説明

建設機械

【課題】簡易な回路構成で絶縁抵抗劣化検知、リレーの故障診断、自己異常診断の全てを行う絶縁抵抗劣化検知システムを備えた建設機械を提供する。
【解決手段】電動システムを備えた建設機械において、電動システムは、第1の電圧波形発生装置100Aと、リレー56に対して蓄電デバイス59側と第1の電圧波形発生装置に接続され、第1の電圧波形発生装置から入力された波形の変化を測定することにより蓄電デバイス側の絶縁抵抗劣化を検知する第1の検知部99Aとを有する第1絶縁抵抗劣化検知装置90Aと、第2の電圧波形発生装置100Bと、リレー56に対して駆動システム55側と第2の電圧波形発生装置に接続され、第2の電圧波形発生装置から入力された波形の変化を測定することにより駆動システム側の絶縁抵抗劣化を検知する第2の検知部99Bとを有する第2絶縁抵抗劣化検知装置90Bとを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建設機械に係り、さらに詳しくは、蓄電デバイス、電動モータ等からなる電動システムと車体との間の絶縁抵抗劣化検出機能を有する建設機械に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば油圧ショベルのような建設機械においては、動力源として、ガソリン、軽油等の燃料を用い、エンジンによって油圧ポンプを駆動して油圧を発生することにより油圧モータ、油圧シリンダといった油圧アクチュエータを駆動する。油圧アクチュエータは、小型軽量で大出力が可能であり、建設機械のアクチュエータとして広く用いられている。
【0003】
一方で、近年、電動モータ及び蓄電デバイス(バッテリや電気二重層キャパシタ等)を用いることにより、油圧アクチュエータのみを用いた従来の建設機械よりエネルギ効率を高め、省エネルギ化を図った建設機械が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
電動モータ(電動アクチュエータ)は油圧アクチュエータに比べてエネルギ効率が良い、制動時の運動エネルギを電気エネルギとして回生できる(油圧アクチュエータの場合は熱にして放出)といった、エネルギ的に優れた特徴がある。
【0005】
例えば、特許文献1に示される従来技術では、旋回体の駆動アクチュエータとして電動モータを搭載した油圧ショベルの実施の形態が示されている。油圧ショベルの旋回体を走行体に対して旋回駆動するアクチュエータ(従来は油圧モータを使用)は、使用頻度が高く、作業において起動停止、加速減速を頻繁に繰り返す。このとき、減速時(制動時)における旋回体の運動エネルギは、油圧アクチュエータの場合は油圧回路上で熱として捨てられるが、電動モータの場合は電気エネルギとしての回生が見込めることから、省エネルギ化が図れる。
【0006】
ところで、このようなハイブリッド式油圧ショベルに搭載するような電動アクチュエータ及び蓄電デバイスは、高電圧・大電流で使用されるため、メインの電気回路と車体との間の絶縁抵抗が劣化した場合に、その絶縁抵抗劣化部を通じて車体に電流が流れ、感電等の危険に繋がる虞がある。
【0007】
このような問題に対処するために、種々の絶縁抵抗劣化検知装置が提案されている。例えば、対象回路に所定周波数の交流信号を印加し、予め決められた測定点における交流信号の振幅レベルを計測することによって絶縁抵抗劣化を検知する装置がある。昇圧回路(チョッパ等)が蓄電デバイスとインバータの間に組み込まれたシステムにおいて、昇圧回路作動時に誤検出を防止すると共に絶縁抵抗劣化を継続検知できる装置が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【0008】
また、絶縁抵抗劣化の検知手段のみでなく、自己の開閉動作により蓄電デバイスと電動アクチュエータ及びインバータ等との間の接続を遮断可能なリレーについて、その遮断機能を診断するリレー故障診断に関する技術がある。絶縁抵抗劣化検知装置を用いて、リレーの故障診断を行うリレー故障診断装置が開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【0009】
更に、絶縁抵抗低下検知装置自体の異常を検知する自己異常診断に関する技術がある。簡易な構成により自己異常診断機能を備えた絶縁抵抗低下検出器及びその自己異常診断方法が開示されている(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2001−16704号公報
【特許文献2】特開2009−109278号公報
【特許文献3】特開2007−329045号公報
【特許文献4】国際公開第WO2007/026603号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述した特許文献3の従来技術と特許文献4の従来技術とは、高電圧回路を備えた例えば電気自動車等の分野で主に適用されている。
【0012】
一方、ハイブリッド式建設機械においては、絶縁抵抗劣化検知装置等を配設するスペースに限定があるため、絶縁抵抗劣化検知機能とリレー故障診断機能と自己異常診断機能との全ての機能を備え、簡易な回路構成でこれらを実現することでコンパクトに構成できる絶縁抵抗劣化検知システムが要望されていた。
【0013】
本発明は上述の事柄に基づいてなされたもので、その目的は、電動モータ等を含む駆動システム、蓄電デバイス、及び蓄電デバイスと駆動システムとの電気的接続を遮断するためのリレーを備えた建設機械において、簡易な回路構成で絶縁抵抗劣化検知、リレーの故障診断、自己異常診断の全てを行うことができる絶縁抵抗劣化検知装置を備えた建設機械を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の目的を達成するために、第1の発明は、電動モータと、前記電動モータを駆動・制御する電気回路及びコントローラを含む駆動システムと、蓄電デバイスと、前記蓄電デバイスと前記駆動システムとを電気的に接続/遮断するリレーとを有する電動システムを備えた建設機械において、前記電動システムは、第1の電圧波形発生装置と、前記リレーに対して前記蓄電デバイス側と前記第1の電圧波形発生装置に接続され、前記第1の電圧波形発生装置から入力された波形の変化を測定することにより前記蓄電デバイス側の絶縁抵抗劣化を検知する第1の検知部とを有する第1絶縁抵抗劣化検知装置と、第2の電圧波形発生装置と、前記リレーに対して前記駆動システム側と前記第2の電圧波形発生装置に接続され、前記第2の電圧波形発生装置から入力された波形の変化を測定することにより前記駆動システム側の絶縁抵抗劣化を検知する第2の検知部とを有する第2絶縁抵抗劣化検知装置とを備えたものとする。
【0015】
また、第2の発明は、第1の発明において、前記第1、第2絶縁抵抗劣化検知装置における第1、第2の検知部は、前記リレーの正常性を確認可能とするために、前記第2、第1電圧波形発生装置からの双方の電圧波形を取込み可能に電気的に接続したことを特徴とする。
【0016】
更に、第3の発明は、第1の発明において、前記第1絶縁抵抗劣化検知装置は、前記リレーが開放されている時に、前記蓄電デバイス周辺の絶縁抵抗劣化を検知することを特徴とする。
【0017】
また、第4の発明は、第1の発明において、前記第2絶縁抵抗劣化検知装置は、前記駆動システム内の電気回路の正負両極とインピーダンス素子を介して接続されていることを特徴とする。
【0018】
更に、第5の発明は、第1の発明において、前記第1、第2絶縁抵抗劣化検知装置は、前記リレーに対して前記駆動システム側に配設され、前記第1絶縁抵抗劣化検知装置は、前記駆動システム側からケーブルと他のリレーを介して前記蓄電デバイス側に接続されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、電動モータ等を含む駆動システム、蓄電デバイス、及び蓄電デバイスと駆動システムとの電気的接続を遮断するためのリレーを備えた建設機械において、簡易な回路構成で絶縁抵抗劣化検知、リレーの故障診断、自己異常診断の全てを行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の建設機械の一実施の形態を示す側面図である。
【図2】本発明の建設機械の一実施の形態を構成する電動・油圧機器のシステム構成図である。
【図3】本発明の建設機械の一実施の形態を構成する電動システムの電気回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、建設機械として油圧ショベルを例にとって本発明の実施の形態を図面を用いて説明する。なお、本発明は、電動モータを含む駆動システム、蓄電デバイス、蓄電デバイスを駆動システムから遮断するためのリレーを備えた車両や建設機械全般(作業機械を含む)に適用が可能であり、本発明の適用は油圧ショベルに限定されるものではない。図1は本発明の建設機械の一実施の形態を示す側面図、図2は本発明の建設機械の一実施の形態を構成する電動・油圧機器のシステム構成図、図3は本発明の建設機械の一実施の形態を構成する電動システムの電気回路図である。
【0022】
図1において、ハイブリッド式油圧ショベルは走行体10と、走行体10上に旋回可能に設けた旋回体20及びショベル機構30を備えている。
【0023】
走行体10は、一対のクローラ11a,11b及びクローラフレーム12a,12b(図1では片側のみを示す)、各クローラ11a,11bを独立して駆動制御する一対の走行用油圧モータ13、14及びその減速機構等で構成されている。
【0024】
旋回体20は、旋回フレーム21と、旋回フレーム21上に設けられた、原動機としてのエンジン22と、エンジン22により駆動されるアシスト発電モータ23と、旋回電動モータ25及び旋回油圧モータ27と、アシスト発電モータ23及び旋回電動モータ25に接続される電気二重層のキャパシタ24と、旋回電動モータ25と旋回油圧モータ27の回転を減速する減速機構26等から構成され、旋回電動モータ25と旋回油圧モータ27の駆動力が減速機構26を介して伝達され、その駆動力により走行体10に対して旋回体20(旋回フレーム21)を旋回駆動させる。
【0025】
また、旋回体20にはショベル機構(フロント装置)30が搭載されている。ショベル機構30は、ブーム31と、ブーム31を駆動するためのブームシリンダ32と、ブーム31の先端部近傍に回転自在に軸支されたアーム33と、アーム33を駆動するためのアームシリンダ34と、アーム33の先端に回転可能に軸支されたバケット35と、バケット35を駆動するためのバケットシリンダ36等で構成されている。
【0026】
さらに、旋回体20の旋回フレーム21上には、上述した走行用油圧モータ13,14、旋回油圧モータ27、ブームシリンダ32、アークシリンダ34、バケットシリンダ36等の油圧アクチュエータを駆動するための油圧システム40が搭載されている。油圧システム40は、油圧を発生する油圧源となる油圧ポンプ41(図2)及び各アクチュエータを駆動制御するためのコントロールバルブ42(図2)を含み、油圧ポンプ41はエンジン22によって駆動される。
【0027】
次に、油圧ショベルの電動・油圧機器のシステム構成について概略説明する。図2に示すように、エンジン22の駆動力は油圧ポンプ41に伝達されている。コントロールバルブ42は、図示しない旋回用の操作レバー装置からの旋回操作指令(油圧パイロット信号)に応じて、旋回油圧モータ27に供給される圧油の流量と方向を制御する。またコントロールバルブ42は、旋回以外の操作レバー装置からの操作指令(油圧パイロット信号)に応じて、ブームシリンダ32、アームシリンダ34、バケットシリンダ36及び走行用油圧モータ13,14に供給される圧油の流量と方向を制御する。
【0028】
電動システムは、上述したアシスト発電モータ23、旋回電動モータ25、これらを駆動制御する電気部品からなるパワーコントロールユニット55、及びメインコントローラ80を備えた駆動システムと、電気二重層のキャパシタ24からなる蓄電デバイスと、この蓄電デバイスと駆動システムとの電気的接続を遮断するメインリレー56と、絶縁抵抗劣化検知装置90A,90Bとを備えている。
【0029】
駆動システムを構成するパワーコントロールユニット55は、チョッパ51、インバータ52,53、及び平滑コンデンサ54等を有している。また、メインリレー56はリレー57A,57Bと、抵抗58と突入電流防止回路を構成するリレー57Cと、後述する絶縁抵抗劣化検知装置用のリレー103とを有している。
【0030】
キャパシタ24からの直流電力はチョッパ51によって所定の母線電圧に昇圧され、旋回電動モータ25を駆動するためのインバータ52、アシスト発電モータ23を駆動するためのインバータ53に入力される。リレー57A,57Bは、メインコンタクタであり、電動システムの停止時や異常発生時に、キャパシタ24の電荷の電動システムへの供給を遮断するために設けられている。リレー57C及び抵抗58により構成する突入電流防止回路は、チョッパ51内のコンデンサが充電されていない状態において、リレー57A,57Bを閉じる前にこの回路の経路から制限した電流を供給してチョッパ51内のコンデンサを充電するものである。平滑コンデンサ54は、母線電圧を安定化させるために設けられている。
【0031】
旋回電動モータ25と旋回油圧モータ27の回転軸は結合されており、減速機構26を介して旋回体20を駆動する。アシスト発電モータ23及び旋回電動モータ25の駆動状態(力行しているか回生しているか)によって、キャパシタ24は充放電されることになる。なお、図2に示すように、キャパシタ24とメインリレー56とは、蓄電ユニット59である1個の筺体の内部に配設されている。
【0032】
メインコントローラ80は、操作指令信号、圧力信号及び回転速度信号等の図2に示されない信号を用いて、コントロールバルブ42、パワーコントロールユニット55に対する制御指令を生成し、油圧単独旋回モード、油圧電動複合旋回モードの切り替え、及び各モードの旋回制御、電動システムの異常監視、エネルギマネジメント等の制御を行う。電磁比例バルブ75は、メインコントローラ80からの電気信号を油圧パイロット信号に変換するものであって、この油圧パイロット信号によって、コントロールバルブ42が制御される。
【0033】
電動コントローラ104は、メインコントローラ80と信号の授受を行い、パワーコントロールユニット55に内蔵された2系統のインバータ52,53、チョッパ51、及び後述の第1及び第2絶縁抵抗劣化検知装置90A,90B等の統括制御を行う。
【0034】
第1及び第2絶縁抵抗劣化検知装置90A,90Bは、パワーコントロールユニット55に内蔵され結合インピーダンス素子101A〜101Cと第1及び第2検知経路102A,102Bを介して各電気回路に接続されている。
【0035】
図2において、91〜95は、電動コントローラ104の絶縁抵抗劣化部位を特定するための検知シーケンスと第1及び第2絶縁抵抗劣化検知装置90A,90Bによって特定できる部位であって、91はキャパシタ24〜メインリレー56間母線を、92はメインリレー56〜チョッパ51間母線を、93はインバータ52〜インバータ53間母線を、94はアシスト発電モータ23〜インバータ53間ケーブルを、95は旋回電動モータ25〜インバータ52間ケーブルをそれぞれ示している。
【0036】
次に、本発明の建設機械の一実施の形態を構成する電動システムの電気回路を図3を用いて説明する。図3において、図1及び図2に示す符号と同符号のものは、同一部分であるので、その詳細な説明は省略する。
図3に示すように、電動システムは、大略キャパシタ24と、メインリレー56と、チョッパ51と、主平滑コンデンサ54と、旋回電動モータ25と、旋回電動モータ用インバータ52と、アシスト発電モータ23と、アシスト発電モータ用インバータ53と、メインコントローラ80と、絶縁抵抗劣化検知装置90A,90Bとを備えている。
【0037】
チョッパ51は、リアクトル51aと、スイッチング素子として例えばIGBTのようなパワートランジスタ(以下トランジスタという)51b,51cと、平滑コンデンサ51dとを備えている。
【0038】
リアクトル51aは、一端がリレー57Aを介してキャパシタ24の正極に接続され、他端がトランジスタ51bのソース及びトランジスタ51cのドレインに接続されている。トランジスタ51bのドレインは、主平滑コンデンサ54の一端、アシスト発電モータ用インバータ53、及び旋回電動モータ用インバータ52の一端に接続されている。トランジスタ51cのソースは、リレー57Bを介してキャパシタ24の負極、主平滑コンデンサ54の他端、アシスト発電モータ用インバータ53、及び旋回電動モータ用インバータ52の他端に接続されている。また、リアクトル51aの一端には、平滑コンデンサ51dの一端が接続され、平滑コンデンサ51dの他端は、トランジスタ51cのソースに接続されている。
【0039】
各トランジスタ51b,51cのゲートには、電動コントローラ104が接続されていて、スイッチング制御が行われる。電動コントローラ104からの指令を受けて2個のトランジスタ51b,51cを交互に開閉させることにより、キャパシタ24の電圧をアシスト発電モータ用インバータ53及び旋回電動モータ用インバータ52が動作可能な母線電圧に昇圧すると共に、母線電圧を所定の一定値付近に制御する動作を行う。
【0040】
主平滑コンデンサ54は、直流電圧を平滑化する。アシスト発電モータ用インバータ53及び旋回電動モータ用インバータ52は、一方にチョッパ51及び主平滑コンデンサ54が接続され、他方には、アシスト発電モータ23と旋回電動モータ25とがそれぞれ接続されている。
【0041】
アシスト発電モータ用インバータ53及び旋回電動モータ用インバータ52は、例えばIGBTのようなスイッチング素子としてのトランジスタ53A,52Aそれぞれ6個からなるブリッジ回路を用いて、電動コントローラ104からの指令を受けて、電流のON/OFFを繰り返し、パルス幅を変動させることで三相交流を作り出し、アシスト発電モータ23及び旋回電動モータ25を駆動する。
【0042】
アシスト発電モータ23とパワーコントロールユニット55とは、コネクタ122を介してケーブル94により接続されている。また、旋回電動モータ25とパワーコントロールユニット55とは、コネクタ123を介してケーブル95により接続されている。同様に、パワーコントロールユニット55と蓄電ユニット59とは、コネクタ120と121とを介してケーブル92とケーブル101Dとにより接続されている。
【0043】
第1絶縁抵抗劣化検知装置90Aは、交流あるいはパルス波形を生成する第1電圧波形発生装置100Aと、この交流あるいはパルス波形を印加するために電動システムの電気回路の所定部位に接続される第1検知経路102Aと、第1検知経路102Aを介して入力信号の振幅レベルや波形等を測定し、生成信号と測定信号とを比較して対象回路の車体フレームに対する絶縁抵抗値を算出し、予め設定された設定値と比較することで絶縁抵抗劣化の有無を検知する第1検知部99Aとを備えている。同様に、第2絶縁抵抗劣化検知装置90Bは、交流あるいはパルス波形を生成する第2電圧波形発生装置100Bと、この交流あるいはパルス波形を印加するために電動システムの電気回路の所定部位に接続される第2検知経路102Bと、第2検知経路102Bを介して入力信号の振幅レベルや波形等を測定し、生成信号と測定信号とを比較して対象回路の車体フレームに対する絶縁抵抗値を算出し、予め設定された設定値と比較することで絶縁抵抗劣化の有無を検知する第2検知部99Bとを備えている。
【0044】
第1及び第2絶縁抵抗劣化検知装置90A,90Bにおいては、第1及び第2電圧波形発生装置100A,100Bと第1及び第2検知部99A,99Bとを組み合わせて使用する場合のほかに、第1及び第2電圧波形発生装置100A,100Bをそれぞれ単独で使用したり、第1及び第2検知部99A,99Bをそれぞれ単独で使用したりすることもできる。
【0045】
第1絶縁抵抗劣化検知装置90Aの第1検知経路102Aは、第1検知部99Aから、結合インピーダンス素子101Aとケーブル101Dとリレー103とを介してキャパシタ24とメインリレー56間の母線91の負極側に接続されている。リレー103は、機械停止中に修理やメンテナンスの目的で、コネクタ120または121を外す場合に活線状態とならないように、機械停止中は開(遮断)状態とするものである。第1絶縁抵抗劣化検知装置90Aまたは、第1電圧波形発生装置100Aを用いて絶縁抵抗劣化検知を行う際には、閉(接続)状態とする。
【0046】
第2絶縁抵抗劣化検知装置90Bの第2検知経路102Bは、第2検知部99Bから分岐部を経た一方が、結合インピーダンス素子101Bを介して、アシスト発電モータ用インバータ53及び旋回電動モータ用インバータ52の一端の正極側に接続されている。また、第2検知部99Bから分岐部を経た他方は、結合インピーダンス素子101Cを介して、アシスト発電モータ用インバータ53及び旋回電動モータ用インバータ52の一端の負極側に接続されている。
【0047】
第1及び第2電圧波形発生装置100A,100Bは、車体フレームの電位に対する電気回路の電位が、例えばパルス状に時間変化するように電圧波形を注入する電圧波形発生器である。
【0048】
ここで、絶縁抵抗劣化部位を特定するための検知シーケンスについて説明する。上述したように、電動システムにおいては、アシスト発電モータ用インバータ53及び旋回電動モータ用インバータ52のスイッチング素子53A,52A、チョッパ51のトランジスタ51b,51c、及びメインリレー56を電動コントローラ104からの信号によりそれぞれ開閉可能に構成している。これら構成部材の開閉を制御しながら第1及び第2絶縁抵抗劣化検知装置90A,90Bの検知信号を電動コントローラ104で監視することで、絶縁抵抗劣化部位を特定することができる。
【0049】
次に、本発明の建設機械の一実施の形態における絶縁抵抗劣化検知装置の動作を図3を用いて説明する。
【0050】
(1)メインリレー56開放時の蓄電デバイス周辺の絶縁抵抗劣化検知
蓄電ユニット59内のキャパシタ24とメインリレー56間の母線91の絶縁抵抗劣化の検知は、以下の手順による。
メインリレー56のリレー57A,57Bは開(遮断)状態の場合、リレー103を閉動作(接続)させる。その後、第1電圧波形発生装置100Aから電圧波形を発生させて、キャパシタ24とメインリレー56間の母線91の負極側に印加し、第1絶縁抵抗劣化検知装置90Aにより、入力信号の振幅レベルや波形等を測定し、生成信号と測定信号とを比較して対象回路の車体フレームに対する絶縁抵抗値を算出し、予め設定された設定値と比較して絶縁抵抗劣化の有無を検知する。
【0051】
(2)メインリレー56開放時の電動システム周辺の絶縁抵抗劣化検知
メインリレー56のリレー57A,57Bは開(遮断)状態の場合、まず、第1ステップにおいて、第2絶縁抵抗劣化検知装置90Bによって、旋回電動モータ用インバータ52とアシスト発電モータ用インバータ53間の母線93の正負両極の絶縁抵抗劣化を検知する。
【0052】
次の第2ステップにおいて、アシスト発電モータ用インバータ53のスイッチング素子53Aの上側又は下側のいずれか1個を閉動作することで、アシスト発電モータ23とアシスト発電モータ用インバータ53間ケーブル94の絶縁抵抗劣化を検知する。同様に、旋回電動モータ用インバータ52のスイッチング素子52Aの上側又は下側のいずれか1個を閉動作することで、旋回電動モータ25と旋回電動モータ用インバータ52間ケーブル95の絶縁抵抗劣化を検知する。
【0053】
次の第3のステップにおいて、チョッパ51のトランジスタ51bを閉動作することで、メインリレー56とチョッパ51間の母線92の正極の絶縁抵抗劣化を検知する。以上の第1〜第3ステップにより、電動システム周辺の絶縁抵抗劣化の検知が完全に実行される。
【0054】
(3)メインリレー56接続時の絶縁抵抗劣化検知及び自己異常診断
メインリレー56のリレー57A,57Bは閉(接続)状態の場合、リレー103を閉動作(接続)させる。その後、第1電圧波形発生装置100Aから電圧波形を発生させる。第1絶縁抵抗劣化検知装置90Aの第1検知部99Aと第2絶縁抵抗劣化検知装置90Bの第2検知部99Bの両方で、波形を検知し、絶縁抵抗値の算出から絶縁抵抗劣化の有無を検知する。この演算結果の比較を電動コントローラ104が実施することで、第1及び第2絶縁抵抗劣化検知装置90A,90Bの正常性を確認することができる。
【0055】
同様に、第2電圧波形発生装置100Bから電圧波形を発生させて、第1絶縁抵抗劣化検知装置90Aの第1検知部99Aと第2絶縁抵抗劣化検知装置90Bの第2検知部99Bの両方で、波形を検知し、絶縁抵抗値の算出から絶縁抵抗劣化の有無を検知させることで、第1及び第2絶縁抵抗劣化検知装置90A,90Bの正常性を確認してもよい。
【0056】
(4)メインリレー56の故障診断
メインリレー56の溶着故障等を検知する故障診断は以下の手順による。
メインリレー56のリレー57A,57Bは閉(接続)状態の場合、リレー103を閉動作(接続)させる。その後、第1電圧波形発生装置100Aから電圧波形を発生させる。第2絶縁抵抗劣化検知装置90Bの第2検知部99Bで波形が検知されることを確認する。次にリレー57A,57B,57Cがすべて開(遮断)した後に第2検知部99Bで波形が検知されないことを確認する。同様に、第2電圧波形発生装置100Bから電圧波形を発生させ、第1絶縁抵抗劣化検知装置90Aの第1検知部99Aで波形の検知の有無を確認してもよい。
【0057】
メインリレー56のリレー57A,57B,57Cは開(遮断)状態の場合、リレー103を閉動作(接続)させる。その後、第1電圧波形発生装置100Aから電圧波形を発生させる。第2絶縁抵抗劣化検知装置90Bの第2検知部99Bで波形が検知されないことを確認する。次にリレー57A,57B,57Cのいずれか1つが閉(接続)した後に第2検知部99Bで波形が検知されることを確認する。同様に、第2電圧波形発生装置100Bから電圧波形を発生させ、第1絶縁抵抗劣化検知装置90Aの第1検知部99Aで波形の検知の有無を確認してもよい。
【0058】
上述した本発明の一実施の形態によれば、電動モータ25、23等を含む電動システム55、蓄電デバイス24、及び蓄電デバイス24と電動システム55との電気的接続を遮断するためのメインリレー56を備えた建設機械において、簡易な回路構成で絶縁抵抗劣化検知、リレーの故障診断、自己異常診断の全てを行うことが可能となる。
【0059】
なお、本実施の形態においては、第1及び第2絶縁抵抗劣化検知装置90A,90Bを電圧波形、例えば、パルス波形を電気回路に印加して、測定部の信号の振幅レベルや波形等により、対象回路の車体フレームに対する絶縁抵抗値を測定し、さらに検知シーケンスによって、絶縁抵抗劣化部位を特定することができるものとして説明しているが、絶縁抵抗劣化部位を特定する方法は、これに限るものではない。
【0060】
以上において、本発明を油圧ショベルに適用した場合の実施の形態を説明したが、油圧ショベル以外の電動システム、リレー、蓄電デバイスを有する車両や建設機械全般に本発明は適用可能である。
【符号の説明】
【0061】
10 走行体
11 クローラ
12 クローラフレーム
13 右走行用油圧モータ
14 左走行用油圧モータ
20 旋回体
21 旋回フレーム
22 エンジン
23 アシスト発電モータ
24 キャパシタ
25 旋回電動モータ
26 減速機
27 旋回油圧モータ
30 ショベル機構
31 ブーム
33 アーム
35 バケット
40 油圧システム
41 油圧ポンプ
42 コントロールバルブ
51 チョッパ
52 旋回電動モータ用インバータ
53 アシスト発電モータ用インバータ
54 平滑コンデンサ
55 パワーコントロールユニット
56 メインリレー
57A リレー
57B リレー
57C リレー
58 抵抗
59 蓄電ユニット
80 メインコントローラ
90A 第1絶縁抵抗劣化検知装置
90B 第2絶縁抵抗劣化検知装置
99A 第1検知部
99B 第2検知部
100A 第1電圧波形発生装置
100B 第2電圧波形発生装置
102A 第1検知経路
102B 第2検知経路
103 リレー
104 電動コントローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータと、前記電動モータを駆動・制御する電気回路及びコントローラを含む駆動システムと、蓄電デバイスと、前記蓄電デバイスと前記駆動システムとを電気的に接続/遮断するリレーとを有する電動システムを備えた建設機械において、
前記電動システムは、第1の電圧波形発生装置と、前記リレーに対して前記蓄電デバイス側と前記第1の電圧波形発生装置に接続され、前記第1の電圧波形発生装置から入力された波形の変化を測定することにより前記蓄電デバイス側の絶縁抵抗劣化を検知する第1の検知部とを有する第1絶縁抵抗劣化検知装置と、
第2の電圧波形発生装置と、前記リレーに対して前記駆動システム側と前記第2の電圧波形発生装置に接続され、前記第2の電圧波形発生装置から入力された波形の変化を測定することにより前記駆動システム側の絶縁抵抗劣化を検知する第2の検知部とを有する第2絶縁抵抗劣化検知装置とを備えた、
ことを特徴とする建設機械。
【請求項2】
請求項1記載の建設機械において、
前記第1、第2絶縁抵抗劣化検知装置における第1、第2の検知部は、前記リレーの正常性を確認可能とするために、前記第2、第1電圧波形発生装置からの双方の電圧波形を取込み可能に電気的に接続した
ことを特徴とする建設機械。
【請求項3】
請求項1記載の建設機械において、
前記第1絶縁抵抗劣化検知装置は、前記リレーが開放されている時に、前記蓄電デバイス周辺の絶縁抵抗劣化を検知する
ことを特徴とする建設機械。
【請求項4】
請求項1記載の建設機械において、
前記第2絶縁抵抗劣化検知装置は、前記駆動システム内の電気回路の正負両極とインピーダンス素子を介して接続されている
ことを特徴とする建設機械。
【請求項5】
請求項1記載の建設機械において、
前記第1、第2絶縁抵抗劣化検知装置は、前記リレーに対して前記駆動システム側に配設され、
前記第1絶縁抵抗劣化検知装置は、前記駆動システム側からケーブルと他のリレーを介して前記蓄電デバイス側に接続されている
ことを特徴とする建設機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−198132(P2012−198132A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−62990(P2011−62990)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】