説明

弾性表面波素子

【課題】誘電体膜を被覆した弾性表面波素子において、フィルタとしての通過特性の劣化を抑制する。
【解決手段】圧電基板と、当該圧電基板上に形成される少なくとも1組のIDT電極と、当該圧電基板および当該IDT電極の少なくとも一部を被覆する誘電体膜とを備える弾性表面波素子であって、圧電基板は、オイラー角(−10°〜10°,125°〜140°,−10°〜10°)の範囲のカット角のリチウムタンタレート基板であり、誘電体膜は、二酸化珪素を主成分とし、少なくともIDT電極が有する複数の電極指が並ぶ領域を被覆する第1の誘電体膜、および、窒化珪素を主成分とし、当該第1の誘電体膜を被覆する第2の誘電体膜を含み、IDT電極の電極指上に伝搬する弾性表面波の音速が4000m/s〜4100m/sの範囲内である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯域フィルタ等に用いられる弾性表面波素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話等の情報通信機器などの分野において、共振子、フィルタなどの回路素子として、圧電基板の表面に電極を形成した弾性表面波素子が用いられている。このような弾性表面波素子の一例を図12に示す。図12の(a)は、弾性表面波素子900の上面図である。弾性表面波素子900は、圧電基板901に1対の櫛形のIDT電極902と、2つの反射器903を配置して形成されている。IDT電極902はそれぞれ、バスバー911および当該バスバー911から延伸する複数の電極指912を有する。IDT電極902のそれぞれの電極指912は、他方のIDT電極902の電極指912と交互に並ぶよう配置される。また、反射器903は、これらのIDT電極902をはさんで、1つずつ配置される。また、図12の(b)は、他の弾性表面波素子920の上面図である。弾性表面波素子920は弾性表面波素子900において、IDT電極902がバスバー911から電極指912と交互に延伸するダミー電極指913をさらに有し、電極指912が、他方のIDT電極902のダミー電極指913と対向するよう配置されたものである。これらの電極指912が交互に並んだ領域のうち各電極指912の先端部分を除いた領域を含む帯状の領域である交差領域は、弾性波の主要な伝播路として利用される。
【0003】
また、電極に誘電体膜を被覆した弾性表面波素子が提案されている。例えば、特許文献1は、図13に示す弾性表面波素子940を開示している。図13は、弾性表面波素子940を透過的に描いた上面図およびそのA−A´線に沿った断面図である。弾性表面波素子940は、圧電基板941に第1の誘電体膜944を被覆し、誘電体膜941上に、2対のIDT電極942を配置し、さらに、第1の誘電体膜944およびIDT電極942を、耐湿性を有する第2の誘電体膜945で被覆して形成される。これにより、IDT電極942の湿気による腐食を防止している。
【0004】
また、特許文献2は、図14に示す弾性表面波素子960を開示している。図14は、弾性表面波素子960を透過的に描いた上面図およびそのA−A´線に沿った断面図である。弾性表面波素子960は、圧電基板である水晶基板961上に、その水晶基板961の使用環境温度範囲におけるTCF(周波数温度係数)値がマイナスとなるよう所定膜厚の1対のIDT電極962および反射器963を配置し、さらに、IDT電極962および反射器963を当該温度におけるTCF値がプラスである誘電体等の薄膜で被覆して形成される。これにより、使用環境温度範囲の中心でTCF値が相殺されて0となり、温度範囲の周波数変動が低減される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−151997号公報
【特許文献2】特開2005−65160号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように、弾性表面波素子の保護やTCF値の低減のため、圧電基板やIDT電極を誘電体膜で被覆した場合、IDT電極における共振周波数でのQ値が低下し、弾性表面波素子のフィルタとしての通過特性が劣化するという課題がある。
【0007】
それゆえに、本発明の目的は、誘電体膜を被覆した弾性表面波素子において、フィルタとしての通過特性の劣化を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、圧電基板と、当該圧電基板上に形成される少なくとも1組のIDT電極と、当該圧電基板および当該IDT電極の少なくとも一部を被覆する誘電体膜とを備える弾性表面波素子であって、圧電基板は、オイラー角(−10°〜10°,125°〜140°,−10°〜10°)の範囲のカット角のリチウムタンタレート基板であり、誘電体膜は、二酸化珪素を主成分とし、少なくともIDT電極が有する複数の電極指が並ぶ領域を被覆する第1の誘電体膜、および、窒化珪素を主成分とし、当該第1の誘電体膜を被覆する第2の誘電体膜を含み、IDT電極の電極指上に伝搬する弾性表面波の音速が4000m/s〜4100m/sの範囲内である。
【0009】
また、第1および第2の誘電体膜の各膜厚H1およびH2が、関係式0.3≦H2/H1≦1.2を満たすことが好ましい。
【0010】
あるいは、第1および第2の誘電体膜の各膜厚を、IDT電極が励起する弾性表面波の波長λで除算した正規化膜厚Hλ1およびHλ2が、関係式0.9×(−0.5×Hλ12+0.295×Hλ1+0.0362)≦Hλ2≦1.1×(−0.5×Hλ12+0.295×Hλ1+0.0362)を満たすことが好ましい。
【0011】
あるいは、第1の誘電体膜の膜厚は、IDT電極の膜厚以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、誘電体膜を被覆した弾性表面波素子において、フィルタとしての通過特性の劣化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態に係る弾性表面波素子の上面図および拡大断面図
【図2】本発明の実施形態に係る弾性表面波素子の周波数特性を示す図
【図3】本発明の実施形態に係る弾性表面波素子の検討例に係る周波数特性を示す図
【図4】本発明の実施形態に係る弾性表面波素子の検討例に係る周波数特性を示す図
【図5】本発明の実施形態に係る弾性表面波素子の検討例に係る周波数特性を示す図
【図6】本発明の実施形態に係る弾性表面波素子の検討例に係るQ値を示す図
【図7】本発明の実施形態に係る弾性表面波素子の検討例に係るQ値を示す図
【図8】本発明の実施形態に係る弾性表面波素子の検討例に係る膜厚を示す図
【図9】本発明の実施形態に係る弾性表面波素子の拡大断面図
【図10】本発明の実施形態に係る弾性表面波素子の検討例に係るTCF値を示す図
【図11】本発明の実施形態に係る弾性表面波素子の変形例を示す拡大断面図
【図12】従来の弾性表面波素子の上面図
【図13】従来の弾性表面波素子の上面図および断面図
【図14】従来の弾性表面波素子の上面図および断面図
【発明を実施するための形態】
【0014】
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態について以下に説明する。図1は本実施形態に係る弾性表面波素子100を透過的に描いた上面図およびそのA−A´線に沿った拡大断面図である。弾性表面波素子100は、圧電基板101に2つのIDT電極102と、2つの反射器103を配置して構成される共振子である。IDT電極102はそれぞれ、バスバー111および当該バスバー111から交互に延伸する複数の電極指112およびダミー電極指113を有する。IDT電極102のそれぞれの電極指112は、他方のIDT電極102の電極指112と交互に並び、かつ、先端が他方のIDT電極102のダミー電極指113の先端と対向するよう配置される。また、反射器103はこれらのIDT電極をはさんで、1つずつ配置される。また、圧電基板101、IDT電極102および反射器103は、第1の誘電体膜104および、第1の誘電体膜より音速が速い第2の誘電体膜105によって被覆されている。IDT電極102上の電極指112が交互に並んだ領域である交差領域は、弾性波の主要な伝播路として利用され、共振器を構成する。
【0015】
圧電基板101としては、そのカット角および伝播角を右手系直交座標のオイラー角(φ,θ,ψ)で表した場合、φは−10°以上10°以下、θは125°以上140°以下、ψは、−10°以上10°以下の範囲のリチウムタンタレート(LiTaO3)が好適である。このオイラー角を有するリチウムタンタレートを圧電基板101として用いると、IDT電極102によって励振される主要弾性波はSH (Shear Horizontal)波となり得る。また、IDT電極102および反射器103としては、例えば、アルミニウム、銅、銀、金、チタン、タングステン、モリブデン、白金、またはクロムからなる単体金属、もしくはこれらを主成分とする合金、またはこれらの金属を積層させた積層体からなる電極が用いられる。また、第1の誘電体膜104は、二酸化珪素を主成分とすることが好適である。また、第2の誘電体膜105は、窒化珪素を主成分とすることが好適である。
【0016】
弾性表面波素子100のQ値を向上するための第1の誘電体膜104および第2の誘電体膜105の各膜厚の条件の検討例を以下に説明する。
【0017】
図2は、第2の誘電体膜105の膜厚を0.01λとした場合について、第1の誘電体膜104の膜厚を、0λ(なし)、0.05λ、0.10λおよび0.15λと変えた場合の、各周波数における弾性表面波素子100のS21値(透過係数)を示した図である。なお、ここでλは、IDT電極102の電極指112の間隔の2倍で定まる励起波の波長である。また、図3、図4および図5は、第2の誘電体膜105の膜厚を0.03λ、0.05λおよび0.07λとした場合について、図1と同様に示した図である。なお、ここでは、IDT電極102の膜厚を0.08λとしている。第1の誘電体膜104の膜厚が同一の場合、図2〜5に示す範囲において、第2の誘電体膜105の膜厚が増加するほど、共振周波数におけるS21値が低下し、弾性表面波素子100の反共振周波数におけるQ値が改善される傾向が分かる。
【0018】
図6は、第2の誘電体膜105の膜厚と、弾性表面波素子100の反共振周波数におけるQ値との関係を、第1の誘電体膜104の膜厚ごとに示した図である。各膜厚を変えると、共振周波数における弾性表面波の音速も変化する。図7は、図6において、第2の誘電体膜105の膜厚の代わりに、共振周波数における弾性表面波の音速を横軸に取った図である。図7によれば、第1の誘電体膜104の膜厚がいずれであっても、音速が4000m/s以上かつ4100m/sの範囲となるように、第2の誘電体膜105の膜厚を選ぶことで、大きなQ値が得られる。また、この範囲において、第1の誘電体膜104の膜厚をH1、第2の誘電体膜105の膜厚をH2とすると、H2/H1の値は、概ね0.3以上1.2以下となる。したがって、H1およびH2をこの範囲内となるようにすることで、大きなQ値が得られる。
【0019】
図8は、図6に基づき、第1の誘電体膜104の各膜厚においてQ値が最大となる第2の誘電体膜105の膜厚をプロットし、2次関数で補間したグラフである。この2次関数による補間式は、第1の誘電体膜104および第2の誘電体膜105の各膜厚を励起波長λで除算した正規化膜厚Hλ1およびHλ2を用いて、Hλ2=−0.5×Hλ12+0.295×Hλ1+0.0362と表される。ここで、右辺をf(Hλ1)とする。決定係数R2は0.9966であり、Hλ2=f(Hλ1)は良好な補間式であるといえる。Hλ1に対して、Hλ2を、0.9×f(Hλ1)以上かつ1.1×f(Hλ1)の範囲とすると、大きなQ値が得られる。
【0020】
また、第1の誘電体膜104の膜厚H1を、IDT電極102の膜厚H3以下としてもよい。図9に、この場合の弾性表面波素子100の拡大断面図を示す。第1の誘電体膜104の膜厚H1を、IDT電極102の膜厚H3以下とすることで、IDT電極102を伝搬する弾性波の反射率を十分に確保するとともに、弾性表面波素子100の電気機械結合係数を確保することができる。
【0021】
IDT電極102の膜厚H3は、第1の誘電体膜104の膜厚H1と第2の誘電体膜105の膜厚H2との和H1+H2より小さいものとし、IDT電極102の上面を、少なくとも第2の誘電体膜105で被覆して、耐湿性を向上することが望ましい。しかし、IDT電極102の膜厚H3を、第1の誘電体膜104の膜厚H1と第2の誘電体膜105の膜厚H2との和H1+H2以上とし、IDT電極102の上面が、第2の誘電体膜105から露出する構成としてもよい。
【0022】
図10は、第1の誘電体膜104の膜厚と、弾性表面波素子100の共振周波数および反共振周波数における、TCF値との関係を示す図である。一般的に使用される、リチウムタンタレートを圧電基板とする弾性波デバイスにおいては、TCF値は−50ppm/K程度であるが、弾性表面波素子100においてはTCF値がこれより改善されており、第1の誘電体膜104を設けることによる温度特性改善の効果が損なわれていないことが確認できる。
【0023】
なお、本実施形態では、第1の誘電体膜104および第2の誘電体膜105は、それぞれの上面が平坦となるように形成されるものとしたが、凸部が形成されるものとしてもよい。図11の(a)および(b)に、このような凸部が形成された場合の弾性表面波素子100の拡大断面図を示す。第1の誘電体膜104および第2の誘電体膜105は、IDT電極102を被覆する部分が盛り上がり、凸部が形成されている。また、図11の(b)に示すように、第1の誘電体膜104の膜厚H1を、IDT電極102の膜厚H3以下とすると、上述のように、IDT電極102を伝搬する弾性波の反射率を十分に確保するとともに、弾性表面波素子100の電気機械結合係数を確保することができる。
【0024】
また、本実施形態では、IDT電極102は、ダミー電極指113を備えているが、図12の(b)に示すように、ダミー電極指113を備えていなくてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明は、情報通信機器等に用いられる弾性表面波素子において有用である。
【符号の説明】
【0026】
100、900、920、940、960 弾性表面波素子
101、901、941、961 圧電基板
102、902、942、962 IDT電極
103、903、963 反射器
104、944 第1の誘電体膜
105、945 第2の誘電体膜
111、911 バスバー
112、912 電極指
113、913 ダミー電極指

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板と、当該圧電基板上に形成される少なくとも1組のIDT電極と、当該圧電基板および当該IDT電極の少なくとも一部を被覆する誘電体膜とを備える弾性表面波素子であって、
前記圧電基板は、オイラー角(−10°〜10°,125°〜140°,−10°〜10°)の範囲のカット角のリチウムタンタレート基板であり、
前記誘電体膜は、二酸化珪素を主成分とし、少なくとも前記IDT電極が有する複数の電極指が並ぶ領域を被覆する第1の誘電体膜、および、窒化珪素を主成分とし、当該第1の誘電体膜を被覆する第2の誘電体膜を含み、
前記IDT電極の電極指上に伝搬する弾性表面波の音速が4000m/s〜4100m/sの範囲内である、弾性表面波素子。
【請求項2】
圧電基板と、当該圧電基板上に形成される少なくとも1組のIDT電極と、当該圧電基板および当該IDT電極の少なくとも一部を被覆する誘電体膜とを備える弾性表面波素子であって、
前記圧電基板は、オイラー角(−10°〜10°,125°〜140°,−10°〜10°)の範囲のカット角のリチウムタンタレート基板であり、
前記誘電体膜は、二酸化珪素を主成分とし、少なくとも前記IDT電極が有する複数の電極指が並ぶ領域を被覆する第1の誘電体膜、および、窒化珪素を主成分とし、当該第1の誘電体膜を被覆する第2の誘電体膜を含み、
前記第1および第2の誘電体膜の各膜厚H1およびH2が、関係式0.3≦H2/H1≦1.2を満たす、弾性表面波素子。
【請求項3】
前記第1および第2の誘電体膜の各膜厚を、前記IDT電極が励起する弾性表面波の波長λで除算した正規化膜厚Hλ1およびHλ2が、関係式0.9×(−0.5×Hλ12+0.295×Hλ1+0.0362)≦Hλ2≦1.1×(−0.5×Hλ12+0.295×Hλ1+0.0362)を満たす、請求項1または2に記載の弾性表面波素子。
【請求項4】
前記第1の誘電体膜の膜厚は、前記IDT電極の膜厚以下である、請求項1または2に記載の弾性表面波素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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