説明

弾性表面波装置

【課題】シングル電極の櫛型電極内の内部反射を抑圧するSAWトランスバーサルフィルタとして利用可能な弾性表面波装置を提供する。
【解決手段】SAWトランスバーサルフィルタ1は、タンタル酸リチウム単結晶からなる圧電基板と、圧電基板の表面に形成され、アルミニウムを主成分とする膜厚HmのIDT2とを備えている。IDT2は、アルミニウムを主成分とする極性が正である正極2−1と、アルミニウムを主成分とする極性が負である負極2−2と、から構成されており、正極2−1と、負極2−2とが弾性表面波の1波長内に配置されている。誘電膜3は、正極2−1と負極2−2の間の圧電基板の表面に形成され、二酸化ケイ素を主成分とし、誘電膜3の膜厚Hdは、弾性表面波の波長で規格化した膜厚Hdが弾性表面波の波長で規格化した膜厚Hmより略3%厚くして設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主にSAWトランスバーサルフィルタに利用される弾性表面波装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の技術では、UWB(Ultra Wide Bandwidth)通信システムなどの3〜10GHzというGHz帯で送信あるいは受信信号に対して直接信号処理するデバイスとして、SAW(Surface Acoustic Wave:弾性表面波)を用いたトランスバーサルフィルタが存在する(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
SAWトランスバーサルフィルタを実現するためには、圧電基板上に弾性表面波を送受信させる櫛型電極、即ちインターディジタルトランスデューサ(以下、IDT:Inter−digital Transducerと呼ぶ)を形成する必要がある。このとき、SAWトランスバーサルフィルタを用いて所望の伝達特性を実現するためには、IDT内で生じ、波形を歪ませる反射波を極力抑圧させる必要がある。IDTの電極構造としては、図5に示すように通常、1波長内に正負1本ずつ電極を配置させたシングル電極が用いられる。
【0004】
しかし、シングル電極構造では、各電極での反射波が互いに同相で足し合わされるため、全体としては強い反射が生じてしまうことになる。図6は、この反射による影響をしめしたSAWトランスバーサルフィルタの周波数特性を示したグラフである。当該グラフを得るために用いたSAWトランスバーサルフィルタは、圧電基板に高周波用として最も多く使用されている42°Yカット−X軸伝搬タンタル酸リチウム(LiTaO)基板、(以下、42°LTと呼ぶ)を用い、その上に波長で規格化した膜厚が5%のアルミニウム(Al)からなるシングル電極を設け、4GHzの周波数特性を有するように構成されている。このとき、反射が無ければ、図6の実線で示す周波数特性となるが、反射が発生するため、実際には図6の破線で示された周波数特性を有し、周波数特性が低周波側に歪んでしまうことになり、かつ入出力間の反射により多数のリップルが発生し、目的とする周波数特性を得ることができない。
【0005】
この問題を解決する一手段として、図7に示すように、弾性表面波の1波長内に設けられる正負それぞれの電極を2つに分割したスプリットフィンガ電極(以下、ダブル電極)というものがある。ダブル電極では、各電極での反射が逆相となるため、全体として反射が起こらない。したがって、比較的、周波数の低い用途に対しては広く用いられている。
【特許文献1】特許第3461834号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
UWB通信システムなど、GHz帯の通信システムでは、4GHzという高い周波数領域での周波数特性を有するSAWトランスバーサルフィルタが必要となるため、シングル電極を用いる場合には、波長に対応する0.25μm程度の線幅で構成することになる。しかしながら、ダブル電極を用いる場合には、更に細い0.12μmという線幅で構成することになり、このような非常に細い構造の電極を製造することは非常に困難であるという問題がある。
【0007】
本発明は、上記問題を解決するためになされたもので、その目的は、シングル電極の櫛型電極(IDT)内の内部反射を抑圧するSAWトランスバーサルフィルタとして利用可能な弾性表面波装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するために、本発明は、タンタル酸リチウム単結晶からなる圧電基板と、前記圧電基板の表面に形成され、アルミニウムを主成分とする膜厚Hmの金属電極とを備え、弾性表面波を一方向に伝搬させる弾性表面波装置であって、前記金属電極は、アルミニウムを主成分とする極性が正である第1の電極と、アルミニウムを主成分とする極性が負である第2の電極と、から構成され、前記第1の電極と、前記第2の電極とが前記弾性表面波の1波長内に配置され、前記第1の電極と前記第2の電極間の前記圧電基板の表面に形成され、二酸化ケイ素を主成分とする膜厚Hdの誘電膜を、前記弾性表面波の波長で規格化した膜厚Hdが前記弾性表面波の波長で規格化した膜厚Hmより、波長で規格化した膜厚で略3%厚くして設けることを特徴とする弾性表面波装置である。
【0009】
本発明は、上記の発明において、前記圧電基板は、タンタル酸リチウム単結晶を、X軸を中心に、Y軸からZ軸方向に30〜50°の範囲の角度で回転させた方位を有し、前記弾性表面波の伝搬方向がX軸方向であるように、前記金属電極が形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、弾性表面波装置は、タンタル酸リチウム単結晶からなる圧電基板と、前記圧電基板の表面に形成され、アルミニウムを主成分とする膜厚Hmの金属電極とを備えている。また、上記金属電極は、アルミニウムを主成分とする極性が正である第1の電極と、アルミニウムを主成分とする極性が負である第2の電極と、から構成され、第1の電極と、第2の電極とが前記弾性表面波の1波長内に配置される。また、第1の電極と第2の電極間の圧電基板の表面に形成され、二酸化ケイ素を主成分とする膜厚Hdの誘電膜を、弾性表面波の波長で規格化した膜厚Hdが弾性表面波の波長で規格化した膜厚Hmより、弾性表面波の波長で規格化した膜厚で略3%厚くして設ける構成としている。そのため、弾性表面波の1波長内で正と負極を設けるシングル電極の金属電極の構成で、反射係数を略0%、即ち反射量の小さなシングル電極の弾性表面波装置が得られる。それによって、製造が容易でかつ、伝達特性が良好なSAWトランスバーサルフィルタを実現することが可能となる。
【0011】
また、この発明によれば、圧電基板は、タンタル酸リチウム単結晶を、X軸を中心に、Y軸からZ軸方向に30〜50°の範囲の角度で回転させた方位を有し、弾性表面波の伝搬方向がX軸方向であるように、金属電極が形成されている。そのため、圧電基板にタンタル酸リチウム単結晶を利用して、弾性表面波装置を構成することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態による弾性表面波装置、即ちSAWトランスバーサルフィルタを図面を参照して説明する。
図1は、本実施形態によるSAWトランスバーサルフィルタ1を上面から見た電極構造図である。また、図2は、SAWトランスバーサルフィルタ1の電極構造を示す側面から見た断面図である。
図1に示すように本実施形態のSAWトランスバーサルフィルタ1は、シングル電極型のSAWトランスバーサルフィルタである。SAWトランスバーサルフィルタ1において、1波長(L)内に1つずつの正極1と負極2が設けられており、従来のシングル電極と同じ電極幅、即ち周波数(λ)を4GHzとした場合に、弾性表面波の波長(L=1/λ)に相当する0.25μm以内の幅で設けられることになる。正極2−1と負極2−2から構成される櫛形電極2、即ちIDT2は、アルミニウム(Al)を主成分として構成されており、例えば、負極2−2がグランドに接続されている状態にて、正極2−1に電気信号が入力されると、電気信号が弾性表面波に変換され、一方向に弾性表面波が伝搬されることとなる。
【0013】
誘電膜3は、図2に示すように圧電基板4の上に設けられ、SiO(二酸化ケイ素)を主成分として構成されている。
圧電基板4は、42°カット−X軸伝搬タンタル酸リチウム(LiTaO,LT)(=42°LT)から構成されている。
図2において、Hdは誘電膜3の膜厚であり、Hmは、IDT2の膜厚を示している。
【0014】
次に、図3及び図4を参照して、SAWトランスバーサルフィルタ1の特性のシミュレーション結果について説明する。
図3は、波長で規格化されたIDT2の膜厚、即ちHm/L(%)で得られる値が5%及び7%であるIDT2に対して、誘電膜3の膜厚を変化させたときの反射係数(%)の変化を示したグラフである。図3において破線が5%の場合の結果であり、実線が7%の場合の結果である。また、横軸が波長で規格化された誘電膜3の膜厚、即ちHd/L(%)である。
【0015】
図3に示すように、波長で規格化されたIDT2の膜厚が5%の場合(破線)には、波長で規格化された誘電膜3の膜厚が8%付近で反射係数が0%になることが示されている。
また、波長で規格化されたIDT2の膜厚が7%の場合(実線)には、波長で規格化された誘電膜3の膜厚が10%付近で反射係数が0%になることが示されている。
つまり、この結果によって、IDT2の膜厚に関わらず、誘電膜3の波長で規格化された膜厚がIDT2の波長で規格化された膜厚より3%程度厚い場合に、反射係数がほぼ0%になることが示されている。
【0016】
図4は、SAWトランスバーサルフィルタ1において、圧電基板4のタンタル酸リチウムのカット角を変化させた場合の反射係数(%)の変化を示したグラフである。図4に示すように、カット角を30°〜50°に変化させても特性には影響せず、反射係数はほぼ0%となることが示されている。
【0017】
つまり、上記の構成によって、シングル電極のSAWトランスバーサルフィルタと同じ電極幅で、UWB通信などの高周波であっても反射波を抑制することができ、周波数特性の良いSAWトランスバーサルフィルタ1を得ることが可能となる。
【0018】
なお、上記の実施形態において、IDT2の上面に、誘電膜3の主成分と同じ二酸化ケイ素膜があってもよく、IDT2の上面の二酸化ケイ素膜を含むIDT2の膜厚であるHmと、誘電膜3の膜厚Hdとの関係において、波長で規格化されたHd/L(%)が、同じく波長で規格化されたHm/L(%)より3%程度厚くなるように設けることとなる。その場合にも、上記の実施形態と同様に反射係数がほぼ0となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本実施形態によるSAWトランスバーサルフィルタの上面から見た電極構造図である。
【図2】同実施形態におけるSAWトランスバーサルフィルタの側面から見た断面図である。
【図3】同実施形態における波長で規格化されたIDTの膜厚に対して波長で規格化された誘電体の膜厚とを変化させた場合の反射係数の変化を示したグラフである。
【図4】同実施形態における圧電基板のYカット角を変化させた場合の反射係数の変化を示したグラフである。
【図5】従来の技術におけるシングル電極のSAWトランスバーサルフィルタの上面から見た電極構成図である。
【図6】従来の技術におけるシングル電極のSAWトランスバーサルフィルタの周波数特性を示したグラフである。
【図7】従来の技術におけるダブル電極のSAWトランスバーサルフィルタの上面から見た電極構成図である。
【符号の説明】
【0020】
1 SAWトランスバーサルフィルタ
2−1 正極
2−2 負極
2 IDT
3 誘電膜


【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンタル酸リチウム単結晶からなる圧電基板と、前記圧電基板の表面に形成され、アルミニウムを主成分とする膜厚Hmの金属電極とを備え、弾性表面波を一方向に伝搬させる弾性表面波装置であって、
前記金属電極は、
アルミニウムを主成分とする極性が正である第1の電極と、
アルミニウムを主成分とする極性が負である第2の電極と、
から構成され、
前記第1の電極と、前記第2の電極とが前記弾性表面波の1波長内に配置され、
前記第1の電極と前記第2の電極間の前記圧電基板の表面に形成され、二酸化ケイ素を主成分とする膜厚Hdの誘電膜を、前記弾性表面波の波長で規格化した膜厚Hdが前記弾性表面波の波長で規格化した膜厚Hmより、前記弾性表面波の波長で規格化した膜厚で略3%厚くして設けることを特徴とする弾性表面波装置。
【請求項2】
前記圧電基板は、タンタル酸リチウム単結晶を、X軸を中心に、Y軸からZ軸方向に30〜50°の範囲の角度で回転させた方位を有し、前記弾性表面波の伝搬方向がX軸方向であるように、前記金属電極が形成されていることを特徴とする請求項第1項に記載の弾性表面波装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−157557(P2006−157557A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−346052(P2004−346052)
【出願日】平成16年11月30日(2004.11.30)
【出願人】(598045058)株式会社サムスン横浜研究所 (294)
【Fターム(参考)】