説明

弾性表面波素子

【課題】電気機械結合係数が大きく、周波数温度特性が極めて良いとともに、特に耐電力性が高く、大きな電力を印加しても電極が劣化しない安価な弾性表面波素子を生産性高く提供する。
【解決手段】圧電基板上に弾性表面波または漏洩弾性表面波を励振・検出する金属電極が形成された弾性表面波素子であって、少なくとも、圧電基板とセラミック基板とを接着剤を介して貼り合わせた複合圧電基板をチップ形状に加工した複合圧電チップと、該複合圧電チップをフリップチップボンディングによって実装する実装基板とを具備し、前記金属電極の厚さは、漏洩弾性表面波の波長で規格化した値で0.04以上であり、前記圧電基板表面の弾性表面波または漏洩弾性表面波の伝播方向の膨張係数αc(ppm/℃)と、前記実装基板の膨張係数αs(ppm/℃)とが、αs<αc<αs+6なる関係を満たすように実装された弾性表面波素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合圧電基板を使用した弾性表面波デバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
携帯電話やローカルエリアネットワーク(LAN)、パーソナルエリアネットワーク(PAN)等の高周波通信において用いられる周波数調整・選択用の部品として、例えば圧電基板上に弾性表面波を励振するための櫛形電極が形成された弾性表面波(Surface Acoustic Wave、SAW)デバイスが用いられる。これに用いられる圧電基板材料は、電気信号から機械的振動への変換効率(以下電気機械結合係数と記す)が極めて大きいこと、また櫛形電極の電極間隔と弾性波の音速により決まるフィルタ等の中心周波数が温度により変動しないことが求められる(以下、周波数温度特性と記す)。
すなわち、大きな電気機械結合係数と小さな周波数温度係数を兼ね備えた圧電基板が有れば好ましい。こうした特性を実現する圧電基板の一例として、圧電基板と他の基板を接合した複合圧電基板がある。
【0003】
このような複合圧電基板の一例として、圧電材料の表面に弾性波を励振・検出するための電極が設けられており、前記圧電材料裏面に複合積層体を接合したことを特徴とする温度安定化表面波装置が開示されている。この表面波装置は、制御された応力変化を前記圧電材料に誘起させることにより、前記圧電材料において温度補正がなされるというものである(特許文献1参照)。
この例では、「複合積層体にLiNbO(ニオブ酸リチウム)基板を強固に結合することにより、前述したように基板上に圧縮力が生じ、この圧縮力は温度が増大するに従って増大する。かくして、遅延時間およびフィルタ中心周波数に対する温度の影響を補正する手段を得ることができる。」とされている。これは、支持基板となる複合積層体の膨張係数は圧電材料であるLiNbO基板の弾性表面波伝播方向のそれよりも小さいことを意味し、これにより温度変化に応じて圧電基板に応力が発生してSAWデバイスの遅延時間およびフィルタ中心周波数に対する温度の影響を補正できるということを意味する。
【0004】
また、接着剤を使用して剛板と圧電板とを貼り合せて一体の基板とし、前記圧電板表面に電極を設けた機能素子を、パッケージに収納した電気部品が開示されている(特許文献2参照)。
すなわち、圧電材料とこれより小さな膨張係数を有する基板とを貼り合せた複合圧電基板を用いた弾性表面波素子は周波数温度特性が改善されること、接着剤を用いて剛板と圧電板を貼り合せて一体の基板とすることは公知の技術である。
【0005】
また、非特許文献1には、表面にAlまたはCuの電極を形成しその上にSiO膜を形成した5°回転YカットLiNbO基板は、電気機械結合係数が25%程度と大きく1次の温度特性がほぼ零であることが示されている。
ここでは、漏洩弾性表面波の波長で規格化した電極厚が0.035である例が示されている。
しかし、このような基板では、SiO膜を厚くすると電気機械結合係数が小さくなる。また、例えば送信段で用いる無線通信部品では、大きな電力がかかると、電極が劣化するという問題があった。
また、非特許文献2には64°回転YカットLiNbO基板と石英基板を貼合せた複合圧電基板が開示されている。しかし、非特許文献2では電極材料の厚みについては検討されていない。
【0006】
また、圧電性基板と、該圧電性基板上にそれぞれ形成された、複数の電極指およびこれら電極指を共通に接続するバスバーを有するインタディジタルトランスデューサ(IDT)とを備える、弾性表面波素子が、フリップチップボンディングによって実装基板上に実装された、弾性表面波素子の実装構造であって、前記実装基板は、前記圧電性基板より小さい線膨張係数を有し、かつ、前記バンプは、温度変化による前記圧電性基板の熱膨張および熱収縮が前記実装基板によって抑えられるように配置されていることを特徴とする、弾性表面波素子の実装構造が開示されている(特許文献3参照)。
この例の実施例においては、圧電体としてLiTaO(膨張係数16ppm/℃)、実装基材としてアルミナ(膨張係数7ppm/℃)を使用しバンプを介してフリップチップボンディングによって実装基板上に実装された弾性表面波フィルタが、動作周波数1.9GHzにおいて温度による周波数変動が−11kHz/℃だけ改善されたことが開示されている。
この改善効果は、温度係数にして約6ppm/℃だけ改善されるものであり好ましいとされる。
【0007】
一方、非特許文献3では、圧電体として48°回転YカットLiTaOを用い、この圧電体にその支持基板であるSi基板がSiO層を介して直接接合された複合圧電基板を用いた弾性表面波デバイスが開示されている。この弾性表面波デバイスの動作周波数の温度特性は、複合圧電チップをボンディングワイヤー法で接続すると動作周波数の温度特性が−12ppm/℃であるのに対し、フリップチップボンディング法では−22ppm/℃(乃至−35ppm/℃)と温度特性が劣化してしまうことが記載されている。
【0008】
【特許文献1】特開昭51−25951号公報
【特許文献2】特開平2−62108号公報
【特許文献3】特開2003−324334号公報
【非特許文献1】圧電材料・デバイスシンポジウム予稿集 2005、 pp.153-158
【非特許文献2】K. Yamanouchi et al., Proc. 1999 IEEE Ultrasonics Symp., pp.239-242
【非特許文献3】B.P.Abbot, J.Caron, J.Chocola, K.Lin , S.Malocha , N.Naumenko and P.Welsh, "Advances in Rf SAW Substrates",2nd International Symposium on AcousticWave Devices for Future Mobile Communication Systems,pp.233-243,2003
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、電気機械結合係数が大きく、周波数温度特性が極めて良いとともに、特に耐電力性が高く、大きな電力を印加しても電極が劣化しない安価な弾性表面波素子を生産性高く提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明は、圧電基板上に弾性表面波または漏洩弾性表面波を励振・検出する金属電極が形成された弾性表面波素子であって、少なくとも、圧電基板とセラミック基板とを接着剤を介して貼り合わせた複合圧電基板をチップ形状に加工した複合圧電チップと、該複合圧電チップをフリップチップボンディングによって実装する実装基板とを具備し、前記圧電基板上に形成された金属電極の厚さは、漏洩弾性表面波の波長で規格化した値で0.04以上であり、前記圧電基板表面の弾性表面波または漏洩弾性表面波の伝播方向の膨張係数αc(ppm/℃)と、前記実装基板の膨張係数αs(ppm/℃)とが、
αs<αc<αs+6
なる関係を満たすように実装されたものであることを特徴とする弾性表面波素子を提供する(請求項1)。
【0011】
このように、本発明の弾性表面波素子は、複合圧電チップにおいて圧電基板と貼り合わす基板をセラミック基板とし、また、圧電基板とセラミック基板とを接着剤を介して貼り合わせているので、比較的安価なものとすることができ、温度特性が良好なものとすることが可能である。
また、圧電基板表面に形成された金属電極の厚さが、圧電基板表面を伝播する漏洩弾性表面波の波長で規格化した値で0.04以上であれば、耐電力性が高く、大きな電力を印加しても電極が劣化しないものとできる。
さらに、圧電基板とセラミック基板とを貼り合わせた複合圧電基板をチップ形状に加工した複合圧電チップと、該複合圧電チップをフリップチップボンディングによって実装する実装基板とを具備し、圧電基板表面の弾性表面波または漏洩弾性表面波の伝播方向の膨張係数αcと実装基板の膨張係数αsとが上記関係を満たすように実装されたものなので、生産性が高く、周波数温度特性改善効果が高い弾性表面波素子とすることができる。
【0012】
また、前記圧電基板は35°±35°回転YカットLiNbO基板又はLiTaO基板であることが好ましい(請求項2)。
このように、圧電基板が35°±35°回転YカットLiNbO基板又はLiTaO基板であれば、周波数温度特性が優れ、ロスが小さく、広帯域な弾性表面波素子とできる。
【0013】
また、前記圧電基板の表面に前記金属電極を覆うようにSiO2−x層(但し0.01<x<0.5)が形成されており、該SiO2−x層の厚さは、漏洩弾性表面波の波長で規格化した値で0.1以下であることが好ましい(請求項3)。
【0014】
このように、圧電基板の表面に金属電極を覆うようにSiO2−x層が形成されていれば、基板表面の電極の保護と周波数温度特性の調整ができ、また漏洩弾性表面波及び弾性表面波が混在する場合、結合が小さい弾性表面波はこの膜により減衰し不要モード(スプリアスモード)を抑圧する効果がある。またその厚さが漏洩弾性表面波の波長で規格化した値で0.1以下、特には0.05程度であれば、漏洩弾性表面波の音速の低下と結合係数の低下が発生しないようにできる。また、xが0.01より大きければ、SiO2−x層の弾性的性質が経時的に変化しにくく、xが0.5未満では膜質が劣化する可能性が低い。xは好ましくは0.1程度であれば、Nを含まない場合に比べ層自身の耐電力性が向上し好ましい。
【発明の効果】
【0015】
このような本発明の弾性表面波素子であれば、耐電力性が高く、大きな電力を印加しても電極が劣化しにくく、また、生産性が高く、広帯域で周波数温度特性が良好なものとすることができる。しかも、圧電基板と貼り合わせる基板をセラミック基板とし、接着剤を介して貼り合わせたものなので安価なものとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下では、本発明の実施形態について具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
図1は本発明に係る弾性表面波素子の実施形態の一例を示す断面概略図である。
この弾性表面波素子8は、圧電基板2とセラミック基板3とを接着剤(接着層)4を介して貼り合わせた複合圧電基板をチップ形状に加工した複合圧電チップ1と、複合圧電チップ1をバンプ5を介してフリップチップボンディングによって実装する実装基板6とを具備する。また、圧電基板2上に弾性表面波または漏洩弾性表面波を励振・検出する金属電極7が形成されたものであり、この金属電極7の厚さは漏洩弾性表面波の波長で規格化した値で0.04以上である。さらに、この金属電極7を覆うようにSiO2−x層10(但し0.01<x<0.5)が形成されている。ただし、金属電極7の取り出し部の部分のみ除かれており、上述のようにバンプ5を介して実装されている。
そして、圧電基板2の表面の弾性表面波または漏洩弾性表面波の伝播方向の膨張係数αc(ppm/℃)と、実装基板6の膨張係数αs(ppm/℃)とが、αs<αc<αs+6なる関係を満たすように実装されたものであることを特徴とする。
【0017】
本発明の弾性表面波素子8は、このように金属電極7の厚さを漏洩弾性表面波の波長で規格化した値で0.04以上とすることにより、耐電力性が高く、大きな電力を印加しても劣化しにくい。
また、上記のような構成とすることにより、生産性が高く、周波数温度特性改善効果が高いものとできる。すなわち、本発明のように、上記の圧電基板2の表面の弾性表面波または漏洩弾性表面波伝播方向の膨張係数αcと実装基板6の膨張係数αsとがαs<αc<αs+6なる関係を満たすようにしてフリップチップボンディングにより複合圧電基板を実装した弾性表面波素子8は、例えばチップアンドワイヤー法により実装した場合に比べて、周波数温度係数が数ppm/℃〜10数ppm/℃程度改善するだけでなく、フリップチップボンディングにより実装するので、生産性を高くできる。
【0018】
本発明で使用する複合圧電基板は、上記のように接着層4があるため複合圧電基板表面の圧電基板表面の熱による応力が緩和されてしまうが、前述のように複合圧電基板をフリップチップ実装すると圧電体表面の応力値及び応力分布が劇的に回復するので、フリップチップ実装しない場合に比べ周波数温度特性を大幅に改善することができる。
【0019】
ここで、αcがαsよりも小さい場合は、非特許文献1と同様に、フリップチップボンディングにより実装した場合の周波数温度特性がチップアンドワイヤー法により実装した場合に比べ劣化してしまうという結果をもたらし、周波数温度特性改善効果と高生産性の両方を達成することができない。また、αcがαs+6(ppm/℃)より大きな場合は、周波数温度係数の改善効果は小さい。そこで、本発明のように、αs<αc<αs+6なる関係を満たすように実装することにより、高い周波数改善効果と高生産性の両方を達成できる。膨張係数が上記関係を満たすようにするには、例えば圧電基板2の厚み、圧電基板2と支持基板であるセラミック基板3とを接着する接着層4の厚み、チップサイズ等を調整して実装すればよい。
【0020】
次に、複合圧電チップ1の構成要素について具体的に説明する。
図1で示した複合圧電チップ1は、上記のように、圧電基板2とセラミック基板3とを接着剤4を介して貼り合わせた複合圧電基板をチップ形状に加工して形成したものである。
ここで、この本発明の弾性表面波素子に使用する複合圧電基板について、本発明者が鋭意研究を行ったところ、本発明者は、例えば送信段の無線通信部品に用いるSAWデバイスには大きな電力がかかることから、このSAWデバイスの圧電基板の表面に形成される弾性表面波を励振するための金属電極が劣化しにくいように、厚い電極材料を圧電基板上に形成する必要があり、電極材料の膜厚が十分厚くなければ、良好な耐電力性は期待できないと考えた。これまで、電極材料の厚さについては十分な検討がされていなかったが、本発明者は、金属電極の厚さが、漏洩弾性表面波の波長で規格化した値で0.04以上であれば、耐電力性が十分に高いものとすることができることを見出した。
【0021】
図2は本発明に係る弾性表面波素子8に用いる複合圧電基板の実施形態の一例を示す断面概略図である。
この複合圧電基板9は、圧電基板2とセラミック基板3とを貼り合せて形成されたものであって、圧電基板2の表面には弾性表面波を励振するための金属電極7が形成されており、該金属電極7の厚さは、上述のように漏洩弾性表面波の波長で規格化した値で0.04以上、すなわち、例えば漏洩弾性表面波の波長が2μmであれば電極の厚さは0.08μm以上であり、セラミック基板3と圧電基板2とは接着剤4を介して接合されたものであることを特徴とする。
金属電極7は厚ければ厚いほど劣化しにくいが、上記規格化した値で例えば0.1程度もあれば十分である。
【0022】
このような複合圧電基板9は、例えば圧電基板2及びセラミック基板3の一方又は両方に接着剤を塗布し、真空下で貼り合わせ強固に接合することにより作製することができる。接着面に異物が混入しないように貼り合わせ前に各基板の表面を洗浄することが好ましく、また、表面をアンモニア−過酸化水素水溶液等で親水化処理をしたり、またはプラズマ処理をしたり、例えば基板を100℃に加熱して波長200nm以下の短波UV光及びオゾン(好ましくは高濃度オゾン)により前処理することにより接着力を高めてもよい。
複合圧電基板9の大きさは特に限られず、例えば直径100mmのものとできるがそれ以上でもそれ以下でもよい。
【0023】
本発明では、圧電基板2は、厚さが5〜100μmであって、圧電基板2の接着面が粗面に加工されたものであってもよい。このように、圧電基板2の厚さが5〜100μm、好ましくは5〜30μmであれば、加熱による反りが少なく割れのないものとなる。圧電基板2の厚さが5μm以上であれば、圧電基板12を上記の厚さに加工する際にクラックが生じにくく好ましい。また、100μm以下であれば、複合圧電基板9を250℃程度に加熱した場合でも、圧電基板2が割れにくいため好ましい。圧電基板2の厚さを上記範囲内の所望の値とするには、例えば複合圧電基板9を形成後、圧電基板2を研削もしくはラップ、ポリッシュ(研磨)加工すればよい。
【0024】
また、圧電基板2は、35°±35°回転YカットLiNbO基板またはLiTaO基板であることが好ましい。これらは電気機械結合係数が大きい結晶材料であるので、周波数選択フィルタとしての帯域幅が広く、挿入損失が小さいSAWデバイスが製造可能な複合圧電基板とできる。また後述するように、伝播ロス特性、周波数温度特性も良好なものとできる。この圧電結晶材料からなる圧電基板は、例えばチョクラルスキー法でこれらの単結晶棒を育成し、これを所望の厚さにスライスすることによって高品質なものが得られる。
【0025】
また、本発明において、複合圧電基板9の支持基板としてセラミック基板を用いているが、このようにセラミック基板を用いれば、圧電基板よりも膨張係数が小さくでき、また、パッケージ材料として汎用されているので、安価で周波数温度特性が改善された電気的絶縁が確保された高性能な複合圧電基板とできる。接着剤を介して貼り合せるということも複合圧電基板が安価なものとなる一つの要因であり、また、強固に接合することができるという利点もある。
【0026】
また、金属電極7はAl、Cu、及びその合金などからなるものが好ましい。この金属電極7は、複合圧電基板9の上に蒸着やスパッタ、CVDなどの方法により上記金属材料の膜を形成し、エッチングなどによりパターニングすることにより形成することが出来る。
【0027】
また、圧電基板2の表面に金属電極7を覆うようにSiO2−x層10(但し0.01<x<0.5)が形成されており、SiO2−x層10の厚さは、漏洩弾性表面波の波長で規格化した値で0.1以下であることが好ましい。
このようにSiO2−x層10が形成されていれば、基板表面の金属電極7の保護と周波数温度特性の調整ができ、また漏洩弾性表面波及び弾性表面波が混在する場合、結合が小さい弾性表面波はこの膜により減衰し不要モードを抑圧する効果がある。
【0028】
また、SiO2−x層10の厚さが漏洩弾性表面波の波長で規格化した値で0.1以下、特には0.05程度であれば、漏洩弾性表面波の音速の低下と結合係数の低下が発生しないようにできる。また、xが0.01より大きければ、SiO2−x層10の弾性的性質が経時的に変化しにくく、xが0.5未満であれば膜質が劣化する可能性は低い。xは好ましくは0.1程度であれば、Nを含まない場合に比べ層自身の耐電力性が向上し好ましい。
【0029】
図3は本発明で用いる複合圧電基板の周波数温度特性をシミュレーションにより求めたものを示すグラフである。横軸は圧電基板のYカット回転角、縦軸は周波数温度特性(TCF)である。圧電基板はLiNbO基板で厚みが20μm、支持基板は低膨張セラミック基板(膨張係数5.5ppm/℃)であり、複合圧電基板の全厚みは0.2mmの場合である。また、弾性表面波(漏洩弾性表面波)の波長で規格化した電極厚みは0.06である。また、電極材料はAlとCuの合金の場合でAl:Cuの割合が2:1である。比較として同図中にLiNbO基板単体の場合の計算値も示した。周波数温度特性は共振周波数及び反共振周波数について示した。本発明に用いる複合圧電基板では圧電基板単体の場合と比較して広いYカット回転角にわたり周波数温度特性が−20ppm/℃から−40ppm/℃程度へ大きく改善されている。Yカット回転角としては35°±35°が好ましく、20°〜70°であれば特に好ましい。
なお、このTCFは前記複合圧電基板をチップアンドワイヤー方式で実装した場合に相当する。
【0030】
ここで、上述したように、本発明の弾性表面波素子のように、αs<αc<αs+6なる関係を満たすようにしてフリップチップボンディングにより複合圧電基板を実装した弾性表面波素子は、例えばチップアンドワイヤー法により実装した場合に比べて、周波数温度係数が数ppm/℃〜10数ppm/℃程度改善する。
そこで、本発明のように上記関係を満たしつつフリップチップボンディングにより実装した場合のシミュレーションを行ったところ、上記の図3に示すチップアンドワイヤー方式のシミュレーション結果よりもさらに周波数温度特性が5〜10ppm/℃程改善されたものとなることが分かり、同様に、Yカット回転角としては35°±35°が好ましく、20°〜70°であれば特に好ましいという結果になった。
【0031】
図4は、図3に示した複合圧電基板と同様のものについて、漏洩弾性表面波の波長で規格化した金属電極の厚さをパラメータとした場合の漏洩弾性表面波の伝播ロスの計算値を示すグラフである。横軸はYカット回転角を示し、縦軸は伝播ロス(減衰定数)を示す。
伝播ロスは0.15dB/波長未満が好ましく、0.01dB/波長未満が特に好ましい。この場合、Yカット回転角としては35°±35°が好ましく、20°〜70°であれば特に好ましい。このようなYカット回転角の間で金属電極の厚さが漏洩弾性表面波の波長で規格化した値で0.04以上であれば、伝播ロスを0.15dB/波長未満とすることができる。なお、Yカット回転角によっては金属電極の厚さが厚いと伝播ロスが増加する場合があるので、伝播ロスの点からは、金属電極の厚さは漏洩弾性表面波の波長で規格化した値で0.1以下が好ましい。
【0032】
図5は、図3に示した複合圧電基板と同様のものについて、結合係数(k)の計算値を示すグラフである。図5より、LiNbOでのYカット回転角は35°±35°で結合が大きく、さらにYカット回転角は0°〜40°であればより好ましい。
以上の点から、本発明で用いられるLiNbO基板のYカット回転角は35°±35°が好ましく、20°〜40°が特に好ましい。
【0033】
そして、上記のような複合圧電基板9をダイシングしてチップ状に切断して複合圧電チップ1が得られ、本発明の弾性表面波素子8は、このような複合圧電チップ1を用い、例えばAuやSnからなるバンプ5を介して従来のフリップチップボンディングによって実装基板6に実装されたものである。実装基板6は、アルミナ(膨張係数8ppm/℃)や低膨張セラミック(膨張係数5.5ppm/℃)からなるものであれば、膨張係数が適当な値であり、膨張係数αcとαsとが前述の関係を満たすように調整して実装することが容易であるが、他の材料からなる実装基板でもよい。
【実施例】
【0034】
以下に本発明の実施例および比較例をあげてさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1)
直径4インチ(100mm)で厚さが290μmであり、貼り合せ面とその反対側の面のそれぞれの表面粗さRaが共に0.3μmであって、気孔率が2%、ヤング率が380GPa、抵抗率が1015Ωcmであるアルミナ基板を用意した。
また、次に圧電基板として直径4インチ(100mm)の25°回転YカットLiNbO基板を厚さが0.15mm(150μm)となるよう両面研磨により仕上げた。このときLiNbO基板として焦電性が無いものを用いた。前記基板を各々100℃に加熱しながら波長200nm以下の短波UV光及び高濃度オゾンにより前処理した。
【0035】
前記アルミナ基板にエポキシメタクリレートを主成分とする紫外線硬化接着剤をスピンコートし貼り合せ面上に均一に塗布した。
また、前記LiNbO基板の貼り合せ面に前記接着剤を同様に塗布し、前記アルミナ基板の接着剤塗布面と前記LiNbOL基板の接着剤塗布面を圧力1×10−3mbarの真空下で貼り合せた。
次に、この貼り合わせた複合圧電基板に、照度50mW/cmの紫外線を10分間照射し、接着剤を硬化させた。このとき貼り合せた基板面内で接着剤の層は一様に5μmの厚さだった。
この後、この貼り合せ基板をN雰囲気下130℃の温度で2時間キュアをおこなった。
【0036】
そして、この前記複合圧電基板を面取り加工した後、圧電基板であるLiNbO基板の外周約0.5mmを特殊面取りホイールにて削り落とした。次いで、LiNbO基板の表面側(貼り合せ面と反対側)をラップ及び研削により130μm削り落とし、さらにポリッシュによりLiNbO基板の厚さが20μmになるようにした。
前記アルミナ基板の厚みは290μm±0.5μmと極めてバラツキが少なく、前記複合圧電基板のLiNbO基板の厚みは20±0.5μmと極めて小さかった。また、LiNbO基板に加工歪やクラックは観察されなかった。
【0037】
次に、この複合圧電基板のLiNbO基板の表面側にスパッタ法によりAl、Cuの合金を0.12μmの厚みで堆積させた。このときAl:Cuの比が2:1となるようターゲット組成を選定した。
次に表面の金属材料の一部をプラズマエッチングにより溶かし、パターニングして金属電極とし、1ポートの漏洩弾性表面波共振子(波長2μm)を作製した。すなわち、金属電極の厚さを、漏洩弾性表面波の波長で規格化した値で0.06とした。
【0038】
この金属電極が形成された複合圧電基板をダイシングしてチップ形状に加工して得た複合圧電チップにおいて、LiNbO基板の電極が形成された面の漏洩弾性表面波伝播方向であるX方向の膨張係数をその場観察により求めたところ、αc=10ppm/℃であった。
次に電極が形成された前記複合圧電チップを、アルミナセラミック基板(膨張係数αs=8ppm/℃)からなる実装基板にAg、Snからなるハンダバンプを介してフリップチップ接続して、パッケージングをおこなった。
前記複合圧電チップをフリップチップ接続した1ポート共振子の2GHzでの共振子特性を評価したところ、比帯域幅((fa−fr)/fa、faは反共振周波数、frは共振周波数)は11%と広帯域であった。
【0039】
また、この共振子の周波数温度特性を求めたところ、反共振周波数については−20ppm/℃、共振周波数は−35ppm/℃という小さい温度係数であり、周波数温度特性改善効果が高かった。
さらに、この共振子に2GHz、1Wの電力を投入し続けたところ2000時間でも共振特性の劣化は無く、耐電力性が高いことが確認された。
【0040】
(実施例2)
LiNbO基板のカット角を41°回転Yカットとした以外は、実施例1と同じ手順で複合圧電基板(0.2mm厚)を作製した。LiNbO基板の厚さは20μmとした。
【0041】
次に、この複合圧電基板のLiNbO基板の表面側にスパッタ法によりAl、Cuの合金を0.125μmの厚みで堆積させた。このときAl:Cuの比が2:1となるようターゲット組成を選定した。
次に表面の金属材料の一部をプラズマエッチングにより溶かし、パターニングし金属電極とし、1ポートの漏洩弾性表面波共振子(波長2.1μm)を作製した。すなわち、金属電極の厚さを、漏洩弾性表面波の波長で規格化した値で0.06とした。この複合圧電基板をダイシングしてチップ形状に加工した。
【0042】
このとき、LiNbO基板の電極が形成された面の漏洩弾性表面波伝播方向であるX方向の膨張係数をその場観察により求めたところ、αc=10ppm/℃であった。
次に電極が形成された前記複合圧電チップを、アルミナセラミック基板(膨張係数αs=8ppm/℃)からなる実装基板にAg、Snからなるハンダバンプを介してフリップチップ接続して、パッケージングをおこなった。
前記複合圧電チップをフリップチップ接続した1ポート共振子の2GHzでの共振子特性を評価したところ比帯域幅((fa−fr)/fa、faは反共振周波数、frは共振周波数)は9%と広帯域であった。
【0043】
また、この共振子の周波数温度特性を求めたところ、反共振周波数については−18ppm/℃、共振周波数は−33ppm/℃という小さい温度係数であり、周波数温度特性改善効果が高かった。
さらに、この共振子に2GHz、1Wの電力を投入し続けたところ2000時間でも共振特性の劣化は無く、耐電力性が高いことが確認された。
【0044】
(実施例3)
実施例1のLiNbO基板のカット角を5°回転Yカットとした以外は実施例1と同じ手順にて複合圧電基板(0.2mm厚)を作製した。
次に、この複合圧電基板のLiNbO基板の表面側にスパッタ法によりAl、Cuの合金を0.18μmの厚みで堆積させた。このときAl:Cuの比が2:1となるようターゲット組成を選定した。
次に表面の金属材料の一部をプラズマエッチングにより溶かし、パターニングし金属電極とし、1ポートの漏洩弾性表面波共振子(波長1.8μm)を作製した。すなわち、金属電極の厚さを、漏洩弾性表面波の波長で規格化した値で0.1とした。
【0045】
次にこの金属電極が形成された複合圧電基板にプラズマCVDによりSiO1.80.2の保護膜を0.1μmの厚さで堆積させた。すなわち、保護膜の厚さを、漏洩弾性表面波の波長で規格化した値で0.06とした。
このとき、LiNbO基板の電極が形成された面の漏洩弾性表面波伝播方向であるX方向の膨張係数をその場観察により求めたところ、αc=10ppm/℃であった。
【0046】
この複合圧電基板に形成された共振子の電極取り出し部のSiO1.80.2の保護膜の部分のみをドライエッチングしたのち、ダイシングしてチップ形状に加工して、この電極が形成された前記複合圧電チップを、アルミナセラミック基板(膨張係数αs=8ppm/℃)からなる実装基板にAg、Snからなるハンダバンプを介してフリップチップ接続して、パッケージングをおこなった。
前記複合圧電チップをフリップチップ接続した1ポート共振子の2GHzでの共振子特性を評価したところ、比帯域幅((fa−fr)/fa、faは反共振周波数、frは共振周波数)は12%と広帯域であった。
【0047】
また、この共振子の周波数温度特性を求めたところ、反共振周波数については−5ppm/℃、共振周波数は−20ppm/℃という小さい温度係数であり、周波数温度特性改善効果が高かった。
さらに、この共振子に2GHz、1Wの電力を投入し続けたところ2000時間でも共振特性の劣化は無く、耐電力性が高いことが確認された。
【0048】
(実施例4)
直径4インチ(100mm)で厚さが190μmである低膨張セラミックス基板(膨張係数5.5ppm/℃)を準備し、次に直径4インチ(100mm)で厚さが0.15mm(150μm)の15°回転YカットLiNbO基板を両面ラップにより表面のRaが0.12μmとなる様加工した。
【0049】
次いで、前記セラミックス基板の表面を洗浄し、さらに100℃に加熱しながら波長200nm以下の短波UV光及び高濃度オゾンにより前処理し、片側表面上にエポキシメタクリレートを主成分とする紫外線硬化接着剤をスピンコートし均一に塗布した。次いで、前記LiNbO基板の裏面を洗浄し、前記接着剤を同様に塗布し、前記セラミックス基板の接着剤塗布面と前記LiNbO基板の接着剤塗布面を圧力1×10−3mbarの真空下で貼り合せた。
【0050】
次に、この貼り合わせた複合圧電基板に、照度50mW/cmの紫外線を10分間照射し、接着剤を硬化させた。このとき基板面内で接着層は一様に5μmの厚さだった。そして、この複合圧電基板を面取り加工した後、LiNbO基板の表面側をラップ及び研削により120μm削り落とし、さらにポリッシュによりLiNbO基板の厚さが10μmになるようにした。
【0051】
次に、この複合圧電基板のLiNbO基板の表面側にスパッタ法によりAl、Cuの合金を0.2μmの厚みで堆積させた。このときAl:Cuの比が2:1となるようターゲット組成を選定した。
次に表面の金属材料の一部をプラズマエッチングにより溶かし、パターニングして金属電極とし、1ポートの漏洩弾性表面波共振子(波長1.8μm)を作製した。すなわち、金属電極の厚さを、漏洩弾性表面波の波長で規格化した値で0.11とした。この複合圧電基板をダイシングしてチップ形状に加工した。
【0052】
このとき、LiNbO基板の電極が形成された面の漏洩弾性表面波伝播方向であるX方向の膨張係数をその場観察により求めたところ、αc=9ppm/℃であった。
次に電極が形成された前記複合圧電チップを、アルミナセラミック基板(膨張係数αs=8ppm/℃)からなる実装基板にAg、Snからなるハンダバンプを介してフリップチップ接続して、パッケージングをおこなった。
前記複合圧電チップをフリップチップ接続した1ポート共振子の2GHzでの共振子特性を評価したところ、比帯域幅((fa−fr)/fa、faは反共振周波数、frは共振周波数)は12%と広帯域であった。
【0053】
また、この共振子の周波数温度特性を求めたところ、反共振周波数については−27ppm/℃、共振周波数は−29ppm/℃という小さい温度係数であり、周波数温度特性改善効果が高かった。
さらに、この共振子に2GHz、1Wの電力を投入し続けたところ2000時間でも共振特性の劣化は無く、耐電力性が高いことが確認された。
【0054】
(実施例5)
実施例1と同様なアルミナ基板を用意した。次に直径4インチ(100mm)の36°回転YカットLiTaO基板を厚さが0.15mm(150μm)となるよう両面研磨により仕上げた。このときLiTaO基板は焦電性が無いものを用いた。前記基板を各々100℃に加熱しながら波長200nm以下の短波UV光及び高濃度オゾンにより前処理した。
前記アルミナ基板にエポキシメタクリレートを主成分とする紫外線硬化接着剤をスピンコートし貼り合せ面上に均一に塗布した。
また、前記LiTaOL基板の貼り合せ面に前記接着剤を同様に塗布し、前記アルミナ基板の接着剤塗布面と前記LiTaO基板の接着剤塗布面を圧力1×10−3mbarの真空下で貼り合せた。
次に、この貼り合わせた複合圧電基板に、照度50mW/cmの紫外線を10分間照射し、接着剤を硬化させた。このとき貼り合せた基板面内で接着剤の層は一様に5μmの厚さだった。
この後、この貼り合せ基板をN雰囲気下130℃の温度で2時間キュアをおこなった。
【0055】
そして、この前記複合圧電基板を面取り加工した後、圧電基板であるLiTaO基板の外周約0.5mmを特殊面取りホイールにて削り落とした。次いで、LiTaO基板の表面側(貼り合せ面と反対側)をラップ及び研削により130μm削り落とし、さらにポリッシュにより基板の厚さが20μmになるようにした。
【0056】
前記アルミナ基板の厚みは290μm±0.5μmと極めてバラツキが少なく、前記複合圧電基板のLiTaO基板の厚みは20±0.5μmと極めて小さかった。また、LiTaO基板に加工歪やクラックは観察されなかった。
次に、この複合圧電基板のLiTaO基板の表面側にスパッタ法によりAl、Cuの合金を0.12μmの厚みで堆積させた。このときAl:Cuの比が2:1となるようターゲット組成を選定した。
次に表面の金属材料の一部をプラズマエッチングにより溶かし、パターニングして金属電極とし、1ポートの漏洩弾性表面波共振子(波長2μm)を作製した。すなわち、金属電極の厚さを、漏洩弾性表面波の波長で規格化した値で0.06とした。この複合圧電基板をダイシングしてチップ形状に加工した。
【0057】
このとき、LiTaO基板の電極が形成された面の漏洩弾性表面波伝播方向であるX方向の膨張係数その場観察により求めたところ、αc=10ppm/℃であった。
次に電極が形成された前記複合圧電チップを、アルミナセラミック基板(膨張係数αs=8ppm/℃)からなる実装基板にAg、Snからなるハンダバンプを介してフリップチップ接続して、パッケージングをおこなった。
前記複合圧電チップをフリップチップ接続した1ポート共振子の2GHzでの共振子特性を評価したところ、比帯域幅((fa−fr)/fa、faは反共振周波数、frは共振周波数)は3%と比較的広帯域であった。
【0058】
また、この共振子の周波数温度特性を求めたところ、反共振周波数については−15ppm/℃、共振周波数は−5ppm/℃という小さい温度係数であり、周波数温度特性改善効果が高かった。
さらに、この共振子に2GHz、1Wの電力を投入し続けたところ2000時間でも共振特性の劣化は無く、耐電力性が高いことが確認された。
【0059】
(比較例1)
実施例1と同様な方法で1ポートの漏洩弾性表面波共振子を作製し、チップアンドワイヤー方式で実装し、共振子の周波数温度特性を調べたところ、反共振周波数については−23ppm/℃、共振周波数は−38ppm/℃という温度係数であった。
【0060】
(比較例2)
実施例2と同様な方法で1ポートの漏洩弾性表面波共振子を作製し、チップアンドワイヤー方式で実装し、共振子の周波数温度特性を調べたところ、反共振周波数については−21ppm/℃、共振周波数は−36ppm/℃という温度係数であった。
【0061】
(比較例3)
実施例3と同様な方法で1ポートの漏洩弾性表面波共振子を作製し、チップアンドワイヤー方式で実装し、共振子の周波数温度特性を調べたところ、反共振周波数については−8ppm/℃、共振周波数は−23ppm/℃という温度係数であった。
【0062】
(比較例4)
実施例4と同様な方法で方法で1ポートの漏洩弾性表面波共振子を作製し、チップアンドワイヤー方式で実装し、共振子の周波数温度特性を調べたところ、反共振周波数については−31ppm/℃、共振周波数は−36ppm/℃という温度係数であった。
【0063】
このように、比較例1−4は実施例1−4と比べて、それぞれ反共振周波数、共振周波数の温度係数は大きな値を示している。これより、上述したように、本発明のようにαs<αc<αs+6なる関係を満たすようにフリップチップボンディングによって実装したものの方が、比較例1−4のようにチップアンドワイヤー方式により実装したものよりも周波数温度特性がより効果的に改善されることが判る。
また、比較例1−4のようにチップアンドワイヤー方式による実装では、実装作業が煩雑であり、生産性が高いものではない。
【0064】
(比較例5)
実施例1と同様な方法で複合圧電基板を作製し、この複合圧電基板のLiNbO基板の表面側にスパッタ法によりAl、Cuの合金を0.06μmの厚みで堆積させた。このときAl:Cuの比が2:1となるようターゲット組成を選定した。
次に表面の金属材料の一部をプラズマエッチングにより溶かし、パターニングして金属電極とし、1ポートの漏洩弾性表面波共振子(波長2μm)を作製した。すなわち、金属電極の厚さを、漏洩弾性表面波の波長で規格化した値で0.03とした。これは金属電極の厚さが漏洩弾性表面波の波長で規格化した値で0.04以上である本発明の特徴とは異なる。
この金属電極が形成された複合圧電基板をダイシングしてチップ形状に加工して得た複合圧電チップを、アルミナセラミック基板からなる実装基板にAg、Snからなるハンダバンプを介してフリップチップ接続して、パッケージングをおこなった。
前記複合圧電チップをフリップチップ接続した1ポート共振子に2GHz、1Wの電力を投入し続けたところ、約10時間で金属電極が劣化した。
【0065】
(比較例6)
直径4インチ(100mm)の25°回転YカットLiNbO基板を厚さが0.15mm(150μm)となるように仕上げた。
このLiNbO基板の表面にスパッタ法によりAl、Cuの合金を0.06μmの厚みで堆積させた。このときAl:Cuの比が2:1となるようターゲット組成を選定した。
次に表面の金属材料の一部をプラズマエッチングにより溶かし、パターニングし金属電極とし、1ポートの漏洩弾性表面波共振子(波長2μm)を作製した。すなわち、金属電極の厚さを、漏洩弾性表面波の波長で規格化した値で0.03とした。
【0066】
この金属電極が形成された圧電基板をダイシングしてチップ形状に加工して得た圧電チップにおいて、LiNbO基板の電極が形成された面の漏洩弾性表面波伝播方向であるX方向の膨張係数をその場観察により求めたところ、αc=15ppm/℃であった。
次に電極が形成された前記圧電チップを、アルミナセラミック基板(膨張係数αs=8ppm/℃)からなる実装基板にAg、Snからなるハンダバンプを介してフリップチップ接続して、パッケージングをおこなった。
前記圧電チップをフリップチップ接続した1ポート共振子の周波数温度特性を求めたところ、反共振周波数については−60pm/℃、共振周波数は−83ppm/℃という大きい温度係数であった。
さらに、この共振子に2GHz、1Wの電力を投入し続けたところ、約10時間で金属電極が劣化した。
【0067】
(比較例7)
直径4インチ(100mm)の25°回転YカットLiNbO基板を厚さが0.15mm(150μm)となるように仕上げた。
このLiNbO基板の表面にスパッタ法によりAl、Cuの合金を0.06μmの厚みで堆積させた。このときAl:Cuの比が2:1となるようターゲット組成を選定した。
次に表面の金属材料の一部をプラズマエッチングにより溶かし、パターニングし金属電極とし、1ポートの漏洩弾性表面波共振子(波長2μm)を作製した。すなわち、金属電極の厚さを、漏洩弾性表面波の波長で規格化した値で0.03とした。
次にこの金属電極が形成された圧電基板にプラズマCVDによりSiO1.80.2保護膜を0.2μmの厚さで堆積させた。
【0068】
この金属電極が形成された圧電基板をダイシングしてチップ形状に加工して得た圧電チップにおいて、LiNbO基板の電極が形成された面の漏洩弾性表面波伝播方向であるX方向の膨張係数をその場観察により求めたところ、αc=15ppm/℃であった。
次に電極が形成された前記圧電チップを、アルミナセラミック基板(膨張係数αs=8ppm/℃)からなる実装基板にAg、Snからなるハンダバンプを介してフリップチップ接続して、パッケージングをおこなった。
前記圧電チップをフリップチップ接続した1ポート共振子の周波数温度特性を求めたところ、反共振周波数については−50pm/℃、共振周波数は−70ppm/℃という大きい温度係数であった。
さらに、この共振子に2GHz、1Wの電力を投入し続けたところ、約10時間で金属電極が劣化した。
【0069】
(比較例8)
支持基板であるセラミック基板として、実施例1で用意したアルミナ基板と同様のアルミナ基板を用意した。そして、実装基板として実施例1とは異なる基板を用意して、また、圧電基板上に形成する金属電極の厚さを変えたこと以外は実施例1と同様の手順で弾性表面波素子を作製した。
なお、金属電極の厚さは、漏洩弾性表面波の波長で規格化した値で0.03とした。
また、LiTaO基板の電極が形成された面の漏洩弾性表面波伝播方向であるX方向の膨張係数をその場観察により求めたところ、αc=10ppm/℃であり、実装基板の膨張係数αsは12ppm/℃であった。すなわち、本発明におけるαsとαcの関係(αs<αc<αs+6)とは異なり、αs>αcになっている。
【0070】
前記複合圧電チップをフリップチップ接続した1ポート共振子の反共振周波数の温度係数は−41ppm/℃、共振周波数の温度係数は−38ppm/℃という比較的大きな温度係数だった。
また、この複合圧電基板からなる共振子に2GHz、1Wの電力を投入し続けたところ、約10時間で金属電極が劣化した。
このように、実施例と比較して、比較例8の弾性表面波素子においては金属電極が劣化しやすく、温度特性も悪い結果となった。
【0071】
(比較例9)
直径4インチ(100mm)で厚さが200μmであるガドリニウム・ガリウム・ガーネット(GGG)基板を用意した。次に直径4インチ(100mm)の36°回転Yカットタンタル酸リチウム(LiTaO)基板を厚さが0.2mm(200μm)で両面ラップにより表面のRaが0.12μmとなる様加工した。
【0072】
次いで、GGG基板の表面を洗浄し、さらにこの基板を100℃に加熱しながら波長200nm以下の短波UV光及び高濃度オゾンにより前処理し、エポキシメタクリレートを主成分とする紫外線硬化接着剤をスピンコートし片側表面上に均一に塗布した。次いで、前記LiTaO基板の裏面を洗浄し、前記接着剤を同様に塗布し、前記GGG基板の接着剤塗布面と前記LiTaO基板の接着剤塗布面を圧力1×10−3mbarの真空下で貼り合せた。
【0073】
次に、この複合圧電基板のLiNbO基板の表面側にスパッタ法によりAl、Cuの合金を0.06μmの厚みで堆積させた。このときAl:Cuの比が2:1となるようターゲット組成を選定した。
次に表面の金属材料の一部をプラズマエッチングにより溶かし、パターニングして金属電極とし、1ポートの漏洩弾性表面波共振子(波長2μm)を作製した。すなわち、金属電極の厚さを、漏洩弾性表面波の波長で規格化した値で0.03とした。
【0074】
この金属電極が形成された複合圧電基板をダイシングしてチップ形状に加工して得た複合圧電チップにおいて、LiNbO基板の電極が形成された面の漏洩弾性表面波伝播方向であるX方向の膨張係数をその場観察により求めたところ、αc=16ppm/℃であった。
【0075】
次にこの複合圧電チップを、アルミナセラミック基板(膨張係数αs=8ppm/℃)からなる実装基板にSnからなるハンダバンプを介してフリップチップ接続して、パッケージングをおこなった。すなわち、本発明におけるαsとαcの関係(αs<αc<αs+6)とは異なり、αc>αs+6になっている。
前記複合圧電チップをフリップチップ接続した1ポート共振子の反共振周波数の温度係数は−40ppm/℃、共振周波数の温度係数は−39ppm/℃という実施例に比べて比較的大きな温度係数となった。
また、この複合圧電基板からなる共振子に2GHz、1Wの電力を投入し続けたところ、約10時間で金属電極が劣化した。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明に係る弾性表面波素子の実施形態の一例を示す断面概略図である。
【図2】本発明に係る弾性表面波素子に用いられる複合圧電基板の一例を示した概略断面図である。
【図3】本発明に係る複合圧電基板の周波数温度特性をシミュレーションにより求めたものを示すグラフである。
【図4】図3に示した複合圧電基板と同様のものについて、漏洩弾性表面波の波長で規格化した金属電極の厚さをパラメータとした場合の漏洩弾性表面波の伝播ロスの計算値を示すグラフである。
【図5】図3に示した複合圧電基板と同様のものについて、結合係数(k)の計算値を示すグラフである。
【符号の説明】
【0077】
1…複合圧電チップ、 2…圧電基板、 3…セラミック基板、
4…接着剤(接着層)、 5…バンプ、 6…実装基板、 7…金属電極、
8…弾性表面波素子、 9…複合圧電基板、 10…SiO2−x層。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板上に弾性表面波または漏洩弾性表面波を励振・検出する金属電極が形成された弾性表面波素子であって、少なくとも、圧電基板とセラミック基板とを接着剤を介して貼り合わせた複合圧電基板をチップ形状に加工した複合圧電チップと、該複合圧電チップをフリップチップボンディングによって実装する実装基板とを具備し、前記圧電基板上に形成された金属電極の厚さは、漏洩弾性表面波の波長で規格化した値で0.04以上であり、前記圧電基板表面の弾性表面波または漏洩弾性表面波の伝播方向の膨張係数αc(ppm/℃)と、前記実装基板の膨張係数αs(ppm/℃)とが、
αs<αc<αs+6
なる関係を満たすように実装されたものであることを特徴とする弾性表面波素子。
【請求項2】
請求項1に記載の弾性表面波素子において、前記圧電基板は35°±35°回転YカットLiNbO基板又はLiTaO基板であることを特徴とする弾性表面波素子。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の弾性表面波素子において、前記圧電基板の表面に前記金属電極を覆うようにSiO2−x層(但し0.01<x<0.5)が形成されており、該SiO2−x層の厚さは、漏洩弾性表面波の波長で規格化した値で0.1以下であることを特徴とする弾性表面波素子。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−228120(P2007−228120A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−44813(P2006−44813)
【出願日】平成18年2月22日(2006.2.22)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】