弾性波フィルタ
【課題】配線間の寄生容量を低減する構造を低コストで実現する。
【解決手段】圧電基板1と、圧電基板1上に形成された櫛歯型電極を含む共振器2a及び2bと、櫛歯型電極に接続された配線部3と、櫛歯型電極を覆うように形成された誘電体層4とを備える弾性波フィルタであって、配線部3は、櫛歯型電極と同層の下層配線部3dと、下層配線部3dの上部に配された上層配線部3eとを備え、上層配線部3eは、下層配線部3dの電極幅よりも大きな電極幅を有する領域を備えている。
【解決手段】圧電基板1と、圧電基板1上に形成された櫛歯型電極を含む共振器2a及び2bと、櫛歯型電極に接続された配線部3と、櫛歯型電極を覆うように形成された誘電体層4とを備える弾性波フィルタであって、配線部3は、櫛歯型電極と同層の下層配線部3dと、下層配線部3dの上部に配された上層配線部3eとを備え、上層配線部3eは、下層配線部3dの電極幅よりも大きな電極幅を有する領域を備えている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願の開示は、弾性波フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話等に用いられる高周波デバイスは、小型化が求められている。弾性表面波(SAW)を用いたフィルタやデュープレクサなどの高周波デバイスは、小型軽量といった特徴で携帯電話の小型化に貢献してきたが、さらに小型化、高性能化が求められている。フィルタ、デュープレクサを小型化することにより、隣り合う配線間の距離が短くなり、配線間に寄生容量が発生する場合がある。配線間に寄生容量が発生すると、フィルタ特性が悪化してしまうことがある。
【0003】
特許文献1は、配線間に生じる寄生容量を低減するために、基板に樹脂などで絶縁パターンを形成し、その上に配線部を形成することを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−282707号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1が開示している高周波デバイスは、配線間の寄生容量を低減するための絶縁パターンを備えているため、コストアップにつながってしまう。
【0006】
本発明の目的は、配線間の寄生容量を低減する構造を低コストで実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願の開示は、圧電基板と、前記圧電基板上に形成された櫛歯型電極と、前記櫛歯型電極に接続された配線部と、前記櫛歯型電極を覆うように形成された誘電体層とを備える弾性波フィルタであって、前記配線部は、前記櫛歯型電極と同層の下層配線部と、前記下層配線部の上部に配された上層配線部とを備え、前記上層配線部は、前記下層配線部の電極幅よりも大きな電極幅を有する領域を備えている。
【発明の効果】
【0008】
本願の開示によれば、配線間の寄生容量を低減する構造を低コストで実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1A】実施例1にかかる弾性波フィルタの上面図
【図1B】図1AにおけるZ−Z部の断面図である。
【図2A】電磁界シミュレーションに用いた弾性波フィルタの部分断面図
【図2B】電磁界シミュレーションに用いた比較例の弾性波フィルタの部分断面図
【図2C】寄生容量の電極間隔依存性を表した特性図
【図3】配線間距離によるフィルタ特性の変化を表した特性図
【図4】実施例2にかかる弾性波フィルタの部分断面図
【図5】実施例3にかかる弾性波フィルタの部分断面図
【図6】実施例4にかかる弾性波フィルタの部分断面図
【図7】図7A〜図7Eは、実施例4にかかる弾性波フィルタの製造工程を示す断面図
【図8】実施例5にかかる弾性波フィルタの部分断面図
【図9】通信モジュールのブロック図
【図10】通信装置のブロック図
【発明を実施するための形態】
【0010】
弾性波フィルタは、圧電基板と、前記圧電基板上に形成された櫛歯型電極と、前記櫛歯型電極に接続された配線部と、前記櫛歯型電極を覆うように形成された誘電体層とを備える弾性波フィルタであって、前記配線部は、前記櫛歯型電極と同層の下層配線部と、前記下層配線部の上部に配された上層配線部とを備え、前記上層配線部は、前記下層配線部の電極幅よりも大きな電極幅を有する領域を備えている。
【0011】
弾性波フィルタにおいて、前記上層配線部における前記下層配線部に接する部分の電極幅は、前記下層配線部の電極幅よりも狭い構成とすることができる。
【0012】
弾性波フィルタにおいて、前記上層配線部と前記誘電体層との間に空隙を有する構成とすることができる。
【0013】
弾性波フィルタにおいて、前記上層配線部は、複数の金属層を備え、前記複数の金属層のうちいずれか一つが、引っ張り応力を持つ材料または圧縮応力を持つ材料で形成されている構成とすることができる。
【0014】
(実施の形態)
〔1.弾性波フィルタの構成〕
近年、携帯電話端末などの通信機器は、さらなる小型化が進んでいる。通信機器を小型化するための一つの手段として、弾性波フィルタの小型化、あるいは弾性波フィルタに備わる共振器の小型化がある。しかし、弾性波フィルタにおける共振器の大きさは、フィルタ特性の仕様(インピーダンス等)からおおよそ決まるため、あまり小型化が望めない。そこで、共振器同士を接続している配線部を縮小することで、弾性波フィルタを小型化することができる。しかしながら、配線部の長さを短くしたり、配線部の電極幅を細くしたりすると、配線部の抵抗値(以下、配線抵抗と称する)が高くなってしまい、弾性波フィルタの損失が大きくなってしまう。
【0015】
配線抵抗を減らす方策の一つとして、配線部の電極の厚さを厚くする方法がある。しかし、配線部における電極は共振器における櫛歯型電極と同時に形成されるため、配線部の電極の厚さを厚くすると櫛歯型電極の厚さも厚くなってしまう。共振器における櫛歯型電極の厚さは、共振器の特性などに基づき決められるため、配線抵抗を減らす目的で厚くしてしまうと所望の通過特性を得ることができなくなってしまうことがある。そのため、櫛歯型電極を形成後、配線部の厚さを厚く形成する方法がある。配線部の厚膜化に関しては、製造コストや下層の櫛歯型電極層との密着性の兼ね合いもあり、極端に厚くすることは難しい。
【0016】
また、配線抵抗を減らすために配線部の配線部を隣り合う素子の間際まで広げると、配線間や配線と素子間の寄生容量が増加するという課題がある。特に、弾性波フィルタで利用されるタンタル酸リチウム(LiTaO3)やニオブ酸リチウム(LiNbO3)は誘電率εが高いため、寄生容量も大きくなる(ε=40程度)。特開2004−282707号公報には、基板配線間の寄生容量が大きくなると、フィルタの特性が悪化することが開示されている。
【0017】
特開2004−282707号公報は、寄生容量を低減するために、基板に樹脂などで絶縁パターンを形成し、その上に配線部を形成することを開示している。特開2004−282707号公報が開示している構成では、絶縁パターンを形成する必要があるためコストアップにつながってしまうとともに、絶縁パターンを形成するための工数が発生するため製造コストも増加してしまう。また、櫛歯型電極部と配線部との間に段差が生じるため、その段差で電気的接続が不十分になるという問題点があった。さらに、特開2004−282707号公報が開示している絶縁パターンは、樹脂で形成されている。したがって、櫛歯型電極表面を誘電体層で覆うことで温度特性を改善した弾性波フィルタでは、誘電体層の形成時に樹脂が存在すると、誘電体層の形成条件によっては、樹脂が分解して劣化、あるいは、樹脂に吸着あるいは分解時に発生する水などのガスで誘電体層が劣化する可能性がある。そのため、樹脂による絶縁層を形成する前に誘電体層を形成するなど、製造工程の大幅な変更が必要となるという問題があった。
【0018】
本実施の形態は、櫛歯型電極表面を誘電体で覆うことで温度特性を改善した弾性波フィルタにおいて、樹脂による絶縁層を形成することなく、櫛歯型電極と配線部の電気的接続を保ちつつ、配線間の寄生容量を低減することを主な特徴としている。これにより、弾性波フィルタの小型化が可能となる。
【0019】
以下、本実施の形態にかかる弾性波フィルタの実施例について説明する。
【0020】
(第1実施例)
図1Aは、第1実施例の配線構造を有する弾性波フィルタの上面図である。図1Bは、図1Aに示すZ−Z部の断面図である。
【0021】
図1A及び図1Bに示す弾性波フィルタは、圧電基板1、直列共振器2a、並列共振器2b、配線部3、および誘電体層4を備えている。本実施の形態の弾性波フィルタは、複数の共振器を梯子形に接続したラダー型フィルタである。
【0022】
圧電基板1は、LiNbO3単結晶の基板である。本実施例では、圧電基板1は、LiNbO3で形成したが、LiTaO3で形成することもできる。
【0023】
直列共振器2a、並列共振器2bは、圧電基板1上に備わる。直列共振器2aは、弾性波フィルタの直列腕に接続されている。並列共振器2bは、弾性波フィルタの並列腕に接続されている。なお、直列共振器2aは、互いに対向配置した櫛歯型電極2c及び2dを備えている。並列共振器2bは、互いに対向配置した櫛歯型電極2e及び2fを備えている。弾性波フィルタは、複数の直列共振器2a、並列共振器2bにおいて設定されている共振周波数及び反共振周波数によって、任意の周波数帯域の信号を抽出することができる。
【0024】
配線部3は、圧電基板1上に備わる。配線部3は、各直列共振器2a及び並列共振器2bを接続している。配線部3は、入出力電極3a及び3b、接地電極3c、下層配線部3d、上層配線部3eを含む。入出力電極3a及び3b、接地電極3cは、電極パッドが備わる。下層配線部3d及び上層配線部3eは、直列共振器2a及び並列共振器2bを接続している。下層配線部3dは、圧電基板1上に直列共振器2a及び並列共振器2bにおける櫛歯型電極2c〜2fを形成する時に、同時に形成される。下層配線部3dは、例えば銅(Cu)を主成分とした積層膜で形成することができ、膜厚T1は例えば130nmとすることができる。上層配線部3eは、図1Bに示すように、下層配線部3dの上に備わる。上層配線部3eは、電極幅W1を有する上層部3fと、電極幅W1よりも小さい電極幅W2を有する下層部3gとを備えている。上層配線部3eは、電極幅W1及びW2が「W1>W2」の関係となっているため、上層部3fの端部3m及び3nは下層部3gよりも圧電基板1の主平面方向に突出している。上層配線部3eは、下層配線部3dと同じくCuを主成分とした積層膜で形成することができ、膜厚T2は例えば2μmとすることができる。
【0025】
誘電体層4は、少なくとも一部が、上層配線部3eの端部3m及び3nと圧電基板1との間に介在している。誘電体層4は、SiO2で形成することができる。誘電体層4の厚さT3は、例えば720nmとすることができる。
【0026】
図2A及び図2Bは、電磁界シミュレーションに用いた弾性波フィルタの部分断面図を示し、図2Aは本実施例の弾性波フィルタの構造、図2Bは比較例の弾性波フィルタの構造を示す。図2Aに示す弾性波フィルタは、厚さT11が50μmの圧電基板1と、厚さT12が130nmの直列共振器2a(電極)及び下層配線部3dと、厚さT13が2μmの上層配線部3e、厚さT14が720nmの誘電体層4を備えている。直列共振器2aと下層配線部3dとの距離W11は、30μmとした。図2Bに示す弾性波フィルタは、図2Aに示す厚さT11と同様の厚さT21を有する圧電基板101と、厚さT12と同様の厚さT22を有する直列共振器102a及び下層配線部103dと、厚さT13と同様の厚さT23を有する上層配線部103eと、厚さT14と同様の厚さT24を有する誘電体層104とを備えている。図2Aに示す弾性波フィルタと図2Bに示す弾性波フィルタとの違いは、上層配線部の形状である。図2Aに示す上層配線部3eは、上層部3fの端部3mを下層部3gに対して、圧電基板1の主平面方向に突出させている。すなわち、上層配線部3eとそれに隣り合う直列共振器2aとの電極間隔D1は、距離W11よりも小さい。一方、図2Bに示す弾性波フィルタは、上層配線部103eと下層配線部103dとは同じ電極幅を有する。すなわち、上層配線部103eとそれに隣り合う直列共振器102aとの電極間隔D1は、距離W21と同じである。
【0027】
図2Cは、図2Aに示す弾性波フィルタと図2Bに示す弾性波フィルタとを用いて電磁界シミュレーションを行った結果を示す。シミュレーションは、図2A及び図2Bのそれぞれに示す弾性波フィルタにおける電極間隔D1を変化させたときの、直列共振器2aと配線部3との間に生じる寄生容量Cの値を計測した。図2Cに示すように、電極間隔D1が狭くなるにつれて、配線間の寄生容量Cは大きくなる。特に、図2Bに示す比較例の弾性波フィルタの場合、電極間隔D1を狭めると、上層配線部103e及び下層配線部103dと直列共振器102aとの間隔が狭まるため、電極間隔D1が狭くなるにつれて寄生容量Cの値が大幅に増加する。しかし、図2Aに示す本実施例の弾性波フィルタの場合、上層配線部3eの上層部3fの電極幅W1を大きくして電極間隔D1を狭めても、直列共振器2aと下層配線部3dとの間隔W11は固定しているため、寄生容量Cの増加の割合が少ない。例えば、電極間隔D1を1μmとしたとき、本実施例の弾性波フィルタの寄生容量Cは約0.5pFで、比較例の弾性波フィルタの寄生容量Cは約0.7pFである。すなわち、本実施例の弾性波フィルタは、比較例の弾性波フィルタに比べて寄生容量が30%程度小さくなることがわかる。
【0028】
図3は、上記比較例のように配線部と直列共振器との間の寄生容量が30%増えた場合の通過特性(実線)と、本実施例の弾性波フィルタの通過特性(破線)の変化を示す。すなわち、実線で示す特性は、電極間隔D1が1μmの比較例の弾性波フィルタの通過特性を示し、破線で示す特性は、電極間隔D1が1μmの本実施例の弾性波フィルタの通過特性を示す。図3における実線に示すように、寄生容量が30%増えた場合、寄生容量が30%増える前のフィルタ特性(破線)に対して、通過特性が劣化していることがわかる。
【0029】
以上のように本実施例の弾性波フィルタは、小型化するために、隣接する電極間隔D1を狭めたとしても、寄生容量Cが大幅に増加しないため、通過特性の劣化を低減することができる。したがって、本実施例の弾性波フィルタは、劣化が少ない通過特性を確保しながら、小型化を図ることができる。
【0030】
なお、本実施例で採用した圧電基板1、直列共振器2a、並列共振器2b、配線部3、および誘電体層4の材料や膜厚寸法などは一例であり、本実施例と同様のシミュレーション結果やフィルタ通過特性を確保できれば、他の材料や膜厚寸法で実現することができる。
【0031】
(第2実施例)
図4は、弾性波フィルタの第2実施例の構造の部分断面図を示す。第2実施例の弾性波フィルタは、下層配線部3dの電極幅W3を、上層配線部3eの下層部3gの電極幅W2(誘電体層4における開口幅)よりも大きくしたことを特徴としている。すなわち、上層配線部3eの上層部3fの電極幅W1、電極幅W2、電極幅W3は、
W1>W3>W2
の関係を有している。
【0032】
図4に示す弾性波フィルタによれば、上層配線部3eにおける圧電基板1に近い部分の導体が減るため、互いに隣接する電極間(本実施例では直列共振器2aと配線部3との間)の寄生容量Cをより低減することができる。
【0033】
(第3実施例)
図5は、弾性波フィルタの第3実施例の構造の部分断面図を示す。第3実施例の弾性波フィルタは、図4に示す第2実施例の弾性波フィルタにおいて、誘電体層4の一部を除去した構造である。具体的には、誘電体層4において、上層配線部3eの上層部3fの端部3h及び3iが接する部分を含む領域に、凹部4a及び4bを形成した構造である。
【0034】
図5に示す弾性波フィルタによれば、誘電体層4において、上層配線部3eの上層部3fの端部3h及び3iが接する部分を含む領域を除去して凹部4a及び4bを形成したことにより、隣接する電極間(本実施例では直列共振器2aと配線部3との間)に、少なくとも誘電体層4(SiO2)よりも誘電率εが低い空気層を設けることができる。よって、互いに隣接する電極間の寄生容量Cを、より低減することができる。なお、SiO2の誘電率εは約2.1で、空気の誘電率εは約1.0である。
【0035】
図5に示す弾性波フィルタを製造する場合は、まず図4に示す第2実施例の弾性波フィルタを作製した後、誘電体層4の上に、凹部4a及び4bに相当する部分が開口したレジストをパターニングする。次に、誘電体層4をウェットエッチングなどの方法を用いてエッチングすることにより、凹部5a及び5bが形成される。最後に、レジストを除去する。
【0036】
(第4実施例)
図6は、弾性波フィルタの第4実施例の構造の部分断面図である。第4実施例の弾性波フィルタは、図4に示す第2実施例の弾性波フィルタにおいて、上層配線部3eと誘電体層4との間に空隙5a及び5bを形成した構造である。すなわち、上層配線部3eと誘電体層4とは接していない構造である。
【0037】
図6に示す弾性波フィルタによれば、上層配線部3eと誘電体層4との間に空隙5a及び5bを形成することにより、誘電率εが低下し、互いに隣接する電極間(本実施例では直列共振器2aと配線部3との間)の寄生容量Cをより低減することができる。具体的には、電極間に誘電体層4(SiO2)のみが介在している場合は、誘電率εは約2.1であるが、本実施例のように空隙5a及び5b(空気層)を形成することにより、誘電率εは約1.0となる。
【0038】
図7A〜図7Eは、第4実施例の弾性波フィルタの製造工程を示す部分断面図である。第4実施例の弾性波フィルタを製造する場合は、まず、LiNbO3を含む材料で形成された圧電基板1の上に、Cuを主成分とする電極膜をスパッタリング法または蒸着法を用いて形成し、下層配線部3dに相当する形状にパターニングする。なお、図示は省略しているが、下層配線部3dの形成工程において、同時に直列共振器2a及び並列共振器2bにおける櫛歯型電極2c〜2fを形成する。次に、図7Aに示すように、圧電基板1の上に、SiO2を含む誘電体層4を形成する。次に、図7Bに示すように、誘電体層4の一部をエッチングにより除去して、空隙4cを形成する。次に、図7Cに示すように、下層配線部3d及び誘電体層4の上に、ポジ型レジストであるレジスト11を塗布、露光、現像、および、ポストベークを2回に分けて行うことで断面形状がステップ状になるパターンを形成する。レジストとしてネガ型を使う場合は、塗布、露光を2回に分けて行い、現像およびポストベークは1回だけで済ませることができる。このとき、レジスト11は、誘電体層4を覆うように形成する。また、レジスト11は、上層配線部3eに相当する空隙11aを形成する。また、レジスト11は、下層配線部3dの一部が露出するように形成する。次に、図7Dに示すように、レジスト11及び下層配線部3dの上に、Cuを主成分とする電極膜13を形成する。次に、図7Eに示すように、レジスト11を除去する。これにより、上層配線部3eと誘電体層4との間に空隙5a及び5bを備えた、第4実施例の弾性波フィルタを製造することができる。
【0039】
(第5実施例)
図8は、弾性波フィルタの第5実施例の構造を示す部分断面図である。第5実施例の弾性波フィルタは、図6に示す第4実施例の弾性波フィルタにおいて、上層配線部3eを複数の金属を積層して形成し、複数の金属層における引っ張り応力または圧縮応力を用いて変形させた構造である。具体的には、上層配線部3eは、本実施例では第1層3jと第2層3kとを積層した2層構造である。第1層3jは、引っ張り応力を持つ材料を含ませることが好ましく、例えばチタン(Ti)を含ませることが好ましい。第2層3kは、圧縮応力を持つ材料を含ませることが好ましく、例えば銅(Cu)を含ませることが好ましい。なお、第1層3j及び第2層3kの材料は、これらに限定されない。また、上層配線部3eは、金属膜を3層以上含む構造としてもよい。
【0040】
上層配線部3eを応力が異なる第1層3j及び第2層3kを備えたことにより、スパッタリング法または蒸着法を用いて上層配線部3eを形成する際に、第1層3jにおいて引っ張り応力が発生するか、第2層3kにおいて圧縮応力が発生する。したがって、上層配線部3eの端部3m及び3nが、圧電基板1から遠ざかる方向へ変形する。図8に示す構造では、上層配線部3eの端部3m及び3nが上方に反っている。なお、端部3m及び3nは、上層配線部3eにおいて、誘電体層4を挟んで圧電基板1に対向している部分である。これにより、上層配線部3eと直列共振器2aとの距離が、第4実施例の弾性波フィルタにおける上層配線部3eと直列共振器2aとの距離に比べて、大きくなる。
【0041】
図8に示す弾性波フィルタによれば、上層配線部3eを金属積層膜とし、上層である第1層3jを引っ張り応力を持つ材料を含ませ、あるいは下層である第2層3kに圧縮応力を持つ材料を含ませることにより、上層配線部3eの端部3m及び3nが応力により圧電基板1から遠ざかる方向へ反る。したがって、隣接する電極間距離(本実施例では、直列共振器2aと上層配線部3eとの距離)が広がり、寄生容量Cをより低減することができる。
【0042】
〔2.通信モジュールの構成〕
図9は、本実施の形態にかかる弾性波フィルタを備えた通信モジュールの一例を示す。図9に示すように、デュープレクサ62は、受信フィルタ62aと送信フィルタ62bとを備えている。また、受信フィルタ62aには、例えばバランス出力に対応した受信端子63a及び63bが接続されている。また、送信フィルタ62bは、パワーアンプ64を介して送信端子65に接続している。ここで、受信フィルタ62aは、本実施の形態にかかる弾性波フィルタを備えている。
【0043】
受信動作を行う際、受信フィルタ62aは、アンテナ端子61を介して入力される受信信号のうち、所定の周波数帯域の信号のみを通過させ、受信端子63a及び63bから外部へ出力する。また、送信動作を行う際、送信フィルタ62bは、送信端子65から入力されてパワーアンプ64で増幅された送信信号のうち、所定の周波数帯域の信号のみを通過させ、アンテナ端子61から外部へ出力する。
【0044】
本実施の形態にかかる弾性波フィルタを通信モジュールに備えることで、良好な通過特性を確保しながら、モジュールの小型化が可能となる。
【0045】
なお、図9に示す通信モジュールの構成は一例であり、他の形態の通信モジュールに本実施の形態にかかるフィルタを搭載しても、同様の効果が得られる。
【0046】
〔3.通信装置の構成〕
図10は、本実施の形態にかかる弾性波フィルタ、または前述の通信モジュールを備えた通信装置の一例として、携帯電話端末のRFブロックを示す。また、図10に示す通信装置は、GSM(Global System for Mobile Communications)通信方式及びW−CDMA(Wideband Code Division Multiple Access)通信方式に対応した携帯電話端末の構成を示す。また、本実施の形態におけるGSM通信方式は、850MHz帯、950MHz帯、1.8GHz帯、1.9GHz帯に対応している。また、携帯電話端末は、図10に示す構成以外にマイクロホン、スピーカー、液晶ディスプレイなどを備えているが、本実施の形態における説明では不要であるため図示を省略した。ここで、受信フィルタ73a、77〜80は、本実施の形態にかかる弾性波フィルタを備えている。
【0047】
まず、アンテナ71を介して入力される受信信号は、その通信方式がW−CDMAかGSMかによってアンテナスイッチ回路72で、動作の対象とするLSIを選択する。入力される受信信号がW−CDMA通信方式に対応している場合は、受信信号をデュープレクサ73に出力するように切り換える。デュープレクサ73に入力される受信信号は、受信フィルタ73aで所定の周波数帯域に制限されて、バランス型の受信信号がLNA74に出力される。LNA74は、入力される受信信号を増幅し、LSI76に出力する。LSI76では、入力される受信信号に基づいて音声信号への復調処理を行ったり、携帯電話端末内の各部を動作制御したりする。
【0048】
一方、信号を送信する場合は、LSI76は送信信号を生成する。生成された送信信号は、パワーアンプ75で増幅されて送信フィルタ73bに入力される。送信フィルタ73bは、入力される送信信号のうち所定の周波数帯域の信号のみを通過させる。送信フィルタ73bから出力される送信信号は、アンテナスイッチ回路72を介してアンテナ71から外部に出力される。
【0049】
また、入力される受信信号がGSM通信方式に対応した信号である場合は、アンテナスイッチ回路72は、周波数帯域に応じて受信フィルタ77〜80のうちいずれか一つを選択し、受信信号を出力する。受信フィルタ77〜80のうちいずれか一つで帯域制限された受信信号は、LSI83に入力される。LSI83は、入力される受信信号に基づいて音声信号への復調処理を行ったり、携帯電話端末内の各部を動作制御したりする。一方、信号を送信する場合は、LSI83は送信信号を生成する。生成された送信信号は、パワーアンプ81または82で増幅されて、アンテナスイッチ回路72を介してアンテナ71から外部に出力される。
【0050】
本実施の形態にかかる弾性波フィルタ、または通信モジュールを通信装置に備えることで、良好な通過特性を確保しながら、通信装置を小型化することができる。
【0051】
〔4.実施の形態の効果、他〕
本実施の形態によれば、上層配線部3eの電極幅を下層配線部3dの電極幅よりも大きくしたことにより、上層配線部3eは、高誘電率の圧電基板1には直接接触せず、圧電基板1よりも誘電率が低い誘電体層4を挟んで圧電基板1上に配置される。これにより、隣接する電極との間に発生する寄生容量を低減することができる。したがって、隣接する電極間の距離を小さくしたとしても寄生容量が大幅に増加せず、通過特性も大幅に劣化しないので、良好な通過特性を確保しながら弾性波フィルタ、通信モジュール、通信装置を小型化することができる。
【0052】
また、特許文献1に開示されている絶縁パターンなどのように、寄生容量を生じさせる電界を絶縁する部材を別途備えなくてもよいため、低コストに実現することができる。
【0053】
また、図4に示すように、上層配線部3eの下層部3gの電極幅W2を下層配線部3dの電極幅W3よりも小さく、すなわち誘電体層4において下層部3gが内在する開口部の幅寸法を下層配線部3dの電極幅W3よりも小さくしたことにより、圧電基板1に近い配線層が少なくなるので、より寄生容量を低減することができる。
【0054】
また、図5に示すように、誘電体層4において、上層配線部3eの端部3h及び3iが接する領域に凹部4a及び4bを形成したことにより、隣接する電極間に、少なくとも誘電体層4(SiO2)よりも誘電率が低い空気層を設けることができるので、より寄生容量を低減することができる。
【0055】
また、図6に示すように、上層配線部3eと誘電体層4とが非接触となるように空隙5a及び5bを形成したことにより、上層配線部3eにおいて、下層配線部3dと接触している箇所以外は、全て誘電率が低い空気層を介することができるので、より寄生容量を低減することができる。
【0056】
また、図8に示すように、上層配線部3eを複数の金属層で形成し、上層である第1層3jの金属層が引っ張り応力を持つ材料で形成したことにより、上層配線部3eの端部3m及び3nが第1層3jの引っ張り応力によって浮き上がることになる。また、下層である第2層3kの金属層が圧縮応力を持つ材料で形成したことにより、上層配線部3eの端部3m及び3nが第2層3kの圧縮応力によって浮き上がることになる。これにより、上層配線部3eとそれ隣接する電極との間の距離が大きくなるので、より寄生容量を低減することができる。
【0057】
なお、本実施の形態における圧電基板1は、本発明の圧電基板の一例である。本実施の形態における櫛歯型電極2e及び2fは、本発明の櫛歯型電極の一例である。本実施の形態における配線部3は、本発明の配線部の一例である。本実施の形態における誘電体層4は、本発明の誘電体層の一例である。本実施の形態における下層配線部3dは、本発明の下層配線部の一例である。本実施の形態における上層配線部3eは、本発明の上層配線部の一例である。
【0058】
本実施の形態に関して、以下の付記を開示する。
【0059】
(付記1)
圧電基板と、
前記圧電基板上に形成された櫛歯型電極と、
前記櫛歯型電極に接続された配線部と、
前記櫛歯型電極を覆うように形成された誘電体層とを備える弾性波デバイスを備えた通信モジュールであって、
前記配線部は、前記櫛歯型電極と同層の下層配線部と、前記下層配線部の上部に配された上層配線部とを備え、
前記上層配線部は、前記下層配線部の電極幅よりも大きな電極幅を有する領域を備えている、通信モジュール。
【0060】
(付記2)
前記上層配線部における前記下層配線部に接する部分の電極幅は、前記下層配線部の電極幅よりも狭い、付記1記載の通信モジュール。
【0061】
(付記3)
前記上層配線部と前記誘電体層との間に空隙を有する、付記2記載の通信モジュール。
【0062】
(付記4)
前記上層配線部は、複数の金属層を備え、
前記複数の金属層のうちいずれか一つが、引っ張り応力を持つ材料または圧縮応力を持つ材料で形成されている、付記3記載の通信モジュール。
【0063】
(付記5)
圧電基板と、
前記圧電基板上に形成された櫛歯型電極と、
前記櫛歯型電極に接続された配線部と、
前記櫛歯型電極を覆うように形成された誘電体層とを備える弾性波フィルタを備えた通信装置であって、
前記配線部は、前記櫛歯型電極と同層の下層配線部と、前記下層配線部の上部に配された上層配線部とを備え、
前記上層配線部は、前記下層配線部の電極幅よりも大きな電極幅を有する領域を備えている、通信装置。
【0064】
(付記6)
前記上層配線部における前記下層配線部に接する部分の電極幅は、前記下層配線部の電極幅よりも狭い、付記5記載の通信装置。
【0065】
(付記7)
前記上層配線部と前記誘電体層との間に空隙を有する、付記6記載の通信装置。
【0066】
(付記8)
前記上層配線部は、複数の金属層を備え、
前記複数の金属層のうちいずれか一つが、引っ張り応力を持つ材料または圧縮応力を持つ材料で形成されている、付記7記載の通信装置。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本願は、弾性波フィルタ、通信モジュール、通信装置に有用である。
【符号の説明】
【0068】
1 圧電基板
2a 直列共振器
2b 並列共振器
2c,2d,2e,2f 櫛歯型電極
3 配線部
3d 下層配線部
3e 上層配線部
3f 上層部
3g 下層部
3h,3i,3m,3n 端部
3j 第1層
3k 第2層
4 誘電体層
4a,4b 凹部
5a,5b 空隙
【技術分野】
【0001】
本願の開示は、弾性波フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話等に用いられる高周波デバイスは、小型化が求められている。弾性表面波(SAW)を用いたフィルタやデュープレクサなどの高周波デバイスは、小型軽量といった特徴で携帯電話の小型化に貢献してきたが、さらに小型化、高性能化が求められている。フィルタ、デュープレクサを小型化することにより、隣り合う配線間の距離が短くなり、配線間に寄生容量が発生する場合がある。配線間に寄生容量が発生すると、フィルタ特性が悪化してしまうことがある。
【0003】
特許文献1は、配線間に生じる寄生容量を低減するために、基板に樹脂などで絶縁パターンを形成し、その上に配線部を形成することを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−282707号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1が開示している高周波デバイスは、配線間の寄生容量を低減するための絶縁パターンを備えているため、コストアップにつながってしまう。
【0006】
本発明の目的は、配線間の寄生容量を低減する構造を低コストで実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願の開示は、圧電基板と、前記圧電基板上に形成された櫛歯型電極と、前記櫛歯型電極に接続された配線部と、前記櫛歯型電極を覆うように形成された誘電体層とを備える弾性波フィルタであって、前記配線部は、前記櫛歯型電極と同層の下層配線部と、前記下層配線部の上部に配された上層配線部とを備え、前記上層配線部は、前記下層配線部の電極幅よりも大きな電極幅を有する領域を備えている。
【発明の効果】
【0008】
本願の開示によれば、配線間の寄生容量を低減する構造を低コストで実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1A】実施例1にかかる弾性波フィルタの上面図
【図1B】図1AにおけるZ−Z部の断面図である。
【図2A】電磁界シミュレーションに用いた弾性波フィルタの部分断面図
【図2B】電磁界シミュレーションに用いた比較例の弾性波フィルタの部分断面図
【図2C】寄生容量の電極間隔依存性を表した特性図
【図3】配線間距離によるフィルタ特性の変化を表した特性図
【図4】実施例2にかかる弾性波フィルタの部分断面図
【図5】実施例3にかかる弾性波フィルタの部分断面図
【図6】実施例4にかかる弾性波フィルタの部分断面図
【図7】図7A〜図7Eは、実施例4にかかる弾性波フィルタの製造工程を示す断面図
【図8】実施例5にかかる弾性波フィルタの部分断面図
【図9】通信モジュールのブロック図
【図10】通信装置のブロック図
【発明を実施するための形態】
【0010】
弾性波フィルタは、圧電基板と、前記圧電基板上に形成された櫛歯型電極と、前記櫛歯型電極に接続された配線部と、前記櫛歯型電極を覆うように形成された誘電体層とを備える弾性波フィルタであって、前記配線部は、前記櫛歯型電極と同層の下層配線部と、前記下層配線部の上部に配された上層配線部とを備え、前記上層配線部は、前記下層配線部の電極幅よりも大きな電極幅を有する領域を備えている。
【0011】
弾性波フィルタにおいて、前記上層配線部における前記下層配線部に接する部分の電極幅は、前記下層配線部の電極幅よりも狭い構成とすることができる。
【0012】
弾性波フィルタにおいて、前記上層配線部と前記誘電体層との間に空隙を有する構成とすることができる。
【0013】
弾性波フィルタにおいて、前記上層配線部は、複数の金属層を備え、前記複数の金属層のうちいずれか一つが、引っ張り応力を持つ材料または圧縮応力を持つ材料で形成されている構成とすることができる。
【0014】
(実施の形態)
〔1.弾性波フィルタの構成〕
近年、携帯電話端末などの通信機器は、さらなる小型化が進んでいる。通信機器を小型化するための一つの手段として、弾性波フィルタの小型化、あるいは弾性波フィルタに備わる共振器の小型化がある。しかし、弾性波フィルタにおける共振器の大きさは、フィルタ特性の仕様(インピーダンス等)からおおよそ決まるため、あまり小型化が望めない。そこで、共振器同士を接続している配線部を縮小することで、弾性波フィルタを小型化することができる。しかしながら、配線部の長さを短くしたり、配線部の電極幅を細くしたりすると、配線部の抵抗値(以下、配線抵抗と称する)が高くなってしまい、弾性波フィルタの損失が大きくなってしまう。
【0015】
配線抵抗を減らす方策の一つとして、配線部の電極の厚さを厚くする方法がある。しかし、配線部における電極は共振器における櫛歯型電極と同時に形成されるため、配線部の電極の厚さを厚くすると櫛歯型電極の厚さも厚くなってしまう。共振器における櫛歯型電極の厚さは、共振器の特性などに基づき決められるため、配線抵抗を減らす目的で厚くしてしまうと所望の通過特性を得ることができなくなってしまうことがある。そのため、櫛歯型電極を形成後、配線部の厚さを厚く形成する方法がある。配線部の厚膜化に関しては、製造コストや下層の櫛歯型電極層との密着性の兼ね合いもあり、極端に厚くすることは難しい。
【0016】
また、配線抵抗を減らすために配線部の配線部を隣り合う素子の間際まで広げると、配線間や配線と素子間の寄生容量が増加するという課題がある。特に、弾性波フィルタで利用されるタンタル酸リチウム(LiTaO3)やニオブ酸リチウム(LiNbO3)は誘電率εが高いため、寄生容量も大きくなる(ε=40程度)。特開2004−282707号公報には、基板配線間の寄生容量が大きくなると、フィルタの特性が悪化することが開示されている。
【0017】
特開2004−282707号公報は、寄生容量を低減するために、基板に樹脂などで絶縁パターンを形成し、その上に配線部を形成することを開示している。特開2004−282707号公報が開示している構成では、絶縁パターンを形成する必要があるためコストアップにつながってしまうとともに、絶縁パターンを形成するための工数が発生するため製造コストも増加してしまう。また、櫛歯型電極部と配線部との間に段差が生じるため、その段差で電気的接続が不十分になるという問題点があった。さらに、特開2004−282707号公報が開示している絶縁パターンは、樹脂で形成されている。したがって、櫛歯型電極表面を誘電体層で覆うことで温度特性を改善した弾性波フィルタでは、誘電体層の形成時に樹脂が存在すると、誘電体層の形成条件によっては、樹脂が分解して劣化、あるいは、樹脂に吸着あるいは分解時に発生する水などのガスで誘電体層が劣化する可能性がある。そのため、樹脂による絶縁層を形成する前に誘電体層を形成するなど、製造工程の大幅な変更が必要となるという問題があった。
【0018】
本実施の形態は、櫛歯型電極表面を誘電体で覆うことで温度特性を改善した弾性波フィルタにおいて、樹脂による絶縁層を形成することなく、櫛歯型電極と配線部の電気的接続を保ちつつ、配線間の寄生容量を低減することを主な特徴としている。これにより、弾性波フィルタの小型化が可能となる。
【0019】
以下、本実施の形態にかかる弾性波フィルタの実施例について説明する。
【0020】
(第1実施例)
図1Aは、第1実施例の配線構造を有する弾性波フィルタの上面図である。図1Bは、図1Aに示すZ−Z部の断面図である。
【0021】
図1A及び図1Bに示す弾性波フィルタは、圧電基板1、直列共振器2a、並列共振器2b、配線部3、および誘電体層4を備えている。本実施の形態の弾性波フィルタは、複数の共振器を梯子形に接続したラダー型フィルタである。
【0022】
圧電基板1は、LiNbO3単結晶の基板である。本実施例では、圧電基板1は、LiNbO3で形成したが、LiTaO3で形成することもできる。
【0023】
直列共振器2a、並列共振器2bは、圧電基板1上に備わる。直列共振器2aは、弾性波フィルタの直列腕に接続されている。並列共振器2bは、弾性波フィルタの並列腕に接続されている。なお、直列共振器2aは、互いに対向配置した櫛歯型電極2c及び2dを備えている。並列共振器2bは、互いに対向配置した櫛歯型電極2e及び2fを備えている。弾性波フィルタは、複数の直列共振器2a、並列共振器2bにおいて設定されている共振周波数及び反共振周波数によって、任意の周波数帯域の信号を抽出することができる。
【0024】
配線部3は、圧電基板1上に備わる。配線部3は、各直列共振器2a及び並列共振器2bを接続している。配線部3は、入出力電極3a及び3b、接地電極3c、下層配線部3d、上層配線部3eを含む。入出力電極3a及び3b、接地電極3cは、電極パッドが備わる。下層配線部3d及び上層配線部3eは、直列共振器2a及び並列共振器2bを接続している。下層配線部3dは、圧電基板1上に直列共振器2a及び並列共振器2bにおける櫛歯型電極2c〜2fを形成する時に、同時に形成される。下層配線部3dは、例えば銅(Cu)を主成分とした積層膜で形成することができ、膜厚T1は例えば130nmとすることができる。上層配線部3eは、図1Bに示すように、下層配線部3dの上に備わる。上層配線部3eは、電極幅W1を有する上層部3fと、電極幅W1よりも小さい電極幅W2を有する下層部3gとを備えている。上層配線部3eは、電極幅W1及びW2が「W1>W2」の関係となっているため、上層部3fの端部3m及び3nは下層部3gよりも圧電基板1の主平面方向に突出している。上層配線部3eは、下層配線部3dと同じくCuを主成分とした積層膜で形成することができ、膜厚T2は例えば2μmとすることができる。
【0025】
誘電体層4は、少なくとも一部が、上層配線部3eの端部3m及び3nと圧電基板1との間に介在している。誘電体層4は、SiO2で形成することができる。誘電体層4の厚さT3は、例えば720nmとすることができる。
【0026】
図2A及び図2Bは、電磁界シミュレーションに用いた弾性波フィルタの部分断面図を示し、図2Aは本実施例の弾性波フィルタの構造、図2Bは比較例の弾性波フィルタの構造を示す。図2Aに示す弾性波フィルタは、厚さT11が50μmの圧電基板1と、厚さT12が130nmの直列共振器2a(電極)及び下層配線部3dと、厚さT13が2μmの上層配線部3e、厚さT14が720nmの誘電体層4を備えている。直列共振器2aと下層配線部3dとの距離W11は、30μmとした。図2Bに示す弾性波フィルタは、図2Aに示す厚さT11と同様の厚さT21を有する圧電基板101と、厚さT12と同様の厚さT22を有する直列共振器102a及び下層配線部103dと、厚さT13と同様の厚さT23を有する上層配線部103eと、厚さT14と同様の厚さT24を有する誘電体層104とを備えている。図2Aに示す弾性波フィルタと図2Bに示す弾性波フィルタとの違いは、上層配線部の形状である。図2Aに示す上層配線部3eは、上層部3fの端部3mを下層部3gに対して、圧電基板1の主平面方向に突出させている。すなわち、上層配線部3eとそれに隣り合う直列共振器2aとの電極間隔D1は、距離W11よりも小さい。一方、図2Bに示す弾性波フィルタは、上層配線部103eと下層配線部103dとは同じ電極幅を有する。すなわち、上層配線部103eとそれに隣り合う直列共振器102aとの電極間隔D1は、距離W21と同じである。
【0027】
図2Cは、図2Aに示す弾性波フィルタと図2Bに示す弾性波フィルタとを用いて電磁界シミュレーションを行った結果を示す。シミュレーションは、図2A及び図2Bのそれぞれに示す弾性波フィルタにおける電極間隔D1を変化させたときの、直列共振器2aと配線部3との間に生じる寄生容量Cの値を計測した。図2Cに示すように、電極間隔D1が狭くなるにつれて、配線間の寄生容量Cは大きくなる。特に、図2Bに示す比較例の弾性波フィルタの場合、電極間隔D1を狭めると、上層配線部103e及び下層配線部103dと直列共振器102aとの間隔が狭まるため、電極間隔D1が狭くなるにつれて寄生容量Cの値が大幅に増加する。しかし、図2Aに示す本実施例の弾性波フィルタの場合、上層配線部3eの上層部3fの電極幅W1を大きくして電極間隔D1を狭めても、直列共振器2aと下層配線部3dとの間隔W11は固定しているため、寄生容量Cの増加の割合が少ない。例えば、電極間隔D1を1μmとしたとき、本実施例の弾性波フィルタの寄生容量Cは約0.5pFで、比較例の弾性波フィルタの寄生容量Cは約0.7pFである。すなわち、本実施例の弾性波フィルタは、比較例の弾性波フィルタに比べて寄生容量が30%程度小さくなることがわかる。
【0028】
図3は、上記比較例のように配線部と直列共振器との間の寄生容量が30%増えた場合の通過特性(実線)と、本実施例の弾性波フィルタの通過特性(破線)の変化を示す。すなわち、実線で示す特性は、電極間隔D1が1μmの比較例の弾性波フィルタの通過特性を示し、破線で示す特性は、電極間隔D1が1μmの本実施例の弾性波フィルタの通過特性を示す。図3における実線に示すように、寄生容量が30%増えた場合、寄生容量が30%増える前のフィルタ特性(破線)に対して、通過特性が劣化していることがわかる。
【0029】
以上のように本実施例の弾性波フィルタは、小型化するために、隣接する電極間隔D1を狭めたとしても、寄生容量Cが大幅に増加しないため、通過特性の劣化を低減することができる。したがって、本実施例の弾性波フィルタは、劣化が少ない通過特性を確保しながら、小型化を図ることができる。
【0030】
なお、本実施例で採用した圧電基板1、直列共振器2a、並列共振器2b、配線部3、および誘電体層4の材料や膜厚寸法などは一例であり、本実施例と同様のシミュレーション結果やフィルタ通過特性を確保できれば、他の材料や膜厚寸法で実現することができる。
【0031】
(第2実施例)
図4は、弾性波フィルタの第2実施例の構造の部分断面図を示す。第2実施例の弾性波フィルタは、下層配線部3dの電極幅W3を、上層配線部3eの下層部3gの電極幅W2(誘電体層4における開口幅)よりも大きくしたことを特徴としている。すなわち、上層配線部3eの上層部3fの電極幅W1、電極幅W2、電極幅W3は、
W1>W3>W2
の関係を有している。
【0032】
図4に示す弾性波フィルタによれば、上層配線部3eにおける圧電基板1に近い部分の導体が減るため、互いに隣接する電極間(本実施例では直列共振器2aと配線部3との間)の寄生容量Cをより低減することができる。
【0033】
(第3実施例)
図5は、弾性波フィルタの第3実施例の構造の部分断面図を示す。第3実施例の弾性波フィルタは、図4に示す第2実施例の弾性波フィルタにおいて、誘電体層4の一部を除去した構造である。具体的には、誘電体層4において、上層配線部3eの上層部3fの端部3h及び3iが接する部分を含む領域に、凹部4a及び4bを形成した構造である。
【0034】
図5に示す弾性波フィルタによれば、誘電体層4において、上層配線部3eの上層部3fの端部3h及び3iが接する部分を含む領域を除去して凹部4a及び4bを形成したことにより、隣接する電極間(本実施例では直列共振器2aと配線部3との間)に、少なくとも誘電体層4(SiO2)よりも誘電率εが低い空気層を設けることができる。よって、互いに隣接する電極間の寄生容量Cを、より低減することができる。なお、SiO2の誘電率εは約2.1で、空気の誘電率εは約1.0である。
【0035】
図5に示す弾性波フィルタを製造する場合は、まず図4に示す第2実施例の弾性波フィルタを作製した後、誘電体層4の上に、凹部4a及び4bに相当する部分が開口したレジストをパターニングする。次に、誘電体層4をウェットエッチングなどの方法を用いてエッチングすることにより、凹部5a及び5bが形成される。最後に、レジストを除去する。
【0036】
(第4実施例)
図6は、弾性波フィルタの第4実施例の構造の部分断面図である。第4実施例の弾性波フィルタは、図4に示す第2実施例の弾性波フィルタにおいて、上層配線部3eと誘電体層4との間に空隙5a及び5bを形成した構造である。すなわち、上層配線部3eと誘電体層4とは接していない構造である。
【0037】
図6に示す弾性波フィルタによれば、上層配線部3eと誘電体層4との間に空隙5a及び5bを形成することにより、誘電率εが低下し、互いに隣接する電極間(本実施例では直列共振器2aと配線部3との間)の寄生容量Cをより低減することができる。具体的には、電極間に誘電体層4(SiO2)のみが介在している場合は、誘電率εは約2.1であるが、本実施例のように空隙5a及び5b(空気層)を形成することにより、誘電率εは約1.0となる。
【0038】
図7A〜図7Eは、第4実施例の弾性波フィルタの製造工程を示す部分断面図である。第4実施例の弾性波フィルタを製造する場合は、まず、LiNbO3を含む材料で形成された圧電基板1の上に、Cuを主成分とする電極膜をスパッタリング法または蒸着法を用いて形成し、下層配線部3dに相当する形状にパターニングする。なお、図示は省略しているが、下層配線部3dの形成工程において、同時に直列共振器2a及び並列共振器2bにおける櫛歯型電極2c〜2fを形成する。次に、図7Aに示すように、圧電基板1の上に、SiO2を含む誘電体層4を形成する。次に、図7Bに示すように、誘電体層4の一部をエッチングにより除去して、空隙4cを形成する。次に、図7Cに示すように、下層配線部3d及び誘電体層4の上に、ポジ型レジストであるレジスト11を塗布、露光、現像、および、ポストベークを2回に分けて行うことで断面形状がステップ状になるパターンを形成する。レジストとしてネガ型を使う場合は、塗布、露光を2回に分けて行い、現像およびポストベークは1回だけで済ませることができる。このとき、レジスト11は、誘電体層4を覆うように形成する。また、レジスト11は、上層配線部3eに相当する空隙11aを形成する。また、レジスト11は、下層配線部3dの一部が露出するように形成する。次に、図7Dに示すように、レジスト11及び下層配線部3dの上に、Cuを主成分とする電極膜13を形成する。次に、図7Eに示すように、レジスト11を除去する。これにより、上層配線部3eと誘電体層4との間に空隙5a及び5bを備えた、第4実施例の弾性波フィルタを製造することができる。
【0039】
(第5実施例)
図8は、弾性波フィルタの第5実施例の構造を示す部分断面図である。第5実施例の弾性波フィルタは、図6に示す第4実施例の弾性波フィルタにおいて、上層配線部3eを複数の金属を積層して形成し、複数の金属層における引っ張り応力または圧縮応力を用いて変形させた構造である。具体的には、上層配線部3eは、本実施例では第1層3jと第2層3kとを積層した2層構造である。第1層3jは、引っ張り応力を持つ材料を含ませることが好ましく、例えばチタン(Ti)を含ませることが好ましい。第2層3kは、圧縮応力を持つ材料を含ませることが好ましく、例えば銅(Cu)を含ませることが好ましい。なお、第1層3j及び第2層3kの材料は、これらに限定されない。また、上層配線部3eは、金属膜を3層以上含む構造としてもよい。
【0040】
上層配線部3eを応力が異なる第1層3j及び第2層3kを備えたことにより、スパッタリング法または蒸着法を用いて上層配線部3eを形成する際に、第1層3jにおいて引っ張り応力が発生するか、第2層3kにおいて圧縮応力が発生する。したがって、上層配線部3eの端部3m及び3nが、圧電基板1から遠ざかる方向へ変形する。図8に示す構造では、上層配線部3eの端部3m及び3nが上方に反っている。なお、端部3m及び3nは、上層配線部3eにおいて、誘電体層4を挟んで圧電基板1に対向している部分である。これにより、上層配線部3eと直列共振器2aとの距離が、第4実施例の弾性波フィルタにおける上層配線部3eと直列共振器2aとの距離に比べて、大きくなる。
【0041】
図8に示す弾性波フィルタによれば、上層配線部3eを金属積層膜とし、上層である第1層3jを引っ張り応力を持つ材料を含ませ、あるいは下層である第2層3kに圧縮応力を持つ材料を含ませることにより、上層配線部3eの端部3m及び3nが応力により圧電基板1から遠ざかる方向へ反る。したがって、隣接する電極間距離(本実施例では、直列共振器2aと上層配線部3eとの距離)が広がり、寄生容量Cをより低減することができる。
【0042】
〔2.通信モジュールの構成〕
図9は、本実施の形態にかかる弾性波フィルタを備えた通信モジュールの一例を示す。図9に示すように、デュープレクサ62は、受信フィルタ62aと送信フィルタ62bとを備えている。また、受信フィルタ62aには、例えばバランス出力に対応した受信端子63a及び63bが接続されている。また、送信フィルタ62bは、パワーアンプ64を介して送信端子65に接続している。ここで、受信フィルタ62aは、本実施の形態にかかる弾性波フィルタを備えている。
【0043】
受信動作を行う際、受信フィルタ62aは、アンテナ端子61を介して入力される受信信号のうち、所定の周波数帯域の信号のみを通過させ、受信端子63a及び63bから外部へ出力する。また、送信動作を行う際、送信フィルタ62bは、送信端子65から入力されてパワーアンプ64で増幅された送信信号のうち、所定の周波数帯域の信号のみを通過させ、アンテナ端子61から外部へ出力する。
【0044】
本実施の形態にかかる弾性波フィルタを通信モジュールに備えることで、良好な通過特性を確保しながら、モジュールの小型化が可能となる。
【0045】
なお、図9に示す通信モジュールの構成は一例であり、他の形態の通信モジュールに本実施の形態にかかるフィルタを搭載しても、同様の効果が得られる。
【0046】
〔3.通信装置の構成〕
図10は、本実施の形態にかかる弾性波フィルタ、または前述の通信モジュールを備えた通信装置の一例として、携帯電話端末のRFブロックを示す。また、図10に示す通信装置は、GSM(Global System for Mobile Communications)通信方式及びW−CDMA(Wideband Code Division Multiple Access)通信方式に対応した携帯電話端末の構成を示す。また、本実施の形態におけるGSM通信方式は、850MHz帯、950MHz帯、1.8GHz帯、1.9GHz帯に対応している。また、携帯電話端末は、図10に示す構成以外にマイクロホン、スピーカー、液晶ディスプレイなどを備えているが、本実施の形態における説明では不要であるため図示を省略した。ここで、受信フィルタ73a、77〜80は、本実施の形態にかかる弾性波フィルタを備えている。
【0047】
まず、アンテナ71を介して入力される受信信号は、その通信方式がW−CDMAかGSMかによってアンテナスイッチ回路72で、動作の対象とするLSIを選択する。入力される受信信号がW−CDMA通信方式に対応している場合は、受信信号をデュープレクサ73に出力するように切り換える。デュープレクサ73に入力される受信信号は、受信フィルタ73aで所定の周波数帯域に制限されて、バランス型の受信信号がLNA74に出力される。LNA74は、入力される受信信号を増幅し、LSI76に出力する。LSI76では、入力される受信信号に基づいて音声信号への復調処理を行ったり、携帯電話端末内の各部を動作制御したりする。
【0048】
一方、信号を送信する場合は、LSI76は送信信号を生成する。生成された送信信号は、パワーアンプ75で増幅されて送信フィルタ73bに入力される。送信フィルタ73bは、入力される送信信号のうち所定の周波数帯域の信号のみを通過させる。送信フィルタ73bから出力される送信信号は、アンテナスイッチ回路72を介してアンテナ71から外部に出力される。
【0049】
また、入力される受信信号がGSM通信方式に対応した信号である場合は、アンテナスイッチ回路72は、周波数帯域に応じて受信フィルタ77〜80のうちいずれか一つを選択し、受信信号を出力する。受信フィルタ77〜80のうちいずれか一つで帯域制限された受信信号は、LSI83に入力される。LSI83は、入力される受信信号に基づいて音声信号への復調処理を行ったり、携帯電話端末内の各部を動作制御したりする。一方、信号を送信する場合は、LSI83は送信信号を生成する。生成された送信信号は、パワーアンプ81または82で増幅されて、アンテナスイッチ回路72を介してアンテナ71から外部に出力される。
【0050】
本実施の形態にかかる弾性波フィルタ、または通信モジュールを通信装置に備えることで、良好な通過特性を確保しながら、通信装置を小型化することができる。
【0051】
〔4.実施の形態の効果、他〕
本実施の形態によれば、上層配線部3eの電極幅を下層配線部3dの電極幅よりも大きくしたことにより、上層配線部3eは、高誘電率の圧電基板1には直接接触せず、圧電基板1よりも誘電率が低い誘電体層4を挟んで圧電基板1上に配置される。これにより、隣接する電極との間に発生する寄生容量を低減することができる。したがって、隣接する電極間の距離を小さくしたとしても寄生容量が大幅に増加せず、通過特性も大幅に劣化しないので、良好な通過特性を確保しながら弾性波フィルタ、通信モジュール、通信装置を小型化することができる。
【0052】
また、特許文献1に開示されている絶縁パターンなどのように、寄生容量を生じさせる電界を絶縁する部材を別途備えなくてもよいため、低コストに実現することができる。
【0053】
また、図4に示すように、上層配線部3eの下層部3gの電極幅W2を下層配線部3dの電極幅W3よりも小さく、すなわち誘電体層4において下層部3gが内在する開口部の幅寸法を下層配線部3dの電極幅W3よりも小さくしたことにより、圧電基板1に近い配線層が少なくなるので、より寄生容量を低減することができる。
【0054】
また、図5に示すように、誘電体層4において、上層配線部3eの端部3h及び3iが接する領域に凹部4a及び4bを形成したことにより、隣接する電極間に、少なくとも誘電体層4(SiO2)よりも誘電率が低い空気層を設けることができるので、より寄生容量を低減することができる。
【0055】
また、図6に示すように、上層配線部3eと誘電体層4とが非接触となるように空隙5a及び5bを形成したことにより、上層配線部3eにおいて、下層配線部3dと接触している箇所以外は、全て誘電率が低い空気層を介することができるので、より寄生容量を低減することができる。
【0056】
また、図8に示すように、上層配線部3eを複数の金属層で形成し、上層である第1層3jの金属層が引っ張り応力を持つ材料で形成したことにより、上層配線部3eの端部3m及び3nが第1層3jの引っ張り応力によって浮き上がることになる。また、下層である第2層3kの金属層が圧縮応力を持つ材料で形成したことにより、上層配線部3eの端部3m及び3nが第2層3kの圧縮応力によって浮き上がることになる。これにより、上層配線部3eとそれ隣接する電極との間の距離が大きくなるので、より寄生容量を低減することができる。
【0057】
なお、本実施の形態における圧電基板1は、本発明の圧電基板の一例である。本実施の形態における櫛歯型電極2e及び2fは、本発明の櫛歯型電極の一例である。本実施の形態における配線部3は、本発明の配線部の一例である。本実施の形態における誘電体層4は、本発明の誘電体層の一例である。本実施の形態における下層配線部3dは、本発明の下層配線部の一例である。本実施の形態における上層配線部3eは、本発明の上層配線部の一例である。
【0058】
本実施の形態に関して、以下の付記を開示する。
【0059】
(付記1)
圧電基板と、
前記圧電基板上に形成された櫛歯型電極と、
前記櫛歯型電極に接続された配線部と、
前記櫛歯型電極を覆うように形成された誘電体層とを備える弾性波デバイスを備えた通信モジュールであって、
前記配線部は、前記櫛歯型電極と同層の下層配線部と、前記下層配線部の上部に配された上層配線部とを備え、
前記上層配線部は、前記下層配線部の電極幅よりも大きな電極幅を有する領域を備えている、通信モジュール。
【0060】
(付記2)
前記上層配線部における前記下層配線部に接する部分の電極幅は、前記下層配線部の電極幅よりも狭い、付記1記載の通信モジュール。
【0061】
(付記3)
前記上層配線部と前記誘電体層との間に空隙を有する、付記2記載の通信モジュール。
【0062】
(付記4)
前記上層配線部は、複数の金属層を備え、
前記複数の金属層のうちいずれか一つが、引っ張り応力を持つ材料または圧縮応力を持つ材料で形成されている、付記3記載の通信モジュール。
【0063】
(付記5)
圧電基板と、
前記圧電基板上に形成された櫛歯型電極と、
前記櫛歯型電極に接続された配線部と、
前記櫛歯型電極を覆うように形成された誘電体層とを備える弾性波フィルタを備えた通信装置であって、
前記配線部は、前記櫛歯型電極と同層の下層配線部と、前記下層配線部の上部に配された上層配線部とを備え、
前記上層配線部は、前記下層配線部の電極幅よりも大きな電極幅を有する領域を備えている、通信装置。
【0064】
(付記6)
前記上層配線部における前記下層配線部に接する部分の電極幅は、前記下層配線部の電極幅よりも狭い、付記5記載の通信装置。
【0065】
(付記7)
前記上層配線部と前記誘電体層との間に空隙を有する、付記6記載の通信装置。
【0066】
(付記8)
前記上層配線部は、複数の金属層を備え、
前記複数の金属層のうちいずれか一つが、引っ張り応力を持つ材料または圧縮応力を持つ材料で形成されている、付記7記載の通信装置。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本願は、弾性波フィルタ、通信モジュール、通信装置に有用である。
【符号の説明】
【0068】
1 圧電基板
2a 直列共振器
2b 並列共振器
2c,2d,2e,2f 櫛歯型電極
3 配線部
3d 下層配線部
3e 上層配線部
3f 上層部
3g 下層部
3h,3i,3m,3n 端部
3j 第1層
3k 第2層
4 誘電体層
4a,4b 凹部
5a,5b 空隙
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板と、
前記圧電基板上に形成された櫛歯型電極と、
前記櫛歯型電極に接続された配線部と、
前記櫛歯型電極を覆うように形成された誘電体層とを備える弾性波フィルタであって、
前記配線部は、前記櫛歯型電極と同層の下層配線部と、前記下層配線部の上部に配された上層配線部とを備え、
前記上層配線部は、前記下層配線部の電極幅よりも大きな電極幅を有する領域を備えている、弾性波フィルタ。
【請求項2】
前記上層配線部における前記下層配線部に接する部分の電極幅は、前記下層配線部の電極幅よりも狭い、請求項1記載の弾性波フィルタ。
【請求項3】
前記上層配線部と前記誘電体層との間に空隙を有する、請求項2記載の弾性波フィルタ。
【請求項4】
前記上層配線部は、複数の金属層を備え、
前記複数の金属層のうちいずれか一つが、引っ張り応力を持つ材料または圧縮応力を持つ材料で形成されている、請求項3記載の弾性波フィルタ。
【請求項1】
圧電基板と、
前記圧電基板上に形成された櫛歯型電極と、
前記櫛歯型電極に接続された配線部と、
前記櫛歯型電極を覆うように形成された誘電体層とを備える弾性波フィルタであって、
前記配線部は、前記櫛歯型電極と同層の下層配線部と、前記下層配線部の上部に配された上層配線部とを備え、
前記上層配線部は、前記下層配線部の電極幅よりも大きな電極幅を有する領域を備えている、弾性波フィルタ。
【請求項2】
前記上層配線部における前記下層配線部に接する部分の電極幅は、前記下層配線部の電極幅よりも狭い、請求項1記載の弾性波フィルタ。
【請求項3】
前記上層配線部と前記誘電体層との間に空隙を有する、請求項2記載の弾性波フィルタ。
【請求項4】
前記上層配線部は、複数の金属層を備え、
前記複数の金属層のうちいずれか一つが、引っ張り応力を持つ材料または圧縮応力を持つ材料で形成されている、請求項3記載の弾性波フィルタ。
【図1A】
【図1B】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図7D】
【図7E】
【図8】
【図9】
【図10】
【図1B】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図7D】
【図7E】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2011−71912(P2011−71912A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−223283(P2009−223283)
【出願日】平成21年9月28日(2009.9.28)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.GSM
【出願人】(000204284)太陽誘電株式会社 (964)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年9月28日(2009.9.28)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.GSM
【出願人】(000204284)太陽誘電株式会社 (964)
【Fターム(参考)】
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