説明

建設機械のメンテナンス交換時期制御装置

【課題】重油等の指定燃料が使用された際に、使用燃料に応じた最適なメンテナンス交換時期に変更してエンジンのメンテナンス部品の損傷を防止する。
【解決手段】メンテナンス部品の交換時期を設定する交換時期設定手段16と、燃料の密度を測定する燃料密度計14と、測定密度を基準温度に換算して該基準温度換算密度が閾値を越えている場合には、使用燃料が指定燃料以外であると判断する交換時期短縮手段17とを備え、使用燃料が指定燃料以外のときは、メンテナンス交換時期を短縮させることにより、メンテナンス部品の早期交換を可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は油圧ショベル等の建設機械のメンテナンス交換時期制御装置に関するものであり、特に、エンジンの燃料の密度に基づいて指定燃料であるかを判別してメンテナンスの交換時期を変更できるよう構成した建設機械のメンテナンス交換時期制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
建設機械のディーゼルエンジンに於けるメンテナンスの項目には様々なものがあるが、殊に、各種のエンジン部品(消耗品を含む。以下、「メンテナンス部品」という。)の損傷に大きな影響を与えることがある。この場合、エンジンオイルの劣化及び各種フィルタ類の閉塞状況などに応じて、各種メンテナンス部品を早期に交換することが必要になる。
【0003】
又、従来、油圧ショベル等の建設機械においては、メンテナンスの交換時期を判定して出力する装置が開発されている。例えば、エンジン稼働時間の積算値と目標メンテナンス交換時期の目標値とを比較することによって、メンテナンス交換時期を判定する装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2000−34748公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来技術は、単にエンジン稼働時間の積算値と目標メンテナンス交換時期の目標値とを比較して、メンテナンス交換時期を判定するため、実際に使用している燃料の種類の影響を加味することができず、誤ったメンテナンス交換時期を判定しかねない。
【0005】
例えば、建設機械のディーゼルエンジンにおいて使用可能な燃料は一般に軽油であるが、重油やバイオディーゼル燃料(BDF)が使用されることがある。特に、レンタル業者が油圧ショベル等の建設機械をユーザに貸し出す際、ユーザによって使用される燃料の種類を正確に把握することは難しく、重油やバイオディーゼル燃料が使用されることがある。
【0006】
ディーゼルエンジンの燃料として重油やバイオディーゼル燃料が使用されたときは、メンテナンス部品に多大な損傷を与えるおそれがある。たとえば、エンジンオイルの劣化、オイルフィルタや燃料フィルタの閉塞、並びに排気系部品の腐食などを加速させる。
【0007】
かかる課題に対処するには、重油やバイオディーゼル燃料等の使用燃料の種類に応じてメンテナンス交換時期を適切に設定することが考えられる。しかし、従来技術では、燃料の種類を事前に正確に把握して、適切なメンテナンス交換時期を設定することが困難であるため、指定燃料(軽油)以外の燃料、即ち、重油やBDF等を使用した際に、エンジンのメンテナンス部品の損傷を防止することができない。
【0008】
そこで、重油等の指定燃料が使用された際に、使用燃料に応じた最適なメンテナンス交換時期に変更してエンジンのメンテナンス部品の損傷を防止するために解決すべき技術的課題が生じてくるのであり、本発明はこの課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記目的を達成するために提案されたものであり、請求項1記載の発明は、エンジン部品のメンテナンス交換時期を設定する交換時期設定手段を有する建設機械のメンテナンス交換時期制御装置において、エンジンに使用されている燃料の密度を測定する燃料密度計と、該燃料密度計による測定密度と予め設定した閾値とを比較し、該測定密度が前記閾値を越えている場合には、使用燃料が指定燃料以外であると判断すると共に前記メンテナンス交換時期が短縮するように制御する交換時期短縮手段とを備えることを特徴とする建設機械のメンテナンス交換時期制御装置を提供する。
【0010】
この構成によれば、エンジンに使用されている燃料が指定燃料(軽油)以外たとえば重油のときは、燃料密度計による測定密度が前記閾値を越えるので、交換時期短縮手段により使用燃料が指定燃料以外であると判断される。この場合は、交換時期設定手段に設定されたメンテナンス交換時期が短縮するように制御される。従って、指定燃料の使用時に比べて指定燃料以外の使用時は、エンジンのメンテナンス部品の早期交換が可能になる。
【0011】
請求項2の発明は、上記エンジンの燃料タンクには燃料の温度を測定する燃料温度センサが取り付けられ、上記燃料密度計による測定密度は基準温度における密度に換算され、該基準温度換算密度を上記交換時期短縮手段に利用することを特徴とする請求項1記載の建設機械のメンテナンス交換時期制御装置を提供する。
【0012】
この構成によれば、燃料密度計で測定した燃料の密度は、基準温度たとえば15℃のときの値、即ち、基準温度換算密度に換算して交換時期短縮手段におけるデータとして使用される。即ち、基準温度換算密度と前記閾値を互いに比較し、基準温度換算密度が前記閾値を越えた場合に、現在エンジンにて使用されている燃料が指定燃料以外であると判断される。依って、燃料の使用温度の高低に影響されることなく、使用燃料の種類が正確に判別される。
【0013】
請求項3記載の発明は、上記メンテナンス交換時期の短縮時間は燃料の密度の大きさに比例するように制御されることを特徴とする請求項1又は2記載の建設機械のメンテナンス交換時期制御装置を提供する。
【0014】
この構成によれば、燃料が指定燃料以外であると判定された場合、メンテナンス交換時期の短縮時間は、燃料の密度の大きさに比例するように設定変更される。そのため、メンテナンス交換時期は燃料の種類すなわち燃料の性状を加味して短縮される。
【発明の効果】
【0015】
請求項1記載の発明は、指定燃料以外の燃料が使用された場合はこれを自動的に検知して、指定燃料の使用時に比べてエンジンのメンテナンス部品の交換を早期に行えるので、該メンテナンス部品の損傷を未然に防止することができる。
【0016】
請求項2記載の発明は、使用燃料の判別の際に温度の高低に影響されないので、請求項1記載の発明の効果に加えて、燃料の使用温度が大きく変化した場合でも、該燃料の種類の正確な判別を常に安定して行うことができる。
【0017】
請求項3記載の発明は、メンテナンス交換時期は燃料の性状を加味して短縮されるので、請求項1又は2記載の発明の効果に加えて、性状の異なる燃料が使用された場合でも、それに対応した最適なメンテナンス交換時期に変更して、エンジンのメンテナンス部品の損傷を一層確実に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明は、重油等の指定燃料が使用された際に、使用燃料に応じた最適なメンテナンス交換時期に変更して、エンジンのメンテナンス部品の損傷を防止するという目的を達成するために、エンジン部品のメンテナンス交換時期を設定する交換時期設定手段を有する建設機械のメンテナンス交換時期制御装置において、エンジンに使用されている燃料の密度を測定する燃料密度計と、該燃料密度計による測定密度と予め設定した閾値とを比較し、該測定密度が前記閾値を越えている場合には、使用燃料が指定燃料以外であると判断すると共に前記メンテナンス交換時期が短縮するように制御する交換時期短縮手段とを備えることにより実現した。
【実施例】
【0019】
以下、本発明の好適な一実施例を図1乃至図4に従って説明する。尚、本実施例では、機械本体に設置されたコントローラ(以下、「機械本体コントローラ」という。)内に本発明のメンテナンス交換時期制御装置を組み込んで設置しているが、該メンテナンス交換時期制御装置は、機械本体コントローラとは独立に設置することもできる。
【0020】
図1は、本発明を適用した建設機械としての油圧ショベルを示す側面図である。同図に示すように、該油圧ショベル1は、下部走行体2上に旋回機構3を介して上部旋回体4が旋回自在に載置されている。該上部旋回体4には、その前方一側部にキャブ5が設けられ、且つ、前方中央部にブーム6が俯仰可能に取り付けられている。又、ブーム6の先端にアーム7が上下回動自在に取り付けられ、更に、該アーム7の先端にバケット8が取り付けられている。
【0021】
図2は、油圧ショベル1に適用したエンジン制御系の構成を示す。該エンジン制御系は、前記油圧ショベル1を駆動するエンジン10と、該エンジン10に燃料を供給する燃料タンク11と、該エンジン10に接続された機械本体コントローラ12と、該機械本体コントローラ12に接続された表示器13とより構成されている。
【0022】
前記エンジン10は、燃料噴射装置を備えたディーゼルエンジンであり、該エンジン10を動力源として油圧ショベル1が走行する。このエンジン10には、各種センサ類たとえば冷却水温度センサ、燃料噴射圧センサ、エンジン回転数センサ(図示せず)が取り付けられている。
【0023】
更に、燃料タンク11内には燃料密度計14及び燃料温度センサ15が設けられている。該燃料密度計14は燃料の密度を測定するものであり、又、燃料温度センサ15は燃料の温度を測定するものである。尚、燃料密度計14は燃料タンク11内に限らず、エンジン10又は燃料供給ラインの適宜箇所に取り付けることもできる。
【0024】
上記センサ類の測定信号は、信号線を介して機械本体コントローラ12に逐次出力されている。該機械本体コントローラ12は、エンジン10の各種メンテナンス部品の交換時期を判定するものであり、制御演算部として機能するマイクロコンピュータが内蔵されている。尚、本発明に係るメンテナンス部品にはオイルフィルタ、燃料フィルタ、EGR(Exhaust Gas Recirculation)関連部品、DPF(Diesel Particulate Filter)、エンジンオイル、冷却水などの消耗品が含まれる。
【0025】
図3に示すように、前記機械本体コントローラ12は交換時期設定手段16及び交換時期短縮手段17を備えている。該交換時期設定手段16は、エンジン10のメンテナンス部品の交換時期を設定するものである。又、交換時期短縮手段17は、上記燃料密度計14による測定密度と予め設定した閾値とを比較し、該閾値を測定密度が越えている場合には、燃料タンク11内の使用燃料が軽油(指定燃料)以外であると判断すると共に、前記メンテナンス交換時期が短縮するように制御するものである。
【0026】
交換時期短縮手段17は密度換算部18、密度比較部19、燃料種類識別部20及び交換時期変更部21から成る。前記密度換算部18は、上記燃料密度計14で測定した燃料の密度を基準温度15℃における値(基準温度換算密度)に換算するものである。又、密度比較部19は、密度換算部18で換算した基準温度換算密度を上記閾値と比較するものである。
【0027】
更に、燃料種類識別部20は、燃料タンク11内の燃料の種類を識別するものであり、密度比較部19において基準温度換算密度が前記閾値を越えている場合には、燃料タンク11内の燃料が軽油以外たとえば灯油、重油又はBDFであると識別する。
【0028】
又、交換時期変更部21は、燃料種類識別部20で燃料タンク11内の燃料が軽油以外であると識別したとき、前記交換時期設定手段16に設定されているメンテナンス部品の交換時期を変更するものである。この場合、メンテナンス交換時期は、前記基準温度換算密度の大きさにほぼ比例して短縮するように変更される。具体的には、基準温度換算密度の大きさに対応して係数が予め設定されており、使用燃料が軽油以外の場合は軽油の場合に比べて、前記係数の割合に見合った時間だけメンテナンス交換時期が短縮するように制御される。
【0029】
本実施例に係る機械本体コントローラ12には、読み書き可能なメモリから成る記憶手段22が内蔵され、該記憶手段22には前記係数及び閾値が記憶されている。又、記憶手段22には、エンジン稼働時間検出器(図示せず)で検出したエンジン10の実稼働時間及び該実稼働時間の累積値、並びにメンテナンス交換時期及び該メンテナンス交換時期までの燃料種類別残余時間が記憶される。
【0030】
次に、本発明によるメンテナンス交換時期制御処理の具体的な手順について説明する。尚、メンテナンス交換時期の設定変更に至る全ての処理動作は、予め機械本体コントローラ12に組み込まれたプログラムに従って自動的に実行される。
【0031】
先ず、燃料タンク11内に指定燃料である軽油が入れられているときは、軽油の密度及び温度が燃料密度計14及び燃料温度センサ15によりそれぞれ測定され、各測定値は機械本体コントローラ12に出力され、そして、密度換算部18は測定密度を基準温度15℃における基準温度換算密度に換算して、これを密度比較部19に送出する。
【0032】
この密度比較部19では、基準温度換算密度を予め設定した閾値と比較して、基準温度換算密度が閾値以下であると判断される。そして、この判断結果は燃料種類識別部20に出力されて、燃料タンク11内の燃料が軽油であると識別される。燃料が軽油である場合は、交換時期設定手段16に設定されているメンテナンス部品の交換時期は変更されない。
【0033】
次に、燃料タンク11内に軽油に代えて重油が入れられた場合について説明する。このときは、基準温度換算密度が前記閾値を越えるので、燃料種類識別部20において、燃料タンク11内の燃料は重油であると識別され、交換時期設定手段16に設定されているメンテナンス部品の交換時期が変更される。その際、メンテナンス交換時期は、燃料の基準温度換算密度の大きさに対応する係数の割合に見合った時間だけ短縮するように制御される。
【0034】
前記メンテナンス交換時期は、機械本体コントローラ12から表示器13に出力されて、メッセージによりメンテナンス交換時期が変更されたことがオペレータに告知される。尚、メンテナンス交換時期の判定処理は、随時モニタリングされて更新されるため、オペレータは最新のメンテナンス交換時期を容易に把握できる。
【0035】
上記の如く本発明のメンテナンス交換時期制御装置によると、現在の使用燃料が重油などの軽油以外であると識別した場合は、メンテナンス交換時期が短縮され、このときのメンテナンス交換時期の短縮時間は、燃料の密度の大きさに対応して最適な時間に変更設定される。従って、軽油以外の燃料が使用された場合でも、それに即応した最適なメンテナンス交換時期に自動的に変更される。
【0036】
斯くして、エンジンのメンテナンス部品の早期交換が可能になり、エンジン部品の損傷が未然に防止される。例えばエンジンオイルの劣化、オイルフィルタや燃料フィルタの閉塞、並びに排気系部品の腐食などを未然に防止することができる。
【0037】
又、上記密度比較部19においては、測定密度をそのまま用いずに、 基準温度における値に換算した基準温度換算密度を用いて上記閾値と比較するので、燃料の温度が大きく変化する環境下においても、燃料の種類を一層正確に識別して、メンテナンス交換時期の短縮処理が常に安定して行なわれる。
【0038】
特に、交換時期判定手段によるメンテナンス交換時期の判定処理は、設定時間毎にモニタリングを実施してその結果を更新するように設定されている。従って、途中で使用燃料が変更された場合でも、常にメンテナンス交換に最適な時期を自動的に判定することができる。
【0039】
上記実施例では、機械本体コントローラ12内に交換時期短縮手段17を内蔵させたが、該交換時期短縮手段17は、図4に示すように、機械本体コントローラ12の外部に別途設置することも可能である。
【0040】
なお、本発明は、本発明の精神を逸脱しない限り種々の改変を為すことができ、そして、本発明が該改変されたものに及ぶことは当然である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の一実施例を示し、メンテナンス交換時期制御装置を備えた油圧ショベルの全体側面図。
【図2】本発明に係るメンテナンス交換時期制御装置を示す構成図。
【図3】本発明に係るメンテナンス交換時期制御装置の構成を説明するブロック図。
【図4】本発明に係る他の形態のメンテナンス交換時期制御装置を示す構成図。
【符号の説明】
【0042】
1 油圧ショベル(建設機械)
10 エンジン
11 燃料タンク
12 機械本体コントローラ
13 表示器
14 燃料密度計
15 燃料温度センサ
16 交換時期設定手段
17 交換時期短縮手段
18 密度換算部
19 密度比較部
20 燃料種類識別部
21 交換時期変更部
22 記憶手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン部品のメンテナンス交換時期を設定する交換時期設定手段を有する建設機械のメンテナンス交換時期制御装置において、
エンジンに使用されている燃料の密度を測定する燃料密度計と、
該燃料密度計による測定密度と予め設定した閾値とを比較し、該測定密度が前記閾値を越えている場合には、使用燃料が指定燃料以外であると判断すると共に前記メンテナンス交換時期が短縮するように制御する交換時期短縮手段とを備えることを特徴とする建設機械のメンテナンス交換時期制御装置。
【請求項2】
上記エンジンの燃料タンクには燃料の温度を測定する燃料温度センサが取り付けられ、且つ、上記燃料密度計による測定密度を基準温度における密度に換算し、該基準温度換算密度を上記交換時期短縮手段に利用するように構成したことを特徴とする請求項1記載の建設機械のメンテナンス交換時期制御装置。
【請求項3】
上記メンテナンス交換時期の短縮時間は燃料の密度の大きさに比例するように制御されることを特徴とする請求項1又は2記載の建設機械のメンテナンス交換時期制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−65578(P2010−65578A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−231561(P2008−231561)
【出願日】平成20年9月9日(2008.9.9)
【出願人】(502246528)住友建機株式会社 (346)
【Fターム(参考)】