説明

建設機械の作動油冷却装置

【課題】 作動油用の温度センサが出力を発しながらも温度変化に反応しないような状態で故障しても、作動油がオーバーヒートしない建設機械の作動油冷却装置を提供する。
【解決手段】 作動油を冷却する熱交換器14と、冷却ファン駆動用のモータ12で駆動され熱交換器14を冷却する冷却ファン13と、作動油の温度を検出する温度センサ6とを備え、この温度センサ6の検出値の増減に応じて冷却ファン駆動用のモータ12の回転数を増減するように制御して作動油を冷却する建設機械の作動油冷却装置において、温度センサ6からの出力が存在する状態で温度センサ6の検出値が設定した所定時間変動しないときに、冷却ファン駆動用のモータ12の回転数を最大にするように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作動油を冷却する熱交換器とこの熱交換器を冷却する冷却ファンと作動油の温度を検出する温度センサとを備え、この温度センサの検出値により冷却ファン駆動用のモータの回転数を制御して作動油を冷却する油圧ショベル、油圧クレーン、ホイールローダ等の建設機械の作動油冷却装置に関する。
【背景技術】
【0002】
油圧ショベル、油圧クレーン、ホイールローダ等の建設機械は、通常、クローラやホイール等により走行する下部走行体と、この下部走行体上に旋回可能に設置された上部旋回体とを設けて構成され、この上部旋回体には、種々の作業を行うための作業装置としてのフロントが設置されている。そのため、建設機械は、下部走行体を走行させるための走行用油圧モータ、上部旋回体を旋回させるための旋回用油圧モータ、フロントを構成するための油圧シリンダ等、種々の油圧アクチュエータを備えている。こうした油圧アクチュエータを駆動するための作動油は、油圧アクチュエータを駆動したり、これを駆動するための油圧駆動回路を循環する過程で、摩擦が生じる等により発熱する。
【0003】
そのため、建設機械には、作動油を冷却する熱交換器と、この熱交換器を冷却する冷却ファンとを備えた作動油冷却装置を設けており、冷却ファンを冷却ファン駆動用のモータで駆動するようにしている。この建設機械の作動油冷却装置は、冷却ファン駆動用のモータの回転数を制御するため、作動油の温度を検出するための温度センサを備えており、冷却ファン駆動用のモータの回転数をこの温度センサの検出値の増減に応じて増減するように制御して熱交換器を冷却ファンで冷却する。こうして作動油の温度に応じて冷却ファンの冷却力を調節することにより、動力消費を節減しながら作動油を適切な温度に冷却することができる。この種の建設機械の作動油冷却装置は、特許文献1に記載されている。
【特許文献1】特開2001ー182535号公報(4頁〜5頁、図2〜図3、図5)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このように冷却ファン駆動用のモータの回転数を温度センサの検出値により制御する従来の建設機械の作動油冷却装置にあっては、こうした利点がある反面、以下に述べるような弱点がある。すなわち、この従来の建設機械の作動油冷却装置では、温度センサが故障した場合において、温度センサが出力不能となるような状態で故障したときには、その故障の原因が温度センサ関係の配線の断線であるので、その故障を容易に発見することができるが、温度センサが見かけ上出力を発するものの温度変化に反応しないような状態で故障したときには、こうした故障を故障であると判断することができず、発見することができなかった。こうした温度センサの故障の例として、温度センサがサーミスタである場合において、温度検出手段となるサーミスタの抵抗が温度変化に反応せずに一定となるような故障を挙げることができる。
【0005】
温度センサにこの種の故障が発生した場合、冷却ファンは、故障直前の温度センサの検出値に対応する回転数で回転数が固定されて回転し続ける。そのため、その温度センサが低い検出値を出力している状態で故障したときには、その後の建設機械での作業により熱負荷が上昇した場合に、作動油冷却用の熱交換器を十分に冷却することができなくなり、作動油がオーバーヒートすることとなる。このように作動油がオーバーヒートすると、油圧駆動回路内のシール類が劣化して油漏れを起こしたり、ホース類が劣化してその耐久性を低下させたりするというような不具合が発生する。また、作動油がオーバーヒートすると、作動油が温度上昇して粘性を低下させるため、油圧モータ等の油圧アクチュエータの摺動部分に対する潤滑が不足して、その摺動部分の摩耗が急速に進行する。さらに、こうして摩耗が進行すると、コンタミネーション(不純物やゴミ)が発生して油圧駆動回路内の作動油に混入し、油圧駆動回路中の油圧機器を損傷させることとなる。
【0006】
本発明は、従来の技術にみられるこうした問題を解決するために創作されたものであって、その技術課題は、作動油の温度を検出する温度センサが出力を発しながらも温度変化に反応しないような状態で故障しても、作動油がオーバーヒートするようなことがない建設機械の作動油冷却装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前記の技術課題を達成するため、
油圧アクチュエータを駆動するための作動油を冷却する熱交換器と、冷却ファン駆動用のモータで駆動されこの熱交換器を冷却する冷却ファンと、作動油の温度を検出する温度センサとを備え、この温度センサの検出値の増減に応じて冷却ファン駆動用のモータの回転数を増減するように制御して作動油を冷却する建設機械の作動油冷却装置において、
温度センサからの出力が存在する状態で温度センサの検出値が設定した所定時間変動しないときに、冷却ファン駆動用のモータを最大回転数付近の大きな回転数で回転させるように構成した。
【0008】
建設機械では、作動油により油圧アクチュエータを駆動すると、少なからず熱が発生して作動油に温度変化をもたらすので、油圧アクチュエータが駆動されている限り、作動油の温度変化のない状態が持続するようなことはあり得ない。したがって、作動油の温度を検出する温度センサからの出力が存在する状態でその温度センサの検出値が設定した所定時間変動しないときには、温度センサが出力を発しながらも温度変化に反応しないような状態で故障しているとみることができる。本発明の建設機械の作動油冷却装置は、特に、温度センサからの出力が存在する状態で温度センサの検出値が設定した所定時間変動しないときに、冷却ファン駆動用のモータを最大回転数付近の大きな回転数で回転させるように構成しているので、温度センサがこうした状態で故障した場合において、その後の建設機械での作業により熱負荷が上昇したときでも、作動油を冷却するための熱交換器を十分に冷却することができる。
【0009】
したがって、本発明の建設機械の作動油冷却装置によれば、作動油の温度を検出する温度センサが出力を発しながらも温度変化に反応しないような状態で故障したときでも、作動油がオーバーヒートするようなことがない。
【発明の効果】
【0010】
以下の説明から明らかなように、本発明の建設機械の作動油冷却装置は、前記〔課題を解決するための手段〕の項に示したように構成しているので、この作動油冷却装置によれば、作動油の温度を検出する温度センサが出力を発しながらも温度変化に反応しないような状態で故障したときでも、作動油がオーバーヒートするようなことがない。その結果、この建設機械の作動油冷却装置によれば、従来の技術のように、温度センサの故障による作動油のオーバーヒートにより、油圧駆動回路内のシール類やホース類を劣化させたり、油圧駆動回路中の油圧機器を摩耗、損傷させたりするようなことはない。また、温度センサが前記ような状態で故障したときに、作動油のオーバーヒートを未然に防止するので、温度センサの故障後でも、着手した作業を中断することなく続行することができ、所期の作業を、停滞させることなく遂行することができる。
【0011】
作動油の温度を検出する温度センサが出力を発しながらも温度変化に反応しないような状態で故障したときに、従来の建設機械の作動油冷却装置では、こうした故障を故障であると判断することができず、看過していた。本発明の建設機械の作動油冷却装置を具体化する場合に、特に特許請求の範囲の請求項2に記載のように具体化すれば、温度センサからの出力が存在する状態で温度センサの検出値が設定した所定時間変動しないときに、この異常を知らせる報知手段が建設機械の作動油冷却装置に付設されるので、温度センサが前記ような状態で故障したときに、その温度センサの故障を報知手段で関係者に知らることができる。そして、すでに述べたように、温度センサが故障しても、作動油がオーバーヒートすることはないので、オペレータは、温度センサの故障を知らされても、心配することなく施工中の作業を続行することができ、作業が一段落した後の都合のよい時機に、その温度センサの修理、交換を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明が実際上どのように具体化されるのかを図1乃至図4を用いて説明することにより、本発明を実施するための望ましい形態を明らかにする。
【0013】
図1は、本発明を具体化して構成した建設機械の作動油冷却装置を設けた油圧回路の一例を示す図、図2は、図1の建設機械の作動油冷却装置の技術的意義を説明するための時間と作動油温度との関係を示す図、図3は、図1の建設機械の作動油冷却装置中のコントローラによる制御の手順を説明するための流れ図、図4は、図1の建設機械の作動油冷却装置で行う制御の内容を説明するための作動油温度と冷却ファンの回転数との関係を示す図である。
【0014】
図1において、1は油圧ポンプ4,5を駆動するためのエンジン、2はこのエンジン1で駆動されエンジン冷却用の熱交換器3を空冷するための空気流を起すエンジン冷却用の冷却ファン、3はエンジン1の冷却水を冷却するためのエンジン冷却用の熱交換器、4は油圧アクチュエータ11に圧油を供給するための可変容量型の油圧ポンプ、5は冷却ファン駆動用のモータ12に圧油を供給するための可変容量型の油圧ポンプ、6は作動油の温度を検出する温度センサ、7はこの温度センサ6の作動油の温度に関する検出値が入力され同検出値に基づいて冷却ファン駆動用のモータ12の回転数を制御するコントローラ、8は可変容量型の油圧ポンプ5の傾転を制御するための電磁弁である。
【0015】
温度センサ6は、サーミスタで構成され、このサーミスタの温度変化による大きな抵抗値変化により温度を検出し得るように構成されている。コントローラ7は、油圧アクチュエータ11の駆動時にこの温度センサ6の検出値が入力され、温度センサ6に故障がないときには、この温度センサ6の検出値の増減に応じて冷却ファン駆動用のモータ12の回転数を増減するように制御する。その場合、電磁弁8を通じて可変容量型の油圧ポンプ5の傾転を制御することにより、冷却ファン駆動用のモータ12に供給するための圧油の吐出容量を調整して、同モータ12の回転数を増減するように制御する。なお、油圧アクチュエータ11の非駆動時には、可変容量型の油圧ポンプ5の傾転を最小にして同油圧ポンプ5の圧油の吐出容量を最小にする。
【0016】
9は作動油を貯溜するための作動油タンク、10はオペレータによる操作手段の操作により、油圧ポンプ4から油圧アクチュエータ11へ供給される圧油の流れや流量が切り換えられて油圧アクチュエータ11の駆動を制御する方向切換弁としてのコントロールバルブ、11はフロントを構成する例えばブームシリンダやアームシリンダのような油圧シリンダによる油圧アクチュエータ、12は作動油冷却用の冷却ファン13を回転駆動するための冷却ファン駆動用のモータ、13は作動油冷却用の熱交換器14を空冷するための空気流を起す作動油冷却用の冷却ファン、14は作動油を冷却するための作動油冷却用の熱交換器である。なお、図1には、説明の便宜上、コントロールバルブ10を一つしか図示していないが、コントロールバルブ10は、実際には、建設機械の各種油圧アクチュエータ11に対応して多数設けられている。
【0017】
エンジン1により可変容量型の油圧ポンプ4,5を駆動すると、油圧ポンプ4から吐出された作動油としての圧油は、コントロールバルブ10を経由して油圧アクチュエータ11に供給され、その際、油圧アクチュエータ11は、コントロールバルブ10の切換位置や開口量に応じて駆動方向や駆動速度が制御されながら作動する。一方、油圧ポンプ5から吐出された作動油としての圧油は、冷却ファン駆動用のモータ12に供給されて作動油タンク9に直接戻り、その際、冷却ファン駆動用のモータ12は、その圧油の供給量すなわち可変容量型の油圧ポンプ5の吐出容量に応じた回転速度で回転して作動油冷却用の冷却ファン13を駆動する。油圧アクチュエータ11へ供給された作動油の戻り油は、一部がコントロールバルブ10を経由して作動油タンク9に直接戻り、残部が作動油冷却用の熱交換器14で冷却された後に作動油タンク9に戻る。
【0018】
建設機械の作動油冷却装置とは、こうした油圧駆動回路中、油圧アクチュエータ11を駆動するための作動油を冷却する作動油冷却用の熱交換器14と、冷却ファン駆動用のモータ12で駆動されこの熱交換器14を冷却する作動油冷却用の冷却ファン13と、作動油の温度を検出する温度センサ6とを備え、可変容量型の油圧ポンプ5やコントローラ7等を設けることにより、温度センサ6の検出値の増減に応じて冷却ファン駆動用のモータ12の回転数を増減するように制御して作動油を冷却する装置をいう。
【0019】
こうした建設機械の作動油冷却装置においては、温度センサ6が故障していない限り、作動油冷却用の冷却ファン13が温度センサ6の検出値の増減に応じて回転数を増減しながら作動油冷却用の熱交換器14を空冷して、作動油を適温に冷却する。しかしながら、温度センサ6が出力を発しながらも温度変化に反応しないような状態で故障し、その故障時の温度センサの検出値が低い状態にあると、その後の作業での熱負荷の上昇により、熱交換器14を十分に冷却することができなくなり、作動油がオーバーヒートすることとなる。図2には、温度センサ6が前記の状態で故障したときの様子を図示している。
【0020】
図2において、Taは温度センサ6が故障した時点での作動油の実際の温度、Tは温度センサ6が検出した温度(出力値)、tは後述する(2)の制御のために予め設定した所定時間、t1は建設機械の作業時における任意の時点、t2はこの時点t1後に経過した任意の時点を意味している。ここでは、本発明の技術的意義を理解しやすくするため、時点t1は、温度センサ6が故障した時点と一致させており、時点t2は、この時点t1から予め設定した所定時間tだけ経過した時点と一致させている。また、温度センサ6が検出した温度Tは、センサ6が故障した領域に表示している。この図2には、建設機械の作業時の熱負荷の変化によりもたらされる作動油の実際の温度に関する経時的変化を二点鎖線で図示している。また、この二点鎖線の上方には、この実際の作動油の温度変化を単純化してその温度変化の概括的な傾向を実線で図示しており、その二点鎖線の下方には、温度センサ6が検出した温度を図示している。
【0021】
この図2からは、次のことがいえる。すなわち、故障した時点t1以降、温度センサ6が故障時における作動油の実際の検出温度Taに見合った固定的な温度の検出値を出力し続けている。その結果、この固定的な検出値により冷却ファン駆動用のモータ12の回転数が制御されることになるので、故障した時点t1の後の作業での熱負荷の上昇により、作動油の実際の温度が上昇して作動油がオーバーヒートしている。こうした作動油のオーバーヒートが発生すると、油圧駆動回路内のシール類やホース類の劣化及び油圧機器の摩耗、損傷等、〔発明が解決しようとする課題〕の項で述べた種々の問題が発生する。
【0022】
この建設機械の作動油冷却装置は、こうした問題を解決するため、(1)温度センサ6の検出値の増減に応じて冷却ファン駆動用のモータ12の回転数を増減する従来と同様の制御を行うことに加えて、次の(2)及び(3)の制御が行えるようにコントローラ7を構成した。
【0023】
(2)温度センサ6からの出力が存在する状態において、温度センサ6の検出値が、予め設定した所定時間t(図2参照)の間変動しないときに、冷却ファン駆動用のモータ12を最大回転数で回転させるようにする。
【0024】
(3)このように温度センサ6からの出力が存在する状態で温度センサ6の検出値が設定した所定時間tの間変動しないときに、この異常を知らせるブザーやパイロットランプによるインジケータのような報知手段(図示せず)を付設して、こうした異常時に報知手段を発令するようにする。
【0025】
図3は、コントローラ7によるこれら(2)及び(3)の制御の手順を流れ図で表したものである。
【0026】
図3に基づいてその制御の手順を説明する。建設機械での作業を開始すると、まず、温度センサ6の検出値がコントローラ7に入力され、コントローラ7では、当該時点t2が計測起点となる時点t1から予め設定した所定時間tだけ経過しており、かつ、その間、温度センサ6が検出した温度Tが一定であるか否かを判定する。その結果、Noであると判定された場合(こうしたアンド条件を満たしていないと判定された場合)には、同様のことを反復して行う。また、こうした過程で、Yesであると判定され場合には、コントローラ7は、可変容量型の油圧ポンプ5の傾転を制御して、冷却ファン駆動用のモータ12の回転数が最大になるように制御する(前記(2)の制御を行う。)。また、これと並行して、インジケータのパイロットランプを点灯して温度センサ6の故障を知らせる(前記(3)の制御を行う。)。
【0027】
すでに述べたように、温度センサ6の故障には、温度センサ6が出力不能となるような故障もあるが、こうした故障は、温度センサ6関係の配線の断線によるものであるので、発見しやすい。しかしながら、ここに示す例では、以上述べた制御のほか、こうした故障に対応して、(4)温度センサ6の出力が無くなったときに、冷却ファン駆動用のモータ12を最大回転数で回転させるようにする制御も行っている。こうした制御を行うことにより、施工中の作業を、温度センサ6の修理のために中断することなく成し遂げることができる。こうした制御も、コントローラ7で行う。
【0028】
図4には、前記した(1),(2),(4)の制御の内容を図示している。図4において、N0は作動油冷却用の冷却ファン13の最小回転数、N1は温度センサ6が故障により固定的な温度の検出値を出力しているときの冷却ファン13のある回転数、N2は冷却ファン13の最大回転数である。また、T1は冷却ファン13をN1の回転数にするときの作動油温度、T2は冷却ファン13を最大回転数N2にするときの作動油温度である。(1)のグラフは、前記(1)の制御を行ったときの作動油温度と冷却ファン13の回転数との関係を示し、(2)のグラフは、前記(2)の制御を行ったときの作動油温度と冷却ファン13の回転数との関係を示し、(3)のグラフは、前記(4)の制御を行ったときの作動油温度と冷却ファン13の回転数との関係を示している。参考のため、温度センサ6が故障により固定的な温度の検出値を出力しているときの作動油温度と冷却ファン13の回転数との関係を、一点鎖線の(2’)のグラフで示している。
【0029】
最後に、本建設機械の作動油冷却装置の作用効果について説明する。
【0030】
建設機械では、作動油により油圧アクチュエータ11を駆動すると、少なからず熱が発生して作動油に温度変化をもたらすので、油圧アクチュエータ11を駆動して作業をしている限り、作動油の温度変化のない状態が持続するようなことはない。したがって、作動油の温度を検出する温度センサ6からの出力が存在する状態でその温度センサ6の検出値が設定した所定時間変動しないときには、図2の下方に実線の曲線で示すように、温度センサ6が出力を発しながらも温度変化に反応しないような状態で故障しているとみることができる。本建設機械の作動油冷却装置は、前記(2)に示したように、温度センサ6からの出力が存在する状態で温度センサ6の検出値が予め設定した所定時間tの間変動しないときに、冷却ファン駆動用のモータ12を最大回転数N2で回転させるように構成しているので、温度センサ6がこうした状態で故障した場合において、その後の建設機械での作業により熱負荷が上昇したときでも、作動油冷却用の熱交換器14を十分に冷却することができる。
【0031】
したがって、本建設機械の作動油冷却装置によれば、温度センサ6が出力を発しながらも温度変化に反応しないような状態で故障したときでも、作動油がオーバーヒートするようなことがない。その結果、本建設機械の作動油冷却装置によれば、従来の技術のように温度センサ6の故障による作動油のオーバーヒートにより油圧駆動回路内のシール類やホース類を劣化させたり、油圧駆動回路中の油圧機器を摩耗、損傷させたりするようなことはない。また、温度センサ6が前記ような状態で故障したときに、作動油のオーバーヒートを未然に防止するので、温度センサ6の故障後でも、着手した作業を中断することなく続行することができ、所期の作業を、停滞させることなく遂行することができる。
【0032】
すでに述べたように、温度センサ6が出力を発しながらも温度変化に反応しないような状態で故障したときに、従来の建設機械の作動油冷却装置では、こうした故障を故障であると判断することができず、看過していた。これに対し、本建設機械の作動油冷却装置では、前記(3)に示したように、温度センサ6からの出力が存在する状態で温度センサ6の検出値が予め設定した所定時間tの間変動しないときに、この異常を知らせるパイロットランプ等の報知手段を建設機械の作動油冷却装置に付設しているので、温度センサ6が前記ような状態で故障したときに、その温度センサ6の故障を報知手段で関係者に知らせることができる。そして、すでに述べたように、温度センサ6が故障しても、作動油がオーバーヒートすることはないので、オペレータは、温度センサ6の故障を知らされても、心配することなく施工中の作業を続行することができ、作業が一段落した後の都合のよい時機に、その温度センサ6の修理、交換を行うことができる。
【0033】
前記(2)の制御において、予め設定した所定時間tは、1分以上にすれば足りる。その理由を述べると、例えば、作業動作の遅い大型の油圧ショベルであっても、土砂の掘削作業に着手した後に積載作業を行ってからフロントを原状態に復帰させるという油圧アクチュエータ11による完結した一つのサイクルの作業動作を1分間に少なくとも2〜3サイクルは行うことができる。そして、この間、油圧アクチュエータ11の駆動により作動油に温度変化がもたらされることは不可避であるので、温度センサ6が故障していなければ、この1分間の時間帯において、作動油の温度変化のない状態すなわち温度センサ6の出力が一定になる状態が持続するようなことは通常あり得ない。したがって、(2)の制御において、前記設定した所定時間tを少なくとも1分以上にすれば、温度変化に関係なく一定の出力を発し続けるという温度センサ6の故障の有無を(2)の制御により判断することができる。
【0034】
ここに示す例では、前記(2)の制御において、温度センサ6の故障時に、冷却ファン駆動用のモータ12を最大回転数N2で回転させるようにしているが、最大回転数N2の90%程度で回転させても、本発明の技術課題を達成することができ、要は、冷却ファン駆動用のモータ12を最大回転数N2の付近の大きな回転数で回転させるようにすればよい。なお、前記(2)の制御において、温度センサ6の検出値が所定時間tの間変動しない(図3中のT=一定)か否かの判定をコントローラ7で行う場合に不感帯を設けることもできる。
【0035】
温度センサ6が出力不能となったときに行う前記(4)の制御を行う場合に、その出力不能の異常を知らせる報知手段を設けこともできる。その場合、この(4)の制御に係る報知手段を新設する代わりに、前記(3)の制御で用いている報知手段をその報知手段に兼用してもよく、このように構成した場合には、温度センサ6の故障を一つの報知手段で監視することができて温度センサ6の監視を一元的に行うことができる。また、こうした一つの報知手段を利用して温度センサ6の故障の有無を確かめることにより、製品出荷時や整備、点検時の温度センサ6関係の検査も、簡便かつ確実に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明を具体化して構成した建設機械の作動油冷却装置を設けた油圧回路の一例を示す図である。
【図2】図1の建設機械の作動油冷却装置の技術的意義を説明するための時間と作動油温度との関係を示す図である。
【図3】図1の建設機械の作動油冷却装置中のコントローラによる制御の手順を説明するための流れ図である。
【図4】図1の建設機械の作動油冷却装置で行う制御の内容を説明するための作動油温度と冷却ファンの回転数との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0037】
1 エンジン
4,5 可変容量型の油圧ポンプ
6 温度センサ
7 コントローラ
8 電磁弁
9 作動油タンク
10 コントロールバルブ
11 油圧アクチュエータ
12 冷却ファン駆動用のモータ
13 作動油冷却用の冷却ファン
14 作動油冷却用の熱交換器
N0 作動油冷却用の冷却ファンの最小回転数
N1 故障した温度センサに基づく作動油冷却用の冷却ファンの回転数
N2 作動油冷却用の冷却ファンの最大回転数
Ta 温度センサが故障した時点での作動油の実際の温度
T1 冷却ファンをN1の回転数にするときの作動油温度
T2 冷却ファンを最大回転数にするときの作動油温度
t 設定した所定時間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油圧アクチュエータを駆動するための作動油を冷却する熱交換器と、冷却ファン駆動用のモータで駆動されこの熱交換器を冷却する冷却ファンと、作動油の温度を検出する温度センサとを備え、この温度センサの検出値の増減に応じて冷却ファン駆動用のモータの回転数を増減するように制御して作動油を冷却する建設機械の作動油冷却装置において、温度センサからの出力が存在する状態で温度センサの検出値が設定した所定時間変動しないときに、冷却ファン駆動用のモータを最大回転数付近の大きな回転数で回転させるように構成したことを特徴とする建設機械の作動油冷却装置。
【請求項2】
請求項1に記載の建設機械の作動油冷却装置において、温度センサからの出力が存在する状態で温度センサの検出値が設定した所定時間変動しないときに、この異常を知らせる報知手段を付設したことを特徴とする建設機械の作動油冷却装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−37872(P2006−37872A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−220258(P2004−220258)
【出願日】平成16年7月28日(2004.7.28)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】