説明

建設機械のキャブ

【課題】スライドドアの開閉操作時に同ドアが旋回台の最大旋回半径から外側に突出することなく、前述のキャブ室内の有効空間を可能な限り大きくするとともに、スライドドアの開閉が円滑になされるキャブ構造と同キャブを設置した建設機械を提供する。
【解決手段】下部走行体(1)上に旋回台(2)を設け、その旋回台(2)の旋回中心から偏位した位置に設置され、外側側面部(10)が外側に膨らむ湾曲面をもって形成されるとともに、同外側側面部(10)にスライドドア(16)を備えてなる建設機械のキャブにあって、前記外側側面部(10)の後半部の曲率半径(R2)が、その前半部の曲率半径(R1)よりも小さく設定され、前記スライドドア(16)を前記外側側面部(10)に沿わせて開閉させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、油圧ショベルやクレーン車等の建設機械のキャブと、同キャブを備えた建設機械に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の建設機械は、例えば実用新案登録第2526933号公報に開示されているように、車輪や履帯等をもつ走行体上に旋回台を設置し、同旋回台上にショベル装置、クレーン装置等の作業装置とその動力装置、並びにそれらの作業装置の起動・停止及び走行体の操縦を行うためのキャブが設置されている。
前記キャブは作業時における作業装置との干渉を避けて、その移動軌跡内に納まるように小型化されているが、同時に快適な居住性と有効空間とを確保するため、キャブの乗降口をスライドドアで開閉するようにし、スライドドアを含む外側側面部を前記旋回台の最大旋回半径に近い半径の円弧面内、或いは履帯の内側に納まる位置として、前記スライドドアを前記外側側面部と同一の円弧面形状として、同円弧面に沿ってスライドさせるようにしている。
【0003】
また、上記キャブの前面部には全面に窓が設けられており、特にこの前面窓部を通して前上方の視界をより広くして操作性を向上させるとともに、バケットやブーム等の作業装置との干渉を避けるため、前面部の上部側を、上側にいくほど後方に位置するように後傾状に形成している。
ところで、キャブの四隅に立設されるピラーが互いに平行に垂直に起立するものであれば、たとえキャブの外側側面が上述のごとく旋回台の外径に沿って円弧状に形成されているとしても、前記ピラーを上下にわたって同一太さに形成することができる。
【0004】
しかるに、前述のごとくキャブの前面窓部の上部が後傾状に形成されている場合には、前記外側側面部を単一の円弧状、つまり円筒体の一部として形成すると、前面窓部と外側側面部との間に正面視で垂直となるように立設される前部ピラーは、前面窓部の傾斜角に応じて前面窓部の傾斜起点から上端にかけて側面視で左右の幅が漸増し、キャブの外側前部上方の視界を極端に狭くしてしまう。
【0005】
そのため、上記実用新案登録第2526933号公報では、外側側面のほぼ前面を上部に向けて内側に傾斜させ、前面視で前部ピラーの左右幅を均一にして、機体の全体的なバランスを取るようにしている。
また、例えば特許第2722055号公報に開示されたキャブにあっては、キャブの外側側面部の前半部分の曲率を上下にわたって同一の曲率半径とするとともに、全ての円弧が外側側面部の前半部分と後半部分との境界線にて交差するように、その中心点を上方に向かうにつれて後方に移動させて得られる三次元湾曲面として形成し、上記ピラーの側面側の左右幅寸法を上下方向において変化しないようにして、キャブの外側前面上方の視界を確保している。
【0006】
また、同公報によればキャブのドア開口部におけるドアスライド面を、ドア開口部下端にあってはピラーの下端から旋回台の旋回中心と同一中心をもつ下部円弧にて形成するとともに、ドア開口部下端から前記キャブ幅の最大位置に接し、同時にキャブ後端面の外側下端を同後端面と前記下部円弧との交点よりも旋回台の内側に位置する点をドア開口部下端と結ぶ基本円弧にて形成し、ドア開口部下端からドア開口部上端までは前記基本円弧の中心を前面窓部の後傾斜に応じて後方にずらした同一円弧にて形成している。
【0007】
そして、前記ドア開口部の後方であってキャブの後端に到る外側側面を、ドア開口部の後端からキャブの後端と、を結ぶ前記基本円弧からなる同一の円筒面として形成している。
かかる構成により、上記特許公報に開示された建設機械用キャブにあっては、キャブ前面窓部を上下にわたり同一幅とし、その上部を後方に傾斜させても、キャブ幅を最大としつつキャブ前方からの見栄えに優れたものが得られ、且つ製作が容易であって、しかもキャビンの後端に設けられるドアストッパを旋回台から突出させずに済むというものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかして、上記特許公報に開示された建設機械用キャブによれば、キャブの外側側面部におけるドア開口部は上述のごとく三次元湾曲面に形成され、一方のドア開口部の後端からキャブの後端までの後部外側側面部を円筒面にて形成している。
そして、前記ドア開口部の三次元湾曲面と後部外側側面部の円筒面とは、上述のごとく平面視で互いに同一半径の基本円弧に沿う形状に形成されているが、例えばドア閉口部上端における三次元湾曲面側は、その中心点を後部外側側面部の円筒面の中心から後方に移動させた円弧に沿う形状とされている。
【0009】
このように半径寸法を同一にしたまま中心点を移動させた三次元湾曲面による円弧は、ドア開口部後端の点で後部外側側面部の円筒面と交差角をもって交差するようになり、その交差角は上記中心点の移動量に応じて小さくなる。
その結果、ドア開口部後端に沿っては、三次元湾曲面と後部外側側面部の円筒面との滑らかな連続面が得られずに、平面視で折れ線状に角張った形状となり、これによって、側面部の美観が損なわれる。
【0010】
なお、ドア閉口部下端における基本円弧は前部外側ピラーの下端を通る上記下部円弧に内接している。
したがって、後部外側側面部の円筒面を、例えば前記下部円弧に沿う円筒状として、ドア開口部を構成する外側側縁上の各高さ位置に応じて後方に中心点を移動させるとともに、後端を前記下部円弧に内接するような円弧を順次求めて三次元湾曲面を形成することで、この三次元湾曲面と後部外側側面部の円筒面とが、上記内接点を境にして滑らかに連なる形状とすることが可能となる。
【0011】
しかしながら、いずれにしても上記スライドドアの全体形状は上述のごとく少なくとも一部に三次元湾曲面を有するキャブの外側側面部に沿った同様の形態を備えている必要がある。
従って、スライドドアも三次元湾曲形状部分と円筒部分とからなり、同スライドドアの開閉の際、特に同スライドドアにより乗降口の開口を開放するときには、その三次元湾曲面部分の内面がキャブの後部外側側面部に乗り上げて、ドア全体を同後部外側側面部から外方へと浮き上がらざるを得ない。
【0012】
その結果、前記浮き上がり量を計算してキャブの外側側面部を旋回台の外径から大きく内側に配せざるを得なくなり、その分だけキャブの室内幅が狭くなる。
本発明の目的は、スライドドアの開閉操作時に同ドアが旋回台の最大旋回半径から外側に突出することなく、前述のキャブ室内の有効空間を可能な限り大きくするとともに、スライドドアの開閉が円滑になされるキャブ構造と同キャブを設置した建設機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
かかる目的は、第1発明から第5発明によって達成される。
第1発明のキャブは、下部走行体上に旋回台を設け、その旋回台の旋回中心から偏位した位置に設置され、外側側面部が外側に膨らむ湾曲面をもって形成されるとともに、同外側側面部にスライドドアを備えてなる建設機械のキャブにあって、前記外側側面部の後半部の曲率半径が、上下方向にわたってその前半部の曲率半径よりも小さく設定されてなる。
【0014】
いま、キャブの外側側面部の全湾曲面領域を同一の曲率半径を有する円筒体の一部で構成するとともに、その外側側面部の後端を域の後半部を旋回台の周縁近傍内側にくるようにキャブを設置すると、既述した如くスライドドアの開放時には同ドアの後端が旋回台の旋回半径から外側に飛び出す。
これを避けるため、スライドドアの後端縁の中央に配置されるガイドローラを、キャブの外側側面部の後半部に配される案内レールに係着させて外側に飛び出さないようにすると、逆にスライドドアの前端縁が外側に飛び出してしまう。
【0015】
そこで、通常はスライドドアの開放時にも運転席の前面部の室内容積を確保すると共に、その後端が旋回台の旋回半径から飛び出さないように余裕をもってキャブの外側後端の設置位置を設定している。
その結果、特にキャブの座席部後方の室内幅が極端に狭くなり、作業者に大きな圧迫感を与えることが多い。
【0016】
これに対して、本件第1発明ではキャブの外側側面部の後半部における曲率半径を前半部のそれよりも小さく設定し、キャブの外側側面部の後端設置位置を前記ドアの厚みだけ旋回台の内側に設定するとともに、スライドドアの開放時に同ドアの後端を外側側面の曲率半径の小さい後半部に沿って積極的に案内し、同時にスライドドアの前端縁を外側側面部の表面に沿って積極的に案内することにより、同ドアの開放時にあっても、その後端を旋回台の旋回半径から外側に突出させることなくキャブの後半部を最大限広くすることを可能にする。
すなわち、キャブ後半部の容積を最小限小さくする代わりに、運転者が実質的にキャブの広さを体感する前半部、換言すると運転者の前方の容積を最大限大きくしている。
なお、後半部の曲率半径は一定であってもよいし、後半部の前方から後方に向かって漸減させてもよい。
【0017】
本件第2発明では、前記第1発明にあって、前面窓部は側面視で後方に向けて傾斜する傾斜面に形成され、その前面窓部の外側端縁から後方に延設される外側側面部の前半部の少なくとも上部領域が、鉛直線に直交する断面形状が円弧状であって、その前部傾斜端縁に向けて上方内側に三次元的に漸次湾曲する三次元湾曲面形状に形成されてなり、上記スライドドアは前記外側側面部の前半部とほぼ同一の湾曲面を有し、前記外側側面部の後半部の湾曲領域は前記前半部の湾曲領域に連続する円弧面に形成されてなることを特徴としている。
【0018】
前記三次元湾曲面は、例えば同一の曲率半径をもつ円弧が上方に向かうにつれて、その中心位置を徐々に後方に変位させるとともに、その三次元湾曲面の後端を同一鉛直線上に位置するように設定するか、或いは円弧の曲率半径を上方に向かうにつれて徐々に小さくするとともに、その三次元湾曲面の後端を同一鉛直線上に位置するように設定することにより形成する。
【0019】
また、前記円弧面によって形成される円筒の母線は、曲線であっても構わない。
本発明にあっては、特にキャブの前面窓部が下方から上方にかけて後方に傾斜する傾斜面として形成されている場合を規定しており、この場合にキャブの外側側面部の湾曲形態を単純な円筒体の一部で構成すると、既述したとおり前面窓部と外側側面との間に設けられるピラーは、上方にいくに従って側面幅が大きくなって、作業者にとって斜め上方の視界が大きく妨げられることになる。
【0020】
そこで、本件第2発明では前部窓部を後傾斜面に形成するとともに、前記外側側面部の少なくとも前半部の前記後傾斜面に続く部分を上述の三次元湾曲面形状としている。
このとき、前記外側側面部の後半部は前記三次元湾曲面と上下方向に延びる境界線を挟んで滑らかに連続する湾曲面として形成する。
この後半部の湾曲面領域は、例えば単一円筒体の一部で構成することもできるが、前記三次元湾曲面に滑らかに連続させながら、前半部下端の曲率半径よりも小さい同一の曲率半径でその中心を徐々に前方に移動させて、全体として上方にかけて旋回台の内側に傾斜する傾斜面に形成することもできる。
【0021】
かかる構成により、上記ピラーの側面を上下で一律の幅とすることができて、斜め上方の視界を広くすることができるとともに、前面視でキャブの左右端縁を平行にすることができ、外観的にも見栄えが確保される。
また、キャブの前半部における曲率半径よりも後半部の曲率半径を小さくしてするとともに、上方に向けてキャブの内側に傾斜する上記三次元湾曲面領域の前端を可能な限り鉛直線状に変形させることにより、上記第1発明と同様にキャブの室内を最大限まで広くすることができるだけでなく、スライドドアの開放操作時に同ドアが旋回台の最大旋回半径から外側に突出しないようにすることを可能にする。
【0022】
本件第3発明によれば、例えば前述の上方に向けてキャブの内側に傾斜する上記三次元湾曲面領域の前端を鉛直線状に変形させることにより、前記外側側面部を、前記スライドドアの乗降口開放操作時に、同スライドドアの三次元湾曲面形状を二次元湾曲形状、つまり単一の円筒体の一部となるよう変形案内するガイド手段を有している。
スライドドアのスライド面に前記三次元湾曲面が形成されていると、同ドアの開放時には前記三次元湾曲面の前端縁が上記外側側面部の後半部に乗り上げ、特に同ドアの前縁下端及び/又は後縁上端を、スライドドアが二次元湾曲面であるときよりも大きく外側に張り出させようとする。
【0023】
本件発明にあっては、上述のごとく外側側面部の後半部の曲率半径を前半部のそれより小さく設定しているため、特にそれらの張り出し量はより大きくなる。
そこで、本件第3発明では三次元湾曲面を有するスライドドアの開放時に、同三次元湾曲面を積極的に二次元湾曲面に変形させるためのガイド手段を外側側面部に設けている。
スライドドアの開閉時におけるガイド手段は、通常ドア側に設けられる転動ローラとキャブの外側側面部に設けられるガイドレールとからなる。
【0024】
前記転動ローラの設置位置とその設置数は、一般的にスライドドアの前端縁上下端の2か所と同ドアの後端縁中央部の1か所の3か所であり、それらの転動ローラのドア本体に対する転動位置は不変であり、特に転動ローラとドア本体との間隔を転動中に大きくすることは不可能である。
一方、キャブの外側側面に設けられるガイドレールは転動中の転動ローラを強制的に案内させることが可能である。
【0025】
従って、本件第3発明では、例えばスライドドアの前縁上端に設けられる転動ローラに対する前記ガイドレールの案内軌跡を外側に徐々に押し出すように形成するとともに、スライドドアの前縁下端に設けられる転動ローラに対する前記ガイドレールの案内軌跡を内側に引き込むように形成する。
一方、スライドドアの後端縁中央部に設けられる転動ローラは、外側側面部の前半部よりも小さな曲率半径の円弧に沿って設けられたガイドレールに拘束案内される。
【0026】
つまり、スライドドアの開放操作時には、同ドアの前縁上端を積極的に外側に押し出すとともに、同ドアの前縁下端を積極的に内側に引き込み、同時に同ドアの後端縁中央部を外側側面部の後半部の表面に沿わせて案内する。
その結果、三次元湾曲面を有するスライドドアの形態は二次元湾曲面へと変形しながら、キャブの外側側面部の表面に沿って同ドアの開放操作が行われるため、スライドドアの開放時には同ドアのスライド面は外側側面部の後半部表面に全体が沿うようになり、同ドアの前端縁下端及び又は後端縁上端が旋回台の最大旋回半径内に納まる。
【0027】
本件第4発明は、旋回台の旋回中心から偏位した部位に設置され、側面視で後方に向けて傾斜する傾斜面をもつ前面窓部と、その前面窓部の外側端縁から後方に延設され、鉛直線に直交する全体の断面が外側に膨らむ湾曲面からなり、その前半部の湾曲面領域内の上端縁から下端縁にかけて所要の幅をもって開口する乗降口を有する外側側面部と、前記乗降口を開閉するスライドドアとを備えてなる建設機械のキャブにあって、上記傾斜面の外側端縁から後方に延設される外側側面部の前記前半部の湾曲領域は、鉛直線に直交する断面形状が円弧状であって、上方に向かってその曲率半径が漸減する三次元湾曲面形状に形成され、上記スライドドアは前記外側側面部の前半部とほぼ同一の湾曲面を有し、前記外側側面部の後半部の湾曲領域は上下にわたり同一の曲率を有し、前記前半部の湾曲領域に連続する円弧面に形成され、その曲率半径は前記三次元湾曲面領域の下端における曲率半径とほぼ同一の曲率半径に設定されてなり、前記外側側面部は、前記スライドドアの乗降口開放操作時に同スライドドアの三次元湾曲面形状が二次元湾曲形状となるよう変形案内するガイド手段を有してなることを特徴としている。
【0028】
この発明は、前記外側側面部の後半部における曲率半径を前半部の前記三次元湾曲面領域の下端における曲率半径とほぼ同一の曲率半径に設定している点で、前記第3発明とは異なっている。
この発明にあっても、上記第2発明と同様に外側側面部の後半部の湾曲面を単一の円筒体の一部に形成することもできるが、同湾曲面を上方に向かうにつれてキャブの内側に僅かに傾斜する形態とすることもできる。
【0029】
本件第4発明では、上記第3発明と比較するとスライドドアの開放時における同ドアの後端の外側への張り出し量は少なくなるが、相変わらず張り出すことには変わりなく、しかも前記ドアの前端縁下端の張り出し量は上記第3発明と変わるところがない。
従って、第3発明と同様にスライドドアの前部の三次元湾曲面を二次元湾曲面に変形させることにより、同ドアの開放時にあってもスライドドアの後端が旋回台の旋回半径から外側に突出することがない。
【0030】
本件第5発明は、下部走行体上に旋回台を設け、その旋回台の旋回中心から偏位した位置に設置され、外側側面部が外側に膨らむ湾曲面をもって形成されるとともに、同外側側面部にスライドドアを有する請求項1〜3のいずれかに記載のキャブを備えた建設機械にあって、前記キャブの設置位置は、キャブの前縁外側下端が上記旋回台のほぼ最大旋回半径上に設定されるとともに、乗降口の開放時における前記スライドドアの前縁下端及び/又は後縁上端が前記旋回台のほぼ最大旋回半径上に設定されてなることを特徴としている。
【0031】
かかる構成を採用することにより、上述のごとくスライドドアの開閉時に同ドアの後端が旋回第の旋回半径から外側に飛び出すことがなく、しかも円滑なドアの開閉操作が可能となり、更にはキャブ室内の空間、すなわち運転者の前方及び側部の空間を最大限とすることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、この発明の代表的な実施形態について図面を参照しつつ具体的に説明する。
図1は本実施形態に係る建設機械としての油圧ショベルを示している。
この油圧ショベルは、走行体1の上に旋回台2を備え、この旋回台2上にキャブ3及びエンジンルーム4が設けられると共に、作業機5が取付けられている。
この作業機5は、旋回台2の旋回中心上に基端が枢支されたブーム5aと、このブーム5aの先端に枢支されたアーム5bと、同アーム5bの先端に枢支されたバケット5c等とから構成されている。
【0033】
上記キャブ3は正面視で旋回台2上の前記作業機5の右側に偏らせて設置されている。
キャブ3は、図2及び図3に示すように略直方体の箱形に形成され、その前面部6は、下端から略1/3の高さ位置までほぼ鉛直に立ち上がる鉛直面6aと、同鉛直面6aの上端から天板部7まで後方に傾斜して立ち上がる傾斜面6bとからなり、前記鉛直面6a及び傾斜面6bには、それぞれ板ガラス或いは透明樹脂板が嵌め込まれている。従って、前面部6は側面視で略く字状を呈している。
【0034】
また、正面視で左側の内側側面部8及び後面部9はそれぞれ鉛直面からなり、それぞれのパネルの上部半面或いはそれより少ない領域に板ガラス或いは透明樹脂板が嵌め込まれている。
このように前面部6を後方に傾斜させているのは、上方視界の確保と、作業機5とキャブ3との干渉を避けるためである。
【0035】
一方、正面視で前記前面部6及び後面部9の外側端縁間を連結する外側側面部10は外側に膨らむ湾曲面とされている。
本実施形態によれば、前記外側側面部10の下端における前端から前後幅の略2/3の位置に中間ピラー11が立設されており、前部ピラー12の後端と前記中間ピラー11の前端との間には作業員用乗降用の開口部14が形成されており、本発明の前半部を構成している。
【0036】
また、前記中間ピラー11と後部ピラー13との間のパネルの上半部には板ガラス或いは透明樹脂板が嵌め込まれており、その下方には水平に延びるスライドドア16の中間案内レール部15が形成されている。
本実施形態にあっては、キャブ外側側面部10の前半部は、前記開口部14の下端から略1/3の高さ位置までは単一の円筒面領域10bにより構成されており、残る上方の略2/3は三次元湾曲面領域10aにより構成されている。
【0037】
また、キャブ外側側面部10の後半部は、前記円筒面領域10bと前記三次元湾曲領域10aとに滑らかに連続する二次元湾曲領域21よりなる。
図4は、外側側面部10の形状を説明するためのキャブの立体図と上面図を模式的に示したものである。
同図では、理解をしやすくするため外側側面部10の前半部の全てを円弧(前後)方向に前記三次元湾曲面領域10aとし、前記円筒面領域10b及び前面部6の鉛直面6aの図示を省略しているが、かかる構成を備えている図2及び図3に示す実施形態であっても、本発明の効果が得られることはいうまでもない。
【0038】
以下、図4に基づいて外側側面部10の形状を具体的に説明する。
前記三次元湾曲領域10aと前記二次元湾曲領域21とは、側面視で垂直な境界線a1で区切られている。
この境界線a1は、上面視における線分a上にある。
図示されていないキャブ内運転席に運転者が着座する際に、運転者の肘がその線分aの近傍上に位置する。
【0039】
前記三次元湾曲領域10aは、その前縁下端が旋回第2の略最大旋回半径上にあり、その前縁下端から三次元湾曲領域10aの前端は前部ピラー12が前面視でキャブ3の外側に張り出さないように斜め後方へと傾斜して立ち上がっている。
そして、その後端縁との間を下端から上端に向けて前記傾斜に合わせて曲率半径を漸次小さくしながら(下端の曲率半径R1から上端の曲率半径Rnへと変化する。)、しかもその後端をそれぞれ前記境界線a1において前記二次元湾曲面領域21に内接する曲率半径R2なる円弧をもって滑らかに連結する三次元湾曲形態を有している。なお、境界線a1を本実施形態では略鉛直線としているが、図4(a)では説明のためキャブ3の上方で内側に傾斜させている。
【0040】
ここで、図示のキャブ形状では、R1>Rn>R2の関係にあって、キャブ3の外側側面部10を前後にわたって円滑に連続させるため、前記前半部の下端の曲率半径R1の円弧、同上端の曲率半径Rnの円弧及び後半部の曲率半径R2の円弧の各中心O1,On,O2は上記線分a上にあり、上記境界線a1上で前記前半部の後端縁と後半部の前端縁とが、前記前半部の下端の曲率半径R1をもつ円弧に内接するように設計されている。
【0041】
前記外側側面部10の前半部における上述の構成による効果は次のとおりである。
先ず、三次元湾曲領域10aの前縁下端、すなわちキャブ3の前縁下端を旋回台2の最大旋回半径上に位置させている。
これは、例えば既述した従来技術である特許第2722055号公報にあるように、キャブの下端を旋回台の最大旋回半径より小さい部位に位置させている場合と比較すると、前面部6に関して、キャブ3が旋回台2の旋回半径内にあることを前提としたとき、より大きな前面の面積を確保可能にする。
【0042】
これは、直ちに前面視界の拡大と、キャブ内容積の増大に伴う運転者の快適性の向上につながる。
また、前記三次元湾曲面領域10aの前端を下端から上端に向けて、前記前端が接続する前部ピラー12を前面視でキャブ3の外側に張り出さないよう後方に傾斜させて立ち上げることにより、前面視での美観も向上する。
【0043】
さらに、図4に示される外側側面部10の前端、すなわち三次元湾曲面領域10aの前端は上方にいくほどキャブ内側に向けて傾斜しているのに対して、境界線a1、すなわち三次元湾曲面領域10aの後端はほぼ垂直線(図4(a)では、前述のとおり境界線a1を上方にいくほどキャブ内側に僅かに傾斜させている。
従来、前面部6を傾斜させて外側側面部10を円筒体に類似する形状としたキャブでは、前面視で前部ピラーをキャブの外側に張り出させないようにバランスをとると、前述の実用新案登録第2526933号公報にあるように、外側側面部の上部側を内側に傾斜させる必要があった。
【0044】
更に、キャブにスライドドアを装備すると、その開閉のためにスライドドアの面形状を円筒ないしは円筒に類似した形状としている。
その結果、前記外側側面部の内側への傾斜を少なくともスライドドアがスライドする全面で行う必要があった。
この従来技術と比較すると、本発明では、三次元湾曲領域10a上方のキャブ内側への傾斜が、その前端から後端に向けて漸減させているため、キャブ内容積、特に運転者がキャブ内の運転席に着座しているときに視認できるキャブ内の容積が増大するため、運転の快適性が向上する。
【0045】
しかし、前述の外側側面部10の構成を採用すると、スライドドアを開閉するときスライドドアの前縁下端或いは後縁上端がキャブ3の外側に大きく張り出すため、スライドドアの開放時にはキャブ3が旋回半径内に納まらないという問題が生じる。この問題点に対する解決手段は後述する。
一方、前記外側側面部10の境界線a1を介した後半部分は、キャブ3の上下にわたって同一の曲率半径R2を有する単一の円筒面により構成されている。
【0046】
この曲率半径R2は、既述したとおり上記前半部分の円筒面領域10aの曲率半径R1よりも小さく設定され、前記境界線a1を介して前記外側側面部10の前半部に内接する。
本実施形態では、前記後半部が同一の曲率半径R2を有する単一の円筒面から構成されているが、この後半部を、例えば同一の曲率半径R2からなる円弧の中心を上方に向かうにつれて前方へと変位させて、その上端縁をキャブ3の内側に僅かに傾斜するように構成することもできる。
【0047】
また、前記外側側面部10の上下端に配される上下横桟17,18の前端から前記中間ピラー11に到る間には、スライドドア16の開閉動作を案内する上下案内レール部19,20が設けられている。
これらの案内レール部15,19,20の具体的な構造については後に詳しく説明する。
【0048】
キャブ3の上記実施形態にあって、スライドドア16の形態もキャブ3の外側側面部10における前半部と同一の湾曲面形態を有している。すなわち、スライドドア16の下端から1/3の高さまでは曲率半径R1の円弧面に平行な円弧面を有する円筒体の一部で構成され、その上部側は上端縁が曲率半径Rnの円弧に平行な円弧をなすように上方に向かって曲率半径を漸減させた三次元湾曲面形状とされている。
【0049】
このスライドドア16の前端縁の上端部及び下端部と後端縁の上下方向中央部には、それぞれ転動ローラ類が取り付けられ、それぞれが上述のようにキャブ3の外側側面部10に設けられた上中下の案内レール部19,15,20に支持案内されながら、スライドドア16の開閉がなされる。
本実施形態における前記ローラ類及び案内レール部15,19,20によるスライドドアの支持構造を、図5及び図6を参照しながら従来のスライドドアの支持構造と比較しつつ具体的に説明する。
【0050】
図5は本実施形態によるスライドドア16の支持構造を示しており、図6は従来のスライドドア16′の支持構造を示している。
まず、従来のスライドドア16′の支持構造例について図6を参照しつつ具体的に説明すると、図6(a)はキャブ3′の外側側面部10′に対するスライドドア16′の上端部の支持構造を示しており、上部横桟17′の下端部に上案内レール部19′を有している。
【0051】
この上案内レール部19′は断面が矩形状をなしており、その外側の下端隅部が大きく欠落した角筒部19′aとして構成される。
その天井部19′a−1には上記開口部14′の上端縁部14′aに沿って逆凹字状の上案内レール19′bが固着されている。
一方、スライドドア16′の前端縁上部には、その内面からキャブ3′の外側側面部10′に向けてほぼ水平に突設されたブラケット16′aを有しており、その先端には上記上案内レール19′bに嵌着して略垂直軸回りを回転する上ガイドローラ16′bが取り付けられている。
【0052】
図6(b)は中間のスライドドア支持構造を示しており、同スライドドア16′の支持構造は、上述の本実施形態によるスライドドア16の支持構造と同様であり、キャブ3′の外側側面部10′の後半部に形成された中間案内レール部15′と、同中間案内レール部15′に転動可能に嵌着される中間ガイドローラ16′cとからなる。
前記中間案内レール部15′は上記外側側面部10′の後半部中央に前後にわたって水平方向に形成された凹溝部15′aと同凹溝部15′aの底面に沿って固着されたコ字断面の中間案内レール15′bとにより構成される。
一方の中間ガイドローラ16′cはスライドドア16′の後端中央からキャブ3′に向けて水平に突出するブラケット16′dに垂直軸回りに転動可能で且つ前後方向に揺動可能に枢支されている。
【0053】
図6(c)は下端におけるスライドドア16′の下部支持構造を示しており、同支持構造はキャブ3′の外側側面部10′の前端下部から中間ピラー11′の前端下部まで延設される下案内レール部20′と、スライドドア16′の前端下部に取り付けられ、同下案内レール部20′に転動自在に嵌着される第1及び第2の下ガイドローラ16′e,16′fとからなる。
【0054】
前記下案内レール部20′はキャブ3′の床面の裏面に中間ピラー11′まで延びる凹溝状のガイドレール20′aと、前記床面の裏面に垂設される断面L字状の転動面形成部材20′bとにより構成される。
また、一方の第1及び第2の下ガイドローラ16′e,16′fは、スライドドア16′の前端下部に取り付けられ、キャブ3′に向けて水平に突出する断面横L字状の下ブラケット16′gの先端部に転動軸を直交させるようにして転動自在に支承されている。
垂直軸回りを転動する第1下ガイドローラ16′eが前記凹溝状の案内レール20′aに転動自在に嵌着されるとともに、水平軸回りに転動する前記第2下ガイドローラ16′fが上記断面L字状の転動面形成部材20′bのローラ転動面20′b−1に転動自在に載置される。
【0055】
従来のスライドドア16′の支持構造は以上の通りであって、スライドドア16′の上部支持構造は上ガイドローラ16′bを単に外側側面部10′のパネル上端に配した横桟17′に固着された断面が逆凹字形の案内レール19′b内に下方から嵌着して転動案内するに過ぎず、また同中間支持構造は中間ガイドローラ16′cが外側側面部10′のパネル後半部に水平に形成された案内レール部15′に側面から嵌着されて、転動案内されるものである。
【0056】
そして、スライドドア16′の下部支持構造について見ると、垂直軸回りを転動する第1下ガイドローラ16′eが前記凹溝状の案内レール20′a内を転動案内されるとともに、水平軸回りに転動する前記第2下ガイドローラ16′fが上記断面L字状の転動面形成部材20′bのローラ転動面20′b−1上を転動案内される構造となっている。
このように、従来のスライドドア16′にあっても、スライドドア16′の前端上部、前端下部及び後端縁中央部の3点に設けられた各ガイドローラ16′b,16′c及び16′e;16′fが、それぞれキャブ3′の前半部上端縁、前半部下端縁及び後半部の上下中央に沿って延設された各案内レール19′b,15′及び20′aとローラ転動面20′b−1とに支持案内されてスライドする。
【0057】
ここで図4(a)に示すように、仮にキャブ3の前面窓部が後傾斜しており、その外側側面部10の形態が、その上部が上述のような三次元湾曲面として形成されているとすると、前記キャブ3の前半部の上部端縁と下部端縁とは、図4(b)に示す平面視で、上部端縁がその前端から後端にかけて小さな曲率半径の円弧を描くとともに、下部端縁はその前端から後端にかけて前記上部端縁の曲率半径よりも大きな曲率半径の円弧を描き、両円弧が後端でほぼ境界線a1上で合流し、以降はキャブ3′の後半部の円弧につながる。
【0058】
この場合の上記上中下の各ガイドレール19′b,15′,20′aと上中のガイドローラ16′b,16′c、第1下ガイドローラ16′e及びローラ転動面20′b−1を転動する第2下ガイドローラ16′fの案内軌跡は、中間ガイドロール16′cが外側側面部10′の後半部の湾曲面に沿って同外側側面部10′の後端まで案内され、キャブ3′の内側に入り込んでいる上ガイドローラ16′bは上記小さな円弧に沿って前記境界線a1の近傍まで案内され、このときスライドドア16′を変形させずにキャブ3′の最も外側に配される下端の第1下ガイドローラ16′eを前記境界線a1上まで案内するようにすると、図7(c)に破線で示すように、スライドドア16′の前端縁の下端は大きく外側に突出することになる。
【0059】
従って、スライドドア16′の開放時に前記スライドドア16′の前端縁の下端を図示せぬ旋回台の旋回半径内に納めようとすると、スライドドア16′の前端縁の下端の突出量だけキャブ3′の外側側面部10′を旋回半径内に納めるように、その湾曲面の曲率を決めなければならず、キャブ3′の室内容積が狭くなる。
このことは、外側側面部10′の後半部の曲率半径を前半部のそれと同一にするか否かとは無関係である。
【0060】
これに対して、本発明の実施形態によるスライドドア16の支持構造は、前述の問題点を解消するものであり、更には本件第1発明の特徴部である外側側面部10の後半部の曲率半径を前半部のそれより小さくした構造を採用するとともに、スライドドア16の外側への突出量を可能な限り少なくすれば、旋回台2の旋回半径内でキャブ3の左右幅を最大に取り得るようになり、同時にスライドドア16の円滑な開閉操作を可能にする機能が発揮される。
【0061】
図5は本実施形態によるスライドドア16の第1の支持構造例を示しており、従来の支持構造と大きく異なるところは、従来の支持構造が上述のごとくスライドドア16′をキャブ3′の下端に設けた下案内レール部20に載置する方式であるのに対して、本実施形態による支持構造ではスライドドア16の全体を上案内レール部19に吊下支持する吊り方式を採用している点にあり、更に他の異なる点は上部案内レール部における上ガイドローラの案内軌跡を、キャブ3の下端縁に沿う曲率半径R1の円弧とほぼ同一の曲率半径をもつ円弧上に沿わせるように押し出すとともに、下部案内レール部における第1下ガイドローラの案内軌跡を、キャブ3の下端縁に沿う円弧と同一の円弧上に沿わせるようキャブ3側に引き付けている点と、従来のガイドローラが単なる円筒状であったものを、本支持構造にあっては全てのガイドローラを太鼓状としている点にある。
【0062】
これを図5に基づいて具体的に説明する。
なお、キャブ3の外側側面部10の後半部に形成される中間案内レール部15に転動自在に嵌着される中間ガイドローラ16を備えた中間位置におけるガイドローラ16の支持構造は、ガイドローラ形状が前述のとおり太鼓状を呈する以外は、上述の従来のガイドローラ16′の支持構造と実質的に一致するため、ここではその説明は省略する。
【0063】
図5(a)は本実施形態によるスライドドア16の上部支持構造を示しており、上部横桟17の下端部に配される上案内レール部19は断面が矩形枠状をなし、底部19a−2を従来よりも外方に延ばして、その外側の下端隅部を従来よりも小さく欠落させた角筒部19aとして構成している。
前記底部19a−2の上面には案内ローラ転動面の補強のために補強板材19a−3が添設されている。
【0064】
また、上記角筒部19aの天井部19a−1には、従来と同様に上記開口部14の上端縁14aに沿って逆凹字状の上案内レール19bが固着されている。
一方のスライドドア16の前端縁上部には、その内面からキャブ3の外側側面部10に向けてキャブ正面視で横L字状の支持ブラケット16aがほぼ水平に突設されており、その先端には上記上案内レール19bに嵌着される略垂直軸回りに転動自在な第1の上ガイドローラ16b−1と水平軸回りに転動自在な第2の上ガイドローラ16b−2とが直交して取り付けられている。
【0065】
そして、前記第1の上ガイドローラ16b−1は上記角筒部19aの天井部19a−1に配された逆凹字状の上案内レール19bに嵌着されて、スライドドア16のキャブ内外方向のブレを抑えながら転動する。
また、上記第2の上ガイドローラ16b−2は角筒部19aの補強板材19a−3上面の案内ローラ転動面に載置された状態で転動する。従って、本実施形態によるスライドドア16の全荷重の殆どが前記補強板材19a−3上面の案内ローラ転動面によって受けられる。
【0066】
一方、第1の上ガイドローラ16b−1を転動案内する上記逆凹字状の上案内レール19bの軌跡は、スライドドア16の開放操作時の初期の段階で前記第1の上ガイドローラ16b−1を外側側面部10の前半部下端縁が形成する円弧と同一の曲率半径をもつ円弧上に移行すべく、始めに大きく外側に張り出すようにしており、スライドドア16の開放終了時にはスライドドア16が中間ピラー11の前面により形成される段部に円滑に乗り上げさせるため、中間ピラー11の前面に沿った形状で湾曲しながら更に外側に張り出すように設定している。
【0067】
従って、本実施形態によるスライドドア16の前端上部が開放操作開始時の上案内レール19bの軌跡を素早く外側側面部10の前半部下端縁が形成する円弧と同一の円弧上に到達らせるべく、小さな曲率半径をもつ湾曲線で続く大きな曲率半径の円弧に接続させるように設定している。
このように、前記上案内レール19bの軌跡を設定すると、スライドドア16の前半部の上部に形成される三次元湾曲領域を二次元湾曲形態(円筒面)に近づけるような変形をもたらすため、同案内レール19bに転動可能に嵌着される第1の上ガイドローラ16b−1及び底部19a−2上面の案内ローラ転動面上を転動する第2の上ガイドローラ16b−2の支持ブラケット16aを水平ではなく僅かに下傾斜させてドアに固定すると共に、第1及び第2の上ガイドローラ16b−2の各周面形状を太鼓状として、各転動面との接触を常に点接触するようにして、転動時の摩擦を極力少なくし、スライドドア16の変形によっても円滑な開閉操作を可能にしている。
【0068】
図5(b)は本実施形態によるスライドドア16の下端支持構造を示しており、同支持構造はキャブ3の外側側面部10の前端縁下端部から中間ピラー11の前面下部まで円弧状に延設される下案内溝部20と、スライドドア16の前端縁下端部に取り付けられ、同下案内溝部20に転動自在に嵌着される下ガイドローラ16eとからなる。
前記案内溝部20はキャブ3の床面周縁部の裏面に形成されている。
【0069】
また、下ガイドローラ16eはスライドドア16の前端縁下端部に固着されたL字状のブラケット21の先端に回転自在に軸支されている。
この垂直軸回りを回転する下ガイドローラ16eは前記下案内溝部20に転動自在に嵌着される。
なお、本実施形態では、上中下に配される全てのガイドローラの各支持ブラケットを垂直軸線回りでスライドドアに揺動自在に取り付けているため、スライドドア16の開閉をより円滑でかつ軽く操作し得るようにしている。
【0070】
第1の上ガイドローラ16b−1の案内軌跡を単に上記三次元湾曲面領域10aの下端縁に沿う円弧と同一の曲率半径をもつ円弧とすると、既述したとおり下ガイドローラ16eは大きく外側に張り出してしまう。
そこで、既述したとおりスライドドア16の開放操作の初期段階で第1の上ガイドローラ16b−1を外側側面部10の前半部下端縁と同一の曲率半径をもつ円弧上に移行させるように案内して、上記下ガイドローラ16eをキャブ3に接近させるようにしているが、それだけでは前記張り出し量を効果的に減少させることができないため、本実施形態では、更に下ガイドローラ16eをキャブ3側に接近させるべく、前記下案内溝部20の案内軌跡を可能な限り前記下ガイドローラ16eを積極的にキャブ3側に引き込むように設定する。
【0071】
本実施形態によれば、前述の支持機構による機能に加えて、本件第1発明の特徴部である外側側面部10の後半部における曲率半径を前半部のそれより小さくした構造を有効に活用することで、キャブ3の左右幅を可能な限り大きく取り得るようになる。
図9は、キャブ3の外側側面部10の後半部の湾曲面を前半部の下端における曲率半径R1と同一とした円筒面で構成したときのスライドドア16の移動軌跡を描いたものである。
【0072】
同図において2点鎖線で囲まれる領域がキャブ3の外側側面部10の表面を示しており、また同図に一点鎖線で示す部分が旋回台2の旋回領域を示している。
外側側面部10の後半部における曲率半径を前半部のそれR1と同一にすると、たとえ前述のごとくスライドドア16の三次元湾曲面を二次元湾曲面に変形させる支持案内構造を採用したとしても、スライドドア16の開放時には同ドア16の後端縁は外側側面部10と同一の曲率半径をもつ円弧面に沿って移動するため、図8に示すように前記ドア16の後端縁は、曲率半径が大きい分だけ外側に張り出してしまう。
【0073】
その結果、同後端縁を旋回台2の最大旋回半径の内側に収まるようにすると、前後の中央部をも含めて外側側面部10における同一曲率半径からなる全湾曲面を最大旋回半径内に納めねばならなくなり、キャブ3の有効空間の減少につながる。
しかして、外側側面部10の全体が単一の円筒体の一部に近似するため、スライドドア16の開閉操作は円滑になされる。
【0074】
一方、外側側面部10の後半部の曲率半径R2を前半部の曲率半径R1よりも小さくして、スライドドア16の後端縁を上記中央部の支持機構により前記後半部の表面に沿って強制的に案内すると、図9に示すようにスライドドア16の後端縁は後半部の曲率半径と前半部の曲率半径とを同じとしたときよりも、旋回半径の内側に寄せることができるが、図7(c)に破線で示したスライドドア16の前端縁下端部のキャブ外側への張出し量が大幅に増加してしまう。
【0075】
従って、上記支持機構を採用すると共に、外側側面部10の後半部の曲率半径R2を前半部の曲率半径R1よりも小さくすることにより、同一の旋回半径内であれば、外側側面部10の全湾曲面をスライドドア16の前半部の曲率半径と後半部の曲率半径とを同じとしたときよりも外側に移行させることが可能となり、キャブ3の室内容積を広くすることができる。
【0076】
図8は旋回台2の最大旋回半径内に納めることができる本発明によるキャブ3の設置面積を最大にしたときのスライドドア16の移動軌跡を描いたものである。同図において、2点鎖線で囲まれる領域がキャブ3の外側側面部10の表面を示しており、また同図に一点鎖線で示す部分が旋回台2の旋回領域を示している。
この図から理解できるように、旋回台2上に本実施形態に係るキャブ3の設置位置を決めるには、先ずキャブ3の前端縁下端の位置Aを前記旋回領域の最も外側の円周上に設定する。
【0077】
次いで、スライドドア16を完全に開放したときの同ドアの前端縁の下端の位置Bを、同じく前記旋回領域の最も外側の円周上に設定する。
最後に、スライドドア16を完全に開放したときの同ドアの後端縁の下端の位置Cを、同じく前記旋回領域のうち最も外側の円周内に設定する。
このスライドドア16を完全に開放したときの同ドアの後端縁の下端の位置Cは、外側側面部10の後半部の曲率半径により決まる。
【0078】
以上の説明は本発明の典型的な実施形態について述べたものであるが、本発明が上記実施形態に限定されないことは、例えばスライドドアの支持構造として、ドアの前端縁上下端部を外側及び内側に強制的に案内する以外、従来と同様の構造を採用することも可能であり、またキャブの外側側面部の後半部の形態を、単純な円筒とせず、上方に向かうにつれてその曲率半径を漸減させるととともにその中心位置を順次前方へと移動させた三次元の円弧面として形成することもでき、多様な変形が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明のキャブが設置された油圧シャベルの側面図である。
【図2】本発明の代表的な実施形態を示すスライドドアが閉鎖されてときのキャブの斜視図である。
【図3】前記スライドドアが開放されたときのキャブの斜視図である。
【図4】前記キャブの外側側面部の上面視の形態と立体形態を模式的に示す構造説明図である。
【図5】本発明の実施形態によるスライドドアの支持構造を示す説明図である。
【図6】従来のスライドドアの支持構造を示す説明図である。
【図7】本発明のキャブにおけるスライドドアの案内軌跡の説明図である。
【図8】本発明の実施形態の一つであるキャブの外側側面部の下端縁を前半部よりも後半部の曲率半径を小さくしたときのスライドドアの案内軌跡例を示す平面図である。
【図9】本発明の実施形態の一つであるキャブの外側側面部の下端縁を前後にわたり単純に同一円弧で形成したときのスライドドアの案内軌跡例を示す平面図である。
【符号の説明】
【0080】
1 走行体
2 旋回台
3 キャブ
4 エンジンルーム
5 作業機
5a ブーム
5b アーム
5c バケット
6 前面部
6a 鉛直面
6b 傾斜面
7 天板部
8 内側側面部
9 後面部
10,10′ 外側側面部
10a 三次元湾曲面領域
10b 円筒面領域
11,11′ 中間ピラー
12 前部ピラー
13 後部ピラー
14,14′ 開口部
14a,14′a 上端部
15,15′ 中間案内レール部
15a,15′b 中間案内レール
15′a 凹溝部
16,16′ スライドドア
16a,16′a ブラケット
16b-1,16b-2 第1及び第2上ガイドローラ
16′b 上ガイドローラ
16c,16′c 中間ガイドローラ
16d,16′d ブラケット
16e 下ガイドローラ
16’e,16’f 第1及び第2下ガイドローラ
16g,16′g 下ブラケット
17,17′ 上横桟
18 下横桟
19,19′ 上案内レール部
19a,19a′ 角筒部
19a-1,19′a-1 天井部
19a-2,19′a-2 底部
19a−3 補強板材
19b,19′b 上案内レール
20,20′ 下案内レール部
20a,20′a 下案内レール
20′b 転動面形成部材
20′b−1 ローラ転動面
21 二次元湾曲面領域
a 線分
a1 境界線
R1,R2 曲率半径
A キャブ前端縁の下端位置
B スライドドア前端縁の下端位置
C スライドドア後端縁の下端位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部走行体上に設けられた旋回台の旋回中心から偏位した位置に設置され、外側側面部が外側に膨らむ湾曲面をもって形成されるとともに、前記外側側面部にスライドドアを備えた建設機械のキャブであって、
前記外側側面部の後半部の曲率半径が、上下方向にわたって、その前半部の曲率半径よりも小さく設定されている、建設機械のキャブ。
【請求項2】
前面窓部は、側面視で後方に向けて傾斜する傾斜面に形成され、
その前面窓部の外側端縁から後方に延設される外側側面部の前半部の少なくとも上部領域が、鉛直線に直交する断面形状が円弧状であって、その前部傾斜端縁に向けて上方内側に三次元的に漸次湾曲する三次元湾曲面形状に形成されてなり、
上記スライドドアは前記外側側面部の前半部とほぼ同一の湾曲面を有し、
前記外側側面部の後半部の湾曲領域は前記前半部の湾曲領域に連続する円弧面に形成されている、
請求項1記載の建設機械のキャブ。
【請求項3】
前記外側側面部は、前記スライドドアの乗降口開放操作時に、同スライドドアの三次元湾曲面形状が二次元湾曲形状となるよう変形案内するガイド手段を有している、
請求項1または2記載の建設機械のキャブ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2008−63940(P2008−63940A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−292546(P2007−292546)
【出願日】平成19年11月9日(2007.11.9)
【分割の表示】特願平11−225765の分割
【原出願日】平成11年8月9日(1999.8.9)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【Fターム(参考)】