説明

建設機械のカバー開閉機構

【課題】 小さな力で開閉可能にすると共に摩擦抵抗の小さい開閉機構を提供することを課題としている。
【構成】 ガイドレールを有するガイド部材を収納ハウジング又はカバー体に固設すると共に、ステーの1端部をカバー体又は収納ハウジングに回動自在に設けると共に,該ステーの他端部を前記ガイドレールに摺動自在に嵌合させて設け、該カバー体を完全に開いた状態から閉じ状態に移行する際の移行開始時におけるガイドレールの形状を前記ステーの1端部と反対側方向に反った湾曲曲線又は折れ線形状に構成したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、建設機械の機械室等のような上面開口に設けた開閉自在なカバー体の開閉機構に関する技術である。更に、具体的には、該カバー体の開閉を容易にした開閉機構に関する技術である。
【背景技術】
【0002】
従来から事務機、機械装置等の装置において点検作業をための開口を設けたものがある。これらの装置では容易に点検作業ができるようにハウジングの上側に開口を設けると共に、開口の上側にカバー体を開閉自在に設けている。カバー体が小型、軽量の場合はカバー体を手動で開き、開いた状態で支持するためにステーの自由端をカバー体の適当な位置に係止させるだけで十分である。しかし、カバー体が大型又は重量の場合はカバー体にガイドレールを設けて、ステーの自由端とガイドレールを常時(摺動自在に)連結させて開閉作業及び開き状態における点検作業の安全を図っている。このようなガイドレールとステーの連結機構を設けた従来例(従来装置1)としては特許文献1に記載されている装置がある。
【特許文献1】公開特許公報、特開2001−125233(写真処理装置における開閉カバーとステーの連結構造)
【0003】
従来装置1はガイドレールの途中に回動自在な回避機構を設けてカバー体を複数の開き角度(2箇所の角度)で保持可能にした例である。しかし、建設機械のように更に大型、重量な機械では、設けられるカバー体の重量も重くなる。このような大型、重量のカバー体を設けた場合は、カバー体の開閉作業(特に上方への開き作業)時の作業を容易にするために作業時の力を補助する手段が設けられてきた。このような補助手段を設けた従来技術としては特許文献2〜特許文献4に開示されているものがある。
【特許文献2】公開特許公報、特開平6−108491(作業機のエンジンカバー開閉機構)
【特許文献3】公開特許公報、特開平8−254299(分割型エンジンフード)
【特許文献4】公開特許公報、特開2003−96822(カバー体を備えた作業機械)
【0004】
これらの特許文献に記載の発明は何れも建設機械のエンジン等を収納する機械室の点検作業用開口に設けられた例である。特許文献2(従来装置2)ではガイドレールをカバー体に設け、ステーを収納部に設けると共に、開閉時の作業に要する力を軽減するためにカバー体にガスシリンダ(気体の圧縮性を利用したシリンダ)の一端を回動自在に固定し、ガスシリンダの他端にリンク機構を介して本体(収納部)に回動自在に連結している。従来装置2は閉じ状態でガスシリンダの気体を圧縮し、カバー体を開く際にガスシリンダの膨張力を利用したものである。
【0005】
特許文献3に記載の従来装置3はステーの回動自在な固定端の代わりに巻ばねで構成したものである。従って、従来装置3ではステーと開方向の付勢手段とを一体として構成しているので、部品点数の削減、省スペースが図られている。また、特許文献4に記載の従来装置4はエンジンフード(カバー体)を2分割し、各々の端部を蝶着して観音開きできるように構成している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上に説明した従来装置はカバー体を開く場合に種々の手段を講じて開く作業を容易にしている。しかし、開いた状態から閉じる作業をする際に、従来の装置はガイドレールのガイド溝をカバー体表面と平行な直線溝に形成しているためにカバー体の閉じ作業の開始時にガイド溝とステーの摺動部との摩擦抵抗が大きくなり、カバー体の閉じるために大きな力を必要とするという課題があった。しかも閉じ作業開始時における力が最大となるために、閉じ作業が困難になるという課題が生じていた。また、大きな摩擦抵抗のために、接触部分の塗装が剥げて錆びる等の問題もあった。
【0007】
従来装置において大きな摩擦力が生じる理由を、図5を利用して説明する。図5において,カバー体50は点Pを回転中心として開閉自在(揺動可能)に設けられている。カバー体50の裏面にガイド板51が固設されており、ガイド板51にはガイド溝52aとその終端に支持溝52bとから構成されるガイドレール52が形成されている。また、ステー55の1端が点Qで回動自在に収納ハウジングに固定フレームを介して固定されている。ステー55の他端Sはガイドレール52の溝52a及び52bに緩挿され、摺動自在に構成されている。なお、点線はカバー体50を閉じたときの位置を示す。図5はステー55の摺動端Sが支持溝から出て、閉じ作業の開始位置にある状態を示す。カバー体50の開き角度をθとし、閉じ作業の開始位置の開き角度θ1とする。従ってカバー体50の重量によるモーメントMg(θ)はθ=θ1のとき最小となる。
【0008】
カバー体50を閉じるモーメントMは外から加えるモーメントMaとカバー体の重力によるモーメントMg(θ)の合成モーメントになる。即ち、M=Ma+Mg(θ)である。このときの摺動端Sと点Pとの距離を(r)とし、摺動端Sに作用する力を「F」とすれば、M=F・r が成立する(記号「・」はスカラー積とする)。力Fによって摺動端Sのステー55の軸方向に圧縮力Fc、摺動端Sの摺動方向に加速力Fa並びに摺動方向と反対向きに摩擦力Fmが作用する。これらの力関係の拡大詳細図を図3(A)に示す。図3(A)に示すように、摺動端Sはガイド溝52の上辺(右上側辺)に押圧されて摺動端Sの中心に力Fが作用し、これにより圧縮力Fc、加速力Faが生じる。また、ガイド溝52aはカバー体50の中心線と平行に形成されているから、力Fによる垂直力FtはFと等しい。即ち、F=Ftとなる。従って、摩擦抵抗Fmは、Fm=μ・F(μは静止摩擦係数)となる。摩擦抵抗Fmは上記関係からも推測できるように、また、後述するように大きな値となる。
従って,本発明は上記課題を解決した装置を提供するものであり、小さな力で開閉可能にすると共に摩擦抵抗の小さい開閉機構を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するための手段として以下の構成を採用している。即ち、
請求項1に記載の発明は、機械室等の収納ハウジングの上面に設けられた開口にカバー体を開閉自在に設け、該カバー体を開閉及び開いた状態を保持するためのガイドレールとステーを具備したカバー開閉機構において、ガイドレールを有するガイド部材を収納ハウジング又はカバー体に固設すると共に、ステーの1端部をカバー体又は収納ハウジングに回動自在に設けると共に,該ステーの他端部を前記ガイドレールに摺動自在に嵌合させて設け、該カバー体を完全に開いた状態から閉じ状態に移行する際の移行開始時におけるガイドレールの形状を前記ステーの1端部と反対側方向に反った湾曲曲線形状に構成したことを特徴としている。
【0010】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記ガイドレールは板状部材に溝を形成し,該溝は前記カバー体を完全に開いた状態に前記ステーを保持するための保持部と該保持部から前記ステーをガイドするガイド部からなり、該ガイド部の溝は前記保持部と連続する端部の溝中心線の接線と前記ステーの中心線とのなす角度が180度未満の大きな鈍角となるように形成したことを特徴としている。
【0011】
更に、請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2の何れか1に記載の発明において、前記ステ−の摺動部にローラを設けたことを特徴としている。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜請求項3の何れか1に記載の発明において、前記ステーの1端部をカバー体の裏面に回動自在に設け、前記ガイド部材を前記収納ハウジングの側壁に固設したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、カバー体の閉じ作業時における作業力を軽減し、全体としてカバー体の開閉作業が容易になるという効果が得られる。更に,摩擦力が減少したので、摺動部分の塗装等が剥げ難くなるという効果も得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】

以下本発明の実施形態1を図1〜図4に基づいて説明する。図1は本発明を実施したカバー開閉機構の全体構成図を示す。図1において,ハウジング10は建設機械に搭載したエンジン(図示省略)等を収納するハウジングである。ハウジング10の開口12の上方にカバー体14が蝶番16により回動自在(開閉自在)に設けられている。カバー体14は例えば、エンジンフードであってもよい。カバー体14の裏面の適当な個所にステー16が揺動自在に設けられる。一方、ステー16の自由端をガイドするガイド部材17がハウジング10の開口12からの適当な位置、例えば、カバー体14の閉じ状態の裏面に近接した位置に、図示省略のフレームやブラケット等を介して固定されている。ガイド部材17は板部材からなり,板部材17にはガイド溝18が形成されており、ガイド溝18はその1端部にカバー体14の開き状態を保持するための折れ曲がった支持部20とステー16の摺動端をガイドするガイド部19とが連続して一体の溝として設けられている。
【0015】
ステー16の摺動端は、ガイド溝19、支持溝20から外れないように嵌合し、かつ、摺動可能に設けられている。これによって、カバー体14の開閉時にはステー16の摺動端が図の左右に移動し、カバー体14の最大開き時にはステー16の摺動端は支持溝20に嵌合し、図の実線で示す位置に固定される。従って,カバー体14が最大に開いた状態に保持可能(固定可能)となる。この最大開き状態で点検等の作業を行う。カバー体14は鉄製又は鋼製でしかも大きいのでかなりの重量があり、開閉作業(特に開き作業)を容易にするために補助手段が設けられている。
【0016】
この実施形態では、補助手段として、トーション・バー22(捻りを利用する棒状のばねで公知技術である)が収納ハウジング10に取付けられた固定用ブラケット23に、カバー体14を裏面から押圧可能となるように固定されている。固定用ブラケット23の上側面に蝶番16が設けられており、カバー体14が回動可能に設けられている。一方,カバー体の裏面の適切な位置にトーション・バー22のばね力が作用するように受け部材25が設けられている。図1にはトーション・バー22の3つの状態が示されている。カバー体14の最大開き状態(図の実線)では、トーション・バーは受け部材25から離れた状態となり,ばね力はカバー体14に作用しない。しかし、カバー体14を閉じた状態(点線で示した下方の位置)ではばね力が最も大きく作用し、開き作業を容易にしている。中間の開き状態(点線で示した中間位置)では弱いばね力が作用する。なお、カバー体14の自由端部には閉じた状態を固定するための固定手段27が設けられている。
【0017】
図2は本発明のステー16とガイドレール18の関係を示す。図2では従来技術(図5、図3(A))との比較を明確にするために、ステー16の回転固定端を収納ハウジング10に設け、ガイド部材17をカバー体14の裏面に固定した場合を示している。しかし、機能的には図1の場合と同じであり,以下の説明はそのまま図1の場合に適用できる。図2において、図5(従来装置)の場合と異なる点はガイド溝18のガイド部19の形状がステー16の回転固定端Qから半径方向に凸状に湾曲した曲線になっている点である。本実施形態の場合を図5に示した場合と同じ大きさのモーメントMを作用させ、カバー体14に閉じ動作を開始するための作用力Fが作用した場合を考える。なお、この状態ではMg(θ1)は最小となり、従って、閉じ作業の開始時には大きなモーメントMa(又は大きな作用力F)が必要となる。
【0018】
この場合におけるステー16の摺動端Sに作用する力関係について以下に説明する。図3(B)において、摺動端Sの中心はガイド部19の縁辺により力Fにより押圧される。力Fはステー16を圧縮する力Fcと摺動端Sを停止状態から加速する力Faに分解される。このとき摺動端Sがガイド部19の縁辺を垂直に押す反力はFt(Ft<F)となる。従って、この場合の摩擦抵抗(摩擦力)Fmは、Fm=μ・Ft<μ・F(μは静止摩擦係数)となる。即ち、本実施形態における摩擦力Fmは従来装置(図5参照)の場合よりも小さくなる。更に、本実施形態において力Fによって生ずる摺動端Sを加速する力Faは、図3(A)と図3(B)の比較から明らかなように、従来装置の場合の加速力Fa(図3(A)参照)よりも大きい。
【0019】
従って、本実施形態における摺動端Sを実際に加速する力Fr(Fr=Fa−Fm)は、従来装置の場合に比べて更に大きくなる。即ち、同じ条件(実際の加速力Frが同じにした場合)ではカバー体14,カバー体50を閉じるに必要なモーメントMaは従来装置の場合に比べて本実施形態の場合が小さくなり、摩擦抵抗Fmはμ・Ftよりも更に小さくすることができる。従って、本発明を利用した実施形態のカバー開閉機構では従来装置に比べてカバー体14の閉じ作業開始に必要な力F(又はモーメントMa)も小さくなり、更に摩擦抵抗Fmも小さくなる。即ち、カバー体を閉じるに必要な最大力(Fの最大値)が小さくなり、開閉作業が容易になるという効果と同時に摺動部分の塗装等が剥げ難くなるという効果も得られる。
【0020】
また、図4(A)は、本実施形態のステー16の構造例を示し,図4(A)の上方に平面図、下方に側面図を示す。図4(A)において、回転固定端部26には鍔27とピン穴26aが設けられており、摺動端部28には摺動部の両側に鍔29,29が設けられると共に摺動部にはローラ30を設けている。なお、ローラ30は無くてもよい。
【0021】
図4(B)はガイド板17の構造例を示す。図4(A)の上方に正面図、下方に下平面図を示す。図4(B)において、ガイド板17には貫通した溝19からなるガイド部19と貫通した溝20からなる支持部が接続して形成され、ガイド部19の反対端には挿入穴31が設けられている。挿入穴31の内径は鍔29a、29bの外径よりも大きく、溝18及び溝19の溝の幅は摺動部(又はローラ)の直径よりも大きく形成されている。従って,鍔29a,29bを固定した状態で摺動部を挿入穴31から嵌合できるように構成されている。なお、外側の鍔29bを取り外し、かつ固定可能に構成して、挿入穴31の内径を少し小さくするように構成してもよい。
【0022】
以上に説明したように、本実施形態によれば、既に述べたように、摩擦抵抗が小さくできると同時にカバー体を閉じる際の力も小さくできるという効果が得られる。
以上本発明の実施形態を図面に基づいて詳述してきたが、本発明の技術的範囲はこれに限られるものではなく、実質的に同一技術と見られる改良や変更があっても本発明の技術的範囲に属する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明を実施した実施形態の構成を示す。
【図2】本実施形態におけるステーとガイド部材との関係を示す。
【図3】(A)従来装置における作用力の関係を示す。 (B)本実施形態における作用力の関係を示す。
【図4】(A)本実施形態におけるステーの構成例を示す。 (B)本実施形態におけるガイド板の構成例を示す。
【図5】従来装置におけるステーとガイド部材との関係を示す。
【符号の説明】
【0024】
10 収納ハウジング
12 開口部
14 カバー体
16 ステー
17 ガイド板
18 ガイド溝
19 ガイド部
20 支持部
22 トーション・バー
32 蝶番
P カバー体回転中心
Q ステー回転中心
S 摺動部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機械室等の収納ハウジングの上面に設けられた開口にカバー体を開閉自在に設け、該カバー体を開閉及び開いた状態を保持するためのガイドレールとステーを具備したカバー開閉機構において、ガイドレールを有するガイド部材を収納ハウジング又はカバー体に固設すると共に、ステーの1端部をカバー体又は収納ハウジングに回動自在に設けると共に,該ステーの他端部を前記ガイドレールに摺動自在に嵌合させて設け、該カバー体を完全に開いた状態から閉じ状態に移行する際の移行開始時におけるガイドレールの形状を前記ステーの1端部と反対側方向に反った湾曲曲線形状に構成したことを特徴とする建設機械のカバー開閉機構。
【請求項2】
前記ガイドレールは板状部材に溝を形成し,該溝は前記カバー体を完全に開いた状態に前記ステーを保持するための保持部と該保持部から前記ステーをガイドするガイド部からなり、該ガイド部の溝は前記保持部と連続する端部の溝中心線の接線と前記ステーの中心線とのなす角度が180度未満の大きな鈍角となるように形成したことを特徴とする請求項1に記載の建設機械のカバー開閉機構。
【請求項3】
前記ステ−の摺動部にローラを設けたことを特徴とする請求項1又は請求項2の何れか1に記載の建設機械のカバー開閉機構。
【請求項4】
前記ステーの1端部をカバー体の裏面に回動自在に設け、前記ガイド部材を前記収納ハウジングの側壁に固設したことを特徴とする請求項1〜請求項3の何れか1に記載の建設機械のカバー開閉機構。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−8364(P2007−8364A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−193585(P2005−193585)
【出願日】平成17年7月1日(2005.7.1)
【出願人】(501132804)住友建機製造株式会社 (271)
【Fターム(参考)】