弾性波フィルタ及び携帯端末
【課題】要求される通過域においては低損失の特性を備えかつ通過域外の複数の減衰域では急峻で大きな減衰量を得ることができ、しかもインダクタの使用個数を低減することができる弾性波フィルタを提供すること。
【解決手段】入力端と出力端との間に並列腕として4段に接続された弾性波共振子と、互いに隣接する前記弾性波共振子の間に夫々直列腕として設けられた3段の弾性波共振子と、これら3段の弾性波共振子に夫々並列に接続された3段のインダクタと、を備え、前記並列腕である4個の弾性波共振子の共振周波数を入力端側の弾性波共振子から出力端側の弾性波共振子に向かって順にf1、f2、f3、f4とすると、その大きさはf1<f2<f4<f3であるように弾性波フィルタを構成する。減衰域に割り当てる極の数が多くなり、その上減衰域の劣化を抑えることができるので上記のような減衰量を得ることができる。
【解決手段】入力端と出力端との間に並列腕として4段に接続された弾性波共振子と、互いに隣接する前記弾性波共振子の間に夫々直列腕として設けられた3段の弾性波共振子と、これら3段の弾性波共振子に夫々並列に接続された3段のインダクタと、を備え、前記並列腕である4個の弾性波共振子の共振周波数を入力端側の弾性波共振子から出力端側の弾性波共振子に向かって順にf1、f2、f3、f4とすると、その大きさはf1<f2<f4<f3であるように弾性波フィルタを構成する。減衰域に割り当てる極の数が多くなり、その上減衰域の劣化を抑えることができるので上記のような減衰量を得ることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばSAW(surface acoustic wave:弾性表面波)フィルタなどの弾性波フィルタ及びこの弾性波フィルタを用いた例えばデジタル地上波TV受信機付き携帯端末に関する。
【背景技術】
【0002】
2003年より、日本国内のデジタル地上波放送が始まり、また2000年よりヨーロッパを初めとしてデジタル地上波放送のサービスが開始された。一方、携帯端末の普及と伴に、従来の携帯端末の電話機能に対してメール機能などの各種高付加価値のサービスが提供されるようになってきた。このような流れの中で、世界の携帯端末の製造メーカでは、これまでの携帯電話機能に加えて、デジタル地上波用TV放送の受信機能をもたせたデジタル地上波TV受信機付き携帯端末とすることで、デジタル地上波放送を受信するサービスを取り込むことが検討されている。
【0003】
この種の携帯端末向けデジタル地上波TVチューナーモジュールは、携帯端末向けであることにより、受信感度のようなチューナー本来の特性面の課題に加え、小消費電力・小型化・低背化が要求され、さらに送信電波が受信電波を妨害するのを防止することが要求される。
【0004】
図15にデジタル地上波TV受信機付き携帯端末の送受信部の構成図を示す。デジタルTV放送を受信可能な携帯端末では、音声(及びデータ)通信とTV放送の周波数帯の違いにより、デジタルTV放送を受信するためのアンテナ1と、音声(及びデータ)通信信号を送受信するためのアンテナ2の2本のアンテナが近接配置される。ここで、通常、デジタルTV放送波は微弱電波(−90dBm)のため、TVチューナーモジュール10の受信感度は非常に高く設計される。一方、携帯端末としての音声(及びデータ)を送信する音声送信部4の送信波はアンテナ2から非常に強い電波(約+30dBm)を発射させる。このため、音声(及びデータ)通信の送信波はアンテナ1を介してTV放送のチューナーモジュール10まで到達し、TV放送の受信に妨害を与える。このため、デジタル地上波TV受信機付き携帯端末では、D/U比(Desired/Undesired:希望波とゴースト波の電力比)は120dB必要とも言われている。
【0005】
ところで日本国内におけるデジタルTV放送の受信帯域は470MHz〜770MHzであり、この受信帯域よりも高周波側に音声通信の送信帯域が近接して存在する。この送信帯域は通信事業者ごとに異なるが、現状では、824〜830MHz、898〜925MHz、1940〜1960MHzの送信帯域が存在する。図16は、デジタルTV放送の受信帯域と通信事業者が使用する音声通信の送信帯域とに夫々対応する通過域と減衰域とを示す特性図である。
【0006】
既述のように、アンテナが近接配置され、送受信電波の帯域が互いに近接した場合、音声やデータ通信の送信電波がアンテナを介してデジタルTV放送受信アンテナに回り込み、TV放送の微弱な受信波に妨害を与える問題がある。この妨害を避けるため、デジタルTV放送の受信アンテナの根元に、急峻な減衰量を持つフィルタを設けることが要求される。
【0007】
図17に、上記の要求を満足するような、デジタル地上波用TVチューナーモジュールの受信系統の構成例を示す。BEF回路(バンド・エリミネーション・フィルタ回路)11は、携帯電話の送受信アンテナ(図示省略)から発射される送信電波周波数帯に急峻な抑圧(−50〜−60dB)特性をもち、アンテナ1で受信するデジタル地上波TV電波を低損失で取り込む。LCフィルタ12は、チップコイルやチップインダクタで構成され、送信電波周波数帯を抑圧(−20〜−40dB)する。バラン回路13は、送信電波周波数帯を抑圧(−10〜−20dB)しながらTV放送波を平衡−不平衡変換する。IC回路14は、変調波になるTV信号をベースバンドに変換する。
【0008】
BEF回路に要求される特性は、デジタルTV放送の受信帯域においては低損失であり(減衰量が小さく)、音声やデータ放送の送信帯域においては減衰傾度が急峻でありかつ大きな減衰量が必要となる。BEF回路として一般に、コイルやキャパシタを使用した受動回路や誘電体の高いQ値を利用した誘電体フィルタ、また前記受動回路をパターン上に配置させ、更に焼結させるLTCCやHTCCのような積層チップ部品がある。しかし、携帯端末の中に実装されるモジュールにおいては、その実装面積とスペースは制限を受けることから、このような構成では限界がある。また、デジタルTV放送の受信帯域と音声やデータ放送の送信帯域は非常に近接しているため、急峻な減衰特性が必要であり、従来のフィルタ設計理論では、急峻度を上げるためには、フィルタの構成要素である共振回路を二段以上に接続させるため、通過域の損失は非常に大きなものとなる。
【0009】
そこで小消費電力・小型化・低背化を可能にするフィルタとして、SAW(弾性表面波)フィルタがある。しかしSAW共振子単体でSAWフィルタを構成するのでは広い通過域と大きな減衰量を得るのが難しい。一方、特許文献1には並列腕であるSAW共振子を、伝送路(信号路)に設けたインダクタを介して複数段接続する構成が記載されており、この手法を取り込めば、減衰量の小さな通過域とこの通過域に接近しかつ大きな減衰量が得られる減衰域とを確保することができる。図18は、7個の並列腕であるSAW共振子31と位相反転用の(位相を90度ずらすための)インダクタ32とを接続して構成したSAWフィルタ3であり、33は入力ポート、34は出力ポートを示している。
【0010】
824〜830MHzの減衰域を第1の減衰域、898〜925MHzの減衰域を第2の減衰域と呼ぶことにすると、7個のSAW共振子31のうちの3個について第1の減衰域にて並列共振するものを割り当て、残りの4個については第2の減衰域にて並列共振するものを割り当てている。図19はこの回路のフィルタ特性を示しており、上記の要求を満足する優れたフィルタ特性が得られることが分かる。そしてこのSAWフィルタにおいては、SAW共振子31の接続段数を増やすことにより大きな減衰量を確保することができる。
【0011】
ところでSAW共振子の接続段数を増やすとそれに伴いインダクタの数も増えるため、デバイスのサイズが次の理由により大きくなってしまう。インダクタを配線パターンにより作成しようとすると、大きなパターンを屈曲させかつ膜厚を大きくする必要があるため導体損失が大きくなり、Q値が低くなることから外付けのコイルを用いることが現実的である。図20は、外付けコイルを用いた場合のSAWフィルタの概略斜視図であり、35は配線基板、36はSAW共振子が形成されたSAWデバイス、37は外付けコイルである。この図から分かるように、外付けコイルの装着数が多くなるとデバイスのサイズが大きくなり、デバイスの小型化を阻む大きな要因になっている。携帯端末は、機能の多様化などに伴い、益々の小型化が要求されることから、SAWフィルタデバイスの一層の小型化を図ることのできる技術が要請されている。
【特許文献1】特開2004−104799
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、要求される通過域においては低損失の特性を備えかつ通過域外の複数の減衰域では急峻で大きな減衰量を得ることができ、しかもインダクタの使用個数を低減することができて小型化に寄与することができる弾性波フィルタを提供すること及びこの弾性波フィルタを備えた携帯端末を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の弾性波フィルタは、通過域よりも高域側または低域側に複数の減衰域を形成するための弾性波フィルタにおいて、
入力端と出力端との間に並列腕として4段に接続された弾性波共振子と、
互いに隣接する前記弾性波共振子の間に夫々直列腕として設けられた3段の弾性波共振子と、
これら3段の弾性波共振子に夫々並列に接続された3段のインダクタと、
を備え、
前記並列腕である4個の弾性波共振子の共振周波数を入力端側の弾性波共振子から出力端側の弾性波共振子に向かって順にf1、f2、f3、f4とすると、その大きさはf1<f2<f4<f3であることを特徴とする。
【0014】
この弾性波フィルタは、例えばデジタル地上波テレビ放送用の受信帯域を通過域とし、携帯端末としての音声及び/またはデータの送信帯域を減衰域とする。
【0015】
本発明の携帯端末は、デジタル地上波テレビ放送用の電波を受信するためのアンテナ及び受信部と、携帯端末としての音声及び/またはデータを送受信するためのアンテナとを、備え、前記受信部に上述の弾性波フィルタが設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の弾性波フィルタは、4段に接続された並列腕である弾性波共振子の各々の間に直列腕をなす弾性波共振子とインダクタとの並列回路を備えているため、並列腕の弾性波共振子の各々から得られる極に加えて、前記並列回路の各々から2つの極が得られる。従って減衰域に割り当てる極の数が多くなり、その上並列腕の弾性波共振子の共振周波数の並びと減衰域の劣化との関係に着目して、並列腕の弾性波共振子の共振周波数の並びに工夫をしているため、各極を適切に配置することで、低損失の特性を備え且つ通過域外の複数の減衰域では急峻で大きな減衰量を得ることができる。しかも位相反転用のインダクタの使用個数を低減することができてデバイスの小型化に寄与することができるという効果がある。また極の数が多いことから、これらの極の配置の自由度が大きくフィルタの設計が容易であるという利点もある。
従って本発明の弾性波フィルタは例えば携帯端末に好適であり、またデジタル地上波テレビ放送用の受信帯域を通過域とし、携帯端末としての音声及び/またはデータの送信帯域を減衰域とする場合に極めて適しており、デジタル地上波TV受信機付き携帯端末のTVチューナーにおける送信電波がデジタルTV放送の受信波に妨害を与えるのを防止するのに好適となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の実施形態の説明に先立って、本発明の構成に至った背景及び既述の要請に見合った伝送特性が得られる理由などについて述べておく。図1(a)は1つの弾性波共振子であるSAW共振子の等価回路を示しており、Rsは直列抵抗(動抵抗)、Lsは直列インダクタンス(動インダクタンス)、Csは直列容量(動容量)、Cdは電極容量(制動容量)、R0は外部抵抗、41は入力端子、42は出力端子である。入力端及び出力端の終端インピーダンスは各々50Ωである。
【0018】
図1(b)は図1(a)のSAW共振子の伝送特性を示している。図中S11、S21は夫々反射特性、通過特性を示しており、SAW共振子が短絡する周波数即ち直列共振周波数(共振点)において通過特性が最も落ち込んで極が形成され、またSAW共振子がオープンになる周波数即ち並列共振周波数(反共振点)において反射特性が最も落ち込んで零点が形成される。これらの図の反射特性S11、通過特性S21は、SAW共振子の特性として一つの零点及び一つの極が存在することを示している。
【0019】
続いてインダクタとSAW共振子との関係について説明する。図2(a)は、SAW共振子43に並列にインダクタ44を接続した回路45を示している。また、図2(b)は前記回路45の反射特性S11及び通過特性S21を示したものであり、これら反射特性S11及び通過特性S21は一つの零点とその両側に2つの極とが存在することを示している。
【0020】
また、図3(a)においてA1、A2は、SAW共振子43、インダクタ44夫々の単体構成におけるアドミタンス特性の解析例を示しており、そして図3(b)では図2(a)の回路45のアドミタンス特性の解析例を示している。SAW共振子43単体のアドミタンス特性としては、零点とその右側(周波数の高い側)において一つの極とが存在している。また、インダクタ44のアドミタンス特性としては零点及び極が存在しない。しかし、SAW共振子43に対して並列にインダクタ44を挿入することにより、前記零点は移動せずに、零点よりも右側にあった極がさらに右側に移動すると共に0Hzに縮退していた極が零点の左側(周波数の低い側)に現れる。従って、このアドミタンスの解析例からもSAW共振子に並列にインダクタを接続することで、零点の左右両側に極を形成できることが示された。
【0021】
続いて図4に4つのSAW共振子と3つのインダクタとからなるSAWフィルタ4の回路構成を示す。このSAWフィルタ4では、アースに接続された入力信号印加部分である入力ポート(入力端)51と、アースに接続された出力信号取り出し部分である出力ポート(出力端)52との間の信号路において、4段に並列腕SAW共振子が接続されている。これらSAW共振子は入力側から出力側に向かって夫々S1、S2、S3、S4の符号を割り当てている。また、前記信号路において各SAW共振子S1、S2、S3、S4について互いに隣接するもの同士の間にインダクタL1、L2、L3が各々入力側から出力側に向かってこの順に介挿されている。
【0022】
図5(a)は、このSAWフィルタ4の通過特性を示しており、図5(b)は図5(a)における400MHz〜1000MHzの帯域の特性を拡大して示したものである。インダクタを並列に接続しない場合、1つのSAW共振子はその通過特性に1つの極を持つことから、図5(a)、(b)に示すように、このSAWフィルタ4の特性としては4つの極が存在する。そして、この例では4つの各極は第1の減衰域及び第2の減衰域に合わせこまれているが、各減衰域において20〜30dB程度の減衰量しか得られていない。従って、目標とする50dB以上の減衰量を確保するためには、より多くの極が必要であると言える。
【0023】
ところで、上記のようにSAWフィルタとインダクタとを並列に接続した場合に、形成される極の位置について検証する。図6(a)は、上記のSAWフィルタ3を構成する各インダクタL1を入力ポート51、出力ポート52間に直列に介挿し、このインダクタL1に対して並列にSAW共振子S5を接続した回路C1について示している。また、図6(b)は、インダクタL1の代わりにインダクタL2を、SAW共振子S5の代わりにSAW共振子S6を夫々用いて回路C1と同様に構成した回路C2について示している。図6(c)は、インダクタL1の代わりにインダクタL3を、SAW共振子S5の代わりにSAW共振子S6を夫々用いて回路C1と同様に構成した回路C3について示している。インダクタL1、L2、L3は互いにインダクタンス値が異なっており、またSAW共振子S5、S6、S7は互いに共振周波数が異なっている。
【0024】
図7(a)、(b)はこれら回路C1、C2及びC3の広域特性、800MHz帯における詳細特性を夫々示したものである。これらの図に示されるように、各回路C1〜C3は、各々2つの極を持ち、各回路ごとにこれらの極は互いに異なった周波数に出現しているので、これらの極が出現する周波数を制御することができると言える。従ってSAWフィルタ4のインダクタにSAW共振子を並列に接続して、極の数を増やし、各極を減衰域に対して合わせこむことで、各減衰域で高減衰なSAWフィルタを構成することができる。
【0025】
上述の研究に基づいて構成された、本発明の実施の形態に係るSAWフィルタ5の構成を図8に示す。このSAWフィルタ5では、図4に示したSAWフィルタ4と同様に、入力ポート51と出力ポート52との間の信号路に4段に並列腕SAW共振子S1、S2、S3、S4が入力側から出力側に向かってこの順に接続されている。そして、各並列腕SAW共振子S間の信号路には互いに並列に接続された、夫々組となるインダクタL1及びSAW共振子S4、インダクタL2及びSAW共振子S5、インダクタL3及びSAW共振子S6がこの順に出力側に向かって夫々介挿されている。別の言い方をすれば、入力端と出力端との間に並列腕として4段に接続された弾性波共振子S1〜S4が設けられ、互いに隣接する前記弾性波共振子S1、S2、S3、S4の間に夫々直列腕として3段の弾性波共振子S5、S6、S7が設けられ、さらにこれら3段の弾性波共振子S5〜S7に夫々並列に3段のインダクタL1、L2、L3が接続されている。これらインダクタL1〜L3の各々は当該インダクタを通過する信号の位相を90度ずらす(位相を反転させる)役割を持っている。
【0026】
また、並列腕SAW共振子S1、S2、S3、S4の共振周波数を夫々f1、f2、f3、f4とすると、このSAWフィルタ5においてはf1<f2<f4<f3となるように構成している。このような構成にしている理由については後述する。
【0027】
図9(a)は、このSAWフィルタ5における通過特性を示している。また、図9(b)は、この図9(a)の400MHz〜1000MHzにおける通過特性を拡大して示しており、図10は図9(a)の800MHz帯における通過特性を拡大して示している。上記のように図4に示したSAWフィルタ4は4つの極を有しており、SAWフィルタ5では、このSAWフィルタ4に対して3つのSAW共振子S5〜S7が追加され、これらのSAW共振子S5、S6、S7はインダクタL1、L2、L3に夫々並列に接続されている。そして、インダクタに並列に接続されたSAW共振子1つについて2つの極が発生することから、SAW共振子S5、S6、S7を追加することで、これらSAW共振子S5、S6及びS7から6つの極が発生する。従って、図8に示したSAWフィルタ5は、その伝送特性として10個の極を持ち、この10個の極を各減衰域に応じて配置することで、図9(a)、(b)及び図10に示すように通過域での減衰を抑えると共に各減衰域にて50dB以上の大きな減衰量を得ることができる。
【0028】
ところで、図11(a)はSAWフィルタ5と同様に構成したSAWフィルタ6であるが、SAW共振子S1、S2、S3、S4の夫々の共振周波数f1、f2、f3、f4は、f1<f2<f3<f4となっている。このSAWフィルタ6の特性を図11(b)、図11(c)及び図12に示す。図11(c)は、図11(b)の400〜1000MHzの帯域における特性を拡大して示したものであり、図12は、図11(b)の800MHz帯における通過特性を拡大して示している。図10と図12とを比較して、SAWフィルタ6ではSAWフィルタ5に比べて第2の減衰域の広域側の特性が劣化していることが分かる。
【0029】
さらに、上述のようにSAW共振子S1〜S4の共振周波数f1〜f4を設定することが有効となる理由について検討する。図13(a)はSAWフィルタ6において、インダクタL1〜L3をなくした構成とした回路61を示している。図13(b)はこの回路61の広域特性を示したものであり、図13(c)には図13(a)の800MHz帯における特性を拡大して示している。これら図13(b)(c)に示すように、第2の減衰域に減衰量の小さい点、いわゆるヌル点が存在している。
【0030】
図14(a)はSAWフィルタ5において、インダクタL1〜L3をなくした構成とした回路62を示している。また、図14(b)はこの回路62の広域特性を示したものであり、図14(c)には図14(b)の800MHz帯における特性を拡大して示している。この図14(b)、(c)に示すように回路62は、第1の減衰域及び第2の減衰域においてヌル点のない特性を持つ。
【0031】
このように、各並列腕SAW共振子の共振周波数の関係により、ヌル点が発生し、このヌル点が所要の減衰域の中にあると、減衰特性の劣化が起こる。しかし、f1<f2<f4<f3となるように並列腕SAW共振子S1〜S4を配置することにより、各減衰域においてヌル点を持たないように広帯域の減衰域を作ることができる。
【0032】
以上のように本発明の実施の形態によればインダクタの数を少なくしながら目的とする伝送特性、即ち通過特性の高域側に設定されている複数の減衰域にて急峻で大きな減衰量を確保できる伝送特性を得ることができる。なお複数の減衰域は通過域の低域側に存在していてもよい。既述のようにインダクタは外付け部品であるコイルにより構成されることが得策であるが、その場合部品のサイズが大きくなることから、インダクタの数を少なくできることはデバイスの小型化に寄与することができ、例えば携帯端末に組み込む弾性波フィルタとしては極めて好適である。
【0033】
以上において、弾性波共振子は、弾性表面波を利用した共振子(SAW共振子)に限られず、最近になって公表されている圧電基板の表面よりも内部を伝播する弾性波を利用した共振子であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】SAW共振子の等価回路とその反射特性及び通過特性とを示した図である。
【図2】前記SAW共振子にインダクタを並列に接続した回路構成とその回路の反射特性及び通過特性とを示した図である。
【図3】前記回路のアドミタンス特性を示した特性図である。
【図4】並列腕SAW共振子及びそれに直列するインダクタを含んだSAWフィルタの構成図である。
【図5】前記SAWフィルタの通過特性を示した特性図である。
【図6】減衰極の位置を検証するために用いた各回路の構成図である。
【図7】前記各回路の通過特性を示した特性図である。
【図8】本発明のSAWフィルタの構成図である。
【図9】前記SAWフィルタの通過特性を示した特性図である。
【図10】前記SAWフィルタの通過特性を示した特性図である。
【図11】各SAWフィルタの通過特性を示した特性図である。
【図12】各SAWフィルタの通過特性を示した特性図である。
【図13】本発明のSAWフィルタの特性を検証するための回路構成とその通過特性とを示した図である。
【図14】本発明のSAWフィルタの特性を検証するための回路構成とその通過特性とを示した図である。
【図15】TV放送波を受信する携帯端末の構成図である。
【図16】前記携帯端末に要求される通過域及び減衰域を示した図である。
【図17】前記携帯端末のチューナーモジュールの構成図である。
【図18】従来のSAW共振子を用いたSAWフィルタの構成図である。
【図19】前記SAWフィルタの通過特性を示した特性図である。
【図20】SAWフィルタの概観の一例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0035】
L1、L2、L3 インダクタ
S1〜S7 SAW共振子
1 デジタル地上波TV放送用アンテナ
2 携帯電話用アンテナ
10 TVチューナーモジュール
20 音声送信部
5、6 SAWフィルタ
51 入力ポート
61 出力ポート
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばSAW(surface acoustic wave:弾性表面波)フィルタなどの弾性波フィルタ及びこの弾性波フィルタを用いた例えばデジタル地上波TV受信機付き携帯端末に関する。
【背景技術】
【0002】
2003年より、日本国内のデジタル地上波放送が始まり、また2000年よりヨーロッパを初めとしてデジタル地上波放送のサービスが開始された。一方、携帯端末の普及と伴に、従来の携帯端末の電話機能に対してメール機能などの各種高付加価値のサービスが提供されるようになってきた。このような流れの中で、世界の携帯端末の製造メーカでは、これまでの携帯電話機能に加えて、デジタル地上波用TV放送の受信機能をもたせたデジタル地上波TV受信機付き携帯端末とすることで、デジタル地上波放送を受信するサービスを取り込むことが検討されている。
【0003】
この種の携帯端末向けデジタル地上波TVチューナーモジュールは、携帯端末向けであることにより、受信感度のようなチューナー本来の特性面の課題に加え、小消費電力・小型化・低背化が要求され、さらに送信電波が受信電波を妨害するのを防止することが要求される。
【0004】
図15にデジタル地上波TV受信機付き携帯端末の送受信部の構成図を示す。デジタルTV放送を受信可能な携帯端末では、音声(及びデータ)通信とTV放送の周波数帯の違いにより、デジタルTV放送を受信するためのアンテナ1と、音声(及びデータ)通信信号を送受信するためのアンテナ2の2本のアンテナが近接配置される。ここで、通常、デジタルTV放送波は微弱電波(−90dBm)のため、TVチューナーモジュール10の受信感度は非常に高く設計される。一方、携帯端末としての音声(及びデータ)を送信する音声送信部4の送信波はアンテナ2から非常に強い電波(約+30dBm)を発射させる。このため、音声(及びデータ)通信の送信波はアンテナ1を介してTV放送のチューナーモジュール10まで到達し、TV放送の受信に妨害を与える。このため、デジタル地上波TV受信機付き携帯端末では、D/U比(Desired/Undesired:希望波とゴースト波の電力比)は120dB必要とも言われている。
【0005】
ところで日本国内におけるデジタルTV放送の受信帯域は470MHz〜770MHzであり、この受信帯域よりも高周波側に音声通信の送信帯域が近接して存在する。この送信帯域は通信事業者ごとに異なるが、現状では、824〜830MHz、898〜925MHz、1940〜1960MHzの送信帯域が存在する。図16は、デジタルTV放送の受信帯域と通信事業者が使用する音声通信の送信帯域とに夫々対応する通過域と減衰域とを示す特性図である。
【0006】
既述のように、アンテナが近接配置され、送受信電波の帯域が互いに近接した場合、音声やデータ通信の送信電波がアンテナを介してデジタルTV放送受信アンテナに回り込み、TV放送の微弱な受信波に妨害を与える問題がある。この妨害を避けるため、デジタルTV放送の受信アンテナの根元に、急峻な減衰量を持つフィルタを設けることが要求される。
【0007】
図17に、上記の要求を満足するような、デジタル地上波用TVチューナーモジュールの受信系統の構成例を示す。BEF回路(バンド・エリミネーション・フィルタ回路)11は、携帯電話の送受信アンテナ(図示省略)から発射される送信電波周波数帯に急峻な抑圧(−50〜−60dB)特性をもち、アンテナ1で受信するデジタル地上波TV電波を低損失で取り込む。LCフィルタ12は、チップコイルやチップインダクタで構成され、送信電波周波数帯を抑圧(−20〜−40dB)する。バラン回路13は、送信電波周波数帯を抑圧(−10〜−20dB)しながらTV放送波を平衡−不平衡変換する。IC回路14は、変調波になるTV信号をベースバンドに変換する。
【0008】
BEF回路に要求される特性は、デジタルTV放送の受信帯域においては低損失であり(減衰量が小さく)、音声やデータ放送の送信帯域においては減衰傾度が急峻でありかつ大きな減衰量が必要となる。BEF回路として一般に、コイルやキャパシタを使用した受動回路や誘電体の高いQ値を利用した誘電体フィルタ、また前記受動回路をパターン上に配置させ、更に焼結させるLTCCやHTCCのような積層チップ部品がある。しかし、携帯端末の中に実装されるモジュールにおいては、その実装面積とスペースは制限を受けることから、このような構成では限界がある。また、デジタルTV放送の受信帯域と音声やデータ放送の送信帯域は非常に近接しているため、急峻な減衰特性が必要であり、従来のフィルタ設計理論では、急峻度を上げるためには、フィルタの構成要素である共振回路を二段以上に接続させるため、通過域の損失は非常に大きなものとなる。
【0009】
そこで小消費電力・小型化・低背化を可能にするフィルタとして、SAW(弾性表面波)フィルタがある。しかしSAW共振子単体でSAWフィルタを構成するのでは広い通過域と大きな減衰量を得るのが難しい。一方、特許文献1には並列腕であるSAW共振子を、伝送路(信号路)に設けたインダクタを介して複数段接続する構成が記載されており、この手法を取り込めば、減衰量の小さな通過域とこの通過域に接近しかつ大きな減衰量が得られる減衰域とを確保することができる。図18は、7個の並列腕であるSAW共振子31と位相反転用の(位相を90度ずらすための)インダクタ32とを接続して構成したSAWフィルタ3であり、33は入力ポート、34は出力ポートを示している。
【0010】
824〜830MHzの減衰域を第1の減衰域、898〜925MHzの減衰域を第2の減衰域と呼ぶことにすると、7個のSAW共振子31のうちの3個について第1の減衰域にて並列共振するものを割り当て、残りの4個については第2の減衰域にて並列共振するものを割り当てている。図19はこの回路のフィルタ特性を示しており、上記の要求を満足する優れたフィルタ特性が得られることが分かる。そしてこのSAWフィルタにおいては、SAW共振子31の接続段数を増やすことにより大きな減衰量を確保することができる。
【0011】
ところでSAW共振子の接続段数を増やすとそれに伴いインダクタの数も増えるため、デバイスのサイズが次の理由により大きくなってしまう。インダクタを配線パターンにより作成しようとすると、大きなパターンを屈曲させかつ膜厚を大きくする必要があるため導体損失が大きくなり、Q値が低くなることから外付けのコイルを用いることが現実的である。図20は、外付けコイルを用いた場合のSAWフィルタの概略斜視図であり、35は配線基板、36はSAW共振子が形成されたSAWデバイス、37は外付けコイルである。この図から分かるように、外付けコイルの装着数が多くなるとデバイスのサイズが大きくなり、デバイスの小型化を阻む大きな要因になっている。携帯端末は、機能の多様化などに伴い、益々の小型化が要求されることから、SAWフィルタデバイスの一層の小型化を図ることのできる技術が要請されている。
【特許文献1】特開2004−104799
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、要求される通過域においては低損失の特性を備えかつ通過域外の複数の減衰域では急峻で大きな減衰量を得ることができ、しかもインダクタの使用個数を低減することができて小型化に寄与することができる弾性波フィルタを提供すること及びこの弾性波フィルタを備えた携帯端末を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の弾性波フィルタは、通過域よりも高域側または低域側に複数の減衰域を形成するための弾性波フィルタにおいて、
入力端と出力端との間に並列腕として4段に接続された弾性波共振子と、
互いに隣接する前記弾性波共振子の間に夫々直列腕として設けられた3段の弾性波共振子と、
これら3段の弾性波共振子に夫々並列に接続された3段のインダクタと、
を備え、
前記並列腕である4個の弾性波共振子の共振周波数を入力端側の弾性波共振子から出力端側の弾性波共振子に向かって順にf1、f2、f3、f4とすると、その大きさはf1<f2<f4<f3であることを特徴とする。
【0014】
この弾性波フィルタは、例えばデジタル地上波テレビ放送用の受信帯域を通過域とし、携帯端末としての音声及び/またはデータの送信帯域を減衰域とする。
【0015】
本発明の携帯端末は、デジタル地上波テレビ放送用の電波を受信するためのアンテナ及び受信部と、携帯端末としての音声及び/またはデータを送受信するためのアンテナとを、備え、前記受信部に上述の弾性波フィルタが設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の弾性波フィルタは、4段に接続された並列腕である弾性波共振子の各々の間に直列腕をなす弾性波共振子とインダクタとの並列回路を備えているため、並列腕の弾性波共振子の各々から得られる極に加えて、前記並列回路の各々から2つの極が得られる。従って減衰域に割り当てる極の数が多くなり、その上並列腕の弾性波共振子の共振周波数の並びと減衰域の劣化との関係に着目して、並列腕の弾性波共振子の共振周波数の並びに工夫をしているため、各極を適切に配置することで、低損失の特性を備え且つ通過域外の複数の減衰域では急峻で大きな減衰量を得ることができる。しかも位相反転用のインダクタの使用個数を低減することができてデバイスの小型化に寄与することができるという効果がある。また極の数が多いことから、これらの極の配置の自由度が大きくフィルタの設計が容易であるという利点もある。
従って本発明の弾性波フィルタは例えば携帯端末に好適であり、またデジタル地上波テレビ放送用の受信帯域を通過域とし、携帯端末としての音声及び/またはデータの送信帯域を減衰域とする場合に極めて適しており、デジタル地上波TV受信機付き携帯端末のTVチューナーにおける送信電波がデジタルTV放送の受信波に妨害を与えるのを防止するのに好適となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の実施形態の説明に先立って、本発明の構成に至った背景及び既述の要請に見合った伝送特性が得られる理由などについて述べておく。図1(a)は1つの弾性波共振子であるSAW共振子の等価回路を示しており、Rsは直列抵抗(動抵抗)、Lsは直列インダクタンス(動インダクタンス)、Csは直列容量(動容量)、Cdは電極容量(制動容量)、R0は外部抵抗、41は入力端子、42は出力端子である。入力端及び出力端の終端インピーダンスは各々50Ωである。
【0018】
図1(b)は図1(a)のSAW共振子の伝送特性を示している。図中S11、S21は夫々反射特性、通過特性を示しており、SAW共振子が短絡する周波数即ち直列共振周波数(共振点)において通過特性が最も落ち込んで極が形成され、またSAW共振子がオープンになる周波数即ち並列共振周波数(反共振点)において反射特性が最も落ち込んで零点が形成される。これらの図の反射特性S11、通過特性S21は、SAW共振子の特性として一つの零点及び一つの極が存在することを示している。
【0019】
続いてインダクタとSAW共振子との関係について説明する。図2(a)は、SAW共振子43に並列にインダクタ44を接続した回路45を示している。また、図2(b)は前記回路45の反射特性S11及び通過特性S21を示したものであり、これら反射特性S11及び通過特性S21は一つの零点とその両側に2つの極とが存在することを示している。
【0020】
また、図3(a)においてA1、A2は、SAW共振子43、インダクタ44夫々の単体構成におけるアドミタンス特性の解析例を示しており、そして図3(b)では図2(a)の回路45のアドミタンス特性の解析例を示している。SAW共振子43単体のアドミタンス特性としては、零点とその右側(周波数の高い側)において一つの極とが存在している。また、インダクタ44のアドミタンス特性としては零点及び極が存在しない。しかし、SAW共振子43に対して並列にインダクタ44を挿入することにより、前記零点は移動せずに、零点よりも右側にあった極がさらに右側に移動すると共に0Hzに縮退していた極が零点の左側(周波数の低い側)に現れる。従って、このアドミタンスの解析例からもSAW共振子に並列にインダクタを接続することで、零点の左右両側に極を形成できることが示された。
【0021】
続いて図4に4つのSAW共振子と3つのインダクタとからなるSAWフィルタ4の回路構成を示す。このSAWフィルタ4では、アースに接続された入力信号印加部分である入力ポート(入力端)51と、アースに接続された出力信号取り出し部分である出力ポート(出力端)52との間の信号路において、4段に並列腕SAW共振子が接続されている。これらSAW共振子は入力側から出力側に向かって夫々S1、S2、S3、S4の符号を割り当てている。また、前記信号路において各SAW共振子S1、S2、S3、S4について互いに隣接するもの同士の間にインダクタL1、L2、L3が各々入力側から出力側に向かってこの順に介挿されている。
【0022】
図5(a)は、このSAWフィルタ4の通過特性を示しており、図5(b)は図5(a)における400MHz〜1000MHzの帯域の特性を拡大して示したものである。インダクタを並列に接続しない場合、1つのSAW共振子はその通過特性に1つの極を持つことから、図5(a)、(b)に示すように、このSAWフィルタ4の特性としては4つの極が存在する。そして、この例では4つの各極は第1の減衰域及び第2の減衰域に合わせこまれているが、各減衰域において20〜30dB程度の減衰量しか得られていない。従って、目標とする50dB以上の減衰量を確保するためには、より多くの極が必要であると言える。
【0023】
ところで、上記のようにSAWフィルタとインダクタとを並列に接続した場合に、形成される極の位置について検証する。図6(a)は、上記のSAWフィルタ3を構成する各インダクタL1を入力ポート51、出力ポート52間に直列に介挿し、このインダクタL1に対して並列にSAW共振子S5を接続した回路C1について示している。また、図6(b)は、インダクタL1の代わりにインダクタL2を、SAW共振子S5の代わりにSAW共振子S6を夫々用いて回路C1と同様に構成した回路C2について示している。図6(c)は、インダクタL1の代わりにインダクタL3を、SAW共振子S5の代わりにSAW共振子S6を夫々用いて回路C1と同様に構成した回路C3について示している。インダクタL1、L2、L3は互いにインダクタンス値が異なっており、またSAW共振子S5、S6、S7は互いに共振周波数が異なっている。
【0024】
図7(a)、(b)はこれら回路C1、C2及びC3の広域特性、800MHz帯における詳細特性を夫々示したものである。これらの図に示されるように、各回路C1〜C3は、各々2つの極を持ち、各回路ごとにこれらの極は互いに異なった周波数に出現しているので、これらの極が出現する周波数を制御することができると言える。従ってSAWフィルタ4のインダクタにSAW共振子を並列に接続して、極の数を増やし、各極を減衰域に対して合わせこむことで、各減衰域で高減衰なSAWフィルタを構成することができる。
【0025】
上述の研究に基づいて構成された、本発明の実施の形態に係るSAWフィルタ5の構成を図8に示す。このSAWフィルタ5では、図4に示したSAWフィルタ4と同様に、入力ポート51と出力ポート52との間の信号路に4段に並列腕SAW共振子S1、S2、S3、S4が入力側から出力側に向かってこの順に接続されている。そして、各並列腕SAW共振子S間の信号路には互いに並列に接続された、夫々組となるインダクタL1及びSAW共振子S4、インダクタL2及びSAW共振子S5、インダクタL3及びSAW共振子S6がこの順に出力側に向かって夫々介挿されている。別の言い方をすれば、入力端と出力端との間に並列腕として4段に接続された弾性波共振子S1〜S4が設けられ、互いに隣接する前記弾性波共振子S1、S2、S3、S4の間に夫々直列腕として3段の弾性波共振子S5、S6、S7が設けられ、さらにこれら3段の弾性波共振子S5〜S7に夫々並列に3段のインダクタL1、L2、L3が接続されている。これらインダクタL1〜L3の各々は当該インダクタを通過する信号の位相を90度ずらす(位相を反転させる)役割を持っている。
【0026】
また、並列腕SAW共振子S1、S2、S3、S4の共振周波数を夫々f1、f2、f3、f4とすると、このSAWフィルタ5においてはf1<f2<f4<f3となるように構成している。このような構成にしている理由については後述する。
【0027】
図9(a)は、このSAWフィルタ5における通過特性を示している。また、図9(b)は、この図9(a)の400MHz〜1000MHzにおける通過特性を拡大して示しており、図10は図9(a)の800MHz帯における通過特性を拡大して示している。上記のように図4に示したSAWフィルタ4は4つの極を有しており、SAWフィルタ5では、このSAWフィルタ4に対して3つのSAW共振子S5〜S7が追加され、これらのSAW共振子S5、S6、S7はインダクタL1、L2、L3に夫々並列に接続されている。そして、インダクタに並列に接続されたSAW共振子1つについて2つの極が発生することから、SAW共振子S5、S6、S7を追加することで、これらSAW共振子S5、S6及びS7から6つの極が発生する。従って、図8に示したSAWフィルタ5は、その伝送特性として10個の極を持ち、この10個の極を各減衰域に応じて配置することで、図9(a)、(b)及び図10に示すように通過域での減衰を抑えると共に各減衰域にて50dB以上の大きな減衰量を得ることができる。
【0028】
ところで、図11(a)はSAWフィルタ5と同様に構成したSAWフィルタ6であるが、SAW共振子S1、S2、S3、S4の夫々の共振周波数f1、f2、f3、f4は、f1<f2<f3<f4となっている。このSAWフィルタ6の特性を図11(b)、図11(c)及び図12に示す。図11(c)は、図11(b)の400〜1000MHzの帯域における特性を拡大して示したものであり、図12は、図11(b)の800MHz帯における通過特性を拡大して示している。図10と図12とを比較して、SAWフィルタ6ではSAWフィルタ5に比べて第2の減衰域の広域側の特性が劣化していることが分かる。
【0029】
さらに、上述のようにSAW共振子S1〜S4の共振周波数f1〜f4を設定することが有効となる理由について検討する。図13(a)はSAWフィルタ6において、インダクタL1〜L3をなくした構成とした回路61を示している。図13(b)はこの回路61の広域特性を示したものであり、図13(c)には図13(a)の800MHz帯における特性を拡大して示している。これら図13(b)(c)に示すように、第2の減衰域に減衰量の小さい点、いわゆるヌル点が存在している。
【0030】
図14(a)はSAWフィルタ5において、インダクタL1〜L3をなくした構成とした回路62を示している。また、図14(b)はこの回路62の広域特性を示したものであり、図14(c)には図14(b)の800MHz帯における特性を拡大して示している。この図14(b)、(c)に示すように回路62は、第1の減衰域及び第2の減衰域においてヌル点のない特性を持つ。
【0031】
このように、各並列腕SAW共振子の共振周波数の関係により、ヌル点が発生し、このヌル点が所要の減衰域の中にあると、減衰特性の劣化が起こる。しかし、f1<f2<f4<f3となるように並列腕SAW共振子S1〜S4を配置することにより、各減衰域においてヌル点を持たないように広帯域の減衰域を作ることができる。
【0032】
以上のように本発明の実施の形態によればインダクタの数を少なくしながら目的とする伝送特性、即ち通過特性の高域側に設定されている複数の減衰域にて急峻で大きな減衰量を確保できる伝送特性を得ることができる。なお複数の減衰域は通過域の低域側に存在していてもよい。既述のようにインダクタは外付け部品であるコイルにより構成されることが得策であるが、その場合部品のサイズが大きくなることから、インダクタの数を少なくできることはデバイスの小型化に寄与することができ、例えば携帯端末に組み込む弾性波フィルタとしては極めて好適である。
【0033】
以上において、弾性波共振子は、弾性表面波を利用した共振子(SAW共振子)に限られず、最近になって公表されている圧電基板の表面よりも内部を伝播する弾性波を利用した共振子であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】SAW共振子の等価回路とその反射特性及び通過特性とを示した図である。
【図2】前記SAW共振子にインダクタを並列に接続した回路構成とその回路の反射特性及び通過特性とを示した図である。
【図3】前記回路のアドミタンス特性を示した特性図である。
【図4】並列腕SAW共振子及びそれに直列するインダクタを含んだSAWフィルタの構成図である。
【図5】前記SAWフィルタの通過特性を示した特性図である。
【図6】減衰極の位置を検証するために用いた各回路の構成図である。
【図7】前記各回路の通過特性を示した特性図である。
【図8】本発明のSAWフィルタの構成図である。
【図9】前記SAWフィルタの通過特性を示した特性図である。
【図10】前記SAWフィルタの通過特性を示した特性図である。
【図11】各SAWフィルタの通過特性を示した特性図である。
【図12】各SAWフィルタの通過特性を示した特性図である。
【図13】本発明のSAWフィルタの特性を検証するための回路構成とその通過特性とを示した図である。
【図14】本発明のSAWフィルタの特性を検証するための回路構成とその通過特性とを示した図である。
【図15】TV放送波を受信する携帯端末の構成図である。
【図16】前記携帯端末に要求される通過域及び減衰域を示した図である。
【図17】前記携帯端末のチューナーモジュールの構成図である。
【図18】従来のSAW共振子を用いたSAWフィルタの構成図である。
【図19】前記SAWフィルタの通過特性を示した特性図である。
【図20】SAWフィルタの概観の一例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0035】
L1、L2、L3 インダクタ
S1〜S7 SAW共振子
1 デジタル地上波TV放送用アンテナ
2 携帯電話用アンテナ
10 TVチューナーモジュール
20 音声送信部
5、6 SAWフィルタ
51 入力ポート
61 出力ポート
【特許請求の範囲】
【請求項1】
通過域よりも高域側または低域側に複数の減衰域を形成するための弾性波フィルタにおいて、
入力端と出力端との間に並列腕として4段に接続された弾性波共振子と、
互いに隣接する前記弾性波共振子の間に夫々直列腕として設けられた3段の弾性波共振子と、
これら3段の弾性波共振子に夫々並列に接続された3段のインダクタと、
を備え、
前記並列腕である4個の弾性波共振子の共振周波数を入力端側の弾性波共振子から出力端側の弾性波共振子に向かって順にf1、f2、f3、f4とすると、その大きさはf1<f2<f4<f3であることを特徴とする弾性波フィルタ。
【請求項2】
デジタル地上波テレビ放送用の受信帯域を通過域とし、携帯端末としての音声及び/またはデータの送信帯域を減衰域とすることを特徴とする請求項1に記載の弾性波フィルタ。
【請求項3】
デジタル地上波テレビ放送用の電波を受信するためのアンテナ及び受信部と、携帯端末としての音声及び/またはデータを送受信するためのアンテナとを、備え、前記受信部に請求項1または2に記載の弾性波フィルタが設けられていることを特徴とする携帯端末。
【請求項1】
通過域よりも高域側または低域側に複数の減衰域を形成するための弾性波フィルタにおいて、
入力端と出力端との間に並列腕として4段に接続された弾性波共振子と、
互いに隣接する前記弾性波共振子の間に夫々直列腕として設けられた3段の弾性波共振子と、
これら3段の弾性波共振子に夫々並列に接続された3段のインダクタと、
を備え、
前記並列腕である4個の弾性波共振子の共振周波数を入力端側の弾性波共振子から出力端側の弾性波共振子に向かって順にf1、f2、f3、f4とすると、その大きさはf1<f2<f4<f3であることを特徴とする弾性波フィルタ。
【請求項2】
デジタル地上波テレビ放送用の受信帯域を通過域とし、携帯端末としての音声及び/またはデータの送信帯域を減衰域とすることを特徴とする請求項1に記載の弾性波フィルタ。
【請求項3】
デジタル地上波テレビ放送用の電波を受信するためのアンテナ及び受信部と、携帯端末としての音声及び/またはデータを送受信するためのアンテナとを、備え、前記受信部に請求項1または2に記載の弾性波フィルタが設けられていることを特徴とする携帯端末。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2009−296167(P2009−296167A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−146156(P2008−146156)
【出願日】平成20年6月3日(2008.6.3)
【出願人】(000232483)日本電波工業株式会社 (1,148)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年6月3日(2008.6.3)
【出願人】(000232483)日本電波工業株式会社 (1,148)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]