説明

弾性波装置

【課題】特性を安定させることができる、保護膜を備えた弾性波装置を提供する。
【解決手段】弾性波装置11は、(a)基板12にIDT電極21が形成された弾性波素子と、(b)弾性波素子を覆うように形成される保護膜15とを備える。弾性波素子は、IDT電極21を含む基板12上に形成されたSiO膜13をさらに備え、保護膜15がSiO膜13の上から形成されている。保護膜15に、IDT電極21により励起される弾性波のエネルギーが分布している。保護膜15は、珪素と窒素を主成分とする窒化シリコン(SiN)膜であり、珪素と窒素との組成比を1:Xで表すとき、Xが0.2を超え、1.00未満である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性波装置に関し、詳しくは、弾性波装置の保護膜に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体や、弾性表面波装置などの弾性波装置では、湿気による電極等の腐食を防止するための保護膜が設けられる。
【0003】
例えば、図7の断面図に示した弾性表面波装置では、ベースプレート103に搭載された基板101が保護膜108で覆われる構成が開示されている。詳しくは、基板101には、IDT電極等の導電構造(図示せず)が形成されている。基板101上の導電構造は、保護層108で密封されている。基板101は、ベースプレート103の導体路104にバンプ105を介して電気的に接続されている。基板101とベースプレート103との間には絶縁層106が配置され、基板101とベースプレート103との接続範囲には樹脂等で囲み枠107が形成されている。(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
保護膜には、例えば窒化シリコン膜が使用される。通常、窒化シリコン膜と呼ばれているのは、化学量論比Siに対応してSiとNの組成比が3:4である膜であり、SiNで表すとX=4/3=1.33のものである。
【特許文献1】特表平11−510666号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、保護膜自体の湿気による酸化、吸湿のため、湿気進入を防止する機能が劣化していく。
【0006】
特に、微量の水分で電極の腐食や材料定数の変化を引き起こす弾性表面波装置では、保護膜によりIDT電極の腐食をある程度抑制することができるが、保護膜にもSAWエネルギーが分布しているために、保護膜自体の湿気による材料定数の変化により保護膜の音速が変化し、特性が劣化するという問題が出てきた。
【0007】
本発明は、かかる実情に鑑み、特性を安定させることができる、保護膜を備えた弾性波装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するために、以下のように構成した弾性波装置を提供する。
【0009】
弾性波装置は、(a)基板にIDT電極が形成された弾性波素子と、(b)前記弾性波素子を覆うように形成される保護膜とを備える。前記弾性波素子は、前記IDT電極を含む前記基板上に形成されたSiO膜をさらに備え、前記保護膜が前記SiO膜の上から形成されている。前記保護膜に、前記IDT電極により励起される弾性波のエネルギーが分布している。前記保護膜は、珪素と窒素を主成分とする窒化シリコン膜であり、前記珪素と前記窒素との組成比を1:Xで表すとき、前記Xが0.2を超え、1.00未満である。
【0010】
上記構成において、弾性波素子は、表面波(SAW)、境界波などの弾性波を利用する素子である。弾性波装置は、少なくとも1個の弾性波素子を備えていればよく、共通基板に複数個の弾性波素子を備えたものや、チップサイズパッケージ(CSP)に小型化されたものであってもよい。
【0011】
上記構成によれば、保護膜の窒化シリコン膜はSiNで表されたとき0.2<X<1.00であり、X≒1.33である通常の窒化シリコン膜と比べると、珪素の割合が相対的に大きく、窒素の割合が相対的に小さい。このようなシリコンリッチの窒化シリコン膜を用いると、湿度負荷による弾性波装置の特性劣化を小さくすることができる。X<1.00であれば、X≧1.00の場合よりも、湿度負荷による弾性波装置の周波数特性の変動量が小さくなる。X>0.2であれば、保護膜の窒化シリコン膜を容易に形成することができる。
【0012】
保護膜は、次のように種々の態様とすることができる。
【0013】
好ましくは、前記弾性波素子を複数搭載する共通基板をさらに備える。前記保護膜が、前記共通基板上に搭載された複数の前記弾性波素子を覆うように形成されている。
【0014】
より好ましくは、前記Xが0.60未満である。
【0015】
この場合、湿度負荷による周波数特性の変動量もその標準偏差σもさらに好ましい状態となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、保護膜に用いる窒化シリコン膜をシリコンリッチにすることで、保護膜の機能低下を防ぎ、弾性波装置の特性を安定させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】弾性波装置の断面図である。(実施例1)
【図2】弾性波装置の断面図である。(参考例1)
【図3】弾性波装置の断面図である。(参考例2)
【図4】湿度負荷による周波数の変動量と組成比との関係を示すグラフである。(実施例1)
【図5】湿度負荷による周波数の変動量のσと組成比との関係を示すグラフである。(実施例1)
【図6】初期周波数のばらつきと組成比の関係を示すグラフである。(実施例1)
【図7】弾性波装置の断面図である。(従来例)
【符号の説明】
【0018】
10 弾性波装置
10a 電子部品
11 弾性波装置
12 基板
12a 下面
12b 側面
15 保護膜
18 保護膜
20,21 IDT電極
30 弾性波装置
34 保護膜
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、図1〜図6を参照しながら説明する。
【0020】
<実施例1> 実施例1の弾性波装置11について、図1を参照しながら説明する。
【0021】
図1は、実施例1の弾性波装置11の断面図である。
【0022】
図1に示すように、弾性波装置11は、基板12の下面12aに、櫛歯状のIDT電極21、パッド23、配線パターン(図示せず)を含む導電パターンが形成された弾性波素子を備えている。弾性波装置11は、例えば弾性表面波装置(SAWデバイス)であり、基板12には、LiTaO、LiNbOなどの圧電基板を用い、弾性波素子は弾性表面波素子を形成する。
【0023】
圧電基板12の下面12a全体には、IDT電極21を含め、SiO膜13で覆われている。このSiO膜は、温度特性を調整するため形成されている。SiO膜13の外側には、保護膜15が形成されている。IDT電極21は、保護膜15によって保護されている。弾性波装置11が弾性表面波装置(SAWデバイス)の場合、保護膜15の厚みを調整することで周波数特性を調整することができる。
【0024】
保護膜15は、プラズマCVD法等による成膜時の成膜条件を調整することにより、シリコンリッチとなるように形成された窒化シリコン膜である。
【0025】
通常、「窒化シリコン膜」と呼ばれているのは、化学量論比Siに対応してSiとNの組成比が3:4である膜であり、SiとNの組成比を1:Xで表すとき、すなわちSiNで表すとき、実質的に、X=4/3≒1.33となるものである。
【0026】
これに対し、弾性波装置11の保護膜15は、シリコンリッチの窒化シリコン膜であり、通常の組成比の窒化シリコン膜に比べると、珪素成分の割合が相対的に大きく、窒素成分の割合が相対的に小さい。すなわち、保護膜15は、通常の成膜条件で形成された窒化シリコン膜(X≒1.33)に比べて明らかにXが小さくなるように、例えばX≦1.15となるように、シリコンリッチの窒化シリコン膜を形成する。
【0027】
通常の組成比の窒化シリコン膜と比べると、保護膜15に用いるシリコンリッチの窒化シリコン膜は、湿中雰囲気中での保護膜15の酸化が抑制され、透湿を抑制する効果が高い。透湿を抑制する効果が高いため、保護膜15の内部に形成されたIDT電極21等の湿気による変化を抑制する効果が高い。また、保護膜15自体の酸化が抑制され、保護膜機能の経時変化が小さい。弾性波装置11が弾性表面波装置(SAWデバイス)である場合には、保護膜15自体の酸化が抑制されるため、保護膜15の音速変化が小さく、特性の経時変化が小さい。
【0028】
したがって、弾性波装置11の特性を安定させることができる。
【0029】
<作製例> 次に、弾性波装置11の作製例について、図4〜図6を参照しながら説明する。
【0030】
圧電基板上に金属膜をパターニングして弾性表面波(SAW)フィルタを形成し、保護膜15として、シリコンリッチの窒化シリコン膜を、プラズマCVD法により、成膜温度150℃で形成した。窒素と珪素の組成比1:Xが異なるものを作製し、湿度負荷試験を行った。窒素と珪素の組成比1:Xは、ラザフォード後方散乱分光法(RBS;Rutherford back scattering method)により、元素の濃度を測定して求めた。
【0031】
保護膜15の窒化シリコン膜の窒素と珪素の組成比が異なる試料について、湿度負荷試験の前後に周波数を計測した。湿度負荷試験の条件は、温度85℃、相対湿度85%とした。
【0032】
図4〜図6に、X≧0の測定結果のグラフを示す。いずれも成膜温度=150℃での値(換算値)である。
【0033】
図4は、湿度負荷による周波数特性の変動量(湿度負荷試験前後の周波数特性の差)を示すグラフである。図4において、横軸は窒化シリコン膜の窒素と珪素の組成比を1:XとしたときのX、縦軸は湿度負荷による周波数特性の変動量(湿度負荷試験前後の周波数特性の差)である。図中の『◆』は「湿度負荷による変動量の平均値」を示す。『□』は「(湿度負荷による変動量の平均値)+3σ」を示す。『△』は「(湿度負荷による変動量の平均値)−3σ」を示す。σは標準偏差である。
【0034】
SAWフィルタは耐電力や温度、湿度などの様々な環境負荷によって周波数が変動するが、その環境負荷を加えてもフィルタとしての目標特性を満足できる変動量から導出された値として、周波数特性の変動量の絶対値が3.5MHz以下であることが望まれている。この条件を、ここでは「耐環境負荷条件」という。
【0035】
図4から分かるように、X≦1.15であれば、湿度負荷による周波数特性の変動量は、−3.5MHz〜+1.00MHzの範囲内であり、周波数特性の変動量の絶対値が3.5MHz以下となるため、上記の耐環境負荷条件を満たす。
【0036】
図5は、湿度負荷による周波数特性の変動量の標準偏差σを示すグラフである。図5において、横軸は図4と同様にX、縦軸は湿度負荷による周波数特性の変動量の標準偏差σである。図5から分かるように、Xが小さいほどσは小さくなる。X<1.00であれば、X≧1.00の場合よりもσが小さくなり、湿度負荷による周波数特性の変動量が小さくなるので、好ましい。そして、Xが0.60未満であれば、湿度負荷による周波数特性の変動量もその標準偏差σもさらに好ましい状態となる。
【0037】
特に、X=0であれば、σが最も小さくなり、湿度負荷による周波数特性の変動量が最も小さくすることができるので、より好ましい。なお、X=0のとき、保護膜は広義には窒化シリコン膜であるが、狭義にはシリコン膜である。
【0038】
図6は、初期特性(湿度負荷試験前の周波数特性)の測定値の標準偏差σを示すグラフである。図6において、横軸は図4と同様にX、縦軸は初期特性(湿度負荷試験前の周波数特性)の測定値の標準偏差σである。図6から分かるように、Xが大きいほどσは小さくなり、初期特性のばらつきが小さくなる。X>1.00では、X≦1.00の場合よりも、初期特性のばらつきが小さいため好ましい。また、X>1.00では、σが略一定であり、Xが多少変動しても初期特性のばらつきにほとんど影響がないため、製造が容易になる。
【0039】
また、湿度負荷による周波数特性の変動量、その変動量の標準偏差σ、初期特性の測定値の標準偏差を総合的に勘案して、ある種の用途に対しては、Xが0.60未満であり、かつ0.2を超えることが好ましい。
【0040】
なお、成膜温度のみを、150℃から220℃、260℃、290℃に変えて、同様の試験を行った結果、周波数の変動量(標準偏差σ)は、成膜温度が150℃より高くなるほど、絶対値が小さくなった。したがって、(a)X≦1.15であれば耐環境負荷条件を満たすので好ましく、(b)X<1.00であれば湿度負荷による周波数特性の変動量が小さくなるので好ましく、(c)X>1.00では初期特性のばらつきが小さくなるため好ましいことに、変わりはない。
【0041】
<参考例1> 参考例1の弾性波装置について、図2を参照しながら説明する。
【0042】
図2は、参考例1の弾性波装置10の断面図である。図2に示すように、弾性波装置10は、基板12の下面12aに、IDT電極20やパッド22、不図示の配線パターンが、金属膜等により形成されている弾性波素子を備えている。
【0043】
基板12の下面12aは、IDT電極20の周囲に絶縁材で形成された支持層14を介して、絶縁膜等のシート16で覆われている。
【0044】
シート16の外側には、保護膜18が形成されている。保護膜18は、シート16上から基板12の側面12bまで連続的に延在するように形成されている。すなわち、ウェハ状態の集合基板から分割された個片に、保護膜18が成膜される。この保護膜18により、弾性波素子のIDT電極20は密封されている。
【0045】
保護膜18の外側には、はんだ等によりバンプ26が形成されている。バンプ26は、支持層14、シート16及び保護膜18に形成された貫通孔内に配置されたビア導体24を介して、パッド22と電気的に接続されている。
【0046】
保護膜18は、実施例1と同様に、シリコンリッチとなるように形成された窒化シリコン膜である。すなわち、保護膜18は、SiとNの組成比を1:Xで表すとき、例えばX≦1.15となる。
【0047】
通常の組成比の窒化シリコン膜と比べると、保護膜18に用いるシリコンリッチの窒化シリコン膜は、湿中雰囲気中での保護膜18の酸化が抑制され、透湿を抑制する効果が高い。透湿を抑制する効果が高いため、保護膜18の内部に形成されたIDT電極20等の湿気による変化を抑制する効果が高い。また、保護膜18自体の酸化が抑制され、保護膜機能の経時変化が小さい。
【0048】
したがって、弾性波装置10の特性を安定させることができる。
【0049】
<参考例2> 参考例2の弾性波装置30について、図3を参照しながら説明する。
【0050】
図3の断面図に示すように、参考例2の弾性波装置30は、共通基板40にはんだ等の導電部材36を介して電子部品10aが実装されている。電子部品10aは、保護樹脂32で取り囲まれている。例えば、エポキシ等の半硬化シートの保護樹脂32に、電子部品10aを埋め込む。
【0051】
保護樹脂32の外表面全体に、保護膜34としてシリコンリッチの窒化シリコン膜が形成されている。保護膜34は、保護樹脂32上から共通基板40の側面41まで連続的に延在している。
【0052】
共通基板40に実装されている電子部品10aは、参考例1の弾性波装置10と略同様に構成することができるが、電子部品10aは保護膜34で密封されるため、電子部品10a自体に、参考例1の弾性波装置10のような保護膜18を設けなくてもよい。
【0053】
共通基板40は、例えば、複数層が積層された積層基板であり、一方主面に導電パターン42とレジストパターン43が形成され、他方主面に外部電極46が形成されている。共通基板40の内部には、各層を貫通して層間を接続する層間接続導体44や、層間に配置された内部配線パターン45などが形成されている。
【0054】
弾性波装置30の保護膜34に用いるシリコンリッチの窒化シリコン膜は、通常の組成比の窒化シリコン膜と比べると、湿中雰囲気中での保護膜34の酸化が抑制され、透湿を抑制する効果が高い。透湿を抑制する効果が高いため、保護膜34の内部の湿気による変化を抑制する効果が高い。また、保護膜34自体の酸化が抑制され、保護膜機能の経時変化が小さい。
【0055】
したがって、保護膜34の内部に配置された電子部品10a等について、湿気による変化を抑制する効果が高い。
【0056】
<まとめ> 以上に説明したように、弾性波装置の保護膜に用いる窒化シリコン膜をシリコンリッチとすることで、保護膜の機能低下を防ぎ、弾性波装置の特性を安定させることができる。
【0057】
なお、本発明は、上記した実施の形態に限定されるものではなく、種々変更を加えて実施することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板にIDT電極が形成された弾性波素子と、
前記弾性波素子を覆うように形成される保護膜と、
を備え、
前記弾性波素子は、前記IDT電極を含む前記基板上に形成されたSiO膜をさらに備え、
前記保護膜が前記SiO膜の上から形成されており、
前記保護膜に、前記IDT電極により励起される弾性波のエネルギーが分布しており、
前記保護膜は、珪素と窒素を主成分とする窒化シリコン膜であり、前記珪素と前記窒素との組成比を1:Xで表すとき、前記Xが0.2を超え、1.00未満であることを特徴とする、弾性波装置。
【請求項2】
前記弾性波素子を複数搭載する共通基板をさらに備え、
前記保護膜が、前記共通基板上に搭載された複数の前記弾性波素子を覆うように形成されていることを特徴とする、請求項1に記載の弾性波装置。
【請求項3】
前記Xが0.60未満であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の弾性波装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2013−34230(P2013−34230A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−221700(P2012−221700)
【出願日】平成24年10月3日(2012.10.3)
【分割の表示】特願2009−543728(P2009−543728)の分割
【原出願日】平成20年10月28日(2008.10.28)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】