説明

建築板の製造方法

【課題】インクジェットプリントにて画像が形成された建築板において、下塗り塗装に対するUVインクの濡れ性、下塗り塗装とUVインク画像の密着性およびUVインクが硬化して形成された画像の色再現性に優れた建築板の製造方法を提供すること。
【解決手段】基材に、(1)下塗り塗装を施す工程と、
(2)(1)の工程の後、UVインクにてインクジェット塗装を施す工程と、
(3)(2)の工程の後、紫外線によりUVインクを硬化させる工程とからなる建築板の製造方法であって、
前記下塗り塗装の塗料が、造膜助剤を含まない状態でのMFT(最低造膜温度)が75℃〜110℃であるアクリル系エマルションであり、
前記UVインクは、2官能の反応性モノマーと、脂肪族の反応性オリゴマーと、光重合開始剤と、顔料とが含まれてなり、
前記(2)の工程における基材の板温が45〜55℃である建築板の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築板の製造方法に関する。さらに詳しくは、インクジェットプリンタをもちいてUVインクにより画像が形成された建築板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インクジェットプリントの様々な素材への適用が検討されてきており、その一つの例に、屋外用途である建築板がある。この建築板には、あらゆる自然条件に対応することができる優れた耐候性が求められる。ここでいう耐候性とは、熱、光、水などに曝された場合であっても、基材上にプリントされた画像が亀裂や剥離を発生せずに保持されることである。
【0003】
これまでに提案されているインクジェットプリントにて画像が形成された建築板としては、例えば、基材の表面に、下塗り層、インク受理層、インクジェット層、クリアー層、無機質塗料層、光触媒塗料層をこの順に積層して形成したもの(特許文献1)がある。
【0004】
また、溶剤系や水系などの揮発性のインクと比べて速乾性であり生産効率が高いことやインク受理層を必要とせずコストの軽減が見込めることから、インクジェットのインクとしてUVインクをもちいたもの(特許文献2)が提案されている。
【0005】
しかしながら、インクジェットのインクとしてUVインクをもちいた場合、一般的にインクジェットプリントをおこなう建築板の基材表面には下塗り塗装が施されており、その下塗り塗料としてアクリル系樹脂を使用することが多いが、このアクリル系樹脂とUVインクの相性から、しばしば、UVインクの濡れ性不良、下塗り塗装とUVインクの密着性不良、UVインクが硬化して形成された画像の色再現性不良などの問題を抱えることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−57131号公報
【特許文献2】特開2008−80629号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、インクジェットプリントにて画像が形成された建築板において、下塗り塗装に対するUVインクの濡れ性、下塗り塗装とUVインク画像の密着性およびUVインクが硬化して形成された画像の色再現性に優れた建築板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、基材に、(1)下塗り塗装を施す工程と、
(2)(1)の工程の後、UVインクにてインクジェット塗装を施す工程と、
(3)(2)の工程の後、紫外線によりUVインクを硬化させる工程とからなる建築板の製造方法であって、
前記下塗り塗装の塗料が、造膜助剤を含まない状態でのMFT(最低造膜温度)が75℃〜110℃であるアクリル系エマルションであり、
前記UVインクは、2官能の反応性モノマーと、脂肪族の反応性オリゴマーと、光重合開始剤と、顔料とが含まれてなり、
前記(2)の工程における基材の板温が45〜55℃である建築板の製造方法である。
【0009】
さらには、前記UVインクの表面張力が20〜30dyne/cm・25℃であることが好ましい。
【0010】
また、前記2官能の反応性モノマーが、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,3−ブチレングリコールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレートおよび1,9−ノナンジオールジアクリレートから選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の建築板の製造方法によれば、下塗り塗装に対するUVインクの濡れ性、下塗り塗装とUVインク画像の密着性およびUVインクが硬化して形成された画像の色再現性に優れたインクジェットプリントにて画像が形成された建築板を製造することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明においてUVインクにより画像を形成することの利点については、以下のようなことがあげられる。UVインクは紫外線照射されることにより樹脂が瞬時に硬化する性質をもつものであり、基材表面に吸液性を必要としない。さらに、そのUVインクが硬化して得られるUVインク画像層はその大半が疎水性のものであり、耐水性に優れているといえる。また、UVインクは溶剤系や水系などの揮発性のインクと比較して樹脂固形分を多く設計することが可能であり、高濃度の画像表現が可能となる。また、UVインクの硬化した樹脂で顔料が包み込まれて保護されるような形となるため、顔料の変色や退色も少ない。
【0013】
基材としては、金属板や窯業板であることが好ましい。金属板としては、普通鋼板やガルバリウム鋼板などのめっき鋼板、塗装鋼板やステンレス鋼板などの鋼板、アルミニウム板および銅板などがあげられる。さらにはこれらの金属板に下地塗装層として各種樹脂コートを施したPCM鋼板もあげられる。また、これらの金属板に、エンボス加工や絞り成型加工などをおこなって、タイル調、レンガ調、木目調などの凹凸を施すことも可能である。さらに、断熱性や防音性を高める目的で、樹脂発泡体や石膏ボードなどの無機素材を芯材としたアルミラミネートクラフト紙などで金属板の裏面を被覆することも可能である。
【0014】
窯業板としては、素焼陶板、施釉・焼成した陶板、セメント板などがあげられる。さらには、セメント質原料や繊維質原料などを用いて板状に成形したものもあげられる。また、これらの窯業板に、エンボス加工などをおこなって、タイル調、レンガ調、木目調などの凹凸を施すことも可能である。
【0015】
また、上記の基材に対して耐久性や目止めを目的としてシーラー塗装を施すこともできる。使用するシーラー塗料としては、水系、溶剤系いずれでも構わないが、作業性や安全性の点から水系塗料であることが好ましい。
【0016】
次に下塗り塗装にて使用する塗料については、造膜助剤を含まない状態でMFT(最低造膜温度)が75℃〜110℃の範囲であるアクリル系エマルション塗料である。ここで、最低造膜温度(MFT値)とは、JIS K−6828−2、ISO 2115、ASTM D2354等の試験法に準拠して最低フィルム成膜温度の測定を行うことで求められる温度である。
【0017】
MFTが75℃〜110℃の範囲のアクリル系エマルション塗料とUVインクの相性がよい理由については、おそらくこのような高いMFTをもつアクリル樹脂の塗膜は非常に硬いため、UVインクが下塗り塗装上に着弾した際、抵抗無く濡れ広がっていくことができるためであると考えられる。MFTが75℃より低い場合、下塗り塗装の皮膜は柔軟ではあるが粘着性を持つものとなり、それがUVインクの濡れ広がりの抵抗となってしまい、また、MFTが110℃より高い場合、建築板として必要な物性の一つである凍結融解性を満たすことができない。
【0018】
アクリル系樹脂としては、アクリル樹脂、アクリルスチレン樹脂、アクリルシリコン樹脂などがあげられる。下塗り塗料は、その他、顔料、さらに必要に応じて添加剤などで構成される。
【0019】
顔料としては、有機または無機顔料で、有機顔料としては、例えば、ニトロソ類、染付レーキ類、アゾレーキ類、不溶性アゾ類、モノアゾ類、ジスアゾ類、縮合アゾ類、ベンゾイミダゾロン類、フタロシアニン類、アントラキノン類、ペリレン類、キナクリドン類、ジオキサジン類、イソインドリン類、アゾメチン類およびピロロピロール類などがあげられる。無機顔料としては、例えば、酸化物類、水酸化物類、硫化物類、フェロシアン化物類、クロム酸塩類、炭酸塩類、ケイ酸塩類、リン酸塩類、炭素類(カーボンブラック)および金属粉類などがあげられる。
【0020】
下塗り塗料の顔料重量濃度は下塗り塗料100重量部中に10〜50重量部であることが好ましい。下塗り塗料の顔料重量濃度が10重量部未満の場合には、顔料の量が少なく、基材の色を隠蔽することができず、目的である「下塗り」が達成できないおそれがあり、また、顔料重量濃度が50重量部を超える場合には、下塗り塗装の耐水性が悪くなるおそれがある。なお、ここでいう顔料重量濃度とは、塗料の不揮発成分に対しての顔料濃度のことである。
【0021】
添加剤としては、熱安定剤、酸化防止剤、防腐剤、消泡剤、浸透剤、還元防止剤、レベリング剤、pH調整剤、顔料誘導体、重合禁止剤、紫外線吸収剤、光安定剤および樹脂ビーズなどがあげられる。また水系エマルション塗料の場合、成膜助剤としてエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、2,2,4−トリメチルー1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート、ベンジルアルコールなどの溶剤を適宜添加することも可能である。
【0022】
下塗り塗料の塗布量は10〜200g/m(乾燥状態)であることが好ましい。塗布量が10g/mより少ないと、基材全体を完全に被覆できないおそれがあり、塗布量が200g/mより多いと、下塗り塗装の膜厚が厚くなりすぎて亀裂が発生しやすくなる。
【0023】
下塗り塗装の膜厚は10〜150μmであることが好ましい。膜厚が10μmより薄いと、基材全体を完全に被覆できないおそれがあり、膜厚が150μmより厚いと、亀裂が発生しやすくなる。
【0024】
下塗り塗料の塗布については、スプレーガン、カーテンコーター、フローコーターなどにておこなうことができ、特には限定されない。
【0025】
また、下塗り塗料の乾燥については、熱風乾燥、送風乾燥、ヒーターによる乾燥、ホットプレートによる乾燥などにておこなうことができ、特に限定されない。乾燥温度および時間については、適宜決定されうるが、乾燥温度は60〜150℃、乾燥時間は1〜30分であることが好ましい。
【0026】
次にインクジェット塗装にて使用されるUVインクには、2官能の反応性モノマーと、脂肪族の反応性オリゴマーと、光重合開始剤と、顔料が含有されており、さらに必要に応じて添加剤などが含まれる。顔料については前記下塗り塗料のところで説明したものと同様のものが使用できる。
【0027】
そしてこのインクジェット塗装をおこなうとき、基材の板温を45〜55℃に保持することが重要である。上述した範囲のMFTをもつアクリル系エマルションの下塗り塗装をこの温度範囲に保持することにより、下塗り塗装の皮膜の硬さと粘着性のバランスがUVインクによる画像形成に都合のよい状態となるものと推測される。つまり、板温がこの範囲より高いと密着性はよいが濡れ性が悪くなり、また、板温がこの範囲より低いと濡れ性はよいが密着性が悪くなるということになり、板温をこの範囲とすることにより結果的に画像の安定した色再現性が得られることとなる。
【0028】
板温を制御する方法としては、例えば、熱風、送風、ヒーター、ホットプレートなどで加熱するなど特に限定されない。また、下塗り塗装の乾燥時の余熱を利用することも可能である。また板温の測定としては、接触式温度計、非接触式温度計(赤外放射温度計)など特に限定されないが、下塗り塗装に傷や汚れ等を生じさせないように測定するためには非接触式温度計をもちいて測定することがより好ましい。
【0029】
UVインクの顔料重量濃度はUVインク100重量部中に0.5〜20重量部であることが好ましい。UVインクの顔料重量濃度が0.5重量部未満の場合には、着色が不十分となり、目的である「画像」が形成できないおそれがあり、また、顔料重量濃度が20重量部を超える場合には、UVインクの粘度が高くなりすぎて、インクジェットプリンタのノズルからUVインクが吐出できなくなるおそれがある。なお、ここでいう顔料重量濃度とは、UVインクの不揮発成分に対しての顔料濃度のことである。
【0030】
2官能の反応性モノマーとしては、例えば、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレート、ポリテトラメチレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパンアクリル酸安息香酸エステル、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコール(200)ジアクリレート、ポリエチレングリコール(400)ジアクリレート、ポリエチレングリコール(600)ジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,3−ブチレングリコールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレート、ジメチロール−トリシクロデカンジアクリレート、ビスフェノールAジアクリレートなどの2官能アクリレートがあげられ、単独または2種以上を組み合わせて使用することができる。なかでも、難黄変性である点で、炭化水素からなる脂肪族反応性モノマー、具体的には、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,3−ブチレングリコールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレートが好ましい。
【0031】
反応性モノマーは、UVインク100重量部中に50〜85重量部含まれることが好ましい。50重量部未満の場合、UVインクの粘度が高くなるため吐出不良を生じるおそれがあり、85重量部を超えると硬化に必要な他の成分が不足し、硬化不良になるおそれがある。
【0032】
脂肪族の反応性オリゴマーとしては、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、エポキシアクリレート、シリコンアクリレート、ポリブタジエンアクリレートがあげられ、単独または2種以上を組み合わせて使用することができる。なかでも、強じん性、柔軟性および付着性に優れる点で、また、難黄変性である点で、炭化水素からなる脂肪族ウレタンアクリレートがさらに好ましい。
【0033】
反応性オリゴマーは、UVインク100重量部中に1〜40重量部含まれることが好ましく、5〜40重量部がより好ましく、10〜30重量部がさらに好ましい。反応性オリゴマーが1〜40重量部の範囲であれば、UVインクの硬化した皮膜が、強じん性、柔軟性、密着性のより優れたものとなる。
【0034】
光重合開始剤としては、ベンゾイン類、ベンジルケタール類、アミノケトン類、チタノセン類、ビスイミダゾール類、ヒドロキシケトン類およびアシルホスフィンオキサイド類があげられ、単独または2種以上を組み合わせて使用することができる。光重合開始剤のなかでは、高反応性であり、難黄変性である点で、ヒドロキシケトン類およびアシルホスフィンオキサイド類が好ましい。
【0035】
光重合開始剤の添加量は、UVインク100重量部中1〜15重量部であることが好ましく、3〜10重量部であることがより好ましい。1重量部未満では重合が不完全で皮膜が未硬化となるおそれがあり、一方、15重量部を超えて添加しても、それ以上の硬化率や硬化スピードの効率向上が期待できず、コスト高となる。
【0036】
またUVインクには、必要に応じて、顔料を分散させる目的で分散剤を添加してもよい。分散剤としては、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、両性イオン界面活性剤および高分子系分散剤などがあげられ、単独もしくは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0037】
さらに必要に応じて、UVインクには、光重合開始剤の開始反応を促進させるための増感剤、熱安定剤、酸化防止剤、防腐剤、消泡剤、浸透剤、樹脂バインダー、樹脂エマルジョン、還元防止剤、レベリング剤、pH調整剤、顔料誘導体、重合禁止剤、紫外線吸収剤および光安定剤などの添加剤を加えることもできる。
【0038】
そしてUVインクは、使用する上記原材料を混合し、さらにその混合物をロールミル、ボールミル、コロイドミル、ジェットミルまたはビーズミルなどの分散機を使って分散させ、その後、濾過を行うことで得ることができる。なかでも、短時間かつ大量に分散できることから、ビーズミルが好ましい。
【0039】
UVインクの粘度については、50℃において1〜20mPa・sであることが好ましく、2〜15mPa・sであることがより好ましい。粘度が1mPa・s未満であると、吐出量の調整が難しく、インクの吐出が不安定になるおそれがあり、20mPa・sを超えるとインクの吐出ができないおそれがある。
【0040】
UVインクの表面張力は、20〜30dyne/cm・25℃であることがより好ましい。20dyne/cm・25℃より小さいと、濡れ性が良くなりすぎて画像が滲むおそれあり、また、プリンタヘッドへのインクの供給が困難になる。30dyne/cm・25℃を超えると、基材上でインクがはじかれ、画像が不鮮明になるおそれがある。
【0041】
UVインクに使用されるオリゴマーやモノマーを単独で測定した場合、上述した好ましい範囲の表面張力よりも高い場合が多く、そのため、濡れ剤を使用して調整することが好ましい。使用される濡れ剤としてシリコーン型,アクリル型,フッ素型が挙げられ、この中でも十分に表面張力を下げることが可能なシリコーン型,フッ素型が望ましい。
【0042】
UVインク付与量は、1〜100g/mであることが好ましく。1〜50g/mであることがより好ましい。1g/m未満の場合、十分な画像表現をすることが困難となるばかりか耐水性が悪くなるおそれがあり、100g/mを超えると、インクの硬化不良が発生するおそれがある。
【0043】
さらにUVインク画像の膜厚は、1〜150μmであることが好ましい。1μmより薄いと、十分な画像表現を得ることが困難となるばかりか耐水性が悪くなる傾向にあり、150μmを超えると、割れや剥れが発生するおそれがある。
【0044】
UVインクを吐出するインクジェット記録装置については特に限定されない。例えば、荷電変調方式、マイクロドット方式、帯電噴射制御方式およびインクミスト方式などの連続方式、ステムメ方式、パルスジェット方式、バブルジェット(登録商標)方式および静電吸引方式などのオン・デマンド方式などを用いることができる。さらに具体的なインクジェット記録装置としてはシリアル型、ライン型などがあげられいずれも使用可能である。
【0045】
シリアル型とはキャリッジの駆動によりシリアル型印刷ヘッドを主走査方向(キャリッジの移動方向)に走査させるとともに、基材を主走査方向に直交する搬送方向(副走査方向)に間欠搬送させながらインクを吐出させ画像を形成する。印刷ヘッドには、例えばブラック(Bk)、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)などのインクのカートリッジが搭載されており、各色のカートリッジには、複数個のインク吐出ノズルが主走査方向および副走査方向の両方向に沿って設けられている。印刷ヘッドに紫外線照射装置を設けてもよい。
【0046】
シリアル型の印刷ヘッドを用いる場合、インク液滴を基材に付与する工程、および、紫外線を照射する工程を、主走査毎に繰り返して行う。ここで、主走査とは、シリアル型印刷ヘッドが同一ライン上を移動することをいい、印刷ヘッドが、副走査方向に移動しないで、左から右へ1回移動する態様、左から右へ複数回移動する態様、右から左へ1回移動する態様、右から左へ複数回移動する態様、1往復する態様、複数回往復する態様等が含まれる。主走査毎とは、シリアル型印刷ヘッドが一つのラインから別のラインに移動する毎に(副走査方向の移動が行われる毎に)という意味である。前記このような印刷ヘッドの主走査毎に、インク付与工程の終了後に、あるいは、前記インク付与工程と平行して、紫外線照射によるインクの硬化を行う。
【0047】
ライン型とは、プリンタの幅方向(印刷基材の搬送方向に直交する方向)に亘って各色のインクの吐出ノズルがライン状に設けられており、例えばブラック(Bk)、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)などの吐出ノズルがライン状に設けられている。前記ライン型ヘッドでのインク付与工程の終了後に紫外線照射によるインクの硬化を行うことも可能であるし、またはこのライン型の印刷ヘッドに紫外線照射装置を設けてもよい。このようなライン型の印刷ヘッドを使用する場合、1ラインの印刷毎に色替えが行われ、色替ごとに紫外線を照射して、基材に付与されたインク液滴の硬化を行う。
【0048】
上記インクジェット記録装置においてUVインクを吐出する場合には、インクジェット記録装置に装備されたヘッドに加熱装置を装備し、インクを加熱することによりインク粘度を低くして吐出してもよい。インクの加熱温度としては25〜150℃が好ましく、30〜70℃がより好ましい。25℃未満の場合、インクの粘度を低くすることができないおそれがあり、150℃を超えるとインクが硬化してしまうおそれがある。インクの加熱温度は、反応性モノマーおよび/または反応性オリゴマーの熱に対する硬化性を考慮して定められ、熱により硬化が開始する温度よりも低く設定する。
【0049】
UVインクに含まれる反応性モノマーおよび/または反応性オリゴマーを硬化させるための紫外線照射の条件としては、紫外線ランプの出力が、50〜280W/cmが好ましく、80〜200W/cmがより好ましい。紫外線ランプの出力が50W/cm未満であると、紫外線のピーク強度および積算光量不足によりインクが十分に硬化しない傾向にあり、280W/cmを超えると、着色媒体が紫外線ランプの熱により変形または溶融し、また、インクの硬化皮膜が劣化する傾向にある。
【0050】
紫外線の照射時間は、0.1〜20秒が好ましく、0.5〜10秒がより好ましい。紫外線ランプの照射時間が20秒より長いと、着色媒体が紫外線ランプの熱により変形または溶融し、また、インクの硬化皮膜が劣化する傾向があり、0.1秒より短いと、紫外線の積算光量不足となり、紫外線硬化型インクが十分に硬化しない傾向にある。
【0051】
紫外線によりUVインクを硬化させた後、さらにその上にクリア塗装を施してもよい。クリア塗装は、光沢などの外観調整、耐候性の向上のためにインクジェットプリント後に付与されるものである。クリア塗料としては、水系、溶剤系いずれでも構わないが、作業性や安全性の点で水系塗料であることが好ましい。クリア塗料は顔料、樹脂、さらに必要に応じて添加剤などで構成される。なお、樹脂および添加剤については前記下塗り塗料のところで説明したものと同様なものが使用できる。なお、クリア塗料で使用される顔料とは、所謂、艶消剤のことであり、具体的には、シリカや樹脂ビーズなどがあげられる。光沢のあるクリア塗料層としたい場合には、艶消剤を含まないか、あるいは含んでもごく少量となるようにする。逆に、マット感のあるクリア塗料層としたい場合には、艶消剤を多く含むように設計する。しかしながら、あまり多く入れすぎると、建築板の品位や物性が悪くなるので、クリア塗料の顔料重量濃度はクリア塗料100重量部中15重量部以下とすることが好ましい。クリア塗料の顔料重量濃度が15重量部を超える場合には、その下層に位置するUVインク画像が綺麗に見えなくなってしまうおそれがあり、また、下塗り塗料層の耐水性が悪くなるおそれもある。
【0052】
クリア塗料の塗布量は3〜150g/m(乾燥状態)であることが好ましい。3g/mより少ないと、基材を完全に被覆できないおそれがあり、150g/mより多いと、クリア塗料層に亀裂が発生しやすくなるおそれがある。
【0053】
クリア塗料層の膜厚は3〜100μmであることが好ましい。3μmより少ないと、基材を完全に被覆できないおそれがあり、100μmより多いと、クリア塗料層に亀裂が発生しやすくなるおそれがある。
【0054】
また、クリア塗料の塗布方法や乾燥方法については、前記下塗り塗料のところで説明した方法と同様なものが適用できる。
【実施例】
【0055】
次に本発明について実施例をあげて説明するが、本発明は必ずしもこれらの実施例に限定されるものではない。
【0056】
実施例1
〔下塗り塗装工程〕
樹脂エマルションAD77(樹脂分48.0%、アクリル−スチレンエマルジョン、MFT=75℃、Tg=75℃、ヘンケルテクノロジーズジャパン(株)製)100重量部、造膜助剤キョーワノールM(2,2,4−トリメチルー1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート、協和発酵ケミカル(株)製)10重量部、白顔料分散体LIOFAST WHITE H201(顔料分60%、東洋インキ製造(株)製)55重量部、水10量部を加え10分間撹拌後、80メッシュで濾過実施して、下塗り塗料を得た。
【0057】
シーラー塗装未実施の窯業系サイディング板に、その下塗り塗料をエアースプレーにて総Dry塗布量120g/mになるように3度重ね塗りをおこなった。なお1度塗装毎に乾燥80℃×10分間実施した。
【0058】
〔インクジェット塗装工程〕
青顔料Blue P−BFS(C.I.Pigment Blue 15:4 銅フタロシアニン、クラリアントジャパン(株)製)3重量部、分散剤Disperbyk−168(高分子化合物、BykChemie製)を3重量部、反応性オリゴマーCN985B88(脂肪族ウレタンアクリレート、2官能、サートマー(株)製)を20重量部、反応性モノマーSR238F(1,6−へキサンジオールジアクリレート、2官能、サートマー(株)製)68.3重量部、光重合開始剤ダロキュア1173(2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製)5重量部、濡れ剤DOW CORNING TORAY 32 ADDITIVE(シリコーン系濡れ剤、東レダウコーニングシリコーン(株)製)0.7重量部を加え、ビーズミル分散機を用い分散した後、濾過を行って不純物除去し、均質なブルーUVインクを作製した。作製したインクの粘度は8.5mPas/60℃、表面張力は25.0dyne/cm・25℃であった。
【0059】
下塗り塗装した窯業系サイディング板を乾燥機(型式:DRA330DA アドバンテック東洋(株)製)内で加温し、得られたUVインクを使用してインクジェット塗装をおこなった。なお、インクジェット塗装をおこなう時の板温を非接触式温度計(型式:SK−8900 (株)佐藤計量器製作所製)を用いて測定したところ45℃であった。また、その他のインクジェット塗装条件は以下の通りとした。
◎インクジェット塗装条件
イ)ノズル径 : 70(μm)
ロ)印加電圧 : 50(V)
ハ)パルス幅 : 15(μs)
ニ)駆動周波数 : 5(KHz)
ホ)解像度 : 180(dpi)
ヘ)ヘッド加熱温度 : 60(℃)
ホ)インク塗布量 : 5(g/m
【0060】
〔UVインク硬化工程〕
インクジェット塗装後、以下の条件にてUVインクの硬化をおこなって、目的とする建築板を得た。得られた建築板を以下の評価方法にて評価した結果を表1に示す。
◎紫外線照射条件
あ)ランプ種類 : メタルハライドランプ
い)電圧 : 100 (W/cm)
う)照射時間 : 0.5 (秒)
え)照射高さ : 10 (cm)
お)プリント〜照射までのタイミング : 5 (秒)
【0061】
〔評価方法〕
1)密着性 JIS K 5600−5−6 付着性(クロスカット)
今回の試験においてはカットの間隔は4mm間隔で実施し、セロテープ(登録商標)を貼り、消しゴムで15往復させた後、勢い良く剥がし、その後の状態を確認した。
○:カット縁が完全に滑らかでどの格子も剥れがないか、カット交差点に於ける塗膜
の小さな剥れが5%未満である
△:カット縁および/または交差点に於ける塗膜の小さな剥れで、剥れが5〜35%
である
×:カット縁および/または部分的全面的に大剥れで、剥れが35%以上である
【0062】
2)濡れ性
インクジェット塗装した画像の線幅を測定した。
○:200μmより広い
△:200〜150μm
×:150μm未満
【0063】
3)色再現性
実施例1にて得られた建築板のインクジェット塗装した画像を基準値として各実施例および比較例の色差△Eを測定した。なお、色差△Eは分光測色計(型式:CM−2500c コニカミノルタ(株)製)を用いて測定した。
○:0<△E<1.5 熟練者の目視でも識別できない精度
△:1.5≦△E<3.0 目視で識別できない精度
×:3.0≦△E 目視でも識別可能な精度
【0064】
実施例2
板温を50℃とした以外は実施例1と同様にして建築板を作製した。得られた建築板を上記の評価方法にて評価した結果を表1に示す。
【0065】
実施例3
板温を55℃とした以外は実施例1と同様にして建築板を作製した。得られた建築板を上記の評価方法にて評価した結果を表1に示す。
【0066】
比較例1
板温を25℃とした以外は実施例1と同様にして建築板を作製した。得られた建築板を上記の評価方法にて評価した結果を表1に示す。
【0067】
比較例2
板温を60℃とした以外は実施例1と同様にして建築板を作製した。得られた建築板を上記の評価方法にて評価した結果を表1に示す。
【0068】
比較例3
下塗り塗装の樹脂をAD157(樹脂分49.0%、アクリルエマルジョン、MFT=40℃、Tg=40℃、ヘンケルテクノロジーズジャパン(株)製)に変更する以外は実施例1と同様にして建築板を作製した。得られた建築板を上記の評価方法にて評価した結果を表1に示す。













【0069】
【表1】


なお、比較例3については、実施例1と下塗り塗装が異なるため、色差△Eの測定はおこなわなかった。
【0070】
表1から明らかなように、実施例1〜3にて得られた建築板は、比較例1〜3にて得られたものに比べて、濡れ性、密着性および再現性に優れたものとなっている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材に、(1)下塗り塗装を施す工程と、
(2)(1)の工程の後、UVインクにてインクジェット塗装を施す工程と、
(3)(2)の工程の後、紫外線によりUVインクを硬化させる工程とからなる建築板の製造方法であって、
前記下塗り塗装の塗料が、造膜助剤を含まない状態でのMFT(最低造膜温度)が75℃〜110℃であるアクリル系エマルションであり、
前記UVインクは、2官能の反応性モノマーと、脂肪族の反応性オリゴマーと、光重合開始剤と、顔料とが含まれてなり、
前記(2)の工程における基材の板温が45〜55℃であることを特徴とする建築板の製造方法。
【請求項2】
前記UVインクの表面張力が20〜30dyne/cm・25℃であることを特徴とする請求項1記載の建築板の製造方法。
【請求項3】
前記2官能の反応性モノマーが、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,3−ブチレングリコールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレートおよび1,9−ノナンジオールジアクリレートから選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1または2記載の建築板の製造方法。

【公開番号】特開2010−194462(P2010−194462A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−42635(P2009−42635)
【出願日】平成21年2月25日(2009.2.25)
【出願人】(000107907)セーレン株式会社 (462)
【Fターム(参考)】