説明

弾性表面波フィルタ装置

【課題】耐電力性に優れた弾性表面波フィルタ装置を提供する。
【解決手段】直列腕共振子S1〜S4及び並列腕共振子P1〜P3を構成している複数の弾性表面波共振子のうち、第1及び第2の信号端子21,24間を信号が流れた際の単位時間あたりの発熱量が最も小さい弾性表面波共振子以外の弾性表面波共振子のいずれか一つを構成しているIDT電極は、配線電極50a,50bと対向していない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性表面波フィルタ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、下記の特許文献1などにおいて、携帯電話機などの通信機におけるRF(Radio Frequency)回路に搭載される帯域通過フィルタ及び分波器などとして、弾性表面波を利用した弾性表面波フィルタ装置が種々提案されている。
【0003】
図9は、特許文献1に記載されている弾性表面波分波器の略図的回路図である。図9に示すように、弾性表面波分波器100は、アンテナ端子101と、送信側信号端子102と、第1及び第2の受信側信号端子103a,103bとを備えている。アンテナ端子101と送信側信号端子102との間には、送信フィルタ104が接続されている。一方、アンテナ端子101と第1及び第2の受信側信号端子103a,103bとの間には、受信フィルタ105が接続されている。送信フィルタ104は、ラダー型の弾性表面波フィルタであり、複数の弾性表面波共振子と、複数のキャパシタと、複数のインダクタとを備えている。受信フィルタ105は、縦結合共振子型弾性表面波フィルタである。
【0004】
弾性表面波分波器100は、上記送信フィルタ104の一部が設けられている送信フィルタチップ106と、受信フィルタ105の一部が設けられている受信フィルタチップ107とを有する。送信フィルタチップ106と受信フィルタチップ107とは、図示しない配線基板の上にフリップチップ実装されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−11300号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
弾性表面波分波器100のように、弾性表面波フィルタチップと、弾性表面波フィルタチップがフリップチップ実装された配線基板とを備える弾性表面波フィルタ装置においては、耐電力性が高いことが望まれている。
【0007】
本発明は、係る点に鑑みてなされたものであり、その目的は、耐電力性に優れた弾性表面波フィルタ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る弾性表面波フィルタ装置は、第1及び第2の信号端子と、第1の信号端子と第2の信号端子との間に接続されており、複数の弾性表面波共振子を含む弾性表面波フィルタ部とを備える弾性表面波フィルタ装置である。本発明に係る弾性表面波フィルタ装置は、弾性表面波フィルタチップと、配線基板とを備えている。弾性表面波フィルタチップには、複数の弾性表面波共振子が設けられている。配線基板は、第1及び第2の主面を有する。第1の主面の上に弾性表面波フィルタチップが実装されている。第2の主面の上に第1及び第2の信号端子が形成されている。配線基板は、第1の主面の上に設けられており弾性表面波フィルタチップに接続されている複数のランド電極と、第1の主面の上に設けられており、複数のランド電極のうちの少なくとも一つと接続されている配線電極を備えている。弾性表面波フィルタチップは、圧電基板と、IDT電極とを有する。IDT電極は、圧電基板の配線基板と対向する側の表面の上に形成されている。IDT電極は、弾性表面波共振子を構成している。複数の弾性表面波共振子のうち、第1及び第2の信号端子間を信号が流れた際の単位時間あたりの発熱量が最も小さい弾性表面波共振子以外の弾性表面波共振子のいずれか一つを構成しているIDT電極は、配線電極と対向していない。
【0009】
なお、本発明において、IDT電極が配線電極と対向していないことには、IDT電極が設けられている領域の面積のうち、配線電極の第1の主面の上に形成されている部分と対向していない部分の面積が90%以上であることをいう。
【0010】
本発明に係る弾性表面波フィルタ装置のある特定の局面では、複数の弾性表面波共振子のうち、第1及び第2の信号端子間を信号が流れた際の単位時間あたりの発熱量が最も大きい弾性表面波共振子を構成しているIDT電極が、配線電極と対向していない。この構成によれば、弾性表面波フィルタ装置の耐電力性をより改善することができる。
【0011】
本発明に係る弾性表面波フィルタ装置の他の特定の局面では、複数の弾性表面波共振子を構成しているIDT電極のすべてが、配線電極と対向していない。この構成によれば、弾性表面波フィルタ装置の耐電力性をさらに改善することができる。
【0012】
本発明に係る弾性表面波フィルタ装置の別の特定の局面では、弾性表面波フィルタ部は、ラダー型弾性表面波フィルタ部である。
【0013】
本発明に係る弾性表面波フィルタ装置のさらに他の特定の局面では、配線電極がインダクタを構成している。
【0014】
本発明に係る弾性表面波フィルタ装置のさらに別の特定の局面では、弾性表面波フィルタ部は、送信フィルタを構成している。この場合、IDT電極により大きな電力が投入されるため、耐電力性を向上できるという効果がより強く奏される。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、複数の弾性表面波共振子のうち、第1及び第2の信号端子間を信号が流れた際の単位時間あたりの発熱量が最も小さい弾性表面波共振子以外の弾性表面波共振子のいずれか一つを構成しているIDT電極は、配線電極と対向していない。従って、本発明に係る弾性表面波フィルタ装置は、優れた耐電力性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明を実施した一実施形態に係るデュプレクサの略図的回路図である。
【図2】本発明を実施した一実施形態に係るデュプレクサの略図的断面図である。
【図3】本発明を実施した一実施形態に係るデュプレクサにおける送信側弾性表面波フィルタチップの略図的透視平面図である。
【図4】本発明を実施した一実施形態に係るデュプレクサにおける配線基板のダイアタッチ面の模式的平面図である。
【図5】本発明を実施した一実施形態に係るデュプレクサの模式的透視平面図である。
【図6】比較例のデュプレクサにおける配線基板のダイアタッチ面の模式的平面図である。
【図7】比較例のデュプレクサの模式的透視平面図である。
【図8】本発明を実施した他の実施形態に係るデュプレクサの模式的透視平面図である。
【図9】特許文献1に記載されている弾性表面波分波器の略図的回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施した好ましい形態について、弾性表面波フィルタ装置の一種である図1及び図2に示すデュプレクサ1を例に挙げて説明する。但し、デュプレクサ1は、単なる例示である。本発明に係る弾性表面波フィルタ装置は、デュプレクサ1に何ら限定されない。本発明に係る弾性表面波フィルタ装置は、例えば、フィルタ部をひとつのみ有するものであってもよいし、例えばトリプレクサなどの、デュプレクサ以外の分波器であってもよい。
【0018】
本実施形態のデュプレクサ1は、例えば、UMTS(Universal Mobile Telecommunications System)のようなCDMA(Code Division Multiple Access)方式に対応する携帯電話機などのRF(Radio Frequency)回路に搭載されるものである。デュプレクサ1は、UMTS−BAND2に対応するデュプレクサである。UMTS−BAND2の送信周波数帯は、1850〜1910MHzであり、受信周波数帯は、1930〜1990MHzである。
【0019】
図1は、本実施形態のデュプレクサ1の略図的回路図である。図2は、本実施形態のデュプレクサ1の略図的断面図である。図1に示すように、デュプレクサ1は、アンテナ端子21と、送信側信号端子24と、第1及び第2の受信側信号端子22a,22bとを備えている。アンテナ端子21と送信側信号端子24との間には、送信フィルタが接続されている。アンテナ端子21と第1及び第2の受信側信号端子22a,22bとの間には、受信フィルタが接続されている。
【0020】
図2に示すように、デュプレクサ1は、配線基板10と、送信側弾性表面波フィルタチップ14と、受信側弾性表面波フィルタチップ15とを備えている。送信側弾性表面波フィルタチップ14には、送信フィルタの一部が設けられている。受信側弾性表面波フィルタチップ15には、受信フィルタの一部が設けられている。図2に示すように、送信側弾性表面波フィルタチップ14と、受信側弾性表面波フィルタチップ15とは、配線基板10のダイアタッチ面10aの上にバンプ11によりフリップチップ実装されている。配線基板10の上には、送信側弾性表面波フィルタチップ14と受信側弾性表面波フィルタチップ15とを覆うように、封止樹脂層16が形成されている。すなわち、本実施形態のデュプレクサ1は、CSP(Chip Size Package)型の弾性表面波フィルタ装置である。
【0021】
一方、配線基板10の裏面10bの上には、図2に示すように、複数の端子26が形成されている。複数の端子26には、アンテナ端子21、送信側信号端子24並びに第1及び第2の受信側信号端子22a,22bが含まれている。配線基板10は、アルミナからなるセラミック多層基板である。なお、配線基板10は、樹脂からなるプリント配線基板であってもよい。
【0022】
受信側弾性表面波フィルタチップ15は、図示しない圧電基板上に形成されている縦結合共振子型弾性表面波フィルタ部15Aを備えている。本実施形態のデュプレクサ1では、この縦結合共振子型弾性表面波フィルタ部15Aにより受信フィルタが構成されている。縦結合共振子型弾性表面波フィルタ部15Aは、平衡−不平衡変換機能を有するフィルタ部である。縦結合共振子型弾性表面波フィルタ部15Aは、不平衡信号端子15aと、第1及び第2の平衡信号端子15b,15cとを有する。不平衡信号端子15aと、第1及び第2の平衡信号端子15b,15cとの間には、1つの1ポート型弾性表面波共振子と、4つの3IDT型の縦結合共振子型弾性表面波フィルタ部とが接続されている。不平衡信号端子15aは、アンテナ端子21に接続されている。第1及び第2の平衡信号端子15b,15cは、第1及び第2の受信側信号端子22a,22bに接続されている。
【0023】
なお、本実施形態において、不平衡信号端子15aのインピーダンスは50Ωである。第1及び第2の平衡信号端子15b,15cのインピーダンスは100Ωである。本実施形態のデュプレクサ1では、縦結合共振子型弾性表面波フィルタ部15Aにより受信フィルタが構成されているが、ラダー型弾性表面波フィルタ部により受信フィルタが構成されていてもよい。
【0024】
送信側弾性表面波フィルタチップ14は、ラダー型弾性表面波フィルタ部14Aを備えている。本実施形態のデュプレクサ1では、このラダー型弾性表面波フィルタ部14Aにより送信フィルタが構成されている。図1に示すように、ラダー型弾性表面波フィルタ部14Aは、アンテナ端子21と送信側信号端子24との間に接続されている。
【0025】
ラダー型弾性表面波フィルタ部14Aは、アンテナ端子21と送信側信号端子24との間を接続している直列腕33を有する。直列腕33において、直列腕共振子S1〜S4が直列に接続されている。本実施形態においては、直列腕共振子S1〜S4は、それぞれ複数の弾性表面波共振子により構成されているが、それぞれひとつの共振子として機能する。このように、直列腕共振子S1〜S4を、複数の弾性表面波共振子によって構成することで、ラダー型弾性表面波フィルタ部14Aの耐電力性を向上させることができる。なお、直列腕共振子S1〜S4は、それぞれ1つの弾性表面波共振子により構成されていてもよい。
【0026】
直列腕共振子S2を構成する3つの弾性表面波共振子のうちの2つには、それぞれ、キャパシタC2,C3が並列に接続されている。これらキャパシタC2,C3により、直列腕共振子S2の反共振周波数が低周波数側にシフトしている。従って、キャパシタC2,C3を設けることにより、送信フィルタのフィルタ特性の急峻性を高くすることができる。
【0027】
ラダー型弾性表面波フィルタ部14Aは、直列腕33とグラウンドとの間に接続されている並列腕37〜39を有する。並列腕37〜39には、並列腕共振子P1〜P3が設けられている。本実施形態においては、並列腕共振子P1〜P3は、それぞれ複数の弾性表面波共振子により構成されているが、それぞれひとつの共振子として機能する。このように、並列腕共振子P1〜P3を、複数の弾性表面波共振子によって構成することで、ラダー型弾性表面波フィルタ部14Aの耐電力性を向上させることができる。なお、並列腕共振子P1〜P3は、それぞれ1つの弾性表面波共振子により構成されていてもよい。
【0028】
並列腕共振子P1とグラウンドとの間には、インダクタL2が接続されている。並列腕共振子P2とグラウンドとの間には、インダクタL3が接続されている。インダクタL2,L3とグラウンドとの間には、インダクタL4が接続されている。並列腕共振子P3とグラウンドとの間には、インダクタL5が接続されている。
なお、インダクタL2〜L5のそれぞれは、配線基板10に形成されている。
【0029】
本実施形態のデュプレクサ1では、送信フィルタと受信フィルタとの共通接続点と、アンテナ端子21との間に、インダクタL1とキャパシタC1とにより構成されている整合回路が接続されている。インダクタL1は、送信フィルタと受信フィルタとの共通接続点と、アンテナ端子21との間に接続されている。キャパシタC1は、アンテナ端子21とグラウンドとの間に接続されている。
【0030】
次に、図3〜図5を主として参照しながら、送信フィルタの具体的構成について説明する。図3は、本実施形態のデュプレクサ1における送信側弾性表面波フィルタチップ14の略図的透視平面図である。詳細には、図3は、デュプレクサ1の上方から送信側弾性表面波フィルタチップ14を透視した状態における、送信側弾性表面波フィルタチップ14の電極構造を示している。図4は、本実施形態のデュプレクサ1における配線基板10のダイアタッチ面10aの模式的平面図である。図4において、一点鎖線で示すように、送信側弾性表面波フィルタチップ14と受信側弾性表面波フィルタチップ15とが、フリップチップ実装される。図5は、本実施形態のデュプレクサ1の模式的透視平面図である。詳細には、図5は、デュプレクサ1の上方から透視した状態を示している。
【0031】
図3に示すように、送信側弾性表面波フィルタチップ14は、圧電基板30を備えている。圧電基板30の上には、出力パッド32と、入力パッド31と、直列腕共振子S1〜S4と、並列腕共振子P1〜P3と、キャパシタC2,C3と、接地用パッド41〜43と、ダミーパッド44〜46とが形成されている。
【0032】
出力パッド32は、アンテナ端子21に接続されている。入力パッド31は、送信側信号端子24に接続されている。接地用パッド41〜43は、グラウンドに接続されている。入力パッド31と、出力パッド32と、接地用パッド41〜43と、ダミーパッド44〜46の上には、それぞれ、バンプ11が形成される。
【0033】
直列腕共振子S1〜S4及び並列腕共振子P1〜P3のそれぞれを構成している各弾性表面波共振子は、圧電基板30上に形成されている1つのIDT電極と、IDT電極の弾性表面波伝搬方向両側に配置されている1組の反射器により構成されている。キャパシタC2,C3は、それぞれ、2対の櫛歯状電極により構成されている。なお、圧電基板30は、LiNbOやLiTaOなどの圧電単結晶基板により構成することができる。
【0034】
図4に示すように、配線基板10のダイアタッチ面10aの上には、送信側弾性表面波フィルタチップ14及び受信側弾性表面波フィルタチップ15に接続されている複数のランド電極25a〜25iと、複数の配線電極50a〜50cとが形成されている。
【0035】
ランド電極25aは、バンプ11を介して、送信側弾性表面波フィルタチップ14の出力パッド32と受信側弾性表面波フィルタチップ15の不平衡信号端子15aとに接続されている。ランド電極25aは、配線基板10の内部に形成されている電極を介して、アンテナ端子21に接続されている。ランド電極25bは、バンプ11を介して、受信側弾性表面波フィルタチップ15の第1の平衡信号端子15bに接続されている。ランド電極25bは、配線基板10の内部に形成されている電極を介して、第1の受信側信号端子22aに接続されている。ランド電極25cは、バンプ11を介して、受信側弾性表面波フィルタチップ15の第2の平衡信号端子15cに接続されている。ランド電極25cは、配線基板10の内部に形成されている電極を介して、第2の受信側信号端子22bに接続されている。ランド電極25dは、バンプ11を介して、送信側弾性表面波フィルタチップ14の入力パッド31に接続されている。
【0036】
ランド電極25eは、バンプ11を介して、受信側弾性表面波フィルタチップ15のグラウンド電極に接続されている。ランド電極25fは、バンプ11を介して、送信側弾性表面波フィルタチップ14の接地用パッド41に接続されている。ランド電極25gは、バンプ11を介して、送信側弾性表面波フィルタチップ14の接地用パッド42に接続されている。ランド電極25hは、バンプ11を介して、送信側弾性表面波フィルタチップ14のダミーパッド45に接続されている。ランド電極25iは、バンプ11を介して、送信側弾性表面波フィルタチップ14の接地用パッド43とダミーパッド44,46とに接続されている。ランド電極25e,25h,25iは、配線基板10の内部に形成されている電極を介して、端子26のうちのグラウンド端子に接続されている。
【0037】
配線電極50aは、インダクタL2を構成しているインダクタ電極である。配線電極50aは、ランド電極25fと接続されている。配線電極50bは、インダクタL3を構成しているインダクタ電極である。配線電極50bは、ランド電極25gと接続されている。配線電極50a,50bは、配線基板10の内部に形成されている電極を介して、端子26のうちのグラウンド端子に接続されている。配線電極50cは、ランド電極25dと接続されている。配線電極50cは、配線基板10の内部に形成されている電極を介して、送信側信号端子24に接続されている。
【0038】
本実施形態のデュプレクサ1においては、これら配線電極50a〜50cは、直列腕共振子S1〜S4及び並列腕共振子P1〜P3を構成している複数の弾性表面波共振子のうち、アンテナ端子21と送信側信号端子24との間を信号が流れた際の単位時間あたりの発熱量が最も小さい弾性表面波共振子以外の弾性表面波共振子のいずれかひとつを構成しているIDT電極と対向しないように設けられている。具体的には、配線電極50a〜50cは、直列腕共振子S1〜S4及び並列腕共振子P1〜P3を構成している複数の弾性表面波共振子のうち、アンテナ端子21と送信側信号端子24との間を信号が流れた際の単位時間あたりの発熱量が最も大きい弾性表面波共振子を構成しているIDT電極と対向しないように設けられている。より具体的には、配線電極50a〜50cは、直列腕共振子S1〜S4及び並列腕共振子P1〜P3を構成している複数の弾性表面波共振子のうち、直列腕共振子S4を構成している2つの弾性表面波共振子以外の弾性表面波共振子と対向しないように形成されている。
【0039】
なお、本実施形態では、直列腕共振子S1〜S4及び並列腕共振子P1〜P3を構成している複数の弾性表面波共振子のうち、アンテナ端子21と送信側信号端子24との間を信号が流れた際の単位時間あたりの発熱量が最も大きい弾性表面波共振子は、直列腕共振子S2を構成している弾性表面波共振子である。但し、直列腕共振子S1〜S4及び並列腕共振子P1〜P3を構成している複数の弾性表面波共振子のうち、発熱量が最も大きい弾性表面波共振子は、各弾性表面波共振子の設計パラメータ、アンテナ端子21と送信側信号端子24との間を流れる信号の周波数などにより変化するため、直列腕共振子S2を構成している弾性表面波共振子が常に大きな発熱量を有するものとは限らない。
【0040】
送信側弾性表面波フィルタチップ14の複数の弾性表面波共振子のうち、送信フィルタの通過帯域内において、電力が投入される周波数の帯域を形成している弾性表面波共振子であって、インピーダンスが大きい、すなわち容量が小さい弾性表面波共振子が、最も発熱量が多い弾性表面波共振子になりやすい。また、送信側弾性表面波フィルタチップ14の複数の弾性表面波共振子のうち、送信フィルタの通過帯域内において、挿入損失が最も大きい周波数の帯域を形成している弾性表面波共振子が、最も発熱量が多い弾性表面波共振子になりやすい。
【0041】
ところで、アンテナ端子と送信側信号端子との間を信号が流れると、直列腕共振子及び並列腕共振子を構成している複数の弾性表面波共振子のみならず、配線電極のダイアタッチ面上に形成されたランド電極や配線電極も発熱する。このため、配線基板のダイアタッチ面上に形成された配線電極と弾性表面波共振子を構成しているIDT電極とが対向している場所では、弾性表面波共振子の発熱による熱と、配線基板のダイアタッチ面上に形成された配線電極の発熱による熱の両方が、IDT電極に加わることになる。このため、IDT電極に加わる熱量が多くなる。IDT電極に加わる熱量が多くなると、ストレスマイグレーションと熱の相乗効果により電極指の破壊が起こりやすくなる。その結果、弾性表面波フィルタ装置の耐電力性が悪化する。
【0042】
それに対して本実施形態では、上述のように、配線電極50a〜50cが、直列腕共振子S1〜S4及び並列腕共振子P1〜P3を構成している複数の弾性表面波共振子のうち、アンテナ端子21と送信側信号端子24との間を信号が流れた際の単位時間あたりの発熱量が最も小さい弾性表面波共振子以外の弾性表面波共振子のいずれかひとつを構成しているIDT電極と対向しないように設けられている。このため、アンテナ端子21と送信側信号端子24との間を信号が流れた際の単位時間あたりの発熱量が最も小さい弾性表面波共振子以外の弾性表面波共振子のいずれかひとつを構成しているIDT電極に加わる熱量を小さくすることができる。従って、送信フィルタの耐電力性の悪化を抑制することができ、優れた耐電力性を有するデュプレクサ1を実現することができる。
【0043】
特に、本実施形態では、配線電極50a〜50cは、直列腕共振子S1〜S4及び並列腕共振子P1〜P3を構成している複数の弾性表面波共振子のうち、アンテナ端子21と送信側信号端子24との間を信号が流れた際の単位時間あたりの発熱量が最も大きく、最も破壊されやすい弾性表面波共振子を構成しているIDT電極と対向しないように設けられている。従って、デュプレクサ1の送信フィルタの耐電力性をより効果的に改善することができる。
【0044】
また、本実施形態では、受信フィルタよりも大きな電力が投入される送信フィルタにおいてIDT電極の破壊が抑制されている。従って、デュプレクサ1の耐電力性をさらに効果的に改善することができる。
【0045】
以下、上述の本実施形態において奏される効果について、具体例に基づいてさらに詳細に説明する。
【0046】
実施例として、上記実施形態のデュプレクサ1を作製すると共に、比較例として、インダクタL2,L3を構成している配線電極50a,50bの形状が異なること以外は、実施例に係るデュプレクサ1と同様の構成を有するデュプレクサ200を作製した。比較例のデュプレクサ200におけるインダクタL2,L3のインダクタンス値も、実施例に係るデュプレクサ1のインダクタL2,L3のインダクタンス値と同様とした。なお、実施例及び比較例の説明においても、上記実施形態と実質的に共通の機能を有する部材を共通の符号で参照し、説明を省略する。
【0047】
図6は、比較例のデュプレクサ200における配線基板10のダイアタッチ面10aの模式的平面図である。図6において、一点鎖線で示すように、送信側弾性表面波フィルタチップ14と受信側弾性表面波フィルタチップ15とが、フリップチップ実装される。図7は、比較例のデュプレクサ200の模式的透視平面図である。詳細には、図7は、比較例のデュプレクサ200の上方から透視した状態を示している。
【0048】
図6及び図7に示すように、比較例のデュプレクサ200では、配線電極50aは、直列腕共振子S1,S2,S3を構成している合計8つの弾性表面波共振子のそれぞれと対向している。配線電極50bは、並列腕共振子P1を構成している2つの弾性表面波共振子のそれぞれと対向している。
【0049】
なお、実施例における配線電極50a,50bは、比較例における配線電極50a,50bよりも短いが、実施例においては、配線電極50a,50bと、配線基板10の内部に形成されている電極とにより、インダクタL2,L3が構成されているため、実施例と比較例とでは、インダクタL2,L3のインダクタンス値は同じ値とされている。
【0050】
次に、赤外線を用いた熱解析装置を用いて、雰囲気温度55℃で0.8W(28dBm)の電力を印加した状態における、実施例に係るデュプレクサ1と比較例に係るデュプレクサ200とのそれぞれの温度を測定した。その結果、実施例のデュプレクサ1と比較例のデュプレクサ200のいずれにおいても、直列腕共振子S2を構成している弾性表面波共振子が設けられている領域が最も高い温度となっていた。また、実施例のデュプレクサ1の送信側弾性表面波フィルタチップ14の最高温度は96℃であり、比較例のデュプレクサ200の送信側弾性表面波フィルタチップ14の最高温度は111℃であった。この結果から、実施例のデュプレクサ1の方が比較例のデュプレクサ200よりも放熱性が高く、電力を印加した状態で弾性表面波共振子に加わる熱量が少なく、そして、弾性表面波共振子の温度が低いことが分かる。よって、実施例のデュプレクサ1は、比較例のデュプレクサ200よりも耐電力性が優れていることになる。
【0051】
以下、本発明を実施した好ましい形態の他の例や変形例について説明する。以下の説明において、上記実施形態と実質的に共通の機能を有する部材を共通の符号で参照し説明を省略する。
【0052】
図8は、本発明を実施した他の実施形態に係るデュプレクサの模式的透視平面図である。
【0053】
上記実施形態では、配線電極50a〜50cのうち、電極50a,50bが弾性表面波共振子のIDT電極と対向しないように設けられているものの、配線電極50cは、直列腕共振子S4を構成している弾性表面波共振子のIDT電極と対向するように設けられている。
【0054】
それに対して、図8に示す他の実施形態では、配線電極50cが設けられていない。このようにすることによって、デュプレクサの耐電力性をさらに改善することができる。
【0055】
また、上記実施形態では、デュプレクサの送信フィルタがラダー型弾性表面波フィルタにより構成されている例について説明した。但し、本発明においては、ラダー型弾性表面波フィルタは、デュプレクサの受信フィルタを構成していてもよい。
【0056】
また、上記実施形態では、本発明を実施した弾性表面波フィルタ装置の一例として、デュプレクサを挙げたが、本発明に係る弾性表面波フィルタ装置は、分波器ではなく、RF回路に搭載される段間フィルタなどであってもよい。
【符号の説明】
【0057】
1…デュプレクサ
10…配線基板
10a…ダイアタッチ面
10b…裏面
11…バンプ
14…送信側弾性表面波フィルタチップ
14A…ラダー型弾性表面波フィルタ部
15…受信側弾性表面波フィルタチップ
15A…縦結合共振子型弾性表面波フィルタ部
15a…不平衡信号端子
15b,15c…平衡信号端子
16…封止樹脂層
21…アンテナ端子
22a,22b…受信側信号端子
24…送信側信号端子
25a〜25i…ランド電極
26…端子
30…圧電基板
31…入力パッド
32…出力パッド
33…直列腕
37〜39…並列腕
41〜43…接地用パッド
44〜46…ダミーパッド
50a〜50c…配線電極
C1〜C3…キャパシタ
L1〜L5…インダクタ
P1〜P3…並列腕共振子
S1〜S4…直列腕共振子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1及び第2の信号端子と、前記第1の信号端子と前記第2の信号端子との間に接続されており、複数の弾性表面波共振子を含む弾性表面波フィルタ部とを備える弾性表面波フィルタ装置であって、
前記複数の弾性表面波共振子が設けられた弾性表面波フィルタチップと、
第1及び第2の主面を有し、前記第1の主面の上に前記弾性表面波フィルタチップが実装され、前記第2の主面の上に前記第1及び第2の信号端子が形成されており、前記第1の主面の上に設けられており前記弾性表面波フィルタチップに接続されている複数のランド電極と、前記第1の主面の上に設けられており、前記複数のランド電極のうちの少なくとも一つと接続されている配線電極を備える配線基板と、
を備え、
前記弾性表面波フィルタチップは、圧電基板と、前記圧電基板の前記配線基板と対向する側の表面の上に形成されており、前記弾性表面波共振子を構成しているIDT電極とを有し、
前記複数の弾性表面波共振子のうち、前記第1及び第2の信号端子間を信号が流れた際の単位時間あたりの発熱量が最も小さい弾性表面波共振子以外の弾性表面波共振子のいずれか一つを構成しているIDT電極は、前記配線電極と対向していない、弾性表面波フィルタ装置。
【請求項2】
前記複数の弾性表面波共振子のうち、前記第1及び第2の信号端子間を信号が流れた際の単位時間あたりの発熱量が最も大きい弾性表面波共振子を構成しているIDT電極が、前記配線電極と対向していない、請求項1に記載の弾性表面波フィルタ装置。
【請求項3】
前記複数の弾性表面波共振子を構成しているIDT電極のすべてが、前記配線電極と対向していない、請求項1または2に記載の弾性表面波フィルタ装置。
【請求項4】
前記弾性表面波フィルタ部は、ラダー型弾性表面波フィルタ部である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の弾性表面波フィルタ装置。
【請求項5】
前記配線電極がインダクタを構成している、請求項1〜4のいずれか一項に記載の弾性表面波フィルタ装置。
【請求項6】
前記弾性表面波フィルタ部は、送信フィルタを構成している、請求項1〜5のいずれか一項に記載の弾性表面波フィルタ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−85112(P2012−85112A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−229875(P2010−229875)
【出願日】平成22年10月12日(2010.10.12)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】