説明

建築物の耐震・制震装置、当該建築物の耐震・制震装置を備えた建築物

【課題】高い耐震効果、制震効果の両方を発揮することができる耐震・制震装置、当該建築物の耐震・制震装置を備えた建築物を提供する。
【解決手段】耐震・制震装置1は土台87、一対の柱89及び梁91に囲まれた空間に備えられているので、耐力壁として機能し、建築物に高い耐震性を付与する。また、一定以上の大きさの地震の際には、耐力面材5、6が摺動して、制震作用を発揮することになる。すなわち、耐力面材5は垂直部81にのみ固定され、耐力面材6は垂直部82にのみ固定されており、しかも耐力面材5、6は互いに圧接し、更に構成体7と構成体9を連結するボルト75は水平部83の長手方向へ長く延びる長穴51に挿通されているので、構成体7と構成体9は独立してある程度動作することができる。従って、圧接面が摺動して振動を減衰させて、高いに制震作用を発揮することになる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は建築物の耐震・制震装置、当該建築物の耐震・制震装置を備えた建築物に係り、特に壁構造を併せ持つ建築物の耐震・制震装置、当該建築物の耐震・制震装置を備えた建築物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば木造軸組建築物において耐震性を向上させる方法として、特許文献1にあるように土台、一対の柱及び梁に囲まれた空間に筋交いを設けることが広く行われている。
特許文献1の木造軸組耐力壁は、隅金物を用いて筋交いと土台、一対の柱及び梁との接合強度を高めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−31474
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、隅金物を用いて筋交いと土台、一対の柱及び梁との接合強度を高めても、筋交いと土台、一対の柱に囲まれた空間に板材を固定した程の耐震性を得ることは難しく、また制震効果を発揮することはできない。
本発明は上記従来の問題点に着目して為されたものであり、高い耐震効果、制震効果の両方を発揮することができる耐震・制震装置、当該建築物の耐震・制震装置を備えた建築物の提供を、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、請求項1の発明は、剛性を有する板材と、前記板材を保持し、左右方向に互いに隔を開けて配置され垂直方向へ延びる垂直部と前記垂直部に対し一体に接続され上下方向に互いに間隔を開けて配置され水平方向へ延びる水平部とを有する枠状フレームと、前記枠状フレームを左右に配置された柱の間に備えた状態で、一対の垂直部を前記左右の柱に固定する固定手段とを具備する建築物の耐震・制震装置において、前記板材は2枚備えられ、互いに圧接する状態で前記枠状フレームに保持され、一方の板材は左右の垂直部の一方側にのみ固定され、他方の板材は左右の垂直部の他方側にのみ連結されていることを特徴とする建築物の耐震・制震装置である。
【0006】
請求項2の発明は、請求項1に記載した建築物の耐震・制震装置において、2枚の板材の上下の端面と枠状フレームとの間には隙間が開いていることを特徴とする建築物の耐震・制震装置である。
【0007】
請求項3の発明は、請求項2に記載した建築物の耐震・制震装置において、2枚の板材の枠状フレームとの間の隙間は、2枚の板材の上下の端面を互いに逆方向へ傾斜するテーパ状とすることにより形成されていることを特徴とする建築物の耐震・制震装置である。
【0008】
請求項4の発明は、請求項1から3のいずれかに記載した建築物の耐震・制震装置において、垂直部と水平部とは、垂直部に形成された穴と水平部とに形成された穴にボルトが挿通されて、前記ボルトにナットが螺合されて連結されており、前記垂直部に形成された穴と水平部とに形成された穴の一方側が水平部の長手方向へ長く延びる長穴であることを特徴とする建築物の耐震・制震装置である。
【0009】
請求項5の発明は、請求項1から4のいずれかに記載した建築物の耐震・制震装置を、土台、一対の柱及び梁に囲まれた空間に備え、固定手段により一対の垂直部を左右の柱に固定したことを特徴とする建築物である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の建築物の耐震・制震装置によれば、高い耐震効果、制震効果の両方を発揮することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施の形態に係る本発明の建築物の耐震・制震装置の表面側からみた斜視図である。
【図2】図1の建築物の耐震・制震装置の裏面側からみた斜視図である。
【図3】図1の建築物の耐震・制震装置を構成する枠状フレームの分解斜視図である。
【図4】図3の枠状フレームを構成する構成体の分解斜視図である。
【図5】図1の建築物の耐震・制震装置を構成する耐力面材の斜視図である。
【図6】図1の建築物の耐震・制震装置を土台、一対の柱及び梁に囲まれた空間に備えた状態を示す正面図である。
【図7】図1の建築物の耐震・制震装置を土台、一対の柱及び梁に囲まれた空間に備えた建築物の耐震・制震装置の地震の際の動作を説明するための正面図である。
【図8】図1の建築物の耐震・制震装置を土台、一対の柱及び梁に囲まれた空間に備え、更に間柱、化粧板を設けた場合の横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施の形態に係る耐震・制震装置1、当該建築物の耐震・制震装置1を備えた建築物を図面にしたがって説明する。
耐震・制震装置1は枠状フレーム3、剛性を有する板材としての耐力面材5、6等から構成されている。
枠状フレーム3の詳細な構造について説明する。
図3に示すように枠状フレーム3は一対の構成体7、9によって構成され、構成体7と構成体9は同一構造となっている。従って、構成体7を代表例として説明する。
【0013】
符号11は縦部材を示し、この縦部材11は前後に間隔を開けて配された前板13、背板15、前板13の長手方向の端部と背板15の長手方向のそれぞれの端部どうしを連結する連結板17、連結板19とを備えており、左右方向へ貫通する開口21を有している。
前板13、背板15の左端部には、当接板23、25がそれぞれ設けられており、当接板23は前方向へ突出し、当接板25は後方向へ突出している。また、当接板23、25は前板13、背板15の全長に渡って上下方向へ延びている。
前板13、背板15には複数のネジ挿通穴27が形成され、これらのネジ挿通穴27は交互に異なる方向に寄って配置されている。連結板17、19には2つのネジ挿通穴20がそれぞれ形成されている。
当接板23、25には複数のネジ挿通穴29が形成され、これらのネジ挿通穴29は上下方向へ間隔を開けて一列に配置されている。
【0014】
符号31は短寸の横部材を示し、この横部材31は前後に間隔を開けて配された前板33、背板35、前板33と背板35の上端部どうしを連結する連結板37とを備えており、側面視「コの字状」に形成され、溝39を有している。
また、前板33、背板35及び連結板37の一端には、当接板41、43、45がそれぞれ設けられており、当接板41は前方向へ突出し、当接板43は後方向へ突出して、当接板45は上方向へ突出している。当接板45には2つのネジ挿通穴47が形成されている。
連結板37の一端部には2つのネジ挿通穴49が形成され、また中央部と、他端部には長穴51がそれぞれ形成されている。
【0015】
符号53は長尺の横部材を示し、この横部材53は前後に間隔を開けて配された前板55、背板57、前板55と背板57の下端部どうしを連結する連結板59とを備えており、側面視「コの字状」に形成され、溝61を有している。
横部材53の一端部には、当接板63、65、67がそれぞれ設けられており、当接板63は前方向へ突出し、当接板65は後方向へ突出して、当接板67は下方向へ突出している。当接板67には2つのネジ挿通穴69が形成されている。
横部材53の両端部には、2つのネジ挿通穴71がそれぞれ形成されている。
以上のように構成体7(9)は構成されている。
【0016】
耐力面材5と耐力面材6は同一形状であり、一端側へいくに従って高さ寸法が徐々に小さくなるテーパ状に形成されている(図5参照)。耐力面材5、6の他端部にはネジ挿通穴73が形成され、ネジ挿通穴73は縦部材11のネジ挿通穴27の数、配置箇所に対応して設けられている。
耐力面材5、6は例えば三菱マテリアル建材株式会社製の商品名モイス(登録商標)TMを使用する。
【0017】
図3に示すように、構成体7、9それぞれの縦部材11の一端部は短寸の横部材31の溝39に嵌められ、当接板41、43が当接板23、25にそれぞれ当接する状態となっている。この状態でボルト75が横部材31のネジ挿通穴49と縦部材11のネジ挿通穴20に挿通され、ボルト75にナット77が螺合されて、横部材31が縦部材11に固定されている。
また、構成体7、9それぞれの縦部材11の開口21には長尺の横部材53の溝61が挿通され、当接板63、65が当接板23、25にそれぞれ当接する状態となっている。この状態でボルト75が横部材53のネジ挿通穴71と縦部材11のネジ挿通穴20に挿通され、ボルト75にナット77が螺合されて、横部材53が縦部材11に固定されている。
【0018】
更に、構成体7は短寸の横部材31が上、長尺の横部材53が下になるように備えられ、これとは逆に構成体9は短寸の横部材31が下、長尺の横部材53が上になるように備えられる。
そして、耐力面材5は構成体9の縦部材11の開口21へ挿入され、且つ横部材31の溝39、横部材53の溝61に保持されており、ボルト75がネジ挿通穴27とネジ挿通穴73に挿通され、ボルト75にナット77が螺合されて横部材53が縦部材11に固定されている。
また、耐力面材6も同様に構成体9の縦部材11の開口21へ挿入され、且つ横部材31の溝39、横部材53の溝61に保持されており、ボルト75がネジ挿通穴27とネジ挿通穴73に挿通され、ボルト75にナット77が螺合されて横部材53が縦部材11に固定されている。
【0019】
構成体7の横部材31の溝39に構成体9の横部材53が差し込まれ、構成体9の横部材31の溝39に構成体7の横部材53が差し込まれる。
なお、長尺の横部材53は縦部材11の開口21には到達せず、僅かに手前に位置している。そして、ボルト75が長穴51とネジ挿通穴71に挿通され、ボルト75にナット77が螺合されて横部材31と横部材53とが連結されている。
耐力面材5、6は互いに重なり圧接した状態で枠状フレーム3が保持され、また耐力面材5は高さ寸法が徐々に小さくなる一端側を構成体9の縦部材11側に向け、耐力面材6は高さ寸法が徐々に小さくなる一端側を構成体7の縦部材11側に向けている。
【0020】
縦部材11によって一対の垂直部81、82が構成され、垂直部81、82は左右方向に互いに隔を開けて配置されている。また、横部材31、53によって一対の水平部83が構成され、水平部83は垂直部81、82に対し一体に接続され上下方向に互いに間隔を開けて配置されている。
また、耐力面材5は一方側の垂直部81にのみ固定され、耐力面材6は他方側の垂直部82にのみ固定されている。
ネジ挿通穴29が形成された当接板23、25、ネジ挿通穴47が形成された当接板45及び後述する木ネジによって固定手段が構成されている。
前記したように耐力面材5、6は上下の端面は互いに逆方向へ傾斜するテーパ状となっているので、耐力面材5、6の上下の端面と枠状フレーム3の内側との間には隙間84が開いている。
【0021】
次に、この建築物の耐震・制震装置1の使用方法について説明する。
図6に木造軸組み工法によって建築される建築物の躯体の一部を示す。
同図において符号87は土台を示し、この土台87には2本の柱89が互いに左右方向に間隔をあけて固定されている。柱89の上端部には梁91が連結されている。
【0022】
図6に示すように、建築物の耐震・制震装置1は、土台87、左右の柱89及び梁91に囲まれた空間に備えられている。
耐震・制震装置1の垂直部81は一対の柱89に固定されている。即ち、当接板23、25、45を柱89に当接させ、木ネジ(図示せず)をネジ挿通穴29、47、67に挿通し、柱89にねじ込んで、建築物の耐震・制震装置1を柱89に取り付ける。
本実施の形態では、3台の建築物の耐震・制震装置1を上下方向へ配置し、この3台の建築物の耐震・制震装置1を上下方向へ配置した構造を適宜の箇所に備えた建築物を構築する。
【0023】
上記のように建築物の耐震・制震装置1は土台87、一対の柱89及び梁91に囲まれた空間に備えられているので、耐力壁として機能し、耐震・制震装置1は壁構造としての役割を果たすことになり建築物に高い耐震性が付与されることになる。
また、一定以上の大きさの地震の際には、図7に示すように耐力面材5、6が摺動して、制震作用を発揮することになる。すなわち、耐力面材5は垂直部81にのみ固定され、耐力面材6は垂直部82にのみ固定されており、しかも耐力面材5、6は互いに圧接し、更に構成体7と構成体9を連結するボルト75は水平部83の長手方向へ長く延びる長穴51に挿通されているので、構成体7と構成体9は長穴51の範囲で、独立して動作することができる。従って、一定以上の大きさの地震の際には、圧接面が摺動して振動を減衰させて、高い制震作用を発揮することになる。
【0024】
前記したように、耐力面材5、6の上下の端面と枠状フレーム3との間には隙間84が開いているので、地震時において、耐力面材5、6は斜め方向へ摺動することが可能であり、水平方向だけでなく、斜め方向の揺れに対しても、十分な制震作用を発揮することになる。
なお、耐震・制震装置1は薄型なので、図8に示すように、耐震・制震装置1の表裏面に間柱93を配置して、間柱93に化粧板95を固定することができる。
【0025】
以上、本発明の実施の形態について詳述してきたが、具体的構成は、この実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計の変更などがあっても発明に含まれる。
例えば、耐力面材としては合板等を使用することが可能である。また、耐震・制震装置1を柱89に固定するために木ネジ以外の釘等を使用してもよいのは勿論である。
また、上記実施の形態では、3台の建築物の耐震・制震装置1を、土台87、左右の柱89及び梁91に囲まれた空間に備えたが、前記空間のサイズにより建築物の耐震・制震装置1を備える数は適宜変更するのは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0026】
建築物の耐震・制震装置、当該建築物の耐震・制震装置を備えた建築物は、建築物の耐震・制震装置製造業、建築業において利用可能である。
【符号の説明】
【0027】
1…耐震・制震装置 3…枠状フレーム 5…耐力面材
6…耐力面材 7…構成体 9…構成体
11…縦部材 13…前板 15…背板
17…連結板 19…連結板 20…ネジ挿通穴
21…開口 23…当接板 25…当接板
27…ネジ挿通穴 29…ネジ挿通穴 31…短寸の横部材
33…前板 35…背板 37…連結板
39…溝 41…当接板
43…当接板 45…当接板 47…ネジ挿通穴
49…ネジ挿通穴 51…長穴 53…長尺の横部材
55…前板 57…背板 59…連結板
61…溝 63…当接板 65…当接板
67…当接板 69…ネジ挿通穴 71…ネジ挿通穴
73…ネジ挿通穴 75…ボルト 77…ナット
81…垂直部 83…水平部
84…耐力面材の上下の端面と枠状フレーム3との間の隙間
87…土台 89…柱 91…梁
93…間柱 95…化粧板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
剛性を有する板材と、前記板材を保持し、左右方向に互いに隔を開けて配置され垂直方向へ延びる垂直部と前記垂直部に対し一体に接続され上下方向に互いに間隔を開けて配置され水平方向へ延びる水平部とを有する枠状フレームと、前記枠状フレームを左右に配置された柱の間に備えた状態で、一対の垂直部を前記左右の柱に固定する固定手段とを具備する建築物の耐震・制震装置において、前記板材は2枚備えられ、互いに圧接する状態で前記枠状フレームに保持され、一方の板材は左右の垂直部の一方側にのみ固定され、他方の板材は左右の垂直部の他方側にのみ連結されていることを特徴とする建築物の耐震・制震装置。
【請求項2】
請求項1に記載した建築物の耐震・制震装置において、2枚の板材の上下の端面と枠状フレームとの間には隙間が開いていることを特徴とする建築物の耐震・制震装置。
【請求項3】
請求項2に記載した建築物の耐震・制震装置において、2枚の板材の枠状フレームとの間に隙間は、2枚の板材の上下の端面を互いに逆方向へ傾斜するテーパ状とすることにより形成されていることを特徴とする建築物の耐震・制震装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載した建築物の耐震・制震装置において、垂直部と水平部とは、垂直部に形成された穴と水平部とに形成された穴にボルトが挿通されて、前記ボルトにナットが螺合されて連結されており、前記垂直部に形成された穴と水平部とに形成された穴の一方側が水平部の長手方向へ長く延びる長穴であることを特徴とする建築物の耐震・制震装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載した建築物の耐震・制震装置を、土台、一対の柱及び梁に囲まれた空間に備え、固定手段により一対の垂直部を左右の柱に固定したことを特徴とする建築物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−184589(P2012−184589A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−48493(P2011−48493)
【出願日】平成23年3月7日(2011.3.7)
【出願人】(594173843)イケヤ工業株式会社 (4)
【Fターム(参考)】