説明

弁装置

【課題】 弁部材の選択及び弁装置の設計の自由度が得られる弁装置を提供すること。
【解決手段】 圧力ダンパ15には、インクの流路を形成するインク室34及び小孔44が設けられている。支持部材53は板ばねからなり、その先端部には永久磁石55が設けられており、フィルム材51と接着されている。弁部材57は支持部材53の先端に固定されている。電磁石60は磁性体64に接続され、電磁石60を励磁させると、磁性体64の先端部65と永久磁石55が同極となり互いに反発し合う。その結果、永久磁石55は下方へ押し出され、弁部材57が小孔44に当接してインク流路が閉状態となる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、流路を開閉制御する弁装置に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、流体が移動する流路の開閉制御を行う弁装置として、電磁石を利用したものが知られている。第1の従来例として、特開昭61−290284号公報に開示された電磁弁がある。この電磁弁は、電磁弁と弁との間に真空断熱層を設け、弁の一端に磁石又は磁性体を設けることにより、電磁石のオン・オフでバルブの開閉を行うものである。また、第2の従来例として、特開昭59年−143645号公報に開示されたインクジェット印刷装置がある。この装置によれば、磁性体の弁部材と永久磁石の吸着力でバルブを閉め、電磁石のオンでバルブを開放するものである。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】ところが、第1の従来例は、永久磁石が流路中にあるため、永久磁石の材質に制約がある。また、電磁石と永久磁石との間に複数の層があるため、磁気の効率が低下してしまう。一方、第2の従来例では、装置に天秤形状があるため大型化するおそれがあった。また、弁部材が磁性体であるため、弁部材の選択に制約があった。
【0004】本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、弁部材の選択及び弁装置の設計の自由度が得られる弁装置を提供することにある。また、本発明の別の目的は、装置の構造を簡略化し、小型化することができる弁装置を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明では、インクが移動するインク流路内に配置されて該インク流路を開閉する弁部材の制御を永久磁石と電磁石とにより行う。
【0006】請求項2に記載の発明では、請求項1に記載の弁装置において、前記インク流路を封止するフィルム材と、前記弁部材を支持する支持部材とを設けるとともに、前記永久磁石と前記支持部材とが前記フィルム材を介して密接するように配置されている。
【0007】請求項3に記載の発明では、請求項1又は2に記載の弁装置において、前記永久磁石と前記支持部材とが前記フィルム材に接着されている。請求項4に記載の発明では、請求項1〜3のいずれかに記載の弁装置において、前記電磁石を駆動させたときに、該電磁石と前記永久磁石との吸着力で前記支持部材を移動させることにより、前記弁部材が前記インク流路を閉状態にする。
【0008】請求項5に記載の発明では、請求項1〜3のいずれかに記載の弁装置において、前記電磁石を駆動させたときに、該電磁石と前記永久磁石との反発力で前記支持部材を移動させることにより、前記弁部材が前記インク流路を閉状態にする。
【0009】請求項6に記載の発明では、請求項1〜4のいずれかに記載の弁装置において、前記電磁石を駆動させたときに、該電磁石と前記永久磁石との反発力で前記支持部材を移動させることにより、前記弁部材が前記インク流路を開状態にする。
【0010】請求項7に記載の発明では、請求項1〜5のいずれかに記載の弁装置において、前記支持部材は弾性体により構成されており、前記電磁石の駆動を停止させたときに、前記支持部材が前記流路を開状態にする方向に付勢力が働くように構成した。
【0011】請求項8に記載の発明では、請求項2〜5のいずれかに記載の弁装置において、前記支持部材の一端が流路を形成する流路形成部材側に固定される基端部を備えるとともに、前記基端部から前記永久磁石までの距離は、該基端部から前記弁部材までの距離以下である。
【0012】請求項9に記載の発明では、請求項1に記載の弁装置において、前記インク流路を封止するフィルム材と、前記永久磁石と前記弁部材とが前記フィルム材を介して密接するように配置されている。
【0013】請求項10に記載の発明では、請求項1又は9に記載の弁装置において、前記永久磁石と前記弁部材とが前記フィルム材に接着されている。請求項11に記載の発明では、請求項1、9及び10のいずれかに記載の弁装置において、前記電磁石を駆動させたときに、該電磁石と前記永久磁石との反発力で前記弁部材が前記インク流路を閉状態にする。
【0014】請求項12に記載の発明では、請求項1、9〜11のいずれかに記載の弁装置において、前記電磁石を駆動させたときに、該電磁石と前記永久磁石との吸着力で前記弁部材が前記インク流路を開状態にする。
【0015】請求項13に記載の発明では、請求項1〜12のいずれかに記載の弁装置において、前記弁部材が前記流路を閉状態とすると、該流路を開状態にする方向に付勢力が働く弾性部材を設けた。
【0016】請求項14に記載の発明では、請求項1〜13のいずれかに記載の弁装置において、前記弁部材は、弾性体により構成されている。請求項15に記載の発明では、請求項1〜14のいずれかに記載の弁装置において、前記フィルム材は流路を形成する流路形成部材と熱溶着されている。
【0017】請求項16に記載の発明では、請求項1〜15のいずれかに記載の弁装置において、前記フィルム材は耐ガスバリア性の高い材質によって構成されている。請求項17に記載の発明では、請求項1〜16のいずれかに記載の弁装置において、前記電磁石は流路を形成する流路形成部材外であって対向する面に配置した一対の磁性体を有する。
【0018】請求項18に記載の発明では、請求項1〜17のいずれかに記載の弁装置において、前記弁装置の上流側にフィルタを配置した。請求項19に記載の発明では、請求項1〜18のいずれかに記載の弁装置において、前記弁部材の端部に設けられたリング状の凸部を流路を形成する流路形成部材に当接させることにより、前記流路が閉状態とされる。
【0019】請求項20に記載の発明では、請求項1〜19のいずれかに記載の弁装置において、前記弁装置はインクジェット式記録装置に使用される。請求項21に記載の発明では、請求項20に記載の弁装置において、前記弁装置はインクジェット式記録装置の記録ヘッドのフィルタの上流側に配置される。
【0020】請求項22に記載の発明では、請求項20又は21に記載の弁装置において、前記弁装置は、インクジェット式記録装置のチョーククリーニング又は選択クリーニングに使用される。
【0021】(作用)請求項1に記載の発明によれば、永久磁石と電磁石により弁部材の制御がなされ、インク流路の開閉が行われる。また、永久磁石と電磁石を駆動させることにより、弁装置を小型化としても大きな駆動力を得ることができる。
【0022】請求項2に記載の発明によれば、永久磁石と支持部材とがフィルム材を介して密接するように配置されている。従って、永久磁石と支持部材とが、インク流路を封止するフィルム材と密着して連動可能となる。
【0023】請求項3に記載の発明によれば、永久磁石と支持部材とがフィルム材に接着されている。従って、永久磁石と支持部材とが、インク流路を封止するフィルム材とともに連動可能となる。
【0024】請求項4に記載の発明によれば、電磁石を駆動させたときに、電磁石と永久磁石との吸着力で支持部材を移動させることにより、弁部材がインク流路を閉状態にする。
【0025】請求項5に記載の発明によれば、電磁石を駆動させたときに、電磁石と永久磁石との反発力で支持部材を移動させることにより、弁部材がインク流路を閉状態にする。
【0026】請求項6に記載の発明によれば、電磁石を駆動させたときに、電磁石と永久磁石との反発力で支持部材を移動させることにより、弁部材がインク流路を開状態にする。
【0027】請求項7に記載の発明によれば、支持部材が弾性体であるため、電磁石の駆動を停止させたときに、支持部材が流路を開状態にする方向に付勢力が働く。そして、支持部材が弾性変形して流路の開閉を行うことができる。また、支持部材が弾性体であるため、支持部材が吸引される場合に別途弾性部材等を設ける必要がなくなる。
【0028】請求項8に記載の発明によれば、基端部から永久磁石までの距離は、基端部から弁部材までの距離以下で構成されている。このため、支持部材の動作の支点となる基端部からの距離が短いほど、永久磁石の磁力を効率よく利用することができる。
【0029】請求項9に記載の発明によれば、永久磁石と弁部材とがフィルム材を介して密接するように配置されている。従って、永久磁石と弁部材とが、インク流路を封止するフィルム材と密着して連動可能となる。また、この発明によれば、支持部材を介在させないため、より簡易な構成の弁装置が得られる。
【0030】請求項10に記載の発明によれば、永久磁石と弁部材とがフィルム材に接着されている。従って、永久磁石と弁部材とが、インク流路を封止するフィルム材とともに連動可能となる。また、この発明によれば、支持部材を介在させないため、より簡易な構成の弁装置が得られる。
【0031】請求項11に記載の発明によれば、電磁石を駆動させたときに、電磁石と永久磁石との反発力で弁部材がインク流路を閉状態にする。請求項12に記載の発明によれば、電磁石を駆動させたときに、電磁石と永久磁石との吸着力で弁部材がインク流路を開状態にする。
【0032】請求項13に記載の発明によれば、弾性部材により、流路が閉状態となった際に、流路を開状態にする方向に付勢力が働く。このため、電磁石が非励磁状態となった場合に、弾性部材により流路を開状態にできる。
【0033】請求項14に記載の発明によれば、弁部材は弾性体であるため、弁部材が流路側又は流路形成部材に当接する場合は、より確実に当接して、弁部材による流路のシール性を高めることができる。
【0034】請求項15に記載の発明によれば、フィルム材は流路形成部材と熱溶着されているため、簡易な構成により流路を封止することができる。請求項16に記載の発明によれば、フィルム材は耐ガスバリア性の高い材質によって構成されているため、流路内へのガスの流入をより確実に防止することができる。
【0035】請求項17に記載の発明によれば、電磁石は流路形成部材外に配置した一対の磁性体を有するため、電磁石が両磁性体を介して磁気回路を構成することができる。従って、電磁石の一対の磁性体が対向する面に配置されており、支持部材又は弁部材の吸引を効率よく行うことができる。
【0036】請求項18に記載の発明によれば、弁装置の上流側にフィルタを配置したため、異物の流入を防止でき、弁装置の開閉をより確実に行うことができる。請求項19に記載の発明によれば、弁部材の端部に設けられたリング状の凸部を流路形成部材に当接させることにより、弁部材による流路のシール性を高めることができる。
【0037】請求項20に記載の発明によれば、弁装置はインクジェット式記録装置に使用されるため、インクジェット式記録装置において、請求項1〜20のいずれかに記載の作用効果を得ることができる。
【0038】請求項21に記載の発明によれば、弁装置はインクジェット式記録装置の記録ヘッドのフィルタの上流側に配置される。このため、記録ヘッド内のフィルタ上に溜まった気泡を排出させるためのクリーニングの際に、この弁装置を効果的に利用することができる。
【0039】請求項22に記載の発明によれば、弁装置は、インクジェット式記録装置のチョーククリーニング又は選択クリーニングに使用される。このため、弁部材を閉じた状態で、記録ヘッドのノズル側から吸引を行い、高負圧状態でバルブを開けるチョーククリーニング、又は複数色の色ノズルのうち必要なもののみクリーニングを行う選択クリーニングの際に、この弁装置を効果的に利用することができる。
【0040】
【発明の実施の形態】(第1の実施形態)以下、本発明の弁装置をインクジェット式記録装置の圧力ダンパに具体化した第1の実施形態を図1〜図4に従って説明する。
【0041】図1は、インクジェット式記録装置としてのインクジェットプリンタの概念図である。図1に示すように、インクジェットプリンタ11は、インクカートリッジ12のインクを、インク供給チューブ13及びキャリッジ14に設けられた圧力ダンパ15を介して、記録ヘッド16へ供給するものである。記録ヘッド16は、インク滴を吐出するノズル開口を備えており、記録紙等の印刷媒体にインク滴を吐出することにより画像や文字等の印刷データの記録を行う。インクジェットプリンタ11は、A0判等の大判の記録紙に印刷可能なプリンタであって、インク消費量が多いために多量のインクを貯留しておく必要があるものである。従って、多量のインクを貯留したインクカートリッジをキャリッジ上に搭載させると、キャリッジが重くなり、キャリッジ駆動モータに過大な負荷が係ってしまうことになる。このため、インクジェットプリンタ11では、インクカートリッジ12をキャリッジ14上に搭載させない構成となっている。
【0042】インクカートリッジ12は、インクジェットプリンタ11の本体側に配置されたインクカートリッジホルダ17内に収容されている。インクカートリッジ12の内部には、インクパック18が設けられており、インクパック18内にはインクが充填されている。インクパック18の一端には針装着部19が形成されており、インクカートリッジホルダ17に設けられた針20が針装着部19に装着するように構成されている。針20はインク供給チューブ13の一端と接続されており、圧力ダンパ15に対してインクを供給可能となっている。インク供給チューブ13は、例えばポリエチレン等の可撓性部材により形成されている。また、インク供給チューブ13は、耐薬品性に優れたポリエチレン系樹脂等の可撓性部材による内装に、気密遮断性に優れた塩化ビニルや金属膜等を外装として覆った二重構造であってもよい。
【0043】キャリッジ14は、記録紙の幅方向(主操作方向)と同方向に配置されたガイド部材(図示せず)に沿って、往復動可能に取り付けられている。キャリッジ14は、樹脂製材料によって成型される。キャリッジ14の内部には、弁装置としての圧力ダンパ15が取り付けられている。圧力ダンパ15は、キャリッジ14の往復動に伴うインク圧力の変動を抑制するものである。圧力ダンパ15の詳細については、後述する。キャリッジ14の下面には記録ヘッド16が設けられており、圧力ダンパ15から記録ヘッド16にインクが供給されるようにインク流路が接続されている。記録ヘッド16は、図示しないフィルタ、インク供給管、圧電振動子、流路ユニット及びノズル開口等を備えている。記録ヘッド16は、圧電振動子によって圧力室を膨張・収縮させることにより、ノズル開口からインク滴を吐出させるものである。
【0044】図1において、記録ヘッド16の下方には、キャップ22が設けられている。キャップ22は、有底状に形成されており、その開口部が記録ヘッド16をキャッピングするようになっている。キャップ22は、インクジェットプリンタ11の非印刷領域に配置されており、非記録時に記録ヘッド16のノズル開口を閉じることにより、インクの水分蒸発を防止するとともに、記録ヘッド16のインクを吸引するクリーニング動作を行う。キャップ22の底部は、吸引チューブ23に連通されており、吸引チューブ23の途中に配設された吸引ポンプ24によって、記録ヘッド16からキャップ22側へインクを強制的に吸引するようになっている。吸引ポンプ24により吸引されたインクは、廃液回収ボックス25に回収される。廃液回収ボックス25内には、複数層のスポンジ26が設けられており、回収されたインクを貯蔵する。
【0045】なお、図1では1色のインクについてのみの構成を示しているが、インクジェットプリンタ11は、例えば、シアン、マゼンタ、イエロ、ブラック等の複数のインクに対応した構成となっている。従って、インクカートリッジ12、インク供給チューブ13、圧力ダンパ15及び記録ヘッド16等はインク数毎に設けられている。
【0046】次に、図2〜図4により、圧力ダンパ15について説明する。図2は、圧力ダンパ15の説明図であって、図2(a)は正面図、(b)は背面図であり、図3及び図4は、図2(a)の3−3線における部分破断断面図である。
【0047】圧力ダンパ15は、流路形成部材としての流路形成部31、インク流入路32及び針接続部33等を有している。流路形成部31は、例えばポリプロピレン又はポリエチレン等の樹脂製材料によって成型されている。流路形成部31には、インク室34が形成されている。インク室34は、開口部から半径が収縮するテーパ状に形成されている。
【0048】インク流入路32は、インク供給チューブ13に接続される接続部36を有しており、接続部36は、第1のインク流路37と連通している。第1のインク流路37は、第2のインク流路38及び第3のインク流路39を介して、環状のフィルタ部流路40に連通している。フィルタ部流路40付近にはフィルタ41が配設されており、インクの中のゴミ等の異物の流入を防止するようになっている。フィルタ41は、第4のインク流路42を介してインク室34に連通されている。インク室34にはその略中央にインク室34に連通する小孔44が設けられる。小孔44は、第5のインク流路45及び第6のインク流路46を介して、針接続部33に連通している。針接続部33は、記録ヘッド16に設けられたインク供給針(図示せず)と嵌合可能に形成されている。従って、圧力ダンパ15内には、第1のインク流路37、第2のインク流路38、第3のインク流路39、フィルタ部流路40、インク室34、小孔44、第5のインク流路45及び第6のインク流路46により、一連のインク流路が形成される。そして、インクはインク供給チューブ13から第1のインク流路37よりこのインク流路に入り、第6のインク流路46から記録ヘッド16へと供給される。なお、本実施の形態では、一連のインク流路のうち、第1のインク流路37、第2のインク流路38、第3のインク流路39、フィルタ部流路40及び第4のインク流路42によって構成される部分を弁装置である圧力ダンパ15の上流側とする。
【0049】圧力ダンパ15の底面と上面には、フィルム材50,51がそれぞれ設けられている。フィルム材50,51は、ともに複数の材質からなる層によって形成されており、例えばポリエチレン層、ガスバリア層及びナイロン層から形成されている。従って、フィルム材50,51は、耐ガスバリア性の高い材質が使用されている。なお、フィルム材50,51は、その厚さが例えば0.1mm程度に形成されており、磁気抵抗を極力小さくしている。また、フィルム材50,51は、流路形成部31に対して熱溶着されており、流路形成部31に設けられたインク室34及び小孔44による開口部をそれぞれ封止している。特にフィルム材51は、インク室34を収縮させる方向と膨張させる方向とに変形可能であり、フィルム材51の弾性変形によるコンプライアンスによって、インク室34内におけるインクの圧力変動が吸収される。
【0050】インク流路を構成するインク室34内には、支持部材53及び弁部材57が設けられている。支持部材53は、弾性体である板ばねであり、非磁性体である。支持部材53とフィルム材51とは接着されている。支持部材53は、基端部54が流路形成部31の上面において、流路形成部31とフィルム材51により挟持固定されている。また、基端部54は、支持部材53の移動の支点となっている。支持部材53の先端部には、弁部材57が固定されている。弁部材57は、支持部材53が移動した場合に、図4に示すように小孔44を閉じる位置に配置されている。また、弁部材57の上方には、支持部材53、及びフィルム材51を介して永久磁石55が設けられている。本実施の形態では、基端部54から永久磁石55までの距離と、基端部54から弁部材57までの距離は同じである。弁部材57の先端にはリング状の凸部58が設けられており、この凸部58が小孔44の周辺に当接することにより、流路である小孔44を閉状態にする。弁部材57は弾性体により構成されている。弾性体としては、フッ素ゴム、シリコンゴム、ブチルゴム、エラストマー、CRゴム、NBRゴム又はウレタンゴム等が使用可能である。
【0051】流路形成部31の外周、即ちインク流路外には、電磁石としての電磁石60が配置されている。電磁石60は、鉄芯61、枠体62、励磁コイル63及び磁性体64を備えている。枠体62は、略円筒状に切削されており、中央に鉄芯61が配置される。枠体62の材料は、例えばポリブチレンテレフタレート等の樹脂材料が使用される。また、枠体62には、励磁コイル63が巻回されている。励磁コイル63は、銅線材料が使用されており、励磁コイル63の外周には、ポリエチレン及びウレタンの絶縁被覆層を有している。また、励磁コイル63は、リード線を介して弁装置駆動回路に電気的に接続されている(ともに図示せず)。磁性体64は鉄芯61と固着されており、磁力が伝達するようになっている。磁性体64は、先端部65が薄くなっており、永久磁石55の上部を覆うようになっている。また、磁性体64及び流路形成部31により、フィルム材51及び支持部材53の基端部周辺は挟持されている。
【0052】次に、以上のように構成された圧力ダンパ15の動作について説明する。図3に示すように、電磁石60が励磁されていない状態では、弁部材57は小孔44とは離れた位置にあり、インク流路を開状態にしている。そして、電磁石60が励磁されると、磁性体64も励磁される。ここで、電磁石60と永久磁石55とは、同極となり互いに反発し合うように構成されている。この結果、図4に示すように、フィルム材51及び支持部材53は弾性変形して下方に引き下げられ、弁部材57の凸部58が小孔44周辺に当接して、インク流路が閉状態となる。そして、電磁石60が再度励磁されなくなると、図3の状態に戻り、インク流路が開状態となる。
【0053】なお、以上のような圧力ダンパ15の動作は、記録ヘッド16のインクを吸引するクリーニング動作に適している。通常のインクジェットプリンタ11では、記録ヘッド16のメンテナンスとしては、吸引によるクリーニングが行われる。このクリーニングでは、記録ヘッド16内のインクに溜まった気泡を吸引するため、吸引ポンプ24によりインクの吸引を行う。しかし、この通常のクリーニングでは、十分に排出できない気泡がある。特に記録ヘッド16のフィルタ(図示せず)上には気泡の残りが大きく、ノズル抜けや印字品質の劣化の原因となることがあった。このような気泡を排出する方法として、いわゆるチョーククリーニングが効果的である。このチョーククリーニングでは、インク流路の上流側の弁を閉じた状態(チョーク状態)とし、ノズル側から吸引ポンプ24により吸引する。そして、記録ヘッド16内を負圧にして気泡を膨張させ、記録ヘッド16のフィルタより下流に気泡を引き込む。この状態で、弁を開いて気泡を排出させるものである。本実施の形態の圧力ダンパ15によれば、弁部材57によりインク流路を開閉することにより、このチョーククリーニングの実施が可能である。
【0054】また、本実施の形態の圧力ダンパ15の動作は、複数の記録ヘッド16のうち一色のインクについてのみクリーニングを行う、いわゆる選択クリーニングに適している。近年のインクジェットプリンタは、高速化の要請に伴うヘッドの多ノズル化(又はハイバンド化ともいう)、及びカラー高画質化の要請に伴う多色化により、消費インク量が増加する傾向にある。このため、吸引によるクリーニングで発生する廃液を減少させて、消費インク量を極力減少させる要請がある。これを達成する方法として、クリーニングの必要な色のノズル開口のみを吸引する選択クリーニングを実施することが望ましい。本実施の形態によれば、クリーニングを行う色のインクだけインク流路を開状態とし、他の色のインクについてはインク流路を閉状態とすることにより、この選択クリーニングの実施が可能である。
【0055】上記第1の実施形態の圧力ダンパ15によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)第1の実施形態では、電磁石60、磁性体64及び永久磁石55により磁気回路が構成される。そして、電磁石60を励磁させることによって永久磁石55が反発し、弁部材57により流路が開状態から閉状態となる。従って、永久磁石55と電磁石60を駆動させることにより、大きな駆動力を得ることができる。
【0056】(2)第1の実施形態では、弁部材57の直近に電磁石60を設ける必要がなくなるので、インク流路の外周に直接励磁コイルを巻回して電磁石を設ける必要がなくなる。また、電磁石60を流路外に配置したため、流路を介して電磁石を設ける必要がなくなる。このため、構造が簡略化、小型化した圧力ダンパ15が得られる。
【0057】(3)第1の実施形態では、永久磁石55と支持部材53とがフィルム材51に接着されている。従って、永久磁石55と支持部材53とが、フィルム材51とともに連動可能となっている。従って、永久磁石55が磁性体64からの磁力により移動する場合にも、支持部材53及びフィルム材51が連動することとなる。
【0058】(4)第1の実施形態では、支持部材53が弾性体である板ばねであるため、電磁石60の駆動を停止させたときに、支持部材53が流路を開状態にする方向に付勢力が働く。そして、支持部材53が弾性変形して流路の開閉を行うことができる。また、支持部材53が弾性体であるため、支持部材53が吸引される場合に別途弾性部材等を設ける必要がなくなる。
【0059】(5)第1の実施形態では、弁部材57は弾性体であるため、弁部材57が小孔44に当接する場合は、より確実に当接して、弁部材57による流路のシール性を高めることができる。
【0060】(6)第1の実施形態では、フィルム材50,51は流路形成部材と熱溶着されているため、簡易な構成により流路を封止することができる。また、フィルム材50,51は耐ガスバリア性の高い材質によって構成されているため、流路内へのガスの流入をより確実に防止することができる。
【0061】(7)第1の実施形態では、フィルタ41を配置したため、異物の流入を防止でき、弁部材57の開閉をより確実に行うことができる。
(8)第1の実施形態では、弁部材57に設けられたリング状の凸部58を流路形成部材に当接させることにより、弁部材による流路のシール性を高めることができる。
【0062】(9)第1の実施形態では、圧力ダンパ15はインクジェットプリンタ11の記録ヘッド16のフィルタの上流側に配置される。このため、記録ヘッドのフィルタ上に溜まった気泡を排出させるためのクリーニングの際に、この弁装置を効果的に利用することができる。
【0063】(10)第1の実施形態では、弁装置は、インクジェットプリンタ11のチョーククリーニング又は選択クリーニングに使用される。このため、弁部材を閉じた状態で、記録ヘッドのノズル側から吸引を行い、高負圧状態でバルブを開けるチョーククリーニング、又は複数色の色ノズルのうち必要なもののみクリーニングを行う選択クリーニングの際に、この弁装置を効果的に利用することができる。
【0064】なお、第1の実施形態は以下のように変更してもよい。
○第1の実施形態を図5のように変更してもよい。即ち、電磁石60は磁性体64と相対向する位置に第2の磁性体68を設けてもよい。このように構成すれば、電磁石60が両磁性体64,68及び永久磁石55を介して磁気回路を構成することができ、より安定した磁気回路を提供することができる。
【0065】○第1の実施形態において、支持部材53を省略してもよい。即ち、永久磁石55及び弁部材57を直接フィルム材51に接着させることとしてもよい。この場合、支持部材53を設ける必要がなくなる。一方、このように構成すると、フィルム材51の強度が十分でない可能性もあるが、これはフィルム材51に耐久性のある材質を使用することで対応可能である。
【0066】○第1の実施形態において、基端部54から永久磁石55までの距離を、基端部54から弁部材57までの距離より短く構成してもよい。このように構成した場合、従って、基端部54から永久磁石55の距離が短いほどより少ない力で永久磁石55を移動させることが可能となる。
【0067】(第2の実施形態)次に、本発明を具体化した第2の実施形態の圧力ダンパを図6〜8に従って説明する。なお、第2の実施形態において、第1の実施形態と同様の構成についてはその詳細な説明を省略する。
【0068】図6は、圧力ダンパ71の説明図であって、図6(a)は正面図、(b)は背面図であり、図7及び図8は、図6(a)の7−7線における部分破断断面図である。
【0069】圧力ダンパ71は基本的な形状は圧力ダンパ15と同じであるが、以下の点で異なる。例えば、インク室73はテーパ状に形成されていない点、インク室73に連通する第7のインク流路76及び第8のインク流路82を経て、針接続部33から記録ヘッド16と連通している点等である。また、支持部材77の形状も異なっており、磁性体64の先端部65のあたりで直角に折れ曲がり、さらに圧力ダンパ71の底部周辺で直角に折れ曲がって台座部78が形成されている。弁部材79及び凸部80も上方を向いており、第8のインク流路82を閉状態にするものである。永久磁石75は、永久磁石55と同じ位置にあるが、永久磁石55と比較して薄く構成されている。
【0070】次に、以上のように構成された圧力ダンパ71の動作について説明する。図7に示すように、電磁石60が励磁されていない状態では、弁部材79は第8のインク流路82とは離れた位置にあり、インク流路を開状態にしている。そして、電磁石60が励磁されると、磁性体64も励磁される。ここで、電磁石60と永久磁石75とは、対極となり互いに吸引し合うように構成されている。この結果、図8に示すように、フィルム材51及び支持部材53は弾性変形して上方に引き上げられ、弁部材79の凸部80が第8のインク流路82周辺に当接して、インク流路が閉状態となる。そして、電磁石60が再度励磁されなくなると、図7の状態に戻り、インク流路が開状態となる。
【0071】従って、第2の実施形態によれば、上記第1の実施形態の(1)〜(10)に記載の効果と同様の効果の他、以下の効果を得ることができる。(11)第2の実施形態では、弁の開閉をすべき箇所である第8のインク流路82が、圧力ダンパ71の略中央付近で、かつ下側の狭いスペースであるため、このような構成の圧力ダンパ71であれば、より確実に弁の開閉を行うことができる。
【0072】なお、上記各実施形態は以下のように変更してもよい。
○上記各実施形態では、一つの磁性体64について、永久磁石55,75は1つずつ設けられていたが、一つの磁性体64が複数の弁の開閉を行うようにしてもよい。
【0073】○上記各実施形態では、弁装置をインクジェットプリンタに応用したが、これに限られず、他の弁装置に応用してもよい。また、流体もインクに限られず、他の流体に応用してもよい。
【0074】
【発明の効果】本発明によれば、弁部材の選択及び弁装置の設計の自由度がある弁装置が実現できる。また、本発明によれば、装置の構造を簡略化し、小型化することができる弁装置ができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施形態のインクジェットプリンタの概念図。
【図2】第1の実施形態の圧力ダンパの説明図であって、図2(a)は正面図、(b)は背面図。
【図3】図2(a)の3−3線における圧力ダンパの部分破断断面図。
【図4】同じく図2(a)の3−3線における圧力ダンパの部分破断断面図。
【図5】本発明の他の実施の形態の圧力ダンパの部分破断断面図。
【図6】第2の実施形態の圧力ダンパの説明図であって、図6(a)は正面図、(b)は背面図。
【図7】図6(a)の7−7線における圧力ダンパの部分破断断面図。
【図8】同じく図6(a)の7−7線における圧力ダンパの部分破断断面図。
【符号の説明】
11 インクジェット式記録装置としてのインクジェットプリンタ
15,71 弁装置としての圧力ダンパ
16 記録ヘッド
31 流路形成部材としての流路形成部
41 フィルタ
50,51 フィルム材
53,77 支持部材
54 基端部
55,75 永久磁石
57,79 弁部材
60 電磁石
64,68 磁性体
74 弾性部材としてのコイルばね

【特許請求の範囲】
【請求項1】 インクが移動するインク流路内に配置されて該インク流路を開閉する弁部材の制御を、永久磁石と電磁石とにより行うことを特徴とする弁装置。
【請求項2】 請求項1に記載の弁装置において、前記インク流路を封止するフィルム材と、前記弁部材を支持する支持部材とを設けるとともに、前記永久磁石と前記支持部材とが前記フィルム材を介して密接するように配置されていることを特徴とする弁装置。
【請求項3】 請求項1又は2に記載の弁装置において、前記永久磁石と前記支持部材とが前記フィルム材に接着されていることを特徴とする弁装置。
【請求項4】 請求項1〜3のいずれかに記載の弁装置において、前記電磁石を駆動させたときに、該電磁石と前記永久磁石との吸着力で前記支持部材を移動させることにより、前記弁部材が前記インク流路を閉状態にすることを特徴とする弁装置。
【請求項5】 請求項1〜3のいずれかに記載の弁装置において、前記電磁石を駆動させたときに、該電磁石と前記永久磁石との反発力で前記支持部材を移動させることにより、前記弁部材が前記インク流路を閉状態にすることを特徴とする弁装置。
【請求項6】 請求項1〜4のいずれかに記載の弁装置において、前記電磁石を駆動させたときに、該電磁石と前記永久磁石との反発力で前記支持部材を移動させることにより、前記弁部材が前記インク流路を開状態にすることを特徴とする弁装置。
【請求項7】 請求項1〜5のいずれかに記載の弁装置において、前記支持部材は弾性体により構成されており、前記電磁石の駆動を停止させたときに、前記支持部材が前記流路を開状態にする方向に付勢力が働くように構成したことを特徴とする弁装置。
【請求項8】 請求項2〜5のいずれかに記載の弁装置において、前記支持部材の一端が流路を形成する流路形成部材側に固定される基端部を備えるとともに、前記基端部から前記永久磁石までの距離は、該基端部から前記弁部材までの距離以下であることを特徴とする弁装置。
【請求項9】 請求項1に記載の弁装置において、前記インク流路を封止するフィルム材と、前記永久磁石と前記弁部材とが前記フィルム材を介して密接するように配置されていることを特徴とする弁装置。
【請求項10】 請求項1又は9に記載の弁装置において、前記永久磁石と前記弁部材とが前記フィルム材に接着されていることを特徴とする弁装置。
【請求項11】請求項1、9及び10のいずれかに記載の弁装置において、前記電磁石を駆動させたときに、該電磁石と前記永久磁石との反発力で前記弁部材が前記インク流路を閉状態にすることを特徴とする弁装置。
【請求項12】請求項1、9〜11のいずれかに記載の弁装置において、前記電磁石を駆動させたときに、該電磁石と前記永久磁石との吸着力で前記弁部材が前記インク流路を開状態にすることを特徴とする弁装置。
【請求項13】 請求項1〜12のいずれかに記載の弁装置において、前記弁部材が前記流路を閉状態とすると、該流路を開状態にする方向に付勢力が働く弾性部材を設けたことを特徴とする弁装置。
【請求項14】 請求項1〜13のいずれかに記載の弁装置において、前記弁部材は、弾性体により構成されていることを特徴とする弁装置。
【請求項15】 請求項1〜14のいずれかに記載の弁装置において、前記フィルム材は流路を形成する流路形成部材と熱溶着されていることを特徴とする弁装置。
【請求項16】請求項1〜15のいずれかに記載の弁装置において、前記フィルム材は耐ガスバリア性の高い材質によって構成されていることを特徴とする弁装置。
【請求項17】 請求項1〜16のいずれかに記載の弁装置において、前記電磁石は流路を形成する流路形成部材外であって対向する面に配置した一対の磁性体を有することを特徴とする弁装置。
【請求項18】 請求項1〜17のいずれかに記載の弁装置において、前記弁装置の上流側にフィルタを配置したことを特徴とする弁装置。
【請求項19】 請求項1〜18のいずれかに記載の弁装置において、前記弁部材の端部に設けられたリング状の凸部を流路を形成する流路形成部材に当接させることにより、前記流路が閉状態とされることを特徴とする弁装置。
【請求項20】 請求項1〜19のいずれかに記載の弁装置において、前記弁装置はインクジェット式記録装置に使用されることを特徴とする弁装置。
【請求項21】 請求項20に記載の弁装置において、前記弁装置はインクジェット式記録装置の記録ヘッドのフィルタの上流側に配置されることを特徴とする弁装置。
【請求項22】 請求項20又は21に記載の弁装置において、前記弁装置は、インクジェット式記録装置のチョーククリーニング又は選択クリーニングに使用されることを特徴とする弁装置。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図2】
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【図6】
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【図8】
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【公開番号】特開2003−307282(P2003−307282A)
【公開日】平成15年10月31日(2003.10.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2002−110698(P2002−110698)
【出願日】平成14年4月12日(2002.4.12)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】