説明

強化板ガラス及びその製造方法

【課題】機械的強度が高く、かつ、実質的にアルカリ成分を含有しない表面層を有する強化板ガラスを提供する。
【解決手段】強化板ガラスは、内部層1と、内部層1を厚さ方向に挟んで両表面側に設けられた表面層2との3層で構成されている。表面層2は、ガラス組成として実質的にアルカリ金属酸化物を含有しないガラスからなり、内部層1は、ガラス組成として実質的にアルカリ金属酸化物を含有しないガラス又は実質的にアルカリ金属酸化物を含有するガラスからなる。表面層2の厚さは10〜500μmであり、内部層2の厚さは20〜2000μmである。内部層1の熱膨張係数は表面層2の熱膨張係数よりも大きく、強化板ガラスは、このような熱膨張係数差を有する表面層1と内部層2とが相互に融着一体化して構成されていることにより、表面層2に50MPa〜500MPaの圧縮応力Pcが形成され、内部層2に30〜200MPaの引張応力が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯電話やPDAに代表される各種携帯情報端末や液晶ディスプレイに代表される電子機器の画像表示部又は画像入力部に搭載される基板材やカバーガラス部材などに用いられる強化板ガラスとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、デジタルカメラやPDA等の携帯機器、あるいは液晶テレビ等の画像表示装置等、各種の情報関連端末に関する技術革新は留まることない拡がりを見せている。このような情報関連端末には、画像や文字等の情報を表示するため、あるいは情報をタッチパネルディスプレイなどで入力するための透明基板が搭載されており、この基板は環境負荷低減、そして高い信頼性を確保するため、その素材としてガラスが採用されている。一方、この種の用途に用いられるガラス基板は、高い機械的強度が求められると共に、薄型で軽量であることが求められ、このような要求を満たすため、表面をイオン交換等で化学強化した板ガラス(いわゆる強化板ガラス)が用いられている(特許文献1、非特許文献1参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−83045号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】泉谷徹朗等、「新しいガラスとその物性」、初版、株式会社経営システム研究所、1984年8月20日、p451−498
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
液晶ディスプレイやELディスプレイ等のフラットパネルディスプレイ、特にアクティブマトリックス型液晶ディスプレイ(AMLCD)やアクティブマトリックス型有機ELディスプレイ(AMOLED)に用いられるガラス基板は、ガラス中にアルカリ金属酸化物が含有されていると、ガラス基板上に成膜された半導体物質中にアルカリイオンが拡散して膜の特性劣化を招くため、実質的にアルカリ金属酸化物を含有しない無アルカリガラスで形成されている。一方、板ガラスの強化処理として用いられているイオン交換等の化学強化処理は、ガラス中にNa2O、Li2Oなどのアルカリ金属酸化物が含有されていることが必須であり、無アルカリガラスに対しては強化処理できない。また、自動車用窓ガラスのように比較的板厚の大きい板ガラスでは急冷による物理強化も可能であるが、上記の各種情報関連端末のディスプレイに用いられるガラス基板のように肉厚の小さい薄板ガラスではこのような物理強化を行うことは困難である。
【0006】
上記の各種情報関連端末のディスプレイ用基板やカバーガラスに用いられる板ガラスは、機器の耐久性、薄型化及び軽量化の点から、高強度化及び薄肉化の要求がますます高まっているが、イオン交換等の化学強化処理は板ガラスの材質(無アルカリガラス)の面から制約があり、また、急冷による物理強化処理は板ガラスの肉厚の面から制約があり、無アルカリガラスからなる薄板ガラスの強化処理には適さないという事情があった。
【0007】
上記事状に鑑み、本発明は、機械的強度が高く、かつ、実質的にアルカリ成分を含有しない表面層を有する強化板ガラス及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は、厚さが20〜2000μmの内部層と、内部層の両表面側に設けられた厚さが10〜500μmの表面層とで構成され、表面層の厚さは内部層よりも小さく、表面層の熱膨張係数は内部層よりも小さく、少なくとも表面層は実質的にアルカリ金属酸化物を含有せず、表面層と内部層とが相互に融着することにより、表面層に50MPa〜500MPaの圧縮応力が形成され、内部層に30〜200MPaの引張応力が形成されている強化板ガラスを提供する。ここで、本明細書において、実質的にアルカリ金属酸化物を含有しないとは、アルカリ金属酸化物の含有量が質量%で0.2%以下、好ましくは0.1%以下、さらに好ましくは0.05%以下であることを意味する。
【0009】
熱膨張係数が相対的に小さい表面層と熱膨張係数が相対的に大きい内部層とが相互に融着した構成であることにより、融着時の温度から常温までの温度低下に伴う熱収縮量の差により、表面層には圧縮応力が発生し、内部層には引張り応力が発生する。少なくとも表面層は実質的にアルカリ金属酸化物を含有せず、イオン交換等の化学強化処理ができないガラス組成を有しているが、本発明によれば、イオン交換等の化学強化処理や急冷等の物理強化処理ができない比較的薄肉の板ガラスの表面層に圧縮応力を発生させて機械的強度を高めることができる。また、表面層の圧縮応力値は、内部層と表面層の熱膨張係数差と肉厚差により、各種情報関連端末のディスプレイやカバーガラス等に用いられる強化板ガラスとして十分な機械的強度が得られる50MPa〜500MPaに調整することができる。さらに、内部層を厚さ方向に挟んで両表面側にそれぞれ表面層を設けることにより、比較的薄肉である強化板ガラスのそりや変形等を防止することができ、また、表面層の厚さを内部層よりも小さくすることにより、表面層に生じる圧縮応力とのバランスによって内部層に生じる引張り応力を30〜200MPaに調整して、内部層の引張り応力が過大になることに起因する強化板ガラスの破損等を防止することができる。尚、内部層はアルカリ金属酸化物を実質的に含有しないガラス組成であっても良く、あるいは、表面層の表面へのアルカリ成分の溶出や拡散が低ければ、アルカリ金属酸化物を含有するガラス組成であっても良い。
【0010】
表面層の厚さは、10〜500μm、好ましくは20〜300μm、より好ましくは30〜100μmであり、内部層の厚さは、20〜2000μm、好ましくは100〜2000μm、より好ましくは100〜1000μmである。
【0011】
上記構成において、表面層の圧縮応力を50MPa〜500MPaに調整するために、内部層と表面層の30〜380℃における熱膨張係数差は5×10-7/℃〜50×10-7/℃であることが好ましく、より好ましくは10×10-7/℃〜45×10-7/℃、さらに好ましくは15×10-7/℃〜40×10-7/℃である。さらに、強化板ガラスの薄型化や表面傷に対する強度確保も考慮して、内部層と表面層の30〜380℃における熱膨張係数差が5×10-7/℃〜20×10-7/℃であり、表面層と内部層の厚さの比率(表面層/内部層)が1/4以下であり、全体の厚さが0.5mm以下であることがより好ましい。
【0012】
上記構成において、強化板ガラスの密度は軽量化の点から3.0g/cm3以下であることが好ましく、より好ましくは2.9g/cm3以下、さらに好ましくは2.8g/cm3以下、特に2.6g/cm3以下である。ヤング率はたわみを抑制する理由から65GPa以上であることが好ましく、より好ましくは70GPa以上、さらに好ましくは75GPa以上、特に78GPa以上である。また、比ヤング率は、27GPa(g/cm3)以上であることが好ましく、より好ましくは28GPa(g/cm3)以上、さらに好ましくは28GPa(g/cm3)以上、一層好ましくは29GPa(g/cm3)以上、特に20GPa(g/cm3)以上である。
【0013】
上記構成において、表面層は、ガラス組成として、質量%でSiO2 45〜75%、Al23 5〜25%、B23 0〜20%、アルカリ土類金属酸化物 1〜25%を含有し、実質的にアルカリ金属酸化物を含有しないことが好ましく、アルカリ土類金属酸化物については含有量が1〜15%であることがより好ましい。アルカリ土類金属酸化物としては、MgO、CaO、SrO、BaOを挙げることができる。
【0014】
また、内部層は、ガラス組成として、質量%でSiO2 45〜75%、Al23 1〜30%、B23 0〜20%、Na2O 0〜20%、K2O 0〜20%、アルカリ土類金属酸化物 0〜40%を含有することが好ましい。
【0015】
表面層のガラス組成を上記のように規定した理由を以下に述べる。尚、本明細書において、含有量の%表示は、特に断りがない限り、質量%を表す。
【0016】
SiO2は、ガラスのネットワークを形成する成分であり、その含有量は45〜75%である。SiO2が45%より少ないと、耐薬品性、特に耐酸性が低下すると共に、低密度化が図りにくくなる。また、SiO2が75%より多いと、高温粘度が大きくなり、溶融性が低下すると共に、ガラス中にクリストバライトの失透異物が生じやすくなる。SiO2の好ましい含有量は、50〜65%である。
【0017】
Al23の含有量は5〜25%である。Al23が5%より少ないと、失透温度が上昇し、ガラス中にクリストバライトの失透異物が生じやすくなると共に、歪点が低下する。また、Al23が25%より多いと、ガラスの耐バッファードフッ酸性が低下し、ガラス表面に白濁が生じやすくなると共に、ガラスの耐失透性が低下する。Al23の好ましい含有量は、10〜20%である。
【0018】
23は、融剤として働き、粘性を下げ、溶融性を改善する成分である。B23が20%より多いと、ガラスの歪点が低下すると共に、耐酸性が低下する。また、ガラスのヤング率が低下して、たわみ量が大きくなる可能性がある。B23の好ましい含有量は、0〜15%である。
【0019】
アルカリ土類金属酸化物であるMgOは、融点を下げずに高温粘性を下げ、ガラスの溶融性を改善する成分である。また、MgOは、アルカリ土類金属酸化物の中では、最も密度を下げる効果があるが、多量に含有すると、失透温度が上昇し、ガラス中に結晶異物が析出しやすくなる。さらに、MgOは、バッファードフッ酸と反応性生物を生成し、ガラス基板の表面に形成される素子に固着したり、ガラス基板に付着して白濁させたりする可能性があるため、その含有量には制限がある。従って、MgOの含有量は5%以下にすることが好ましい。
【0020】
アルカリ土類金属酸化物であるCaOは、MgOと同様に歪点を下げずに高温粘性を下げ、ガラスの溶融性を著しく改善する効果を有する。CaOが20%より多いと、ガラスの耐バッファードフッ酸性が低下し、ガラス基板が侵食されやすくなると共に、反応生成物がガラス基板表面に付着して白濁させる。さらに、ガラスの熱膨張係数が上昇し、所望の強化特性を得にくくなる。CaOの好ましい含有量は、1〜15%である。
【0021】
アルカリ土類金属酸化物であるBaOは、ガラスの耐薬品性、耐失透性を向上させる成分であるが、多量に含有すると、ガラスの密度が上昇すると共に、熱膨張係数が上昇する。また、BaOは、アルカリ土類金属酸化物の中では溶融性を悪化させる成分であるので、BaOの含有量は10%以下に規制することが好ましい。
【0022】
アルカリ土類金属酸化物であるSrOは、ガラスの耐薬品性、耐失透性を改善する成分であるが、多量に含有すると、ガラスの密度が上昇すると共に、熱膨張係数が上昇する。また、SrOは、BaOと同様にアルカリ土類金属酸化物の中では溶融性を悪化させる成分であるので、SrOの含有量は10%以下に規制することが好ましい。
【0023】
上記のアルカリ土類金属酸化物は、ガラスの失透温度を下げるため、ガラスの溶融性と成形性を改善することができ、表面層のガラス組成に必須の成分であるが、多量に含有させると、ガラスの密度が上昇すると共に、熱膨張係数が上昇する。表面層の所望の強化特性を得るためには、熱膨張係数を比較的低く抑える必要があり、この点からアルカリ土類金属酸化物の含有量は1〜25%、好ましくは1〜15%である。
【0024】
上記成分以外にも、本発明の趣旨に反しない範囲内で、F2、SO3等の清澄剤や、Y23、La23、Nb23、TiO2等を添加しても良い。
【0025】
つぎに、内部層のガラス組成を上記のように規定した理由を以下に述べる。
【0026】
SiO2は、ガラスのネットワークを形成する成分であり、その含有量は45〜75%、好ましくは50〜75%、より好ましくは52〜65%である。SiO2が45%より少ないと、熱膨張係数が大きくなり過ぎて、耐衝撃性が低下しやすくなったり、ガラス化しにくくなったり、耐失透性が低下しやすくなる。一方、SiO2が75%より多いと、ガラスの溶融、成形が難しくなる他、熱膨張係数が小さくなり過ぎて、表面層と複合した場合に強度が出にくくなる。
【0027】
Al23は、ガラスの歪点を上昇させ、耐熱性を高めると共に、ヤング率を高める成分であり、その含有量は1〜30%である。Al23が1%より少ないと、ガラスが不安定になると共に、歪点が低下する。一方、Al23が30%より多いと、ガラスに失透結晶が析出しやすくなり、熱膨張係数が小さくなりすぎる傾向がある。また、高温粘性が高くなり、溶融性が低下する可能性もある。Al23の含有量の下限値は、好ましくは1.5%、より好ましくは3%、さらに好ましくは5%、一層好ましくは10%である。また、Al23の含有量の上限値は、好ましくは25%、より好ましくは20%、さらに好ましくは17%、一層好ましくは16%である。
【0028】
23は、融剤として働き、粘性を下げ、溶融性を改善する成分であり、その含有量は0〜20%である。B23が20%より多いと、ガラスの歪点が低下し、耐熱性が損なわれる可能性がある。また、ガラスのヤング率が低下して、たわみ量が大きくなる可能性がある。B23の好ましい含有量は、0〜15%である。
【0029】
Na2O、K2Oは、高温粘性を低下して、溶融性、成形性を向上させ、また耐失透性を改善する成分であり、Na2Oの含有量は0〜20%、好ましくは0〜15%であり、K2Oの含有量は0〜20%、好ましくは0〜10%、より好ましくは0〜7%である。Na2O、K2Oの含有量が上記範囲より多くなると、熱膨張係数が大きくなり、表面層との熱膨張差が過大になることにより、内部層の引張応力が大きくなりすぎるため、自己破壊が起こりやすくなる。また、ガラス組成の成分バランスが損なわれて、耐失透性が低下する傾向がある。
【0030】
アルカリ土類金属酸化物(MgO、CgO、BaO、SrO)は、内部層に求められる熱膨張係数値を実現し、表面層との熱膨張係数差により表面層に圧縮応力を発生させて、必要な強度特性を得るために必要な成分である。上記の4成分を適切に配合して含有させることにより、ガラスの失透温度を下げて、ガラスの溶融性と成形性を改善することができる。一方、多量に含有させると、ガラスの密度が上昇し、強化板ガラスの重量が増大する。アルカリ土類金属酸化物の適切な含有量は0〜40%、好ましくは5〜35%である。
【0031】
内部層のガラス組成には、上記成分に加え、Li2O、TiO2、ZnO、P25、ZrO2等の成分を合量で10%まで添加可能である。
【0032】
TiO2は、ガラスの機械的強度を向上させる成分であるが、その含有量が多過ぎると、ガラスが失透しやすくなったり、着色しやすくなったりする。従って、TiO2の含有量は0〜10%、好ましくは0〜5%、より好ましくは0〜1%にするのが良い。
【0033】
ZnOは、高温粘度を低下させ、ヤング率を向上させる効果があるが、その含有量が多過ぎると、密度が大きくなり過ぎ、また耐失透性が低下する傾向がある。従って、ZnOの含有量は0〜10%、好ましくは0〜2%、より好ましくは0〜0.5%にするのが良い。
【0034】
25は、耐失透性を高める成分であるが、その含有量が多くなると、ガラスが分相したり、耐水性が低下したりする。従って、P25の含有量は0〜8%、好ましくは0〜5%、より好ましくは0〜4%、さらに好ましくは0〜3%、特に0〜2%にするのが良い。
【0035】
ZrO2は、歪点やヤング率を向上させると共に、イオン交換性能を向上させ、また高温粘性を低下させる成分である。さらに、ZrO2は、液相温度付近の粘性を高める効果があり、ガラス組成中に適量含有させることで液相粘度を高めることができる。一方、ZrO2の含有量が多くなると、耐失透性が極端に低下する場合がある。従って、ZrO2の含有量は0〜10%、好ましくは0〜9%、より好ましくは0〜8%、さらに好ましくは0〜7%、特に0〜6%にするのが良い。
【0036】
さらに、内部層には、清澄剤としてSO3、Cl、CeO2及びSnO2から選択された1種又は2種以上を0〜3%含有させることが好ましい。As23、Sb23も非常に高い清澄効果を持つが、環境に対して悪影響を与えるか可能性があるため、実質的に含有させないことが好ましい。
【0037】
Nb25、La23等の希土類酸化物は、ヤング率を高める成分であり、上記成分に加えて含有させても良いが、原料コストが高く、また多量に含有させると、耐失透性が低下する。従って、これらの成分を含有させる場合は、含有量を10%以下、好ましくは5%以下、より好ましくは3%以下にするのが良い。
【0038】
Co、Ni、Cu等の着色作用を有する遷移金属元素は、強化板ガラスの透過率を低下させるため、特にディスプレイ用途では好ましくない。光学フィルタ等の用途や、ディスプレイにおいても暗色のコントラストが重視される場合には、遷移金属元素の添加は良い効果をもたらすので、0.5%以下、好ましくは0.1%以下、より好ましくが0.05%以下の含有量で含有させても良い。
【0039】
例えば、低温p−Si(LTPS)で駆動するAMLCDやAMOLEDに用いられる強化板ガラス基板では、高温で処理されることによるアルカリ成分の拡散の可能性が高いため、内部層のガラス組成は、質量%でSiO2 45〜75%、Al23 5〜25%、B23 0〜20%、アルカリ土類金属酸化物 5〜35%を含有し、実質的にアルカリ金属酸化物を含有しないことがより好ましい。各成分のより好ましい含有量は、それぞれ、SiO2は50〜65%、Al23は10〜20%、B23は0〜15%、さらに好ましくは0〜12%、特に0〜10%、アルカリ土類金属酸化物は10〜30%である。また、アルカリ土類金属酸化物であるMgOの好ましい含有量は0〜5%、CaOの好ましい含有量は0〜30%、さらに好ましくは3〜25%、BaO、SrOの好ましい含有量はそれぞれ0〜20%である。また、これら成分以外にも、本発明の趣旨に反しない範囲内で、F2、SO3等の清澄剤や、Y23、La23、Nb23、TiO2等を添加しても良い。
【0040】
本発明の強化板ガラスにおいて、液相温度は、好ましくは1200℃以下、より好ましくは1100℃以下、さらに好ましくは1050℃以下である。液相温度が低いほど、オーバーフローダウンドロー法等で成形する際に、ガラスが失透しにくくなる。ここで、液相温度は、ガラスを粉砕し、標準篩30メッシュ(篩目開き500μm)を通過し、50メッシュ(篩目開き300μm)に残るガラス粉末を白金ボートに入れ、温度勾配炉中に24時間保持して、結晶が析出する温度を測定した値を指す。
【0041】
本発明の強化板ガラスにおいて、表面層と内部層の各々の液相粘度は、好ましくは104.0dPa・s以上、より好ましくは104.3dPa・s以上、さらに好ましくは104.5dPa・s以上、一層好ましくは105.0dPa・s以上、105.5dPa・s以上、105.7dPa・s以上、105.9dPa・s以上、特に106.0dPa・s以上である。液相粘度が高いほど、オーバーフローダウンドロー法等で成形する際に、ガラスが失透しにくくなる。ここで、液相粘度は、液相温度におけるガラスの粘度を白金球引き上げ法で測定した値を指す。
【0042】
本発明の強化板ガラスにおいて、表面層の歪点は、好ましくは600℃以上、より好ましくは630℃以上、一層好ましくは650℃以上である。また、内部層の歪点は、好ましくは500℃以上、より好ましくは510℃以上、一層好ましくは520℃以上である。特に、LTPSをガラス表面に形成する用途では、内部層ガラスの歪点は表面層と同程度であることが望ましい。ここで、歪点は、「ASTM C336」に規定された方法に基づいて測定した値を指す。
【0043】
本発明の強化板ガラスにおいて、表面層の102.5dPa・sにおける融液温度は、好ましくは1700℃以下、より好ましくは1600℃以下、一層好ましくは1580℃以下、特に1560℃以下である。また、内部層の102.5dPa・sにおける融液温度は、好ましくは1700℃以下、より好ましくは1600℃以下、一層好ましくは1560℃以下、1550℃以下、1450℃以下、1420℃以下、特に1400℃以下である。高温粘度102.5dPa・sにおける温度が低いほど、溶融窯等のガラス製造設備への負担が少ないと共に、強化板ガラスの品位を高めることができる。従って、高温粘度102.5dPa・sにおける温度が低いほど、強化板ガラスの製造コストが低減する。ここで、高温粘度102.5dPa・sにおける温度は、白金球引き上げ法で測定した値を指す。
【0044】
内部層は、強化板ガラス全体に占める肉厚の比率が大きいため、単位ガラス重量中の泡数が同じであっても歩留まりに与える影響が大きく、ガラス中の泡品位を高める必要性は大きい。内部層をアルカリ含有の比較的溶融しやすいガラスで形成し、表面層を無アルカリガラス(実質的にアルカリ金属酸化物を含有しないガラス)で形成することにより、泡品位に関する歩留まりが高くなることが期待できる。また、内部層を無アルカリガラスで形成した場合にも、内部層の102.5dPa・sにおける融液温度を表面層よりも低くすることで、泡品位に関する歩留まりの向上が期待できる。
【0045】
以上に説明した強化板ガラスは、表面層を構成する2枚の板ガラス間に、内部層を構成する板ガラスを配置し、これら板ガラスを軟化点以上の温度に加熱して、表面層を構成する板ガラスと内部層を構成する板ガラスとを相互に融着させることによって製造することができる。
【0046】
表面層や内部層を構成する板ガラスは、求められる品位(表面品位や傷品位等)を満たせるのであれば、オーバーフローダウンドロー法、フロート法、スロットダウン法、リドロー法、ロールアウト法、プレス法等の各種成形方法により作製することができるが、特にオーバーフローダウンドロー法で作製することが好ましい。オーバーフローダウンドロー法によれば、表面が非常に平滑で、微細な傷が存在しない薄肉の板ガラスを作製することができる。ここで、オーバーフローダウンドロー法は、溶融ガラスを耐熱性の樋状構造物の両側から溢れさせて、溢れさせた溶融ガラスを樋状構造物の下端で合流させながら、下方に延伸成形して板ガラスを成形する方法である。樋状構造物の構造や材質は、板ガラスの所望の寸法や表面品位を実現できる限り特に限定されない。また、下方に延伸する際、ガラスに力を印加する方法も特に限定されない。例えば、充分に大きい幅を有する耐熱性ロールをガラスに接触させた状態で回転させて延伸する方法を採用しても良いし、複数の対になった耐熱性ロールをガラスの端縁近傍のみに接触させて延伸する方法を採用しても良い。尚、液相温度が1200℃以下で、液相粘度が104.0dPa・s以上であれば、オーバーフローダウンドロー法で板ガラスを作製することができる。特に、表面層を構成するガラス板をオーバーフローダウンドロー法で作製すると、最終的な強化板ガラスは、表面の品位と機械的強度に優れたものとなり、各種情報関連端末のディスプレイやカバーガラス等に好適なものとなる。
【発明の効果】
【0047】
本発明によれば、機械的強度が高く、かつ、実質的にアルカリ成分を含有しない表面層を有する強化板ガラスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の実施形態に係る強化板ガラスの断面図である。
【図2】強化板ガラス内部の応力形成状態を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0049】
以下、本発明に係る実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0050】
図1は、この実施形態に係る強化板ガラスを示している。この強化板ガラスは、例えば、液晶ディスプレイやELディスプレイ等のフラットディスプレイ、特にアクティブマトリックス型液晶ディスプレイ(AMLCD)やアクティブマトリックス型有機ELディスプレイ(AMOLED)用途のガラス基板として用いられるものであり、内部層1と、内部層1を厚さ方向に挟んで両表面側に設けられた表面層2との3層で構成されている。
【0051】
表面層2は、ガラス組成として実質的にアルカリ金属酸化物を含有しないガラスからなり、内部層1は、ガラス組成として実質的にアルカリ金属酸化物を含有しないガラス又は実質的にアルカリ金属酸化物を含有するガラスからなる。表面層2の厚さは10〜500μmであり、内部層2の厚さは20〜2000μmである。また、内部層1の熱膨張係数は表面層2の熱膨張係数よりも大きく、30〜380℃における熱膨張係数差は5×10-7/℃〜50×10-7/℃である。
【0052】
強化板ガラスは、上記のような熱膨張係数差を有する表面層1と内部層2とが相互に融着一体化して構成されていることにより、図2に模式的に示すように、表面層2に50MPa〜500MPaの圧縮応力Pcが形成され、内部層2に30〜200MPaの引張応力Ptが形成されている。
【0053】
この実施形態の強化ガラスは、例えば、内部層1を構成する板ガラスと、表面層2を構成する板ガラスをオーバーフローダウンドロー法で作製し、表面層2を構成する2枚の板ガラス板間に、内部層1を構成する1枚の板ガラスを配置し、これら板ガラスを軟化点以上の温度、例えば700〜1000℃に加熱して融着させた後、常温まで冷却することによって製造することができる。加熱後、常温まで冷却する間に生じる内部層1と表面層2との熱膨張収縮差により、強化板ガラスの内部に上記のような応力が生成される。
【実施例1】
【0054】
下記表1(試料No.1〜10)は、強化板ガラスの内部層1と表面層2を構成するのに好適なガラスを示している。
【0055】
【表1】

【0056】
表1において、試料No.1〜7は内部層1と表面層2の双方に好適なガラスであり、試料No.8〜10は内部層1に好適なガラスである。各試料は次のようにして作製した。まず、表1のガラス組成となるようにガラス原料を調合し、ガラスバッチを作製した後、このガラスバッチを白金ポットに投入し、1550〜1600℃、8〜24時間溶融して、溶融ガラスを得た。つぎに、この溶融ガラスをカーボン板の上に流し出して板ガラスに成形し、これを徐冷した。そして、得られた板ガラスについて、種々の特性を評価した。
【0057】
密度は、周知のアルキメデスで測定した値である。歪点Ps、徐冷点Taは、「ASTM C366」に規定された方法に基づいて測定した値である。また、軟化点Tsは、「ASTM C338」に規定された方法に基づいて測定した値である。高温粘度102.5dPa・sにおける温度は、周知の白金球引き上げ法で測定した。熱膨張係数αは、ディラトメーターを用いて、30〜380℃における平均熱膨張係数を測定した値である。液相温度は、ガラスを粉砕し、標準篩30メッシュ(篩目開き500μm)を通過し、50メッシュ(篩目開き300μm)に残るガラス粉末を白金ボートに入れ、温度勾配炉中に24時間保持して、結晶の析出する温度を測定した値である。ヤング率は、共振法により測定した値である。
【0058】
耐薬品性評価に用いる試料は、板状試料の両表面を光学研磨し、その一部分をポリイミドの樹脂、またはテープでマスクした。
【0059】
耐BHFは、130BHF溶液を用いて、20℃、30分間の条件で各試料を処理し、処理後、マスクをはずして、侵食されている部分と侵食されていない部分の段差を触針式の表面粗さ計を用いて測定した。
【0060】
耐酸性は、10%塩酸水溶液を用いて、80℃、3時間の条件で各試料を処理し、処理後、マスクをはずして、侵食されている部分と侵食されていない部分の段差を触針式の表面粗さ計を用いて測定した。
【0061】
表1から分かるように、試料No.1〜10は、密度が2.7g/cm3以下、歪点が530℃以上、ヤング率が66GPa以上、熱膨張係数が32〜66×10-7/℃であった。さらに、試料No.1〜9は、液相粘度が104.8dPa・s以上、高温粘度102.5dPa・sにおける温度が1600℃以下であった。
【0062】
特に、試料No.1〜7は、密度が2.6g/cm3以下、歪点が640℃以上、ヤング率が66GPa以上、熱膨張係数が32〜46×10-7/℃であった。さらに、液相粘度が105.4dPa・s以上、高温粘度102.5dPa・sにおける温度が1600℃以下であった。
【0063】
続いて、表1中の試料No.1について、100mm×100mm×0.1mmのサイズ、No.3について、100mm×100mm×0.3mmのサイズの板ガラスに加工し、その主表面両面光学研磨を施した。また、表1中の試料No.6について、100mm×100mm×1.0mmのサイズの板ガラスに加工し、その主表面両面光学研磨を施した。そして、試料No.6の板ガラスの両面にそれぞれ試料No.1又はNo.3の板ガラスを配置し、900〜950℃で1時間加熱して熱融着処理を行った後、徐冷することにより、強化板ガラスを得た。
【0064】
上記の強化板ガラスを板厚方向に厚さ1mmで切断し、切断面の両面に光学研磨を施した。この切断片を断面方向から観察し、既知のバビネ法を用いて表面応力値と内部応力値を測定した。測定に際し、光弾性係数を33[(nm/cm)/MPa]とした。測定の結果、表面層に試料No.1のガラスを用いた場合、表面圧縮応力値が最大500MPa、内部引張り応力値が最大40MPaであることが確認できた。また、表面層に試料No.3のガラスを用いた場合、表面圧縮応力値が最大300MPa、内部引張り応力値が最大60MPaであることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の強化板ガラスは、携帯電話、デジタルカメラ、PDAなどのディスプレイ(タッチパネル式等)用基板やカバーガラス、LCD、OLEDなどのディスプレイ用基板、特にAMLCD、AMOLEDなどのディスプレイ用基板として好適である。また、本発明の強化板ガラスは、これら用途以外にも、高強度が要求される用途、例えば磁気ディスク用基板、種々のフラットパネルディスプレイ用基板、太陽電池用カバーガラス又は基板、固体撮像素子用カバーガラスなどの用途にも用いることができる。
【符号の説明】
【0066】
1 内部層
2 表面層
Pc 圧縮応力
Pt 引張り応力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さが20〜2000μmの内部層と、該内部層の両表面側に設けられた厚さが10〜500μmの表面層とで構成され、
前記表面層の厚さは前記内部層よりも小さく、
前記表面層の熱膨張係数は前記内部層よりも小さく、
少なくとも前記表面層は実質的にアルカリ金属酸化物を含有せず、
前記表面層と前記内部層とが相互に融着することにより、前記表面層に50MPa〜500MPaの圧縮応力が形成され、前記内部層に30〜200MPaの引張応力が形成されていることを特徴とする強化板ガラス。
【請求項2】
前記内部層と前記表面層の30〜380℃における熱膨張係数差が5×10-7/℃〜50×10-7/℃であることを特徴とする請求項1に記載の強化板ガラス。
【請求項3】
前記内部層と前記表面層の30〜380℃における熱膨張係数差が5×10-7/℃〜20×10-7/℃であり、前記表面層と前記内部層の厚さの比率(表面層/内部層)が1/4以下であり、全体の厚さが0.5mm以下であることを特徴とする請求項1に記載の強化板ガラス。
【請求項4】
密度が3.0g/cm3以下、ヤング率が65GPa以上であることを特徴とする請求項1から3の何れかに記載の強化板ガラス。
【請求項5】
前記表面層が、ガラス組成として、質量%でSiO2 45〜75%、Al23 5〜25%、B23 0〜20%、アルカリ土類金属酸化物 1〜25%を含有し、実質的にアルカリ金属酸化物を含有しないことを特徴とする請求項1から4の何れかに記載の強化板ガラス。
【請求項6】
前記内部層が、ガラス組成として、質量%でSiO2 45〜75%、Al23 1〜30%、B23 0〜20%、Na2O 0〜20%、K2O 0〜20%、アルカリ土類金属酸化物 0〜40%を含有することを特徴とする請求項5に記載の強化板ガラス。
【請求項7】
前記表面層が、ガラス組成として、質量%でSiO2 45〜75%、Al23 5〜25%、B23 0〜20%、アルカリ土類金属酸化物 1〜15%を含有し、実質的にアルカリ金属酸化物を含有せず、前記内部層が、ガラス組成として、質量%でSiO2 45〜75%、Al23 5〜25%、B23 0〜20%、アルカリ土類金属酸化物 5〜35%を含有し、実質的にアルカリ金属酸化物を含有しないことを特徴とする請求項1から4の何れかに記載の強化板ガラス。
【請求項8】
請求項1から7の何れかに記載の強化板ガラスを製造する方法であって、
前記表面層を構成する2枚の板ガラス間に、前記内部層を構成する板ガラスを配置し、これら板ガラスを軟化点以上の温度に加熱して、前記表面層を構成する板ガラスと前記内部層を構成する板ガラスとを相互に融着させることを特徴とする強化板ガラスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−93728(P2011−93728A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−247677(P2009−247677)
【出願日】平成21年10月28日(2009.10.28)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】