説明

弾性表面波素子、電子デバイスおよび電子機器

【課題】電気機械結合係数の低下を防止して、挿入損失の改善を図った弾性表面波素子、かかる弾性表面波素子を備える電子デバイスおよび電子機器を提供すること。
【解決手段】本発明の弾性表面波素子1は、主として圧電材料で構成された圧電体層4と、この圧電体層4上に設けられ、バスバー(基部)52、62と、これに接続され、所定間隔で併設された複数の電極指51、61とを備える一対の櫛歯電極で構成されたIDT5、6と、バスバー52、62に接続された端子(電気接続部)81〜84と、圧電体層4のIDT5、6と反対側の面に接触して設けられ、主として導電性材料および/または半導体材料で構成された下地層3とを有する。この弾性表面波素子1では、下地層3が、平面視で少なくとも各電極指51、61と重なる領域と、端子81〜84と重なる領域とに分離して設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性表面波素子、電子デバイスおよび電子機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
通信分野におけるキーデバイスの一つとして、弾性表面波素子(Suface Accoustic Wave Device:SAWデバイス)がある。
SAWデバイスとは、圧電材料を利用し、高周波信号を表面弾性波に変換し、再度高周波信号に変換する過程で、特定の周波数が選び出される現象を利用した素子であり、携帯電話に代表される移動体通信機器や、その他、各種センサ、タッチパネル等の通信機器に適用される。
このSAWデバイスとして、基材上に金属膜、圧電膜、金属材料で構成されたIDT(Interdigital Tranceducer)を順次積層した構成のものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
かかる構成のSAWデバイスは、圧電膜を金属膜とIDTで挟持する構造をとることで、良好な電気機械結合係数が得られることがある。
SAWデバイスでは、圧電膜に弾性表面波を励起するとき、IDTを通して電気的エネルギーと機械的エネルギー(振動エネルギー)の変換を行うが、このときの変換効率をあらわしたものが電気機械結合係数である。
【0004】
そして、この電気機械結合係数が大きいほど、損失の少ない良好なSAWデバイスが得られることが知られている。
また、前記構成のSAWデバイスでは、圧電膜上にIDTと外部配線とを接続するための端子(電気接続部)が設けられている。
ところが、圧電膜を構成する圧電材料は、誘電材料でもため、不要な部分(例えば端子等)の部分においてコンデンサが形成されてしまう。そして、当該部分における容量が影響を及ぼし、電気機械結合係数の低下が生じるという問題がある。
【0005】
【特許文献1】特開平10−224172号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、電気機械結合係数の低下を防止して、挿入損失の改善を図った弾性表面波素子、かかる弾性表面波素子を備える電子デバイスおよび電子機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような目的は、下記の本発明により達成される。
本発明の弾性表面波素子は、主として圧電材料で構成された圧電体層と、
該圧電体層上に設けられ、基部と、該基部に接続され、所定間隔で併設された複数の電極指とを備える櫛歯電極と、
該櫛歯電極の前記基部に接続された電気接続部と、
前記圧電体層の前記櫛歯電極と反対側の面に接触して設けられ、主として導電性材料および/または半導体材料で構成された下地層とを有する弾性表面波素子であって、
前記下地層が、平面視で少なくとも前記各電極指と重なり、かつ、前記電気接続部と重ならない領域に設けられていることを特徴とする。
これにより、電気機械結合係数の低下を防止して、挿入損失の改善を図った弾性表面波素子が得られる。
【0008】
本発明の弾性表面波素子は、主として圧電材料で構成された圧電体層と、
該圧電体層上に設けられ、基部と、該基部に接続され、所定間隔で併設された複数の電極指とを備える櫛歯電極と、
該櫛歯電極の前記基部に接続された電気接続部と、
前記圧電体層の前記櫛歯電極と反対側の面に接触して設けられ、主として導電性材料および/または半導体材料で構成された下地層とを有する弾性表面波素子であって、
前記下地層が、平面視で少なくとも前記各電極指と重なる領域と、前記電気接続部と重なる領域とに分離して設けられていることを特徴とする。
これにより、電気機械結合係数の低下を防止して、挿入損失の改善を図った弾性表面波素子が得られる。
【0009】
本発明の弾性表面波素子では、前記電気接続部と前記下地層との間には、前記圧電体層が介在していることが好ましい。
これにより、櫛歯電極と電気接続部との間に段差が生じるのを防止することができる。このため、櫛歯電極と電気接続部との間において断線等が生じるのをより確実に防止することができ、弾性表面波素子の特性の低下を防止することができる。
【0010】
本発明の弾性表面波素子では、前記下地層は、平面視で前記基部の全部または大半の部分と重ならないように設けられていることが好ましい。
これにより、弾性表面波の励振(発生)に要する実効容量以外に生じる不要な容量(静電容量)をより確実に低下させることができる。これにより、弾性表面波素子の電気機械結合の低下をより確実に防止して、挿入損失のさらなる改善を図ることができる。
【0011】
本発明の弾性表面波素子では、平面視で前記基部の全部または大半の部分と重なる領域の下地層が、他の領域の下地層と分離して設けられていることが好ましい。
これにより、弾性表面波の励振(発生)に要する実効容量以外に生じる不要な容量(静電容量)をより確実に低下させることができる。これにより、弾性表面波素子の電気機械結合の低下をより確実に防止して、挿入損失のさらなる改善を図ることができる。
【0012】
本発明の弾性表面波素子では、前記下地層は、アルミニウム、クロム、金、モリブデン、タンタル、タングステン、チタン、酸化ケイ素を主成分とするガラス類、シリコンおよび石英のうちの少なくとも1種を主材料として構成されていることが好ましい。
このような材料で下地層を構成することにより、弾性表面波素子の電気機械結合係数を特に高いものとすることができる。
【0013】
本発明の弾性表面波素子では、前記下地層の平均厚さは、1〜20μmであることが好ましい。
これにより、弾性表面波素子の電気機械結合係数を十分に高めることができる。
本発明の弾性表面波素子では、前記圧電体層は、酸化亜鉛、窒化アルミニウム、タンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウム、ニオブ酸カリウムおよびチタン酸ジルコン酸鉛のうちの少なくとも1種を主材料として構成されていることが好ましい。
このような材料で圧電体層を構成することにより、高い周波数の弾性表面波を励振させることができ、かつ、温度特性に優れた弾性表面波素子が得られる。
【0014】
本発明の弾性表面波素子では、前記圧電体層の平均厚さは、前記圧電体層において励振される弾性表面波の波長の2倍以下であることが好ましい。
これにより、弾性表面波を確実に励振させることができるとともに、下地層を設ける効果が十分に発揮されるようになる。
本発明の弾性表面波素子では、前記櫛歯電極の平面視での面積をA[μm]とし、前記電気接続部の平面視での面積をB[μm]としたとき、A/Bが0.5〜5なる関係を満足することが好ましい。
このように、電気接続部の平面視での面積が、櫛歯電極の平面視での面積に対して大きく設定される弾性表面波素子に対して、本発明を適用するのが特に有効である。
【0015】
本発明の弾性表面波素子では、前記櫛歯電極の上面に、該櫛歯電極とほぼ等しいパターンで絶縁保護膜が設けられていることが好ましい。
これにより、入出力効率をより向上させることができる。
本発明の弾性表面波素子では、前記絶縁保護膜は、各前記櫛歯電極の側面に存在しないことが好ましい。
これにより、入出力効率をさらに向上させることができる。
【0016】
本発明の弾性表面波素子では、前記絶縁保護膜は、酸化シリコン、窒化シリコンおよび酸化アルミニウムのうちの少なくとも1種を主材料として構成されていることが好ましい。
かかる材料で絶縁保護膜を構成することにより、絶縁保護膜を容易に形成することができるとともに、絶縁保護膜を絶縁性に優れるものとすることもできる。
本発明の弾性表面波素子では、前記絶縁保護膜の平均厚さは、10〜1000nmであることが好ましい。
これにより、質量の増大に伴う弾性表面波の発信周波数の低下を防止または抑制しつつ、十分な絶縁性が発揮される。
【0017】
本発明の電子デバイスは、本発明の弾性表面波素子を備えることを特徴とする。
これにより、信頼性の高い電子デバイスが得られる。
本発明の電子機器は、本発明の弾性表面波素子を備えることを特徴とする。
これにより、信頼性の高い電子機器が得られる。
本発明の電子機器は、本発明の電子デバイスを備えることを特徴とする。
これにより、信頼性の高い電子機器が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の弾性表面波素子、弾性表面波素子の製造方法および電子機器の好適な実施形態について説明する。
<第1実施形態>
図1は、本発明の弾性表面波素子の第1実施形態を示す平面図、図2は、図1中のA−A線断面図、図3は、図1に示す弾性表面波素子の製造工程を説明するための図(縦断面図)である。なお、以下の説明では、図2中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
【0019】
各図に示す弾性表面波素子1は、トランスバーサル型構造の弾性表面波素子であり、基板2と、基板2上に順に積層された下地層3および圧電体層4と、圧電体層4上に設けられた入力用のIDT5および出力用のIDT6と、各IDT5、6の上面に設けられた絶縁保護膜7とを有している。
また、圧電体層4上には、各IDT5、6の端部に接続された端子(電気接続部)81〜84が設けられている。
【0020】
基板2の構成材料としては、例えば、Si、GaSi、SiGe、GaAs、STC、InPのような各種半導体材料、各種ガラス材料、各種セラミックス材料、ポリイミド、ポリカーボネートのような各種樹脂材料等が挙げられる。
基板2の平均厚さは、特に限定されないが、0.05〜1mm程度であるのが好ましく、0.1〜0.8mm程度であるのがより好ましい。
【0021】
また、基板2は、複数の層の積層体で構成されたものでもよく、この場合、各層は、前述したような材料で構成することができる。
下地層3は、圧電体層4のIDT5、6と反対側の面に接触して設けられている。この下地層3は、主として導電性材料および/または半導体材料で構成されている。
下地層3を設けることにより、弾性表面波素子1は、その電気機械結合係数がより高いものとなり、挿入損失が低下(入出力効率が向上)する。
【0022】
また、下地層3の構成材料を適宜設定することにより、圧電体層4において励振される(生じる)弾性表面波の特性を所望のものに設定することも可能となる。
このような下地層3の構成材料としては、各種のものを用いることができるが、特に、アルミニウム、クロム、金、モリブデン、タンタル、タングステン、チタン、酸化ケイ素を主成分とするガラス類、シリコンおよび石英のうちの少なくとも1種を主とするものが好ましい。このような材料で下地層3を構成することにより、弾性表面波素子1の電気機械結合係数を特に高いものとすることができる。
【0023】
下地層3の平均厚さは、特に限定されないが、1〜20μm程度であるのが好ましく、3〜10μm程度であるのがより好ましく、3〜5μm程度であるのがさらに好ましい。下地層3が薄過ぎると、その構成材料等によっては、弾性表面波素子1の電気機械結合係数を高める効果が十分に得られないおそれがあり、一方、下地層3の厚さを前記上限値を超えて厚くしても、それ以上の効果の増大が期待できない。
【0024】
また、下地層3は、単層構成のもののみならず、目的とする弾性表面波の特性に応じて、複数の層の積層体で構成することもできる。
圧電体層4は、主として圧電材料で構成されている。
この圧電材料としては、例えば、酸化亜鉛、窒化アルミニウム、タンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウム、ニオブ酸カリウム、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、チタン酸バリウム、その他、各種のものが挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができるが、特に、酸化亜鉛、窒化アルミニウム、タンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウム、ニオブ酸カリウムおよびチタン酸ジルコン酸鉛のうちの少なくとも1種を主とするものが好ましい。このような材料で圧電体層4を構成することにより、高い周波数の弾性表面波を励振させることができ、かつ、温度特性に優れた弾性表面波素子1が得られる。
【0025】
圧電体層4の平均厚さは、その構成材料等によっても若干異なり、特に限定されないが、圧電体層4において励振される弾性表面波の波長の2倍以下であるのが好ましく、0.01〜1倍程度であるのがより好ましい。圧電体層4の平均厚さの具体的な値は、0.01〜5μm程度であるのが好ましく、0.1〜2μm程度であるのがより好ましい。圧電体層4が薄過ぎると、圧電体層4において弾性表面波を励振させることが困難となるおそれがあり、一方、圧電体層4が厚過ぎると、下地層3を設ける効果が十分に発揮されないおそれがある。
【0026】
IDT(入力側電極)5は、圧電体層4に電圧を印加して、圧電体層4に弾性表面波を励振させる機能を有するものであり、一方、IDT(出力側電極)6は、圧電体層4を伝搬する弾性表面波を検出し、弾性表面波を電気信号に変換して外部に出力する機能を有するものである。
IDT5に駆動電圧が入力されると、圧電体層4において弾性表面波が励振され、例えば、フィルタリング機能による特定の周波数帯域の電気信号が、IDT6から出力される。
各IDT5、6は、それぞれ、バスバー(基部)52、62と、バスバー52、62に接続され、所定間隔で併設された複数の電極指51、61とを備える一対の櫛歯電極で構成されている。各櫛歯電極の電極指51、61の幅、間隔、厚さ等を調整することにより、弾性表面波の発振周波数等の特性を所望のものに設定することができる。
【0027】
また、各IDT5、6の各バスバー52、62には、それぞれ端子81〜84が接続(電気的に接続)されている。
各IDT5、6、各端子81〜84の構成材料としては、それぞれ、例えば、Al、Cu、W、Mo、Ti、Au、Y、Pb、Sc、Crまたはこれらを含む合金等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて(例えば積層体として)用いることができる。
【0028】
絶縁保護膜7は、各IDT5、6の表面(上面)に異物が付着するのを防止し、異物を介した電極指51、61間のショートを防ぐ機能を有するものである。
この絶縁保護膜7は、各IDT5、6を覆うように設けてもよいが、好ましくは図2に示すように、各IDT(櫛歯電極)5、6の上面に、これらとほぼ等しいパターンで形成される。
【0029】
弾性表面波は、材質が変化する部分において反射し易いが、前述したような構成とすることにより、弾性表面波が伝搬する経路上における材質の変化を、実質的に電極指51、61と圧電体層4との境界部のみとすることができ、弾性表面波の反射およびこの反射によるエネルギー損失を抑えることができる。その結果、弾性表面波素子1の挿入損失をより低下させる(入出力効率をより向上させる)ことができる。
特に、図示の構成のように、絶縁保護膜7が各IDT5、6とほぼ等しいサイズとされ、それらの側面に存在しないことにより、前記効果がより向上する。
【0030】
また、この場合、各IDT5、6の側面に絶縁保護膜7が形成されていないが、異物による電極指51、61間のショートは、主に異物が電極指51、61の上面に付着することによって生じるので、側面に絶縁保護膜7が形成されていなくとも、各IDT5、6の上面に絶縁保護膜7が存在することにより、電極指51、61間のショートを好適に防止することができる。
【0031】
この絶縁保護膜7の構成材料としては、特に限定されないが、例えば、酸化シリコン、窒化シリコン、酸化アルミニウム、五酸化タンタル、酸化モリブデン等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができるが、これらの中でも、特に、酸化シリコン、窒化シリコン、酸化アルミニウムのうちの少なくとも1種を主とするものが好ましい。かかる材料で絶縁保護膜7を構成することにより、絶縁保護膜7を容易に形成することができるとともに、絶縁保護膜7を絶縁性に優れるものとすることもできる。
このような絶縁保護膜7の平均厚さは、特に限定されないが、10〜1000nm程度であるのが好ましく、30〜300nm程度であるのがより好ましい。絶縁保護膜7の厚さを前記範囲とすることにより、質量の増大に伴う弾性表面波の発信周波数の低下を防止または抑制しつつ、十分な絶縁性が発揮される。
【0032】
また、本実施形態では、下地層3は、いずれも、平面視で各IDT5、6の各電極指51、61と重なる領域に設けられた第1の下地層31と、各IDT5、6のバスバー52、62と重なる領域に設けられた第2の下地層321〜324と、各端子81〜84と重なる領域に設けられた第3の下地層331〜334とで構成されている。
第1の下地層31は、各電極指51、61の大半の部分を包含するように設けられている。第2の下地層321〜324は、バスバー52、62の大半の部分および電極指51、61の一部を包含するように設けられている。また。第3の下地層331〜334は、端子81〜84およびバスバー52、62の一部を包含するように設けられている。
【0033】
これらの第1の下地層31、各第2の下地層321〜324、および、各第3の下地層331〜334は、互いに分離して設けられている。これにより、各下地層同士が導通するのを防止することができる。
その結果、各第2の下地層321〜324と各バスバー52、62との間に蓄積される容量(静電容量)および各第3の下地層331〜334と各端子81〜84との間に蓄積される容量(静電容量)が、弾性表面波の励振(発生)に要する実効容量に影響を与えるのを防止することができる。
これにより、弾性表面波素子1の電気機械結合の低下を防止して、挿入損失の改善を図ることができる。
【0034】
また、1つの櫛歯電極の平面視での面積をA[μm]とし、1つの端子81〜84の平面視での面積をB[μm]としたとき、A/Bが0.5〜5なる関係を満足するのが好ましく、1〜3.5なる関係を満足するのがより好ましい。このように、端子81〜84の平面視での面積が、櫛歯電極(IDT5、6)の平面視での面積に対して大きく設定される弾性表面波素子1において、下地層3を前述したような構成とする効果が顕著に発揮される。
以上のような弾性表面波素子1は、次のようにして製造することができる。
図3は、図1および図2に示す弾性表面波素子の製造方法を説明するための図(断面図)である。
【0035】
[1] 下地層形成工程
基板2上の所定の箇所に下地層3(第1の下地層31、第2の下地層321〜324、第3の下地層331〜334)を形成する。
まず、図3(a)に示すように、基板2上に、導電性材料および/または半導体材料を主材料とする層30を形成する。
【0036】
この層30の形成には、例えば、プラズマCVD、熱CVD、レーザーCVDのような化学蒸着法(CVD)、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング等の乾式メッキ法、電解メッキ、浸漬メッキ、無電解メッキ等の湿式メッキ法、溶射、シート状部材の接合等を用いることができる。
次に、層30上に、例えば、下地層3の形状に対応する形状のレジスト層を形成して、このレジスト層をマスクに用いて、図3(b)に示すように、層30の不要部分を除去する。
この層30の除去には、例えば、リアクティブイオンエッチング(RIE)、プラズマエッチング、ビームエッチング、光アシストエッチングのようなドライエッチング、ウェットエッチング等を用いることができる。
【0037】
[2] 圧電体層形成工程
次に、レジスト層を除去した後、図3(c)に示すように、下地層3を覆うようにして、圧電体層4を形成する。
圧電体層4の形成は、前記工程[1]における層30の形成と同様にして行うことができる。
【0038】
[3] IDTおよび絶縁保護膜形成工程
まず、図3(d)に示すように、圧電体層4上に、導電性材料層50および絶縁性材料層70を順次形成する。
導電性材料層50および絶縁性材料層70の形成は、前記工程[1]における層30の形成と同様にして行うことができる。
【0039】
次に、絶縁性材料層70上に、各端子81〜84の形状に対応する形状の開口部を有するレジスト層を形成して、このレジスト層をマスクに用いて、図3(e)に示すように、絶縁性材料層70の不要部分を除去する。
次に、レジスト層一端除去した後、再度、各IDT5、6および各端子81〜84の形状に対応する形状のレジスト層を形成して、このレジスト層をマスクに用いて、図3(f)に示すように、導電性材料層50および絶縁性材料層70の不要部分を除去する。
導電性材料層50および絶縁性材料層70の除去は、前記工程[1]における層30の除去と同様にして行うことができる。
これにより、図1および図2に示すような形状のIDT5、6および絶縁保護膜7が形成され、本発明の弾性表面波素子1が得られる。
【0040】
このような弾性表面波素子1では、各端子81〜84と下地層3(各第3の下地層331〜334)との間に圧電体層4が介在する。これにより、各IDT5、6と各端子81〜84との間に段差が生じるのを防止することができる。このため、各IDT5、6と各端子81〜84との間において断線等が生じるのをより確実に防止することができ、弾性表面波素子1の特性の低下を防止することができる。
【0041】
<第2実施形態>
次に、本発明の弾性表面波素子の第2実施形態について説明する。
図4は、本発明の弾性表面波素子の第2実施形態を示す平面図である。
以下、第2実施形態の弾性表面波素子について説明するが、前記第1実施形態の弾性表面波素子との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。
【0042】
第2実施形態では、下地層の構成が異なり、それ以外は、前記第1実施形態と同様である。
すなわち、図4に示す弾性表面波素子1は、第2の下地層321〜324が省略され、下地層3は、平面視でバスバー52、62の大半の部分と重ならないように設けられている。
このような構成により、弾性表面波の励振(発生)に要する実効容量に、不要な容量(静電容量)が影響を与えるのをより確実に防止することができる。これにより、弾性表面波素子1の電気機械結合の低下をより確実に防止して、挿入損失のさらなる改善を図ることができる。
【0043】
<第3実施形態>
次に、本発明の弾性表面波素子の第3実施形態について説明する。
図5は、本発明の弾性表面波素子の第3実施形態を示す平面図、図6は、図5中のB−B線断面図である。なお、以下の説明では、図6中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
【0044】
以下、第3実施形態の弾性表面波素子について説明するが、前記第1実施形態の弾性表面波素子との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。
第3実施形態では、下地層の構成および圧電体層の構成が異なり、それ以外は、前記第1実施形態と同様である。
すなわち、図5および図6に示す弾性表面波素子1は、各端子81〜84に対応する領域の下地層3(各第3の下地層331〜334)および圧電体層4がそれぞれ省略され、各端子81〜84が基板2上に直接設けられている。
このような構成により、弾性表面波の励振(発生)に要する実効容量に、不要な容量(静電容量)が影響を与えるのをより確実に防止することができる。これにより、弾性表面波素子1の電気機械結合の低下をより確実に防止して、挿入損失のさらなる改善を図ることができる。
【0045】
<第4実施形態>
次に、本発明の弾性表面波素子の第4実施形態について説明する。
図7は、本発明の弾性表面波素子の第4実施形態を示す平面図、図8は、図7中のC−C線断面図である。なお、以下の説明では、図8中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
【0046】
以下、第4実施形態の弾性表面波素子について説明するが、前記第1および第3実施形態の弾性表面波素子との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。
第4実施形態では、下地層の構成および圧電体層の構成が異なり、それ以外は、前記第3実施形態と同様である。
【0047】
すなわち、図5および図6に示す弾性表面波素子1は、第2の下地層321〜324が省略され、下地層3は、平面視で各バスバー52、62の全部および各端子81〜84と重ならないように設けられている。
さらに、本実施形態の弾性表面波素子1では、IDT5とIDT6との間に対応する領域の下地層3(第1の下地層31)および圧電体層4がそれぞれ省略され、基板2がIDT5、6側において露出している。
このような構成の弾性表面波素子1において、IDT5により発振された弾性表面波は、基板2の表面を伝搬され、IDT6において検出される。
【0048】
本実施形態の構成の場合、各IDT5、6の内側の端と、各IDT5、6に対応する第1の下地層31の内側の端との離間距離(図7および図8中、長さX)は、圧電体層4で励振される弾性表面波の波長をλとした場合、λ/4の整数倍とならないように設定するのが好ましい。これにより、各第1の下地層31の内側の角部において、弾性表面波が反射するのを防止することができ、弾性表面波素子1の挿入損失の増大するのを防止することができる。
【0049】
一方、IDT5の外側の端と、IDT5に対応する第1の下地層31の外側の端との離間距離(図7および図8中、長さY)は、圧電体層4で励振される弾性表面波の波長をλとした場合、ほぼλ/4の整数倍となるように設定するのが好ましい。これにより、IDT5に対応する第1の下地層31の外側の角部において、弾性表面波を反射させることができるため、IDT5からIDT6に向かってより効率よく弾性表面波を送出できるようになる。これにより、弾性表面波素子1の挿入損失の改善(低減)を図ることができる。
【0050】
また、基板2として、光透過性を有する基板、すなわち、透明(無色透明、着色透明)または半透明の基板を用いることにより、図9に示すようなタッチパネル(本発明の電子デバイス)を構築することができる。
図9は、本発明の電子デバイスをタッチパネルに適用した場合の実施形態を示す平面図である。
【0051】
図9に示すタッチパネル10は、光透過性を有する基板2の表面に、弾性表面波素子1(一対のIDT5、6)が図9中上下方向および左右方向に沿って複数併設されている。
このようなタッチパネル10は、基板2の表面が指等で触れられると、触れられた部分に対応する位置に設けられた弾性表面波素子1のIDT6で検出される弾性表面波が減衰する。この減衰を、基板2の上下方向および左右方向に設けられた弾性表面波素子1で検出することにより、基板2の触れられた位置が特定される。
さて、上述したような弾性表面波素子1は、各種の電子機器に適用することができ、得られる電子機器は、信頼性の高いものとなる。
【0052】
以下、本発明の弾性表面波素子を備える電子機器について、図10〜図12に示す実施形態に基づき、詳細に説明する。
図10は、本発明の弾性表面波素子を備える電子機器を適用したモバイル型(またはノート型)のパーソナルコンピュータの構成を示す斜視図である。
この図において、パーソナルコンピュータ1100は、アンテナ1101やキーボード1102を備えた本体部1104と、表示ユニット1106とにより構成され、表示ユニット1106は、本体部1104に対しヒンジ構造部を介して回動可能に支持されている。
このようなパーソナルコンピュータ1100には、フィルター、共振器、基準クロック等として機能する弾性表面波素子1が内蔵されている。
また、表示ユニット1106の表示部に、上述したようなタッチパネル10を適用することができる。
【0053】
図11は、本発明の弾性表面波素子を備える電子機器を適用した携帯電話機(PHSも含む)の構成を示す斜視図である。
この図において、携帯電話機1200は、アンテナ1201、複数の操作ボタン1202、受話口1204および送話口1206を備え、操作ボタン1202と受話口1204との間には、表示部が配置されている。
このような携帯電話機1200には、フィルター、共振器等として機能する弾性表面波素子1が内蔵されている。
また、表示部に、上述したようなタッチパネル10を適用することができる。
【0054】
図12は、本発明の弾性表面波素子を備える電子機器を適用したディジタルスチルカメラの構成を示す斜視図である。なお、この図には、外部機器との接続についても簡易的に示されている。
ここで、通常のカメラは、被写体の光像により銀塩写真フィルムを感光するのに対し、ディジタルスチルカメラ1300は、被写体の光像をCCD(Charge Coupled Device)などの撮像素子により光電変換して撮像信号(画像信号)を生成する。
【0055】
ディジタルスチルカメラ1300におけるケース(ボディー)1302の背面には、表示部が設けられ、CCDによる撮像信号に基づいて表示を行う構成になっており、表示部は、被写体を電子画像として表示するファインダとして機能する。
また、ケース1302の正面側(図中裏面側)には、光学レンズ(撮像光学系)やCCDなどを含む受光ユニット1304が設けられている。
撮影者が表示部に表示された被写体像を確認し、シャッタボタン1306を押下すると、その時点におけるCCDの撮像信号が、メモリ1308に転送・格納される。
【0056】
また、このディジタルスチルカメラ1300においては、ケース1302の側面に、ビデオ信号出力端子1312と、データ通信用の入出力端子1314とが設けられている。そして、図示されるように、ビデオ信号出力端子1312にはテレビモニタ1430が、デ−タ通信用の入出力端子1314にはパーソナルコンピュータ1440が、それぞれ必要に応じて接続される。さらに、所定の操作により、メモリ1308に格納された撮像信号が、テレビモニタ1430や、パーソナルコンピュータ1440に出力される構成になっている。
このようなディジタルスチルカメラ1300には、フィルター、共振器等として機能する弾性表面波素子1が内蔵されている。
また、表示部に、上述したようなタッチパネル10を適用することができる。
【0057】
なお、本発明の弾性表面波素子や電子デバイスを備える電子機器は、図10のパーソナルコンピュータ(モバイル型パーソナルコンピュータ)、図11の携帯電話機、図12のディジタルスチルカメラの他にも、例えば、インクジェット式吐出装置(例えばインクジェットプリンタ)、ラップトップ型パーソナルコンピュータ、テレビ、ビデオカメラ、ビデオテープレコーダ、カーナビゲーション装置、ページャ、電子手帳(通信機能付も含む)、電子辞書、電卓、電子ゲーム機器、ワードプロセッサ、ワークステーション、テレビ電話、防犯用テレビモニタ、電子双眼鏡、POS端末、医療機器(例えば電子体温計、血圧計、血糖計、心電図計測装置、超音波診断装置、電子内視鏡)、魚群探知機、各種測定機器、計器類(例えば、車両、航空機、船舶の計器類)、フライトシュミレータ等に適用することができる。
【0058】
以上、本発明の弾性表面波素子、電子デバイスおよび電子機器について、図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明は、これらに限定されるものではない。
例えば、本発明の弾性表面波素子では、前記第1〜第4実施形態の構成のうちの任意の2以上を組み合わせることもできる。
また、本発明の弾性表面波素子には、反射器を設けるようにしてもよい。
また、本発明の弾性表面波素子には、温度特性を改善させる機能を有する温度補償膜が設けられていてもよい。
また、本発明の弾性表面波素子には、各種機能を有する半導体素子が複合化されていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の弾性表面波素子の第1実施形態を示す平面図である。
【図2】図1中のA−A線断面図である。
【図3】図1に示す弾性表面波素子の製造工程を説明するための図(縦断面図)である。
【図4】本発明の弾性表面波素子の第2実施形態を示す平面図である。
【図5】本発明の弾性表面波素子の第3実施形態を示す平面図である。
【図6】図5中のB−B線断面図である。
【図7】本発明の弾性表面波素子の第4実施形態を示す平面図である。
【図8】図7中のC−C線断面図である。
【図9】本発明の電子デバイスをタッチパネルに適用した場合の実施形態を示す平面図である。
【図10】本発明の弾性表面波素子を備える電子機器(ノート型パーソナルコンピュータ)である。
【図11】本発明の弾性表面波素子を備える電子機器(携帯電話機)である。
【図12】本発明の弾性表面波素子を備える電子機器(ディジタルスチルカメラ)である。
【符号の説明】
【0060】
1……弾性表面波素子 2……基板 3……下地層 31……第1の下地層 321〜324……第2の下地層 331〜334……第3の下地層 4……圧電体層 5、6……IDT 51、61……電極指 52、62……バスバー 7……絶縁保護膜 81〜84……端子 10……タッチパネル 30……層 50……導電性材料層 70……絶縁性材料層 1100……パーソナルコンピュータ 1101……アンテナ 1102……キーボード 1104……本体部 1106……表示ユニット 1200……携帯電話機 1201……アンテナ 1202……操作ボタン 1204……受話口 1206……送話口 1300……ディジタルスチルカメラ 1302……ケース(ボディー) 1304……受光ユニット 1306……シャッタボタン 1308……メモリ 1312……ビデオ信号出力端子 1314……データ通信用の入出力端子 1430……テレビモニタ 1440……パーソナルコンピュータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主として圧電材料で構成された圧電体層と、
該圧電体層上に設けられ、基部と、該基部に接続され、所定間隔で併設された複数の電極指とを備える櫛歯電極と、
該櫛歯電極の前記基部に接続された電気接続部と、
前記圧電体層の前記櫛歯電極と反対側の面に接触して設けられ、主として導電性材料および/または半導体材料で構成された下地層とを有する弾性表面波素子であって、
前記下地層が、平面視で少なくとも前記各電極指と重なり、かつ、前記電気接続部と重ならない領域に設けられていることを特徴とする弾性表面波素子。
【請求項2】
主として圧電材料で構成された圧電体層と、
該圧電体層上に設けられ、基部と、該基部に接続され、所定間隔で併設された複数の電極指とを備える櫛歯電極と、
該櫛歯電極の前記基部に接続された電気接続部と、
前記圧電体層の前記櫛歯電極と反対側の面に接触して設けられ、主として導電性材料および/または半導体材料で構成された下地層とを有する弾性表面波素子であって、
前記下地層が、平面視で少なくとも前記各電極指と重なる領域と、前記電気接続部と重なる領域とに分離して設けられていることを特徴とする弾性表面波素子。
【請求項3】
前記電気接続部と前記下地層との間には、前記圧電体層が介在している請求項2に記載の弾性表面波素子。
【請求項4】
前記下地層は、平面視で前記基部の全部または大半の部分と重ならないように設けられている請求項1ないし3のいずれかに記載の弾性表面波素子。
【請求項5】
平面視で前記基部の全部または大半の部分と重なる領域の下地層が、他の領域の下地層と分離して設けられている請求項1ないし3のいずれかに記載の弾性表面波素子。
【請求項6】
前記下地層は、アルミニウム、クロム、金、モリブデン、タンタル、タングステン、チタン、酸化ケイ素を主成分とするガラス類、シリコンおよび石英のうちの少なくとも1種を主材料として構成されている請求項5に記載の弾性表面波素子。
【請求項7】
前記下地層の平均厚さは、1〜20μmである請求項1ないし6のいずれかに記載の弾性表面波素子。
【請求項8】
前記圧電体層は、酸化亜鉛、窒化アルミニウム、タンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウム、ニオブ酸カリウムおよびチタン酸ジルコン酸鉛のうちの少なくとも1種を主材料として構成されている請求項1ないし7のいずれかに記載の弾性表面波素子。
【請求項9】
前記圧電体層の平均厚さは、前記圧電体層において励振される弾性表面波の波長の2倍以下である請求項1ないし8のいずれかに記載の弾性表面波素子。
【請求項10】
前記櫛歯電極の平面視での面積をA[μm]とし、前記電気接続部の平面視での面積をB[μm]としたとき、A/Bが0.5〜5なる関係を満足する請求項1ないし9のいずれかに記載の弾性表面波素子。
【請求項11】
請求項1ないし10のいずれかに記載の弾性表面波素子を備えることを特徴とする電子デバイス。
【請求項12】
請求項1ないし10のいずれかに記載の弾性表面波素子を備えることを特徴とする電子機器。
【請求項13】
請求項11に記載の電子デバイスを備えることを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2006−121356(P2006−121356A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−306229(P2004−306229)
【出願日】平成16年10月20日(2004.10.20)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】