説明

弾性表面波装置およびその製造方法

【課題】SAW素子をFCB実装するSAW装置において新たな素子等を新たに設けることなくより簡便にインダクタンスの調整を可能とする。
【解決手段】SAW素子を搭載可能な基板と、この基板に設けた導電性を有する接続パッドと、当該接続パッドにバンプを介して電気的に接続した1以上のSAW素子とを備え、バンプの外縁が接続パッドの外縁より内側に位置し、SAW素子を基板表面に対し略平行な方向にずらすことにより、接続パッドへのバンプの接合位置を接続パッドの外縁の内側領域内で変更した。接続パッドは、バンプによる実装に必要な面積を有するパッド本体部と、このパッド本体部に連続して接続パッドの大きさを拡張する拡張部とを含み、SAW素子をパッド本体部から拡張部に向う方向にずらす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性表面波装置およびその製造方法に係り、特にフリップチップ実装する弾性表面波素子の基板表面への搭載位置によって減衰特性の調整を可能とする技術に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電効果によって生じる弾性表面波(Surface Acoustic Wave/以下、SAWという)を利用したSAW装置は、小型軽量で信頼性に優れることから、フィルタや共振器、デュプレクサなどの信号処理デバイスとして携帯電話機その他の電子機器に近年広く利用されている。
【0003】
かかるSAW装置を構成するには、一般に圧電基板上に交差指状の電極(Interdigital Transducer/以下、IDTという)を備えたチップ状のSAW素子を、樹脂やセラミックスからなる配線基板上に実装し、パッケージを施すことにより作製される。
【0004】
配線基板へSAW素子を実装するには、SAW素子側の電極端子と配線基板上の接続パッドとを導電ワイヤにより接続するワイヤーボンディング(以下、WBと略して記す)方式か、あるいはSAW素子側の電極端子をバンプを介して接続パッドに接続するフリップチップボンディング(以下、FCBと略して記す)方式が一般に採られる。
【0005】
FCBは、素子の電極端子を基板上の接続パッドに直接接続するため、WBに較べて小型低背化に有利である。また、ワイヤに較べてバンプは径が大きく且つ短いため、FCBによれば旧来のWB方式に較べて接続部位のインダクタンスが格段に小さくなり、接続部位のインダクタンスに起因する伝送特性への影響を小さく抑えることが出来る利点がある。
【0006】
また、SAW素子をFCB実装してSAW装置を構成する技術を開示するものとして下記特許文献がある。
【特許文献1】特開2001‐160731号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、SAW装置では、通過帯域幅や減衰特性など当該SAW装置を使用するシステム側からの様々な仕様要求に応えるため、インダクタンスを調整する必要が生じることがある。このような場合、FCB実装による装置では、個別のインダクタ素子や導体パターンからなるインダクタを接続し、これらインダクタのインダクタンス値を調整することにより要求に応えるのが通常である。
【0008】
例えば、上記特許文献記載の装置では、接地用導体パターン間をボンディングワイヤで接続し、このワイヤの長さ(接地用導体パターン間の距離)や径等を設定することによりインダクタンスの調整を行うことが望ましいとされている。
【0009】
しかしながら、インダクタンスを調整するため別個の素子やワイヤ等を設けることは部品点数並びに製造工程数を増やし、製造コストを増大させる原因となる。また、SAW装置の小型化を妨げる一因ともなり、近年の装置小型化の強い要請に応える上で不利な面がある。
【0010】
上記特許文献記載の発明も、小型薄型でかつインダクタンス成分を有するワイヤを接続する従来法と遜色の無い電気特性が得られるとするものの、別部品であるワイヤを新たに必要とする点では従来のワイヤ接続法の域を出るものではない。
【0011】
したがって、本発明の目的は、SAW素子をFCB実装するSAW装置において、インダクタンスを調整するための素子等を新たに設けることなく、より簡便にインダクタンスの調整を可能とする点にある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決し目的を達成するため、本発明に係るSAW(弾性表面波)装置は、SAW素子を搭載可能な基板と、この基板に設けた導電性を有する接続パッドと、当該接続パッドにバンプを介して電気的に接続した1以上のSAW素子とを備えるSAW装置であって、前記バンプの外縁が前記接続パッドの外縁より内側に位置し、前記SAW素子を前記基板表面に対し略平行な方向にずらすことにより、前記接続パッドへの前記バンプの接合位置を前記接続パッドの外縁の内側領域内で変更した。
【0013】
また、本発明に係るSAW装置の製造方法は、基板に設けた接続パッドにバンプを介してSAW素子を電気的に接続することにより当該SAW素子を前記基板に実装する素子実装工程を含むSAW装置の製造方法であって、平面から見たときに前記バンプの外縁が前記接続パッドの外縁より内側に位置し、前記素子実装工程は、前記SAW素子を前記基板に実装するときに前記基板表面に対し略平行な方向にずらすことにより、前記接続パッドへの前記バンプの接合位置を前記接続パッドの外縁の内側領域内で変更する工程を含む。
【0014】
SAW素子をFCB実装し製造されるSAW装置においてインダクタンスの調整を行うには、従来、インダクタ(チップインダクタや導体線路パターン等)を別個に取り付けて調整していることは既に述べたとおりである。
【0015】
一方、本発明者は、SAW装置の電気特性(減衰特性)のばらつきについて検討を行う中で、基板上のチップ(SAW素子)の搭載位置にばらつきが見られ、この搭載位置と当該装置の電気特性(減衰特性)との間に一定の因果関係があることを発見した。更にチップの搭載位置と減衰特性との関係を検討するうちに、チップ(接続パッドへの接合点)を特定の方向にずらすと減衰特性(減衰量や減衰極の周波数等)を意図的に変えることが出来ることを見出した。本発明はこのような知見に基づいてなされたもので、従来のようにインダクタを別個に設けなくても、チップ(SAW素子)の実装位置を変更することでインダクタンス(減衰特性)の調整を行うことが可能となる。尚、この点については、後の実施形態の説明の中で測定結果およびシミュレーションによる算出結果に基づいて具体的に詳しく述べる。
【0016】
したがって、本発明のSAW装置およびその製造方法では、基板にSAW素子をフリップチップ実装し、SAW装置を構成する。具体的には、SAW素子が備える接続用の電極端子と、基板に形成した接続パッドとをバンプを介して電気的に接続する。このとき、接続パッドの平面から見たときの大きさはバンプの大きさより大きく(平面から見たときにバンプの外縁が接続パッドの外縁より内側に位置し)、SAW素子を基板表面に対し略平行にずらすことにより接続パッドの外縁の内側領域内で接続パッドへのバンプの接合位置を変更する。
【0017】
これにより、新たな素子やワイヤ等を設けることなく、インダクタンス調整(インダクタンス値を小さくするか或いは大きくする)を行い、所望の減衰特性を有するSAW装置を製造すること(当該SAW装置の減衰量や減衰極の周波数等の調整を行うこと)が可能となる。
【0018】
また、上記接続パッドは、従来のFCBに必要であったパッド面積(この部分がパッド本体部である)より広くなるように当該パッド本体部に連続した拡張部を設けておいても良い。このような拡張部を設ければ、SAW素子の実装不良(接続不良)をより確実に防ぎつつ、基板上におけるSAW素子の搭載位置(接続パッド上でのバンプの接合位置)をインダクタンスの調整のため、位置を調整することが可能となる。
【0019】
拡張部の形状や大きさ、配設位置(パッド本体部のどちら側に設けるか、或いはパッド本体部の周囲総てに亘り設けるか等)については、SAW素子を実装する基板側の配線パターンやSAW素子の電極端子の位置、基板上におけるSAW素子の配置位置等によって様々であって特定の構成に限定されるものではない。典型的には、パッド本体部から見てSAW素子をずらす方向に存在するよう拡張部を設けることが望ましいが、対象となるSAW素子をずらした場合に、バンプによる電気的接続に支障が生じることがないように各接続パッドに拡張部を適宜設ければ良い。
【0020】
接続パッドの一構成例としては、略長方形の平面形状を有しかつその長辺が前記SAW素子をずらす方向に略平行に延在するよう配置されているものとすることが出来る。
【0021】
本発明に云うSAW装置には、例えばローパスフィルタ、ハイパスフィルタ、バンドパスフィルタ等の各種のフィルタ、共振器、デュプレクサ、トリプレクサ、その他のSAW素子を含む各種のSAWデバイスが含まれる。
【0022】
本発明に基づくデュプレクサの一構成例は、SAW素子として低域側SAWフィルタ素子(送信フィルタ又は受信フィルタ)と高域側SAWフィルタ素子(受信フィルタ又は送信フィルタ)とを含み、高域側SAWフィルタ素子は、アンテナ端子と高域側信号端子(送信信号端子又は受信信号端子)との間を結ぶ伝送路上に直列に接続された直列腕共振器と、当該伝送路からグランドに分岐する分岐路上に接続された並列腕共振器とを複数段接続したラダー型SAW素子であり、前記アンテナ端子側から見て初段に接続された並列腕共振器の一端をグランドに接続するため前記基板上に設けた接続パッド上において、この接続パッドに接合されるバンプが、当該接続パッドとグランドへの導体線路との接続部に近づくように高域側SAWフィルタ素子の実装位置をずらしたものとすることが出来る。
【0023】
かかるデュプレクサ構造においては、高域側のSAWフィルタ素子の実装位置を上記のようにずらすことで初段の並列腕共振器とグランドとの間に存在するインダクタンスが低減され、これにより、高域側SAWフィルタ素子の減衰特性(特に低域側阻止域の通過域近傍)を顕著に変えることが可能となる(具体的特性については、実測結果等に基づいて後述する)。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、SAW素子をFCB実装するSAW装置において、インダクタンスを調整するための素子等を新たに設けることなく、より簡便にインダクタンスを調整することが出来る。
【0025】
本発明の他の目的、特徴および利点は、図面に基づいて述べる以下の本発明の実施の形態の説明により明らかにする。尚、各図中、同一の符号は、同一又は相当部分を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
図1から図6は、本発明の一実施形態に係るSAWデュプレクサを示すものである。図1に示すようにこのデュプレクサ11は、互いに異なる通過帯域を有する2つのSAWフィルタ、即ち送信フィルタ12および受信フィルタ13と、外部接続用の端子、即ち送信フィルタおよび受信フィルタが共通に接続されるアンテナ端子Axと、送信信号が入力される送信信号端子Txと、受信信号が出力される受信信号端子Rxとを備える。
【0027】
送信フィルタ12および受信フィルタ13は、例えば樹脂あるいはこれに誘電体粉末を混合した複合材料からなるベース基板の表面にFCB実装し、これらを覆うように蓋体を被せて両フィルタを気密封止する。尚、ベース基板はセラミックその他の材料からなるものであっても良い。
【0028】
図2は、フィルタ12,13を実装する上記ベース基板の表面を示す平面図である。このベース基板21は、表裏面および内層を含む複数の配線層を備えた積層基板であり、その表面に、上記両フィルタ12,13をFCB実装するための接続パッド(受信信号用パッドR1、アンテナ用パッドA1,A2、グランド用パッドG1,G2,G3、送信信号用パッドT1)と、基板の周縁部に配した電極(受信信号用電極R2、アンテナ用電極A3、グランド用電極G4,G5,G6,G7,G8、送信信号用電極T2)と、これらを接続する導体線路とを設けてある。
【0029】
尚、前記外部接続用の各端子、即ちアンテナ端子Ax、送信信号端子Txおよび受信信号端子Rxは、ベース基板21の裏面に設けてあり、ベース基板21の表面に設けた上記各パッドR1,A1,A2,G1〜G3,T1乃至電極R2,A3,G4〜G8,T2と外部接続端子Ax,Tx,Rxとは、ベース基板21の側面を基板表面から裏面に亘り基板の厚さ方向に延びるキャスタレーション(サイドビア)Vを介して基板裏面の各対応する外部接続用端子に電気的に接続されている。
【0030】
ベース基板21は、平面から見て略方形の全体形状を呈して相対する2組の対辺21a,21b;21c,21dを有する。これら対辺のうち一対の対辺を第一辺(図2の下側の辺)21aおよび第二辺(図2の上側の辺)21bと、他対の対辺を第三辺(図2の左側の辺)21cおよび第四辺(図2の右側の辺)21dとすると、基板表面の第一辺21aには、基板裏面の外部接続用のアンテナ端子Axに接続されるアンテナ電極A3とこのアンテナ電極A3の両側に配したグランド電極G7,G8とを設け、第一辺21aに相対する第二辺21bには、基板裏面の外部接続用のグランド端子に接続される3つのグランド電極G4〜G6を設けてある。これら3つのグランド電極のうちの右側の電極G6と、受信フィルタ13を実装する接続パッドのうちの左上のグランド用パッドG1との間には、ミアンダ状の導体パターンからなるインダクタL10を挿入してある。このインダクタL10は、後に述べるインダクタLG1(図4)を構成するものである。
【0031】
送信フィルタ12および受信フィルタ13は、図2において一点差線で示すようにベース基板21の略中央部に左右に並べて配置してある。また同図においてバンプBを黒く塗りつぶした丸で示している。上記ベース基板21の他対の対辺21c,21dのうち、送信フィルタ12に近い第三辺21cには、基板裏面の外部接続用の送信信号端子Txに接続される送信電極T2を、また受信フィルタ13に近い第四辺21dには、基板裏面の外部接続用の受信信号端子Rxに接続される受信電極R2をそれぞれ設けている。
【0032】
図3と図4はそれぞれ受信フィルタ13を示す平面図と回路図である。これらの図に示すように、受信フィルタ13は、アンテナ用の接続端子A5と受信信号用の接続端子R5との間に直列に接続された3つの直列腕共振器S1,S2,S3と、当該伝送路からグランドへの分岐路上に接続された3つの並列腕共振器P1,P2,P3とを備えた5段のラダー型SAWフィルタである。また各共振器S1〜S3,P1〜P3は、圧電基板31の表面に形成した交差指状電極およびその両側に配した反射器を備え、同じく圧電基板31の表面に形成した接続用の電極(アンテナ用接続端子A5,受信信号用接続端子R5,グランド用接続端子G10〜G12)を有する。尚、図3に示すフィルタ素子は、実装時には表裏反転して(図3に示す面を下側にして/フェースダウンして)前記図2に示すベース基板21の表面に搭載される(図5の送信フィルタ12も同様)。
【0033】
また、図4において第一段の並列腕共振器P1に接続されているインダクタLG1は、ベース基板21の表面に設けた接続パッドG1、並びにこの接続パッドG1と前記第二辺21bのグランド電極G6との間に接続されたミアンダ状の導体パターン(インダクタ導体)L10により形成されるインダクタであり、インダクタLG2は、ベース基板21の表面に設けた接続パッドG2並びにグランド電極G8により形成されるインダクタである。更に、インダクタLG3は、キャスタレーションV等によって形成されるインダクタである。
【0034】
図5と図6はそれぞれ送信フィルタ12を示す平面図と回路図である。これらの図に示すように、送信フィルタ12は、アンテナ用の接続端子A6と送信信号用の接続端子T6との間に直列に接続された3つの直列腕共振器S5,S6,S7と、当該伝送路からグランドへの分岐路上に接続された2つの並列腕共振器P5,P6とを備えた4段のラダー型SAWフィルタである。また各共振器S5〜S7,P5,P6は、前記受信フィルタ13の共振器と同様に、圧電基板32の表面に形成した交差指状電極およびその両側に配した反射器を備え、同じく圧電基板32の表面に形成した接続用の電極(アンテナ用接続端子A6,送信信号用接続端子T6,グランド用接続端子G15,G16)を有する。
【0035】
また、図6において並列腕共振器P5,P6に接続されているインダクタLG4は、キャスタレーションを含む、ベース基板裏面の外部接続用グランド端子に至る導体パターンによって形成されるインダクタである。
【0036】
図7および図8は、上記構造を有するデュプレクサの受信フィルタについて減衰特性(低周波側減衰域の通過域近傍)の測定を行い、所定の減衰量(この場合、53dB以上)が得られた合格品と当該減衰量に満たない不合格品のそれぞれについて10個ずつのサンプルを取り出し、受信フィルタの実装位置のずれ量tを測定した結果を示すものである。尚、当該ずれ量tは、図9に示すようにグランド用パッドG1の端縁と受信フィルタ13の端縁との距離として規定した。
【0037】
図8から明らかなように、受信フィルタのずれ量tと減衰量との間には負の相関関係があり、受信フィルタのずれ量tが大きくなる(前記ベース基板の第二辺21bのグランド電極G6から遠ざかる)ほど減衰量が少なくなることが分かった。これは、受信側フィルタ13を第二辺21bのグランド電極G6から遠ざかる方向にずらすと、第一段の並列腕共振器P1とグランド電極G6との間に存在するインダクタLG1(図4参照)のインダクタンス値が大きくなり(第二段および第三段の並列腕共振器P2,P3とグランド電極G8との間に存在するインダクタLG2のインダクタンス値は逆に小さくなる)、これにより減衰量が変化するものと考えられる。したがって逆に、受信フィルタ13のずれ量tを小さくする(接続パッドG1上におけるバンプBの接合位置を前記第二辺21bのグランド電極G6に近づける)ほど大きな減衰量が得られる。
【0038】
図22Aおよび図22Bは、このような本発明ないし本実施形態のSAW装置におけるSAW素子の実装部を拡大して示すものである。これらの図に示すように当該SAW装置では、ベース基板2の表面に接続パッド5を形成し、この接続パッド5にバンプBを介してSAW素子1を実装する。ここで、側面(図22A)および平面(図22B)から見たときにバンプBの外縁6bは接続パッド5の外縁6aより内側に位置する。そして、本発明に従いバンプBの接合位置をずらす場合には、接続パッド5の外縁6aの内側領域内において行う。
【0039】
図10から図12は、前記受信フィルタをずらした場合における受信フィルタの伝送特性を測定した結果を示すものである。図10並びにこれを拡大した図11から明らかなように、受信フィルタ13をグランド電極G6側(GND電極寄り)またはアンテナ電極A3側(ANT電極寄り)にずらすことで、受信フィルタ13の低域側の減衰域における減衰特性を変える(特に通過域近傍の減衰量を大きくする)ことが出来ることが分かる。したがって、例えば同図に示すような要求仕様Sを考えた場合、送信フィルタ13をグランド電極G6寄りにずらして実装すれば、当該仕様Sをより良好に満たすことが可能となる。また、図12から明らかなように、広帯域の仕様要求SWに対しても同様に特性改善を図ることが出来る。
【0040】
一方、図13および図14は、上記のように受信フィルタ13の実装位置をずらした場合の送信フィルタ12の伝送特性を示すものである。これらの図から明らかなように受信フィルタ13の実装位置をずらすことによって送信側の伝送特性に影響を与えることは殆ど無い。
【0041】
他方、図15から図18は、受信フィルタ13でなく送信フィルタ12の実装位置をずらした場合の測定結果を示すものであり、図15と図16は受信フィルタ13の伝送特性を、また図17と図18は送信フィルタ12の伝送特性をそれぞれ示すものである。これらの図から明らかなように送信フィルタ12の実装位置をずらした場合には、送受信両フィルタ共にさほど伝送特性に影響は見られない。Txフィルタのインダクタンスは、0.4nHと大きいため、ずらしたことによるインダクタンスの変化量が小さく、減衰特性への影響が微弱だったと考えられる。影響を与えるには、拡張部の形状を工夫すればよい。又は、ずらし量をより大きくすればよい。
【0042】
更に、受信フィルタ13の実装位置をずらすことにより前記インダクタLG1およびインダクタLG2のインダクタンス値を変化させるシミュレーション解析を行った。図19は当該シミュレーションを示す概念図であり、前記実施形態と同様に受信フィルタ用の接続パッドとして第一段の並列腕共振器P1が接続されるグランド用パッドG1(インダクタLG1)と、第2段および第4段の並列腕共振器P2,P3が接続されるグランド用パッドG2(インダクタLG2)とを考え、送信フィルタ13の実装位置を図の上下方向にずらす。
【0043】
基板表面の導体パターン(グランド用パッドG1,G2)の寸法を幅0.6mm、厚さ38μm、長さ0.64mmとすると、受信フィルタ13を図19のX1方向に移動させた場合、下記表1のように、ずれ量60μm当り0.01nHだけインダクタLG1のインダクタンス値が減少する。
【0044】
【表1】

【0045】
そしてこのように受信フィルタ13の実装位置を図19のX1方向に(前記図2においてアンテナ電極A3から遠ざかる方向に相当)、60μm、180μmおよび300μmずらすことによりインダクタLG1のインダクタンスを0.01nH、0.03nHおよび0.05nHと順次減少させた各場合について受信フィルタ13の減衰特性を算出した。尚、各インダクタLG1,LG2,LG3のインダクタンスの初期値は、それぞれ0.44nH、0.005nHおよび0.002nHである。
【0046】
図20および図21は当該解析の結果を示すものである(ΔLはインダクタLG1のインダクタンスの減少量)。図21に拡大して示すように、受信フィルタをずらさない初期状態(ΔL=0)からずれ量を大きくしていくと、減衰極が低周波側に移動し、前記実測結果と同様の減衰特性の変化が見られる。したがって逆に、受信フィルタをX2方向(前記図2においてアンテナ電極A3に近づく方向に相当)にずらせば、減衰極が高周波側に移動して通過域近傍(830〜845MHz)の減衰量を大きくすることが出来る。
【0047】
図23は、ベース基板に設ける接続パッドの別の構成例を概念的に示すものである。同図において符号13はSAWチップ(受信フィルタ)、Bはバンプ、51はベース基板に設けた接続パッドを示す。接続パッド51は、バンプ実装に必要な面積を有する本来のパッド部分であるパッド本体部51aと、このパッド本体部51aを更に広げる拡張部51bとからなる。
【0048】
パッド本体部51aは、従来のこの種の接続パッドと同様に、バンプBの直径より大きく形成してある。これは、FC実装機(フリップチップボンダ)の実装精度(ばらつき/使用する装置の種類にもよるが例えば±25μm程度)や、ベース基板表面への導体パターンの形成精度(例えば±50μm程度)を考慮してバンプBと接続パッド51とを確実に接合するためである(例えばバンプBの直径が150μm程度に対して接続パッド(パッド本体部51a)は250μm角程度)。
【0049】
一方、拡張部51bを設けたのは次の理由による。上記のように従来において接続パッドはバンプの直径より一般に大きく形成されているから、バンプの接合点をある程度ずらすことは可能である。しかしながら、SAW素子(バンプによる接合点)をずらすことによりインダクタンスの調整を行う本発明では、接合点を移動させても、バンプによる接合の信頼性を確保するため、接続パッドを拡張する(特にずらす方向に拡張する)ことが望ましい。このため、パッド本体部51aに加えて拡張部51bを形成し、接合の信頼性を維持しつつ、SAW素子を本来実装の基準となる位置からシフトさせ実装することを可能とする。これにより、インダクタンス値を増加又は減少させて減衰特性を調整することが出来る。
【0050】
拡張部の形成位置や大きさ、形状等は特に限定されないことは既に述べた通りである。図23(a),(b)は、前記実施形態と同様のデュプレクサを想定した構成例であるが、例えば同図(c)に示すようにチップ(SAW素子)13の短手方向あるいは斜め方向等、接続パッド51に接続される配線パターン(図示せず)により移動方向も様々に変更されることがあり、当該想定される移動方向に対応して拡張部51bを設ければ良い。
【0051】
また、一般にSAW素子は複数の接続用の電極端子を備え、各電極端子に対応して配線基板上には接続パッドが設けられる。上記拡張部は、典型的には図23(a)に示すようにこれらの総ての接続パッドに対し設けることが望ましい。SAW素子の実装位置をずらす場合には、総ての電極端子が同様に(同一方向に同一距離だけ)移動することとなるからである。ただし、例えばグランド用の接続パッドのように元々大きな面積を有する接続パッド(例えば前記図2のグランド用パッドG2,G3のような)については、改めて拡張部を設けなくてもバンプの接合位置がずれても(図2の上方へずらす場合)接続上問題が生じない場合もあるから、このような接続パッドに対しては拡張部を設ける必要は必ずしも無い。
【0052】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載の範囲内で種々の変更を行うことができることは当業者に明らかである。
【0053】
本発明は、フリップチップ構造において、インダクタンスを可変とするものであり、例えば、フィルタの回路構成、IDTや電極の配置、反射器の有無等については様々に変更が可能であり、図示の例に限定されない。また、ベース基板表面の接続パッドや電極、配線パターンの形状・配置位置等についても各種の変更が可能である。更に、前記実施形態では、低域側SAWフィルタ素子が送信側、高域側SAWフィルタ素子が受信側であるが、逆に低域側が受信フィルタ、高域側が送信フィルタとなっていても良い。
【0054】
また、バンプの接合位置をずらす方向は、必ずしも前記実施形態のようにインダクタLG1のインダクタンスを低減する方向(前記図2の接続パッドG1とインダクタL10との接続点25にバンプBが近づく方向)にずらす必要はなく、要求される仕様によっては(例えば前記仕様Sの周波数帯より更に低域側の周波数帯では逆に、アンテナ電極A3寄りにずらした方が大きな減衰量が得られる)、逆にインダクタLG1のインダクタンスを増加する方向(図2の接続パッドG1とインダクタL10との接続点25からバンプBが遠ざかる方向)に実装しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の一実施形態に係るデュプレクサを示すブロック図である。
【図2】前記実施形態に係るデュプレクサの基板表面(SAW素子実装面)を示す平面図である。
【図3】前記実施形態のデュプレクサが備える受信フィルタを示す平面図である。
【図4】前記実施形態のデュプレクサが備える受信フィルタを示す回路図である。
【図5】前記実施形態のデュプレクサが備える送信フィルタを示す平面図である。
【図6】前記実施形態のデュプレクサが備える送信フィルタを示す回路図である。
【図7】接続パッドの端縁から受信フィルタの端縁の距離(受信フィルタのずれ量t)と、受信フィルタの減衰量を測定した結果を示す図表である。
【図8】前記受信フィルタのずれ量tと、受信フィルタの減衰量との相関関係を示す線図である。
【図9】図2の一部(受信フィルタの実装部)を拡大して示す平面図である。
【図10】前記実施形態に係るデュプレクサにおいて受信フィルタの実装位置をずらした場合の受信フィルタの伝送特性(送受信帯域近傍)を示す線図である。
【図11】前記図9の線図の一部(受信フィルタの低域側減衰域)を拡大して示す線図である。
【図12】前記実施形態に係るデュプレクサにおいて受信フィルタの実装位置をずらした場合の受信フィルタの伝送特性(広帯域)を示す線図である。
【図13】前記実施形態に係るデュプレクサにおいて受信フィルタの実装位置をずらした場合の送信フィルタの伝送特性(送受信帯域近傍)を示す線図である。
【図14】前記実施形態に係るデュプレクサにおいて受信フィルタの実装位置をずらした場合の送信フィルタの伝送特性(広帯域)を示す線図である。
【図15】前記実施形態に係るデュプレクサにおいて送信フィルタの実装位置をずらした場合の受信フィルタの伝送特性(送受信帯域近傍)を示す線図である。
【図16】前記実施形態に係るデュプレクサにおいて送信フィルタの実装位置をずらした場合の受信フィルタの伝送特性(広帯域)を示す線図である。
【図17】前記実施形態に係るデュプレクサにおいて送信フィルタの実装位置をずらした場合の送信フィルタの伝送特性(送受信帯域近傍)を示す線図である。
【図18】前記実施形態に係るデュプレクサにおいて送信フィルタの実装位置をずらした場合の送信フィルタの伝送特性(広帯域)を示す線図である。
【図19】受信フィルタの実装位置をずらしてインダクタンス値を変化させるシミュレーションを示す概念図である。
【図20】上記シミュレーションにおける、当該受信フィルタの伝送特性の解析結果を示す線図である。
【図21】前記図20の解析結果の低域側減衰域の伝送特性を拡大して示す線図である。
【図22A】本発明に基づくSAW装置におけるSAW素子の実装部を示す側面断面図である。
【図22B】本発明に基づくSAW装置におけるSAW素子の実装部(接続パッドとバンプのみ)を示す平面図である。
【図23】(a)から(c)は、ベース基板に設けるSAW素子実装用の接続パッドの別の構成例を概念的に示す平面図である。
【符号の説明】
【0056】
1 SAW素子
11 デュプレクサ
12 送信フィルタ(SAW素子)
13 受信フィルタ(SAW素子)
2,21 ベース基板
21a,21b,21c,21d ベース基板の辺
31,32 圧電基板
5,51 接続パッド
51a パッド本体部
51b 拡張部
Ax アンテナ端子
A1,A2 アンテナ用パッド(接続パッド)
A3 アンテナ用電極
A5,A6 アンテナ用接続端子
B バンプ
G1,G2,G3 グランド用パッド(接続パッド)
G4,G5,G6,G7,G8 グランド用電極
G10〜G12,G15,G16 グランド用接続端子
L10,LG1,LG2,LG3,LG4 インダクタ
P1,P2,P3,P5,P6 並列腕SAW共振器
Rx 受信信号端子(外部接続端子)
R1 受信信号用パッド(接続パッド)
R2 受信信号用電極
R5 受信信号用接続端子
S1,S2,S3,S5,S6,S7 直列腕SAW共振器
t グランド用パッドG1の端縁と受信フィルタ13の端縁との距離
T1 送信信号用パッド(接続パッド)
Tx 送信信号端子(外部接続端子)
T2 送信信号用電極
T6 送信信号用接続端子
V キャスタレーション(サイドビア)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性表面波素子を搭載可能な基板と、この基板に設けた導電性を有する接続パッドと、当該接続パッドにバンプを介して電気的に接続した1以上の弾性表面波素子とを備える弾性表面波装置であって、
前記バンプの外縁が前記接続パッドの外縁より内側に位置し、
前記弾性表面波素子を前記基板表面に対し略平行な方向にずらすことにより、前記接続パッドへの前記バンプの接合位置を前記接続パッドの外縁の内側領域内で変更した
ことを特徴とする弾性表面波装置。
【請求項2】
前記接続パッドへのバンプの接合位置を接続パッドの外縁の内側領域内で変更することにより、前記弾性表面波素子に接続されたインダクタのインダクタンス値を調整した
ことを特徴とする請求項1に記載の弾性表面波装置。
【請求項3】
前記接続パッドへのバンプの接合位置を接続パッドの外縁の内側領域内で変更することにより、前記弾性表面波素子の減衰極の周波数を調整した
ことを特徴とする請求項1に記載の弾性表面波装置。
【請求項4】
基板に設けた接続パッドにバンプを介して弾性表面波素子を電気的に接続することにより当該弾性表面波素子を前記基板に実装する素子実装工程を含む弾性表面波装置の製造方法であって、
前記バンプの外縁が前記接続パッドの外縁より内側に位置し、前記素子実装工程は、前記弾性表面波素子を前記基板に実装するときに前記基板表面に対し略平行な方向にずらすことにより、前記接続パッドへの前記バンプの接合位置を前記接続パッドの外縁の内側領域内で変更する工程を含む
ことを特徴とする弾性表面波装置の製造方法。
【請求項5】
前記接続パッドへのバンプの接合位置を接続パッドの外縁の内側領域内で変更することにより、前記弾性表面波素子に接続されたインダクタのインダクタンス値を調整する
ことを特徴とする請求項4に記載の弾性表面波装置の製造方法。
【請求項6】
前記接続パッドへのバンプの接合位置を接続パッドの外縁の内側領域内で変更することにより、前記弾性表面波素子の減衰極の周波数を調整する
ことを特徴とする請求項4に記載の弾性表面波装置の製造方法。
【請求項7】
前記接続パッドは、前記バンプによる実装に必要な面積を有するパッド本体部と、このパッド本体部に連続して当該接続パッドの大きさを拡張する拡張部とを含み、
前記弾性表面波素子を、前記パッド本体部から前記拡張部に向う方向にずらした
ことを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の弾性表面波装置または弾性表面波装置の製造方法。
【請求項8】
前記接続パッドは、略長方形の平面形状を有しかつその長辺が前記弾性表面波素子をずらす方向に略平行に延在するように配置されている
ことを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の弾性表面波装置または弾性表面波装置の製造方法。
【請求項9】
前記弾性表面波装置は、前記弾性表面波素子として低域側弾性表面波フィルタ素子と高域側弾性表面波フィルタ素子とを含むデュプレクサであって、
前記高域側弾性表面波フィルタ素子は、外部接続用のアンテナ端子と高域側信号端子との間を結ぶ伝送路上に直列に接続された直列腕共振器と、当該伝送路からグランドに分岐する分岐路上に接続された並列腕共振器とを複数段接続したラダー型弾性表面波フィルタ素子であり、
前記アンテナ端子側から見て初段に接続された並列腕共振器の一端をグランドに接続するため前記基板上に設けた接続パッド上において、この接続パッドに接合されるバンプが、当該接続パッドとグランドへの導体線路との接続部に近づくように前記高域側弾性表面波フィルタ素子の実装位置をずらした
ことを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載の弾性表面波装置または弾性表面波装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22A】
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【図22B】
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【図23】
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【公開番号】特開2007−104047(P2007−104047A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−287968(P2005−287968)
【出願日】平成17年9月30日(2005.9.30)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】