弾性波デバイス
【課題】弾性波デバイスにおける横モードによる不要振動を低減する
【解決手段】弾性波デバイス1は、基板2と、基板2上に形成された誘電体膜4と、基板2と誘電体膜4との間に設けられるIDT電極3a、3bとを備える。基板2および誘電体膜4の少なくとも一方が圧電体であり、IDT電極3a、3bは、弾性波の伝播方向に垂直な方向に延びて形成される電極指3a−2、3b−2を含み、電極指の先端から、前記電極指の延びる方向において対向するIDT電極までの間のギャップ部において、誘電体膜4の膜厚が変化している。
【解決手段】弾性波デバイス1は、基板2と、基板2上に形成された誘電体膜4と、基板2と誘電体膜4との間に設けられるIDT電極3a、3bとを備える。基板2および誘電体膜4の少なくとも一方が圧電体であり、IDT電極3a、3bは、弾性波の伝播方向に垂直な方向に延びて形成される電極指3a−2、3b−2を含み、電極指の先端から、前記電極指の延びる方向において対向するIDT電極までの間のギャップ部において、誘電体膜4の膜厚が変化している。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、通信機器等の電気回路に用いられる弾性波デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
弾性波デバイスは、例えば無線機器等のフィルタとして用いられている。弾性波デバイスにおいては、フィルタの通過帯域や共振器の共振周波数等の周波数の温度係数(TCF)の絶対値を小さくすることが求められている。弾性表面波デバイスにおいて、LiTaO3(LT)またはLiNbO3(LN)等の圧電基板の温度係数と逆の温度係数を有する酸化シリコン膜等の誘電体膜を圧電基板上に形成することで、TCFの絶対値を小さくできることが知られている。
【0003】
また、IDT電極を用いた弾性波デバイスにおいて、高次横モードによるスプリアスの低減のために様々な対策が試みられている。例えば、部分的にIDT電極の電極指の交差幅を異ならせ、重み付けを行うことがある。この場合、隣り合う電極指が交差していない部分にはダミー電極指が設けられる。IDT電極の電極指に重み付けを適用した弾性波デバイスは、弾性波の伝搬する領域において、弾性波の音速に不連続性が生じることになる。その結果、音速が不連続な部分を通過した弾性波が散乱されたり、別の波へモード変換を起こしてしまったりするため、弾性波デバイスのロスが増大する。
【0004】
下記特許文献1には、ダミー電極とこのダミー電極が隣り合う交差電極のダミー部の長さとを異ならせることにより、横モードの弾性波を散乱させ、スプリアスを抑える方法が検討されている。しかし、この方法では、スプリアスの抑制が十分でない場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2006/078001号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
誘電体膜を圧電基板上に形成したデバイスでは、励振される弾性波が誘電体膜部まで分布している。このため特許文献1の方法では、弾性波の一部のみを散乱させるためスプリアスの抑制が十分でない場合がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願開示の弾性波デバイスは、基板と、前記基板上に形成された誘電体膜と、前記基板と前記誘電体膜との間に設けられるIDT電極とを備え、前記基板および誘電体膜の少なくとも一方が圧電体であり、前記IDT電極は、少なくとも1つの方向に延びて形成される電極指を含み、前記電極指の先端から、前記電極指の延びる方向において対向するIDT電極までの間のギャップ部において、前記誘電体膜の膜厚が変化している。
【発明の効果】
【0008】
本願開示によれば、弾性波デバイスにおける横モードによる不要振動を低減することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1A】第1の実施形態に係る弾性波デバイスの構成を示す図である。
【図1B】第1の実施形態に係る弾性波デバイスのIDT電極の構成を示す図である。
【図1C】第1の実施形態に係る弾性波デバイスの誘電体膜の構成を示す図である。
【図2】誘電体膜に傾斜を設けない構造の弾性波デバイスの一例を示す図である。
【図3】図1A〜図1Cに示す弾性波デバイスのコンダクタンスを測定した結果を示すグラフである。
【図4】図2に示す弾性波デバイスのコンダクタンスを測定した結果を示すグラフである。
【図5】弾性波デバイスを駆動させた状態で、弾性波の分布を測定した結果を示すグラフである。
【図6】弾性波デバイスにおいて、傾斜角を変更した場合の横モードスプリアス量の変化を測定した結果を示すグラフである。
【図7】弾性波デバイスの周波数特性および不要モードの量の測定結果を示すグラフである
【図8】共振器を複数配置したラダー型フィルタの回路図の一例である。
【図9】図8に示すラダー型フィルタを構成する弾性波デバイスの平面図である。
【図10】フィルタの周波数特性の測定結果を示すグラフである。
【図11】変形例1における弾性波デバイスの断面図およびIDT電極の一部の平面図である。
【図12】図11の弾性波デバイスについて、コンダクタンスを測定した結果を示すグラフである。
【図13】変形例2における弾性波デバイスの断面図およびIDT電極の一部の平面図である。
【図14A】変形例3における弾性波デバイスの断面図である。
【図14B】変形例3の弾性波デバイスのIDT電極および反射器の上面図である。
【図14C】変形例3の弾性波デバイスの誘電体膜における傾斜部を示すための上面図である。
【図15】通信機器の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して具体的に説明する。
【0011】
(第1の実施形態)
[弾性波デバイスの構成例]
図1Aは第1の実施形態に係る弾性波デバイスの断面図(上段)およびIDT電極の一部の平面図(下段)である。図1Aにおける上段の断面図は、下段の平面図におけるA−A線の断面を示す。図1Aは、図1Bに示す弾性波デバイスのIDT電極の平面図である。図1Cは、図1Aに示す弾性波デバイスの誘電体膜における傾斜部を示すための上面図である。
【0012】
図1A〜図1Cに示す弾性波デバイス1では、圧電体の基板2上に、一組の対向するIDT電極3a、3bが設けられ、IDT電極3a、3bの両側に反射器5が設けられる。基板2上には、さらに、IDT電極3a、3bおよび反射器5を覆うように、誘電体膜4が設けられる。誘電体膜4の膜厚は、IDT電極3a、3bの膜厚より大きくなっている。基板1は、例えば、LiNbO3を主な材料とすることができる。IDT電極3a、4bは、例えば、Cuを主な材料とすることができる。誘電体膜4は、例えば、SiO2を主な材料とすることができる。
【0013】
IDT電極3aとIDT電極3b間に時間変化する電圧が印加されると、弾性波が励起される。励起された弾性波が一対の反射器5の間で反射しながら伝播すると、特定の周波数で共振波が発生する。これにより、弾性波デバイス1は、共振器として動作することができる。
【0014】
IDT電極3a、3bは、それぞれ、バスバー3a−1、3b−1と、バスバー3a−1、3b−1に接続される電極指3a−2、3b−2を含む。電極指はストラップとも呼ぶことができ、一方向に延びる細長い形状をしている。以下、電極指の延びる方向を電極指方向をと称する。バスバー3a−1、3b−1には、等間隔で平行に並んだ複数の電極指が接続される。一方のIDT電極3aの電極指3a−1と、他方のIDT電極3bの電極指3b−1が交互にかつ平行に並ぶように配置されている。弾性波は、電極指3a−2、3b−2の電極指方向に垂直な方向に伝播する。弾性波の伝播方向において、1波長(λ)分の区間に、電極指3a−2と電極指3b−2が少なくとも1本ずつ含まれるように、電極指が配置される。IDT電極3a、3bの電極指方向においては、バスバー3a−1、3b−1が設けられるバスバー領域、隣り合う電極指が弾性波の伝播方向において重なる交差領域、電極が存在しないギャップ領域が含まれる。これらの領域のうち、交差領域が弾性波の励起に寄与している。なお、IDT(Inter Digital Transducer)は、櫛形電極または櫛葉型電極とも称されることがある。
【0015】
各電極指3a−2の先端から、電極指方向において対向するIDT電極(図1に示す例では、バスバー3b−1)までの間は、電極が存在しないギャップ部となっている。すなわち、電極指方向において電極が存在しない部分がギャップ部となっている。このギャップ部においては、誘電体膜4の膜厚が変化している。本実施形態では、電極指の先端から、電極指方向において対向するIDT電極までの間のギャップ部Gにおいて、誘電体膜4の膜厚が連続的に変化している。すなわち、誘電体膜4は、ギャップ部Gにおいて、基板2に対して傾斜する面を有している。IDT電極の電極指3a―2、3b−2における誘電体膜4の膜厚と、バスバー3a―1、3b−1における誘電体膜4の膜厚とは異なっている。本実施形態では、IDT電極領域における誘電体膜4の膜厚は、バスバー領域における誘電体膜4の膜厚より大きくなっている。このように、ギャップ部における誘電体膜4の膜厚を変化させることによって、後述するように、横モードによるスプリアスを低減することができる。また、バスバーや、ダミー部も誘電体膜4に覆われるので、これらがむき出しになることによる信頼性の悪化もない。
【0016】
図1Cは、誘電体膜4を上から見た場合の傾斜部の配置例を示している。図1Cでは、電極指3a―2、3b−2の交差領域でない部分(ダミー部分)においても、誘電体膜4の膜厚が変化している。すなわち、図1Cに示す例では、IDT電極3a、3bのギャップ部およびダミー部分の全てを覆う領域において、誘電体膜に傾斜領域が設けられる。図1Cにおいて、傾斜領域は斜線ハッチングで示されている。また、このように、電極指のダミー部分およびギャップ部において、誘電体膜4に傾斜が設けられることで、さらにスプリアスを低減することができる。
【0017】
一例として、電極指3a−2、3b−2の長さは30λ、ギャップ部の長さ(ギャップ長)を0.25λ、誘電体4の膜厚を0.3λとすることができる。本実施形態では、電極対数は70対、反射器対数は15対としている。誘電体膜4形成時のエッチングの条件を調整することにより、誘電体膜4の表面の一部を基板面に対して傾斜させることができる。傾斜角は、例えば、35度とする。バスバー領域の誘電体膜4の膜厚は0.05λとすることができる。この場合、電極指方向における傾斜部分の長さ(底辺の長さ)は0.35λとなり、誘電体膜4の傾斜は電極指からバスバーまで続き、ギャップ全体を覆う形となっている。これにより、プロセスマージンも0.1λと大きくとることができ、プロセスの再現性の面から好ましい。
【0018】
図1A〜図1Cに示す例では、一方のIDT電極3aの電極指3a―2が隣の電極指3b−2と、弾性波の伝播方向において重なる(=交差する)部分の長さ(=交差幅)は、弾性波の伝播方向において一定である。これは、正規型電極と呼ばれることがある。正規型電極では、IDT電極の開口長方向に高次のモード(横モード)が立ちやすく、それを抑える技術として交差幅に重み付けをつけるアポタイズ重み付けが用いられることがあるが、本実施形態では、上記のように、誘電体膜4の膜厚がギャップ部で変化する構成なので、正規型電極であっても、十分に横モードを抑えることができる。なお、上記構成において、交差幅を一定とせず、アポタイズ重み付けを施してもよい。これにより、横モード発生をさらに抑えることもできる。
【0019】
[測定結果]
図2は、誘電体膜に傾斜を設けない構造の弾性波デバイスの一例を示す図である。図2に示す弾性波デバイスにおいて、基板101およびIDT電極103a、103bの構造は図1A〜図1Cと同様である。誘電体膜104には傾斜が設けられていない。すなわち、誘電体膜104の全体に渡って膜厚は一定である。
【0020】
以下に、図1A〜図1Cに示す弾性波デバイス1と、図2に示す弾性波デバイスについて、共振周波数、反共振周波数間におけるコンダクタンスを測定した結果を示す。図3は、図1A〜図1Cに示す弾性波デバイスのコンダクタンスを測定した結果を示すグラフであり、図4は、図2に示す弾性波デバイスのコンダクタンスを測定した結果を示すグラフである。図3および図4に示す結果によれば、誘電体膜に傾斜がある構造の場合、傾斜のない構造に比べて、横モードによるスプリアスが低減されていることがわかる。
【0021】
図5は、誘電体膜に傾斜を設けた弾性波デバイス(図1A〜図1C)と、傾斜を設けない弾性波デバイス(図2)それぞれについて、弾性波デバイスを駆動させた状態で、弾性波の分布を測定した結果を示すグラフである。図5は、高次の横モードである3次モードが発生している周波数を駆動周波数として測定された結果を示す。また、図5のグラフは、A−A線断面における弾性波分布のプロファイルを示す。図5において、縦軸が弾性波の変位量であり、横軸がA−A線における測定位置である。上段のグラフが、誘電体膜に傾斜がない弾性波デバイス(図2に示す弾性波デバイス)の測定結果、下段のグラフが、誘電体膜に傾斜がある弾性波デバイス(図1A〜図1Cに示す弾性波デバイス)の測定結果である。
【0022】
図5に示す測定結果では、誘電体膜に傾斜のない構造では、3次の高次横モードが励振されていることが確認される。一方、誘電体膜に傾斜がある構造では、3次の高次横モードに加え、それ以外の高次の横モードが多数励振されている。
【0023】
横モードが発生する条件としては、横モードの弾性波の反射面における音速が大きく影響している。そこで、本願発明者は、弾性波の反射面を探るとともに、反射面における音速の影響を調べた。その結果、横モードの弾性波の反射面はギャップ部にあることが見出された。さらに、ギャップ部における誘電体膜の膜厚を変化させると、傾斜に応じて、ギャップ部で反射する弾性波に音速差が生じることも見出された。そして、反射面における弾性波に音速差が生じることによって、それぞれの音速に応じて横モードの発生周波数が変化することがわかった。その結果、横モードの発生量が増加することが知見される。この知見に基づいて、ギャップ部における誘電体膜の膜厚を変化させることにより、横モードスプリアスを低減することができることが見出された。
【0024】
図5に示す測定結果により、ギャップ部の誘電体膜に傾斜が設けられた構造では、反射面における弾性波に音速差が生じ、それぞれの音速に応じて横モードの励振周波数が変化していることがわかった。このようにして横モード励振周波数が分散されることにより、スプリアスが低減されたと考えられる。
【0025】
[傾斜角および誘電体膜の膜厚について]
誘電体膜の傾斜角は、例えば、レジスト膜厚、エッチング条件により変更が可能である。そこで、誘電体膜の電極指方向に沿う断面における傾斜角θを80度、70度、45度、35度、33度に変更した場合の、それぞれの横モードスプリアスの大きさを調べた。図6は、図1Aに示す構造の弾性波デバイスにおいて、A−A線断面における誘電体膜4の基板2に対する傾斜角θを変更した場合の横モードスプリアス量の変化を測定した結果を示すグラフである。図6に示す結果から、傾斜角が45度以上では、傾斜角が大きくなるほど横モードスプリアスの大きさも大きくなることがわかる。また、傾斜角が45度以下では、傾斜角が45度以上の場合に比べると、横モードスプリアスの大きさの変化量が小さいことがわかった。
【0026】
これは、傾斜角が45度より小さい場合は、ギャップ部全体を誘電体膜4の傾斜が覆う構成となる。そのため。ギャップ部全体を誘電体膜4の傾斜が覆っているか否かによって、横モードスプリアスの大きさに違いが生じると考えることができる。すなわち、45度以下ではギャップ部全体を誘電体膜の傾斜が覆っているため音速差が十分に得られたと考えることができる。一方45度以上では、ギャップ部の一部しか傾斜がつけられず、傾斜が大きくなるほど音速差が小さくなるため、スプリアス低減量も小さくなる。例えば、傾斜角80度では、傾斜の底辺の長さは0.025λでありギャップの1/10ほどの長さしか傾斜がついておらず、反射面の音速差が十分に得られず、スプリアス低減効果が小さくなる。
【0027】
傾斜角θの誘電体膜4の傾斜による膜厚差をH、ギャップ部の電極指方向におけるギャップ長をLとすると、下記式(1)の満たす場合に、ギャップ部全体を誘電体膜4の傾斜が覆うことになる。
θ≦tan-1(H/L) ―――(1)
例えば、誘電体の膜厚差Hが0.3λであり、ギャップ長が0.25λである場合、傾斜角θが下記式(2)を満たすと、ギャップ部全体を誘電体の傾斜が覆う構成とすることができる。
【0028】
傾斜角θ≦tan-1(0.3/0.25)=50.2 ―――(2)
このように、誘電体膜4の膜厚の変化が、ギャップ部Gより内側から始まり、ギャップGより外側で終わるように構成することで、さらなるスプリアスの低減が可能になる。
【0029】
また、バスバー部上の誘電体膜4の膜厚とIDT電極上の誘電体膜との膜厚差は、電極膜厚(IDT電極の膜厚)より大きいことが好ましい。すなわち、傾斜角θが下記式(3)を満たすことが好ましい。
【0030】
tan-1(電極膜厚/L)<傾斜角θ ―――(3)
また、バスバー3a−1、3b−1の上を誘電体膜4で覆うことにより、共振周波数以下でのスプリアスを低減することができる。
【0031】
図7は、バスバー3a−1、3b−1上の誘電体膜4の膜厚を、0、0.025λ、0.035λ、0.25λと変化させた場合の、共振周波数以下でのコンダクタンス特性および最も大きいスプリアスの大きさを測定した結果を示すグラフである。図7の上段のグラフにおいて、縦軸は弾性波デバイスのコンダクタンス特性を示し、横軸は周波数を示す。下段のグラフにおいて、横軸は誘電体膜4の膜厚、縦軸は最も強く励振されるスプリアスの大きさを示す。
【0032】
図7に示す結果より、バスバー3a−1、3b−1上に残す誘電体膜4の膜厚が、ある一定以上の場合、発生するスプリアスの大きさが小さくなることがわかった。例えば、バスバー3a−1、3b−1上に残す誘電体膜4の膜厚を0.05λより厚くすることにより、共振周波数以下で発生する不要スプリアスの低減量を大きくすることができる。
【0033】
以上より、バスバー3a−1、3b−1上に残す誘電体の膜厚は、誘電体の傾斜角とともに最適値を用いるのが好ましい。
【0034】
[フィルタの構成例]
図8は、共振器を複数配置したラダー型フィルタの回路図の一例である。図9は、図8に示すラダー型フィルタを構成する弾性波デバイスの平面図である。図8に示すラダー型フィルタは、直列腕に接続された直列共振器S1〜S3と、並列腕に接続された並列共振器P1、P2を備える。図9に示す例では、ラダー型フィルタは、圧電基板上2に設けられた直列共振器S1〜S3、並列共振器P1、P2およびこれらを接続する配線パターンにより構成される。各共振器においては、圧電基板2上に、IDT電極3a、3bおよび反射器5が設けられ、さらにこれらを覆うように誘電体膜4が設けられている。ギャップ部においては、誘電体膜4に傾斜が設けられている。すなわち、各共振器は、図1A〜図1Cに示す弾性波デバイスの構成となっている。
【0035】
図10は、図9に示すフィルタの周波数特性(実線)および、誘電体膜に傾斜を設けない弾性波デバイスを共振器に用いた場合のフィルタの周波数特性(破線)の測定結果を示すグラフである。図10に示した結果によれば、誘電体膜に傾斜を設けた弾性デバイスを用いたフィルタに方が、横モードスプリアスが少なくなっている。
【0036】
[変形例1]
図11は、変形例1における弾性波デバイスの断面図およびIDT電極の一部の平面図である。図11の上段の断面図は、図11の下段の平面図におけるA−A線の断面を示す。図11に示す弾性波デバイスでは、誘電体膜4の傾斜は、ギャップ部から0.5λだけバスバー側(外側)の位置から始まっている。すなわち、ギャップ部より外側のバスバー上の誘電体膜4に傾斜が設けられる。図12は、図11の弾性波デバイスについて、コンダクタンスを測定した結果を示すグラフである。図12に示す結果では、傾斜を設けない場合(図4)に比べて横モードスプリアスは低減されている。このように、弾性波デバイスにおいて、誘電体膜の一部の膜厚を薄くすることで傾斜を設けた構造により、横モードスプリアスを低減することが可能になる。しかし、図12の結果からは、傾斜をバスバー上部に設けた場合、その低減量は、ギャップ部に傾斜がある場合(図3)より小さいことがわかる。図11に示す例は、傾斜部により横モードの発生周波数を分散することで、バスバーにまで染み出したエネルギーを分散させるものであるから、反射面であるギャップ部に傾斜がある構成と比べると横モード低減効果が小さくなったものと考えられる。このことから、誘電体膜4の傾斜は、弾性波の反射面つまりはギャップ部にあることで、よりスプリアス低減効果が大きくなるといえる。
【0037】
[変形例2]
図13は、変形例2における弾性波デバイスの断面図およびIDT電極の一部の平面図である。図13の上段の断面図は、図13の下段の平面図におけるA−A線の断面を示す。図13に示す弾性波デバイスでは、電極指3a―2、3b−2上の誘電体膜4の膜厚が、バスバー3a−1、3b−1上の誘電体膜4の膜厚より小さくなっている。これにより、ギャップ部において、誘電体膜4に傾斜を形成することができる。
【0038】
[変形例3]
図14Aは、変形例3における弾性波デバイスの断面図である。図14Bは、本変形例の弾性波デバイスのIDT電極3a、3bおよび反射器5の上面図である。図14Cは、図14Aに示す弾性波デバイスの誘電体膜における傾斜部を示すための上面図である。図14Aの断面図は、図14Bおよび図14CにおけるA−A線の断面を示す。
【0039】
図1Cに示した誘電体膜4の傾斜部は、IDT電極3a、3bのギャップ部を覆うよう弾性波の伝播方向に延びて形成され、さらに、IDT電極3a、3bの両側の反射器5まで延びて形成されていた。これに対して、図14Aおよび図14Cに示す例では、誘電体膜4の傾斜部は、IDT電極3a、3bのギャップ部を通って伝播方向に延びた後、電極指方向に垂直に曲がって、反射器5とIDT電極3a、3bの間に形成される。このように誘電体膜4の傾斜部を形成にすることは、製造効率の観点から好ましい。
【0040】
[通信機器]
上記の弾性波デバイスや、弾性波フィルタを含むモジュール、通信機器も本発明の実施形態の一つである。
【0041】
図15は、通信機器の構成例を示す図である。図15に示す通信機器50においては、モジュール基板51上に、通信モジュール60、RFIC53およびベースバンドIC54が設けられている。通信モジュール60には、例えば、上記実施形態で示した弾性波デバイスを用いることができる。
【0042】
通信モジュール60の送信端子TxはRFIC53に接続され、受信端子RxもRFIC53に接続されている。RFIC53はベースバンドIC54に接続されている。RFIC53は、半導体チップおよびその他の部品により形成することができる。RFIC53には、受信端子から入力された受信信号を処理するための受信回路および、送信信号を処理するための送信回路を含む回路が集積されている。
【0043】
また、ベースバンドIC54も半導体チップおよびその他の部品により実現することができる。ベースバンドIC54には、RFIC53に含まれる受信回路から受け取った受信信号を、音声信号やパッケットデータに変換するための回路と、音声信号やパッケットデータを送信信号に変換してRFIC53に含まれる送信回路に出力するため回路とが集積される。
【0044】
図示しないが、ベースバンドIC54には、例えば、スピーカ、ディスプレイ等の出力機器が接続されており、ベースバンドIC54で受信信号から変換された音声信号やパケットデータを出力し、通信機器50のユーザに認識させることができる。また、マイク、ボタン等の通信機器50が備える入力機器もベースバンドIC54に接続されており、ユーザから入力された音声やデータをベースバンドIC54が送信信号に変換することができる構成になっている。なお、通信機器50の構成は、図9に示す例に限られない。
【0045】
[その他]
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明の実施形態は上記例に限られない。例えば、上記実施形態では、ギャップ部全体にわたって誘電体膜に傾斜が設けられる構成について説明したが、ギャップ部の少なくとも一部において誘電体膜の膜厚が変化する構成であってもよい。また、誘電体膜の膜厚が連続的に変化して傾斜面を形成する場合について説明したが、誘電体膜の膜厚変化は断続的であってもよい。また、上記実施形態では、基板が圧電体であるが、誘電体膜または、基板および誘電体膜の双方を圧電体としてもよい。さらに、本発明が適用される弾性波デバイスは、弾性表面波(SAW)、ラブ波、ラム波および境界波のいずれを用いてもよい。また、上記実施形態では、1ポート型弾性波共振器の例であるため、一組のIDT電極が反射器に挟まれて配置されていたが、弾性波デバイスの用途に応じて、複数組のIDT電極が形成されてもよい。また、反射器を設けなくてもよい。
【符号の説明】
【0046】
1 弾性波デバイス
2 基板
3a、3b IDT電極
4 誘電体膜
5 反射器
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、通信機器等の電気回路に用いられる弾性波デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
弾性波デバイスは、例えば無線機器等のフィルタとして用いられている。弾性波デバイスにおいては、フィルタの通過帯域や共振器の共振周波数等の周波数の温度係数(TCF)の絶対値を小さくすることが求められている。弾性表面波デバイスにおいて、LiTaO3(LT)またはLiNbO3(LN)等の圧電基板の温度係数と逆の温度係数を有する酸化シリコン膜等の誘電体膜を圧電基板上に形成することで、TCFの絶対値を小さくできることが知られている。
【0003】
また、IDT電極を用いた弾性波デバイスにおいて、高次横モードによるスプリアスの低減のために様々な対策が試みられている。例えば、部分的にIDT電極の電極指の交差幅を異ならせ、重み付けを行うことがある。この場合、隣り合う電極指が交差していない部分にはダミー電極指が設けられる。IDT電極の電極指に重み付けを適用した弾性波デバイスは、弾性波の伝搬する領域において、弾性波の音速に不連続性が生じることになる。その結果、音速が不連続な部分を通過した弾性波が散乱されたり、別の波へモード変換を起こしてしまったりするため、弾性波デバイスのロスが増大する。
【0004】
下記特許文献1には、ダミー電極とこのダミー電極が隣り合う交差電極のダミー部の長さとを異ならせることにより、横モードの弾性波を散乱させ、スプリアスを抑える方法が検討されている。しかし、この方法では、スプリアスの抑制が十分でない場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2006/078001号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
誘電体膜を圧電基板上に形成したデバイスでは、励振される弾性波が誘電体膜部まで分布している。このため特許文献1の方法では、弾性波の一部のみを散乱させるためスプリアスの抑制が十分でない場合がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願開示の弾性波デバイスは、基板と、前記基板上に形成された誘電体膜と、前記基板と前記誘電体膜との間に設けられるIDT電極とを備え、前記基板および誘電体膜の少なくとも一方が圧電体であり、前記IDT電極は、少なくとも1つの方向に延びて形成される電極指を含み、前記電極指の先端から、前記電極指の延びる方向において対向するIDT電極までの間のギャップ部において、前記誘電体膜の膜厚が変化している。
【発明の効果】
【0008】
本願開示によれば、弾性波デバイスにおける横モードによる不要振動を低減することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1A】第1の実施形態に係る弾性波デバイスの構成を示す図である。
【図1B】第1の実施形態に係る弾性波デバイスのIDT電極の構成を示す図である。
【図1C】第1の実施形態に係る弾性波デバイスの誘電体膜の構成を示す図である。
【図2】誘電体膜に傾斜を設けない構造の弾性波デバイスの一例を示す図である。
【図3】図1A〜図1Cに示す弾性波デバイスのコンダクタンスを測定した結果を示すグラフである。
【図4】図2に示す弾性波デバイスのコンダクタンスを測定した結果を示すグラフである。
【図5】弾性波デバイスを駆動させた状態で、弾性波の分布を測定した結果を示すグラフである。
【図6】弾性波デバイスにおいて、傾斜角を変更した場合の横モードスプリアス量の変化を測定した結果を示すグラフである。
【図7】弾性波デバイスの周波数特性および不要モードの量の測定結果を示すグラフである
【図8】共振器を複数配置したラダー型フィルタの回路図の一例である。
【図9】図8に示すラダー型フィルタを構成する弾性波デバイスの平面図である。
【図10】フィルタの周波数特性の測定結果を示すグラフである。
【図11】変形例1における弾性波デバイスの断面図およびIDT電極の一部の平面図である。
【図12】図11の弾性波デバイスについて、コンダクタンスを測定した結果を示すグラフである。
【図13】変形例2における弾性波デバイスの断面図およびIDT電極の一部の平面図である。
【図14A】変形例3における弾性波デバイスの断面図である。
【図14B】変形例3の弾性波デバイスのIDT電極および反射器の上面図である。
【図14C】変形例3の弾性波デバイスの誘電体膜における傾斜部を示すための上面図である。
【図15】通信機器の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して具体的に説明する。
【0011】
(第1の実施形態)
[弾性波デバイスの構成例]
図1Aは第1の実施形態に係る弾性波デバイスの断面図(上段)およびIDT電極の一部の平面図(下段)である。図1Aにおける上段の断面図は、下段の平面図におけるA−A線の断面を示す。図1Aは、図1Bに示す弾性波デバイスのIDT電極の平面図である。図1Cは、図1Aに示す弾性波デバイスの誘電体膜における傾斜部を示すための上面図である。
【0012】
図1A〜図1Cに示す弾性波デバイス1では、圧電体の基板2上に、一組の対向するIDT電極3a、3bが設けられ、IDT電極3a、3bの両側に反射器5が設けられる。基板2上には、さらに、IDT電極3a、3bおよび反射器5を覆うように、誘電体膜4が設けられる。誘電体膜4の膜厚は、IDT電極3a、3bの膜厚より大きくなっている。基板1は、例えば、LiNbO3を主な材料とすることができる。IDT電極3a、4bは、例えば、Cuを主な材料とすることができる。誘電体膜4は、例えば、SiO2を主な材料とすることができる。
【0013】
IDT電極3aとIDT電極3b間に時間変化する電圧が印加されると、弾性波が励起される。励起された弾性波が一対の反射器5の間で反射しながら伝播すると、特定の周波数で共振波が発生する。これにより、弾性波デバイス1は、共振器として動作することができる。
【0014】
IDT電極3a、3bは、それぞれ、バスバー3a−1、3b−1と、バスバー3a−1、3b−1に接続される電極指3a−2、3b−2を含む。電極指はストラップとも呼ぶことができ、一方向に延びる細長い形状をしている。以下、電極指の延びる方向を電極指方向をと称する。バスバー3a−1、3b−1には、等間隔で平行に並んだ複数の電極指が接続される。一方のIDT電極3aの電極指3a−1と、他方のIDT電極3bの電極指3b−1が交互にかつ平行に並ぶように配置されている。弾性波は、電極指3a−2、3b−2の電極指方向に垂直な方向に伝播する。弾性波の伝播方向において、1波長(λ)分の区間に、電極指3a−2と電極指3b−2が少なくとも1本ずつ含まれるように、電極指が配置される。IDT電極3a、3bの電極指方向においては、バスバー3a−1、3b−1が設けられるバスバー領域、隣り合う電極指が弾性波の伝播方向において重なる交差領域、電極が存在しないギャップ領域が含まれる。これらの領域のうち、交差領域が弾性波の励起に寄与している。なお、IDT(Inter Digital Transducer)は、櫛形電極または櫛葉型電極とも称されることがある。
【0015】
各電極指3a−2の先端から、電極指方向において対向するIDT電極(図1に示す例では、バスバー3b−1)までの間は、電極が存在しないギャップ部となっている。すなわち、電極指方向において電極が存在しない部分がギャップ部となっている。このギャップ部においては、誘電体膜4の膜厚が変化している。本実施形態では、電極指の先端から、電極指方向において対向するIDT電極までの間のギャップ部Gにおいて、誘電体膜4の膜厚が連続的に変化している。すなわち、誘電体膜4は、ギャップ部Gにおいて、基板2に対して傾斜する面を有している。IDT電極の電極指3a―2、3b−2における誘電体膜4の膜厚と、バスバー3a―1、3b−1における誘電体膜4の膜厚とは異なっている。本実施形態では、IDT電極領域における誘電体膜4の膜厚は、バスバー領域における誘電体膜4の膜厚より大きくなっている。このように、ギャップ部における誘電体膜4の膜厚を変化させることによって、後述するように、横モードによるスプリアスを低減することができる。また、バスバーや、ダミー部も誘電体膜4に覆われるので、これらがむき出しになることによる信頼性の悪化もない。
【0016】
図1Cは、誘電体膜4を上から見た場合の傾斜部の配置例を示している。図1Cでは、電極指3a―2、3b−2の交差領域でない部分(ダミー部分)においても、誘電体膜4の膜厚が変化している。すなわち、図1Cに示す例では、IDT電極3a、3bのギャップ部およびダミー部分の全てを覆う領域において、誘電体膜に傾斜領域が設けられる。図1Cにおいて、傾斜領域は斜線ハッチングで示されている。また、このように、電極指のダミー部分およびギャップ部において、誘電体膜4に傾斜が設けられることで、さらにスプリアスを低減することができる。
【0017】
一例として、電極指3a−2、3b−2の長さは30λ、ギャップ部の長さ(ギャップ長)を0.25λ、誘電体4の膜厚を0.3λとすることができる。本実施形態では、電極対数は70対、反射器対数は15対としている。誘電体膜4形成時のエッチングの条件を調整することにより、誘電体膜4の表面の一部を基板面に対して傾斜させることができる。傾斜角は、例えば、35度とする。バスバー領域の誘電体膜4の膜厚は0.05λとすることができる。この場合、電極指方向における傾斜部分の長さ(底辺の長さ)は0.35λとなり、誘電体膜4の傾斜は電極指からバスバーまで続き、ギャップ全体を覆う形となっている。これにより、プロセスマージンも0.1λと大きくとることができ、プロセスの再現性の面から好ましい。
【0018】
図1A〜図1Cに示す例では、一方のIDT電極3aの電極指3a―2が隣の電極指3b−2と、弾性波の伝播方向において重なる(=交差する)部分の長さ(=交差幅)は、弾性波の伝播方向において一定である。これは、正規型電極と呼ばれることがある。正規型電極では、IDT電極の開口長方向に高次のモード(横モード)が立ちやすく、それを抑える技術として交差幅に重み付けをつけるアポタイズ重み付けが用いられることがあるが、本実施形態では、上記のように、誘電体膜4の膜厚がギャップ部で変化する構成なので、正規型電極であっても、十分に横モードを抑えることができる。なお、上記構成において、交差幅を一定とせず、アポタイズ重み付けを施してもよい。これにより、横モード発生をさらに抑えることもできる。
【0019】
[測定結果]
図2は、誘電体膜に傾斜を設けない構造の弾性波デバイスの一例を示す図である。図2に示す弾性波デバイスにおいて、基板101およびIDT電極103a、103bの構造は図1A〜図1Cと同様である。誘電体膜104には傾斜が設けられていない。すなわち、誘電体膜104の全体に渡って膜厚は一定である。
【0020】
以下に、図1A〜図1Cに示す弾性波デバイス1と、図2に示す弾性波デバイスについて、共振周波数、反共振周波数間におけるコンダクタンスを測定した結果を示す。図3は、図1A〜図1Cに示す弾性波デバイスのコンダクタンスを測定した結果を示すグラフであり、図4は、図2に示す弾性波デバイスのコンダクタンスを測定した結果を示すグラフである。図3および図4に示す結果によれば、誘電体膜に傾斜がある構造の場合、傾斜のない構造に比べて、横モードによるスプリアスが低減されていることがわかる。
【0021】
図5は、誘電体膜に傾斜を設けた弾性波デバイス(図1A〜図1C)と、傾斜を設けない弾性波デバイス(図2)それぞれについて、弾性波デバイスを駆動させた状態で、弾性波の分布を測定した結果を示すグラフである。図5は、高次の横モードである3次モードが発生している周波数を駆動周波数として測定された結果を示す。また、図5のグラフは、A−A線断面における弾性波分布のプロファイルを示す。図5において、縦軸が弾性波の変位量であり、横軸がA−A線における測定位置である。上段のグラフが、誘電体膜に傾斜がない弾性波デバイス(図2に示す弾性波デバイス)の測定結果、下段のグラフが、誘電体膜に傾斜がある弾性波デバイス(図1A〜図1Cに示す弾性波デバイス)の測定結果である。
【0022】
図5に示す測定結果では、誘電体膜に傾斜のない構造では、3次の高次横モードが励振されていることが確認される。一方、誘電体膜に傾斜がある構造では、3次の高次横モードに加え、それ以外の高次の横モードが多数励振されている。
【0023】
横モードが発生する条件としては、横モードの弾性波の反射面における音速が大きく影響している。そこで、本願発明者は、弾性波の反射面を探るとともに、反射面における音速の影響を調べた。その結果、横モードの弾性波の反射面はギャップ部にあることが見出された。さらに、ギャップ部における誘電体膜の膜厚を変化させると、傾斜に応じて、ギャップ部で反射する弾性波に音速差が生じることも見出された。そして、反射面における弾性波に音速差が生じることによって、それぞれの音速に応じて横モードの発生周波数が変化することがわかった。その結果、横モードの発生量が増加することが知見される。この知見に基づいて、ギャップ部における誘電体膜の膜厚を変化させることにより、横モードスプリアスを低減することができることが見出された。
【0024】
図5に示す測定結果により、ギャップ部の誘電体膜に傾斜が設けられた構造では、反射面における弾性波に音速差が生じ、それぞれの音速に応じて横モードの励振周波数が変化していることがわかった。このようにして横モード励振周波数が分散されることにより、スプリアスが低減されたと考えられる。
【0025】
[傾斜角および誘電体膜の膜厚について]
誘電体膜の傾斜角は、例えば、レジスト膜厚、エッチング条件により変更が可能である。そこで、誘電体膜の電極指方向に沿う断面における傾斜角θを80度、70度、45度、35度、33度に変更した場合の、それぞれの横モードスプリアスの大きさを調べた。図6は、図1Aに示す構造の弾性波デバイスにおいて、A−A線断面における誘電体膜4の基板2に対する傾斜角θを変更した場合の横モードスプリアス量の変化を測定した結果を示すグラフである。図6に示す結果から、傾斜角が45度以上では、傾斜角が大きくなるほど横モードスプリアスの大きさも大きくなることがわかる。また、傾斜角が45度以下では、傾斜角が45度以上の場合に比べると、横モードスプリアスの大きさの変化量が小さいことがわかった。
【0026】
これは、傾斜角が45度より小さい場合は、ギャップ部全体を誘電体膜4の傾斜が覆う構成となる。そのため。ギャップ部全体を誘電体膜4の傾斜が覆っているか否かによって、横モードスプリアスの大きさに違いが生じると考えることができる。すなわち、45度以下ではギャップ部全体を誘電体膜の傾斜が覆っているため音速差が十分に得られたと考えることができる。一方45度以上では、ギャップ部の一部しか傾斜がつけられず、傾斜が大きくなるほど音速差が小さくなるため、スプリアス低減量も小さくなる。例えば、傾斜角80度では、傾斜の底辺の長さは0.025λでありギャップの1/10ほどの長さしか傾斜がついておらず、反射面の音速差が十分に得られず、スプリアス低減効果が小さくなる。
【0027】
傾斜角θの誘電体膜4の傾斜による膜厚差をH、ギャップ部の電極指方向におけるギャップ長をLとすると、下記式(1)の満たす場合に、ギャップ部全体を誘電体膜4の傾斜が覆うことになる。
θ≦tan-1(H/L) ―――(1)
例えば、誘電体の膜厚差Hが0.3λであり、ギャップ長が0.25λである場合、傾斜角θが下記式(2)を満たすと、ギャップ部全体を誘電体の傾斜が覆う構成とすることができる。
【0028】
傾斜角θ≦tan-1(0.3/0.25)=50.2 ―――(2)
このように、誘電体膜4の膜厚の変化が、ギャップ部Gより内側から始まり、ギャップGより外側で終わるように構成することで、さらなるスプリアスの低減が可能になる。
【0029】
また、バスバー部上の誘電体膜4の膜厚とIDT電極上の誘電体膜との膜厚差は、電極膜厚(IDT電極の膜厚)より大きいことが好ましい。すなわち、傾斜角θが下記式(3)を満たすことが好ましい。
【0030】
tan-1(電極膜厚/L)<傾斜角θ ―――(3)
また、バスバー3a−1、3b−1の上を誘電体膜4で覆うことにより、共振周波数以下でのスプリアスを低減することができる。
【0031】
図7は、バスバー3a−1、3b−1上の誘電体膜4の膜厚を、0、0.025λ、0.035λ、0.25λと変化させた場合の、共振周波数以下でのコンダクタンス特性および最も大きいスプリアスの大きさを測定した結果を示すグラフである。図7の上段のグラフにおいて、縦軸は弾性波デバイスのコンダクタンス特性を示し、横軸は周波数を示す。下段のグラフにおいて、横軸は誘電体膜4の膜厚、縦軸は最も強く励振されるスプリアスの大きさを示す。
【0032】
図7に示す結果より、バスバー3a−1、3b−1上に残す誘電体膜4の膜厚が、ある一定以上の場合、発生するスプリアスの大きさが小さくなることがわかった。例えば、バスバー3a−1、3b−1上に残す誘電体膜4の膜厚を0.05λより厚くすることにより、共振周波数以下で発生する不要スプリアスの低減量を大きくすることができる。
【0033】
以上より、バスバー3a−1、3b−1上に残す誘電体の膜厚は、誘電体の傾斜角とともに最適値を用いるのが好ましい。
【0034】
[フィルタの構成例]
図8は、共振器を複数配置したラダー型フィルタの回路図の一例である。図9は、図8に示すラダー型フィルタを構成する弾性波デバイスの平面図である。図8に示すラダー型フィルタは、直列腕に接続された直列共振器S1〜S3と、並列腕に接続された並列共振器P1、P2を備える。図9に示す例では、ラダー型フィルタは、圧電基板上2に設けられた直列共振器S1〜S3、並列共振器P1、P2およびこれらを接続する配線パターンにより構成される。各共振器においては、圧電基板2上に、IDT電極3a、3bおよび反射器5が設けられ、さらにこれらを覆うように誘電体膜4が設けられている。ギャップ部においては、誘電体膜4に傾斜が設けられている。すなわち、各共振器は、図1A〜図1Cに示す弾性波デバイスの構成となっている。
【0035】
図10は、図9に示すフィルタの周波数特性(実線)および、誘電体膜に傾斜を設けない弾性波デバイスを共振器に用いた場合のフィルタの周波数特性(破線)の測定結果を示すグラフである。図10に示した結果によれば、誘電体膜に傾斜を設けた弾性デバイスを用いたフィルタに方が、横モードスプリアスが少なくなっている。
【0036】
[変形例1]
図11は、変形例1における弾性波デバイスの断面図およびIDT電極の一部の平面図である。図11の上段の断面図は、図11の下段の平面図におけるA−A線の断面を示す。図11に示す弾性波デバイスでは、誘電体膜4の傾斜は、ギャップ部から0.5λだけバスバー側(外側)の位置から始まっている。すなわち、ギャップ部より外側のバスバー上の誘電体膜4に傾斜が設けられる。図12は、図11の弾性波デバイスについて、コンダクタンスを測定した結果を示すグラフである。図12に示す結果では、傾斜を設けない場合(図4)に比べて横モードスプリアスは低減されている。このように、弾性波デバイスにおいて、誘電体膜の一部の膜厚を薄くすることで傾斜を設けた構造により、横モードスプリアスを低減することが可能になる。しかし、図12の結果からは、傾斜をバスバー上部に設けた場合、その低減量は、ギャップ部に傾斜がある場合(図3)より小さいことがわかる。図11に示す例は、傾斜部により横モードの発生周波数を分散することで、バスバーにまで染み出したエネルギーを分散させるものであるから、反射面であるギャップ部に傾斜がある構成と比べると横モード低減効果が小さくなったものと考えられる。このことから、誘電体膜4の傾斜は、弾性波の反射面つまりはギャップ部にあることで、よりスプリアス低減効果が大きくなるといえる。
【0037】
[変形例2]
図13は、変形例2における弾性波デバイスの断面図およびIDT電極の一部の平面図である。図13の上段の断面図は、図13の下段の平面図におけるA−A線の断面を示す。図13に示す弾性波デバイスでは、電極指3a―2、3b−2上の誘電体膜4の膜厚が、バスバー3a−1、3b−1上の誘電体膜4の膜厚より小さくなっている。これにより、ギャップ部において、誘電体膜4に傾斜を形成することができる。
【0038】
[変形例3]
図14Aは、変形例3における弾性波デバイスの断面図である。図14Bは、本変形例の弾性波デバイスのIDT電極3a、3bおよび反射器5の上面図である。図14Cは、図14Aに示す弾性波デバイスの誘電体膜における傾斜部を示すための上面図である。図14Aの断面図は、図14Bおよび図14CにおけるA−A線の断面を示す。
【0039】
図1Cに示した誘電体膜4の傾斜部は、IDT電極3a、3bのギャップ部を覆うよう弾性波の伝播方向に延びて形成され、さらに、IDT電極3a、3bの両側の反射器5まで延びて形成されていた。これに対して、図14Aおよび図14Cに示す例では、誘電体膜4の傾斜部は、IDT電極3a、3bのギャップ部を通って伝播方向に延びた後、電極指方向に垂直に曲がって、反射器5とIDT電極3a、3bの間に形成される。このように誘電体膜4の傾斜部を形成にすることは、製造効率の観点から好ましい。
【0040】
[通信機器]
上記の弾性波デバイスや、弾性波フィルタを含むモジュール、通信機器も本発明の実施形態の一つである。
【0041】
図15は、通信機器の構成例を示す図である。図15に示す通信機器50においては、モジュール基板51上に、通信モジュール60、RFIC53およびベースバンドIC54が設けられている。通信モジュール60には、例えば、上記実施形態で示した弾性波デバイスを用いることができる。
【0042】
通信モジュール60の送信端子TxはRFIC53に接続され、受信端子RxもRFIC53に接続されている。RFIC53はベースバンドIC54に接続されている。RFIC53は、半導体チップおよびその他の部品により形成することができる。RFIC53には、受信端子から入力された受信信号を処理するための受信回路および、送信信号を処理するための送信回路を含む回路が集積されている。
【0043】
また、ベースバンドIC54も半導体チップおよびその他の部品により実現することができる。ベースバンドIC54には、RFIC53に含まれる受信回路から受け取った受信信号を、音声信号やパッケットデータに変換するための回路と、音声信号やパッケットデータを送信信号に変換してRFIC53に含まれる送信回路に出力するため回路とが集積される。
【0044】
図示しないが、ベースバンドIC54には、例えば、スピーカ、ディスプレイ等の出力機器が接続されており、ベースバンドIC54で受信信号から変換された音声信号やパケットデータを出力し、通信機器50のユーザに認識させることができる。また、マイク、ボタン等の通信機器50が備える入力機器もベースバンドIC54に接続されており、ユーザから入力された音声やデータをベースバンドIC54が送信信号に変換することができる構成になっている。なお、通信機器50の構成は、図9に示す例に限られない。
【0045】
[その他]
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明の実施形態は上記例に限られない。例えば、上記実施形態では、ギャップ部全体にわたって誘電体膜に傾斜が設けられる構成について説明したが、ギャップ部の少なくとも一部において誘電体膜の膜厚が変化する構成であってもよい。また、誘電体膜の膜厚が連続的に変化して傾斜面を形成する場合について説明したが、誘電体膜の膜厚変化は断続的であってもよい。また、上記実施形態では、基板が圧電体であるが、誘電体膜または、基板および誘電体膜の双方を圧電体としてもよい。さらに、本発明が適用される弾性波デバイスは、弾性表面波(SAW)、ラブ波、ラム波および境界波のいずれを用いてもよい。また、上記実施形態では、1ポート型弾性波共振器の例であるため、一組のIDT電極が反射器に挟まれて配置されていたが、弾性波デバイスの用途に応じて、複数組のIDT電極が形成されてもよい。また、反射器を設けなくてもよい。
【符号の説明】
【0046】
1 弾性波デバイス
2 基板
3a、3b IDT電極
4 誘電体膜
5 反射器
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に形成された誘電体膜と、
前記基板と前記誘電体膜との間に設けられるIDT電極とを備え、
前記基板および誘電体膜の少なくとも一方が圧電体であり、
前記IDT電極は、少なくとも1つの方向に延びて形成される電極指を含み、
前記電極指の先端から、前記電極指の延びる方向において対向するIDT電極までの間のギャップ部において、前記誘電体膜の膜厚が変化している、弾性波デバイス。
【請求項2】
前記誘電体膜の膜厚の変化は、前記ギャップ部より内側から始まり、前記ギャップより外側で終わる、請求項1に記載の弾性波デバイス。
【請求項3】
前記IDT電極は、バスバーと、バスバーに接続される電極指とを含み、
前記バスバーにおける前記誘電体膜の膜厚と、前記電極指部分における前記誘電体膜の膜厚とは異なる、請求項1または2に記載の弾性波デバイス。
【請求項4】
前記誘電体膜の膜厚の変化による膜厚差H、前記膜厚の変化による傾斜角θ、および前記ギャップ部の前記電極指の延びる方向におけるギャップ長Lが、下記式(1)の満たす関係にある、請求項1〜3のいずれか1項に記載の弾性波デバイス。
θ≦tan-1(H/L) ―――(1)
【請求項5】
前記誘電体膜の膜厚の変化によって生じる膜厚の差は、前記IDT電極の厚みより大きい、請求項1〜4のいずれか1項に記載の弾性波デバイス。
【請求項6】
前記IDT電極において、複数の電極指が弾性波の伝播方向に交互に並べて配置されており、前記複数の電極指の交差長は、前記伝播方向において一定である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の弾性波デバイス。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の弾性波デバイスを備えた通信機器。
【請求項1】
基板と、
前記基板上に形成された誘電体膜と、
前記基板と前記誘電体膜との間に設けられるIDT電極とを備え、
前記基板および誘電体膜の少なくとも一方が圧電体であり、
前記IDT電極は、少なくとも1つの方向に延びて形成される電極指を含み、
前記電極指の先端から、前記電極指の延びる方向において対向するIDT電極までの間のギャップ部において、前記誘電体膜の膜厚が変化している、弾性波デバイス。
【請求項2】
前記誘電体膜の膜厚の変化は、前記ギャップ部より内側から始まり、前記ギャップより外側で終わる、請求項1に記載の弾性波デバイス。
【請求項3】
前記IDT電極は、バスバーと、バスバーに接続される電極指とを含み、
前記バスバーにおける前記誘電体膜の膜厚と、前記電極指部分における前記誘電体膜の膜厚とは異なる、請求項1または2に記載の弾性波デバイス。
【請求項4】
前記誘電体膜の膜厚の変化による膜厚差H、前記膜厚の変化による傾斜角θ、および前記ギャップ部の前記電極指の延びる方向におけるギャップ長Lが、下記式(1)の満たす関係にある、請求項1〜3のいずれか1項に記載の弾性波デバイス。
θ≦tan-1(H/L) ―――(1)
【請求項5】
前記誘電体膜の膜厚の変化によって生じる膜厚の差は、前記IDT電極の厚みより大きい、請求項1〜4のいずれか1項に記載の弾性波デバイス。
【請求項6】
前記IDT電極において、複数の電極指が弾性波の伝播方向に交互に並べて配置されており、前記複数の電極指の交差長は、前記伝播方向において一定である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の弾性波デバイス。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の弾性波デバイスを備えた通信機器。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14A】
【図14B】
【図14C】
【図15】
【図1B】
【図1C】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14A】
【図14B】
【図14C】
【図15】
【公開番号】特開2011−182096(P2011−182096A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−42663(P2010−42663)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(000204284)太陽誘電株式会社 (964)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(000204284)太陽誘電株式会社 (964)
【Fターム(参考)】
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