説明

建設機械の制御システム

【課題】コントローラの出力部に故障がある場合にもバックアップ動作ができる建設機械の制御システムを提供する。
【解決手段】コントローラ1に故障がある場合、コントローラ1は、自己故障診断機能112により自己故障診断をおこない、コントローラ1に故障ありという故障診断情報をコントローラ2に送信し、コントローラ2は、この故障診断情報を受信し、他コントローラ故障診断機能223によりコントローラ1を対象に他コントローラ故障診断をおこないコントローラ1に故障ありと診断し、バックアップ動作機能224によりコントローラ1のバックアップ動作をおこなう。メイン処理機能221により本来の制御対象である電磁比例弁81〜83を駆動するとともに、処理部22に予め格納されていたバックアップ値に基づき出力部23から制御信号を出力し、コントローラ1の制御対象である電磁比例弁71〜73を駆動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧ショベルなど建設機械の制御システムに係り、特に少なくとも2つのコントローラを備え、これらのコントローラは通信ネットワークを介して互いに接続し情報の送受信を行う建設機械の制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の建設機械や作業機械は、操作入力系やエンジン・ポンプ・バルブ制御等において複雑な電子制御化が進み、それぞれの制御を行う複数の車載コントローラが搭載され、それらはCAN(コントローラエリアネットワーク)に代表される通信ネットワークを介して互いに接続し情報の送受信を行っている。このような高度な電子制御化は、操作性や作業効率の向上、また機器コンポーネントの小型化等に大きく貢献してきたが、その代償にコントローラの信頼性や故障診断、故障時のバックアップ動作等といった新たな課題も生じている。このような課題を解決するため、下記の技術が提案されている。
【0003】
例えば、コントローラネットワーク上にあるコントローラの故障診断の例として、特許文献1記載の分散型コントローラを備える建設機械の制御システムは、メインコントローラが各入出力コントローラから送信されるデータを監視し、データを送信してこないコントローラを故障と判定し、その結果を故障していない各コントローラに通知するものである。
【0004】
上記の様な故障診断を行った結果、コントローラが故障と判断された時のバックアップ動作の例として、特許文献2記載の建設機械の電子制御システムは、各制御コントローラはその制御に用いられるデータが受信されない場合、予め設定された初期値を用いて演算し、それ自身で必要最小限の処理を実行可能としている。
【0005】
また、特許文献3記載の分散型コントローラは、各制御コントローラは相手となる制御コントローラから信号が受信できない場合、その信号の代わりに予め格納された信号を使用して制御を行い、また、受信できない異常を示す信号を表示装置へ出力している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−280488号号公報
【特許文献2】特開2000−54437号号公報
【特許文献3】特開2004−352459号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1〜特許文献3記載の建設機械の制御システムは、言い換えると、コントローラの入力部に故障がある場合に、予め格納されていたバックアップ値に基づき制御信号を、コントローラの出力部から出力するものである。これにより、コントローラの入力部に故障がある場合でも必要最小限のバックアップ動作ができ、建設機械全体の停止など最悪の事態を避けることができる。
【0008】
しかしながら、上記の建設機械の制御システムは、コントローラの出力部に故障がある場合には、制御信号を出力できず、バックアップ動作ができない。バックアップ動作ができないと、緊急回避行動を行うことができず、最悪の場合は建設機械全体の停止などの事態に至る可能性がある。特に超大型の油圧ショベルに搭載される制御システムでは、制御の対象となるポンプ・バルブの数も増え、それに伴い搭載されるコントローラの数も増えるので制御がより複雑になり、そのコントローラのうち一つでも故障を起こすと機械全体の作業・動作に支障をきたす可能性が高くなる。
【0009】
本発明の目的は、コントローラの出力部に故障がある場合にもバックアップ動作ができる建設機械の制御システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)上記目的を達成するために、本発明は、第1入力情報を入力する入力部とこの入力情報に基づき所定の演算処理をする処理部と演算結果に基づき制御信号を第1制御対象に出力する出力部を有する第1コントローラと、第2入力情報を入力する入力部とこの入力情報に基づき所定の演算処理をする処理部と演算結果に基づき制御信号を第2制御対象に出力する出力部を有する第2コントローラとを含む複数のコントローラと、これらのコントローラを互いに接続し情報の送受信を行う通信ネットワークとを備える建設機械の制御システムにおいて、前記第1コントローラは、前記第1コントローラの入力部を含む入力系および出力部を含む出力系の故障診断をおこなう自己故障診断機能を有し、前記第2コントローラは、前記第1コントローラが前記第1コントローラに故障があると診断した場合、前記通信ネットワークを介し前記第1コントローラの自己故障診断機能による故障診断情報に基づいて、前記第2コントローラの出力部から前記第1制御対象に制御信号を出力するバックアップ動作機能を有している。
【0011】
このように構成した本発明においては、第1コントローラに故障がある場合、特に出力部に故障がある場合には、第2コントローラのバックアップ動作機能は前記第1コントローラの自己故障診断機能による故障診断情報に基づいて、第2コントローラの出力部から第1制御対象に制御信号を出力することができる。これにより、第1コントローラの出力部に故障がある場合でも必要最小限のバックアップ動作ができる。
【0012】
(2)上記目的を達成するために、本発明は、第1入力情報を入力する入力部とこの入力情報に基づき所定の演算処理をする処理部と演算結果に基づき制御信号を第1制御対象に出力する出力部を有する第1コントローラと、第2入力情報を入力する入力部とこの入力情報に基づき所定の演算処理をする処理部と演算結果に基づき制御信号を第2制御対象に出力する出力部を有する第2コントローラとを含む複数のコントローラと、これらのコントローラを互いに接続し情報の送受信を行う通信ネットワークとを備える建設機械の制御システムにおいて、前記第1コントローラは、前記第1コントローラの入力部を含む入力系および出力部を含む出力系の故障診断をおこなう自己故障診断機能を有し、前記第2コントローラは、前記通信ネットワークを介し前記第1コントローラの自己故障診断機能による故障診断情報に基づいて前記第1コントローラの故障診断をおこなう他コントローラ故障診断機能と、前記他コントローラ故障診断機能による故障診断情報に基づいて、前記第1コントローラに故障があると診断した場合、前記第2コントローラの出力部から前記第1制御対象に制御信号を出力するバックアップ動作機能とを有している。
【0013】
このように構成した本発明においては、第1コントローラに故障がある場合、特に出力部に故障がある場合には、第2コントローラのバックアップ動作機能は他コントローラ故障診断機能による故障診断情報に基づいて、第2コントローラの出力部から第1制御対象に制御信号を出力することができる。これにより、第1コントローラの出力部に故障がある場合でも必要最小限のバックアップ動作ができる。
【0014】
(3)上記(1)または(2)において、好ましくは、前記バックアップ動作機能は、前記故障診断情報に基づいて、前記第1コントローラの入力系および出力部の双方に故障があると診断した場合、予め格納されていたバックアップ値に基づき制御信号を、前記第2コントローラの出力部から前記第1制御対象に出力する。
【0015】
このように構成した本発明においては、第1コントローラに故障がある場合、特に入力系および出力部の双方に故障がある場合には、第2コントローラのバックアップ動作機能は第1コントローラ1に係る故障診断情報に基づいて、第2コントローラの出力部から第1制御対象に制御信号を出力することができる。これにより、必要最小限のバックアップ動作ができる。
【0016】
一方、第1コントローラの入力系のみに故障がある場合には、第1コントローラが、第1コントローラの処理部に予め格納されていたバックアップ値に基づき第1コントローラの出力部から第1制御対象に制御信号を出力してもよい。
【0017】
また、第1コントローラの出力部のみに故障がある場合、第2コントローラが、第1入力情報に基づき第2コントローラの出力部から第1制御対象に出力してもよい。
【0018】
(4)上記(1)または(2)において、好ましくは、前記第1コントローラと前記第2コントローラは、同種の制御対象を制御する。
【0019】
すなわち、第1制御対象と第2制御対象とは同種であり、第1コントローラの処理部と第2コントローラの処理部は同種の制御プログラムを有する。バックアップ動作時は、第2コントローラの処理部内の制御プログラムを共通に使用でき、第2コントローラの出力部から第2制御対象に制御信号を出力するとともに、第2コントローラの出力部から第1制御対象に制御信号を出力する。これにより、別途バックアップ動作のための制御プログラムは不要となり、簡易な構成を維持できる。
【0020】
(5)上記(1)または(2)において、好ましくは、前記出力部は、制御対象である電磁比例弁に制御電流を出力するものであり、前記バックアップ動作機能は、第2制御対象である電磁比例弁への制御電流出力値と第1制御対象である電磁比例弁への制御電流出力値の合計が前記第2コントローラの最大出力電流値を超えないように制御する。
【0021】
このように制御電流出力値の合計が第2コントローラの最大出力電流値を超えないように制御することで、コントローラの電力スペックを超えることなく、第2コントローラの出力部から第2制御対象に制御信号を出力するとともに、第2コントローラの出力部から第1制御対象に制御信号を出力することができる。
【0022】
(6)上記(1)において、好ましくは、前記バックアップ動作機能が作動していることを外部に知らせる通知手段を備えるものとする。
【0023】
このように通知手段を備えることにより、オペレータは、バックアップ動作機能が作動していることを知り、管理者に連絡するなど適切な処理を行うことができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、コントローラの出力部に故障がある場合にもバックアップ動作ができる。その結果、緊急回避行動を行うことができ、建設機械全体の停止などの最悪の事態を避けることができ、これにより、安全性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一実施の形態に係わる建設機械の制御システムを示すシステム構成図である。
【図2】自己故障診断機能の処理内容を示すフローチャートである。
【図3】他コントローラ故障診断機能およびバックアップ動作機能の処理内容を示すフローチャートである。
【図4】比較のため、従来の制御システムを示すシステム構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態を図面を用いて説明する。
【0027】
〜構成〜
図1は、本発明の一実施の形態に係わる建設機械の制御システムを示すシステム構成図である。本実施の形態は、本発明を建設機械の代表例である油圧ショベルに適用した場合のものである。
【0028】
本実施の形態の制御システムは、コントローラ1と、コントローラ2と、コントローラ1とコントローラ2とを互いに接続し情報の送受信を行う通信ネットワーク9とを備えている。
【0029】
コントローラ1は、センサ51〜53からの入力情報を入力する入力部11と、この入力情報に基づき所定の演算処理をする処理部12と演算結果に基づき制御信号を電磁比例弁71〜73に出力する出力部13と、通信入出力部14とを有している。
【0030】
ところで、油圧ショベルは、一般的に、油圧ポンプの押しのけ容積を制御するレギュレータにポンプトルク制御機能を付加したポンプトルク制御装置を備え、このポンプトルク制御装置により油圧ポンプの吸収トルクが予め設定した最大吸収トルクを超えないよう油圧ポンプの押しのけ容積を制御し、これにより原動機の過負荷を抑え、エンジンストールを防止している。
【0031】
このようなポンプトルク制御装置において、目標回転数に対して回転数センサからの実エンジン回転数との差(回転数偏差)を求め、この回転数偏差を使って油圧ポンプの入力トルクを制御する、いわゆるスピードセンシング制御がされることもある。このスピードセンシング制御により、上記ポンプトルク制御に際して最大吸収トルクを一時的に減らし、原動機過負荷時のエンジンストール防止をより確実とするとともに、燃料噴射量制御によりエンジン回転数の速やかな上昇を可能としている。
【0032】
センサ51〜53は、例えば、エンジンの回転数を指示するエンジンコントロールダイアルの目標回転数に係るセンサ、実エンジン回転数に係るセンサ、レギュレータの斜板傾点角に係るセンサである。
【0033】
電磁比例弁71〜73は、例えば、レギュレータの受圧部に導入されるパイロット圧を制御する複数の電磁比例弁である。
【0034】
入力部11はセンサ51〜53からの入力情報を入力し、処理部12はこの入力情報に基づき指令電流値を求める演算処理をし、出力部13はこの演算結果に基づき制御信号を出力する。出力部13は電流が逆流するのを防止するダイオード75a〜75cを介して電磁比例弁71〜73に接続されている。電磁比例弁71〜73は出力部13からの制御信号により駆動される。これがコントローラ1の処理部12のメイン処理機能121による通常処理である。
【0035】
通信入出力部14は通信ネットワーク9に接続され、コントローラ2と情報の送受信を行う。
【0036】
コントローラ2は、コントローラ1と同種の制御対象を制御するコントローラであり、コントローラ1と同等の構成を有し、同様に作用する。コントローラ2は、センサ61〜63からの入力情報を入力する入力部21と、この入力情報に基づき所定の演算処理をする処理部22と演算結果に基づき制御信号を電磁比例弁81〜83に出力する出力部23と、通信入出力部24とを有している。
【0037】
また通信ネットワーク9には他のコントローラが複数繋がれ、また、機械の稼働状態や複数のコントローラの状態をディスプレイ5に表示する情報表示用のコントローラ6や、機械の稼働状態や複数のコントローラの状態の記録を行う情報蓄積用のコントローラ7等も繋がれ、それらのコントローラも相互に通信を行っている。
【0038】
本実施の形態の制御システムの特徴的な構成として、コントローラ1の出力部13はダイオード75d〜75fを介してコントローラ2の制御対象である電磁比例弁81〜83にも接続されている。同様に、コントローラ2の出力部23はダイオード85d〜85fを介してコントローラ1の制御対象である電磁比例弁71〜73にも接続されている。
【0039】
コントローラ1の処理部12は、上述のメイン処理機能121以外に、自己故障診断機能122と、他コントローラ故障診断機能123と、バックアップ動作機能124とを有している。コントローラ2の処理部22も、同等の構成221〜224を有している。処理部12および処理部22の処理内容を図2、図3に示すフローチャートにより説明する。
【0040】
図2はコントローラ1の処理部12の機能のうち自己故障診断機能122の処理内容を示すフローチャートである。
【0041】
まず処理部12は、コントローラ2を対象に他コントローラ故障診断(図3にて後述)をおこなう(ステップS101)。他コントローラ故障診断の結果、コントローラ2に故障がないと診断した場合、処理部12は自己故障診断をおこない、コントローラ1が正常に動作しているか否かの判定をおこなう(ステップS102)。ここで自己故障診断とは、センサ51〜53及び入力部11からなる入力系が正常に動作し、正しいセンサデータが入力されているか否かを判定し、出力部13及び電磁比例弁71〜73からなる出力系が正常に動作し、正しい指令電流値が出力されているか否かの判定を行うことである。
【0042】
自己故障診断の結果、入力系及び出力系とも故障がないと診断した場合、上記のメイン処理機能121による通常処理を行うとともに(ステップ103)、コントローラ1に故障なしという故障診断情報を通信ネットワーク9を介してコントローラ2に送信するように通信入出力部14に出力する(ステップ104)。コントローラ1が正常に動作している限りはステップS101〜S104の処理を繰り返す。
【0043】
自己故障診断の結果、入力系と出力系のいずれかまたは双方に故障があると診断した場合、出力部13に制御信号の出力を停止するよう指令するとともに(ステップS105)、コントローラ1に故障ありという故障診断情報を通信ネットワーク9介してコントローラ2に送信するように通信入出力部14に出力し (ステップS106)、処理を終了する。
【0044】
図3はコントローラ2の処理部22の機能のうち、他コントローラ故障診断機能223およびバックアップ動作機能224の処理内容を示すフローチャートである。
【0045】
まず処理部22は、コントローラ1を対象に他コントローラ故障診断をおこなう(ステップS201)。コントローラ1の故障診断情報を通信ネットワーク9および通信入出力部24を介して入力し、ステップS104における故障なしという故障診断情報を正常な周期で定期的に得られれば、コントローラ1に故障がないと診断する。故障診断情報を正常な周期で定期的に得られなかったり、またはステップS106における故障ありという故障診断情報を得ると、コントローラ1に故障があると診断する。
【0046】
他コントローラ故障診断の結果、第1コントローラに故障がないと診断した場合、処理部22は自己故障診断をおこなう(ステップS202)。ここで自己故障診断とは、ステップS102と同様な処理である。自己故障診断の結果、入力系及び出力系とも故障がないと診断した場合、メイン処理機能221による通常処理を行う(ステップ203)。自己故障診断の結果、故障がありと診断した場合、上記ステップS105、S106と同様な処理をおこなう(図示省略)。つまり、第1コントローラに故障がないと診断した場合は、第2コントローラは自身の制御に専念する。
【0047】
他コントローラ故障診断の結果、第1コントローラに故障があると診断した場合も、処理部22は自己故障診断をおこなう(ステップS204)。自己故障診断の結果、入力系と出力系のいずれかまたは双方に故障があると診断した場合、出力部23に制御信号の出力を停止するよう指令するとともに(ステップ205)、コントローラ2に故障ありという故障診断情報を通信ネットワーク9に送信するように通信入出力部24に出力し (ステップ206) 、処理を終了する。
【0048】
尚、本実施形態では便宜的に、コントローラ1、コントローラ2のみ図示しているが、コントローラ1、コントローラ2ともに故障した場合、故障診断情報は通信ネットワーク9を介して別のコントローラ3に送信され、コントローラ3(図示省略)は、コントローラ1、コントローラ2のバックアップ動作をおこなう。コントローラ3は、コントローラ1、コントローラ2と同種の制御対象を制御するコントローラである。
【0049】
自己故障診断の結果、故障なしと診断した場合、処理部22はコントローラ1のバックアップ動作処理をおこなう(ステップS207)。ここでバックアップ動作処理とは、自身の制御対象である電磁比例弁81〜83に対して、センサ61〜63からの入力情報に基づいて演算処理し、制御信号を出力するよう指令しつつ(メイン処理機能221による通常処理)、コントローラ1の制御対象である電磁比例弁71〜73に対して、処理部22に予め格納されていたバックアップ値に基づき制御信号を出力するよう指令することである。バックアップ値は、入力情報の種類により適宜設定される。例えば、センサ52が実エンジン回転数に係るセンサの場合、直前に入力された入力値であったり、最小値と最大値との中間値である。自己故障診断の結果、故障がない限り、バックアップ動作処理を繰り返す。
【0050】
尚、通常、1つのコントローラにつき、同時に駆動できる電磁比例弁の数には制限がある。すなわち、コントローラの電力スペックを超えて電流を出力することはできない。そのためバックアップ動作機能は、コントローラ2の本来の制御対象である電磁比例弁81〜83への制御電流出力値とバックアップの制御対象である電磁比例弁71〜73への制御電流出力値の合計がコントローラ2の最大出力電流値を超えないように制御する。例えば、電磁比例弁81〜83を、正常時の制御電流値の50パーセントに制限して駆動し、残りの50パーセント分でバックアップの制御対象である電磁比例弁71〜73を駆動する。
【0051】
図2において、コントローラ1の処理部12の機能のうち自己故障診断機能122を説明したが、コントローラ2の処理部22の機能の自己故障診断機能222も同様である。図3において、コントローラ2の処理部22の機能のうち、他コントローラ故障診断機能223およびバックアップ動作機能224を説明したが、コントローラ1の処理部12の機能の他コントローラ故障診断機能123およびバックアップ動作機能124も同様である。
【0052】
以上において、図1に示す自己故障診断機能122と処理部12の処理のうち図2に示すステップS102、S104、S105、S106は、コントローラ1の入力系(入力部11、センサ51〜53)および出力系(出力部13、電磁比例弁71〜73)の故障診断をおこなう自己故障診断機能を構成する。
【0053】
また、図1に示す他コントローラ故障診断機能223と処理部22の処理のうち図3に示すステップS201は、通信ネットワーク9を介しコントローラ1の自己故障診断機能122による故障診断情報に基づいてコントローラ1の故障診断をおこなう他コントローラ故障診断機能を構成し、図1に示すバックアップ動作機能224と処理部22の処理のうち図3に示すステップS207は、他コントローラ故障診断機能223による故障診断情報に基づいて、コントローラ1に故障があると診断した場合、コントローラ2の出力部23から電磁比例弁71〜73に制御信号を出力するバックアップ動作機能を構成する。
【0054】
〜動作〜
本実施の形態の通常動作を説明する。
【0055】
コントローラ1は、他コントローラ故障診断及び自己故障診断をおこない、コントローラ1、コントローラ2に故障なしと診断し、メイン処理機能121による通常処理を行う(S101→S102→S103)。コントローラ1は、入力部11を介してセンサ51〜53からの入力情報を入力し、処理部12にてこの入力情報に基づき指令電流値を求める演算処理をし、出力部13からこの演算結果に基づき制御信号を出力し、電磁比例弁71〜73を駆動する。同時に、コントローラ1に故障なしという故障診断情報を通信ネットワーク9介してコントローラ2に送信する(S104)。
【0056】
コントローラ2は、コントローラ1に故障なしという故障診断情報を受信し、コントローラ1を対象に他コントローラ故障診断をおこない、ついで自己故障診断をおこない、コントローラ1、コントローラ2に故障なしと診断し、メイン処理機能221による通常処理を行う(S201→S202→S203)。コントローラ2は、入力部21を介してセンサ61〜63からの入力情報を入力し、処理部22にてこの入力情報に基づき指令電流値を求める演算処理をし、出力部23からこの演算結果に基づき制御信号を出力し、電磁比例弁81〜83を駆動する。同時に、コントローラ2に故障なしという故障診断情報を通信ネットワーク9介してコントローラ1に送信する。
【0057】
本実施の形態のバックアップ動作を説明する。ここでは、コントローラ1が故障し、コントローラ2によるバックアップ動作をおこなう動作を説明する。
【0058】
コントローラ1は、他コントローラ故障診断の後、自己故障診断をおこない、コントローラ1に故障ありと診断し、制御信号の出力を停止するとともに、コントローラ1に故障ありという故障診断情報を通信ネットワーク9介してコントローラ2に送信する(S101→S102→S105→S106)。
【0059】
コントローラ2は、コントローラ1に故障ありという故障診断情報を受信し、コントローラ1を対象に他コントローラ故障診断をおこないコントローラ1に故障ありと診断し、ついで自己故障診断をおこない、コントローラ2に故障なしと診断し、バックアップ動作機能224によりコントローラ1のバックアップ動作をおこなう(S201→S204→S207)。コントローラ2は、入力部21を介してセンサ61〜63からの入力情報を入力し、処理部22にてこの入力情報に基づき指令電流値を求める演算処理をし、出力部23からこの演算結果に基づき制御信号を出力し、電磁比例弁81〜83を駆動するとともに、処理部22に予め格納されていたバックアップ値に基づき出力部23から制御信号を出力し、コントローラ1の制御対象である電磁比例弁71〜73を駆動する。このとき、コントローラ2の本来の制御対象である電磁比例弁81〜83への制御電流出力値とバックアップの制御対象である電磁比例弁71〜73への制御電流出力値の合計がコントローラ2の最大出力電流値を超えないように制御する。
【0060】
同時に、バックアップ動作が行われている旨の情報が、通信入出力部24から出力され、通信ネットワーク9を介して情報表示用のコントローラ6に送信される。ディスプレイ5には、コントローラ1が故障し、コントローラ2によるバックアップ動作がおこなわれている旨が表示される。オペレータは、バックアップ動作機能が作動していることを知り、管理者に連絡するなど適切な処理を行う。
【0061】
一方、コントローラ2が故障した場合は、コントローラ1によるバックアップ動作をおこなう。コントローラ2は、他コントローラ故障診断の後、自己故障診断をおこない、コントローラ2に故障ありと診断し、故障診断情報を通信ネットワーク9介してコントローラ1に送信する。コントローラ1は、故障診断情報を受信し、コントローラ2を対象に他コントローラ故障診断をおこないコントローラ2に故障ありと診断し、ついで自己故障診断をおこない、コントローラ1に故障なしと診断し、バックアップ動作機能124によりコントローラ2のバックアップ動作をおこなう。コントローラ1は、メイン処理機能121による通常処理をおこない、電磁比例弁71〜73を駆動するとともに、処理部12に予め格納されていたバックアップ値に基づき出力部13から制御信号を出力し、コントローラ2の制御対象である電磁比例弁81〜83を駆動する。
【0062】
〜効果〜
以上のように構成した本実施形態の効果を従来の制御システムと比較しながら説明する。
【0063】
図4は、比較のため、従来の制御システムを示すシステム構成図である。図1と同等の構成には同じ符号を付している。本実施の形態の制御システムの特徴的な構成として、コントローラ1の出力部13はダイオード75d〜75fを介してコントローラ2の制御対象である電磁比例弁81〜83にも接続され、同様に、コントローラ2の出力部23はダイオード85d〜85fを介してコントローラ1の制御対象である電磁比例弁71〜73にも接続されているのに対し、従来の制御システムには、このような構成はない。
【0064】
従来の制御システムにおいて、コントローラ1Aは自己故障診断をおこない、センサ51〜53またはコントローラ1Aの入力部11に故障ありと診断すると、処理部12Aに予め格納されていたバックアップ値に基づき出力部13から制御信号を出力し、コントローラ1の制御対象である電磁比例弁71〜73を駆動する。これにより、コントローラ1Aの入力系に故障がある場合でも必要最小限のバックアップ動作ができ、建設機械全体の停止など最悪の事態を避けることができる。しかしながら、従来の制御システムは、コントローラ1Aの出力部13に故障がある場合には、制御信号を出力できず、バックアップ動作ができないという課題があった。
【0065】
本実施の形態の制御システムの特徴的な構成により、コントローラ1の出力部13に故障がある場合にも、バックアップ動作機能224は他コントローラ故障診断機能223による故障診断情報に基づいて、コントローラ1に故障があると診断し、コントローラ2の出力部23から電磁比例弁71〜73に制御信号を出力することができる。これにより、コントローラ1の出力部13に故障がある場合でも必要最小限のバックアップ動作ができ、その結果、緊急回避行動を行うことができ、建設機械全体の停止などの最悪の事態を避けることができ、これにより、安全性を向上させることができる。
【0066】
さらに、本実施の形態においては、コントローラ1とコントローラ2は、同種の制御対象である電磁比例弁71〜73と電磁比例弁81〜83とを制御する。たとえば、電磁比例弁71〜73、電磁比例弁81〜83はレギュレータの制御弁である。コントローラ1の処理部12とコントローラ2の処理部22は同種の制御プログラムを有する。バックアップ動作時は、処理部22内の制御プログラムを共通に使用して、出力部23から電磁比例弁81〜83に制御信号を出力するとともに、電磁比例弁71〜73に制御信号を出力する。これにより、別途バックアップ動作のための制御プログラムは不要となり、簡易な構成を維持できる。
【0067】
〜変形例〜
上記実施の形態において、コントローラ1の自己故障診断の結果、入力系(入力部11、センサ51〜53)と出力部13のいずれかまたは双方に故障があると診断した場合、コントローラ2が、処理部22に予め格納されていたバックアップ値に基づき出力部23から制御信号を出力し、コントローラ1の制御対象である電磁比例弁71〜73を駆動するバックアップ動作をおこなっているが、本発明はこの実施の形態に制限されず、本発明の精神の範囲内で種々の変形が可能である。以下にその変形例を説明する。
【0068】
コントローラ1の自己故障診断の結果、入力系のみに故障があると診断した場合、コントローラ1が、コントローラ1の処理部12に予め格納されていたバックアップ値に基づき出力部13から制御信号を出力し、電磁比例弁71〜73を駆動するバックアップ動作をおこなってもよい。この点は従来例に近い。
【0069】
このような構成によれば、入力系のみに故障がある場合、必要最小限のバックアップ動作ができ、その結果、緊急回避行動を行うことができ、建設機械全体の停止などの最悪の事態を避けることができる。このとき、コントローラ2はバックアップ動作を行わないので、コントローラ2は出力制限することなく最大出力電流値な範囲で、電磁比例弁81〜83を駆動することができる。
【0070】
コントローラ1の自己故障診断の結果、出力部13のみに故障があると診断した場合、コントローラ2が、センサ51〜53からの入力情報に基づき出力部23から制御信号を出力し、電磁比例弁71〜73を駆動するバックアップ動作をおこなってもよい。すなわち、コントローラ1は、入力部11を介してセンサ51〜53からの入力情報を入力し、通信入出力部14を介して通信ネットワーク9に出力する。コントローラ2は、通信入出力部24を介してセンサ51〜53からの入力情報を入力し、処理部22にてこの入力情報に基づき指令電流値を求める演算処理をし、出力部23からこの演算結果に基づき制御信号を出力し、コントローラ1の制御対象である電磁比例弁71〜73を駆動する。
【0071】
このような構成によれば、出力部13のみに故障がある場合、センサ51〜53からの入力情報に基づくバックアップ動作ができ、出力部13の故障がない場合に近い制御ができる。
【0072】
以上のような変形例においても、コントローラ1の自己故障診断の結果、入力系(入力部11、センサ51〜53)と出力部13の双方に故障があると診断した場合は、コントローラ2が、処理部22に予め格納されていたバックアップ値に基づき出力部23から制御信号を出力し、コントローラ1の制御対象である電磁比例弁71〜73を駆動するバックアップ動作をおこなう。これにより、これら変形例においても、本実施の形態と同様の効果が得られる。
【0073】
また、上記実施の形態において、コントローラ1に故障がある場合、コントローラ1は、自己故障診断機能112により自己故障診断をおこない、コントローラ1に故障ありという故障診断情報をコントローラ2に送信し、コントローラ2は、コントローラ1に故障ありという故障診断情報を受信し、他コントローラ故障診断機能223によりコントローラ1を対象に他コントローラ故障診断をおこないコントローラ1に故障ありと診断し、バックアップ動作機能224によりコントローラ1のバックアップ動作をおこなっているが、コントローラ1は、自己故障診断機能112により自己故障診断をおこない、コントローラ1に故障ありという故障診断情報をコントローラ2に送信し、コントローラ2は、コントローラ1に故障ありという故障診断情報を受信すると、バックアップ動作機能224によりコントローラ1のバックアップ動作をおこなってもよい。すなわち、他コントローラ故障診断機能223のない構成でもよい。
【符号の説明】
【0074】
1 コントローラ(第1コントローラ)
2 コントローラ(第2コントローラ)
3 コントローラ(別のコントローラ)
5 ディスプレイ
6 情報表示用コントローラ
7 情報蓄積用コントローラ
9 通信ネットワーク
11,21 入力部
12,22 処理部
13,23 出力部
14,24 通信入出力部
51〜53,61〜63 センサ
71〜73,81〜83 電磁比例弁
75a〜75f,85a〜85f ダイオード
121,221 メイン処理機能
122,222 自己故障診断機能
123,223 他コントローラ故障診断機能
124,224 バックアップ動作機能

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1入力情報を入力する入力部とこの入力情報に基づき所定の演算処理をする処理部と演算結果に基づき制御信号を第1制御対象に出力する出力部を有する第1コントローラと、第2入力情報を入力する入力部とこの入力情報に基づき所定の演算処理をする処理部と演算結果に基づき制御信号を第2制御対象に出力する出力部を有する第2コントローラとを含む複数のコントローラと、これらのコントローラを互いに接続し情報の送受信を行う通信ネットワークとを備える建設機械の制御システムにおいて、
前記第1コントローラは、前記第1コントローラの入力部を含む入力系および出力部を含む出力系の故障診断をおこなう自己故障診断機能を有し、
前記第2コントローラは、前記第1コントローラが前記第1コントローラに故障があると診断した場合、前記通信ネットワークを介し前記第1コントローラの自己故障診断機能による故障診断情報に基づいて、前記第2コントローラの出力部から前記第1制御対象に制御信号を出力するバックアップ動作機能を有していることを特徴とする建設機械の制御システム。
【請求項2】
第1入力情報を入力する入力部とこの入力情報に基づき所定の演算処理をする処理部と演算結果に基づき制御信号を第1制御対象に出力する出力部を有する第1コントローラと、第2入力情報を入力する入力部とこの入力情報に基づき所定の演算処理をする処理部と演算結果に基づき制御信号を第2制御対象に出力する出力部を有する第2コントローラとを含む複数のコントローラと、これらのコントローラを互いに接続し情報の送受信を行う通信ネットワークとを備える建設機械の制御システムにおいて、
前記第1コントローラは、前記第1コントローラの入力部を含む入力系および出力部を含む出力系の故障診断をおこなう自己故障診断機能を有し、
前記第2コントローラは、前記通信ネットワークを介し前記第1コントローラの自己故障診断機能による故障診断情報に基づいて前記第1コントローラの故障診断をおこなう他コントローラ故障診断機能と、
前記他コントローラ故障診断機能による故障診断情報に基づいて、前記第1コントローラに故障があると診断した場合、前記第2コントローラの出力部から前記第1制御対象に制御信号を出力するバックアップ動作機能とを有していることを特徴とする建設機械の制御システム。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の建設機械の建設機械の制御システムにおいて、
前記バックアップ動作機能は、前記故障診断情報に基づいて、前記第1コントローラの入力系および出力部の双方に故障があると診断した場合、予め格納されていたバックアップ値に基づき制御信号を、前記第2コントローラの出力部から前記第1制御対象に出力することを特徴とする建設機械の制御システム。
【請求項4】
請求項1または請求項2記載の建設機械の制御システムにおいて、
前記第1コントローラと前記第2コントローラは、同種の制御対象を制御することを特徴とする建設機械の制御システム。
【請求項5】
請求項1または請求項2記載の建設機械の建設機械の制御システムにおいて、
前記出力部は、制御対象である電磁比例弁に制御電流を出力するものであり、
前記バックアップ動作機能は、第2制御対象である電磁比例弁への制御電流出力値と第1制御対象である電磁比例弁への制御電流出力値の合計が前記第2コントローラの最大出力電流値を超えないように制御するものであることを特徴とする建設機械の制御システム。
【請求項6】
請求項1または請求項2記載の建設機械の制御システムにおいて、
前記バックアップ動作機能が作動していることを外部に知らせる通知手段を備えることを特徴とする建設機械の制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−211760(P2010−211760A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−60053(P2009−60053)
【出願日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】