜は、請求項1又は2に記載のように、非光励起状態での該塗膜の静的接触角あるいは動的後退接触角のいずれかが30°以下になるので、非光励起状態でも優れた汚染防止機能を備える。また、請求項1又は2に記載のように、メチレンブルー分解活性指数が3.0以上になるので、十分な防カビ、消臭、抗菌、大気浄化効果も備える。更に、塗膜の膜厚を0.1〜3μmと厚くすることにより、該塗膜の表面抵抗値が小さくなり、該塗膜表面にほこりや汚れを寄せ付けにくくなると共に、該塗膜に接する下地の基材(又は別の塗膜)の表面が長期に渡り保護されるので、下地の基材の表面が経時と共に減少する塗膜痩せが起きにくくなり、建材は高耐候性になる。
【実施例1】
【0020】
以下に、本発明に係る建材の塗装方法の実施例について詳細に説明する。
【0021】
実施例1
親水性ポリマー(成分)にメチルシリケートを、光触媒にチタニアゾルをそれぞれ採用し、親水性ポリマー:光触媒の質量比が100:10になるように、親水性ポリマー中に光触媒を含有させて本発明の塗料を調製した。
具体的な配合割合(質量%)は以下のとおりである。
メチルシリケート(三菱化学(株)製の商品名「MS57」) 3
チタニアゾル(石原産業(株)製の商品名「STS(登録商標)−100」)1.8
硬化促進触媒「ジブチル錫ジアセテート1%溶液」 0.2
水 80
メタノール 15
「MS57」は乾燥に従い脱アルコール反応で質量がほぼ60%になると想定でき、また「STS(登録商標)−100」の不揮発分は10%であるから、上記の配合割合で質量比は100:10になる。
本発明における防汚効果を確認するための基材は、50mm×40mmの長方形状からなる繊維補強セメント板の表面に、水性スチレン・アクリル系塗料(着色用)を塗布して作成した。色調は日本塗料工業会発行の「塗料用標準色(ポケット版)」に定めるCN−95に調色した。
上記のように調製した基材に、実施例1に示す配合割合の防汚処理液(光触媒含有の親水性ポリマーからなる塗料)を50g/mになるように塗布し、温度60℃、20分の条件の下で乾燥させ、試験に供した。
【0022】
実施例2
親水性ポリマー(成分)にメチルシリケート、光触媒にチタニアゾルをそれぞれ採用し、親水性ポリマー:光触媒の質量比が100:50になるようにした本発明の塗料を調製した。
具体的な配合割合は以下の通りである。
メチルシリケート(三菱化学(株)製の商品名「MS57」) 3
チタニアゾル(石原産業(株)製の商品名「STS(登録商標)−100」) 9
硬化促進触媒「ジブチル錫ジアセテート1%溶液」 0.2
水 72.8
メタノール 15
試料作製の手順は実施例1と共通にした。
【0023】
実施例3
親水性ポリマー(成分)にスルホン酸をグラフト重合したポリテトラフルオロエチレンを、光触媒にアパタイト表面被覆(修飾)の酸化チタンをそれぞれ採用し、本発明の塗料を調製した。
具体的な配合割合(質量%)は以下のとおりである。
スルホン酸をグラフト重合したポリテトラフルオロエチレン(米国デュポン社製の「20%ナフィオン(登録商標)DE2020」) 8
アパタイト修飾酸化チタン(昭和電工(株)製の商品名「NTB(登録商標)−100」) 2
水 75
メタノール 15
試料作製の手順は実施例1と共通にした。
【0024】
実施例4
アルコール系溶剤に代えて界面活性剤を配合した例として、以下の内容で本発明の塗料を調整した。
具体的な配合割合(質量%)は以下のとおりである。
スルホン酸をグラフト重合したポリテトラフルオロエチレン(米国デュポン社製の「20%ナフィオン(登録商標)DE2020」) 8
アパタイト修飾酸化チタン(昭和電工(株)製の商品名「NTB(登録商標)−100」) 2
水 89
界面活性剤(共栄社化学(株)製の商品名「ポリフローKL600」) 1
試料作製の手順は実施例1と共通にした。
【0025】
比較例1
光触媒を水に代替して除いた以外は、上記実施例1と同一の配合割合とした。試料の作製手順は上記実施例1と共通にした。
【0026】
比較例2
光触媒を水に代替して除いた以外は、上記実施例3と同一の配合割合とした。試料の作製手順は上記実施例1と共通にした。
【0027】
比較例3
従来の光触媒を用いた例示で、ポリマー成分にエチルシリケートを、光触媒に光触媒粉末を採用し、前者の後者に対する質量比が100:60になるようにした一般的な光触媒塗液を調製した。
具体的な配合割合(質量%)は以下のとおりである。
エチルシリケート(コルコート(株)製の商品名「エチルシリケート48」) 4
光触媒粉末(石原産業(株)製の商品名「ST−01」) 1.2
硬化促進触媒「ジブチル錫ジラウレート1%溶液」 0.1
イソプロパノール 96
「エチルシリケート48」は乾燥に従い脱アルコール反応で質量がほぼ48%になると想定でき、また「ST−01」の不揮発分は100%であるから、上記配合で質量比はほぼ100:60になる。試料作製の手順は上記実施例1と共通にした。
【0028】
比較例4
実施例4の界面活性剤を水に代替した以外は、上記実施例4と同様に試料を調整した。これは成分中にアルコール系溶剤と界面活性剤とを全く含まない例となる。なお、試料の作製手順は上記実施例1と共通にした。
【0029】
試験結果を下記の表1に示す。
【0030】
【表1】

なお、非励起状態での水との接触角において、※の表記があるものは動的後退接触角の測定結果を示しており、それ以外は静的接触角の測定結果を示している。
【0031】
非励起状態での水との接触角の測定
実施例1、実施例2、比較例1、比較例3では、非光励起状態での水との接触角の測定として、静的接触角を測定した。静的接触角は、水平に静置した試料表面に水滴を2μm滴下して、直ちにその界面の接触角を測定した。
一方、実施例3、実施例4、比較例2、比較例4では、非光励起状態での水との接触角の測定として、動的後退接触角を測定した。動的後退接触角は、水平に静置した試料表面に水滴をまず2μm滴下し、1分経過後に更に4μm滴下して追加した。1分経過後にその追加分の4μmを吸引して、更に1分経過後にその界面の接触角を測定した。
【0032】
分解活性指数
メチレンブルー分解活性指数、すなわちJIS R 1703−2に定義されている分解活性指数を求めた。
【0033】
裏反応の有無の確認
各試料表面に7mW/cmのブラックライトを168時間照射して、まずその表面を黒色布で拭ってチョーキングが生じていないことを確認し、更に碁盤目セロテープ(登録商標)剥離で100/100の良好な接着性を確認して「なし」と判定した。逆にチョーキングあるいは塗膜の白濁がありその面での碁盤目セロテープ(登録商標)剥離が100/100より悪い場合を「あり」と判定した。
【0034】
セルフクリーニング効果の測定
大阪府堺泉北工業地域内での南面傾斜10°の条件で実際に2ヶ月の間、屋外に曝露した状態で、試験片と非曝露片とのLab色差ΔEを測定した。ΔE0.5以内では通常の肉視では汚染は認識されないがΔE3.0を上回ると通常、汚染は明白に認識される。上記条件下の2ヶ月の曝露でΔE3.0を超えるものについてはセルフクリーニング効果がないと断ぜざるをえない。
【0035】
抗菌試験
光触媒製品の抗菌性能を比較評価するための試験は、JIS R1702に定められている。ここではこれらに従い黄色ブドウ球菌を採用して、8時間光照射の前後における生菌数の変化から、光触媒抗菌加工製品の光照射における効果ΔRを求めた。一般に2.0以上の数値が好ましいとされている。
【0036】
NOx除去
光触媒製品のNOx除去性能を比較評価するための試験は、JIS R1701−1に定められている。ここではこれにほぼ従いNOx分解量を求めた。ただし、上記JISに厳密に従うと、実験でのNOxガスの流量は3.0リットル/分であるが、この試験では、流量0.5リットル/分に設定して実施した。測定結果はμmolを単位とする分解量で表記される。この値が大きいほど、NOx除去性能が良好であるとされている。
【0037】
実験結果(実施例と比較例との差異)
非光励起状態での水との接触角ついては、実施例1〜4および比較例1、比較例2では塗膜の静的接触角あるいは動的後退接触角が30°以下であり、非光励起状態で塗膜表面が親水性であることが確認されたが、比較例3、比較例4では動的後退接触角が30°よりはるかに大きく、非光励起状態で塗膜表面が親水性であることが確認されなかった。
また、裏反応については、比較例3のみで確認され、実施例1〜4および比較例1、比較例2、比較例4では確認されなかった。
更に、セルフクリーニング効果については、実施例1〜4および比較例1、比較例2で確認されたが、比較例3、比較例4では確認されなかった。比較例3は、初期(非光励起状態)での親水性の欠如による初期汚染の影響が光触媒塗料塗膜とはいえ見られることにより、若干その効果が劣る結果となり、比較例4では、高い撥水性の基材上に親水性塗膜が正常に形成されていないことにより、セルフクリーニング効果が劣ると考えられる。
更に、分解活性指数、抗菌試験、NOx除去については、実施例1〜4および比較例3で効果が確認されたが、比較例1、比較例2、比較例4では効果は確認されなかった。
よって、実施例1〜4は、非光励起作用状態で塗膜表面が親水性であると共に、セルフクリーニング効果、防カビ、消臭、抗菌、大気浄化効果等の光触媒特有の効果(光励起作用による親水性を除く)も有する。更に、実施例1〜4は、裏反応も発生しない。なお、比較例3は従来の一般的な難分解性バインダーと光触媒とを用いた光触媒塗料であるため、セルフクリーニング効果などの光触媒効果は生じるが、非光励起作用状態では塗膜表面が親水性ではないと共に、裏反応が生じるという欠点がある。
【産業上の利用可能性】
【0038】
以上説明したように、本発明に係る建材の塗装方法によれば、親水性に富み、汚れが付着しても雨水等で流れ落ちるセルフクリーニング効果や汚染防止効果に優れるうえに、防カビ、消臭、抗菌、大気浄化効果にも優れた建材を提供することができる。また、本発明に係る建材の塗装方法は、塗膜の光触媒による裏反応が生じないため、保護層であるバリアコートを下地として塗布する必要がなく、製造が容易なので大量生産が可能であり、製造コストの低減が図れる。しかも、基材表面の塗膜は光を照射しなくても親水性を発揮するので、仮に製造時や出荷時などに親水性の有無についての検査が容易に行えるとともに、表面塗膜の一部が損傷するなどの不具合が生じたとしても、簡単に塗料を塗布して補修が行える。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建材の表面に、親水性ポリマーと光触媒とを含有する塗料を塗布し、乾燥させて、光触媒を含有する塗膜を形成する建材の塗装方法であって、
上記親水性ポリマーを、メチルシリケート、水ガラス、コロイダルシリカ、ポリ(メタ)アクリル酸、スルフォン酸をグラフト重合したポリテトラフルオロエチレンのいずれかから選択される1〜5種の混合物とし、
上記光触媒をチタニアゾルとし、
上記塗膜中の上記光触媒の含有量を、上記親水性ポリマー100質量部に対して酸化チタン分換算で10〜50質量部とし、
非光励起状態での上記塗膜の静的接触角あるいは動的後退接触角のいずれかを30°以下にすると共に、メチレンブルー分解活性指数を3.0以上にする
ことを特徴とする建材の塗装方法。
【請求項2】
建材の表面に、親水性ポリマーと光触媒とを含有する塗料を塗布し、乾燥させて、光触媒を含有する塗膜を形成する建材の塗装方法であって、
上記親水性ポリマーを、メチルシリケート、水ガラス、コロイダルシリカ、ポリ(メタ)アクリル酸、スルフォン酸をグラフト重合したポリテトラフルオロエチレンのいずれかから選択される1〜5種の混合物とし、
上記光触媒を、ゼオライトで表面被覆された酸化チタン、シリカで表面被覆された酸化チタン、およびアパタイトで表面被覆された酸化チタンから選ばれる1〜3種の混合物とし、
非光励起状態での上記塗膜の静的接触角あるいは動的後退接触角のいずれかを30°以下にすると共に、メチレンブルー分解活性指数を3.0以上にする
ことを特徴とする建材の塗装方法。
【請求項3】
前記塗料には、界面活性剤を有効成分として0.01〜5質量%含ませることを特徴とする請求項1又は2に記載の建材の塗装方法。
【請求項4】
前記塗料には、アルコールを1〜80質量%含ませることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の建材の塗装方法。

【公開番号】特開2009−136727(P2009−136727A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−313602(P2007−313602)
【出願日】平成19年12月4日(2007.12.4)
【出願人】(000110860)ニチハ株式会社 (182)
【Fターム(参考)】