説明

建設機械

【課題】走行モータのシール摩耗、劣化等の破損による外部への作動油の流出を確実に防ぐことができる建設機械の提供。
【解決手段】走行体1を駆動する走行モータ12と、この走行モータ12に接続されるトランスミッション13とを有し、トランスミッション13に、内部圧力を大気中に放出させるエアブリーザ13bを備えるとともに、エアブリーザ13bの内部圧力を放出させる放出口13b1に接続され、走行モータ12のオイルシール14の摩耗、劣化等の破損時に放出口13b1を経て流出する作動油を導く油圧ホース18と、シャーシ10の一部を成し、油圧ホース18によって導かれた作動油が収容される第1タンク部15と、油圧ホース18の一端を放出口13b1に連結する第1アダプタ17と、油圧ホース18の他端を第1タンク部15に連結する第2アダプタ19とを備えた構成にしてある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行モータおよびトランスミッションを有し、トランスミッションに、内部圧力を大気中に放出させるエアブリーザを備えたホイール式油圧ショベル等の建設機械に関する。
【背景技術】
【0002】
エアブリーザを備えたトランスミッションは、例えば特許文献1に開示されている。この特許文献1に開示されている従来技術は、トランスミッションの上面に比較的小容量の補助タンクを設置し、トランスミッションに、内部圧力を大気中に放出させるエアブリーザを備えている。また、トランスミッションの内部と補助タンクとを連絡し、トランスミッションの内部圧力が高くなることによって、また、歯車の噛み合い等によって生じた熱による温度上昇によって、それぞれ膨張したトランスミッションの潤滑油を上述の補助タンクに導く吹き出しパイプと、補助タンク内の潤滑油を再びトランスミッション内へ導く戻り油パイプとを備えている。膨張した潤滑油を補助タンクに導く吹き出しパイプは、エアブリーザ内に挿入され、その上端部分をエアブリーザの放出口から突出させて、開口端を補助タンクに対向させるように配置してある。
【0003】
この特許文献1に示される従来技術は、上述のように膨張した潤滑油を補助タンクに回収させることにより、トランスミッション内の圧力が異常に高くなることを防止するとともに、トランスミッションからの潤滑油の滲み出しを防止するようにしたものである。
【特許文献1】実公昭57−46156号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで従来、走行体と、この走行体を駆動する走行モータと、この走行モータに接続されるトランスミッションとを有し、トランスミッションに、内部圧力を大気中に放出させるエアブリーザを備えた建設機械、例えばホイール式油圧ショベルがある。この従来のホイール式油圧ショベルにおいては、走行モータの回転軸がトランスミッションに接続される関係から、走行モータとトランスミッションとが一体に接続されている。そのため走行モータのシール摩耗、劣化等の破損によって走行モータ内の作動油がトランスミッション内に流入することがあり、この流入によってトランスミッション内の油量が増加し内部圧力が上昇すると、この内部圧力を大気へ放出する際に、増加した作動油の一部が外部に漏れてしまうことになる。作動油が外部に漏れると周囲の環境を汚染させる原因となる。
【0005】
このような走行モータのシール摩耗、劣化等の破損時の作動油の流出を防止するために、当該ホイール式油圧ショベルにおいて、上述した特許文献1に示される従来技術を適用して、トランスミッションに侵入した作動油を吹き出しパイプによって導き、補助タンクに収容させることが考えられる。しかし、この特許文献1に示される従来技術は、走行モータのシール摩耗、劣化等の破損に伴ってトランスミッション内に侵入した作動油が大量になったとき、一部の作動油は吹き出しパイプを経て補助タンクに導くことができるとしても、残りの作動油は、エアブリーザと吹き出しパイプとの間に形成される隙間から外部に流出することになる。したがって、上述した特許文献1に示される従来技術を、走行モータのシール摩耗、劣化等の破損時の作動油の流出防止のために適用することは難しい。
【0006】
なお、特許文献1に示される従来技術における補助タンクは、トランスミッションの内部圧力の上昇や温度上昇に伴う潤滑油の膨張を考慮した容量にすればよいので、その形状寸法が比較的小さな小容量で済むが、上述のような走行モータのシール摩耗、劣化等の破損に伴う作動油の流出量は大量であるため、特許文献1に示されるような形状寸法の小さな小容量の補助タンクでは作動油が溢れ出てしまう懸念がある。したがって、特許文献1に示される従来技術を建設機械の走行モータのシール摩耗、劣化等の破損時への対応のために適用することは基本的に困難である。
【0007】
本発明は、上述した従来技術における実状からなされたもので、その目的は、走行モータのシール摩耗、劣化等の破損による外部への作動油の流出を確実に防ぐことができる建設機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的を達成するために、本発明に係る建設機械は、走行体と、この走行体を駆動する走行モータと、この走行モータに接続されるトランスミッションとを有し、このトランスミッションに、内部圧力を大気中に放出させる放出口を有するエアブリーザを備えた建設機械において、上記走行体を構成するシャーシ位置に作動油を収容可能なタンク部が設けられ、上記エアブリーザの上記放出口と上記タンク部とを油圧ホースによって接続することを特徴としている。
【0009】
このように構成した本発明は、エアブリーザの放出口と油圧ホースとを隙間を介在させることなく接続させることができる。したがって、走行モータのシール摩耗、劣化等の破損によって、この走行モータからトランスミッションに侵入した作動油が大量となったときには、その作動油がエアブリーザの放出口から外部に溢れ出ることなく油圧ホースに導かれ、さらに油圧ホースからタンク部に導かれ、このタンク部に収容される。これにより、走行モータのシール摩耗、劣化等の破損による外部への作動油の流出を確実に防止することができる。
【0010】
また、本発明に係る建設機械は、上記発明において、上記タンク部は上記シャーシの一部を成すことを特徴としている。このように構成した本発明は、シャーシをタンク部の設置場所として有効に活用できる。また、形状寸法の大きいシャーシにタンク部を設けることから、このタンク部を、走行モータのシール摩耗、劣化等の破損によりエアブリーザを経て流出する大量の作動油の収容が可能な大容量のものに形成することができる。
【0011】
また、本発明に係る建設機械は、上記発明において、上記油圧ホースの一端を上記エアブリーザの上記放出口に連結する第1アダプタと、上記油圧ホースの他端を上記タンク部に連結する第2アダプタとを備えたことを特徴としている。このように構成した本発明は、走行モータのシール摩耗、劣化等の破損によりトランスミッションに侵入した作動油が大量になったときには、その作動油が、エアブリーザの放出口から第1アダプタを介して油圧ホースに導かれ、さらに油圧ホースから第2アダプタを介してタンク部に導かれる。また、第1アダプタと第2アダプタとによって、油圧ホースを容易かつ確実にエアブリーザの放出口、及びタンク部に接続することができる。
【0012】
また、本発明に係る建設機械は、上記発明において、ホイール式油圧ショベルから成ることを特徴としている。ホイール式油圧ショベルは、走行体と、この走行体を駆動する走行モータと、走行モータに接続されるトランスミッションを有し、トランスミッションに、内部圧力を大気中に放出させるエアブリーザを備えるものであり、このホイール式油圧ショベルに備えられる走行モータのシール摩耗、劣化等の破損時の外部への作動油の流出を確実に防止できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、走行体を構成するシャーシ位置に作動油を収容可能なタンク部が設けられ、エアブリーザの放出口とタンク部とを油圧ホースによって接続するようにしたことから、走行モータのシール摩耗、劣化等の破損によって走行体からトランスミッションに侵入した作動油が大量となったときには、その作動油がブリーザの放出口から外部に溢れ出ることなく油圧ホースを経てタンク部に導かれる。これにより、走行モータのシール摩耗、劣化等の破損による外部への作動油の流出を確実に防止でき、このような作動油の流出による不具合の発生を防ぐことができる。また、トランスミッションが設けられる走行体のシャーシ位置にタンク部を設けたことにより、油圧ホースの長さを短くすることができる。また、走行体と旋回体との間に介在される回転継手を介することなく、トランスミッションから排出される圧油を容易にタンク部に導くことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下,本発明に係る建設機械を実施するための最良の形態を図に基づいて説明する。
【0015】
図1は本発明に係る建設機械の一実施形態であるホイール式油圧ショベルを示す側面図である。図2は図1に示す本実施形態に係るホイール式油圧ショベルに備えられるシャーシ付近の要部を示す図、図3は図1に示す本実施形態に係るホイール式油圧ショベルに備えられる走行モータ及びトランスミッションを示す図、図4は図1に示す本実施形態に係るホイール式油圧ショベルに備えられるシャーシ、走行モータとトランスミッション、及びシャーシのタンク部に接続される油圧ホースを示す分解斜視図、図5は図4のA−A断面図である。
【0016】
本発明に係る建設機械は、例えば図1に示すホイール式油圧ショベルであり、走行体1と、この走行体1上に配置される旋回体2と、この旋回体2に上下方向の回動可能に設けられるフロント作業機3とを備えている。フロント作業機3は、旋回体2に上下方向の回動可能に取り付けられるブーム4と、このブーム4の先端に上下方向の回動可能に取り付けられるアーム5と、このアーム5の先端に上下方向の回動可能に取り付けられるバケット6とを含むとともに、ブーム4を作動させるブームシリンダ7と、アーム5を作動させるアームシリンダ8と、バケット6を作動させるバケットシリンダ9とを含んでいる。
【0017】
上述した走行体1は、車台すなわちシャーシ10と、4つの車輪11とを備えている。図2に示すように、シャーシ10の下方部分には、走行体1を駆動する走行モータ12と、この走行モータ12に接続されたトランスミッション13とを備えている。
【0018】
図3に示すように、走行モータ12は、可変容量油圧モータから成り、回転自在なシリンダブロック12aと、このシリンダブロック12a内に配置されて往復動可能な複数のピストン12bと、シリンダブロック12aの回転に伴って回転する回転軸12cとを備えている。また、走行モータ12に接続されるトランスミッション13は、走行モータ12の回転軸12cの回転を車輪11の回転として伝達する歯車伝達機構13aと、トランスミッション13の内部圧力を大気中に放出するエアブリーザ13bとを備えている。また、回転軸12cの部分には、走行モータ12からトランスミッション13への作動油の流入を防ぎ、トランスミッション13から走行モータ12への潤滑油の流入を防ぐオイルシール14を設けてある。
【0019】
図4,5に示すように、上述したシャーシ10の左右側端部付近のそれぞれには、車体の前後方向に沿って延設された第1タンク部15と、第2タンク部16とを形成してある。これらの第1タンク部15と第2タンク部16とは、シャーシ10の一部を成しており、それぞれ例えば、走行モータ12のオイルシール14の摩耗、劣化等の破損に際して、最寄りの修理場所まで当該ホイール式油圧ショベルを走行させる間、トランスミッション13に設けたエアブリーザ13bから流出する作動油を収容可能な容量を有するものとなっている。
【0020】
また、本実施形態に係るホイール式油圧ショベルは、図3,4に示すように、エアブリーザ13bの放出口13b1に接続され、走行モータ12のオイルシール14の摩耗、劣化等の破損時にトランスミッション13に備えられたエアブリーザ13bの放出口13b1を経て流出する作動油を導く可撓性を有する油圧ホース18を備えている。例えば、この油圧ホース18の一端は、エアブリーザ13bの放出口13b1に接続される第1アダプタ17に連結され、油圧ホース18の他端は、第1タンク部15の側面に接続される第2アダプタ19に連結されている。
【0021】
なお、第1タンク部15の底部には、第1タンク部15に収容された作動油を排出させることが可能な排出口20が形成されているとともに、この排出口20を塞ぐドレン栓21を取り付けてある。
【0022】
このように構成される本実施形態に係るホイール式油圧ショベルは、走行モータ12のピストン12bを往復動させることによりシリンダブロック12aが回転し、このシリンダブロック12aの回転により回転軸12cが回転し、この回転軸12cの回転がトランスミッション13の歯車伝達機構13aに伝えられる。さらに、この歯車伝達機構13aの回転力が図1に示す車輪11に伝えられて、走行体1を、すなわち当該ホイール式油圧ショベルを走行させることができる。
【0023】
このような走行操作に際し、走行モータ12のシリンダブロック12aとピストン12bとの間にオイルシール14の摩耗、劣化等の破損で、走行モータ12からトランスミッション13に侵入した作動油が大量となったときには、本実施形態に係るホイール式油圧ショベルにあっては、エアブリーザ13bの放出口13b1と油圧ホース18とが第1アダプタ17を介して隙間を介在させることなく接続されていることから、トランスミッション13内の作動油がエアブリーザ13bの放出口13b1から外部に溢れ出ることなく油圧ホース18に導かれ、さらに油圧ホース18から第2アダプタ19を介して第1タンク部15に導かれ、この第1タンク部15に収容される。これにより、走行モータ12のオイルシール14の摩耗、劣化等の破損による外部への作動油の流出を確実に防止でき、このような作動油の流出による外部の汚染、作動油の減少等の不具合の発生を防ぐことができる。また、トランスミッション13が設けられる走行体1のシャーシ10に第1タンク部15を設けたので、油圧ホース18の長さを短くすることができる。また、走行体1と旋回体2との間に介在されるスイベルジョイント等の回転継手を介することなく、トランスミッション13から排出される圧油を容易に第1タンク部15に導くことができる。
【0024】
また、第1タンク部15がシャーシ10の一部を成しており、シャーシ10を第1タンク部15の設置場所として有効活用できる。すなわち、第1タンク部15の設置に際し、シャーシ10の近傍に配置される各種の機器、機材への影響をほとんど生じさせることなく第1タンク部15を設けることができ、実用性に富む。さらに、形状寸法の大きいシャーシ10に第1タンク部15を設けることから、第1タンク部15を、走行モータ12のオイルシール14の摩耗、劣化等の破損によりエアブリーザ13bの放出口13b1を経て流出した大量の作動油の収容が可能な大容量に形成することが可能であり、この点で走行モータ12のオイルシール14の摩耗、劣化等の破損による作動油の外部への流出防止に貢献する。
【0025】
また、油圧ホース18の一端を第1アダプタ17を介してエアブリーザ13bの放出口13b1に連結し、油圧ホース18の他端を第2アダプタ19を介して第1タンク部15に連結するようにしたことから、第1アダプタ17と第2アダプタ19とによって、油圧ホース18を容易かつ確実にエアブリーザ13bの放出口13b1、及び第1タンク部15に接続することができ、これらの第1アダプタ17と第2アダプタ19を介して、この油圧ホース18を安定した固定状態に保持できる。
【0026】
なお、上記実施形態は、第1タンク部15がシャーシ10の一部を成す構成にしてあるが、この第1タンク部15をシャーシ10とは別体に設けてもよい。例えば、このように別体に設けた第1タンク部15を、法規上の最低車高を確保することが可能な範囲内において、シャーシ10の下面に取り付けることもできる。
【0027】
また、上記では、油圧ホース18から導かれる作動油を、図4,5に示すシャーシ10の第1タンク部15に収容させるように構成してあるが、例えば第1タンク部15と第2タンク部16とをパイプ等の連通手段で接続し、これらの第1タンク部15と第2タンク部16の双方を、油圧ホース18から導かれる作動油を収容するタンク部として構成することもできる。このように構成したものは、作動油を収容する容量をさらに大きくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係る建設機械の一実施形態であるホイール式油圧ショベルを示す側面図である。
【図2】図1に示す本実施形態に係るホイール式油圧ショベルに備えられるシャーシ付近の要部を示す図である。
【図3】図1に示す本実施形態に係るホイール式油圧ショベルに備えられる走行モータ及びトランスミッションを示す図である。
【図4】図1に示す本実施形態に係るホイール式油圧ショベルに備えられるシャーシ、走行モータとトランスミッション、及びシャーシのタンク部に接続される油圧ホースを示す分解斜視図である。
【図5】図4のA−A断面図である。
【符号の説明】
【0029】
1 走行体
10 シャーシ
12 走行モータ
12a シリンダブロック
12b ピストン
12c 回転軸
13 トランスミッション
13a 歯車伝達機構
13b エアブリーザ
13b1 放出口
14 オイルシール
15 第1タンク部
16 第2タンク部
17 第1アダプタ
18 油圧ホース
19 第2アダプタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行体と、この走行体を駆動する走行モータと、この走行モータに接続されるトランスミッションとを有し、このトランスミッションに、内部圧力を大気中に放出させる放出口を有するエアブリーザを備えた建設機械において、
上記走行体を構成するシャーシ位置に作動油を収容可能なタンク部が設けられ、
上記エアブリーザの上記放出口と上記タンク部とを油圧ホースによって接続することを特徴とする建設機械。
【請求項2】
上記請求項1記載の建設機械において、
上記タンク部は上記シャーシの一部を成すことを特徴とする建設機械。
【請求項3】
上記請求項2記載の建設機械において、
上記油圧ホースの一端を上記エアブリーザの上記放出口に連結する第1アダプタと、上記油圧ホースの他端を上記タンク部に連結する第2アダプタとを備えたことを特徴とする建設機械。
【請求項4】
上記請求項1〜3のいずれか1項記載の建設機械において、
ホイール式油圧ショベルから成ることを特徴とする建設機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−185543(P2009−185543A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−27744(P2008−27744)
【出願日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】