説明

建設機械下部走行体のローラーシェルの製造方法

【課題】 加熱炉の数を低減できる建設機械下部走行体のローラーシェルの製造方法の提供。
【解決手段】 中炭素合金鋼からなる粗材を熱間鍛造してローラーシェル形状の素材とし、前記熱間鍛造の熱を利用して前記素材に焼入れを施し、前記焼入れの冷却を途中で停止して前記素材の芯部の高温の熱を前記素材の表面部に熱伝導させその熱を利用することにより前記素材の表面部に焼もどしを施す、建設機械下部走行体のローラーシェルの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建設機械下部走行体のローラーシェルの鍛造直接焼入れ焼もどし方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建設機械下部走行体のローラーシェル(特開2004−230907号公報)は、図1の破線に示すように、以下の工程にしたがって製造されていた。
(i)粗材を加熱後、熱間鍛造を行い、ローラーシェル形状の素材とする。
(ii)前記ローラーシェル形状の素材に、耐摩耗性および靭性を付与すべく、下記のいずれかの仕様の熱処理を施す。
(ii−1)(a)全体加熱焼入れ→(b)全体加熱高温焼もどし→(c)外周部の高周波誘導 加熱焼入れ→(d)全体加熱低温焼もどし
ここで、(a)と(b)をあわせて、素地調質という。
(ii−2)全体加熱焼入れ→全体加熱低温焼もどし
【0003】
上記製造工程において必要とされる加熱炉の数はつぎの通りである。
(i)鍛造−−−炉×1(炉×nは加熱炉がn個必要であることを示す、以下、同じ)
(ii)熱処理
(ii−1)の仕様の熱処理の場合
全体加熱焼入れ・全体加熱高温焼もどしに炉×2
高周波加熱のための電源×1、および全体加熱低温焼もどしに炉×1
(ii−2)の仕様の熱処理の場合
全体加熱焼入れ・全体加熱低温焼もどしに炉×2
【特許文献1】特開2004−230907号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の方法では、粗材を加熱し鍛造してローラーシェル形状の素材にした後、放冷し、常温になっているローラーシェル形状の素材を再加熱して焼入れし、焼入れ冷却後常温になっているローラーシェル形状の素材を再々加熱して焼もどしを行っているので、鍛造用の加熱炉、焼入れ加熱炉、焼もどし加熱炉が、それぞれ、必要になる。素地調質を行う場合は、素地調質のための焼入れ、焼もどしに、それぞれ、さらに炉が必要となる。その結果、設備が膨大になり、設備費が大となる。
【0005】
本発明の目的は、従来に比べて、炉の数を低減できるローラーシェルの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する本発明はつぎの通りである。
中炭素合金鋼からなる粗材を熱間鍛造してローラーシェル形状の素材とし、前記熱間鍛造の熱を利用して前記素材に焼入れを施し、前記焼入れの冷却を途中で停止して前記素材の芯部の高温の熱を前記素材の表面部に熱伝導させその熱を利用することにより前記素材の表面部に焼もどしを施す、建設機械下部走行体のローラーシェルの製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明のローラーシェルの製造方法によれば、熱間鍛造の熱を利用して、その直後に焼入れを行う(これを「鍛造直接焼入れ」という)ので、焼入れの炉が不要である。また、焼入れの冷却を途中で停止して低温焼もどしと同じ効果を得るようにする(これを「自己焼もどし」という)ので、低温焼もどしの炉が不要である。したがって、炉としては鍛造の加熱炉が1つあれば足りることになる。その結果、従来の(ii−1)の熱処理方法で必要であった素地調質のための焼入れ、焼もどし炉×2、全体加熱低温焼もどしのための焼もどし炉×1が不要となり、一方、従来の(ii−2)の熱処理方法で必要であった全体加熱焼入れ・全体加熱低温焼もどしのための炉×2が不要となり、従来に比べて、炉の数が低減し、かつ、設備費用が大幅に削減される。
【0008】
以下に、本発明のローラーシェルの製造方法を図1〜図4を参照して説明する。
【0009】
建設機械の足回りは、図3、図4に示すように、履帯1上をローラー2(ローラーは、別名、ローラーシェル、ローラともいう、トラックローラー2a、キャリアローラー2bを含む)が転動し、ローラーシェル2はトラックフレーム3にブラケット4、シャフト5を介して回転可能に支持されており、履帯1はトラックフレーム3に支持されたスプロケット6によって駆動される構造を有している。履帯1は、シュー7を固定したリンク8がピン・ブッシュ9によって帯状に連結されたものからなり、ローラーシェル2はブラケット4に固定されたシャフト5に軸受け10を介して回転可能に支持されている。ローラーシェル2はリンク8上を転動する。ローラーシェル2の外周面はリンク8に荷重をもって転動するため、表面部は強度と硬さが必要であり、芯部は靱性が必要である。
【0010】
本発明では、建設機械の足回りのローラーシェル2は、つぎの工程にしたがって製造される。図1は、各工程での素材の温度を示している。
(i)粗材に中炭素合金鋼を選定し、造形を目的として、粗材を加熱後、熱間鍛造を行い、ローラーシェル形状の素材とする。
鍛造加熱温度は約1200℃である。
素材の成分(重量%)の一例を示すと以下の通りである。
C:0.28〜0.50
Si:0.1〜1.8
Mn:0.3〜1.8
P:0〜0.035
S:0〜0.035
Ni:0〜0.25
Cr:0〜1.0
Mo:0〜1.0
Cu:0〜0.35
B:0.0005〜0.0040
Al:0.010〜0.080
Ti:0.010〜0.060
(ii)硬さ、強度、および靭性の付与を目的として、熱間鍛造の熱を利用して前記ローラーシェル形状の素材に焼入れを施し(これを「鍛造直接焼入れ」という)、前記焼入れの冷却を途中で停止して前記ローラーシェル形状の素材の芯部の高温の熱を素材の表面部に熱伝導させその熱を利用することにより前記ローラーシェル形状の素材の表面部に焼もどしと同じ効果を施す(これを「自己焼もどし」という)。
【0011】
焼入れは、熱間鍛造直後、ローラーシェル形状の素材全体の温度が鍛造温度から下がっていく時に、まだAr3点以上の温度にある時に、急冷(素材外側から水、水溶性焼入れ液等を噴射して強冷却)を開始してローラーシェル形状の素材表面部に焼入れを施す。焼入れ後のローラーシェル形状の素材表面部の金属組織は、中炭素マルテンサイトとなり、硬さおよび強度は大であるが靱性が若干低い。
【0012】
前記焼入れの強冷却を停止する時点Tは、強冷却停止時点Tでのローラーシェル形状の素材の芯部にある残熱が熱伝導により素材表面部に伝わり、強冷却停止時点Tでは200℃より下がっていた前記表面部の温度が約200℃に上昇するような時点である。これによって、前記素材表面部に低温焼もどしと同等な効果を付与することができる(図2参照)。この処理により、前記素材表面部の金属組織は中炭素マルテンサイトから(低炭素マルテンサイト+炭化物)となって、硬さおよび強度は若干低下するが、靱性が向上し、ローラーシェルとして使用可能になる。
【0013】
ローラーシェル2は軸方向に2分割して2ピースに作製し、溶接または摩擦接合にて1ピースに接合する。この溶接または摩擦接合は、「熱間鍛造直接焼入れ自己焼もどし」後、ショットブラスト、荒加工の後、行われ、接合後、仕上げ加工が施される。本発明では、「熱間鍛造直接焼入れ自己焼もどし」は1回の温度サイクル(常温−1200℃−約800℃−約200℃−常温)で行われる。これに対して、従来方法では、熱間鍛造(常温−1200℃−常温)、素地調質の焼入れ(常温−約800℃−常温)、素地調質の焼もどし(常温−約400℃−常温)、外周部の高周波誘導加熱焼入れ(常温−約1000℃−常温)、全体加熱低温焼もどし(常温−約200℃−常温)の5回の温度サイクル、または、熱間鍛造(常温−1200℃−常温)、全体加熱焼入れ(常温−約800℃−常温)、全体加熱低温焼もどし(常温−約200℃−常温)の3回の温度サイクルで行われていた。また、本発明では、熱間鍛造および焼入れ・焼もどしの熱処理が1つの炉で行われる。これに対して、従来方法では5つまたは3つの炉で行われていた。
【0014】
熱間鍛造直接焼入れでは、熱間鍛造加熱温度が約1200℃となり、オーステナイト結晶粒の粗大化が靭性を悪化させるため、粗大化防止元素の添加が必要となる。上記の中炭素ボロン鋼ではTiが添加されており、TiNが結晶粒粗大化防止に有効である。
【0015】
Bを0.0005〜0.0040重量%添加する理由は、焼入れ性の確保と高硬度域における靱性の確保である。
大型のローラーシェルで、Bのみでは必要な焼入れ性を確保することが困難な場合は、Bに加えて、焼入れ性を向上させる他の元素であるMn、Cr、Moなどを添加してもよい。
【0016】
つぎに、本発明の作用・効果を説明する。
本発明のローラーシェルの製造方法では、熱間鍛造の熱を利用して(熱間鍛造の熱で素材がAr3点以上の温度にある状態で熱間鍛造の熱を利用して)、その直後に焼入れを行うので、焼入れの炉(焼入れのためにローラーシェル形状の素材を再加熱する炉)が不要である。
また、焼入れの強冷却を途中で停止して(焼入れの熱を利用して)低温焼もどしと同じ効果を得るようにしたので、焼もどしの炉が不要である。
【0017】
その結果、炉としては熱間鍛造の加熱炉(素材を約1200℃に加熱する炉、この炉は従来からもあった炉)が1つあれば足り、従来必要であった素地調質のための焼入れ・焼もどし炉×2、または全体加熱焼入れ・全体加熱低温焼もどしのための焼入れ・焼もどし炉×2が不要となり、従来に比べて、炉の数が削減され、かつ、設備費用が大幅に削減される。
従来は、熱間鍛造と、その後の熱処理が、別々のメーカーで行われていたが、本発明では熱間鍛造と、その後の熱処理を同一メーカーで行うようにし、熱間鍛造のために加熱した後、その熱を利用して、常温まで下がるまでの間に、鍛造(粗材からローラーシェル形状の素材への成形)のみならず、焼入れ・焼もどし等の熱処理も、行うようにした方法である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明のローラーシェルの製造方法における工程順のローラーシェル素材の温度の変化図である(従来における素材の温度の変化も併せ示してある)。
【図2】図1の自己焼もどし工程におけるローラーシェルの表面部と芯部の温度変化図である。
【図3】本発明のローラーシェルの製造方法によって製造されたローラーシェル(ローラー)が装着される建設機械の概略側面図である。
【図4】図3の建設機械のローラーシェル(ローラー)とその近傍の断面図である。
【符号の説明】
【0019】
1 履帯
2 ローラー(ローラーシェル)
2a トラックローラー
2b キャリアローラー
3 トラックフレーム
4 ブラケット
5 シャフト
6 スプロケット
7 シュー
8 リンク
9 ブッシュ
10 軸受け

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中炭素合金鋼からなる粗材を熱間鍛造してローラーシェル形状の素材とし、前記熱間鍛造の熱を利用して前記素材に焼入れを施し、前記焼入れの冷却を途中で停止して前記素材の芯部の高温の熱を前記素材の表面部に熱伝導させその熱を利用することにより前記素材の表面部に焼もどしを施す、建設機械下部走行体のローラーシェルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−100193(P2007−100193A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−294338(P2005−294338)
【出願日】平成17年10月7日(2005.10.7)
【出願人】(000110251)トピー工業株式会社 (255)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【Fターム(参考)】